Upload
others
View
2
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
痛風の治療にプレドニゾロンはNSAIDsと
同等か?
Oral prednisolone in the treatment of acute gout
Annals of internal Medicine
2016;164(7):464
JHOSPITALIST Network
Journal Club
2016/6/20
飯塚病院 担当者 大屋清文監修者 江本賢
症例:75歳男性
【主訴】発熱、体動困難【現病歴】慢性腎臓病、高尿酸血症の既往がある自立した75歳男性。来院前日の夜から足が痛くて動きにくくなっていたが、自宅で様子をみていた。来院日当日の午前5時頃より疼痛増強で体動困難、39℃の発熱があり救急要請、当院へ搬送された。
【併存症】高血圧症、慢性腎臓病【既往歴】過去に痛風発作の罹患歴あり。【内服薬】アムロジン、フロセミド、フェブリク【社会歴】ADL自立、80歳の妻と2人暮らし、タバコ 10本/日を50年間 酒は飲まない
【身体所見】バイタルサイン:体温38.2℃、血圧126/78mmHg、 心拍数82bpm、呼吸数18/分、SpO2 98%(室内気)
左拇趾MTP関節は腫脹発赤し、疼痛による可動域制限と熱感を認めた。安静時VAS 25mm、可動時VAS 90mmだった。その他の関節に明らかな変化は見られなかった。
【検査】WBC 12800/μL(Neut 82%)、Hb 12.4g/dL、Plt 37万/μL
AST 32 U/L、ALT 28 U/L、 LDH 145 U/L、ALP 221 U/L、 γGTP
45 U/L、 UA 9.6 mg/dL、BUN 28 mg/dL、 Cre 1.68 mg/dL
(eGFR 42.55)、Na 135 mEq/L、 K 4.1 mEq/L、CL 100
mEq/L、CRP 5.30mg/dL
【症例に対する評価】左拇趾MTP感染の単関節炎で、高尿酸血症の既往もあり、臨床的には痛風を最も考えた。その他の熱源も評価したが明らかなものはなかった。
治療にあたり、NSAIDsの使用を考慮したが、高齢で腎機能も悪く、胃潰瘍のリスクもあるため、NSAIDs以外の治療も検討した
。
UpToDate®"Treatment of acute gout"のページを閲覧したところ、初期治療の選択肢としては、NSAIDs、コルヒチン、ステロイドの記載があった。コルヒチンも腎機能障害の患者では使いづらいと考え、ステロイドの使用について検討してみた。
EBMの5step
• Step 1 疑問の定式化
• Step 2 論文の検索
• Step 3 論文の批判的吟味
• Step 4 症例への適応
• Step 5 Step 1-4の見直し
EBMの5step
• Step 1 疑問の定式化
• Step 2 論文の検索
• Step 3 論文の批判的吟味
• Step 4 症例への適応
• Step 5 Step 1-4の見直し
臨床疑問
P 痛風患者
I PSLで治療を開始する
C NSAIDsで治療を開始する
O 疼痛の改善
EBMの5step
• Step 1 疑問の定式化
• Step 2 論文の検索
• Step 3 論文の批判的吟味
• Step 4 症例への適応
• Step 5 Step 1-4の見直し
UpToDate®で検索Treatment of acute gout
の項目へ移動
Glucocorticoidsの項目oral glucocorticoidを
みてみる
NSAIDsとPSLを比較した試験が参考文献として複数存在そのうち最も新しいRCTを選択
痛風発作の治療における経口プレドニゾロン
Annals of internal Medicine
2016;164(7)464
PMID 26903390
EBMの5step
• Step 1 疑問の定式化
• Step 2 論文の検索
• Step 3 論文の批判的吟味
• Step 4 症例への適応
• Step 5 Step 1-4の見直し
What is known
• 英国では成人の1-2%、米国では3%以上が罹患
• EULARでは 1st lineとしてNSAIDsまたはコルヒチンを推奨(これらの薬のデメリットも認識した上で推奨)
• BSR・BHPRではNSAIDsが使用できずコルヒチンに対して抵抗性を有する場合にステロイドを用いることを推奨
• ACRでは2つの小規模RCTをもとに、NSAIDsやコルヒチンにコルチコステロイドを加えることが1st line の選択肢の1つとしている。
What is unknown
• コルチコステロイドとNSAIDsの疼痛寛解率の同等性と、安全性の差を調べた、比較的大規模なスタディはない。
論文の背景
ACR:American College of Rheumatology
EULAR:European League Against Rheumatism
BSR:British Society for Rheumatology BHPR:British Health Professionals in Rheumatology
論文のPICO
P 18歳以上で、香港の4施設の救急外来を受診し、臨床的に痛風と診断された患者 416人
I 経口 PSL 30mg×5日間
