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特集 みんなで減らそう!食品ロス 特集1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み 1 特集2-1 京都市における食品ロス削減の取り組み 特集2-2 学校給食を通じて食品ロス削減に取り組む-未来につながる給食と食育- 4 6 特集3 事業者による食品ロス削減の取り組みと今後の展望 8 消費者問題アラカルト 流行するジビエ-安全に食べるために- 11 中古車の契約をめぐるトラブルQ&A 購入後の車両の不具合 こんなときどうしたら?インターネットのセキュリティガイド ワンクリック請求 私と消費者問題 及川 昭伍さん 14 16 19 海外ニュース <韓国>海外のホテル等予約サイトのトラブルに注意 21 <イギリス>日焼け止めクリームの「耐水」表示に疑問 <オーストリア>海水塩のマイクロプラスチック含有量をテスト <ドイツ>人間の健康に良いとは限らないビーガン化粧品 消費者教育実践事例集 買い物から適切な意思決定を学ぶ 明治時代の生活に学ぶ 明治時代の家庭生活-商品化された住生活- 23 25 消費生活相談員のための割賦販売法 包括信用購入あっせん(5)-行政規制(下)- 苦情相談 勧誘時の説明とは異なっていた建築士資格取得講座の受講契約トラブル 暮らしの法律 Q&A 病気でアルバイトを休んだ時のペナルティーは許される? 暮らしの判例 認可外保育施設での乳児の窒息死亡事故における施設等の責任 誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ 不当条項規制 (8条・8条の2・8条の3) 27 31 33 34 37 ウェブ版 NO.732018目次

特集 みんなで減らそう!食品ロス特集 みんなで減らそう!食品ロス 特集1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み 1 特集2-1

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Page 1: 特集 みんなで減らそう!食品ロス特集 みんなで減らそう!食品ロス 特集1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み 1 特集2-1

特集 みんなで減らそう!食品ロス

特集1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み 1

特集2-1 京都市における食品ロス削減の取り組み

特集2-2 学校給食を通じて食品ロス削減に取り組む-未来につながる給食と食育-

4

6

特集3 事業者による食品ロス削減の取り組みと今後の展望 8

消費者問題アラカルト 流行するジビエ-安全に食べるために- 11

中古車の契約をめぐるトラブルQ&A 購入後の車両の不具合

こんなときどうしたら?インターネットのセキュリティガイド ワンクリック請求

私と消費者問題 及川 昭伍さん

14

16

19

海外ニュース <韓国>海外のホテル等予約サイトのトラブルに注意

21

<イギリス>日焼け止めクリームの「耐水」表示に疑問

<オーストリア>海水塩のマイクロプラスチック含有量をテスト

<ドイツ>人間の健康に良いとは限らないビーガン化粧品

消費者教育実践事例集 買い物から適切な意思決定を学ぶ

明治時代の生活に学ぶ 明治時代の家庭生活-商品化された住生活-

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25

消費生活相談員のための割賦販売法 包括信用購入あっせん(5)-行政規制(下)-

苦情相談 勧誘時の説明とは異なっていた建築士資格取得講座の受講契約トラブル

暮らしの法律 Q&A 病気でアルバイトを休んだ時のペナルティーは許される?

暮らしの判例 認可外保育施設での乳児の窒息死亡事故における施設等の責任

誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ 不当条項規制

(8条・8条の2・8条の3)

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37

ウェブ版

NO.73(2018)

目次

Page 2: 特集 みんなで減らそう!食品ロス特集 みんなで減らそう!食品ロス 特集1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み 1 特集2-1

国民生活 2018.8 1

食品ロス問題の現状と課題2011 年 3 月 11 日、東日本大震災が発生、

被災地はもちろん、首都圏でも食料品の不足が起きました。製造工場が被災し、消費者の買い占めが起こったためです。商品棚がいっぱいに詰まっている状態は当たり前ではないことに人々は気づきました。あれから 7 年が過ぎ、物の豊かさに対するありがたみを人々は忘れかけているようにも感じます。

全国の自治体では、環境負荷や処理費用の削減を考え、ごみ削減の動きがあります。徳島県上かみかつちょう

勝町は日本初の「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)」宣言をし、徹底したごみ削減に取り組み、全国から視察が相次いでいます。全国で発生するごみの量は右肩下がりの傾向ですが、全体の約 70% を生活系ごみが占め、そこに含まれる食品ロスを減らすことがカギとなっています。

日本では年間 646 万トンの食品ロスが発生しています(2015 年度、農林水産省ウェブサイト)。東京都環境局は公式サイトで「東京都民が1年間に食べる量に匹敵する」と表現しています。別の表現をすれば、世界の食料援助量

(320 万トン、WFP:国連世界食糧計画[2015年]による)の約 2 倍を捨てています。このうち 289 万トン(約 45%)が家庭から、357

万トン(約 55%)が事業者から出されています。世界では、食料生産量の 3 分の 1 に当たる

13 億トンを廃棄しています(FAO:国連食糧農業機関、2011 年および 2013 年報告より)。厳密には、国ごとに「食品ロス」の定義が異なりますが、相当な量を無駄にしていることに変わりはありません。

食品ロスは、環境へ負荷をかけることはもちろん、持続可能な社会の実現を阻害します。大量生産・大量販売・大量廃棄というこれまでの考え方は、いまだに多くの企業が踏襲しています。しかし、食品ロスは、限られた資源やエネルギーとコストの無駄遣いです。働き方改革が問われていますが、世界の生産量の 3 分の 1も捨てるくらいなら、最初から作らなければ、エネルギーやコスト、労働力が無駄になることなく、働き手も楽になるはずです。

国際的な動き2015 年 9 月、国連サミットで SDGs(エス

ディージーズ:持続可能な開発目標)が採択され、2030 年までに世界が達成すべき 17 のゴール(目標)と 169 のターゲットが制定されました。12番のゴール「つくる責任 つかう責任」のうち、12.3(12 番のゴールのうち、3 番目のターゲット)には「2030 年までに小売・消

『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、2016年)は3刷。食品ロス問題を全国的に注目させたとして第2回食生活ジャーナリスト大賞「食文化部門」受賞。

井出 留美 Ide Rumi 食品ロス問題専門家

みんなで減らそう!食品ロス

特 集

食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み

特 集

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国民生活 2018.8 2

費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる」という数値目標が盛り込まれました。

フランスでは、ある一定面積以上のスーパーマーケットで売れ残った食品を廃棄せず寄付などで活用することを努力義務として課す世界初の法律が制定されました。これを受け、イタリアやその他のヨーロッパの国や都市でも同様の法整備が相次いでいます。

消費者が今から取り組めること肉や魚、野菜などの生鮮食品については、単

なるモノでなく、命あるものを頂いているという感謝の気持ちを持つこと、それらが生産され、食品として消費者の手に渡るまでにどれほどの過程を経ているかを理解することが重要です。加工食品についても同様で、消費期限と賞味期限の違いをきちんと理解することも重要です。

消費期限は日持ちが 5 日以内のもの、例えば弁当や総菜、サンドイッチ、生クリームを使った菓子などに表示されます。賞味期限は、日持ちがそれ以上のものに表示されますが、品質が悪くなる日付ではなく、おいしさの目安であり、過ぎたからといってすぐに食べられなくなるわけではありません。においを嗅ぐ、目で見るなど、五感で判断して消費することです。賞味期限は、リスクを考慮し、安全係数が乗じられています。国(消費者庁)は、0.8 以上を推奨していますが、それ以下の数字を使っている企業もあります。例えば 10 カ月の賞味期間に安全係数 0.8 を乗じれば 8 カ月となり、製造日から 8 カ月の日付が表示されます。日本の法律では 3 カ月を超える賞味期間があるものについては○年○月まででよいとしています。複数の企業は「1 年以上の賞味期限のものの日付を省略する」ことに取り組み始めています。

店での購買行動も重要です。筆者が約 500名を対象に「買い物の時、商品棚の奥に手を伸ばして賞味期限の新しいものを取ったことがあるか」とアンケートしたところ、約88%が「ある」

と答えました。当日消費すると分かっているものについては手前から、すなわち消費期限・賞味期限の近づいているものから取りましょう。

家庭の台所においては冷蔵庫がキモとなります。入れっぱなしではなく、入れたら出す、を徹底し、冷蔵庫の中を定期的に循環させることです。食品の消費サイクルは、世帯人数や年齢、労働量、嗜

し こ う好により異なるので、家庭ごとに適

したサイクルを決めるとよいでしょう。例えば土日に買い出しに行き、食料品を冷蔵庫に入れたら、月曜から金曜までの 5 日間で使い切っていきます。冷蔵庫に納める量は 7 割くらいが適当です。詰め込み過ぎると食品がきちんと冷えず、電気代を過剰に消費します。使い切ることで気持ちもすがすがしくなります。拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』には、このほか、「今日から家庭でできる、食品ロスを減らすための 10 ヶ条」を紹介しています。

消費者教育の必要性2018 年現在、小学校 4 年生では「ごみ」と

いう単元を学習します。食料品の選択や購入、消費については、中学校の家庭科で男女共に習います。しかし、ある一定の世代以上では、男性が技術、女性が家庭科と別々に履修しており、男性が家庭科を履修していません。食品の選択・購入・消費という一連の流れは、一生続く消費者行動です。霊長類学者のジェーン・グドールは「買い物は投票である」と著書で述べています。何を選択し、どう購入して消費していくか、消費者として学ぶことは必須です。消費者には権利だけでなく責任もあるからです。

行政・事業者の最近の動き2012 年 7 月、食品ロスの関係省庁として農

林水産省・消費者庁・環境省・内閣府(食育担当)が決定しました。2013 年 2 月に文部科学省、2013 年 8 月に経済産業省が加わりました。その後、食育の管轄が農林水産省に移管し、現在は内閣府を除く 5 省庁が管轄となっています。

みんなで減らそう!食品ロス特集

特集 1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み

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国民生活 2018.8 3

・農林水産省の取り組み農林水産省は、2003 〜 2015 年度、食品ロ

ス関連の統計調査を続けてきました。2012 年10 月からは、流通経済研究所や食品業界の製配販(製造・卸・販売)と連携し、「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」において、業界の商慣習「3 分の 1 ルール」(詳しくは特集3参照)の一環である「納品期限」の緩和や賞味期限の見直し(延長)、賞味期限の年月表示化などについて、議論や実証実験を元に実践してきました。実験結果に基づき、3分の 1 ルールを緩和させた企業もある半面、現状維持の企業も多く、2017 年 5 月 9 日付で農林水産省と経済産業省が連名で通知を出し、3分の1ルールのさらなる緩和を呼びかけました。・経済産業省の取り組み

経済産業省と製・配・販連携協議会は、2016年 7 月 15 日付で、不当な返品を防止するためのマニュアルを発表しました。公正取引委員会が優越的地位の濫

らん用を禁じていますが、現実に

は不当な返品が存在するためです。小売からの不当な返品は、製造業での廃棄につながります。

経済産業省は「コンビニ電子タグ 1000 億枚宣言」を発表しました。2025 年を目

め処ど

に、大手コンビニ 5 社が取り扱う製品に電子タグを付けることをめざします。現行のバーコードよりさらに詳しい情報を読み取ることが可能となり、より詳細な在庫管理、食品ロス削減などのメリットが期待されています。・消費者庁の取り組み

消費者庁は、「食べ物のムダをなくそうプロジェクト」と題し、関係省庁との取り組みを進めています。内閣府(防災担当)、消防庁、環境省とともに「災害時用備蓄食料の有効活用について」を都道府県と指定都市に通知しました。また 2018 年には「平成 29 年度消費者の意識に関する調査結果報告書-食品ロス削減の周知及び実践状況に関する調査-」を公表しました。・環境省の取り組み

2018 年 6 月、政府が初めて食品ロス削減に関する数値目標を発表しました。SDGs に沿

い、2030 年度までに家庭の食品ロスを 2000年度比で半減させるというものです。環境省が

「第四次循環型社会形成推進基本計画」に盛り込み、2018 年 6 月 19 日に閣議決定しました。環境省と農林水産省は、忘年会や新年会など宴会の増える年末年始に宴会での食べきり運動を展開しており、そのための啓発ツールも制作しています。・自治体の取り組み

2017 年「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」が発足しました。全国の自治体では、持ち帰り容器の準備や小盛りサイズを用意するなど、ある一定要件を満たす飲食店を「食べ残しゼロ推進店舗」や「食べきり推進店舗」などに認定する取り組みが始まっています。京都市や横浜市では 800 店舗を超えています。・事業者の取り組み

事業者では、日本気象協会の気象データを活用し、需要予測精度を向上させ、需要と供給の誤差を最小限にし、ロスを減らす取り組みが進んでいます。これは経済産業省のプロジェクトです。また、酸化による劣化を抑制するフィルムなどの高機能包装を活用することで賞味期限を延長する、容器包装に付着するロス量を減らすなどの取り組みもあります。これらは、環境配慮のキーワード「3R(スリーアール)」で最優先の Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)に相当します。

おわりに世界ではコレクティブ・インパクト(CI:

Collective Impact)の取り組みが進んでいます。立場の異なる組織(行政・企業・NPO など)が、互いの強みを生かすことにより、社会的課題の解決をめざすアプローチを指します。食品ロスは、このようなアプローチにより解決をめざすことのできる社会的課題です。おのおのの組織がコミュニケーションを通して共通認識を持ち、食品ロスを少しでも減らせるよう願っています。

みんなで減らそう!食品ロス特集

特集 1 食品ロスの現状と消費者・行政・事業者の取り組み

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国民生活 2018.8 4

ごみ量がピーク時から半減 !

市民、事業者の皆様の御協力により、2000年度のピーク時から半減(△ 50%)となる41.3 万トンまで減量が進み(図 1)、家庭からのごみ量も他の政令指定都市平均の 7割と、全国の大都市の中で最も少なくなりました。これにより、これまで 5工場あったクリー

ンセンターを 3工場まで縮小するなど、環境負荷の低減はもとより、年間 154 億円ものコスト削減を図ることができました。一方、食品ロス排出量については、ピーク時

の約 3分の 2(2016年度 6.4 万トン)にとどまっており、今後よりいっそうの取り組みを進める必要があります。

ごみの組成調査から見える食品ロスの排出実態

京都市では、ごみを約300項目に分類し、排出実態を把握する「ごみ細組成調査」を京都大学の御協力のもと、1980年から実施しており、ごみ減量施策の企画・立案に活用しています。

調査の結果から、家庭の燃やすごみとして排出されているごみの約 4割が生ごみで、そのうち約 4割が食品ロスであることが分かっており、事業ごみも同様の傾向にあります(図 2)。この食品ロスは、野菜の皮や魚の骨などの調理くずに比べ、そもそもごみにしない、発生抑制が可能であり、減量が見込める項目です。

食品ロス削減に向けたこれまでの主な取り組み

(1)ごみ半減をめざす「しまつのこころ条例」の制定2015 年 3月に、「京都市廃棄物の減量及び

適正処理等に関する条例」を、2R(リデュース、リユース)と分別・リサイクルの促進の 2

つを柱とした条例へと大幅に改正し(同年 10月施行)、ものを粗末にせず、心豊かに暮らすことをはじめ、環境にやさしいライフスタイル・ビジネススタイルの定着をめざすという思いを込め、条例の愛称を『しまつのこころ条例』としました。この条例においては、市民・事業

者の皆様との協働により、ごみ減量を推進していくため、重点的に取り組む 6つの分野(①ものづくり②

みんなで減らそう!食品ロス特集

1948

1953

1958

1963

1968

1973

1978

1983

1988

1993

1998

2003

2008

2013

2018

010

69 年前(1948年)2万トン

50年前(1967年)35万トン

ピーク(2000年)82 万トン

現 在(2017年)41.3 万トン

最終目標(2020年)39万トン

20

30ごみ量(万トン)

(年度)

50%削減

405060708090

(2000年)循環型社会形成推進基本法 制定 50%以上削減に挑戦

この約 40年間で急激にごみ量が増加

家庭ごみ

生ごみ:75,550トン(40.2%)

紙ごみ:60,372トン(32.1%)

調理くず等63.1%

47,674トン

食品ロス36.9%27,876トン

手つかず食品12.8% 9,655トン

京都市における食品ロス削減の取り組み

特 集

2-1

京都市 環境政策局 循環型社会推進部 ごみ減量推進課

図 1 京都市のごみ量およびクリーンセンター数の推移と減量目標

図 2 焼却ごみの組成調査結果(2016 年度)

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国民生活 2018.8 5

食③販売と購入④催事(イベント等)⑤観光等⑥大学・共同住宅等)と食品ロスの削減をはじめとする特に重要な 29の取り組みについて、市民・事業者の皆様それぞれに対し、実施義務および努力義務を規定しました。食品ロス削減についての具体的な内容は表のとおりです。

