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42 第3章 「プログラムの企画立案」 □ ねらい 自然体験活動におけるプログラムの企画立案から評価までの一連の流れや企画立案の方法 を理解する。 □ 内 容 ・自然と人,社会,文化のかかわりや青少年教育施設との連携,地域の人材の活用など,企画 立案時に留意することを理解する。 ・教育課程に則した体験活動事業プログラムの事例研究を行う。企画立案から評価までの流れ と各段階で留意することを理解する。 1 節「プログラムの企画立案とは」 (1)プログラムとは 「プログラムを作ってみてください」「プログラムのよしあしで子どもの学びが変わります」とい うように,自然体験活動に携わる指導者の間では「プログラム」という言葉がよく使われます。「プ ログラム」を簡単に説明すると,人の「思い」や「考え」,あるいは「コトの流れ」を,ある一定 の方向や目標へ導くために効果的に並べた「計画」「仕掛け」「仕込み」と言えます。このように書 くとちょっと難しくなってしまいますが,例えば「限られた時間と食材を使ってどんな夕飯を準備 したら,家族みんなが喜ぶか」とか「貴重な日曜日,家族みんなが楽しく過ごせて,かつ自分の買 い物も効率よく済ませるにはどんな順番で行き先を回ろうか」というように,日常の場面をイメー ジしてみると,私たちは普段からいろいろとプログラムを考えながら生活しているとも言えそうで す。 本章では,自然体験プログラムを「自然や農山漁村で行なわれる,子どもたちの学びや気づきを 促す活動を,効果的に並べた一連の教育活動計画」として,プログラム作りの手順やポイント,そ して学校教育とプログラムの関係について説明していきます。 (2)子どもにとってのプログラムの必要性 子どもたちは,自然の中で過ごすだけで,そこに存在しているすべてのものから五感を通してあ らゆる刺激を受けます。 しかしながら,現代に生きる子どもたちの生活は,かつてないほどに自然豊かな環境と乖離して いる現状にあり,自然の中で遊ぶことが好きな子どもばかりではありません。子どもたちを行った こともない野山に連れて行き,「ほら,好きに遊んでごらん」と解き放っても,どうしてよいのか 全く分からなくなってしまう子どもが少なくないのではないでしょうか。今回の取り組みは,学校 の教育活動として,全ての子どもたちに自然や農山漁村での体験をさせようというものです。つま り,まったく野山に行ったことがない子やまったく自然に興味のない子どもも参加しているという ことを前提に考える必要があります。

第3章 「プログラムの企画立案」 - niye.go.jp第1章 学校教育における体験活動の意義 第2章 教育課程と体験活動 第3章 プログラムの企画立案

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    第3章

    「プログラムの企画立案」

    □ ねらい  自然体験活動におけるプログラムの企画立案から評価までの一連の流れや企画立案の方法

    を理解する。□ 内 容・自然と人,社会,文化のかかわりや青少年教育施設との連携,地域の人材の活用など,企画

    立案時に留意することを理解する。・教育課程に則した体験活動事業プログラムの事例研究を行う。企画立案から評価までの流れ

    と各段階で留意することを理解する。

    1節「プログラムの企画立案とは」(1)プログラムとは

     「プログラムを作ってみてください」「プログラムのよしあしで子どもの学びが変わります」というように,自然体験活動に携わる指導者の間では「プログラム」という言葉がよく使われます。「プログラム」を簡単に説明すると,人の「思い」や「考え」,あるいは「コトの流れ」を,ある一定の方向や目標へ導くために効果的に並べた「計画」「仕掛け」「仕込み」と言えます。このように書くとちょっと難しくなってしまいますが,例えば「限られた時間と食材を使ってどんな夕飯を準備したら,家族みんなが喜ぶか」とか「貴重な日曜日,家族みんなが楽しく過ごせて,かつ自分の買い物も効率よく済ませるにはどんな順番で行き先を回ろうか」というように,日常の場面をイメージしてみると,私たちは普段からいろいろとプログラムを考えながら生活しているとも言えそうです。 本章では,自然体験プログラムを「自然や農山漁村で行なわれる,子どもたちの学びや気づきを促す活動を,効果的に並べた一連の教育活動計画」として,プログラム作りの手順やポイント,そして学校教育とプログラムの関係について説明していきます。

    (2)子どもにとってのプログラムの必要性

     子どもたちは,自然の中で過ごすだけで,そこに存在しているすべてのものから五感を通してあらゆる刺激を受けます。  しかしながら,現代に生きる子どもたちの生活は,かつてないほどに自然豊かな環境と乖離している現状にあり,自然の中で遊ぶことが好きな子どもばかりではありません。子どもたちを行ったこともない野山に連れて行き,「ほら,好きに遊んでごらん」と解き放っても,どうしてよいのか全く分からなくなってしまう子どもが少なくないのではないでしょうか。今回の取り組みは,学校の教育活動として,全ての子どもたちに自然や農山漁村での体験をさせようというものです。つまり,まったく野山に行ったことがない子やまったく自然に興味のない子どもも参加しているということを前提に考える必要があります。

     このような状況を踏まえると,まずは自然や農山漁村という環境に慣れ,自分の居場所やそこでできること,あるいはその場所ならではの面白さを少しずつ実感していけるような手立てを講じること,つまり「プログラム」が必要となってくるというわけです。 しかも,自然や農山漁村での非日常的な体験活動を,学校の教育活動として実施するわけですから,学校が設定する「ねらい」を,“一定の時間内で”“どの子も達成する”ことが求められているのです。

    (3)農山漁村地域にとっての「プログラム」の意味

     小学校が集団宿泊活動をどこで実施するかについては,青少年教育施設の他様々な場面が想定されます。農山漁村交流プロジェクトのように「農山漁村」を選択する学校も少なからずあることでしょう。 農山漁村地域は,青少年教育施設などとは違い,地元の人たちが普段から生産活動をしている場所です。いくら“子どもの健全な育成のため”といっても,突然子どもが大人数で入り込んでいって,好き勝手な活動をすることは,そこに暮らしている生産者・生活者に迷惑をかけることになります。仮にこのような事態が繰り返されることになれば,この取り組み自体が持続的な活動になっていくとはいえません。 とはいえ,農山漁村地域には「何かをさせてあげたい」「これからの日本の食糧問題のことを考えると,今の子どもたちに何かを伝えたい」等といった思いを持っている方々がたくさんいます。最近では「農山漁村子ども交流プロジェクト」等をきっかけに,そのような思いをもった地域の人たちが集まって,学校を受け入れる態勢を地域ぐるみで整えようという動きも増えてきています。 このように,農山漁村での宿泊活動は,今まであまり接点のなかった「農山漁村地域の人々」と「学校の先生等」が同じテーブルについて,今その地域でできること,その地域に住む方々の考えや思い,子どもにまつわる諸問題等を共有し,子どもたちのために何ができるかを一緒に考えていく機会を提供するという大きな可能性を持った取り組みでもあるのです。

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    第3章

    「プログラムの企画立案」

    □ ねらい  自然体験活動におけるプログラムの企画立案から評価までの一連の流れや企画立案の方法

    を理解する。□ 内 容・自然と人,社会,文化のかかわりや青少年教育施設との連携,地域の人材の活用など,企画

    立案時に留意することを理解する。・教育課程に則した体験活動事業プログラムの事例研究を行う。企画立案から評価までの流れ

    と各段階で留意することを理解する。

    1節「プログラムの企画立案とは」(1)プログラムとは

     「プログラムを作ってみてください」「プログラムのよしあしで子どもの学びが変わります」というように,自然体験活動に携わる指導者の間では「プログラム」という言葉がよく使われます。「プログラム」を簡単に説明すると,人の「思い」や「考え」,あるいは「コトの流れ」を,ある一定の方向や目標へ導くために効果的に並べた「計画」「仕掛け」「仕込み」と言えます。このように書くとちょっと難しくなってしまいますが,例えば「限られた時間と食材を使ってどんな夕飯を準備したら,家族みんなが喜ぶか」とか「貴重な日曜日,家族みんなが楽しく過ごせて,かつ自分の買い物も効率よく済ませるにはどんな順番で行き先を回ろうか」というように,日常の場面をイメージしてみると,私たちは普段からいろいろとプログラムを考えながら生活しているとも言えそうです。 本章では,自然体験プログラムを「自然や農山漁村で行なわれる,子どもたちの学びや気づきを促す活動を,効果的に並べた一連の教育活動計画」として,プログラム作りの手順やポイント,そして学校教育とプログラムの関係について説明していきます。

