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研究レポート No.167 Jun e 20 03 わが国の加工組立型製造業におけるスマイルカーブ化現象-検証と対応 主任研究員 木村達也 富士通総研(FRI)経済研 究所

研究レポート - Fujitsu...3.スマイルカーブ化が観察された3業種についても、それが生じたメカニズムは、一般に考え られている中核部品の標準化やモジュール化に伴う競争激化による加工組立の利益率の低下と

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研究レポート

No.167 June 2003

わが国の加工組立型製造業におけるスマイルカーブ化現象-検証と対応

主任研究員 木村達也

富士通総研(FRI)経済研究所

わが国の加工組立型製造業におけるスマイルカーブ化現象-検証と対応

主任研究員 木村達也

【要旨】 1.近年スマイルカーブ化現象論が拡がりをみせている。スマイルカーブ化現象論とは、加工組

立型製造業を中心とした製品の素材・部品-加工組立-販売-サービス等というバリューチェ

ーンにおいて、従来は高かった加工組立の付加価値(率)もしくは利益(率)が、グローバル

な競争の進展のもとで低下し、素材・部品やサービス等というバリューチェーンの両端の付加

価値(率)もしくは利益(率)が上昇したとする考え方である。バリューチェーンのスマイル

カーブ化はパソコンについて始めに提唱されたが、その後適用される議論の対象領域が拡げら

れ製造業全般にまで及んでいる。またバリューチェーンも、単位あたりの製品の製造を段階別

に分けてみたものが最初であったが、製品についての部品・素材からサービス等までの独立し

た産業を段階別に捕らえバリューチェーンとしたものもある。さらにバリューチェーンの各部

門間で比較する指標も当初の付加価値割合から、付加価値率、収益性、利益割合や利益率とす

るものまで拡がっている。このように議論は拡張し展開されているが、それらは概念的なもの

が中心で、データによる裏づけを伴うものは少ない。 2.本稿では、加工組立型製造業の製品についての部品・素材からサービス等までの独立した産

業を段階別に捕らえバリューチェーンとし、利益率を指標にスマイルカーブ化の検証を行った。

具体的には、産業連関表、法人企業統計年報などのデータを用いて、産業連関表の統合小分類

(184 部門)の総資本営業余剰率を算出し、85、90、95、97、99 年それぞれについてバリュ

ーチェーンの段階別利益率(利益率カーブ)を計測することにより検証を行なった。検証を行

なった業種は、加工組立型製造業全体と、民生用電子機器、民生用電気機器、電子計算機・同

付属装置、通信機械、乗用車、トラック・バス・その他の自動車の個別6業種である。検証の

結果は、スマイルカーブ化は検証した業種のうちで民生用電子機器、電子計算機・同付属装置、

トラック・バス・その他の自動車の3業種で観察されたが、加工組立型製造業全体では顕著で

はなく、その他の個別3業種については生じていなかった。 3.スマイルカーブ化が観察された3業種についても、それが生じたメカニズムは、一般に考え

られている中核部品の標準化やモジュール化に伴う競争激化による加工組立の利益率の低下と

いうものだけではない。加工組立型製造業全体と個別6業種について、計測各年の労働分配率

を 85 年と同等と仮定して利益率カーブを再計測すると、スマイルカーブ化が観察されたのは電

子計算機・同付属装置のみであった。以上の計測結果から、スマイルカーブ化は加工組立型製

造業の一部に生じている現象に過ぎず、また一般に考えられているようなモジュール化に伴う

競争激化によるものは、スマイルカーブ化が生じている業種のさらにその一部で、労働分配率

の上昇に伴い生じている現象である業種が多いことが示唆される。したがって、加工組立型製

造業が利益率を向上させるための対策として、バリューチェーンの上下流へ進出することは、

モジュール化に伴う競争激化によりスマイルカーブ化が観察される業種に限り本質的なものと

考えられる。それ以外の業種では、実力主義賃金体系への移行や少数精鋭による事業体制の構

築といった労働分配率を引き下げる対策の重要性が高い。

i

【目次】

Ⅰ.スマイルカーブ化現象論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1.スマイルカーブ化現象論の拡がり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2.スマイルカーブ化の検証の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

Ⅱ.バリューチェーンの段階別利益率の計測 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

1.計測対象とするバリューチェーンと指標 ・・・・・・・・・・・・・・・ 3

2.利益率カーブの計測方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

3.利益率カーブの計測結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

Ⅲ.スマイルカーブ化の原因と補正利益率カーブ ・・・・・・・・・・・・・・ 11

1.利益率カーブ変動の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

2.補正利益率カーブの計測 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

3.労働分配率上昇の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

Ⅳ.利益率カーブの検証からの示唆と含意 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

1.利益率カーブ、補正利益率カーブの計測結果からの示唆 ・・・・・・・・ 22

2.加工組立型製造業における利益率向上策への含意 ・・・・・・・・・・・ 22

補論 1.利益率カーブの計測方法の詳細 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

補論 2.実力主義賃金体系への移行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

付表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

主要参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39

ii

Ⅰ.スマイルカーブ化現象論 1.スマイルカーブ化現象論の拡がり 近年スマイルカーブ化現象論が拡がりをみせている。スマイルカーブ化現象論とは、加

工組立型製造業を中心とした製品の素材・部品-加工組立-販売-サービス等というバリ

ューチェーンにおいて、従来は高かった加工組立の付加価値(率)もしくは利益(率)が

グローバルな競争の進展のもとで低下し、素材・部品やサービス等というバリューチェー

ンの両端の付加価値(率)もしくは利益(率)が上昇したとするものである。またその結

果、バリューチェーンの付加価値(率)もしくは利益(率)を川上から川下へ並べると、

そのカーブが笑ったときの口のような形となることからその名がついている(図表Ⅰ-1)。 そもそもスマイルカーブは、台湾のコンピュータメーカーのエイサー(宏碁電脳)社の

創業者であるスタン・シー(施振栄)会長により、エイサー社の事業構造に関するバリュ

ーチェーンについて提唱されたものである。スタン・シー会長により提唱されたスマイル

カーブは、付加価値を対象としパソコンについてのバリューチェーンに関するものである。

すなわち上流を中央演算装置(CPU)、DRAM、モニター、ハードディスクなどとし、パソ

コンの加工組立を中央に置き、下流をブランド、チャネル、ロジスティクスなどとして、

付加価値に関するグラフを描くと図表Ⅰ-1の様な形状になるというものである1。またこ

こでのカーブの対象は、単位あたりの製品製造におけるバリューチェーンの部門別の付加

価値生産額割合であった。 しかし、その後バリューチェーンにスマイルカーブ化が生じているという議論は、パソ

コンだけでなく、エレクトロニクス2、情報通信産業3や自動車産業4にも適用されるものと

して、さらに製造業全般5にまで適用の対象の領域が広げられて議論が展開されてきている。

図表Ⅰ-1 スマイルカーブの概念図 付

加価値率

OR

利益率

素材・部品 加工組立 販売 サービス等 (資料)富士通総研経済研究所作成

1 Dedrick and Kraemer[1998] 2 産業再生研究タスクフォース[2002] 3 市川[2000] 4 原[1999] 5 野中[2001]はモノづくり全般でのスマイルカーブ化を、「スマイル・モデル」として論じている。

1

2

また単位あたりの製品製造のバリューチェーンを段階別に分けてみた場合の付加価値生産

額割合を対象とするのではなく、製品についての部品・素材からサービス等までの独立し

た産業を段階別に捕らえバリューチェーンとし、それらにおける付加価値率を比較の指標

とするものもある。さらにバリューチェーンの各部門間で比較する指標も付加価値割合や

付加価値率ではなく、収益性、利益割合や利益率とする議論も展開されている6。 2.スマイルカーブ化の検証の必要性

前節でみたようなスマイルカーブ化は、通常そのメカニズムが次の様に説明されている。

すなわちスマイルカーブ化が生じたとされる加工組立型製品で中核部品の標準化やモジュ

ール化が進んだ結果、その製品の技術的障壁が低下し、製造への参入が容易になることで

競争が激化したため、製品の加工組立の付加価値(率)、利益(率)が低下したとされるも

のである。たしかに最初にスマイルカーブ化が提唱されたパソコンについては、こうした

状況が少なくともエイサー社では観察されるたものとみられる。しかし議論を拡張し製造

業全般ついて部品のモジュール化などが生じているとする主張には、利益率の低下傾向を

説明しようとするために、パソコンなどのバリューチェーンに生じている状況からの類推

により説明を行おうとするもので、実際に詳細な検討を伴ったものではないとみられる。 またスタン・シー会長のスマイルカーブの提唱は、エイサー社の実際の単位あたり製品

製造における段階別の付加価値生産額割合のデータに基づくものであったとみられるが、

その後の議論は、概念的なものが多くデータによる裏付けを伴ったものは少ない。小森、

名和[1998]にはパソコン1台あたりの利益構造のスマイルカーブが、部品-製品-流通

-サービスの部門別の利益割合として示されているが7、これは稀少な例とみられる。また

製品の部品・素材からサービス等までの独立した産業を段階別に捕らえバリューチェーン

とする拡張した議論では、単位あたりの製品の製造を段階別に分けたバリューチェーンに

関する議論よりも、さらにデータによる裏付けを伴ったものは少ない。 このように概念的に扱われることの多いスマイルカーブ化現象論を、データにより実証

していくことは、極めて重要である。本稿はこうしたスマイルカーブ化現象について、実

際に観察されるかどうかデータにより検証し、また実際に観察された場合にそのメカニズ

ムは、一般に説明されているように標準化やモジュール化による競争激化の結果であるの

かを明らかにすることを目的としている。またこうした検証から加工組立型製造業におい

て、その置かれた環境への対応策としてどの様なものが示唆されるかについても述べる。

6 例えば小森、名和[1998]、伊藤[2000]。 7小森、名和[1998]に示されているデータも、データの出所や性格については明らかになっていない。

Ⅱ.バリューチェーンの段階別利益率の計測 1.計測対象とするバリューチェーンと指標 (1)計測対象とするバリューチェーン

Ⅰ章でみたように、スマイルカーブ化の議論の対象とされているバリューチェーンは一

様ではなく、異なっているのが現状である。本稿では、一企業内の事象としてのスマイル

カーブ化現象ではなく、加工組立型製造業の全般もしくは個々の加工組立型製造業を対象

とした検証を行う。したがって、製品の部品・素材からサービス等に至る独立した産業を

各部門としてとらえたバリューチェーンを計測の対象とする。また計測を行う加工組立型

製造業の業種は、加工組立型製造業全体と個別の加工組立型製造業の6業種とする。この

6業種は、現在までの議論でスマイルカーブ化が指摘されている産業であるエレクトロニ

クスの 4 業種、すなわち民生用電子機器、民生用電気機器、電子計算機・同付属装置、通

信機械と、自動車の2業種、すなわち乗用車とトラック・バス・その他の自動車とする。 また計測を行う年次は 85、90、95、97、99 年である。これはスマイルカーブ化の議論

は 90 年代後半になって進んできているため、その前後の比較を行うためである。ただし 90年は、いわゆるバブル経済の下にあったため、計測値に歪みが生じている可能性があり、

