12
中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響 137 1 緒言 近年、中等教育におけるキャリア教育への期 待が高まっているが、こうした動きには、不安 定な若者の就労環境が背景にある。内閣府によ ると、近年の失業率は、改善傾向にあるものの、 2014年をみると、15歳〜 29歳の若年層につい ては、 15 歳〜 19 歳が 6.2%、 20 歳〜 24 歳が 6.3%、 25 歳〜 29 歳が 5.2%と他の年齢層と比べても依 然として厳しい状況にあることや、非正規雇用 の割合についても、15歳〜 24歳が30.8%、25 歳〜 34 歳では 2000 年以降緩やかな上昇が続き、 2014年は28.0%であったと報じられている 1) 。そ して、一度、厳しい就労環境に置かれてしまう と、なかなか正規ルートに戻ることが困難な状 況になってしまうことも大きな課題といえる。 若者が、このような状況に陥らないためにも、 早期の段階より、勤労観や職業意識を高めるた めに、中等教育現場においては、特別活動や総 合的な学習の時間のなかで、進路学習や職業教 育を強化しており、なかでも、職場体験やイン ターンシップの実施に関する意識は高い。国立 抄 録 本稿の目的は、高校進学後の学力階層の移動に注目し、学力が上昇、あるいは下降することによっ て中等教育のキャリア教育に対する評価や、大学進学行動に与える影響について明らかにすること である。 そこで、理系大学生へのアンケート調査を基に分析、検討をおこなった。その結果、中等教育のキャ リア教育と学力階層においては、中学では学力階層にかかわらずキャリア教育の評価が低く、高校 では階層が高い者ほど評価が高い傾向がみられ、さらには、階層が上昇した者ほど高いことが明ら かになった。また、高校進学後に、学力階層が上昇したほど、将来の仕事を決定した上で大学進学 を果たし、主体性を持って進学先を決定している一方で、下降した者ほど、社会に出るのが不安だっ たからといったネガティブな理由や、周囲や先生に勧められて進学した者が多い結果となった。 そして最後に、たとえ中学時の学力が高い(いわゆる基礎的な学力が高い)としても、高校進学 後に学力階層が下降するとキャリア教育を否定的に捉えたり、進路決定に対して主体性が失われた りすることで、学校から社会へのスムーズな移行が果たせない状況に陥る危険性があることを指摘 している。 Key Words:キャリア教育 学力移動 大学進学行動 学校から社会への移行 中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響 −中学・高校の学力階層の変化に注目して− 神戸松蔭女子学院大学人間科学部生活学科 長谷川 誠

中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響 −中 …archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/KK/0016/KK00160L137.pdf · 佛教大学教育学部学会紀要

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中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響

137

1 緒言 近年、中等教育におけるキャリア教育への期待が高まっているが、こうした動きには、不安定な若者の就労環境が背景にある。内閣府によると、近年の失業率は、改善傾向にあるものの、2014年をみると、15歳〜 29歳の若年層については、15歳〜 19歳が6.2%、20歳〜 24歳が6.3%、25歳〜 29歳が5.2%と他の年齢層と比べても依然として厳しい状況にあることや、非正規雇用の割合についても、15歳〜 24歳が30.8%、25

歳〜34歳では2000年以降緩やかな上昇が続き、2014年は28.0%であったと報じられている1)。そして、一度、厳しい就労環境に置かれてしまうと、なかなか正規ルートに戻ることが困難な状況になってしまうことも大きな課題といえる。 若者が、このような状況に陥らないためにも、早期の段階より、勤労観や職業意識を高めるために、中等教育現場においては、特別活動や総合的な学習の時間のなかで、進路学習や職業教育を強化しており、なかでも、職場体験やインターンシップの実施に関する意識は高い。国立

 抄 録 本稿の目的は、高校進学後の学力階層の移動に注目し、学力が上昇、あるいは下降することによって中等教育のキャリア教育に対する評価や、大学進学行動に与える影響について明らかにすることである。 そこで、理系大学生へのアンケート調査を基に分析、検討をおこなった。その結果、中等教育のキャリア教育と学力階層においては、中学では学力階層にかかわらずキャリア教育の評価が低く、高校では階層が高い者ほど評価が高い傾向がみられ、さらには、階層が上昇した者ほど高いことが明らかになった。また、高校進学後に、学力階層が上昇したほど、将来の仕事を決定した上で大学進学を果たし、主体性を持って進学先を決定している一方で、下降した者ほど、社会に出るのが不安だったからといったネガティブな理由や、周囲や先生に勧められて進学した者が多い結果となった。 そして最後に、たとえ中学時の学力が高い(いわゆる基礎的な学力が高い)としても、高校進学後に学力階層が下降するとキャリア教育を否定的に捉えたり、進路決定に対して主体性が失われたりすることで、学校から社会へのスムーズな移行が果たせない状況に陥る危険性があることを指摘している。

Key Words:キャリア教育 学力移動 大学進学行動 学校から社会への移行

中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響−中学・高校の学力階層の変化に注目して−

神戸松蔭女子学院大学人間科学部生活学科 長谷川 誠

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佛教大学教育学部学会紀要 第16号(2017年3月)

138

教育政策研究所の調査によると2014年度に職場体験を実施した公立中学校は98.4%、公立高等学校におけるインターンシップの実施率は普通科で79.3%、職業に関する学科では93.2%となった。しかしながら、国、公、私の別でみると、国立5.3%、公立78.2%、私立39.9%と差がみられ、さらに、在学中に1回でも体験した生徒の割合は、普通科で21.5%、職業に関する学科で69.5%と、いずれも過去最高となったとはいえ、設置形態別、学科別で実施状況に差がみられることも明らかになっている2)。 この結果をふまえ、斎藤剛史(2016)は、高卒後、大学に進学するにしても、いずれは就職することを考えると、しっかりとした勤労観や職業意識を形成することが重要となるなかで、普通科の生徒の実施率が低いことや、中学生のほとんどが職業体験学習をしているにもかかわらず、高校で途切れてしまう恐れがある点を危惧している3)。つまり、中学校における職業教育は一般化しつつあるが、高校進学後については所属学科や設置形態によって職業教育に差が生じてしまい、高卒後の進路選択や勤労観、職業意識に影響を与えることが考えられるのである。 次に、中学校卒業後の進路選択とキャリア意識についてみてみたい。独立行政法人労働政策研究・研修機構(2010)によると、中学時代の学業成績は、中学時代のキャリア教育の評価と結びついており、高校時代のキャリア教育との関連が薄いといった若干の関連がみられ、中学時代の学業成績が低い者ほど、特にキャリア教育に対する評価が低い、つまり「役に立っていない」と考える者が多かったことが明らかとなっている4)。また、辰巳哲子(2013)は、高卒就職者に対する調査を実施し、中学校時の学業成績と進学した高校の進路タイプによって、就職前のキャリア探索行動に違いがあるか検討をおこなった。その結果、中学の成績が高く、

進学者の多い高校にした者ほど、中学時代の成績が低く、就職者の多い高校に進学した者に比べてキャリア探索行動が活発であることや、なかでも自己分析、自己探索に関する項目の平均値が高いことが明らかになっている5)。 これらの研究で注目すべき点は、中学時代の学力階層6)と、その後のキャリア形成の関係について検討していることである。とくに、学力階層が低い者は、中学時代の進路学習や職業教育を否定的に捉えており、そのような者が多く進学する高校タイプにおいても、自身のキャリアを考える意識が低いことは、結果的に非正規雇用を生じさせてしまう可能性を示していることになる。いずれにしても、中等教育における職業教育の捉え方については、生徒自身の学力と一定の関連性があることがみてとれるのである。 しかし、これらの研究においては、中学時代の学力階層の高低を基準としており、高校進学後の学力階層の変化によって、進路学習や職業教育に対する評価がどのように変化しているのかについての視点が欠けていることは否めない。すなわち、たとえ就職者が多い高校に進学したとしても、そのなかで学力階層が上昇したり、反対に、進学校に進学して下降したりすることは、当然あり得る。そして、そのような変化が、中等教育の職業教育や高卒後の進路選択に与える影響を検討ことは重要であるといえるとともに、こうした視点からの考察によって、さらに、中等教育期間のキャリア教育と将来の就労問題とのあらたな接点がみえてくると考えられる。 そこで、本稿では、理系大学生へのアンケート調査を実施し、その結果から、中学時、高校時の学力階層の変化が中等教育のキャリア教育に対する評価にどのような影響を与え、その後の大学進学行動に及ぼす影響について検討してみたい。なお、今回、理系大学生を対象とした

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中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響

139

理由は、主に次の2つの点からである。1つ目は、理系大学生は文系大学生よりも職業意識が高いことや、理系に絞ることによって職業意識の形成における同質性を担保することができる点である。2つ目は、大学進学を果たしているということで、経済的事由が進路選択に与える影響が小さいと考えられる点である。これら2つの点を考慮することにより、進路決定要因として学力階層の変化を焦点化することができると考えたからである。

2 高卒後の進路選択行動と学力のかか わり ここでは、中等教育期間における生徒の進路選択行動と学力階層のかかわりについて、一般社団法人中央調査会が高校生に実施した調査結果を基にみていくこととする。表1は、中学3年時の成績と高校卒業後の進路についての意識調査である。これをみると、中学3年時の成績が高い生徒ほど、大学進学を考えその後に就職することを考える割合が多く、成績が低い生徒ほど、高卒後、直ちに就職するか、あるいは専門学校進学後に就職することを考える割合が高くなっている。また、成績が低いほど具体的には決まっていない割合が高くなっていることも

