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ConnectiveTissue Vo l. 17 No.3 141-158(1985) 総説 硬組織形成と石灰化制御タンパク質 久保木芳徳 北海道大学歯学部生化学教室 CaleifiedTissueFormationandRegulatorProteinsforCaleifieation YoshinoriKuboki DepartmentofBiochemistry SchoolofDentistry HokkaidoUniversity Summary Reeentadvaneesintheknowledgeabout themeehanism ofbiologiealealeifieation wasreviwedwith speeial referenee totheregulator proteins for this meehanism. Fourimportantfaetorsinvolvedinthisproeesswerepointedout. Theseare (1) the eellsthatformealeifiedtissues (2) theorganiematriees (3) ealeiumandphosphate mineralsand (4) theregulatorsforealeifieation. Generalizedeoneept ofealei eation proeesswasdeseribedinterms of these four faetors. Therehasbeen an ineonsisteney betweenthe faets thatphysiolosiealextraeellularsuidsaresupersaturatedin ealeium andphosphatewithrespeettohydroxyapatite buttheyalsoareundersaturatedwith respeet to the formation of ealeium phosphate de novo Varioustheoriesineluding the booster nueleation and inhibitor theories that have beenproposed toexplainthis ineonsisteney wereeritieized. It was emphasized that the systematie funetionand metabolism of the regulator proteins for ealeifieation may beakeytoresolvethe eontradietionandtounderstandthiseomp Ii eatedbiologiealphenomenon. 1. はじめに 骨,象牙質,エナメル質,セメント質などの 石灰化組織はヒドロキシアパタイト (hydroxy- apatite ,以下 HA と略す。 Table1 参照)を主 体とするリン酸カルシウムを含む点で,他の組 織とは明瞭に区別され硬組織とも呼ばれてい る。当然ながら硬組織における HA形成機構 は古くから注目されてきた。 硬組織の HA形成機構は,単なる無機溶液 からの結晶析出とは異なり多種類のタンパク質 をはじめ,プロテオグリカンや低分子化合物に よって幾重にも制御を受けていることが明らか になりつつある。筆者はこの中のタンパク質群 に焦点を当て, これらを一括して石灰化制御タ ンパク質1)の範鴎の下に考察を試みたい。本稿 では,先ず生体内の石灰化現象一般について述 べ,総論的立場からこれらの石灰化制御タンパ ク質の役割を論ずる予定である。なお,個々の 石灰化制御タンパク質のさらに詳しい性質は, Table2の文献や,総説2 引を参照していただ ければ幸いである。

硬組織形成と石灰化制御タンパク質 - UMINConnective Tissue Vol. 17, No. 3, 141-158 (1985) 総説 硬組織形成と石灰化制御タンパク質 久保木芳徳

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Connective Tissue

Vol. 17, No. 3, 141-158 (1985)

総説

硬組織形成と石灰化制御タンパク質

久保木芳徳

北海道大学歯学部生化学教室

Caleified Tissue Formation and Regulator Proteins for Caleifieation

Yoshinori Kuboki

Department of Biochemistry, School of Dentistry

Hokkaido University

Summary

Reeent advanees in the knowledge about the meehanism of biologieal ealeifieation

was reviwed with speeial referenee to the regulator proteins for this meehanism.

Four important faetors involved in this proeess were pointed out. These are (1) the

eells that form ealeified tissues, (2) the organie matriees, (3) ealeium and phosphate

minerals and (4) the regulators for ealeifieation. Generalized eoneept of ealei貧eation

proeess was deseribed in terms of these four faetors. There has been an ineonsisteney

between the faets that physiolosieal extraeellular suids are supersaturated in ealeium

and phosphate with respeet to hydroxyapatite, but they also are undersaturated with respeet to the formation of ealeium phosphate de novo・ Varioustheories ineluding the

booster, nueleation and inhibitor theories that have been proposed to explain this

ineonsisteney, were eritieized. It was emphasized that the systematie funetion and

metabolism of the regulator proteins for ealeifieation may be a key to resolve the

eontradietion and to understand this eompIieated biologieal phenomenon.

1. はじめに

骨,象牙質,エナメル質,セメント質などの

石灰化組織はヒドロキシアパタイト (hydroxy-

apatite,以下HAと略す。 Table1参照)を主

体とするリン酸カルシウムを含む点で,他の組

織とは明瞭に区別され硬組織とも呼ばれてい

る。当然ながら硬組織における HA形成機構

は古くから注目されてきた。

硬組織の HA形成機構は,単なる無機溶液

からの結晶析出とは異なり多種類のタンパク質

をはじめ,プロテオグリカンや低分子化合物に

よって幾重にも制御を受けていることが明らか

になりつつある。筆者はこの中のタンパク質群

に焦点を当て, これらを一括して石灰化制御タ

ンパク質1)の範鴎の下に考察を試みたい。本稿

では,先ず生体内の石灰化現象一般について述

べ,総論的立場からこれらの石灰化制御タンパ

ク質の役割を論ずる予定である。なお,個々の

石灰化制御タンパク質のさらに詳しい性質は,

Table 2の文献や,総説2引を参照していただ

ければ幸いである。

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-142ー 結合組織

Table 1. Calcium and phosphate compounds

Formula Name Molar Ca/P Abbreviation

CaHPO.・2H20 Dicalcium phosphate dihydrate 1.0 DCPD

CaSH2 (P04) 6・5H20 Octacalcium phosphate 1.33 OCP

Cag(P04)6 (var) Amorphous calcium phosphate 1.3-1.5 ACP

Ca3(P04)2 Tricalcium phosphate 1. 50 TCP

Cal0 (P04) 6 (OH) 2 Hydroxyapatite 1. 66 HA

Table 2. Regulator proteins for calcification

Name Molecular 01 Amino acid fn 0/¥ Possible f Locatωn ・ht p1 composition (Res. %) J:'osslble tunct削 lSwelgnt compOSltlOn \1~es. Ref.

Type 1 Bone Gly 33 Glu 7

Nucleation in

collagen Dentin 300K ~9 Pro 12

the hole zone. 4)

Cement Hyp 10

Osteocalcin Bone Asp 10 Gla 3 Regulation of crystal 15)

(Gla-protein) Dentin 6,800 3.7 Pro 10 growth. Maintenance 49)

Glu 14 of crystal.