(2)「新・京都市ごみ半減プラン」の策定・推進2015 年 3月に「新・京都市ごみ半減プラン」

を策定し、2020 年度までにごみ量をピーク時(2000 年度:82万トン)の半分以下である39万トンまで減量する目標を掲げました。同時にこの目標の達成に向け、食品ロスをはじめとした2Rに関する取り組みを当該プランに盛り込むとともに、全国で初めてとなる「食品ロス」を削減する数値目標を設定しました(2000 年度:9.6万トン→2020 年度:5万トン)。

(3)生ごみ3キリ運動、「食べ残しゼロ推進店舗」  認定制度家庭における生ごみの削減に向け、食材を使

い切る「使いキリ」、食べ残しをしない「食べキリ」、ごみとして出す前に水を切る「水キリ」の3つの「キリ」を合言葉に、意識の向上を図り、これらの行動を実践していただくよう、さまざまな機会で啓発する「生ごみ 3キリ運動」を2012年度から実施しています。また、2014年度から飲食店等での食べ残し

の削減を目的に、食材を使い切るメニューの工夫や食べ残しを出さない小盛りメニューの工夫

などに取り組む飲食店・宿泊施設を認定する「食べ残しゼロ推進店舗」認定制度を開始(2018年 3月末時点:803店舗)しています。

食品ロス半減に向けたさらなる取り組み

(1)食品スーパーでの社会実験と新たな  認定制度の創設2017 年度には、食品小売店が設定されてい

る販売期限を延長する社会実験を、市内の食品スーパー 5店舗に御協力いただいて実施した結果、約 10%の廃棄抑制効果を確認するとともに、多くの市民の皆様からこの取り組みに対して賛同をいただきました。2018年度は、食品小売店でのこのような食品ロス削減に資する取り組みが拡大するよう、食品スーパー等を対象とした「京都市食品ロス削減推進販売店舗認定制度(仮称)」を創設し、認定要件を満たす店舗の取り組みを本市が広く発信することで、市民の皆様に食品ロス削減に向けた理解を促し、事業者の取り組みを後押ししていきます。

(2)コンビニエンスストアおよび食品スーパー  から排出される食品ロスの実態調査ライフスタイルの変化に伴い、総菜の売れ残

り等、小売業での食品ロス排出量が増加傾向であることから、コンビニエンスストアおよび食品スーパーから排出される食品ロスにかかる実態調査を行い、食品リサイクルの促進と食品廃棄物の発生抑制に関する方策を検討します。

(3)食品ロス削減全国大会in京都の開催2018 年 10月 30日には、「食品ロス削減全

国大会 in 京都」を京都市で開催し、全国の自治体との連携・協働に積極的にかかわり、食品ロス削減に向けた全国的な機運の醸成を図ります。  

今後とも、これらの取り組みを通じて、もったいない、しまつの心など、京都に息づく優れた生活文化の浸透を図り、市民・事業者の皆様とともに、ごみの量をピーク時の半分以下、39万トンという目標を必ず実現し、持続可能な循環型社会を構築してまいります。

取組分野

業種等

取組項目上段:関係事業者等の皆様に実施していただく取組下段:市民の皆様に実施に努めていただく取組

関係事業者等の皆様に実施に努めていただく取組

②食 飲食 食べ残さない食事を促進するためのPR(小盛りメニューの紹介、本市作成のPR媒体の配架、掲示等)

食べ切れなかった料理の持帰りを希望される方への対応(持帰り容器の提供等)

食べ残さない食事の実践③販売と

購入小売 ごみの少ないお買い物又は

資源物の回収を消費者に促進するためのPR

・量り売りや簡易包装、省容器包装販売の推進

・食料品の見切り販売(賞味期限の近い商品の値引き等)の実施

・食料品の欠品理由の表示など、廃棄ロスを抑えた販売の実施についての消費者への説明

ごみの少ないお買い物の実践

みんなで減らそう!食品ロス特集

特集 2-1 京都市における食品ロス削減の取り組み

表 食品ロスの削減に関する取り組み

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国民生活 2018.8 6

学校では、給食という教材を通して、食べ物という存在と人間である自分の命との切っても切れない関係を知り、生涯にわたる『食べること』の意味を、さまざまな視点から学ぶ食育を行っています。そうした食育の中で、未来を担う子どもたちが、食べ物に対してより丁寧で謙虚な気持ちを持つことも大きな目標の1つで、結果としてその学びが食品ロス削減にもつながるというとらえ方をしています。ここでは、私の勤めている相模台小学校で行

われている食育の中で、食品ロス削減につながる取り組みについてご紹介します。

食育月間における学級での取り組み

6 月は食育基本法に基づく食育推進基本計画により、食育月間として位置づけられています。4年生のある学級では、この食育月間中、毎日の給食で注目する食材やおかずを取り上げ、より意識的に学びながら食べる機会を持ちました。まず、事前学習として、学校に給食があるのはなぜか、考え学ぶ時間を持ち、各自給食に関する目標を設定します。給食時間には、注目食材等について担任教員や栄養士からの説明を受けることで、その見た目や味、香り、栄養に

ついて、子どもたちが意識的に学び食べるようになっていきます(写真 1)。給食時間後に記入した振り返りのワークシートによると、「苦手だと思っていたけど、話を聞いて食べたらおいしかった」といった感想が多く、食材に興味を持つこと、そして自分なりの目標を持つことで、自発的に残さず食べる意欲につながっていると感じました。こうした取り組みは定期的に実施することで

習慣化していくものなので、今後も広げていきたい取り組みの1つです。

給食委員会での取り組み

小学校では、高学年の児童が主体的に学校内のさまざまな運営を担う委員会活動というものがあり、その中に給食委員会があります。2018年度、給食委員会として掲げるテーマは、『もらった命を残さず食べよう !』というものです。このテーマ、まさにフードロス削減の取り組み !! 子どもたちから自然に出されたこのテーマに、心の成長を感じます。テーマに基づいたさまざまな活動の中で、と

ても効果的だったものがあります。それは、歌を歌うこと。相模原市には、本市に在籍する音楽教諭と栄養教諭によって作成された『パクパクもぐもぐワンスプーン』という歌があり、2017年度、給食委員全員で歌ったものを校内放送で流したところ、意外なほど大好評。この歌を流した後で教室に行くと、「もう一口、食べてみるね」と言って、スプーンを口に運ぶ子が増えるのです。2018年度は運営委員会には歌の振り付けを、

みんなで減らそう!食品ロス特集

写真 1 給食時間の食育指導

2001年度神奈川県相模原市入庁。清新学校給食センター、青葉小学校、教育委員会学校保健課を経て、現在相模原市立相模台小学校に勤務。

岡田 真紀子 Okada Makiko 管理栄養士

学校給食を通じて食品ロス削減に取り組む

-未来につながる給食と食育-

特 集

2-2

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国民生活 2018.8 7

ミュージック委員会には伴奏をお願いし、より多くの児童が参加する一大プロジェクトになりました。横に手をつなぐことで得られる効果は、単なるプラスではなく、まさに相乗効果なのです。

毎月19 日の食育給食

残さず食べてもらうために栄養士が考えるべきことは、いかにおいしく食べてもらうか、ということになります。私が考える『おいしさ』は、素材の良さと丁寧で手間をかけた調理、そしてテーマ性のある献立設定です。ここでは、『テーマ性』についての取り組みをお伝えします。学校給食では、日本の季節や文化に基づき工

夫されたさまざまな行事食が取り入れられています。相模原市独自のものとしては、6月に『はやぶさ給食』、11月に『さがみはら大好き給食』、2月に『節分豆まめ給食』という3つの統一テーマ給食があり、市全体で児童生徒が関心を持てるような給食作りを心がけています。本校には外国籍の児童が多く在籍し、国際理

解教育も進んでいることから、給食にもその特色を反映させようと、2016 年から毎月 19日の食育の日に合わせ、『世界のお料理食べてみよう♪』というテーマで、世界各国の料理をアレンジした給食を提供しています(写真 2)。継続していくうちに、「今度の国はどこ ?」といった声が聞かれるようになり、定着してきたことを実感します。テーマのある給食は、子どもたちにとってはわくわくするような体験。楽しい気分も、給食をおいしく食べる大切なエッセンスになっています。ただし、テーマ性のある給食には、調理作業

が非常に難しくなるという難点もあります。大切なのは日頃のコミュニケーションによって、栄養士の献立に対する思いを調理員に伝えること。給食の作り手が同じ意識を共有することなしに、充実した『おいしい』給食を実現することはできません。

地産地消の取り組み

学校給食では地産地消を推進しており、このメリットは、新鮮でおいしいこと、作った人の顔が見える安心感です。そして、その利点を子どもたちに伝えることで、残さず食べようとする気持ちを育むことにつながります。本校は立地上、農地が近隣に少なく、地場産

の農作物が入手しづらい状況にあります。そこで、市の農政課と連携して新規就農者の方を紹介してもらい、栽培されている農作物を直接給食に納入してもらうシステムを作り、現在は定期的に地場産の食材を給食に取り入れることが可能となりました。相模原市では新規就農者を積極的に受け入れ

ていますが、新たに就農する方にとって、安定的な収入源を確保することは必須条件であり、学校給食とのマッチングによってWin-Win の関係にすることは、農業振興の観点からも推進されるべきと考えます。

未来につながる給食と食育

食品ロスの問題は、私たち日本人の食に対する意識の低さも大きな要因のひとつですが、一朝一夕で変えられるものではありません。だからこそ、これからの社会をかたち作る子どもたちへの継続的な食育によって、10年後 20 年後の未来が変わるよう、今努力する必要があります。現在、小学校に通う子どもたちが社会で活躍する頃、日本が世界に誇る和食文化と同じくらい、日本人の食べ物への意識も世界に誇れる水準にするためにも、学校給食を活用した食育は、より重要な教育活動の一環として各自治体で取り組むべきものと考えます。

みんなで減らそう!食品ロス特集

特集 2-2 学校給食を通じて食品ロス削減に取り組む

写真 2 フィンランド料理の給食

左手前がチキンと根菜のキャセロール、右手前がサーモンクリームスープ。

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国民生活 2018.8 8

食品流通事業者の食品ロス削減行動への期待向上

本当はまだ食べられる食品なのに廃棄する「食品ロス」を減らす取り組みについて、食品流通業界への期待が高まっています。背景の1つは、世界的な食品ロス問題への関

心の高まりです。食品が大量に廃棄されている一方で、世界では約8億人の人々が栄養不足状態にあるなど、食品ロスの削減は世界的な課題となっています。2015 年9月には、国連サミットで『持続可能な開発のための 2030アジェンダ』が採択され、2030 年までに小売・消費レベルの世界全体の1人当たり食料廃棄量を半減させる目標が定められました。これらを背景に、わが国の製 ・配 ・ 販(製造・卸・小売)企業にも積極的な対応が期待されています。実際、環境対応(Environment)や社会問題(Social)、ガバナンス(Governance)への姿勢を運用指針に掲げる「ESG投資」への関心が高まりつつあり、メーカーや卸、小売業などの関連企業にとっては、食品ロス対応が企業イメージを左右しかねない状況にもなっています。

もう1つの背景は、国内の人口減少・高齢化の深刻化です。労働力確保や財政運営が難しくなるなか、食料自給率は低く(2016 年度はカロリーベース38%で先進国最低水準。農林水産省ウェブサイトより)、食料の安定確保が課題であり、少なくとも国内では食品流通の効果・効率性を高め、ムリ・ムダ・ムラを削減することが必要となっています。また、ごみ全体に占める食品の割合は高く、食品は水分含有量が多いため、運搬や焼却で余分な環境負荷やコストを発生させてい

ます。環境省の調査によると、市町村のごみ処理事業経費は国民1人当たり換算で15,300 円/年に上っています。食品ごみを減らし、ごみ処理に伴う環境負荷を低減すること、自治体のごみ処理事業経費を削減し、国民の負担を軽減することが重要となっています。こうした背景から、食品流通事業者の食品ロ

ス削減行動への期待は高まっており、取り組みも広がりつつあります。本稿では、3つの取り組みを取り上げ、解説します。

賞味期限の年月表示化の拡大

食品メーカーでは、賞味期限を「年月日」ではなく、「年月」で表示する取り組みが広がりつつあります。加工食品の賞味期限の年月表示化への切り替えは、食品ロスの削減、物流現場の働き方改革につながる可能性をもつ、重要な取り組みです。食品流通では、商品は鮮度順での納入を求め

られることが一般的です。賞味期限を年月日で表示している商品であれば、納品先から「次回納品は前回納品と同じか新しい日付の商品を」と納入指定をされます。それが、年月表示ならば、月単位での管理となるため、手持ちの在庫を効率良くさばけるようになります。それにより食品ロス発生の抑制につながります。また、保管・配送・入出荷等の作業を効率化

することも期待され、流通現場の働き方の改善につながる可能性があります。メーカーだけでなく、卸売業・小売業でも同様の効果が期待されますので、より生産性の高い計画系業務や、発注精度を高める業務へのシフトが進むことに

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主な研究領域は流通構造分析、営業・チャネル戦略。一般社団法人日本卸売協会 専務理事(2014 年まで)、製・配・販連携協議会事務局、食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム事務局。

石川 友博 Ishikawa Tomohiro 公益財団法人流通経済研究所主任研究員

事業者による食品ロス削減の取り組みと今後の展望

特 集

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よって食品ロス削減が進む可能性もあります。さらに、小売業の店舗では、日付表示からの

変更により、期限が近づいた商品を消費者が敬遠して、少しでも新しい商品を手に取ろうとする行動が起きにくくなることも期待されます。このように、加工食品の賞味期限の年月表示

化は、鮮度順納品の運用下でも、手持ち在庫の効率的消化による食品ロス削減効果と、製 ・配・ 販各層の保管・配送・入出荷等の作業効率化にもつながり得る重要な取り組みです。そもそも賞味期限の長い品目は品質劣化のスピードが遅く、期限の短い消費期限表示品目と比べると、日付管理する意味は乏しいといえます。もともと賞味期限が3カ月以上の品目については、関連法でも「年月」表示が認められています。これまで、特に 2011 年の東日本大震災の

ような物資不足時に、鮮度順納品を遵じゅんしゅ

守することや、消費段階で賞味期限を日付管理する意味が問われたことを契機に、菓子メーカーや飲料メーカーが年月表示への切り替えを積極的に進めてきました。2015年以降、調味料メーカーや小売業のプライベートブランド商品でも切り替えの動きが広がりつつあります。今後のさらなる年月表示化の取り組み拡大が期待されます。

加工食品の納品期限の緩和、販売期限の延長

現在、食品流通業界は農林水産省との協力のもとで、流通商慣習の1つである納品期限の見直しが、主に常温加工食品を対象として、進められています。納品期限は、長らく食品流通業界に定着して

いる商慣習の1つです。納品期限とは、流通の各段階に納品される商品の鮮度に関する基準のことで、製造日や賞味期限日を基準として設定されています。基準を満たさないものは受け入れられません。そのため、流通過程で残在庫が発生したり、メーカーで鮮度を満たすための商品の作り直しが行われ、代わりに未出荷在庫が発生したりします。残在庫や未出荷在庫は、あ

る程度販売することで消化できますが、一部は食品ロスとなっていきます。日本は他の国の流通と比べて、比較的厳しく

運用されている場合が多いとされています。具体的には、一般的に小売店舗への納品期限は「賞味期限の3分の2残し」で設定されている場合が多く、流通の川上側であるメーカーや卸売業も、いくつも基準があるとオペレーションが煩雑になるため、「大体小売店舗への納品期限は賞味期限の3分の2残しである」との前提で鮮度管理や出荷鮮度基準設定を行い、それを受けて、小売店舗側にさらに「納品期限は賞味期限の3分の2残しとする」ことが定着していきました。こうなると、一部の小売店舗が仮に納品期限を緩和しても、川上側では厳しい得意先の納品期限に合わせた運用を変えようとしないため、個別企業、個別企業間では問題の解決が難しくなります。なお、納品期限は、もともとは賞味期限まで

の期間を消費者、小売、メーカー・卸で平等に3等分する発想に基づいていて、消費者に配慮したものなのですが、納品期限が厳しく設定されるほど、残在庫や未出荷在庫が生じやすくなり、食品ロスが発生しやすくなります。そのため、もし、納品期限が全体的に緩和されれば食品ロスの削減につながるとの指摘は、長年行われてきました。また消費者のための期間とされる「賞味期限の残りの3分の1」の時点に小売店舗は「販売期限」を設定し、それを過ぎたら棚から撤去し廃棄処分するような運用を行ってきました(図)。

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特集 3 事業者による食品ロス削減の取り組みと今後の展望

図 加工食品の納品期限・販売期限・賞味期限のイメージ(賞味期限 6 カ月の場合)

