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微分方程式モデルの研究 宮城教育大学瓜生研究室 d2126 三浦信一 d2127 渡邉貴之 平成 16 3 4 1

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微分方程式モデルの研究

宮城教育大学瓜生研究室d2126 三浦信一 d2127 渡邉貴之

平成 16 年 3 月 4 日

1

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まえがき微分方程式は数学における主要な概念の一つです。微分方程式は,導関数

(または,微分)があらかじめ与えられている条件を満足するような関数を求める方程式です。現実の現象あるいは過程を研究して得られる微分方程式のことを,この現象または過程の微分方程式モデルといいます。明らかなことですが,微分方程式モデルは,私たちを取り囲む世界を研究した成果としてつくりあげられるいろいろな数学モデルの特定の一つです。微分方程式モデルにも,いろいろなタイプのあることをことわっておかなければならないでしょう。今回は,方程式に含まれる未知関数が 1変数の関数であることが特徴である,いわゆる常微分方程式で記述されるモデルだけを考察します。常微分方程式モデルをつくる過程では(他のモデルの場合と同じですが),

研究する問題を扱う科学分野での法則を知っていなければなりません。たとえば,それらは,力学でのニュートンの法則であり,電気回路理論でのキルヒホッフの法則であり,化学反応速度論での質量作用の法則といったものです。もちろん,実際には,微分方程式をつくることを可能にする法則がわかっ

ておらず,パラメータや変数の微小な変化に伴う過程の進展の変化について,いろいろな前提(仮説)をたてることをしなければならない場合もあります。このときには,極限への移行を行って,微分方程式が得られます。微分方程式を数学モデルとして行った研究の結果が,実験データと一致すれば,モデルの前提となった仮説が正しい状況を反映していることを意味することになります。私たちの卒業研究では,二つのことを目的としました。その一つは,単に

例を集めるだけでなく,内容の豊かな,さまざまの分野での例を用いて,私たちの身の回りの世界を理解するために常微分方程式が使えることを示すことです。もう一つは,これらの例によって,実際問題を解く上での常微分方程式が果たす役割を理解することです。私たちがその中で特に興味を持ったのは,斜方投射による最大到達距離を

生む仰角,つまり最適仰角を求める問題です。ところで,抵抗がない場合は,45◦ のときが一番の到達距離を生むことはご存知でしょう。では,抵抗がある場合は角度をどのようにしたら最大到達距離を生むのだろうか,という疑問を私たちは抱きました。以上,これらのことについて解析的に証明しました。

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目 次

第 I部 微分方程式を解くこと 6

1 二つのコーヒーのうちどちらが温かいか 6

2 熱の定常的な流れ 8

2.1 等温線 等温面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82.2 放出する熱量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

3 自然保護区でのできごと 10

3.1 空気の温度が一定の場合 (aが一定) . . . . . . . . . . . . . . . 103.2 空気の温度が時間とともに変化する場合  (aが一定でない) . 11

4 容器からの液体の流出,水時計 12

4.1 一般的な理論的結論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 124.2 円柱形の容器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 134.3 水時計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

5 広告の効果 14

6 需要と供給 15

6.1 需要と供給 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 156.2 リンゴの価格 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

7 化学反応 17

8 エコロジーにおける微分モデル 18

8.1 エコロジー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 188.1.1 線形モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 188.1.2 非線形モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

8.2 捕食者と非捕食者 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

9 伝染病の数学理論における一問題 23

10 追跡曲線 27

11 戦闘モデル 29

12 振子時計はなぜ正確でないか? 35

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13 サイクロイド 38

13.1 サイクロイドとは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3813.2 サイクロイドの性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

13.2.1 (a) サイクロイドの弧とその基底で囲まれる面積は生成円の面積の3倍である . . . . . . . . . . . . . . 39

13.2.2 (b) サイクロイドの一つの弧の長さは生成円の半径の4倍である . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40

13.3 正確な時計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4013.3.1 サイクロイド振子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41

14 最短降下線の問題 42

15 算術平均,幾何平均,それらに関係のある微分方程式 45

15.1 算術平均,幾何平均 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4515.2 エレガントな解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45

16 水平面からある角度で投げ放たれた物体の飛翔について 47

17 無重力 49

17.1 無重力のイメージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4917.2 エレベーターにおける無重力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

17.2.1 エレベーターの構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4917.2.2 無重力の状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

17.3 宇宙船における無重力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50

18 惑星の運動のケプラーの法則 51

19 はりのたわみ 58

19.1 はり . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5819.1.1 弾性線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5819.1.2 はりのたるみ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

19.2 弾力線の方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5819.2.1 たわみモーメント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5819.2.2 弾力線の方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

20 丸太の運搬 60

第 II部 逆問題を解く 63

21 安あがりの射撃 63

21.1 演習 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63

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22 それは効力である 69

22.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6922.2 演習 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 73

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第 I部

微分方程式を解くこと1 二つのコーヒーのうちどちらが温かいか太郎と次郎は,食堂でコーヒーとミルクを注文した。注文は同時に行い,こ

とは次のように進んだ。太郎はコーヒーにミルクを注ぎ,カップを紙ナプキンでくるみ,電話に席を立った。次郎はカップを紙ナプキンでくるみ,10分後太郎が戻ってからすぐにコーヒーに太郎と同じ量のミルクを注いだ。2人は同時にコーヒーを飲み始めた。どちらのコーヒーのほうがもう一方よりも温かいだろうか?この問題を自然な仮説のもとで解こう。物理学の法則に従えば,テーブル

の表面と紙ナプキンの熱伝導率はカップの側面よりも低く,カップの中のコーヒーの表面上の水蒸気の温度はコーヒーの温度に等しい。次郎がミルクを入れるまでのカップのコーヒーの温度の時間変化を示す関

係式を導くことから始める。物理学の法則を基礎とした仮定にしたがって,次郎のカップから空中に伝

わった熱量は次の式で決まる。

dQ = ηT − θ

`sdt (1)

ここで,T は時刻 tでのコーヒーの温度であり,θ は食堂の空気の温度であり,ηはカップの材質の熱伝導率であり,`はカップの厚さで,sはカップの側面積である。他方,コーヒーから消失する熱量は次の等式で与えられる。

dQ = −cmdT (2)

ここに,cはコーヒーの比熱,mはカップ中のコーヒーの質量である。ここで,方程式 (1)と (2)を同時に考えて,方程式

ηT − θ

`sdt = −cmdT

を得る。変数を分離して,これを次のように書き直せる。

dT

T − θ= − ηs

`cmdt (3)

さらに,コーヒーの初期の温度を T0で表し,微分方程式 (3)を積分して,次を得る。 ∫

dT

T − θ= − ηs

`cm

∫dt

log |T − θ| = − ηs

`cmt+ c

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T − θ = ± exp(− ηs

`cmt+ c

)= ± exp(c) · exp

(− ηs

`cmt)

ここで,A = ± exp(c)

とおくと,T − θ = A · exp

(− ηs

`cmt)

また,初期条件 t=0のとき,T = T0 であるから,

T0 − θ = A

したがって,

T = θ + (T0 − θ) exp(− ηs

`cmt)

(4)

公式 (4)は,次郎のカップのコーヒーの温度のミルクを注ぐ前の変化の法則を,解析的に表現したものである。次に,太郎がクリームを注いだ後の次郎のカップのコーヒーの温度の変化

の法則を定める。熱均衡方程式を用いて,この場合には次のように書ける。

cm(T − θD) = c1m1(θD − T1) (5)

ここに,θD は次郎のクミルクの入ったコ-ヒーの時刻 tでの温度であり,T1

はミルクの温度,c1 はミルクの比熱であり,m1 はコーヒーに追加されたミルクの質量である。方程式 (5)から次を得る。

θD =c1m1

cm+ c1m1T1 +

cm

cm+ c1m1T (6)

公式 (4)を考慮して,(6)を次のように書き直せる。

θD =c1m1

cm+ c1m1T1 +

cm

cm+ c1m1

[θ + (T0 − θ) exp

(− ηs

`cmt)]

(7)

これは,クリームが注がれてからの次郎のカップのコーヒーの温度変化の法則である。太郎のカップのコーヒーの温度変化についての法則を導くためにも,次の

形の熱均衡方程式を使う。

cm(T0 − θ0) = c1m1(θ0 − T1) (8)

 ここに,θ0は混合したものの温度である。(8)を θ0について解くと,次の式を得る。

θ0 =c1m1

cm+ c1m1T1 +

cm

cm+ c1m1T0

ここで,方程式 (4)を初期温度とし,cmに cm+ c1m1 を代入して,用いることによって,太郎のカップのコーヒーの温度変化 θT は,解析的に次の公式で与えられる法則に到達する。

θT = θ +[

c1m1

cm+ c1m1T1 +

cm

cm+ c1m1T0 − θ

]× exp

[− ηs

`(cm+ c1m1)t

](9)

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こうして,問題の問いに答えるには,公式 (7)と (9)とによって,c1 = 3.9×103J/kg ·K,c = 4.1×103J/kg ·Kであり,η = 0.6V/m·Kであることを考慮し,はっきりさせるために,m1 = 2×10−2kg,m = 8×10−2kg,T1 = 20◦C,θ = 20◦C,T0 = 80◦C,s = 11× 10−3m2であり,` = 2× 10−3を仮定して,必要な計算をしさえすればよい。計算の結果,太郎のコーヒーのほうが温かいことになる。

2 熱の定常的な流れ2.1 等温線 等温面まず最初に,熱の定常的な流れとは,物体の各点における温度が時間によっ

て変わらない場合をいうことを思い出しておこう。物理学的内容が熱の流れの影響に関係している問題では,いわゆる等温面

が重要な役割を果たす。このことをはっきりさせるために 10cmの厚さのマグネシウム酸化の被覆材で保護された一様な材質の直径が 20cmの熱伝導パイプを考える。パイプの温度が 160◦Cであり,保護塗装の外側の温度は 30◦Cであるとする。断面を見てみると,各点での温度が同じ,例えば,95◦Cである面があることは直感的に明らかである。この面を等温面といい,この面に対応する曲線を等温線という。一般に,等温線は,熱の流れの非定常性と材質の非一様性やその他のものに依存して,いろいろの形となりうる。ここで考えているケースでは,等温曲線(面)は同心円(シリンダー)である。

2.2 放出する熱量保護塗装の内側の温度の分布法則を導き,熱伝導係数 kは 1.7× 10−4であ

るとして,長さ 1mのパイプが 24時間中に放出する熱量を求めよう。これを行うのに,フーリエの熱伝導則を使う。その法則によれば,各点が温度 T である変化のない熱状態にある物体が,単位時間に放出する熱量は座標 xのみの関数であって,公式

Q = −kF (x)dx

dt= const (10)

によって求められる。ここに F (x)は熱の流れ方向に垂直な断面の面積であり,kは熱伝導係数である。問題の条件から,Qは熱量,F (x) = 2πxl,lはパイプの長さ (cm)であり,

は外側のシリンダーの内にあるシリンダー状の曲面の半径である。こうして(10)に基づいて,次を得る。

Q = −kF (x)dx

dt

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= −kF (x)T ′

T ′ =Q

−k2πxlここで,T ′ = dT/dxとし,積分すると

∫dT =

Q

−k2πl∫

1xdx

T = − Q

k2πllog |x|+ C

T = 160◦Cのとき x = 10cm,T = 30◦Cのとき x = 10cmであるから{

160 = − Qk2πl log 10 + C

30 = − Qk2πl log 20 + C

となり,この連立方程式を解くと

130 = − Q

k2πllog 10 +

Q

k2πllog 20

=−Q log 10 +Q log 20

k2πl

よってQ =

130k2πllog 2

このことから

C = 160 +Q

k2πllog 10

= 160 +130k2πl

log 2

k2πllog 10

= 160 + 130log 10log 2

となり

T = −130k2πl

log 2

k2πllog x+ 160 + 130

log 10log 2

= −130log xlog 2

+ 160 + 130log 10log 2

= 160 + 130log 10− log x

log 2

よって,保護塗装の内側の温度の分布法則は

T = 160 + 130log 10− log x

log 2

で与えられ,したがって,長さ 1mのパイプが 24時間中に放出する熱量は24× 60× 60Q = 726852Jである。

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3 自然保護区でのできごと自然保護区を巡回している2人の監視員が野生のイノシシの死体を発見し

た。検視の結果,射撃の精度は非常に高く,イノシシは一撃で射とめられていることが明らかになった。密猟者は,猟をしようとして立ち戻るものと考え,監視員は近くに隠れて待つことにした。すぐに2人の男が現れた。監視員にあったとき,この男達は密猟とは何のかかわりもないと主張した。しかし,監視員はこれまでに彼らが有罪であることの間接的な証拠を集めていた。ただ,殺害時刻の特定がなされていないだけであった。この特定を放熱の法則を用いて行うことにした。放熱の法則に従えば,物体が空気中で冷却する温度は,物体の温度と空気

の温度との差に比例することである。すなはち,dx

dt= −k(x− a) (11)

ここに,xは時刻 tにおける物体の温度であり,aは空気の温度で,kは正の比例定数である。問題は,微分方程式 (11)を積分して得られる式を解析すれば解決できる。

このとき,空気の温度はイノシシが殺害された後,一定のままだったかも,あるいは時間とともに変化したかもしれない。そこで,空気の温度が一定の場合,すなわち,aが一定の場合と,空気の温度が時間とともに変化する場合,または,aが一定でない場合の2つの場合について考える。

3.1 空気の温度が一定の場合 (aが一定)

微分方程式 (11)を変数分離法を用いて,初期条件を t = 0のとき x(0) = x0

で表し積分する。dx

x− a= −kdt

∫dx

x− a= −k

∫dt

log |x− a| = −kt+ c

x− a = ± exp(c) · exp(−kt)ここで A = ± exp(c)とおくと,初期条件より,

A = x0 − a

したがって,

x(t) = (x0 − a) exp(−kt) + a (12)

ここに,x0は t = 0における物体の温度である。そして,正体不明の者がとらえられたときのイノシシの体温 xが 31◦Cで,1時間後は 29◦Cであり,射

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撃が行われたときのイノシシの体温が 37◦C で,空気の温度が a = 21◦C であったならば,正体不明の者が拘束された時刻を t = 0とおいて,射撃がなされた時刻を明らかにすることができる。これらのデータと方程式 (12)とを用いると,

29 = (31− 21) exp(−k) + 21

exp(−k) =29− 2131− 21

−k = log45

... k = log54

= log 1.25 = 0.22314 (13)

kに式 (13)の値と,x = 37とを (12)に代入すると,

37 = (31− 21) exp(−0.22314t) + 21

exp(−0.22314t) =37− 2131− 21

−0.22314t = log 1.6

t = − 10.22314

log 1.6 = −2.10630

を得る。いいかえれば,およそ2時間6分がイノシシが殺害されてから,正体不明者がとらえられるまでに経過している。

3.2 空気の温度が時間とともに変化する場合  (aが一定でない)

この場合,イノシシの冷却は次の非同次の線形微分方程式によって表現される。

dx

dt+ kx = ka(t) (14)

ここに,a(t)は時刻 tにおける空気の温度である。したがって,定数変化法により方程式 (14)の積分を考える。x(t) = B(t) exp(−kt)とおくと,

x′(t) = B′(t) exp(−kt)− kB(t) exp(−kt)

B′(t) exp(−kt)− kB(t) exp(−kt) + kB(t) exp(−kt) = ka(t)

B′(t) exp(−kt) = ka(t)

B′(t) = ka(t) exp(kt)

B(t) = k

∫a(t) exp(kt)dt+ C (15)

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ここで,t = 0で殺害されたイノシシが発見されたとする。そうすると,a(t) =−1であり,次の微分方程式を得る。

dx

dt+ kx = −kt (16)