Bone .Asp 13 Gly 7

Connection between Osteonectin 32K 5.5 Glu 10 21)

Dentin collagen and HA. Pro 7

Asp 43 Precipitation. with Ca2+. 40) Phosphophoryn Dentin 38~80 K 1. 1 P-Ser 44 Regulation of nucleation 41)

Gly 3 and phase transition. 42)

Bone Asp 17 Thr 3 Binding with Ca2+目

phosphoprotein Bone 12K Ser 7 P-Thr 1

N ucleation. P-Ser 6

Calcifying Asp 13 Gly 12 N ucleation. 29)

Chondrocalcin cartilage

70K Ser 14 Binding with Ca2十 andHA.30)

Glu 10

Embryonic Asp 5 Gly 7

Acquisition of the space 43) Amelogenin

enamel 27K 6.8 Glu 19

Control of crystal growth. 6) Pro 22

Embryonic Asp 12 Gly 11

Enamelin 60~70K Glu 15 Regulation of nucleation. 45) enamel

Pro 17

Protein C 16,300 4 7 1 AG 1叫uf 叩山-Q υ Inhibition of Ca2十一Pi(PRP-1),

Protein A Saliva 4.14 Pro 22-27 precipltation. 17)

(PRP-III) 9,900 Pellicle formation. Gly 20-22

Glu 23 P-Ser 5 1nhibition of Ca2十一PiStatherin Saliva 5,380 4.2 Pro 16 16) prec1pltahon.

Tyr 16

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久保木:硬組織形成と石灰化制御タンパグ質

11. 硬組織形成におけるニつの段階

骨,象牙質,エナメル質の石灰化過程を概観

してすぐ、に注目される事実は,それぞれの硬組

織形成細胞(すなわち骨芽細胞,象牙芽細胞,

およびエナメル芽細胞)から一旦有機質性の基

質(マトリッグス)が分泌され一定の空聞が確

保されてから,その上にミネラルが沈着するこ

とである7J。

骨では,骨芽細胞と実際の石灰化前線との間

に存在する未石灰化の有機質層を類骨 (osteoid)

と呼んでいる。類骨の幅は急速な骨形成である

線維骨 (wovenbone) では狭く 2~3μm, よ

り一般的な層板骨(lamellarbone) では約 10

μmであるη(Fig.1参照)。

象牙質の場合にら象牙芽細胞と象牙質の石

灰化前線との聞に,約 10μmの未石灰化の有

機質層,象牙前質 (predentin)が存在する。エ

1) Bone

3) Dentin

OD

呼応い行が臥十創価

…⑨⑨叫一川一川

Fig. 1. Schematic representation of the mode

。fcalci五cationin four di任erenttissues. OB,

osteoblast; OS, osteoid; MF, mineralization

front; OD, odontoblast; PD, predentin ; CC,

hypertrophic chondrocyte; AM, ameloblast;

EM, enamel matrix ; MT, mineralized tissue;

OC, osteocyte. Note that calcification always

starts at some distance from the calcified tiss司

ue forming cells. Dotted zone indicates the

unmineralized matrix within the calcification

compartment

-143ー

ナメル質では,有機質マトリックスによる空間

の確保は,さらに顕著な形で行われる。すなわ

ち将来エナメル質になる層の全幅にわたって一

旦,タンパク質 (amelogeninと enamelin)を

主成分とするチーズ状の軟組織が出来上ってか

ら,それを HA結晶が置換する形で硬組織が

形成される。

類骨の化学的組成はコラ{ゲンとプロテオグ

リカンを主体とするが,完成した骨の有機質の

組成とは,かなり異なっているらしし、。したが

って有機質の酵素的分解が石灰化の進行に伴っ

て生じることが推定されているへこのよう

な有機質の分解は,象牙質においても観察さ

れg,ID,さらにエナメル質では全有機質が分解

消失するという徹底した形で遂行されるへ

以上のように夜組織の形成は,細胞による未

石灰化有機基質(マトリッグス)の分泌・形成

という第 1相と,分泌後のマトリックスの質的

変化,あるいは硬組織形成細胞側からのミネラ

ル供給の増大による,マトリッグスへの HAの

沈着という第 2相に分けて把握することができ

る。このことは硬組織形成過程の最も重要な特

徴の一つであり,機構解明の鍵であると考えら

れる。

この結果硬組織形成細胞は,直接石灰化部に

接することはなく,必ず聞に未石灰化帯を置く

ことになり,破骨細胞(osteoclast)が直接石灰

化部に接するのと対照的である。

111. 硬組織形成の 4大要素

硬組織の形成, とくに生体内石灰化の機構を

考察する際に,関連する因子を 4つに分類した

上でそれらの相互関係を論議するのが好都合と

考えられる。①硬組織形成細胞,②基質,③ミ

ネラル,および④制御因子である。

1. 硬組織形成細胞

骨細胞(osteoblast),象牙芽細胞(odontoblast)•

エナメル芽細胞 (ameloblast)が各々の硬組織

形成を担当しているが,これらの細胞の確認さ

れている主な機能は,基質成分と制御因子の合

成である。骨細胞は I型の骨コラーゲンとプロ

テオグリカンの他,石灰化制御タンパク質とし

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-144ー 結合組織

Table 3. Distribution of soluble bone constituents in 4 M guanidine extract (left), and in 0.5 M

EDT A/ 4 M guanidine extract (right). Bone-specific matrix protein are underlined for each

soluble fraction. (Termine, 1981) 12).