公益財団法人流通経済研究所ウェブサイト(http://www.dei.or.jp/research/research08_02.html)を参考に作成

納品期限は、製造から賞味期限までの3分の1の時点とされている場合が多い。

6カ月

2 カ月

納品期限

製造日から卸・小売に出荷できる期限

小売の店頭に置かれ、販売できる期限

消費者がおいしく食べられる期限

販売期限 賞味期限

メーカー 卸 小売店頭 消費者

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農林水産省などがこの状況を重視し、同省の働きかけもあって、食品流通の製・配・販の主要企業が一堂に会して、食品ロス削減につながる商慣習の見直しを議論し、業界に提言する検討会議体「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム(以下、WT)」が設置され、業界全体を、「問題がなければ、納品期限を緩和する」という方向へリードする取り組みや呼びかけが行われています。こうした中、納品期限を見直す機運も高まり

つつあります。WTの取り組みに賛同した大手コンビニエンスストア、大手スーパーなどでは、飲料や賞味期限の長い菓子(180 日以上)の納品期限の緩和を進めています。また、地方の有力スーパーも受け入れを拡大。この取り組みが小売業界全体に広がれば、飲料・菓子だけでも4万トン以上の食品ロス削減効果を見込めます。このように、取り組みが広がりつつあります

が、前述のとおり、この問題は「一部が変わるだけではあまり大きな効果につながらない」性格があります。WTとしては、今後、納品期限緩和賛同企業の拡大とともに、緩和対象品目の拡大および中間流通段階における納品期限のあり方などを整理し、まさに業界全体を「問題がなければ、納品期限を緩和する」という方向へリードする取り組みを進めていくことを提言し、着手しています。後半の3分の1である「販売期限」を延長する

小売企業も増えてきました。公益財団法人流通経済研究所の 2016 年度の調査では、過去3年間に加工食品の販売期限を延長した小売業は全体の約2割に上ることが明らかになりました。また、2017年度には京都市が、小売業の販

売期限延長による食品ロス削減効果を検証する社会実験を実施するなど、自治体の食品ロス削減施策の一環として、行政が主導して小売業の販売期限延長を支援する動きも見られつつあります。加工食品の中でもパン、豆腐、牛乳等の「日

配品」に関しては販売期限延長による廃棄削減への影響が大きいと考えられます。日配品の小売店での廃棄は約2万トン(流通経済研究所推計)とされます。販売期限延長がさらに広がれば、これも削減されていくものと考えられます。

フードバンクの活用推進

わが国において、「まだ食べられる食品・食材」を、メーカー・小売業等から引き取り、福祉施設や生活支援を必要とする個人などに譲渡を行うフードバンク活動が広がっています。流通経済研究所の調査によると、2013年度時点では活動団体は 40団体でしたが、2017 年1月末時点では 77団体と3年間でほぼ倍増しています。また、フードバンク活動団体の所在地は全国に広がっており、44都道府県で少なくとも1団体以上が活動していました。直近では、おそらくフードバンク活動団体数は 100 を超えていると思われます。全体として、フードバンク活動は活発になっており、企業による活用も広がっています。これは、フードバンク活動団体が、相互に連

携を強化するなどして、商品の横流しや不適切な廃棄といった行為の撲滅、商品の衛生管理水準の向上に取り組み、その結果、食品ロス削減に対する問題意識の高い提供側企業のフードバンク活動団体に対する信頼が向上した成果といえます。とはいえ、フードバンク活動による食品ロス

の削減量は 3,808.4 トンであり、わが国の食品ロス発生量 646 万トン(うち産業・流通から 357 万トン)に照らせば、今後の取り組み拡大の余地はまだまだ大きいといえます。提供企業にとっても、フードバンクの活用拡

大には、廃棄物処理コストの削減や地域貢献といった企業価値向上につながる側面があります。今後、企業・フードバンク活動団体間のさらなる相互理解の拡大、フードバンクの認知や運営水準の向上を通じて、企業によるいっそうのフードバンクの活用拡大が期待されます。

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特集 3 事業者による食品ロス削減の取り組みと今後の展望

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はじめに

イノシシ、シカなど野生鳥獣肉の利活用が急速に拡大しています。いつでも、どこでも、誰でも自由に野生鳥獣肉を購入・喫食できると言っても大げさな話ではありません。古く、日本で獣肉食が禁忌とされた時代には、シカ肉は「紅

も み じ葉」、イノシシ肉は「牡

ぼ た ん丹」など食肉の

隠語で呼称され、貴重なタンパク源でもあり、「薬食い* 1」の食材として利用されてきました。野生鳥獣肉の伝統的食文化が受け継がれてきた地域は少なくなりましたが、近年、再び、自然の恵みとしての(本当は害獣として)ジビエが、私たちの身近(国民生活)に戻ってきました。

しかし、残念なことに、自然の恵みである野生鳥獣肉を私たちが安全に楽しむ(食する)ための知識が十分に浸透しているとは言えず、時折、野生鳥獣肉を介した食中毒が発生します。本稿ではジビエを安全に食べるための関連情報を提供します。

野生鳥獣は保護から管理へ…ジビエを支える捕獲頭数の増加

ニホンジカとイノシシの生息域は 1980 年代からの急速な個体数増加により、それぞれ2.5 倍、1.7 倍と拡大し、野生鳥獣による被害は全国各地で農林水産業にとどまらず、生態系、生活環境などに深刻な影響を及ぼしています。2011 年度の調査では野生鳥獣の推定生息数はシカ 325 万頭、イノシシ 88 万頭の合計 413

万頭で、捕獲頭数は 80 万頭(シカ 41 万頭、イノシシ 39 万頭)でした。

環境省と農林水産省は 2023 年までにニホンジカを半減させ、イノシシを 50 万頭まで減少させる方針を示し、2014 年 5 月に鳥獣保護法が「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護管理法)に改正され、シカやイノシシは有害駆除動物となりました。これまでも、狩猟時期に加え有害鳥獣駆除の期間に捕獲されたシカやイノシシの有効利用・被害対策が全国各地で多方面から検討されております。

北海道のエゾシカ総合対策はその先駆けであり、捕獲したエゾシカを資源として有効活用することにより、北海道の産業起こしにも結び付けることをめざしました。エゾシカ協会・エゾシカ対策協議会は捕獲したエゾシカの食品としての付加価値を高めるために 2006 年 10 月に「エゾシカ衛生処理マニュアル」を作成し、マニュアルに基づく自主的な管理体制を確立、2015 年にはエゾシカ肉処理施設認証制度を創設し、エゾシカ肉の利活用をさらに拡大させるしくみを充実させました。

野生動物は「と畜場法」の対象外!

牛や豚などの家畜は「と畜場法*2」で衛生的なと殺・解体が義務付けられていますが、シカおよびイノシシなどの野生動物は「と畜場法」の対象家畜外です。食肉としての安全性を担保

* 1 冬、滋養などのためにシカやイノシシなどの肉を食べること。* 2 公衆衛生の見地から,適切なと畜場の経営および食用獣畜の処理について定め、公衆衛生や健康の増進を目的とする法律。

流行するジビエ-安全に食べるために-

消費者問題 アラカルト

専門分野は動物衛生学。研究分野は家畜の細菌感染症など。厚生労働科学研究「野生鳥獣由来食肉の安全性の確保とリスク管理のための研究」は3期目に入っている。

髙井 伸二 Takai Shinji  北里大学獣医学部教授(副学長・学部長)

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する検査に関する法規制が諸外国(ヨーロッパ、オーストラリア等)のように整備されていません。諸外国(アメリカは禁止ですが)では、狩猟者が野生鳥獣肉を販売用に卸す場合、あるいは狩猟者または事業者が狩猟用飼育動物を販売用に卸す場合は、その衛生管理が法令で規制されています。

わが国では、と畜場法に定める獣畜(牛、馬、豚、めん羊および山羊)および食鳥以外の動物を食肉として販売する場合は「食品衛生法」の規定により食肉処理業の許可を受け、さらに都道府県の「食品衛生法施行条例」の定める施設・設備および衛生管理の基準を遵

じゅんしゅ守することが定

められています。この法律に従って、各自治体では「野生鳥獣食肉衛生管理ガイドライン(北海道ではエゾシカ衛生マニュアル)」を作成し、野生鳥獣の食肉施設・加工施設の認証制度等を構築してきました。

一方、急激に生息数と分布域が拡大したため狩猟・捕獲した野生鳥獣肉を適正に処理し利用するための施設並びにシステムの整備が追いついておらず、利用可能な資源が無駄になっています。農林水産省の野生鳥獣処理施設への調査によると、2016 年度の捕獲獣約 110 万頭のジビエ利用頭数はシカが 55,668 頭、イノシシは 27,476 頭で、それぞれの捕獲頭数に対して利用率は 10%、5%と極めて低く、その多くが廃棄されています。

このような背景を踏まえて、厚生労働省は食用に供される野生鳥獣肉の安全性を確保するための必要な取り組みとして、狩猟から処理、食肉としての販売、そして消費に至るまで、狩猟者や野生鳥獣肉を取り扱う食肉処理業者等の関係者が共通して守るべき衛生措置を盛り込んだ

「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」を作成しました(2014 年 11 月)。

野生鳥獣肉の安全性を確保するためのしくみ

前述のガイドラインは、消費者(国民)に野生鳥獣肉を供与する者等(営業)を対象とする

ことから、食肉処理業と飲食店営業等の許可を受け、必要な施設設備を設置していることが前提であり、野生鳥獣肉の衛生管理が食肉(家畜)の衛生管理に比べて劣ることのないように機能することが求められ、野生鳥獣の捕獲、運搬、食肉処理、加工、調理および販売、消費の各段階における適切な衛生管理の考え方等が示されています。

ジビエの特殊性は野生鳥獣の生息地における狩猟・捕獲ですが、その内臓摘出は食肉処理業の許可を得た施設において行うことを基本とします。しかし、狩猟後の迅速適正な衛生管理の観点から、本指針に示す、やむを得ない場合に限り屋外での内臓摘出を可能としました。ただし、後述する国産ジビエ認証制度においては、この処理方法については検討委員会を立ち上げて検討することになっています。

最も大切なポイントは、野生鳥獣は無主物(所有者がいないもの)であり、飼料や健康状態等の衛生管理がなされている家畜とはまったく異なります。したがって、捕獲獣の素性は常に分からず、食用として問題がないと判断できない疑わしいものは躊

ちゅうちょ躇なく廃棄とすること、さら

には、食用とする場合にも安全に喫食するためには十分な加熱を行うことが絶対条件です。このような前提条件からも国・地方自治体の関係部局が連携して関係事業者等に対して野生鳥獣肉の衛生管理の徹底について周知を図ることが指示されています。

不適切な調理により起こり得る病気、それを防ぐための調理方法

ジビエが原因で発生した食中毒(人獣共通感染症)の 2000 年以降の主な集団発生事例を表に示します。シカの事例は生食によるサルモネラ症、腸管出血性大腸菌症と E 型肝炎、さらにはあぶり肉での住肉胞子虫(寄生虫)による下痢と嘔

おう吐で、イノシシの事例も肝臓の生食

と焼き肉による E 型肝炎で、いずれも生肉と生の内蔵、あるいは加熱不十分な肉料理が原因と推定された集団発生です。

消費者問題 アラカルト

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国民生活 2018.8 13

一方、牛の生の肝臓の喫食が原因と考えられる食中毒は 1998 年から 2011 年に 128 件(患者数 852 人)発生し、22 件(患者数 79 人)が腸管出血性大腸菌症でした。これらの因果関係は明らかで、これを断ち切るため厚生労働省は 2012 年 7 月から牛肝臓の生食用の販売・提供を禁止しました。続いて2015年6月から、豚肉や肝臓の生食による E 型肝炎、サルモネラ・カンピロバクター・寄生虫による食中毒を防止するため、内臓類を含むすべての豚肉について生食用として販売・提供が禁止されました。

わが国では、近年、E 型肝炎が急増しており、国立感染症研究所の調査* 3 では 2012 〜2016 年までに 701 例の発生があり、感染源が記載されている 290 例のうち豚(肉やレバーを含む)の生喫食があった症例が 121 例

(42%)と最も多く、次いでイノシシ 34 例(12%)、シカ 32 例(11%)の順でした。イノシシやシカなど野生鳥獣肉や内臓の生食のみならず、牛や豚の内臓の生食の危険性を知らな

いまま、依然として、間違った行為が続いています。食肉であろうが、野生鳥獣肉であろうが、調理する際は、しっかり加熱(中心部 75℃、1 分以上) することと、生肉に触れたものによる交差汚染* 4 に気をつけることが極めて重要です。

「国産ジビエ認証制度」について

農林水産省は 2018 年に国産ジビエの利用拡大に当たってジビエが消費者から信頼される食品として流通するように「国産ジビエ認証制度」を立ち上げました。この制度は、捕獲した野生のシカおよびイノシシの食肉処理施設における自主的な衛生管理の推進と、「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた衛生管理基準の遵守、カットチャート* 5 による流通規格の遵守、適切なラベル表示によるトレーサビリティの確保等を適切に行う食肉処理施設を認証することによって、より安全なジビエの提供と消費者のジビエに対する安心の確保を図ることを目的とした制度です。 詳細は他に譲りますが、店頭で、認証マーク(図)が付いたジビエが皆様にも近々にお目見えします。

よく加熱して食べよう

シカやイノシシなどは森林や農地に隣接して生息する野生動物であり、畜舎で飼養管理されている家畜とは異なります。したがって、その肉や内臓の生食はウイルス、細菌、寄生虫による感染(食中毒)リスクの高い、極めて危険な行為です。病原体は加熱により死滅します。よく加熱すること、これは、自然の恵みであるジビエ料理を安全に楽しむための絶対条件です。

* 3 国立感染症研究所ホームページ参照 https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2016/07/437d02t01.gif* 4 生肉に触れた手で他の食品に触ったり、調理器具の使い回しなどにより問題ない食品が二次的に汚染されること。* 5 「ロース」や「モモ」など部位ごとの切り分け方を定めたもの。処理業者ごとのばらつきを無くすことを目的とする。

年 発生地(県)

原因食品・動物 感染症 喫食者

(人)患者(人)

死者(人)

2000 大分 シカ肉の琉球(大分の郷土料理) サルモネラ症 14 9 0

2001 大分 シカ肉の刺身

腸管出血性大腸菌症 5 3 0

2003 兵庫 冷凍生シカ肉 E型肝炎  7 4 0

2003 鳥取 野生イノシシの肝臓(生) E型肝炎  2 2 1

2003 長崎 イノシシの焼き肉 E型肝炎 12 5 0

2005 福岡 野生イノシシの肉 E型肝炎  11 1 0

2008 千葉 野生ウサギの処理

野兎病(接触感染) - 1 0

2009 茨城 シカの生肉 腸管出血性大腸菌症  11 1 0

2009 神奈川 野生シカ肉(推定) 不明 15 5 0

2015 滋賀 シカ肉のあぶり

住肉胞子虫(下痢と嘔吐) 17 10 0

2016 茨城 クマ肉のロースト

トリヒナ(旋毛虫症) 31 21 0

消費者問題 アラカルト

表 日本におけるジビエが原因で発生した人獣共通感染症の事例

図 国産ジビエ認証制度のマーク

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Q 1

A 1

国民生活 2018.8 14

保証なし・整備なしで購入

    中古車を「保証なし・整備なし」の条件で購入し、お店まで取りに行きましたが、帰宅途中にエンジンが停止し、動かなくなりました。販売店に連絡すると、「『保証なし・整備なし』での販売ですし、当店も不具合があることは知りませんでした。納車後の修理はお客様責任となりますので、当店で修理する場合は有償となります」と言われました。納車直後にエンジンが故障したのに、有償修理には納得できません。販売店には責任はないのでしょうか?