(15)を参考に (16)を積分する。x = D(t) exp(−kt)とおくと,(15)より,

D(t) = −k∫t exp(kt)dt+ C

D(t) = −t exp(kt) +1k

exp(kt) + C

d(t) = (−t+1k

) exp(kt) + C

... x(t) = −t+1k

+ C exp(−kt) (17)

方程式 (17)を,初期条件 t = 0のとき x0 = 30◦C として解くと,

x = (30− 1k

) exp(−kt)− t+1k

を得る。したがって,問題が数値的に解ける。

4 容器からの液体の流出,水時計4.1 一般的な理論的結論ある容器を考える。この容器の横断面の面積はその横断面の高さのある関

数であるとする。時刻 t = 0である初期時刻には,容器の中の液体の高さはhmであるとし,高さ xでの容器の断面積を S(x)で表すことにし,流出口の面積は sであるとする。よく知られているように,液体の水準が高さ xにあるときの液体の容器からの流出速度 vは公式

v = k√

2gx

で与えられる。(g=9,8m/s2:重力加速度, k:流出過程の定数)無限に短い時間dtでの液体の流出は一様であると考えられるので,時間 dtの間に,高さ vdt,面積 sの液体の柱が流れ出て,容器内の液体の水面は −dxだけ変化(“ -”は低下を意味する)することになる。この考えから,次の微分方程式が導かれる。

       svdt = −S(x)dx

sk√

2gxdt = −S(x)dx

これは次のように書きかえられる。dx

dt= −sk

√2gx

S(x)(18)

12

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4.2 円柱形の容器次に,具体的な問題を考える。高さ 6m,半径 2mの円柱形の容器がある。その底にある流出口は 1/12m

の円形である。この容器内の水の高さは時間 tとともにどのように変わるか。また,水が流れつきるまでにはどれほどの時間を要するか。仮定により,s = 1/144π であり S(x) = 4π である。水については k=0,6

であるから方程式 (18)は

dx

dt= −

1144π × 0, 6

√2× 9, 8× x

        = −217, 152√x

となる。ここで,dx/dt = x′ とすると

          x′ = −√x

217, 152x′√x

= − 1217, 152∫

dx√x

= − 1217, 152

∫dt

2x1/2 = − 1217, 152

+ C

ここで,xは tの関数なので

2√x(t) = − 1

217, 152t+ C

とかける。初期条件 t = 0のとき,x(t) = 6を用いると

2√

6 = C

となり

2√x = − 1

217, 152t+ 2

√6

√x = − 1

434, 304t+

√6

x =(− 1

434, 304t+

√6)2

が与えられる。ここで,流れつきるということは x = 0。つまり

t = 434, 304×√

6 = 1038, 231

となる。この時間を分になおすと約 18分で流れつきることになる。

13

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4.3 水時計古い水時計は,底に小さな穴があり,そこから水が出るようになったツボ

である。このような時計は古代ギリシャとローマの法廷で弁護士の発言が長すぎることのないようにするために用いられた。水時計の水位が一定の率で下がるように水時計の形を決定したい。この問題は方程式 (18)を使うと簡単に解ける。dx/dt = aとおくと,次のようになる。

a = −sk√

2gxS(x)

   S(x) = −sk√

2gxa

πr2 = −sk√

2gxa

√x = − aπr2

sk√

2g(19)

aは仮定により一定値なので,方程式 (19)の両辺を自乗して,方程式

x = Cr4 (20)

を得る。このことから,水時計の形状は曲線 (20)を x軸のまわりに回転させて得られるものであることになる。

5 広告の効果ある小売業者があるタイプの商品,たとえば,Bを売っているとする。時

刻 tでは,この商品は,潜在的な購買者のN 人のうちの x人だけに知られている。この小売業者は,販売を促進するために,ローカルテレビとラジオとで宣伝をすることにした。この商品についての,以後の情報はすべて消費者間の個人的接触によって広がるものとする。テレビとラジオで商品Bについての情報を流した後では,商品Bを知る人数の増加率はそれについて知っている人の数とまだ知らない人の数の双方に比例するものと,高い確率で仮定できる。宣伝の放送が行われ,この商品をN/γ人が知っている時点から時間をはか

ることにすれば,次の微分方程式が得られる。

dx

dt= kx(N − x) (21)

初期条件は,t = 0のとき,x = N/γ となる。方程式 (21)の係数 kは正の比例定数である。方程式 (21)を積分すると,

∫dx

x(N − x)= k

∫dt

14

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1N

∫ (1x− 1N − x

)dx = k

∫dt

1N

(log |x| − log|N − x|) = kt+ C

log∣∣∣∣

x

N − x

∣∣∣∣ = Nkt+NC

x

N − x= ± exp(NC) · exp(Nkt)

ここで,A = ± exp(NC)とおくと,

x

N − x= A exp(Nkt)

x = (N − x)A exp(Nkt)

x = NA exp(Nkt)−A exp(Nkt)x

[1 +A exp(Nkt)]x = NA exp(Nkt)

x =NA exp(Nkt)

1 +A exp(Nkt)=

N

1 + exp(−Nkt)/A初期条件を考慮すると,x(0) = N/γ であるから,

N

γ=

N

1 + 1/A

... 1A

= γ − 1

したがって,x =

N

1 + (γ − 1) exp(−Nkt)

6 需要と供給6.1 需要と供給よく知られているように,需要と供給は流通経済の経済学的概念であって,

商取引面で,市場で生じ,機能するものである。供給とは市場に存在しているまたはそこに運び込まれる物品のことであり,需要とは市場での物品に対する要求である。市場経済学の主要な法則の一つに,需要と供給の法則がある。それは,どの物品にも需要と供給とを等しくする価格が存在するというものである。

15

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6.2 リンゴの価格次の問題を考える。ある(十分に長い)期間,農家が収穫物(たとえば,リ

ンゴ)を市場で売るとし,リンゴを収穫後直ちに販売しはじめ,1週間ごとに1度販売するとする。収穫後の農家のリンゴの蓄え量は定まっており,1週間の供給量は次週に予想される価格とその次の週の予想される変動とに依存する。リンゴの価格が次週に下がり,次の次の週には高くなるならば,それの期待される価格上昇が保存費用を上回る限り供給量をひかえ目にする。この条件では,次週の期待される上昇額が大きければ,大きいほど市場でのリンゴの供給は少なくなる。他方,リンゴの次週の価格が高く,その後下がると予想されるならば,後々の価格の低下額が大きければ大きいほど供給は多くなる。このときの需要と供給が等しくなる価格を決定したい。リンゴの次週の価格 pをとし,価格の時間についての導関数(いわゆる価

格形成の傾向)を p′ で表せば,需要と供給はともにこれらの関数である。

最初の価格 1kg 1ルーブルt週間後の価格 1kg p(t)ルーブル

需要量 q = 4p′ − 2p+ 39供給量 s = 44p′ + 2p− 1

が与えられるとすると,需要量=供給量より

4p′ − 2p+ 39 = 44p′ + 2p− 1

−40p′ − 4p+ 40 = 0

10p′ + p− 10 = 0

p′ = dp/dtとすると,

10dp

dt= −p+ 10

−101

p− 10dp = dt

−10∫

1p− 10

dp =∫dt

−10 log |p− 10| = t+ C

log |p− 10| = − t

10− C

10

p− 10 = Cexp(− t

10

)

よってp = Cexp

(− t

10

)+ 10

16

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ここで,初期条件 t = 0のとき p = 1を代入すると,

1 = C + 10

C = −9

よってp = −9exp

(− t

10

)+ 10

こうして,需要と供給が全期間中釣り合うには,価格が上の式にしたがって変化しなければならない。

7 化学反応今考える化学反応式は,

2A+B −→ 3C

である。このとき,A,Bは作用物質であり,Cは反応生成物質である。また,A,Bの体積がそれぞれ 10リットル,20リットルであり,化学反応の結果,Cを 6リットルつくるのに 20分要する。ここで,任意の時刻 tでのCの量はどれほどであるか考えていく。時間 t(時間単位)に生成される Cの体積(リットル単位)を xで表すと,その時間で A,Bはそれぞれ 2x/3リットル,x/3リットルが反応したことになる。このことは,Aが 10− 2x/3リットル,Bが 20− x/3リットル残っていることになる。したがって,質量作用の法則により,次の微分方程式が得られる。

dx

dt= K

(10− 2x

3

) (20− x

3

)

これを書きかえて,dx

dt= k(15− x)(60− x) (22)

ここに,kは比例定数 (k = 2k/9)である。また,t = 0で x = 0と仮定できる。こうして,初期値問題を解くことは,境界値問題

dx

dt= k(15− x)(60− x) x(0) = 0 x(1/3) = 6

を解くことになる。これを解くために,最初に,初期条件 x(0) = 0として,(22)の微分方程式を積分すると,

∫1

(15− x)(60− x)= k

∫dt

145

∫ (1

60− x− 1

15− x

)dx = k

∫dt

17

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log |60− x| − log |15− x| = 45kt+ C

60− x

15− x= ±eC · e45kt

α = ±eC とおくと,60− 015− 0

= α

... α = 4

したがって,60− x

15− x= 4 exp(45kt) (23)

t = 1/3のとき,x = 6であるから,(23)式に代入すると,exp(15k) = 3/2を得る。よって,

60− x

15− x= 4[exp(15k)]3t = 4(3/2)3t

すなわち,x = 15

1− (3/2)3t

(1/4)− (3/2)3t

となる。この式は,時間 tの間の反応で生成された物質Cの量を与えている。ここで,注意を述べておく。実際的考察からは,10リットルの Aと20

リットルのBの化学反応からは生成されるCの体積は有限であることは明らかである。ところが,xと tとの上記の関係を形式的に解析すれば,有限の t,すなわち (2/3)3t = 4,に対し変数 xの値は無限大になる。しかし,このことは実際の考察と矛盾するものではない。というのは,xが無限大になることは tの負の値についてだけおこることであるが,化学反応は非負の t(t ≥ 0)についてだけ考えるべきであるからである。

8 エコロジーにおける微分モデル8.1 エコロジーエコロジー(生態学)は,人間をはじめとする生き物一般と環境との相互

作用を研究する学問である。エコロジーにおける基礎的テーマは個体群の成長である。ここから,個体群の再生と滅亡,そして「捕食者と非捕食者」の関係にあるいろいろの種の動物の共存を扱う個体群の微分モデルを述べる。

8.1.1 線形モデル

x(t):時刻 tにおける個体群の個体数A:単位期間中に誕生する個体数B:単位期間中に死亡する個体数

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上のようにすると,変数 xの時間当たりの変化速度が次の式で与えられることは十分根拠がある。

dx

dt= A−B

問題は Aと B が xにどのように関係するかを明らかにすることである。その最も簡単なものは

A = ax,B = bx

であって,aと bとは単位時間当たりの個体数の,それぞれ出生係数と死滅係数とである。これを用いて上の式を書きかえると

dx

dt= ax− bx = (a− b)x

となる。t = t0のとき,個体群の個体数は x = x0であるとして解いていくと,

dx

(a− b)x= dt

∫dx

(a− b)x=

∫dt

1a− b

log |x| = t+ C

log |x| = (a− b)(t− C)

x = ±exp(a− b)(t− C)

x = Cexp(a− b)t

条件よりC =

x0

exp(a− b)t0

が与えられる。よって

x =x0

exp(a− b)t0exp(a− b)t

x = x0 · exp(a− b)(t− t0) (24)

を得る。この式は,a > b であれば,個体数 x は t → ∞ で無限大になり,a < bであれば,t→∞のとき x→ 0となって個体群は滅亡することを意味する。

8.1.2 非線形モデル

上のモデルはある意味で実状を反映しているが,実際の現象と過程とを記述するモデルは非線形である。よって今度は微分方程式 (24)とは違ったタイプの dx/dt = f(x)を考える。ここに,f(x)は非線形関数であり

f(x) = ax− bx2 a > 0, b > 0

19

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とする。線形モデルと同様の条件で,この方程式を解くと

dx

dt= x(a− bx)

dx

x(a− bx)= dt

∫ (1ax

+b

a(a− bx)

)dx =

∫dt

1a

∫1xdx+

1a

∫b

a− bxdx = t+ C

1a

log |x| − 1a

log |a− bx| = t+ C

log |x| − log |a− bx| = a(t+ C)

log∣∣∣∣

x

a− bx

∣∣∣∣ = a(t+ C)

x

a− bx= Cexp(at)

条件よりC =

x0

(a− bx0)exp(at0)

となりx

a− bx=

x0

(a− bx0)exp(at0)exp(at) =

x0

a− bx0exp[(t− t0)a]

整理すると

x = (a− bx)x0

a− bx0exp{(t− t0)a}

x =ax0

a− bx0exp{(t− t0)a} − bxx0

a− bx0exp{(t− t0)a}

x

(1 +

bx0

a− bx0exp{a(t− t0)}

)=

ax0

a− bx0exp{a(t− t0)}

x =ax0a−bx0

exp{a(t− t0)}1 + bx0

a−bx0exp{a(t− t0)}

x =ax0exp{a(t− t0)}

a− bx0 + bx0exp{a(t− t0)}x =

ax0

(a− bx0)exp{−a(t− t0)}+ bx0

x =x0a/b

x0 + (a/b− x0)exp{−a(t− t0)}

x(t) =x0a/b

x0 + (a/b− x0)exp{−a(t− t0)} (25)

となる。t→∞のとき,個体群中の個体数 x(t)は a/bに近づく。このとき,二つの場合 a/b > x0 と a/b < x0 とに分けられる。この式 (25)は,たとえば,果物害虫とかある種のバクテリアの個体群にあてはまる。

20

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8.2 捕食者と非捕食者共存している複数の種,たとえば大きな魚とその餌になる小さな魚の関係

について考えると,個々の種についての微分方程式をつくると,方程式系

dxidt

= fi(x1, · · · , xn) i = 1, 2, · · · , n

を得ることになる。イタリヤの数学者ヴォルテラ(Vito Volterra,1860-1940)がアドリア海に

おける漁獲量が周期が同じで位相の異なる振動をすることを説明するために,初めて導入した,捕食者・非捕食者の2個体群モデルを詳細に調べる。小さな魚(捕食者)を食している大きな魚(捕食者)の数を xとし,小さ

い魚の数を yで表す。捕食者の数は,十分な食糧があるとき,つまり非捕食者が十分であるかぎり,増え続けるであろう。ついには,十分な食糧はなくなり,大きな魚の数は少なくなっていく状況が起こるであろう。その結果今度は,ある時点からは小さな魚が増えはじめるであろう。このことは,今度は,大きな魚の数を新たに増やすことを促進し,このサイクルが繰り返される。ヴォルテラがつくったモデルは,a,b,c,dを正の定数とする次の形の微分方程式系である。

dx

dt= −ax+ bxy (26)

dy

dt= cx− dxy (27)

大きな魚についての方程式 (26)における項 bxyは大きな魚の数の増加の仕方が小さな魚の数にどのように依存するかを反映し,方程式 (27)の項−dxyは小さな魚の数の減少率を大きな魚の数の関数として表している。これら二つの方程式を調べるには,無次元の変数

u(τ) =d

cx(t), v(τ) =

b

ay(t), τ = ct, α =

a

c

を導入するともっと都合がよくなる。そうすると,方程式 (26)と (27)は

du

dτ= αu(v − 1),

dv

dτ= v(1− u) (28)

21

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と表せる。そこまでの計算は右の通りである。

du(τ)dτ = d(d/cx(t))

dt

= d(d/c)x(t)dt · dtdτ

= dc · dx(t)dt · d(τ/c)dτ

= dc2 · dx(t)dt

= dc2 [−ax(t) + bx(t)y(t)]

= −ac · dcx(t) + a

c · dcx(t) · bay(t)= αu(v − 1)

dv(τ)dτ = d(b/ay(t))

