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-家族療法の見地から- 中村伸一(中村心理療法研究室) ひきこもりの理解と家族へのアドバイス

ひきこもりの理解と家族へのアドバイス - Cabinet Office-家族療法の見地から- 中村伸一(中村心理療法研究室) ひきこもりの理解と家族へのアドバイス

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  • -家族療法の見地から-

    中村伸一(中村心理療法研究室)

    ひきこもりの理解と家族へのアドバイス

  • 「ひきこもり」とは

    「様々な要因の結果として社会参加(義務教育を含む就

    学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避

    し、原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどま

    り続けている状態(他者と交わらない形での外出をして

    もよい)を指す現象概念である」

    (厚生労働科学研究:平成19年度報告書)

    「たてこもり」:自室にとどまり家族との交流を回避する

    (家族内ひきこもり)

  • Percentage According to Age

  • According to Sex

  • Average Age When HIKIKOMORI Begins

  • Duration of HIKIKOMORI

  • HOW HIKIKOMORI BIGAN ?

  • 「ひきこもり」と「たてこもり」

    青年

    家族の壁

    青年

    個人の壁父

    家族の壁

    ひきこもり たてこもり

  • 「ひきこもり」と「たてこもり」の精神医学的背景

    (第1群)

    統合失調症、気分障害、不安障害などを主診断とし、薬

    物療法などの生物学的治療が不可欠ないしはその有効

    性が期待されるもの。

    生物学的治療だけでなく、病状や障害に応じた心理療法

    的アプローチや生活就労支援が必要となる場合がある。

  • 「ひきこもり」と「たてこもり」の精神医学的背景

    (第2群)

    広汎性発達障害や精神遅滞などの発達障害を主診断と

    し、発達特性に応じた心理療法的アプローチや生活就

    労支援が中心となるもの。

    二次的に生じた情緒的/心理的問題あるいは併存障害

    としての精神障害(適応障害や社会恐怖、強迫性障害

    など)への治療/支援が必要な場合もある。

  • 「ひきこもり」と「たてこもり」の精神医学的背景

    (第3群)

    パーソナリティー障害(傾向を含む)やアイデンティティ問

    題、身体表現性障害を主診断とし、心理療法的アプロー

    チと生活就労支援が必要となる。

    スキゾイド・パーソナリティー障害:スキゾイド・ジレンマ

    (接近したい欲求と呑みこまれる恐怖との間を揺れ動く)

    回避性パーソナリティー障害:他者からの肯定的な評価

    が得られないことを恐れる。傷つき体験の回避。

  • 「ひきこもる」理由

    とりわけ同年代の同性と社会という場で出会うことで、自尊心が傷つくことへの恐怖。

    「どうせ自分のことなどわかる人は家庭の外の世界にはいない」という特有の自尊心。

    具体的に、家族以外の人と、どのように会話し、接してよいのかわからない。

    所詮、社会に出ても生きる意味など見いだせるはずがない。

    衣食住では今のところ困らない。

  • 「たてこもる」理由

    社会に出て仕事をし、言外に「常識」を押し付けてくる家族とは接したくない。

    とりわけ父親は、「社会の空気」を匂わせ、自分を追い詰める。

    家族全員の食卓では、これらが凝集した形で表れるので恐怖を感じる。

    自分には、インターネットやゲームという家族と接しなくともそれなりに楽しめる世界がある。

    母親以外の家族の自室への侵入者は敵とみなす。

    母親は、今のところ自分に衣食住を保証してくれているようだ。

  • 思春期危機

    第二次性徴にともなう「精神内部失調」:思考・気分・意志の変動、爆発、短絡的行動。

    成人としての身体的成熟(変化)と社会的自己(自我同一性)の確立とのギャップ:人格発達モラトリアム

    他者との「親密さ」を重要視する女子の方が、このモラトリアム期間をできるだけ早く経過しようとする。

    男子の方が、「心的なひきこもり」期間が長く、モラトリアム期間は長引きやすい。

    文化的で平和な国民ほど、モラトリアム期間は長い。

  • ジェンダーの違い

    男性

    1.独立心、自信、自立心

    2.将来の夢、自己充足

    3.ルールを学ぶ

    4.ゲームで勝つこと

    5.競争心の強調

    6.感情の隠蔽

    7.親密さを避ける

    8.親密さは侵害

    9.職業上の成功

    10.問題解決志向

    女性

    1.人間関係を育み保つ

    2.他者との絆

    3.共感、関係づくり

    4.ゲームでの人間関係

    5.協調関係の強調

    6.感情の表出

    7.成功や競争を避ける

    8.親密さは「巻き込み」

    9.家族の発展

    10.問題を話し合う

  • 前思春期・思春期前期(10~15歳)

    「わたしの体に何かが起きてきている」:身体的変化の個人差が大きいので集団形成に問題が起こる。

    集団をつくって行動:ギャング・エイジ

    (問題)