スマイルカーブ化以前のベンチマークを得るため、バブル以前の 85 年を計測年に加えてい

る。また 99 年が最新の計測年であるのは、計測に使用する産業連関表(Ⅱ-2参照)につ

いての利用可能な最新年が 99 年であるためである。 (2)計測対象とする指標

スマイルカーブ化の検証のため計測し、比較する指標は、利益率である。利益率を用い

た理由の1つは、計測対象としたバリューチェーンが単位あたりの製品製造に関するもの

ではなく、部品・素材からサービス等までの独立した産業に関するものであり、付加価値

割合、利益割合といった割合による指標は適さないためである。また他の理由としては、

企業にとって本質的に重要なのは付加価値ではなく、利益だからである。付加価値は、総

務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』の名目表の粗付加価値に従えば、家計外消費支

出、雇用者所得、営業余剰、資本減耗引当、純間接税の合計額である。したがってたとえ

付加価値額が増加したとしても、それが営業余剰以外の項目の増加によるものであれば企

業の利益額は増加しない。このため利益の最大化を目指す企業にとって、付加価値率は目

的の達成を判断する指標として十分ではない。 また利益率にも各種あるが、ここでは総資本営業余剰率を計測する。これは企業にとっ

て重要なことは、投下した資本に対してどれだけの利益が得られるかということであるか

らである 8。さらにバリューチェーンの各段階では総資本回転率が異なるため、利益率の比

8 企業の確定決算計数に基づく簿価がベースである法人企業統計年報のデータを用いているため、本稿の

総資本営業余剰率は投下資本の時価をベースとしていない。投下資本に対しどれだけ利益が得られるか

3

較を行うには総資本利益率を用いるのが適当と考えられるからでもある。また自己資本利

益率ではなく総資本利益率を用いるのは、ここで問題としているのはバリューチェーンの

各段階での利益率であるため、自己資本か他人資本かにかかわらず、投下した資本総額に

対する利益率を比較するためである 9。さらに投下資本に対する利益率としては、総資本事

業利益率を用いることが最も妥当であると考えるが、本稿では利益額のデータは産業連関

表をベースとしているため、データの制約から総資本営業余剰率を用いている。 2.利益率カーブの計測方法 ここでは、前節で示したバリューチェーンと指標に関し、スマイルカーブ化が生じてい

の指標としては、時価ベースでの計測が妥当であると考えられる。しかし本稿の目的は、バリューチェ

ーンの各段階の時系列でみた事業の利益率の変化を計測比較することである。時価ベースの総資本は、

保有する有価証券や固定資産などの価格変動により、事業自体の利益率の変化とは異なる要因で大きく

変化する。したがって本稿では、時価ベースの総資本を用いず簿価ベースの総資本を用いてスマイルカ

ーブ化の検証のための指標を計測している。 9 総資本利益率を使用すると、事業に必要である以上に資金調達を行い、これを運用していることにより、

利益率がバリューチェーンの各段階における実際の姿を表さない可能性がある。しかし実際の資金調達

と運用の状況をみるとこの可能性は低いと判断される。本稿での総資本営業余剰率の算出は、産業連関

表のデータから求めた国内生産額営業余剰率に法人企業統計年報(大蔵省、財務省財務総合政策研究所

『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』)のデータから求めた総資本回転率を乗じることによっ

ている(補論 1-1 参照)。総資本営業余剰率の分子である営業余剰は、産業連関表のデータはアクティ

ビティベースであるため、ここで述べたような資金運用の結果による歪みをもたらす可能性はない。一

方総資本営業余剰率の分母である総資本の変動は、法人企業統計年報における総資本の変動に伴い増減

する。したがって法人企業統計年報の総資本が、事業の運転資金やリスク対応資金として必要である以

上の資金調達とその運用により膨らんでいた場合に、総資本営業余剰率は歪むことになる。しかし法人

企業統計年報により、運用側として現預金、流動資産に計上される有価証券の合計額の総資産額に対す

る比率(以下ここでは総資本金融資産比率)推移を、また資金調達側として短期借入金、長期借入金、

社債の合計額の総資産額に対する比率(以下総資本調達資金比率)の推移をみると、総資本金融資産比

率は全産業では 88 年度、個別の計測対象6業種を含む電気機械器具製造業、輸送機械器具製造業では各

89 年度が最も高く、その後ほぼ一貫して低下傾向にあり、本稿でバリューチェーンの各段階における利

益率の計測の最新年度である 99 年度には各々のピークから全産業は 5.8%、電気機械器具製造業は 9.0%、

輸送機械器具製造業は 5.6%低下している。一方総資本調達資本比率は、この間横這い傾向にあり 99 年

度の総資本金融資産比率がピークであった年度からの低下は、全産業、電気機械器具製造業、輸送機械

器具製造業について各々0.9%、1.1%、1.0%にとどまっている。また資金運用による有価証券がバラン

スシート上、投資有価証券に計上されている可能性を考え現預金、流動資産に計上される有価証券に投

資用有価証券を加えた合計額の総資産に対する比率(以下総資本拡大金融資産比率)でみても、全産業、

電気機械器具製造業、輸送機械器具製造業におけるピーク(各 90 年度、89 年度、94 年度)から 99 年

度への変化は、それぞれ 3.3%、3.8%、2.0%の低下で、各業種の同期間における総資本調達資金比率の

変化率は 0.7%増、1.1%減、4.5%減であるなど両者の連動性は低いものとみられる。 法人企業統計年報の全業種分類(37 分類、全業種と合わせて 38 業種)ごとにみても、ベンチマーク

とする 85 年度に対して 99 年度に総資本金融資産比率が上昇しているのは 3 業種(鉱業、化学工業、そ

の他の運輸・通信業)であり、これらの業種のうちこの間に総資本調達資本比率が上昇しているのはそ

の他の運輸・通信業のみである。また総資本拡大金融資産比率をみると、85 年度に対して 99 年度に 11業種で上昇しているが、これらのうち同期間に総資本調達資金比率も上昇しているのは 5 業種である。

これらの5業種については両比率についての連動性、投資有価証券の内容について詳細な検討が必要で

あるが、法人企業統計年報における多くの業種の総資本は、事業に必要である以上の資金を調達し運用

することによる総資本の増加分の影響は大きくないとみることができる。このように資金運用に関する

総資本の増加分の影響は小さいとみられることから、また資金運用に関する総資本の増加分の正確な特

定はできないため、本稿では資金運用に伴う総資本の調整は行なわず、通常の総資本営業余剰率を計測

している。

4

るかを検証するための計測方法の概要を述べる(詳細については補論1を参照)。また検証

するカーブは利益率に関するものであるため、以下利益率カーブと呼ぶ。 利益率カーブの計測方法は、主に産業連関表、法人企業統計年報のデータを用い、産業

連関表の統合小分類(184 部門)ごとの総資本営業余剰率を算出し、85、90、95、97、99年それぞれについてバリューチェーンの段階別利益率(利益率カーブ)を計測して行った。 加工組立型製造業全体は、産業連関表の統合小分類におけるすべての部門がバリューチ

ェーンに属するものとした。ただしスマイルカーブ化の議論は、加工組立型製造業を中心

にみたバリューチェーンのどの段階で利益率が上昇しあるいは下落しているかというもの

であり、「企業はどの段階へ取り組むことにより利益率が向上できるか」という観点と強く

結びついたものであるため 10 公的部門などを除いた。この除外の取扱いは、個別6業種で

も同様である。個別6業種では、産業連関表の 184 部門表(生産者価格表:名目)と付属

表である固定資本マトリックスを用い2段階にわたって投入および総固定資本形成、産出

の多い業種を特定し、バリューチェーンに属する業種とした(投入サイド、総固定資本形

成、産出サイドともに1段階目は各計測対象業種の上位 10 業種、2段階目はその 10 業種

に関する投入、産出についての上位 5 業種を特定の対象とした)。このように特定したバリ

ューチェーンに属する部門の総資本営業余剰率を、計測対象業種ごとに、バリューチェー

ンの段階別に集計することでカーブを計測した(集計のウエイトは各部門別に産業連関表、

法人企業統計年報などから算出した総資本額)。 3.利益率カーブの計測結果 ここでは前節にみた方法による利益率カーブの計測結果について述べ、スマイルカーブ

化が実際に生じているかどうかの考察を行う。ただ利益率カーブの計測の目的が、加工組

立型製造業を中心にみた場合の素材・部品、サービス等というバリューチェーンの両端と

の利益率格差についての状況の変化をみることであることから、計測結果を明確化するた

めにバリューチェーン上で加工組立とサービス等の間に位置する販売は非表示としている。

また個別6業種のバリューチェーンでは、計測対象となる加工組立の業種のほかにも加工

組立の業種が含まれるが、これらの業種の利益率も計測結果を明確化するため非表示とし

ている。このような非表示は、利益率カーブの計測の目的が、スマイルカーブ化現象が実

際に生じているかの検証であるとともに、スマイルカーブ化現象論で主張される経営資源

を計測対象の加工組立の業種から素材・部品、サービス等へと移す利益率向上策の妥当性

を検討することでもあることによる。したがって各個別業種の計測結果では、そのバリュ

ーチェーンの中心に示される利益は、バリューチェーンの計測対象となっている加工組立

型製造業の利益率である。

10 エイサー社のスタン・シー会長によるスマイルカーブの提唱も、エイサー社の事業領域をより利益の高

いビジネス分野へ移して行く戦略に関するものであった(Dedrick and Kraemer[1998]p155)

5

(1)スマイルカーブ化の判断指標

計測結果を示す前に、まずスマイルカーブ化が生じているかどうかの判断に用いる指標

について述べる。スマイルカーブ化の判断のために作成定義し重視した指標は、次式で示

されるスマイルカーブ度である。 スマイルカーブ度=(素材・部品の利益率-加工組立の利益率)×1/2 +(サービス等の利益率-加工組立の利益率)×1/2

この指標は、加工組立の利益率が素材・部品の利益率およびサービス等の利益率に対し相

対的に小さくなれば値がプラスとなり、この場合利益率カーブはスマイルカーブの形状が

想定される。また相対的に大きくなった場合には値はマイナスとなり、利益率カーブはス

マイルカーブと逆の中央が高い形状が想定される。すなわちスマイルカーブ度がプラスの

値を増せばスマイルカーブ化が進展している傾向にあるとみなすことができる。 しかしここで定義しているスマイルカーブ度は、通常スマイルカーブ化で論じられてい

る利益率カーブの形状をもたらす状況である加工組立の利益率が素材・部品の利益率、サ

ービス等の利益率の双方より低い場合だけでなく、どちらか片方より低くもう一方より高

い場合にもプラスの値をとることがある。したがってスマイルカーブ化の判断にはスマイ

ルカーブ度の値だけではなく、バリューチェーンの各段階の利益率を直接比較すること、

あるいはカーブの形状を観察することも必要である。 またスマイルカーブ化の判断には、この指標の大きさだけでなく時系列の変化も重要と

なる。これはスマイルカーブ化が、計測対象とする加工組立型製造業のバリューチェーン

の加工組立型製造業と他の段階における利益率の変化によって生じ、90 年代後半に生じて

きたとされているものであるからである。すなわち計測の結果、90 年代の後半にスマイル

カーブ度が増加する傾向にあっても、ベンチマークとしている 85 年からの変化が重要であ

り、スマイルカーブ度が 85 年の値より小さければスマイルカーブ化現象が生じていると必

ずしも判断されるわけではない。したがって本稿で、スマイルカーブ化が生じていると明

確に判断するのは、90 年代後半に利益率カーブがスマイルカーブの形状をしており、かつ

スマイルカーブ度が 85 年の値よりも大きい場合である。 したがってスマイルカーブ化の判断は、スマイルカーブ度の値、その時系列変化、そし

て各計測年におけるバリューチェーンの各段階における利益率の比較を総合して行う。

(2) 加工組立型製造業全体における計測結果

加工組立型製造業全体のバリューチェーン、すなわち全産業を1つのバリューチェーン

とみなしたときの利益率カーブの計測結果は、図表Ⅱ-1のとおりである。すなわちバリ

ューチェーンの段階別の利益率を比較すると、90 年を除き加工組立の利益率が原材料・部

品の利益率およびサービス等の利益率を下回り、スマイルカーブ度はプラスである。しか

6

し 85 年から 90 年代後半への変化は 1.0 ポイント未満に過ぎず、スマイルカーブ化は顕著

ではないと判断される。むしろここでの特徴的な変化は、95~99 年の利益率カーブは 85年のカーブが下ずれしたような形状になっていることである。 すなわち全産業を1つのバリューチェーンと見た場合、スマイルカーブ化(原材料・部

