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NTT技術ジャーナル 2018.6 56 204 「通信」と「制御」を掛け合わせて 新しい価値を提供 ◆設立の目的と背景をお聞かせください. NTTスマイルエナジーは,エネルギー ・ 環境分野で新 規事業を行うため,2011年6月にNTT西日本とオムロン 株式会社との合弁会社として設立されました.エネルギー 情報と通信を融合し,来るべき「スマートグリッド社会」 (電力の流れを最適化できる次世代送電網)の実現に貢献 することを目的としています.太陽光パネルによる発電電 力と消費電力を「見える化」するサービス,太陽光パネル を「遠隔監視」するサービス,安定した発電を維持するた め「制御」するサービス,などを提供しています. 太陽光発電など再生可能エネルギーは,成長ビジネスと いわれています.パリ協定(温室効果ガス排出について, 2020年以降の国際的枠組みを定めた協定)に向けて各国 が具体的な動きを進めている中,世界に貢献していきたい という思いで取り組んでいます. ◆事業概要を教えてください. NTT西日本が持つ通信とオムロンが持つ計測 ・ 制御技 術,「通信」と「制御」を掛け合わせて新しい価値を提供 できないかということで始まったのが当社です.当時は, 電気の明細書が届いて初めて消費電力を知ることができま した.また,太陽光発電のパネル故障や発電機能の低下な どは,お客さま自身では発見しにくいものでした.そこで, 発電 ・ 消費電力のみならず第三者的に太陽光発電設備の状 況をチェック ・ 診断してお知らせする,太陽光遠隔モニタ リングサービス「エコめがね」の提供を始めました.太陽 光パネルからの電力を家庭等で利用可能とするための変換 (交流化等)や制御を行う,パワーコンディショナと接続 された「エコめがね」の装置により,リアルタイムに消費 電力や発電電力を計測し,そのデータをお客さまがWeb で確認できるサービスで,このプラットフォームをパート ナー会社へ卸提供することでビジネスを展開しています. エコめがねの特長は,発電電力 ・ 消費電力の「見える化」 によって,お客さまが消費できなかった余剰電力を販売で きることです.また,全国の日射量と設備規模を比べて発 電予測し,実際の発電の結果と比べることで,太陽光パネ ルやパワーコンディショナが正常に動作しているか「見守 る」ことができます.さらに,CO 2 の削減効果が太陽光の ような再生可能エネルギーにはあるため,排出権の取引を してお客さまにポイントで還元することができます.また, 接続先の電力ネットワークに過剰な電力を供給しないよう にするため,発電しすぎを止める「制御」も重要な技術 です. 2018年2月現在,エコめがねは約4万カ所(約1.3ギ ガワット規模の発電所)をつなげて,モニタリングをして います.太陽光パネルに多いエラーは,落雷,パネルの上 に物が覆いかぶさる,生物の侵入,大雪や高温などで,1 拠点で年間4回ほど発生しており,異常検知を遠隔で早く 感知することが求められています.NTTグループ全体で は,NTTファシリティーズがメガソーラー(大規模太陽 光発電システム)を企画 ・ システム設計していることから, 当社においては中小規模の太陽光発電システムに関するビ ジネスを通して,スマートグリッド社会に少しでも貢献で きればと考えています. PPA(第三者所有モデル)や VPP(仮想発電所)など新しい事業を展開 ◆ほかに貴社が進めている事業を教えてください. 「ご縁ソーラーPJ」は,当社が発電主体となり未稼動の 発電設備の稼動を促進する事業です.太陽光発電の固定価 格買取制度(FIT)の認定を受けていながら,認定申請時 の計画どおりに稼動しているのは3割しかないことが4〜 5年前から課題になっています.「融資が下りない」「事業 主体が未決定」が理由のため,当社が設備投資し,事業主 http://nttse.com/ 再生可能エネルギーである 「太陽光発電」を主力電源として 推進を図る NTTスマイルエナジーは,NTT西日本の通信技術とオムロンの制 御技術を組み合わせて,再生可能エネルギーである「太陽光発電」 の効率的活用を進めている企業だ.同社の小鶴慎吾社長に代表的な 事業「エコめがね」などの事業展開状況や,VPPに関連する今後の 展開を伺った. NTTスマイルエナジー 小鶴慎吾社長 株式会社NTTスマイルエナジー

