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C型流路が八丈島周辺海域における底魚類のCPUEに与える影響
誌名誌名黒潮の資源海洋研究 = Fisheries biology and oceanography in theKuroshio
ISSNISSN 13455389
著者著者 日野, 晴彦
巻/号巻/号 20号
掲載ページ掲載ページ p. 45-50
発行年月発行年月 2019年3月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat
黒潮の資源海洋研究第 20号, 45-50(2019)
C型流路が八丈島周辺海域における底魚類の CPUEに与える影響*1
日野晴彦*2
Influence of C-type of the Kuroshio path on the catch per unit effort (CPUE) of bottom
fishes in waters around Hachijyo-jima Island in central Japan
Haruhiko HINO *2
伊豆諸島南部に位置する八丈島周辺海域では,キン
メダイ Beヴxsplendensやメダイ Hyperoglyphejaponica,
アオダイ Paracaesiocaerulea等の底魚類を対象とした
底魚一本釣り漁業を周年操業している。近年の全国的
なカツオ Katsuwonuspelamisの不漁による曳縄漁の漁
獲減少や,基幹漁業であるムロアジ棒受網漁, トビウ
オ流し刺網漁などの不振に伴って,底魚一本釣り漁業
の操業隻数および漁獲量が増加している(東京都産業
労働局農林水産部水産課 2003~ 2018)。近年では,
八丈島漁業協同組合(以下,八丈島漁協)の底魚一本
釣り漁業の生産量は 600t程度となっており,年間の
漁業生産量の 5~6割を占めている。
八丈島周辺海域の海洋環境は,黒潮流路の変動に大
きく影響される。通常 (N, A, B, D型流路),八丈
島周辺海域は黒潮の外側域に位置しているが, C型流
路(吉田 1961, 二谷 1969) に移行して八丈島が黒潮
の内側域に位置すると,低水温・高栄養塩の海洋環境
となる(高瀬他 2008, 駒澤他 2012, 日野他 2019)。
底魚一本釣り漁業の漁況は黒潮流路の変動の影響を受
けることが報告されており, C型流路に移行するとキ
ンメダイやメダイの単位努力量当たり漁獲量 (CPUE)
が増加し(米沢他 2004, 武内 2014, 日野他 2019),
アオダイの CPUEは減少する(米沢他 2004, 2006)。
このように, C型流路が底魚類の CPUEに与える影響
は魚種によって異なる傾向がある。しかし,キンメダ
イ,メダイ,アオダイ以外の底魚類の漁況に関する知
見は乏しく, C型流路が漁況に与える影響については
明らかではない。そこで,本研究では底魚一本釣り漁
業の特性を把握するため,キンメダイ,メダイ,アオ
ダイに次いで漁獲されるハマダイ Eteliscoruscans, ヒ
メダイ Pristipomoidessieboldii, ハチビキ Eかthrocles
schlegelii; ナンヨウキンメ B.decadactylus, ムツ類(ム
ツScombropshoopsおよびクロムッ S.gilberti), チカ
メキントキ Cookeolusjapon icusのCPUEにC型流路
が与える影響を明らかにした。
試料および方法
黒潮流路の分類 2001年から 2017年における一都三
県(千葉県,東京都,神奈川県静岡県)海況速報お
よび関東・東海海況速報 (http://www.ifarc.metro.tokyo.
jp/20.html) を基に,黒潮流路が八丈島の北側の場合
を非 C型,南側の場合を C型として 1日ごとに判別
し(図 1), それぞれの流路に位置する日数を求めた。
その後半月ごと(月の前半と後半)に非 C型と C
型(非 C型の占める日数が 50%以上と 50%未満)に
分類した。
漁獲データの解析 2001年から 2017年にかけて,八
丈島漁協へ水揚げされた主要底魚類[ハマダイ, ヒメ
ダイ,ハチビキ,ナンヨウキンメ,ムツ類(ムツおよ
びクロムツ),チカメキントキ]の日別の漁獲量と操
業隻数データを解析した。なお,八丈島漁協ではムツ
とクロムツを区別して水揚げしていないため,両者を
* 1 平成 30 年度中央ブロック資源• 海洋研究会(平成 30年9月:高知市)にて口頭発表した。
*2 東京都島しょ農林水産総合センター八丈事業所 〒 100-1511東京都八丈町三根4222
e-mail: [email protected]
Hachijo Branch, Tokyo Metropolitan Island Area Research and Development Center for Agriculture. Forestry and Fisheries.