= d(b/ay(t))dt · dtdτ

= ba · dy(t)dt · d(τ/c)dτ

= bac · dy(t)dt

= ba [cx(t)− dx(t) · y(t)]

= bax(t)− a

cx(t) · bay(t)= v(τ)− u(τ)v(τ)= v(τ)(1− u(τ))

時刻 τ = τ0 のときの両種の個体数はわかっていて

u(τ0) = u0, v(τ0) = v0 (29)

であるとする。正の値だけが関心事であることを注意しよう。uと vの関係を明らかにすることにする。そのために,(28)の前者の方程式を後者の方程式で割り算して得られる方程式を積分する。

du

dv=

dudτdvdτ

=αu(v − 1)v(1− u)

1− u

u· dudv

=α(v − 1)

v∫1− u

udu =

∫α(v − 1)

vdv

∫ (1u− 1

)du =

∫ (α− α

v

)dv

log u− u = αv − α log v + C

αv + u− α log v − log u = −C

αv + u− log vαu = −Cαv0 + u0 − log vα0 u0 = −C

よって,αv + u− log vαu = αv0 + u0 − log vα0 u0 = H

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を得る。ここに,H は方程式 (29)の初期条件とパラメータ αとによって決まる定数である。以上のことから,変数 uと vについて考察していく。今,初期値 u0 と v0

が次のように与えられるとする。

u0 > 1, v0 < 1

(28)の前者の方程式から,最初変数 uが減少する。同様のことが,変数 vについてもいえる。それから後,vが 1に近づくつれて,v′はゼロに近づき,その後に時間 τ の長い間にわたって,変数 vが増加する。v = 1になったとき,u′ = 0となり,その後,変数 uは増大しはじめる。こうして uと vとは閉じた軌道をたどることになる。このことは,解 u,vは周期関数であることを意味する。すなわち,個体群数の振動は異なる位相で起こる。最後に,若干補足をしておこう。上で述べたよりももっと複雑な形の相互

作用がある社会を研究することによって,実用上の観点から,上で得たよりも興味深い結果が得られる。たとえば,2種の個体群が同一の食料源(第 3の個体群)を奪っている場合には,そのうちの 1種は滅亡することを示すことができる。明らかに,それが第 3の個体群(食料源)であれば,他の 2種もまた滅亡することになる。

9 伝染病の数学理論における一問題伝染病理論で扱われる微分方程式の一つを考える。全体の住民はN 人から

構成され,時刻 tにおいて,次の三つのグループに分けられるものとする。第1グループは,ある病気に感染する可能性はあるが今は健康である者(感受性者)であるとする。時刻 tにおけるこのような感受性者数を S(t)で表す。第2グループは,感染者であって,病気の伝染の源となる者(感染者)であるとする。全人口のうちこのグループの時刻 tにおける人数を I(t)で表す。最後に,第3グループは健康な者であってこの病気に対し免疫のある人々(免疫者)とする。時刻 tにおけるこれらの者の数を R(t)で表す。こうすると,次の等式が成り立つ。

S(t) + I(t) +R(t) = N (30)

次に,感染者数がある固定した数 I∗を超えると,感受性者のうち感染者となる人数の変化率は感受性者数に比例するものと仮定する。感染者のうち回復するものの率は,感染者数に比例するものとする。最初の仮定より,感染者数 I(t)が I∗ よりも多いときには,彼らが感受性者にこの病気を伝染させることがあることになる。こうして,次の微分方程式を得る。

dS

dt=

{−αS (I(t) > I∗)

0 (I(t) ≤ I∗)(31)

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ところで,この病気の感受性者はやがて病気になり,伝染の源となるので,感染者数の変化率は,その時点での感染者数と回復者との差(単位時間あたり)である。したがって,次を得る。

dI

dt=

{αS − βI (I(t) > I∗)−βI (I(t) ≤ I∗)

(32)

比例定数 α,β を感染率,回復率と呼ぶことにする。また,回復者数の変化率は方程式 dR/dt = βI で与えられる。ここで,それぞれの方程式を一意的に定めるために,初期条件を与える。簡

単にするために,初期時刻 t = 0には,免疫者はいない,すなわち R(0) = 0であるとし,初期の感染者数は I(0)であるとすると,

S(t) = S(0) = N − I(0)

を得る。次に,感染率と回復率は等しい,すなわち α = βであるとする。こうすると,つぎの二つにケースを考えなければならなくなる。

ケース1.  I(0) ≤ I∗

この場合は,時間が経過しても病気に感染することはない。というのは,このケースでは dS/dt = 0であり,したがって,初期条件は R(0) = 0である。このとき方程式 (32)は次の微分方程式になる。

dI

dt= −αI(t)

これを解くと,I(t) = I(0) exp(−αt)となり,したがって,

R(t) = N − S(t)− I(t)

= I(0)[1− exp(−αt)]

I(t) = R(t)より,

I(0) exp(−αt) = I(0)[1− exp(−αt)]

−dt = log 2

t =log 2α

ケース 2. I(0) > I∗

この場合では,時間区間 0 ≤ t < T のすべての tに対し I(t) > I∗となる区間があるはずである。それは,関数 I(t)はその意味することから連続でなけ

24

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ればならないからである。このことから,区間 [0, T ]のすべての tについても,病気は感受性者に広がることになる。したがって,0 ≤ t < T に対し,

S(t) = S(0) exp(−αt)

となる。よって,次の微分方程式を得る。

dI(t)dt

+ αI(t) = αS(0) exp(−αt) (33)

ここで,両辺に I(t) exp(αt)を乗じて,次を得る。

d

dtI(t) exp(αt) = αS(0)

したがって,I(t) exp(αt) = αS(0)t+C となり,方程式 (33)のどの解も次式で与えられる。

I(t) = C exp(−αt) + αS(0)t exp(−αt) (34)

t = 0とおくと,C = I(0)を得るので,方程式 (34)は次の形になる。

I(t) = [I(0) + αS(0)t] exp(−αt) 0 ≤ t < T (35)

また,R(t) = N − S(t)− I(t)であるから,

R(t) = S(0)[1− exp(−αt)− αt exp(−αt)] + I(0)[1− exp(−αt)]

である。これからは,T の具体的な値と,感染者数が最大になる時刻 tmaxとを見

出す。 最初の問題に答えることは,時刻 T では,感受性者への感染が停止する。方程式 (35)で,t = T のときの右辺の値は I∗ である。つまり,

I(T ) = I∗

よって,

I∗ = [I(0) + αS(0)T ] exp(−αT ) (36)

ところで,S(t) = lim

t→∞S(t) = S(∞)

は感受性者のうち病気でない者の数である。これらの者の数については,次の一連の等式が成立する。

S(T ) = S(∞) = S(0) exp(−αT )

よって,exp(−αT ) =

S(∞)S(0)

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−αT = logS(∞)S(0)

T =1α

logS(0)S(∞)

(37)

こうして,S(∞)に確定した値を指定すると,方程式 (37)を使って,伝染が停止する時刻を予測できる。(37)の T を方程式 (36)に代入して,方程式

I∗ =[I(0) + S(0) log

S(0)S(∞)

]S(∞)S(0)

すなわち,I∗

S(∞)=I(0)S(0)

+ logS(0)S(∞)

を得る。これは,次の形に書きかえることができる。I∗

S(∞)+ logS(∞) =

I(0)S(0)

+ logS(0) (38)

(38)の I∗も右辺のどの項も知られているから,この方程式を用いて S(∞)を決定できる。第2の問いに答えるのに,方程式 (35)にもどる。ここで,方程式 (35)を t

で微分すると,dI

dt= αS(0) exp(−αt)− αI(0) exp(−αt)− α2S(0)t exp(−αt)= α exp(−αt)[S(0)− I(0)− αS(0)t] = 0

したがって,S(0)− I(0)− αS(0)t = 0

−αS(0)t = I(0)− S(0)

t =S(0)− I(0)αS(0)

=1α

[1− I(0)

S(0)

]

この tは I が最大値になる時刻である。今度は,この値を方程式 (35)に代入して,次の式を得る。

Imax = S(0) exp−[1− I(0)/S(0)] = S(tmax)

この式の意味の一つは時刻 tmax では,感受性者数は感染者数と同じであるということである。しかし,t > T であれば,感受性者は伝染して,その数は,

I(t) = I∗ exp[−α(t− T )]

である。

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10 追跡曲線微分方程式を使って,追跡曲線での正しい戦略を選ぶ例を調べる。1隻の駆逐艦が濃霧の中,1隻の潜水艦を追跡しているとする。ある時刻

に霧は晴れ,潜水艦は海面上を航行し,駆逐艦から 3マイル離れた位置にいることがわかっている。駆逐艦の速度は潜水艦の速度の二倍である。潜水艦は発見されると直ちに潜水し,最高速度で方向は分からないが,直線で進行するとする。このとき,駆逐艦が潜水艦の真上を通るように進むための軌道(追跡曲線)を求める。この問題を解くために,まずはじめに,極座標 r,θ を次のように導入す

る。潜水艦が発見された位置を原点とし,発見時点の駆逐艦の位置が極座標r軸上の点であるようにする。これからの考察は,次の考えに基づくことになる。その第一は,駆逐艦は,極Oから潜水艦と同じ距離の位置にいるようにしなければならない。それから,駆逐艦は,極Oに関して,いずれの時刻にも二つの運動体が点 O から同じ距離にいるように運動しなければならない。この場合にだけ,駆逐艦は,極 Oのまわりを巡回して,最終的に潜水艦の真上を通過する。このことから,駆逐艦はまず点Oから潜水艦までと同じ距離 xの点まで直進しなければならないことになる。明らかに,距離 xは潜水艦の速度を v,駆逐艦の速度を 2vとする方程式

x

v=

3− x

2v

または,次の方程式のいずれかで決定できる。x

v=

3 + x

2v

これらの方程式を解けば,この距離は 1マイルかまたは 3マイルであることになる。ここで,「出会い」が起こっていなければ,駆逐艦は極 Oのまわりを (時計

方向あるいは反時計方向に)まわって,潜水艦と同じ速度 vで極 Oから遠ざからなければならない。駆逐艦の速度ベクトル (長さ 2v)を動径方向成分 vr

と接線方向成分 vt の2成分に分けよう。

x = r cos θ

x′(t) =dr

dtcos θ − r sin

dt

y = r sin θ

y′(t) =dr

dtsin θ + r cos

dt

接線ベクトル(x′(t)y′(t)

)=dr

dt

(cos θsin θ

)+ r

dt

(− sin θcos θ

)

27

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よって,vr =

dr

dt

vT = rdθ

dt

vr = vであるから

vT =√

(2v)2 − v2

   =√

3v

dr

dt= v, r

dt=√

3v

dt = dr/vであるから

rdθ

dr/v=

√3v

dθ =√

3rdr

∫dθ =

√3

∫1rdr

θ + C1 =√

3 log r

r =C1√

3exp

(θ√3

)

C1√3

= C とおいて

r = C · exp(θ√3

)

ここで,駆逐艦は極Oのまわりの運動を,極座標軸 r上の,点Oから xマイルの点から始める。すると,θ = 0のとき r = 1であり C = 1となる。よって,駆逐艦が任務を遂行するためには,潜水艦が発見された点に向けて 2マイル直線運動をして,その後は螺旋 r = exp(θ/

√3)に沿う運動をしなければ

ならない。また,θ = −πのとき r = 3であるから

3 = C · exp

(−√

33

)

C = 3exp(π√3

)

となり,6マイル直線運動をして,螺旋 r = 3exp{(θ+ π)/√

3}に沿う運動をしなければならない。このとき r(t) = vt+ 3とすると,

θ(t) =log (vt+ 3)√

3− π

28

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ここで,本当に「出会い」が起こるか調べる。tを駆逐艦と潜水艦が「出会い」が起こる時間だとすると

r(t) = vt (39)

θ(t) =log(vt)√

3− π (40)

(40)= αとなる tを求める。

log (vt)√3

− π = α

0 ≤ α < 2π (ただし,α = 0,−πを除く)

log (vt) = (α+ π)√

3

vt = exp(α+ π)√

3

t =1vexp(α+ π)

√3

よって t = 1v exp(α+ π)

√3のときに実際に「出会い」が起こることがわかる。

11 戦闘モデル第二次世界大戦中,イギリスの技師であり数学者でもあったランチェスター

は,空中戦のいくつかのモデルを作った。これらのモデルは後に,正規軍が関与する,あるいはゲリラが関与する,更に,それら双方が関与する戦闘を記述するように一般化された。これから,これらの三つのモデルを考えることにする。二つの敵対する軍 xと軍 yとが戦闘している。戦闘開始日からの日数では

かった時刻 tにおける隊員の数を,それぞれ x(t)と y(t)とで表す。これらのモデルを構築するときの決定的要因は,隊員数である。その理由は,敵対する軍を比較するための考えられる基準として,隊員数以外の戦闘準備体制,兵器の水準,軍備あるいは指揮官の経験と志気,その他多数ある要因を考慮した基準を設けることは実際上は大変困難であるためである。x(t)と y(t)は連続的に変化するものとし,しかも時間の微分可能関数であ

ると仮定する。もちろん,これらの仮定は,実際には x(t)と y(t)とは整数であるから,現実を単純化していることになる。しかし,同時に,各軍の隊員数が多ければ,一人や二人の隊員数の増減による影響は,隊員全体のもたらす影響と比較して実際上からは,限りなく小さいであろう。したがって,微小時間内での隊員数の変化も小さい (それで,整数値にならない)と仮定してよい。これだけの論拠では,もちろん,x(t)と y(t)とを tの関数としての具体的な式として定めるには不十分ではあるが,両軍の隊員数の変化速度を記

29

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述することができる多くの要因を明示できる。もっとくわしくは,次のようになる。x軍が戦闘に直接には関係しない病気などのために被る損失の率をOLRで表し,軍 yとの戦闘に直接関係して生ずる損失の率を CLRで表す。最後に,x軍への援軍による補充率を RRで表す。こうすると,すぐわかるように x(t)全体としての変化の率は次の方程式で与えられる。

dx(t)dt

= −(OLR+ CLR) +RR (41)

同様の方程式を y(t)について書くことができる。

dy(t)dt

= −(OLR∗ + CLR∗) +RR∗ (42)

ここからの課題は,量OLR,CLR及びRRの適切な式を見出し,その式を用いた微分方程式を調べることである。その結果のよって,勝利者となりうる軍がどちらであるかをはっきりさせることができる。これから用いる記号を導入しておく。a,b,c,d,g と hを両軍 (x, y)の

隊員の損失を決定するさまざまな要因の効果を定める非負の定数であるとしP (t)とQ(t)は x軍と y軍に一日での隊員補充の能力を表す項とし,x0と y0

は戦闘開始時の x軍と y軍の隊員数とする。これで,ランチェスターが提案した三つの戦闘モデルをつくりあげることができることになる。最初のモデルは,正規軍による戦闘行動を記述するものであって,それは

次の形である。dx(t)dt

= −ax(t)− by(t) + P (t)

dy(t)dt

= −cx(t)− dy(t) +Q(t)

今後は,この方程式系をA型微分方程式系 (あるいは,単にA型方程式系)と呼ぶことにする。第二のモデルは方程式系

dx(t)dt

= −ax(t)− gx(t)y(t) + P (t)

dy(t)dt

= −dx(t)− hx(t)y(t) +Q(t)

で定められるものであって,ゲリラだけを含む戦闘行動を記述するものである。この方程式系を B 型方程式を呼ぶことにする。最後に,ここで C 型方程

式系と呼ぶ第三のモデルは次の形である。

dx(t)dt

= −ax(t)− gx(t)y(t) + P (t)

dy(t)dt

= −cx(t)− dy(t) +Q(t)

30

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これは,正規軍とゲリラの双方を含む戦闘行動を記述するものである。これらの微分方程式のいずれも,敵対する軍の隊員数の変化率を様々の要

