26
学: * 24 6 21 1 振動現象 1.1 なぜ振動現象を学ぶか? 学ん きた 学、 学、 違って、 (vibration) ある 1 いう わけ く、これらす てに する する。われわれ りに 、また 9 るこれ した が溢れている。そ れら あるが、 して ており、 学を じように る。よって、こ いって るが、 がら、 めていこう。ただし、レベルが する い。 問い げてみよ。 扱いに する、 大学 して [1, 2, 3] きる。 1.2 何と関係があるか?どんな役に立つか? 、さまざま れる。 を扱う、 学、 れる。また、ここ が、 んだトピック ある、 学、 ある 1 てく 学について れる。 [email protected], http://nonad.zouri.jp 1 を扱う あまり い。 して、共振、基準振動、フーリエ変 換、干渉、回折 げられる。こ よう ったさまざま があり、医学 い。超音波エコー、光ファイバー、核磁気 共鳴画像法 (MRI)、コンピュータ断層撮影 (CT) わる いろいろある。こ よう して れていく。 1.3 重要な公式:オイラーの公式 ここ を学 について しておこう。それ オイラーの公式 あり、以 よう ある。 e = cos θ + i sin θ (1) ただし、θ する。ここ cos θ, sin θ しているこ かる。 あるが、そこに っかっている いう ころがポイント ある。 いくつか があるが、大学レベ テイラー )を ある。 θ してテイラー して いく e =1+ + 1 2! () 2 + 1 3! () 3 + ··· (2) り、こ める Re{e } =1 - 1 2! θ 2 + ··· (3) Im{e } = θ - 1 3! θ 3 + ··· (4) これら まさに、cos θ sin θ をテイラー した しく る! わり。 1

物理学:振動波動のまとめ - nms.ac.jp物理学:振動波動のまとめ 藤崎弘士⁄ 平成24 年6 月21 日 1 振動現象 1.1 なぜ振動現象を学ぶか?今まで学んできた古典力学、電磁気学、熱力学と

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物理学:振動波動のまとめ

藤崎弘士∗

平成 24 年 6 月 21 日

1 振動現象

1.1 なぜ振動現象を学ぶか?

今まで学んできた古典力学、電磁気学、熱力学と

違って、振動 (vibration)はある物理の 1分野というわけではなく、これらすべてに共通する見方を提供

する。われわれの身の回りには振動現象、また 9節で述べるこれと関連した波動現象が溢れている。そ

れらは物理的な起源は異なる場合もあるが、現象と

しては似ており、数学を使うと同じように記述でき

る。よって、この講義は物理の授業といってもかな

り数学的になるが、常に物理的な背景や応用例など

にも触れながら、進めていこう。ただし、♣ は多少レベルが高いので、完全に理解する必要はない。

問い¶ ³身の回りの振動・波動現象を挙げてみよ。µ ´振動波動現象の物理的な取扱いに関する、理工系の

大学初学年用の本としては、[1, 2, 3] が推奨できる。

1.2 何と関係があるか?どんな役に立つか?

振動・波動は、さまざまな物理の分野で現れる。特

に動的な現象を扱う、古典力学、電磁気学で振動・

波動現象は豊富に現れる。また、ここでは触れない

が、もっと進んだトピックである、弾性学、流体力

学でもこの概念は有用である1。特殊な波動が出てく

る量子力学については最後に触れる。振動・波動で

[email protected], http://nonad.zouri.jp1凖静的な概念を扱う熱力学では振動・波動現象はあまり出て

こない。

の重要な概念として、共振、基準振動、フーリエ変

換、干渉、回折などが挙げられる。このような概念

を使ったさまざまな工学的な応用があり、医学も例

外ではない。超音波エコー、光ファイバー、核磁気

共鳴画像法 (MRI)、コンピュータ断層撮影 (CT)

など、振動・波動に関わる機器はいろいろある。こ

のような機器に関しても以下で一部触れていく。

1.3 重要な公式:オイラーの公式

ここで振動・波動を学ぶ上で非常に役に立つ数学

について説明しておこう。それはオイラーの公式で

あり、以下のような式である。

eiθ = cos θ + i sin θ (1)

ただし、θ は実数とする。ここで右辺は実部が cos θ,虚部が sin θ の複素数を表していることは簡単に分

かる。左辺は指数関数であるが、そこに純虚数の iθ

が乗っかっているというところがポイントである。

この式にはいくつかの証明法があるが、大学レベ

ルの証明法はテイラー展開(数学の授業参照)を使

うものである。両辺を θ に関してテイラー展開して

いくと、左辺は

eiθ = 1 + iθ +12!

(iθ)2 +13!

(iθ)3 + · · · (2)

となり、この実部と虚部を集めると、

Reeiθ = 1 − 12!

θ2 + · · · (3)

Imeiθ = θ − 13!

θ3 + · · · (4)

これらはまさに、cos θ と sin θ をテイラー展開した

ものに等しくなる!証明終わり。

1

しかし、このままだと狐につままれたような話な

ので、実際オイラーの公式を使って納得してみよう。

たとえば、以下のような式を考える。

eA+B = eAeB (5)

これは自明な式である。これに A = iα,B = iβ を

代入してみると、

ei(α+β) = eiαeiβ (6)

となる。ただし、α, β は実数とする。この左辺をオ

イラーの公式を使って「展開」すると、

ei(α+β) = cos(α + β) + i sin(α + β) (7)

右辺のほうは eiα, eiβ のそれぞれにオイラーの公式

を使うと、

eiαeiβ = (cos α + i sinα)(cos β + i sinβ)

= cos α cos β − sin α sinβ

+i(cos α sinβ + sinα cos β) (8)

となるので、式 (7) の実部と虚部と比べると、

cos(α + β) = cos α cos β − sinα sinβ (9)

sin(α + β) = cos α sinβ + sin α cos β (10)

となる。これは三角関数の加法定理に他ならない。

つまり、オイラーの公式から加法定理が導けた。

問い¶ ³ii, つまり、i の i 乗の値はいくつか?この値は

実際、1つには決まらない。それはなぜか?µ ´1.4 1つのバネによる振動:単振動

普通のバネは、平衡の位置(自然長)から引っ張

ると、その変位に比例した力で平衡の位置に戻ろう

とする性質がある。この力を式で表すと

f = −kx (11)

図 1: 上:静止した自然長のばね。下:x だけ自然長

から伸ばしたばね。

となる。ただし、x は平衡の位置から測った変位量

を表す(図 1)。この場合のニュートンの方程式は

md2x

dt2= −kx (12)

となる。これは 2階の微分方程式なので解くのが少々厄介である。そこで、連立の 1階の微分方程式に直す(力学のまとめ参照)。

dx

dt=

1m

p, (13)

dp

dt= −kx (14)

これを解くために、以下の複素数の変数を導入する。

z = x + ip√km

(15)

すると、これは式 (13), (14) から、

dz

dt= −i

√k

mz (16)

を満たす。これは dx/dt = ax というタイプの微分

方程式と同じなので、同じ解法が使える。つまり、一

般解は

z(t) = C1e−iωt (17)

2

となる。ここで、

ω =

√k

m(18)

と置いた。また、C1 は一般に複素数になっているこ

とに注意。初期状態を x(0) = x0, v(0) = 0(バネを伸ばして、静かに離す)とすると、

z(0) = C1 = x(0) + ip(0)√km

= x0 (19)

となって、C1 は実数になる2。よって、解は

z(t) = x0e−iωt (20)

となる。最後に、オイラーの公式を用いると、

z(t) = x0e−iωt = x0(cos ωt − i sinωt) (21)

となるので、z の定義から、

x(t) = x0 cos ωt, (22)

p(t) = −√

kmx0 sinωt (23)

となる。v = p/m なので、

v(t) = −√

k

mx0 sinωt = −ωx0 sin ωt (24)

とも書ける。dx/dt = v となっていることは簡単に

確かめられる。

問い¶ ³初期状態が x(0) = x0, v(0) = v0 という一般的

な状態のとき、解はどうなるか?µ ´さて、この解を使って、全エネルギー保存則が満た

されていることを示そう。まず、運動エネルギーは

Ekin =12mv(t)2 =

12mω2x2

0 sin2 ωt (25)