4222, Mitsune, Hachijo-machi, Tokyo 100-1511, Japan
46 日野
月□ 非C型
□ C型l 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
ooz
図1 黒潮流路の分類.(a)非C型:2009年4月23日, (b)
C型 :2009年4月 7日.
併せてムツ類として集計した。解析の対象とした底魚
類を水揚げした漁船について一隻ー航海当たりの漁
獲量を CPUEとして半月ごとに算出した。算出した
CPUEを季節別(春季:3 ~ 5月,夏季 :6~ 8月,
秋季 :9~ II月, 冬季 :1~2月および 12月)に集
計し,非 C型と C型で比較した。
C型流路が CPUEに与える影響を明らかにするた
め,応答変数を漁獲量,説明変数を年,月,黒潮流路
オフセッ ト項を操業隻数として一般化線形モ デル
(GLM: ガンマ分布, logリンク関数)を構築 した。年,
季節黒潮流路はカテ ゴリカル変数として扱った。各
説明変数の有意性 を検討するため,フ リー ソフ トR
(http://cran.r-project.org/) Ver.3.0.2の carパッケージを
用いて TypeII ANOVA (馬場 2015)で解析した。有
意水準は 5% とした。
士口租 果
黒潮流路・漁獲量・ CPUEの経年変化 非 C型, C
型に半月ごとに分類した黒潮流路の推移を図 2に示し
た。非 C型は 2002年から 2004年にかけて継続し,
また 2010年から 2011年にかけて期間中の 83%を占
めた。一方 2008年 5月から 2009年 7月にかけて期
間中の 93%をC型が占めた。非 C型, C型のデータ
数はそれぞれ 269,139となった。
2001年から 2017年に八丈島漁協に水揚げされた底
魚類の漁獲量お よび CPUEの経年変化 を図 3に示し
た。漁獲量および CPUEは年によって大きく変動し,
それぞれハマダイで 1.1- 20.0 t, 8.1 -36.0 kg/隻,
900Z
600Z
CION
.:'.' . ・・..
., ・:. -
LION
図2 2001年から 2017年における半月ごとの黒潮流路
の推移(日野他 (2019)にデータを追加して改変).
ヒメダイで 0.7~ 24.3 t, 4.5 ~ 45.2 kg/隻ハチビキ
で0.5~ I 1.2 t, 13.5 ~ 33.6 kg/隻ナン ヨウ キンメで
0.2 ~ 7.8 t, 3.9 ~ 26.9 kg/隻,ムツ類で 0.9~ 6.2 t, 3.9
~ 12.0 kg/隻チカメキン トキで 0.4~ 3.3 t, 5.8 ~
23.5 kg/隻で推移した。
黒潮流路別の CPUEの季節変化 底魚類の黒潮流路
別 CPUEの季節変化を図 4に示した。CPUEの中央値
を黒潮流路間で比較すると, ヒメダイ,ハチビキ,チ
カメキン トキでは明瞭な傾向が見られず,それぞれ4.3
~ 13.1 kg/隻 8.0~ 19.2 kg/隻 3.9~ 8.3 kg/隻となっ
た。
一方, ハマダイ,ナンヨウキンメ ,ム ツ類の CPUE
の中央値は,全ての季節で非 C型よりも C型の方が
高い値となった。特にハマダイ,ナンヨウキンメの
CPUEの中央値は非 C型でそれぞれ 9.4~ 14.1 kg/隻,
3.5 ~ 4.6 kg/隻であるのに対し,C型では 16.7~ 23.0
kg/隻 7.2~ 11.5 kg/隻と 2倍程度高い値となった。