再生可能エネルギーである 「太陽光発電」を主力電源として 推 … · 再生可能エネルギー 今後の展望をお聞かせください. やはりaiの活用が注目されています.発電予測,天気予

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Page 1: 再生可能エネルギーである 「太陽光発電」を主力電源として 推 … · 再生可能エネルギー 今後の展望をお聞かせください. やはりaiの活用が注目されています.発電予測,天気予

NTT技術ジャーナル 2018.656

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「通信」と「制御」を掛け合わせて新しい価値を提供

◆設立の目的と背景をお聞かせください.NTTスマイルエナジーは,エネルギー ・ 環境分野で新

規事業を行うため,2011年6月にNTT西日本とオムロン株式会社との合弁会社として設立されました.エネルギー情報と通信を融合し,来るべき「スマートグリッド社会」

(電力の流れを最適化できる次世代送電網)の実現に貢献することを目的としています.太陽光パネルによる発電電力と消費電力を「見える化」するサービス,太陽光パネルを「遠隔監視」するサービス,安定した発電を維持するため「制御」するサービス,などを提供しています.

太陽光発電など再生可能エネルギーは,成長ビジネスといわれています.パリ協定(温室効果ガス排出について,2020年以降の国際的枠組みを定めた協定)に向けて各国が具体的な動きを進めている中,世界に貢献していきたいという思いで取り組んでいます.◆事業概要を教えてください.

NTT西日本が持つ通信とオムロンが持つ計測 ・ 制御技術,「通信」と「制御」を掛け合わせて新しい価値を提供できないかということで始まったのが当社です.当時は,電気の明細書が届いて初めて消費電力を知ることができました.また,太陽光発電のパネル故障や発電機能の低下などは,お客さま自身では発見しにくいものでした.そこで,発電 ・ 消費電力のみならず第三者的に太陽光発電設備の状況をチェック ・ 診断してお知らせする,太陽光遠隔モニタリングサービス「エコめがね」の提供を始めました.太陽光パネルからの電力を家庭等で利用可能とするための変換

(交流化等)や制御を行う,パワーコンディショナと接続された「エコめがね」の装置により,リアルタイムに消費電力や発電電力を計測し,そのデータをお客さまがWebで確認できるサービスで,このプラットフォームをパート

ナー会社へ卸提供することでビジネスを展開しています. エコめがねの特長は,発電電力 ・ 消費電力の「見える化」

によって,お客さまが消費できなかった余剰電力を販売できることです.また,全国の日射量と設備規模を比べて発電予測し,実際の発電の結果と比べることで,太陽光パネルやパワーコンディショナが正常に動作しているか「見守る」ことができます.さらに,CO2の削減効果が太陽光のような再生可能エネルギーにはあるため,排出権の取引をしてお客さまにポイントで還元することができます.また,接続先の電力ネットワークに過剰な電力を供給しないようにするため,発電しすぎを止める「制御」も重要な技術です.

2018年2月現在,エコめがねは約4万カ所(約1.3ギガワット規模の発電所)をつなげて,モニタリングをしています.太陽光パネルに多いエラーは,落雷,パネルの上に物が覆いかぶさる,生物の侵入,大雪や高温などで,1拠点で年間4回ほど発生しており,異常検知を遠隔で早く感知することが求められています.NTTグループ全体では,NTTファシリティーズがメガソーラー(大規模太陽光発電システム)を企画 ・ システム設計していることから,当社においては中小規模の太陽光発電システムに関するビジネスを通して,スマートグリッド社会に少しでも貢献できればと考えています.