因の関数として表しており,(41)(42)の形をもつものである。戦闘行動には直接的には関係しない隊員数の減少は項 −ax(t),−dy(t)で定められ,これによって(戦闘も援軍もないときの)一定値である相対損失速度を方程式

1x

dx

dt= −a 1

y

dy

dt= −d

で記述できることになる。ランチェスターモデルに援軍に対応する項と戦闘行動に関係しない損失に

対応する項だけしかなければ,戦闘行動はないことを意味することになる。他方,−by(t),−cx(t),−gx(t)y(t)と−hx(t)y(t)の項があることは戦闘行動が起きていることを意味している。A型方程式系を考えることにして,まず,各軍は他の軍の射程内にあると

し,次に,戦闘に直接関与する隊員だけが射撃を受けるとする。これらの仮定のもとで,ランチェスターは x軍の正規軍について戦闘損失を表すのに項−bx(t)を導入した。この係数 bは y軍の戦闘における効率を特性化するものである。こうして,

1y

dx

dt= −b

は,定数 bが y軍の一隊員あたりの平均効率を評価したものであることを示している。項 −cx(t)についても同じ解釈が与えられる。もちろん,効率係数 bと cを計算できる簡単な方法はない。一つの方法としては,これらの係数を,

b = rypy c = rxpx (43)

の形に書くことである。ここに,ry と rx は,それぞれ y軍と x軍の射撃の破壊力係数であり,py と px とは,それぞれ y軍と x軍の射撃の命中確率である。さらに,A型方程式系における戦闘損失に対応する項は線形であるのに対

し,B型方程式では非線形であることにも注意する。このことは次のように説明される。数 x(t)に及ぶゲリラがある陣地 Rを占めていて,敵軍には発見されていないままであるとする。敵は陣地をその砲撃範囲にはするが,攻撃の結果は知ることができない。ゲリラ xが被る損失は,一方では rにいる隊員数に,他方では敵軍の隊員数 y(t)nに比例することはおおいにありそうなことである。したがって,ゲリラ xの被る損失は −gx(t)y(t)の形である。ここに,y軍の戦闘行動の効果を反映する係数 gは,一般に (43)の最初の式の係数 bよりも推定が困難である。ところで,gを求めるには火力係数 ry を使うことができる。また,y軍の射撃の命中確率はいわゆる y軍の一射撃の陣地効果 Ary に正比例し,x軍の占める陣地の面積 Ax に反比例するとする

31

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ランチェスターが述べた考えに従うことができる。ここで,Ary は一人のゲリラの占める面積を表す。こうして,gと hを求めるもっともな公式は,

g = ryAryAx

h = rxArxAy

(44)

であるとすることができる。これからは,三つの微分モデルそれぞれをさらに詳細に考察することに

する。

ケースA (A型の微分方程式系と2次法則)敵対する二正規軍が,戦闘に直接的なかかわりのない損失はないとする単

純な状況で,戦闘中であるとする。さらに,どの軍にも援軍はないとすれば,その数学モデルは次の微分方程式系になる。

dx(t)dt

= −by(t) dy(t)dt

= −cx(t) (45)

後車の方程式を前者の方程式で割り算して,

dy(t)dx(t)

=cx(t)by(t)

(46)

となる。これを積分すると,

b

∫ t

0

y(t)dy(t) = c

∫ t

0

x(t)dx(t)

b

[12y2(t)

]t

0

= c

[12x2(t)

]t

0

b[y2(t)− y2(0)] = c[x2(t)− x2(0)]

b[y2(t)− y20 ] = c[x2(t)− x2

0] (47)

この式が,方程式系 (45)が2次法則をもつモデルに対応するものであるかを説明している。一定値 by2

0 − cx20 を K と表して方程式 (47)から得られる方

程式

by2 − cx2 = K (48)

は,放物線(K = 0なら二本の直線)を決定する。これによって方程式系 (45)をもっと細かく分類できる。これを双曲放物線法則をもつ微分方程式系と呼ぶことができる。構築したモデル (45)において,どの軍が勝利するかという問いに答えるの

に,軍 y(または x)がもう一方の軍 x(または y)を最初に破壊しつくしたとき,軍 y(または軍 x)が勝利したとすることを約束する。たとえば,いまの場合の勝者はK > 0であれば,y軍である。その理由は,このときには変

32

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数 yはゼロになることはないが,変数 xは y(t) =√K/bのときゼロになる。

こうして,yが勝利するためには,K が正である,すなわち,

by20 > c20 (49)

となる状況をつくり出すように努力しなければならない。(43)を用いて,(49)を次の形に書きかえることができる。

(y0x0

)2

>rxry

pxpy

(50)

(50)の左辺は,隊員数の比 y0/x0の違いが2次法則にしたがって敵軍に対する優位をもたらすことを示している。たとえば,隊員比 y0/x0が1から2に変わると,y軍の優位は 4倍になる。また,方程式 (48)は,敵対する軍の隊員数の直接的には時間に依存しない関係を定めていることに注意する。時間との関係を直接的に与える公式を導くのに,次のようにする。(45)の最初の方程式を微分し,この方程式系の後の方程式を使う。その結果,次の微分方程式が得られる。

d2x(t)dt2

− bcx(t) = 0 (51)

(51)式は斉次線形微分方程式である。ここで,x1 = cos√bct,x2 = sin

√bct

は基本解となる。ここで,√bcβ とする。なぜならば,

d2x1(t)dt2

− bcx1(t) = 0

d2x2(t)dt2

− bcx2(t) = 0

w(cosβt, sinβt) = β 6= 0

であるから,よって,

x(t) = C1 cosβt+ C2 sinβt

初期条件として,

x(0) = x0dx(t)dt

|t=0= −by0

をとると,x0 = C1

dx(t)dt

= −x0β sinβt+ C2β cosβt

−by0 = C2β

C2 =−by0β

=−by0√bc

= −√b

cy0

33

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ここで,√b/c = γ とおくと,C2 = −γy0 であるから,したがって,

x(t) = x0 cosβt+−γy0 sinβt (52)

同様の方法で次が得られる。

y(t) = y0 cosβt+−x0

γsinβt (53)

最後に次のことを述べておく。y 軍か勝利するためには,y0 が x0 よりも必ずしも大きくなくてもよい。唯一の要件は γy0 が x0 よりも大きいことである。

ケースB(B型微分方程式系と1次法則)敵対する 2軍の戦闘行動モデルである動的方程式は,前のケースと同様,

戦闘に無関係な損失の可能性も,援軍がいずれの軍にもないとすれば,容易に解ける。これらの制約のもとでは,B型微分方程式は次の形となる。

dx

dt= −gxy, dy

dt= −hxy (54)

方程式系 (54)の後の方程式を前の方程式で割り算すると

dy

dx=h

g

となり,これを積分すれば,次のようになる。

g[y(t)− y0] = h[x(t)− x0] (55)

この線形関係式が,非線型関係式系 (54)を戦闘行動を記述する線形(一次)法則のモデルということの理由を説明している。方程式 (55)を次のように書きかえることができる。

gy(t)− hx(t) = gy0 − hx0 = L

gy − hx = L

このことから導かれることの一つとして,Lが正であれば y軍は戦闘行動において勝者となり,Lが負であれば x軍が勝者となることになる。どちらかの軍が勝利する状況をもっと詳しく調べることにしよう。勝者が

y軍であるとしよう。そうすると,すでに知っているように,gy0−hx0は正,すなわち

y0x0

>h

g

でなければならない。式に戻れば,y軍が勝利する条件は不等式y0x0

>rxArxAxryAryAy

(56)

34

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で表される。したがって,y軍の戦略は比 y0/x0 をできるだけ大きくし,比Ax/Ay をできるだけ小さくすることである。実用的には,不等式 (56)を

Ayy0Axx0

>rxArxryAry

の形に書くのがもっと便利である。積 Ayy0 と Axx0 ははっきりした意味で,重要な量であることがわかる。

ケースC(C型微分方程式系と放物線法則)C型モデルではゲリラと正規軍とが戦闘する。簡単にするために,仮説と

して,両軍とも援軍はなく,戦闘行動と無関係な損失もないとする。このケースでは次の微分方程式系が得られる。

dx

dt= −gxy, dy

dt= −cx (57)

ここで,x(t)はゲリラの人数であり,y(t)は正規軍の隊員数である。(57)の後の方程式を前の方程式で割り算すると,次の方程式になる。

dy

dx=

c

gy

この方程式を適当な範囲で積分すると,

gydy = cdx12g[y2(t)− y0

2] = c[x(t)− x0]

gy2(t)− 2cx(t) = gy02 − 2cx0 = M

gy2(t)− 2cx(t) = M (58)

ここに,M = gy02 − 2cx(t)である。こうして,微分方程式系 (57)は戦闘行

動の放物線法則のモデルに対応する。ゲリラ軍は,M が負であれば勝者となり,M が正であれば敗者となる。経験からは,正規軍は比 y0/x0が 1よりもかなり大きいときにだけ,ゲリ

ラを負かすことができることがわかっている。戦闘行動の放物線法則を根拠にして,M は正であると仮定して,(y0/x0)

2 が (2c/g)x0−1 よりも大きけれ

ば正規軍の勝利が保障されることになる。ととのよって,この条件は次の形に書き直される。 (

y0x0

)2

> 2rxry

AxpxAry

1x

12 振子時計はなぜ正確でないか?この問いに答えるために,先端に質量mの錘をつけた長さ lの棒からでき

た振子時計の理想モデルを考える(棒の質量はmに比べて無視できるほどに

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小さいとする)。棒を角度 αだけ斜めにしてから手放すと,エネルギー保存の法則によって,次式を得る。

mv2

2= mg(l cos θ − l cosα) (59)

ここで,vは棒の運動速度であり,gは重力加速度である。ここで,s = lθであるから,v = ds/dt = l(dθ/dt)となり,(59)から次の

微分方程式が得られる。

l

2

(dθ

dt

)2

= g(cos θ − cosα) (60)

(dθ

dt

)2

=2gl

(cos θ − cosα)

dt= ±

√2gl

(cos θ − cosα)

ここで,θは時間とともに減少する(tが小さいとき)ことを考え,dθ/dt < 0である。したがって,方程式 (60)を,

dt= −

√2gl

(cos θ − cosα)

dt = −√

l

2gdθ√

cos θ − cosα

と書きかえることができる。振子の周期を T で表せば,θ(t) = θ(t+ T )であるので,

T

4= −

√l

2g

∫ 0

α

dθ√cos θ − cosα

すなわち,

T = 4

√l

2g

∫ α

0

dθ√cos θ − cosα

(61)

を得る。この公式は振子の周期が αに依存することを示している。このことが振子時計が正確でない基本的な理由である。というのは,実際のことをいえば,棒が端まで振り切るときの片寄り角度はそのつど αとは違うからである。式 (61)はもっと簡単な形に書くことができることがわかる。実際,

cos θ = 1− 2 sin2 θ

2cosα = 1− 2 sin2 α

2

であるから,

T = 2

√l

g

∫ α

0

dθ√sin2(α/2)− sin2(θ/2)

= 2

√l

g

∫ α

0

dθ√k2 − sin2(θ/2)

(62)

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となる。ただし,k = sin(α/2)である。ここで,変数 θにかえて新しい変数 ϕを式 sin(θ/2) = k sinϕ によって導

入する。こうすると,θが 0から αまで増大するとき,変数 ϕは 0から π/2まで大きくなり,次が成り立つ。

12

cosθ

2dθ = k cosϕdϕ

... dθ =2k cosϕdϕcos(θ/2)

この式によって,(62)を次の形に書きかえることができる。

T = 2

√l

g

∫ π/2

0

2k cosϕdϕ/ cos(θ/2)√k2 − sin2(θ/2)

= 2

√l

g

∫ π/2

0

2k cosϕdϕ/ cos(θ/2)√k2 − k2 sin2 ϕ

= 2

√l

g

∫ π/2

0

2k cosϕdϕ/ cos(θ/2)k cosϕ

= 4

√l

g

∫ π/2

0

cos(θ/2)

ここで,cos(θ/2) =√

1− k2 sin2 ϕであるから,

T = 4

√l

g

∫ π/2

0

dϕ√1− k2 sin2 ϕ

さらに,

T = 4

√l

gF (k, π/2)

とする。ここで,関数

F (k, ψ) =∫ ψ

0

dϕ√1− k2 sin2 ϕ

は第1種楕円積分として知られているものであって,第2種楕円積分

E(k, ψ) =∫ ψ

0

√1− k2 sin2 ϕdϕ

区別される。楕円積分を初等関数を用いて表現することができないので,振子の問題の

さらに進んだ議論はここでの方法ではなく,力学での保存系の研究で用いら

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れるアプローチと関連づけられる。進んだ研究の出発点となるのは,方程式(60)を tについて微分して得られる微分方程式

d2θ

dt2+ k2 sin θ = 0 k =

√g

l

である。

13 サイクロイド13.1 サイクロイドとは普通の(円弧)振子時計が精確でないことを示した。周期が振れに依存し

ない振子はあるだろうか?この問いは,早くも 17世紀に提起され,答えられている。これから,この問いの答えることにするが,まず初めに,ガリレオ・ガリレイがサイクロイド(輪転曲線,ギリシャ語 Circularからとった)と呼んだ特徴ある曲線の方程式を導いておくことにする。サイクロイドというのは,円が直線に沿ってすべらずに転がるとき,その

円(生成円という)の周上の点が描く軌道である平面曲線である。生成円が転がる直線が x軸であるとし,この円の半径は r であるとする。

サイクロイドを描く点は,最初原点にあって,円が角度 θだけ転がった点の位置はM であるとする。こうして,幾何学的考察から,次を得る。

x = OS = OP −OS, y = MS = CP − CN

ところで

OP = MP = rθ, SP = MN = r sin θ, CP = r, CN = r cos θ

である。したがって,サイクロイドは,パラメータを用いて表すと,次の方程式で定められることになる。

x = r(θ − sin θ), y = r(1− cos θ) (63)

ここで y = r − r cos θとすると,

θ = arc cosr − y

r

となり,直交座標系 Oxyでのサイクロイドの方程式は

x = rarc cosr − y

r− r sin

(arc cos

r − y

r

)

= rarc cosr − y

r−

√2ry − y2

となる。サイクロイドはつくり方そのものから,それぞれが生成円の完全な回転に

38

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対応する合同な弧から構成されることになる。個々の弧は,それらが共通の垂直な接線をもつ点で結ばれている。これらの点は,尖点(cusp)と呼ばれているものであって,サイクロイドを描く生成円上の点のうち最も低い点に対応している。これらの点のうち最も高い位置は,各弧のちょうど真中にあって,頂点(vertex)と呼ばれる。隣接する尖点間の直線はその長さ 2πrがであり,サイクロイドの弧の基底(base)と呼ばれる。

13.2 サイクロイドの性質

sin θ =

√2ry − y2

r

dy

dx=

dydθdxdθ

=r sin θ

r(1− cos θ)

limθ→2π

sin θ1− cos θ

= limθ→2π−0

cos θsin θ

= −∞

= limθ→2π+0

cos θsin θ

= +∞

サイクロイドは次の性質をもつ。

13.2.1 (a) サイクロイドの弧とその基底で囲まれる面積は生成円の面積の3倍である

(サイクロイドの弧とその基底で囲まれる)面積を S とする。

S =∫ 2πr

0

ydx

dx = r(1− cos θ)dθ

x 0→ 2πr

θ 0→ 2π

S =∫ 2π

0

r(1− cos θ)r(1− cos θ)dθ

= r2∫ 2π

0

(1− 2 cos θ + cos2θ)dθ

= r2∫ 2π

0

(1− 2 cos θ +

1 + cos 2θ2

)dθ

= r2[θ − 2 sin θ +

12θ +

14

sin 2θ]2π

0

= 3πr2

よって,生成円の面積は πr2 なので,成り立つ。

39

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13.2.2 (b) サイクロイドの一つの弧の長さは生成円の半径の4倍である