となって、時間とともに振動している。位置エネル

ギーは定義から

Epot = −∫ x

0

(−kx)dx =12kx2 (26)

2初速度があれば、C1 は複素数になる。

であり(ここで簡単のために、参照点 xref を原点に

とった)、位置エネルギーは

Epot =12kx2 =

12kx2

0 cos2 ωt (27)

となる。よって、

Ekin + Epot =12mω2x2

0 sin2 ωt +12kx2

0 cos2 ωt

=12kx2

0 (28)

となって(mω2 = k であることを使った)、全エネ

ルギーは時間に依らない。

1.4.1 振動の一般的な性質

この単振動に振動の一般的な性質は既に現れて

いる。図にあるように、振動とはある振動数 (fre-

quency) で振動する、振幅 (amplitude) をもった

周期運動のことである。一般的に振動を表す式は

x(t) = A cos(ωt + θ) (29)

となる。ここで ω が振動数、A が振幅である。上の

解では初期条件から θ = 0 となっていたが、θ は位

相 (phase) を表し、これも振動において非常に重

要な量である。位相は 2つ以上の振動があるときのその差を特徴づける量である。例えば、振動数と振

幅が同じ 2つの振動があるとする。

x1(t) = A cos(ωt + θ1) (30)

x2(t) = A cos(ωt + θ2) (31)

この場合、これらの振動は時間差が (θ1 − θ2)/ω だ

けずれている振動になっている(図 2)。

1.5 減衰振動

1.5.1 減衰振動の物理的意味

単振動の場合、その振動は長時間経っても振幅が

衰えることはない。しかし、実際の振動では、その

振動をスタートさせて、ある時刻が過ぎたら振幅が

3

-1

-0.5

0

0.5

1

0 5 10 15 20 25 30

x 1(t

),x 2

(t)

t

’./phase.out’ u 1:2’./phase.out’ u 1:3

図 2: A = 1.0, ω = 1.0, θ1 = 0.0, θ2 = 2.0 としたときの 2つの振動。このときは 2つの振動は時間が 2だけずれたものになっている。

ゼロになってしまう場合が多い。この簡単なモデル

として、減衰振動 (damping oscillation)がある。

これをニュートンの運動方程式で表現すると

dx

dt=

p

m(32)

dp

dt= −kx − γp (33)

となる。

この第 1式は運動量 p の定義と考えてもよい。第

2式が実質的にニュートンの運動方程式であり、運動量の時間変化(左辺)が力(右辺)と等しいとい

うことである。右辺の第 1項 −kxはバネの力で、こ

れは単振動の場合と変わらない。第 2項 −γpが新し

い項で、これは摩擦力 (frictional force)を表す。

摩擦力の物理的な意味は図 3 の通りである。いま考えている物体が環境中の多くの分子と相互作用し、

運動量を交換する。環境のある分子の運動は系にとっ

てランダムと考えてよいので、その統計平均が減衰

する力(摩擦力)を生み出す3。それがどのような関3厳密には青い球の運動はブラウン運動 (Brownian mo-

tion) と呼ばれるものになり、摩擦力以外にランダムな雑音の影響も加わって、ジグザグ運動をする。ブラウン運動は細胞内の現象を記述する上で基本となる概念である。

図 3: 摩擦力の説明。青い球にオレンジの球がいろんな方向からランダムにぶつかり、青い球は摩擦力

を感じる。

数形になるかは case by case であり、いまはもっともシンプルな場合を仮定した4。

1.5.2 減衰振動の解の性質

たとえば、摩擦力しかない (k = 0) という場合、式 (33) は

dp

dt= −γp (34)

となり、これは簡単に解けて、p(t) = p(0)e−γt とな

る。これから運動量が指数関数的に減衰するので、

運動エネルギーも減衰することが分かる。

次に、一般的に減衰振動の方程式を解こう。いく

つかの解き方があるが、ここではもっとも簡単と思

われるやり方で解く [1]。まず式 (32) を式 (33) に入れて整理すると、

d2x

dt2+ γ

dx

dt+ ω2x = 0 (35)

となる。ここで、式 (18)を使った。さて、x(t) = eλt

と仮定して、この式に代入すると、

λ2 + γλ + ω2 = 0 (36)

となる。この 2次方程式から 2つの解 λ+, λ− が得

られる。線形の微分方程式の解法より、式 (33) の解は一般に

x(t) = c+eλ1t + c−eλ2t (37)4たとえば、摩擦力が −γ1p − γ2p2 となるケースもある。

4

と表せる5。

λ+, λ− は実際に書き下すと

λ+ =−γ +

√γ2 − 4ω2

2(38)

λ− =−γ −

√γ2 − 4ω2

2(39)

であり、平方根の中身によって以下の2種類に分類

される6。

-1

-0.5

0

0.5

1

0 5 10 15 20 25 30

x(t)

t

’./damped1.out’

-1

-0.5

0

0.5

1

0 5 10 15 20 25 30

x(t)

t

’./damped2.out’

図 4: 左:ω = 1.0, γ = 0.1, c+ = c− = 0.5 のときの減衰振動。右:ω = 1.0, γ = 3.0, c+ = c− = 0.5 のときの減衰振動。

• γ が十分小さいとき (γ < 2ω): このとき、有効振動数を

Ω = ω

√1 − γ2

4ω2(40)

で定義すると、一般解は

x(t) = e−γt/2(c+eiΩt + c−e−iΩt) (41)

と書ける。オイラーの公式を使うと、括弧の中

は振動数 Ω で振動しているが、それにかかっている因子は時間とともに減衰していることが分

かる。図 4 左を参照。

• γ が十分大きいとき (γ > 2ω) この場合は、λ+, λ− はともに負の実数になり、解は振動せ

ずに減衰していく。図 4 右を参照。

5これが実際、解になっていることは代入してみれば分かる。また、C+, C− は初期条件から決まる定数である。

6細かいことを言うと 3 種類に分類される [1]。

問い¶ ³x(0) = x0, v(0) = 0 という初期状態のとき、減衰振動の係数 c+, c− がどうなるか求めよ。µ ´

1.6 強制振動

1.6.1 強制振動の解の性質

さて、減衰振動を理解できれば、強制振動 (forced

oscillation)の議論に進むことができる。強制振動

とは、減衰振動する振動に外部から周期的な外場をか

けることを意味する。式で書くと以下のようになる。

dx

dt=

p

m(42)

dp

dt= −kx − γp + f cos ωf t (43)

つまり、減衰振動の場合と比べると、f cos ωf t とい

う時間に依存する力が余分にかかっているというこ

とである。

このニュートン方程式を整理すると

d2x

dt2+ γ

dx

dt+ ω2x =

f

mcos ωf t (44)

となる。この微分方程式を解くために、実数の x(t)ではなく、複素数の z(t) を使うことにしよう。つまり、

d2z

dt2+ γ

dz

dt+ ω2z =

f

meiωf t (45)

を考える。この式の実部が式 (44)になることはオイラーの公式からすぐ分かる。

この場合も減衰振動の場合と同様に指数関数を解

として仮定しよう。ただし、外部から ωf という振

動数で揺さぶっているので、解も

z(t) = Aeiωf t (46)

という形になることを仮定しよう7。これを式 (45)に代入すると、

(ω2 − ω2f + iγωf )A =

f

m(47)

7正確にはこれは特解であり、これに減衰振動のときに求めた解を足すことで一般解が得られる。しかし、減衰振動の解は減衰してゼロになるので、ここでは最初から除いた。

5

が得られる。よって、

A =f

m

1ω2 − ω2

f + iγωf(48)

となる。解 x(t) は z(t) の実部であるから、

x(t) = Rez(t) = ReAeiωf t

= |A| cos(ωf t + δ) (49)

ここで

A = |A|eiδ (50)

として、A の絶対値 |A| とその位相 δ を導入した。

絶対値は

|A| =√

AA∗ (51)

として計算できるので、

|A| =f

m

1√(ω2 − ω2

f )2 + γ2ω2f

(52)

となる。位相 δ に関しては、オイラーの公式を使っ

て計算してみると、

cos δ =ω2 − ω2

f√(ω2 − ω2

f )2 + γ2ω2f

(53)

