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1
物質の構造(原子・分子)(2)
分子の振動、回転、電子遷移
行動目標:
主に電磁波を物質に照射した際に生ずる物質の変化(光分子の振動、回転、電子遷移など)について学び、これらの変化を利用した科学計測法である分光分析法(紫外可視分光法、蛍光・発光分析法、赤外分光法)について概説できるようになる 。
分析科学Ⅰ 2009
分子の電子遷移・放射遷移
n
化合物(分子)は、紫外可視領域の電磁波を吸収するか、または放出することがある。この現象は、分子内の電子が低エネルギー状態(基底状態)と高エネルギー状態(励起状態)の間を遷移することにより起こる。
エネルギー変化
E
① ② ③ ④
有機化合物の電子遷移 電子は分子全体に広がった軌道に存在すると考える。(分子軌道法)
① - * 遷移
n- * 遷移②
③ n- *遷移
④ - *遷移
反結合性軌道
結合性軌道
非結合性軌道
2
有機化合物の紫外部光による電子遷移
① - * 遷移
n- * 遷移②
③ n- *遷移
④ - *遷移
不飽和炭化水素、芳香族化合物、複素環式化合物
共役不飽和結合系(-C=C-C=C-)では特に強い
カルボニル化合物、アザ(N)置換芳香族化合物
ハロゲン化アルキル
脂肪族飽和炭化水素 (但し、真空紫外領域)
典型的なπ電子共役系分子
ポルフィリン類
ナフタレン アントラセン
β-カロテン
リコペン
3
吸収スペクトル(2)
吸光度(A
)
波長(nm)
特定のエネルギーの光が特定の電子に吸収される。本来、電子レベルでのスペクトルは波長方向に不連続。分子レベルでは、原子間の振動、回転エネルギーがありこのため電子の遷移エネルギーは幅を持つようになる
4
光吸収・光放射とエネルギー準位
吸収
無放射遷移
無放射遷移
項間交差 励起
三重項状態
励起一重項状態
基底状態
基底状態
内部転換振
動緩和
振動緩和
振動緩和
エネルギー変化
蛍光放射
りん光放射
無放射(輻射)遷移は、励起エネルギーが主に熱として散逸して過程。
5
光吸収と蛍光・りん光
• ほとんどの有機化合物は紫外部または可視部領域で光吸収を示す。
• 光吸収を示す化合物の内、ほんの一部が蛍光またはりん光現象(光発光現象)を示す。
• 蛍光は、光源からの光を照射している間のみ発光するが、りん光はその後しばらくの間発光を持続する。
• 蛍光・りん光現象では、照射(吸収)する光の波長よりも長波長側の光を発光する。
蛍光現象と化学構造(1)
HO
O
OHO
O
HO
O
OH
O
フェノールフタレイン フルオレセイン
無蛍光 強い蛍光性
7
分子の振動・回転と光吸収(2)
• 基準振動(その2)
逆対称伸縮振動 対称伸縮振動 変角振動
例えば、H2O
分子の振動・回転と光吸収(3)
• 基準振動に伴い、赤外部領域の光を吸収する(振動スペクトル)
• 赤外線:近赤外線、中赤外線、遠赤外線
• 赤外分光法に使用するのは中赤外線領域
‒ 4000 ~ 400 cm-1(波数)、2.5 ~ 25 mm(波長)
• 赤外分光法で解ること
‒ 分子中に存在する原子間結合(官能基)の種類と、分子内での凡その位置
‒ 水素結合や分子間相互作用に関する情報も得られる
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分子の振動・回転と光吸収(1)
• 基準振動と赤外吸収(その1)
逆対称伸縮振動 対称伸縮振動 変角振動
例えば、CO2
2350 cm-1 1388 cm-1
667 cm-1
赤外活性
赤外活性
赤外不活性
分子の振動・回転と光吸収(2)
• 基準振動と赤外吸収(その2)
逆対称伸縮振動 対称伸縮振動 変角振動
例えば、H2O
3760 cm-1
赤外活性
3650 cm-1
赤外活性
1595 cm-1
赤外活性
9
-O-H
-C-H
-C=O
透過率
分子の回転と光吸収
• 分子の回転運動に伴って、マイクロ波領域の電磁波の吸収が観察される
• 分子の回転による光吸収は、分子の電気双極子モーメントに基づいている
• 回転分光法(マイクロ波分光法)は、気相中の分子にのみ適用される。溶液中では、分子間衝突の頻度が分子回転の振動数を大きく上回るため回転スペクトルは観察されない
• 薬学領域での利用は極めて少ない
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分子の分極と分子の分極と双極子モーメント双極子モーメント
分子の分極と双極子モーメントについて学び、これに関連した物性測定法としての屈折率測定や誘電率測定について概説できるようになる。
溶ける・溶けない、混ざり合う・分離する
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固体と
液体
液体と
液体
均一混和
溶解
沈殿
二層分離
自己会合
液体
固体/液体
/液体
固体/固体
液体/液体
液体 / 液体
分子間会合
分子間会合は何故起きる?
