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社 会系 教科教育 学会『社会系教科教育学研究』 第2号1990 (pp.81-86) 内田義彦氏の経済認識のモデルを組み込んだ社会科教科内容の研究 A Study of the Content Ill Social Studies Through t he Modeling- of the Economic Cognition Proposed b y Y oshihiko Uchida (宮崎県日之影町立鹿川中学校教諭) I。序 社会科の授業では,子どもに科学的な社会認識を形 成させる必要がある。科学的な社会認識形成において 重 要 な こ と は ,子 ど も に形 成 さ せ る社 会 認 識 の 内容 を 構造化して設定しておくことである。その際以下の2 点が問題となる。 1.認識内容が科学的であるかということ。 2 .子 ど も の認 識 内容 の構 造 化 に つ な が っ て い る か ということ。 について解明する。 <研究仮説> 内田義彦氏の経済認識をモデルという形で構造化し て,意図的に社会科の教科内容に組み込むならば,よ り科学的な社会認識形成を図ることができる。 < 研 究 方 法> (1) モデルについての研究成果を整理し,教科内容を モデルという形で構造化することの必要性を明らか に す る。 こ れまで社会科 にお いて も認識 内容 の構 造化 の重要 (2) 内田氏の経済認識の重要性を明らかにし,モデル 性が指摘 され構造化 が図 られて きた。構造化論 の代表 化す る。 例と して ,山口康助氏 の構造図 による教材 構造化論及 (3) モデルを分析 フレ ームワークとして ,教科書を分 び アメリカの新社 会科におけ る構造化論を 挙げるこ と 析し ,考察 す る。 ができるOl) 山口氏は,指導内容を核一幹一枝一葉と (4) モデルを意図的に組み込んだ教材を構想する。 いう形で構造化している。例えば小学校第6学年「北 アメ リ カ の 大 陸 」 で は ,認 識 内容 が以 下 の よ う な 形 で 構造化されている。 核 ~ 資 源 の豊 か な北 ア メ リ カ の 国 々 ,幹 ~北 ア メ リ カ大陸の地理的特性(他に5項目),枝~温帯 にある 合 衆国 (他 に3項 目 ,葉 ~ 南 部 の平 野 (他 に2 項 目八 また, アメリカの新社会科を代表するボルト・デー タ バ ン グ ーシ ス テ ム で は ,認 識 内 容 を 構成 概 念- 一 般 原 理 一 低 次 の一 般 原 理 一 概 念 と い う形 で 構 造 化 して い る。例えば小学校第3学年「地上のどこに」では,認 識内容が以下のような形で構造化されている。 構 成 概 念 ~ 都 市 立 地 ,一 般 原 理 ~ 都 市 はあ る地 域 の 端に発達する(他に3項目),低次の一般原理~都市 は川 の 端 に発 達 す る ( 他iこ3 項 目), 概 念 ~ 川 の端 ’3 山 口氏 にお い て は事 実 の体系 が示 さ れて い るだ け で , 構 造化 と はいえ ない 。 ボ ルト は概 念 ・ 命題 の体 系 に よ っ て , 構 造 化 の一 つ の 方 法 を 示 し て い る。 そ れ ら に対 し て本稿では,教科内容の構造をモデルで示すことによっ て科学化を試みる。本稿で取り上げるモデルは,社会 認識 の中核をなす経済認識である。以下,研究目的, 研 究 仮 説 及 び 研究 方 法 につ い て 述 べ る <研究目的> 本研究では,モデル論と内田義彦氏の経済認識を解 明し,科学的な社会認識形成をめざす社会科教科内容 II 科学的な社会認識形成をめざす社会科教科内容の 構造化 上記の研究方法にしたがって,以下の論を展開する。 1.モデルによる教科内容の構造化 (1) モデ ル理論 マ ッ ク ス・ ヴ ェ ーバ ー が最 初 に 「 理 念 型 」 と い う形 で示して以来,社会科学のあらゆる分野において認識 の手段としてモデルが使われている。 このモデルという概念について,これまでにさまざ まな定義や説明がなされてきている2) 各研究者のモデルについての考え方を もとに,モデ ルを 定 義 す る と ,以 下 の よ う に な る。 モデルとは,事象を認識するために,事象(及 びその事象を説明する理論)に内在する要素間の 関係(特に因果関係)を構造的に明示した図式で ある。 また,モデルの う。になる。 - 81 - について整理すると,以下のよ a。概念支柱…中心的機能(事象を説明する道具 <=手段>の働きをする。) b .反証可能性(モデルは絶えずよりよいモデルに 作り変えられる。) c .ガ イド の 役 割 ( 情 報 収 集 の方 向 性を 与 え る。 )

