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経済のプリズム No61 2008.12 1 原油等の高騰が及ぼした企業及び家計への影響 予算委員会調査室 三角 政勝 1.はじめに 記録的な高騰を続けた原油価格は、平成 20(2008)年6月、WTI 1 で 134 ドルまで上昇した後、11 月現在、50~60 ドル台程度まで急落しているが、歴史 的には依然として高い水準にある。現在の我が国経済は、原油を始めとした原 材料・資源価格の急激な変動や、平成 19(2007)年以降のサブプライム問題に 端を発した世界的な金融不安等を背景に、既に後退局面に入っている。 こうした中、原油等の価格高騰の影響は、様々な物価の上昇を通じて国民の 実生活にも浸透しており、景気悪化と物価上昇の同時進行を懸念する声も少な くない。 以下では、原油等の価格が変動してきた状況を踏まえ、各種経済指標の動向 により、企業や家計への影響について考えてみることとする。 1 WTI(West Texas Intermediate)は、米国の先物市場であるニューヨーク・マーカンタイ ル取引所(NYMEX)で売買される米国テキサス州沿岸部産の原油。 1.はじめに 2.原油価格の状況 (1)原油価格の推移 (2)原油価格変動の要因 3.原油の上昇と企業への影響 (1)産業連関表における原油等の需給構造 (2)企業物価指数の動向 (3)企業収益への影響 4.一般物価への波及と家計への影響 (1)消費者物価指数の動向 (2)都市の規模別にみたガソリン高騰の影響 5.まとめ

原油等の高騰が及ぼした企業及び家計への影響 - House of ......1 経済のプリズムNo61 2008.12 原油等の高騰が及ぼした企業及び家計への影響

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経済のプリズム No61 2008.12 1

原油等の高騰が及ぼした企業及び家計への影響

予算委員会調査室 三角 政勝

1.はじめに

記録的な高騰を続けた原油価格は、平成 20(2008)年6月、WTI1で 134

ドルまで上昇した後、11 月現在、50~60 ドル台程度まで急落しているが、歴史

的には依然として高い水準にある。現在の我が国経済は、原油を始めとした原

材料・資源価格の急激な変動や、平成 19(2007)年以降のサブプライム問題に

端を発した世界的な金融不安等を背景に、既に後退局面に入っている。

こうした中、原油等の価格高騰の影響は、様々な物価の上昇を通じて国民の

実生活にも浸透しており、景気悪化と物価上昇の同時進行を懸念する声も少な

くない。

以下では、原油等の価格が変動してきた状況を踏まえ、各種経済指標の動向

により、企業や家計への影響について考えてみることとする。

1 WTI(West Texas Intermediate)は、米国の先物市場であるニューヨーク・マーカンタイ

ル取引所(NYMEX)で売買される米国テキサス州沿岸部産の原油。

1.はじめに 2.原油価格の状況 (1)原油価格の推移 (2)原油価格変動の要因 3.原油の上昇と企業への影響 (1)産業連関表における原油等の需給構造 (2)企業物価指数の動向 (3)企業収益への影響 4.一般物価への波及と家計への影響 (1)消費者物価指数の動向 (2)都市の規模別にみたガソリン高騰の影響 5.まとめ

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経済のプリズム No61 2008.12 2

2.原油価格の状況

(1)原油価格の推移

原油は生産される油田により品質が異なり、一般にガソリンや灯油が多く生

産できる軽質原油、あるいは硫黄分や重金属が少ない油種ほど高価格となるが、

各種原油価格の多くは「指標原油」を基準に決められている。現在、北米市場

におけるWTI、欧州市場でのブレント、アジア市場でのドバイ(及びオマー

ン)が指標原油の役割を果たしており、これらは相互に影響を及ぼしている。

我が国が輸入している代表的な油種である「アラビアンライト」の長期的な

価格の推移を振り返ると、昭和 35(1960)年のOPEC設立後、2度の石油危

機を経て、1 バレル当たり2ドル以下の水準から、昭和 55(1980)年には 30

ドルを超える水準にまで高騰した。その後、非OPEC産油国の生産増加や石

油代替エネルギーの開発が進む中、昭和 61(1986)年には、サウジアラビアが

生産調整を放棄し、原油価格は市場取引価格に連動する形へと移行することと

なった。これにより、原油価格は大幅に下落し、湾岸危機時を除き 1990 年代は

おおむね 10 ドル台後半程度で推移してきた。

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

図表1 長期的な原油価格の推移

73.10第4次中東戦争勃発

(第1次石油危機)

79.2イラン暫定革命政府樹立

80.9イラン・イラク戦争勃発

(第2次石油危機) 90.8イラクのクウェート

侵攻(湾岸危機)01.9米国

同時多発テロ

(注)アラビアンライト価格。

(出所)経済産業省資料及び東京工業品取引所ウェブサイトより作成

(ドル/バレル)

07.8サブプライム問題が表

面化、各国中銀が大量の

資金供給

(年)