• 物理化学的性質が似ている化合物同士が会合する
• この場合の物理化学的性質の本質は「極性」• 「極性」を支配するのは「双極子モーメント」• 「双極子モーメント」は分子内の電荷の傾きにより発生
+ -
永久双極子
+ -- +
誘起双極子
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極性分子 無極性分子
異種の極性分子が分子間会合
無極性分子同士が自己会合
固/液:溶解液/液:均一混和
固/液:沈殿液/液:二層分離
共有結合における分極
• 結合A-Bにおいて、AおよびBが異なる原子の場合は必ず電荷(電子)の偏りを生じる
• 電荷の偏りを結合の「分極」といい、分極したものを「双極子」という
• 電荷の偏りを、δを用いて表す
• 分極の度合い(程度)は「双極子モーメント」として観察される
• 分極の原因は原子AとBの「電気陰性度」が異なるためである
A Bδ+ δー
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双極子モーメント(1)
• 分子内部で電気陰性度が異なる2原子が結合すると、電子的に陽性な原子に正電荷が、陰性な原子に負電荷が残る
• 電荷±Qが、距離 r 離れて存在するものを双極子という
• 結合の極性(電荷の偏り)を定量的に示す量として双極子モーメントμが使われる
+q
- q
r
μ=qr
双極子モーメントは負電荷から正電荷へ向かうベクトル量
• 双極子モーメントの単位は、デバイ(d)• d は、10-18 esu・cm• eの大きさ(4.80 x 10-10 esu)の二つの電荷が
0.1 nm の距離はなれているとき、4.80 x 10-18
esu・cmの双極子をもつという• esuは、electro static unit(静電単位)
双極子モーメント(2)
1 nm = 1 x 10-9 m
0.1 nm = 1 x 10-10 m = 1 x 10-8 cm
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双極子モーメント(dipole moment)
• 双極子モーメントの大きさは、分子の対称性、極性基の位置と密接な関係を持ち、分子構造の決定に利用される
O=C=O-q -q+2q
OH H-2q
+q +q
1.60 d
1.85 d
二酸化炭素は双極子モーメントを持たない。O-H 結合の結合モーメントは1.60 dであるが水は1.85 dの双極子モーメントを持つ。O-H 結合の結合モーメントのベクトル和によって水の双極子モーメントが得られていることから、水分子が105°の結合角を有することがわかる。
分子構造と極性
• 比較的大きな双極子モーメントを有する化合物を極性が高い(大きい)化合物という
• 比較的小さな双極子モーメントを有する化合物を極性が低い(小さい)化合物という
• 双極子モーメントを持たない化合物を無極性化合物という
• 極性の高い化合物は水に溶解しやすい• 極性の低い化合物は有機溶媒に溶解しやすい
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分子構造と極性(1)
• 双極子モーメントを大きくする構造(置換基)を極性基という:水素結合性有り
-OH, -SH, >C=O, -COOH, -NH-R, 不飽和結合など
• 双極子モーメントを小さくする構造(置換基)を非極性基という:水素結合性無し
-CH3, -CH2-, >CH-, >C< など• 極性基を多く含む分子ほど、極性が高い• 非極性基を多く含む分子ほど、極性が低い
分子構造と極性(2)
OH
CH3CH2CH2CH2COOH
CH3CH2CH2COOH
CH3CH2CH2CHCOOH
OH
CH3CH2CHCOOH
OH
極性 0 大
H
極性:2番目
極性:1番目 極性:3番目
極性:4番目
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解離型水
可
溶
性
有機溶媒可溶性
非解離型
-COO-
-COOHNa+
「遊離型」ともいう
「電離型」ともいう
物質の極性を支配するのは「双極子モーメント」だけではない
「誘電率」も考慮する
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分子構造と極性
OH
極性 0 大
H
双極子モーメント
0 0
誘電率(ε)
1.88 2.26
