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2015 年度 中央大学理工学部都市環境学科修士論文発表会要旨集(2016 2 ) 神田川流域における豪雨時の河川及び下水道施設による 豪雨排水に関する研究 Study on water drainage of the river and sewerage facilities by heavy rainfalls in Kanda river basin 14N31000041H 宮崎 達文 Tatsufumi MIYAZAKI Key Words : urban river, flood flow, sewerage system, water drainage, observed water surface profiles 1. 序論 東京都の都市域を流下する神田川には,複数の支川 や複雑な下水道網から短時間に豪雨が集中し,都市型 水害の危険性が高まっている.神田川流域では,豪雨 災害対策として河道改修や洪水調節池の整備等の河道 整備と雨水貯留管の整備等の下水道整備が行われてき た.これらの河川と下水道施設は近接して存在してお り,豪雨対策としての流域の施設整備は,河川と下水 道で一体的に行うことが望ましい.しかし現状は,両 者の連携が必ずしも十分でないことや,下水道管内の 水流の直接観測が容易でないことから,豪雨時の雨水 の時空間的な移動実態が十分把握出来ていない.近年 の頻発する都市の豪雨災害に対応するためには,河川 と下水道による排水と洪水調節施設の調節量を一体的 に把握し,雨水の移動形態を明らかにすることが必要 である. 本論文では,神田川本川と善福寺川,妙正寺川,江 古田川の各支川を含んだ神田川流域を対象に,河道と 下水道を一体的に表現できる数値解析モデルを構築す る.これを用い,観測が困難な下水道幹線から河道へ の流入流量,河川及び下水道豪雨対策施設の調節量を 見積もり,神田川流域における豪雨の移動・調節機構 を明らかにすることを目的とする. 2. 検討対象区間の概要 (1)対象区間における河川・下水道豪雨対策施設 図-1(右) に解析対象範囲を示す.この区間では,環状 七号線地下調節池( 以下,環七地下調節池) と,善福寺川 と妙正寺川,江古田川に 8 つの調節池が設置されている. 豪雨時,環七地下調節池は神田川・善福寺川・妙正寺 川の河道沿いに設けられた固定堰と,調節池内にある 可動堰のゲート操作により取水量を調節している.河 川を暗渠化した大規模下水道幹線である十二社幹線と 桃園川幹線から雨水が神田川本川に流入する.対象区 間下流で神田川は高田馬場分水路に分流し,妙正寺川 と合流後に再び本川と合流する.また,図-1(左) に示す ように,神田川と善福寺川の合流部付近の地下には, 巨大な地下雨水貯留管である下水道和田弥生幹線( 最大 貯留量約 15 m 3 ) が設置されている.図-1(左) の黒丸で 示す地点には,下水道和田弥生幹線へと繋がり,河道 に吐口を持つマンホールが設置されている.マンホー ル内部には,雨水を河川と地下貯留管に分ける分水堰 があり,マンホール内の水位が分水堰高を超えること で,地下貯留管へ流入する.図-2 に各マンホールの分 水堰高と河道内の下水道吐口( 以下,吐口) の高さを示す. 河床に対する吐口及び分水堰の高さはマンホールごと に異なり,豪雨時,各マンホールから貯留管への流入 流量は十分に把握出来ていない.本検討ではこれら神 田川流域の河川・下水道の豪雨対策施設の機能と相互 の連携について論じる. (2)対象洪水と観測体制 対象洪水は平成 25 10 15 16 日の台風 26 号洪水 とする.本洪水時には,約 3 時間にわたり神田川と善福 寺川の両取水口から環七地下調節池への取水と,妙正 寺川から上高田調節池への取水が行われた.また,和 田弥生幹線流域では,図-1(左) に示す全ての区域のマン ホール・管路が流域の雨水を集め,和田弥生幹線へ繋 がるマンホール( 神田川 21 個,善福寺川 9 ) のうち,-1(左) の黄色の枠で囲んだ5個のマンホール内で水位と 図-2 神田川の河道に面する下水道吐口及び分水堰の高さ 22 24 26 28 30 32 34 36 38 12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 15.0 15.5 吐口管底高 吐口管頂高 分水堰高 マンホール蓋高 最深河床高 河川天端高 善福寺川 神⽥川 吐⼝管頂⾼ 吐⼝管底⾼ 分⽔堰⾼ 河道 下⽔道管 マンホール蓋⾼ 【縦断図の凡例】 最深河床⾼ ⼀休橋 (6.1k) 和⽥⾒橋 南⼩滝橋 昭和橋 寿橋 桃園川幹線 ⼗⼆社幹線 神⽥川 善福寺川 曙橋 ⼾⽥平橋 ⽥島橋 ⽅南橋 末広橋 相⽣橋 氷川橋 天神橋 ⻄落合 上⾼⽥上 神善合流 定塚橋 武蔵野橋 ⽩⼭前橋 相⽣橋 (4.5k) 落合上 妙正川 妙正寺⼆上 千歳橋 (4.9k) 朝⽇橋 妙正寺川 番屋橋 (16.3k) 江古⽥憩い橋 (1.0k) 環状七号線 地下調節池 江古⽥川 :調節池 :⽔位観測所 :⽔位・流量観測所 :環七地下調節池取⽔⼝ 和⽥弥⽣幹線流域とマンホールの配置 水位観測地点⑨ 和田本町幹線 中野本町・弥生町幹線 南台幹線 南台西幹線 堀ノ内幹線 河川 河道における下水道の吐口 地下貯留管と接続する吐口 集水域界 ポンプ施設 マンホール内水位観測位置 枝線下水道 図-1 神田川流域対象区間と和田弥生幹線流域図

