4
東レリサーチセンター The TRC News No.107(Apr.2009) 15 ●〔特集〕医薬品分析(2)抗体医薬品の特性解析:タンパク部分の構造解析法及び実例(アミノ酸配列、CDなど) 1.抗体医薬品の歴史 抗体医薬品の歴史は、1890年の北里柴三郎、ベーリン グによる「抗毒素」の発見以来、血清療法、免疫グロブ リン精製技術の確立、そして1975年のケーラーとミルス タインによるモノクローナル抗体作製技術の開発と、20 世紀のバイオテクノロジーの発展と共に生まれた。言う までもなく抗体とは、リンパ球のうちB細胞の産生する 糖たん白質で、抗原(タンパク質など)を認識して結合 するY字型の分子である。 当初モノクローナル抗体はマウス型として作製された ため、ヒトでは抗体そのものに対する抗原認識が生じて しまい、臨床応用・上市はほとんど進まなかった。しか 1990年代に入り、マウス型抗体の一部ないし大半を ヒト型のアミノ酸配列に組換えたキメラ抗体、ヒト化抗 体が開発されたことで、抗体をヒトに投与することのリ スクが大幅に減り、医薬品としての抗体利用が大幅に広 がった。さらには完全ヒト抗体も開発され、抗体医薬品 の開発は加速度的に進んでいる。 2007 年の主要製薬メーカーの売上データによる と、抗体医薬品の売上上位は、MabThera/Rituxan rituximab 4,881 百万米ドル、 Herceptin trastuzumab 4,294 百万米ドル、 Avastin bevacizumab 3,634 百万米ドル、 Remicade infliximab3,327百万米ドル、Humiraadalimumab3,064百万米ドルであり、いずれも数年間でブロックバ スターに上り詰めた(吉川医薬経済レポート調べ 1]内は一般名)。対象疾患は開発中のものも含める と、抗腫瘍、免疫、心臓血管系、抗ウイルス、抗細菌、 炎症性病変、神経系など多岐にわたっている。抗体医 薬品の全市場も、2003年の8十億米ドルから2007年の33 十億米ドルへと、5年間で4.1倍に拡大し、全医薬品市場 に占めるシェアも4.6%にまで増加している。 医薬品として開発される抗体自体も進化している。構 造面では、従来のIgGのみならず、2価抗体、Toxin結合 抗体、放射性同位元素結合抗体、PEG化抗体断片FabIgMなど。機能面では、ADCC活性を増強した糖鎖改変 抗体、抗イディオタイプ抗体などがある。日本の抗体医 薬品開発も、日本オリジン及びM&Aを含む導入品の両 者とも活発化してきており、今後の動向が注目される。 2. 当局の求める物理化学的特性解析項目 抗体医薬品の開発にあたり当局が求める構造解析・ 構造確認については、ICHガイドラインQ6b 2、医薬審 発第571号「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品 /生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定につ いて」 3などを参照いただきたい。医薬審発第571号の 6.付録」には、「製品ごとに用いるアプローチは異 なる」、「新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は 日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきであ る。」としながらも、構造解析や構造確認の評価に際し て技術的にどのようにアプローチしていけばよいかとい う例を示している。ここに、挙げられている項目を以下 に列挙した。 タンパク質の階層構造のうち、1次構造と2次構造に ついて網羅的に解析することが求められていることが 分かる。本稿では、弊社が所有する抗メチル化DNA 5-methyl-2-deoxycytidine)モノクローナル抗体(以 下、抗メチル化DNA抗体と呼ぶ)を用いて物理化学的特 性解析を行った例を紹介する。なお、糖組成・糖鎖構造 解析については、次節の記事を参照いただきたい。 3.物理化学的性質(分子量) 抗体分子量は、SDS-PAGE、質量分析などによって 確認する。また、これらの手法により、アミノ酸の大き な欠損や不純物の存在についても確認できる。 1SDS-PAGEの結果を示した。ジチオスレイトー [特集]医薬品分析 (2)抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法及び 実例(アミノ酸配列、CDなど) 生物科学研究部 古木 健一朗

[特集]医薬品分析 (2) 抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法 … · す(図2)。一般的にタンパク質の質量分析では、ソフト

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: [特集]医薬品分析 (2) 抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法 … · す(図2)。一般的にタンパク質の質量分析では、ソフト