C インドメタシン(50mg×3日→25mg×2日)
O 治療2時間後および14日後の疼痛VAS scale変化量
Patient inclusion criteria
18歳以上で発症から3日以内に来院し、救急専門医が痛風と診断(以下の2つの基準を用いて痛風と診断した)
①罹患した関節の強い疼痛、腫脹、圧痛、発赤が急激な経過で出現し、6〜12時間で最大に達する
②以下A,Bのうち少なくとも1つA)MTP関節の腫脹B)足、膝、手、肘関節が関与し
B1)痛風結節があるB2) これまで関節穿刺を行って痛風と診断されたことがあるB3)高尿酸血症B4)臨床的に痛風関節炎と思われる関節炎の既往がある➔B1〜B4:いずれもなければ関節穿刺を行って痛風と診断
Patient exclusion criteria
• 24時間以内にコルチコステロイドまたはインドメタシンを使用していた場合
• 過去に出血性病変がある、もしくは、抗凝固薬を使用している場合
• 本研究に用いる薬剤にアレルギーがある場合• 化膿性関節炎や、他の関節罹患が疑われる場合• 尿酸ナトリウム結晶が穿刺液から確認されなかった場合• 不安定な心疾患を有する場合(狭心症、急性心筋梗塞、心不全)
• 認知症や意識障害、急性の消化管症状など、結果の解釈に影響しうる併存症がある場合
• クレアチニン >2.26mg/dLまたは eGFR <30ml/min/1.73m2の場合
Intervention & Comparison
I:PSL群PSL 10mg 3錠/日 を5日間インドメタシンの偽薬 2錠×3回/日 を2日間→1錠×3回/日 を3日間
C:インドメタシン群PSL 偽薬 6錠×1回/日を5日間インドメタシン 25mg 2錠(50mg)×3回/日 を3日間→ 25mg 1錠(25mg)×3回/日 を2日間
*最初の内服はinvestigatorがいる前で内服*いずれの群にもアセトアミノフェン1gの頓服を処方
OutcomePrimary Outcome
• 安静時および活動時の関節痛(先行研究をもとに2群間でのVAS変化量の差が13mm以内であれば同等性があると判断)
Secondary Outcome
• 薬剤による有害事象:めまい感、眠気、嘔気、嘔吐、腹痛、消化不良、皮疹、口渇感、その他患者が訴えた症状
その他のOutcome
関節腫脹/発赤/圧痛/熱感
ER滞在時間 機能的活動度 SF-36
アセトアミノフェン使用回数
医療機関再受診数 患者満足度 アドヒアランス
倫理的配慮
倫理委員会の承認を得ている
1.結果は妥当か介入群と対照群は同じ予後で開始したか
中央割り付けでランダム化されている
配薬は隠蔽化されている
ランダム割り付けされているか
隠蔽化されているか
Baselineは同等か 本文にも「差はない」と記載
1.結果は妥当か研究の進行とともに予後のバランスは維持できていたか
本文中にはdouble blind と記載されている患者、医療者、データ収集者、アウトカム評価者とも
マスキングされている
※ただし、E群とC群で薬の量が異なるため、患者が薬の量について言及したり、
investigatorが薬の量を確認してしまうと、マスキングが崩れる可能性がある
研究はどの程度盲検化されていたか
1.結果は妥当か研究終了時点で両群は予後のバランスがとれていたか
ITT解析とper protocol 解析の両方が行われている
脱落は40人で追跡率は90.4%
追跡は完了しているか
解析方法は妥当か
2.結果は何か
ITT解析と per protocol解析の両方で解析されており、疼痛スケール差は13mm以内に収まる→ 「同等性あり」
と判断
Primary Outcome 疼痛VASスケールの改善量
2.結果は何か
最初の2時間の副作用はインドメタシン群で多かっためまい感、眠気、嘔気は有意にインドメタシン群で多かった
Secondly Outcome 副作用の数(最初の2時間)
嘔気嘔吐、腹痛はインドメタシン群に、皮疹はPSL群に多かった。全体の9人が副作用により試験中止となった。
うち7人がインドメタシン群(腹痛3人、めまい感3人、倦怠感1人)PSL群では1人軽度カリウム値上昇
重篤な副作用は1人にも報告されなかった。
副作用の数(1-14日間)
Limitation
• 痛風の診断が臨床診断であり、全例に関節穿刺をしていないため、実は痛風ではない症例があるかもしれない
• 平日・日勤帯の時間に来院した症例しか対象にしていないため、夜間・土日により重症の痛風患者が来院している可能性がある
• NSAIDsにインドメタシンを使用しているが、副作用という点でも、他のNSAIDsに適応してよいかわからない
論文のまとめ
• 痛風患者をNSAIDs(インドメタシン)群とPSL群に割り付けして治療によるVAS変化量を比較した。
• NSAIDs群とPSL群では治療のVAS変化量の同等性があった。
• NSAIDs群には投与後2時間でも14日間でも、めまい感・腹痛などの副作用出現が有意に多く、副作用による試験中止患者数も多かった。
• PSL群では14日間で皮疹の自覚が多かった。その他重篤な副作用は報告されなかった。
EBMの5step
• Step 1 疑問の定式化
• Step 2 論文の検索
• Step 3 論文の批判的吟味
• Step 4 症例への適応
• Step 5 Step 1-4の見直し
研究患者は自身の診療における患者と似ていたか?