品およびサービス等の利益率に対する加工組立の利益率の相対的な低下)は顕著ではなく、

観察される現象はバリューチェーンの全体的な利益率の低下である。

図表Ⅱ-1 加工組立型製造業全体の利益率カーブ

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

85

90

95

97

99

総資本営業余剰率

スマイルカーブ度 年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 1.1% -3.0% 1.7% 1.8% 2.0% ( 注 )図表の凡例の数値は年。 (資料)大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、

経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

(3)各個別業種における計測結果

個別業種における計測結果は一様ではなく、業種によって異なり以下のような状況を示

している。①民生用電子機器、電子計算機・同付属装置、トラック・バス・その他の自動

車ではスマイルカーブ化の進行が観察される。②通信機械、乗用車では、90 年代後半の利

益率カーブに加工組立型製造業全体にみられたような 85年などそれ以前のカーブの下ずれ

がみられるがスマイルカーブ化(利益率カーブにおけるスマイルカーブの形状の深化)は

観察されない。③民生用電気機器は、90 年代後半にその利益率が原材料・部品やサービス

等の利益率に対し相対的に高まり、スマイルカーブ化と逆の状況が生じている。 以下これらの計測結果の詳細について、エレクトロニクス4業種と自動車2業種に分け

てみていく。

7

①エレクトロニクス4業種 計測結果は図表Ⅱ-2に示している。個々の業種の計測結果については以下のとおりで

ある。 民生用電子機器では、スマイルカーブ度は全計測年を通じてすべてプラスで 90 年代に高

まりがみられる。また利益率カーブの形状は 85 年にはスマイルカーブ(バリューチェーン

の計測対象となっている加工組立型製造業の利益率を、部品・素材およびサービス等の利

益率が上回る状況)ではなかったが、90 年代にはスマイルカーブとなり、90 年代後半には

それが顕著となっており、スマイルカーブ化が観察される。 民生用電気機器では、スマイルカーブ度は 85 年にプラスであるが、90 年以降はマイナス

である。またスマイルカーブ度の絶対値は 90 年代後半に 90 年の 2.4 倍以上と、部品・素

材およびサービス等に対するバリューチェーンの計測対象である加工組立型製造業の民生

用電気機器の相対的な利益率の高さが、90 年代後半には一層顕著になっている。 電子計算機・同付属装置では、スマイルカーブ度は 85、90 年にマイナスであるが、95

年以降プラスに転じ、その値も後の年ほど大きくなっている。カーブの形状を観察しても

90 年代後半には典型的なスマイルカーブとなっており、スマイルカーブ化が観察される。 通信機械では、スマイルカーブ度はすべての計測年を通じてプラスである。またその形

状もスマイルカーブであり、85 年は他の計測年に比較してサービス等の利益率が相対的に

高いという特徴があるものの、すべてが同様な形状をしており 90 年代後半のカーブはそれ

以前のカーブが下ずれしたものであるといえる。これはスマイルカーブ度をみても確認さ

れる。

図表Ⅱ-2 エレクトロニクス4業種の利益率カーブ

民生用電子機器 スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(民生用電子機器のみ)

総資本営業余剰率

年 85 90 95 97 99 スマイルカーブ度 0.7% 1.8% 2.7% 3.3% 2.8%

8

民生用電気機器 スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(民生用電気機器のみ)

総資本営業余剰率

年 85 90 95 97 99 スマイルカーブ度 1.1% -1.3% -3.8% -4.3% -3.1%

電子計算機・同付属装置

スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

85

90

95

97

99

(電子計算機・同付属装置のみ)

総資本営業余剰率

スマイ

通信機械 総資本営業余剰率

スマイ

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(通信機械のみ)

( 注 )図表の凡例の数値は年。 (資料)大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『

経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延

②自動車2業種 計測結果は図表Ⅱ-3に示している。個々の業種の計

乗用車では、スマイルカーブ度はすべての計測年を通

9

年 85 90 95 97 99 ルカーブ度 -1.2% -3.7% 3.5% 3.7% 4.3%

マイルカーブ度 年 85 90 95 97 99

ルカーブ度 3.9% 2.3% 2.6% 3.1% 3.0%

昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、 長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

測結果は以下のとおりである。 じてプラスであり、またその形状

をみてもスマイルカーブである。85 年は他の計測年に比較してサービス等の利益率が相対

的に高いという特徴があるものの、すべてのカーブが同様な形状をしている。しかしスマ

イルカーブ度の時系列の推移をみると 85 年が最も高く、90 年代後半にこれを越えるような

上昇がみられるわけではない。したがって乗用車の利益率カーブはスマイルカーブの形状

を示しているものの通信機械と同様にそれ以前のカーブが下ずれしたものであり、スマイ

ルカーブ化は観察されないと判断される。 トラック・バス・その他の自動車では、スマイルカーブ度は全計測年を通じてすべてプ

ラスで 90 年代後半に高まりがみられる。また利益率カーブの形状は 85 年にはスマイルカ

ーブではなかったが、90 年代にはスマイルカーブとなり、90 年代後半にはそれが顕著とな

っており、スマイルカーブ化が観察される。

図表Ⅱ-3 自動車2業種の利益率カーブ 乗用車

スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(乗用車のみ)

総資本営業余剰率

年 85 90 95 97 99 スマイルカーブ度 3.0% 1.5% 1.9% 2.1% 1.7%

トラック・バス・その他の自動車

10

スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

85

9095

9799

(トラック・バス・その他の自動車のみ)

総資本営業余剰率

年 85 90 95 97 99 スマイルカーブ度 2.3% 2.7% 4.0% 5.2% 4.1%

( 注 )図表の凡例の数値は年。 (資料)大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、

経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

Ⅲ.スマイルカーブ化の原因と補正利益率カーブ 本章では、Ⅱ章での計測により民生用電子機器、電子計算機・同付属装置、トラック・

バス・その他の自動車で観察されたスマイルカーブ化には、どのような要因が作用してい

ると考えられるのか、それらの要因についてスマイルカーブ化が観察されなかった業種と

の相違をみる。その上でスマイルカーブ化に作用していると考えられる要因について補正

を行ない、加工組立型製造業全体、個別の 6 業種の利益率カーブを再計測する。またこう

した計測結果の背景にある個別6業種それぞれの状況についても考察する。 1.利益率カーブ変動の背景 (1)利益率カーブの変動要因 スマイルカーブ化の検証の指標に本稿では総資本営業余剰率を用いているが、これは一

定の投下資本に対して得られる営業余剰であり、この比率の分子である営業余剰は付加価

値の構成要素であるから、同じ付加価値額であっても、付加価値を構成する他の要素の大

きさにより変動する。したがって総資本営業余剰率の変化は、①営業余剰分配率に変化が

ない場合に、一定の投下資本に対し付加価値額の大きさが変化することによる部分(総資

本付加価値率の変化による部分)、②一定の投下資本に対する付加価値額に変化がない場合

に、営業余剰分配率が変化することによる部分――からなる。このうち①には、製品の中

核部品の標準化やモジュール化の進展により、その製品の製造への参入の増加により競争

が激化した結果、付加価値率が縮小し利益率が低下しているという背景がある。 一方、②については、付加価値を構成する要素間の分配の変化が影響を及ぼす。付加価

値は、本稿において検証のためのデータを用いている出典の1つである総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』の名目表における粗付加価値に従えば、国内生産額から中間

投入額を除いたもので、これは家計外消費支出、雇用者所得、営業余剰、資本減耗引当、

純間接税で構成される。ここではこれらへの分配うち、橋本[2002]が 90 年代における日

本経済の長期停滞を規定した主要因の「利潤圧縮メカニズム」をもたらしたとする労働分

配率の上昇、すなわち雇用者所得の付加価値に占める割合の上昇に注目し、この上昇が総

資本営業余剰率に与えた影響についてみていく 11。

11 総資本営業余剰率は、労働分配率以外の粗付加価値の要素、家計外消費支出、資本減耗引当、純間接税

の粗付加価値に占める構成比によっても変化する。このうち家計外消費支出は国民経済計算での扱いの

ように中間投入としての扱いも考えられる部門であり、純間接税は制度的要因によって規定される部門

である。したがって雇用者所得以外では資本減耗引当への分配率が、事業者が変動させることができ総

資本営業余剰率へ影響を与える分配率と考えることができる。本稿の利益率カーブの検証におけるデー

タの出典の1つである産業連関表では、資本減耗引当への分配率は、99 年に 85 年比でみて内生部門計

では上昇している。また本稿の利益率カーブの計測対象の 6 業種では 4 業種で上昇しており、過剰な設

備が存在する可能性がある。しかし橋本[2002](pp86-87)によれば、85 年以降に全産業では減価償

却率の上昇がみられるものの売上高原価率は 80 年代後半の低下の後、90 年代には安定しており、この

関係は製造業ではより明確で、生産の現場である工場はスリムで効率的であるとしている。したがって

本稿では総資本営業余剰率の変化について、資本減耗引当への分配率の変化による影響については取り

11

(2)粗付加価値率と労働分配率の動向

総資本営業余剰率の変動が、一定の投下資本に対する付加価値額の大きさが変化したこ

とによるものか、営業余剰分配率の変化によるものかを考察するため総資本粗付加価値率

と労働分配率の時系列変化をみる。 ①電子計算機・同付属装置に大きい粗付加価値率の低下

99 年の総資本粗付加価値率 12は、内生部門計(産業連関表での全産業に近い部門の区分)

13 および個別の計測対象の6業種すべてにおいて、85 年比で低下しているが、特に電子計

算機・同付属装置では 25.2 ポイントと大きく低下している。またⅡ章でスマイルカーブ化

が観察された他の2業種である民生用電子機器、トラック・バス・その他の自動車では、

この他の個別の3業種(民生用電気機器、通信機械、乗用車)に比べ低下が大きいものの、

内生部門計の低下に比べれば小さなものとなっている(図表Ⅲ-1)。

図表Ⅲ-1 総資本粗付加価値率の推移

30%

35%

40%

45%

50%

55%

60%

65%

70%

75%

80%

85 90 95 97 99 年

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

内生部門計(左目盛)

民生用電子機器(右目盛)

民生用電気機器(右目盛)

通信機械(右目盛)

電子計算機・同付属装置(右目盛)

乗用車(右目盛)

トラック・バス・その他の自動車(右目盛)

(資料)大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和 60-経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『