特徴的といえる。 次に、現在通学している学校の大学進学率と進路についての意識をみてみたい(表2参照)。大学進学率が高い高校の生徒ほど、大学進学後に就職することを考え、低い高校の生徒ほど、高卒後や専門学校進学後に就職を考えていることや、具体的には決まっていない生徒が多くなっていることがわかる。これは、先ほどの中学3年時の成績との関係とほぼ同様の傾向がみられており、これをみても、学校から社会に移行する時期や、どのようなプロセスを辿っているかをみる際には、中学時の成績が重要な要素になっていると考えることができる。 続いて、表3は、通学している学校の大学進学率と将来就きたいと考えている仕事に関しての結果である。全体としては、およそ半数の生徒が決まっており、同じように半数の者が決まっていないと回答していた。しかし、詳しくみると、大学進学率の高い学校の生徒ほど決まっている割合が若干多い傾向があり、大学進学率の低い学校の生徒においては、6割弱の者が決まっていないと回答していた。表2でみたように、高卒後の進路選択と就職時期の関係ほど大学進学率別の高校階層による違いはみられないといえるものの、やはり、一定の差は生じ

表 1 中学3年時成績と進路についての意識 クロス集計結果 表 2 通学校の大学等進学率と進路についての意識 クロス集計結果

3

そこで、本稿では、理系大学生へのアンケート調査を実施し、その結果から、中学時、高

校時の学力階層の変化が中等教育のキャリア教育に対する評価にどのような影響を与え、

その後の大学進学行動に及ぼす影響について検討してみたい。なお、今回、理系大学生を対

象とした理由は、主に次の 2つの点からである。1つ目は、理系大学生は文系大学生よりも職業意識が高いことや、理系に絞ることによって職業意識の形成における同質性を担保す

ることができる点である。2つ目は、大学進学を果たしているということで、経済的事由が進路選択に与える影響が小さいと考えられる点である。これら 2 つの点を考慮することにより、進路決定要因として学力階層の変化を焦点化することができると考えたからである。 2. 高卒後の進路選択行動と学力のかかわり

ここでは、中等教育期間における生徒の進路選択行動と学力階層のかかわりについて、一

般社団法人中央調査会が高校生に実施した調査結果を基にみていくこととする。表1は、中

学 3 年時の成績と高校卒業後の進路についての意

識調査である。これをみ

ると、中学 3 年時の成績が高い生徒ほど、大学進

学を考えその後に就職す

ることを考える割合が多

く、成績が低い生徒ほど、

高卒後、直ちに就職する

か、あるいは専門学校進

学後に就職することを考

える割合が高くなってい

る。また、成績が低いほど

具体的には決まっていな

い割合が高くなっている

ことも特徴的といえる。 次に、現在通学している学校の大学進学率と進路についての意識をみてみたい(表 2 参

照)。大学進学率が高い高校の生徒ほど、大学進学後に就職することを考え、低い高校の生

徒ほど、高卒後や専門学校進学後に就職を考えていることや、具体的には決まっていない生

徒が多くなっていることがわかる。これは、先ほどの中学 3 年時の成績との関係とほぼ同様の傾向がみられており、これをみても、学校から社会に移行する時期や、どのようなプロ

セスを辿っているかをみる際には、中学時の成績が重要な要素になっていると考えること

ができる。

表 1 中学3年時成績と進路についての意識 クロス集計結果

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関

する調査-学校から社会・職業への移行に係る横断調査の 実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.34

高校卒業後に働くことを考えている

高校卒業後は専門学校・各種学校へ進み、その後、働くことを考えている

大学卒業後に働くことを考えている

具体的にはまだ考えていない

合計

25 18 13 26 82

30.5% 22.0% 15.9% 31.7% 100.0%

23 35 47 24 129

17.8% 27.1% 36.4% 18.6% 100.0%

27 43 112 38 220

12.3% 19.5% 50.9% 17.3% 100.0%

15 18 160 19 212

7.1% 8.5% 75.5% 9.0% 100.0%

7 9 151 8 175

4.0% 5.1% 86.3% 4.6% 100.0%

97 123 483 115 818

11.9% 15.0% 59.0% 14.1% 100.0%

進路についての意識

カイ二乗値*p<.001*** p<.01** p<.05* p≧.05 n.s.

188.70 ***

中学3年生時の成績

下のほう

やや下のほう

まん中あたり

やや上のほう

上のほう

合計

4

続いて、表 3は、通学している学校の大

学進学率と将来就き

たいと考えている仕

事に関しての結果で

ある。全体としては、

およそ半数の生徒が

決まっており、同じよ

うに半数の者が決ま

っていないと回答し

ていた。しかし、詳し

くみると、大学進学率

の高い学校の生徒ほ

ど決まっている割合

が若干多い傾向があ

り、大学進学率の低い学校の生徒においては、6割弱の者が決まっていないと回答していた。表 2 でみたように、高卒後の進路選択と就職時期の関係ほど大学進学率別の高校階層によ

る違いはみられないといえるも

のの、やはり、一定の差は生じて

いることがうかがえる。 では最後に、その職業に就きた

いと思ったきっかけについてみ

てみたい(表 4参照)。項目別の総数でみると(その他を除く)、TVや雑誌等のメディア媒体が

38.0%と最も高く、次で、学校での職場体験や職場見学の 18.2%となった。これをみると、学校で

のキャリア教育等が一定の影響

を与えることがうかがえる。しかし、同項目を大学進学率別でみると、大学進学率 25~50%未満の 22.7%が最も高く、同 0~25%未満の 15.2%が最も低い結果となり、同 50%以上は、17.1%、16.9%となった。これを表1の中学 3年時成績と関連づけて考えてみたい。表 1では、成績がまん中あたりや、やや下の方の生徒は、進路について具体的に考えていない者の

割合が多かったが、こうした学力階層が進学すると考えられる表 4の大学進学率が 25%~50%の中下位校では、学校での職業教育によって職業決定をしている者が多い状況をみると、これらの層において中等教育のキャリア教育がその後の進路決定に大きく影響する可

表 2 通学校の大学等進学率と進路についての意識 クロス集計結果

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関す

る調査-学校から社会・職業への移行に係る横断調査の 実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.33

高校卒業後に働くことを考えている

高校卒業後は専門学校・各種学校へ進み、その後、働くことを考えている

大学卒業後に働くことを考えている

具体的にはまだ考えていない

合計

52 16 12 26 106

49.1% 15.1% 11.3% 24.5% 100.0%

13 31 36 19 99

13.1% 31.3% 36.4% 19.2% 100.0%

8 37 164 25 234

3.4% 15.8% 70.1% 10.7% 100.0%

3 20 245 23 291

1.0% 6.9% 84.2% 7.9% 100.0%

76 104 457 93 730

10.4% 14.2% 62.6% 12.7% 100.0%カイ二乗値 320.24 ***

*p<.001*** p<.01** p<.05* p≧.05 n.s.

進路についての意識

大学進学率

0~25%未満

25~50%未満

50~75%未満

75%以上

合計

表 3 就きたい職業 (単位:%)

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関する調査-学校から社会・職業への移行に係る横断調査

の実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.91

総数決まっている

決まっていない

無回答

総数 839 49.2 50.4 0.4【大学等進学率別】0~25%未満 107 43.0 57.0 0.025~50%未満 101 43.6 54.5 2.050~75%未満 236 52.1 47.9 0.075%以上 293 52.6 47.4 0.0進学率不明 37 43.2 54.1 2.7分類不能 65 46.2 53.8 0.0

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佛教大学教育学部学会紀要 第16号(2017年3月)

140

ていることがうかがえる。 では最後に、その職業に就きたいと思ったきっかけについてみてみたい(表4参照)。項目別の総数でみると(その他を除く)、TVや雑誌等のメディア媒体が38.0%と最も高く、次で、学校での職場体験や職場見学の18.2%となった。これをみると、学校でのキャリア教育等が一定の影響を与えることがうかがえる。しかし、同項目を大学進学率別でみると、大学進学率25 〜 50%未満の22.7%が最も高く、同0 〜 25%未満の15.2%が最も低い結果となり、同50%以上は、17.1%、16.9%となった。これを表1の中学3年時成績と関連づけて考えてみたい。表1では、成績がまん中あたりや、やや下の方の生徒は、進路について具体的に考えていない者の割合が多かったが、こうした学力層

が進学すると考えられる表4の大学進学率が25%〜 50%の中下位校では、学校での職業教育によって職業決定をしている者が多い状況をみると、これらの層において中等教育のキャリア教育がその後の進路決定に大きく影響する可能性が高いとみるとことができる。また、大学進学率別でみると、TV・雑誌等のメディア媒体については全体的に高い割合であったが、0〜 25%未満では家の働く姿をみてや、先輩や友人との話によって職業決定している割合が他の学校と比べて高く、50%〜 75%未満では、親に薦められたからが、75%以上では職業適性検査が、それぞれ他の学校より高い割合になったのが特徴的であった。 以上、ここでは、高卒進学後の進路選択や職業決定と学力の関係についてみてきた。次節以降では、中等教育のキャリア教育や大学進学行動に成績や学力階層の変化が、どのような影響を及ぼしているかについて実態調査を通して検討してみたい。

3 中等教育のキャリア教育及び大学進学行動と学力に関する実態調査-理系大学生へのアンケート調査を基に-

【調査の概要】 今回調査対象としたのは、理系4年制大学の学生である。対象とした理由は本稿冒頭で述べ

表3 就きたい職業(単位:%)

