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産業組織論(企業経済論)
第14回
井上智弘
2010/7/14 1産業組織論 第14回
注意事項
講義の資料は,授業終了後にホームページにアップしている.
http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html
2010/7/14 産業組織論 第14回 2
前回の復習
自然独占に対する価格規制
限界費用価格規制
» 死荷重がゼロになるが,企業は赤字になり,独立採算制を維持できない.
平均費用価格規制
» 死荷重はゼロにはならないが小さくなり,企業は赤字にならないため,独立採算制を維持できる.
2010/7/14 産業組織論 第14回 3
前回の復習
現実に採用されてきた価格規制方式として,総括原価方式による公正報酬率規制がある.
» 平均費用価格規制の考え方に基づく.
» 総括原価
=営業費用+減価償却費+公正報酬率×事業資産
» 需要予測に基づいて,総収入=総括原価となるような価格水準を政府が認可する価格規制方式
2010/7/14 産業組織論 第14回 4
前回の復習
2010/7/14 産業組織論 第14回 5
公正報酬率規制の問題
» アバーチ・ジョンソン効果
公正報酬率>資本の機会費用のとき,企業の事業資産保有を過剰にしてしまう.
» X非効率性
参入規制で競争を排除することに加えて,営業費用が増えても企業の利潤には影響しないため,企業に営業費用を削減するインセンティブをもたせられない.
» 動態的非効率性
企業は技術革新をしなくても利益を得られるため,技術革新をするインセンティブが弱められ,長期的には生産性の成長率が低くなる.
前回の復習
企業に対して,費用削減や技術革新のインセンティブを与えるような規制方法として,インセンティブ規制が行われるようになってきた.
» プライス・キャップ規制(上限価格規制)
» ヤードスティック規制
» 競争入札制
2010/7/14 産業組織論 第14回 6
前回の復習
プライス・キャップ規制
» 価格の上昇率に上限(キャップ)を設け,上限を超えない限り,企業が自由に価格を設定できるとする規制.
» 経営努力や技術革新によって生産性が上昇すれば,その分だけ企業の利潤が増えるため,企業に費用削減のインセンティブを与える.
» 問題点:
上昇率の上限(小売物価指数上昇率-X)の適切な設定が困難
ラチェット効果
2010/7/14 産業組織論 第14回 7
前回の復習
ヤードスティック規制
» 同業他社の料金や費用,サービスの質などを基準尺度とする.
» 費用削減努力が足りない企業に対しては,価格を低くするというペナルティを与えることで,被規制企業間での費用削減競争を促す.
» 問題点:
地域間での有利・不利
被規制企業間での共謀
2010/7/14 産業組織論 第14回 8
前回の復習
競争入札制
» 競争入札を実施し,入札に応じた企業の中で最も低い供給価格を提示した企業に一定期間の独占営業権を与える.
» 落札企業が費用引き下げに成功すれば利益を得ることができるため,費用引き下げへのインセンティブが働く.
» 問題点:
費用削減を品質の低下によって実現する可能性がある
談合
2010/7/14 産業組織論 第14回 9
本日の内容
コンテスタブルな市場
独占的競争
2010/7/14 産業組織論 第14回 10
コンテスタブルな市場
参入障壁が高く,他企業の参入可能性が全くない場合,独占企業は MR = MC となるように生産量を選択し,それに応じた価格を設定する.
反対に,参入障壁がなく,潜在的な企業の参入圧力が非常に強い場合,独占企業はどのような価格を設定するのか?
→ コンテスタブル市場理論
2010/7/14 産業組織論 第14回 11
コンテスタブルな市場
コンテスタブルな市場
» 潜在的参入企業が既存企業と同等の競争力をもち,参入・退出が非常に容易であるような市場.
» 完全にコンテスタブルな市場では,参入障壁は存在しない.
2010/7/14 産業組織論 第14回 12
コンテスタブルな市場
完全にコンテスタブルな市場の条件
① 既存企業は潜在的参入企業に比べて優位性をもたない.
どちらも同じ生産技術をもち,同じ需要に直面する.
② 新規参入企業が既存企業よりも低い価格を提示する場合,消費者はすべて新規参入企業の顧客となる.
消費者は,既存企業か新規参入企業かに関係なく,価格が低い方の財を購入する.
③ 参入にともなうサンク・コストが存在しない.
価格が平均費用を下回ったら,すぐに退出することができる.