    一般に中古車は新車と異なり、経年劣化や使用による損耗などがあることから、購入者は、そのような自然損耗が原因の不具合が生じる可能性があることを承知したうえで購入していると考えられます。そのため、自然損耗が原因の不具合が生じた場合、購入後の保証が付帯していなければ、販売店にその責任を求めることは難しいと考えられます。不具合が発生した際に修理等の対応を販売店

に求めることができるかは、購入の際に「保証付き」で購入したか、「定期点検整備(以下、整備)」を実施したか、がポイントとなります。「保証付き」で購入していた場合、保証期間内に生じた保証対象部位の不具合については、保証内容に基づき無償修理を求めることができ、「整備あり」で購入した場合、整備不良が原因で発生した不具合については無償修理を求める

ことができます。では、今回のように「保証なし・整備なし」(「現

状販売」や「現状渡し」ともいいます)で購入した場合、販売店に無償修理を求めることはできないのでしょうか?自動車公正競争規約では、販売店が「保証なし・

整備なし」で販売する際は、販売時に「保証なし」「定期点検整備なし」である旨を表示するとともに、要整備箇所(販売する時点で道路運送車両法に基づく保安基準に適合しない箇所等)がある場合は、「特定の車両状態を表示した書面 」を用いて、その箇所を表示するとともに、購入者には当該書面を交付しなければならないと定めています(第1回参照*1)。そして、このような対応が適切に行われていれば、その箇所に不具合が発生しても販売店はその責任は負わなくてもよいとされており、購入者の責任において修理等を行うこととなります。一方、購入者が、契約時に現車確認を行った

にもかかわらず発見できないような、中古車に予想される通常の自然損耗とは言えない不具合(以下、隠れた瑕

か疵し)が発生した場合は、その

不具合の内容等について説明を受けていなければ、販売店に対して「売主の瑕疵担保責任」に基づき無償修理(損害賠償)を求めることができます。また、修理が不可能な場合や販売店が適切な対応を行わないことが原因で、中古車売買契約の目的である「公道を安全に運行すること」ができない場合には、契約を解除できます。ただし、購入者の不注意等により見逃した不具

* 1 ウェブ版「国民生活」2018 年 4 月号「中古車の契約をめぐるトラブル Q&A」第 1 回「中古車購入時のポイントについて」

中古車の契約をめぐるトラブルQ&A

購入後の車両の不具合

第5回

一般社団法人自動車公正取引協議会消費者庁・公正取引委員会から認定されたルールである「自動車公正競争規約」の運用を通じ、消費者と販売店を結ぶ「信頼されるクルマ販売」を推進するための活動を行っている。

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A 2

Q 2

国民生活 2018.8 15

合等については、無償修理や契約解除を求めることができませんので注意が必要です。このように、「保証なし・整備なし」で購入し

た場合は、発生した不具合が 「通常使用による自然損耗による不具合」であるのか、「隠れた瑕疵」であるのかにより、販売店に無償修理等を求めることができるかを判断することになります。今回のケースは、中古車の引き渡し直後にエ

ンジンが故障しています。不具合の原因が経年劣化等によるものではなく、例えば、現状販売を理由に、販売店が仕入れ時や販売時の車両チェックを怠ったことにより不具合を見逃していた等の原因である場合は、購入者は無償修理等を求めることができると考えられます。販売店は、「不具合を知らなかったから責任はない」旨を主張していますが、この瑕疵担保責任は無過失責任ですので、販売店が不具合を知っていたか否かは関係なく、不具合が隠れた瑕疵である場合は無償修理等に応じる必要があります。なお、本事例に関連して、「納車直後に不具

合が発生したため、販売店に無償修理を求めたら、『保証なし・整備なしでの販売なので、ノークレーム・ノーリターン(納車後に不具合等が発見されても、購入者からのクレームや無償修理、返品は一切受け付けないとの趣旨)となります。納車後に不具合が分かっても当店では一切対応いたしません』と言われた」という相談

もありますが、前述のとおり、販売店が車両のチェックを怠り、不具合を見逃していた等の場合は瑕疵担保責任を逃れることはできませんし、消費者契約法では「事業者の瑕疵担保責任の全部免除条項や消費者の解除権放棄条項に該当する条項は無効」と定めていますので、注文書や契約書等にそのような内容の記載があったとしても、本内容は無効になると考えられます。

保証付きで購入

   「保証付き」で中古車を購入後、すぐにエンジンから異音がするようになったため、販売店に保証で修理してほしいと伝えました。ところが、「エンジンの部品を交換すれば直りますが、保証対象は工賃のみですので、部品代は有償になります」と言われました。「保証付き」なのに、工賃しか保証してもらえないのはしかたないのでしょうか?購入時に保証内容が記載された保証書は受け取っていません。

   保証内容には、すべての部位や工賃、部品代などを保証する全部保証と、対象となる部位や費用に制限がある部分保証があり、販売店の保証の多くは部分保証です。また保証には、新車時の保証を継承するメー

カー保証*2や自社で定めた部位等の内容を保証する自社保証、保証会社などが販売している保証商品などがあり、これらは、保証に要する費用や対象部位等の保証内容、保証期間、保証対象となる走行距離数等、それぞれ異なります。自社保証の中には、「保証付きだから安心」等

と表示(説明)しながら、実際には、限定された一部しか対象部位としない保証や、工賃しか保証されないものがあり、保証対象部位等を広げるためには高額な追加費用が必要となる場合があります。「保証付き」で購入する際には、商談時に保証対象の部位や期間等の内容をきちんと確認するとともに、納車の際には、保証内容が記載された保証書の交付を受けるようにしましょう。

契約内容 販売店に求められる対応保証付き整備あり

・保証対象の不具合の場合、無償修理・保証対象外の不具合の場合、有償修理

・整備不良が原因の場合、無償修理・隠れた瑕疵に当たる場合、無償修理

保証なし整備あり

・自然損耗による不具合の場合、有償修理

・整備不良が原因の場合、無償修理・隠れた瑕疵に当たる場合、無償修理

保証なし整備なし(現状販売)

・自然損耗による不具合の場合、有償修理

・要整備箇所を表示・説明されていた場合、有償修理

・隠れた瑕疵に当たる場合、無償修理

≪中古車売買の契約内容と販売店に求められる対応について≫

* 2 保証継承手続きを行うことにより、新車時の保証の残存期間について、新車と同内容のメーカー保証を受けることができる。

中古車の契約をめぐるトラブルQ&A

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国民生活 2018.8 16

こんなときどうしたら?インターネットのセキュリティガイド

第 2回

 今号では、第1回の「偽警告」*1と並んで多くの被害相談が確認されている「ワンクリック請求」について解説します。

ワンクリック請求の手口

 ワンクリック請求の手口自体は新しいものではなく、10年以上前より確認されているものです。改めてその手口について解説します。

ワンクリック請求はパソコンやスマートフォンでアダルトサイトや無料動画と書かれたウェブサイトを閲覧しているときに遭遇する手口です。あたかも動画を再生する画面と見せかけて

(図1)、いざ再生ボタンを押すと「登録完了」と請求画面が表示される(図2)というのが典型例です。また、こうした画面には「退会希望の方はこちら」というような文面のリンクなどが貼られており、文面を開くと業者の連絡先と思われる電話番号などが書かれています。焦って電話をしてしまうと、相手から退会費用として、またお金を請求されてしまいます。 これらの手口の特徴について、パソコンとスマートフォンそれぞれの環境に分けて見ていきましょう。

[パソコンにおける事例] 以前から確認されてきた事例は主にパソコンにおけるものでした。パソコン上に表示される請求画面には次の2種類のパターンがあります。<不正なプログラムによる画面表示> このパターンでは、リンクをクリックすると、パソコン上で請求画面を表示させ続ける不正なプログラムが実行してしまいます。一度、このプログラムが実行されると、パソコン上に表示される

「×」ボタンなどを押して請求画面を閉じても、1~2分後に再度請求画面が表示されてしまいます。さらに、パソコンを再起動しても再び表示されます。起動すると同時に請求画面が表示されるため、個人やパソコンを特定して請求していると思ってしまう人もいます。<ウェブブラウザによる画面表示> もう1つのパターンとして、ブラウザ上で請求画面を表示させる手口があります。この手口の技術的なしくみは本連載の第1回で解説した「偽警告」と似ています。請求画面も含めてウェブブラウザ上に表示され、ポップアップが

* 1 ウェブ版「国民生活」2018 年 7 月号「こんなときどうしたら?インターネットのセキュリティガイド」第 1 回「偽警告」   http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201807_06.pdf

ワンクリック請求独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) セキュリティセンター

図 1 動画再生と思わせる画面例

図 2 ウェブブラウザ上の請求画面の例

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こんなときどうしたら?インターネットのセキュリティガイド

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表れることもあります。これはブラウザ上に表示しているだけなので、ブラウザをいったん閉じて開き直す、またはパソコンを再起動することにより表示されなくなります。[スマートフォンにおける事例]

ここ数年で日本国内において急速に普及したスマートフォンでも、ワンクリック請求の被害が確認されています*2。この手口ではウェブサイトを閲覧中に「登録完了」を示すページへ自動的に遷移してしまいます。そのページ上でポップアップとして請求画面が表示され、

「OK」などのボタンしかないので、それを押すと業者の電話番号へ発信する通知が表示されます。その発信通知のキャンセルを押して表示を閉じても、またポップアップが表示され「OK」のボタンしか押せない、といったループから抜け出せなくなり、請求画面が消せなくなったと思わせます(図 3)。 また、この手口では請求画面が表示されるタイミングで「シャッター音が鳴った」という事象も確認されています。スマートフォンでは自撮りなどに利用される内向きのインカメラが内蔵されていることが一般的です。そのため、シャッター音が再生されると、自分の顔が証拠として撮られてしまったと思い込んでしまいます。しかし、これ

はシャッター音がBGMとして流れているだけで、写真が撮られてしまったと思わせる脅し目的であり、相手に写真が送られているということもありません。

ワンクリック請求への対策

 ワンクリック請求で見られる請求画面は、アダルトサイトなどで見られる動画の再生ボタンや「無料動画はコチラ」といったリンクをクリックしてしまうことで遭遇してしまいます。そのため、事前にこうした知識を身に着けておき、不用意にリンクをクリックしないことが大切です。ここでは、請求画面が出てしまったときの対処法について解説します。<不正なプログラムによる画面表示の対策> パソコンを再起動しても請求画面が再び表示される場合は、不正なプログラムが作動している可能性が高いと考えられます。不正なプログラムを作動させてしまった場合、画面を消すことは非常に困難です。そこでIPAでは安全な対処法として、Windowsの機能である「システムの復元」を実施して、請求画面が出た日付より前の日付の状態に戻すことを推奨しています。

不正なプログラムを動かしてしまう事例において、1つ頭に入れておきたい知識があります。

それは、特に Windows のパソコンにおいては、不正なプログラムを動かす際に、必ず警告*3が表示されることです(図 4)。

図 4 に「発行元:不明な発行元」とあるように、ワンクリック請求の手口における不正なプログラムでは、この表示になることが確認されています。現実世界においても、製品の製造元が不明だと、信用のおけるものなのかと不審に思う人がほとんどでしょう。パソコ

* 2 IPA「スマートフォンでのワンクリック請求の新しい手口にご用心」(2015 年 4 月 1 日)   https://www.ipa.go.jp/security/txt/2015/04outline.html* 3 なお、この Windows の機能を「ユーザーアカウント制御 (User Account Control)」と呼び、頭文字を取った UAC と呼ぶこと

がある。

図 3 スマートフォンのワンクリック請求画面のイメージ

登録完了画面出現後自動的にポップアップ

電話発信をキャンセルすると最初の画面に

戻りループ状態になる

OK をタップすると問い合わせ先にある

電話番号へ発信

❶登録完了画面出現 ❷登録に関する情報表示 ❸電話発信の確認

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ンの世界も同じで、不明な発行元、すなわちプログラムを開発した存在が不明瞭である場合は怪しむようにしてください。 また、この警告画面は「キャンセル」ボタンを押すことができます。キャンセルできれば、不正なプログラムを作動させることなく回避することができます。ワンクリック請求の不正なプログラムを作動させてしまうケースでは、この警告画面をよく読まずに「開く」を押してしまっていることが考えられます。今回の手口に限らず、こうした警告が出た場合は、よく内容を読んで、不審に思う場合は「開く」を押さないようにしましょう。<スマートフォンによる画面表示の対策> スマートフォンでの対策は、インターネットを見るためのブラウザ画面を閉じるだけです。しかし、パソコンと違って、ブラウザ画面の閉じ方の汎

はん用よう

的な操作方法はなく、AndroidとiPhoneでも、それぞれ操作方法が異なります。また、ブラウザによっても操作方法が違います。利用しているスマートフォンに合った操作方法が必要になりますので、画面の閉じ方がどうしても分からない場合は、操作が分かる人に見てもらうようにしましょう。例えば、携帯電話ショップに「インターネット(ブラウザ)の画面の閉じ方」を聞いてみるといいでしょう。これに加えて、より安全な策としてブラウザの「閲覧履歴の削除」を推奨しています。ただし、この閲覧履歴を削除するやり方もスマート

フォンによって変わるので、自分で分からない場合は携帯電話ショップなどに聞いてみるといいでしょう。

ワンクリック請求における不審な事例

 ワンクリック請求に関する一般的な手口とその対策は以上になります。ここで最近IPAに寄せられた相談の中で確認された不審な事例と、その考えられる原因について見ていきます。・業者に電話したら、伝えてもいないのに、い

きなり本名や住所を言われた。請求画面で表示された電話番号に電話してし

まったケースで確認されたものです。ワンクリック請求の手口では、不正なプログラムによる画面表示、ウェブブラウザ上の画面表示、どちらにおいても、ユーザー側の端末内の情報が抜き取られるといったことはありません。そのため、こうした事例で推測される原因として、電話をかけてしまったことがきっかけであると考えられます。電話をしてしまうと、当然相手業者に電話番号が知られてしまいます。さらに、スマートフォンの手口においては、発信番号に「186(発信者番号通知)」が必ず付記されていることが確認されており(図3)、利用者の電話番号取得をねらっていることが考えられます。 もし、電話番号を業者に知られたらどうなるでしょう。固定電話からかけた場合、電話番号からインターネット上などで本名と合わせて住所も検索されることが考えられます。スマートフォンなどの携帯電話の場合、電話番号とひも付けされるサービス、例えばLINEなどのSNSでは本名で登録している人が多いため、検索の結果、本名を知られてしまう可能性があります。 SNS などを利用していない場合、想像にはなりますが、業者側で電話番号と住所の個人情報リストのようなものを持っていることも考えられます。こうした情報がいつどこで漏れたのか確認することは非常に困難です。いずれにしても、業者に電話して問題が解決することはありませんので、決して電話しないことが重要です。

図 4 Windows のセキュリティの警告の例

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敗戦による価値観の逆転に自らの頭で考える重要性を学ぶ――長い歳月を首尾一貫して社会のために尽くされてきた及川さんですが、その原点となる事柄がおありですか。私は、敗戦の時、旧制中学の2年生でした。

学徒動員されていましたが、敗戦の玉音放送は校庭で聞きました。皆虚脱状態になりました。占領軍の指示で、教科書の中で軍国主義などに関連する文章は墨で塗りつぶしました。修身や日本史の教科書は、真っ黒になりました。民主主義への価値観の 180 度転換があり混

乱していました。そこへ、朝鮮の京城帝国大学の教授と助教授が私の中学の校長と社会科教諭として着任しました。この2人から、新憲法、民主主義、個人の自立について根本から教わりました。何が正しいか、自立して判断することの重要性を身に着けました。社会科学研究会を創立して勉強しました。社会公共のための仕事、特に社会的弱者支援の仕事をするという私の人生の原点はここにあります。大学卒業後、大蔵省に10年いて経済企画庁

に移り、地域格差是正、後進地域開発の仕事をしました。1965年の国民生活局発足、1970年の国民生活センター設立にもかかわりましたが、1972年には自ら望んで消費者行政課長に就任しました。本流を進む資格があるのに、なぜそんな傍流の課長を望むのかと、先輩や同僚には呆れられましたね。私は消費者保護の新しい分野を自ら構築する道を選び、以来今日まで消費

者問題にずっとかかわってきたことになります。

大学教授や消費者団体と共に企業や政権の反対を覆し製造物責任法の制定に費やした20年――及川さんの業績の1つである製造物責任法(以下、PL法)制定に至るまでの、消費者運動の背景を簡単にご説明いただけますか。戦後すぐに不良マッチ追放運動から誕生した

主婦連(主婦連合会)と、戦前からの組織を再生させた地婦連(全国地域婦人団体連絡協議会)、生協連(日本生活協同組合連合会)は、消費者三団体と呼ばれ、連携して活動し、戦後の消費者運動を主導しました。日本婦人有権者同盟ほかを加えて消費者五団体の連携活動もありました。主婦連会長の奥むめおさん、地婦連会長の山高しげりさん、有権者同盟会長の市川房枝さんは、国会議員でもありました。高度経済成長期になると、森永ヒ素ミルク事

件、カネミ油症事件など被害者は1万人を超え、死亡者数百人、そして現在でも影響を及ぼし続けるような、重大な消費者事件が続発しました。過失責任主義の古い民事法制では、消費者被害の救済は困難であり、先進国で導入されている無過失責任主義の PL 法を日本でも制定することが、消費者行政、消費者運動の重要課題になってきました。

経済企画庁(当時)を経て、国民生活センター理事長を務められ、今も消費者のために温かい目を配り続ける及川昭伍さんに、お話を伺いました。

安全安心な暮らしのために半世紀を超えてなお貫く消費者目線の基本姿勢及川 昭伍さん

私と消費者問題 第 2回

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私と消費者問題

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――1973年に研究会が発足してから1994年のPL法制定まで実に20年。印象深い出来事がいくつもおありかと思います。経済企画庁の消費者行政課長であった私は、