表 4 その職業に就きたいと思ったきっかけ(単位:%)

4

続いて、表 3は、通学している学校の大

学進学率と将来就き

たいと考えている仕

事に関しての結果で

ある。全体としては、

およそ半数の生徒が

決まっており、同じよ

うに半数の者が決ま

っていないと回答し

ていた。しかし、詳し

くみると、大学進学率

の高い学校の生徒ほ

ど決まっている割合

が若干多い傾向があ

り、大学進学率の低い学校の生徒においては、6割弱の者が決まっていないと回答していた。表 2 でみたように、高卒後の進路選択と就職時期の関係ほど大学進学率別の高校階層によ

る違いはみられないといえるも

のの、やはり、一定の差は生じて

いることがうかがえる。 では最後に、その職業に就きた

いと思ったきっかけについてみ

てみたい(表 4参照)。項目別の総数でみると(その他を除く)、TVや雑誌等のメディア媒体が

38.0%と最も高く、次で、学校での職場体験や職場見学の 18.2%となった。これをみると、学校で

のキャリア教育等が一定の影響

を与えることがうかがえる。しかし、同項目を大学進学率別でみると、大学進学率 25~50%未満の 22.7%が最も高く、同 0~25%未満の 15.2%が最も低い結果となり、同 50%以上は、17.1%、16.9%となった。これを表1の中学 3年時成績と関連づけて考えてみたい。表 1では、成績がまん中あたりや、やや下の方の生徒は、進路について具体的に考えていない者の

割合が多かったが、こうした学力階層が進学すると考えられる表 4の大学進学率が 25%~50%の中下位校では、学校での職業教育によって職業決定をしている者が多い状況をみると、これらの層において中等教育のキャリア教育がその後の進路決定に大きく影響する可

表 2 通学校の大学等進学率と進路についての意識 クロス集計結果

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関す

る調査-学校から社会・職業への移行に係る横断調査の 実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.33

高校卒業後に働くことを考えている

高校卒業後は専門学校・各種学校へ進み、その後、働くことを考えている

大学卒業後に働くことを考えている

具体的にはまだ考えていない

合計

52 16 12 26 106

49.1% 15.1% 11.3% 24.5% 100.0%

13 31 36 19 99

13.1% 31.3% 36.4% 19.2% 100.0%

8 37 164 25 234

3.4% 15.8% 70.1% 10.7% 100.0%

3 20 245 23 291

1.0% 6.9% 84.2% 7.9% 100.0%

76 104 457 93 730

10.4% 14.2% 62.6% 12.7% 100.0%カイ二乗値 320.24 ***

*p<.001*** p<.01** p<.05* p≧.05 n.s.

進路についての意識

大学進学率

0~25%未満

25~50%未満

50~75%未満

75%以上

合計

表 3 就きたい職業 (単位:%)

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関する調査-学校から社会・職業への移行に係る横断調査

の実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.91

総数決まっている

決まっていない

無回答

総数 839 49.2 50.4 0.4【大学等進学率別】0~25%未満 107 43.0 57.0 0.025~50%未満 101 43.6 54.5 2.050~75%未満 236 52.1 47.9 0.075%以上 293 52.6 47.4 0.0進学率不明 37 43.2 54.1 2.7分類不能 65 46.2 53.8 0.0

5

能性が高いとみるとことができる。また、大学進学率別でみると、TV・雑誌等のメディア媒体については全体的に高い割合であったが、0~25%未満では家の働く姿をみてや、先輩や友人との話によって職業決定している割合が他の学校と比べて高く、50%~75%未満では、親に薦められたからが、75%以上では職業適性検査が、それぞれ他の学校より高い割合になったのが特徴的であった。

表 4 その職業に就きたいと思ったきっかけ(単位:%)

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関する調査-学校から社会・職業

への移行に係る横断調査の実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.92 以上、ここでは、高卒進学後の進路選択や職業決定と学力の関係についてみてきた。次節

以降では、中等教育のキャリア教育や大学進学行動に成績や学力階層の変化が、どのような

影響を及ぼしているかについて実態調査を通して検討してみたい。 3. 中等教育のキャリア教育及び大学進学行動と学力に関する実態調査-理系大学生への

アンケート調査を基に- 【調査の概要】 今回調査対象としたのは、理系 4 年制大学の学生である。対象とした理由は本稿冒頭で述べたとおりであるが、対象大学の学力レベルは大手予備校7によると偏差値 45 以下との位置にあり、学力中下位レベルとなっている。対象者数は 166名、学年は 2、3年生、性別は男性のみ。アンケートには女子学生も回答したが、5名と少数であったため、今回は除外した。また、調査項目においては、キャリア教育の内容を「進路学習・職業教育」や「職業

体験」と記している。アンケート調査の実施にあたっては、個人が特定されることはないこ

とや、調査の途中でも本人の自由意思で取りやめることが可能なことを伝え、論文への記載

該当者(人数)

家の働く姿をみていたから

親に薦められたから

先輩や友人との話

学校での職場体験や職場見学

ボランティア活動

職業適性検査

TV・雑誌などのメディア情報

パンフレットや求人案内

その他

総数 413 8.7 16.2 14.3 18.2 2.9 12.3 38.0 5.8 26.2【大学等進学率別】0~25%未満 46 15.2 13.0 17.4 15.2 6.6 6.6 34.8 10.9 23.925~50%未満 44 11.4 13.6 9.1 22.7 4.5 9.1 38.6 9.1 20.550~75%未満 123 8.9 19.5 13.8 17.1 3.3 11.4 41.6 5.7 27.675%以上 154 6.6 16.9 15.6 16.9 1.9 16.9 38.3 5.2 26.6進学率不明 16 16.0 12.5 6.3 18.8 0.0 6.3 31.3 0.0 25.0分類不能 30 30.0 3.3 13.3 10.0 0.0 10.0 30.0 0.0 30.0

(出典)一般社団法人中央調査社「家庭や学校における生活や意識等に関する調査 - 学校から社会・職業       への移行に係る横断調査の実現可能性調査 調査報告書」 2015 p.92

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中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響

141

たとおりであるが、対象大学の学力レベルは大手予備校7)によると偏差値45以下との位置にあり、学力中下位レベルとなっている。対象者数は166名、学年は2、3年生、性別は男性のみ。アンケートには女子学生も回答したが、5名と少数であったため、今回は除外した。また、調査項目においては、キャリア教育の内容を「進路学習・職業教育」や「職業体験」と記している。アンケート調査の実施にあたっては、個人が特定されることはないことや、調査の途中でも本人の自由意思で取りやめることが可能なことを伝え、論文への記載につても了承を得た上で実施した。 それでは詳しくみたい。表5は、中学時、高校時、それぞれの成績について質問した結果である。中学時上位をみると、高校時では下位となった生徒が多く、中学時中位では高校時でも中位を維持し、中学時下位は高校時の上位となった生徒の割合が大きかった。また、中学中位から高校下位へ、中学下位のなかでは高校でも下位となる割合も一定数みられた。 次に、表6は、高校進学後に学力階層がどのように変化したかについて学科別でみたものである。これをみると、進学した学科によって有意な差がみられたのである。専門学科、総合学

科8)に進学した生徒ほど、高校進学後に学力階層を維持、上昇した者が多い割合となった。反対に、普通科に進学した者は学力階層を維持、下降した割合が多かったのである。 続いて、表7、表8をみてみたい。表7は中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評価であるが、検定の結果、成績の高低によって、有意な差はみられず、全体的に「役に立たなかった」と回答した者が多かった。一方で、表8は高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価であるが、検定の結果、成績の高低によって有意な差がみられたのである。高校成績が上位の者ほど「役にたった」と回答する割合が高く、下位の者は「役に立たなかった」と回答していた。この結果は、独立行政法人労働政策研究・研修機構(2010)の学力とキャリア教育の評価の結びつきについて、中学で強く高校で弱いといった指摘とは異なるものである。しかし、注意しなければならないのは、対象大学の学力レベルが中下位にあることである。つまり、たとえ、中学の学力が上位であっても高校で下位に移動した者は結果的に学力不振者となり、反対に中学の学力が下位にいて高校で上位に移動した者であっても、中学時に学力が低いことは基

表 5 中学成績と高校成績

表 6 学科別と学力階層変化

表 7 中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評価

表8 高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価6

についても了承を得た上で

実施した。 それでは詳しくみたい。

表 5は、中学時、高校時、それぞれの成績について質問

した結果である。中学時上

位をみると、高校時では下

位となった生徒が多く、中

学時中位では高校時でも中

位を維持し、中学時下位は

高校時の上位となった生徒

の割合が大きかった。また、

中学中位から高校下位へ、

中学下位のなかでは高校で

も下位となる割合も一定数

みられた。 次に、表 6 は、高校進学後に学力階層がどのように変化したかについて学科別でみたものである。これをみると、進学

した学科によって有意な差が

みられたのである。専門学科、

総合学科8に進学した生徒ほ

ど、高校進学後に学力階層を

維持、上昇した者が多い割合

となった。反対に、普通科に進

学した者は学力階層を維持、

下降した割合が多かったので

ある。 続いて、表 7、表 8をみてみたい。表 7 は中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評

価であるが、検定の結果、成績

の高低によって、有意な差は

みられず、全体的に「役に立た

なかった」と回答した者が多

かった。一方で、表 8 は高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価であるが、検定の結果、成績の高低によって有意な差がみられたのである。高校成績が上位の者ほど「役にたっ