    (2)子どもにとってのプログラムの必要性

     子どもたちは,自然の中で過ごすだけで,そこに存在しているすべてのものから五感を通してあらゆる刺激を受けます。  しかしながら,現代に生きる子どもたちの生活は,かつてないほどに自然豊かな環境と乖離している現状にあり,自然の中で遊ぶことが好きな子どもばかりではありません。子どもたちを行ったこともない野山に連れて行き,「ほら,好きに遊んでごらん」と解き放っても,どうしてよいのか全く分からなくなってしまう子どもが少なくないのではないでしょうか。今回の取り組みは,学校の教育活動として,全ての子どもたちに自然や農山漁村での体験をさせようというものです。つまり,まったく野山に行ったことがない子やまったく自然に興味のない子どもも参加しているということを前提に考える必要があります。

     このような状況を踏まえると,まずは自然や農山漁村という環境に慣れ,自分の居場所やそこでできること,あるいはその場所ならではの面白さを少しずつ実感していけるような手立てを講じること,つまり「プログラム」が必要となってくるというわけです。 しかも,自然や農山漁村での非日常的な体験活動を,学校の教育活動として実施するわけですから,学校が設定する「ねらい」を,“一定の時間内で”“どの子も達成する”ことが求められているのです。

    (3)農山漁村地域にとっての「プログラム」の意味

     小学校が集団宿泊活動をどこで実施するかについては,青少年教育施設の他様々な場面が想定されます。農山漁村交流プロジェクトのように「農山漁村」を選択する学校も少なからずあることでしょう。 農山漁村地域は,青少年教育施設などとは違い,地元の人たちが普段から生産活動をしている場所です。いくら“子どもの健全な育成のため”といっても,突然子どもが大人数で入り込んでいって,好き勝手な活動をすることは,そこに暮らしている生産者・生活者に迷惑をかけることになります。仮にこのような事態が繰り返されることになれば,この取り組み自体が持続的な活動になっていくとはいえません。 とはいえ,農山漁村地域には「何かをさせてあげたい」「これからの日本の食糧問題のことを考えると,今の子どもたちに何かを伝えたい」等といった思いを持っている方々がたくさんいます。最近では「農山漁村子ども交流プロジェクト」等をきっかけに,そのような思いをもった地域の人たちが集まって,学校を受け入れる態勢を地域ぐるみで整えようという動きも増えてきています。 このように,農山漁村での宿泊活動は,今まであまり接点のなかった「農山漁村地域の人々」と「学校の先生等」が同じテーブルについて,今その地域でできること,その地域に住む方々の考えや思い,子どもにまつわる諸問題等を共有し,子どもたちのために何ができるかを一緒に考えていく機会を提供するという大きな可能性を持った取り組みでもあるのです。

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    2節「プログラムの企画立案の方法・手順」(1)プログラム作りは,プレゼントを贈ることと同じ

     小学校の長期集団宿泊活動プログラム作りの手順について,プレゼントを贈ることに例えて説明していきます。

    ①「対象者理解」~プレゼントを贈る相手は?~ まずはプレゼントを贈る相手のことをしっかりと考えます。子どもたちの中にはこのような活動に慣れていない子,苦手な子もいるかもしれません。また,子どもたちを送りだす保護者のことを理解することも必要です。 目の前にやってくる子どもたちのことや子どもたちを取り巻く状況,保護者等周りにいる大人の存在をイメージするところからプログラムの企画立案(以下,「プログラムデザイン」という。)に取り掛かります。

    ②「資源分析」~プレゼントの中身は?~ 集団宿泊活動を実施する場所には,自然,人材,設備,備品,地域の産業,産物等,教育活動に活用できそうな資源がたくさんあります。これらの教育資源は,プレゼントでいえば,その中身,素材にあたります。指導者は,その場所のどこに,どんな素材が,どのくらいあって,いつ頃が旬なのかといった情報を,できるだけたくさん把握しておく必要があります。

    ③「思い」~あの人に,何としても思いを伝えたい~ プレゼントであれば,「あなたのことを思っています」というメッセージを込めなくてはいけません。そのために重要なことは,指導者が「何としても,子どもたちにその時・その場所でしかできない体験をさせたい」という確固たる信念を持つことです。その強い思いは,多岐にわたる指導者としての業務を果たす上で生じてくる,様々な障壁や困難を乗り越えるための何よりの原動力となります。

    ④「目的(ねらい)」と「コンセプト」~相手に,発してほしい一言~ 目的(ねらい)とは,プログラムが終了した時点で達成しているべき最終到達点のことを指します。目的(ねらい)は,自然体験プログラムの教育的な意味を端的に説明する重要な部分でもあります。つまり,目的(ねらい)を設定することは,プログラムを通じて子どもたちに,「どんな状態になってほしいか」「どんな力を身につけてほしいか」「どんな一言を言わせたいか」を考えることです。 集団宿泊活動は,学校の教育活動ですので,目的(ねらい)は,学校の教育目標に沿い,児童の実態を基に学校(の先生)が設定することが基本です。そして,目的(ねらい)はこの活動に関わるすべての人が共通理解しておくべきものです。なぜなら,関係者間で共通理解が図られていないと,プログラムの中で提供される個々の活動の方向性(何のためにこの活動を行うのか?)や各指導者による教育的支援の程度(どこまで指導者が手を貸すか?)が定まらず,効果的なプログラムとはならないからです。ですから,全体指導者は,目的(ねらい)の設定段階から積極的に関わり,学校の先生とじっくり話し合いながら,その目的(ねらい)が設定された背景までしっかりと理解し,関係者間で共通理解が図れるように努めます。

     目的(ねらい)が明確になったら,子どもたちが展開する活動を誰もが簡単にイメージできるような「一言」,言い換えれば「コンセプト」を考えます。コンセプトは,プログラムの根底を貫く方針ともいえ,活動全体を表すタイトルとして,各種案内や説明の中で使われることもあるので,できるだけシンプルで誰にでも分かりやすいものにすることです。 また,「目的(ねらい)」の他に,「目標」と言う言葉が使われます。時に混同されがちな「目的」と「目標」ですが,「目的」を最終到達点とするならば,「目標」は中間の到達点といえます。あるいは,目的(ねらい)は抽象的な表現になりやすいのですが,より具体的に表現したものが「目標」といえます。目標は集団宿泊活動後の評価における指標にもなるので,より具体的な数値や状態で示します。

    ⑤「伝える手法」としてのプログラム~いつ,どうやってプレゼントを渡すか?~ 相手のことを理解し,あれこれ素材を厳選し,思いを込めた最高のプレゼントを,いよいよ渡す場面となりました。でも,いくら中身の素晴らしいプレゼントでも,無愛想な態度で唐突に渡されるのでは,あまり嬉しいものではありません。「まずはあそこに行って…,次にここに行って…,だんだんと気持ちが盛り上がってきた時に,さりげなく,しかもある程度のサプライズを伴って渡す」という段取りやシチュエーションの設定は,メッセージをよりよく伝える上でとても重要です。つまり,プログラムは,目的を効果的に達成するための手法というわけです。子どもたちにとって無理がなく,そしてなんといっても面白く,かつ学校のねらいをしっかりと達成できるような効果的なプログラムを練り上げていきたいものです。

    ⑥「評価」~渡したプレゼントは,果たして?~ プレゼントを受け取った相手は,その時は「ありがとう!」などと言ってくれるものですが,果たしてそれが本当に欲しいものであったのか,メッセージがしっかり届いたのかどうかは,その言葉だけでは分かりません。プログラムも同様です。「目的」や「目標」がどの程度達成されたのか,達成できなかったとしたら何が原因なのか,といったことを検証し,次善の策を立てる必要があります。これが「評価」です。

    図3-1 「目的(ねらい)」,「コンセプト」,「目標」とは

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    2節「プログラムの企画立案の方法・手順」(1)プログラム作りは,プレゼントを贈ることと同じ