Soluble collagen

B¥ood-derived proteins

[山in.fibronectin

lY2-HS-g1ycoprotein

Cellular constituents

[nucleicac出 glycogen

cell proteins

Bone Gla-protein

型空竺竺E竺竺盟lyc些E

Unidentified co;nponents

UAV地

%

w

m

v

m

w

m

5

3

5

0

0

o

nノ臼

-

1

h

a

EA

句EA

1111」

「Ili--」

てオステオカルシン (osteocalcin),オステオネ

クチン (osteonectin),骨リンタンパク質を合

成分泌している。象牙質では象牙芽細胞が,や

はり I型コラーゲン,プロテオグリカン,オス

テオネグチン,オステオカルシンの他,象牙質

特有のリンタンパク質 phosphophorynを分泌

する。

しかしいす'れの硬組織形成細胞にも,現在ま

でにミネラルを能動的に濃縮または輸送すると

いう期待されるような機能は確認されていな

L 、。

2. 基質

硬組織の形成過程から完成後も含めてミネラ

ル沈着の場を構成している有機物質全体を基質

(あるいはマトリッグス)と呼んでいる。この

ように定義すると基質の中には後に述べる調節

因子も含まれるわけで,実際コラーゲンとプロ

テオグリカンは基質の一部であると同時に調節

因子でもある。

基質に関して最も興味深い事実は,分泌直後

の基質が石灰化しないという点である。この時

期の基質は石灰化の場としての潜在能はもって

いるが,基質としては未完成でありその後,何

らかの質的変化と,制御因子の作用解除を経て

石灰化の場になり得ると考えられている。

この未熟な基質は骨では類骨,象牙質では象

牙前質 (predentin), エナメル質で、は初期(基

質形成期)のマトリックスである。これらの基

質と,完成硬組織の基質の詳しい比較分析が

必要であるが,現在次のような点がわかってき

Osteonectin

lY2-HS-Glycoprotein

型旦旦怪竪笠里i旦62,000 Mr Bone

d竺些ogly竺旦竺豆竺

24,000 Mr Bone

phosphoprotein

Bone proteoglycans

Collagen, nuc¥eic acids,

unidenti五edcomponents

-・・30%

".25%

・…15%

・・・10%

-・・・・・・・・8%

-・・・7%..・・5%

た。

石灰化前後の骨のコラーゲンについては,後

述のように架橋結合に明確な差が報告されてい

る10)。プロテオグリカンについては,骨,象牙

質とも石灰化前後で,急速な量的減少が起こ

り, その結果質的にも Ch6Sの Ch4Sに対

する比が減少することがわかった11)。最近にな

って Termine ら12)は G-ext,E-ext と称す

る2段階抽出を提唱し広く用いられるように

なった。 この方法は硬組織を先ず 4Mグアニ

ジンで抽出し,未石灰化部分の可溶成分を抽

出しその後 4Mグアニジンを含む, O.5M

EDTAで石灰化部分の(ミネラルに結合して

いる)成分を抽出しようとするものである。こ

の方法によって胎生6カ月のウシ骨基質を分析

した結果を Table3に示す。この方法では必ず

しも類骨と完成骨の組成を示してはし、ないが,

石灰化部分に少なくとも 7種以上のタンパク質

が確認され,そのうち α2-HSタンパグ質と未

同定物質以外はすべて硬組織特有のものと理解

されている O

幼若エナメル質についても G-ext,E-ext法

が応用された。その結果,アメロゲニンはグア

ニジンのみで抽出されるが,エナメリンは抽出

に EDTA脱灰を必要とする故, HAに強く結

合して石灰化部分に存在すると推察されてい

る。

3. ミネラルー一一溶液から固相へ

ヒト体液(血清,唾液,組織液など)中のリ

ン酸とカルシウムの実効濃度,すなわち活動度

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久保木:硬組織形成と石灰化制御タンパク質 -145-

の積は, HAの溶解度 (10-8~ 10-9) よりもは

るかに高い。血清カルシウム濃度 10mg/dl(2.5

mM) のうち遊離の Ca2+は 5.32mg/dl(1. 33

mM) で,その活動度係数は生理的条件下では

0.36である lヘ一方,成人血清中のリン酸濃

度の平均値として約 3.1mg/dl (1 mM) をとる

ことにすると,その 81%が HPO/ーの形で存

在しその活動度係数は 0.23である。これら

の値から成人血清中の Ca2+と HPO/ の活動

度積は約 1X 10-7 と求められてしる。実際に骨

組織の直接的な内部環境を構成している骨液

(bone fl.uid)の正確な電解質濃度は,現在多く

の努力にもかかわらず得られていないが,間接

的な測定から K+イオン以外は血清の組成に準

ずるものと考えられている 13,100

このように体液は HAに対し過飽和である

にもかかわらず, HAは直接には析出しない。

さらに,in vitro生理条件下で血清の Ca2十と

HPO/ を上げた場合,最初に析出する固相は

溶解度の低い HAではなく,常に第 2リン酸

カルシウム (brushite,CaHP04・2H20)の方が

先に析出しこれは放置すると相転移して H A

に変化する。

この相転移の原因は, HAの構造。エネルギ

ー的安定性に求められるO 生理的な環境下での

2.3x10・::""CaHP04' 2H20

b 10・8-1O9HA

Fig. 2. The aqueous and solid system of

calcium and phosphate in human body.

With respect to calcium and phosphate, the

body fluids are metastable below the satura-

tion needed for spontaneous precipitation

and yet above the saturation needed to sup-

port crystal growth and maturation once a

nidus or seed has formed. This situation

was analogized to the activation energy

needed to promote chemical reaction.

リン酸カルシウムの最も安定な存在形態が HA

であることは,各種の状況証拠からも確かめら

れている。 HAに対して過飽和な溶液から 1段

でHA結晶が析出するためには,単位胞を構成

する 18個のイオンが,適正な立体的配置の下に

一挙に衝突する必要があり,その確率は非常に

小さいと考えられる。 Neumanら13)は, この

ことを活性化エネルギーの大なる化学反応にな

ぞらえて説明している (Fig.2参照)。

すなわち, この HA生成系 (Fig.2右)にお

いて, 活性化エネルギー EAに対応するものを

下げるような適当な環境(触媒や核の存在下)