GLMの解析結果 TypeII ANOVAの結果を表 1に,
GLMの係数を表 2に示した。TypeII ANOVAの結果,
年が全ての底魚類の CPUEに有意に影響することが
示された(表 I)。また, 2001年を基準 (O)とした係
数は,ハマダイで一 0.97~ 0.36, ヒメダイで一 1.43
~ 0.86, ハチビキで 一0.41~ 0.52, ナン ヨウキンメ
で 0.29~ 1.57, ムツ類で 一 1.05~ -0.21, チカメキ
ントキで一 0.71~ 0.62で推移した(表 2)。
季節はハチビキ,チカメキン トキ,ハマダイ,ナン
ョウキンメの CPUEに有意に影嬰せず, ヒメダイ,ム
ツ類の CPUEに有意に影響することが示された(表 1)。
C型流路が八丈島周辺海域における底魚類の CPUEに与える影響 47
7
1゚2 rハチビキ
8
4
(
1
)
蝙寧馨~
0
8
6
4
2
ムツ類
゜2001
6
7
8
3
2
1
9
0
6
4
2
(ご塁星
CPUE(kg
/~
)
3528211470 15
10
5
30
20
10
゜8 rナンヨウキンメ
4゚rチカメキントキ
3
2
ヒメダイ
CPUE(kg
/~
)
50403020100302010
2005 2009 2013 ゜2017 ゜2001 2005 2009 2013
5
0
5
0
0
2
2
1
1
5
0
7
ー
゜2
図 3 2001年から 2017年におけるハマダイ,ヒメダイ ,ハチビキ,ナンヨウキンメ ,ムツ類,
チカメキン トキの漁獲量およびCPUEの経年変化.
ハマダイ
叫 □非C型~
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ヒメダイ
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図 4 ハマダイ,ヒメダイ,ハチビキ,ナンヨウキンメ ムツ類,チカメキノ トキの黒潮流路別 CPUE
の季節変化箱ひげ図の太線が中央値,箱の下辺 ・ 上辺が第一 • 第三四分位数を示す . ひげの下辺・
上辺はそれぞれ第一• 第三四分位数から四分位数範囲の 1.5 倍以内の最小• 最大値を示す.
48 日野
表 1 ハマダイ,ヒメダイ,ハチビキ,ナンヨウキンメ,ムツ類,チカメキントキの CPUEに関する TypeII
ANOVAの結果 dfは自由度を示す.
ハマダイ ヒメダイ ハチビキ ナンヨウキンメ ムツ類 チカメキントキ
df x叶直 P値 df が値 P値 df が値 P値 df が値 P値 df x刊直 P値 df が値 P値
年 16 10. 35 <o. 05 16 321. 95 <O. 05 16 33. 23 <O. 05 16 48. 83 <O. 05 16 46. 58 <O. 05 16 32. 56 <O. 05
季節 3 4. 54 0. 21 3 75. 52 <O. 05 3 4. 83 0. 18 3 7. 64 0. 06 3 25. 30 <O. 05 3 5. 71 0. 13
黒潮I 14. 23 <O. 05 I 0. 25 0. 62 1 I. 74 0. 19 I 30. 79 <O. 05 l 8. 53 <O. 05 1 3. 70 0, 16
流路
表2 ハマダイ. ヒメダイ,ハチビキ.ナンヨウキンメ,ムツ類,チカメキントキの CPUEに関する GLM
の係数表年は 2001年,季節は春季,黒潮流路は非 C型を 0とする.