という関係を満たすことが分かる。これから δ が求

まる。

問い¶ ³この関係式 (53) を確かめてみよ。µ ´

1.6.2 ラジオ (radio)

さて、上の強制振動の意味をさらに知るために、

具体的な例を出そう。それは電磁気学でも出てきた

LCR 直列回路である。LCR 直列回路とは、コンデンサ、コイル、抵抗が直列につながったもので、図

5 のようになっている回路である。これに交流電圧をかけることを考えると、その満たすべき方程式は

LdI

dt+ RI +

Q

C= V0 sinωf t (54)

図 5: LCR 回路。

となる。これを一回 t で微分し、I = dQ/dt を代入

すると、

d2I

dt2+

R

L

dI

dt+

1LC

I =V0ωf

Lcos ωf t (55)

となる。これは

γ ↔ R

L,ω2 ↔ 1

LC,

f

m↔ V0ωf

L, (56)

という読み替えをすると、式 (44)と全く同じである。よって、解は

I(t) = |A| cos(ωf t + δ) (57)

ただし、

|A| =V0ωf

L

1√( 1

LC − ω2f )2 + R2

L2 ω2f

= V01√

R2 +(ωfL − 1

ωf C

)2(58)

となる。δ に関しては式 (53) から計算できる。よって、回路のインピーダンス8は Z = V0/|A| から、

Z =

√R2 +

(ωfL − 1

ωfC

)2

(59)

8インピーダンスとは、抵抗の概念を交流回路に対して一般化したものであり、交流の電圧÷交流の電流で定義される。

6

となる。さて、これから、

ωfL =1

ωfC(60)

つまり、

ωf =1√LC

(61)

のとき、Z は最小になり、電流の大きさ |A| は最大になる。図 6 を見よ。ラジオを聞くときは、ダイアルを回してある特定の周波数に合わせるが、そのと

きは、C を変えており9、共鳴周波数 1/2π√

LC を

放送局の周波数に合わせることで特定の信号をピッ

クアップすることができる。これがラジオの原理で

ある10。

図 6: L = 20 mH, C = 0.1µFのときの LCR回路における共振現象。共振周波数は ν = 1/(2π

√LC) =

3559 Hz になる。

1.6.3 ♣ 核磁気共鳴画像法 (MRI)

この共鳴現象の医療現場での重要な応用例が核磁

気共鳴画像法 (MRI) である。その基礎となる原理は、核磁気共鳴 (NMR) という概念であるが、それをきちんと理解するためには量子力学を用いなけれ

9容量を変えることのできるコンデンサ(バリコンと呼ばれる)を使う。

10厳密なことを言うと、ラジオのときには LC 並列回路を使うが、ここでは原理的なことを伝えるために LCR 直列回路を取り上げた。

ばならない11。それをやっていると大変なので、こ

こでは電磁気学を用いた現象論的な説明にとどめる。

また、MRI でどのように 2 次元の画像を得るかという部分も非常に専門的になるので、ここでは省略

する。

図 7: 左:MRI 装置。右:MRI による脳の断面図。

まず、生体分子などを構成している原子は、さら

に電子と原子核からできているが、これらは固有の

スピンと呼ばれる性質をもっている。これは現象論

的には、小さな磁石だと思ってもらえばよい。MRIで測るときは、大部分、体内にある水素の核(すな

わち陽子)のもっているスピンを測定する。体内に

は水が大量にあり、それぞれが水素をもっているの

で、それを測っていることになる。

さて、そういった水素のスピンが多数集まると大

きな磁石になる。その磁石の物理的な性質を表す量

が磁化であり、それを ~M で表す。電磁気学から磁

化は以下の運動方程式を満たす12:

d ~M

dt= γ ~M × ~B (62)

ただし、× は外積を表す。よって、B0 の大きさの磁

場が z 方向にかかっているとすると、~B = (0, 0, B0)t

11ただし、量子力学の中ではもっとも単純な、2準位の場合を考えればいいのだが。

12この式の導出は結構難しいので、こういう運動方程式が成り立つのだと思ってもらえばよい。また、この式は地球ゴマの運動を表す式と実は同じなので、頭の中で地球ゴマをイメージしておけばよい。

7

なので、

dMx

dt= γB0My (63)

dMy

dt= −γB0Mx (64)

dMz

dt= 0 (65)

となる。これから、z 方向の磁化は変化しないこと

が分かる。

Mz(t) = Mz0 (66)

また、Mx,My の式から

d2Mx

dt2= −ω2

LMx (67)

d2My

dt2= −ω2

LMy (68)

となることが分かる。ここでラーモア振動数

ωL = γB0 (69)

と呼ばれる振動数を導入した。すると、上の式は単

振動の式に他ならないので、その解は

Mx(t) = M0 cos(ωLt + δ) (70)

My(t) = −M0 sin(ωLt + δ) (71)

となる。

実際は x, y 方向の磁化は減衰していく。これを表

すために、減衰振動の場合と同じで、1/T2 に比例す

る減衰項を導入する(これをブロッホ方程式と呼ぶ)。

dMx

dt= γB0My − Mx

T2(72)

dMy

dt= −γB0Mx − My

T2(73)

これを解くために、以下の複素数の磁化を定義する。

M = Mx + iMy (74)

すると、この「複素」磁化は

dM

dt= −iωLM − M

T2(75)

という方程式を満たす。例によって、M = eλt とい

う解を仮定すると、

λ = −iωL − 1T2

(76)

となるので、一般解は

M(t) = M0e−iωLte−t/T2 (77)

となる。これはまさに減衰振動を表している13。

さて、ここで MRI のときには、さらに z 方向に

垂直な方向(つまり、x か y 方向)に弱い振動磁場

を掛ける。すると、これは減衰振動に外部から振動

する力をかけることに相当するので、強制振動と同

じ状況になる14。振動磁場の振動数を ωf とすると、

それがラーモア振動数 ωL と異なっているときには

特に面白いことは起きない。しかし、

ωf ' ωL (78)

のときに共振現象がおこる。この場合は、振動磁場

の効果が非常に強くなり、磁化は振動磁場をかけて

いる方向を回転軸として回転する。つまり、磁石が

向きを変える。その後、そういう振動磁場を掛ける

のを止めると、磁化は元の状態に戻る。その際も磁

石は向きを変える。そういった過程で、磁石が向き

を変えるときには、コイルを設置しておくと、そこ

に電流が発生する15。それを MRI では検出する。それでは MRIでどうして断面図が得られるのか?そのためには z 方向の磁場を z の関数、簡単には z

に比例するようにしてやればよい。

Bz(z) = B′0z (79)

すると、ラーモア振動数も z に比例する。

ωL = γB′0z (80)

よって、振動磁場の振動数を徐々に変えていくと、共

鳴する場所は z 方向で徐々に異なることになる。つ13実際は z 方向の成分も減衰していく。その緩和時間は T1 と表される。

14実際、式で表すと面倒なので、ここでは敢えて書かない。15磁場が時間変化することによって誘導起電力が発生し、それが電流になる。

8

まり、共鳴する平面 z = z0 が存在し、それが MRIの断面となるわけである。(その断面内の 2次元画像情報がどのように得られるかということは、非常に

専門的になるので、ここでは述べない。)