     小学校の長期集団宿泊活動プログラム作りの手順について,プレゼントを贈ることに例えて説明していきます。

    ①「対象者理解」~プレゼントを贈る相手は?~ まずはプレゼントを贈る相手のことをしっかりと考えます。子どもたちの中にはこのような活動に慣れていない子,苦手な子もいるかもしれません。また,子どもたちを送りだす保護者のことを理解することも必要です。 目の前にやってくる子どもたちのことや子どもたちを取り巻く状況,保護者等周りにいる大人の存在をイメージするところからプログラムの企画立案(以下,「プログラムデザイン」という。)に取り掛かります。

    ②「資源分析」~プレゼントの中身は?~ 集団宿泊活動を実施する場所には,自然,人材,設備,備品,地域の産業,産物等,教育活動に活用できそうな資源がたくさんあります。これらの教育資源は,プレゼントでいえば,その中身,素材にあたります。指導者は,その場所のどこに,どんな素材が,どのくらいあって,いつ頃が旬なのかといった情報を,できるだけたくさん把握しておく必要があります。

    ③「思い」~あの人に,何としても思いを伝えたい~ プレゼントであれば,「あなたのことを思っています」というメッセージを込めなくてはいけません。そのために重要なことは,指導者が「何としても,子どもたちにその時・その場所でしかできない体験をさせたい」という確固たる信念を持つことです。その強い思いは,多岐にわたる指導者としての業務を果たす上で生じてくる,様々な障壁や困難を乗り越えるための何よりの原動力となります。

    ④「目的(ねらい)」と「コンセプト」~相手に,発してほしい一言~ 目的(ねらい)とは,プログラムが終了した時点で達成しているべき最終到達点のことを指します。目的(ねらい)は,自然体験プログラムの教育的な意味を端的に説明する重要な部分でもあります。つまり,目的(ねらい)を設定することは,プログラムを通じて子どもたちに,「どんな状態になってほしいか」「どんな力を身につけてほしいか」「どんな一言を言わせたいか」を考えることです。 集団宿泊活動は,学校の教育活動ですので,目的(ねらい)は,学校の教育目標に沿い,児童の実態を基に学校(の先生)が設定することが基本です。そして,目的(ねらい)はこの活動に関わるすべての人が共通理解しておくべきものです。なぜなら,関係者間で共通理解が図られていないと,プログラムの中で提供される個々の活動の方向性(何のためにこの活動を行うのか?)や各指導者による教育的支援の程度(どこまで指導者が手を貸すか?)が定まらず,効果的なプログラムとはならないからです。ですから,全体指導者は,目的(ねらい)の設定段階から積極的に関わり,学校の先生とじっくり話し合いながら,その目的(ねらい)が設定された背景までしっかりと理解し,関係者間で共通理解が図れるように努めます。

     目的(ねらい)が明確になったら,子どもたちが展開する活動を誰もが簡単にイメージできるような「一言」,言い換えれば「コンセプト」を考えます。コンセプトは,プログラムの根底を貫く方針ともいえ,活動全体を表すタイトルとして,各種案内や説明の中で使われることもあるので,できるだけシンプルで誰にでも分かりやすいものにすることです。 また,「目的(ねらい)」の他に,「目標」と言う言葉が使われます。時に混同されがちな「目的」と「目標」ですが,「目的」を最終到達点とするならば,「目標」は中間の到達点といえます。あるいは,目的(ねらい)は抽象的な表現になりやすいのですが,より具体的に表現したものが「目標」といえます。目標は集団宿泊活動後の評価における指標にもなるので,より具体的な数値や状態で示します。

    ⑤「伝える手法」としてのプログラム~いつ,どうやってプレゼントを渡すか?~ 相手のことを理解し,あれこれ素材を厳選し,思いを込めた最高のプレゼントを,いよいよ渡す場面となりました。でも,いくら中身の素晴らしいプレゼントでも,無愛想な態度で唐突に渡されるのでは,あまり嬉しいものではありません。「まずはあそこに行って…,次にここに行って…,だんだんと気持ちが盛り上がってきた時に,さりげなく,しかもある程度のサプライズを伴って渡す」という段取りやシチュエーションの設定は,メッセージをよりよく伝える上でとても重要です。つまり,プログラムは,目的を効果的に達成するための手法というわけです。子どもたちにとって無理がなく,そしてなんといっても面白く,かつ学校のねらいをしっかりと達成できるような効果的なプログラムを練り上げていきたいものです。

    ⑥「評価」~渡したプレゼントは,果たして?~ プレゼントを受け取った相手は,その時は「ありがとう!」などと言ってくれるものですが,果たしてそれが本当に欲しいものであったのか,メッセージがしっかり届いたのかどうかは,その言葉だけでは分かりません。プログラムも同様です。「目的」や「目標」がどの程度達成されたのか,達成できなかったとしたら何が原因なのか,といったことを検証し,次善の策を立てる必要があります。これが「評価」です。

    図3-1 「目的(ねらい)」,「コンセプト」,「目標」とは

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

     学校では,「指導と評価の一体化」が重要とされています。つまり,評価とは,子どもたちの指導に役立てるために実施するということです。また,指導者にとっては,そうした評価結果をもとに,活動内容が適切であったか,効果的な指導ができたかといった自分自身の指導を振り返り,次のよりよいプログラム作りにつなげていくことが必要です。 また,評価の方法は,指導者の主観的な感想や意見のみをよりどころとするのではなく,客観的な評価指標を設けることが大切です。対象者である児童からアンケートをとることは評価手法として一般的によく知られています。少し時間がたって落ち着いたころで,活動に関わった人たちとともに,活動全体を振り返る機会を設けることも必要です。その際,アンケートの集計結果や子どもが活動の中で残した学習記録(ふりかえりノートや学習記録カード等),あるいは関わってくれた受け入れ先の方,学校関係者,保護者などのコメントや意見等を活用できると,成果や課題をいろいろな角度から分析することができます。

     このように,いくつかの手順を踏んでプログラムを企画立案するわけですが,重要なポイントになるのは,外部指導者,学校の先生,受け入れ先担当者が如何に効果的な役割分担ができるかということです。 長期の集団宿泊活動や自然体験活動のプログラムデザインは,多くの学校の先生にとって初めての経験となります。だからといって,外部指導者が学校の依頼を一手に引き受け,一方的に自分の得意なプログラムを提案し,活動を進めてしまうようなことをすれば,現場の一体感は望めないばかりか,万一プログラムがうまくいかなかった場合の責任を一人で負ってしまうことにもなりかねません。一方で,「どうしましょう」といつもみんなで決めようというスタンスをとっていると,様々なアイデアが出すぎてしまい,いろいろな活動を詰め込んだ忙しいプログラムが出来上がったりして,「なんだかあれこれいっぱい活動したけど結局子どもは何を学んだの?」とか「結局どの活動もなんだか中途半端だった」という事態に陥ってしまうということもあります。 ですから,全体指導者と学校がプログラム案のキャッチボールを繰り返しながら,練り上げていくことが大切です。プログラムデザインの段階で効果的な役割分担ができれば,活動当日での関係者の積極的な参画や実施後の前向きな評価にもつながり,この取り組みを持続的に発展させていくための基盤となっていきます。

    (2)プログラムの構成

     一週間程度の長期プログラムを計画する際は,次のような留意点があります。

     ①学校のねらいを効果的に達成できる活動内容や活動順を意識すること

     ②長期ならなではのメリットを活かすこと

     ③いろいろな活動を詰め込みすぎないこと

     ④全体の流れ(ストーリー)を意識すること

     長期にわたる集団宿泊活動や自然体験活動のプログラムデザインにあまり慣れていない学校は,「せっかく遠いところまで行くのだから」と,たくさんの活動を詰め込んでしまいがちです。一方,学校を受け入れる側も「せっかく来たのだから」とあれもこれも提供したくなってしまい,サービス過剰気味になってしまうことがあります。たくさんの活動を詰め込んでしまうと,子どもたちはスケジュールをこなすことに追われ,自分で考えたり,工夫したりして問題を解決するチャンスを