内田義彦氏の経済認識のモデルを組み込んだ社会科教科内容の研究repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/10922/1/AN... · 社会科の授業では,子どもに科学的な社会認識を形

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  • 社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第2号1990 (pp.81-86)

    内田義彦氏の経済認識のモデルを組み込んだ社会科教科内容の研究

    A Study of the Content Ill Social Studies Through t he Modeling- of the Economic Cognition

    Proposed b y Y oshihiko Uchida

    猪  野    滋

    (宮崎県日之影町立鹿川中学校教諭)

    I。序

    社会科の授業では,子どもに科学的な社会認識を形

    成させる必要がある。科学的な社会認識形成において

    重要なことは,子どもに形成させる社会認識の内容を

    構造化して設定しておくことである。その際以下の2

    点が問題となる。

    1.認識内容が科学的であるかということ。

    2.子どもの認識内容 の構造化につながっているか

    ということ。

    について解明する。

    <研究仮説>

    内田義彦氏の経済認識をモデルという形で構造化し

    て,意図的に社会科の教科内容に組み込むならば,よ

    り科学的な社会認識形成を図ることができる。

    <研究方法>

    (1) モデルについての研究成果を整理し,教科内容を

    モデルという形で構造化することの必要性を明らか

    にする。

    これまで社会科においても認識内容の構造化の重要  (2) 内田氏の経済認識の重要性を明らかにし,モデル

    性が指摘され構造化が図られてきた。構造化論の代表   化する。

    例として,山口康助氏の構造図による教材構造化論及  (3) モデルを分析フレームワークとして,教科書を分

    びアメリカの新社会科における構造化論を挙げること   析し,考察する。

    ができるOl)山口氏は,指導内容を核一幹一枝一葉と  (4) モデルを意図的に組み込んだ教材を構想する。

    いう形で構造化している。例えば小学校第6学年「北

    アメリカの大陸」では,認識内容が以下のような形で

    構造化されている。

    核~資源の豊かな北アメリカの国々,幹~北 アメリ

    カ大陸の地理的特性(他に5項目),枝~温帯 にある

    合衆国(他に3項目,葉~南部の平野(他に2項目八

    また, アメリカの新社会科を代表するボルト・デー

    タバング ーシステムでは,認識内容を構成概念-一般

    原理一低次の一般原理一概念という形で構造化してい

    る。例えば小学校第3学年「地上のどこに」では,認

    識内容が以下のような形で構造化されている。

    構成概念~都市立地,一般原理~都市はある地域の

    端に発達する(他に3項目),低次の一般原理~都市

    は川の端に発達する(他iこ3項目),概念~川 の端 ’3)

    山口氏においては事実の体系が示されているだけで,

    構造化とはいえない。ボルトは概念・命題の体系によっ

    て,構造化の一つの方法を示している。それらに対し

    て本稿では,教科内容の構造をモデルで示すことによっ

    て科学化を試みる。本稿で取り上げるモデルは,社会

    認識 の中核をなす経済認識である。以下,研究目的,

    研究仮説及び研究方法について述べるO

    <研究目的>

    本研究では,モデル論と内田義彦氏の経済認識を解

    明し,科学的な社会認識形成をめざす社会科教科内容

    II 科学的な社会認識形成をめざす社会科教科内容の

    構造化               ・

    上記の研究方法にしたがって,以下の論を展開する。

    1.モデルによる教科内容の構造化

    (1) モデル理論

    マックス・ヴェーバーが最初に「理念型」という形

    で示して以来,社会科学のあらゆる分野において認識

    の手段としてモデルが使われている。

    このモデルという概念について,これまでにさまざ

    まな定義や説明がなされてきている2)