1.6.4 タコマ橋の倒壊、原子炉もんじゅの事故

これは流体力学の問題であるが、その基本は共振

現象である。水や気体のような流体が一定速度で流

れている状況を考える。そして、そこに障害物をお

くと、その流れは乱れる。流体の速度が小さい場合

は乱れは小さいが、大きくなると、乱れも大きくな

る。流体の流れがあるしきい値を越えると、そこに

はカルマン渦という渦の流れが発生する(図 8)。渦の発生はある周期でおこり、その渦は障害物と相互

作用するので、渦の発生の周期が、障害物のもって

いる周期(これは後の連成振動のところでどういう

ものか明らかになる)とほぼ等しくなると、共振現

象が起こる。

図 8: カルマン渦。左から右に向かって流体が流れ、左の端に障害物がある。

タコマ橋の場合(図 9上)は、流体は空気である。空気流が橋と相互作用することで、カルマン渦が発

生し、その渦の周期と、橋のあるゆがみの周期が等

しくなったために、流体のエネルギーが流れ込み、

崩壊が起こった16。もんじゅの場合(図 9 下)は、原子炉を冷やすために流している、液体ナトリウム

が流体に対応する。その温度を測るための熱電対を

収めている「さや」が流体のカルマン渦の周期と共

振し、その結果、さやが壊れてナトリウムが漏れだ

16動画は http://www.youtube.com/watch?v=j-zczJXSxnw

を参照。

すことになった。このように、共振現象は思わぬ事

故の原因になっている場合が多い。

問い¶ ³こういった事故を防ぐためにはどうしたらよい

だろうか。つまり、橋などをどのように設計し

たらよいだろうか。µ ´

図 9: 上:タコマ橋の倒壊。下:原子炉もんじゅの事故現場。

2 連成振動・基準振動

前のセクションでは、1つの振動子について取り

扱った。しかし、自然界には振動子の数がいくつもあ

り、それらが結合して、複雑な振動をする場合が多

い17。その一例が連成振動であり、その際に基本的に

なるのは基準振動 (normal mode of oscillation)

という考え方である。基準振動は実験的にも観測さ

17一個の振動を扱う場合、それは一体問題、多数の振動を扱う場合、それは多体問題と呼ばれる。物理の基本は、最初に一体問題を理解してから、次に多体問題に進むというものである。

9

れるという点も重要であり、また、基準振動間の(非

線形の)結合を考えることでより複雑で現実的な問

題を考えることも可能となる。

2.1 連成振動

一番簡単な連成振動の問題は図 10 にあるように、二つの粒子が三つのばねで結ばれている場合である。

図 10: 連成振動の例。2つの振動子がある場合。

このとき、ニュートンの運動方程式は

md2x1

dt2= −kx1 + g(x2 − x1) (81)

md2x2

dt2= −kx2 + g(x1 − x2) (82)

となる18。つまり、単振動の場合は一つの変数 xだっ

たのが、いまは2つの変数 x1, x2 になっている。さ

て、これをどう解くか。まず、線形の方程式はほと

んどの場合、解析解がある(手で解ける)というこ

とを肝に銘じておこう。上の式も 2変数に対する方程式だが、線形の方程式なので、手で解けるはずで

あり、いくつかの方法がある。

天下り的なやり方は両辺を足してみるということ

である。すると、

md2

dt2(x1 + x2) = −k(x1 + x2) (83)

ここで2つの質点の重心の位置を

q1 =x1 + x2

2(84)

18ここで g は重力加速度でないことに注意。

で定義すると、これは

md2

dt2q1 = −kq1 (85)

を満たす。つまり、重心の動きは単振動になる。よっ

て、重心の動きは既に解けていることになる。

しかし、重心の位置だけでなく、2質点間の距離がどうなっているかも知りたい。そこで辺々を引い

てみると、

md2

dt2(x1 − x2) = −k(x1 − x2)− 2g(x1 − x2) (86)

となっているので、

q2 = x1 − x2 (87)

を定義すると、これまた以下の単振動の式を満たす。

md2

dt2q2 = −(k + 2g)q2 (88)

よって、簡単な連成振動の場合は、距離の動きも単

振動になる。ただし、そのときにバネ定数は k では

なく、k + 2g になっていることに注意。

よって、この連成振動の解は

q1(t) = A1 cos(ω1t + δ1) (89)

q2(t) = A2 cos(ω2t + δ2) (90)

である。ただし

ω1 =

√k

m(91)

ω2 =

√k + 2g

m(92)

であり、Ai, δi (i = 1, 2) は初期条件から決まる。また、もとの変位が知りたいときは

x1(t) = q1(t) +12q2(t) (93)

x2(t) = q1(t) −12q2(t) (94)

を使えばよい。(初期状態によってどのような運動を

するかは [1] を参照。)これは非常に簡単な例だが、これから、x1(t), x2(t)で記述される 2つの連成振動の場合は、2つの単振

10

動 q1(t), q2(t) に運動が分解できることが分かった。これは一般的なことなのだろうか?実は、これは運

動が線形である限り一般的である。以下でそのこと

について別の観点から調べよう。

2.2 基準振動

前の連成振動のニュートン方程式から、この運動

は以下のようなポテンシャル・エネルギーをもつこ

とが分かる。

V (x1, x2) =12kx2

1 +12kx2

2 +12g(x1 − x2)2 (95)

問い¶ ³このポテンシャル関数を x1, x2 で偏微分し、マ

イナスをつけることで、式 (81,82) の右辺が出てくることを確かめよ。µ ´このポテンシャル・エネルギーを次のように書く

こともできる。

V (x1, x2) =12

(x1 x2

(K11 K12

K21 K22

)(x1

x2

)(96)

ただし、(K11 K12

K21 K22

)=

1m

(k + g −g

−g k + g

)(97)

であり、

xi =√

mxi (98)

である19。

問い¶ ³こう書けることを確かめよ。µ ´また、さらに以下のようにも書ける。

V (x1, x2) =12xtKx

=12

∑i,j

Kij xj xj (99)

19粒子ごとに質量が違う場合、xi =√

mixi と定義すればよい。これは専門的には「質量で重みのつけられた座標」と言う。

この書き方のいいところは、一般化が簡単にできる

ということである。いまは i, j は 1, 2だが、もっと多い振動子の場合はここをもっと増やすことができる。

とりあえず、いまは 2個の振動子で話を進めよう。ここで、基準振動という考え方を導入しよう。そ

れは Kij という行列を対角化するような座標のこと

であり、結果的にポテンシャル関数が

V (x1, x2) =12

∑k

λkQ2k (100)

となるような変換のことである。

具体的に説明しよう。いまの場合、2×2の行列Kij

を対角化するためには、以下の方程式が解ければよ

い。

Ku = λu (101)

これが解を持つためには

|λI − K| = 0 (102)

となればよい。今の場合

λ − k+gm

gm

gm λ − k+g

m

= 0 (103)

となるので、この解は

λ1 =k + g

m− g

m=

k

m(104)

λ2 =k + g

m+

g

m=

k + 2g

m(105)

となる。

ここで、この解の平方根をとると、これは前に求

めた 2つの振動数に他ならない。つまり、

ω1 =√

λ1 (106)

ω2 =√

λ2 (107)

である。

また、このとき K を対角化する行列 U を求めな

いといけないが、そのためにはまず固有ベクトルを

以下の式から求める:

Ku1 = λ1u1 (108)

Ku2 = λ2u2 (109)

11

これを解くと、規格化された固有ベクトルは

u1 =1√2

(11

),u2 =

1√2

(−11

), (110)

と求まる。ここで規格化されているということは、

そのベクトルの大きさが1になっているということ、

つまり、|u1| = |u2| = 1 ということである。

問い¶ ³この計算を確かめよ。µ ´

実はこの固有ベクトルを並べると

U =1√2

(1 −11 1

)(111)

それが求めたい行列になっている。この行列は Ut =U−1 という性質をもっている。

問い¶ ³この性質を確かめよ。µ ´この行列(直交行列)を用いると、

UtKU =

(λ1 00 λ2

)= Λ (112)

となることが確かめられるので、ポテンシャル関数

は以下のように変形できる。

V (x1, x2) =12xtKx

=12xtUUtKUUtx

=12QtΛQ (113)

ここで

Q = Utx (114)

であり、各成分を書き下すと、

Q1 =√

m

2(x1 + x2) (115)

Q2 =√

m

2(−x1 + x2) (116)

これらは比例係数を除けば、前に求めた q1, q2 と同

じである。この変数を使って、ポテンシャル関数を

書き下すと、最終的に

V (x1, x2) =12ω2

1Q21 +

12ω2

2Q22 (117)

となり、2つの調和振動子の和になる。ここで重要

なのは、最初に用いた変数 x1, x2 の間には g に比例

する相互作用があったが、Q1, Q2 の間には相互作用

がなくなっているということである。ここで Q1, Q2

のことを基準振動(モード)と呼び、それらは相互

作用していないので独立な運動を表す。

また、x1, x2 を Q1, Q2 を用いて表すと

x1 =

√1

2m(Q1 − Q2) (118)

x2 =

√1

2m(Q1 + Q2) (119)