表 7 中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 8 高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

17.5% 27.5% 55.0% 100.0%n=7 n=11 n=22 n=40

20.9% 31.3% 47.8% 100.0%n=14 n=21 n=32 n=6718.6% 30.5% 50.8% 100.0%n=11 n=18 n=30 n=59

(χ2=0.667、df=4、p>0.05)

中学校の進路学習・職業教育の評価

中学成績

上位

中位

下位

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

76.7% 11.6% 11.6% 100.0%n=33 n=5 n=5 n=4362.3% 23.0% 14.8% 100.0%n=38 n=14 n=9 n=6143.5% 22.6% 33.9% 100.0%n=27 n=14 n=21 n=62(χ

2=14.693、df=4、p<0.01)

高校の進路学習・職業教育の評価

高校成績

上位

中位

下位

表 5 中学成績と高校成績

表 6 学科別と学力階層変化

上位 中位 下位 合計

27.5% 22.5% 50.0% 100.0%n=11 n=9 n=20 n=4011.9% 56.7% 31.3% 100.0%n=8 n=38 n=21 n=67

40.7% 23.7% 35.6% 100.0%n=24 n=14 n=21 n=59(χ

2=24.665、df=4、p<0.01)

中学成績

下位

中位

上位

高校成績

上昇群 維持群 下降群 合計

23.0% 41.8% 35.2% 100.0%n=28 n=51 n=43 n=12240.9% 43.2% 15.9% 100.0%n=18 n=19 n=7 n=44(χ

2=7.792、df=2、p<0.05)

普通科

専門学科

総合学科

学科別

学力階層変化

6

についても了承を得た上で

実施した。 それでは詳しくみたい。

表 5は、中学時、高校時、それぞれの成績について質問

した結果である。中学時上

位をみると、高校時では下

位となった生徒が多く、中

学時中位では高校時でも中

位を維持し、中学時下位は

高校時の上位となった生徒

の割合が大きかった。また、

中学中位から高校下位へ、

中学下位のなかでは高校で

も下位となる割合も一定数

みられた。 次に、表 6 は、高校進学後に学力階層がどのように変化したかについて学科別でみたものである。これをみると、進学

した学科によって有意な差が

みられたのである。専門学科、

総合学科8に進学した生徒ほ

ど、高校進学後に学力階層を

維持、上昇した者が多い割合

となった。反対に、普通科に進

学した者は学力階層を維持、

下降した割合が多かったので

ある。 続いて、表 7、表 8をみてみたい。表 7 は中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評

価であるが、検定の結果、成績

の高低によって、有意な差は

みられず、全体的に「役に立た

なかった」と回答した者が多

かった。一方で、表 8 は高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価であるが、検定の結果、成績の高低によって有意な差がみられたのである。高校成績が上位の者ほど「役にたっ

表 7 中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 8 高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

17.5% 27.5% 55.0% 100.0%n=7 n=11 n=22 n=40

20.9% 31.3% 47.8% 100.0%n=14 n=21 n=32 n=6718.6% 30.5% 50.8% 100.0%n=11 n=18 n=30 n=59

(χ2=0.667、df=4、p>0.05)

中学校の進路学習・職業教育の評価

中学成績

上位

中位

下位

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

76.7% 11.6% 11.6% 100.0%n=33 n=5 n=5 n=4362.3% 23.0% 14.8% 100.0%n=38 n=14 n=9 n=6143.5% 22.6% 33.9% 100.0%n=27 n=14 n=21 n=62(χ

2=14.693、df=4、p<0.01)

高校の進路学習・職業教育の評価

高校成績

上位

中位

下位

表 5 中学成績と高校成績

表 6 学科別と学力階層変化

上位 中位 下位 合計

27.5% 22.5% 50.0% 100.0%n=11 n=9 n=20 n=4011.9% 56.7% 31.3% 100.0%n=8 n=38 n=21 n=67

40.7% 23.7% 35.6% 100.0%n=24 n=14 n=21 n=59(χ

2=24.665、df=4、p<0.01)

中学成績

下位

中位

上位

高校成績

上昇群 維持群 下降群 合計

23.0% 41.8% 35.2% 100.0%n=28 n=51 n=43 n=12240.9% 43.2% 15.9% 100.0%n=18 n=19 n=7 n=44(χ

2=7.792、df=2、p<0.05)

普通科

専門学科

総合学科

学科別

学力階層変化

6

についても了承を得た上で

実施した。 それでは詳しくみたい。

表 5は、中学時、高校時、それぞれの成績について質問

した結果である。中学時上

位をみると、高校時では下

位となった生徒が多く、中

学時中位では高校時でも中

位を維持し、中学時下位は

高校時の上位となった生徒

の割合が大きかった。また、

中学中位から高校下位へ、

中学下位のなかでは高校で

も下位となる割合も一定数

みられた。 次に、表 6 は、高校進学後に学力階層がどのように変化したかについて学科別でみたものである。これをみると、進学

した学科によって有意な差が

みられたのである。専門学科、

総合学科8に進学した生徒ほ

ど、高校進学後に学力階層を

維持、上昇した者が多い割合

となった。反対に、普通科に進

学した者は学力階層を維持、

下降した割合が多かったので

ある。 続いて、表 7、表 8をみてみたい。表 7 は中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評

価であるが、検定の結果、成績

の高低によって、有意な差は

みられず、全体的に「役に立た

なかった」と回答した者が多

かった。一方で、表 8 は高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価であるが、検定の結果、成績の高低によって有意な差がみられたのである。高校成績が上位の者ほど「役にたっ

表 7 中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 8 高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

17.5% 27.5% 55.0% 100.0%n=7 n=11 n=22 n=40

20.9% 31.3% 47.8% 100.0%n=14 n=21 n=32 n=6718.6% 30.5% 50.8% 100.0%n=11 n=18 n=30 n=59

(χ2=0.667、df=4、p>0.05)

中学校の進路学習・職業教育の評価

中学成績

上位

中位

下位

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

76.7% 11.6% 11.6% 100.0%n=33 n=5 n=5 n=4362.3% 23.0% 14.8% 100.0%n=38 n=14 n=9 n=6143.5% 22.6% 33.9% 100.0%n=27 n=14 n=21 n=62(χ

2=14.693、df=4、p<0.01)

高校の進路学習・職業教育の評価

高校成績

上位

中位

下位

表 5 中学成績と高校成績

表 6 学科別と学力階層変化

上位 中位 下位 合計

27.5% 22.5% 50.0% 100.0%n=11 n=9 n=20 n=4011.9% 56.7% 31.3% 100.0%n=8 n=38 n=21 n=67

40.7% 23.7% 35.6% 100.0%n=24 n=14 n=21 n=59(χ

2=24.665、df=4、p<0.01)

中学成績

下位

中位

上位

高校成績

上昇群 維持群 下降群 合計

23.0% 41.8% 35.2% 100.0%n=28 n=51 n=43 n=12240.9% 43.2% 15.9% 100.0%n=18 n=19 n=7 n=44(χ

2=7.792、df=2、p<0.05)

普通科

専門学科

総合学科

学科別

学力階層変化

6

についても了承を得た上で

実施した。 それでは詳しくみたい。

表 5は、中学時、高校時、それぞれの成績について質問

した結果である。中学時上

位をみると、高校時では下

位となった生徒が多く、中

学時中位では高校時でも中

位を維持し、中学時下位は

高校時の上位となった生徒

の割合が大きかった。また、

中学中位から高校下位へ、

中学下位のなかでは高校で

も下位となる割合も一定数

みられた。 次に、表 6 は、高校進学後に学力階層がどのように変化したかについて学科別でみたものである。これをみると、進学

した学科によって有意な差が

みられたのである。専門学科、

総合学科8に進学した生徒ほ

ど、高校進学後に学力階層を

維持、上昇した者が多い割合

となった。反対に、普通科に進

学した者は学力階層を維持、

下降した割合が多かったので

ある。 続いて、表 7、表 8をみてみたい。表 7 は中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評

価であるが、検定の結果、成績

の高低によって、有意な差は

みられず、全体的に「役に立た

なかった」と回答した者が多

かった。一方で、表 8 は高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価であるが、検定の結果、成績の高低によって有意な差がみられたのである。高校成績が上位の者ほど「役にたっ

表 7 中学成績と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 8 高校成績と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

17.5% 27.5% 55.0% 100.0%n=7 n=11 n=22 n=40

20.9% 31.3% 47.8% 100.0%n=14 n=21 n=32 n=6718.6% 30.5% 50.8% 100.0%n=11 n=18 n=30 n=59

(χ2=0.667、df=4、p>0.05)

中学校の進路学習・職業教育の評価

中学成績

上位

中位

下位

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

76.7% 11.6% 11.6% 100.0%n=33 n=5 n=5 n=4362.3% 23.0% 14.8% 100.0%n=38 n=14 n=9 n=6143.5% 22.6% 33.9% 100.0%n=27 n=14 n=21 n=62(χ

2=14.693、df=4、p<0.01)

高校の進路学習・職業教育の評価

高校成績

上位

中位

下位

表 5 中学成績と高校成績

表 6 学科別と学力階層変化

上位 中位 下位 合計

27.5% 22.5% 50.0% 100.0%n=11 n=9 n=20 n=4011.9% 56.7% 31.3% 100.0%n=8 n=38 n=21 n=67

