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内科疾患におけるDVT予防
東京ベイ浦安市川医療センター作成:総合内科 小島 俊輔監修:総合内科 江原 淳
分野:循環器テーマ:予防
2016年10月10日
用語・略語の確認
• VTE: Venousthromboembolism静脈血栓塞栓症
• DVT: DeepVeinThrombosis 深部静脈血栓症
• PE: PulmonaryEmbolism 肺塞栓症
• UFH:unfrac<onatedheparin 未分画ヘパリン
• LMWH:Low-molecular-weightheparin低分子ヘパリン
• IPC:IntermiFentPneuma<cCompression間欠的空気圧迫法
はじめに
• VTE=DVTとPEを合わせた総称• 米国では年間90万にもおよぶ。• VTEの存在は死亡率にも大きく寄与。
ArteriosclerThrombVascBiol.2008Mar;28(3):370-2. • 以前は日本国内では少ないといわれていたが、
腹部手術、人工股関節手術等の手術後の発症頻度は米国とほぼ同様であった。
JThrombHarmost2006;4;581-6
日本におけるPEの発症頻度
• 3,492人/年間→28人/100万人(1)
• 7,864人/年間 →62人/100万人(2)
• 16,096人/年間 →127人/100万人(3)(1)1996年 JpnCIrcJ63:439-441,1999
(2)2006年 Therapeu<creserch29:639-640(3)2013年 「平成25年 PE/DVTの全国調査研究 厚生労働科 総括・分担研究報告書 p163-169
→米国と比較して少ない数値ではあるが、 報告されている発症率は増加傾向。
ある日の内科当直・・・
ERから2件続けて入院依頼あり
ある日の内科当直・・・
症例①「65歳男性 市中肺炎の入院依頼です。 一週間前からの発熱と体動困難。バイタルは・・・。」症例②「85歳女性 尿路感染症です。数日前からの発熱、背部痛で搬送となりました・・・」
症例①【現病歴】ASOの既往のある65歳男性が、来院一週間前からの咳嗽、発熱、数日前から体動困難となり救急要請。【来院時現症】Generalsick意識E4V5M6 BP100/65mmHg HR90/min・整 SpO280%(室内気) 呼吸数24回/分 体温38.5℃右胸部背側に打診濁音+、crackle+両側下肢の足背動脈、膝窩動脈の触知弱いレントゲンにて右下肺野に浸潤影あり →市中肺炎として一般床にて治療開始。
症例②【現病歴】特記すべき既往のないADL自立した80歳女性が、来院数日前からの発熱、頻尿、左背部痛と認め救急要請。【来院時現症】意識レベルクリア BP156/85mmHg HR70/min・整SpO298%(室内気) 呼吸数16回/分 体温37.7℃左背側(肋骨脊椎角部)の叩打痛+血液初見: WBC18,000/μL(左方移動+)以外正常範囲尿検査:pH7.5,白血球>100/HPF,細菌3+ →左腎盂腎炎として一般症にて治療開始。
研修医:両方とも落ち着いているし、Sourcecontrolもできているな。まずは抗菌薬投与で経過を見よう!指導医:そうだね。メインプロブレムはそれで良さそうだね。DVT予防に関しては、今回の症例ではどう考える?研修医:あ、、、考えてもなかった。うーん。。
ClinicalQues<ons①DVT予防に抗凝固は必要か?②各ガイドラインはどうなっているか?③そもそも誰に必要なのか?④どのような方法で予防するのか?⑤どのくらいの期間続けるか
ClinicalQues<ons①DVT予防に抗凝固は必要か?②各ガイドラインはどうなっているか?③そもそも誰に必要なのか?④どのような方法で予防するのか?⑤どのくらいの期間続けるか
①DVT予防に抗凝固は必要か?
内科患者におけるシステマティックレビュー
1) CochraneDatabaseofsystema<cReview20092) CochraneDatabaseofsystema<cReview2014
13文献のmeta-analysis内科系患者のVTE予防のためのヘパリン投与P:心不全・呼吸不全・癌・感染症・感染などでの入院患者I:UFHorLMWHC:PlaceboResults⇒DVT/PEは有意に減少 ⇒死亡率に有意差なし ⇒有意に出血は増加
16文献のmeta-analysis (2009年のupdate版) 内科系患者のVTE予防のためのヘパリン投与P:心不全・呼吸不全・癌・感染症・感染などI:UFHorLMWHC:Placebo
Results ⇒有意にDVTは減少 ⇒PEについての有意差は分からない ⇒死亡率に有意差なし ⇒有意に出血は増加
抗凝固療法のメリット・デメリット
VTEは減少 出血のリスクは有意に増加
抗凝固のメリットはありそうだが、出血リスクあり。 ⇒これらを考慮したバランスが大事!
