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はじめに さまざまなアプリケーションで、デバイス、 製品、システムなどを正しくテストするた めに、2つの波形の和から構成される信号が 必要な場合があります。例えば、以下のよ うな場合です。 電話機はデュアル・トーン正弦波信号を 出力し、受信回路がそれを解読して適切 に応答します。このような電話システム のレシーバをテストするには、さまざま なデュアル・トーン信号を供給する必要 があります。 オーディオ・アンプは、入力波形にわず かな歪みを加えます。方形波と正弦波の 和から構成される入力信号を使用するこ とにより、アンプから生じる歪みを評価 できます。 クロック信号にノイズがあると、タイミ ング・エラーが生じる可能性があります。 方形波にノイズを追加することにより、 クロック信号のノイズに対するイミュニ ティをテストできます。 上記の例のテストは、2つの波形の和から構 成される信号を使用します。この測定のヒ ントでは、これら3つの例を取り上げて、 Agilent 33521A/22Aファンクション/任 意波形発生器の1つのチャネルで加算波形を 簡単に作成する方法を紹介します。 MEASUREMENT TIPS Volume 10, Number 2 波形加算機能でテストを 簡素化する方法 スナップショット 電話サポート機器の大手メーカ に、この会社のシステムが人の笑い声をシス テムへのトーン信号と誤認識して、通話が一時的に途切れることがあるとい う苦情が届きました。このメーカのデザイン・エンジニアは、トーン解読ア ルゴリズムを変更して、電話から入ってくる人の声や音楽の影響を受けにく くしましたが、実際のトーンを正しく処 かどうかの確認が必要でした。そこでこ メーカは、Agilent 33522Aファンクショ ン/任意波形発生器を使用して、新しい アルゴリズムをテストし、デュアル・ トーン・マルチ周波数トーンの範囲内 のあらゆる組み合わせを正しく処理でき ることを確認しました。

波形加算機能でテストを 簡素化する方法 - Keysightliterature.cdn.keysight.com/litweb/pdf/5990-5898JAJP.pdf2 電話DTMFデコーダのテスト 電話システムで一般的に用いられるトーンについてはよく知

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はじめに

さまざまなアプリケーションで、デバイス、製品、システムなどを正しくテストするために、2つの波形の和から構成される信号が必要な場合があります。例えば、以下のような場合です。

• 電話機はデュアル・トーン正弦波信号を出力し、受信回路がそれを解読して適切に応答します。このような電話システムのレシーバをテストするには、さまざまなデュアル・トーン信号を供給する必要があります。

• オーディオ・アンプは、入力波形にわずかな歪みを加えます。方形波と正弦波の和から構成される入力信号を使用することにより、アンプから生じる歪みを評価できます。

• クロック信号にノイズがあると、タイミング・エラーが生じる可能性があります。方形波にノイズを追加することにより、クロック信号のノイズに対するイミュニティをテストできます。

上記の例のテストは、2つの波形の和から構成される信号を使用します。この測定のヒントでは、これら3つの例を取り上げて、Agilent 33521A/22Aファンクション/任意波形発生器の1つのチャネルで加算波形を簡単に作成する方法を紹介します。

MEASUREMENT TIPSVolume 10, Number 2

波形加算機能でテストを簡素化する方法

スナップショット電話サポート機器の大手メーカに、この会社のシステムが人の笑い声をシステムへのトーン信号と誤認識して、通話が一時的に途切れることがあるという苦情が届きました。このメーカのデザイン・エンジニアは、トーン解読アルゴリズムを変更して、電話から入ってくる人の声や音楽の影響を受けにくくしましたが、実際のトーンを正しく処理できるかどうかの確認が必要でした。そこでこのメーカは、Agilent 33522Aファンクション/任意波形発生器を使用して、新しいアルゴリズムをテストし、デュアル・トーン・マルチ周波数トーンの範囲内のあらゆる組み合わせを正しく処理できることを確認しました。