    奪われてしまいます。また,忙しすぎるプログラムは,疲労の蓄積や注意力の低下を招き,安全面・管理面でもリスクを高めてしまいます。 大自然の中や農山漁村地域での活動では,「今ならこの作物がとれるのに」とか,「今ならあそこで牛の赤ちゃんが産まれるところを見られるのに」とか,「天然記念物の野生動物が突然現れたり」というように,ねらいからは少々外れてしまうものの,今ここでしか体験ができないようなスペシャル素材に遭遇することもしばしばです。プログラムには,そのようなスペシャル素材を取り入れられる余裕も欲しいところです。

     集団宿泊活動のために一週間程度の長期間が確保できる場合は,中日あたりに特定のプログラムを設けない時間を半日~一日程度設定することも有効です。長期の自然体験活動に慣れていない子どもたちは疲労が蓄積しやすく,それによって活動意欲や学習効果が低下してしまうことがあります。また,子どもたちは普段とは違う様々な体験をする中で「もっとやってみたい」とか「自分で試してみたい」という思いを抱いていくと考えられます。プログラムを特に設けない時間は,学校の立場からすると一見「何もしていない」ように見えてしまいがちですが,子どもたちがこれまでの体験を振り返って整理したり,自分の興味や関心を深めたり,あるいはゆっくりと休憩したり,

    「自分でつかう時間」として, 有効に確保されるべきです。与えられた活動をただこなしていくだけでなく,自然の中で自分らしい過ごし方を見つけること自体が,すばらしい体験活動となり得るのです。

     全体の流れや個々の活動の関連性を意識せずにプログラムを組み立てた場合,活動が完結するたびに,全体の流れも完結してしまいます。学校では普段から「カリキュラム」や「時間割」という枠組みの中で教育活動が行われていますので,この手のプログラムが出来上がったとしてもあまり違和感はないようです。しかし,様々な体験の中でせっかく芽生えた子どもたちの興味や関心,様々な気づきまでもが,活動が完結するごとに寸断されてしまっては,前の活動から得た学びをその後の活動で活かしたり,深めていったりするチャンスが奪われることになってしまい,長期の体験活動を行う意義が薄れてしまいます。 子どもたちの興味や関心を途切れさせることなく,しかも活動が進むにつれて子どもたちの学びが次の活動でも活かされ,深まっていくような活動の流れ(順序)に配慮しながらプログラム全体の構成を整えることが大切です。 プログラム全体の流れを整える手立ては色々と考えられますが,一つの例として,「起承転結」という考え方があります。

    ○これから生活 ・ 活動する場所がどんなところで , どんなことをす

    るのかといったことを全体的に見通せるような導入の活動

    ○子どもたちの興味や意欲を引き出す活動

    承○導入で引き出した興味や関心をさらに深めていく活動

    ○気づいたことを試したり , 学んだことを活かす活動

    ○仲間と協力したり , 工夫したりしないと問題を解決できないよう

    な , ややハードルの高い活動

    ○子どもの興味や関心に合わせた選択活動

    結 ○達成感や学んだ価値を整理したり分かち合う活動

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

     学校では,「指導と評価の一体化」が重要とされています。つまり,評価とは,子どもたちの指導に役立てるために実施するということです。また,指導者にとっては,そうした評価結果をもとに,活動内容が適切であったか,効果的な指導ができたかといった自分自身の指導を振り返り,次のよりよいプログラム作りにつなげていくことが必要です。 また,評価の方法は,指導者の主観的な感想や意見のみをよりどころとするのではなく,客観的な評価指標を設けることが大切です。対象者である児童からアンケートをとることは評価手法として一般的によく知られています。少し時間がたって落ち着いたころで,活動に関わった人たちとともに,活動全体を振り返る機会を設けることも必要です。その際,アンケートの集計結果や子どもが活動の中で残した学習記録(ふりかえりノートや学習記録カード等),あるいは関わってくれた受け入れ先の方,学校関係者,保護者などのコメントや意見等を活用できると,成果や課題をいろいろな角度から分析することができます。

     このように,いくつかの手順を踏んでプログラムを企画立案するわけですが,重要なポイントになるのは,外部指導者,学校の先生,受け入れ先担当者が如何に効果的な役割分担ができるかということです。 長期の集団宿泊活動や自然体験活動のプログラムデザインは,多くの学校の先生にとって初めての経験となります。だからといって,外部指導者が学校の依頼を一手に引き受け,一方的に自分の得意なプログラムを提案し,活動を進めてしまうようなことをすれば,現場の一体感は望めないばかりか,万一プログラムがうまくいかなかった場合の責任を一人で負ってしまうことにもなりかねません。一方で,「どうしましょう」といつもみんなで決めようというスタンスをとっていると,様々なアイデアが出すぎてしまい,いろいろな活動を詰め込んだ忙しいプログラムが出来上がったりして,「なんだかあれこれいっぱい活動したけど結局子どもは何を学んだの?」とか「結局どの活動もなんだか中途半端だった」という事態に陥ってしまうということもあります。 ですから,全体指導者と学校がプログラム案のキャッチボールを繰り返しながら,練り上げていくことが大切です。プログラムデザインの段階で効果的な役割分担ができれば,活動当日での関係者の積極的な参画や実施後の前向きな評価にもつながり,この取り組みを持続的に発展させていくための基盤となっていきます。

    (2)プログラムの構成

     一週間程度の長期プログラムを計画する際は,次のような留意点があります。

     ①学校のねらいを効果的に達成できる活動内容や活動順を意識すること

     ②長期ならなではのメリットを活かすこと

     ③いろいろな活動を詰め込みすぎないこと

     ④全体の流れ(ストーリー)を意識すること

     長期にわたる集団宿泊活動や自然体験活動のプログラムデザインにあまり慣れていない学校は,「せっかく遠いところまで行くのだから」と,たくさんの活動を詰め込んでしまいがちです。一方,学校を受け入れる側も「せっかく来たのだから」とあれもこれも提供したくなってしまい,サービス過剰気味になってしまうことがあります。たくさんの活動を詰め込んでしまうと,子どもたちはスケジュールをこなすことに追われ,自分で考えたり,工夫したりして問題を解決するチャンスを

    奪われてしまいます。また,忙しすぎるプログラムは,疲労の蓄積や注意力の低下を招き,安全面・管理面でもリスクを高めてしまいます。 大自然の中や農山漁村地域での活動では,「今ならこの作物がとれるのに」とか,「今ならあそこで牛の赤ちゃんが産まれるところを見られるのに」とか,「天然記念物の野生動物が突然現れたり」というように,ねらいからは少々外れてしまうものの,今ここでしか体験ができないようなスペシャル素材に遭遇することもしばしばです。プログラムには,そのようなスペシャル素材を取り入れられる余裕も欲しいところです。

     集団宿泊活動のために一週間程度の長期間が確保できる場合は,中日あたりに特定のプログラムを設けない時間を半日~一日程度設定することも有効です。長期の自然体験活動に慣れていない子どもたちは疲労が蓄積しやすく,それによって活動意欲や学習効果が低下してしまうことがあります。また,子どもたちは普段とは違う様々な体験をする中で「もっとやってみたい」とか「自分で試してみたい」という思いを抱いていくと考えられます。プログラムを特に設けない時間は,学校の立場からすると一見「何もしていない」ように見えてしまいがちですが,子どもたちがこれまでの体験を振り返って整理したり,自分の興味や関心を深めたり,あるいはゆっくりと休憩したり,

    「自分でつかう時間」として, 有効に確保されるべきです。与えられた活動をただこなしていくだけでなく,自然の中で自分らしい過ごし方を見つけること自体が,すばらしい体験活動となり得るのです。

     全体の流れや個々の活動の関連性を意識せずにプログラムを組み立てた場合,活動が完結するたびに,全体の流れも完結してしまいます。学校では普段から「カリキュラム」や「時間割」という枠組みの中で教育活動が行われていますので,この手のプログラムが出来上がったとしてもあまり違和感はないようです。しかし,様々な体験の中でせっかく芽生えた子どもたちの興味や関心,様々な気づきまでもが,活動が完結するごとに寸断されてしまっては,前の活動から得た学びをその後の活動で活かしたり,深めていったりするチャンスが奪われることになってしまい,長期の体験活動を行う意義が薄れてしまいます。 子どもたちの興味や関心を途切れさせることなく,しかも活動が進むにつれて子どもたちの学びが次の活動でも活かされ,深まっていくような活動の流れ(順序)に配慮しながらプログラム全体の構成を整えることが大切です。 プログラム全体の流れを整える手立ては色々と考えられますが,一つの例として,「起承転結」という考え方があります。

    ○これから生活 ・ 活動する場所がどんなところで , どんなことをす

    るのかといったことを全体的に見通せるような導入の活動

    ○子どもたちの興味や意欲を引き出す活動

    承○導入で引き出した興味や関心をさらに深めていく活動

    ○気づいたことを試したり , 学んだことを活かす活動

    ○仲間と協力したり , 工夫したりしないと問題を解決できないよう

    な , ややハードルの高い活動

    ○子どもの興味や関心に合わせた選択活動

    結 ○達成感や学んだ価値を整理したり分かち合う活動

  • 48 49

    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

     このように,単に「やりたい活動」「できる活動」を並べていくのではなく,はじめにねらい達成に向かう全体の流れを整えてから,流れに見合った活動を順序良く当てはめていくことが,効果的なプログラムデザインのコツです。

    <参考文献>・「自然体験を学校で!―学校教育における意義と留意点 Q&A―」,2009.10,能條歩著,北海道ふるさとづくりセンター,pp46-47.