東レリサーチセンター The TRC News No.107(Apr.2009)・15

●〔特集〕医薬品分析(2)抗体医薬品の特性解析:タンパク部分の構造解析法及び実例(アミノ酸配列、CDなど)

1.抗体医薬品の歴史

 抗体医薬品の歴史は、1890年の北里柴三郎、ベーリングによる「抗毒素」の発見以来、血清療法、免疫グロブリン精製技術の確立、そして1975年のケーラーとミルスタインによるモノクローナル抗体作製技術の開発と、20世紀のバイオテクノロジーの発展と共に生まれた。言うまでもなく抗体とは、リンパ球のうちB細胞の産生する糖たん白質で、抗原(タンパク質など)を認識して結合するY字型の分子である。 当初モノクローナル抗体はマウス型として作製されたため、ヒトでは抗体そのものに対する抗原認識が生じてしまい、臨床応用・上市はほとんど進まなかった。しかし1990年代に入り、マウス型抗体の一部ないし大半をヒト型のアミノ酸配列に組換えたキメラ抗体、ヒト化抗体が開発されたことで、抗体をヒトに投与することのリスクが大幅に減り、医薬品としての抗体利用が大幅に広がった。さらには完全ヒト抗体も開発され、抗体医薬品の開発は加速度的に進んでいる。 2007年の主要製薬メーカーの売上データによると、抗体医薬品の売上上位は、MabThera/Rituxan[ r i t u x i m a b] 4 , 8 8 1百万米ドル、H e r c e p t i n[ t r a s t u z u m a b] 4 , 2 9 4百万米ドル、A v a s t i n[ b e v a c i z um a b] 3 , 6 3 4百万米ドル、Rem i c a d e[infl iximab]3,327百万米ドル、Humira[adalimumab]3,064百万米ドルであり、いずれも数年間でブロックバスターに上り詰めた(吉川医薬経済レポート調べ 1)。[ ]内は一般名)。対象疾患は開発中のものも含めると、抗腫瘍、免疫、心臓血管系、抗ウイルス、抗細菌、炎症性病変、神経系など多岐にわたっている。抗体医薬品の全市場も、2003年の8十億米ドルから2007年の33十億米ドルへと、5年間で4.1倍に拡大し、全医薬品市場に占めるシェアも4.6%にまで増加している。 医薬品として開発される抗体自体も進化している。構造面では、従来のIgGのみならず、2価抗体、Toxin結合抗体、放射性同位元素結合抗体、PEG化抗体断片Fab、IgMなど。機能面では、ADCC活性を増強した糖鎖改変抗体、抗イディオタイプ抗体などがある。日本の抗体医薬品開発も、日本オリジン及びM&Aを含む導入品の両者とも活発化してきており、今後の動向が注目される。

2. 当局の求める物理化学的特性解析項目

 抗体医薬品の開発にあたり当局が求める構造解析・構造確認については、ICHガイドラインQ6b2)、医薬審発第571号「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」3)などを参照いただきたい。医薬審発第571号の「6.付録」には、「製品ごとに用いるアプローチは異なる」、「新しい分析技術の開発や既存の技術の改良は日進月歩で進んでいるので、適時取り入れるべきである。」としながらも、構造解析や構造確認の評価に際して技術的にどのようにアプローチしていけばよいかという例を示している。ここに、挙げられている項目を以下に列挙した。

 タンパク質の階層構造のうち、1次構造と2次構造について網羅的に解析することが求められていることが分かる。本稿では、弊社が所有する抗メチル化DNA(5-methyl-2’-deoxycytidine)モノクローナル抗体(以下、抗メチル化DNA抗体と呼ぶ)を用いて物理化学的特性解析を行った例を紹介する。なお、糖組成・糖鎖構造解析については、次節の記事を参照いただきたい。

3.物理化学的性質(分子量)

 抗体分子量は、SDS-PAGE、質量分析などによって確認する。また、これらの手法により、アミノ酸の大きな欠損や不純物の存在についても確認できる。 図1にSDS-PAGEの結果を示した。ジチオスレイトー

[特集]医薬品分析

(2)抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法及び 実例(アミノ酸配列、CDなど)

生物科学研究部 古木 健一朗

Page 2: [特集]医薬品分析 (2) 抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法 … · す(図2)。一般的にタンパク質の質量分析では、ソフト