PPA(第三者所有モデル)やVPP(仮想発電所)など新しい事業を展開

◆ほかに貴社が進めている事業を教えてください.「ご縁ソーラーPJ」は,当社が発電主体となり未稼動の

発電設備の稼動を促進する事業です.太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)の認定を受けていながら,認定申請時の計画どおりに稼動しているのは3割しかないことが4〜5年前から課題になっています.「融資が下りない」「事業主体が未決定」が理由のため,当社が設備投資し,事業主

http://nttse.com/

再生可能エネルギーである「太陽光発電」を主力電源として推進を図る

NTTスマイルエナジーは,NTT西日本の通信技術とオムロンの制御技術を組み合わせて,再生可能エネルギーである「太陽光発電」の効率的活用を進めている企業だ.同社の小鶴慎吾社長に代表的な事業「エコめがね」などの事業展開状況や,VPPに関連する今後の展開を伺った. NTTスマイルエナジー 小鶴慎吾社長

株式会社NTTスマイルエナジー

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体となることでこの課題への対応を行っています.現在は全国に53基の太陽光発電システムを構築しています.

また,新電力最大手のエネットと行っているのは,電力買取サービス「エコめがねPlus」です.ご家庭や事業所で発電された電気を取りまとめてエネットに提供し,エネットは大企業に電力を販売して,売上の一部をご家庭や事業所に戻すサービスです.この事業の鍵は「発電予測データ」です.1つひとつでは不安定ですが,複数を取りまとめるとトータルの発電量はバラツキが少ないので,予測しやすく,取り扱いもしやすくなるため,少し高めに買ってくれます.データを使って,価値を高めお客さまに還元するサービスです.

近 年 拡 大 し て い る 事 業 は「 家 庭 用PPA(Power Purchase Agreement:第三者所有モデル)」サービスです.これまでは住んでいる方自身で太陽光発電システムを設置するのが主流でしたが,同モデルは,事業者が投資をしてお客さまの土地に太陽光発電システムを設置し,余剰電力を売って回収し,お客さまに太陽光発電システムを引き渡すモデルです.PPAモデルによって,お客さまは①「初期費用ゼロで太陽光発電システムを設置」,②「通常より安価な電力を利用」可能になり,PPA事業者は提案しやすい新たな手法として太陽光発電システムの拡販に活用可能になります.

PPAに関しては,再生可能エネルギーの最大限導入に向けて,学校の屋根に太陽光発電を設置する活動も行っています.自治体としては初期費用がかからずに,屋上利用料 ・ 償却資産税が得られるだけでなく,災害が起きたときに避難所として学校が指定されていることが多いため,自立電源として使える利点があります.なおかつ自治体としての再生可能エネルギーの比率も上がります.予算を確保できずに太陽光発電システムの設置ができない自治体も多く,また金融機関は小規模 ・ 分散太陽光発電への投資には消極的です.そこで当社が事業主となって設置を推進しています.◆現在の景況感はいかがですか.

太陽光発電は,一時のバブル的な盛り上がりのときと比べますと,市場のボリュームは減っている可能性はあり,実際ビジネスを辞められる会社も出てきました.ただ,盛り上がったおかげでシステムのコストは下がり,ノウハウも蓄積されてきました.また,家庭向け太陽光発電はFITにより堅調に伸びており,引き続き伸びていくと予想されます.パリ協定に基づく国の政策を考えても,再生可能エネルギーの拡大は,今後も最重要課題です.PPAなど新たなビジネスモデルも含めて,マーケットは大きくなっていくと思います.◆経営戦略で重点をおいていることは何でしょうか.

当社の経営ベースはエコめがねです.ここを重点に今後も進めていきます.それに加えて,太陽光発電には必ずパワーコンディショナが必要なのですが,オムロンと協力し

て新しいパワーコンディショナを開発しており,エコめがね+関連部材 ・ 機器の販売を伸ばしていきます.