• Inclusion criteriaは満たしており、Exclusion criteria
に該当するものはなかった
• 論文のベースラインと比べると、平均年齢から10
歳上である。本症例はCKDがあるが、本研究の除外基準には当てはまらない程度であり、問題はないと考える
患者にとって重要なアウトカムは全て考慮されたか?
• Primary Outcome 安静時と活動時の関節痛が評価されており、疼痛を改善したいという患者のニーズに合致している
• Secondary Outcome 薬剤による主観的な副作用が評価されており、なるべく副作用を起こしたくないという患者のニーズにも応えている
• ただし、NSAIDs群で多いことが予想される腎不全や消化管出血の合併、PSL群で多いことが予想される高血糖、サイコーシス等についての評価がされていなかった。
見込まれる治療の利益は考えられる害やコストに見合うか?
• コストについては、◎インドメタシン25mg 1カプセル 9.6円2カプセル×3回/日×3日間→1カプセル×3回/日×2日間→ 合計230.4円◎プレドニン5mg 1錠 9.6円6錠×5日間 → 合計288円
• 害に関して、自覚症状する副作用に関しては許容される症状と頻度であると考えた。
実際の症例の経過• 論文の内容は、NSAIDsとPSLの効果が同等であり、副作用はNSAIDsが多いと報告されていた
• 本症例は、軽度の腎機能障害があり、NSAIDsは使いにくいと判断した
• 高齢でもあり、せん妄のリスクも鑑みて、PSL 15mgから開始したところ、5日後にはVAS 12mm(安静時)、VAS 23mm(活動時)まで改善した
• 1週間後もPSL 15mg×7日間、10mg×3日間、5mg×3日間使用してPSL終了し、経過は良好であった
EBMの5step
• Step 1 疑問の定式化
• Step 2 論文の検索
• Step 3 論文の批判的吟味
• Step 4 症例への適応
• Step 5 Step 1-4の見直し
Step1~4の見直し• Step 1 疑問の定式化痛風に対するNSAIDsとPSLの有効性についての疑問を、PICOに定式化できた
• Step 2 論文の検索二次文献を利用することで、短時間でPICOに一致した文献を検索できた
• Step 3 論文の批判的吟味同等性を調べた研究であったが、ITT解析とPP解析の両方が行われており、妥当な内容であったと判断したただし、Outcomeの副作用については、腎機能障害や糖尿病など、本当に知りたい合併症についてのデータがなかった
Step1~4の見直し
• Step 4 症例への適応NSAIDsとPSLの疼痛に対する有効性は同等と評価されており、疼痛の改善のためのPSL導入は妥当であると判断した
ただし、論文のPSLの用量は30mgであったが、実際の症例では高齢であり、せん妄リスクも高く、PSL 15mgに減量して使用したが経過は良好であった
論文の適応にあたり他に考慮することNSAIDsとPSLの用量について
• インドメタシン25mg 6錠分3は、日本では極量の2倍の用量であり、日本で一般的に使用される用量より多い
• 痛風に対して使用されるPSLの用量で決まったものはないが、0.5mg/kg/日(1)、 20~40mg /日(2)、 15~30mg /日(3)など様々な記載があり、PSL 30mgは用量としては妥当と考える
(1) Hospitalist Vol.2 No.2 2014特集:膠原病(2)リウマチ膠原病ビジュアルテキスト 第2版 上野征夫著(3)膠原病診療ノート三森明夫著
日本における薬剤の用量の違いがあるため、論文の結果をそのまま適応することには注意が必要
まとめ
• 痛風の発作時の治療には、これまでNSAIDsやコルヒチンが第一選択とされてきた
• 今回の研究では痛風の疼痛緩和に関して、PSLとNSAIDs
(インドメタシン)の同等性があり、副作用はPSLで少ない可能性が示された
• NSAIDsは腎不全と消化性潰瘍のリスクがあり、PSLは糖尿病の悪化、感染症、せん妄のリスクがあるため、症例ごとの個別のリスクを踏まえた上で、治療薬の選択を行うべきと考える