神田川流域における豪雨時の河川及び下水道施設に …c-faculty.chuo-u.ac.jp/~sfuku/sfuku/student/thesis/2016...2015 年度 中央大学理工学部都市環境学科修士論文発表会要旨集(2016

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2015 年度 中央大学理工学部都市環境学科修士論文発表会要旨集(2016 年 2 月)

神田川流域における豪雨時の河川及び下水道施設による 豪雨排水に関する研究

Study on water drainage of the river and sewerage facilities by heavy rainfalls in Kanda river basin

14N31000041H 宮崎 達文

Tatsufumi MIYAZAKI

Key Words : urban river, flood flow, sewerage system, water drainage, observed water surface profiles

1. 序論

東京都の都市域を流下する神田川には,複数の支川

や複雑な下水道網から短時間に豪雨が集中し,都市型

水害の危険性が高まっている.神田川流域では,豪雨

災害対策として河道改修や洪水調節池の整備等の河道

整備と雨水貯留管の整備等の下水道整備が行われてき

た.これらの河川と下水道施設は近接して存在してお

り,豪雨対策としての流域の施設整備は,河川と下水

道で一体的に行うことが望ましい.しかし現状は,両

者の連携が必ずしも十分でないことや,下水道管内の

水流の直接観測が容易でないことから,豪雨時の雨水

の時空間的な移動実態が十分把握出来ていない.近年

の頻発する都市の豪雨災害に対応するためには,河川

と下水道による排水と洪水調節施設の調節量を一体的

に把握し,雨水の移動形態を明らかにすることが必要

である.

本論文では,神田川本川と善福寺川,妙正寺川,江

古田川の各支川を含んだ神田川流域を対象に,河道と

下水道を一体的に表現できる数値解析モデルを構築す

る.これを用い,観測が困難な下水道幹線から河道へ

の流入流量,河川及び下水道豪雨対策施設の調節量を

見積もり,神田川流域における豪雨の移動・調節機構

を明らかにすることを目的とする.

2. 検討対象区間の概要

(1)対象区間における河川・下水道豪雨対策施設

図-1(右)に解析対象範囲を示す.この区間では,環状

七号線地下調節池(以下,環七地下調節池)と,善福寺川

と妙正寺川,江古田川に 8つの調節池が設置されている.