    図3-2 プログラムデザインのイメージ

    3節「教育課程と連動したプログラムの企画立案」

     子どもたちは学校の授業として活動を展開します。ですから全体指導者は,ある程度小学校の枠組みや仕組みを理解した上で,教育課程に連動したプログラムの企画立案を意識しておかなければなりません。学校教育の基本的な仕組みと体験活動の位置づけについては第2章で詳しく述べているので,本節では,小学校という仕組みに合わせたプログラムデザインの在り方について整理していきます。

    (1)教育課程と学校長期自然体験活動との関係

     前述の通り,教育課程とは,学校の 1 年間の教育活動が総合的に組織的に計画されたもので,以下の5つの内容によって編成されています。

     ①国語や算数等の「各教科」

     ②「道徳」

     ③平成14年度から開始された「総合的な学習の時間」

     ④入学式や修学旅行等の「特別活動」

     ⑤平成 23年度から開始される「外国語活動」

     この5つのうち,もっとも大きな割合を占めているのが各教科です。例えば5年生だと全体の授業時数のうち約8割が各教科で占められています。つまり,1年間35週のうち8割を占める教科活動を確実に進めながら,例えば運動会や入学式の準備や片付けといった目に見えない時間,さらには台風やインフルエンザ流行による学級閉鎖などにも対処しなければなりません。このように,ただでさえ授業時数の不足しがちな学校現場において,さらに1週間程度の「遠足・宿泊的行事」を組み入れるとなると,学校にとっても子どもたちにとっても,かなりのハードスケジュールとなってしまうわけです。 そこで,授業時数を確保する一つの工夫として,「1週間程度の『遠足・宿泊的行事』を,基本的には特別活動や総合的な学習の時間として捉えつつも,教科の一部を活動の中に組み込んでいく」という方法が考えられます。 小学校学習指導要領に書かれている各教科の目標や内容を,集団宿泊活動の中で取り扱うことができる学習内容があります。例えば5年生の理科の単元には「流水の働き」という内容があり,これを理科の教科学習としてプログラムに取り入れる場合は,まず,事前学習として学校の理科の時間に流水実験によって「侵食,運搬,堆積」の働きを調べておきます。そして集団宿泊活動時に,現地学習としてその地域を流れる河川の様子を観察し,「侵食,運搬,堆積」の3つの働きを土地の様子とも関連づけながら検証します。さらに水害を防ぐための施設を見学したり,専門家の話を聞いたりすることも考えられます。 このように集団宿泊活動における各活動を教科の学習として実施する場合は,学習指導要領に提示されていることを逸脱することのないように注意する必要があり,登山は体育,野外炊飯は家庭科,キャンプファイアーは音楽というような安易な位置づけはできないということです。 このような教育課程とプログラムとの関連付けについては,あくまで学校が考え,実施することですが,全体指導者は学校の先生と相談しながら,プログラムデザインを進めていくわけですから,

    「学校にはこのような実情がある」ということは理解しておく必要があります。

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    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

     このように,単に「やりたい活動」「できる活動」を並べていくのではなく,はじめにねらい達成に向かう全体の流れを整えてから,流れに見合った活動を順序良く当てはめていくことが,効果的なプログラムデザインのコツです。

    <参考文献>・「自然体験を学校で!―学校教育における意義と留意点 Q&A―」,2009.10,能條歩著,北海道ふるさとづくりセンター,pp46-47.

    図3-2 プログラムデザインのイメージ

    3節「教育課程と連動したプログラムの企画立案」

     子どもたちは学校の授業として活動を展開します。ですから全体指導者は,ある程度小学校の枠組みや仕組みを理解した上で,教育課程に連動したプログラムの企画立案を意識しておかなければなりません。学校教育の基本的な仕組みと体験活動の位置づけについては第2章で詳しく述べているので,本節では,小学校という仕組みに合わせたプログラムデザインの在り方について整理していきます。

    (1)教育課程と学校長期自然体験活動との関係

     前述の通り,教育課程とは,学校の 1 年間の教育活動が総合的に組織的に計画されたもので,以下の5つの内容によって編成されています。

     ①国語や算数等の「各教科」

     ②「道徳」

     ③平成14年度から開始された「総合的な学習の時間」

     ④入学式や修学旅行等の「特別活動」

     ⑤平成 23年度から開始される「外国語活動」

     この5つのうち,もっとも大きな割合を占めているのが各教科です。例えば5年生だと全体の授業時数のうち約8割が各教科で占められています。つまり,1年間35週のうち8割を占める教科活動を確実に進めながら,例えば運動会や入学式の準備や片付けといった目に見えない時間,さらには台風やインフルエンザ流行による学級閉鎖などにも対処しなければなりません。このように,ただでさえ授業時数の不足しがちな学校現場において,さらに1週間程度の「遠足・宿泊的行事」を組み入れるとなると,学校にとっても子どもたちにとっても,かなりのハードスケジュールとなってしまうわけです。 そこで,授業時数を確保する一つの工夫として,「1週間程度の『遠足・宿泊的行事』を,基本的には特別活動や総合的な学習の時間として捉えつつも,教科の一部を活動の中に組み込んでいく」という方法が考えられます。 小学校学習指導要領に書かれている各教科の目標や内容を,集団宿泊活動の中で取り扱うことができる学習内容があります。例えば5年生の理科の単元には「流水の働き」という内容があり,これを理科の教科学習としてプログラムに取り入れる場合は,まず,事前学習として学校の理科の時間に流水実験によって「侵食,運搬,堆積」の働きを調べておきます。そして集団宿泊活動時に,現地学習としてその地域を流れる河川の様子を観察し,「侵食,運搬,堆積」の3つの働きを土地の様子とも関連づけながら検証します。さらに水害を防ぐための施設を見学したり,専門家の話を聞いたりすることも考えられます。 このように集団宿泊活動における各活動を教科の学習として実施する場合は,学習指導要領に提示されていることを逸脱することのないように注意する必要があり,登山は体育,野外炊飯は家庭科,キャンプファイアーは音楽というような安易な位置づけはできないということです。 このような教育課程とプログラムとの関連付けについては,あくまで学校が考え,実施することですが,全体指導者は学校の先生と相談しながら,プログラムデザインを進めていくわけですから,

    「学校にはこのような実情がある」ということは理解しておく必要があります。

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    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    (2)小学校の先生と協働して作るプログラム

     全体指導者は,先述のような仕組みの中で日々活動している小学校の先生たちと一緒にプログラムを作っていくことになります。1節でも述べたとおり,どちらかというと社会教育的な手法の中で進められてきた自然体験プログラムを,学校教育の中に組み込んでいくためにはいろいろな配慮が必要です。 図3-3に示した通り,基本的に学校教育で使われる「カリキュラム」という手法と,今まで自然・農山漁村体験で取り扱われてきた「プログラム」という手法には大きな違いがあり,そのことを理解したうえで,小学校の先生と打ち合わせることが大切です。