16・東レリサーチセンター The TRC News No.107(Apr.2009)

●〔特集〕医薬品分析(2)抗体医薬品の特性解析:タンパク部分の構造解析法及び実例(アミノ酸配列、CDなど)

ルを含むサンプルバッファーを用いて試料を還元処理し電気泳動を行っており、H鎖(48 kDa)とL鎖(24 kDa)に由来するバンドが確認できる。

 次に、弊社所有の質量分析計BiflexIII(Bruker Daltonics社製)によるMALDI-TOF/MS分析の結果を示す(図2)。一般的にタンパク質の質量分析では、ソフトなイオン化法であるESIまたはMALDIが用いられるが、抗体のような巨大分子の場合ESIよりもMALDIの方が感度面、デコンボリューションが不要な簡便性で勝っている。本結果はシナピン酸をマトリックスとして使用したが、抗メチル化DNA抗体に由来するイオン(1価:146.7 kDa、2価:73.3 kDa)が検出された。また、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)をマトリックスとすると、より2価イオンが強く検出される傾向にあった。

4.物理化学的性質(高次構造)

 円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)は溶液中に存在する光学活性分子の右円偏光と左円偏光に対する吸光度の差を各波長で測定する方法であり、遠紫外部(190~230 nm)のCDスペクトルには2次構造(αヘリックス、βシートなど)が反映される。これより、各2次構造の割合が算出できる。

 抗メチル化DNA抗体について、弊社所有のJ-820(日本分光製)にてCDスペクトルを取得し(図3)、その高次構造の各割合を算出したところ、ヘリックス 0%、ベータ 77%、ターン 23%、ランダム 0%であった。

5.構造解析・構造確認(アミノ酸組成分析)

 抗メチル化DNA抗体を加水分解し、弊社所有のアミノ酸組成分析計L-8500(日立製作所製)によりニンヒドリンを用いたポストカラム法でアミノ酸組成を分析した。抗体の加水分解は、適切な加水分解方法・加水分解時間を選択することで、アミノ酸配列から算出される理論組成比と一致したデータを得ることができる。

6.構造解析・構造確認(N末端配列解析)

 タンパク質のN末端アミノ酸配列は、逐次分解法であるエドマン分解法を利用した自動N末端アミノ酸配列分析計(プロテインシーケンサー)を用いて分析することができる。しかし、抗体はH鎖とL鎖がジスルフィド結合により結合しており、そのままでは単一の配列として分析することはできない。そこで、抗メチル化DNA抗体を還元・アルキル化し、ゲルろ過カラムでHPLC分離・分取を行った。なお、還元・アルキル化の効率、ゲルろ過カラム分取効率は、条件により大きく変わってくる。弊社では、これまでの分析経験から、ほぼ100%の還元アルキル化効率と、高い分取効率が可能な系を確立している。 分取したH鎖とL鎖について、弊社所有のプロテインシーケンサーX-1000(Hewlett-Packard社製)で配列を確認した。H鎖についてはN末端から50残基までのアミノ酸配列を決定することができた。一方、L鎖については配列に由来するPTH(3-フェニル-2-チオヒダントイン)アミノ酸を検出することができなかった。そこで、

図1 抗メチル化DNA抗体の   SDS-PAGE

図3 抗メチル化DNA抗体のCDスペクトル

図 2 抗メチル化DNA抗体のMALDI-TOF/MS

Page 3: [特集]医薬品分析 (2) 抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法 … · す(図2)。一般的にタンパク質の質量分析では、ソフト

東レリサーチセンター The TRC News No.107(Apr.2009)・17

●〔特集〕医薬品分析(2)抗体医薬品の特性解析:タンパク部分の構造解析法及び実例(アミノ酸配列、CDなど)

入した。これにより、UVクロマトグラムと同時にマススペクトル、トータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)を得ることができた。  得られたクロマトグラムを図4に示した。質量分析計には、弊社所有のLCMS-IT-TOF(島津製作所製)を用いた。LCMS-IT-TOFはTOFの前段に3次元イオントラップを有するMSn分析が可能なタンデム型質量分析計であり、内標質量精度5 ppm(カタログスペック)での分析が可能である。 抗メチル化DNA抗体のプロテアーゼ消化物のMS/MS分析(CID;Collision Induced Dissociation)を行ったところ、LCMS-IT-TOFではb/y系列のプロダクトイオンを中心として、a系列のイオンも確認できた(図5)。