豪雨時,環七地下調節池は神田川・善福寺川・妙正寺

川の河道沿いに設けられた固定堰と,調節池内にある

可動堰のゲート操作により取水量を調節している.河

川を暗渠化した大規模下水道幹線である十二社幹線と

桃園川幹線から雨水が神田川本川に流入する.対象区

間下流で神田川は高田馬場分水路に分流し,妙正寺川

と合流後に再び本川と合流する.また,図-1(左)に示す

ように,神田川と善福寺川の合流部付近の地下には,

巨大な地下雨水貯留管である下水道和田弥生幹線(最大

貯留量約 15万 m3)が設置されている.図-1(左)の黒丸で

示す地点には,下水道和田弥生幹線へと繋がり,河道

に吐口を持つマンホールが設置されている.マンホー

ル内部には,雨水を河川と地下貯留管に分ける分水堰

があり,マンホール内の水位が分水堰高を超えること

で,地下貯留管へ流入する.図-2 に各マンホールの分

水堰高と河道内の下水道吐口(以下,吐口)の高さを示す.

河床に対する吐口及び分水堰の高さはマンホールごと

に異なり,豪雨時,各マンホールから貯留管への流入

流量は十分に把握出来ていない.本検討ではこれら神

田川流域の河川・下水道の豪雨対策施設の機能と相互

の連携について論じる.

(2)対象洪水と観測体制

対象洪水は平成 25年 10月 15~16日の台風 26号洪水

とする.本洪水時には,約 3時間にわたり神田川と善福

寺川の両取水口から環七地下調節池への取水と,妙正

寺川から上高田調節池への取水が行われた.また,和

田弥生幹線流域では,図-1(左)に示す全ての区域のマン

ホール・管路が流域の雨水を集め,和田弥生幹線へ繋

がるマンホール(神田川 21個,善福寺川 9個)のうち,図

-1(左)の黄色の枠で囲んだ5個のマンホール内で水位と

図-2 神田川の河道に面する下水道吐口及び分水堰の高さ

22

24

26

28

30

32

34

36

38

12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 15.0 15.5

吐口管底高 吐口管頂高

分水堰高 マンホール蓋高

最深河床高 河川天端高

善福寺川 ①⑱

②⑰③⑤④⑥

⑧⑦

⑨⑪㊵⑯⑲⑳

㊶⑮⑬⑭

神⽥川吐⼝管頂⾼吐⼝管底⾼

分⽔堰⾼ 河道

下⽔道管

マンホール蓋⾼【縦断図の凡例】

最深河床⾼

⼀休橋(6.1k)

和⽥⾒橋

南⼩滝橋

昭和橋

寿橋

桃園川幹線

⼗⼆社幹線

神⽥川

善福寺川

曙橋

⼾⽥平橋⽥島橋

⽅南橋

末広橋

相⽣橋氷川橋

天神橋

⻄落合上⾼⽥上

神善合流定塚橋

武蔵野橋⽩⼭前橋

相⽣橋(4.5k)

落合上

妙正川妙正寺⼆上

千歳橋(4.9k)

朝⽇橋

妙正寺川

番屋橋(16.3k)

江古⽥憩い橋(1.0k)

環状七号線地下調節池

江古⽥川

:調節池:⽔位観測所:⽔位・流量観測所:環七地下調節池取⽔⼝

和⽥弥⽣幹線流域とマンホールの配置

水位観測地点⑨㉚

㉕㉔

和田本町幹線中野本町・弥生町幹線南台幹線南台西幹線堀ノ内幹線河川

河道における下水道の吐口地下貯留管と接続する吐口集水域界ポンプ施設マンホール内水位観測位置枝線下水道

図-1 神田川流域対象区間と和田弥生幹線流域図

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2015 年度 中央大学理工学部都市環境学科修士論文発表会要旨集(2016 年 2 月)

流速の観測が行われた.河道では,図-1(右)に示すよう

に神田川流域全体で縦断的に密に水位観測が行われ,

神田川では環七地下調節池取水口上下流で,妙正寺川

では多点で流量観測が行われた.