では,HAが直接析出する可能性がある。ま

た, CaHP04・2H20 を析出するに足る濃度積

(2.3 X 10-7) に上げれば, CaHP04・2H20 を生

じ,これが時間と共に相転移して, Table 1の

ようなリン酸カルシウムの中間体を経て,最終

的には熱力学的に安定な HAが形成される

(Table 1の化合物は熱力学的安定性の順に配

列してある)。

要約すると,生理的な温度, pH,イオン強度

においては,体液(骨液を含めて)リン酸とカ

ルシウムのイオン積は自発的に析出するにはか

なり低い。しかしながらそれは生体に存在する

安定な固相,すなわち HAまたは HAを主体

とした混合物の溶解度を上廻っていると結論さ

れる。

4. 制御因子

骨の形成と吸収の制御因子と言えば,従来

は先ずホルモンであり,副甲状腺ホルモン

(PTH) ,カルチトニン (CT),およびビタミン

D3代謝物の三大骨代謝ホルモンのほか,局所

ホルモンとしてのプロスタグランジンをはじめ

多数の因子が硬組織の細胞活動を制御すること

が示されてきた。

しかし最近,細胞活動に対してではなく,石

灰化(結晶化)を制御する一群の物質も注目さ

れるようになった。ここで, とくに石灰化制御

タンパク質と呼ぶ理由は,ホルモンが細胞活動

を制御するのに対して,前者は結晶化という物

理化学過程を制御している点にある。

現在までに, このような石灰化制御因子の範

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-146ー 結合組織

時に入れられるべきタンパク質が Table2の

ように多数提唱されてきた。

これらの石灰化制御タンパグ質は程度の差は

あれ, いずれも Ca2+イオンと HAに対して

強い親和性をもっている O したがってその作用

メカニズムの本質は,タンパク質側の反応基

(リン酸基,カルボキシル基など)と Ca2+ イオ

ンまたは Ca2+-Pi化合物,すなわち Table1

のような中間体と HA表面の Ca2+ との反応に

帰せられると考えてよいであろう。その典型的

な説明の例は Fig.7 q.こ示す Hauschkal5)らに

よる仮説であろう。但しこのモデルは川崎理論

34,35)からは難点がある(後述)。

石灰化制御タンパク質は硬組織のみならず唾

液中にも発見されており,また尿,血清中にも

存在する。唾液中の statherin1ペproteinA,

protein C!1)はすでに一次構造も解明され,歯

石沈着や麟蝕との関連が重視されている 1引がこ

こでは詳述しなし、。石灰化制御因子にはタンパ

グ質以外にフォスホリピドのような脂質や,プ

ロテオグリカン,その他ピロリン酸,グエン酸,

Mg2+ などの低分子物質もあることを忘れては

ならない。

IV. 生体内石灰化の機構

生体内石灰化の 4大要素,すなわち①硬組織

形成細胞,②基質,@ミネラル,および④制御

因子の相互関係を図式化したのが Fig.3であ

る。

ここでは細胞は 2種の働きをしている。第ー

には基質構成物質と石灰化制御因子の分泌であ

り,第二には自らがっくりだした基質の包囲で

ある。細胞は硬組織の全面を被っており,骨で

は骨芽細胞とその前駆細胞が層をなし lining

cellsまたは cellenvelope と呼ばれる膜の中

に骨がつくられる (Fig.1)。象牙質とエナメル

質では,細胞による包囲はさらに明瞭で、方向性

をもっている。象牙質芽細胞とエナメル芽細胞

が整然とした単層の配列をしている。このよう

に細胞に包囲された区画を石灰化の compart-

mentと呼ぶことができょう。

1. 石灰化 compartmentの役割

P

P

L

一一一

コccil山

vd二一一

O

A

H

一一一一

Calcification compartment

Fig. 3. Simpli五edconcept of calci品cation.

The inter.relationship between the four

factors of calcification, (1) calcified

tissue forming cells, (2) organic matrix,

(3) minerals, (4) regulators for calciι

cation, are ilIustrated.

問題点の一つは硬組織形成細胞が構成する膜

が,石灰化 compartment,即ち硬組織の内外

のイオン濃度に明確な差を与えるに十分な閉鎖

系であるか否かという点である。現在のところ

骨組織においては,このような compartment

の内部の骨液の組成は K+以外は血清のそれと

大差はなく,膜を構成する細胞が積極的に Ca2+

あるいは HPO/-イオンを一方向に輸送してい

るとL、う証拠はない。しかしながら, この膜は

石灰化制御タンパグ質のような高分子に対して

は十分な拡散障壁をなしており,その意味にお

いて石灰化 compartmentは,制御タンパグ質

と基質成分に関しては閉鎖系とみなされる 19)。

したがって石灰化 compartmentの意義は,

制御タンパク質と基質高分子を一定空間に包囲

しその中におそらくは受身的に浸入する Ca2十

とHPO/ イオンを石灰化に導くことにあると

いえよう。この包囲なしには石灰化は起こり得

ない。

2. 基質および制御因子の石灰化に伴う変

石灰化 compartment内に包囲された基質は,

それ自体石灰化の準備体勢が整い, ミネラルの

供給さえあれば石灰化すると考えられるが,な

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久保木:硬組織形成と石灰化制御タンパク質 -147ー

お未熟であり,石灰化の 2段階現象から考えて

も石灰化に先立って相当な酵素的修正を受け

ると考えられる。この現象について研究が現在

進行中であることはすで、に述べた。しかし基質

のみならず制御因子も,同様に酵素的修飾をう

けることが考えられる。象牙質の phosphophor-

yn8)や,エナメル質のアメロゲニン引について

はプロテアーゼによる分解が示唆されている。

制御因子の機能は Ca2+ イオンの結合,核形

成,結晶成長,相転移などの各段階での阻害あ

るいは促進作用などに分けられているが20) 単

純な阻害や促進に分類不可能な,たとえばミネ

ラルとコラーゲンの結合21】,などもあり実際は

より複雑で、高分子制御因子聞の複合体として作

用する場合も多いと推測される 22>。

硬組織の石灰化前線では石灰化制御因子の酵

素的修飾を含むかなり動的な変化が起きている

ことは間違いない。しかしそれは石灰化の原因

である場合と共に結果である場合もあり得る O

3. 従来提案された生体石灰化理論

すでにみたように,体液の Ca2+-Piのイオン

活動度積は,生体ミネラルの主体で、ある HAお

よびHAを含むリン酸カルシウム塩混合物に対

して過飽和であり, しかもリン酸カルシウム溶

液からの最初の自然析出物である CaHP04・

2H20 (DCPD),に対しては不飽和である。

ここに二重の矛盾点が存在する。第ーにな

ぜ,体液は不飽和であるにもかかわらず DCPD

を最初に析出させ,その後の相転移を経て HA

を生成し得るのかであり,第二には,もし何ら

かの機構で DCPDが析出されるとしたら,引

続いて過飽和な体液の環境下にあるすべての組

織が石灰化して Neumanが比喰として引用す

る pillarsof saltができる結論になる (Lot's

wife problem) 19)。

これらの矛盾を解明しようとして現在までに

多くの説が提案された。それらは次の 3種に分

けることができる。

1) Booster説

体液からリン酸カルシウムの固相が析出する

ためには,組織内で局所的な活動度積の上昇が

必要であり,そのための機構が存在すると主張

する説である。古くは 1932年に Robison が,

硬組織に多量検出されるアルカリホスファター

ゼが,組織の有機リン酸エステルを水解して局

所の HPO/濃度を上昇させる結果,固相が析

出するという Booster(押上げ)説を唱えた。

しかしアルカリホスブァターゼの基質となる物

質が,局所濃度を上昇させるに足るほど検出で

きず,実際局所の濃度が上昇するとL、ぅ証拠も

得られていない。

その後40年を経て押上げ説は,軟骨の石灰化

部や,線維骨 (wovenbone)形成部に基質小胞

(matrix vesicle) と呼ばれる構造物が検出され

て再び注目された。基質小胞は直径約 200nm

の円形をなし,膜構造で包囲された内部には

ACPや HAを含んでいることから,石灰化の

最初の場所であると考えられるに至った2ヘ基

質小胞を単離して分析した結果,その膜成分は

軟骨細胞のそれとは異なってアルカリホスフ

ァターゼとリン脂質に富んで、いる。これらの情

況証拠から基質小胞内にリン酸とカルシウム濃

度が押上げられて固相が析出すると考えられ

た。しかし基質小胞は軟骨細胞からの out-

foldingによって生成する故 Ca2+ポンプはむ

しろ外側に向っているはずであり,押上げ機構

が働いているという確実な証拠は得られていな

い13)。基質小胞は micro-compartmen tとして

周囲と異なる徴環境を提供し次項で述べる核

形成の場を与えている可能性がある。

2) 核形成説 (nucleationtheory)