誘電率(dielectric constant)• 物質を電場に入れたときに正負の電荷の分離(偏り)を起こす分極の程度を表す定数
• 電極の間が真空のときの電気容量をC0とし、ある分子を入れたときに電気容量がεC0となったときのεを、その分子(物質)の誘電率という
• 双極子モーメントと共に「極性」の目安となる
+ -- +
誘起双極子
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溶媒の双極子モーメントと誘電率
ヘキサン C6H14 0 1.88ベンゼン C6H6 0 2.26エーテル (CH3)2O 1.14 4.3クロロホルム CHCl3 0.95 4.49酢酸 CH3COOH 1.75 6.0エタノール CH3CH2OH 1.69 25メタノール CH3OH 1.68 35.4水 H2O 1.87 82ホルムアミド HCONH2 94
溶媒 双極子モーメント 誘電率(μ×1018) (ε)
誘電率と屈折率
• 本来、誘電率は、誘起双極子に基づくが、実際の測定では永久双極子の寄与も含んでいる
• 物質に永久双極子が含まれていない場合には、誘電率ε= n2 (nは屈折率)の関係が成立する
• 液体中での分子の回転エネルギーは10-11秒オーダーなので、1010 Hz(赤外、マイクロ波)以上の電磁波領域では、分極率への永久双極子の影響はなくなる
• 屈折率を可視部の光を照射して測定する
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光の屈折と屈折率
• 屈折の法則:入射光と屈折光の間には、一般的な波と同じように屈折の法則が成立する
1 1’
反射光
物質1
物質2
2
相対屈折率(refractive index)
c1 1, c 2,
n12 = = =sin 1
sin 2
c1
c2
1
2
=1
2
絶対屈折率真空中から物質中に光が入射するときの屈折率
(日本薬局方では、空気に対する各医薬品の屈折率を測定する)屈折光
屈折しても振動数は変化しない
光速
波長振動数
屈折率
• 空気の絶対屈折率は非常に小さいので、液体または固体の場合は空気に対する屈折率を絶対屈折率と考えても差し支えない
• 屈折率は、温度、圧力、入射光の波長によって変化するが、それらを一定とすれば物質の固有の値と考えてよい
• 屈折率測定には、通常、ナトリウムランプのD線(589.3 nm)を用いるnD と表す(t は測定温度)t
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誘電率(dielectric constant)• 物質を電場に入れたときに正負の電荷の分離(偏り)を起こす分極の程度を表す定数
• 電極の間が真空のときの電気容量をC0とし、ある分子を入れたときに電気容量がεC0となったときのεを、その分子(物質)の誘電率という
• 双極子モーメントと共に「極性」の目安となる
+ -- +
誘起双極子
溶媒の双極子モーメントと誘電率
ヘキサン C6H14 0 1.88ベンゼン C6H6 0 2.26エーテル (CH3)2O 1.14 4.3クロロホルム CHCl3 0.95 4.49酢酸 CH3COOH 1.75 6.0エタノール CH3CH2OH 1.69 25メタノール CH3OH 1.68 35.4水 H2O 1.87 82ホルムアミド HCONH2 94
溶媒 双極子モーメント 誘電率(μ×1018) (ε)
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誘電率と屈折率
• 本来、誘電率は、誘起双極子に基づくが、実際の測定では永久双極子の寄与も含んでいる
• 物質に永久双極子が含まれていない場合には、誘電率ε= n2 (nは屈折率)の関係が成立する
• 液体中での分子の回転エネルギーは10-11秒オーダーなので、1010 Hz(赤外、マイクロ波)以上の電磁波領域では、分極率への永久双極子の影響はなくなる
• 屈折率を可視部の光を照射して測定する
光の屈折と屈折率
• 屈折の法則:入射光と屈折光の間には、一般的な波と同じように屈折の法則が成立する
1 1’
反射光
物質1
物質2
2
相対屈折率(refractive index)
c1 1, c 2,
n12 = = =sin 1
sin 2
c1
c2
1
2
=1
2
絶対屈折率真空中から物質中に光が入射するときの屈折率