    図3-3 プログラムとカリキュラムのアプローチの違い

    (3)プログラム作りに使う2つのアイテム

    アイテム①「アクティビティ集(活動事例集)」 長期の自然体験活動を実施しようとする小学校がまず考えるのは,「そこでどんなことができるのか」ということです。受け入れ先となる施設・地域をPRするパンフレット,写真,映像等の資料を通じて,そこでできる活動(アクティビティ)を紹介することから始めます。中でも,個々の活動ごとに,ねらい,スケジュール,イメージ写真,キーワード,適合可能な教科などを一定書式でまとめられた「アクティビティ集(活動事例集)」(次ページ図参照)を見てもらい,そこで活動する子どもたちの姿を担当の先生にイメージしてもらいます。

    アクティビティ集のサンプル① NPO法人ねおす

    活動事例集のサンプル② 国立妙高青少年自然の家

    http://myoko.niye.go.jp/activity/program.html

    <農山漁村地域をフィールドとして体験活動を行う場合>

     農山漁村地域をフィールドとして体験活動を行う場合,アクティビティ集の提示の仕方には

    注意が必要です。それは,カヌーやキャンプといった野外活動の提示に偏らないよう配慮する

    ということです。農山漁村での体験活動では,森や川といった自然環境を長年活用・保全して

    きた農山漁村地域そのものを教材として学ぶことがたいへん重要です。なぜその地域でその産

    業が成り立っているのか,それが私たちの生活とどうかかわっているのか,その農山漁村が今

    どういう実態なのかといった,日本の第一次産業の現実を直接体験すること自体に大きな意義

    があり,自然環境だけはなく,そこに住む人・産業・文化・歴史・風土をも素材(教育資源)

    として捉え,活用していくことが望まれます。もちろん,学校がどのような目的(ねらい)で,

    活動を行うかにもよりますが,カヌーやキャンプといった野外活動は,むしろその地域素材を

    体験的に知るためのよい方法の一つである,という視点でとらえていくことが必要です。

    アイテム②「ねらい別プログラム枠」 アクティビティ集は,その地域にある宿泊施設や役所などにすでに数多くそろえられているかもしれません。しかしアクティビティ集から,単にやりたいことを選び出すだけでは,活動の流れがないパッチワーク型・盛り込み型のプログラムになってしまいます。 そこで,小学校がこの集団宿泊活動を通して達成したいねらいを効果的に具現化してくれそうな「プログラム全体の流れ」を先に考えるという方法があります。そうはいっても,流れを考え

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    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    (2)小学校の先生と協働して作るプログラム

     全体指導者は,先述のような仕組みの中で日々活動している小学校の先生たちと一緒にプログラムを作っていくことになります。1節でも述べたとおり,どちらかというと社会教育的な手法の中で進められてきた自然体験プログラムを,学校教育の中に組み込んでいくためにはいろいろな配慮が必要です。 図3-3に示した通り,基本的に学校教育で使われる「カリキュラム」という手法と,今まで自然・農山漁村体験で取り扱われてきた「プログラム」という手法には大きな違いがあり,そのことを理解したうえで,小学校の先生と打ち合わせることが大切です。

    図3-3 プログラムとカリキュラムのアプローチの違い

    (3)プログラム作りに使う2つのアイテム

    アイテム①「アクティビティ集(活動事例集)」 長期の自然体験活動を実施しようとする小学校がまず考えるのは,「そこでどんなことができるのか」ということです。受け入れ先となる施設・地域をPRするパンフレット,写真,映像等の資料を通じて,そこでできる活動(アクティビティ)を紹介することから始めます。中でも,個々の活動ごとに,ねらい,スケジュール,イメージ写真,キーワード,適合可能な教科などを一定書式でまとめられた「アクティビティ集(活動事例集)」(次ページ図参照)を見てもらい,そこで活動する子どもたちの姿を担当の先生にイメージしてもらいます。

    アクティビティ集のサンプル① NPO法人ねおす

    活動事例集のサンプル② 国立妙高青少年自然の家

    http://myoko.niye.go.jp/activity/program.html

    <農山漁村地域をフィールドとして体験活動を行う場合>

     農山漁村地域をフィールドとして体験活動を行う場合,アクティビティ集の提示の仕方には

    注意が必要です。それは,カヌーやキャンプといった野外活動の提示に偏らないよう配慮する

    ということです。農山漁村での体験活動では,森や川といった自然環境を長年活用・保全して

    きた農山漁村地域そのものを教材として学ぶことがたいへん重要です。なぜその地域でその産

    業が成り立っているのか,それが私たちの生活とどうかかわっているのか,その農山漁村が今

    どういう実態なのかといった,日本の第一次産業の現実を直接体験すること自体に大きな意義

    があり,自然環境だけはなく,そこに住む人・産業・文化・歴史・風土をも素材(教育資源)

    として捉え,活用していくことが望まれます。もちろん,学校がどのような目的(ねらい)で,

    活動を行うかにもよりますが,カヌーやキャンプといった野外活動は,むしろその地域素材を

    体験的に知るためのよい方法の一つである,という視点でとらえていくことが必要です。

    アイテム②「ねらい別プログラム枠」 アクティビティ集は,その地域にある宿泊施設や役所などにすでに数多くそろえられているかもしれません。しかしアクティビティ集から,単にやりたいことを選び出すだけでは,活動の流れがないパッチワーク型・盛り込み型のプログラムになってしまいます。 そこで,小学校がこの集団宿泊活動を通して達成したいねらいを効果的に具現化してくれそうな「プログラム全体の流れ」を先に考えるという方法があります。そうはいっても,流れを考え

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    るための学校との打合せを何度も積み重ねるということは,学校の現状を考慮するとあまり現実的とは言えません。 小学校とのプログラム相談を効率的に行なうために,ねらいごとにプログラムの流れだけを記して,実施するアクティビティの部分を空白にした「ねらい別プログラム枠」(図3-4)を何パターンか準備して,小学校の先生に提示するという方法があります。そして,学校のねらいを最も効果的に達成してくれそうな流れはどの「プログラム枠」かを学校の先生に選択してもらうのです。本来アクティビティが入るはずの空白部分には,「こんな感じのアクティビティを選ぶとよい」というアクティビティのイメージをメモしておきます。そうすることによって,アクティビティ集の中から,その季節,子どもの数など諸条件に合ったアクティビティを選択しやすくなります。このような手順で選択したアクティビティを「プログラム枠」にはめ込んでいけば,必然的に流れのある効果的なプログラムを効率的に作り上げることができます。

    図3-4 ねらい別プログラム枠のサンプル

    の部分が,選んだアクティビティが挿入される部分 挿入されるアクティビティのイメージが書かれている。右端の教科は参考データ。その日ごとのねらいが上段にあり, 枠部の連続がプログラムの流れを表す。

    4節「プログラムの評価」(1)学校の教育活動として行なわれる評価とは・・・

     集団宿泊活動は,小学校の教育活動として行われますので,当然のことながら , 単に「楽しかった」「たくさんいろんなことを経験できた」「事故なく計画通りに実施できた」というだけで終わってしまわないようにしなければなりません。つまり , 教育課程上の目的・目標は達成できたか,効果的なプログラムであったか等についてしっかりと評価を行い , 今後の教育活動につなげていくことが不可欠となります。 評価は学校が行うことが基本ですが , 長期にわたって様々な活動を行う集団宿泊活動において ,児童一人ひとりの学びやプログラムの評価を担任の先生が一人で担うというのは困難を要します。外部指導者は学校が行う評価に対して , 情報提供や助言等の支援を行うことが想定されます。 集団宿泊活動の評価には大きく分けて,以下の二つの側面があります。①児童に対する評価

     まず , 第一に教育課程上の目的・目標が達成されたか , つまりは児童一人ひとりが集団宿泊活動で何をどの程度学んだのか , そしてその学びはねらいとしていた水準に達していたのかどうかを把握します。 小学校では児童の評価をどのように行うのかについて , 一定の方法が定められています。学校教育法施行規則第24条には,「校長は,その学校に在学する児童等の指導要録を作成しなければならない」と定められています。つまり,子どもたちの生活や学習の成果を記録に残すことになっているわけです。学校は , 児童の知識や技能,考え方等が学習指導要領に示されている目標に達しているかを「指導要録の指導記録」に沿って評価し,記録しています。 各教科においては「関心・意欲・態度」「思考・判断」「表現・処理」「知識・理解」といった観点別に評価基準が設けられており,担任の先生が,その達成度によって「A・B・C」,3年生以上はそれらを統合した評定「1・2・3」を判断し,記録します。また , 総合的な学習の時間の評価は , 文章で記載することになっています。そして,今後の指導に役立てるために学校に保管され,転校などがあった場合は,転校先にその抄本(コピー)を送付し , 指導の参考にしています。これを基に,子どもや保護者向けに分かりやすく発行されたものが,学期末に発行される「成績表」「通知表」です。 担任の先生が指導要録や成績表を作成するためには,客観的なデータが必要になります。そのデータを把握するために,様々な「テスト(試験)」を実施したり,活動の様子の記録や学習の成果物としての作品等を残し,多面的に評価を行なえるように工夫しています。 外部指導者は,活動中に観察した子どもの様子や変化の記録等があれば,プログラム実施後にそれを学校の先生に提供し , より多面的な評価が行えるように支援するという役割が考えられます。②プログラムの評価

