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第 5 回 泌尿器系 2 尿の生成と排泄 電解質と水バランスの調節 今日の目標 腎機能の検査 クリアランスの計算ができる。 排尿機構について説明できる。 体液とは何か説明できる。 浸透圧を説明できる。 膠質浸透圧を説明できる。 レニン‐アンギオテンシン‐アルドステロン系による血圧 調節を説明できる。 バソプレシンによる尿量調節を説明できる。 1. 腎機能 ①糸球体濾過量: 腎臓全体で1分間に作られる原尿の量は成人でおよそ 100~150ml/分であり、これを糸球体濾過量(GFR glomerular filtration rate)と呼ぶ。この量は腎臓へ流入す る全血漿成分の 20%に相当する。GFR は血圧により変 動する(ただし 80~200mmHg では腎臓の自動調節によ り GFR はほぼ一定)。原尿は尿細管でその99%が再吸 収される。 ②尿の濃縮と希釈(遠位尿細管と集合管の働き): 腎臓は生産する尿の量と濃度(浸透圧)を変化させること により、体液の浸透圧が一定になるように調節している。 糸球体で作られた原尿が遠位尿細管に達する頃には必 要な物質の再吸収が進み、比較的濃度の薄い液体へと 変化している。この液体から、さらに Na イオンを再吸収し てそのまま排出すれば薄い尿(低張尿)となるし、腎髄質 の浸透圧勾配を利用して水の再吸収を行えば濃い尿 (高張尿)を排出することが出来る。この過程には下垂体 ホルモンのバソプレシンが関わる。 2. 腎機能の検査 クリアランス 腎臓は血中から不要な物質を除去する機能を持つ。こ の除去能力をクリアランス Cx という数値で表す。「ある物 質を1分間あたり何 ml の血漿から除去したか」と言うこと を表す数値。単位 ml/min。 Cx = (Ux: xの尿中濃度(g/ml), V: 尿の生成速度(ml/min) Px: xの血中濃度(g/ml)あらかじめ特性が判っている特定の物質のクリアランスを 測定することで、腎機能を計測することが出来る。 ・イヌリンクリアランス: GFR を与える。(尿細管では分泌も再吸収もされない) ・内因性クレアチニンクリアランス:GFR の近似値として腎 糸球体濾過機能を把握するのに良く用いられる。 ・p-アミノ馬尿酸(p-amino hippuric acid;PAH) 腎血漿流量 Renal plasma flow;RPF(600mL/min)を与 える。腎臓を1回通過することによって,尿細管能動分泌 により,ほぼ100%尿中排泄されるので,PAH 腎クリアラ ンスがRPFに相当する. 3.排尿機構 膀胱には排尿筋 交感神経→弛緩 副交感神経→収縮 内尿道口には2つの括約筋 ・内尿道括約筋 平滑筋 不随意 交感神経→収縮 副交感神経→弛緩 ・外尿道括約筋 横紋筋 随意的 陰部神経支配 膀胱に尿が 150ml~200ml 程度たまると尿意を感ずる。 (A)伸展があまり強くなければ交感神経優位→蓄尿 (B)蓄尿が進むと膀胱伸展の刺激が排尿中枢へ →排尿反射膀胱収縮と内尿道括約筋の弛緩(強い尿意) (C)大脳皮質より随意的な排尿指令 →外尿道括約筋の弛緩→排尿 UxV Px

第5回 泌尿器系2 尿の生成と排泄 あらかじめ特性が判っている特定の物質のクリアランス … · ・イヌリンクリアランス: GFRを与える。(尿細管では分泌も再吸収もされない)

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Page 1: 第5回 泌尿器系2 尿の生成と排泄 あらかじめ特性が判っている特定の物質のクリアランス … · ・イヌリンクリアランス: GFRを与える。(尿細管では分泌も再吸収もされない)

第 5 回 泌尿器系 2 尿の生成と排泄

電解質と水バランスの調節

今日の目標

・ 腎機能の検査 クリアランスの計算ができる。

・ 排尿機構について説明できる。

・ 体液とは何か説明できる。

・ 浸透圧を説明できる。

・ 膠質浸透圧を説明できる。

・ レニン‐アンギオテンシン‐アルドステロン系による血圧

調節を説明できる。

・ バソプレシンによる尿量調節を説明できる。

1. 腎機能

①糸球体濾過量:

腎臓全体で1分間に作られる原尿の量は成人でおよそ

100~150ml/分であり、これを糸球体濾過量(GFR:

glomerular filtration rate)と呼ぶ。この量は腎臓へ流入す

る全血漿成分の 20%に相当する。GFR は血圧により変

動する(ただし 80~200mmHg では腎臓の自動調節によ

り GFR はほぼ一定)。原尿は尿細管でその99%が再吸

収される。

②尿の濃縮と希釈(遠位尿細管と集合管の働き):

腎臓は生産する尿の量と濃度(浸透圧)を変化させること

により、体液の浸透圧が一定になるように調節している。

糸球体で作られた原尿が遠位尿細管に達する頃には必

要な物質の再吸収が進み、比較的濃度の薄い液体へと

変化している。この液体から、さらに Na イオンを再吸収し

てそのまま排出すれば薄い尿(低張尿)となるし、腎髄質

の浸透圧勾配を利用して水の再吸収を行えば濃い尿

(高張尿)を排出することが出来る。この過程には下垂体

ホルモンのバソプレシンが関わる。

2. 腎機能の検査 クリアランス 腎臓は血中から不要な物質を除去する機能を持つ。こ

の除去能力をクリアランス Cx という数値で表す。「ある物

質を1分間あたり何 ml の血漿から除去したか」と言うこと

を表す数値。単位 ml/min。

Cx =

(Ux: xの尿中濃度(g/ml), V: 尿の生成速度(ml/min)

Px: xの血中濃度(g/ml))

あらかじめ特性が判っている特定の物質のクリアランスを

測定することで、腎機能を計測することが出来る。

・イヌリンクリアランス:

GFR を与える。(尿細管では分泌も再吸収もされない)

・内因性クレアチニンクリアランス:GFR の近似値として腎

糸球体濾過機能を把握するのに良く用いられる。

・p-アミノ馬尿酸(p-amino hippuric acid;PAH)

腎血漿流量 Renal plasma flow;RPF(600mL/min)を与

える。腎臓を1回通過することによって,尿細管能動分泌

により,ほぼ100%尿中排泄されるので,PAH 腎クリアラ

ンスがRPFに相当する.

3.排尿機構

膀胱には排尿筋

交感神経→弛緩 副交感神経→収縮

内尿道口には2つの括約筋

・内尿道括約筋 平滑筋 不随意

交感神経→収縮 副交感神経→弛緩

・外尿道括約筋 横紋筋 随意的 陰部神経支配

膀胱に尿が 150ml~200ml 程度たまると尿意を感ずる。

(A)伸展があまり強くなければ交感神経優位→蓄尿

(B)蓄尿が進むと膀胱伸展の刺激が排尿中枢へ

→排尿反射膀胱収縮と内尿道括約筋の弛緩(強い尿意)

(C)大脳皮質より随意的な排尿指令

→外尿道括約筋の弛緩→排尿

Ux・V Px

Page 2: 第5回 泌尿器系2 尿の生成と排泄 あらかじめ特性が判っている特定の物質のクリアランス … · ・イヌリンクリアランス: GFRを与える。(尿細管では分泌も再吸収もされない)

電解質と水バランスの調節

4.体液とは

様々なタンパク質や電解質が溶け込んだ生体内の液体

(ヒトの体のおよそ60%は水分)

細胞内液67%・細胞外液33%(血漿+間質液)

細胞内液と細胞外液の違い

細胞内液 細胞外液(間質液)

Na イオン濃度 14 142

K イオン濃度 5 157 mEq/l

血漿と細胞外液の違い

血漿蛋白の有無(血漿には7%の血漿タンパク質)

タンパク質濃度が高い分、血漿の方が幾分浸透圧は高い

→膠質浸透圧(25mmHg=1.3mOsm)