3. 解析方法及び解析条件

(1)洪水流解析方法と境界条件

本検討では,観測水面形の時間変化を用いた非定常

平面二次元洪水流解析法を用いる.本解析の境界条件

には神田川の上流を番屋橋(16.3km),下流を一休橋

(6.1km),善福寺川の上流を相生橋(4.5km) ,妙正寺川上

流で千歳橋(4.9km),江古田川上流で江古田憩い橋(1.0km)

の水位観測値を用いた.下水道幹線等からの流出が中

小河川の流出・氾濫形態に大きく影響している 1).しか

し,豪雨時の下水道幹線内の流れは速く,水流の直接

観測が困難であることから,十二社幹線と桃園川幹線

から神田川への流入流量には,各吐口下流の本川観測

水位に解析水位が一致するように算定している.河川

沿いの各調節池の取水量は,調節池取水口付近の地形

を取り込み,河川と調節池を一体的に解くことで算定

した.

(2)和田弥生幹線への取水量推算の検討方法

図-3 に本検討で用いるモデルの模式図と計算式を示

す.貯留管和田弥生幹線への取水計算 2)には,洪水流解

析で求められる吐口前方の解析水位と流域の観測降雨

量を用いて行う.本検討では,下水道から河川への流

入出量を吐口前方の河道水位に考慮することで,河川

と下水道を一体的に計算し,各マンホールから貯留管

への取水量の算定をしている.河川とマンホール間の

管内流速 vs (マンホールから河道への流出の場合にはマ

イナスとなる)は,河川水位とマンホールの水位が,各

吐口の管頂高以上の場合には管路流れとしてベルヌー

イの式を用い,各吐口の管頂高より低い場合には開水

路流れとしてマニング式を用い算出し,流入出流量 Qs

は連続式により求めている.また,各マンホールの集

水域は東京都の下水道台帳 3)のデータに基づき設定し,

集水域内に降った雨量から求めた各マンホールの集水

流量 Qr は合理式により計算している.貯留管への流入

流量 Qoの計算には,マンホール内の水位に応じて,堰

の公式とオリフィス公式を用いている.マンホール内

の水位 Zmは,算出した各流量の総和をマンホールの底

面積で除することで算定する.

4. 解析結果

(1)河川洪水流と各洪水調節池の洪水調節量の算定

図-4(a),(b)に平成 25 年 10 月洪水上昇期の神田川上

中流域と善福寺川での水位観測値と解析水面形を示す.

環七地下調節池への取水による水位変化を適切に再現

するなど,粗度係数を縦断的に変化させる事で,解析

値は観測水面形を説明している.また,妙正寺川でも

同様に解析水面形が観測値を適切に再現している.図-5

に神田川本川の環七地下調節池取水口上下流の流量観

測値と解析流量ハイドログラフを示す.環七地下調節

池への取水開始前の時間から,取水口上下流の観測値 4)

に誤差が見られる.そのため,解析結果が観測値を細

部まで再現することは必要ないが,解析値は合流前後

の観測値の間に入っており,概ね再現出来ていると考

えられる.また,取水口下流の方南橋(15.4km)での解析

流量は取水時間内で大きく減少しており,環七地下調

節池(15.7km)による取水の効果が解析水面形によく表れ

ている.図-6 に神田川と善福寺川取水口から環七地下

調節池への流入量解析と観測の総貯留量を比較して示

す.解析総貯留量は,観測総貯留量の時間変化を見事

に再現している.本洪水では環七地下調節池の容量 54

万 m3 のうち,8 割にあたる量が地下貯留されており,

神田川取水口と善福寺川取水口からおよそ 3 : 2の割合で

図-4 平成25年10月洪水観測水位と解析水面形(上昇期)

(b) 善福寺川縦断図

2728293031323334353637383940

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

神⽥川合流

環状七号線地下調節池

標⾼(A.P.m)

距離(km)

0.0200.0270.0300.0350.018

朝⽇橋定塚橋

⽩⼭前橋

武蔵野橋

相⽣橋

マニングの粗度係数

1920212223242526272829303132333435

11.5 11.9 12.3 12.7 13.1 13.5 13.9 14.3 14.7 15.1 15.5 15.9 16.3 16.7

善福寺川

⼗⼆社幹線

環七地下調節池

標⾼(A.P.m)

距離(km)