局所の Ca2+-Pi活動度積上昇の代りに Fig.3

における触媒に相当する作用を,異種核が担当

するという考え方が 1958年に提案された13)。

生理的な温度, pHおよびイオン強度でのリン

酸カルシウム析出限界のイオン積である 6mM2

よりも,はるかに下廻る溶液にコラーゲンを少

量加えると HAが形成された。実際に体液のイ

オン積1.3 mM2においても HAが析出し,コ

ラーゲンの添加は HA自身を同種核として種

入れした場合よりも効果的であった。明らか

に Fig.3における活性化エネルギーにあたる

ものが減少されたわけで、ある。

コラーゲン核形成説にとって最初の困難な事

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-148-

Telopept

結 止λ口 組 織

Hole

ーーーー Surface Hole

¥1MM2l

(0.6D) hole zone

Collagen molecule

i !.lA

T 1-"

overlap zone (0.40)

十 D十 D十 D寸

FormatioI矧fibri1sqマ

j」ーが以

links

同 CH-

(CH,),

CH, CH

-CH-

Lysine

H

C-CHO

(CH,h CH, NH CH, C::" 1211 (CH,h Allysine

Allysines

(CH,)" -CH-

Aldol

condensation product

-CH-

Schiff

base

Fig. 4. Structure of colJagen品brilsand cross-links. Note that the hole

zones are formed by regular packing of the molecules, and the lateral

sizes of hole and pore may be regulated by the intermolecular cross-links.

情は,硬組織以外にも皮膚,騰など結合組織は

すべてコラーゲンを含む点であった。したがっ

て次の問題は,硬組織のコラーゲンと軟組織の

コラーゲンとでは, コラーゲン線維自体あるい

はその組織内での環境が質的に異なるのではな

いか, という点であった。

この点に関しては,現在では明瞭なコラーゲ

ンの組織差が確立されている。第一に硬組織コ

ラーゲンが微量のV型を含むものの, 1型のみ

から成るという遺伝子的な差異が指摘される。

このような純 I型コラーゲンより成る組織は他

にアキレス健のみである。その他コラーゲンは

元来, リボゾームにおける翻訳以後の修飾がき

わめて多彩なタンパク質である。各段階の修飾

の差に起因する組織特異性として,プロリンと

リジンの水酸化をはじめ, ヒドロキシリジンへ

の糖添加, リジンとヒドロキシリジンの酸化的

脱アミノ反応と架橋形成,さらに非コラーゲン

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久保木:硬組織形成と石灰化制御タンパク質 -149ー

50ft t1ssue collagen Hard tissue colla日en

640A 640A

ヨ」」届回目白 三宮持活組四一周忌

塁一 一ー.14=VF 戸時享::;1叫ー-ー l

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--主主主主三三三三三三吾

Fig. 5. Deposition of hydroxyapatite crysta¥s in the ho¥e zones of hard

tissue collagen (¥eft) , Note that the intermo¥ecu¥ar spaces (3 A) of

the soft tissue collagen (right) are ¥ess than the diameter of a phos-

phate ion (approximate¥y 4 A).

との反応などに差を生じ硬組織コラーゲンは

明らかに化学構造的な特徴をもっ2へまたそれ

に由来する溶解性,膨潤1性生など物理化学的諸性

質も異なつている 2叫4J

それらの組織差のうち石灰化に関して重要な

J点点点点、の一つは分子間陳で、ある。 コラーゲン線維の

リン酸カルシウム析出誘導は, Fig.4のような

コラーゲン線維構造における分子配列の空隙

(hole zone) 内に最初に起こることは,形態的

な観察から確立されているヘ成熟骨組織では,

HAが holezoneを満たし,さらに分子間隙

(pore) にも入り込んで、連続的構成をなす結果,

骨に存在する HA の 80~90% はコラーゲン線

維の内部に存在すると考えられている。 Hole

zoneの存在自体は 1型コラーゲンであれば

組織差はなし、。しかし分子の側方の間隙は,硬

組織と軟組織のコラーゲンとで Fig.5のよう

な有意差があることが, Katzら25)によって X

線回折のデータをもとに提唱された。硬組織コ

ラ{ゲンの分子間隙 6Aは,軟組織の 3Aより

も大きく,大きさ約 4Aのリン酸基が holezone

に侵入しやすいと考えられている。

この Katzの仮説は,石灰化の原因ではなく

結果をみているとし、う解釈もあり,最終的にコ

ラーゲン石灰化の組織特異性を説明し得るもの

ではない。実際,初期において invi~ro 石灰化

誘起能が証明されたのは軟組織コラーゲンであ

った。さらに線維再生をくりかえして精製した

コラ{ゲンでも石灰化を誘起させた。そこで著

者らは,当然ながら同一条件下で硬組織と軟組

織コラーゲンの石灰化誘起能を比較する必要が

あるとし,試みた結果 Fig.6のように, 軟組

織コラーゲンにも石灰化誘起能が確かに認めら

れるが硬組織の方がはるかに大であることを観

察したm De Stenoら48) もこれを裏付ける報

告をしている。

以上の所見から結論されることは,おそら

く,純粋な I型コラーゲンは石灰化誘起能をも

っているが,これにE型コラーゲンあるいはプ

ロテオグリカン,その他非コラーゲン成分が結

合している場合は誘起能が減少するという点で

ある。一方 1型コラ{ゲン自体もその架橋結

合の程度も影響し26にさらに骨コラーゲンにお

ける holezoneに面する分子部分のリン酸化ペ

象牙質コラーゲンにおいては, この部分への高

リン酸化タンパグ質 phosphophorynの結合な

どのような修飾が, 1型コラーゲンの石灰化誘

起能を増大させていると考えられる。

コラ{ゲン核形成説の欠点は,in vitroにお

ける単一のタンパグ質コラーゲンの核形成能を

示した段階に止まっており, より生体に近い条

件で多数のタンパク質や制御因子が共存した場

合の実験ならびにコラーゲンがリン酸化などの

修飾をうけた場合の比較実験が,その後なぜか

全くなされていない点にあると思われる。今後

の系統的研究が期待される O

3) 阻害説

硬組織コラーゲンとの差があるにせよ,軟組

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-150ー

ロ 50。‘ー咽u 沼 40U

帽U

‘' 』‘ー.o ., 凶

~ 20 E ω u 』

よ10

Human 2nd Normal Layer Dentin

1st Layer

Bovine Bovine Bovine Dentin Bone Skin

Fig. 6. In vitro calci品cation of decalci五ed

dentin matrix. Human and bovine dentin

matrices recalci五edup to 50% of the original

amount of mineral after 2 days incubation

in CaPi solution (¥ower). The synthesized

mineral was proved to be hydroxyapatite by

X-ray di妊ractionanalysis (upper). But the

matrices of carious dentin, (1st and 2nd

layers), skin and bone collagen recalcified

only less than 10% under the same condition.