     子どもの学びを評価することと併せて重要なのがプログラムの評価です。あらゆる教育的な願いや意図を込めて,事前に周到に計画したプログラムであっても,実際には予定通りに行かない場合もあるかもしれません。ねらいとしていた効果を挙げることができるプログラムだったのかをあらゆる角度から検証することによって,その後の教育活動の充実を図るとともに,次のよりよいプログラム作りにもつなげていくことが重要です。 プログラムを評価する観点には以下のような例を挙げることができます。

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    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    るための学校との打合せを何度も積み重ねるということは,学校の現状を考慮するとあまり現実的とは言えません。 小学校とのプログラム相談を効率的に行なうために,ねらいごとにプログラムの流れだけを記して,実施するアクティビティの部分を空白にした「ねらい別プログラム枠」(図3-4)を何パターンか準備して,小学校の先生に提示するという方法があります。そして,学校のねらいを最も効果的に達成してくれそうな流れはどの「プログラム枠」かを学校の先生に選択してもらうのです。本来アクティビティが入るはずの空白部分には,「こんな感じのアクティビティを選ぶとよい」というアクティビティのイメージをメモしておきます。そうすることによって,アクティビティ集の中から,その季節,子どもの数など諸条件に合ったアクティビティを選択しやすくなります。このような手順で選択したアクティビティを「プログラム枠」にはめ込んでいけば,必然的に流れのある効果的なプログラムを効率的に作り上げることができます。

    図3-4 ねらい別プログラム枠のサンプル

    の部分が,選んだアクティビティが挿入される部分 挿入されるアクティビティのイメージが書かれている。右端の教科は参考データ。その日ごとのねらいが上段にあり, 枠部の連続がプログラムの流れを表す。

    4節「プログラムの評価」(1)学校の教育活動として行なわれる評価とは・・・

     集団宿泊活動は,小学校の教育活動として行われますので,当然のことながら , 単に「楽しかった」「たくさんいろんなことを経験できた」「事故なく計画通りに実施できた」というだけで終わってしまわないようにしなければなりません。つまり , 教育課程上の目的・目標は達成できたか,効果的なプログラムであったか等についてしっかりと評価を行い , 今後の教育活動につなげていくことが不可欠となります。 評価は学校が行うことが基本ですが , 長期にわたって様々な活動を行う集団宿泊活動において ,児童一人ひとりの学びやプログラムの評価を担任の先生が一人で担うというのは困難を要します。外部指導者は学校が行う評価に対して , 情報提供や助言等の支援を行うことが想定されます。 集団宿泊活動の評価には大きく分けて,以下の二つの側面があります。①児童に対する評価

     まず , 第一に教育課程上の目的・目標が達成されたか , つまりは児童一人ひとりが集団宿泊活動で何をどの程度学んだのか , そしてその学びはねらいとしていた水準に達していたのかどうかを把握します。 小学校では児童の評価をどのように行うのかについて , 一定の方法が定められています。学校教育法施行規則第24条には,「校長は,その学校に在学する児童等の指導要録を作成しなければならない」と定められています。つまり,子どもたちの生活や学習の成果を記録に残すことになっているわけです。学校は , 児童の知識や技能,考え方等が学習指導要領に示されている目標に達しているかを「指導要録の指導記録」に沿って評価し,記録しています。 各教科においては「関心・意欲・態度」「思考・判断」「表現・処理」「知識・理解」といった観点別に評価基準が設けられており,担任の先生が,その達成度によって「A・B・C」,3年生以上はそれらを統合した評定「1・2・3」を判断し,記録します。また , 総合的な学習の時間の評価は , 文章で記載することになっています。そして,今後の指導に役立てるために学校に保管され,転校などがあった場合は,転校先にその抄本(コピー)を送付し , 指導の参考にしています。これを基に,子どもや保護者向けに分かりやすく発行されたものが,学期末に発行される「成績表」「通知表」です。 担任の先生が指導要録や成績表を作成するためには,客観的なデータが必要になります。そのデータを把握するために,様々な「テスト(試験)」を実施したり,活動の様子の記録や学習の成果物としての作品等を残し,多面的に評価を行なえるように工夫しています。 外部指導者は,活動中に観察した子どもの様子や変化の記録等があれば,プログラム実施後にそれを学校の先生に提供し , より多面的な評価が行えるように支援するという役割が考えられます。②プログラムの評価

     子どもの学びを評価することと併せて重要なのがプログラムの評価です。あらゆる教育的な願いや意図を込めて,事前に周到に計画したプログラムであっても,実際には予定通りに行かない場合もあるかもしれません。ねらいとしていた効果を挙げることができるプログラムだったのかをあらゆる角度から検証することによって,その後の教育活動の充実を図るとともに,次のよりよいプログラム作りにもつなげていくことが重要です。 プログラムを評価する観点には以下のような例を挙げることができます。

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    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    □実施したプログラムは,目的・目標の達成に寄与するものであったか。

     (活動の内容,方法(させ方・指導方法),流れ(順番)は適切だったか)

    □実施したプログラムは,小学校の教育課程に適合していたか。

    □その後の学校生活や学習活動につながる効果は認められたか。

    □各教科のテストで,プログラムの効果が認められたか。(プログラムに「各教科」や「総合

    的な学習の時間」として取り扱った活動が含まれる場合)

     プログラムの評価を充実させるためには,プログラムを提供する側の外部指導者のみで行うよりも,学校の先生に協力を得ることが大切です。学校の先生は,普段から子どもの様子を観ていますので,プログラム前後の子どもの変化について敏感に感じ取ることができます。また,自然の中や農山漁村での活動が,教室の中で進められる教育活動よりも効果的だったかどうか,といったことも学校の先生の視点があればこそ可能となる評価事項です。 上記のような観点をアンケートやインタビュー等の方法で学校の先生に協力してもらうことができれば、効果的かつ効率的に意見を取り入れることができます。

     現実には「たった1週間の集団宿泊活動から帰ってきたら,子どもたちが別人のように変わっていた」という夢のようなプログラムを外部指導者の力だけで作り出すことはできません。ですから,プログラムデザインから評価にいたる一連のプロセスにおいて,学校とよく相談しながら , 外部指導者と学校の先生が一緒に作り上げていくという姿勢が重要です。

    (2)評価と連動したプログラムの例

     長期の集団宿泊活動プログラムでは評価とうまく連動させた活動を組み入れることも可能です。その一つに,子どもたち自身が記録を取る時間を確保するという方法が挙げられます。 右の写真は,体験活動の後,そこで起きたことや気づいたこと,考えたことをある一定の様式に基づいて記入しているところです。そのほか,作文や撮りためた写真,プログラムの中で作った作品などを保存して,後日その活動を振り返ることができるようにすることも可能です。このような評価方法は「ポートフォリオ評価」と呼ばれ,「総合的な学習の時間」等で取り入れられています。 一方,プログラムに「各教科」として取り扱う活動を組み込む場合には,評価方法を工夫する必要があります。「各教科」では,通常子どもたちの習熟度や理解度を客観的に把握するための評価方法としてテストが用いられます。しかし,自然体験活動の現場でペーパーテストを実施することは不可能ですから,「教科」として取り扱う活動の評価をどのように行うかについては,事前に学校とよく相談して評価の方法を工夫する必要があります。

    (3)評価の工夫

     全体指導者は,多様な立場の人たち,そして多岐にわたる価値観のつなぎ役として存在するという大役を果たすためにも,次のようなチェックリストを作成して,プログラム内容や配慮すべきことを確かめてみることが有効です。