0.0200.0230.0180.020 0.0160.028

寿橋 和⽥⾒橋神善合流

⽅南橋⽅南第⼀橋 番屋橋

氷川橋

相⽣橋

(a) 神田川上中流域縦断図

図-3 モデルの模式図と計算方法

河道

基準高マンホール

集水管

Zm Z1

Qo Qs

Qr

Z0

B

Asvs

L

d

h0

Ag

下水道管

)()( 6.3

1trrtr rfAQ

●分水マンホールの集水流量(合理式)

)()()( tststs AvQ ●河道からマンホールへの流入流量(連続式)

●マンホールから雨水貯留管への流出流量(堰公式、オリフィス公式)

)(23

)()( omtto ZZhBCQ   

)(2)( omA goto ZZdAghCQg

   

C(t): 流量係数B : 堰幅h’ : 越流水深Ag : 流出孔断面積ho : 流出孔中心から水面の高さZm : マンホール水位Z1 : 河道水位Z0 : 堰上限高

vs(t):下水道管内流速As(t):下水道管断面積

Ar :集水面積fr :流出係数(0.8)r(t)’ :到達時間内降雨強度

■マンホール内の⽔位

m

trtotstmttm A

tQQQZZ

)( )()()()()(

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2015 年度 中央大学理工学部都市環境学科修士論文発表会要旨集(2016 年 2 月)

流入があったことが解析結果から推算される.図-7 に

妙正寺川各観測地点での解析流量ハイドログラフと流

量観測値を示す.解析での各地点での流量ハイドログ

ラフは観測流量を再現出来ている.図-8 に上高田調節

池の解析と観測の総貯留量の比較を示す.解析での結

果は観測の総貯留量を再現するなど,観測での貯留量

を概ね再現している.上高田調節池は,環七地下調節

池への取水開始時間より早い時間から取水を開始し,

容量 160,000 m3のおよそ 4割にあたる量の貯留により,

取水口下流側の流量を低減させていたと推算される.

(2) 大規模下水道幹線から河川への流入流量と本川流

量ハイドログラフに及ぼす影響

図-9(a),(b)に桃園川幹線と十二社幹線から神田川へ

の解析総流出量を有効総降雨量との関係で示す.10 月

15日 21時~16日 2時の時間帯には十二社幹線からの流

出量が少なく,観測総降雨量の8割より下に解析結果が

位置しているが,両幹線の解析総流出量は観測総降雨

量のおよそ 8 ~10 割の間に示されており,解析から求

めた下水道幹線からの総流出量は概ね妥当な値である

と判断出来る.図-10 には十二社幹線からの流入流量ハ

イドログラフと幹線合流前後の水位観測点での本川解

析流量ハイドログラフを示す.環七地下調節池取水時

間帯に下流で流入する十二社幹線から多くの流入量が

あり,環七地下調節池は神田川下流の流量ハイドログ

ラフを大きく減少させることが出来,効果的に機能し

たことが分かる.

(3) 和田弥生幹線への流入流量ハイドログラフの推算

図-11(a),(b)の黒色でマンホールから地下貯留管へ

の総流入量,赤色で河道からマンホールへの流入量の

総和を示す.マンホールの番号は図-1(左),図-2 と

一致させている.図-11(a)に示す神田川に吐口を持つ

善福寺川合流付近のマンホールは,善福寺川合流によ

り河道水位が高くなるため河道からの流入量が多く,

貯留管への流入量も多い.図-11(b)に示す善福寺川に

吐口を持つマンホールのうち,環七地下調節池取水口

より上流に吐口を持つマンホール(㉕~㉚)では,河道

水位が高いことから河道からマンホールへの流入量が

多く,貯留管への流入量も多い.図-11(c)に本洪水で

の総貯留量の計算値と観測値を示す.本洪水では容量

150,000m3のうち約 127,000m3の調節量があり,計算値

0

50

1000

50

100

150

200

17:00 20:00 23:00 2:00 5:00 8:00

時間雨量(杉並)

総降雨量

有効総降雨量(f=0.8)

解析総流出量

累積量(万m3)

時刻

(流域⾯積7.1km2) ⾬量(mm/h)