となる。これから、基準モードを動かしたときに、

元の座標がどのように変化するかが分かる。つまり、

Q1 を√

2m だけ動かすと元の座標は

x1 = 1 (120)

x2 = 1 (121)

と動く(図 11 上参照)。これは2つの座標が同じ向きに動くので、重心運動を表している。

今度は Q2 を√

2m だけ動かすと元の座標は

x1 = −1 (122)

x2 = 1 (123)

と動く(図 11 下参照)。これは2つの座標が逆向きに動くので、相対運動(座標の差の運動)を表して

いる。つまり、基準モードの運動は元の座標で物理

的な解釈が可能であり、それはある振動数に対応し

た集団的な運動 (collective motion) であること

が分かる。

また、そもそも、(Q2 を止めたときの)Q1 の動き

は、u1 の方向に比例していることも分かるだろう。

一方、(Q1 を止めたときの)Q2 の動きは u2 の方

向に比例している。つまり、固有ベクトルの向きは

基準モードの動きと同じ動きを表している。

12

図 11: 基準モード。上が振動数の低い場合、下が振動数が高い場合。

このように、相互作用している変数を、相互作用し

ない独立な変数に分解するのが基準振動の方法 (nor-

mal mode analysis)であり、これは非常に有用な

視点を我々に提供する。しかし、この方法は線形代

数を使っていることからも分かるように、線形の運

動を分解することしかできない(ポテンシャル関数

で言うと、2次の項で表される相互作用のみを扱える)。しかし、非線形の相互作用が入ってきても、基

準振動の概念は役に立つ場合が多い [4]。また、いまの場合は2つの振動子のケースを取り

扱ったが、これを一般的に N 個の振動子がある場合

に拡張することは容易である。ただ、上のKを 2×2行列でなく、N ×N 行列にすればよい。しかし、そ

の場合は上のように手計算で U(これも N ×N 行

列)を求めたり、基準モード Q を求めることができ

なくなるが、それはコンピュータを使った数値計算

で実行可能であり、ここでは原理的にできるのだと

いうことだけ分かっていればよい。

2.3 ♣ タンパク質の振動

2.3.1 多次元の基準振動

タンパク質は DNA と並んで、生体内で重要な機能を担っている巨大分子であるが、その性質も基本

的に物理学を使って理解できる。まず、分子を結び

つけるのは電子であり、それは量子力学を使って精

度よく記述できる。また、その運動は分子間に働く

力が分かっていれば古典力学(ニュートン方程式)で

説明可能である。

その際に使われるニュートン方程式は以下のよう

になる。

mid2ri

dt2= Fi(ri) (124)

ここで、力はポテンシャル関数の偏微分

Fi(ri) = −∂V (ri)∂ri

(125)

で与えられる。さて、実際はこのポテンシャル関数

を求めるのは難しいが、ここでは既に与えられたも

のとして話を進める。

まず、タンパクは折りたたんで、室温において非

常に安定な状態 req にいる。その状態からのずれを

δx = r − req とすると、ポテンシャル関数は

V (ri) ' V (reqi ) − Ft · δx +

12δxtKδx (126)

と近似できる。これは多次元のテイラー展開に他な

らない。ただし、いまは安定状態の周りに展開して

いるので、F = 0 であり、δx に関する 1次の項は 0となる。

これを基準振動解析の手順を使って、ポテンシャ

ル関数を書き直すと

V (ri) ' V (reqi ) +

12

∑k

ω2kQ2

k (127)

となる。ここで出てくる振動数 ωk は実際に観測さ

れうるものであり、その振動数をもつ運動は基準振

動 Qk で記述される。これがどんなものかを以下で

具体的に見ていこう。

2.3.2 具体例

たとえば、ここではアデニール酸キナーゼ (adeny-late kinase)というタンパク質をとりあげよう [5]。それは

ADP + ADP ↔ ATP + AMP (128)

という反応を触媒する酵素である。その構造は Pro-tein Data Bank (www.pdb.org) にあり、adenylate

13

図 12: 上:アデニール酸キナーゼの 1番目の基準モード。下:18番目の基準モード。ANM Web server で計算されたもの。

kinase で検索すると 290 ほどの構造が引っかかる。そのうちの 4AKEと呼ばれる構造を図 12に示した。基準振動の計算をこの構造に基づいて行うことが

可能である。最近では便利なことにこの計算を自動に

やってくれるサイトが存在し、そのうちの一つ (ANMWeb Server: www.ccbb.pitt.edu/anm)の計算結果をここでは紹介しよう。

このサイトのトップページに行き、4AKE をトップのボックスに入れる。またその際に、chain というところを * から A に変える。すると、基準振動の結果がアニメで表示される。ここでは 1番目(最低の振動モード)と 18番目の基準モードの様子を示した。色が赤いほどよく動くところであり、またそ

の動きの大きさはベクトルでも表されている。

これから 1番目のモードは大域的に大きく動き、それは真ん中の部分を挟み込むような運動をしてい

ることが分かる。実際、酵素反応が起こるときは、

これらの「腕」が中央に来て、ATP などの反応を促進する。よって、このモードは機能に関わるモード

である。一方、18番目のモードは、動く部分が局所的であり、またその変位も少ない(ベクトルが見え

ない)。よって、これはあまり機能とは関係しない運

動であると言える。

一般に、タンパク質では 1番目や 2番目のような振動数の低いモードが機能と関わることが分かって

いる [6]。よって、こういった運動を基準振動を使って調べることは、タンパク質の機能を調べる上で非

常に重要になる。

3 波動方程式・フーリエ変換

さて、これからは波動について学ぶが、これは非

常に振動と似ている概念である。実際、波動とは振

動を空間的に拡張した概念である。例えば、公園の

池の水面に石を投げることを考えよう。すると、石

の落ちたところから、波が発生し、外部に向かって

進んでいく。その途中の水面に落ち葉が落ちている

としよう。すると、その落ち葉はこちらに進んでく

ることはなく、その場所で上下に振動しているのを

14

観察することができる。つまり、波は伝わってくる

のだが、それはその媒質である水が動いて伝わって

くることを意味するわけではない。そのような波動

現象はその変位が小さい限り、以下で説明する波動

方程式でよく説明できる。以下では波動方程式とそ

の解の性質について調べよう。

3.1 波動方程式

3.1.1 波動方程式とは

波動方程式とは(狭義には)以下のように書ける

偏微分方程式のことである。

∂2u(x, t)∂x2

=1v2

∂2u(x, t)∂t2

(129)

ここでは簡単のため、1次元の波について考えており、その進行方向を x、波の変位を uで表している。

振幅は位置と時間両方に依る量であり、u(x, t) と書ける。また、v は波の速度を表す量である。

これを 3次元の波にするのは形式的には容易である。たとえば、電磁場は以下の 3次元の波動方程式を満たす:

∂2E(r, t)∂r2

=1c2

∂2E(r, t)∂t2

(130)

∂2B(r, t)∂r2

=1c2

∂2B(r, t)∂t2

(131)

ここで E(r, t),B(r, t) は電場、磁場であり、c は光

速度である。また、左辺の 2回微分はラプラシアン

∂2

∂r2=

∂2

∂x2+

∂2

∂y2+

∂2

∂z2(132)

を表している。

その他にも、地震波、(超)音波、水面波(津波も

含まれる)も同じ波動方程式を満たす [1]。よって、波動方程式の性質を学ぶことで、いろんな波動現象

を統一的に理解できる。以下、もっとも簡単な場合

の波動方程式、式 (129) を調べていくが、それを 2次元、3次元の場合に拡張するのは(面倒だが)比較的容易である。

3.1.2 ♣ 波動方程式の導出

さて、波動方程式には現象に応じてさまざまな導

き方があるが、ここでは弦の振動を例にとって説明

しよう。

図 13: 弦の波動方程式を出すときの力などの情報。

図 13 のように、弦が微小な振幅で振動しており、それを z(x, t) で表す。すると、x の周りの微小領域

を考え、その左右に働く力を考えると、

Fx = T cos(θ + ∆θ) − T cos θ (133)

Fz = T sin(θ + ∆θ) − T sin θ (134)