また,電気は貯蔵できないという課題があり,これを克服するために,今後は蓄電池が普及してくるでしょう.蓄電池自体を提供,もしくはVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)で価値を提供していきたいと思っています.VPPとは,経済産業省が主導 ・ 推進している事業で,街の中の蓄電池,燃料電池,太陽光発電など,さまざまな分散しているエネルギーリソースを仮想的に束ねてコントロールし,あたかも1つの発電所のように機能させることで,需給調整に活用する仕組みです.家庭用蓄電池は,デスクトップPC程度の大きさと,かなりコンパクトになっており,災害時を意識して導入される家庭も増えてきています.2016年度は制御用クラウドからネットワークを経由してモニタユーザ宅までの間のシステムを開発し,工事の施工性や制御性能確認等の実証実験を行いました.2017年度以降は送配電事業者等の上位系統と連携した電力系全体にまたがる実証実験や展開エリアの拡大を進めています.家庭における太陽光発電の余剰電気は,2019年からFITによる買取期間が終了するユーザが出てきます.これにより家庭で蓄電しようという方も増えるのではないでしょうか.今までは防災準備で購入されている方が多かったのですが,蓄電準備で蓄電池の購入が増えると思います.

AI活用によって進む 再生可能エネルギー

◆今後の展望をお聞かせください.やはりAIの活用が注目されています.発電予測,天気予

測,需要予測などをAIに学習させて,エコめがねに組み入れて最適化をめざしています.NTTメディアインテリジェンス研究所とも協力していきます.再生可能エネルギーは,国全体の電源構成でも主力電源へと進んでいます.しかし,主力電源となるためにはメンテナンスが必須なため,遠隔監視サービスは重要です.また,家庭用PV,学校用PV,公共PVを推進していくことで少しでもお役に立ちたいと思います.さらに国外,特にアジア諸国も再生可能エネルギーに動き始めています.台湾,ベトナム,タイなどに当社の商品がフィットするならぜひ展開を検討したいと考えています.◆社員の方へのメッセージをお聞かせください.

今までの電気は一方向の「使用するだけ」でした.しかし,これからは通信技術と制御技術を活用することで,双方向(インタラクティブ)で「地域内での融通ができる」ようになりました.当社の強みはこういった再生可能エネルギーの活用に関する技術やノウハウであり,これによって,会社創立の思いである,「人々が笑顔で安心して暮らせるような世界」をめざして,世の中のために頑張っていきましょう.

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担当者に聞く

◆業務内容について教えてください.NTTスマイルエナジーは太

陽光発電事業ということから,NTTグループの中でも少し変わった会社と思われがちですが,通信技術も含めてさまざまな技術を駆使しており,NTTの本業と親和性がある事業です.当社は太陽光発電の様子を,センサを使って見守る「エコめがね」を,クラウドを利用したサービスとして提供しています.その中でも私はセンサ部分の新端末を開発しています.現在は,今までと開発スタイルを変えて,よりスピーディに市場に出せて,よりお客さまにフィットした商品開発に力を入れています.◆具体的にどのような商品なのでしょうか.

天候の関係などで発電電力が多すぎると,需要と供給のバランスが崩れてエラーが発生し,停電してしまうことがあります.そういうときには発電を抑制する必要があり,パワーコンディショナがこれを行っています.これまで提供してきた「エコめがねモバイルパックRS」では対応しているパワーコンディショナが限られているため,最新商品として主要各社のパワーコンディショナに対応した「モバイルパックマルチコネクト」を販売しています.真夏のほうが太陽光発電の電力は多くなると思われがちですが,実はパネルが高温になりすぎると発電できないこともあり,緩やかな発電になるようにパワーコンディショナで調整しています.当社は,パワーコンディショナから発電情報やエラー情報を遠隔で収集し,状況を監視しています.エコめがねサービスには種類が3つあり,中に入っているセンサの違いで機能が若干異なります.開発された順番に

「モバイルパック/固定回線用」「モバイルパックRS」「モバイルパックマルチコネクト」です.◆何をねらいとした開発を進めていますか.

太陽光発電の割合が多すぎると電気系統が不安定になるため,電力会社側が太陽光発電からの電気系統への電力供給を停止します.その時間はお客さま側で発電しても売電できません.そこでお客さま側の出力制御の必要が出てきました.「モバイルパック/固定回線用」は初期の機器のため,消費 ・ 発電の電力計測はできますが,出力制御機能はついておりません.そもそも,出力制御できないと送電系への接続ができず,売電はできません.そこで対応した機器である,出力制御機能付きパワーコンディショナを組み込んだ「モバイルパックRS」を開発しました.