1973年に国民生活局長の私的諮問機関として、PL法の検討委員会を設置しました。座長は、東京大学総長を退任直後の加藤一郎先生にお願いしました。1975年に「中間報告」がまとまりましたが、経済企画庁幹部から財界の猛反対を受けるから発表は「ボツにせよ」と命じられた経緯があります。私は辞表を懐にして職を賭す覚悟でこの幹部と交渉を重ね、「中間覚書」に一段格下げするかたちでやっと公表することができました。記者発表は、私が行いました。PL法制定運動の原点になりました。数年後に、国民生活審議会の正式議題になり

ました。産業界と産業官庁の反対が強く難航しました。私は、国民生活センター理事長となり、審議会委員も兼ねていました。「中間報告」には至ったものの最終報告は何回も延期になりました。消費者団体の戦略会議に招かれた私は、国会

あての 300 万筆の請願署名を集める提案をしました。3カ月で 350万筆が集まりました。また、日米経済協議で PL 法が重要課題とな

り、PL 法がないのは非関税障壁だという外圧がかかりました。加えてPL 法に反対の立場にあった通産省出

身の審議会委員の自宅がテレビ火災で全焼しました。メーカーの見舞金だけの対応を体験した委員は、PL法賛成派になりました。産業界代表の電器業界出身委員もPL 法推進派になりました。このようにして審議会は、制定に大きく舵

かじ

を切りました。PL 法成立は 1994 年 6 月 22 日。この日私

は国民生活センターの理事長として相模原事務所におりました。念願であった自動車試験施設の完成式典の当日です。お祝いムードの中、「PL法全会一致で成立」との報が国会から届いた。式典に列席していた大勢の消費者問題関係者や

プレス報道関係の人々とともに湧き上がるように喜び合いました。20 年を費やしてついに、と感無量に。喜びが重なった私にとって忘れ難い一日です。

消費者の権利と自立のため新たな道を創造する――これまでを振り返って、残っている課題や改善すべき事はありますか。消費者庁ができた前後の混乱や国民生活セン

ターの統廃合の危機など、関係機関にも紆余曲折があり、消費者問題に対応するための環境整備はまだまだ道半ばです。課題や改善点は色々あります。かつては消費者の「保護」が重要課題でした

が、やがて消費者の「権利と自立」の重要性が認知され「消費者基本法」の制定につながりました。消費者の権利をいかに実効性のあるものにするか、それが大きな課題です。課徴金制度が少しずつ浸透していますが、小さな被害を見逃さない集団訴訟や国が被害者に代わって行う父権訴訟などを積極的に取り入れる社会になってほしいと願っています。地方消費者行政の弱体化は何より憂慮すべき

問題です。PIO-NET*を通じて得られる情報など国の利益は大きいのですから、地方の負担を軽減できるような国策を望みます。消費者被害はかたちを変えて次々発生し、関

係する人々の仕事が終わることはありません。私も長きにわたって多くの苦労を味わってきました。しかしね、喜びもまた大きいのです。プレスの人が呼びかけて作った「及川を囲む会」は今も続いています。立場は違えども、ともに戦ってきたいわば同志です。会えば今も話が弾みますよ。消費者行政の関係者、相談員や弁護士の方々、

これからもご苦労が続くでしょうが、人々の感謝もまた深い。どうぞ誇りを持って仕事を続けていただきたいと心から願っています。

(ライター:丹羽ひさ江)

* PIO− NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する情報を蓄積しているデータベースのこと。

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 日焼け止めクリームには「耐水」と表示されているものが多いが、果たしてどの程度耐水性があるか、世界的に有名なブランドと国内のブランドの製品について、Which?がテストした。テストは、日焼け止めクリームを塗布した被験者が、20分×2回、間に15分の乾燥時間(タオルなどで拭かない)を挟み合計40分間、さまざまな環境を想定した水槽(①塩素入りの水②塩水③速い水流)に浸

かった後、SPF値*を計測する。 その結果、国内ブランド製品は塩水・塩素入りの場合でSPF値が34%下がり、有名ブランドの製品では、塩水や速い水流の場合で59%も下がることが明らかになった。実際には、気温、汗、タオルで拭くなどの悪条件により、さらに値は下がり得る。 Which?は、現状の業界ガイドラインのテストは緩

やかに流れる水道水で行われるため非現実的であり、SPF値半減までは「耐水」表示が可能としているため、もはや意味が無いと批判している。信頼できる表示がなく、日焼け止めクリームを使用しながら日焼けのリスクにさらされる消費者に対し、Which?では小まめに塗りなおすようアドバイスしている。 諸外国の基準はより厳しく、例えばアメリカでは、40分間または80分間の同様のテスト(水温や室温その他も細かく規定)後、表示のSPF値を維持できなければ「耐水」の表示はできない。 イギリスでは毎年、約15,400人が死亡率の高いメラノーマ(皮膚がんの1つ)を発症する。日焼けは皮膚がんの大きな原因として挙げられており、Which?は、業界には厳格なテストと表示基準が求められるべきだとしている。

国民生活 2018.8 21

 韓国では、海外の業者から商品等をインターネット通販で購入する消費者が急増している。統計では、2017年は2359万件(総額21億1024万ドル)に上り、件数で前年比36%増、金額では29%増である。それに伴い、苦情相談も増加している。 KCA(韓国消費者院)と全国1,400カ所あまりの消費者相談センターが運営している「クロスボーダー取引消費者ポータル」は、消費者の越境取引に関する苦情相談などを取り扱っているが、最近特に海外旅行の航空チケットやホテルのオンライン予約に関する苦情相談が増加しているという。同ポータルには2018年の1〜3月で4,090件超(前年比86.5%増)の苦情が寄せられたが、そのうち海外の宿泊予約関連の苦情が1,074件(前年比345.6%増)、航空チケット予約関連は865件(同225.2%増)という激増ぶりだ。また、海外に拠点を置く

予約サイト(以下、海外予約サイト)に関する苦情1,864件のうち、シンガポールの業者が637件(749.3%増)と突出して多かった。ほとんどが二重予約トラブルで、カード会社からの決済通知で初めて被害に気づき、返金を求めたが拒否されたという消費者からの苦情によるものである。 KCAは、予約手続きの過程で決済の最終通知前に決済が実行されてしまい、返金にも応じない海外予約サイトが多いと消費者に注意喚起を行う一方で、業者に対して改善を要求している。さらに海外予約サイトに対して一連の改善措置を推進した結果、世界的規模の予約サイト2社が、韓国内に顧客サービスセンターを2017年8月と2018年4月に開設した。これにより消費者の権利と利益の向上に大きく貢献することが期待される、としている。

韓国    海外のホテル等予約サイトのトラブルに注意●KCAホームページ http://english.kca.go.kr/brd/m_11/view.do?seq=414&srchFr=&srchTo=&srchWord=&srchTp=&itm_seq_1=0&itm_seq_2=0&multi_itm_seq=0&company_cd=&company_nm=&page=1

ほか

●Which? ホームページ https://press.which.co.uk/whichpressreleases/sunscreen-resistance-claims-dont-hold-water/ほか

イギリス  日焼け止めクリームの「耐水」表示に疑問

* 肌に有害な紫外線をどれくらいの時間防ぐことができるかを表した数値

文 / 安藤 佳子 Ando Yoshiko

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国民生活 2018.8 22

 古くから岩塩の採掘が盛んだったオーストリアだが、近時は海水塩の人気が高まっている。海水塩の中でも、特に注目を集めているのが、希少で高価なことで知られる「塩の花」(Fleur de Sel)だという。日光と風で濃縮された塩田の表面に、最初に浮かぶ結晶である。 ところが、2018年1月のこと、ドイツ語圏の雑誌等が「塩の花」に含まれるマイクロプラスチックについて一斉に報じ、消費者を不安に陥らせた。ドイツの研究者が「塩の花」5商品をテストしたところ、全商品に通常の海水塩よりも多量のマイクロプラスチックが含まれていたからである。マイクロプラスチックとは、レジ袋やトレー容器等に由来するプラスチックの微小な破片・粒で、世界中の海に漂っていると報告されている。

 そこで、VKI(オーストリア消費者情報協会)は、海水塩11商品(そのうち1商品が「塩の花」)を対象に、マイクロプラスチックの含有テストを行った。その際、岩塩1商品を比較対照品とした。 テストの結果、海水塩6商品に同物質が含まれていた一方で、岩塩からは予想どおり、プラスチック粒子はまったく見つからなかったという。また、驚くべきことに、今回テストした「塩の花」に含まれていたマイクロプラスチックは、極めて微量だったとのことである。 現時点では、マイクロプラスチックが人間の健康に及ぼす影響は未解明とされるが、海水塩を愛用する消費者は、塩に含まれる微小なプラスチックの存在を頭に入れておくよう、同協会は助言する。

オーストリア  海水塩のマイクロプラスチック含有量をテスト●VKI『消費者』2018年 6月号 https://www.konsument.at/meersalz062018●商品テスト財団ホームページ https://www.test.de/Speisesalz-Das-Maerchen-vom-Wundersalz-4612853-4612860/

●エコ・テスト出版『エコ・テスト』2018年 5月号 https://www.oekotest.de/kosmetik-wellness/30-Vegane-Kosmetik-im-Test_110953_1.html

ドイツ   人間の健康に良いとは限らないビーガン化粧品

 ベジタリアン(菜食主義者)の中でも、特に厳格な食生活を送る人たちはビーガン(完全菜食主義者)と呼ばれる*。肉や魚はもちろんのこと、乳製品、卵、蜂蜜など動物由来のすべての食品を口にしない徹底ぶりである。しかも、対象は食品に限られず、皮革・毛皮製の衣服・靴、動物性素材を含む化粧品等も使わないという。このようなライフスタイルに着目し、最近増えているのがビーガン向け化粧品である。しかし、その実態が気になることから、『エコ・テスト』では、「ビーガン」「動物性素材を含まない」等の表示がある化粧品30商品をテストした。内訳は、①洗い流せるタイプ(シャンプー、シャワージェル)②肌に残るタイプ(ローション、クリーム)③メイク用品(マスカラ、ネイルカラー、口紅)を10商品ずつとした。

 テストの結果、確かに蜜みつ

蝋ろう

、コチニール、ラノリン(羊毛脂)、絹など動物性素材は検出されなかった。しかし、これらの代替物として、疑義ある化学物質を添加する商品が目立ったという。特に、同誌が問題視するのがメイク用品である。カイガラムシから抽出されるコチニール色素の代わりに、アゾ系タール色素のタートラジン(黄色4号)、サンセットイエロー(黄色5号)を使う口紅が見つかっている。また、発がん性との関連が指摘されるMOAH(芳香族炭化水素系鉱油)等も検出された。さらに、高濃度の重金属(鉛、アンチモン)を含む口紅、マスカラもあった。 同誌は、ビーガン化粧品が動物に優しいとしても、人間の健康にも良いとは限らないと結論づけている。

* ウェブ版「国民生活」2016 年3月号「海外ニュース」参照 http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201603_09.pdf

文 / 岸 葉子 Kishi Yoko

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きっかけは生徒との会話

 本校は生徒一人一人の進路に沿った科目選択ができる総合学科です。全125科目のうち、家庭に関する科目は1年次「家庭基礎」のみが全員必修となっています。限られた時間の授業では、卒業後の自立を目標に、家庭科なりのものの見方・考え方を磨くことを心がけています。 現在の高校生にとってネットでの買い物は特別なものではなく、普通の選択肢です。ある日生徒と話していると、「フリマアプリで頼んだ商品、お金を払ったが届かなかった」と言います。詳しく聞けば、「(忙しいので)質問対応等は一切いたしません、と書いてあった。それでも500円と安かったので、だまされてもいいやと思って買った」と言われてしまいました。 少額ならばだまされてもよい、という意思決定は、正しいとは言えません。一生懸命働いて得たお金をどう使うかも、自立するうえで大切な視点です。また、自分の払ったお金のその先を知ることも、社会の一員である消費者として行動するためには欠かせません。このような思いから、「質の高い意思決定力」と「社会の一員である消費者として行動する力」を身に着けさせることをねらいとして、消費生活に関する単元で「買い物を考える」授業を行いました。

授業実践の内容

授業は全6時間構成(初級編・中級編・上級編)です(表 1)。 《初級編》では、購入場面に潜むリスクの予測、情報を収集し見極める力を育成することを

ねらいとしました。購入方法を4つ(ネットオークション・ネッ

トフリマ・ネット通販サイト・メーカー直営サイト)に限定し、メリット・デメリットを書き出させます。その後、実際に起こった消費者問題をもとに作成した「事例カード」を用い、自分たちの想像を超えるトラブルを疑似体験させました。例えば、ネットフリマで商品の箱の写真を掲載し、本体は付属しない旨の説明をきちんと読まない消費者に箱だけが届いた事例や、ネットオークションで他人になりすました人にお金をだまし取られた事例などです。理解するのが難しい事例も、グループ活動にすることで互いに教え合い、自分たちの力で読み解く姿が見られました(写真 1)。また、事例に似た自身の体験を語り出すなど、当事者意識を持って話し合いが進められたことが印象に残っています。そして、見極める手段として、4つの購入方

買い物から適切な意思決定を学ぶ消費者教育実践事例集

このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。

第 53回

山野内 友里 Yamanouchi Yuri 大分県立日田三隈高等学校教諭

時数 題目 主な指導内容

1 買い物を考える《初級編》 ・適切な意思決定

2 買い物を考える《中級編》1)あなたならどうする?

・契約・消費者問題とその背景

1 2)見えないお金の使い方 ・クレジットカードに よるお金の管理

2 買い物を考える《上級編》 ・消費行動と社会との かかわり

写真 1 学習のようす

表 1  単元の学習計画

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法のリスクの判定グラフを作成させました。安全・品質・サービス・意思表示・社会貢献の5つの点からみたリスクについて、線を引くだけの簡単なグラフで、自分たちの考えを目に見えるかたちで創出させます(写真 2)。個人の意見をグループでまとめる際、根拠を持って意見を伝え合うことを意識させました。さらに、他グループのグラフも見てもらい、意思決定の基準が人によって違うことも理解させました。生徒からは「買い物は楽しいだけでなく、怖い一面もあることを知った」との声がありました。 《中級編》では消費者問題への対応について、ロールプレイングを通して体験的に学ばせました。これは、事前アンケートで「買いたくない物を売られた時、断ることができる」への回答率が低かったことを受けて設定しました。 《上級編》は自分の買い物と世界のつながりに気づかせることをねらいとし、特定非営利活動法人ACEのワークショップ教材「このTシャツはどこからくるの?」を活用しました。

学習記録に見る意思決定の変化

 単元を通して生徒の学びを1枚の紙に記録していく「ワンペーパーポートフォリオ(OPP)」と呼ばれる方法を活用しました。初めに、「最近買ったTシャツ、どこで・いくらで・どうして買った?」という質問に回答させ、学習前の素直な意思決定を記録します。毎回の授業で学んだことを記録し、すべての授業終了後、記録用紙を半分折り返すと、学習前の自分の意思決定の隣に学習後の意識が並ぶことにな

ります。これによって学習による変容を確認できます。 ある生徒は、学習前の「ネットで1,500円程度で購入。好みのデザインで必要だったから」という回答が、「安さだけを求めず、長く着られるものを選びたい」「将来販売員になったら、生産地にも配慮する等、大人だからこそできることをしたい」「はじめは1,500円程度と値段にこだわっていたが、質にも目を向けたいと思った」という思考に変化していました。

生徒の価値観に働きかける成果も

生徒の記録で特に印象的なのは、「安いモノを作る会社だけが生き残る社会で働きたくない」という言葉でした。回答した生徒は将来アパレル業界で働くことを希望しており、キャリア教育活動の中でアパレルショップ店員にインタビューをしていました。この授業での学びとキャリア教育とが生徒の中でつながり、見方・考え方が深まったのではないかと考えています。また、実践から1カ月後の定期考査での解答からは、生徒の中で学習内容が育ち続けているようすを見ることができました(表 2)。 これから先も世の中は進化・多様化すると予測されます。買い物に限らず「意思決定」に対する意識が育ち続け、考え続けてくれればと思います。今後は授業の改善に加え、学校家庭クラブ活動や高齢者福祉施設との連携等、地域の一員としての活動を計画・実行し、生徒の活躍の場を広げていきたいと考えています。

消費者教育実践事例集

写真 2 生徒の作成したグラフ

表 2 考査での出題と解答例

【問い】消費行動でできる社会の創造について、自分の考えを述べなさい。ただし、指定された語句を4つ以上使用すること。

【実際の解答例】 私は一人の消費者として、児童労働等で作られた商品を買いたくはない。商品を買うのは選挙と同じで、その会社に投票し、賛同、支援をするということである。 価格も大事だが、その商品がどのように作られたのかを知ることの方が大事だと考える。