    各研究者のモデルについての考え方を もとに,モデ

    ルを定義すると,以下のようになる。

    モデルとは,事象を認識するために,事象(及

    びその事象を説明する理論)に内在する要素間の

    関係(特に因果関係)を構造的に明示した図式で

    ある。

    また,モデルの

    う。になる。

    - 81 -

    について整理すると,以下のよ

    a。概念支柱…中心的機能(事象を説明する道具

    <=手段>の働きをする。)

    b .反証可能性(モデルは絶えずよりよいモデルに

    作り変えられる。)

    c.ガイドの役割(情報収集の方向性を与える。)

  • d.未来予測

    e.架け橋(経験の世界と理論の世界をつなぐ架け

    橋となる。)

    (2) 科学的な社会認識形成におけるモデル

    内田義彦は科学的な社会認識が自分のものとして育っ

    ていくことの必要性を説いている。内田氏の考える社

    会認識形成過程をモデル化すると図1のようになる。

    ぐコー一 参加( 賭け 〉

    らえる

    社会科学の休系1

    ひ○ 一 睚亘 亟貰瓦延固 ぐ]一 槻念装置

    抽象化・ 概念化 け 学岡的な「正確さ」)| ○ 一 参加( 賭け )

    粤i=1妛翡への亦te i 夕り の r摎ajtl

    図1 内田義彦氏の社会認識形成過程

    この図からわかるように,内田氏 は社会を科学的に

    認識するには,認識の道具として自前の「 概念装置」

    を創造する過程が必要であると説いている。氏 のいう

    「概念装置」 とは,(1)で定義したモデルと同義である。

    したがって,社会認識形成において自前のモデルの創

    造が必要である。

    (3) モデルによる教科内容の構造化

    社会科 は科学的な社会認識の形成を意図的に行う教

    科である。この社会科 の目的と(1X2)から,社会科の教

    科内容について整理すると以下のようになる。

    社会科の授業では,科学的に社会を認識する道

    具としての自前のモデルを子どもに意図的に形成

    させることが必要である。そして,そのためには,

    意図的に形成させるモデルを教科内容として示し

    ておく必要がある。

    すなわち,科学的な社会認識形成を意図的に行う社

    会科においては,教科内容をモデルという形で構造化

    して示すことが必要である。

    2.内田義彦氏の経済認識のモデル化

    (1) 内田義彦氏の経済認識をモデル化する理由

    1で明らかにしたように,科学的な社会認識形成を

    めざす社会科においては/モデルという形で教科内容

    を構造化することが必要である。

    その際,モデル化する内容は科学的な内容であるこ

    とが必要条件である。 1の(2)で示したように,モデル

    化する内容を選択する際,すぐれた社会科学者が認識

    の道具として作りあげた理論・学説を意図的にモデル

    という形で構造化して示しておくことが,自前のモデ

    ルを子どもに意図的に形成させる上で重要である。

    日本を代表する社会科学者の一人として内田義彦氏

    を挙げることができる。内田氏はスミス,マルクスな

    どの理論をもとに,経済学的に社会を認識する基本的

    な枠組みを明らかにしている。したがって,氏の経済

    認識をモデルという形で構造化して ,意図的に社会科

    の教科内容に組み込むことは,科学的な社会認識形成

    において重要であると考える。

    (2) 内田氏の経済認識のモデル化のプロセス

    内田氏の著作を分析し,内田氏の経済認識のうち,

    社会を人間と自然との物質代謝過程として捉える認識

    を抽出した。

    内田氏は人間と自然との物質代謝過程が資本主義社

    会ではどのようになっているのかを明らかにしている。

    その前提として生物一般における物質代謝過程,人間

    本来の物質代謝過程,私有財産制社会の物質代謝過程

    を明らかにしている。私有財産制社会の物質代謝過程

    について,内田氏は次のように述ぺている。

    「私有財産制度とは,一般に一つまり資本主義で

    あってもなくても一生きた他人の労働の成果がなん

    らかの形で私有財産の所有者の手にわたり,そのー

    部が蓄積される。そして,その過去の他人 の蓄積さ

    れた労働が,私有財産として他人に対立し,再びな

    んらかの形で現在の,生きた他人 の労働を吸収する

    制度である。」7)