平成 10(1998)年にはアジア経済危機を背景とした下落局面もあったが、産

油国の生産調整で再び上昇傾向に入った。この間、平成 13(2001)年の米国同

時テロ事件を受けた下落があったものの、全体としては、欧米及び新興国等に

よる世界的な景気拡大を背景として、歴史的にも極めて急速な勢いで上昇が続

いてきた。平成 20(2008)年1月にはWTIで初めて 100 ドル突破を記録し、

アラビアンライトも4月には 100 ドルを超え、さらに7月には 134 ドルとなっ

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経済のプリズム No61 2008.12 3

た。しかし、その後、世界的な景気減速懸念や投機資金の引揚げなどから8月

からは急速な下落に転じ、9月に 100 ドルを下回り、10 月には 68 ドルとなっ

た(図表1)。

(2)原油価格変動の要因

これまでの趨勢的な原油高騰の要因としては、①中国など新興国の石油需要

の増加、②製油所における余剰生産力の低下、③産油国の供給リスクの顕在化、

④自然災害、⑤投機資金の流入、といったことが複合的に影響しているとみら

れている。

これに関し、経済産業省の「平成 19 年度エネルギーに関する年次報告」(エ

ネルギー白書)は、原油価格に影響を及ぼす要因について、「ファンダメンタル

ズ」と「プレミアム」に分けて分析している。

ファンダメンタルズとは、需給バランスを基礎とするもので、このうち需要

要因としては、アジアの需要急増等(中長期的要因)、景気変動及び季節変動等

(短期的要因)が挙げられ、また、供給要因としては、OPECの供給力等(中

長期的要因)、ハリケーンや製油所事故(短期的要因)が挙げられている。

一方、プレミアムの要因としては、地政学的要因による先行き不安や、原油

先物市場等へのマネーの流入が挙げられている(図表2)。

「エネルギー白書」においては、これらの分析の結果、平成 19(2007)年第

3及び第4四半期については、ファンダメンタルズの価格は 50~60 ドル程度、

プレミアムは 30~40 ドル程度と推計している。すなわち、近年の高騰時の原油

価格のうち、約6割が実需、約4割が政情不安や投機資金の動向による不確実

性の高い要因による影響ということになり、基礎的な需要から大きく乖離して

いた状況が示されている。

図表2 原油価格に影響を及ぼす要因

原油価格

需要

プレミアム

ファンダメンタルズ

先物市場

先行き不安

供給

(在庫)

(中長期的要因)アジアの需要急増、等

(短期的要因)景気変動、季節変動に伴う需要変化、等

(中長期的要因)OPECの投資/供給余力、等

(短期的要因)ハリケーン、製油所事故、等

地政学的要因

(出所)経済産業省「平成 19 年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書)

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経済のプリズム No61 2008.12 4

それでは、今後の実需の動向については、どのように考えるべきか。例えば、

国連によれば、新興国のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の人

口は、先進国の2倍以上の約 28 億人に上り、当面、毎年1億人以上の増加を続

けていくと見込まれている2。これらの国々が人口の増加とともに一定の経済成

長を続けていくとするならば、石油代替エネルギーの開発が進むとしても、当

面、原油の基礎的な需要は高い水準で推移していくと考えるのが自然であろう。

また、国際エネルギー機関(IEA)の見通しにおいても、世界のエネルギ

ー需要は、2030 年まで石油換算で年平均 1.6%の増加が続くとされ(図表3)、

原油価格は、2015 年には 120 ドル、2030 年には 200 ドルを超えると予測されて

いる。

図表3 世界のエネルギー需要の見通し

(出所)国際エネルギー機関(IEA)“World Energy Outlook 2008”

先述のとおり、平成 20(2008)年夏以降、原油価格は大幅な下落に転じてい

るが、こうした動きは、投機資金というプレミアムの要因が剥落することによ

り、ファンダメンタルズに近い水準に向けた調整が行われているものと考えら

れる。

WTI価格は 11 月には 50~60 ドル台程度まで下落しているが、これは経済

産業省の「エネルギー白書」におけるファンダメンタルズの推計値とされた 50

~60 ドルと同じ水準である。同推計が妥当なものであるとするならば、短期的

2 国際連合“World Population Prospects The 2006 Revision”

石油換算

百万トン

石油

石炭

ガス

バイオマス

原子力

水力

その他

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経済のプリズム No61 2008.12 5

には世界的な景気減速により原油の基礎的な需要がある程度減少するとしても、

中長期的な原油価格は底値の水準に近づきつつあると考えることもできよう。

3.原油の上昇と企業への影響

(1)産業連関表における原油等の需給構造

原油の上昇に伴う企業への影響を考えるに当たり、まず、産業連関表により、

我が国産業における原油等の基本的な需給構造等を確認することとする。

(単位:億円、%)

石油製品・

石炭製品

電力

ガス・

熱供給

需要合計

(控除

輸入計

国内生産額

生産額 55,230 15,880 6,569 78,552 △ 77,305 1,247

割合 70.3 20.2 8.4 100.0 - -

化学基礎

製品

石油製品・

石炭製品

鉄鋼

再生資源回

収・加工処

公共事業

電力

商業

運輸

民間消費

支出

需要合計

(控除

輸入計

国内生産額

生産額 10,509 5,863 3,318 4,696 5,118 4,507 8,654 15,154 36,873 134,960 △ 16,737 118,223

割合 7.8 4.3 2.5 3.5 3.8 3.3 6.4 11.2 27.3 100.0 - -

食料品・た

ばこ・飲料

鉄鋼

電力

ガス・

熱供給

商業

運輸

その他の公

共サー

ビス

対個人

サー

ビス

民間消費

支出

需要合計

(控除

輸入計

国内生産額

生産額 374,953 870,564 516,429 47,847 749,867 625,881 1,516,731 957,318 5,642,531 17,582,538 △ 471 17,582,067