2013/10/15 2013/10/16

図-9 桃園川幹線・十二社幹線からの解析総流出量と有効総降雨量

(a) 桃園川幹線 (b) 十二社幹線

0

50

1000

50

100

150

200

17:00 20:00 23:00 2:00 5:00 8:00

時間雨量(弥生町)

総降雨量

有効総降雨量(f=0.8)

解析総流出量

累積量(万m3)

時刻

(流域⾯積3.2km2) ⾬量(mm/h)

2013/10/15 2013/10/16

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

450,000

500,000

4:00 5:00 6:00 7:00 8:00

神田川計算貯留量 善福寺川計算貯留量 計算貯留量合計 全体観測貯留量貯留量(m3)

時刻

ゲート全開 ゲート全閉

2013/10/16

計算貯留量(神田川取水口)

計算貯留量(善福寺川取水口)

計算合計貯留量

図-6 環状七号線地下調節池の観測貯留量と解析貯留量

0

20

40

60

80

100

120

18:00 20:00 22:00 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00

昭和橋(観測) 西落合橋(観測)天神橋(観測) 千歳橋(観測)昭和橋(計算) 西落合橋(計算)天神橋(計算) 千歳橋(計算)

流量(m3)

時刻2013/10/15 2013/10/16

西落合橋2.4k

千歳橋4.9k

天神橋3.1k

昭和橋0.6k

図-7 妙正寺川の観測流量と解析流量ハイドログラフ

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

55,000

60,000

65,000

3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00

観測貯留量

解析貯留量

貯留量(m3)

時刻2013/10/16

第一次貯留池 第二次貯留池 第三次貯留池

図-8 上高田調節池の観測貯留量と解析貯留量

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00

神田川取水口上流 神田川取水口下流 方南第一橋 方南橋流量(m3)

時刻

2013/10/15 2013/10/16

ゲート全開

環七地下調節池流入流量

神田川取水口上流(15.8km)

神田川取水口下流(15.4km)

図-5 神田川本川の観測流量と解析流量ハイドログラフ

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

120

15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00

①⼗⼆社幹線合流前②⼗⼆社幹線流⼊流量

③⼗⼆社幹線合流後

流量(m3/s)

2013/10/15 2013/10/16

環七地下調節池取⽔時

図-10 十二社幹線からの流入流量と

合流前後の本川流量ハイドログラフ

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2015 年度 中央大学理工学部都市環境学科修士論文発表会要旨集(2016 年 2 月)

は観測値を概ね再現している.図-12(a),(b)に図-

1(左)の黄色の枠で囲んだ水位観測地点⑨での水位と

流速の計算結果を示す.マンホール内の解析水位ハイ

ドログラフは観測水位を概ね再現している.また,流

速の解析結果は観測値で見られる流下方向の変化を捉

えるなど概ね説明出来ている.図-12(a),(b)からマン

ホール内の水位が分水堰高に達する前は,河川水位と

マンホール水位はほぼ同じとなり,流れはマンホール

から河道に向いていることが分かる.一方,マンホー

ル内の水位が分水堰高に達すると地下貯留管への流入

が開始するため,河川水位よりも低くなり,流れも河

道からマンホールへと変化する.水位・流速観測が行

われた他のマンホールも同様に解析結果が観測値を再

現出来た.解析結果は,マンホール内の観測水位や流

速を説明出来ている事や,全体の貯留量も再現してい

る事から妥当な解析値であるといえる.図-13 に善福

寺川に吐口を持つマンホールから地下貯留管への流入

流量ハイドログラフを示す.環七地下調節池取水開始

後の時間帯には,取水口上流側(㉕~㉚)からの流入流

量は増加し続けているが,取水口下流側(㉒~㉔)の流

入流量は急激に減少している.このことから,各マン

ホールから下水道貯留管への流入量は河川水位との関

係性が高く,河川沿いの調節池による取水の影響を強

く受けていることが分かる.

5. 結論

本研究では,平成 25年 10月洪水を対象として,神田

川流域における下水道幹線からの流入流量や河川及び

下水道豪雨対策施設の調節量について検討を行った.

以下に主要な結論を示す.