くしましたが、実際のトーンを正しく処理できるかどうかの確認が必要でした。そこでこのメーカは、Agilent 33522Aファンクショ

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電話DTMFデコーダのテスト

電話システムで一般的に用いられるトーンについてはよく知られています。電話機のキーを押すたびに、受話器からトーンが聞こえるはずです。最も一般的な場合では、このトーンは単にシステムがある場所から別の場所に通話をつなぐために使用されます。一方、このトーンは他のさまざまな電話アプリケーションにも用いられます。例えば、留守番電話にパスワードやコマンドを入力するため、自動バンキング・システムを操作するため、ビジネスフォンの内線番号を指定するためなどです。このトーンを注意深く聴いてみれば、実際には2つのトーンから構成されていることがわかります。2つの異なる周波数の純粋な正弦波が同時に再生されています。このようなトーンをデュアル・トーン・マルチ周波数(DTMF)トーンと呼びます。電話機のキーで選択される行と列の交点によって決まる低周波トーンと高周波トーンの組み合わせが、実際に聞こえるトーンです(図1参照)。図に示されている"A"、"B"、"C"、"D"のキーは標準的な電話機には存在しませんが、DTMFプッシュボタン電話機の定義に含まれているため、ここに示されています。

電話の世界では、このトーンは規格で決められているため、これを使用するすべてのシステムは互いに正しくやりとりできます。このようなシステムで用いられているDTMF解読回路が正しく動作することを保証するには、DTMFデコーダにすべての型のDTMF発生トーンを与えてテストする必要があります。例えば、ある規格では、各周波数が公称周波数の±1.8 %の範囲内になければならないと規定されていて、正弦波の相対振幅についても規定されています。このため、規格に定められた周波数と振幅の許容範囲内でDTMFトーンを出力する方法が必要になります。

Agilent 33521A/22Aファンクション/任意波形発生器には加算機能があり、内部(または外部)で発生した信号を、1つ

図2. 1336 Hzの正弦波と770 Hzの正弦波を加算したDTMF波形。これは電話機のキーパッドの「5」に対応します。

図1. DTMFキーパッドの周波数:低周波と高周波の正弦波の和によって、16個のキーのそれぞれが表されます(4行×4列)。

図3. 3.18 kHzの方形波と15 kHzの正弦波を加算した波形。この加算波形は、オーディオ・アンプの過渡相互変調歪みをテストするための入力信号として使用されます。

のチャネルで主信号に加算することができます。主信号が正弦波で、加算する信号も正弦波の場合は、組み合わせた波形はDTMFデコーダのテストに使用するDTMFトーン信号になります。デュアル・トーンのそれぞれの振幅、周波数、持続時間は、規格に定められた制限範囲内で簡単に調整できます。図2に、シングル・チャネルの33521Aで作成した波形の例を示します。

高周波

ABC

1 2 3 A

4 5 6 B

7 8 9 C

* 0 # D

DEF

JKL MNOGHI

TUV

OPER

WXYZPQRS

1209 Hz

697 Hz

770 Hz

852 Hz

941 Hz

1336 Hz 1477 Hz 1633 Hz

低周波

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測 定 の ヒ ン ト

オーディオ・アンプの相互変調歪み

非線形システムに単一の正弦波信号を印加した場合、システムの出力には、入力信号の周波数に関連する高調波が生じます。すなわち、出力には高調波歪みが存在します。複数の正弦波信号を非線形システムに印加すれば、システムの出力には、入力信号の高調波と、入力周波数の和と差に関連する相互変調成分が生じます。すなわち、出力には相互変調歪みが存在します。この相互変調歪みのために、出力に問題が生じる場合があります。例えば、非線形システムがオーディオ・アンプの場合は、相互変調歪みが大きいと、オーディオ・アンプでドライブされてスピーカから聞こえる音に乱れが生じます。動的な相互変調歪みは特に影響が大きいため、オーディオ・アンプなどのシステムでは評価する必要があります。