(サイクロイドの一つの弧の)長さを lとすると,

l =∫ 2π

0

√(dx

)2

+(dy

)2

=∫ 2π

0

√r2(1− cos θ)2 + r2sin2θdθ

= r

∫ 2π

0

√2− 2 cos θdθ

= r

∫ 2π

0

√2 · 2sin2 θ

2dθ

0θ ≤ 2πより 0 ≤ θ2 ≤ 90◦ であるから,

sinθ

2>= 0

よって

l = 2r∫ 2π

0

sinθ

2dθ

= 2r[−2 cos

θ

2

]2π

0

= 8r

となり成り立つ。(b)の結果は,たいへん意外なものである。というのは,円周のような単純な曲線の長さを計算するには,計算がさほど簡単ではない無理数 πを用いなければならないのに,サイクロイドの弧の長さは生成円の直径(または半径)の整数倍で表されるからである。サイクロイドは,このほかにも物理学や工学において非常に重要なことがわかっている多くの興味ある性質をもっている。たとえば,小さい歯車の歯やさまざまなタイプの離心器,カム,その他の機器の機械部品がサイクロイドの形になっている。

13.3 正確な時計天文学者であり数学者でもあるオランダの科学者クリスチャン・ホイヘン

ス(Christian Huygens,1629-1695)が,1673年に正確な時計をつくることを可能にする答をもたらした問題を考えることにしよう。それは垂直平面上にある曲線を作図する問題である。その曲線は,その点

から重い粒子が出発して,その曲線に沿ってまさつなしに滑り落ちるとき,どの点から出発しても,固定された垂直平面に達するまでの時間が同じであるような曲線である。初期時刻,t = t0 では粒子は静止しているものとする。

40

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サイクロイドがこのような等時性(isochronous,ギリシャ語の“ eqaul”と“ time”に対応する語から出ている),あるいは同一時間性(tautochronous,“ identical”に相当する tautosが用いられている)をもつことをホイヘンスが発見した。

13.3.1 サイクロイド振子

具体的内容を考えて,この問題を次のように解く。木の板を切りとってサイクロイド状の溝を残すことにする。小さな金属ボールを斜面に沿って転がすことにする。摩擦はないものとして,ボールが,たとえばM から出発して,最下点K に達するまでの時間を求めることにする。ボールの初期位置M の座標を (x0, y0)とし,対応するパラメータの値を θ0

とする。ボールが点 N(θ)に達したとき,垂直な降下距離 hは,方程式 (63)を考えて,次のように求まる。

x = r(θ + sin θ), x0 = r(θ0 − sin θ0)

y = r(1− cos θ), y0 = r(1− cos θ0)

h = y − y0 = r(1− cos θ)− r(1− cos θ0) = r(cos θ0 − cos θ)

エネルギー保存の法則より

v =√

2gh =√

2gr(cos θ0 − cos θ)

他方,速度は距離 sの時間 T に関する導関数であるから

v =dT

ds=

√2gr(cos θ0 − cos θ)

ここで

s =∫ θ

θ0

√(dx

)2

+(dy

)2

dθ = 2r∫ θ

θ0

sinθ

2dθ

...ds = 2r sin(θ

2

)dθ

であるからdT =

2r sin (θ/2)dθ√2gr(cos θ0 − cos θ)

となり

T =√

2rg

∫ π

0

sin (θ/2)dθ√cos θ0 − cos θ

= 2√r

g

[sin−1 t

cos (θ0/2)

]cos (θ0/2)

2

= 2√r

g(sin−1 1)

= π

√r

g

41

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こうして,ボールが点M から点K まで転がり落ちるまでの時間 T は,式

T = π

√r

g

で与えられ,このことは時間 T は θ0に,すなわち,ボールの初期位置M には無関係であることを示している。明らかに,点M とN とから同時に運動し始める二つにボ-ルは,転がり落ちて同じ時刻に点K に達する。摩擦を無視することにしているので,ボールの斜面を降下する運動では,

その運動は点K を通過し,その後,慣性により点M と同じ水準の点M1まで続く。その後ボールは反対方向に走行を続け,完全なサイクルを描く。これは,サイクロイド振子の運動となる。その振動周期は

T0 = 4π√r/g

である。 

14 最短降下線の問題最短降下線(brachistochrone),これはギリシャ語の”最短”と”時間”に

対応する言葉である。垂直平面上の同一垂直線上にない2点 Aと B とをとる。これらの2点を

通るさまざまな曲線のうちで,その曲線に沿って粒子が点 Aから点 B まで落下する時間が最小である曲線を求めなければならない。 最短降下曲線問題の解は高額に源をもつ別の問題とも関連づけられる。光線が点Aから点B

まで速度 v1で,点 P から点Bまでは濃い媒体をもっと低い速度 v2でもって伝播するものとする。光線が点 Aから点 B まで伝播するのに要する総時間T は,明らかなように,次の式で求まる。

T =

√a2 + x2

v1+

√b2 + (c− x)2

v2

光線がこの道に沿って点 Aから点 B まで,可能最短時間 T で伝播するのであれば,導関数 dT/dtはゼロでなければならない。ここで T を xで微分する。

dT

dx=

(√a2 + x2

v1+

√b2 + (c− x)2

v2

)′

=x

v1√a2 + x2

+x− c

v2√b2 + (c− x)2

= 0

... x

v1√a2 + x2

=c− x

v2√b2 + (c− x)2

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すなわち,次式となる。sinα1

v1=

sinα2

v2

最後の式は,スネル(Snell)の有名な反射法則を表現するものであって,最初には,実験によって sinα1/ sinα2 = a (aは定数) の形で発見されたものである。光は Aから B まで伝わるための時間が最短である道を選ぶとする上の仮

定は,フェルマーの原理あるいは最短時間の原理として知られている。この原理が重要であるのは,スネルの法則を導くための理論的基礎を与えるだけでなく,光が濃度が異なるいくつかの媒体を通過するときの,一般的には必ずしも直線線分でない道を求めるのに応用できることもその一つである。ここで,垂直平面に座標系を導入する。ボールは(媒体を伝播する光線の

ように)点 Aから点 B まで可能最短時間で降下する道を選べるとする。そうすると,上での理由付けによって,

sinαv

= a (64)

(aは定数)が成立することになる。エネルギー保存法則によれば,ボールがある高さで達成する速度は,ボー

ルがその高さになるまでに失った位置エネルギーにだけ依存し,これから進む軌跡の形には依存しない。このことは,

v =√

2gy (65)

であることになる。また,作図によって次を示すことができる。

sinα = cosβ =1

secβ=

1√1 + tan2 β

=1√

1 + (y′)2

この式と (64)(65)とを組み合わせて,次式を得る。

y[1 + (y′)2] = C (66)

この (66) 式が,最短降下曲線の微分方程式となる。今度は,サイクロイドが最短降下曲線であること,またそれだけがそうであることを示す。実際,y′ = dy/dxであるから,方程式 (66)で変数分離を行い,次の方程式を得る。

y[1 + (y′)2] = C

y + y

(dy

dx

)2

= C

(dy

dx

)2

=C − y

y

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ここで,dy/dx = tanβ より,0 < β < π2 のとき,

tan2 β > 0

... dy

dx> 0

よって,dy

dx=

(C − y

y

)1/2

... dx =(

y

C − y

)1/2

dy

ここで,新しい変数 ϕを次の式によって導入する。(

y

C − y

)1/2

= tanϕ

したがって,y

C − y= tan2 ϕ

... y = (C − y) tan2 ϕ

よって,

y =C tan2 ϕ

1 + tan2ϕ

=C sin2 ϕ

cos2 ϕ1

cos2 ϕ

= C sin2 ϕ

また,dy = 2C sinϕ cosϕdϕ

dx = tanϕdy

= tanϕ2C sinϕ cosϕdϕ

= 2C sin2 ϕdϕ

= C(1− cos 2ϕ)dϕ

最後の方程式を積分すると,

x = C

∫(1− cos 2ϕ)dϕ

=12C(2ϕ− sin 2ϕ) + C1

となる。ここで,初期条件 ϕ = 0のとき x = y = 0,C1 = 0であることから,

x =C

2(2ϕ− sin 2ϕ)

44

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y = C sin2 ϕ

=C

2(1− cos 2ϕ)

したがって,C/2 = r,2ϕ = θとおいて,サイクロイドの標準的パラメータ表示の方程式に達する。サイクロイドは驚くべき曲線である。それは等時性的であるだけでなく,最短降下曲線でもある。

15 算術平均,幾何平均,それらに関係のある微分方程式

15.1 算術平均,幾何平均ドイツの数学者ガウス(Carl F.Gauss, 1777-1855)が最初に提起した次の

奇妙な問題を考える。m0と n0とを任意の二つの数(m0 > n0)とする。m0

と n0とから二つの新しいm1と n1とを,それぞれ,m0と n0の算術平均および幾何平均としてつくる。いいかえると,次のようにしておく。

m1 =m0 + n0

2, n1 =

√m0n0

m1 と n1 とをm0 と n0 と同じように扱って,次のようにおく。

m2 =m1 + n1

2, n2 =

√m1n1

この過程を限りなく続けて,収束が簡単に証明できる二つの実数列{mk}と{nk}(k = 0, 1, 2, · · ·)が得られる。これらの数列の極限値の差を知りたい。

15.2 エレガントな解答エレガントな解答の一つは,2階の線形微分方程式をたてることである。

これは,ドイツの数学者ボルチャート(Carl W.Borchardt,1817-1880)によるものである。aを求めるべき差とする。それは明らかにm0と n0とに依存し,このことは解析的には,a = f(m0, n0)で表される。ここで,f はある関数である。数 aの定義から a = f(m1, n1)ともなる。ここで,m0と n0に同じ数 k を乗じると,上に導いた各数m1, n1,m2, n2, · · ·および aも k 倍される。このことは aがm0 と n0 との1次の同次式であることを意味しており

a = m0f(1, n0/m0) = m1f(1, n1/m1)

記法,x = n0/m0,x1 = n1/m1,· · ·,y = 1/f(1, n0/m0),y1 = 1/f(1, n1/m1),· · ·,を用いると,

y =1

f(1, n0/m0)=m0

a=

m0

m1/y1= y1

m0

m1= m0

2m0 + n0

y1 =2y1

1 + x(67)

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を得る。と x1 と xとは方程式

x1 =n1

m1=

2m0 + n0

×√m0n0 =2

m0 + n0×m0

m0×√m0n0 =

21 + n0/m0

×√m0n0

m0=

21 + x

×√x =2√x

1 + x

で関係づけられるので,

dx1

dx=

(1 + x)/√x− 2

√x

(1 + x)2=

(1 + x− 2x)/√x

(1 + x)2=

1− x

(1 + x)2√x

=(x1 − x1

3)(1 + x)2

2(x− x3)

を得る。他方,方程式 (67)から次の式が得られる。

dy

dx= − 2

(1 + x)2y1 +

21 + x

dy1dx1

dx1

dx

= − 2(1 + x)2

y1 +2

1 + x

(x1 − x13)(1 + x2)

2(x− x3)dy1dx1

= − 2(1 + x)2

y1 +(x1 − x1

3)((1 + x)(x− x3)

dy1dx1

ここで両辺に (x− x3)を乗じると,次を得る。

(x− x3)dy

dx= − 2y1

(1 + x)2(x− x3) + (x1 − x1

3) + (x1 − x13)(1 + x)

dy1dx1

=2x(x− 1)

1 + xy1 + (1 + x)(x1 − x1

3)dy1dx1

この方程式の両辺を xで微分すると

d

dx

[(x− x3)

dy

dx

]= 2y1

d[x(x− 1)/(1 + x)]dx

+2x(x+ 1)

1 + x

dy1dx1

dx1

dx

またこれを変形すると

d

dx

[(x− x3)

dy

dx

]− xy =

1− x

(1 + x)√x

(d

dx1[x1 − x1

3]dy1dx1

− x1y1

)

したがって,d

dx

[(x− x3)

dy

dx

]− xy = a∗(y)

とおいて,次の式に達する。

a∗(y) =1− x

(1 + x)√x× 1− x1

(1 + x1)√x1× 1− x2

(1 + x2)√x2×· · ·× 1− xn

(1 + xn)√xna∗(yn)

ここで,nを無限大にすれば,1− xn はゼロに収束し,したがって

a∗(y) = 0

である。このことは,yが微分方程式

(x− x3)d2y

dx2+ (1− 3x2)

dy

dx− xy = 0

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を満たすことを意味する。

a = f(m0, n0) = yf2(m0, n0)

m0(68)

に注意すれば,この数の値は容易に求まる。実際,yは方程式 (68)の定数解でなければならないので,その解は y ≡ 0だけであることになる。こうして,列{mk}と{nk}の極限値の差はゼロである。

16 水平面からある角度で投げ放たれた物体の飛翔について

ある物体が水平面に対し角度 αの方向に初期速度 v0 で投げ出されるものとする。物体の摩擦力(空気の抵抗力)を無視した運動の方程式を導くことにする。軌道の任意の位置M [x(t), y(t)]で,質量mの物体には唯一の力,重力 P =

mgが作用する。したがって,ニュートンの第2法則に従い,x軸,y軸に射影した次の形の微分方程式が書ける。

md2x

dt2= 0 m

d2y

dt2= −mg

mを消去して,方程式

d2x

dt2= 0

d2y

dt2= −g (69)

を得る。物体の運動の初期条件は次の通りである。t = 0のとき,

x = 0 y = 0dx

dt= v0 cosα

dy

dt= v0 sinα (70)

初期条件 (70)を考慮して,方程式 (69)を積分すると,物体の運動方程式は次となる。

x = (v0 cosα)t y = (v0 sinα)t− gt2

2(71)

方程式 (71)から,物体の運動の特性について多くの結論を導くことができる。たとえば,物体が地表に落下するまでの飛翔時間,水平飛翔距離,物体の飛翔中での最高高度,そして軌道の形を求めることができる。最初の問題は,y = 0となる時刻 tの値を求めることによって解ける。そ

うなるのは (71)の2番目の方程式から,

t

[v0 sinα− gt

2

]= 0

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のときである。すなわち,t = 0または t = (2v0 sinα)/gのときであることになる。後の値が求める答えである。2番目の問題は,飛翔時間に等しい tの値に対する xの値を計算すること

によって解くことができる。(71)の最初の方程式から,水平飛翔距離は,

x =(v0 cosα)(2v0 sinα)

g

=v20 sin 2αg

で与えられる。このことからわかる一つのことは,水平飛翔距離は 2α = 90◦,すなわち,α = 45◦のときに最大になることである。この場合の距離は,v2

0/g

である。3番目の問題の答えは,yが最大になるための条件を書きあげれば,直ち

に得られる。ところで,この条件は,導関数 dy/dtがゼロである点で yが最大であるということである。(71)の後の方程式を tで微分して得られる

dy

dt= −gt+ v0 sinα

を考えて,方程式−gt+ v0 sinα = 0

を得る。これから,t =

v0 sinαg

を得て,tのこの値を (71)の後の方程式に代入すると,物体が達する最高高度 hは,

h =(v0 sinα)v0 sinα

g− g

2v20 sin2 α

g2

=2v2

0 sin2 α− v20 sin2 α

2g

=v20 sin2 α

2g

となる。4番目の問題の答えもすでに求まっている。すなわち,軌道は放物線で表

せる。それは,方程式 (71)が放物線のパラメータ表示であって,直交デカルト座標系では,次のように表せるからである。

y = x tanα− gx2

2v20

sec2 α

したがって,水平面からある角度で投げ放たれた物体の飛翔について,考えることができた。

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17 無重力17.1 無重力のイメージ無重力(ゼロ g)の状態といえば(意識するにせよ,しないにせよ),宇宙