②民生用電子機器などに大きい労働分配率の上昇

99 年の労働分配率の値を 85 年と比較すると、電子計算機・同付

内生部門計およびその他の個別産業はすべて上昇している。特に

イントと最も高い上昇をしているほか、トラック・バス・その他

扱わない。

12 総資本粗付加価値率は、産業連関表から計算される国内生産額粗付加価値

算の定義に従い家計外消費支出を除いている)に法人企業統計年報から

ることによって算出している(両データの暦年ベースと年度ベースの相違

業連関表の部門と法人企業統計年報の業種の対応は付表のとおりである

関表の内生部門計の国内生産額粗付加価値率に全産業の総資本回転率を13 内生部門計は、営利を目的とした一般の産業に加え、政府サービ生産者

育(国公立)」、「社会保険事業(国公立)」などの部門、対家計民間非営

「学校教育(私立)」、「保険衛生(非営利)」などの部門を加えたもので

12

85年比 99年変化率

内生部門計 -13.4%

民生用電子機器 -8.7%

民生用電気機器 -5.9%

電子計算機・同付属装置 -25.2%

通信機械 -5.8%

乗用車 -4.4%

トラック・バス他 -7.9%

平成2-7年接続産業連関表』、 平成 11 年産業連関表(延長表)』

属装置で低下しているが、

民生用電子機器で 24.3 ポ

の自動車、乗用車も 20 ポ

率(粗付加価値は国民経済計

計算される総資本回転率を乗じ

の調整は行なっていない)。産

。ただし内生部門計は、産業連

乗じている。 の活動を表す「公務」、「学校教

利サービス生産者の活動を表す

ある。

イント弱と高い上昇率である(図表Ⅲ-2)。

図表Ⅲ-2 労働分配率の推移

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

85 90 95 97 99 年

内生部門計

民生用電子機器

乗用車

電子計算機・同付属品

トラック・バス・その他の自動車

通信機械

民生用電気機器

85年比 99

年変化率 内生部門計 2.4%

民生用電子機器 24.3%

民生用電気機器 6.2%

電子計算機・同付属装置 -1.3%

通信機械 3.5%

乗用車 18.4%

トラック・バス他 19.2% (資料)総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関

表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

2.補正利益率カーブの計測 (1)スマイルカーブ化の要因を明確化するための利益率カーブの補正 Ⅱ章で観察されたスマイルカーブ化は、前節でみたような総資本付加価値率と労働分配

率の動向から判断すると、電子計算機・同付属装置では総資本付加価値率の低下による影

響が大きく、労働分配率の上昇による総資本営業余剰率の低下の影響はないとみることが

できる。しかし民生用電子機器、トラック・バス・その他の自動車では、総資本付加価値

率低下の影響はあるものの、労働分配率の上昇による総資本営業余剰率の低下の影響が大

きいものとみられる。ただこれらの要因がスマイルカーブ化にどの程度影響しているのか

は、①それぞれのバリューチェーンにおける他の段階での総資本営業余剰率に対する総資

本付加価値率、労働分配率の影響もみなければ判断ができないこと、②Ⅲ-1-(1)で述べ

たように、営業余剰分配率を変動させる粗付加価値の構成要素への分配率の変動は労働分

配率の変動だけではないこと 14――から、次に述べるような方法により労働分配率の変動の

影響を取り除いた利益率カーブ、補正利益率カーブを計測し、スマイルカーブ化の要因の

明確化を図る必要がある。 補正利益率カーブの計測方法は、基本的には補論 1 で述べているとおりであるが、補正

のポイントは、90~99 年の各計測年について産業連関表の統合小分類のすべての部門(184

14 労働分配率以外の付加価値構成項目への分配率の変化による影響は、本稿では脚注 11 に記したような理

由により扱わないが、純間接税への分配率は制度の変化により大きく変動し、これが同じ粗付加価値額

のもとで営業余剰額を変化させ、総資本営業余剰率に影響することがある。例えば乗用車では、85 年と

90 年を比較すると営業余剰分配率が大きくが変化したが、この変動の大きな要因は 89 年4月1日の消

費税導入に伴う物品税の廃止、自動車税率の引下げであると考えられる。

13

部門)の労働分配率を 85 年の労働分配率と同等と仮定した雇用者所得を算出し、その額と

実際の雇用者所得額との差を営業余剰に加えたものを、補正後の営業余剰として扱うこと

である。すなわち補正された総資本営業余剰率は、次式のとおりとなる。

総資本

粗付加価値部門計)年の労働分配率用者所得-営業余剰+(実際の雇=補正総資本営業余剰率

×85

ここで補正の基準年を 85 年としている理由は、日本銀行『短観』の全国企業の雇用人員

判断 D.I.(実績)を 75 年以降の暦年の平均値にみると、全産業では 85 年が 0.25 で 79 年

の-0.25 と共に最も過不足のない状況を示すゼロに近く、製造業および本稿の利益率カーブ

計測の個別業種が含まれる電気機械、輸送機械でも 85 年の D.I.がゼロに近いことが挙げら

れる(図表Ⅲ-3)。また 85 年は、バブル期以降の賃金率の上昇前であることも理由であ

る。すなわち 85 年は雇用人員数、賃金率の両面からみて労働分配率のベンチマークに相応

しい年と考えられるためである。

図表Ⅲ-3 短観の雇用人員判断 D.I.(実績)の推移

-60

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 年

D.I.

全産業  

製造業

電気機械

輸送用機械

( 注 )ここに示した D.I.は、各年に含まれる調査の D.I.単純平均。 (資料)日本銀行『短観』

(2)加工組立型製造業全体の補正計測の結果

加工組立型製造業全体のバリューチェーン、すなわち全産業を1つのバリューチェーン

とみなした場合の利益率カーブを補正計測した結果は、図表Ⅲ-4のとおりである。すな

わち各計測年のスマイルカーブ度は、補正前と同様 90 年を除きプラスである。しかし 90年以降のスマイルカーブ度の絶対値は顕著に小さくなり、特に 95 年以降は 0.5%未満であ

る。また利益率カーブの形状をみると、95 年以降はバリューチェーンの各段階の利益率が

14

ほぼ同じレベルであり、サムライカーブと称することのできるカーブの形状である 15。 すなわち加工組立型製造業全体、全産業を1つのバリューチェーンとみなした時の補正

利益率カーブは、スマイルカーブ化がみられないばかりではなく、95 年以降では加工組立

の利益率が原材料・部品、サービス等の利益率に比べ相対的に低いことが明確でなくなる

(図表Ⅲ-4)。

表Ⅲ-4 加工組立型製造業全体の補正利益率カーブ

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%率

( 注 )(資料)

(3)各

補正

ス・そ

算機・

される

その

ーブ化

料・部

が観察

15 野中

つい

ら「

図総資本営業余剰

原材料・部品 加工組立 サービス等

85

90

95

97

99

スマイルカーブ度 年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 1.1% -1.0% 0.3% 0.4% 0.3% 図表の凡例の数値は年。 大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、 経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

個別業種における補正計測の結果

前にスマイルカーブ化が観察された3業種のうち、民生用電子機器、トラック・バ

の他の自動車では、補正後にスマイルカーブ化が観察されなくなった。また電子計

同付属装置では、逆に補正によりスマイルカーブ化はより顕著にかつ早期から観察

ようになった。 他の3業種における補正後の計測結果をみると、いずれも補正前と同様スマイルカ

は観察されない。民生用電気機器は補正前と変らず 90 年代後半にその利益率が原材

品やサービス等の利益率に対して相対的に高まり、スマイルカーブ化と反対の状況

された。通信機械では、補正による 90 年の利益率カーブの変化が大きいものの、そ

15

[2001]はバリューチェーンの各段階のそれぞれの部分で高付加価値を追求するビジネスモデルに

て、各段階の付加価値を結んだカーブが、武士が口をきりりと真一文字に結んだようになることか

サムライ・モデル」と呼んでいる。

の他の年の利益率カーブに大きな変化はない。乗用車では補正により 90 年以降にバリュー

チェーンの計測対象である加工組立型製造業の乗用車の利益率が原材料・部品やサービス

等の利益率に対して相対的に高くなり、利益率カーブが民生用電気機器と同様な形状を示

した。 以下これらの計測結果の詳細について、補正前でみたのと同様に、エレクトロニクス4

業種と自動車2業種のそれぞれについてみていく。

①エレクトロニクス4業種 計測結果は図表Ⅲ-5に示したとおりで、まず民生用電子機器では、補正により 90 年以

降のスマイルカーブ度がマイナスに転じ、カーブの形状をみてもこの間の計測年における

利益率は原材料・部品、サービス等と比べてバリューチェーンの計測対象である加工組立

型製造業の民生用電子機器が高く、スマイルカーブと逆の形状になっている。 民生用電気機器では、補正を行なってもスマイルカーブ度が 85 年にプラスであり、90

年度以降はマイナスである。またスマイルカーブの形状に大きな変化はなく、スマイルカ

ーブ度の大きさについても補正前後の変化は小さい。 電子計算機・同付属装置では、85 年にはスマイルカーブ度はマイナスであるが、プラス

となる時期が補正前の 95 年から 90 年に早まっている。また 90 年以降の利益率カーブの形

状は、典型的なスマイルカーブの形状であり、補正前から同様な形状をしていた 95~99 年

のスマイルカーブ度を比較しても補正後の方が 1.1~2.7 ポイント大きく、スマイルカーブ

化が顕著である。 通信機械では、スマイルカーブ度が全計測年を通じてプラスであり、利益率カーブの形

状をみてもスマイルカーブであるものの、90 年台後半のカーブはそれ以前のカーブが下ず

れしたものでスマイルカーブの形状の深化はみられないという状況に変化はない。しかし

90 年のスマイルカーブ度が、補正による通信機械の利益率の大きな低下などにより 2.3%から 6.1%に上昇しているのが特徴的である。

図表Ⅲ-5 エレクトロニクス4業種の補正利益率カーブ

民生用電子機器 スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(民生用電子機器のみ)

総資本営業余剰率

年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 0.7% -2.5% -4.2% -5.0% -3.7%

16

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

生用電気機器総資本営業余剰率

スマイルカーブ度

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(民生用電気機器のみ)

年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 1.1% -0.8% -3.6% -4.5% -4.0%

付属装置 スマイルカーブ度

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(電子計算機・同付属装置のみ)

年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 -1.2% 3.8% 6.2% 6.1% 5.4%

注資料

機械 総資本営業余剰率

子計算機・同

総資本営業余剰率

スマイルカーブ度

原材料・部品 加工組立 サービス等

85

9095

9799

(通信機械のみ)

年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 3.9% 6.1% 2.4% 2.4% 3.2%

)図表の凡例の数値は年。 )大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、 経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

動車2業種 測結果は図表Ⅲ-6に示したとおりで、乗用車では補正によりスマイルカーブ度が 90降プラスからマイナスに転じている。補正前には 90 年代後半の利益率カーブはスマイ

17

ルカーブの形状をしていたが、それ以前のカーブの下ずれでありスマイルカーブ化の進行

はみられなかったが、補正後は 90 年以降カーブの形状自体がスマイルカーブではなくなっ

ている。 トラック・バス・その他の自動車では、補正後もスマイルカーブ度はすべての計測年で

プラスであるが、85 年に比べて 90 年以降は大きく縮小し、カーブの形状はサムライカーブ

に近いものとなっている。

図表Ⅲ-6 自動車2業種の補正利益率カーブ 乗用車

スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(乗用車のみ)

総資本営業余剰率

年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 3.0% -2.2% -1.5% -1.7% -1.4%

トラック・バス・その他の自動車 総資本営業余剰率

スマイルカーブ度

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

原材料・部品 加工組立 サービス等

859095 9799

(トラック・バス・その他の自動車のみ)