    そして,私有財産制社会の一形態である資本主義社

    会における物質代謝過程は,上の引用で示したような

    共通の面以外に,以下に引用するような独自な面があ

    ると述べている。

    「いったい資本主義社会の基礎は,直接生産者た

    る賃労働者が,商品たる労働力(そして労働力 のみ

    の)所有者であるということだ。かれは二重の意味

    において自由である。すなわち,一方でかれは,労

    働力を自分のものとして(直接に他人にしばられる

    ことなく)自由に処分しうるという意味で ,同時に

    また地方 ,生産手段から解放され,生産物たる商品

    ではなく,他ならぬ彼自身=労働力を商品として,

    生産手段の所有者に売りわたさねばならぬという意

    味において。」8)

    「プラス・アルファのカー特定の人間,つまり地

    主が特定の相手方に対して,持つ直接に人格的な引

    力が,世の中からなくなると,世の中のすべて,五

    百円は五百円で,貨幣に固有の引力しか働かなくな

    る。お金と商品,つきつめていいますと,商品と商

    品との関係を通じてしか,人間相互間の引力は働か

    ない。人間間に働く人格的な力がなくなって人間と

    がひき離されているから,『商品の力』にしたがっ

    て人間と人間とが結合されるので ,この場合に初め

    て商品の論理が,貫徹してきたということがいえる

    わけです。」9)

    以上の引用や註6)で示した文献をもとにして,資

    82 -

  • 本主義社会における人間と自然との物質代謝過程を

    整理し,命題の形で示すと図2のようになる。

    資本主義社会においては資木家の目的定立のもとに商品が生産さ

    れる.資木家は生産手段と労働者との契約によって手に入れた労

    働力を使って、商品を生産する.生産された商品は、すべて資木

    家のものとなる.商品は労働者の消費ファンド・と生産手段に分制

    され.その残りが利澗となる.

    1 .資木主義社会においては.すべてのものが商品 となっている.

    2.人岡は商品の所布者として自山な主 休である.同時に人間と人間

    との圜に人格的な力がなくなり、貨幣(・=契約 )にしたがって、大

    間と人同が結合している.

    3.労働者は完 全に生産手 段を失って、自分自身が労働力商品となっ

    ている.そして 、生産遇程において、労働老は 商品として、生産手

    段を覬っている資木家のものになる.

    4.生産は、資木家の目的のもとに行われる.

    5 .資木家は生産手段を所有している.また 、契約に基づ き、労働者

    から労働力を手に入れる.そして、資木家は労働力と生 産手段を使

    って 、商品を生産する.

    6 .生産は、基木的には分藁十協業という形で行われ る.

    7 、生産された商品はすべて責 木家のものであ る.そして、生産され

    た商品 の一部は 、労働者によって消費され、晧の一部は生産手 段に

    転化される.その残りが利澗( =剰余価値 )となる.

    8.利澗( =剰余価暁 )は分割され、一 部は資木家によって消責され

    他の一部は、労働力を闡入する資金と生産手段に転化される.