割合 2.1 5.0 2.9 0.3 4.3 3.6 8.6 5.4 32.1 100.0 - -

生産額 66,252 40,169 1,453 35,699 100,326 24,261 261,296 429,783 1,380,376 2,832,916 △ 1,526 2,831,390

割合 2.3 1.4 0.1 1.3 3.5 0.9 9.2 15.2 48.7 100.0 - -

(注1)各需要部門は主なものの抜粋であり、これらの合計と「需要合計」は一致しない。(注2)「割合」は、「需要合計」に対する各需要部門の比率として算出。(出所)経済産業省「平成17年延長産業連関表」より作成

電 力

ガス・熱供給

     需要部門

 供給部門

図表4 産業連関表における原油等の供給と需要の関係

石炭・原油・天然ガス

石油製品・石炭製品

     需要部門

 供給部門

     需要部門

 供給部門

図表4は、産業連関表における供給部門のうち「石炭・原油・天然ガス」及

び「石油製品・石炭製品」等について、それらに対する主要な需要部門を示し

たものである。これによれば、「石炭・原油・天然ガス」の供給のうち、70.3%

が「石油製品・石炭製品」、20.2%が「電力」、8.4%が「ガス・熱供給」で消費

され、これら3部門でほぼ 100%を占める。つまり、原油等は輸入された後、

その大宗は「石油製品・石炭製品」部門においてガソリンやナフサ、灯油等の

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経済のプリズム No61 2008.12 6

石油製品に精製されるほか、「電力」及び「ガス・熱供給」部門において、発電

の燃料やガスとして消費されている(図表4の上の表)。

一方、供給サイドとして「石油製品・石炭製品」部門を捉えると、同部門に

対する需要は、「化学基礎製品」の原材料や、「運輸」における燃料費など広範

な分野にわたるが、家計の需要である「民間消費支出」が 27.3%と も高い値

を示している(図表4の中の表)。また、「電力」及び「ガス・熱供給」に対す

る需要についても同様に広範にわたるが、いずれも「民間消費支出」の割合が

大となっており、「電力」では 32.1%、「ガス・熱供給」で 48.7%を占める(図

表4の下の表)。

こうしたことから、原油等の価格上昇は、まず、中間需要(産業部門)にお

いて、ガソリンなどの石油製品や、電気、ガス部門に波及した後、それぞれの

分野における 大の需要先である家計の負担増として波及していくことが確認

できる。すなわち、家計は、図表4における3部門を通じて、「石炭・原油・天

然ガス」の 30%を消費しており3、これらの高騰の影響を も強く受ける構造

となっているといえよう。さらに、上記3部門から他の部門を通じた間接的な

波及(例えば、「石油製品・石炭製品」→「運輸」→「家計」など)も含めれば、

家計への影響は更に大きくなると考えられる。

次に、各部門の価格上昇により、全産業の生産者価格に及ぼす影響をみるこ

ととする。経済産業省「平成 17 年度延長産業連関表からみた我が国経済構造の

概要」においては、各部門の価格が 10%上昇した場合の全産業の国産品価格(生

産者価格)に及ぼす影響度を分析している(図表5)。

これによると、「原油・天然ガス(輸入品)」が 0.425%(原油・天然ガスの

輸入品の価格が 10%上昇すれば、全産業の生産者価格が 0.425%上昇する)と

なっている。次いで、「石油製品(除ナフサ)」が 0.371%、「熱間圧延鋼材」が

0.181%、「銑鉄」が 0.114%などと続いている。これら原油や石油製品、鉄鋼

関連の財は、他の部門の原材料や燃料として幅広く用いられていることから、

我が国の生産者価格への影響力が大きいことを示している。特に、原油につい

ては、平成 20(2008)年夏のピーク時には前年比で 90%近い高騰となったが、

これを図表5に単純に当てはめれば、生産者価格全体を4%近く押し上げる効

果があったとみることもできる。同時期に企業物価指数が全体で7%近い上昇

を示したことを踏まえれば、生産者価格への転嫁は相当進んでいる可能性があ

3 図表4より、「石炭・原油・天然ガス」の1単位の供給に対する家計の需要は、「石油製品・

石炭製品」が 0.703×0.273=0.1919、「電力」が 0.202×0.321=0.0648、「ガス・熱供給」が

0.084×0.487=0.0409 で、合計 0.2976(=30%)となる。

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経済のプリズム No61 2008.12 7

ると考えることもできよう。

0.425

0.371

0.181

0.114 0.104

0.084 0.072

0.067 0.054

0.047

0.039 0.027

0.026 0.024

0.024 0.024

0.021 0.016

0.016 0.016

0.015 0.010

0.010 0.009

0.008 0.007

0.006 0.006

0.004 0.003

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

0.250

0.300

0.350

0.400

0.450

原油・天然ガス(輸入品)

石油製品(除ナフサ)

熱間圧延鋼材

銑鉄

冷間仕上鋼材

石炭(輸入品)

金属鉱物(輸入品)

石油化学基礎製品

石炭製品

脂肪族中間物

ナフサ

パルプ

石油化学系芳香族製品

海面漁業

電線・ケーブル

鋼管

織物製衣服

その他の非鉄金属地金

合成ゴム

銅製粉

麦類(輸入品)

合成繊維

鉛・亜鉛(含再生)

豆類(輸入品)

飼料作物

フェロアロイ

ニット製衣服

木材チップ

その他の金属鉱物(輸入品)