一方で,「モバイルパックRS」は特定メーカのパワーコ

ンディショナのみに対応しています.太陽光発電を既設であるお客さまにも対応できるよう,開発を進めたものが「モバイルパックマルチコネクト」です.「モバイルパックマルチコネクト」はさまざまなメーカのパワーコンディショナに対応することが大きな特長になります.現在の出力制御エリアとして九州と四国をメインとして,「エコめがねモバイルパックRS」により取り組んでおりますが,「モバイルパックマルチコネクト」により関西や関東エリアのお客さまに太陽光発電の遠隔監視サービスを進めていこうと思っています.技術的には100〜200 Vの電源供給に対応しているため,幅広い電圧範囲の太陽光発電設備に,新たな電力契約や配線工事の必要なくエコめがねを導入できます.オムロンのパワーコンディショナ技術は特に秀でていますが,既設のお客さまの太陽光発電の効率化に寄与する意味でも,他のメーカのパワーコンディショナにも対応する機器が必要だと思っています.

現在,2020年のサービス開始に向けて第5世代移動通信システム(5G)の国際標準規格化が進行中であり,当社も同通信に対応するバージョンアップが課題になります.より価値が高まる電力の双方向に向けて,どういったサービス ・ 商品を開発できるかが喫緊の課題になります.◆現在利用されているユーザ数はどのくらいでしょうか.

2016年夏に開発し,同年秋に市場に投入した「モバイルパックRS」は4000設備です.2017年10月に開発した「モバイルパックマルチコネクト」は数百設備です.パワーコンディショナから直接電力データをとっているので,いわゆる遠隔監視レベルは精度の高いものとなっています.このため,不具合が発生した際にはその原因究明や対応方法の検討が迅速になされることで,現地に駆け付けるまでの時間が短縮されます.まさにIoT(Internet of Things)機器であり,今後も期待が高い商品です.◆「モバイルパックマルチコネクト」について苦労した点を教えてください.スピードアップのため,開発環境としてパブリック系ク

ラウドの使用や,アプリベンダと仕様書を半分にしてアジャイル開発を進めてきましたが,これに向けて体制を変える苦労がありました.その甲斐もあって,「モバイルパックRS」では検討から発売まで約1年かかっていたものが,「モバイルパックマルチコネクト」は約5カ月で発売できました.

当社はセンサから太陽光発電に関する情報収集しています.今は「見守り」に特化していますが,よりパーソナライズしていかなければ太陽光発電の遠隔監視としての価値が高まっていかないという課題観を持っています.AI技術を上手く組み込む,あるいは蓄電池と遠隔監視とセットにして電力を流通させる,無駄のない電力プラットフォームの技術開発を進めています.

一方,太陽光発電の遠隔監視をつけないお客さまが半数以上いらっしゃいます.太陽光発電の設置の値段は,例え

太陽光発電の状況を見守る「モバイルパックマルチコネクト」でもっと効率的に暮らす価値づくり本部 システム開発グループ 課長 林田悠基さん

林田悠基さん

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ばテニスコート4面分のソーラーパネルを設置するとなると2000〜3000万円くらいかかります.遠隔監視をつけたほうが,長期的に続く発電においてメリットは大きく,電力の双方向性が進むほど重要性の増すメンテナンスへの対応も容易になりますが,現在はまだまだです.「モバイルパック」のビジネスはB2B2Cビジネスですので,ミドルB(パートナー会社)の皆様に,営業と一緒に協力して商品説明を進めています.◆現在,新たに力を入れている商品開発を教えてください.

先ほど蓄電池についてお話ししましたが,VPPに力を入れています.家庭に置いた蓄電池を電源リソースとみなしたときに,それぞれは小さな発電力ですが,1つに束ねたときに大きな電力源となり1つの発電所とみなすことができます.この仮想発電所を電気の過不足の調整役として活用できるのではないかと,現在実証実験を行っています.