メ与口

織コラーゲンにも体液のイオン積からリン酸カ

ルシウムの固相を析出させる能力があることが

確認されると,なぜ,すべての結合組織が石灰

化して pillarsof sal tのようにならないかとい

う, Neumanのいう Lot'swife problem13)に

転換された。

その説明は,生体組織にあまねくミネラル析

出の阻害機構が働いており,硬組織のみ阻害が

解除されるとすれば可能である。実際,血清,

尿をはじめ各種組織にもリン酸カルシウムの結

組 織

品核形成と結晶成長を阻害する物質が検出され

た。その中でピロリン酸は最初によく研究さ

れ,きわめて低濃度(1O-6M)で有効であるこ

と,さらにアルカリフォスファターゼがこの物

質を分解することも確かめられた2九基質小胞

には既に述べたようにアルカリホスファターゼ

が多量に存在するので,この小胞内の HAの

出現はピロリン酸が分解され,阻害が解除され

るためと説明された。しかしながらアルカリホ

スファターゼは,正常で、は全く石灰化しない組

織にも存在する点が,上の説明の一般化を妨げ

ている。

ピロリン酸以外の HA形成阻害物質として

Mピ, クエン酸, GTP, ADPなどの低分子か

ら,アルブミン,プロテオグリカンなどの高分

子,硬組織自身にも,非コラーゲン性タンパク

質で阻害活性を示すものがいくつか明らかにさ

れた。健からは分子量約10万の阻害活性タンパ

グ質が,唾液中からは statherinと呼ばれる43

残基のポリペプチドが分離され, リン酸カルシ

ウムの沈殿とその後の相転移を阻害した。

間害説の問題点は,個々の阻害因子の活性測

定が多くは invitroで, 各々の系で行われ,

測定法によって大きな違いがあるため,はたし

て invivoでどの因子がどの程度有意なのかは

判定困難な点である。 HA形成に至る過程を核

形成とその後の相転移と結品成長の各段階に分

け,各々の阻害効果が検討されている。また

Wadkins ら20)は, コラーゲンによる核形成を

5段階に分け,①最初のタンパグ質への Ca2十

結合は,Sr2+や Mg2+で,②次の HP042-添加

による DCPD様化合物形成は phosphoacetate

で阻害されるとした。さらに③DCPD様化合

物の H+放出がテトラサイグリンで阻害され,

④その水解と HP04-2 添加は, methylene

diphosphonateで阻害,⑤最終的な HAへの転

移は F-で阻害されると説明した。ここでは非

生体物質を阻害剤として挙げているが,これら

の複雑な多段階の制御が Table2のような

石灰化制御タンパク質を用いて, より生体に近

いモデル実験で、立証されるならば Lot'swife

problemが解決され,また硬組織で、の石灰化制

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久保木:硬組織形成と石灰化制御タンパク質 -151ー

御機構も明らかにされるであろう。

結論として,最初に挙げた二重の矛盾は第ー

には, コラーゲンを主とする nucleatorの存在

によって,第二には各種類の制御因子系の存在

によって解決しようというのが現在の合理的な

研究の方向であると言える。

V. 各組織における石灰化とその制御

タンパク質

Table 2に列挙したような石灰化制御タンパ

ク質が各組織の石灰化においてどのように機能

しているかを以下通覧してみる。

1. 軟骨の石灰化と基質小胞

軟骨はいわゆる硬組織ではないが,その一部

は石灰化するので重要な情報を提供している O

骨化過程は通常 2種類に区別され,①胎生期

の骨化や,成体での骨端軟骨にみられる軟骨性

骨化(内軟骨性骨化)は,一旦軟骨が出来,石

灰化するがそれが吸収され骨に置換される形で

骨がつくられる 28)。②一方,骨幹部皮質その他

では結合組織膜下に直接骨がつくられる(膜性

骨化,または結合組織性骨化)28)。前者における

軟骨の石灰化は,部位および方向性も明確で,

しかも軟骨細胞の分裂,肥大化,消滅というド

ラマチックな過程と共に進行するので注目され

てきた。

軟骨の石灰化は, Fig. 1-(2)のように肥大化,

消滅の道をたどる軟骨細胞の列柱の聞の部位

(interterritorial matrix)に生じる。それに伴っ

て軟骨細胞は, outfoldingによって Anderson

らが基質小胞 (matrixvesicle) と名付けた直

径 100~200nm の小胞を分泌する。この小胞

は軟骨細胞の基質分泌に伴って interterri torial

matrixの方に受身的移動ししかも従来の電

顕的観察によれば,最初のミネラル沈着は常に

この小胞内に観察された23)。

1969年に軟骨石灰化部に発見されて以来,基

質小胞は線維骨形成部,象牙質の初期石灰化部

にも見出され, これが最初の石灰化を導びくと

いう見解に立った一般的生体石灰化論が,いわ

ゆる vesiclistsによって展開された。問題は基

質小胞が最初の石灰化の場所であるとし、う形態

的証拠が artifactを含まないかという点,単離

した基質小胞が石灰化するのは,分離過程です

でに小胞の外周構造が変っているからだという

点,軟骨の石灰化では事実であるにしても骨,

象牙質石灰化の主要な石灰化の起始点がコラー

ゲンであることなどが,反論として提出され現

在でも論争が続いている。

軟骨の基質は乾燥重量の約40%がプロテオグ

リカン, 60%がE型コラーゲンであるとされて

おり n型コラーゲンの線維は細く(約 20nm)

横紋構造も明瞭ではない。骨形成の場合とは対

照的にE型コラーゲンは石灰化の起始点になり十

得ないのは, hole zoneが micro-compartment

として機能し得ないためと推定される。また多

量に存在するプロテオグリカンの阻害効果も考

えられる。一方,基質小胞はプロテオグリカ

ンの高分子四害因子の“海"から隔離された

micro-compartmentを作り,膜のアルカリホ

スファターゼはピロリン酸などの低分子阻害因

子を破壊し,プロテオリピドが核形成をして外

から Ca2十,HP04-2をとりこみつつ結品成長す

るという説明がなされている。

しかしながら最近,Pooleら29,加によって骨

端軟骨から chondrocalcinと称する分子量 70K

のタンパク質が見出され,以上のストーリーに

疑問が投げられた。彼らはウシ胎児の骨端軟骨

の4Mグアニジン抽出液から CsCl密度勾配法

(A5, A6画分),ヒドロキシアパタイトカラ

ムを含む各種クロマトグラフィーにより Ca2+

親和性タンパク質 chondrocalcin を分離し

た。このタンパグ質の抗体を作って局在を調べ

た結果,軟骨細胞の肥大が始まる頃,細胞内

の空胞に出現しその後しばらくして基質内

に小胞状に分泌される。しかもその小胞状の

chondrocalcinの局在は,正確に石灰化の起始

部に一致していたが,基質小胞はこれらの石灰

化起始部とは何ら位置的関係がなかったと報告

した。

基質小胞にせよ, Pooleらのみた chondro-

calcinを含む小胞にせよ周囲から隔離された

micro-compartmentが,阻害因子のない空間

をもたらしそこに適当な石灰化の起始核にな

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-152ー 結合組織

る物質が存在すれば,受身的な Ca2+-Piイオ

ンの流入によって Fig.3のような石灰化が進

行することは,先に述べた考察から十分予想さ

れることである。

2. 骨の石灰化とコラーゲンの holezone

このことはコラーゲン線維内石灰化にもあて

はめることが出来る O コラーゲンは石灰化制御

タンパク質であると同時に石灰化の場(基質)