(注)本表は、各部門の価格が10%上昇した場合、全産業の国産品の生産者価格に及ぼす影響度を示す。

(出所)経済産業省「平成17年延長産業連関表からみた我が国経済構造の概要」(20.10.1)

図表5 各部門の価格上昇による全産業への影響度(%)

一方、各産業部門の需要が増加した場合の産業全体への生産の波及効果をみ

ると(図表6)、「乗用車」が 3.22(乗用車への需要が1単位増加すると、他産

業における中間財の需要が発生することにより、産業全体で 3.22 の生産が誘発

される)、「その他の自動車」が 2.76 となっている。自動車産業は関連産業の裾

野が大きいことから、波及効果が も高くなっている。一方、原材料価格が上

昇しても中間需要の段階で吸収されやすいため、後でみる企業物価指数におい

ては、上昇率が比較的小幅にとどまっている。

次いで、効果が大きい順に「鉄鋼」が 2.75、「民生用電子・電気機器」が 2.44

などとなっている。鉄鋼も生産誘発効果が大きいが、自動車とは異なり、素材

産業であることから、価格についても産業全体に波及しやすくなっている。

これに対し、「石炭・原油・天然ガス」は 1.61、「石油製品・石炭製品」は 1.28

と波及効果が相対的に低い。これらは、我が国産業や国民生活にとって不可欠

な原材料や燃料を供給する部門であり、産業全体への価格の影響力は大きいも

のの、生産の波及効果という観点からは、その生産に必要な中間需要の割合が

相対的に低いことを示すものと考えられる。

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経済のプリズム No61 2008.12 8

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

乗用車

その他の自動車

鉄鋼

民生用電子・電気機器

合成樹脂

プラスチック製品

その他

その他の輸送機械

化学基礎製品

通信機械

事務用・サービス用機器

化学

終製品

再生資源回収・加工処理

パルプ・紙・紙加工品

一般機械

その他の製造工業製品

繊維工業製品

製材・木製品・家具

重電機器

非鉄金属

金属製品

精密機械

医薬品

衣服・その他の繊維製品

その他の電気機器

食料品・たばこ・飲料

その他の土木建設

出版・印刷

その他の電子・通信機械

建築及び補修

窯業・土石製品

公共事業

鉱業

農林水産業

対個人サービス

公務

その他の対事業所サービス

調査・情報サービス

電子計算機・同付属装置

水道・廃棄物処理

通信・放送

石炭・原油・天然ガス

運輸

ガス・熱供給

その他の公共サービス

電力

金融・保険・不動産

商業

石油製品・石炭製品

住宅賃貸料(帰属家賃)

図表6 部門別の生産波及効果

(注)本表計数は、「平成17年延長産業連関表」における逆行列計数表(実質)の列和であり、ある産業に対する 終

需要が1単位増加した場合に、直接・間接に誘発される自部門及び他部門の生産に与える総効果を示す。(出所)経済産業省「平成17年延長産業連関表」より作成

(2)企業物価指数の動向

次に、原油価格の高騰に伴う実際の物価への影響をみるため、企業間で取引

される商品の物価動向を示す「企業物価指数」を概観することとする。

企業物価のうち、輸入品が我が国に入着する段階の物価である「輸入物価」

については、平成 11(1999)年以降、ほぼ一貫して上昇を続けてきたが、足元

では、原油価格等の下落や円高の影響により、再び下落に転じている(図表7)。

0

20

40

60

80

100

120

140

16040.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

元年 3 5 7 9 11 13 15 17 19 20/1

3 5 7 9 11

国内企業物価

輸出物価

輸入物価

円安

円高→

(平17年=100) (昭48年3月=100)

(年・月)

(出所)日本銀行「企業物価指数」「実効為替レート」より作成

図表7 企業物価指数(円ベース)の推移

実質実効為替レート(右軸)

月次

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経済のプリズム No61 2008.12 9

これに対し、国内における企業間の取引価格である「国内企業物価」は、バ

ブル景気の崩壊以降下落を続け、平成 15(2003)年を底として、ようやく上昇

に転じた。その上昇幅は輸入物価に比べれば緩やかであるものの、原材料の輸

入価格の上昇が商品価格に転嫁されつつあると考えられる。

ただし、国内企業物価のウェイトの大部分を占める「工業製品」のうち、主

要製品の上昇率をみると、その傾向は一様でなく、大きなばらつきがみられる。

輸入物価が上昇する中で、「石油・石炭製品」及び「鉄鋼」が 20~40%台の大

きな上昇を示しているものの、我が国産業を代表する自動車が含まれる「輸送

用機器」は、ゼロ%~3%台程度の低い上昇幅であるほか、IT機器の基幹部

品で構成される「電子部品・デバイス」などは、むしろマイナス2%台の状態

が続いている(図表8)。

このように、国内企業物価の段階では、輸入物価の影響が工業製品全体に波

及しているわけではなく、生産に要する原油への依存度などにより、その濃淡

に差が生じているものと考えられる。

(前年比:%)国内企業物価指数

工業製品

化学製品石油・

石炭製品鉄鋼 電気機器

情報通信機器

電子部品・デバイス

輸送用機器

精密機器

ウエイト 1,000.0 918.8 85.2 53.8 52.6 53.3 41.4 34.3 124.8 10.619年1月 1.5 1.4 2.2 1.6 5.5 △ 0.2 △ 9.5 △ 5.1 △ 0.4 △ 1.2

