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早稲田大学における 実践的IT科目
- 疑似プロジェクトベース教育とチーム構成 -
2012年7月8日
鷲崎 弘宜 早稲田大学基幹理工学部情報理工学科
早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所
http://www.cs.waseda.ac.jp/
目次
• 高度IT人材育成と実践的科目 – 早稲田大学の実践的IT科目
– 疑似プロジェクトベース教育
– 受講生評価と感想
• チーム構成と教育効果 – 影響分析枠組み
– 知識・技能アンケート評価
– 発言数の測定
– FFS理論に基づく個人特性定量化
– 分析から得られた知見
• まとめ 2
高度IT人材育成と実践的科目
• 産学における高度IT人材育成への危機意識 • 経済産業省/IPA 委託事業「IT人材育成強化加速事業」拠点 2010- – NEC ほか企業各社との連携 – 8大学設置済み(早稲田大学含む)、8大学設置予定 – 連携の事例、枠組みの公開
• 実践的科目 – 実務に近い: 特に情報システムの発注・開発 – プロジェクトマネジメント – ヒューマンスキル – 演習中心、特にチーム演習
4
早稲田大学の実践的IT科目
• 経済産業省・IPAおよびNEC・NECラーニングの協力により2010年より継続設置
• 発注側と受注側の両視点で、情報システムの活用、マネジメント、ヒューマンスキルの体験的習得 – 情報理工学科3・4年生、2単位、3コマ×5日間
• 発注「IT経営プロジェクト基礎」 2011年度 15名・3チーム – IT戦略策定、IT調達、RFP、ITサービス導入 – 講義・演習: 企業教員
• 受注「システム開発プロジェクト基礎」 2011年度 26名・6チーム – 基本計画、要件定義、システム設計、プロジェクトマネジメント
– 講義:大学教員、演習:企業教員 5
• 1日目
– チームビルディング
– 経営改革の必要性
– SWOT分析とあるべき姿の抽出
– あるべき姿の設定とCSFおよびIT課題の抽出
• 2日目
– IT戦略策定
– IT成熟度評価と業務プロセスの改革
– IT戦略企画書
• 3日目
– IT調達
– RFPの発行と提案評価方法、基準の設定
– IT調達の準備と実施
• 4日目
– ITサービス導入・プロジェクトとPM
– ITサービス導入に関する諸問題
– ITサービス導入に関する諸問題への対処
• 5日目
– ITサービス活用
– モニタリングとコントロール
– IT経営のまとめ
• 1日目
– システム開発概論
– プロジェクトマネジメント
• 2日目
– プロジェクトの立ち上げと基本計画
– 要求分析の手順
– システム要件定義の手順
• 3日目
– 要求分析演習(ヒアリング調査の準備)
– システム要件定義演習(要件定義書の作成)
– システム要件定義演習(要求事項の整理)
• 4日目
– システム要件定義演習(要件定義書の作成)
– システム設計の手順
– システム設計演習(機能設計)
• 5日目
– システム設計演習(ユーザインタフェース設計)
– 品質管理
– プロジェクト完了報告 6
IT経営プロジェクト基礎 システム開発プロジェクト基礎
カリキュラムにおける位置づけ
7
実装
方式設計
要求分析
要求定義
結合
検証
移行
妥当性確認
意思決定 リスク管理 構成管理
プロジェクト計測
プロジェクトアセスメント
プロジェクト制御
ソフトウェア作成
ハードウェア作成
運用者教育訓練
処分
保守
運用
ソフトウェア工学
プログラミング
情報社会論
IT経営プロ ジェクト基礎
システム開発 プロジェクト基礎
科目のポイント • 疑似プロジェクトベース教育
– 実務家のロールプレイと助言、実務に近い課題
– 受講生の将来の学習を動機づけできたか?
• チーム演習 – チームで「考えて」自律的取り組み
– チーム構成の教育効果への影響は?