年 85 90 95 97 99

スマイルカーブ度 2.3% 0.5% 0.6% 1.2% 0.9%

( 注 )図表の凡例の数値は年。 (資料)大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、

経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

3.労働分配率上昇の背景

前節の補正利益率カーブの計測結果から、民生用電子機器、乗用車、トラック・バス・

その他の自動車での 90年代後半の労働分配率の上昇が、利益率カーブの形状に大きな影響

を及ぼしていることが明らかになった。ここではこうした労働分配率上昇の背景として、

生産、販売市場、輸入、雇用がどのような状況にあるのかを計測対象の個別6業種につい

てみる。またこれらを総合して、それぞれの労働分配率の推移をもたらした各産業の状況

18

がどのように考えられるかについても述べる。

①生産、販売市場の動向

まず生産と販売市場の動向であるが、生産は国内生産額について、販売市場はわが国で

の生産財の販売市場をみるために国内販売額と輸出額の合計についてみる 16。これらについ

て 85 年を 100 とした指数でみると、まず国内生産額では 99 年に通信機械が 209.0(95 年

176.1)、電子計算機・同付属装置が 173.6(同 167.6)と顕著に増加している。一方で民生

用電子機器では 48.0(同 58.6)、トラック・バス・その他の自動車では 59.5(同 76.7)と

大きく減少している。また国内販売額と輸出額の合計についても、通信機械が 220.0(同

184.9)、電子計算機・同付属装置が 206.1(同 184.4)と顕著に増加し、民生用電子機器で

は 55.8(同 64.5)、トラック・バス・その他の自動車では 59.7(同 77.0)と大きく減少し

ている。他の業種では国内生産額、国内販売額と輸出額の合計が、民生用電気機器ではと

もに 99 年にはほぼ横這いであり、乗用車はともに増加しているものの通信機械、電子計算

機・同付属装置ほど顕著ではなく、全産業の増加をやや上回る程度である(図表Ⅲ-7)。

すなわち本稿で利益率の計測を行っている 85 年から 99 年の間に、国内生産およびその

販売市場が、通信機械、電子計算機・同付属装置では大きく拡大しており、民生用電子機

器、トラック・バス・その他の自動車では縮小していることが判る。

図表Ⅲ-7 国内生産額および国内販売額と輸出額の合計額の推移(指数:1985=100)

国内生産額 国内販売額と輸出額の合計額

0

50

100

150

200

250

300

85 90 95 97 99 年

85年=100

通信機械

民生用電子機器トラック・バス・その他の自動車

民生用電気機器 全産業

電子計算機・同付属装置

乗用車

0

50

100

150

200

250

300

85 90 95 97 99 年

85年=100

通信機械

民生用電子機器

電子計算機・同付属装置

民生用電気機器

トラック・バス・その他の自動車

乗用車

全産業

( 注 )国内販売額=国内生産額+輸入額-輸出額。 (資料)総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関

表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

16 ここでは 国内販売額=国内生産額+輸入額-輸出額としており、在庫の増減は考慮していない。また輸

出市場については、わが国での生産財の販売市場として海外市場全体を考えることもできるが、現実的

には、アクセス可能性などを考慮するとこのうちの一部となるとみられる。ここではこのような限定を

明確に行うことは難しいことから、実際の輸出額を輸出市場の大きさとして扱った。

19

②輸入、雇用の動向

輸入、雇用の動向についても前項と同様に 85 年を 100 とした指数でみると、99 年には輸

入についてはすべての業種で増加しており、民生用電子機器が 1102.8(95 年 858.7)、通信

機械が 1042.9(同 840.0)と特に増加が著しい。このほか民生用電気機器、電子計算機・

同付属装置の輸入の増加も大きく、エレクトロニクスの4業種ではいずれも、アジア諸国

が生産拠点として台頭するなか輸入が急増している。一方トラック・バス・その他の自動

車では、90 年には 363.7 となったが 99年では 195.3 と増加が相対的に小さい。また乗用車

も 90~97 年の輸入額指数は 600 を超えているが、99 年では 471.9 とエレクトロニクスの各

業種と比較して小さくなっている。

雇用については、産業連関表の雇用表における各業種の有給役員・雇用者数について 85

年を 100 とした指数で比較すると 17、95 年に民生用電子機器が 79.5 と減少し、電子計算機・

同付属装置も 99.6 と微減であるが、他の業種では増加している。(図表Ⅲ-8)

図表Ⅲ-8 輸入額および雇用者数の推移(指数:1985=100)

輸入額 雇用者数

0

200

400

600

800

1000

1200

85 90 95 97 99 年

85年=100

通信機械

民生用電子機器

乗用車

全産業

電子計算機・同付属装置

民生用電気機器

トラック・バス・その他の自動車

1000

25

50

75

100

125

150

175

85 90 95 年

85年=100

民生用電子機器

乗用車

通信機械

全産業

トラック・バス・その他の自動車

民生用電気機器

電子計算機・同付属装置

(資料)総務庁『昭和 60-平成2-7年接続産業連関表』、経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関

表(延長表)』、『平成 11 年産業連関表(延長表)』

③各業種の労働分配率の推移をもたらした状況

前項までの生産、販売市場、輸入、雇用の動向からみて、図表Ⅲ-2の労働分配率の推

移をもたらした状況は、各業種でそれぞれ異なっていることが判る。まず補正前の利益率

カーブの計測でスマイルカーブ化の進行が観察された3業種についてみると、民生用電子

20

17 産業連関表の延長表には雇用表の掲載がないため雇用については 97、99 年のデータが使用できず、85、

90、95 年の比較を行っている。

21

機器では輸入が急増する一方で生産、販売市場が縮小し、雇用者数も削減されたがその規

模は生産、販売市場の縮小に比べ相対的に小さく、労働分配率が大きく上昇した。電子計

算機・同付属装置では、生産、販売市場が拡大する一方で雇用者数は横這いにとどまった

ことが労働分配率の微減に大きく寄与していると考えられる。トラック・バス・その他の

自動車では、輸入の増加は大きくなかったが 18、生産、販売市場が縮小し、その一方で雇用

者数が増加したため、労働分配率の上昇につながった。

この他の3業種では、民生用電気機器では、輸入は増加したが、生産、販売市場、雇用

はともに横這いであり、通信機械では輸入が増加したが生産、販売市場も大きく拡大し、

雇用の増加はそれに伴ったものであっため労働分配率の増加は大きくなかった。乗用車で

は、生産、販売市場が拡大するなか、85年比の 95 年の雇用者数増加率はトラック・バス・

その他の自動車と同程度にとどまっている。したがって労働分配率の上昇は賃金率の上昇

によるところが大きいとみられる。

18 トラック・バス・その他の自動車における輸入額指数(85 年=100)は 90 年に 363.7 ではあるが規模

としては国内市場の 1.0%に過ぎない。また各業種での 99 年における輸入額の国内市場に対する割合は、

民生用電子機器 22.4%、民生用電気機器 4.8%、電子計算機・同付属装置 29.5%、通信機械 12.2%、乗

用車 11.1%、トラック・バス・その他の自動車 0.8%である。

Ⅳ.利益率カーブの検証からの示唆と含意 本章では、Ⅱ、Ⅲ章で行った利益率カーブおよび補正利益率カーブの計測によるスマイ

ルカーブ化現象の検証結果からの示唆についてまとめ、その結果から近年の環境変化のな

か、重要と考えられる加工組立型製造業における利益率向上策について述べる。

1.利益率カーブ、補正利益率カーブの計測結果からの示唆 Ⅱ、Ⅲ章における利益率カーブ、補正利益率カーブの計測結果から示唆される主な事項

は、次のとおりである。 ① スマイルカーブ化は加工組立型製造業に一般的な現象ではなく、その一部にみられ

る現象に過ぎない。 ② 一部の加工組立型製造業に観察されるスマイルカーブ化も、「中核部品の標準化や

モジュール化に伴う競争激化による加工組立における利益率の低下」という本源的

なスマイルカーブ化のメカニズムによるものは、さらにその一部に過ぎず、スマイ

ルカーブ化が労働分配率の上昇に伴う現象として生じている業種が多い。 ①については、Ⅱ章における利益率カーブの計測結果において、加工組立型製造業全体

のスマイルカーブ化は顕著ではなく、個別産業での検証結果でもスマイルカーブ化が検証

されたのは6業種中3業種に過ぎなかったことから明らかである。 ②については、Ⅲ章での労働分配率を補正した利益率カーブの計測により、スマイルカ

ーブ化が、補正前に観察された民生用電子機器、トラック・バス・その他の自動車で補正

後には観察されなくなったことが示している。しかし電子計算機・同付属装置では、補正

利益率カーブの計測では、補正前よりスマイルカーブ化が顕著にかつ早期から観察された

ことから、業種によっては本源的な意味でのスマイルカーブ化も生じているものとみられ

る。

2.加工組立型製造業における利益率向上策への含意

前項でみたような示唆から、加工組立型製造業における利益向上策として、本源的なス

マイルカーブ化を前提とするものは一般性を持たないと考えられる。すなわち民生用電気

機械のように加工組立の利益率が高くスマイルカーブ化が観察されない業種については、

経営資源をその上下流である素材・部品、サービス等へ移し利益率を向上させるという戦

略は成り立たない 19。また通信機械や乗用車のように 90 年代後半の利益率カーブがスマイ

ルカーブの形状をしていても、それはそれ以前のカーブの下ずれに過ぎないという場合は、

直ちに経営資源をその上下流へ移転するという戦略が良いことにはならない。これは利益

率の格差が、90 年代後半になって生じたものではなく、それ以前からあったものであるた

19 ただし計測が 99 年までであるため、それ以降の変化については留意が必要である。

22

め、現在の経営資源の移転を良しとするには、なぜ 85、90 年にそうした戦略が採用されな

かったのかという理由、またその後そうした背景に何らかの変化が生じたという説明が必

要だからである 20。 またスマイルカーブ化が観察された業種については、経営資源の上下流への移転という

戦略は成り立つが、それが本質的な対応策であるかどうかについては各業種のスマイルカ

ーブ化の要因により異なってくる。本源的なスマイルカーブ化が観察される業種では、本

質的な戦略であるとみられる。しかし労働分配率の上昇によりスマイルカーブ化が観察さ

れる業種では状況が異なる。これは加工組立における利益率の相対的低下が、競争激化に

よる付加価値率の低下のもとでの利益率の低下ではなく、労働分配率の上昇によるもので

あるからである。したがって労働分配率を低下させることができ、民生用電子機械の補正

利益率カーブの計測結果にみられるように、加工組立の利益率が上下流の利益率を上回る

場合については、経営資源を上下流に移すという戦略は本質的なものではない。また補正

利益率カーブでトラック・バス・その他の自動車のように、バリューチェーンの片方の段

階とは利益率格差がなくなり、もう一方と比較すると利益率が若干低い場合でも、相対的

に利益率の高い段階に経営資源を移転しない合理的な理由が存在する場合は、経営資源を

上下流に移す戦略は本質的なものではない。 以上の本稿でのスマイルカーブ化現象の検証結果から示唆される加工組立型製造業にお

ける利益率向上策としては次のとおり。 ① 労働分配率の引下げ ② 本源的スマイルカーブ化が観察される業種でのバリューチェーンの上下流への進

出の検討 なお、①の労働分配率の引下げについては、労働分配率の上昇によりスマイルカーブ化

が観察される業種だけでなく、スマイルカーブ化が観察されなくても、乗用車のように労

働分配率の上昇がバリューチェーンの他段階に比較してその利益率を相対的に低くしてい

る業種についても、適用される利益向上策である。労働分配率を低下させるためには、平

均的な賃金率を低下させるか、労働者数を減少させるかもしくはその双方の対策が必要で

ある。このうち前者の対策として実力主義賃金体系への移行について補論2において述べ

る(後者の対策である少数精鋭による事業体制の構築については、木村[2003]Ⅳ章 3-(1)