具体的には,経済産業省 ・ 資源エネルギー庁の補助事業である一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が公募した「バーチャルパワープラント構築実証事業」に決定されたので,当社はこれに参画して技術検証を行っています.家庭に設置された蓄電池システムを遠隔コントロールすることにより,電力需給の調整を行う実証実験です.再生可能エネルギーのさらなる導入をめざして,昨年から実施しておりました.今後は,家庭ごとに消費電力が違いますのでAIも組み合わせて消費の傾向を予測しながら,効率的な再生可能エネルギー活用が普及する社会をめざします.

また,「蓄電池の見える化」も開発中です.現在,蓄電池に対して,充電状況や放電状況の把握しかできません.リアルタイムに,蓄電されている量の把握や蓄電池が動いているのか確認するニーズがありますので,2018年度内

にこれに対応したサービスをリリースしようと動いています.蓄電池は充放電を繰り返すことによる劣化が原因で,その寿命は10年程度といわれています.蓄電池の状況を可視的に把握することで,寿命による交換もタイムリーに行うことができます.◆大量の太陽光発電データを収集する際の苦労点を教えてください.昔の話ですが,ある程度決まった時間でデータをさばか

なければいけないため,従来使っていた基盤が限界にきていたことがありました.ひどいときには毎晩,枕元に携帯電話を置いて夜中に発生したエラーに対応していました.システムが不安定になっていたため営業サイドにも影響が出て,ご迷惑をおかけしたこともありました.今後,太陽光発電のセンサが増えて,大量のデータをリアルタイムで

「見える化」するにはこうしたモニタリングの基盤システムを万全にする必要があります.昔の苦労を活かして,今後につなげていきます.◆今後の展望を教えてください.

私自身の課題としては,現在の事業である「モバイルパックマルチコネクト」やVPPへの新しい価値の追加をめざして,開発を進めていこうと思っています.当社は小規模な人数で開発や営業を進めているので,自分たちでサービスを育てているという実感が強いです.エンジニアの立場でいうと,やることは多いが,やりがいも大きい.そして経営者との距離がとても近く,経営会議にも一般社員が参加して意見を言えるような環境です.そして,新しいさまざまな技術を取り込んで,サービスを出し,再生可能エネルギーの普及 ・ 促進をしている会社です.再生可能エネルギーに興味がある人や元気な人は,ぜひ当社に来てみてください.

■趣向を凝らしたイベントブースや仕掛け「展示会への出展」お客さまにNTTスマイルエナジーの名前を知っていただきたい,「エコめがね」の遠隔監視サービスについて説明したい,と

いうコンセプトのもと,創立翌年からPV-Japan EXPO,EXPO関西,高性能住宅EXPOなどの太陽光発電関係の展示会に毎回趣向を凝らしたイベントブースを出展しています.例えば,カフェ形式(昼はコーヒー,夜はアルコールを提供)で飲んでもらいながら説明したブースは,お客さまにも打ち解けていただき大変好評とのこと(写真 1).空港のチェックインカウンタ形式で,展示会に来ていただいたお客さまの荷物を預かって,その受け渡しのときに説明するブースもとても好評だったそうです.■「エコ」「発想」「躍動」をコンセプトとした新オフィス

2011年の創業当時は社員10数名でしたが,現在は約90名と増え,会社として大きくなってきました.以前のオフィスが手狭になったため,2017年1月に新オフィスに引っ越し,「エコ」と「発想」と「躍動」をコンセプトに,レイアウト,カラーを設計し,什器を導入したそうです.例えば,使用済みのケーブルの巻芯を柱にしたテーブル,すのこを活用したイス,また,グリーンを壁や床に使うなど,公園をイメージしたオフィスにしています(写真 2).NTTスマイルエナジーのオフィスにはNTT西日本のビジネスデザイン部の方も見学にいらして,同社のオフィス改装にも影響を与えたようです.

NTTスマイルエナジーア・ラ・カルトア・ラ・カルト

写真 2 写真 1