船の船室での宇宙飛行士の“浮遊”のイメージと結びつくが,この状態はさまざまのところで生じるものである。

17.2 エレベーターにおける無重力17.2.1 エレベーターの構造

まずここでは,下の方向に動いているエレベーターを考えよう。体重 P の人間が,加速度 ω = αg(ただし 0 < α < 1,gは重力加速度)で下降しているエレベーターの中に立っているとする。この人間がキャビンの床に働かせる圧力と,この圧力とうち消しになるエレベーターの加速度を決定することにする。エレベーターの中の人間に作用する二つの力は,重力 P と床が人間に及

ぼす力 Q(その数値は人間が床に与える圧力と等しい)とである。よって,ニュートンの運動方程式(F = ma)を用いると,人間の運動の微分方程式を次のように書くことができる。

md2x

dt2= P −Q (72)

ここで,d2x/dt2 = ω = αgであり,m = P/gであるから,方程式 (72)を次のように書き換えることができる。

Q = P −md2x

dt2

= P −mαg = P (1− α) (73)

0 < α < 1であるから,Q < P と結論できる。こうして,下の方向に動いているエレベーターのキャビンの床に人間が働かせる圧力は Q = P (1− α)で決まる。他方,エレベーターが上方に加速度 ω = αg,0 < α < 1で動くときには,人間がキャビンの床に働かせる圧力は力 Q = P (1 + α)と定まる。

17.2.2 無重力の状態

つぎに,どんな加速度のとき圧力がなくなるかを明らかにしよう。そのためには,(73)の Qに 0を代入しさえすればよい。このとき,α = 1である。すなわち,Qがゼロになるためにはエレベーターの加速度は重力加速度と同じでなければならない。したがって,キャビンが加速度 gで自由落下しているときには,人間が床

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に働かせている圧力はゼロである。無重力とよばれるのがこの状態である。無重力状態では,人体のさまざまの部分は互いに圧力を及ぼし合うことはなく,異常な感覚を体験する。無重力状態では,物体のすべての点が同じ加速度をもつ。もちろん,無重力を体験できるのは自由落下するエレベーターの中だけで

はない。

17.3 宇宙船における無重力人工衛星として地球のまわりを運動する宇宙船の人間が無重力状態におか

れるには,宇宙船の速度はどうでなければならないかを考える。この問題での一つの仮定として,rを地球の半径とし,hを宇宙船の飛行高

度(地表からはかった)として,宇宙船は半径 r + hの円周軌道を描くとする。前のセクションでわかったように,無重力状態では宇宙船の壁への圧力はゼロであり,宇宙船中の物体に作用する力 Qもまたゼロであって,Q = 0である。ここで,x軸方向を宇宙船の円軌道の主法線 nの方向とする。主法線に射影したときの運動の微分方程式

mv2

ρ=

n∑

i=1

Fkn

を使うことにする。ここで,ρ = r+ h,∑nk=1 Fkn = F であり,F の方向は

軌道の主法線の方向である。

mv2

r + h= F = m

d2x

dt2

すなわち,方程式d2x

dt2=

v2

r + h

を得る。d2x/dt2 のこの値を方程式 (72)に代入して,次を得る。

mv2

r + h= P −Q (74)

力 P は地球の引力 F に等しい。F はニュートンの重力の法則により,地球の中心からの距離 r + hの自乗に反比例する。すなわち

F =km

(r + h)2

である。ここで,mは宇宙船の質量であり,k は次に述べる方法で決まる。つまり,h = 0である地表では,重力 F はmgに等しいので,上の公式から,k = gr2 と定まる。したがって

P = F =mgr2

(r + h)2

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ここに,gは地表での重力加速度である。次に,P の得られた値を (74)に代入すると

mv2

r + h=

mgr2

(r + h)2

となり,求めていた速度は式

v = r

√g

r + h

で与えられる。

18 惑星の運動のケプラーの法則ニュートンの重力の法則によれば,どんな物体も距離 rだけ離れており,そ

れぞれの質量がmとM であるとき,引力

F =GmM

r2(75)

で引き合う。ただし,Gは重力定数である。この法則に基づいて太陽系における惑星の運動を考える。mを太陽をまわ

る天体の質量とし,M を太陽の質量とする。この運動に及ぼす他の天体の影響は無視する。座標系の原点を太陽の位置とし,惑星の時刻 tでの位置は,動座標 (x, y)

の点であるとする。惑星に働く引力 F は二つの成分に分けられる。その一つは x軸に平行で,F cosϕに等しく,もう一つは y軸に平行であって,F sinϕに等しい。式 (75)とニュートンの第2法則を用いて,次の方程式を得る。

mx = −F cosϕ = −GmMr2

cosϕ (76)

my = −F sinϕ = −GmMr2

sinϕ (77)

ここで,sinϕ = y/rであり,cosϕ = x/rであるから,方程式 (76)と (77)を次のように書き換えることができる。

x = −kxr3

y = −kyr3

定数 kは GM に等しい。最後に,r =

√x2 + y2 であることを考えて,次の微分方程式に帰着する。

x = − kx

(x2 + y2)3/2y = − ky

(x2 + y2)3/2(78)

一般性を失うことはないので,次のように仮定する。t = 0のとき

x = a y = 0 x = 0 y = v0 (79)

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これで問題は,方程式 (78)を初期条件 (79)のもとで考えることになった。方程式 (78)の特徴により,最も便利な座標系は,極座標 x = r cosϕ,y = r sinϕであることがわかる。こうするとき

x = r cosϕ− (r sinϕ)ϕy = r sinϕ+ (r cosϕ)ϕx = r cosϕ− 2(r sinϕ)ϕ− (r sinϕ)ϕ− (r cosϕ)ϕ2

y = r sinϕ+ 2(r cosϕ)ϕ+ (r cosϕ)ϕ− (r sinϕ)ϕ2

(80)

したがって,(80)をまとめると,

x = (r − rϕ2) cosϕ− (2rϕ+ rϕ) sinϕ

y = (r − rϕ2) sinϕ+ (2rϕ+ rϕ) cosϕ

となる。最後の2式を使って,微分方程式 (78)を次の形に書き直せる。

(r − rϕ2) cosϕ− (2rϕ+ rϕ) sinϕ = −k cosϕr2

(81)

(r − rϕ2) sinϕ+ (2rϕ+ rϕ) cosϕ = −k sinϕr2

(82)

方程式 (81)の両辺に cosϕを乗じた積と,方程式 (82)の両辺に sinϕを乗じた積とを加え合わせて,

r − rϕ2 = − k

r2(83)

を得る。方程式 (81)の両辺に sinϕを乗じた積と,方程式 (82)の両辺に cosϕを乗じた積を引き算して,

2rϕ+ rϕ = 0 (84)

を得る。ここで,初期条件 (79)は極座標系では次の形になる。t = 0のとき,

r =√a2 + 0 = a (a > 0)

ϕ = tan−1 yx = tan−1 0

a = 0r = 0ϕ = 1

1+(x/y)2 · yx−yxx2 = av0a2 = v0

a

(85)

である。こうして,方程式 (78)の初期条件 (79)のもとでの研究は,方程式 (83)と

(84)との初期条件 (85)のもとでの研究に帰着された。また,方程式 (84)は,

d

dt(r2ϕ) = 0 (86)

とも書き改められる。ところが,方程式 (86)から,

r2ϕ = C1 (87)

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となる。ここに,C1は興味ある幾何学的意味をもつ定数である。詳しくは次の通りである。一つの物体が弧 PQに沿って点 P から点 Qまで移動するものとする。線分 OP と OQおよび弧 PQで囲まれた領域の面積を S とする。微積分法で次のことを学んでいる。

S =12

∫ ϕ

0

r2dϕ

すなわち,dS =

12r2dϕ

したがって,

dS

dt=

12r2dϕ

dt=

12r2ϕ (88)

導関数 dS/dtは面積速度としても知られているて,(87)を考えて r2ϕは定数であるから,面積速度も一定であると結論できる。ところが,このことは今度は,物体は動径ベクトルが等時間内には等面積を掃きつくすように運動することになる。この面積法則がケプラーの三つの法則の一つである。それはまとまった形では次のように述べることができる。どの惑星も太陽のまわりの平面曲線に沿って,太陽と惑星とを結ぶ動径ベクトルが等時間内に等面積を掃きつくすように運動する。次に,惑星の軌道の形を扱ったケプラーの別の法則を導くために,方程式

(83)と (84)およびこれらに課せられる初期条件 (85)を考える。初期条件から,一つのこととしては,t = 0のとき,r = aであり,dotϕ = v0/aとなる。ところで,条件 (87)から C1 = av0 となる。したがって,

r2ϕ = av0 ... ϕ =av0r2

(89)

これによって,方程式 (83)は次のように変形される。

r =a2v2

0

r3− k

r2

r = pとして,この方程式を次の形に書き直す。

dp

dt=dp

dr

dr

dt= p

dp

dr=a2v2

0

r3− k

r2

すなわち,pdp

dr=a2v2

0

r3− k

r2

最後の微分方程式で変数を分離し,積分すると,∫p dp =

∫ (a2v2

0

r3− k

r2

)dr

p2

2=k

r− a2v2

0

2r2+ C2

53

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となる。ここで,r = aでは p = r = 0であるから,次を得る。

C2 =v20

2− k

a

こうして,次の方程式に到達する。

r2

2=k

r− a2v2

0

2r2+v20

2− k

a

このことから,平方根の正の値だけを考えると,

dr

dt=

√ (v20 −

2ka

)+

2kr− a2v2

0

r2(90)

となる。方程式 (90)を方程式 (89)で割り算して,次を得る。

dr

dϕ= r

√αr2 + 2βr − 1

ここで,α =

1a2− 2ka3v2

0

β =k

a2v20

である。最後の方程式で,r = 1/uとすると,

dr

dϕ=d(1/u)ϕ

=−du/dϕu2

であるから,dr

dϕ=

1u

√α

u2+

2βu− 1

− dudϕ

= u

√α

u2+

2βu− 1

=√α+ 2βu− u2

... du

dϕ= −

√α+ 2βu− u2

最後の微分方程式で変数を分離し,積分する。∫

1√α+ 2βu− u2

du = −∫dϕ

ここで,

α+ 2βu− u2 = −(u− β)2 + β2 + α

= (β2 + α)[− 1β + α

(u− β)2 + 1]]

= (β2 + α)

(u− β√β2 + α

)2

+ 1

54

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したがって,

1√β2 + α

∫du

1− [(u− β)/(√β2 + α)]2

= −∫dϕ

ここで,(u− β)/√

(β2 + α) = vとおくと,

du =√β2 + αdv

よって,−

∫dv√

1− v2=

∫dϕ

arccos v = ϕ+ C3

v = cos(ϕ+ C3)

(1/r)− β√β2 + α

= cos(ϕ+ C3)

1r

= β +√β2 + α cos(ϕ+ C3)

ゆえに,

r =1

β +√β2 + α cos(ϕ+ C3)

=1/β

1 + [√β2 + α cos(ϕ+ C3)]/β

=a2v2

0/k

1 + e cos(ϕ+ C3)

であって,e =√β2 + α/β = av0/k−1である。ここで,ϕ = 0のとき,r = a

であるから,a =

a2v20/k

1 + e cos+C3

av20 cosC3

k=av2

0

k

cosC3 = 1

... C3 = 0

したがって,最終的に,

r =a2v2

0/k

1 + e cosϕ(91)

となる。解析幾何学で,これは円錐曲線の極座標表示であって,eは円錐曲線の離心率であることを学んでいる。ここでは,次の場合がありうる。

(1) e < 1,すなわち v20 < 2k/aであれば,楕円

(2) e > 1,すなわち v20 > 2k/aであれば,双曲線

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(3) e = 1,すなわち v20 = 2k/aであれば,放物線

(4) e = 0,すなわち v20 > k/aであれば,円

天文観察によって,太陽系のすべての惑星について,v20 の値は 2k/aより

も小さいことがわかっている。したがって,ケプラーのもう一つの法則,惑星の運動は太陽を一つの焦点とする楕円を描く,を得たことになる。月も地球の人工衛星もその軌道は楕円であるが,これらの楕円はほとんどの場合に円に近い。すなはち eはゼロとわずかしか違わない。たとえば,ハレー彗星のような循環彗星の軌道については,その離心率が

1より小さく1に近い“偏長”楕円に似ている。放物線と双曲線に沿って運動する天体は,再び同じ場所に戻ることはない

ので,一度だけしか観測されない。次に,離心率 eの物理的意味を明らかにしていく。まず,惑星の速度ベク

トル V のそれぞれの x軸と y軸方向の成分 xと yとベクトル V の大きさ v

とは,v2 = x+ y

を満足するが,これと (80)とを考慮して,次のように書ける。

v2 = r2ϕ2 + r2

このことから,質量mの惑星の運動エネルギーは次式で与えられる。12mv2 =

12m(r2ϕ2 + r2) (92)

システムの位置エネルギーは,惑星を無限に遠くに(そこでは,位置エネルギーはゼロ)動かすのに必要な仕事量に“マイナス”符号を付けたものであるから,

−∫ ∞

r

km

r2dr =

[km

r

]∞

r

= −kmr

(93)

となる。システムの総エネルギーを Eで表す。Eはエネルギー保存の法則により一定であり,式 (92)と (93)とから,次式を満たす。

12m(r2ϕ2 + r2)− km

r= E (94)

ここで,ϕ = 0とおき,式 (91)と (94)

r =a2v2

0/k

1 + e

mr2a2v20

2r4− km

r= E

最後の2式から rを消去して,離心率

e =

√1 + E

2a2v20

mk2

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を得る。この結果,惑星の軌道の方程式 (91)

r =a2v2

0/k

1 +√

1 + E(2a2v20/mk

2) cosϕ

となる。この式から,軌道は,E < 0,E > 0,E = 0,E = −mk2/(2a2v20)

に応じて,それぞれ,楕円,双曲線,放物線,円とであることになる。こうして,惑星の軌道の特性は総エネルギー Eによって完全に定まる。このことの特別な場合として,惑星,たとえば地球に総エネルギー Eが正の量に増大するように“一撃”を加えることが仮にできるならば,地球の軌道は双曲線軌道に変わり,太陽系を永遠に去ってしまうことになる。次に,ケプラーの第3法則を考える。この法則は,惑星の太陽のまわりの

回転周期に関するものである。ケプラーの前の法則を導くときに得た結果を考慮すれば,楕円軌道の場合の議論に限定するのが自然なこととなる。この楕円軌道の方程式はデカルト座標系では,よく知られているように,

x2

ξ2+y2

η2= 1

である。ここで,離心率は e = C/ξ,C2 = ξ2− η2であるから,したがって,

e2 =ξ2 − η2

ξ2

すなわち,

η2 = ξ2(1− e2) (95)

である。この式と等式 (91)の性質を考慮すると,

ξ =12

(a2v2

0/k

1 + e+a2v2

0/k

1− e

)=

a2v20

k(1− e2)=a2v2

0ξ2

kη2

すなわち,

η2 =a2v2

0ξ2

k(96)

に達する。惑星の回転周期,すなわち惑星がその軌道をひとめぐりするための時間を T で表す。このとき,楕円で囲まれる領域の面積は πξηであるので,式 (88)と (89)に基づき,結論 πξη = av0T/2に達する。最後に,等式 (96)を考慮すると,