40.7% 23.7% 35.6% 100.0%n=24 n=14 n=21 n=59(χ

2=24.665、df=4、p<0.01)

中学成績

下位

中位

上位

高校成績

上昇群 維持群 下降群 合計

23.0% 41.8% 35.2% 100.0%n=28 n=51 n=43 n=12240.9% 43.2% 15.9% 100.0%n=18 n=19 n=7 n=44(χ

2=7.792、df=2、p<0.05)

普通科

専門学科

総合学科

学科別

学力階層変化

n.s. )

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佛教大学教育学部学会紀要 第16号(2017年3月)

142

礎学力に不安を抱えているといったように、いずれにしも学力に不安を抱える者が多く入学していることが考えられる。こうした特性をふまえて、次に中学から高校に進学後の学力階層変化に注目して分析をしてみたい。 表9、表10は、それぞれ、高校進学後の学力階層変化と、中学校、高校の進路学習・職業教育の評価についてみたものである。ここでの上昇群とは、高校進学後、成績階層が下位から中位、上位に、中位から上位に変化した者であり、下降群は反対に上位から中位、下位に、中位から下位に変化した者を指し、維持群は上位から上位、中位から中位といったように高校進学後も同位にいる者である。検定の結果、中学校については、学力階層変化によって有意な差がみられなかったが、高校では有意な差が認められたのである。中学校では、いずれの群においても「役に立たなかった」と回答した割合が多い結果であり、高校進学後の学力階層の変化からみても、中学校のキャリア教育に対する評価が低かった。 これに対して高校では、上昇群、維持群で7割弱の生徒が「役に立った」の回答していた。

また、下位群では「役に立った」においても4割ほどみられるが、上位群、維持群と比べると低く、「役に立たなかった」と回答した者も4割程度みられ、上昇群、維持群と比べると多い結果となった。今回の調査が大学生への回顧調査であり、高校での進路学習、職業教育の評価が中学校に比べて印象度が濃いことを考慮しなければならないが、中学校と高校のキャリア教育に対する評価については、高校が高い結果となった。また、中学のキャリア教育の評価に対しては、学力階層変化でみても、やはり「役に立たなかった」と回答した者の割合が多くなったことは、中学のキャリア教育については成績の差にかかわらず評価が低いことがみてとれる。但し、下降群において中学、高校のキャリア教育の評価が低いことは、高校進学後に学力不安を抱えることによって中等教育全体を通してキャリア教育の評価を低く捉える傾向があることを確認しておく必要がある。なぜならば、後述するが、これらの層の者が、将来、低賃金就労といった厳しい就労環境におかれる可能性があり、こうした中等教育段階のキャリア教育に対する意識が関係していることも重要な視点といえるからである。 表11は、高校のキャリア教育の評価を学科別でみてものであるが、検定の結果、学科によって有意な差がみられ、専門学科、総合学科の生徒が「役に立った」と回答した者が多かった。これを表6の結果と合わせて考えてみると、中学時に成績が低い生徒であっても、専門学科、総合学科へ進学後に成績が上昇することで、高

表 9 学力階層変化と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 10 学力階層変化と高校の進路学習・職業教育の評価

表 11 学科別と高校の進路学習・職業教育の評価

7

た」と回答する割合が高く、下位の者は「役に立たなかった」と回答していた。この結果は、

独立行政法人労働政策研究・研修機構(2010)の学力とキャリア教育の評価の結びつきについて、中学で強く高校で弱いといった指摘とは異なるものである。しかし、注意しなけれ

ばならないのは、対象大学の

学力レベルが中下位にあるこ

とである。つまり、たとえ、中

学の学力が上位であっても高

校で下位に移動した者は結果

的に学力不振者となり、反対

に中学の学力が下位にいて高

校で上位に移動した者であっ

ても、中学時に学力が低いこ

とは基礎学力に不安を抱えて

いるといったように、いずれ

にしも学力に不安を抱える者

が多く入学していることが考

えられる。こうした特性をふ

まえて、次に中学から高校に

進学後の学力階層変化に注目

して分析をしてみたい。 表 9、表 10は、それぞれ、

高校進学後の学力階層変化と、中学校、高校の進路学習・職業教育の評価についてみたもの

である。ここでの上昇群とは、高校進学後、成績階層が下位から中位、上位、中位から上位

に変化した者であり、下降群は反対に上位から中位、下位、中位から下位に変化した者を指

し、維持群は上位から上位、中位から中位といったように高校進学後も同位にいる者である。

検定の結果、中学校については、学力階層変化によって有意な差がみられなかったが、高校

では有意な差が認められたのである。中学校では、いずれの群においても「役に立たなかっ

た」と回答した割合が多い結果であり、高校進学後の学力階層の変化からみても、中学校の

キャリア教育に対する評価が低かった。 これに対して高校では、上昇群、維持群で 7 割弱の生徒が「役に立った」の回答してい

た。また、下位群では「役に立った」においても 4割ほどみられるが、上位群、維持群と比べると低く、「役に立たなかった」と回答した者も 4割程度みられ、上昇群、維持群と比べると多い結果となった。今回の調査が大学生への回顧調査であり、高校での進路学習、職業

教育の評価が中学校に比べて印象度が濃いことを考慮しなければならないが、中学校と高

校のキャリア教育に対する評価については、高校が高い結果となった。また、中学のキャリ

ア教育の評価に対しては、学力階層変化でみても、やはり「役に立たなかった」と回答した

表 9 学力階層変化と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 10 学力階層変化と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

19.6% 32.6% 47.8% 100.0%n=9 n=15 n=22 n=46

22.9% 28.6% 48.6% 100.0%n=16 n=20 n=34 n=7012.0% 30.0% 58.0% 100.0%n=6 n=15 n=29 n=50(χ

2=2.667、df=4、p>0.05)

下降群

維持群

中学校の進路学習・職業教育の評価

上昇群

学力階層

変化

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

69.6% 15.2% 15.2% 100.0%n=32 n=7 n=7 n=4665.7% 21.4% 12.9% 100.0%n=46 n=15 n=9 n=7040.0% 22.0% 38.0% 100.0%n=20 n=11 n=19 n=50(χ

2=14.946、df=4、p<0.05)

学力階層

変化

上昇群

維持群

下降群

高校の進路学習・職業教育の評価

7

た」と回答する割合が高く、下位の者は「役に立たなかった」と回答していた。この結果は、

独立行政法人労働政策研究・研修機構(2010)の学力とキャリア教育の評価の結びつきについて、中学で強く高校で弱いといった指摘とは異なるものである。しかし、注意しなけれ

ばならないのは、対象大学の

学力レベルが中下位にあるこ

とである。つまり、たとえ、中

学の学力が上位であっても高

校で下位に移動した者は結果

的に学力不振者となり、反対

に中学の学力が下位にいて高

校で上位に移動した者であっ

ても、中学時に学力が低いこ

とは基礎学力に不安を抱えて

いるといったように、いずれ

にしも学力に不安を抱える者

が多く入学していることが考

えられる。こうした特性をふ

まえて、次に中学から高校に

進学後の学力階層変化に注目

して分析をしてみたい。 表 9、表 10は、それぞれ、

高校進学後の学力階層変化と、中学校、高校の進路学習・職業教育の評価についてみたもの

である。ここでの上昇群とは、高校進学後、成績階層が下位から中位、上位、中位から上位

に変化した者であり、下降群は反対に上位から中位、下位、中位から下位に変化した者を指

し、維持群は上位から上位、中位から中位といったように高校進学後も同位にいる者である。

検定の結果、中学校については、学力階層変化によって有意な差がみられなかったが、高校

では有意な差が認められたのである。中学校では、いずれの群においても「役に立たなかっ

た」と回答した割合が多い結果であり、高校進学後の学力階層の変化からみても、中学校の

キャリア教育に対する評価が低かった。 これに対して高校では、上昇群、維持群で 7 割弱の生徒が「役に立った」の回答してい

た。また、下位群では「役に立った」においても 4割ほどみられるが、上位群、維持群と比べると低く、「役に立たなかった」と回答した者も 4割程度みられ、上昇群、維持群と比べると多い結果となった。今回の調査が大学生への回顧調査であり、高校での進路学習、職業

教育の評価が中学校に比べて印象度が濃いことを考慮しなければならないが、中学校と高

校のキャリア教育に対する評価については、高校が高い結果となった。また、中学のキャリ

ア教育の評価に対しては、学力階層変化でみても、やはり「役に立たなかった」と回答した

表 9 学力階層変化と中学校の進路学習・職業教育の評価

表 10 学力階層変化と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

19.6% 32.6% 47.8% 100.0%n=9 n=15 n=22 n=46

22.9% 28.6% 48.6% 100.0%n=16 n=20 n=34 n=7012.0% 30.0% 58.0% 100.0%n=6 n=15 n=29 n=50(χ

2=2.667、df=4、p>0.05)

下降群

維持群

中学校の進路学習・職業教育の評価

上昇群

学力階層

変化

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

69.6% 15.2% 15.2% 100.0%n=32 n=7 n=7 n=4665.7% 21.4% 12.9% 100.0%n=46 n=15 n=9 n=7040.0% 22.0% 38.0% 100.0%n=20 n=11 n=19 n=50(χ

2=14.946、df=4、p<0.05)