にて述べている)。 本稿におけるスマイルカーブ化の検証からみて、90 年代以降の経済の低迷、グローバル

化により国際的競争が激化するなかでの厳しい事業環境のもと、加工組立型製造業の各業

種において利益率の向上を図っていくには、正確な現状把握に基づいた判断を行うことが

必要である。一般のスマイルカーブ化現象論で主張されるようなバリューチェーンの上下

20 例えば、経営資源を移転してこなかった理由として上下流へ参入し利益を上げるためのノウハウなどの

障壁、利益率の変動等のリスク状況などについて検討が必要と考えられる。

23

24

流への進出を、正確な事業環境の把握に基づかずに行うことは、労働分配率の引下げとい

う対策をとれば依然収益性が高く、各企業にとってノウハウを蓄積し競争力が高い事業領

域を弱体化させることにもつながりかねない。したがって事業環境について利益率変動の

要因などを正確に把握し、その分析に基づき利益率向上への障害を排除、あるいは収益拡

大のチャンスを的確に生かすための方策を実行していくことが重要であると考えられる。

補論1.利益率カーブの計測方法の詳細 Ⅱ-2で概要を述べた利益率カーブの計測方法は、3つの段階、①産業連関表の統合小

分類における部門別の総資本営業余剰率の算出、②個別業種で計測対象としている6業種

の利益率カーブについて集計対象となる部門の特定、③利益率の集計――に分けることが

できる。以下では、この段階のそれぞれを説明する。

1.産業連関表における統合小分類部門別の総資本営業余剰率の算出

産業連関表における統合小分類(184 部門)の部門別の総資本営業余剰率の算出は、さら

に以下の3ステップに分解される。 ① 産業連関表の統合小分類(184 部門)の部門ごとに、営業余剰を国内生産額で除し国

内生産額営業余剰率を算出する。ここで用いる産業連関表は、総務庁『昭和 60-平成

2-7年接続産業連関表』生産者価格表(名目)、経済産業省経済産業政策局調査統

計部『平成 9年産業連関表(延長表)』生産者価格表、『平成 11 年産業連関表(延長

表)』生産者価格表である。

② 昭和 60 年度、平成2、7、9、11 年度法人企業統計年報のそれぞれについて 37 業種

分類ごとに総資本回転率を算出する 21。

③ 産業連関表における統合小分類の 184 部門の各部門が、法人企業統計年報の 37業種

のどの業種に対応するかを特定する(184 部門と 37 業種の対応は付表参照)。特定し

た対応にしたがって、①の国内生産額営業余剰率に②で求めた総資本回転率を乗じ

各暦年の総資本営業余剰率とする。

2.利益率カーブの集計対象部門の特定

前節で求めた産業連関表における統合小分類(184 部門)の部門別の総資本営業余剰率を、

素材・部品、加工組立、販売、サービス等というバリューチェーンの段階ごとに、産業連

関表の部門とバリューチェーンの各段階の対応に基づき集計する。184 部門の各部門と、素

材・部品、加工組立、販売、サービス等というバリューチェーンの各段階への対応区分は

付表のとおりである。

Ⅱ章でも述べたように、加工組立型製造業の全般についての利益率カーブは、すべての

部門がバリューチェーンに属するものとみなし、総資本営業余剰率を集計する。ただ、本

稿で検証を試みているスマイルカーブ化現象は、加工組立型製造業を中心にみたバリュー

21 卸売業と小売業については、産業連関表に計上される国内生産額が商業マージンである。したがって、

この2業種の総資本回転率は、①の国内生産額営業余剰率に乗じた場合に総資本営業余剰率となるよう、 総資本÷(売上高-売上原価)の数値とした。

また暦年ベースである産業連関表のデータに対する年度ベースである法人企業統計年報のデータの調整

は行っていない。

25

チェーンのどの段階で利益率が上昇しあるいは下落しているかというものであり、「企業

はどの段階へ取り組むことにより利益率が向上できるか」という観点と強く結びついたも

のであるため、以下の部門は集計対象から除いている。 ① 公的部門および規制などにより民間の営利法人が参入できない、または特定の事業

者のみしか事業を行うことをできない部門 22:公務(中央)、公務(地方)、学校教育

23、電力(85~95 年度)24、水道、郵便、その他公共サービス、公共事業、社会保障 ② 営業余剰の計上が無い部門:鉄屑、非鉄屑、企業内研究 ③ 持家の帰属家賃の計上:住宅賃貸料 25 ④ 暫定生産額、誤差集積部門:事務用品、分類不明 ⑤ 使用できるデータに制約があり、計測した全ての年において低利益率で、使用総資

本額が大きく集計対象とすると集計した段階への影響が大きい部門:金融業、保険

業 26 なお、これらの部門の集計対象からの除外は、以下に総資本営業余剰率における集計対

象部門の特定方法について述べる個別の 6 業種でも同様に扱っている。 個別の 6 業種では、総資本営業余剰率を算出した 184 部門のなかで各業種のバリューチ

ェーンに関係し、利益率カーブの集計対象となるのはどの部門となるのかを特定する必要

がある。各業種のバリューチェーンにおける集計対象部門の特定方法の基本的考え方は、

次のとおりである。①産業連関表で利益率カーブの計測対象の部門(以下計測対象部門)

において投入金額大きい部門と、産業連関表の付属表である固定資本マトリックスにおい

22 医療については、医療機関については医療法によって営利を目的とした機関の開設は認められていない。

しかし産業連関表の統合小分類の医療には、営利法人の参入が認められている歯科技工業、滅菌業(医

療器材)などが含まれるため集計対象とした。 23 学校教育は各種学校については営利法人の参入が可能であるが、産業連関表上の列部門の学校教育には

行部門として営業余剰が存在しないため除外部門とした。 24 産業連関表の統合小分類の電力は事業用電力と自家発電を含むが、このうち自家発電は営業余剰の計上

が無いため②の理由によって集計対象ではない。事業用電力には、一般電気事業者、卸電気事業者と特

定電力事業があるが、改正電気事業法の 95 年 12 月の施行以前は一般電気事業者と卸電気事業者だけで

あり、一般電気事業者は 10 の供給区域別の事業者、卸電気事業者も電源開発、日本原子力発電、共同火

力発電及び公営の事業者のみであった。改正電気事業法の 95 年 12 月の施行により卸電気事業への参入

が自由化され、また特定電力事業が創設された。さらに 2000 年 3 月の電気事業法の改正施行により小

売供給の自由化が開始された。これ以前の 92 年から分散型電源からの電力会社による余剰電力買取制度

が開始されていたが、低買取価格、安定供給などの厳しい条件から実質的には機能していなかった。し

たがって本稿では電力については、事業への参入の自由化開始以前の 85~95 年について集計対象から除

いている。 25 住宅賃貸料には事業として行う住宅賃貸の対価としての住宅賃貸料も含まれるが、帰属家賃との分離が

できないため除外部門とした。 26 金融業、保険業は法人企業統計年報の調査対象業種となっていないため、これに代替するデータとして

金融業は全国銀行連合会『全国銀行財務諸表分析』の全国銀行のデータを、保険は保険研究所『インシ

ュアランス』生命保険特集号の財務諸表における全社合計のデータ、保険研究所『インシュアランス』

損害保険特集号の財務諸表における計のデータを用いて、本補論記載の方法で総資本営業余剰率を計測

した結果による。本来金融は全国銀行以外の金融機関のデータも用いるべきであり、保険についても生

命保険代理店、損害保険代理店などのデータも用いるべきである。特に個別の6業種では、全国銀行以

外の金融のデータや生命保険代理店、損害保険代理店などのデータが重要になるとみられ、個別業種で

の集計対象からの除外は、こうしたデータを用いることができなかった点も理由となっている。

26

て計測対象業種からの産出金額の大きい部門を特定する。②さらに①で特定した部門にお

いて、投入金額の大きい部門として特定した部門は、さらにその部門での投入金額の大き

い部門を産業連関表により特定する。また産出金額の大きい部門として特定した部門はさ

らにその部門からの産出金額の大きい部門を産業連関表により特定する。このように2段

階にわたって特定した部門のすべてと計測対象部門自身を集計対象部門とする。 具体的な個別業種での集計対象部門の特定方法は以下のとおりである。 ① 産業連関表 184 部門表で、個別利益率カーブ計測対象の各部門の投入金額上位 10 部

門と、その 10 部門それぞれの投入上位 5 部門を特定する。 ② 昭和 60 年、平成 2 年および 7 年の産業連関表の固定資本マトリックス(民間:各年そ

れぞれ 102 部門、103 部門、105 部門)で、各個別利益率カーブの計測対象部門の産

出する資本財を以下とする。 民生用電子機器:電気音響機器、ラジオ・テレビ受信機 民生用電気機器:民生用電気機器 電子計算機・同付属装置:電子計算機本体、電子計算機付属装置 通信機械:有線電気通信機器、無線電機通信機器、その他の電機通信機器 乗用車:乗用車 トラック・バス・その他の自動車:トラック・バス・その他の自動車

③ 昭和 60 年、平成2、7年産業連関表の固定資本マトリックス(民間)の部門と接続

産業連関表の 184 部門表とを対応させ、各利益率カーブの計測対象部門の産出する資

本財について固定資本マトリックスの総固定資本形成額を 184 部門に対応させる(固

定資本マトリックスの 102~105 部門で 184 部門のうち複数が対応するものは、対応

部門数で等分割した額を各部門の額とした)。 ④ 各個別利益率カーブの計測対象部門が産出する資本財の総固定資本形成額の上位 10

部門を特定する(97,99 年は 95 年における特定を適用)。ただし、この 10 部門に乗用

車、トラック・バス・その他の自動車では貸自動車業、自動車修理が、その他の集計

対象4業種では物品賃貸業(除貸自動車業)、機械修理が含まれない場合には、これ

らの部門を 10 部門に加えて特定する。 ⑤ ④で特定した部門のそれぞれの部門からの産出上位 5 部門を特定する。 ⑥ ①、④、⑤で特定した部門および計測対象部門を集計対象とする。

3.利益率の集計

前節で特定した集計対象部門について、1節で算出した 184 部門の総資本営業余剰率を以

下のように集計する。

① 接続産業連関表、産業連関表(延長表)それぞれの 184 部門の国内総生産額に、(1)-

③と同じ対応関係で、(1)-②で算出した法人企業統計年報の総資本回転率を乗じ、各

部門の総資本額を算出する。

27

28

② 各部門のバリューチェーンの各段階との対応区分関係は、前節で述べたように付表のと

おりとし、①で算出した部門別の総資本額をウェイトにバリューチェーンの段階ごとに

総資本営業余剰率を加重平均し集計する。 こうして集計された総資本営業余剰率により利益率カーブを描く。

補論2.実力主義賃金体系への移行 わが国の賃金体系は 90年代に一部に成果主義導入の動きが出てきたものの、依然年功制

の強い職能基準を中心としたものである。バブル期に大きく上昇した一人当たり賃金額は、

景気が 91年2月の山を越え 90年代の長期の低迷状況に入った後も 97年まではほぼ一貫し

て上昇を続け、98、99 年には若干の低下も見られたが、その後はまた上昇している。

産業計 27、製造業および個別の利益率カーブの計測対象業種を含む電気機械器具製造業、

輸送用機械器具製造業の一人当たり賃金額を比較すると 91 年以降の上昇率は特に電気機械

器具製造業で大きく、2001 年の 90 年に対する上昇率は 28.2%(Ⅱ、Ⅲ章での利益率カー

ブの最も新しい計測年である 99 年の 90 年に対する上昇率は 23.9%)と、90 年の 85 年に

対する上昇率の 22.5%を上回る。輸送用機械器具製造業では、上昇率はこれより落ちるも

のの 2001 年の 90 年に対する上昇率は 15.3%(同 13.6%)と、90 年の 85 年に対する上昇

率の 16.5%に近い水準である。これらに対し産業計、製造業では 2001 年の 90 年に対する

上昇率は、90 年の 85年に対する上昇率に対してやや小さくなっているが 28、賃金額の上昇

傾向は同様である。

1.ベースアップと定期昇級の寄与が大きい賃金総額増加

90 年代も続いてきた一人当たり賃金額の増加が、2001 年と 85 年を比較し賃金総額全体

の増加にみた場合どの程度影響をしてきたのかを、賃金総額全体の増加率を賃金体系の変

化によるもの(ベースアップ要因)、労働者の年齢構成の変化によるもの(定期昇級要因)