(日本薬局方では、空気に対する各医薬品の屈折率を測定する)屈折光
屈折しても振動数は変化しない
光速
波長振動数
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屈折率
• 空気の絶対屈折率は非常に小さいので、液体または固体の場合は空気に対する屈折率を絶対屈折率と考えても差し支えない
• 屈折率は、温度、圧力、入射光の波長によって変化するが、それらを一定とすれば物質の固有の値と考えてよい
• 屈折率測定には、通常、ナトリウムランプのD線(589.3 nm)を用いるnD と表す(t は測定温度)t
偏光と旋光度
自然光
光学活性物質
直線偏光
ナトリウムランプのD線
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偏光板による偏光
偏光板偏光板
縦方向の振動面を持つ
光だけを通過させる直角方向の振動面を持つ光は通過させない
光が見えない
振動方向
反射光の偏光(1)
• 物体の表面で光が反射するとき、反射面と垂直な振動面を持つ光が失われる傾向があるため、反射光は偏光になる。従って、偏光板の軸をうまく合わせることで、反射光をカットすることができる。
• 偏光サングラスは、偏光板の軸が垂直になっており、水面や路面からの反射光をカットして見やすくしている。
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反射光の偏光(2)
反射で失われた振動面
偏光板
反射光は見えない
偏光と旋光度
自然光
光学活性物質
直線偏光
ナトリウムランプのD線
COOH
NH2
HR
COOH
H2N
HR
L-アミノ酸D-アミノ酸
HOOC
NO2
COOHO2N
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平面偏光と円偏光(1)
位相が同じ二つの直線偏光 電場ベクトルの和は新たな直線偏光
位相が90°ずれた二つの光の電場ベクトルの和は円偏光
重ね合わせてみると
位相のずれが逆だと 左円偏光 と 右円偏光
の二つの可能性
平面偏光と円偏光(2)
左円偏光 と 右円偏光
円偏光は、位相がちょうど90°ずれた特別な場合であり、楕円偏光となるのが普通。
左円偏光と右円偏光が重なり合った更に特別の場合にのみ「平面偏光」となる
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偏光と旋光性(1)
• 偏光とは、特定の方向にのみ振動している光である。
• 自然光はあらゆる方向に振動している光の集合体であり、自然光から偏光を得るためには偏光板などを利用する。
• 透過光の振動面を、偏光板と同じように特定の方向にそろえる物質を偏光子という。
• 空が青いのは、大気中の物質(分子)が太陽光のうち青などの波長の短い光を強く散乱するためであるが、その光も偏光している。
• 偏光面が回転しながら進行する偏光も存在する。これを円偏光という。
• 偏光面の回転が、進行方向から光源に向かって見るとき、時計回りであれば右円偏光、その逆であれば左円偏光。
• 平面偏光の偏光面が、物質(光学活性化合物など)との相互作用により右または左に回転することがある。この現象を「旋光」とよび、偏光面の回転した角度を「旋光度」という。
偏光と旋光性(2)
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• 物質(光学活性化合物など)の、右円偏光と左円偏光に対する屈折率が異なる(光の速度が異なる)と、それぞれの円偏光に位相のずれが生ずる。その結果、両円偏光の和である電場ベクトルが一定の角度回転(旋光)する。
• 右円偏光と左円偏光は鏡像関係(実像と虚像、右手と左手のような関係)にあり、光学活性化合物も鏡像関係にある一対の構造の内の一つである。このため非対称性を有する光学活性化合物は、右円偏光と左円偏光とは異なった相互作用を行うと考えられる。
偏光と旋光性(3)
• 平面偏光が溶液を通過する際に旋光が起きる場合、その旋光度(α)は溶液中の物質濃度(c)、透過距離{セルの長さ}(l)に比例し、温度(t)および平面偏光の波長(λ)に依存する。
• 溶液の示す旋光性を比旋光度として次式で表す。
偏光と旋光性(4)
[ ]t = 100 c l
α:実測値としての旋光度
λ:ナトリウムランプを光源とする場合は D
g/mL mm比旋光度: 1 g/mLの物質溶液を100 mm長さのセルに入れて
測定した場合の旋光度