学力階層

変化

上昇群

維持群

下降群

高校の進路学習・職業教育の評価

8

者の割合が多くなったこと

は、中学のキャリア教育に

ついては成績の差にかかわ

らず評価が低いことがみて

とれる。但し、下降群におい

て中学、高校のキャリア教

育の評価が低いことは、高

校進学後に学力不安を抱え

ることによって中等教育全体を通してキャリア教育の評価を低く捉える傾向があることを

確認しておく必要がある。なぜならば、後述するが、これらの層の者が、将来、低賃金就労

といった厳しい就労環境におかれる可能性があり、こうした中等教育段階のキャリア教育

に対する意識が関係していることも重要な視点といえるからである。 表 11は、高校のキャリア教育の評価を学科別でみてものであるが、検定の結果、学科に

よって有意な差がみられ、専門学科、総合学科の生徒が「役に立った」と回答した者が多か

った。これを表 6の結果と合わせて考えてみると、中学時に成績が低い生徒であっても、専門学科、総合学科へ進学後に成績が上昇することで、高校のキャリア教育を肯定的に捉える

ことができている状況がうかがえる。 ここまで中学校のキャリア教育への評価が低いことが目立っているが、内容について詳

しくみておくこととする。表 12は、中学時の職業体験を通じて学んだことに関しての単純集計の結果である。

表 12 中学時の職業体験を通じて学んだこと

あてはまるやや

あてはまる

あまり

あてはまらない

あてはま

らない合計

6.2% 16.4% 43.2% 34.2% 100.0%n=9 n=24 n=63 n=50 n=146

20.5% 32.2% 27.4% 19.9% 100.0%n=30 n=47 n=40 n=29 n=14615.1% 39.0% 26.0% 19.9% 100.0%n=22 n=57 n=38 n=29 n=14616.4% 43.8% 21.2% 18.5% 100.0%n=24 n=64 n=31 n=27 n=1464.8% 16.4% 42.5% 36.3% 100.0%n=7 n=24 n=62 n=53 n=146

12.3% 26.0% 38.4% 23.3% 100.0%n=18 n=38 n=56 n=34 n=14626.7% 45.2% 16.4% 11.6% 100.0%n=39 n=66 n=24 n=17 n=146

質問項目

就きたい仕事の知識や

情報を得た

社会的マナーを学んだ

忍耐力がついた

その仕事に向いているこ

とがわかった

働く意味を感じた

視野が広がった

仕事の厳しさを知った

表 11 学科別と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

54.1% 20.5% 25.4% 100.0%n=66 n=25 n=31 n=12275.0% 13.6% 11.4% 100.0%n=33 n=6 n=5 n=44

高校の進路学習・職業教育の評価

(χ2=6.125、df=2、p<0.05)

学科別

普通科

専門学科

総合学科

n.s. )

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中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響

143

校のキャリア教育を肯定的に捉えることができている状況がうかがえる。 ここまで中学校のキャリア教育への評価が低いことが目立っているが、内容について詳しくみておくこととする。表12は、中学時の職業体験を通じて学んだことに関しての単純集計の結果である。 これをみると、質問①の「就きたい仕事の知識や情報を得た」、質問④の「の仕事に向いていることがわかった」では「あてはまる」「ややあてはまる」を合わせた肯定的な意見の割合が3割を下回った。一方、肯定的な意見が7割を超えたのは質問⑦の「社会的マナーを学んだ」となり、6割を超えたのが質問④の「働く意味を感じた」となった。つまり、仕事の意味やマナーなど基本的な事柄についてはそれなりの意義を感じてはいるが、職業決定や進路決定への具体的な影響があったとは捉えていないため、表7のように中学校のキャリア教育の評価に対しては学力の高低にかかわらず「役に立たなかった」と回答した割合が多かったと考えられる。これらをみると、中等教育のキャリア教育においても実践的な取り組みの一つである職業体験を通して学んだことについて、全体的には

評価が低い結果となったが、この中で、「働く意味を感じた」「社会的マナーを学んだ」といった項目が肯定的に捉えられていたのは、たとえば中等教育の特別活動を通して学ぶべき「社会的な資質の育成」や「望ましい勤労観・職業観の形成」に寄与しているといえ、一定の効果があったと捉えることはできる。 それでは、かれらの大学進学行動の決定要因についてみてみたい。表13は、高校成績を従属変数とした規定要因分析の結果である。高校成績が高い生徒ほど、進学先決定の際には、学力や偏差値を重視していない一方で、将来、就きたい仕事が決まっていたことが理由である傾向がみられた。また、進学先を検討する際には、家族からの勧めををそれほど重視しなかったことが示された。 続いて、中学成績は下位、中位であったが高校では上位に上昇した群を最上位上昇群とし、反対に中学成績は上位、中位であったが高校では下位に下降した群を最下位下降群とし、それぞれの質問項目における違いを確認した(表14参照)。Mann-WhitneyのU検定をおこなった結果、質問④の「すぐに社会に出るのが不安だったから」、質問⑤の「周囲が進学するから

表 12 中学時の職業体験を通じて学んだこと

8

者の割合が多くなったこと

は、中学のキャリア教育に

ついては成績の差にかかわ

らず評価が低いことがみて

とれる。但し、下降群におい

て中学、高校のキャリア教

育の評価が低いことは、高

校進学後に学力不安を抱え

ることによって中等教育全体を通してキャリア教育の評価を低く捉える傾向があることを

確認しておく必要がある。なぜならば、後述するが、これらの層の者が、将来、低賃金就労

といった厳しい就労環境におかれる可能性があり、こうした中等教育段階のキャリア教育

に対する意識が関係していることも重要な視点といえるからである。 表 11は、高校のキャリア教育の評価を学科別でみてものであるが、検定の結果、学科に

よって有意な差がみられ、専門学科、総合学科の生徒が「役に立った」と回答した者が多か

った。これを表 6の結果と合わせて考えてみると、中学時に成績が低い生徒であっても、専門学科、総合学科へ進学後に成績が上昇することで、高校のキャリア教育を肯定的に捉える

ことができている状況がうかがえる。 ここまで中学校のキャリア教育への評価が低いことが目立っているが、内容について詳

しくみておくこととする。表 12は、中学時の職業体験を通じて学んだことに関しての単純集計の結果である。

表 12 中学時の職業体験を通じて学んだこと

あてはまるやや

あてはまる

あまり

あてはまらない

あてはま

らない合計

6.2% 16.4% 43.2% 34.2% 100.0%n=9 n=24 n=63 n=50 n=146

20.5% 32.2% 27.4% 19.9% 100.0%n=30 n=47 n=40 n=29 n=14615.1% 39.0% 26.0% 19.9% 100.0%n=22 n=57 n=38 n=29 n=14616.4% 43.8% 21.2% 18.5% 100.0%n=24 n=64 n=31 n=27 n=1464.8% 16.4% 42.5% 36.3% 100.0%n=7 n=24 n=62 n=53 n=146

12.3% 26.0% 38.4% 23.3% 100.0%n=18 n=38 n=56 n=34 n=14626.7% 45.2% 16.4% 11.6% 100.0%n=39 n=66 n=24 n=17 n=146

質問項目

就きたい仕事の知識や

情報を得た

社会的マナーを学んだ

忍耐力がついた

その仕事に向いているこ

とがわかった

働く意味を感じた

視野が広がった

仕事の厳しさを知った

表 11 学科別と高校の進路学習・職業教育の評価

役に立ったどちらとも

いえない

役に立たな

かった 合計

54.1% 20.5% 25.4% 100.0%n=66 n=25 n=31 n=12275.0% 13.6% 11.4% 100.0%n=33 n=6 n=5 n=44

高校の進路学習・職業教育の評価

(χ2=6.125、df=2、p<0.05)

学科別

普通科

専門学科

総合学科

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佛教大学教育学部学会紀要 第16号(2017年3月)

144

なんとなく」、質問⑦の「学校の先生に勧められたから」において有意な差が認められた。それぞれ詳しくみると、質問④のでは、最上位上昇群は最下位下降群と比べ「あてはまる」と回答した者が多かった。質問⑤では最下位下降群はそれぞれ2割から3割弱とまんべんなく回答したのに比べ、最上位上昇群と比べ「あてはま

る」と回答した者が6.3%と少ない一方で、「あてはまらない」が43.8%と高くなったことが特徴的であった。そして質問⑦については、最下位下降群が、肯定的、否定的の割合がそれぞれ5割程度であったのに対して、最上位上昇群は、否定的な回答を示した者が8割を超えているなど違いがみられた。表13、表14の結果をまと

表 13 高校成績を従属変数とした重回帰分析の結果

表 14 学力階層変化と大学進学の決定要因との関係

9

これをみると、質問①の「就きたい仕事の知識や情報を得た」、質問④の「の仕事に向い

ていることがわかった」では「あてはまる」「ややあてはまる」を合わせた肯定的な意見の

割合が 3 割を下回った。一方、肯定的な意見が 7 割を超えたのは質問⑦の「社会的マナーを学んだ」となり、6割を超えたのが質問④の「働く意味を感じた」となった。つまり、仕事の意味やマナーなど基本的な事柄についてはそれなりの意義を感じてはいるが、職業決

定や進路決定への具体的な影響があったとは捉えていないため、表 7 のように中学校のキャリア教育の評価に対しては学力の高低にかかわらず「役に立たなかった」と回答した割合