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明治も中期頃になると、日常生活の中に徐々に洋風の影響が強くみられるようになります。それは、設備面において顕著に現れてきました。例えば、現在、当たり前に使っているガスや電気という家庭エネルギーが大きく変わり、それに伴い新しい道具や設備が住まいの中に取り込まれてきたのです。いわば、商品化された道具が大きく生活を変えていく時代に移行し始めていたのです。

ガス・電気の普及

現在、ガスは調理用や暖房用として普及していますが、明治期には灯火用として普及しました。いわゆるガス灯で、明治 5年(1872 年)に初めて横浜居留地の街灯として灯

ともされまし

た。それ以前は、わが国では住宅内の灯火としてローソクや菜種油・胡

ご麻ま油などが用いられて

いましたが、ガス灯は住まいの中にも取り込まれるようになります。一方、電気を用いた電灯は、明治 11年(1878

年)に初めて灯りました。また、翌年にはアメリカでエジソンが白熱電球を発明しており、日本にも輸入され始めました。ただ、ガスにしても電気にしても、住まいまで送り込むための諸設備のコストもあって、一般家庭で使用するようになるまでにはしばらくの時間が必要でした。電灯が灯されると、ガス灯よりも電気のほう

が扱いも簡単で悪臭も無く、また失火の心配もないという意識が広まり、ガス会社では新たに灯火から家庭の調理用燃料への進出をめざしたのでした。ちなみに、明治37年(1904年)のものと推定される東京瓦

が斯す株式会社の『瓦斯営

業案内』には、ランプなどのガス灯火器とともに、新分野の家庭炊事器としてのガス窯、ガス七輪などの商品機器が紹介されています(図1)。こうした新しい機器が次第に住まいに取り込まれ、住生活の中に浸透し始めていたのです。とりわけ、住まいの中の唯一の労働の場であった台所には、新機器が集中して取り入れられ、台所の姿を大きく変えていくことになりました。

台所批判と台所改良

ガスが燃料源に代わるまでの台所は、土間と

明治時代の生活に学ぶ 最終回

専門は、近代日本住宅史。著書に『「間取り」で楽しむ住宅読本』(光文社、2005 年)、『新版 図説・近代日本住宅史』(共著、鹿島出版会、2008 年)、『日本の近代住宅』(鹿島出版会、2016 年)など。神奈川大学日本常民文化研究所長。日本生活学会会長。

内田 青蔵 Uchida Seizo 神奈川大学工学部建築学科教授

明治時代の家庭生活―商品化された住生活―

平成 30年(2018 年)は、明治元年(1868 年)から起算して満 150年に当たることから、政府では、「明治 150年」関連施策を推進しています。その一環として本誌では、明治時代を生きた人々の暮らしを振り返り、現代の暮らしを展望します。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/meiji150/portal/

図 1 西洋料理器

出典:『瓦斯営業案内』(東京瓦斯株式会社、1904 年)

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国民生活 2018.8 26

板敷きの床上からなり、薪まきを用いる竈

かまどと流しが

設けられていました。関東と関西では竈の置かれた位置が違いますが、関東では床上に竈があり、流しは土間に設けられるのが一般的でした。そのため、調理作業は土間と床上を行き来して行うことになります。また、その姿勢は、座ったり流しの前にしゃがんで行うというもので、不便で衛生的にも問題がありました。こうした伝統的な台所は、西欧人からも批判されていました。明治期の事例ではありませんが、大正 7年(1918 年)に坪内士行夫人のホームス氏は「初めて使つてみた日本の台所」(『住宅』3巻2号)の中で、日本の台所について①物を洗うのにお湯を使わず、またその設置場所も北向きで冬寒くて困る②歩く所で調理する習慣の不衛生さ③流しが低く座って行う台所仕事の不便さ、というように伝統的な台所の問題点を指摘しています。こうした台所批判は、実は明治期の家政書の中でも始まっていました。特に欧米の住まいの台所をモデルとした家政書では、ことさら台所の南面配置や立式による衛生的な台所への改良を主張していました。ガスや電気の導入が始まると、伝統的な台所

そのものも新しいものへの改良を求める機運が高まりました。そして、明治も終わりの明治 44年(1911 年)、『婦人之友』では「理想の平民的台所」と題し、主婦を対象に、新しい設備を備えた使いやすい台所の設計案の募集を行っています。当選案は、土間のない床の高低

差を排除、火場と水場を近接化、食事の場との隣接化といった点が特徴で、立動による作業の能率性を重視したものでした。また、その後、婦人之友社では、アイデア募集だけではなく、実際の立動用の調理台の通信販売を行っています(図2)。このように新しい生活を実現するための機器が商品化され、生活はもとより住まいまで変える動きが始まったのです。

商品化住宅の出現

明治 42 年(1909 年)、東京の洋家具の発祥の地・旧芝区琴平町(現在の港区虎ノ門)界隈に新店舗「あめりか屋」が加わりました。店主の橋口信助は 10年程アメリカのシアトル市の日本人街で古着などの店舗を構えていましたが、帰国し、洋家具や建材とともにアメリカで購入したメール・オーダーハウス(カタログ販売による住宅)6棟の販売を行ったのです。図面と建築部材一式をパッケージにした住宅で、橋口は自ら住んだ経験を持つアメリカ住宅こそ、これからの日本が導入すべき合理的で無駄のない新住宅と考えたのでした(図3)。いずれにせよ、明治も終わり頃になると、生

活に関わる道具や機器が商品化され、人々は購入という方法を通して自らの求めていた生活を追求し始めたのです。そうしたなかで、住まいも商品化されていったのです。言い換えれば、人々が新しい住生活を実現するために商品を購入する時代 生活の商品化 が始まったのです。

明治時代の生活に学ぶ

図 2 『婦人之友』誌上で通信販売されていた調理台 図 3 輸入販売されていたアメリカ住宅

出典:小菅桂子『にっぽん台所文化史』(雄山閣、1991 年) 出典:建築写真類聚 『建築写真類聚 住宅の外観 巻1』(洪洋社、1915 年)

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包括信用購入あっせん(5)-行政規制(下)-

国民生活 2018.8 27

 クレジットカード番号情報の漏えい・ 不正利用の現状 クレジットカード決済は、店舗取引の場合、クレジットカードを提示し、カード番号と有効期限により消費者を特定し、利用伝票への署名か端末機への暗証番号の入力により消費者の本人確認をして、代金決済を受け入れるしくみです。近年は、署名よりも、事前に登録した暗証番号によって照合する 3Dセキュア方式が推奨されています。ネット取引の場合は、サイトの決済画面でカード番号と有効期限を入力して消費者を特定するケースと、さらに暗証番号またはセキュリティコードを入力して本人確認をするケースがあります。 つまり、カード番号と有効期限が第三者に知られると、偽造カードを作られたり、ネット取引でなりすまして不正利用されるおそれがあります。こうしてクレジットカードが不正利用されると、消費者本人・カード会社・加盟店のいずれかの経済的な損害に直結します。 クレジットカード不正利用被害は、1998年から 2003 年頃にかけて、年間 200 億円を超える被害額に上る深刻な事態が生じました。その後、カード会社のセキュリティ対策の強化に

より、年間 60〜 70億円程度の被害額に減少したのですが、2014年頃から再び被害額が急増し、2017 年は年間 236 億円にまで達しました(表 1)。 従来は、カード自体の盗難・紛失やカード番号の不正読み取り(フィッシング・スキミング)により、不正取得したカード番号と有効期限を利用して偽造カードを作るケースが横行していました。これに対し、近年は、加盟店のコンピューターに不正アクセスして、カード番号情報を一挙に不正取得(ハッキング)するケースが増えています。不正利用の方法も、偽造カードを店舗で使用

する手口のほかに、ネット取引でカード番号情報を不正に入力するケースも多発しています(表 2)。

実は、国際的に見ると、日本のカード番号情

日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事、内閣府消費者委員会委員、経済産業省産業構造審議会割賦販売小委員会委員、特定適格消費者団体埼玉消費者被害をなくす会理事長、国民生活センター客員講師、明治大学法科大学院非常勤講師など。著書に『割賦販売法(クレサラ叢書 解説編)』(共著、勁草書房、2011 年)ほか。

池本 誠司 Ikemoto Seiji 弁護士

第 6 回消費生活相談員

のための割賦販売法

表 1 クレジットカード不正利用被害額

表2 クレジットカード番号情報の不正取得と不正使用の手口

2013年 78億円

2014年 114億円

2015年 120億円

2016年 142億円

2017年 236億円

<クレジットカード番号情報の不正取得の手口>

カード会員

○カードの個別取得: 盗難・紛失

○番号情報の個別取得: フィッシング(ネット取引)

加盟店

○番号情報の個別取得: スキミング(店舗)

○番号情報の大量取得: ハッキング(店舗・ネット取引)

<クレジットカード番号情報の不正使用の手口>

店舗取引 ○偽造カードを提示し署名する

ネット取引 ○カード番号・有効期限を 入力する一般社団法人日本クレジット協会ウェブサイト「クレジットカード

不正利用被害の集計結果について」(2018年 6月29日)より。

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国民生活 2018.8 28

報のセキュリティ対策は、極めて低い水準にあります。カード番号情報を暗号化して保管・送受信するクレジットカードの IC チップ搭載率は日本でも概

おおむね 80%程度に達していますが、

加盟店の IC 端末機の普及率は、2013 年 11月当時、欧州はほぼ 98%普及し、アジア太平洋主要国は 56%に上るのに対し、アメリカは9%程度で、日本は 17%程度にとどまっていました*。ただし、アメリカでは、大手スーパーでのカード情報大量漏えい事件をきっかけに、大統領令によりセキュリティ対策を義務づけ、2018 年末までに IC 端末機の普及率 90%超をめざしています。日本の加盟店のコンピューターがねらわれるのは、先進諸国の中ではセキュリティレベルが最も低いからです。

 クレジットカード番号情報の 適切管理義務割賦販売法(以下、割販法)の 2008 年改

正により、カード会社に対するカード番号情報の適切管理義務が規定されました。包括クレジット会社だけでなく、マンスリークリア払いのカード会社(二月払購入あっせん業者)とアクワイアラー(立替払取次業者・加盟店契約会社)を含めて義務主体とされました(割販法35条の 16)。これに対し、近年は、加盟店のコンピューター

に不正アクセスして不正取得する手口(ハッキング)が増加していることを踏まえ、2016年改正では、加盟店についても、カード番号情報適切管理義務の主体に追加しました(同条1項 3号)。従来の義務主体であるイシュアー(カード発行会社)とアクワイアラーに加盟店を加えて、「クレジットカード番号等取扱業者」という定義としています(割販法 35条の 16第 1項)。クレジットカード番号等取扱業者は、省令で

定める基準に従い、カード番号情報の漏えい、滅失または毀

き そん損の防止その他のカード番号情報

の適切な管理のために必要な措置を講じる義務を負います(同条 1項)。

これを受けた省令 132 条は、カード番号情報の漏えい等の事故を防止するために必要かつ適切な措置を講ずること(同条 1号)、また、漏えい等の事故が発生しまたは発生したおそれがあるときは、①拡大防止、原因究明および漏えいした番号の特定等を行うこと(同条 2号)、②消費者本人以外の者による不正利用を防止する措置を講ずること(同条 3号)、③類似の漏えい事故の再発防止措置を講ずること(同条 4号)、その他カード番号情報をカード取引の健全な発達を阻害しまたは消費者の保護に欠ける方法で取り扱わないこと(同条 5号)を規定しています。もっとも、カード番号情報の漏えい防止措置

として具体的にどのような方法が適切であるのかは、不正アクセスの手口の変化と漏えい防止措置の技術的な進展とによって絶えず変動が予想されます。そこで、法律や省令には基本的な機能を規定するにとどめ、「割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基本方針(最新は 2018年2月版)」に具体的な方策を規定し、さらに具体的な実行計画は、「クレジット取引セキュリティ対策協議会実行計画(最新は 2018年 3月1日版)」に規定し、毎年見直しをしています。

 クレジットカード番号情報の 不正利用防止義務カード番号情報は、コンピューターに保存

してあるカード番号情報の漏えい防止だけでは足りず、どこかで不正取得したカード番号情報の不正利用(偽造カードやネット取引でのなりすまし)を防止する対策を講ずることも不可欠です。そこで、加盟店に対し、カード番号情報の不

正利用防止義務を新たに規定しました。不正利用防止義務とは、漏えいされたカード番号情報が、カード名義人と称する者によるカード番号情報の不正利用を防止するため、省令で定める基準に従い、必要な措置を講ずる義務を負います(割販法 35条の 17の 15)。これを受けた省令 133 条の 14 は、カード番号情報の通知

消費生活相談員のための割賦販売法

* 経済産業省割賦販売小委員会(第5回)資料http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shojo/kappuhanbai/pdf/005_03_00.pdf

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国民生活 2018.8 29

を受けたとき、カード番号情報の交付を受けた真正なカード名義人によるものであることの適切な確認その他の不正利用防止措置を講ずること(同条 1号)、加盟店において不正利用された時はその加盟店で類似の不正利用を防止する措置を講ずること(同条 2号)を定めています。これについても、法律や省令は基本的に求め

られる機能を定めるにとどめ、前記「監督方針」と「実行計画」に具体的な事項を定めています。

 セキュリティ対策の実効性確保 カード会社(イシュアー・アクワイアラー)のセキュリティ対策は、経産省による改善命令の対象とされています(割販法 35条の 17)。これを実行するために、カード会社に対する報告徴収権や立入検査権限もあります(割販法40条、41条)。 これに対し、加盟店のセキュリティ対策義務の違反については、経産省の行政処分の対象とされていません。全国に 300 万社以上あると言われる業種を超えた加盟店に対し経産省の割販法担当部署が行政権限により法令を遵

じゅん守しゅさせ

ることは現実的でないこと、加盟店に対してはカード会社による加盟店調査と是正の指導により法令遵守を求め、応じないときは加盟店契約を解除することが現実的な対処であることから、割販法は、アクワイアラー等による加盟店調査措置義務の内容に、セキュリティ対策に関する事項を加えてあります。詳細は、第 5回で解説したとおり、加盟店契約を締結しようとするときの調査義務、加盟店契約締結後の定期的調査義務、加盟店や顧客等から漏えい事故に関する情報を受けた時の調査措置義務があります(割販法 35条の 17の 8)。 ほかに、クレジットカード番号等取扱業者が、第三者にカード番号情報の取り扱いを委託した場合は、受託業者に対する指導その他の措置義務が規定されています(割販法 35条の 16第3項)。受託業者において、漏えい事故が発生しまたはそのおそれがあるときは情報漏えいの拡大防止、原因究明、再発防止等を指導することが求められます。アクワイアラーが無登録の決済代行業者を使用する場合や、加盟店がカー

ド決済情報の管理を他の業者に委託する場合は、カード番号情報の適切管理の指導義務を負うこととなります(省令 133条)。

 予定されているセキュリティ対策 「実行計画」によれば、加盟店のセキュリティ対策の推進について、次の対策を講ずることが予定されています。①店舗取引における不正利用防止対策 加盟店のカード読み取り機を IC 端末機に変更することです。磁気ストライプカード(図)は、カード面やコンピューターに保存されているカード番号情報をそのまま不正取得して、偽造カードを作製することが可能です。一方、ICチップ搭載カード(図)は、カード番号情報が暗号化して保存されているので、カードやコンピューターからの不正取得も技術的に困難ですし、偽造カードの作製も困難です。政府と業界では、2020 年 3月までに、カードの IC チップ搭載を 100%達成することはもちろん、店舗取引の加盟店についても IC 端末機を 100%普及させることをめざしています。

②カード番号情報の非保持化による漏えい対策 店舗取引のカード番号読み取り端末やネット取引のカード番号入力画面を、カード会社のコンピューターに直結することにより、加盟店のコンピューターにはカード番号情報を保持しない状態とする方法です。③コンピューターの国際的セキュリティ水準確保 カード番号情報を加盟店のコンピューターで保存する方式を選択する場合は、VISA、Mastercard などが推奨する国際水準のセキュリティ対策(PCI DSS)を講ずることが求められます。

消費生活相談員のための割賦販売法

図 磁気ストライプカード(左)とICチップ搭載カード(右)

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④非対面取引における不正利用対策 ネット取引やテレビショッピングでは、従来は、カード番号と有効期限だけで利用を認めるケースが少なくありませんでした。そこで、カード番号と有効期限のほかに、カード裏面に記載してあるセキュリティコードか、カード会社で独自に登録してある暗証番号を入力または告知する 3Dセキュア方式が求められています。