ハマダイ ヒメダイ ハチビキ ナンヨウキンメ ムツ類 チカメキントキ
係数標準
係数標準
係数標準
係数標準
係数標準
係数標準
誤差 誤差 誤差 誤差 誤差 誤差
切片 2. 83 0. 19 2.09 0 17 2. 49 0. 23 I. 13 0. 21 2. 17 0. 17 2. 29 0. 31
年 2002 -0. 28 0. 24 -0. 53 0. 21 0. 52 0. 31 0. 36 0. 29 -1. 05 0 21 -0. 36 0. 38
2003 -0. 97 0 25 -1. 14 0 21 -0. 24 0. 30 0. 56 0. 27 -0. 68 0 21 -0. 71 0. 41
2004 -0 51 0 24 -1.43 0 22 -0. 07 0. 27 0. 31 0. 27 -0 38 0 21 -0. 46 0. 37
2005 -0 53 0. 23 -0. 97 0 20 0 01 0, 29 I. 57 0. 31 -040 0.21 0 26 0 39
2006 0 07 0. 24 -0. 30 0 22 0, 19 0. 30 0. 29 0, 27 ~o. 78 o. 21 0, 25 0, 43
2007 0. 03 0. 23 -0. 24 0. 20 -0. 34 0. 27 0. 85 0. 24 -0. 59 0. 20 -0. 66 0. 35
2008 -0. 03 0. 23 0. 03 0. 20 -0. 10 0. 27 0. 76 0. 26 -0. 31 0. 22 -0. 37 0. 34
2009 -0 28 0. 23 0. 73 0. 19 -0 41 0 28 0. 69 0. 24 -0. 57 0. 20 -0 03 0 34
2010 0. 30 0 24 0 86 0. 21 0. 24 0 29 0. 71 0 27 -0. 37 0. 22 0 19 0 39
2011 -0. 10 0. 23 0 54 0. 20 0. 20 0. 28 0. 54 0 25 -0. 89 0. 21 -0. 34 0 37
2012 0. 36 0. 23 0 17 0. 21 ~o. 06 o. 2s 0. 58 0. 25 -0. 67 0. 20 0. 03 0. 36
2013 0. 23 0. 23 -0. 75 0. 20 0. 25 0. 26 0. 76 0 24 -0. 38 0. 20 0. 09 0. 37
2014 -0. 22 0. 23 -0. 59 0. 20 0. 22 0. 27 0. 43 0 25 -0 21 0 20 0. 49 0. 39
2015 -0. 10 0 23 -053 0.20 0. 36 0. 27 0. 94 0 24 -030 0,20 0. 34 0. 35
2016 -0 55 0 23 -0 16 0. 20 0. 42 0. 27 0. 14 0. 25 ~o. 55 o. 20 0. 62 0. 38
2017 -0. 63 0, 23 -0.89 021 0. 52 0. 26 0. 40 0. 24 -0. 42 0. 20 0.31 0.38
季節 夏季 0 16 0. 11 0. 81 0. 10 0. 24 0. 13 -0. 15 0.13 -0 16 0 10 0. 32 0. 19
秋季 -0 01 0.11 0. 83 0 11 0. 27 0. 13 0. 14 0. 14 0, 08 0, 10 ~o. 03 0.19
冬季 0 17 0. 12 0. 38 0 11 0. 23 0. 13 0. 18 0. 14 0, 33 0. 10 -0. 06 0. 20
黒潮C型 0. 35 0. 10 -0. 05 0. 09 0 15 0. 11 0. 68 0. 11 0. 26 0. 09 -0 34 0 16
流路
春季を基準 (o) とした係数は, ヒメダイでは夏季に
0.81, 秋季に 0.83と高く,またムツ類では冬季に 0.33
と高い傾向が見られた(表 2)。
黒潮流路はヒメダイ,ハチビキ,チカメキントキの
CPUEに有意に影響せず,ハマダイ,ナンヨウキンメ,
ムツ類の CPUEに有意に影響することが示された(表
1)。非 C型を基準 (o) とした C型時の係数は,ハマ
ダイで 0.35, ナンヨウキンメで 0.68, ムツ類で 0.26
と推定され(表 2), C型に移行すると CPUEが有意
に増加することが示された。
考 察
CPUEの経年変化および季節変化 Type II ANOVAの
結果,解析の対象とした全ての底魚類の CPUEに年
が有意に影響することが示された(表 1)。漁獲量お
よびCPUEは年によって大きく変動したものの(図4).