が多かったと考えられる。これらをみると、中等教育のキャリア教育においても実践的な取

り組みの一つである職業体験を通して学んだことについて、全体的には評価が低い結果と

なったが、この中で、「働く意味を感じた」「社会的マナーを学んだ」といった項目が肯定的

に捉えられていたのは、たとえば中等教育の特別活動を通して学ぶべき「社会的な資質の育

成」や「望ましい勤労観・職業観の形成」に寄与しているといえ、一定の効果があったと捉

えることはできる。 それでは、かれらの大学進学行動の決定要因についてみてみたい。表 13は、高校成績を従属変数とした規定要因分析の結果である。高校成績が高い生徒ほど、進学先決定の際には、

学力や偏差値を重視していない。一方で、将来、就きたい仕事が決まっていたことが理由で

ある傾向がみられた。また、進学先を検討する際には、家族からの薦めをそれほど重視しな

かったことが示された。 表 13 高校成績を従属変数とした重回帰分析の結果

続いて、中学成績は下位、中位であったが高校では上位に上昇した群を最上位上昇群とし、

反対に中学成績は上位、中位であったが高校では下位に下降した群を最下位下降群とし、そ

れぞれの質問項目における違いを確認した(表 14参照)。検定の結果、質問④の「すぐに社会に出るのが不安だったから」、質問⑤の「周囲が進学するからなんとなく」、質問⑦の「学

校の先生に薦められたから」において有意な差が認められた。それぞれ詳しくみると、質問

④のでは、最上位上昇群は最下位下降群と比べ「あてはまる」と回答した者が多かった。質

標準誤差

(定数) 2.827 0.323 8.764 0.000学力レベル、偏差値などが自分に合っていたから - 0.155 0.066 - 0.175 - 2.363 0.019将来、就きたい仕事が決まっていたから 0.112 0.062 0.137 1.820 0.071将来の仕事は決まっていないが、有利だと思ったから 0.000 0.065 0.000 - 0.005 0.996すぐに社会に出るのが不安だったから - 0.078 0.056 - 0.112 - 1.398 0.164周囲が進学するからなんとなく - 0.070 0.059 - 0.098 - 1.196 0.234家族に勧められたから - 0.131 0.062 - 0.165 - 2.120 0.036学校の先生に勧められたから - 0.097 0.069 - 0.116 - 1.406 0.162友人と同じ学校に進学したかったから 0.069 0.073 0.072 0.944 0.347

(R=0.424、  R2=0.179、 n=166)

有意確率B標準化係数

ベータ t

非標準化係数

10

問⑤では最下位下降群はそれぞれ 2 割から 3 割弱とまんべんなく回答したのに比べ、最上位上昇群と比べ「あてはまる」と回答した者が 6.3%と少ない一方で、「あてはまらない」が43.8%と高くなったことが特徴的であった。そして質問⑦については、最下位下降群が、肯定的、否定的の割合がそれぞれ 5割程度であったのに対して、最上位上昇群は、否定的な回答を示した者が 8 割を超えているなど違いがみられた。表 13、表 14 の結果をまとめてみると、高校成績が高くなるほど、また、中学成績が中下位の者が高校進学後に上昇すること

によって、主体的な進路選択をしている傾向が強くみられたのである。

表 14 学力階層変化と大学進学の決定要因との関係

以上、本節では、理系大学生に実施したアンケート調査についてみてきた。次節では、こ

の結果をうけて、中等教育のキャリア教育において中学時、高校時の学力階層の変化がもた

らす影響が、大学進学行動とその後の就労意識にどのような関連がみられるのか、検討を進

めてみたい。 4.結果の考察 本稿で明らかになったのは、次の点である。

学力階層

変化あてはまる

やや

あてはまる

あまり

あてはまらない

あてはま

らない合計 P値

37.5% 40.6% 12.5% 9.4% 100.0%n=12 n=13 n=4 n=3 n=3241.5% 51.2% 7.3% 0.0% 100.0%n=17 n=21 n=3 n=0 n=4115.6% 28.1% 31.3% 25.0% 100.0%

n=5 n=9 n=10 n=8 n=324.9% 31.7% 24.4% 39.0% 100.0%n=2 n=13 n=10 n=16 n=416.3% 31.3% 43.8% 18.8% 100.0%n=2 n=10 n=14 n=6 n=329.8% 41.5% 34.1% 14.6% 100.0%n=4 n=17 n=14 n=6 n=41

18.8% 37.5% 6.3% 37.5% 100.0%n=6 n=12 n=2 n=12 n=32

36.6% 26.8% 22.0% 14.6% 100.0%n=15 n=11 n=9 n=6 n=416.3% 28.1% 21.9% 43.8% 100.0%n=2 n=9 n=7 n=14 n=32

26.8% 22.0% 29.3% 22.0% 100.0%n=11 n=9 n=12 n=9 n=416.3% 12.5% 34.4% 46.9% 100.0%n=2 n=4 n=11 n=15 n=32

19.5% 22.0% 19.5% 39.0% 100.0%n=8 n=9 n=8 n=16 n=410.0% 18.8% 31.3% 50.0% 100.0%n=0 n=6 n=10 n=16 n=327.3% 43.9% 17.1% 31.7% 100.0%n=3 n=18 n=7 n=13 n=413.1% 9.4% 12.5% 75.0% 100.0%n=1 n=3 n=4 n=24 n=322.4% 4.9% 12.2% 80.5% 100.0%n=1 n=2 n=5 n=33 n=41

学力レベル、偏差値などが

自分に合っていたから

質問

最上位上昇群

最下位下降群

最上位上昇群

最下位下降群

将来の仕事は決まっていな

いが、有利だと思ったから

すぐに社会に出るのが不安

だったから

**最下位下降群

最上位上昇群

最下位下降群

将来、就きたい仕事が決

まっていたから

最下位下降群

最下位下降群

最上位上昇群

**

最下位下降群

最上位上昇群

*

最下位下降群

家族に勧められたから

*p<0.1 **p<0.05

最上位上昇群学校の先生に勧められた

から

友人と同じ学校に進学した

かったから

最上位上昇群

最上位上昇群

周囲が進学するからなんと

なく

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中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響

145

めてみると、高校成績が高くなるほど、また、中学成績が中下位の者が高校進学後に上昇することによって、主体的な進路選択をしている傾向が強くみられたのである。 以上、本節では、理系大学生に実施したアンケート調査についてみてきた。次節では、この結果をうけて、中等教育のキャリア教育において中学時、高校時の学力階層の変化がもたらす影響が、大学進学行動とその後の就労意識にどのような関連がみられるのか、検討を進めてみたい。

4 結果の考察 本稿で明らかになったのは、次の点である。 1点目は、中等教育のキャリア教育と学力の関係については、高校で有意な差がみられ中学では差がみられなかったことである。これは高校進学後の学力階層変化が強く関係していることを示しており、たとえば、中学成績が上位であっても高校で中位や下位に下降しているとキャリア教育の評価が低くなり、反対に中学時に下位いても高校進学後に中位や上位に上昇すると評価が高い結果が得られたのである。 2点目は、高校の学科別でみると、普通科進学者と比べて専門学科、総合学科に進学した者が、学力階層が上昇し、かつ、高校のキャリア教育を高く評価する傾向がみられたことである。 3点目は、高校の学力階層が高い者ほど、将来の仕事を決定した上で大学進学を果たし、主体性を持って進学先を決定していたことである。また、さらに詳しくみると、高校進学後に学力階層の最上位に上昇した者と最下位に下降した者を比べると、下位群ほど、進学理由が社会に出るのが不安だったからとする者や、周囲や先生に勧められて進学したと者が多い結果となった。 以上の点をふまえ、さらに議論を進めてみた

い。 まず、特筆すべき点は、中等教育のキャリア教育への評価や大学進学行動を主体的に決定できるか否かについては、学力階層の変化が影響していることを確認できた点である。すなわち、中学時に学力が高い者であっても、高校進学後に階層が下降することによって、キャリア教育に否定的になり進路選択において主体性を失っている可能性がみられた。一方で、中学時の学力階層が下位であっても、高校進学後に階層が上昇することで、主体的な進路決定ができていたのである。つまり、中学から高校へ進学後の学力階層の変化が、高卒後の進路を考える際の主体性に影響を与えているとみることができるとともに、高校のキャリア教育に対する評価の高低が、大学進学行動の規定要因に影響を与えているのである。とりわけ、高校進学後に学力階層が上昇した者は、高校キャリア教育において形成された就労意識を基に、学力や偏差値に捉われずに大学進学行動を決定しており、下降した者は、中等教育を通じてキャリア教育への評価が低い傾向があった。 また、学科の違いにより、キャリア教育への評価に差がみられたことも、高校進学後の学力階層の変化との関係が強く関係していることが考えられる。この点について中西啓喜(2011)の研究によると、工業や商業といった普通科以外の職業教育を専門とする高校には、中学の成績がそれほど良くない生徒が進学する傾向や学校に対して適応的であること、そして、成績については高校進学後に中学時代より自信を持つことが明らかとなっている9)。本調査においても、普通科高校よりも工業、商業、総合学科の出身者が、中学よりも学力階層が上昇していることや、キャリア教育を肯定的に捉えていた。そして、この学科別の取り組みの差は、その後の進路選択に大きな影響を与える可能性がある。本田由紀(2005)は、職業に関する学