動的な相互変調歪みを評価する1つの方法は、方形波と正弦波の和を非線形システムに入力し、システムの出力に現れる応答をスペクトラム・アナライザでモニタする方法です。入力される波形は、適切に選択された方形波と正弦波の和です。この方法は、参考文献1に説明されています。これには、波形の振幅と周波数の値も記載されています。Agilent 33521Aファンクション/任意波形発生器の加算機能を使用すれば、必要な方形波と正弦波の和を作成できます。図3に例を示します。加算信号をアンプの入力に印加した状態で、出力波形の相互変調成分の振幅をスペクトラム・アナライザで測定し、それを使って全高調波歪みを計算できます。

クロック信号のノイズ・イミュニティのテスト

今日の電子機器の多くには、何らかのデジタル回路やマイクロプロセッサが組み込まれています。このような回路には、クロック信号が常に必要です。クロック信号にノイズがあると、制御対象の回路に問題が生じる可能性があります。例えば、性能の低下、伝送データの消失、オーディオの雑音、ビデオの映像の乱れなどです。ノイズの原因はさまざまで、熱雑音、ショット・ノイズ、フリッカ・ノイズなどのノイズや、クロ

ストーク、電磁干渉、スイッチング・デバイスなどの干渉があります。クロック信号に接続された回路が、考えられるノイズの影響を受けないことを確認することは、回路の正しい動作を保証するために不可欠です。このため、クロックに意図的にノイズを付加して、回路をテストすることが必要になります。

例として、方形波クロックが白色ノイズ(相加性白色ガウス雑音=AWGN)の影響を受けて、信号が乱れた場合を考えます。クロック信号の振幅に対するノイズ振幅の大きさによっては、このクロックでドライブされる回路に悪影響が及ぶ可能性があります。ここでも、33521Aの加算機能を使用すれば、このノイズのあるクロック信号を簡単に発生できます。図4aに示すのは、33521Aから発生したノイズのない方形波クロックです。図4bは、同じクロック信号に加算機能を使用して少量の白色ノイズを加えたものであり、図4cは、同じクロックに大量の白色雑音を加えたものです。

図4. ノイズを付加していないクロック信号(4a)、少量のノイズを付加した信号(4b)、大量のノイズを付加した信号(4c)

33521A/22Aで加算する波形の1つまたは両方に、ユーザが作成した任意波形が使用できます。オーディオ・アンプの相互変調歪みのテストでは、自分で作成した任意波形を使用できると便利です。参考文献1に記述されている入力方形波は、テストするアンプのタイプに応じてカットオフ周波数が30 kHzまたは100 kHzの単極ローパス・フィルタに通す必要があるからです。このフィルタリングされた方形波のデータは、標準的な演算パッケージで簡 単 に 作 成 で き ま す。 そ の 後、 こ の デ ー タ を33521A/22Aに任意波形としてロードし、正弦波と加算して、必要なアンプ入力信号を作成できます。

まとめ

さまざまなアプリケーションで、2つの波形の和から構成される信号が必要です。DTMFアプリケーションには、2つの正弦波の加算信号が必要です。オーディオ・アンプの相互変調歪みの評価には、正弦波と方形波の加算信号が用いられます。クロック信号のノイズに対するイミュニティを評価するには、ノイズと方形波の加算信号を使用します。これらのアプリケーションにおいて、Agilent 33521A/22Aファンクション/任意波形発生器の加算機能を使用することにより、2つの波形を加算した信号を簡単に作成でき、テストが非常に簡単になります。各波形の周波数や振幅は簡単に調整できるので、これらのパラメータの制限範囲全体にわたってデバイスをテストできます。

4a 4b 4c

参考文献1:“A Method for Measuring Transient Intermodulation Distortion (TIM)”, Eero Leinonen, Matti

Otala, and John Curl, presented October 30, 1976, at the 55th Convention of the Audio Engineering Society,

New York

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Agilentのファンクショ

ン/任意波形発生器ソ

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Published in Japan, July 14, 20105990-5898JAJP

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