2月 1.2 1.0 1.6 △ 2.2 6.2 △ 0.5 △ 9.5 △ 5.0 △ 0.4 △ 1.23月 1.4 1.1 2.5 △ 1.9 7.0 △ 0.4 △ 9.4 △ 4.9 △ 0.4 △ 1.14月 1.9 1.7 4.3 1.5 7.9 △ 0.2 △ 9.4 △ 4.4 0.1 0.05月 1.7 1.6 4.4 2.7 8.4 0.0 △ 9.2 △ 4.3 0.2 △ 0.26月 1.8 1.7 4.6 4.2 8.6 △ 0.3 △ 9.3 △ 4.0 △ 0.1 △ 0.37月 1.9 1.7 3.5 5.2 9.2 △ 0.4 △ 9.0 △ 3.8 0.0 △ 0.38月 1.6 1.4 3.4 3.2 8.6 △ 0.3 △ 9.0 △ 3.8 0.0 △ 0.59月 1.3 1.2 3.3 1.0 7.6 △ 0.3 △ 9.2 △ 3.5 0.0 △ 0.4

10月 2.0 1.9 4.4 11.6 6.9 △ 0.9 △ 8.6 △ 3.0 0.1 △ 0.711月 2.3 2.4 4.5 20.4 6.2 △ 1.0 △ 7.9 △ 2.9 0.3 △ 0.612月 2.7 2.6 4.3 24.9 5.4 △ 0.8 △ 8.6 △ 2.6 0.3 △ 0.4

20年1月 3.1 3.1 4.5 28.0 5.1 △ 1.2 △ 6.5 △ 2.4 0.6 △ 0.22月 3.6 3.5 5.5 30.0 6.2 △ 1.1 △ 6.4 △ 2.7 0.7 △ 0.33月 3.9 3.9 5.6 30.3 8.4 △ 0.9 △ 6.7 △ 2.5 0.6 △ 0.44月 4.0 3.7 4.1 21.2 17.4 △ 1.3 △ 7.0 △ 2.6 0.2 △ 0.35月 4.9 4.5 4.1 28.7 19.5 △ 0.9 △ 6.0 △ 2.5 0.2 0.06月 5.8 5.5 4.2 36.7 20.1 △ 0.9 △ 6.2 △ 2.8 0.4 0.17月 7.3 7.0 7.7 44.0 27.2 △ 1.3 △ 5.9 △ 2.5 0.9 △ 0.38月 7.4 7.3 8.3 43.1 28.8 △ 1.1 △ 5.3 △ 2.6 1.0 0.19月 6.8 6.9 7.8 37.8 28.9 △ 1.0 △ 5.1 △ 2.8 1.6 0.4

10月 4.8 5.0 5.0 16.1 27.9 △ 1.0 △ 5.0 △ 2.9 3.3 0.7

(出所)日本銀行「企業物価指数」より作成

図表8 国内企業物価のうち、主な工業製品の上昇率

(3)企業収益への影響

このような状況の中、平成 19(2007)年以降、企業収益は悪化を続けている。

財務省の「法人企業統計調査」によれば、全産業の経常利益は、平成 19(2007)

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経済のプリズム No61 2008.12 10

年 7-9 月期から減少に転じ、20(2008)年 4-6 月期まで4期連続の減益、また、

売上高は、同年 1-3 月期、4-6 月期と2期連続の減収となっている(図表9)。

(単位:%)