となる。ここで T は弦の張力である。ここで

θ ¿ 1, ∆θ ¿ 1, (135)

という状況(弦がほとんどたわまない)を考えると、

Fx ' 0, (136)

Fz ' T∆θ (137)

となる。これから u 方向に対する運動方程式を立て

ると、

σ∆xd2u

dt2= T∆θ (138)

となる。ただし、σ は弦の線密度である。また

tan θ ' θ ' ∆u

∆x(139)

15

であるから、∆θ

∆x' d2u

dx2(140)

である。これを式 (138) に代入すると、

∂2u(x, t)∂x2

=1v2

∂2u(x, t)∂t2

(141)

となる。ただし、

v =

√T

σ(142)

である。

以上から分かることは、波動方程式の時間に関す

る 2回微分はニュートンの方程式から来ているということと、空間に関する 2回微分は微小な左右の力の差から来ているということである。

3.1.3 波動方程式の解

波動方程式は z に関して線形の方程式なので、こ

れは解析的に(手で)解ける。ここでは天下り的に

以下の解を示す。

u(x, t) = f(x − vt) + g(x + vt) (143)

これがどんな関数 f, g に対しても波動方程式の解に

なっていることは簡単に確かめることができる。こ

れはダランベールの解と呼ばれる。

問い¶ ³ダランベールの解が波動方程式の解になってい

ることを確かめよ。µ ´さて、この解を使うためには、初期条件、もしく

は境界条件を決めなければならない。そこで、いま

は図 14 のように、弦の中心をちょっと上につまむことを考える。すると、初期速度は0なので、t = 0 のとき ∂u/∂t = 0 である。よって、

∂u(x, t = 0)∂t

= 0 = −vdf(s)ds

+ vdg(s′)ds′

(144)

ここで s = x − vt, s′ = x + vt と置いた。t = 0 のときは s = s′ なので、結局、

df(s)ds

=dg(s)ds

(145)

となり、これから

f(s) = g(s) + C (146)

となる。また、初期状態から、u(x, t = 0) = u0(x)なので、

f(x) + g(x) = z0(x) (147)

である。以上の 2式から、

f(x) =12u0(x) +

C

2(148)

g(x) =12u0(x) − C

2(149)

となり、これをダランベールの解に代入すると、

u(x, t) =12u0(x − vt) +

12u0(x + vt) (150)

となる。これは図 14 にあるように、波が二つに分裂して、左右に動いていく様を表している。

図 14: ダランベールの解を用いた、波動方程式の解の挙動。

今度は波の反射を考えよう(図 15)。この場合もダランベールの解が成り立っているが、波が左から

右に進行している状況を考えよう。そして、それが

x = 0 で反射するとする。その際に、波動の振幅が

16

0になるという境界条件を課す。これを固定端条件

と言う。

すると、

u(x = 0, t) = f(−vt) + g(vt) = 0 (151)

となる。これは g(s) = −f(−s) となることを表しているので、ダランベールの解に代入すると、

u(x, t) = f(x − vt) − f(−x − vt) (152)

となる。これから図 15にあるように、固定端で反射すると、波の振幅は反転(プラスからマイナス、も

しくはその逆)することが分かる。これは波の干渉

を考える上でも重要である。

図 15: ダランベールの解を用いた、固定端での波の反射。

3.2 フーリエ変換

次に節を改めて、両端が固定された弦の運動を考

えよう。これはフーリエ変換と密接な関係がある。

ここではダランベールの解を仮定しないで、愚直に

偏微分方程式を解くというアプローチをとる。

3.2.1 固定端をもつ弦の運動

波動方程式の解が以下の形になると仮定する20。

u(x, t) = U(x)T (t) (153)

これを波動方程式に代入すると

T (t)d2U

dx2=

1v2

U(x)d2T

dt2(154)

となるので、辺々を U(x)T (t) で割ると、

1U(x)

d2U

dx2=

1v2

1T (t)

d2T

dt2(155)

となる。面白いことに左辺は x のみを含む式、右辺

は t のみを含む式である。よって、これはこの両辺

が x にも t にも依らない定数であることを表してい

る。それを −k2 と置くと、

d2U

dx2= −k2U (156)

d2T

dt2= −k2v2T (157)

が成り立つ。これらは単振動の式に他ならない。

最初の式を解くと、一般解は

U(x) = C1e−ikx + C2e

ikx (158)

となる。弦の境界条件から、U(0) = 0, U(L) = 0 であるので、

C1 + C2 = 0 (159)

C1e−ikL + C2e

ikL = 0 (160)

これを整理すると、

e2ikL = 1 (161)

となる。これから

k =πn

L(162)

20このように解の形を分離して解くことを変数分離法と言う。

17

となることが分かる。これを新たに kn と置こう。す

ると、U(x) は最終的に

U(x) = 2iC1 sin knx (163)

となる。同様に、T (t) の方の一般解は

T (t) = D1e−iknvt + D2e

iknvt (164)

となる。

さて、T (t) を決めるための境界条件として、初期に弦の速度を0としよう。つまり、弦をゆっくりと

変形させることにして、それから t = 0 で手を離すのである。そのとき、

∂u(x, t)∂t

∣∣∣∣t=0

= 0 (165)

であるから、dT (t)

dt

∣∣∣∣t=0

= 0 (166)

となる。式 (164) から

−iknvD1 + iknvD2 = 0 (167)

となるので、これは D1 = D2 ということである。

よって、

T (t) = 2D1 cos knvt (168)

となる。

以上から、波動関数の一つの解は

u(x, t) = U(x)T (t)

= 4iC1D1 sin knx cos knvt (169)

となる。線形の方程式なので、その一般解はこの解

を異なる n に関して重ね合わせることによって得ら

れる。つまり、

u(x, t) =∑

n

An sin knx cos knvt (170)

である。これが波動方程式と境界条件 u(x = 0, t) =u(x = L, t) = 0, ∂u(x, t = 0)/∂t = 0 を満たすことは容易に確かめられる。

問い¶ ³このことを確かめよ。µ ´

3.2.2 フーリエ級数展開

ここで初期の弦の位置がどうなっているか調べよ

う。つまり u0(x) = u(x, t = 0) のことである。上の一般解から

u0(x) =∑

n

An sin knx (171)

となっているが、これは非常に重要な関係式である。

弦の初期の形は何にでもとれる、つまり、どんな xの

関数でもいいので、u0(x)は一般に任意の関数である。上の式はそれが右辺のように、正弦関数の和として書

けているということを意味する21。これを一般の関数

のフーリエ級数展開 (Fourier series expansion)

と呼ぶ。

さて、では初期の弦を図 16 のようにしたらどうなるだろうか。これはギターなどの弦をつまびくと

きの典型的な弦の配置である。このときに問題にな

るのは、式 (171) の右辺の An をどうやって求める

のか?ということである。ここでは天下り的に、両

辺に sin kmx をかけて、0 から L まで積分すること

を考える。すると、∫ L

0

dxu0(x) sin kmx

=∫ L

0

dx sin kmx∑

n

An sin knx

=∑

n

An

∫ L

0

dx sin kmx sin knx (172)

となり、この右辺の積分を計算すると、∫ L

0

dx sin kmx sin knx

=12

∫ L

0

dx[cos(kn − km)x − cos(kn + km)x]

=12

sin(kn − km)Lkn − km

となる。

問い¶ ³この計算を確かめよ。µ ´

21どうして、こういうことが可能になるか、ということは数学の授業参照。

18

さて、この積分は n 6= m のときは0になるが、

n = m のときは L/2 になる。

問い¶ ³そのことを確かめよ。µ ´よって、この積分値はクロネッカーのデルタ22δnm

を使って∫ L

0

dx sin kmx sin knx =L

2δnm (173)

と書ける。これを式 (172) に代入すると、∫ L

0

dxu0(x) sin kmx =∑

n

AnL

2δmn =

L

2Am

(174)となる。つまり、

Am =2L

∫ L

0

dxu0(x) sin kmx (175)

