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簡易型プロセス監視・制御シミュレータを用いた ノンテクニカルスキル実践訓練手法の開発 2019年度 JPECフォーラム 2019年5月8日 東北大学 狩川 大輔 ー禁無断転載・複製 ©東北大学 2019ー

簡易型プロセス監視・制御シミュレータを用いた ノンテクニカル … · ヒューマンエラーに起因するトラブル防止のためには、 Technical

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簡易型プロセス監視・制御シミュレータを用いたノンテクニカルスキル実践訓練手法の開発

2019年度 JPECフォーラム

2019年5月8日

東北大学 狩川 大輔

ー禁無断転載・複製 ©東北大学 2019ー

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設備の安定した高稼働を実現する上で、ヒューマンエラーに起因する事故やトラブルを低減することが重要

研究の背景

そのためには、Technical Skillのみならず、 Non-Technical

Skill(NTS)が必要

Non-Technical Skill(NTS)

あらゆるリソース(人・システム・情報)を有効活用してチームのパフォーマンスを最大限に発揮し、安全かつ効率的に業務を完遂するための認知的/社会的スキル

→ 産業分野における事故の多くにヒューマンエラーが関与

航空・海運・医療などの非常に高い安全性を求められる分野ではTSの訓練に加えて、NTS訓練が導入されている

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*津田宏果, 飯島朋子, 野田文夫; “行動指標を用いたCRMスキル計測手法の開発”, 宇宙航空研究開発機構研究開発報告, ISSN 1349-1113 (2009)より一部改変の上、引用

Crew Resource Management (CRM)*

コミュニケーション

意思決定 ワークロードマネジメント

状況認識

情報の伝達と共有

ブリーフィング

安全への主張

解決策の選択

決定の実行

決定・実行のレビュー

チーム活動に

適した雰囲気・環境作り

意見の相違の解決

業務の主体的遂行

プランニング

優先順位付け

タスクの配分

警戒

問題点の分析

情報の把握・

認識の共有

予測

チームの力で ①エラーの発生を防ぐ、②エラーに気づく、③影響拡大を防止する

チーム形成・維持

航空分野におけるNTS

航空分野は、1970年代に技量的には何ら問題ないパイロットが関与した大事故を複数経験

人は誰でも間違える

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石油産業分野を対象とした効果的な

NTS基礎訓練のための訓練環境・訓練手法の開発

※ NTSのうち、職種や業務内容に関わらず、幅広く安全かつ確実な業務遂行の

基盤となる「コミュニケーションスキル」および「危険予知スキル」を対象とする

(1)適切なコミュニケーションや危険予知のために必要なスキル要素の明確化

(2)各スキル要素を実践的に訓練するための簡易型プロセス 監視・制御タスクシミュレータとそれを用いた訓練手法の開発

(3)被験者実験を通じた訓練手法の基本的有効性の検証

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コミュニケーションスキル:相手に分かりやすく指示を出すスキル

(→相手にエラーさせないように考えて、指示を出す)

危険予知スキル:コミュニケーションスキルを活用して、ヒューマンエラーの

リスクを回避する

目的

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訓練開発の基本指針

製油所や訓練施設の見学、訓練担当者の方々との意見交換を踏まえて

組織的な安全対策は高い水準で行われている

訓練担当者の方から頂いたコメント

「教育・訓練にあたっていて必要性を感じることは、 まずは自分もミスをするかも知れないと思ってもらうこと。 あまり高度なことは必要ない」

基本的なコミュニケーションスキルの重要性に対する気づきを促す体験型訓練(納得感を重視)

「エラーを体験すること」に過度にこだわらない

→ 不自然ではない作業環境下において、 コミュニケーションエラーを発生させることの困難さ

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体験型コミュニケーションスキル訓練の概要

その体験をもとに、望ましいコミュニケーションのあり方に関するデブリーフィングを通じたコミュニケーションスキルの向上を図る

訓練用シミュレータを用いて、基本コミュニケーションスキルに配慮された形で指示が発出される場合(良コミュニケーション条件)と配慮されていない指示が発出される場合(悪コミュニケーション条件)の両条件におけるオペレーションを体験してもらう

訓練参加者2名+インストラクター1名で実施

1 用語の統一

2 適切なタイミング

3 適切な指示量

4 適切な速さ

5 重要箇所の強調

(適切な復唱)