平19/4-6 7-9 10-12 平20/1-3 4-6

全産業 売上高 3.3 2.0 2.3 △ 1.5 △ 0.7経常利益 12.0 △ 0.7 △ 4.5 △ 17.5 △ 5.2

製造業 売上高 7.0 7.6 6.5 5.9 1.4経常利益 17.3 △ 3.6 △ 3.3 △ 15.7 △ 11.7

食料品 売上高 4.6 3.4 1.3 4.3 4.6経常利益 17.3 △ 5.1 △ 18.2 61.8 △ 2.1

化学 売上高 5.0 3.0 5.0 2.8 6.9経常利益 11.9 △ 11.8 △ 3.6 △ 46.0 △ 5.6

石油・石炭 売上高 △ 7.1 4.4 △ 7.3 25.3 43.0経常利益 58.0 △ 28.8 △ 45.8 40.7 △ 15.3

鉄鋼業 売上高 26.3 21.3 23.6 12.9 △ 0.7経常利益 23.4 △ 2.3 △ 2.2 △ 27.4 △ 11.6

金属製品 売上高 13.9 14.3 10.4 13.1 △ 3.3経常利益 7.7 48.0 2.4 △ 22.1 △ 2.3

一般機械 売上高 △ 3.7 △ 5.5 △ 9.4 △ 7.6 6.3経常利益 26.5 △ 13.9 △ 9.2 △ 11.0 △ 19.6

電気機械 売上高 11.9 18.4 8.5 15.6 △ 3.6経常利益 38.4 54.6 △ 6.5 △ 7.3 △ 12.6

情報通信機械 売上高 3.1 4.5 3.9 0.7 △ 1.7経常利益 4.1 1.5 △ 16.3 4.6 △ 29.3

輸送用機械 売上高 9.0 13.0 19.6 8.5 1.2経常利益 26.5 △ 0.2 14.9 2.6 △ 9.0

非製造業 売上高 1.8 △ 0.5 0.4 △ 4.5 △ 1.7経常利益 8.0 1.5 △ 5.7 △ 18.6 0.2

建設業 売上高 △ 4.9 2.9 6.6 △ 7.2 △ 5.9経常利益 599.9 3.0 13.1 △ 50.0 △ 92.4

卸売・小売業 売上高 5.8 △ 0.3 △ 0.7 △ 3.2 △ 2.7経常利益 35.6 △ 9.4 △ 12.9 △ 20.4 △ 7.9

不動産業 売上高 △ 9.2 0.8 2.1 △ 16.6 7.0経常利益 △ 28.0 1.8 △ 6.1 △ 10.9 △ 1.9

情報通信業 売上高 △ 7.0 △ 4.3 △ 2.5 △ 9.8 0.1経常利益 △ 21.7 33.4 19.7 △ 14.6 5.1

運輸業 売上高 △ 1.8 △ 3.8 △ 4.8 △ 1.3 7.2経常利益 14.2 65.5 22.1 △ 34.0 3.5

電気業 売上高 0.9 3.7 5.3 8.3 7.1経常利益 △ 40.8 △ 13.1 △ 106.3 △ 727.7 △ 172.2

サービス業 売上高 1.1 △ 0.7 5.4 △ 3.7 △ 2.7経常利益 0.5 △ 8.1 2.8 10.2 63.8

資本金別10億円以上 売上高 5.3 3.7 3.7 3.4 4.2

経常利益 14.0 1.3 △ 1.7 △ 17.3 △ 3.6売上高経常利益率 6.7 5.2 5.3 4.0 6.2

1億円~10億円 売上高 △ 7.0 △ 9.0 △ 6.7 △ 5.7 3.7経常利益 △ 1.3 △ 16.9 △ 13.2 △ 15.1 △ 12.9売上高経常利益率 2.9 2.7 3.1 3.3 2.4

1,000万円~1億円 売上高 5.8 5.1 4.8 △ 4.5 △ 6.9経常利益 13.5 3.9 △ 5.7 △ 18.7 △ 6.0売上高経常利益率 3.0 2.2 2.3 3.1 3.0

(注)売上高及び経常利益は前年同期比。売上高経常利益率は、各期における売上高に占める経常利益の割合。(出所)財務省「法人企業統計調査」より作成

図表9 業種別の企業収益の状況

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経済のプリズム No61 2008.12 11

業種別にみると、石油・石炭や鉄鋼、化学、一般機械などが平成 19(2007)

年 7-9 月期頃から減益傾向に転じている。一方、売上高については、個々の業

種により大きく異なるが、全体としては減益の後を追う形で減収傾向に転じて

いる。こうした動きは、原材料価格の上昇による利益の圧迫が先行し、その後

に販売価格への転嫁や景気悪化に伴う需要の減少により減収傾向に転じたとみ

ることもできよう。

また、資本の規模別にみると、10 億円以上の大企業は平成 19(2007)年 10-12

月期に減益に転じたが、売上高は依然として増収を維持している。一方、1,000

万円から1億円の中小企業については、同じく 19(2007)年 10-12 月期に減益

となった後、翌 20(2008)年 1-3 月期からは減収となっている。

中小企業の多くは、大企業との取引において、原材料価格への転嫁を行いに

くいことから、減収・減益の影響が大企業よりも先行し、かつ、その幅も大き

く振れやすく、現在の収益環境は相対的に厳しい状況にあると考えられる。

4.一般物価への波及と家計への影響

(1)消費者物価指数の動向

企業物価については、輸入価格の上昇に伴い、国内企業物価もこれに遅れる

形で一部の製品が上昇するとともに、企業の収益環境が悪化していることが示

されていた。そこで、次には消費者物価への波及状況をみることとする。

△ 4.0

△ 2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

元年 3 5 7 9 11 13 15 17 19 20/1

3 5 7 9

(%)

(年・月)

図表10 国内企業物価と消費者物価の推移

消費者物価

(除・生鮮)

(出所)総務省「消費者物価指数」、日本銀行「企業物価指数」より作成

国内企業物価

月次

消費者物価(除・食

料・エネルギー)

消費者物価のうち、「生鮮食品を除く総合指数」は、平成 18(2006)年にマ

イナスから脱した後、19(2007)年までほとんどゼロ近傍で推移してきたが、

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経済のプリズム No61 2008.12 12

20(2008)年に入った頃から上昇幅が急速に拡大し、同年8月には2%を超え

た。一方、「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数」については、

マイナス幅が縮小しているものの、平成 20(2008)年に入ってからもほとんど

ゼロ近傍での推移が続いている(図表 10)。

価格の上昇幅の大きい品目を具体的にみると、図表 11 のとおり、穀物(小麦

粉等)、乳卵類(バター、チーズ等)といった食料品のほか、灯油、自動車等関

係費(ガソリン等)といったエネルギー関係の品目が多い。これらは、原油や

穀物等の国際市場の動向に敏感な品目である。

このことは、 近の物価上昇が、国内需要の逼迫(ディマンド・プル型)で

はなく、原材料価格の上昇(コスト・プッシュ型)に伴う価格転嫁が進んだこ

とによるインフレという性格が強いことを示している。

(前年同月比:%)

年月 穀類 魚介類 肉類 乳卵類油脂・調味料

菓子類 電気代 ガス代他の光熱(灯油)