    評価項目のチェックリスト ( 例 )

    チ 

    ェ 

    ッ 

    ク 

    項 

    教育課程 学校の運営 保護者 子どもの実態

    □学習指導要領に配慮した内容になっているか

    □学校の教育目標を達成するプログラムであったか

    □学年の教育目標 , 年間指導計画に合致したプログラムであったか

    □年間指導計画の策定段階から本プログラムを組み入れることができたか

    □設定した目的 ( ねらい ) を達成するプログラムであったか

    □子どもの学びや育ちを客観的に把握する場や機会を設定することができたか

    □教員同士の役割分担は 明 確 で あ っ た か( 事 前 ・ 活 動 中 ・ 事後 )

    □長期集団宿泊活動の実施について , 教職員全員の同意と協力を得ることができたか

    □引率教員の配置に伴い , 他学年の教育活動に支障はなかったか

    □事故発生時の対応体制は構築できていたか , またそれは機能したか

    □プログラム終了後 ,評価の結果を , 学校 ・学年 ・ 学級経営に反映することができたか

    □次年度以降も継続できる仕組みを構築することができたか

    □長期集団宿泊活動の実施に際し , 保護者の理解を得ることができたか

    □保護者の負担軽減策 ( 参加費 , 準備物 )は有効だったか

    □活動中 , 活動後の子どもの様子や変化を効果的に伝えることができたか

    □引率団をバックアップしてくれるような協力関係を構築することができたか

    □児童に関する必要十分な事前情報を収集することができたか

    □子どもの学びや育ちを促す明確なねらいを設定することができたか

     ( ねらいは妥当だったか )

    □子どもの関心意欲を引き出し , 求めていたレベルまで引き上げることができるプログラム内容であったか

    □活動中 , 不十分な安全対策が原因となった , 病気や怪我 , 事故等はなかったか

    □配慮の必要な子どもに対する適切な支援体制をとることができたか

    □子ども一人ひとりの気づきや学びを客観的に把握することができたか

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    □実施したプログラムは,目的・目標の達成に寄与するものであったか。

     (活動の内容,方法(させ方・指導方法),流れ(順番)は適切だったか)

    □実施したプログラムは,小学校の教育課程に適合していたか。

    □その後の学校生活や学習活動につながる効果は認められたか。

    □各教科のテストで,プログラムの効果が認められたか。(プログラムに「各教科」や「総合

    的な学習の時間」として取り扱った活動が含まれる場合)

     プログラムの評価を充実させるためには,プログラムを提供する側の外部指導者のみで行うよりも,学校の先生に協力を得ることが大切です。学校の先生は,普段から子どもの様子を観ていますので,プログラム前後の子どもの変化について敏感に感じ取ることができます。また,自然の中や農山漁村での活動が,教室の中で進められる教育活動よりも効果的だったかどうか,といったことも学校の先生の視点があればこそ可能となる評価事項です。 上記のような観点をアンケートやインタビュー等の方法で学校の先生に協力してもらうことができれば、効果的かつ効率的に意見を取り入れることができます。

     現実には「たった1週間の集団宿泊活動から帰ってきたら,子どもたちが別人のように変わっていた」という夢のようなプログラムを外部指導者の力だけで作り出すことはできません。ですから,プログラムデザインから評価にいたる一連のプロセスにおいて,学校とよく相談しながら , 外部指導者と学校の先生が一緒に作り上げていくという姿勢が重要です。

    (2)評価と連動したプログラムの例

     長期の集団宿泊活動プログラムでは評価とうまく連動させた活動を組み入れることも可能です。その一つに,子どもたち自身が記録を取る時間を確保するという方法が挙げられます。 右の写真は,体験活動の後,そこで起きたことや気づいたこと,考えたことをある一定の様式に基づいて記入しているところです。そのほか,作文や撮りためた写真,プログラムの中で作った作品などを保存して,後日その活動を振り返ることができるようにすることも可能です。このような評価方法は「ポートフォリオ評価」と呼ばれ,「総合的な学習の時間」等で取り入れられています。 一方,プログラムに「各教科」として取り扱う活動を組み込む場合には,評価方法を工夫する必要があります。「各教科」では,通常子どもたちの習熟度や理解度を客観的に把握するための評価方法としてテストが用いられます。しかし,自然体験活動の現場でペーパーテストを実施することは不可能ですから,「教科」として取り扱う活動の評価をどのように行うかについては,事前に学校とよく相談して評価の方法を工夫する必要があります。

    (3)評価の工夫

     全体指導者は,多様な立場の人たち,そして多岐にわたる価値観のつなぎ役として存在するという大役を果たすためにも,次のようなチェックリストを作成して,プログラム内容や配慮すべきことを確かめてみることが有効です。

    評価項目のチェックリスト ( 例 )

    チ 

    ェ 

    ッ 

    ク 

    項 

    教育課程 学校の運営 保護者 子どもの実態

    □学習指導要領に配慮した内容になっているか

    □学校の教育目標を達成するプログラムであったか

    □学年の教育目標 , 年間指導計画に合致したプログラムであったか

    □年間指導計画の策定段階から本プログラムを組み入れることができたか

    □設定した目的 ( ねらい ) を達成するプログラムであったか

    □子どもの学びや育ちを客観的に把握する場や機会を設定することができたか

    □教員同士の役割分担は 明 確 で あ っ た か( 事 前 ・ 活 動 中 ・ 事後 )

    □長期集団宿泊活動の実施について , 教職員全員の同意と協力を得ることができたか

    □引率教員の配置に伴い , 他学年の教育活動に支障はなかったか

    □事故発生時の対応体制は構築できていたか , またそれは機能したか

    □プログラム終了後 ,評価の結果を , 学校 ・学年 ・ 学級経営に反映することができたか

    □次年度以降も継続できる仕組みを構築することができたか

    □長期集団宿泊活動の実施に際し , 保護者の理解を得ることができたか

    □保護者の負担軽減策 ( 参加費 , 準備物 )は有効だったか

    □活動中 , 活動後の子どもの様子や変化を効果的に伝えることができたか

    □引率団をバックアップしてくれるような協力関係を構築することができたか

    □児童に関する必要十分な事前情報を収集することができたか

    □子どもの学びや育ちを促す明確なねらいを設定することができたか

     ( ねらいは妥当だったか )

    □子どもの関心意欲を引き出し , 求めていたレベルまで引き上げることができるプログラム内容であったか

    □活動中 , 不十分な安全対策が原因となった , 病気や怪我 , 事故等はなかったか

    □配慮の必要な子どもに対する適切な支援体制をとることができたか

    □子ども一人ひとりの気づきや学びを客観的に把握することができたか

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    第1章

    学校教育における体験活動の意義

    第2章

    教育課程と体験活動

    第3章

    プログラムの企画立案

    第4章

    自然体験活動の技術

    第5章

    体験活動の指導法

    第6章

    安全管理

    5節 チェックリストの活用

     これまで触れてきたように,プログラムの企画立案には多くのコツがあり , 評価に至るまでのプロセスでは,周到な準備が求められます。以下のようなチェックリストを作成し,効果的なプログラムデザインができているかどうか , 当日のプログラムがうまく実施できるかどうかを適宜確認することができれば,大切なことを見落とすことなく準備を進めることができます。

    プログラム企画時のチェックリスト(参考)

    ねらい □ねらいや意義が明確なプログラムになっていますか? □全体の流れ(ストーリー)ができていますか? □子どもが自分で考えて自由に使える時間は確保されていますか? □子どもが活動全体をふりかえる時間はありますか?

    学校教育への適合 □アクティビティと教科学習との関連に配慮できていますか? □子どもの心身の発達段階をふまえていますか? □学校や学級の状況や人間関係(教員と子ども,子ども同士)に配慮していますか? □指導者の役割分担や教職員の勤務体制について考慮していますか? □スタッフ間,スタッフと教員との間で目的の共有はできていますか?

    地域への配慮(農山漁村地域で活動を行なう場合) □「自然」だけではなく,地域の「ひと」「文化」「歴史」から学べるプログラムになっていますか? □その地域の振興や,環境保全に寄与するプログラムになっていますか?

    活動内容と安全管理 □フィールドについて