 また、抗メチル化DNA抗体のプロテアーゼ消化物には高分子量のペプチド(分子量3000以上)も含まれるが、LCMS-IT-TOFでのLC/MS分析,及び分取物のMALDI-TOF/MS分析の両者を用いて分析を行った。その結果、予想された配列に対し100%のカバー率を実現した。 なお、糖鎖のうち高割合で存在する分子のいくつかについては糖ペプチドとして検出され、MS/MS分析を行うとペプチド結合は開裂せず糖鎖部分がy系列での開裂を起こしていた。 ESIとMALDIの両イオン化法を用いることで、従来の分析より迅速かつ高カバー率でのペプチドマップ作成が可能となった。 ただし、MS分析では質量情報だけであるため、内部の配列順序が変わっていても確認することはできない。また、MS/MS分析では配列に関する情報を得ることはできるが、イソロイシンとロイシンを区別することはできないし、一般的にペプチド断片に含まれる全ての配列に由来するプロダクトイオンを検出することはできない。そのため、最終的な配列確定のためには、古典的な手法ではあるがプロテインシーケンサーによる配列確認が必要となる。 弊社では先に述べたプロテインシーケンサーG-1000A

L鎖のN末端がピログルタミル化されている可能性を予想し、ピログルタミルペプチダーゼで消化後、L鎖を再びプロテインシーケンサーで分析した。その結果、H鎖同様N末端から50残基までのアミノ酸配列を決定した。

7.構造解析・構造確認(ペプチドマップ)

 タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)によりタンパク質を切断してペプチド断片とし、このペプチド断片混合物をHPLC分離しUVクロマトグラムを得る。UVクロマトグラム上のピークを、タンパク質上の位置(ペプチド配列)に帰属させたものをペプチドマップと呼ぶ。 一般にプロテアーゼは基質特異性が高い酵素(リジルエンドペプチダーゼ、トリプシン、V8プロテアーゼ、Asp-Nなど)を用いる。また、HPLCカラムにはペプチドを高い理論段数で分離するODSカラムが、UV検出器の吸収波長にはペプチド結合の吸収波長である214 nmが用いられる。なお、アミノ酸配列が未知である場合や、配列をより高い精度で決定する必要のある場合、基質特異性の異なる2つ以上の酵素(例:リジルエンドペプチダーゼ[K]とV8[E/D]など)を用い2種類以上のマップを作成する。 抗メチル化DNA抗体のプロテアーゼによる切断は進みにくいため、H鎖とL鎖をそれぞれ、界面活性剤や変性剤存在下で長時間消化する。しかし、界面活性剤の除去、変性剤による酵素活性低下、長時間の反応による副反応(カルバミル化など)、プロテアーゼ自己消化物の出現など、切れ残りの少なく、かつカバー率の高いマップを実現するためには様々な課題がある。 弊社ではこれまでの依頼分析での経験から、抗メチル化DNA抗体を効率的に酵素消化し、再現性良く、かつカバー率の高い前処理系を見出した。 また、HPLCカラムからUV検出器へと続く送液をESIプローブに接続してイオン化し、質量分析計に導

図5  ペプチド(配列:FIISRDNAK)MS/MS分析プロダクトイオンのMS-Productによる帰属結果

図4  H鎖のリジルエンドペプチダーゼ消化物のUVクロマトグラムとTIC

Page 4: [特集]医薬品分析 (2) 抗体医薬品の特性解析: タンパク部分の構造解析法 … · す(図2)。一般的にタンパク質の質量分析では、ソフト

18・東レリサーチセンター The TRC News No.107(Apr.2009)

●〔特集〕医薬品分析(2)抗体医薬品の特性解析:タンパク部分の構造解析法及び実例(アミノ酸配列、CDなど)

サーPPSQ-23A(島津製作所製)を用いて配列解析を行った。PPSQ-23Aは、他のアミノ酸と比較して低回収率ではあるが、PTH-システインが検出される装置である。配列解析の結果、予想どおりジスルフィド結合を確認できた。 また、還元性マトリックスであるジアミノナフタレン及びCHCAを用いてMALDI-TOF/MS分析を行った。その結果、ジアミノナフタレンではジスルフィド結合が還元された2種類のペプチドに由来するイオンが得られたのに対し、CHCAではジスルフィド結合を有する1種類のペプチドに由来するイオンを得た。 以上の手法を用い、予想されたジスルフィド結合位置を迅速に決定することができた。