自動車等関係費

20年1月 2.0 0.3 2.8 △ 0.5 1.8 1.7 1.3 3.8 24.9 5.1

2 3.5 0.6 3.6 △ 0.4 1.5 1.3 1.3 4.2 28.0 5.7

3 4.0 0.4 3.7 1.3 2.4 1.7 1.3 4.3 29.2 6.0

4 4.7 0.3 4.4 4.4 3.9 2.5 3.5 5.7 28.5 △ 0.8

5 5.4 0.4 4.6 5.2 3.4 5.1 3.5 5.6 27.6 4.9

6 7.7 2.7 4.8 5.5 4.9 6.4 3.5 5.6 42.2 7.0

7 8.0 3.4 5.3 6.4 3.6 7.5 5.4 7.6 53.2 8.4

8 8.1 5.0 5.3 6.7 5.2 7.2 5.4 8.2 54.7 7.8

9 8.3 3.5 4.2 7.1 5.5 7.5 5.1 8.5 50.3 6.0

(出所)総務省「消費者物価指数」より作成

図表11 上昇幅が大きい主な品目類

なお、図表 11 に挙げた品目は、家計にとっては、日常生活に不可欠なものば

かりである。そこで、次に消費者物価指数における品目を基礎的支出(必需品)

と選択的支出(贅沢品)に分けてその上昇率をみることとする(図表 12)。

基礎的支出は、平成 19(2007)年 11 月に1%を超えた後、20(2008)年9

月では 3.4%まで上昇している。一方、選択的支出については、平成 20(2008)

年に入り、プラスに転じたものの、同年9月で 0.7%の上昇にとどまっており、

両者には大きな開きがある。このため、一般に家計においては、統計上の消費

者物価全体(総合指数)の上昇率よりも、物価上昇による負担を強く感じてい

る可能性が高い。

しかも、消費者物価の上昇率は、原材料価格が下落傾向に転じたことから、

勢いが一服しているものの、企業物価の上昇率に比べれば、相対的に小幅にと

どまっており、これまで転嫁しきれなかった部分については、今後も物価上昇

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経済のプリズム No61 2008.12 13

圧力として残されているとの見方もできよう4。

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

19/9 10 11 12 20/1 2 3 4 5 6 7 8 9

基礎的支出

選択的支出

図表12 基礎的・選択的支出別の物価上昇率(前年比:%)

(注)支出弾力性(支出総額の変化率に対する当該品目への支出の変化率の比)が1未満

の品目を基礎的支出品目、1以上の品目を選択的支出品目としている。

(出所)総務省「消費者物価指数」より作成

(年/月)

(2)都市の規模別にみたガソリン高騰の影響

次に、原油価格の影響を直接的に受ける代表的な小売商品であるガソリン価

格の動向を取り上げることとする。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

80

100

120

140

160

180

200

10/1

10/5

10/9

11/1

11/5

11/9

12/1

12/5

12/9

13/1

13/5

13/9

14/1

14/5

14/9

15/1

15/5

15/9

16/1

16/5

16/9

17/1

17/5

17/9

18/1

18/5

18/9

19/1

19/5

19/9

20/1

20/5

20/9

ガソリン(左軸)

原油(右軸)

図表13 原油及びガソリン価格の動向(円/リットル)

(注)原油価格は、アラビアンライト価格(図表1に同じ)。ガソリン価格は、レギュラー店頭現金価格の全国平均。

(出所)経済産業省資料、東京工業品取引所ウェブサイト、石油情報センター「価格情報」より作成

(ドル/バレル)

揮発油税等の暫定税率の一時的

な失効による影響(20年4月)

4 なお、電力及び都市ガスについては、「燃料費(原料費)調整制度」により、原材料費の上昇

に伴う料金引上げが行われることとされているが、政府による電力及びガス会社への要請を踏

まえ、平成 21 年 1-3 月期の引上げ幅を圧縮するとともに、その後の料金改定において平準化

を図ることとされている。

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経済のプリズム No61 2008.12 14

レギュラーガソリンの店頭販売価格は、原油価格とほぼ軌を一にするように

推移しており、特に平成 16(2004)年以降は趨勢的に高い上昇率で推移してき

た。平成 20(2008)年4月には、揮発油税の暫定税率が一時失効したことによ

り、1リットル当たり 131 円まで下落したが、その後の急騰により、同年8月

には 185 円を記録した。ところが、原油価格の急落を機に再び下落し、10 月に

は 163 円となっている(図表 13)5。しかしながら、現在のところは、過去の

トレンドからみれば依然としてガソリン価格も高水準にあるといえる。

それでは、このようなガソリンに対する支出は、都市の規模別にみると、ど

のような影響を受けているのか。総務省「家計調査」においては、「大都市」(政

令指定都市及び東京都区部)、「中都市」(大都市を除く人口 15 万人以上の市)、

「小都市A」(人口5~15 万人未満の市)、「小都市B・町村」(人口5万人未満

の市町村)といった都市の規模別の分類による品目別支出が掲載されている。

これによると、東京都区部を始めとした大都市ほど世帯当たりのガソリンの

支出金額は少なく、逆に都市の規模が小さくなるに従い、支出金額が増加して

いる(図表 14)。

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

17/1

17/3

17/5

17/7

17/9

17/11

18/1

18/3

18/5

18/7

18/9

18/11

19/1

19/3

19/5

19/7

19/9

19/11

20/1

20/3

20/5

20/7

全国

大都市

中都市

小都市A

小都市B・町村

東京都都区部

図表14 都市の規模別・1世帯当たりのガソリンの月別支出金額(円)

(注)大都市は政令指定都市及び東京都区部。中都市は大都市を除く人口15万人以上の市。

小都市Aは人口5~15万人未満の市。小都市B・町村は人口5万人未満の市町村。

(出所)総務省「家計調査」より作成

(年/月)

