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柏戸病院 JUL./2012 ―76ー 糖尿病と上手にお付き合いするために インスリンの相棒、グルカゴン 血糖をコントロールしているのはインスリン。実はグル カゴンと言う相棒がいるのです。 1.インスリンの働き~高血糖にはさせません! 血糖とは血液の中のブドウ糖のことで、全身の筋肉や 脂肪組織の細胞に取り込まれてエネルギー源として利 用されます。その時、細胞の入口を開いてくれるのがイ ンスリンです。 インスリンはすい臓の、膵島(ランゲル ハンス島)という組織のベータ細胞 と呼ばれる細胞で 作られています。食べ物が、腸から吸収されると、門脈 と呼ばれる太い静脈に集まって肝臓に運ばれます。こ の時すい臓から分泌されたインスリンも門脈に入り、一 に肝臓に流れていきます。そこで、まずブドウ糖を肝臓 に蓄え、さらに残りのブドウ糖とともに血液によって全 身に流れていって、骨格筋や脂肪組織で糖を取り込む ために働きます。すぐに使われないブドウ糖は、インス リンによって肝臓や筋肉、脂肪細胞にグリコーゲンや脂 肪となって蓄えられます。(グリコーゲンはブドウ糖がい くつもつながって出来ています、すぐに使わないお金を、 通常預金で銀行に預けるようなものです。脂肪は定期 預金のようなもの、と言えます。) こうして、正常の人では食事の後も糖は速やかに処理 され、血糖はほとんど上がらず、安定しています。 4.グルカゴンの働き~低血糖にはさせません! グルカゴンは膵島にあるアルファ細胞 から分泌されて いるホルモンです。インスリンと反対に、血糖を上げる 働きがあります。夜間など長く食事を取らず空腹になり インスリンの分泌が減ると、アルファ細胞はそれを感じ てグルカゴンを分泌します。グルカゴンは肝臓で蓄えら れていたグリコーゲンを分解したり、ブドウ糖を新しく作 ったりして(糖新生)少しずつ血中に流し、大事なエネル ギー源であるブドウ糖が不足しないように調節します。 グルカゴンが働き過ぎて高血糖にならないように、少量 のインスリンが分泌されていて(基礎分泌)きっちりコン トロールしています。 また、食事をして血糖値が 上がるとインスリンがどっと 分泌されますが、その時グ ルカゴンの分泌は減少し、 肝臓は糖新生やグリコーゲ ンを分解するのをやめ、 血糖の上昇を抑えます。グルカゴンはインスリンの優秀 なアシスタントですが、一方で、やりすぎないようインス リンは常に目を光らせています。 4.糖尿病とインスリン、グルカゴン インスリンの作用不足で血糖がうまく利用できないのが 糖尿病です。それではグルカゴンはどうなのでしょう? インスリンの抑えがきかなくなりと、血糖が高いにもか かわらずグルカゴンは分泌され続け、さらに高血糖に 拍車をかけます。逆に低血糖になってインスリン分泌が 減少した場合、アルファ細胞はそれをうまく感じ取ること ができず、グルカゴンを素早く分泌することができませ ん。つまり、血糖を上げるシステムがうまく働かず、低 血糖症状が重症化したり長く続いたりするのです。 5.グルカゴンをコントロールする薬 グルカゴンが糖尿病の方の血糖コント ロールを悪化させているなら、それを抑 える薬がほしいですね。 最近発売され、広く使われるようになっ たインクレチン関連薬(DPP4 阻害薬:ジャヌビア、エク ア、ネシーナ、トラゼンタなど、GLPI 作動薬:ビクトーザ、 バイエッタ)はインスリン分泌促進だけでなく、高血糖時 のグルカゴン分泌を抑える働きがあり、血糖のより良い コントロールに貢献します。 内科 柳澤、 徳山 スタッフ紹介 今年も糖尿病療養指導士(CDE-J)が 誕生しました! 理学療法士の臼田です。 運動療法を通し、皆様のお役にた てるよう頑張りますので、よろしく お願い致します。 糖尿病通信

糖尿病通信...ア、ネシーナ、トラゼンタなど、GLPI作動薬:ビクトーザ、 バイエッタ)はインスリン分泌促進だけでなく、高血糖時 のグルカゴン分泌を抑える働きがあり、血糖のより良い

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柏戸病院 JUL./2012

―76ー

糖尿病と上手にお付き合いするために

インスリンの相棒、グルカゴン

血糖をコントロールしているのはインスリン。実はグル

カゴンと言う相棒がいるのです。

1.インスリンの働き~高血糖にはさせません!