• 繰り返しとフィードバック – PDCA: 講義→演習→発表・講評→解説・改善・・・・
– 日々の学習ジャーナル(目標、進捗、気づき、用語調査)
– IT評価(Individual ×Team)
8
疑似プロジェクトベース教育 プロジェクトベース教育の下記特性を概ね備え、制御された形で短期間実施可能な効率的教育方法
• 目的、計画、実行、判断 – 目的を除く3フェーズを定められた期間内に実施 – 目的は概ね教員が設定
• 学生が自律的に実施 – 定められた期間に受講生はチーム毎に自律的に活動 – 教員は各日に技術解説,演習時は主体的には働きかけない
• 最終的な成果物に繋がる活動実施 – 導入する情報システムの企画書や設計書といった成果物作成 – 最終的な具体的な情報システムの構築や運用は行わない
• 実問題を扱う – 企業出身教員が実問題に近い疑似的な問題設定 – 教員が顧客等の役割をロールプレイ
9
その一コマ: 建材受発注システム • 午前
– ユーザー企業担当者(講師)に要件インタビュー – 要件定義に落とし込み
• 午後 – 画面遷移図やトップ画面の作成 – 発表、議論、企業担当者からの指摘
10
商品番号の直打ちはできないのか?
このチェックボックスは何に使うのか?
受講生アンケート評価 • 最終日調査: 多くがやりがいを感じ,学習目標が達成され,後輩に勧めたいと回答
• 0.5-1.5年後の追跡調査: 意識変化や活用状況 – 多くの受講生について知識や技術が役立っていると回答 – 就職活動遂行にあたり役立ったとの回答多数 – 学業上必要があれば自己研鑽のため独学する姿勢
11
0% 20% 40% 60% 80% 100%
講義の内容は明確で分かりやす…
教材の内容は分かりやすかった
演習内容は取り組みやすかった
演習内容はやりがいがあった
熱意を持って取り組んでいた
わかりやすい説明だった
時間配分、資料、聞き取りやすさ配慮
学生の質問に積極的に対応していた
熱意を持って取り組んだ
不明点などの質問、調査を行った
学習目標を達成することが出来た
IT業界に対する関心が高まった
今後の学習に対する意欲が持てた
この講座を後輩へ薦めたいと思う
そう思う ややそう思う あまりそう思わない そう思わない
IT経営 2011年度
最終日調査
(N=12)
関係者の感想
• 受講生
– チームワークの体験を通じた他者の意見を聞く姿勢やコミュニケーションの大切さに気がついた
– チーム発表と相互評価を通じた表現方法を習得できた
– ほぼ実例によるIT戦略やシステム開発のプロセスや方法を体験・習得できた
• 講師
– 「顧客の存在」を通じて、社会で技術を活用することのやりがいとともに、その難しさを感じてもらえた(企業側)
– 気づきを自身の表現で発表するなど予想を超えた習得が見られた(企業側)
– 産業界からの支援が極めて有効(大学側)
12
チーム構成の教育効果への影響
• 実務はチーム作業が基本
– 指向性がブレンドされたチームほど低リスク [Klein02]
– 同質型ではなく補完型チームは高生産 [小林01]
– 大学・システム演習における最適チーム構成不明
• チーム構成の教育効果への影響分析の課題
– (P1) 教育効果の不明瞭さ: 従来は「受講前」を未把握
– (P2) ダイナミズム把握困難: 全発言カウント非現実的
– (P3) チーム構成の特性定量化の難しさ
14
提案: チーム構成の影響分析枠組み
15
チーム
知識技能アンケート・事前
Kbef
個人特性
Ax/y, σx/y
要求 演習 成果物
知識技能アンケート・事後
Kaft
実践的科目
成果・活動評価 E
知識技能・差分 知識技能・差分
Kdef
発言数 C
(S1) 事前事後の知識・技能アンケート評価 • 共通キャリアスキルFWに基づく自己評価 約40項目
– 0: 知らない ~ 3: 実行できる ~ 5: 評価できる – 基礎系(意思疎通など)、専門系(ITガバナンスなど)
• チーム平均 Kdif = Kaft - Kbef
16
0
10
20
30
40
50
60
70
T4 T5 T6 T7 T8 T9
Kbef基礎
Kaft基礎
Kbef専門
Kaft専門
0
10
20
30
40
T4 T5 T6 T7 T8 T9
Kdif基礎
Kdif専門
0
10
20
30
40
50
60
70
T1 T2 T3
0
10
20
30
40
T1 T2 T3
IT経営 シス開