と労働者数の変化によるもの(労働者数要因)に寄与度分解することによってみる 29。これ

は全労働者への賃金総額についてだけでなく、製造業、電気機械器具製造業、輸送機械器

具製造業については、同様な影響を生産労働者と管理・事務・技術労働者に分けた場合に

ついてもみる。また景気の情勢による超過実労働時間数、賞与の増減への影響を除いて考

えるために所定内給与についての分析も行う。

寄与度分解の結果は、どの業種でも全労働者でみるとベースアップ要因の寄与度が最も

大きく、労働者数要因はマイナスの寄与度となっている。これは賃金総額でみても所定内

給与でみても同様である。製造業、輸送機械器具製造業では、労働者数要因の寄与度のマ

イナス幅が大きかったものの、ベースアップ要因の寄与度の大きさが賃金総額の変化率自

27 労働省政策調査部、厚生労働省統計調査部『賃金センサス』によっているため、全産業は産業計のデー

タを用いている。 28 産業計、製造業の 2001 年の 90 年に対する上昇率は、各 15.2%、18.2%(90 年比の 99 年は各 13.8%、

15.9%)であり、90 年の 85 年に対する上昇率は各 20.3%、19.6%である。 29 寄与度分解は以下のような方法による。まず次の4つの賃金総額を算出する。①85 年の実際の賃金総額、

②2001 年の賃金体系が 85 年の労働者(労働者数、年齢構成とも)に適用されたとした場合の賃金総額、

③2001 年の賃金体系が 2001 年の年齢構成を持った 85 年の数の労働者に適用された場合の賃金総額、

④2001 年の実際の賃金総額。次に寄与度を以下の定義に基づき算出する。ベースアップ要因:②の①に

対する変化率、定期昇級要因:③の②に対する変化率、労働者数要因:④の③に対する変化率

29

体を上回っており、労働者数削減による合理化のコスト削減効果の賃金率引上げによるコ

ストアップによる吸収が目立つ。

生産労働者、管理・事務・技術労働者別にみると、生産労働者ではベースアップ要因の

寄与が大きいことは全労働者でみた場合と変りはないが、労働者数要因のマイナスの寄与

がベースアップ要因のプラスをほぼ相殺する大きさであり、生産現場では人員削減を進め

賃金総額を抑制してきたことが判る。しかし管理・事務・技術労働者では、労働者数要因

の寄与は製造業ではマイナスであるものの、電気機械器具製造業、輸送機械器具製造業で

は定期昇級要因を上回るプラスの寄与であり、特に電気機械器具製造業ではベースアップ

要因に迫る大きさの寄与度となっている。また電気機械器具製造業は定期昇級要因の寄与

度も大きく、その結果賃金総額は 66.3%増と増加が著しい(図表補2-1)。

図表補2-1 2001 年の賃金の 85年に対する増加率の寄与度分解

  賃  金  総  額 所  定  内  給  与

全労 生産 管理・事 全労 生産 管理・事働者 務・技術 働者 務・技術

電 増加率 41.2% 10.6% 66.3% 47.0% 13.5% 76.4%気 ベースアップ 34.6% 45.7% 25.4% 41.6% 50.5% 33.8%機 定期昇級 14.5% 9.8% 18.4% 14.2% 9.1% 18.7%械 労働者数 -7.9% -44.9% 22.5% -8.9% -46.1% 23.9%

輸 増加率 25.7% 5.4% 47.4% 33.0% 10.2% 54.4%送 ベースアップ 33.6% 30.9% 27.0% 40.9% 36.7% 33.0%機 定期昇級 6.4% 3.8% 9.8% 6.9% 4.1% 10.4%械 労働者数 -14.2% -29.3% 10.6% -14.8% -30.6% 11.1%

製 増加率 14.6% 0.2% 32.2% 18.3% 5.2% 37.9%造 ベースアップ 32.5% 36.9% 27.2% 36.9% 43.1% 32.1%業 定期昇級 5.5% 1.6% 10.3% 5.6% 1.8% 10.7%

労働者数 -23.5% -38.4% -5.3% -24.3% -39.8% -4.9%

産 増加率 35.9% 40.3%業 ベースアップ 34.0% 38.6%計 定期昇級 4.5% 4.4%

労働者数 -2.6% -2.7%

(資料)労働省政策調査部、厚生労働省統計調査部『賃金センサス』、厚生労働省資料

2.賃金上昇に対する影響の大きい賃金プロファイルの状況とその変化

前節のベースアップ要因と定期昇級要因による賃金上昇の背景には、賃金プロファイル

がある。ベースアップ要因は、85年から 2001 年への賃金プロファイルの変化による賃金変

動である。また定期昇級要因は、労働者の年齢構成の変化による賃金の変動であるから賃

金率の年齢による格差、すなわち賃金プロファイルの傾きにより決定される変動である。

産業計では全労働者について、製造業、電気機械器具製造業、輸送機械器具製造業では

生産労働者、管理・事務・技術労働者別に 85 年と 2001 年の所定内給与についての賃金プ

ロファイルをみる。これらのすべてに共通して 2001 年のプロファイルは、85 年から大きく

30

上方にシフトしている。このシフトがベースアップ要因による賃金上昇をもたらしている。

また生産労働者に比べ、管理・事務・技術労働者の賃金プロファイルは年齢の上昇に伴う

賃金の上昇、すなわち賃金プロファイルの傾きが大きい。この上昇が管理・事務・技術労

働者の定期昇級要因を大きくしている。

業種別にみると、電気機械器具製造業では生産労働者の賃金プロファイルが相対的に平

坦でピークの賃金も低い(2001 年で 284.4 千円、製造業 348.1 千円、輸送機械器具製造業

329.4 千円)。しかし管理・事務・技術労働者では賃金プロファイルの傾きが相対的に急で、

ピークの賃金も高い(2001 年で 515.1 千円、製造業 466.8 千円、輸送機械器具製造業 481.3

千円)。電気機械器具製造業での賃金上昇は、この賃金プロファイルの形状などからから管

理・事務・技術労働者の寄与が大きい。すなわち賃金プロファイルの上方シフトは他と比

べて目立って大きくはないが、賃金プロファイルの形状から定期昇級要因による大きな上

昇があり、さらに労働者数の増加からの賃金増大も影響も顕著である(図表補2-2)。

図表補2-2 85 年と 2001 年の賃金プロファイル(所定内給与)