 消費者啓発の重要性 カード番号情報の漏えい事故や不正利用被害を防止するには、カード会社と加盟店がしっかりとしたセキュリティ対策を講ずることが何よりも大切ですが、消費者の理解と協力がなければ真の対策は実現できません。 例えば、加盟店で暗証番号の入力を求められたとき、消費者が自分のクレジットカードの暗証番号を覚えていなければ、カード決済が利用できません。磁気ストライプ方式で署名を求める加盟店に対し、消費者の側から「まだこの店では署名方式ですか」と問いかけるような動きが広がれば、加盟店もセキュリティ対策を急ぐ動機づけとなるでしょう。 クレジットカードの不正利用被害を発見する最後の砦

とりでは、消費者がカード利用明細書を見て、

利用した覚えのない取引をチェックすることです。カード会社も把握できず消費者も気づかないで支払ってしまっている不正利用被害は決して少なくないと思われます。消費生活センターで消費者向けの講座を実施する際、消費者自らがクレジットカードのセキュリティ対策を行うことの重要性を取り上げてほしいものです。

 第三者による不正利用被害と 消費者の責任 クレジットカードの不正利用被害が判明した場合、どのような場合に消費者が責任を負うかについて、割販法には特に規定がありません。カード会社のカード会員規約には、カードの紛失盗難による不正利用被害やカード番号情報の漏えい等による不正利用被害の取り扱いについて規定があるのが通常です(カード会社により差異があります)。

 クレジットカードの紛失盗難の場合は、会員としては、直ちに警察署に紛失盗難届を提出するとともに、カード会社に所定の紛失盗難届を提出することにより、カード会社が事実関係を調査のうえ、カード会社への届け出の前 60日間のカード不正利用代金の支払い義務が免責される取り扱いが一般的です。ただし、会員の家族や関係者がカードを使用した場合や会員の過失によって盗難紛失が発生した場合や暗証番号を利用するキャッシングサービスについては、支払い義務が免責されない場合があります。 カード自体の紛失盗難ではなく、カード番号情報が何らかの原因で漏えいし偽造カードが作製されて不正利用された場合やカード番号によるネット取引での不正利用の場合(つまり、カードが手元にある場合)については、会員規約に規定があるカード会社とないカード会社がみられます。規定がある例をみると、概

おおむね、会員に

故意または過失があると認められるときは会員が支払い義務を負い、故意過失がないときは支払い義務を負わないという取り扱いが一般的です。この場合も、届け出の前 60日間の制限があるのが一般的ですので、気づくのが遅れると会員の負担となってしまいます。 もっとも、加盟店のコンピューターへの不正アクセスや悪質加盟店でのスキミングやフィッシングにより情報漏えいした場合は、会員には基本的に落ち度がないと思われますが、どこで利用されたのか、その時自分はどこにいたのか、その前後のカードの利用状況はどうだったのかなど、事実関係をできるだけ詳細に再現することが重要です。 家族や関係者による不正利用の事案についても、一律に会員が支払い義務を負うものと結論づけるのでなく、会員にカード管理の落ち度がどの程度あるのか、加盟店側の本人確認に問題がなかったのか、利用限度額を超えて無制限に責任を負うのかなど、会員とカード会社と加盟店の責任分担のあり方については裁判例の中でも見解が分かれています。事案ごとに慎重な検討が必要です。

消費生活相談員のための割賦販売法

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国民生活 2018.8 31

相談内容

大学在学中に、大学の教室に資格予備校(以下、業者)の担当者が突然やってきて「建築士資格に興味があれば説明したい」と言ってきた。このときはあいさつだけで終わり、個人情報は伝えていなかったが、後日、担当者から電話がかかってきた。「一度会って話をしたい」と言われ、数日後に担当者に会い、講座について話を聞いた。講座を受講した者の建築士資格の合格率が 9割を超え、自分でもすぐに合格できるという説明を受けた。また、内定先の会社と提携があり、学生のうちに契約するとクレジット契約の支払いが安くなるなどと言われた。その日はそれで終わったが、後日、担当者から「契約日はいつにするか」と電話がかかってきた。興味はあったが契約をする気はなかったため、帰省することを理由に断ったが、「ちょうど(帰省先に)行く予定がある。その日に契約しよう」と言われた。後日、帰省先に担当者が訪ねてきた。その資

格予備校は居住地に一番近い学校でも遠いことや、就職内定先の配属先も決まっておらず、通えるか分からないことなどを伝えたが「現住地

域に新校ができる」「全国に学校があるから大丈夫」「いつでもインターネット授業が受けられる」と言われ、結局断り切れずに、学生専用のクレジット契約を組み、建築士資格取得に係

かか

る学科講座、製図講座等、総額約 163 万円の契約をした(以下、本件契約)。就職後、配属先に一番近い学校に通うことに

なったが、開講日は週2回であるうえ、片道1時間以上もかかるため、これまでに2~3回しか通えなかった。また、インターネット授業にアクセスしたが動画は再生されず、受講できなかった。業者のスタッフに確認すると、いつでも受講できるものではなく、配信日が決まっているとのことであった。約 1年後、転勤で契約時に住んでいた地域に戻ったが、新規に開校するはずの学校は開校していなかった。当初の話と違うため解約を申し出たら、約 70万円を請求された。納得できない。

(20歳代 男性 給与生活者)

結果概要

国民生活センター(以下、当センター)は相談者から聴き取りを行い、業者に主張すべき勧誘時や契約時の主な問題点について次のとおり

国民生活センター 相談情報部

勧誘時の説明とは異なっていた建築士資格取得講座の受講契約トラブル

就活セミナーのアンケートに記載した電話番号をもとに勧誘され、建築士資格取得講座の受講契約をしたが、受講内容が当初の説明とは異なるため解約したところ、高額な解約料を請求された事例を紹介する。

苦 情 相 談

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国民生活 2018.8 32

整理をした。・いつでも受けられると説明されていたインターネット授業がいつでも受講できるものではなかったり、学生のうちにしか利用できないクレジット契約を持ち出し、「学生のうちしか契約できない」などと契約をせかしたりしている。

・大学の就活セミナーの際にアンケートで取得した個人情報を講座の勧誘に利用している。また、本件は店舗外での契約で訪問販売に該

当するにもかかわらず、クレジット契約書面に「店舗契約」との記載があった。このことからは、個別クレジット契約のクーリング・オフによって、原役務契約もクーリング・オフが可能(クーリング・オフ連動*1)と考えられたため、前記問題点を踏まえたうえで、当センターより、業者に本件契約はクーリング・オフが可能であることを伝えた。当センターの主張に対し、業者は本件契約の

勧誘方法や説明内容に問題はない旨の主張を終始繰り返す状況であった。また、個人情報の利用についても、「勧誘に利用することは利用目的にも記載しており問題はない」などと主張した(利用目的の記載を確認するために、アンケート書面の提出を求め続けたが、はぐらかし続ける状況であった)。当センターでは業者がクレジット契約と原契

約の連動規定について十分に理解していないと考え、改めて業者に説明をしたところ、「当社に問題はなくクーリング・オフに応じることはできないが、弁護士と相談し、本件について契約の取消しを認める」との回答があった。相談者が早期解決を望んだため、クレジット

会社とのキャンセル処理が終わったことを確認

後、本件あっせんを終了とした。

問題点

本件は建築士試験の合格をめざす講座の受講契約に関する相談である。こうした資格講座に関する相談では、本事例のような勧誘時の説明内容と実際に提供されるサービスとの違いによるトラブルが多く見られる。資格取得講座においては、どのような講義が

どのように履修できるか、全講義を消化できるのかなどが、契約をするに当たって大きな判断要素となるが、本件のように説明内容と実態に齟そ齬ごがあるケースが少なくない。トラブルを防

止するためにも、業者としては講座の内容、受講環境等について、丁寧な説明が求められる。また、本件のように、アンケート等、何らか

の場面で本人から直接取得した個人情報を業者が勧誘に使用することがあるが、個人情報の取得に当たって業者は利用目的(契約の勧誘に使用すること等)を明示*2しなくてはならない。アンケート等を記入する際に見落としがちであるが、個人情報でのトラブルに巻き込まれないためにも、アンケート等で個人情報を記入する際には、自分の個人情報がどのような場合に利用されるのかを確認するようにしてほしい。

* 1 割賦販売法 35条の 3の 10*2 「明示」とは、本人に対し、その利用目的を明確に示すことをいい、事業の性質および個人情報の取扱状況に応じ、内容が本人に

認識される合理的かつ適切な方法による必要がある。

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国民生活 2018.8 33

本件のようなペナルティーを科すことは許されません。また、本件の事案でペナルティーとしてアルバイト代を

減給(天引き)することは、労働基準法(以下、法)16 条や法 24 条、法 91 条に違反し、刑罰が科される可能性もあります。アルバイト(労働者)である相談者は、アル

バイト先(使用者)において自ら労働に従事する義務を負い、その労働の対価として、アルバイト先は相談者に対してアルバイト代(賃金)を支払います(労働契約法 6条参照)。風邪を引いてアルバイトを休み、労働に従事する義務を果たしていない以上、休んだ時間相当分のアルバイト代をもらうことはできません(ノーワーク・ノーペイの原則)。ポイントは「休んだ時間相当分」という点です。本件でも、休んだ 2日分のアルバイト代が支払われていないこと自体は、違法ではありません(ただし、ペナルティー名目であることは問題です)。しかし、本件では、休んだ 2日分を超える

3日分のアルバイト代が減給されています。法24条は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めていますので、2日分を超える部分の減給は同条違反であり、相談者は不足する 1日分のアルバイト代を支払うよう求めることができます。また、法 16条は「使用者は、労働契約の不

履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。つまり、もしアルバイト先で「休む際に代わりの者を探さなかったときは、ペナルティーとして○○円を減給する」などと定められていた場合、同条違反であり、無効とされます。なお、相談者は、自らが休む際に代わりのア

ルバイトを探す義務を負うわけではありません。当該義務を負うのはアルバイト先ですから、相談者がペナルティーを科される理由はないといえます。一般論として、就業規則に基づき懲戒処分で

ある減給を行うことはあり得ますが、本件のように病欠の場合、懲戒処分を行うことは難しいでしょう。仮に減給することができたとしても、法 91条は減給の上限について「1回の額が平均賃金の 1日分の半額」「総額が一賃金支払期(注:アルバイトであれば月単位でしょう)における賃金の総額の 10分の 1」までと定めていますので、同条に違反すると考えられます。2017 年 1 月頃、東京都内のコンビニにお

いて本件と類似する事案があり、話題となりました。その事案では、コンビニの本部が法律違反を認めているようです。もし、本件のようなペナルティーを科されそ

うになったときは、弁護士や労働基準監督署に相談することをお勧めします。

A

病気でアルバイトを休んだ時のペナルティーは許される?

風邪を引いてアルバイトを 2 日間休んだところ、代わりの人を探さなかったペナルティーとして 3 日分のアルバイト代が減給(天引き)されていました。ペナルティーを科されないといけないのでしょうか?

Q暮らし &法律 Q A

の第 75 回

相談者の気持ち

第一東京弁護士会所属。企業法務を中心に、一般民事事件、家事事件などを広く手がける。協力:萩谷 雅和(萩谷法律事務所)

菅原 修 Sugawara Shu 弁護士

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国民生活 2018.8 34

  事案の概要

1.Xらは、2009年11月初め頃のお試し保育を経て、自身の子どもである乳児Aと姉のBの月極保育サービスの入会申し込みをし、会社Y1が設置運営していた認可外保育施設(以下、本件施設)に、同年11月10日からAとBを預け始めた。

X2 は、同月 17 日午前 8 時 30 分頃、A とB を本件施設に預けた。その際、X2 は A らの体温を測ったが、A に熱はなく、それまでの間

の健康状態にも問題はなかった。当日、本件施設で預かっていた乳幼児数は 17 名であり、同日の保育従事者は Y6 と Y7 のみであった。両名はいずれも保育士資格ないし看護師資格を有しておらず、Y6 は本件施設での勤務が 1 カ月余、Y7 は 6 カ月弱であった。

本件施設内の保育ルームとベビールームは間仕切りにより仕切られ、保育ルーム側からベビールームを見ることはできなかった。2.Y6は、午前10時30分頃から、ベビールーム内にいたAが泣いていたため、姉のBのいる

暮らしの判例

認可外保育施設での乳児の窒息死亡事故における施設等の責任 本件は、認可外保育施設に預けられた乳児(事故時生後 4カ月)がうつ伏せ寝の体位で急死した事故について、その両親が保育従事者や運営会社、経営者、また市に対して損害賠償を請求した事例の控訴審判決である。 裁判所は、乳児の死因は SIDS*1(乳幼児突然死症候群。以下、SIDS)によるものではなく、うつ伏せ寝による窒息死であると判断して保育従事者の過失を認定し、施設経営者らの共同不法行為責任を認めた。 認可外保育施設での乳児の死亡事故について、事実を詳細に検討したうえで死因を窒息死と判断した点において、参考となる判決である。(大阪高裁平成 27年 11月 25日判決、『判例時報』2297号 58ページ掲載)

消費者問題にかかわる判例を分かりやすく解説します

国民生活センター 相談情報部

* 1 主に1歳未満の乳幼児の突然死のうち、それまでの病歴や健康状態から予知できず、精密な解剖検査等によっても死亡の原因が特定できないもの。

原告・控訴人:X1・X2(被害者Aの両親)被告・被控訴人:会社Y1(会社Y3から営業譲渡を受けた

認可外保育施設の設置運営株式会社)、Y2(会社Y1の代表取締役)、会社Y3(同施設を設置し会社Y1に営業譲渡した有限会社)、Y4(会社Y3 代表取締役で同施設の実質的経営者)、Y5(保育施設の園長)、Y6・7(保育従事者)

関係者:A(Xらの子で本件事故により死亡した乳児)、B(Xらの子でAの姉)、C医師(窒息死とする鑑定書および意見書の作成者で証人)

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保育ルームに連れてきて、床の上に寝かせていた。Y7は、午前10時30分頃から午後0時30分頃まで、本件施設の調理室内で、昼食作りとこれを乳幼児に順次食べさせる作業をしていた。Y7は、午前11時50分から午後0時頃、Aが保育ルームの床の上でうつ伏せ寝の体位で甲高い声で泣いていたことから、Aを保育ルームからベビールームに連れて行き、ベビーベッドに仰向けに寝かせた。その後、Y6は、ベビーベッド上でうつ伏せ寝の体位のまま呼吸をしていないAを発見し、抱き上げて、Y7を呼び、同人とともに、Aを叩いたり、水をかけたり、人工呼吸をしたりし、Y7は、Aの「鼻水みたいな鼻血みたいな」ものをふき取るなどし、午後1時3分に119番通報をした。Aは駆け付けた救急車により病院に搬送されたが、午後2時13分に死亡した(本件事故)。3.Aの両親であるXらは、2011年5月、本件事故はY6とY7に過失があったとして、保育従事者や本件施設経営者であるYらに対し、共同不法行為を理由として、損害賠償を請求する訴えを大阪地裁に提起した。

原審は、A の死因は SIDS と認めるのが相当であり、鼻口閉塞による窒息死であると認めることはできないから、外因の窒息死を前提とする Y らの責任を認めることはできないとして、X らの請求を棄却した。本件は、この判決を不服とした X らの控訴による控訴審判決である。最大の争点は、A の死因が鼻口閉塞による窒息死であったか SIDS であったかである。

 理由

1.認定事実等によれば、以下のとおり、Aの死因は、鼻口閉塞による窒息死であると推認できる。ア.Aは、ベビールームに運ばれた後、仰向けに寝かされたが、寝返りによりうつ伏せになった。その後Aに対する呼吸確認等のチェックは

なされていなかった。イ.Aの発見時の体位はうつ伏せであった。ウ.Aが寝ていたベビーベッドに敷かれたマットレスは、Aの頭部・顔面の重さに匹敵する重量約2.4kgのバーベル用プレートを置くと、約2.5cmの凹みが生じるものであった。エ.Aは、血液混じりの分泌物等を鼻や口から出しており、三重構造で厚さ6cmのマットレスにおいて、一層目の綿製カバー表面の約6cm×約5.5cmの血痕様の染みが、二層目の防水シートを突き抜けて、三層目のマットレス表面にまで染み込み、三層目の染みも約4cm×約2cmの大きさに及んでいる。この点について、C医師は、原審尋問において、「上記分泌物は、4カ月の乳児から出た分量としては多いと考えられ、一部吐物も混ざっている可能性があって、さらさらの液体ではなく粘性度がある程度あることからすれば、上からぐっと押しつけたと考えた方が、このような分泌物等が下まで染み込んだ状況を説明しやすく、どちらかといえばフェイスダウン(柔らかな寝具の上にうつ伏せで顔面を真下にした状態)であったと考えられる」と証言している。以上からすると、Aは、フェイスダウンの状態にあったと推認することができる。オ.Aは、本件事故当時、生後4カ月で、うつ伏せ寝の体位により鼻口部が閉塞されて低酸素状態になるまでの間に、顔面を横にするなどの危険回避行動をとることができるほどの学習能力がなかった。2.Y6およびY7は、Aの呼吸確認等をすることなく放置し、仰向けに戻さなくても大丈夫であると軽信し、これにより、Aを鼻口閉塞により窒息死させたものと認められる。乳幼児は、うつ伏せ寝の体位により窒息死する危険があるから、保育従事者は、就寝中の乳幼児をうつ伏せ寝の体位のまま放置することなく、常に監視し、うつ伏せ寝の体位であることを発見したときは、仰向けに戻さな