浸透圧:濃度が違う2種類の溶液が隣り合っていると、その溶液はお互いの濃

度が均一になる方向に拡散する性質がある。この二つの溶液を、溶質の通過

を制限する「半透膜」によって隔てると、濃度の薄い溶液から濃い溶液に向か

って水が流れ込み、濃度の濃い溶液の水面が徐々に上昇して行く。半透膜

を超えて流れ込もうとするこの水の圧力を浸透圧という。1モル濃度の溶液が

持つ浸透圧を1オスモル Osm といい、通常はミリオスモル mOsm の単位が使

われる。浸透圧は溶質の総和によって決まり、純粋に対するヒトの細胞外液で

はおよそ285mOsm/KgH2Oである。この浸透圧の大部分は細胞外液に

含まれるナトリウムイオンによって作り出されている。この浸透圧は水を体の中

に保持し体外にしみ出すことを防いでいる。

5.水バランス

水バランスがとれているときは体内の水の出納は等しい

供給 経口摂取+代謝水

排出 尿・糞便・不感蒸泄・発汗等

一日の出納量は約2.5l

6.電解質のバランス

電解質は浸透圧を作り、体内から水が出て行くのを押さえ

るとともに、細胞内外とのやりとりにおいて、このバランスは

極めて重要である。細胞外液の浸透圧はおよそ一定の正

常範囲内(275~295mOsm/KgH2O)に保たれてる。

その為、体内での電解質バランス常に一定になる様第一

に調節される。

浸透圧形成に最も関係するのが Na イオン

→電解質バランスの調節≒Na イオン濃度調節

7.ホルモンによる体液調節

a. 抗利尿ホルモン(ADH,Vasopressinバソプレッシン)

脳の視床下部に体液の浸透圧受容器

浸透圧が上昇→口渇感,下垂体後葉より ADH 分泌

ADH は腎臓に作用して尿の生産量を減少

水を保持し浸透圧を低下

機序:ADH は腎臓の集合管での水の再吸収を促進し

(水チャンネル;アクアポリンが出現)、水分の喪失量を減ら

し体内水分の量を確保する。

(浸透圧が低下→ADH の分泌減少→腎臓での水の再

吸収抑制→多量の尿

b.レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系

(RAA 系:Rennin-Angiotensin-Aldosterone System,)

3種類のホルモンが関係

働き:血圧上昇,循環血量の保持

水を失い細胞外液量が減少→循環血量の減少

→血圧低下,腎臓での尿生産量減少(GFR の低下)

腎糸球体血圧の低下→傍糸球体装置よりレニン分泌

レニンは血中タンパクのアンギオテンシノーゲンを分解

し最終的に血管収縮作用のあるアンギオテンシン II を作り

血圧を上昇させる。一方、アンギオテンシン II は副腎皮質

に作用しアルドステロン(鉱質コルチコイド)の分泌を促進

する。アルドステロンは腎臓の集合管や汗腺に作用しナトリ

ウムイオンの再吸収とカリウムイオンの排出を促進し、結果

的に水の再吸収を促し体液量を増加させる。

この系は血圧低下によって誘導され、浸透圧は関係しな

い。

c. 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)

水バランスが正になった場合、循環血漿量が増加し血圧

は上昇する。血圧の上昇は心臓からの心房性ナトリウム利

尿ペプチド(ANP) の分泌を促す。ANP は心房壁の拡張が

刺激となり分泌されるペプチドホルモンで、それ自身が血

管を拡張する作用があり血圧を低下させる。一方、腎臓に

対してはナトリウムイオンの排出とそれに続く利尿作用を持

ち、水バランスを整える。

7.酸・塩基平衡

体液のpH は 7.35~7.45

体液のpH がこれより下がるとアシドーシス

上がるとアルカローシス

(6.8 以下,7.8 以上で極めて危険)

体液の緩衝作用と調節

・ 緩衝作用:炭酸・ヘモグロビン・(血漿タンパク・リン酸)

H+A- + NaHCO3 ←→ H2CO3 + Na・A

B+OH- + H2CO3 ←→ H2O + BHCO3

・ 調節(生理的緩衝作用)

呼吸(炭酸の量)+腎(尿生産:不揮発性酸の排出)

CO2 + H2O ←→ H2CO3 ←→ H++ BHCO3

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