    図2 資本主義社会における人間と自然との物質代

    謝過程

    (3) 内田氏の経済認識のモデル化

    (2)で命題の形で示した内圧1氏の経済認識をモデル化

    すると図3のようになるO

    Ji 莇の所在蓋二J 一 生産過程 消費過程

    図3 資本主義社会における人間と自然との物質代謝

    過程モデル

    3.教科書の分析

    前節で,科学的な社会認識形成において,内田氏の

    経済認識をモデル化して示すことの有効性が高いこと

    を述べ,内田氏の経済認識の中の資本主義社会におけ

    る物質代謝過程をモデル化した。

    ところで,子どもに認識させる内容を具体的に示し

    ている教材や資料の中で,最も重要なものが教科書で

    あるOしたがって,本節では,モデル(図3)が教科

    書記述に組み込まれているのか,組み込まれていると

    すればどのような形で記述されているのかを明らかに

    する。

    (1) 分析対象・分析方法

    分析対象・分析方法は以下の通りである。

    分析対象 昭和52 年版小学校学習指導要領社会 ,中

    学校学習指導要領社会,高等学校学習指導

    要領社会に準拠したA社の教科書lO)

    分析方法  モデルを分析フレームワークとして ,教

    科書記述の中からモデルが示す内容が1つ

    でも組み込まれている箇所を 厂見出し」単

    位で抽出する。

    (2) 分析結果

    分析した結果,モデルを組み込んだ記述は87箇所あっ

    た。 87の教科書記述に示されるモデルの程度,モデル

    を組み込んだ記述の表現形式,モデルを組み込んだ記

    述に示されるモデルの内容を表にすると表1のように

    なる。

    表1 モデルを組み込んだ教科書記述の特徴

    内容の程度 襪現形式 内容を示す番号

    学年 1 2卜 4 56- 合lt女 盍・ 合計 1 2 3 4 5 6 7 8 合lt 学年

    小2 6 6 6・-5

    6 3 2 1 6小2

    小3 6 6 1 6 3 3●-

    6小3

    小4 4 4 4 4 4 4小4

    小5 10 3 1 2 1 1717

    ●・甲帰

    17 H 卜 3 8 6 1 52 小5

    小6 5 1 4 4 2 1 1 2 6小6

    中地 8 3 1 11 13 13 13 6 2 1 2 7 1 2 21 中哈

    中屋 3 2 1 6 4 2 6 2 2 2 1 4 1 12 中歴

    中公 5 4 9 2 5 2 9 2 1 2 3 2 2 1 1ろ中公

    高現 1 2 1 1 5 14

    四 φ・ ●

    5 1 2 2 1 4 3 1 14 鬲現

    高日 1 1 1 1 1 1 1 3 高日

    高世 2 1 3 2 1 3 1 3 4鬲皀

    高地 5 1 1 7 61

    4m ●

    7 l 7 2 10 高地

    高洽 1 l 1 l 1 1 1 1 11

    - か ●●

    7 鬲鴿

    高経 2 2 1 5 5 5 1 2 2 1 3 9 高経

    合計 55 18 リ 2 2 87 65 18 4 87 38 10 15 10 48 14 9 3 14? 合幻[註](1)「内容の程度」とは、図2で示したモデルの内容かどの程厦刧み込まれ(1)「内容の程度」とは、図2で示したモデルの内容かどの程厦刧み込まれ

    ているかを示している.

    (2)r 表現形式亅 における女は具体例で示された紀述、Åは1由象的な表現に

    よる紀述、e は具体例と抽象的な表現かセッtにな7た記述を示している.

    (3)「内容を示す番号」とは、図2で示したモデルの内容の番号である.

    また,小学校第3学年,第5学年,中学校地理的分

    野,高等学校地理の教科書において,モデルが最も組

    み込まれている記述箇所を図に示すと図4~7のよう

    になる。

    [yy 万叉元7ている人 十ニミEi ‾]