10.まとめ

 ここまで、弊社が所有する抗メチル化DNA抗体を用いて物理化学的特性解析を行った例を紹介した。抗体医薬品の物理化学的特性解析は、装置、前処理などの最適化が必要であり、これが不十分な場合思わぬところで時間を取られてしまう。 バイオ医薬品では特に、自家一次標準物質との同等性(Comparability)が常に求められることに象徴されるように、物理化学的特性解析の重要性は低分子医薬品以上だろう。(抗体医薬品の特性解析とは直接関係はないが、2009年3月に公表されたバイオ後続品の指針でも、物理化学的特性解析に関する項目について当局は、先発品との比較を含め、かなり丁寧な解析を求めている。) 弊社ではこれまで、抗体医薬品の物理化学的特性解析を、信頼性の基準(薬事法施行規則第43条)対応試験として数多く受託してきた。これからも、高品質かつ迅速な抗体医薬品の特性解析を実施すべく努力を重ねて参りたい。なお,抗メチル化DNA抗体は(財)日本宇宙フォーラム「宇宙環境に関する地上公募研究」において作製したものである.

11.参考文献

1)吉川医薬経済レポート2008年5月号.2)ICH Guidelines;http://www.ich.org/.3)医薬審発第571号;  http://www.pmda.go.jp/ich/q/q6b_01_5_1.pdf.

■古木 健一朗(ふるき けんいちろう) 生物科学研究部 生物科学第2研究室 研究員 趣味:ミニシアター系映画鑑賞、演劇鑑賞

(Hewlett-Packard社製)に加え、PPSQ-23A(島津製作所製)と高感度分析が可能な492 Procise cLC(Applied Biosystems社製)の3台を保有し、シーケンス残基数・試料量・目的に応じて適宜使い分けている。

8.構造解析・構造確認(C末端配列解析)

 C末端配列解析は従来、酵素による分解、ヒドラジン分解、トリチウム標識法などが行われてきた。しかし、C末端が不均一な場合は酵素分解・ヒドラジン分解などの部分分解は困難である。かつてはC末端アミノ酸をチオヒダントイン誘導体化して遊離し分析する「自動C末端アミノ酸配列分析計」も市販されていたが、用途が限定されることや、N末端アミノ酸配列分析計と比べ試料量が多くいる一方解析可能残基数は短いことなどから、現在では市販されていない。 ところで、重酸素水(H218O)中でタンパク質を酵素消化すると、C末端ペプチド以外のペプチドに18Oが入り、C末端ペプチドには18Oが入らないことが知られている。そこで、抗メチル化DNA抗体のH鎖とL鎖それぞれについて、H218O中で消化したものと、H216O中で消化したものを用意し、LCMS-IT-TOFで分析してそれぞれのマススペクトル上の同位体パターンを比較した。その結果、C末端を含むペプチドが迅速に見出された。なお、H鎖では、1残基欠損を含め2種類C末端を確認した。

9.構造解析・構造確認(ジスルフィド結合位置解析)

 タンパク質のジスルフィド結合は、それによりタンパク質が構造を維持していることもあって、ジスルフィド結合を有したままでの酵素消化は進みにくい。また、ジスルフィド結合は高pHで容易に組み替わるが、高い基質特異性を持った酵素はほぼ全てが高pH領域を至適pH領域としている。以上のような理由から、ジスルフィド結合位置解析は一般に困難であるといわれる。 そこで、還元条件(ジスルフィド結合を切断した状態)、非還元条件(ジスルフィド結合を有した状態)で酵素消化を行った。前処理中のpHはステップごとにモニターすることでジスルフィド結合の組み替わりが起こらないような液性を保った。 還元マップと非還元マップで差のあるピークについてマススペクトルを確認したところ、ジスルフィド結合を有していることが推測できた。また、組み替わった場合に生じるペプチドについて、その分子量からマスクロマトグラムを描いたが、組み替わりを示唆するピークはなかった。 非還元条件のマップ上でジスルフィド結合を有すると推測されたピークについて分取し、プロテインシーケン