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ければならない注意義務があるのに、Aをうつ伏せ寝の体位のまま放置し、鼻口閉塞により窒息死させたといえる。Y6およびY7には前記注意義務違反がある。その余のYら本件施設経営者らは、保育従事者の使用者として民法715条に基づく損害賠償責任を負う。

 解説

1.本件は、認可外保育施設に預けた生後4カ月の乳児がうつ伏せ寝の体位で急死した事故について、死亡の原因が外因の窒息死によるものかSIDSによるものかが争われた事案である。第一審の大阪地裁は、死亡の原因はSIDSによるもので、外因の窒息死によるものではないとしてXらの請求を棄却したが、本件控訴審である大阪高裁は、乳児はうつ伏せ寝によりフェイスダウンの状態にあったとし、鼻口閉塞による窒息死と認定した。

本判決は、保育ルームとベビールームの仕切りにより、保育ルームからベビールームを見ることができず、また、調理室からベビールーム内を見ることもできない状況であること、本件事故日は、勤務歴が浅く保育士資格を持たない Y6 と Y7 の 2 名で 17 名の乳幼児を預かり、Y7 は調理室に入ったまま、昼食作りとこれを17 名の乳幼児に順次食べさせる作業に追われており、Y6 は一人で保育ルームでの保育、ベビールームでの呼吸確認等のチェック、受付カウンターでの来訪者の対応、電話対応、掃除、布団を出すなどの昼寝の準備をしていたこと、A の死戦期(死に至る直前の状態)における気道からの血液混じりの分泌物のマットレスの染みの状況や紙おむつに大量の脱糞があったことから A が分泌物等を出したままある程度長い間放置されたと認められること、Y6 や Y7 のA の確認状況の供述が採用できないことなどを詳細に認定している。なお、本件施設には、再三にわたり市からの立ち入り検査が行われ、有

資格者不足が指摘されていた。また、本件では、X らから市に対しても、規制権限の不行使が違法であるとして、国家賠償法 1 条 1 項の損害賠償請求もなされていたが、市の規制権限の不行使が違法とまでは言えないとして市に対する控訴は棄却されている(第一審も請求棄却)。2.保育園等での乳幼児の急死について保育園の経営者らの責任が追及される事例は少なくないが、これらの事件では、乳幼児の死亡原因が争われる。乳幼児の死因がSIDSである場合には、責任が否定され(参考判例①~⑤)、SIDSではなく、保育士等に過失がある場合には責任が肯定される(参考判例⑥~⑧)。

本件は、認可外保育施設についての判決であるが、事実の詳細な検討をしたうえ、窒息死と認定したもので参考になろう。

 参考判例

乳幼児の死因がSIDSであるとして施設等の責任を否定したもの①京都地裁平成6年9月22日判決(『判例

時報』1537号149ページ)②東京高裁平成7年2月3日判決(『判例

時報』1591号37ページ)③神戸地裁平成7年6月9日判決(『判例

時報』1564号84ページ)④横浜地裁川崎支部平成26年3月4日判決

(『判例時報』2220号84ページ)⑤大阪地裁平成26年9月24日判決(LLI /

BD、本判決の原審)保育士等の過失を認めたもの⑥東京地裁平成10年3月23日判決(『判

例時報』1657号72ページ)⑦福岡高裁平成18年5月26日判決(『判

例タイムズ』1227号279ページ)⑧仙台高裁平成27年12月9日判決(『判

例時報』2296号86ページ)

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「半歩前進」続きの不当条項規制の拡大

前回は、当初の法案とは異なるかたちで改正消費者契約法(以下、2018 年改正法)が成立したことを受けて、急きょ、その内容の検討を行ったため、前々回に引き続き取り上げる予定だった不当条項規制の解説が、1回先延ばしとなってしまいました。気を取り直して(?)、再開したいと思います。

消費者契約法(以下、法)の立法に向けた議論が始まった当時、諸外国では、消費者に一方的な不利益を生じさせるような不当条項をできるだけ網羅的に規制していこうとする動きが、既に先行していました。このような動きを受けて、国民生活審議会消費者政策部会における議論の当初は、不当条項の全部または一部を無効とするという一般条項を設けるとともに、不当条項のリストを作成して、当然に無効とされる条項を「ブラックリスト」、不相当と評価された場合にのみ無効とされる条項を「グレイリスト」として列挙する等の方向性も示されていました。しかしながら、議論が進むにつれて、規制対象となる不当条項の範囲が絞られていき、2000 年の立法では現在の法8条・9条・10条という3つの条文だけが設けられることになったわけです。

もっとも、これらの条文だけでは不当条項規制の範囲があまりにも狭いのではないか、とい

う指摘は立法当初からあって、その後の改正へ向けた議論においても、「ブラックリスト」・

「グレイリスト」の作成等が何度も議論をされてきました。しかしながら、網羅的なかたちでの不当条項規制の立法には根強い反対があり、結果として、2016 年に改正された法(以下、2016 年改正法)および 2018 年改正法では、いわば個別の不当条項を無効とする規定を少しずつ追加するかたちで少しずつ不当条項規制が拡大されることになりました。いわば、その歩みは、「半歩前進」という状況が続いています。

 2016 年改正法での追加内容

内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会(以下、専門調査会)では、2014 年から足かけ4年にわたって法改正へ向けた検討が続けられてきましたが、契約取消権と同様に、不当条項規制についても厳しい議論が戦わされてきました。その結果、2015 年に公表された専門調査会の報告書(以下、2015 年報告書)では次の2点について改正する方向が示され、これを受けて 2016 年改正法で条文が追加・修正されることになりました。

消費者の解除権を放棄させる条項の無効

第1点は、事業者側の原因によって生じた消費者の解除権を放棄させる条項を無効とする規

不当条項規制(8条・8条の2・8条の3)

博士(法学)。専門は民法・消費者法。消費者庁「消費者契約法の運用状況に関する検討会」委員等を歴任。宮下 修一 Miyashita Shuichi 中央大学法科大学院教授

誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ

第 11 回

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定を設けた点です。対象となるのは、消費者の解除権が、①事業者の債務不履行、または②有償契約*1である消費者契約の目的物に隠れた瑕か

疵し

(=欠陥)があること(請負契約の場合には、その仕事の目的物に瑕疵があること)によって生じた場合です(法8条の2)。

民法上、債務不履行がある場合(現行民法541 ~ 543 条)、または、契約の目的物に瑕疵がある場合(瑕疵担保責任/現行民法 570条/ 2017 年改正民法 564 条)には、契約を解除することができます。ところが、事業者が用意する契約条項の中には、「いかなる場合でも解除できません」という条項が入れられていることがあります。しかしながら、本来であれば民法上解除ができる状況にあり、かつ、その状況を事業者自らが作り出したにもかかわらず、そのような解除制限条項を設けることは、まさに不当以外の何ものでもないでしょう。

なお、2017 年に改正された民法では、契約の目的物に瑕疵がある場合には契約の内容に適合しないこと(契約不適合)を理由に債務不履行の規定に基づき解除をすることができるようになり(改正民法 564 条→ 541 条・542 条)、それに伴って瑕疵担保責任に基づく解除を定めた現行民法 570 条は削除されました。そこで民法改正関係法律整備法では、2020 年の改正民法の施行に合わせて、法8条の2につき、現在の1・2号を削除し、「事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる消費者契約の条項は、無効とする」と改めることになりました(ただし、後述するように 2018年の法改正を踏まえて再度の改正が行われています)。

消費者の不作為をもって契約の申込み・承諾をしたものとみなす条項の無効

第2点は、消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込みまたはその承諾

の意思表示をしたものとみなす条項を無効にする可能性を与えた点です(法 10 条)。例えば、専門調査会の検討過程では、水の宅配とそのサーバーのレンタルの無料お試しキャンペーンについて一定期間内にその終了手続きが行われず、レンタル商品が事業者に返却されなかった場合には、本サービスを利用する意思があるものとみなして有料サービスに移行する旨の条項が、その例として挙げられています。ただし、そのような条項であれば直ちに無効になるというわけではなく、その内容が信義則(信義誠実の原則。民法1条2項)に反して消費者の利益を一方的に害する場合に限られます(この要件の問題性については、後に法 10 条を取り上げる際に検討します)。

 2016 年改正法の問題点

以上のように、改正はされたものの、なお問題が残されています。まず、新設された法8条の2は、消費者の解除権を「放棄」させる条項を無効とします。しかしながら、例えば、本人の死亡やクーリング・オフによる場合を除いて契約締結後の解約・返金を認めない旨の条項のように、消費者の解除権を「制限」する場合も消費者にとって一方的に不利な条件を付す不当条項であり、前記の「放棄」条項と同様に無効とすべきでしょう。ところが、その立法は最終的に見送りとなってしまいました。また、法10 条の追加部分については、不作為のみならず、消費者の作為をもって消費者が契約締結の申込みまたは承諾の意思表示をしたものとみなす(例えば、ソフトウェアの CD-ROM 等の包装を開封した時点でその使用条件を承諾したものとみなす)旨も規定することが検討されたのですが(これももちろん消費者にとっては不当な条項です)、やはり見送りになってしまいました。そして、残念ながらその後再開された専門調査会においても、条文化したことにより既

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*1 有償契約とは、当事者双方が互いに経済的な対価を提供する契約を指す。例えば、売買契約は、売主は目的物を買主に提供し、買主は代金を売主に提供するというかたちで互いに経済的な対価を提供することになるので、有償契約といえる。

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に対応がなされていることを理由に、前記の問題点については検討されませんでした。

その意味では、2016 年改正法で新設・修正された内容自体が必ずしも十分なものとはいえないことを確認しておく必要があります。

 2018 年改正法での追加内容

このように 2016 年改正法では、ごく一部の不当条項を無効にする旨の規定が追加されましたが、これはあくまで専門調査会で意見の一致をみた最低限の内容をフォローするものであって、もちろん十分なものとはいえません。

そのこともあって、2015 年報告書では、不当条項の類型の追加について引き続き検討を行うべきである旨が明記され、また、2016 年改正法成立の際の衆議院および参議院それぞれの附帯決議では、前記の追加につき、その他の項目を含めて 2016 年改正法成立後3年以内に必要な措置を講ずることが求められました。

これを受けて再開された専門調査会では、追加されるべき不当条項の類型について具体的な検討が行われました。消費者庁が具体的な検討項目として挙げたのは、次の4点です。

① 消費者の後見・保佐・補助の開始を解除事由とする条項

② 条項の解釈や当事者の権利・義務発生要件該当性の決定は事業者のみが行う(あるいは、それに加えて消費者が事業者に対しそのような解釈や決定について異議を述べることを排除する)旨の条項(=解釈権限付与条項・決定権限付与条項)

③ 本来であれば全部無効となるべき条項について、例えば「法律で許容される範囲において」という文言を加えるなど、その効力を強行法によって無効とされない範囲に限定する趣旨の条項(サルベージ条項)

④ 軽過失による人身損害の賠償責任を一部免

除する条項

いずれも、消費者にとっては一方的に不利益を生ずる不当な条項であると思われますが、③については裁判例などが存在しないため、消費者庁の『逐条解説 消費者契約法』*2(以下、

『逐条解説』)等で対応すること、また、④については当面は法 10 条の解釈・運用に委ね、『逐条解説』等で対応することを理由に、それぞれ立法化は見送られました。そのうえで、残る①・②のみが立法されるに至ったわけです。

後見等の開始を理由とする解除権を付与する条項の無効

具体的には、①については、法8条の3を新設し、事業者に対し、後見・保佐・補助の審判を開始したことのみを理由とする解除権を付与する消費者契約の条項を無効とする旨を定めました。成年後見制度の本来の理念は、本人の意思の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(障がいを持つ人が、可能な限り自立して家庭や地域で通常の生活を営むことができる社会を作ること)の実現であるはずです。また、日本は、2013 年に国連障害者権利条約を批准しましたが(2014 年承認)、そこでは障がい者が完全な法的能力を有することを前提としています。そのような状況であるにもかかわらず、成年後見制度が適用されるようになったということのみを理由として契約を解除することを事業者に認めるというのは、まさに前記の理念や前提を失わせるものとなることでしょう。実際、消費者団体訴訟において、後見等の審判の開始または申立てがあった場合に、賃貸人である事業者が建物賃貸借契約を直ちに解除できる旨の規定が法 10 条に基づき無効であるとされたものもあります(大阪高裁平成 25 年 10 月 17日判決、『消費者法ニュース』98 号 283 ページ)。

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* 2 消費者庁『逐条解説 消費者契約法』http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/

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ところで、2017 年に公表された専門調査会報告書(以下、2017 年報告書)では、次のような提言がなされていました。民法は、受任者の後見開始を委任契約の終了事由としていますが(民法 653 条3号)、これは、契約等の法律行為ではない事務を委託する準委任契約にも準用されます(民法 656 条)。準委任契約とは、例えば、一定のサービス(役務)を提供するように依頼することです。例えば、消費者が事業者からの依頼(委託)によりモニターとして情報を提供する(ことを受託する)契約がこれに当たります。このような契約は、消費者に後見等が開始されれば、前記の規定に基づき終了することになります。そうすると、この場合には、どのみち契約は終了するのですから、消費者の後見開始による解除権を事業者に付与しても、民法上のルール(ここでは、前記の条文はすべて任意規定)から乖

か い り離しているとはいえません。

そこで、前々回検討したように、法8条1項5号がその適用対象を消費者契約が有償契約である場合に限定していることも参考にして、法8条の3の適用範囲については、「消費者契約が、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの対価を消費者が支払うことを内容とする場合において」という限定を付す、すなわち、前記のように消費者が対価ではなくサービス等を提供する場合を除外することを提言していました。

これに対して、2017 年改正法の8条の3は、消費者契約のうち、消費者が事業者に対し、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提供する場合を法8条の3の適用対象から除外しています。おそらく前記の点を端的に条文化する方針がとられたものと考えられます。

解釈権限付与条項・決定権限付与条項

②については、法8条1項5号と2年前に制定された場合の法8条の2を修正することで対

応することになりました。まず、法8条1項1~5号は、末尾の「事業者の責任の全部(一部)を免除する条項」の部分を「事業者の責任の全部(一部)を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項」と改められました。また、法8条の2も1号と2号の「消費者の解除権を放棄させる条項」の部分を「消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項」と改めることになりました。

なお、これに伴い民法改正関係法律整備法も改正され、2020 年の改正民法施行後の法8条の2は、38 ページで紹介した条文のうち「解除権を放棄させる」という文言が「解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する」と改められることになりました。

もっとも、解釈権限付与条項や決定権限付与条項が問題となる場面は、損害賠償責任の全部または免除条項や解除権放棄条項に限られるわけではありません。その意味では、適用範囲が、本来規制が必要とされるべき場面全体をカバーしていないといえるでしょう。

不当条項の類型の再度の見直しの必要性

以上で見てきたように、不当条項規制の範囲については、2回にわたる改正で徐々に拡大が図られてきましたが、残念ながらなお不十分なものにとどまってしまいました。

2017 年改正法の成立に際して衆議院および参議院で行われた附帯決議では、サルベージ条項等の不当条項の追加など、2017 年報告書で今後の検討課題とされた事項について引き続き検討を行うことが求められています。より網羅的な「ブラックリスト」および「グレイリスト」の作成も含めて、早急に再度の見直しへ向けて検討を開始すべきでしょう。また、再度の改正がなされるまでは、後に検討する法 10 条を柔軟に適用して対応することも必要となるでしょう。

誌上法学講座

[ お詫びと訂正 ]本ページに誤りがございました。詳細はウェブ版「国民生活」2018 年 9月号「誌上法学講座」に掲載しております。

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編集・発行

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***********ウェブ版「国民生活」2018年 8月号の訂正について***********

ウェブ版「国民生活」2018 年 8 月号の連載「誌上法学講座」40 ページに誤りがございました。修正内容はウェブ版「国

民生活」2018 年 9 月号「誌上法学講座」に掲載しております。

以上