    冱 妃 直立煮二1一 生産過程   一一 づ紲 過程

    図4 小学校第3学年の記述に組み込まれたモデル

    -83 -

  • 動市会 展開していては,モデル(図3)を子どもに形成させ

    るのは困難である’ことが明らかとなった。したがって,

    ここでは 匚アメリカ合衆国の農業」の学習を例にして,

    モデル(図3)を意図的に組み込んだ教材を提案する。

    (1) 従来の「アメリカ合衆国の農業」の学習

    従来の「アメリカ合衆国の農業」を扱った学習にお

    いて,生徒に形成させる社会認識の内容はどのように

    なっているのだろうか。これまでの授業の目標,指導

    展開などから認識内容を整理すると,以下のようにな

    11)る。

    1.農業生産の特色~大規模経営 ,機械化 ,広い耕

    地,生産力の高さ

    2.農業地域の特色~適地・適作

    3.食糧貿易の特色~穀物における輸出力の高さ

    これらの内容は,アメリカ合衆国の農業についての

    現象面での認識内容である。つまり,従来の学習は,

    アメリカ合衆国の農業について社会事象として現れて

    いる内容を認識させるレベルに留まっている。したがっ

    て,従来の学習において,科学的な社会認識の形成が

    なされているとはいい難い。

    (2) 科学的な社会認識形成をめざす「アメリカ合衆

    国の農業」の学習

    「アメリカ合衆国の農業」の学習において,以下に

    示すような形で認識内容を構造化することにより,科

    学的な社会認識の形成を図ることができると考える。

    ア。概念的知識(本質的目標・教科内容)

    E色貼匪剴b  一 生産遇程

    図5 小学校第5学年の記述に組み込まれたモデル

    ・あるアメリカ合衆圃資木の果物余社

    ( 目的定立 )|○

    10万人の

    労働者

    バナナ圍を巾心とする

    25万haの農園

    -C; 〉 農産物

    r商贔り所剋b  一 生産過程   一 棚費過程

    図6 中学地理的分野の記述に組み込まれたモデル

    しに 曁 じ ょ ご 豐 け 二 ご 二竺

    -d剄屁2互豈童コ ー 生産過程   -・-一一消翼遇程

    図7 高等学校地理の記述に組み込まれたモデル

    (3) 考察

    表1,図4~7を考察した結果 ,次のことが明らか

    となった。

    1.全学年にモデルを組み込んだ記述が見られる。

    しかしながら,学年によってモデルが組み込まれ

    ている記述の数に格差がある。また,完全な形で

    モデルを組み込んでいる学年が一つもない。

    2.八つの内容を示すモデルであるにもかかわらず,

    モデルを組み込んだ教科書記述の半分以上が一つ

    の内容を組み込んだ形でしか記述されていない。

    また,87の記述のうち,具体例と抽象的表現がセッ

    トになった記述がわずか4箇所しかない。さらに,

    教科書記述に組み込まれているモデルの内容にも,

    かなりばらつきが見られる。

    3.小学校第3学年,第5学年,中学校地理的分野,

    高等学校地理の教科書に組み込まれているモデル

    の程度を比べてみると,学年が上がるにつれてモ

    デルで示される内容の程度が深まる形では,記述

    されていない。

    これらの結果から,教科書は意図的にモデルを組み

    込んで記述されているとはいえないと判断できる。す

    なわち,教科書に記述される内容が先にあって,その

    中に結果としてモデルの一部が組み込まれていると考

    えられる。

    4.モデルの教材化

    資本主義社会ではモデル(図3)で示すような

    しくみで,人間が自然に働きかけて,生産活動を

    行っている。その結果,社会的生産力が高度に発

    展している。

    イ。説明的知識(学習目標・学習内容)