GLMの年の係数に長期的な減少・増加傾向は確認さ
れなかった(表2)。しかし,今回解析の対象とした
底魚類の中で.ハチビキ,ナンヨウキンメ,ムツ類,
チカメキントキは主にキンメダイ漁やメダイ漁,アオ
ダイ漁の混獲魚として水揚げされている。また,ハマ
ダイの漁獲量は 1980年代には現在よりも 2~4倍程
度高い水準で推移していた(東京都産業労働局農林水
産部水産課 1982~ 1991)。そのため,今回解析した
底魚類の資源動向を正確に把握するためには,底魚一
本釣り漁業の操業実態や長期的な漁獲データを考慮す
る必要があるだろう。
ヒメダイおよびムツ類の CPUEには季節が有意に
影響し(表 1). ヒメダイでは夏季および秋季.ムツ
類では冬季に高いことが示された(表 2)。伊豆諸島
C型流路が八丈島周辺海域における底魚類の CPUEに与える影響 49
周辺海域における産卵期について, ヒメダイは 7~8
月,クロムツで 3~5月と報告されており(東京都水
産試験場 1968, 田中・目黒 2004), CPUEが高い季節
は産卵期とその前後となっている。このことから, ヒ
メダイおよびムツ類の CPUEの季節変化に産卵期が
影響する可能性がある。今後魚体の精密測定データ
などを収集して, CPUEと産卵期の関連性を詳細に検
討する必要がある。
C型流路が底魚類の CPUEに与える影響 TypeII
ANOVAの結果,ヒメダイ,ハチビキ,チカメキント
キの CPUEには C型流路が有意に影響しないことが
示された(表 I)。一方,ハマダイ,ナンヨウキンメ,
ムツ類の CPUEは黒潮流路間で有意に異なり(表 1),
移行すると,中層に分布する底魚類の CPUEは変化
しないが,深層を中心に中層付近まで幅広く分布する
底魚類では漁場深度が大幅に上昇して CPUEが増加
すると考えられた。また,増沢他 (1975) は伊豆諸島
海域のキンメダイの漁況が C型で好転する要因とし
て,漁獲深度の変化だけでなく,冷水塊により運ばれ
てきた餌生物が陸棚斜面の漁場で湧昇流に流され,索
餌行動が活性化する可能性を指摘している。このこと
から,黒潮流路が変動することで,底魚類の餌生物環
境も変化する可能性がある。今回の結果は,漁獲デー
タの解析から得られた結果であるため,今後黒潮流路
の変動に伴う漁場深度や食性の変化などを明らかにし
て,黒潮流路が漁況に与える要因を検討する必要があ
非C型よりも C型の方が高いことが示唆された(表2)。 る。
底魚一本釣り漁業では,漁場深度が深いと漁具を降
す最中に潮流の影響を受けやすくなり,魚群探知機で
発見した魚群反応へ漁具を降すのが難しくなる(秋元・
高橋 2008)。先行研究により, C型に移行して深層の
水温が低下すると,メダイの適水温の深度が200m以
上上昇することが示唆されている(日野他 2019)。漁
場深度が上昇することで,漁場を狙う精度が改善する
だけでなく,一度の操業に要する時間の短縮によって
操業回数が増加して漁獲効率が向上し,漁獲量が増加
すると考えられている。
今回解析の対象とした底魚類の漁場深度に着目する
と,黒潮流路間で CPUEが変化しなかったヒメダイ,
ハチビキ,チカメキントキは 150~ 300 m前後の中層
が中心となっている(増沢他 1975)。一方, C型時の
CPUEが非 C型時よりも高いハマダイ,ナンヨウキン
メ,ムツ類は 150~ 600 m前後の深層を中心に中層付
近まで幅広く分布している(増沢他 1975, 宍道・神
野 2010)。以上から,黒潮流路が C型に移行すると,
ヒメダイ,ハチビキ,チカメキントキなどの中層に分
布する底魚類でぱ漁場深度が大幅に変わらず, CPUE
が変化しないと考えられる。一方,ハマダイ,ナンヨ
ウキンメ,ムツ類などの深層を中心に中層付近まで幅
広く分布する底魚では, C型に移行するとメダイのよ
うに漁場深度が大幅に上昇し,漁場を狙う精度の改善
や一度の操業に要する時間の短縮によって漁獲効率が
向上して CPUEが増加すると考えられる。以上のよ
うに, C型流路が底魚類の CPUEに与える影響は,そ
の底魚類の漁場深度に関連する可能性が示された。
本研究から,八丈島周辺海域において C型流路に
文 献
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