2010/7/14 産業組織論 第14回 13
コンテスタブルな市場
価格>平均費用で,既存企業に利潤が発生していれば,新規参入企業が既存企業よりもわずかに低い価格を提示することで,すべての顧客を奪う.
独占企業である既存企業がそのまま独占的に財を販売できる価格は,平均費用と等しい価格のみである.
完全にコンテスタブルな市場では,独占企業であっても利潤を獲得できない.
2010/7/14 産業組織論 第14回 14
コンテスタブルな市場
15QA
PA
MR D
MC
AC
死荷重
P
QO QM
PM
完全にコンテスタブルな市場での自然独占
平均費用価格規制と同じ結果になる.
コンテスタブルな市場
16Q*
P*
MR D
MC = AC
P
QO QM
PM
完全にコンテスタブルな市場で,MCが一定で MC = AC の場合
完全競争市場の価格水準と一致し,死荷重はゼロになる.
コンテスタブルな市場
完全にコンテスタブルな市場は現実にはないが,競争政策を考える上で非常に重要である.
参入を妨げる要因を取り除くことで価格が低下し,死荷重,X非効率性,動態的非効率性の問題を改善することが可能である.
コンテスタブル市場理論は参入規制の緩和や参入障壁の撤廃に理論的根拠を与えた.
2010/7/14 産業組織論 第14回 17
独占的競争
企業が多数存在しても,それぞれの企業が価格に対して影響力をもつ場合がある.
製品差別化が行われている場合には,財・サービスの価格はそれぞれの企業の間で異なる.
» 同じ種類の財ではあるが,消費者がそれらを異なる財と認識するとき,製品差別化が行われているという.
自動車,家電,洋服,...
» その製品を好む消費者には比較的高い価格を設定できるようになり,低価格企業に顧客をすべて奪われるということはない.
18
独占的競争
製品差別化された市場に多数の企業が存在し,参入・退出が自由である市場を独占的競争市場と呼ぶ.
» 製品差別化のために,他企業よりも高い価格を設定しても,すべての需要を失うということはない.
» 利潤を最大化する生産量は,MR = MC となる水準で決定される.
2010/7/14 産業組織論 第14回 19
独占的競争
ただし,独占的競争市場では参入が自由なため,価格が平均費用よりも高く,正の利潤が発生していると参入が起こる.
参入によって,既存企業は顧客の一部を新規参入企業に奪われる.
→ 需要曲線の左シフト
2010/7/14 産業組織論 第14回 20
独占的競争
正の利潤が存在する限り参入が起こるので,長期の均衡では,需要曲線と平均費用曲線が接する水準まで需要曲線が左にシフトする.
価格と平均費用が等しくなり,利潤はゼロとなる.
ただし,各企業は,限界収入と限界費用が等しくなる生産量を選択している.
2010/7/14 産業組織論 第14回 21
利潤
独占的競争(短期の市場均衡)
2010/7/14 産業組織論 第14回 22
MR
D
AC
MC
QSMC
PSMC
P
QO
独占的競争(長期の市場均衡)
2010/7/14 産業組織論 第14回 23
MRD
AC
QLMC
PLMC
P
QO
MC
独占的競争
価格>限界費用であるため,既存企業の生産量は完全競争の場合と比べて過小になる.
各企業の生産量は平均費用を最小にする生産量よりも少ない(生産の効率性が達成されない).
しかし,各企業は製品差別化を行っているため,参入企業が増えるほど,財の多様性が拡大する.
2010/7/14 産業組織論 第14回 24
まとめ コンテスタブルな市場
» 潜在的参入企業が既存企業と同等の競争力をもち,参入・退出が非常に容易であるような市場では,独占企業であっても利潤を獲得することはできない.
独占的競争市場
» 製品差別化が行われる市場では,MR = MCによって生産量が決定されるが,参入・退出が起こる長期には,各企業は利潤を獲得することができない.
» 各企業の生産量は過小になり,生産の効率性は達成されない.
252010/7/14 産業組織論 第14回
秋学期の講義について
寡占市場におけるさまざまな競争について説明する.
微分だけでなく,偏微分を使った分析を行う.
ゲーム理論を使った分析を行う.
2010/7/14 産業組織論 第14回 26
定期試験について
テスト範囲は春学期の講義内容
» ただし,平方完成や微分の方法などを問うような問題は出さない.
問題は,穴埋めと計算問題.
2010/7/14 産業組織論 第14回 27