    アメリカ合衆国は,農業の生産力が高度に発展

    し,世界的な農業生産国となっている。それは豊

    かな自然条件,70年代までの世界食糧市場におけ

    る輸出の拡大を背景にして,アメリカ合衆国が資

    本主義的な農業を行っているからである。

    説明的知識をモデル化すると図8のようになる。

    ぐ3 ベニ 1.豐かな自然条作2. 70 年代までの世界食橿巾 場におけ る抽出の 阯大

    3 。徹底した 市場原理

    4 .少数の 大朋模経営農場への生産の集巾化5 .特定の 農産物生産への経 営の特化

    農産物の 地域分 化の 進展6 .農業関連産葉( 農業に閧する分業休制〉の発達

    農業に関連 する伎術革新の進展

    教科書分析の結果,完全に教科書に頼る形で学習を  図8 アメリカ合衆国における農業生産力発展モデル

    - 84 -

  • ウ。概念的知識と説明的知識の関連

    アメリカ合衆国における農業生産力の発展の要因と

    なった資本主義的な農業の具体的な内容に当たる部分

    が,下位の説明的知識3~7である。この3~7の社

    会事象を説明する本質的な内容が,概念的知識におけ

    るモデル(図3)である。下位の説明的知識3~7を

    モデル(図3)に組み込むと図9のようになる。

    「耐品£?慝亘煮。  一 生産過程  - 一一消穴過程

    図9 説明的知識に組み込まれたモデル

    エ。授業過程

    上記のモデル(図9)を組み込んだ中学校地理的分

    野での「アメリカ合衆国の農業」(4時間配当) の学

    習における授業過程を問いの形で示すと図10 のように

    なる。なお,以下に示す手順で授業過程を設計した。

    ①図9を指標として,説明的知識を構成する分析的知

    識・記述的知識を整理し,説明的知識を構造化した。

    ②発達段階を考慮して,図8の下位の説明的知識1,

    4, 5, 6 を修得させることを目標としたO③説明的

    知識の構造をもとにして,下位の説明的知識1, 4,

    5,6を習得する上で必要な知識を抽出した。④抽出

    した知識を問いの形に直し,探究形式で授業過程を設

    計した。

    Ⅲ 結

    本研究の成果として,以下のことが明らかとなった。

    1.科学的な社会認識形成においては,モデルとい

    う形で教科内容を構造することが必要である。

    2.内田義彦氏の経済認識をモデルという形で構造

    化して ,意図的に社会科の教科内容に組み込むこ

    とは,科学的な社会認識形成において重要である。

    3.内田義彦氏の資本主義社会における人間と自然

    との物質代謝過程(=氏の資本主義社会の捉え方)

    を整理すると,図3のようにモデル化することが

    できる。

    4.完全に教科書に頼る形で学習を展開していては,

    モデル(図3)を子どもに形成させるのは困難で

    ある。

    5.モデル(図3)を意図的に組み込んだ 厂アメリ

    カ合衆国の農業」の学習は,図8 ~10(次ページ)

    のように教材化することができる。

    [註及び引用文献]

    1)ここに示した構造化論の他に,広岡亮蔵氏や大野

    連太郎氏などの構造化論がある。

    2)山口康助編著 ,『社会科指導内容の構造化』,新

    光閣書店,昭和38年, p.189.

    3 )森分孝治,「現代アメリカ社会科カリキュラム研

    究 の示唆するもの」,『社会科教育学研究第 2集』

    明治図書, 1976, p.63.

    4 )例えば中村秀吉,「モデルと理論構成」,『思想』

    No.467. 1963. 5, p. 131, ディヴィット・ハーヴェ

    イ著,松本正美訳,『地理学基礎論一地理学におけ

    る説明』 ,古今 書院, 1979, p.163, 高根正 昭,

    『創造の方法学』,講談社現代新書,昭和54 年,p.

    44. 池田央,『行動科学の方法』,東京大学出版会,

    1971, p.293.

    5 )内田義彦,『社会認識の歩み』,岩波新書, 1971,

    同著,『読書と社会科学』,岩波新書, 1985, 同著 ,

    厂社会科学の視座」,『思想J Na535, 1969.1, 参

    照 。

    6)内田義彦,『内田義彦著作集第一巻』,岩波書店,

    1988, 同著,『内田義彦著作集第二巻』,岩波書店 ,

    1989, 同著,「内田義彦著作集第四巻」,岩波書店 ,

    1988, 同著,『内田義彦著作集第五巻』,岩波書店 ,

    1988, 同著,『内田義彦著作集第八巻』,岩波書店 ,

    1989, 同著,「資本論 の世界」 ,岩波新書, 1966.

    を分析して抽出した。

    7)内田義彦著,『資本論の世界』,岩波新書, 1966,

    p.62.

    8) Ibid., p.180.

    9 )内田義彦,『内田義彦著作集第一巻』,岩波書店 ,

    1988, pp.44 ―45.