1) 本検討では河道群の観測水面形を再現した洪水流解

析と,下水道貯留管へ繋がるマンホールの計算を

一体的に行う事で,下水道幹線から河川への流入

流量,マンホールと河道間の流出入流量,河川及

び下水道豪雨対策施設の調節量の推算が可能であ

ることを示した.

2) 下水道幹線から河川への流入や,河川から洪水調節

池への流入は本川流量ハイドログラフの波形に大

きく影響を与えており,観測水面形を用いた解析

は複雑な河道システムの洪水水理現象を適切に説

明出来る.

3) 環七地下調節池の取水時には取水口下流側のマンホ

ールから和田弥生幹線への流入量が減少すること

等から,マンホールから貯留管への流入量には河

川水位が強く関係し,河川沿いの調節池による取

水の影響を受けている.このことは,流域の豪雨

災害軽減のためには,河川と下水道が適切な連携

計画の下に流域の豪雨排水を行うことが重要であ

ることを示した.

参考文献

1) 谷岡 康,福岡捷二:都市中小河川・下水道の連携した治水計

画―台地部既成市街地を対象として―,土木学会論文集,

No.733/Ⅱ-63,pp.21-35,2003.

2) 沼田麻未,福岡捷二,持田智彦,中井 隆亮:神田川流域に

おける河川及び下水道施設による台風性豪雨の排水機構と

相互の関係に関する研究,河川技術論文集,第 20 巻,

pp.431-436,2014.

3) 東京都下水道局: 下水道台帳.

4) 小作好明,大澤健二:平成 25 年の河川流量観測について,東

京都土木技術支援・人材育成センター平成 26 年度年

報,pp.243-246,2014.

図-12 マンホール⑨へ繋がる下水道管内の解析結果と観測結果

73,699 

51174

124,873  127,000

010,00020,00030,00040,00050,00060,00070,00080,00090,000

100,000110,000120,000130,000140,000

神⽥川 善福寺川 合計 観測値

総流⼊量(m3)

5,376 

808 1,625 

5,188 

3,317 

5,961 7,198 

16,634 

5,066 

0

5000

10000

15000

20000

㉒ ㉓ ㉔ ㉕ ㉖ ㉗ ㉘ ㉙ ㉚

フラップゲート有環七地下調節池取⽔⼝

総流⼊量(m3)

河道からマンホールへの流量の総和貯留管への総流⼊量

マンホール番号

神⽥川合流

(a) 神田川に吐口を持つマンホール (c) 総貯留量の計算値と観測値

図-11 和田弥生幹線への総流入量と河道から各マンホールへの総流入量

0

1

2

3

2:00 4:00 6:00 8:00

22

23

24

25

26

27

28

29

30

環七地下池取⽔時

㉒㉓ ㉔

2013/10/16 時刻

流量(m3/s) 下流

環七地下池

上流

図-13 善福寺川に吐口を持つマンホールから和田

弥生幹線への流入流量ハイドログラフ

(b) 善福寺川に吐口を持つマンホール

0  27  166  62  173 

7,846 

822 1,075 

20,947 

27,594 

11,394 

0  0  632 1,662 

66  100  0  114 662 357 0

5000

10000

15000

20000

25000

30000フラップゲート有

総流⼊量(m3)

マンホール番号

善福寺川合流

河道からマンホールへの流量の総和貯留管への総流⼊量

⑱② ①⑰③⑤④⑥⑧⑦⑨⑪㊵⑯⑲⑳㊶⑮⑬⑭⑫

(a) 水位ハイドログラフ (b) 流速時間変化

‐4

0

4

14:00 18:00 22:00 2:00 6:00

9

時刻2013/10/15 2013/10/16

流速(m/s)

流速(Cal)

流速(観測値)

マンホール⇒河道

河道⇒マンホール

27

28

29

30

31

14:00 18:00 22:00 2:00 6:00

9

時刻2013/10/15 2013/10/16

9河道水位(Cal) マンホール底高

分水堰高 吐口管頂高

吐口管底高 マンホール内水位(観測)

マンホール内水位(Cal)

⽔位(A.P.m)