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8. 菱形・直泳・扁形・紐形動物:扁平あるいは紐状の冠輪動物
奈良教集中講義 2017/08/16-20
新潟大学・自然環境科学・宮﨑勝己
中生動物類
中生動物=MESOZOA
・1876年 van Benedenが、少ない細胞数や単純な体制から、原生生物と多細胞動物の中間に位置する動物群として、設定した。
中生動物類・系統的に雑多な動物の集まりと見なされ、分類群としては認められていない。
・ほとんどが既存の門に移されたが 、「板形動物」「菱形動物」「直泳動物」は、独立した門として認められる。
「菱形動物門」菱形動物門=RHOMBOZOA
・語源=ギリシア語のrhombos(=revolver「回転するもの」) + zoon (=animal)
・「菱形動物」という名称は、rhombosをrhombus(菱形)と混同したことから。
・18世紀末
Filippo Calvoliniにより、タコ腎
臓から発見。
・1876年
van Benedenが中生動物門を創設
した際に、その中の一員として組み
込んだ。
「菱形動物門」 「菱形動物門」体長数ミリ。細胞数が10~50個と少ない(種により固定)。
細胞種は軸細胞(1個のみ)と体皮細胞に大別され、後者はいくつかのサブタイプに分けられる。
器官・組織構造も、神経細胞・筋細胞も無い。
頭足類(イカ・タコ類)腎臓表面に頭部でくっつき、尿から栄養を摂る。
ロンボジェン
ネマトジェン
菱形動物の生活史頭足類腎嚢に片利共生する。
成体が2タイプ、幼生が2タイプ(二胚虫の名の由来)という複雑な生活史を示す。
菱形動物の生活史
頭足類腎嚢に片利共生する。
成体が2タイプ、幼生が2タイプ(二胚虫の名前の由来)という複雑な生活史を示す。
滴虫型幼生蠕虫型幼生
菱形動物の生活史ネマト
ジェン
蠕虫型幼生
(低密度時)
低密度時=ネマトジェン-蠕虫型幼生サイクル(無性生殖)
高密度時=ネマトジェン→ロンボジェン(雌雄同体)→滴虫型幼生
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菱形動物の生活史
滴虫型幼生
(高密度時)
ロンボジェン
ネマトジェン 低密度時=ネ
マトジェン-蠕虫型幼生サイクル(無性生殖)
高密度時=ネマトジェン→ロンボジェン(雌雄同体)→滴虫型幼生
菱形動物の系統かつては中生動物類の一員として、原生動物(単細胞動物)と多細胞動物の中間の位置に置かれていた。
最近の分子系統学的研究では、扁形動物もしくは腹毛動物との近縁性が示されており、それらの動物が極端に退化したものと見なされる。
「菱形動物門」
日本では古屋秀隆(阪大)が精力的に研究。
「直泳動物門」直泳動物門=
ORTHONECTIDA
・語源=ギリシア語のorthos(=straight)+nektos(=swimming)
・有性生殖時に、宿主体外から直線状に泳ぎ出すことから。
・1868年
Kefersteinにより発見。
・1876年
van Benedenが中生動物門を創設
した際に、その中の一員として組み
込んだ。
「直泳動物門」 「直泳動物門」体長1 mm未満。
一層の体皮細胞に覆われ、内部には筋細胞・生殖細胞の他、神経細胞様の細胞もある。
様々な海産無脊椎動物に内部寄生。
多くは雌雄異体で、性的二形を示す。
♀♂
「直泳動物門」日本では1976年に、田近謙一による北海道の扁形動物ウズムシ類体内からの報告があるのみ。
複雑な生活史の類似から扁形動物吸虫類との近縁性が指摘されていた。♀
♂
直泳動物の系統分子系統解析では、菱形動物との姉妹群関係や環形・軟体動物との近縁性が示唆された。
最近の大規模分子系統学的研究では菱形動物との姉妹群関係と、扁形動物及び腹毛動物と単系統群を作る系統関係が支持された。
菱形・直泳動物の系統
Lu et al. (2017)
直泳動物
菱形動物
腹毛動物
扁形動物
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「扁形動物門」
扁形動物門=PLATYHELMINTHES
・語源=ギリシア語の platy (=flat)+helminth (=worm)
・「扁形動物」という名称は、その扁平な形状から。
・~18世紀前半
様々な扁形動物が蠕虫類(Vermes)
に分類されていた。
・1851年
Volgtが、扁形動物と紐形動物を独
立した動物群と見なした。
「扁形動物門」・1859年
Gegenbaurにより
Platyhelminthes の名称が導入。
・1876年
Monotが、Platyhelminthesからヒ
モムシ類を除いたが、この考えは長い
間受け入れられなかった。
「扁形動物門」
「扁形動物門」
明確な三胚葉性を示す左右相称動物だが、体腔や体節を欠く。また肛門も欠く。
バーンズら (2009)
「扁形動物門」
明確な三胚葉性を示す左右相称動物だが、体腔や体節を欠く。また肛門も欠く。
中胚葉=
バーンズら (2009)
・伝統的に「渦虫」「吸虫」「条虫」を綱として分類してきた。
・吸虫のうち、単生類を独立した綱として扱う。
・渦虫のうち、無腸類及びそれと近縁なものを独立した綱もしくは門とする(→珍無腸動物門)。
・一般に渦虫綱、単生綱、吸虫綱、条虫綱に分類されるが、系統を反映していないと認識→特に渦虫を様々に細分化。
分類の変遷
渦虫類は基本的に自由生活。かつてここに含まれていた「無腸類」は、左右相称動物で最も原始的とされてきたが…。
様々な無腸類
プラナリア(淡水産種)は強い再生能力を持つが、海産種は再生能力を持たない。
吸虫類・条虫類は寄生生活。サナダムシ類のように、体長10 mに達する例もある。
4
単生・吸虫・条虫は複雑な生活史を持つ。寄生虫として、医学・水産学の分野で重要視されているものが多い。
←吸虫(二生類)の生活史
バーンズら (2009)
「扁形動物門」
日本では、ウズムシ類は田近謙一(日大医)、川勝正治(藤女子大)が精力的に研究していた。寄生性のものについては長澤和也(広大生物圏)が精力的に研究しているほか、寄生虫学・水産学的研究例も多い。
紐形動物門紐形動物門=NEMERTEA
・語源=ギリシア語の Nemertes(=Nereid「海の精」)
・「紐形動物」という名称は、その紐状の形状から。
・しばしばとてつもなく長くなり、180 ft.=約55 m以上という記録がある。
・1758年
Borlaseが”sea long-worm”として記
載。その後、扁形動物・環形動物・軟体
動物・線形動物などとの近縁性が主張さ
れてきた。
・1876年
Monotが、扁形動物から独立させたが、
20世紀中頃まで受け入れられなかった。
「紐形動物門」
肛門と吻があること以外は、扁形動物に体制が類似する。
藤田 (2010)
「吻」は普段は「吻腔」とよばれる空間内に収められている。
吻腔
吻の先端に「針」を持つ種と持たない種があり、これで有針綱・無針綱に分類。
かつては、扁形動物に肛門が出来、次の進化段階に至った比較的原始的な群とされていた。
白山 (2000)
分子系統学的解析は、押し並べて軟体動物や環形動物との近縁性を強く支持する。
藤田 (2010)
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発生を見直すと、吻を格納する「吻腔」や循環器官系が真体腔(裂体腔性)であることが明らかとなった。→分子系統の結果と合わせ、真体腔性の冠輪動物の一員と位置づけられる。
白山 (2000)
「紐形動物門」
日本では、柁原宏(北大理)が精力的に研究している。