π2ξ2η2 =14a2v2

0T2

a2v20

kπ2ξ3 =

14a2v2

0T2

... T 2 =4π2ξ3

kを得る。これは,ケプラーの第3法則を解析的に表現している。言葉では,惑星の

回転周期の2乗は惑星軌道の長軸の3乗に比例するといえる。

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19 はりのたわみ19.1 はり19.1.1 弾性線

断面積が一定で,一様な材料からできた水平なはり ABを考える。対称軸を含む垂直平面のはりに働く力が,はりをたわませるものとする。これらの力は,はりそのものの重量,あるいは外力か,または同時に作用するこれらの二つの力であることもある。これらの力を受けると対称軸もたわむことは明らかである。このたわんだ対称軸を弾性線と呼ぶ。この曲線の形を決定することは弾性理論で重要な役割を果たしている。はりにはその固定あるいは支えのし方によって,さまざまの型があること

に注意する必要がある。

19.1.2 はりのたるみ

水平はりOAを考える。その対称軸は,原点Oの右側を正の方向とする x

軸であるとする。y軸の点 Oより下側方向を正の方向とする。外力 F1,F2,· · ·(さらに,重力が大きければ,重力と)を受けると対称軸はたわみ,これが弾性線となる。弾性線の x軸からの片寄り yは,点 xにおけるはりのたるみ(sag)として知られている。こうして,はりのたわみは弾力線の方程式がわかりさえすれば,いつでも求めることができる。

19.2 弾力線の方程式19.2.1 たわみモーメント

座標 xでのはりの断面におけるたわみモーメントをM(x)で表すことにする。たわみモーメントとは,はりの点 xで片面から作用する力のモーメントの代数和として定義される。モーメントの計算においては,上向きにはりに作用する力は負のモーメントを,下向きに作用する力は正のモーメントをもたらすものとする。

19.2.2 弾力線の方程式

材料力学で,位置 xでのたわみモーメントは,弾性線の曲率半径と次式によって関係づけられることが証明されている。

EJy′′

[1 + (y′)2]3/2= M(x) (97)

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ここに,E ははりの材質で決まるヤング(Young)の弾性率であり,J ははりの点 xにおける断面の,重心を通る水平直線のまわりの慣性モーメントである。積EJ はまげ剛性(flexural rigidity)と通常呼ばれているものである。この積は,これから後では,一定であるとして話を進める。さて,はりのたわみが小さいことはよくあることであって,そうであると仮定すれば,弾力線の傾き y′ が非常に小さくなり,方程式 (97)に替えて,近似方程式

EJy′′ = M(x) (98)

を用いることができる。上の方程式 (98)が実用上どのように用いられるかを説明するために,次の

問題を考える。長さ lの一本の水平な一様な鋼鉄のはりが,二つの支点が可動なように横たえられており,その自重でたわむものとする。重さは単位長さあたり pkgf(キログラム重)である。弾性線の方程式と最大たわみとを決定しよう。はりは二つの点で支えられているので,各支点ははりの重さの半分に等しい上向きの反作用力 (pl/2)をはりに働かせている。たわみモ-メントM(x)は点Qの片側に作用するこれらの力の代数和である。ここで,点Q

は OAの間にあり,点 Oから xの距離にある点である。まず Qの左側の力の作用を考える。上向きの力すなわち負のモーメントと,下向きの正のモーメントから,点 Qのおける総たわみモーメントは,次式で与えられる。

M(x) = −pl2x+ px

(x2

)=px2

2− plx

2(99)

次に同様に点の右側の総たわみモーメントを考えると,

M(x) = p(l − x)l − x

2− pl

2(l − x) =

px2

2− plx

2(100)

となる。この式 (99)と (100)からたわみモーメントが等しいことになる。ここで,たわみモーメントの求め方がわかったので,基本方程式 (98)は容易に書くことができる。この方程式は,いまの場合

EJy′′ =px2

2− plx

2(101)

である。はりは点OとAではたわまないので,方程式 (101)から yを求めるのに,はりの端点での次の条件を使う。

x = 0のとき y = 0,x = lのとき y = 0

x2 − lx = T ′′ として積分していくと

T =x4

12− l

6x3 + C1x+ C2

よってy =

p

2EJ

(x4

12− l

6x3 + C1x+ C2

)

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となり,上の条件を用いると

y =p

24EJ(x4 − 2lx3 + l3x

)

が得られる。実用でもこの式を使って,最大たわみの計算がなされる。たとえば,この具体例では,対称性を考慮して(直接に計算することもできる),最大たわみは,x = l/2のところに起こり,その大きさは 5pl4/(384EJ)である。ここで,E = 21 · 105kgf/cm2,J = 3× 104cm4 である。

20 丸太の運搬丸太を製材所に運搬するとき,木材運送車は途中で林道を通らなければな

らない。林道の幅は,多くのところで1台のトラックしか通過できないほどである。トラックが出会ったときに待避できるように道路に待避場所を設けたい。荷物を積載したトラックと空車のトラックが,待避場所だけでしか出会わないようにする適切な運行方式はここでは問題にしない。道路のカーブをどれだけ広くとるべきかを問題にする。たとえば,長さ30メートルの丸太を運ぶことができるためには,運転手はカーブでどんな軌跡を描くようにトラックを操縦すべきかを問題にする。ここでは,木材用トラックは機動性に豊み,道路のごく限られた領域であってもうまく操縦できるものとする。普通の材木運搬車は,トラクター(牽引車)とトレーラー(引かれる車)

とをゆるやかに結んだものである。トラクターには前駆動車軸と1対の後車軸があり,その上側に,対称的な位置に置かれた軸のまわりを自由に回転する円形の台が乗せられている。この台は横木と呼ばれ,材木がこれに鎖で結びつけられる。トレーラーは1本の横木が結ばれた1対の後車軸だけである。この横木にも材木がしばりつけられる。トレーラーのシャーシーは2個の金属の円筒だけでできていて,その一方は他方の中に滑り込めるようになっており,シャーシーは横木とトレーラーをトラックに結ぶ軸と連結している。したがって,シャーシーの長さは走行中に変わりうる。そのため,トラクターとトレーラーとはある程度勝手に動ける。点Aと点Bは距離 hだけ離れた横木の軸に対応する。XY は材木であって,AX = λhとする。点 C はトラックとトレーラーとの連結点で,AC = ahとする。aの典型的な値は a = 0.3である。この値はトラックに積載する前に調整でき,単なる牽引のときにはaはゼロである。FF はトラクターの前車軸。,PP とQQはトラクターの後車軸であって,RRと SSはトレーラーの車軸である。いずれも長さは 2Lである。つまり,簡単のために,木材運搬車の幅を 2Lとする。後端での荷物の幅を 2W で表す。これから後で,木材運搬者の振り幅の概

念が必要になる。それは,運搬車の後部(簡単にして,点X)の,その運動軌道からの最大のずれとするのが一般的である。道路の幅は 2βhであり,道路のカーブは点Oを中心とする半径 h/αの円弧の形であるのが普通である。簡

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単化のために,運搬車がカーブに入るときはトラクターとトレーラーとが一直線になっていて,運転士は,前の横木の軸に対応する点 Aが,センターラインの真上になるようにトラックを運転するとする。点 Aはトラクター AC

と初期方向との角度 χによって決まる。このとき,横軸が初期方向となり,縦軸がそれに垂直になるように座標系Oxyを選ぶと便利である。一般の位置では,材木と初期方向とはある角度 θをもっている。角 BAC を考えると,それを uで表して,u = χ− θとなる。角 uを運搬車の遅れ角と通常呼んでいる。カーブにおける運搬車の一振りが許される求めたい道路の半幅 hは,代数和 OX −OA+W で決定される。カーブの内側での道路の必要な半幅は,点OからABへの垂線の長さをOP として代数和OA+L−OP が決定される。運搬車が走行中,車輪の横揺れは全くないが,あるとしてもごく小さいも

のとする。こうすると,トラクターのセンターラインAC が,点Aでの円周の弧に接することにもなり,OAが AC に垂直であって,角度 χは点 Aの円周の弧に沿う運動によって決まることになる。また,道路を開設するときは,道路のカーブの曲率を,ほぼ 30mのカーブの弧の長さに対応する角度N◦で決めることを注意する。ここでの記法では,

N◦ =1802

π· 30αh

(102)

となる。この式で,h はメートル単位での値である。こうして,h = 9m,α = 0.1とでは,N◦=..19◦となり,h = 12m,α = 1.0ではN◦=..142◦となる。実際のことを考えると,αの値としては 0と 1の間だけを考えなければならない。αの値が大きければ大きいほど,材木運搬車の機動性が大きくなる。材木の長さ λh は h よりも長く,実情を考えると,3h よりも大きくなる

ことはない。したがって,λの値は 1と 3の間にある。定数 aについては,0 ≤ a < 0.5 と仮定する。最後に,hの値はケース,ケースでいろいろに選ばれるが,いずれにしても 9mと 12mの間にあることにする。トラクターの車輪とは横揺れしないので,点 Aの座標は,

x =h

αsinχ y =

h

αcosχ

である。点 B の座標は,

X =h

αsinχ− h cos θ Y =

h

αcosχ+ h sin θ (103)

である。トレーラーの車輪も横揺れはしないので,点BはBCの方向に動き,

dY

dX= − tanψ (104)

となる。ここで,ψは BC と初期方向との角度である。次に,χ = u+ θであることを用いて,三角形 ABC について考えて,正弦定理から次の等式を

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得る。

sin(χ− ψ)h

=sin(θ − ψ)

ah=

sinubh

(105)

ここで,0 < b < 1であり,ψ,θ,uは χの関数である。次に,(103)と (104)を併せ,三角関数の加法定理を用いると,(−hα

sinχ+ hdθ

dχcos θ

)cosψ +

(−hα

cosχ+ hdθ

dχsin θ

)sinψ = 0

h

α(sinχ cosψ − sinψ cosχ) = h

dχ(cos θ cosψ + sin θ sinψ)

sin(χ− ψ) = αdθ

dχcos(θ − ψ) (106)

を得る。aを固定し,χ = u+ θを χで微分すると,

1 =du

dχ+dθ

すなわち,du

dχ= 1− dθ

ここで,(106)と (105)より,

du

dχ= 1− sin(χ− ψ)

α cos(θ − ψ)

= 1− (sinu)/bα cos(θ − ψ)

(107)

さらに,(105)より,sin(θ − ψ) =

a

bsinu

1− cos2(θ − ψ) =a2

b2(1− cos2 u)

cos2(θ − ψ) = 1− a2

b2(1− cos2 u)

cos(θ − ψ) > 0より,

cos(θ − ψ) =

√1− a2

b2+a2

b2cos2 u

したがって,(107)と最後の式より,微分方程式

du

dχ= 1− sinu

α√b2 − a2 + a2 cos2 u

が得られる。χ = 0のとき θ = 0であるから,初期条件は u(0) = 0であり,ここでは遅れの角度が未知関数である。したがって,解析的に解くためには,BASICによるプログラムをつくらなければならない。よって,このセクションはこれで終了する。

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第 II部

逆問題を解く21 安あがりの射撃ここでは,単位質量を持つ弾丸が初速度 vで,x軸の正の向きから θの角

度で原点から発射されたとする。Galileoの考えによると,仰角 θで飛び出す速度 v の運動は x軸方向と y 軸方向へ,それぞれ vx,vy をもつ2つの独立な運動へ分解できる。速度 vと2つの速度成分との関係は三角関数の基本公式から,

vxv

= cos θ

vyv

= sin θ

となる。x軸方向の運動だけを考えてみよう。x軸方向にはいかなる外力も働いていないので(空気の抵抗を無視し,重力は y軸方向のみ働くとする),Galileoの慣性の法則から,x軸方向の速度は一定となる。x軸方向の初速度は vx(= v cos θ)であったから,x軸方向の速度はつねに vx となる。したがって,t時間後に弾丸は,x座標が

x = vxt

の位置へ動いていることがわかる。y軸方向へは2つの法則が成り立つ。t時間後,慣性の法則は弾丸を vytの高さへ運び上げ,これと同じ時間内に地球の重力場にあって,ずーっと落ちつづけている。Galileoの落体の法則によると,t時間の間に物体は g

2 t2の距離だけ落ちる。ここに,gは重力加速度であ

る。これら2つの効果をつなぎ合せると,t時間後に弾丸の y座標は

y = −g2t2 + vyt

となる。これら2つの方程式x = vxt

y = −g2t2 + vyt

が,弾丸がたどる曲線,すなわち軌道の関数表現を与える。

21.1 演習1.練習

弾丸の飛行時間を,vy と gを用いて表せ。

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y = −g2t2 + vyt

y = 0とすると0 = t

(vy − g

2t)

t = 0,2vyg

よってt =

2vyg

2.練習弾丸の到達距離Rとは,軌道が正の x軸と交わる点の x座標である。このとき,到達距離は vxvy = gR

2 を満たすことを示せ。

R = vxt

= vx × 2vyg

=2vxvyg

vxvy =gR

2

3.問題どんな到達距離 R ≥ 0でも,原理的には初速度の x成分と y成分,vx と vy

の無限通りの組合せによって実現できることを示せ。

vy =gR

2vx

4.計算重力加速度 g = 32, 2フィート/sec2をとり,Rを 5000フィートとする。y軸方向の初期速度 vy = 400フィート/sec2 を与えたときの,R = 5000フィートとなるような初期速度の水平成分 vx を求めよ。

vy =80500vx

400 =80500vx

vx = 201, 25

よって,水平成分 vxは 201, 25フィート/secとなる。(以下省略)

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5.問題与えられた砲口速度に対して,到達距離 Rは

R =v2

gsin 2θ

で表されることを示せ。

R =2vxvyg

=2gv cos θ sin θ

=v2

gsin 2θ

よって成り立つ。

6.質問与えられた砲口速度に対して,到達距離が最大となる仰角を求めよ。また,そのときの最大到達距離を求めよ。

sin 2θ = 1

2θ =π

2θ =

π

4= 45◦

R(π

4

)=v2

g

7.問題砲口速度 vを固定する。弾丸の最大高度を仰角と砲口速度で表せ。

dy

dt= −gt+ v sin θ = 0

t =v sin θg

y = −g2

(v sin θg

)2

+ v sin θ(v sin θg

)

= −v2 sin2 θ

2g+v2 sin2 θ

g

=v2 sin2 θ

2g

65

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8.問題到達距離R > 0が与えられたとする。最小の砲口速度 vでこの到達距離を実現するような仰角を求めよ。また,最小の砲口速度はいくらか。

R =v2

gsin 2θ

v =

√gR

sin 2θsin 2θ = 1

θ =π

4

v =√gR

9.問題砲口速度 vを固定する。最大到達距離より小さいすべての到達距離はどれも2つの異なる仰角で実現できることを示せ。また,これら 2つの仰角の関係を求めよ。

R =v2

gsin 2θ

sin 2θ =gR

v2

よって,二つの仰角である到達距離を実現できることがわかる。

0 < R <v2

g

0 <gR

v2< 1

2θ1 + 2θ22

2

θ1 + θ2 =π

2

次に傾斜地での戦闘を考える。単位質量の弾丸が,原点から砲口速度 v,水平面からなす角 θで発砲され,水平面から角 α < θだけ傾いている平面に当たるとする。

10.問題砲口速度 v と仰角 θ が与えられたとき,傾斜面の目標までの飛行時間を求めよ。

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y = −g2t2 + vyt

R = vxt

R tanα = −g2t2 + vyt

vx tanα = −ggt+ vy

g

2= vy − vx tanα

t =2g(vy − vx tanα)

=2vg

(sin θ − cos θ tanα)

11.問題砲口速度 vと傾斜戦場値の角 αが与えられたとき,到達距離Rを砲口速度の水平成分と垂直成分の関数として表せ。

R = vxt

= vx2g(vy − vx tanα)

=2g(vxvy − v2

x tanα)

12.計算水平到達距離がRになるときの砲口速度の水平成分 vxと垂直成分 vy のすべての組で作られることを示せ。

R =2gvxvy − 2

gvx

2 tanα

−2gvxvy = −R− 2

gvx

2 tanα

vy =gR

2vx+ vx tanα

最小エネルギー射撃に対応する仰角と戦場地の傾斜角との関係を考察せよ。

初期エネルギー

vx2 + vy

2

2=

12

{vx

2 +(gR

2vx+ vx tanα

)2}

=12

(v2x

cos2α+g2R2

4vx2+ gR tanα

)