である。これから初期の弦の配置 u0(x) が与えられたとき、それをフーリエ級数展開するためには、そ

の係数(フーリエ係数)Am を上の式を使って計算

すればよい。

問い¶ ³u0(x) が図 16 のような関数のときの、フーリエ係数を求めよ。µ ´

図 16: フーリエ変換するための関数。

22クロネッカーのデルタ δnm とは、n = m のときに 1 となり、それ以外で 0 となる関数のこと。

3.2.3 時間に関するフーリエ級数展開

また、上では位置に依存した関数 u0(x) のフーリエ級数展開について考えたが、時間に依存した関数

h(t) のフーリエ級数展開というものも考えることができる。それは

hn =∫ T

0

dth(t)e−iωnt (176)

で複素フーリエ係数を定義すると、

h(t) =1T

∑m

hmeiωmt (177)

で与えられる。このとき

ωn =2π

Tn (178)

と定義されており、これは離散化された振動数を表

す。

フーリエ係数 hn は離散化された値 n の関数であ

るが、これを振動数 ωn の関数 h(ωn) と見なすこともできる。そのとき、h(ωn) の絶対値2乗を T で

割った量をパワーもしくはパワースペクトルと言う。

P (ωn) =|h(ωn)|2

T(179)

これは電気信号などの時間に依存した信号を解析す

るときに有用な式であり、たとえば心電図から病状

を推測するのに用いることができる(図 17)。また、フーリエ級数展開してから、高振動成分を除去する

(つまり、ωn の大きな h(ωn) を捨てる)と、ノイズの少ないデータを取り出すということもできる(図

18)。

3.3 波の干渉・回折

これまでは主に一つの波動に関して扱ってきた。

しかし、連成振動のときに、2つの振動が重なり合うように、2つの波動が重なり合う現象がそこかし

こに存在する。その例が波の干渉と回折である。そ

れらは本質的に同じ現象であり、波動の中の位相が

重要な役割をする。

19

図 17: 心電図(一番上)とそのフーリエ変換(一番下)。[7] 参照。

3.3.1 ♣ 球面波

これまでは 1次元の波動を考えてきたが、実際の波動は 2次元、3次元のものが当然ある。そのときは波動方程式は以下のように書ける。

∂2u(r, t)∂r2

=1v2

∂2u(r, t)∂t2

(180)

3次元の空間上の 1点に波動の源(ソース)がある場合を考えよう。これはどのような波動を生成するか?

それは上の波動方程式を満たさなければならない。

まず、ここでは天下りだが、u(r, t) が r, t だけの

関数のとき、左辺のラプラシアン (132) が

∂2

∂r2=

2r

∂r+

∂2

∂r2(181)

図 18: 心電図の生データ(上)とフーリエ変換を使ったノイズ除去(下)。高振動成分を除去している。[8]参照。

で与えられること使う23。さらに天下り的に

u(r, t) =1rf(r, t) (182)

と置いてみよう。すると、f(r, t) は

∂2f(r, t)∂r2

=1v2

∂2f(r, t)∂t2

(183)

という方程式を満たすことが分かる。

問い¶ ³これを確かめよ。µ ´よって、f(r, t) は 1次元の波動方程式を満たすこ

とになる。つまり、以前の考えや式をここに代入し

てもよい。

さて、干渉の効果を分かりやすく示すものとして、

ヤングの実験を考えよう。これは図 19 のように、23これの簡単な導出法としては、[2] などを参照。

20

レーザー光を 2 つのスリットによって分断すると、それぞれのスリットから球面波が放射され、スクリー

ンに到達する。その際、スクリーン上には干渉縞が

現れる。

図 19: 上:ヤングの実験の概念図。下:干渉縞を説明するための図。

それぞれのスリットからの球面波はスクリーン上

では

ui(ri, t) =1ri

cos(kri − ωt + θi) (184)

と書ける。ここで、それぞれの球面波は同じ波長 λ

と振動数 ω をもっており、各スリットからスクリー

ンまでの距離 ri のみが異なるとした。また波数 k

は k = 2π/λ で与えられる。

これらが重ね合わさるので、最終的に波動の振幅は

U(r, t) = u1(r1, t) + u2(r2, t) (185)

となる。可視光のような電磁場の場合、スクリーン

上で我々が観測するのは、波動の絶対値 2乗の時間平均である。それを I(r) とすると、

I(r) =1T

∫ T

0

dt|U(r, t)|2 (186)

となる。これを実際計算してみると、

I(r) =1r2

cos2[k(r1 − r2)

2

](187)

となる24。これから、スクリーンには明暗が交互に

現れる(干渉縞)ことになり、その明点(もしくは

暗点)は以下の干渉の式を満たすことが分かる。

|r1 − r2| 'xd

l= nλ (188)

ここで、x は明点(もしくは暗点)の間隔、d はス

リットの間隔、l はスリットからスクリーンまでの

距離である(図 19 の下参照)。また、S1P = r1,S2P= r2 である。これは干渉縞を特徴づける有名な

条件であり、どんな波動に関しても成り立つ公式で

ある。

3.3.2 X線と回折現象

X線(レントゲン線)は医療現場でも非常によく用いられるものだが、その発見は物理的な興味から

なされた。X線とはただエネルギーの高い(波長の短い)光のことであり、その性質は現在ではよく分

かっている。その波長は 0.01 ∼ 10.0 A(1 A=10−10

m) ほどである。X線を発生させるためには、図 20 のようにある金属板(タングステンでできていることが多い)に

加速した電子を当てればよい。では、上のような波

長の光を生成するためには、どれくらいの電圧で電

子を加速すればいいか?そのためには力学と、初歩

の量子力学の知識が必要である。

まず電子を電圧 V で加速すると、その電子は eV

のエネルギーをもっている。それが金属板に当たり、

そのエネルギーをすべて光に変えると仮定する。す

ると、量子力学から、光のエネルギーは hν と与え

れることが分かっているので、

eV = hν (189)

という式が得られる。ここで ν は光の振動数であり、

波長 λ との間に

ν =c

λ(190)

24ここで r1 ' r2 = r と置いた。

21

図 20: 上:固定陽極 X 線管の外観。下:X線管の概念図。

という関係がある。また、h はプランク定数と呼ば

れる、量子力学に特有の定数である。これを代入す

ると、

V =hc

eλ(191)

となる。これらから、λ を Aで測ることにすると、

V =10λ

[kV] (192)

となる。よって、0.1 Aの波長の X 線の場合は 100kVの電圧が必要になる。しかし、これは電子のエネルギーがすべて光になると仮定したときの話であり、

実際は電子のエネルギーがいろんなところに漏れて

しまうので、もっと大きい電圧(これの数倍)が必

要になる。

さて、こうして発生した X 線は波動であるので、干渉や回折現象が起こる。その最も重要な応用例は

X 線回折現象である。X 線を結晶に当て、散乱してくるところにスクリーンを用意する。すると、上で

述べた干渉の式を満たしたところで干渉縞が現れる。

それから、結晶がどのように並んでいるかといった

情報を推測することが可能となる。たとえば、タン

図 21: 上:DNA の X 線回折像。下:DNA の 3次元分子構造。

パク質や DNA も結晶化することができ、それに X線を当てることで、タンパク質や DNA の構造を調べることができる。ワトソンとクリックは DNA のX 線回折実験からDNA の 2重らせん構造をつきとめた。また、より複雑なミオグロビンの 3次元構造もその数年後に解明された。現在では数千の種類の

タンパク質や生体分子の構造が「解かれて」おり、そ

れらはProtein Data Bank (www.pdb.org)というサイトからダウンロードすることができる。その立体

構造に基づいて、タンパク質の機能を調べたり、タ

ンパク質の働きを阻害するような薬を設計すること

が現在可能になってきている [9]。

22

4 量子力学入門

量子力学とは、電子のようなミクロな物質が従う

法則のことである。高校物理では、電子は質点であ

り、ニュートン方程式に従うと考えているが、それ

は厳密には間違いである25!