(S2) メンバの単位時間あたり発言数の測定 • 単位時間(3分)あたりの発言回数を測定 • チーム平均発言数 C
17
C
0
5
10
15
20
25
30
10分 30分 60分 10分 30分 60分 10分 30分 60分 90分
1日目 2日目 3日目 4日目
A
B
C
D
E
F
0
5
10
15
20
25
30
10分
30分
60分
10分
30分
60分
10分
30分
60分
10分
30分
60分
10分
30分
60分
1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
X
Y
Z
0
50
100
150
200
X Y Z
0
50
100
150
200
A B C D E F
IT経営 シス開
(S3) FFS理論に基づく個人特性の定量化
• 様々なモデル – FFS(Five Factors & Stress)[小林01]: 特徴定量化 – ハーマンモデル [Herrman00]
• FFS理論 – 30問アンケートによる傾向特定: 可変、内外 – 例「嫌なことがあると黙ってしまう」(4段階回答)
18
拡散・変化
保全・安定
受容 凝縮
リーダシップ
アンカー
タグボート
マネジメント
Y
X
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
チームは無作為に構成
19
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
-20 -10 0 10 20
• 凝縮指向性: チーム平均Ax, 標準偏差 σx • 変化指向性: チーム平均Ay, 標準偏差 σy
T1
IT経営 T2
T3
シス開
T4
T5
T6
T7
T8
T9
拡散・変化
保全・安定
受容
リーダシップ
アンカー
タグボート
マネジメント
分析の方法: 回帰分析
20
チーム
知識技能アンケート・事前
Kbef
個人特性
Ax/y, σx/y
要求 演習 成果物
知識技能アンケート・事後
Kaft
実践的科目
成果・活動評価 E
知識技能・差分 知識技能・差分
Kdef
発言数 C
R1
R2
R3
R4
R5
R6
R1: 特性σx, σyと知識Kdif, Kbef, Kaftの関係
• シス開 – σxとσyの相関係数は0.22と小さい
– Kaft専門=1.36σy+16.64 について自由度調整済み寄与率最大(0.67),相関係数0.86
– 変化指向性がばらついたチームほど,科目後に専門系知識が多く備えている
– 変化指向性が偏ったチームは,意見の発散と収束の両方が必要なシステム開発の演習で知識習得困難 21
0
5
10
15
20
25
30
0 2 4 6
Kaf
t 専門
σy
• IT経営 – Kdif, Kbef, Kaftを目的変数とした全ての組み合わせについて自由度調整済み決定係数がマイナス
– データ数が3と非常に少ないため
R2: 発言Cと特性σx, σyの関係
• シス開
– C=-4.24σy+54.04 について自
由度調整済み寄与率最大(0.56),相関係数0.80
–変化指向性についてまとまったチームほど議論活発
–変化指向性が共通である方が,意見が出やすかった
22
• IT経営: 有効な関係得られず
0
10
20
30
40
50
60
0 2 4 6
Cσy
R5: 発言Cと成果物評価Eの関係
• シス開
– E: 教員によるレポート評価点
–相関係数-0.63,議論が活発なチームほど成果物評価低い
–設計書作成作業が多いため,早期に方針決定して個人作業に取り掛かったほうが効率的
23
• IT経営: 有効な関係得られず
0
10
20
30
40
50
60
0 10 20 30
CE
得られた知見
• R3, R4, R6: 明確な関係見られず
• IT経営: チーム数が3と少なく影響を識別できない
• シス開
– 変化・安定の指向性がばらついたチームほど,
科目後に特に専門系の知識・技能をチームとしてより多く備えているが,
議論は静かなものとなる.
– 議論が活発なチームほど,成果物評価がやや低い
24
まとめと展望
• 高度IT人材育成と実践的科目
–早稲田大学の実践的IT科目
–疑似プロジェクトベース教育
• 情報システム開発の実践的科目
–変化指向性がばらついたメンバ構成が専門系の知識・技術獲得について望ましい
• 展望
–継続調査
–他大学、企業における実証 25