電気機械器具製造業

0

100

200

300

400

500

600

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

~歳

千円

管理・事務・技術85年管理・事務・技術2001年生産85年生産2001年

輸送用機械器具製造業

0

100

200

300

400

500

600

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

千円

管理・事務・技術85年

管理・事務・技術2001年

生産85年

生産2001年

産業計

0

100

200

300

400

500

600

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

千円

全労働者85年

全労働者2001年

製造業

0

100

200

300

400

500

600

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

千円

管理・事務・技術85年管理・事務・技術2001年生産85年生産2001年

(資料)労働省政策調査部、厚生労働省統計調査部『賃金センサス』、厚生労働省資料

3.定期昇級要因には労働者の年齢構成比も大きく影響

ここでは賃金プロファイルとともに定期昇級要因について賃金上昇への影響の大きい労

働者の年齢構成についてみる。

31

85 年と 2001 年の労働者の年齢構成は、産業計の全労働者、あるいは製造業、電気機械器

具製造業、輸送機械器具製造業の生産労働者、管理・事務・技術労働者のいずれをみても

2001 年に 85 年比で 50~54、55~59 歳の年齢層の割合が増加していることが目立つのが特

徴である。また電気機械器具製造業以外では、35~39、40~44 歳の年齢層における構成比

の減少が顕著である。しかし電気機械器具製造業では、生産労働者、管理・事務・技術労

働者ともにこの年齢層の構成比の減少は顕著ではなく、20~24 歳の構成比の減少が大きい。

定期昇級要因による賃金上昇率は賃金プロファイルとともに、このような労働者の年齢構

成の変化によっても大きな影響を受けていることがわかる(図表補2-3)。

図表補2-3 労働者の年齢層別構成比

電気機械器具製造業

0%

5%

10%

15%

20%

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

~ 歳

生産2001年

管理・事務・技術2001年

生産85年

管理・事務・技術85年

産業計

0%

5%

10%

15%

20%

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

~歳

2001年

85年

製造業

0%

5%

10%

15%

20%

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

~歳

生産2001年

管理・事務・技術2001年

生産85年

管理・事務・技術85年

輸送用機械器具製造業

0%

5%

10%

15%

20%

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

生産2001年

管理・事務・技術2001年

生産85年

管理・事務・技術85年

( 注 )生産は生産労働者、管理・事務・技術は管理・事務・技術労働者 (資料)労働省政策調査部、厚生労働省統計調査部『賃金センサス』、厚生労働省資料

4.今後も予想される定期昇級要因による賃金上昇

前節まで、今までの賃金上昇の要因をみてきたが、ここでは今後の賃金上昇の可能性を

みる。前節の労働者の年齢構成を改めて 2001 年についてみると、年齢層別構成比のグラフ

は生産労働者、管理・事務・技術労働者ともにM字型をしている(図表補2-4)。したが

って今後の賃金総額は、賃金プロファイルに変化がないとすると、構成比が高い2つの年

齢層における年齢の上昇による影響を強く受ける。

2001 年の賃金プロファイルを前提に賃金総額を考えると、この2つのピークのうち 50~

32

54 歳のピークについては、50~54 歳と 55~59 歳の年齢階層の賃金水準にはほとんど違い

がないため賃金総額の上昇要因にはならない。むしろ 60 歳以降は、定年で退職するか低賃

金率に移行するため 2011 年までこの年齢階層が、賃金総額の引き下げ要因となるとみられ

る。しかしもう1つの 25~29 歳または 30~34 歳を中心とするピークは、賃金プロファイ

ルにしたがって賃金が上昇していくため長期にわたって賃金総額の押し上げ要因となる。

特に管理・事務・技術労働者については、賃金プロファイルが 50~54 もしくは 55~59 歳

のピークまでの傾きが急であるため、20~25 年間にわたって定期昇級要因により賃金総額

を上昇させ続ける要因となる。また電気機械器具製造業では、年齢構成比のピークが高い

うえに賃金プロファイルの傾きが急であるため、特に賃金総額を押し上げる要因となる。

図表補2-4 2001 年労働者の年齢層別構成比

生産労働者

0%

5%

10%

15%

20%

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

製造業

電気機械器具製造業

輸送用機械器具製造業

管理・事務・技術労働者

0%

5%

10%

15%

20%

~17

18~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

60~

6465

製造業

電気機械器具製造業

輸送用機械器具製造業

(資料)労働省政策調査部、厚生労働省統計調査部『賃金センサス』、厚生労働省資料

5.賃金総額引き下げのため必要な実力主義賃金体系への移行

85 年以降に上昇した労働分配率を、平均的な賃金率を引き下げることで低下させるため

には、85年から 2001 年にかけて大きく上方シフトした賃金プロファイルの賃金上昇を打ち

消すように賃金体系を変化させる必要がある。またこの賃金体系は、前節で述べたような

労働者の年齢上昇による賃金総額の増加への懸念も同時に無くすものとする必要がある。

賃金総額の抑制のために、賃金プロファイルを 85年当時のレベルに低下させれば、労働

者数、構成が同様だとすれば、当然であるが賃金総額は 85 年レベルまで低下する。しかし

労働者の実際の年齢構成は上昇しているうえに、労働者のモティベーションの維持からい

って、このような方策は容認されない。したがって現在の主流である年功制の強い職能基

準による賃金決定基準から実力主義による賃金決定基準へと移行する必要がある。

(1)実力主義賃金体系への移行における問題点

年功的な賃金体系のもとでは、労働者の個々の限界生産能力と賃金率の間に乖離が生じ

ると考えられる。すなわち図表補2-5に概念図として示しているように、雇用後一定の

訓練期間中の賃金率は限界生産能力を上回るが、その後勤続年数が短く若い時の賃金率は

33

限界生産能力を下回る。しかし年齢の上昇とともに年功的な賃金率は上昇し、年齢が高く

なると賃金率が限界生産能力を上回る。このような賃金体系は、人的資本理論における企

業特殊訓練による生産性の高まりと、Lazear, E. P.による定年制と労働者のインセンティ

ブを考慮した賃金体系の議論 30 によって合理的なものと説明できる。しかし図表補2-2

(P31)にみるような賃金プロファイルの大きなシフトによる労働分配率の上昇の解消に

あたり、賃金プロファイルの単純な引き下げが難しい以上、このような賃金体系から新た

な賃金体系への移行が必要となる。この移行する体系として考えられるのが、実力主義に

よる賃金体系、すなわち賃金率と限界生産能力が一致した賃金体系である。

ただその際に問題となるのが、こうした賃金体系は年功的な賃金の持つ合理性に反する

ことである。すなわち企業特殊訓練による生産性の高まりがある業務の場合、労働者を十

分に確保できなくなるおそれがあり、また労働者の手抜きを防止するインセンティブが無

くなってしまうおそれがあるからである。これは以下の様に説明される。すなわち企業特

殊訓練による生産性の高まりがある業務では、訓練による生産性の高まりは訓練を受けた

企業内でのみ発揮されるものである。しかし労働者は企業限定的な能力向上よりも汎用的

な能力向上を重視すると考えられるため、訓練期間中に限界生産能力より高い賃金率が支

払われなければ、訓練による能力の高まりが汎用的な一般訓練を伴う業務に対し、従業員

の確保が難しくなると考えられる。また定年制のもとでは、従業員の手抜きの防止には、

若く勤続年数の短い時の賃金を低くし、年齢が高く勤続年数が長くなった時の賃金を高く

することが効果を持つ。これは若い時に限界生産能力を下回る賃金を受け取り、仕事への

手抜きにより途中で退職することとなった場合、高齢になった時に限界生産能力を上回る

賃金を受け取る機会を失うからである。

しかし以下のような状況から、こうした賃金体系の移行に伴う問題性は弱まっていくと

考えられる。すなわち、まず産業構造が変化するなかで労働者はどの会社でも役に立つ一

般的な能力を求める傾向を高めており 31、企業特殊訓練に伴う問題は小さくなっていくとみ

られる。またアンケート調査からは、今後終身雇用慣行が弱まっていく方向性や 20歳代後

半~40 歳台の労働者における転職志向の高まりを読み取ることができる 32。また「規制改

革推進3か年計画(再改定)」(2003 年 3 月閣議決定)にあるような円滑な労働移動を可能

とする規制改革が推進されており、終身雇用、年功賃金を若年層ほど肯定的にとらえてお

らずまた同じ会社に勤続することをこだわらない意識が若年層を中心に高まっている 33。さ

らに労働者全体に占める非正規従業員の割合の高まりなどから、定年制のもとでの労働者

30 Lazear[1979] 31 人事・労務管理研究会[1999]によると、就業意識に関する 85~86 年に行なった調査結果に比べ、98年に行なった調査結果では、「ライン管理職よりもスタッフとして専門的知識を活かすポストにつきた

い」とする回答割合(%)が 25~29 歳以上の年齢層で上昇し、30~34 歳以上の各年齢層では 10 ポイ

ント程度上昇している。 32 人事・労務管理研究会[1999]pp44-46、pp75-76 33 厚生労働省[2002]

34

のインセンティブに関する問題も小さくなっていくものとみられる。

図表補2-5 年功的な賃金体系の概念図

B賃金率・限界生産能力

年齢TO

B賃金率・限界生産能力

年齢TO

賃金率・限界生産能力

年齢TO

賃金率・限界生産能力

年齢TO

賃金率・限界生産能力

年齢TO

AB:賃金カーブ CD:企業内での仕事能力(価値限界生産力) O:就職年齢 T:定年年齢 ( 注 )Lazear[1979]の図の修正図

(資料)清家篤[1992]の図を一部変更

(2)移行に必要な対応および留意点

前項でみた状況から、今後次第に実力主義賃金体系への移行が容易になるとみられる。

しかし年功的賃金体系からの移行は、今後も多くの企業で業務内容に企業特殊的訓練が必

要な要素を含むとみられること、また定年制のもとでの雇用が主流である限り労働者のイ

ンセンティブに関する問題も存続するとみられることから、移行には賃金体系および制度

的な対応が必要になろう。すなわち企業特殊訓練の問題への対処は、訓練前後の賃金と限

界生産能力の乖離は残したままの賃金体系とすることが考えられる。また労働者のインセ

ンティブに関する問題は、これまで判例によっていた解雇ルールの原則の法制化 34 など解

雇権濫用法理を見直すことにより、定年制廃止へ向け企業がいつまでも労働者の雇用を保

障しなくてもすむように制度的整備を進める必要がある。

また実力主義賃金体系への移行にあたっては、実力を何で測定するかという点に留意が

必要である。営業職など成果の数値化が容易な職種での問題は少ないが、ホワイトカラー

の様に複数の業務目標を持ち、目標間で成果が判明するまでの期間が相違し、また成果が

測定不可能な重要な業務がある場合、成果を測定できる業務のみで実力を測定すると企業

の業務遂行に支障がでるものとみられる 35。 したがって賃金体系の移行にあたっては、単

なる成果主義ではなく、こうした職務の特性に応じた実力の測定方法の工夫が必要となる。

34 解雇ルールを明記した労働基準法の改正案が 2003 年 1 月 20 日からの第 156 回国会(通常国会)に提

出されている。 35 伊藤秀史[2003](pp220-221)は、2 種類の職務があり職務 1 のみ成果が測定可能であり、職務 2 は成

果が測定できないが重要である場合、職務 1 へのインセンティブを弱めることが企業の収益を最大化す

ることをプリンシパル・エージェントモデルによって示している。

35

付表 産業連関表 統合小分類の部門の区分と法人企業統計年報の業種との対応 区分:原材料部品 1、加工組立 2、販売 3、サービス等 4

統合小分類 区 分 法人企業統計年報原材料・部品 加工組立 販売 サービス等 対応業種

穀類 1いも・豆類 1野菜 1果実 1その他の食用作物 1 農業非食用 1畜産 1養蚕 1農業サービス 4育林 1素材 1 林業特用林 1海面漁業 1内水面漁業 1金属鉱物 1窯業原料鉱物 1砂利・砕石 1 鉱業その他の非金属鉱物 1石炭 1原油・天然ガス 1と畜 1 その他のサ畜産食料 1水産食料 1精穀・製粉 1めん・パン・菓子類 1農産保存食料品 1砂糖・油脂・調味料類 1 食料品製造業その他の食品 1酒類 1その他の飲料 1飼料・有機質肥料(除 1たばこ 1製糸・紡績 1織物 1ニット生地 1 繊維工業染色整理 1その他の繊維工業製品 1衣服 2その他の衣服・身の回 2 衣服・その他の繊維製品製造業その他の繊維既製品 2製材・合板・チップ 1その他の木製品 1家具・装備品 1 2 その他の製造業パルプ 1紙・板紙 1加工紙 1 パルプ・紙・紙加工品製造業紙製容器 1その他の紙加工品 1出版・印刷 1化学肥料 1ソーダ工業製品 1その他の無機化学基礎 1石油化学基礎製品 1有機化学中間製品 1合成ゴム 1 化学工業その他の有機化学基礎 1合成樹脂 1化学繊維 1医薬品 1石けん・界面活性剤 1塗料・印刷インキ 1

漁業

木材・木製品製造業

ービス業

36

統合小分類 区 分 法人企業統計年報原材料・部品 加工組立 販売 サービス等 対応業種

写真感光材料 1農薬 1 化学工業その他の化学最終製品 1石油製品 1石炭製品 1プラスチック製品 1タイヤ・チューブ 1その他のゴム製品 1 その他の製造業革製履物 2なめし革・毛皮・その 1 2板ガラス・安全ガラス 1ガラス繊維・同製品 1その他のガラス製品 1セメント 1 窯業・土石製品製造業生コンクリート 1セメント製品 1陶磁器 1その他の窯業・土石製 1銑鉄・粗鋼 1 鉄鋼業鉄屑 1熱間圧延鋼材 1鋼管 1冷延・めっき鋼材 1 鉄鋼業鋳鍛造品 1その他の鉄鋼製品 1非鉄金属製錬・精製 1 非鉄金属製造業非鉄金属屑 1電線・ケーブル 1その他の非鉄金属製品 1建設用金属製品 1建築用金属製品 1 金属製品製造業ガス・石油機器及び暖 1その他の金属製品 1原動機・ボイラ 2運搬機械 2冷凍機・温湿調整装置 2その他の一般産業機械 2鉱山・土木建設機械 2化学機械 2 一般機械器具製造業産業用ロボット 2金属加工・工作機械 2その他の特殊産業用機 2その他の一般機械器具 2事務用 2サービス用機器 2民生用電子機器 2民生用電気機器 2電子計算機・同付属装置 2通信機器 2電子応用装置 2 電気機械器具製造業電気計測器 2半導体素子・集積回路 1電子部 品 1重電機器 2その他の電気機器 1乗用車 2トラック・バス・その他の自動車 2 輸送機械器具製造業二輪自動車 2自動車部品・同附属品 1船舶・同修理 2 船舶製造・修理業鉄道車両・同修理 1 2航空機・同修理 1 2 輸送用機械器具製造業

石油製品・石炭製品製造業

非鉄金属製造業

37

統合小分類 区 分 法人企業統計年報原材料・部品 加工組立 販売 サービス等 対応業種

その他の輸送機械 2 輸送用機械器具製造業光学機械 2時計 2 精密機械器具製造業その他の精密機械 2玩具・運動用品 2その他の製造工業製品 1 2住宅建築 2非住宅建築 2建設補 修 4 建設業公共事業 2その他の土木建設 2電力 1 電気業都市ガス 1熱供給業 1 ガス・水道業水道 1廃棄物処理 4 その他のサービス業卸売 3 卸売業小売 3 小売業金融 4保険 4不動産仲介及び賃貸 4住宅賃貸料 4鉄道旅客輸送 4鉄道貨物輸送 4 陸運業道路旅客輸送 4道路貨物輸送 4外洋輸送 4沿海・内水面輸送 4港湾運送 4航空輸送 4貨物運送取扱 4 その他の運輸・通信業倉庫 4こん包 4その他の運輸付帯サ 4郵便 4電気通信 4その他の通信サービス 4放送 4 放送業公務(中央) 4公務(地方) 4学校教育 4社会教育・その他の教 4学術研究機関 4企業内研究開発 4医療 4保健 4社会保 障 4その他の公共サービス 4広告 4調査・情報サービス 4 事業所サービス業物品賃貸業(除貸自動 4貸自動車業 4自動車修理 4機械修理 4その他の対事業所サービス 4 事業所サービス業娯楽サービス 4 映画・娯楽業飲食店 4 小売業旅館・その他の宿泊所 4 旅館・その他の宿泊所その他の対個人サービ 4 個人サービス業事務用品 2分類不 明

その他の製造業

不動産業

水運業

その他の運輸・通信業

その他のサービス業

その他のサービス業

その他のサービス業

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