でもある。骨の石灰化で,初期の段階で基質小

胞内石灰化が観察されるにせよ,その後の骨の

ミネラル構造の大部分がコラーゲン線維の石灰

化によって形成されることは,骨の構造自身も

証明しているところである 4,13)。 コラーゲン線

維の holeは Fig.5からもわかるように hole

zoneの横断面では分子 5本に 1個以上存在す

る上 poreは連続的に存在する。さらに Smith

の pentamerモデ、ルを採用した場合には sub-

fibril聞にも空隙が存在するため実際の空隙は

非常に大きし最終的に形成されたミネラルは

連続体をなしていると考えられる。

石灰化の起始点としての holeは, 高分子阻

害因子から隔離した micro-compartmen tsを提

供し, hole内に面した α2鎖に存在する yーグ

ルタミルリン酸4) などのリン酸基,やこの部分

に内在するリンタンパグ質のリン酸基が核形成

を促すことがくりかえし主張されてきた。

コラーゲン構造における holezoneの存在意

義の一つは,少なくとも骨,象牙質においては

Ca2+-Piの沈着にあると考えてよいであろう。

次に Fig.5の仮説のような holezoneへの

HP042 の到着を問題にし分子間距離を論ずる

際,当然、問題にされるべきはコラーゲンの架橋

結合であろう O この点,硬組織特有の架橋の種

類および位置が追求された。現在までに,分子

間架橋の位置に関しては我々の永年にわたる

検索の結果,軟組織のコラーゲンと全く同位置

であることがわかっている 31-33) しかしなが

らごく最近,骨コラーゲンの中でも石灰化して

いるコラーゲンと,非石灰化コラーゲンとは全

く架橋結合のパターンが異なることが報告され

た10)。硬組織コラーゲンには元来 2個のヒドロ

キシリジンに由来する還元性架橋結合 dihy-

Fig. 7. Example of molecular structure

model of binding between regulator protein

and hydroxyapatite. Distance between 2

Gla residues in helix (5.45 A) coincides

with that between CaI on XY -plate (001)

in hydroxyapatite crystal.

droxylysinonorleucine (還元後)と,その代謝産

物と考えられる三本鎖架橋 pyridinolineが多

いが52),pyridinolineは非石灰化部分にのみ分

布するよ0)。これは三本鎖架橋の分子間隔 (Cα-

Cα: 4.9A又は 10.7A)が, 2本鎖の DHLNL

の分子間隔(12.4A)よりも狭いためと考えら

れた川。架橋結合と I型コラーゲンの石灰化誘

起能の関係はこれからの課題である。

コラーゲン以外で、の石灰化制御タンパク質の

中で,オステオカルシン (Glaタンパグ質)の

機能は比較的早くから論議されたが,現在では

HAの結晶成長阻害,又は抑制とみなされてい

る (Fig.7)。但し, Fig.7のような yーカルボ

キシグルタミン酸が HAの ab面のカルシウム

と反応するという Hauschkaのモデルは15)

