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2016/12/1 1 社会統合政策と言語政策 2016年12月1日 国際交流基金日本語国際センター所長 西原 鈴子 概要 (1)社会統合政策を必要とする社会的要因 (2)言語計画から言語政策へ (3)具体的な施策と実施計画 (4)海外日本語教育の意義

社会統合政策と言語政策 - nkg.or.jp教育政策立案者 教育実践者 何をする? 政策立案→決定 言語計画 言語規範策定 教育言語決定 実践計画策定

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社会統合政策と言語政策

2016年12月1日

国際交流基金日本語国際センター所長

西原 鈴子

概要

(1)社会統合政策を必要とする社会的要因

(2)言語計画から言語政策へ

(3)具体的な施策と実施計画

(4)海外日本語教育の意義

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要点

•少子高齢化する日本社会において、生産年齢人口を確保するためには、

海外から人材を求めることが喫緊の課題となる。

•高度人材の日本定着を奨励するためには、将来を見据えた社会統合政策が求められる。労働法規、社会保障等と共に、言語計画・言語政策も重要である。

•日本の言語政策は、従来日本語を整えることを中心に展開してきたが、言語少数派を内包する社会においては、視点を切り替えることが求められる。

•海外の日本語教育は、総合的見地から意味づけされる。

日本の人口ピラミッドの変化

(出所) 総務省「国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」(各年10月1日現在人口)

2025年 2060年

75歳~ 597( 5%)

65~74歳 892( 7%)

総人口 1億2,361万人

総人口 1億2,066万人

65~74歳 1,128(13%)

20~64歳 4,105(47%)

~19歳 1,104(13%)

総人口 8,674万人

75

65

0 50 100 150 200 250 万人

75歳~ 2,336(27%)

20~64歳 7,590(61%)

~19歳 3,249(26%)

20

0 50 100 150 200

~19歳 1,849(15%)

75歳~ 2,179(18%)

65~74歳 1,479(12%)

20~64歳 6,559(54%)

○団塊の世代が全て75歳となる2025年には、75歳以上が全人口の18%となる。 ○2060年には、人口は8,674万人にまで減少するが、一方で、65歳以上は全人口の約40%となる。

1990年(実績) 2013年(実績)

65~74歳 1,630(13%)

75歳~ 1,560(12%)

総人口 1億2,730万人

~19歳 2,244(18%)

20~64歳 7,296(57%)

250 0 50 100 150 200 250 万人 万人

団塊世代 (1947~49年

生まれ)

団塊ジュニア世代 (1971~74年

生まれ)

50 100 150 200 250 万人 3

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年齢区分別人口の推移

合計特殊出生率の推移

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人口減少に対応した経済社会のあり方 (日本経済団体連合会 2008)

中長期的な経済社会の活力維持に向けた方策

成長力の強化 未来世代の育成 人材の活用・確保

人口減少の影響は時間の経過とともに深刻度が増大

若者世代人口が海外流出 人口減少が加速

人口減少が経済社会に及ぼす影響

経済成長 財政・年金制度 経済社会システム

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必要な人材の活用・確保 (1)女性の社会進出等の促進 潜在的な労働力(女性・若年・高齢者等)の顕在化

(2)国際的な人材獲得競争と日本型外国人材受入れ政策の検討:全世界的な人

材獲得競争激化の中で、わが国も定住化を前提として外国人材の積極的受

け入れのための法整備、並びに、担当府省の明確化等政府の体制整備が

待ったなしの課題 ・高度人材の積極的受け入れ

・将来の高度人材となる留学生の受け入れ拡大と就職支援

・一定の資格・技能を有する人材の受け入れ(従来の枠組みの見直し)

(3)受け入れた外国人材の定着の促進 ・地域・政府・企業の連携による社会統合政策の促進 : 日本語教育強化、社会保障制度の 改善適用、就労環境

整備、法的地位の安定化、各種行政サービスの向上、不法就労への対策強化

・中長期的な受け入れ規模→国民的なコンセンサス形成に向けた議論が不可欠

言語政策/計画の展開 Spolsky & Shohamy (2000)

領域 政治 社会言語学 言語教育学

誰が行動する?

圧力/利益団体 政治組織 行政

言語計画研究者 民族リーダー

教育指導者 教育政策立案者 教育実践者

何をする? 政策立案→決定 言語計画 言語規範策定

教育言語決定 実践計画策定

誰のために? 民族社会(多数派・ 少数派)

言語社会とその成員 教師・学習者

なぜ? 均衡の保持・変革 圧力に対応 イデオロギー発信

帰属意識の保持・変革 経済的ニーズの充足 イデオロギー発信

教育目的

どんな状況で? 政治・社会・経済 多数言語の存在 教育制度

効果は? 社会統合 言語保持/変化

学術的成果 社会統合

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国レベルの言語選択

•Lingua Franca(域内共通語)

世界的に見れば:英語?

日本国内では:日本語?