ClinicalQues<ons①DVT予防に抗凝固は必要か?②各ガイドラインはどうなっているか?③そもそも誰に必要なのか?④どのような方法で予防するのか?⑤どのくらいの期間続けるか
各ガイドラインはどうなっているか?
ACP:TheAmericanCollegeofPhysiciansACCP:AmericanCollegeofChestPhysicians
日本循環器学会
ACPガイドライン2011Strokeを除く内科患者(N:20,717人)におけるVTE予防I:抗凝固(ヘパリン)投与群C:抗凝固(ヘパリン)非投与群Results:・ 死亡率に有意差なし (RR: 0.94(95%CI,0.4-1.04))・PE発症は有意に減少 (RR: 0.69(95%CI,0.52-0.90))・ 症候性DVTに有意差なし(RR: 0.78(95%CI,0.45-1.35))・ 出血リスクは有意に増加 (RR: 1.34(95%CI,1.08-1.66))(上記結果は、Stroke患者N:15,405名でも同様の傾向であった)→ACPガイドラインの推奨・DVTの高リスク群は化学的DVT予防が第一選択。・ 出血リスクが高い時は理学的予防(IPC)を考慮。 (弾性ストッキングは推奨しない)
AnnInternMed.2011;155:625-632
ACCP ガイドライン2012
内科疾患におけるVTE予防・DVTリスク高い場合 ⇒UFHorLMWHを推奨・DVTリスクが低い場合 ⇒予防は不要・DVTリスクは高いけど、出血リスクも高い場合 ⇒IPCや弾性ストッキングを用いる。(出血リスクが低くなったらUFHやLMWHへ変更)
CHEST2012;141(29(Suppl):e195S-e226S
・ACCPガイドラインに基づく推奨。・低〜高リスクに分類 ⇒「高リスク患者には未分化ヘパリンの使用」
「国内での予防エビデンスが乏しいこと、欧米人とのDVT発生頻度の違いなどあり、はっきりしたことは言えない」とのコメント。
抗凝固療法のメリット・デメリット
VTEは減少 出血のリスクは有意に増加
抗凝固のメリットはありそうだが、出血リスクあり。 ⇒これらを考慮したバランスが大事!
研修医:抗凝固のメリットとデメリットをしっかり考えることが大事なんですね!でもそのリスクってどうやってわかるんでしょう。さっきの2人の入院患者さんは どうしよう。。
ClinicalQues<ons①DVT予防に抗凝固は必要か?②各ガイドラインはどうなっているか?③そもそも誰に必要なのか?④どのような方法で予防するのか?⑤どのくらいの期間続けるか
③そもそも誰に必要なのか?
まずはVTEのリスク評価をしよう!
血栓リスク VS 出血リスク
血栓リスク
対象:内科入院症例 2208名複数の因子からリスクの層別化⇒90日以内のVTE発症率を比較
PaduaPredic<onScore
・4点以上で高リスク・90日間以内のDVT発症率低リスク群では0.3%、高リスク群では11%まで上昇する。 JThrombHaemost2010:8:2450-7
点数で層別化低リスク:0〜3点高リスク:4点以上 VTE発症率 (90日以内) 低リスク:0.3% 高リスク :11%
PaduaPredic<onScore>4点︎
VTEの高リスク!
次に出血リスク評価
内科系患者のVTE予防出血のリスクについて検討
入院中の内科患者での出血リスク
出血の高リスクとは 「Oddsra<o>3 が一つ以上」or「上記のいずれかが2つ以上」
Chest2012;141:e195S-226S
研修医:各患者さんで、血栓リスクと出血リスクの評価をした上で抗凝固するかどうかを検討するということですね!流れで書くと、次のような感じですね!
内科患者のVTE予防
血栓リスク評価PaduaScore
4点以下
4点以上
出血のリスク評価
予防は不要
High
Low
理学的予防
化学的予防
出血のリスク再評価
ガイドラインには明確なカットオフ基準なし
ちなみに他の疾患では
• 担癌患者でのVTE予防について VTEリスクスコアとして、KhoranaScore1)VTEリスクは4.1倍入院すると0.6-7.8%で発症2) 化学療法中では6.5倍に2)
1)NEJM2014;370:2515-92)ClinOncol2007;25:5490-5505
• 外科患者 NICEguidlineでは全例にMechanical予防 1つ以上のVTEリスクがあればLMWH推奨
BMJ2007:334:1053-5
ClinicalQues<ons①DVT予防に抗凝固は必要か?②各ガイドラインはどうなっているか?③そもそも誰に必要なのか?④どのような方法で予防するのか?⑤どのくらいの期間続けるか
④どのような方法で予防するのか?