①基本コミュニケーションスキル*

*熊野他: コミュニケーションスキル検証環境の開発と評価, ヒューマンファクターズ, pp. 2-17, (2017). 一部改変

②コミュニケーションスキルを

活用して、リスクに対処

- タスクの割り込みへの対処

- 安全のための確認・主張

(アサーションスキル)

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訓練用シミュレータ(混合ナフサ製造プラント)

①上流タンク(タンク1, タンク2)の2種類のナフサを指定された量だけ下流タンク(タンク3)に注入し、混合ナフサを作る

②タンク1~3の液量が警報発報レベルを超えないようにする。 超えそうな場合はタスク(混合ナフサ製造)を中止し、弁を閉じ、ナフサの流入

を停止する

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事前説明

事前評価フェーズ

訓練 フェーズ

事後評価フェーズ

訓練の趣旨などの最低限の説明

訓練の流れ

• 2名の訓練参加者が指示者・オペレータを担当し、

シミュレータのオペレーションを実施

• タイムプレッシャーや非定型作業等のコミュニケーション阻害要因が存在するタスクを行う

• インストラクターは別途用意する行動指標を用いてコミュニケーションを評価

• 参加者に順にオペレータになってもらい、

良/悪コミュニケーション条件下でシミュレータを操作

(指示は合成音声によりインストラクタが発出)

• その後デブリーフィングを行い、各コミュニケーション条件の感想等について議論

• 2名の訓練参加者が指示者・オペレータを担当

(評価結果を事前評価フェーズと比較)

リスク対処訓練

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リスク対処訓練用シナリオ

① 【割り込み】操作中に声をかけられ、少しの間、離席(→簡単な計算課題)

戻って操作を再開

② 【アサーション】シナリオ中に、指示者と操作者間でタンク2の液位表示の

食い違いが発生(→操作者側の液位上昇が遅くなる)。タンク2の液位が

警報発報レベルに達するが操作者が単独で気付くことは困難

食い違いが発生

指示者用画面 操作者用画面

→ エラー防止のために利用可能なリソース(人・物・情報)を有効に活用

→ アサーションの困難さ / 確実かつ効果的な情報伝達のスキル

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評価実験(模擬訓練)の概要

実験②: 製油所オペレータ1組2名(+オブザーバー3名)を対象

実験者: 研究者(ファシリテータ) 補助員2名(それぞれシミュレータ操作、記録を担当)

図 実験の流れ

※「操作練習」は、操作に十分に習熟し次第終了することとした

実験①: 大学生15組30名を対象

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アンケート結果(製油所オペレータ・抜粋)

Q.研修内容について納得できた

操作者 指示者 Obs-1 Obs-2 Obs-3

回答 2 2 2 2 2

Q.本研修は製油所のオペレータ向けのコミュニケーション訓練として有効だ

操作者 指示者 Obs-1 Obs-2 Obs-3

回答 2 2 -1 0 1

具体的な指示等、指示命令系統の訓練としては有効であり、その訓練を操作者とオブザーバー(指示者?)が分かれて指摘し合うことでコミュニケーション能力の向上につながる 【指示者】

実際のプラントは互いに確認する行為を行う。不足点が多い(説明の部分で補充することで対応可)プラントの無線使用例を具体的に見ても改善となる 【Obs-1】

実際に様々なパターンでの操作を行ってみると、何が良いか、何が悪いかについて知ることができるため 【操作者】

間違いやすい言い方をシミュレータを通して感じる事が出来た 【Obs-2】

-3: 全く同意できない、-2: 同意できない、-1: やや同意できない、 0: どちらでもない、+1: やや同意できる、 +2: 同意できる、+3: 非常に同意できる

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まとめ

ヒューマンエラーに起因するトラブル防止のためには、Technical Skillのみならず、 Non-Technical Skill(NTS)が必要

NTSの基礎となるコミュニケーションスキルを訓練するための体験型コミュニケーションスキル訓練を開発

大学生30名および製油所オペレータ2名(+オブザーバー3名)を対象とした評価実験を行い、有効性を示唆する結果を得た

→ コミュニケーションスキルの重要性に対する気付きを重視

基本コミュニケーションスキル訓練

リスク対処訓練(適切なチームのコミュニケーションによりエラーを防ぐ)

2名の評価者による行動指標を用いた評価では、訓練を通じたコミュニケーションの改善を確認

アンケートを通じて、訓練内容に対する納得感や有効性に関して肯定的な結果を得た