川崎による HA表面の吸着部位に関する理

論34,35)からは非常に考え難く,オステオカルシ

ンの吸着部位は bc又は ac面であると推定さ

れている 3へいずれにしても結晶成長面にこの

タンパク質が結合して石灰化を制御しているこ

とを証明するには,さらに直接的証拠が必要で

あろうっ

オステオネグチンは,コラーゲンと HAの

両者を結合するとL、う意味でフィブロネグチン

にならって命名されたが後者ほどには化学構造

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久保木 :硬組織形成と石灰化制御タンパグ質 -153ー

はわかっていない。 コラ ーゲン溶液をコ ーティ

ング したガラス容器に, リン酸カルシウムの準

安定溶液を加えた場合,それだけでは Ca2+-Pi

の沈殿は析出しないが,オステオネグチンを添

加すると沈殿 し HAを形成 したという実験が

ある 21)。この実験への批判は,用いたコラーゲ

ンが線維でなく モノマーである故 m VlVO の

状態とは全く異なっており, hole zoneなどは

存在 しない点である。さらに,Termineらはオ

ステオネグチンがコラ ーゲンに強い親和性をも

っと主張 しているが,その根拠 とする実験に用

いたのはコラーゲンではなく,それとは全く立

体構造の異なるゲラチンであった。そもそもこ

の実験で用いたオステオネクチンは 4Mグアニ

ジン中で分離された故,充分変性しており,変

性タンパク質が真の HA親和性を示さないこ

とは川崎-Bernardi37) によって既に確立されて

いるのである。このタンパク質の特性は早晩,

より生体に近い条件下で再評価されるべきであ

ろう。

より生体に近い実験系の確立をめざ して,複

数の石灰化制御タンパク質の相互作用を示唆 し

た実験と して次のような例がある。筆者らは最

近,骨の EDTA抽出液中にカルシウムを添加

すると 2mM Ca2+から沈殿を生じはじめ, 30

mMで最大に達 し 200mM以上では消失する

ことをみいだ した (Fig.8)。この沈殿はオステ

国 同 岡 田四回凶悶|

可百Fig. 8. Ca¥cium守inducedprecipitation of bone

noncollagenous proteins. To the 0.4% so¥u-

tion of the protein, calcium ch¥oride was

added to reach the final concentrations in守

dicated on each tube. Precipitation was

proved to consist of osteonectin, 62 K g¥y-

coprotein and high mo¥ecu¥ar weight g¥y-

coprotems

オネ グチンと分子量 62Kのタンパク質 と, さ

らに高分子の糖タンパク質から成る ことを観察

した2ヘ詳しい分析は今後の課題であるが,こ

のような Ca2+ と複数のタンパク質が複合体を

形成して Ca2+を捕捉 し石灰化を制御する可能

性が考えられる 5へ このような Ca2+沈殿性タ

ンパク質は象牙質にも検出されている刷。

3. 象牙質の石灰化

象牙質の石灰化過程は, 骨の場合よ りも一層

明確な方向性をもち,円柱状の象牙芽細胞の単

層配列,象牙前質,石灰化前線などの区画が明

瞭なので石灰化過程研究の好個の材料とされて

きた。この組織には 44%以上がフォスフォセ

リン, 43%以上がアスパラギン駿とい うきわ

めて特徴的な組成のリンタンパク質 phospho-

phorynが存在する 2,39,40)c Phosphophorynは

1967年間『こ発見されて以来,その石灰化制御タ

ンパク質としての機能が追求されているが未だ

明確ではなL、。

Nawrotら41)によると,生成後30分間は相転

移 しないような ACP合成系(トリ ス緩衝液

pH 8)に phosphophorynを 25μg/ml加える

と HAが生成した。この事実から phosphoph-

orynの相転移促進能 が示唆されるが, その後

Termineら42)によると phosphophoryn 濃度

300μg/ml において逆に核形成ならびにその後

の相転移も遅滞 した。モデル実験の難 しさを物

語っていると言えよう 。

ウシの phcsphophorynは象牙質の EDTA

脱灰抽出液中に抽出される遊離型のものと,コ

ラーゲンの holezcneに面して存在すると考え

られる結合型のものがある。 両者が異なる機能

をもっ可能性がある。その場合,骨と象牙質で

の主要な石灰化の場がコラーゲン線維であるこ

と考えると,結合型 phosphophorynの制御機

能がより重視されてよいはずである。 また今

後,骨と象牙質の石灰化制御因子の機能をさぐ

る実験は,必ずコラーゲンの共存下で実験を加

えるべきであろうと筆者は考えている。結合

型 phosphophorynの機能を証明する研究は現

在少なし、が, Fig.647)における象牙質コラ ーゲ‘

ン(結合型 phosphophorynを含む)の異常に

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- 154ー 結合組織

Cys七Calcified

Capsule

Grain ‘r、Crys七al

O.2)lm

Powder 内T、'.,・ 4・b,・ , ーーー ‘'岨e‘‘

2Jlm

斗3-4mm

Fig. 9. Schematic representation of the unusually large hydroxyapatite crystals isolated

from the cyst in the muscle of dermatomyositis patient. Scanning electron.microscopic

photograph of the crystal (upper) was taken by Dr. Naoki Miura. Bar in the

photograph indicates 4μm.

高い石灰化誘起能は,間接的であるが他の組織

差因子がないか ぎり ,結合型 phosphophoryn

の機能を強く示唆するものである。

1979年に我々は40ヘ遊離型 phosphophoryn-

および, コラーゲンから分離 した結合型 phos-

phophorynが Ca2+イオ ンによ って特異的に沈

殿することを見い出した。この現象は phospho-

phorynの効率のよい精製法としても応用され

たが, より興味持たれるのはその生物学的意味

である。Phosphophorynは多量の Ca2+イオ

ンを蓄積 し自らを石灰化の現場に固定すること

によ って石灰化を制御 していると推測される。

Ho¥e zone以外では phosphophoryn は石灰化

の準備あるいは抑制に関与している可能性が強

し、。

4. エナメル質と異所石灰化

完成したエナメル質は 97%以上が HAで人

体で最も硬い組織であるが,その形成初期には

全く HAを含まぬ有機質の層が一旦つくられ,

層の内容が HAで置き換わる形で 2段階 で硬

組織が形成される。この基質層は,単層に配列

した上皮性のエナメル芽細胞によ って分泌され

る分子量 27Kのアメ ロゲニンと分子量約 70K

のエナメリンからなり 6,ω,コラ ーゲンは全く

含んでいなし、。 2種類のタンパグ質が基質内で

何らかの形態的配置をとっている証拠はなく ,

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久保木:硬組織形成と石灰化制御タンパク質

Dermatαnyositis

Enamel

Bone and Dentin

m

n

0

4 b

crystal Unit

R1069n

O.95nm Fig. 10. Crystal sizes of various biological

and pathological hydroxyapatites. Note the

unusually large crystals from a patient of

dermatomyositis.

均一なチーズ様をなしているので全体が一つの

石灰化 compartmentであるとみなされる。こ

こに細胞側から Ca2+・HPO/ーが方向性をもっ

て流入することによって Fig.1および 10の

ような巨大な(骨,象牙質のものと比較して)

リボン状の HA結品が,整然と方向性をもっ

て成長する。ここには holezoneのような結品

サイズを制限する因子はない。

秦らによればイオン選択的透過膜を用いて方

向性をもって Ca2+ イオンを導入した場合透過

膜上にエナメル質の結品によく似たリボン状

OCP結晶を成長させ得るという仙。単離した

アメロゲニンもエナメリンも invitro実験では

HAの核形成と結晶成長を遅滞させる傾向にあ

り4へとくにエナメリンはアメロゲニンに比較

して 3倍程度強い遅滞作用があると報告された

が,これが結晶成長阻止作用でない事は明らか

である。

-155ー

エナメル質の大きな HA結品成長は,この

2種類のタンパク質が構成するゲルの結晶成長

遅滞作用が関与すると考えられている O この

点,最近筆者らは皮膚筋炎の患者から分離した

嚢胞から, Fig.9 に示すような直径 3~4mm

の粒子を多数検出したが,その粒子内には写真

に示すような紡錘形の HA結品粉末が充満し

ていた46)。この粉末は著者らの知るかぎり今日

までに報告されたどの生体 HA結晶よりも大

きく (Fig. 10), X線回折ノミターンはエナメル

質のそれに匹敵する程の高度の結晶性を示し

た。さらに粒子内の基質と考えられるタンパグ

質のアミノ酸組成はエナメリンに似て,血清ア

ルブミンに近いものであbた。この異所石灰化

の例では,嚢胞内に蓄積したアルブミン様タ

ンパク質が石灰化の場を与え,この半閉鎖の

compartment内にリン酸とカルシウムが浸潤

するとしづ系が,エナメル質に似た環境をつく

り,結晶を大きく成長させたものと想像され

る。

車吉 論

硬組織における HA結品形成の機構をめぐ

って Robison以来,半世紀以上も研究と論争が

続いている。いくつかの理論が提案されたが,

いずれも真実の一面を表わしているように見え

るが,現象全体に納得のゆく説明は与えていな

い。しかし生体の石灰化は無機溶液からの結

晶とは異なり,タンパク質性の触媒と制御因子

の作用に注目する必要がある O また compart-

mentの存在が,石灰化の開始には重要であ

る。タンパク質その他の制御因子を組み合せ

た,より生体に近いモデ、ル実験系の構築が今後

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別刷請求先・ (干 060)札幌市北区北13条西7丁目

北海道大学歯学部生化学教室久保木芳徳

Reprint requests to : Dr. Yoshinori Kuboki

Department of Biochemistry, Schoo¥ of

Dentistry, Hokkaido University,

North 13, West 7, Kita-ku,

Sapporo 060, Japan