化学的予防 ・抗凝固薬(未分化ヘパリンや低分子ヘパリン)理学的予防 ・弾性ストッキング ・IntermiFentPneuma<cCompression(IPC)
抗凝固薬(未分化ヘパリンや低分子ヘパリン)
DVT予防に適応のある抗凝固薬
IntensivistよりUFH:unfrac<onatedheparin未分画ヘパリンLMWH:Low-molecular-weightheparin:低分子ヘパリン
内科の適応はUFHだけ!
弾性ストッキングについて
弾性ストッキング
・下肢を圧迫し、血管系を含めた下肢の横断面積を減少 ⇒下肢全体の動静脈の血流の速度up ⇒うっ滞による血栓形成の予防 ArchSurg1973;106:38-43BrJTheatreNurs1999;9;290-1
・圧:足首18mmHg,ふくらはぎ14mmHg程度が適切BrJSurg1980;67:119-21⇒ゆるゆるストッキングはDVT予防にはならない。
DVT予防に有効か
・外科、整形外科術後ではDVTは減少 (notPE)2010年のChochraneメタアナリシス
CochraneDatabaseSystRev2010
CLOTtrial1:Acutestrokeで体動困難な2518名大腿部までの弾性ストVSControl⇒PrimaryOutcome:近位部DVT,死亡率に有意差なし
DVT予防に有効か
・皮膚傷害は有意に高めてしまう。・内科系患者では有効性は分からない。
IntermiFentPneuma<cCompression(IPC)
動的に下肢の静脈系を圧迫⇒血液を近位へ移動させ、 下肢を動かしているときと同じ状態に。⇒プラスタグランジン産生、PDGF,EDRFの低下で 線溶系の亢進が起こりDVTを予防。
ArteriosclerThrombVascBiol1999;19:2812-7JTissueViability2002;12:58-60,62-6
・脳梗塞後の患者ではIPC装着でDVT有意に低下。 CLOTS3Lancet2013,382:516-24
化学的DVT予防 と 理学的DVT予防の併用は?
• 整形外科術後、心臓外科術後の患者においては、抗凝固に弾性スト/IPCを併用したほうがDVT発症率が有意に低い。
JBoneJointSurgBr2004;86:809-12Chest1996;109:82-5
• 内科患者では分からない。
ClinicalQues<ons①DVT予防に抗凝固は必要か?②各ガイドラインはどうなっているか?③そもそも誰に必要なのか?④どのような方法で予防するのか?⑤どのくらいの期間続けるか
どれくらいの期間投与するか?
・整形外科のmajorSurgery後の抗凝固療法の期間を比較した8つのRCTのMetaanalysis⇒出血リスクは増加するが、血栓リスクは低下するので可能なら21日の投与が望ましい。 AnnInternMed2012;156:720-727
・内科に関しての期間に関する論文はなかった
症例で考えてみる
研修医:フローに沿ってさっきの症例を考えてみよう!① 65歳男性 肺炎で入院② 85歳女性 尿路感染症にて入院の症例だな。。リスクを計算して、、、
内科患者のVTE予防
血栓リスク評価PaduaScore
4点以下
4点以上
出血のリスク評価
予防は不要
High
Low
理学的予防
化学的予防
出血のリスク再評価
ガイドラインには明確なカットオフ基準なし
症例①
ASOの既往のある65歳男性が、来院一週間前からの咳嗽、発熱、体動困難となり救急要請。各種検査から市中肺炎にて一般床入院。入院後車椅子移乗も困難で安静度はベッド上1) 血栓リスク:体動困難、呼吸不全、感染あり5点2) 出血リスク:リスクは「男性」のみで、低リスク→DVT予防の適応あり。・ASO既往あり、理学的予防(ICP等)は使いにくい・出血リスクも低く、化学的予防(UFH)を選択
症例②
特記すべき既往のないADL自立した80歳女性が、来院数日前からの発熱、頻尿、左背部痛と認め救急要請。各種検査から尿路感染症として治療開始。入院後もトイレ歩行可能。1) 血栓リスク:年齢と感染の2項目で、低リスク →DVT予防の適応なし
まとめ
• 内科系患者でもVTEのリスク評価を行い、リスクが高い場合予防を検討する
①血栓リスクが高ければ化学的予防 ②出血リスクが高ければIPCを使用
• 化学的予防はPEを減らすが、出血リスクは増える死亡率低下は示されていない
• 国内での内科領域でのDVT予防のエビデンスはまだ十分でなく、今後の報告が待たれる