電子は波動関数 (wave function) と呼ばれる量

で記述され、その波動関数が従う運動方程式はシュ

レーディンガー (Schrodinger) 方程式と呼ばれるものなのである。簡単のために1次元のシュレーディ

ンガー方程式を書くと

i~∂Ψ(x, t)

∂t= − ~2

2m

∂2

∂x2Ψ(x, t) + V (x, t)Ψ(x, t)

(193)となる。ここで Ψ(x, t) は波動関数であり、一般には複素数の「場」を表す。この物理的な解釈は、そ

の絶対値2乗 |Ψ(x, t)|2 が電子などの量子力学に従う物質が、ある時刻 t に、ある場所 x に存在する確

率を表すということである(この確率解釈について

は後で触れる)。~ はプランク定数 h を 2π で割っ

たもの、m は物質の質量、V (x, t) はポテンシャルエネルギーである。この方程式に特徴的なのは、純

虚数 i が入っているということであり、これからも

波動関数は実数だけでは表せないことが分かる。こ

の方程式は波動方程式とも呼ばれることがある。そ

れは波動関数がその名の通り、波動的な性質を示す

からである。

量子力学は現代の技術(半導体、超伝導体などの

テクノロジー)を支える基礎であり、また生命を記

述するためのもっとも貴本的な概念と考えられてい

る。また、最近は量子情報、量子コンピュータ、量

子暗号 [11] といった、量子力学に基く新しいテクノロジーが誕生しつつある。面白いのは、量子力学の

もっとも基礎的なところは非常に奇妙で、人間によ

る常識的な理解を超えていることである [12]。物理学者ファインマンの言葉を借りると、「(相対論を分

かっている人はいるが)量子力学を分かっている人

は誰もいない」ということになる。

25量子力学に関する分かりやすい入門書としては、ドイツの女子高生の書いた [10] を挙げておこう。

生命の方程式¶ ³1次元のシュレーディンガー方程式を非常に一

般的に書くと

i~∂Ψ(ri, t)

∂t= HΨ(ri, t) (194)

となる。ただし、H はハミルトニアンと呼ばれ

る量であり以下で定義される演算子である。

H = −∑

i

~2

2mi

∂2

∂r2i

+ V (ri, t) (195)

ここで i は考えている系のすべての電子と原子

核を表す indexである。ファインマンに従って、この式を生命の方程式と呼んでもよい。という

のも、これから分子間の力や、ニュートン方程

式などを導くことができ、それを使って、タン

パク質などの生体分子の運動を「完全に」決定

することができるからである。µ ´4.1 箱の中の量子力学

さて、ここでは簡単のために、ある領域に閉じ込

められた量子的な物質に対して、シュレーディンガー

方程式を解いてみよう。これは比較的大きな分子の

中に閉じ込められた電子のモデルと考えることがで

きる。

その領域を 0 から L までとすると、そこで波動

関数は

i~∂Ψ(x, t)

∂t= − ~2

2m

∂2

∂x2Ψ(x, t) (196)

となる。つまりポテンシャルエネルギーが 0 から L

までの領域では

V (x) = 0 (197)

であり、それ以外では無限大となっている場合であ

る。この問題を解くときに、波動方程式のときと同

様に変数分離することを考えよう。つまり、

Ψ(x, t) = φ(x)T (t) (198)

23

と置いて、シュレーディンガー方程式に入れると、

i~1T

dT

dt= − ~2

2m

∂2φ

∂x2(199)

と変形できるので、波動方程式を解くときと同じロ

ジックでこれを定数 E とおこう。ここで

ω =E

~(200)

k =

√2mE

~2(201)

という変数を導入すると、

dT

dt= −iωT, (202)

∂2φ

∂x2= −k2φ (203)

となる。この2番目の式は既に解けている!なぜな

ら、波動関数に課される境界条件も波動方程式を解

いたときと同じ、つまり

φ(0) = φ(L) = 0 (204)

だからである。この物理的な意味は、境界では「電

子」の存在確率がゼロになるということである。こ

れは波(波動関数)の振幅がゼロになるということ

と変わらない。つまり、解は

φ(x) = 2iC1 sin knx (205)

となる。ただし、kn は境界条件から

kn =πn

L(206)

を満たす。ここで n は整数である。

時間の関数 T (t) に関しては、初期状態を仮にT (0) = 1 とすると、

T (t) = e−iωt (207)

となることは間単に分かる。ただし、これがさらに

シュレーディンガー方程式を満たすためには、上の

式 (200), (201) を使って ω は

ω = ωn =En

~=

~k2n

2m=

~2m

(πn

L

)2

(208)

という関係式を満たさなければいけない。

よって、一般解は

Ψ(x, t) =∑

n

Ane−iωnt sin knx (209)

と求まる。An は初期状態 Ψ(x, 0) によって決まる(複素数の)定数である。さて、この解の物理的な意

味を以下考えよう。

4.2 定常状態

初期状態が A1 =√

2/L,Ai = 0 (i 6= 1) だとしよう。すると、量子状態は

Ψ(x, t) =

√2L

e−iω1t sin k1x (210)

となる。量子力学の確率解釈から、粒子が x にいる

確率はこの絶対値2乗に比例する。つまり

|Ψ(x, t)|2 =2L

sin2 k1x (211)

となり、時間依存性がなくなる!これを定常状態と

呼ぶ。なぜ A1 =√

2/L と選んだのか?これは波動

関数が確率であるためには規格化されていなければ

ならないからである。つまり、全領域に渡って積分

したら1になるように選ばれている。このとき、∫ L

0

dx|Ψ(x, t)|2 = 1 (212)

が満たされている。

問い¶ ³このことを確かめよ。µ ´実際、ある i で Ai =

√2/L とし、残りの係数

を0と置いたものはすべて定常状態であり、これら

には付随する(定常)エネルギーを定義できる。そ

れは既に式 (208) で与えられており26、もう一度書26なぜそうなるかというのは、量子力学ではエネルギーは今の場合

−~2

2m

∂2φ

∂x2= Eφ (213)

という偏微分方程式を満たす E として定義されるからなのだが、ここではそのちゃんとした説明は省く。

24

くと、

En =~2k2

n

2m=

~2

2m

(πn

L

)2

(214)

となる。これが量子力学が「量子」と呼ばれる所以

である。つまり、n が整数なのでエネルギーはとび

とびの値を取る。古典力学では、運動エネルギーや

位置エネルギーは連続的に変化するが、量子力学に

おいては定常状態のエネルギーは離散的にしか変化

できない。

4.3 量子ダイナミクス

では量子力学に時間変化はないのか?そんなこと

はない。定常状態の重ね合わせ状態を考えてみよう。

たとえば、A1 = C,A2 = C で、それ以外の係数が

0の場合を考えると、

Ψ(x, t) = Ce−iω1t sin k1x + Ce−iω2t sin k2x (215)

となる。この粒子が見付かる確率は

|Ψ(x, t)|2 = |C|2 sin2 k1x + |C|2 sin2 k2x

+2|C|2 sin k1x sin k2x

× cos(ω1 − ω2)t (216)

となり、ω1 − ω2 の振動数で振動する関数になって

いる。これは振動現象としては、二つの振動数の差

の振動を表しているので、うなりを表している。ωi

にはプランク定数が含まれているので、これは量子

的なうなりであり、量子うなり (quantum beat)

と呼ばれる。

問い¶ ³規格化条件 (212) から C を求めよ。µ ´実際、分子などをレーザー光で励起すると、こう

いった重ね合わせ状態が作り出され、それが分子の

ダイナミクスを生む。それはある状況ではニュート

ン方程式の解と非常に似たようなものになるが、こ

こではその話題をこれ以上追及するのは止めておく

[4]。

4.4 化学結合の初歩

4.5 確率解釈とベルの不等式

5 まとめの問題

• オイラーの公式をテイラー展開を使って導け。

• 身の回りの振動・波動現象を挙げよ。

• オイラーの公式とは何か。

• 単振動とは何か。減衰振動とは何か。

• 強制振動とは何か。その医学的な応用例を挙げよ。

• 連成振動とは何か。それと関連する、基準振動とは何か。

• ♣ タンパク質の基準振動はどのような性質をもっているか。

• 波動方程式とは何か。ダランベールの解とは何か。

• ♣ 波動方程式を変数分離法で解け。

• フーリエ変換とは何か。特に時間に関するフーリエ変換はどのような医学的な応用例があるか。

• 球面波とは何か。波の干渉・回折とは何か。

• ♣ X線回折現象はどのような応用があるか。

• 箱の中の粒子の量子力学を解き、エネルギーが離散化されていることを示せ。

参考文献

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