都市部では鉄道やバス等の公共交通機関が普及しているため、一般家計にお

いては、日常生活の移動手段というよりも、レジャー目的に自動車を利用して

いる割合が相対的に高い。一方、人口規模が少ない地方部となるに従い、通勤

5 図表13は月次調査の計数であるが、週次調査では11月17日時点で132円まで下落している。

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経済のプリズム No61 2008.12 15

や生活のための日常的な交通手段としての自動車の役割が高くなっている。こ

のため、小規模な都市ほど、ガソリンの支出金額が高くなっている傾向が明瞭

に読み取れる。

また、近年のガソリン高騰の状況において、ガソリンに対する支出金額は、

全体としては微増傾向にあるが、その中にあって、都区部においては、ほとん

ど横ばい傾向にあるのに対し、小都市においては増加傾向を示している。

一方、支出金額とガソリンの単価により購入量を求めると、平成 20(2008)

年4月の暫定税率失効による特殊要因を除き、全体としては横ばい傾向にある

(図表 15)。このことは、全体的な傾向として、ガソリン価格が高騰しても、

容易には消費量を減らすことができない状況がうかがえる(なお、図表 14 及び

15 における直近の計数は8月であるが、例年8月は夏休みの影響により、他の

月に比べ家計におけるガソリン消費量が増加する傾向にある)。

0

10

20

30

40

50

60

70

80

17/1

17/3

17/5

17/7

17/9

17/11

18/1

18/3

18/5

18/7

18/9

18/11

19/1

19/3

19/5

19/7

19/9

19/11

20/1

20/3

20/5

20/7

全国

大都市

中都市

小都市A

小都市B・町村

東京都都区部

(リットル) 図表15 都市の規模別・1世帯当たりのガソリンの月別購入数量(試算)

(注)購入数量は、都市区分ごとの支出金額を、それぞれガソリンの全国平均価格で除して求めた。

(本来は都市区分ごとのガソリン価格を用いるべきと思われるが、統計の制約上そのような算

出方法とした)。なお、都市区分は図表14に同じ。

(出所)総務省「家計調査」より作成

(年/月)

次に、図表 15 のデータを用いて、 近1年間の都市区分別のガソリンの購入

量を求め、ガソリン価格の変化による影響額を算出した。これによると、東京

都区部の世帯では、ガソリン価格 10 円の変化につき年間 1,600 円程度の影響が

あるのに対し、大都市では 3,100 円程度、中都市で 5,000 円程度、小都市Aで

6,400 円程度、小都市B・町村で 7,500 円程度と、都市の規模が小さくなるほ

ど影響額が大きい(図表 16)。

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経済のプリズム No61 2008.12 16

近のガソリン価格は、平成 20 年8月に全国平均で 185 円まで上昇したが、

その後、11 月 17 日時点では 132 円と 50 円以上の下落となっている。こうした

状況を年額に換算すれば、東京都区部では 8,500 円程度の影響であるのに対し、

小都市B・町村では4万円程度の影響があることとなり、ガソリン価格の変化

による家計への影響の差は、都市部と地方で極めて大きなものがあるといえる。

5,4063,135

4,978

6,353

7,491

1,601

0 2,000 4,000 6,000 8,000

全国平均

大都市

中都市

小都市A

小都市B・町村

東京都都区部

(注)図表15の月別の購入数量について、直近1年間の平均を求めた後、年額に換算した。

(出所)総務省「家計調査」より作成

(円)

図表16 ガソリン価格の10円の変化による年間の影響額(試算)

5.まとめ

近の原油価格の高騰局面においては、昭和 48(1973)年の第1次石油危機

時のような大きな社会的混乱が生じたとまでは言えないものの、企業収益の悪

化や家計の必需品の物価上昇、特に地方部における負担増加は、国民生活に対

し、マイナスの影響を及ぼしてきたと考えられる。さらに、世界的な金融不安

を背景に景気後退の状況が一層明瞭になりつつある中、その深刻化が懸念され

るところである。

一方、平成 20(2008)年 11 月現在、原油等の価格が大幅な下落に転じると

ともに、為替レートが円高傾向に進んでいることは、インフレの緩和に寄与す

る要因となり得る。しかしながら、これまで原材料価格の上昇分の転嫁が十分

なされていなかったとするならば、原材料価格の下落と同様のペースで消費者

物価が下落していくことは期待しにくい。また、中長期的には、世界的な趨勢

として、石油を始めとした化石燃料や穀物需要が増加していくとするならば、

現在の沈静化の状況がいつまで続くのかについては、予断をもたずに注視して

いく必要がある。

財政による物価上昇等への対応としては、「安心実現のための緊急総合対策」

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経済のプリズム No61 2008.12 17

(平成 20 年8月 29 日)に引き続き、「生活対策」(同年 10 月 30 日)が策定さ

れ、主に家計や地方部といった疲弊しているセクターに対する施策が講じられ

ることとなった。しかしながら、極度に悪化している財政の負担能力には限界

があることを踏まえれば、こうした施策を継続的に実施することは極めて困難

である。中長期的に企業のコスト抑制や家計の負担軽減を図るためには、ある

程度の資源価格の上昇を前提としつつ、かつて第2次石油危機における我が国

の対応がそうであったように、生産性やエネルギー効率の上昇を促していく政

策が一層重要になるものと考えられる。

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