    10)現時点で手にはいる最新の教科書を使った。した

    がって中学校の教科書は,平成2年度に使用される

    見本を使った。

    11)佐藤照雄他編,『中学校新教育課程実践指導事例

    集社会1年』,第一法規,昭和56年, pp.118 ―120,

    山鹿誠次編著,『先習世界地理の指導』,東京書籍,

    昭和55年, pp.193-201, 篠原昭雄編著 ,『中学校

    観点別評価シリーズ社会科地理的分野 の達成度評

    価』,明治図書, 1983, pp.87 ―93. を分析した。

    85 -

  • 【 導 入段 附 】

    【問 題 把鬨 段附 】

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    【 予 想・ 仮説 設定 段 附 】

    【 検 証 段附 】

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    リ カ 合 衆 国 は ど の く ら い の 面 積 が あ り ま す か.          

    リ カ 合 衆 国 の 【11 土 の う ち

    、ど の 程 度 農 業 用 に 利 用 さ れ て い ま す か

    .ヨ

    の 中 で ア メ リ カ 合 衆 ■ の 耕 地 は 阿 番 目 に 広 い の で す か.     

    の こ と か ら ど う い う こ と が わ か り ま し た か

    .           

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    !域ではどんな艮産物が生産されていますか.     1|の生産はどの農葉地域に集中していますか      1!域では農産物の生産はどのように変化していますか.i

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    ど の よ う な こ と が わ か り ま し た か.            

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    翫 酳 留 逢訌 汗 蒔 蒔 筏' ¨………………………'………………' |゙

    どんな機械が使われていましたか.                 1コンバインやトラクターはどれくらい甘及しているでしょう.    iコンバインやトラクターの性能はどれくらい良くなったのでしょうか.ヨ

    機械の甘及と生産の増大とはどんな関連がありますか.       1

    以上のことからどういうことがわかりましたか.           |

    1                 0                1

    1 日l 技 術面 で は 匱 絨 化以 外 に 農 産物 が 大 量に 生 産で きる 弭!因 は あ り ませ ん |i  か .日 本 で はお 米 の 生 産 高 を上 げ る ため に 、 戳賊 化以 外 に 何 か 行 って い ミ

    |  ま せ んで し た か .                            |;                り               ヨ

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    III

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    【まとめ・応用段階

    呀 徊 司 戴 坪 蒔 肪 圧 ¨`¨¨ ¨ ¨… …… …… …… …… ………|

    麦 生 産 農 場 に は ど ん な 、色 が あ り ま し た か .            ミ

    牛 生 産 農 場 に は ど ん な

    色 が あ り ま し た か .

    デ オ で 見 た よ う な 大 規 模 な 農 場 は ア メ リ カ 合 衆 国 の 農 場 の う ち ど れ l

    い あ り ま す か .                           l

    規 模  場 は 生 産 額 の ど れ く ら い を 占 め て い ま す か .         i

    業 所fl だ け で 生 計 を ま か な え る 農 場 は ど の 規 襖 の 農 場 で す か .   ;

    規 模 農 場 は 、 農 地 全 休 の ど れ く ら い の 農 地 を 所 有 し て い ま す か .  |

    規 模 農 場 で は 、 ― 農 場 当 た り 平 均 何 人 労i 者 を 雇 っ て い ま す か .  i

    場 敵 の 変 遷 か ら ど う い う こ と が わ か り ま す か .           i

    地 は ど の 規 侠 の 農 家 に 集 中 す る 傾 向 に あ り ま す か .         |

    上 の こ と か ら ど う い うこ と が わ か り ま し た か .           ヨ

    ●-●……-- … … …… …… ……….....….........一.......…… …… … ………....…… …........;

    EI] 学習

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    E I 今 後 ア メ リ カ 合 衆 国の

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    は ど う な

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    ン の 小 麦 の 生 産

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    ル の 大 豆 の 生 産 が 増 え て い る の だ ろ う か

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    図10 問いの形で示した授業過程

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