    ・いじめ(二分もない)vs村八分(葬式と火事の二分を除いて村民がその村の規約違反をした村人と付き合わない)

    ・拒否

    ・逃避

    ・ひきこもり

    ・暴力

  • 思春期中期(15~18歳)

    集団への忠誠心、少数の友人との親密さ(親友希求)、異性へのあこがれ、宗教や文学への関心。

    「わたしは何者だ?」

    職業選択への迷い

    (問題)

    ・ひきこもり(こうした状況の否認:ゲームやインターネット

    などの架空世界に逃げ込む)

    ・痛みを伴う友人関係からの逃避

    ・家庭内暴力(現実を垣間見せる家族を“破壊”しようと

    する。

  • 思春期後期(18~22歳)

    「これがわたしだ」:これからの自分にとって何を学ぶ必要があるのだろうか?

    現実的交友関係

    (問題)

    ・学ぶことに意欲をもてない若者たち:消費社会の差別化機能(負け組vs勝ち組)、「何を作り出すか」ではなく、「何を買ったか」に価値を置く社会。

    (意欲のあるなしの二極化)

    ・ひきこもり:現実的な将来を描けず、それを描こうとしない

  • 「ひきこもり」と「たてこもり」

    青年

    家族の壁

    青年

    個人の壁父

    家族の壁

    ひきこもり たてこもり

  • 「たてこもり」から「ひきこもり」へ

    家族の中の自分を保証してくれる最初のステップ。

    「家族の腫れもの」から「家族の一員」へ。

    「ひきこもり」をしながら、家族と共に家族の中の自分を確かめる。

    家族のために何かができる自分を発見する(家事:食器洗い、洗濯、掃除など、情報提供:インターネット)。

    家族からの感謝に接することの重要さ。

    家族の中の自分の存在価値の発見と確認。

    「あせらず巣立ちする」ことへの家族からのあたたかい保証を得る。

  • 個人

    Sub-System

    思考

    感情

    行動 認知

    身体

    System

    家族 コミュニティー

    親戚

    家族

    病院クリニック

    保健センター

    Supra-System

  • 個人

    Sub-System

    思考悲観的

    感情平板化

    行動

    ひきこもり

    認知否定的

    身体だるさ

    青年

    System

    家族 コミュニティー

    支援センター

    家族

    病院クリニック

    保健センター

    Supra-System

  • 父 母

    青年

    コミュニケーションの悪循環

    叱る

    避ける

    責める

    頼りたいが、頼れない

    不安と反抗

    混乱

  • 解決の悪循環(1)

    叱咤激励する親と家族からひきこもる本人

    (本人) ひきこもり 解かってもらえない

    (家族) 家族の焦り・不安 叱咤激励

    甘えてはいけない 性急な外出刺激

  • 解決の悪循環(1)

    叱咤激励する親と家族からひきこもる本人

    (苦しさを解ってもらえた)

    (本人) ひきこもり 解かってもらえない

    (家族) 家族の焦り・不安 叱咤激励

    甘えてはいけない 性急な外出刺激

    (家族に甘えていい) (命令・禁止をやめる)

  • 解決の悪循環(2)

    自責的な親と他罰的な本人

    (本人) お前のせい(他罰)

    (家族) 私(たち)のせい

  • 解決の悪循環(2)

    自責的な親と他罰的な本人

    (どちらのせいでもない。双方が何とかしようと焦りすぎて

    いるため。責任の感じすぎは問題を硬直化する。親自身

    が生活を楽しむことを示す。)

    (本人) お前のせい(他罰)

    (家族) 私(たち)のせい

  • 解決の悪循環(3)

    親子のひきこもり相互作用

    (本人) 傷つきやすさ

    問題と向かい合いたくない

    (家族) 放っておいてやるのが一番良い

    自分がこどもを傷つけてしまう

  • 解決の悪循環(3)

    親子のひきこもり相互作用

    (本人) 傷つきやすさ

    問題と向かい合いたくない

    (家族) 放っておいてやるのが一番良い

    自分がこどもを傷つけてしまう

    (子を谷へ落すのも愛情。一緒に谷へ落ちてみる。社会資

    源を求め共に歩みだす。)

  • わたくしの御家族への援助の諸原則

    自責感、抑うつ、悲観、絶望感にさいなまれる御両親をサポートする。

    こどもの問題は続いていても、御両親は自分の生活のリズムを保ち、元気に親自身の生活を送ってよいことを伝える。

    これは御両親に愛情が欠けていることでは決してない。

    これは長期戦のために必要な御両親の行動である。

    「北風」ではなく、「太陽」になる。

    「家族教室」や「ネットワーク」などの利用:知識の供給、孤立化しやすい親同士の連携、自分たちだけではない、問題解決への多様性の知るように推し進める。