血糖とは血液の中のブドウ糖のことで、全身の筋肉や

脂肪組織の細胞に取り込まれてエネルギー源として利

用されます。その時、細胞の入口を開いてくれるのがイ

ンスリンです。 インスリンはすい臓の、膵島(ランゲル

ハンス島)という組織のベータ細胞と呼ばれる細胞で

作られています。食べ物が、腸から吸収されると、門脈

と呼ばれる太い静脈に集まって肝臓に運ばれます。こ

の時すい臓から分泌されたインスリンも門脈に入り、一

に肝臓に流れていきます。そこで、まずブドウ糖を肝臓

に蓄え、さらに残りのブドウ糖とともに血液によって全

身に流れていって、骨格筋や脂肪組織で糖を取り込む

ために働きます。すぐに使われないブドウ糖は、インス

リンによって肝臓や筋肉、脂肪細胞にグリコーゲンや脂

肪となって蓄えられます。(グリコーゲンはブドウ糖がい

くつもつながって出来ています、すぐに使わないお金を、

通常預金で銀行に預けるようなものです。脂肪は定期

預金のようなもの、と言えます。)

こうして、正常の人では食事の後も糖は速やかに処理

され、血糖はほとんど上がらず、安定しています。

4.グルカゴンの働き~低血糖にはさせません!

グルカゴンは膵島にあるアルファ細胞から分泌されて

いるホルモンです。インスリンと反対に、血糖を上げる

働きがあります。夜間など長く食事を取らず空腹になり

インスリンの分泌が減ると、アルファ細胞はそれを感じ

てグルカゴンを分泌します。グルカゴンは肝臓で蓄えら

れていたグリコーゲンを分解したり、ブドウ糖を新しく作

ったりして(糖新生)少しずつ血中に流し、大事なエネル

ギー源であるブドウ糖が不足しないように調節します。

グルカゴンが働き過ぎて高血糖にならないように、少量

のインスリンが分泌されていて(基礎分泌)きっちりコン

トロールしています。

また、食事をして血糖値が

上がるとインスリンがどっと

分泌されますが、その時グ

ルカゴンの分泌は減少し、

肝臓は糖新生やグリコーゲ

ンを分解するのをやめ、

血糖の上昇を抑えます。グルカゴンはインスリンの優秀

なアシスタントですが、一方で、やりすぎないようインス

リンは常に目を光らせています。

4.糖尿病とインスリン、グルカゴン

インスリンの作用不足で血糖がうまく利用できないのが

糖尿病です。それではグルカゴンはどうなのでしょう?

インスリンの抑えがきかなくなりと、血糖が高いにもか

かわらずグルカゴンは分泌され続け、さらに高血糖に

拍車をかけます。逆に低血糖になってインスリン分泌が

減少した場合、アルファ細胞はそれをうまく感じ取ること

ができず、グルカゴンを素早く分泌することができませ

ん。つまり、血糖を上げるシステムがうまく働かず、低

血糖症状が重症化したり長く続いたりするのです。

5.グルカゴンをコントロールする薬

グルカゴンが糖尿病の方の血糖コント

ロールを悪化させているなら、それを抑

える薬がほしいですね。

最近発売され、広く使われるようになっ

たインクレチン関連薬(DPP4 阻害薬:ジャヌビア、エク

ア、ネシーナ、トラゼンタなど、GLPI 作動薬:ビクトーザ、

バイエッタ)はインスリン分泌促進だけでなく、高血糖時

のグルカゴン分泌を抑える働きがあり、血糖のより良い

コントロールに貢献します。 内科 柳澤、 徳山

スタッフ紹介

今年も糖尿病療養指導士(CDE-J)が

誕生しました!

理学療法士の臼田です。

運動療法を通し、皆様のお役にた

てるよう頑張りますので、よろしく

お願い致します。

糖尿病通信

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