•国内共通語(公用語)が選択される要因

母語話者数とEthnolinguistic Vitality

政治・経済・社会・文化の歴史的展開

言語インフラの整備状況(メデイア・教育・

情報流通・出版など)

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公用語制定の社会的状況

(1)当該の国や地域に複数の言語を母語とするグループが 混在する。 (2)それぞれのグループの構成人数や政治経済的パワーが 拮抗している。 (3)何らかの政治的決定がなされないと混乱が生じる。

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日本における公用語制定の意味(1) ・現在のところは日本語(共通語)の母語話者が圧倒的多数 ・近未来にある特定の言語の母語話者が急増する可能性は低い。 ・一方、少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少が予測される。 ・「外国人材受入れ」をめぐる議論が表面化しつつある。 ・21世紀の半ばまでには急速に社会の多文化化、多言語化が進む ことが予測される。

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日本における公用語制定の意味(2)

・現在まで、日本語(共通語)を国内に通用する唯一の言語であるとの「常識」が共有され、「公用語」決定の必然性は認識されずに今日に至っている。

・しかし、複数の言語母語話者が共存する社会が実現するようになれば、情報流通の徹底、相互の意思疎通の正確さを保証するなどの目的に合致する、Lingua Franca としての日本語の公用語化が必然的に視野に入ってくる。

・言語の選択をめぐる民族的アイデンティティーやイデオロギーの葛藤が社会問題として先鋭化する前に議論する必要がある。

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体制整備 ⇒ 国・都道府県・市町村の役割分担

主体 役割分担の内容

国 日本語教育の目標及び標準的な内容・方法,体制整備の在り方,評価の方法等についての指針策定,地域の日本語学習環境整備に対する支援…

都道府県 域内の実情に応じた日本語教育の体制整備,内容等の検討・調整…

市町村 日本語教育の内容等の具体化,地域における指導者の養成…

文化審議会国語分科会日本語教育小委員会報告(平成21年1月27日)

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「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的と目標

外国人が日本語で意思疎通を図り生活できるようになること

①日本語を使って,健康かつ安全に生活を送る

ことができるようにすること

②日本語を使って,自立した生活を送ることが

できるようにすること

③日本語を使って相互理解を図り,社会の一員として

生活を送ることができるようにすること

④日本語を使って,文化的な生活を送ることが

できるようにすること

目的

目標

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○ 健康・安全に暮らす

・ 健康を保つ

・ 安全を守る

○ 住居を確保・維持する

・ 住居を確保する

・ 住環境を整える

○ 消費活動を行う

・ 物品購入・サービスを利用する

・ お金を管理する

○ 目的地に移動する

・ 公共交通機関を利用する

・ 自力で移動する

○ 人とかかわる

・ 他者との関係を円滑にする

○ 社会の一員となる

・ 地域・社会のルール・マナーを守る

・ 地域社会に参加する

○ 自身を豊かにすることができる

・ 余暇を楽しむ

○ 情報を収集・発信する

・ 通信する

・ マスメディアを利用する

標準的なカリキュラム案で扱う生活上の行為の事例

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日本語非母語話者に対する日本語教育強化の観点

・実施の理念

統合?同化?

・担当省庁・機関

・学習の権利?義務?

・学習者:成人と子供

・ナショナル・カリキュラム

・言語力評価と滞在許可の関係

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海外日本語教育の意義 • JSLとJFL

Japanese as a Second Language

日本国内における、生活、就労、就学等のための日本語教育

Japanese as a Foreign Language

海外の日本語環境に制限がある状況での日本語教育

英語国を除いて、日本語は第二外国語としての位置づけ

学習目標は総合的に意味づけられている。

日本語が学習言語に選択されるかどうかは複数の要因に

よって決まる。

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外国語学習の目的:初等中等教育

外国語の学習・習得は、それ自体が目的というだけで なく、手段としても位置付けられている。 (オーストラリア教育省)

★外国語学習によって子ども達の認知的発達、および 社会的発達(知的、教育的、文化的な成長)が期待 できる。 ★外国語学習は、文化を越えたコミュニケーションと理解 によってコミュニティに存在する多文化リソースをより 高めることができる。

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外国語学習の目的:成人

三つの原則(Council of Europe) ★多様な言語と文化の豊かさは価値のある共通 資源であり保護され、発展させるべきものである。 ★異なる母語を話す人々の間のコミュニケーション は、相互理解と協力を促し、偏見と差別をなくす。 ★現代語の学習と教育によって、国家間の政策の 協調、協働が進展するように図ることができる。

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外国語学習の目的:新しい展開

Key Competency(OECD)

現代および将来の課題解決に必要な広い範囲の コンピテンシー

★相互作用的に道具(言語・ シンボル ・テクスト・ 知識 ・情報

技術)を用いる。

★自律的に活動する。

・大きな展望・文脈の中で行動する。

・人生計画や個人的プロジェクトを設計し、実行する。 ・自らの権利、利益、限界、ニーズを守り、主張する。

★異質な集団で交流する。

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外国語学習から得られる能力

言語運用能力

•言語知識

•社会文化知識

• コミュニケーション力

異文化適応能力

•違いを知る

•違いを調整する

•新しい価値観を得る

自己管理能力

•自分の学習ストラテジーを知る

• メタ認知能力

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参考文献 金箱秀俊 2010 「移民統合における言語教育の役割ードイツの事例を中心に」 『レファレンス』

2010年12月号 51-76

国立社会保障・人口問題研究所HP http://www.ipss.go.jp

ドミニク・S・ライチェン & ローラ・H・サルガニク(編著)(立田慶裕監訳)2006 『キー・コンピテンシー 国際標準の学力を目指して』明石書店

日本経済団体連合会 2008 「人口減少に対応した経済社会のあり方」http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/073.pdf

文化審議会国語分科会日本語教育小委員会 2010 「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的カリキュラム案」

Spolsky,B & Shohamy, E. 2000 language practice, language ideology, and language policy. In Lambert & Shohamy (eds.) Language Policy and Pedagogy. John Benjamins 1-41

Ministerial Council on Education, Employment, Training and Youth Affairs 2005 National Statement for Language Education in Australian Schools. Trim, J., North, B., Coste. D. 2001 Common European Framework of Reference for Languages: learning. teaching, assessment. 吉島茂他(訳編) 2004 『外国語の学習、教授、評価のためのヨ ーロッパ共通参照枠』 朝日出版社

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