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146

科の生徒が「対人能力」が高いと同時に「進路不安」が低いことや10)、さらに、本田(2009)は、普通科出身の就労者は、「職業的意義」ある教育を何ら経験しないまま社会に出ていくことで、正規、非正規に関わらず現在の若年労働市場の問題を体現するような働き方をしている度合いが専門学科出身者に比べて大きいことを指摘している11)。この本田の指摘は、非常に重要な示唆を与える。つまり、たとえば、中学時に成績不振だった生徒が、職業に関する学科に進学することで、高校進学後に、学力階層を上昇することができれば、学校への適応度が高まり、実践的な職業教育、キャリア教育に前向きに取り組むことにつながり、ひいては、不安なく学校から社会への移行を果たす可能性があると考えられる。いずれにしても、中学から高校へ進学後の学力階層の変化が就労意識に関わることが指摘できるのである。 こうした成績変化と就労の問題については、原清治(2009)の研究からも重要な知見を得ることができる。原は、日本型「使い捨てられる若者」の産出過程について、高校学力階層における個々の成績位置と将来の就労環境ついて検討をおこなった12)。原が指摘した中学成績と高校成績からの学力分類別の若者の特徴モデルをみると、中学、高校ともに下位では学校文化との親和性を失っていることや、学習意欲が低い傾向があり、そもそも就職意欲が低いといった特徴が明らかとなった。たしかに、こうした状況では将来的に安定した職に就くことが難しいことは理解できる。しかし、原の研究では、中学上位であっても高校下位に階層が下降した者は、将来的に低賃金で働く可能性があることが示唆されたのである13)。この場合、就職探しの迷路で迷う傾向がみられ、高校の成績が下降したことで将来就きたい仕事がわからなくなっていることや、家庭環境に恵まれているなかで親も子ども成績に関心があり、仕事探しの時間

を子どもに与える傾向があった。 こうした指摘と本調査の結果を照らし合わせると、ひとつの懸念が生じる。それは、本調査の対象となった学力偏差値が中下位の大学に進学者において、学業成績が中学では上位にいたものの高校で下降した者は、将来、低賃金の就労者になる可能性があるということである。本調査でも、高校の学力階層が高い者ほど、将来の仕事を決定し、主体的な進学行動をしていたが、高校進学後に学力階層が最下位に下降した者は、進学理由が社会に出るのが不安であったことや、周囲や先生に勧められて進学をした割合が多かった。また、かれらは高校で成績が下降したことで学力不安を抱えることになり、中学、高校を通してキャリア教育に否定的な意識を持つ傾向がある。すなわち、かれらは、学校教育におけるキャリア教育から自ら遠ざかる性質を持っている可能性がある。加えて、大学進学が可能な経済力がある家庭出身者であることを考えると、親も子どもに仕事探しの時間を与える可能性がある。つまり、学校教育への不安と不信を抱くあまりに、親という身近な存在に依存してしまうことで、社会への移行が難しい状況を作り出してしまう可能性がある。いずれにしても、かれらのような意識を抱える者に対しては、学校側のきめ細かな指導がより一層求められるものと考えられる。そして、こうした結果をふまえると、たとえ職業レリバンスの強い理系大学へ進学したとしても、本稿で示した中学、高校の学力階層の変化からみた個別のメンタリティを加味すると、必ずしも就職可能性が高いとは言い切れないのである。 また、一方で、高校進学後に学力階層が上昇した者について考えても、楽観的な捉え方はできないことも付言しておきたい。原の研究では、中学下位から高校上位へ階層が上昇するとことによって、就業に対して積極的になる傾向があることが明らかになっている。このこと自体は

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中等教育におけるキャリア教育が大学進学行動に及ぼす影響

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好ましいことであるが、問題は、この層は、自分にあった仕事を探すため、一時的に低賃金の仕事に就く可能性があることである。たしかに、学力階層が上昇し、主体的な進路選択意識が醸成された上で、例えば調査対象になった職業レリバンスの強いという理系大学に入学したというメリットを活かし、職業選択の幅を持つことができるのは良い傾向ではある。しかし、業種、雇用形態を含めた職業選択が広がり、一旦、低賃金に就きながら目標達成を果たすことを選択することで、たとえ自分にあった仕事が見つかったとしても、一度、低賃金の仕事についてしまうと、なかなか抜け出せなくなる可能性があり、結果的に低賃金の条件で就労し続ける可能性があることも念頭に置いておく必要があるといえよう。

5 結語 最後に、本稿の成果と今後の課題について述べておきたい。本稿では、中学時と高校時の学力階層の変化によって、高校キャリア教育の評価に差が生じることや、大学進学行動の規定要因に影響を与えること。そして、専門学科や総合学科に進学した者ほど学力階層が上昇した者の割合が多く、さらに高校キャリア教育に対して高い評価をした者が多かったことが明らかになった。こうした結果からいえることは、たとえ中学成績が下位であっても自分自身に合った高校選択をすることで学習意欲を高め、キャリア教育において職業意識を高めることができれば、進路選択を前向き考えることができるということである。その際に、高卒後に大学進学を考えるとしても、普通科に捉われることなく、専門学科や総合学科に進学し、学業面、文化面において学校に適応することによって、将来の就労を前向きに検討しながら主体的な進学行動をとる可能性は十分にあるのである。これらは、中学校の進路指導においては、高校の属性に捉

われることなく、生徒の適性を見極め、適切な進路に導くことが求められることを示唆している。このように、中学校の進路指導の重要性をあらためて指摘したことは、成果のひとつといえる。 また、いまひとつの成果は、大学側としても、本稿で得られた知見を考慮した学生指導が求められることを指摘した点である。すなわち、大学のキャリア教育を検討するときには、学生がどのようなメンタリティを持ちながら、これまでのキャリア教育を辿ってきたかを把握することが重要となる。その上で、将来、低賃金労働のような不安定労働に就かないような指導内容を構築することは、大学全入時代といわれる今日、多様な資質を持つ学生を受け入れる大学としての大きな責務であり、役割といえるのである。 とはいえ、こうした知見は、かぎられたサンプルから導き出されたものであり、一般化の点からすると不十分さは否めない。また、今回はサンプル数と紙幅の都合で、中学から高校に進学後、学力階層が維持されている者については触れられていない。たとえば、中学、高校の成績がともに下位にいた者が、低賃金就労につく可能性が高いとするならば、こうした階層の者への詳細な分析が必要なことは言うまでもない。今後は、本稿で得られた結果を基に、他分野の大学や短大、専門学科と対象を拡大し、各階層のサンプル数を増やすことで、より精緻な調査、分析をしていくこととする。

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佛教大学教育学部学会紀要 第16号(2017年3月)

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【引用文献と注】

1) 内閣府「平成27年度版 子ども・若者白書」2016 2) 国立居郁政策研究所生徒指導・進路指導研究セ

ンター「平成26年度職場体験・インターンシップ実施状況等調査結果(概要)」2015

3)斎藤剛史「中学校で当たり前の職場体験 高校普通科には課題も−斎藤剛史−」『ベネッセ情報教育サイト』Benesse 2016 http://benesse.jp/kyouiku/201601/20160107-1.html: 2016年8月25日アクセス

4)独立行政法人労働政策研究・研修機構「学校時代のキャリア教育と若者の職業成績」『労働政策研究報告書 No.125』2010 pp.81-82

5)辰巳哲子「成績とキャリア探索行動の関係」『Works Review Vol.8』リクルートワークス研究所 2013

6)本稿で扱う「学力」は、「相対的な学力」を指すこととする。相対的な学力については、原清治(2012)らの研究においても、「学力移動」の定義として「個人に注目した小さな所属集団の中で生じる相対的な学力の上昇や下降」とされており(原清治・浅田瞳「個人に焦点をあてた「学力移動」論への展開や」山内乾史『学生の学力と高等教育の質保証』学文社2012 p.51)、本稿もこの定義に従うこととする。このように、集団に準拠し、集団の中での相対的な位置づけの変化を相対的な学力とした研究は、他にも、(山内乾史「高等教育就学の規定要因に関する考察」山内乾史 前掲書 2012)や、古田和久「高校生の学校適応と社会文化的背景−学校の階層多様性に着目して−」『教育社会学研究第90集』日本教育社会学会)等がある。また、本稿では、この引用、参照文献等において「学業成績」と記されている場合は、そのまま「学業成績」とするが、基本的には、本稿の「学力階層」と同義とする。

7)河合塾kei-Net「入試難易予想ランキング表」http://www.keinet.ne.jp/rank/:2016年8月18日アクセス

8)本来、総合学科は、工業科や商業科のような職業学科とは設置の意義等に違いはあるが、本稿においては、普通科とその他の学科との違いをクリアにするため、ひとつにまとめている。文部科学省によると、総合学科は、1994年に普通教育と専門教育に並ぶ制度として導入され、特

色としては、「幅広い選択科目の中から生徒が自分で科目を選択し学ぶことが可能であり、生徒の個性を生かした主体的な学習を重視すること」

「将来の職業選択を視野に入れた自己の進路への自覚を深めさせる学習を重視すること」としている。本稿において専門学科と総合学科をまとめている理由については総合学科の特色として専門学科と同様に職業選択を意識した内容を重視している点もある。(文部科学省「総合学科について」1993)

9)中西啓喜「地方商業高校の変容−「高校生文化と進路形成の変容(第3次調査)」より−」『青山学院大学教育学会紀要「教育研究」第55号』2011

10)本田由紀『多元化する「能力」と日本社会−ハイパー・メリトクラシー化のなかで』NTT出版 2005 pp.148-149

11)本田由紀『教育の職業的意義−若者、学校、社会をつなぐ』筑摩書房 2009 pp.112-113

12)原清治『若年就労問題と学力の比較教育社会学』ミネルヴァ書房 2009

13)学力移動の観点からの詳細な整理については「原清治・浅田瞳 前掲書 2012も参照