67

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相加相乗平均より

12

(v2x

cos2α+g2R2

4vx2+ gR tanα

)≥

√g2R2

4cos2α+

12gR tanα =

gR

2

(1

cosα+ tanα

)

よって vx はvx

2

cos2α=g2R2

4vx2

という式で表され

vx =

√gR cosα

2

で与えられる。tan θ = vy

vxより

tan θ =1

cosα+ tanα

13.問題水平到達距離 Rを砲口速度 v,重力加速度 g,仰角 θ,戦場傾斜角 αの関数で表せ。

R =2g(vxvy − vx

2 tanα)

=2v2

g(cos θ sin θ − cos2θ tanα)

14.問題与えられた砲口速度 vと戦場傾斜角 αに対して,水平到達距離Rが最大となるときの仰角を求めよ。

2 cos θ sin θ − 2cos2θ tanα =2 cosα cos θ sin θ − 2cos2θ sinα

cosα

=sin 2θ cosα− sinα cos 2θ − sinα

cosα

=sin(2θ − α)− sinα

cosα

Rが最大のときだから

2θ − α =π

2

よりθ =

π

4+α

2となる。

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15.問題最大到達距離より小さいすべての水平到達距離は,ちょうど二つの異なる仰角で実現できることを示せ。

R =v2

g

(1− sinα

cosα

)

R < v2

g ( sin(2θ−α)−sinαcosα )のとき

R =v2

g

(sin(2θ − α)− sinα

cosα

)

gR

v2= sin(2θ − α)− sinα

sin(2θ − α) =gR

v2cosα+ sinα < 1

このことから二つ仰角があることがわかり,関係は

2θ1 − α+ 2θ2 − α

2=

π

2θ1 + θ2 =

π

2+ α

θ1 − α =π

2− θ2

となる。

22 それは効力である22.1 はじめにこの単元では再び弾丸に対する逆問題を扱うが,今回は,明らかに理想化

した方法ではあるが,弾丸に働く空気抵抗も考慮する。抵抗が速度とともに増加していくことはだれもが経験している。すなわち,より速く物体が動けば,より大きい抵抗を受ける。ここでは,抵抗が速度に比例するモデルを考える。このモデルは現実に即しているとはいえない(空気抵抗はとても複雑な現象であり,最も広く受け入れられているモデルは速度の 2乗に比例するというものである)が,抵抗を受ける運動の第一近似としてみなすことができよう。Newton自身,Principiaの第�巻で線形の抵抗を受けるモデルについて研究しているが,線形のモデルは最良の物理モデルではないことを十分承知していた。なぜなら,Newtonは

しかしながら,物体の抵抗が速度に比例するというのは,物理的仮定というよりは,むしろ数学的な仮定であると述べているからである。

それにもかかわらず,彼は抵抗が速度の 2乗に比例するモデルを考える前段階において,線形のモデルを考察することはよき準備運動になると認識し

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ていた。線形のモデルにも,興味深く魅力的な多くの数学の基本的問題があることを見ていくことにしよう。安上がりの射撃では抵抗を与えない媒質内での軌跡を考察したが,ここで

も同じ設定を用いる。すなわち,弾丸は単位質量をもつ質点で,速度 v(砲口速度)で原点から正の x軸に対し仰角 θ の方向に発射されたと仮定する。抵抗のない場合,射程は仰角 θの関数として

R(θ) =v2

gsin 2θ

で与えられたことを思い出そう。ここで gは重力加速度である。したがって,仰角が与えられたとき,射程を求める順問題は上で与えられる一意の解をもつ。一方,逆問題,すなわち,与えられた射程 Rを実現するような仰角を決定する問題は,0 ≤ R < v2/gを満たす射程 Rに対してちょうど 2つの解をもつ(この事実は,はじめに Tartagliaによって 1537年に発表された)。さらに,最大射程は,θ = π/4radのときに実現される。さて,われわれは,弾丸が速度に比例した抵抗力を受けるようなモデルを

構築しよう。その比例定数 kを抵抗係数とよぶ。弾丸が位置 (x, y)にあるならば,それは抵抗力

k

[x

y

]

と重力[

0−g

]

を受けるであろう。したがって,弾丸の運動方程式は,

x = −kx

y = −g − ky

となり,また初期条件は

x(0) = v cos θ x(0) = 0

y(0) = v sin θ y(0) = 0

である。今 u = xとすると,

u = −kuu+ ku = 0

0 = ekt + kektu

0 =d

dt(ektu)

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ここで初期条件を用いると,x(0) = C

u = x = v cos θe−kt

を得る。さらに,2つめの初期条件を用いて積分すると

x(0) = v cos θ(−1k

) +D = 0

D =1kv cos θ

となりx =

1kv cos θ(−e−kt + 1)

が得られる。同様に s = yとすると,

s = −g − ks

s+ ks = −gekts+ kekts = −gekt

d

dt(ekts) = −gekt

ekts = −g∫ektdt

ekts = −gkekt + C

初期条件よりs(0) = y(0) = v sin θ = −g

k+ C

C = v sin θ +g

k

が得られるので,

s = −gk

+ v sin θe−kt +g

ke−kt

= e−kt(v sin θ +

g

k

)− g

k

となる。さらに積分して,初期条件を用いると

y = −1ke−kt

(v sin θ +

g

k

)− g

kt+D

y(0) = −1k

(v sin θ +

g

k

)+D = 0

D =1k

(v sin θ +

g

k

)

となる。よって

y = −1ke−kt

(v sin θ +

g

k

)− g

kt+

1k

(v sin θ +

g

k

)

=(v sin θk

+g

k2

)(1− e−kt)− g

kt

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が得られる。また xに対する式からは,

1− e−kt =kx

v cos θ

が得られ,よってパラメータ tについて解くと,

e−kt = 1− kx

v cos θ

−kt = log(1− kx

v cos θ)

t = −1k

log(

1− kx

v cos θ

)

この 2式を yについての式に代入すると,

y =(v sin θk

+g

k2

)kx

v cos θ+

g

k2log

(1− kx

v cos θ

)

という結果が得られる。これより,弾丸の射程は方程式

x

(k2

gtan θ +

k

vsec θ

)+ log

(1− kx

v cos θ

)= 0

すなわち1− kx

v cos θ= e−A(θ)x

の根 xである。ここで

A(θ) =k2

gtan θ +

k

vsec θ

である。求める射程を R(θ)で表すならば,ここでのわれわれの解析の基礎となる方程式

R(θ) =cos θa

(1− e−A(θ)R(θ))

を得る。ここで,A(θ) = a sec θ + b tan θ,a = k/v,b = k2/gである。抵抗を与えない媒質内では,射程の具体的な公式を得ることができた。そ

して今回,速度に比例した抵抗を与える媒質内では,射程R(θ)は,上の陰関数的関係式で与えられている。この関係式は,逐次近似法,すなわち不動点反復法とよばれる古典的な近似方法を適用するのにまことに都合がよい。この方法は,θが与えられたとき,初期近似 R0 から始めて,漸化式

Rn+1 =cos θa

(1− e−A(θ)Rn)

により近似列を得て,射程 R(θ)を近似していくものである。以下の演習において,この簡単なアルゴリズムの収束を確かめる必要性が

出てくるであろう。要点は,数値計算のアルゴリズムにより R(θ)を計算す

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る必要があるということであり,抵抗を与えない媒質内のときと同じようにR(θ)を具体的な公式から計算するのではない。それでも,上で与えた R(θ)に対する陰関数的表示は,射程に関する順問題,逆問題の広範囲にわたる数学解析的な研究を促すのである。われわれの主な関心は,Tartaglia によってはじめて本格的に研究された

問題,すなわち射程の逆問題にある。上で得られた陰関数的関係式を使い,Tartagliaの観測結果,すなわち与えられた射程距離に対してちょうど 2つの異なる仰角が存在するという事実が,線形の抵抗を与える媒質内で成り立つことを解析的に証明しよう。さらに,その陰関数的関係式を使えば,この逆問題を数値的に解く,すなわち与えられた射程に対し仰角を計算することができるであろう。最後に,その陰関数的関係式を使って,最適仰角,すなわち最大の射程を実現するような角度に対しても同様な関係式を導こう。以下の演習においては,この逆問題に対する解析的研究と数値的研究とが含まれている。

22.2 演習1.計算定数 c,d(c > 0, d > 1/c) にいろいろな値を代入し,x ≥ 0 で関数 f(x) =c(1− e−dx)のグラフを図示せよ。同じ平面上に関数 g(x) = xのグラフも図示せよ。また,これらのグラフの交点について調べよ。

f(x) = c(1− e−dx)

f ′(x) = cde−dx

f ′(0) = cd > 1

limx→∞

f(x) = c

以上のことからグラフが描ける。(グラフ省略)

以下の 7つの演習においては,関数 f は

f(x) = c(1− e−dx)

で与えられているとする。ここで c, d(c > 0, cd > 1)は定数である。以下の演習の目的は関数 f の不動点を調べることである。そのあとで,この不動点のアイデアを弾丸の射程関数の研究に適用しよう。2.練習pが f(p) = pを満たすとき,pを関数 f の不動点という。0は計算1の f の不動点であることを示せ。

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f(0) = 0

3.問題f ′(0) > 1 を示し,それより十分小さな任意の正の数 s に対し f(s) > s を示せ。

f ′(0) = cd > 1

F (s) = f(s)− sとすると,F (s) > 0であればよい。

F ′(s) = f ′(s)− 1

F ′(0) = f ′(0)− 1 > 0

F (0) = 0

ここで平均値の定理を利用すると

F (s)− F (0) = F ′(c)(s− 0) (0 < c < s)

となる cが存在する。書き直すと

F (s) = f ′(c)s

となる。今,cを十分小さくとると,F ′ が連続だから

F (s) = F ′(c)s > 0

が成り立ちF (s) > 0

となる。よってf(s) > s

が証明された。

4.問題f(c) < cを示せ。これと前の問題3の結果より f は区間 (0, c)で不動点をもつことを導け。

f(c) < cを示す。

F (c) = f(c)− c

= −ce−cd < 0

問題3よりf(s) > s

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F (X) = f(x)− xとすると

F (c) < 0

F (s) > 0

となり,中間値の定理より F (x) = 0となる点が区間 (s, c)の間に存在する。よって,区間 (0, c)の間に不動点があるといえる。

5.問題すべての xに対し f ′′(x)を示し,これより f の正の不動点は一意であることを証明せよ。以下,この不動点を pで表す。

f ′′(x) = −cd2e−dx < 0

今,不動点が 2つ (α, β, α 6=β)あるとする (背理法)。

f(x) = x

F (x) = f(x)− x

F (α) = 0

F (β) = 0

ところが,f(0) = 0であるので,0 ≤ x ≤ cで,ロルの定理を用いると,

0 < ξ < α, F ′(ξ) = 0

という ξ が存在する。同様に,α ≤ x ≤ β でロルの定理を用いると,

α < η < β, F ′(η) = 0

という η が存在する。さらに,ξ ≤ x ≤ η でロルの定理を用いると,

ξ < γ < η, F ′′(γ) = 0

という γ が存在する。ところで

F ′′(γ) = f ′′(γ) = 0

一方f ′′(x) < 0

であるので,矛盾が起こり,正の不動点は一つといえる。

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6.問題ある x(x > p)に対し f(x) > xならば f は q > pを満たす不動点 qをもつことを示せ。これより,ある xに対して f(x) > xならば x < pであること,およびある xに対して f(x) < xならば x > pであることを導け。

1. f(x) > x⇒ x < p

2. f(x) < x⇒ x > p

を証明したい。1. f(r) < r ⇒ r < pとする。(背理法)

F (x) = f(x)− x

F (r) > 0

F (c) < 0

よって,区間 (r, c)で F (q) = 0となる点 qが存在し,

f(q) = q

となる不動点 qが存在する。よって,不動点が p, qの 2つとなり,問題5の不動点の一意性に反し,

f(x) > x⇒ x < p

が証明された。2. f(r) < r ⇒ r < pとする。(背理法)

F (r) < 0

F (s) > 0

よって,区間 (s, r)に F (q) = 0となる点 qが存在し,

f(q) = q

となる不動点が p, q の 2 つとなり,問題5の不動点の一意性に反し,

f(x) < x⇒ x < p

が証明された。

7.問題不等式 ex > 1 + x(x > 0)を用いて,x > 0において (x + 1)(1 − e−x) > x

を示せ。次に,この結果を使い,f((cd − 1)/d) > (cd − 1)/dを示せ。また,d(c− p) < 1を示せ。

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(x+ 1)(1− e−x)− x = −(x+ 1)e−x + 1

=ex − (x+ 1)

ex> 0

... (x+ 1)(1− e−x) > x

次に,f((cd− 1)/d) > (cd− 1)/dを証明する。

f

(cd− 1d

)− cd− 1

d= c− ce−(cd−1) − cd− 1

d

= c

{1− e−(cd−1) − cd− 1

cd

}

上の (x+ 1)(1− e−x) > xより

1− e−x >x

x+ 1

これを利用すると

c

{1− e−(cd−1) − cd− 1

cd

}> c

(cd− 1cd

− cd− 1cd

)= 0

... f(cd− 1d

)>cd− 1d

次に d(c− p) < 1を示す。問題6(f(x) > x⇒ x < p)を利用すると

cd− 1d

< p

cd− 1 < dp

d(c− p) < 1

8.問題0 < f ′(p) < 1を示せ。

f(p) = pより,p = c− ce−dp

であるから,e−dp =

c− p

c

また,f ′(p) = cde−dp であるから,

f ′(p) = cdc− p

c= d(c− p) < 1

... 0 < f ′(p) < 1

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9.問題0 < θ < π/2,r > 0に対し

F (θ, r) =cos θa

(1− e−A(θ)r)

とおく。ここで,A(θ) = a sec θ + b tan θ。(1)F は連続な偏導関数 Fθ と Fr をもつことを示せ。

Fθ(θ, r) = − sin θa

(1 +A′(θ)re−A(θ)r)

A′(θ) =a sin θ + b

cos2 θ

Fr(θ, r) =cos θa

A(θ)e−A(θ)r

(2)R(θ) = F (θ,R(θ))を示せ。

R(θ) =cos θa

(1− e−A(θ)R(θ))

= F (θ,R(θ))

(3)問題8を使い,Fr(θ,R(θ)) < 1を示せ。

Fr(θ, r) =cos θa

A(θ)e−A(θ)r

c =cos θa

, d = A(θ), f(x) = c(1− e−dx)

cd =cos θa

A(θ)

=cos θa

(a sec θ + b tan θ)

=1a(a+ b sin θ)

= 1 +b

asin θ > 1

f ′(p) = cde−dp

今,p = R(θ)であるから

Fr(θ,R(θ)) < 1

が成り立つ。

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10.問題問題9を使い,Rは (0, π/2)で微分可能,[0, π/2]で連続であることを示せ。

g(θ, r) = F (θ, r)− rとすると,

g(θ, r) = 0

となる rが R(θ)である。

gr(θ,R(θ)) = Fr(θ, r)− 1 < 0

... gr(θ,R(θ))

したがって,陰関数定理が適用でき,

R(θ)が (0, π/2)微分可能,[0, π/2]で連続

であるといえる。

11.問題R(θ)が

R(θ) =cos θa

(1− e−A(θ)R(θ))

の解であるための必要十分条件は,t = R(θ) sec θが

g(t) = at− 1 + e−(at+b

√t2−R(θ)2

)= 0

の解であることを示せ。

g (R(θ) sec θ) = aR(θ) sec θ − 1 + e−(aR(θ) sec θ+b

√R(θ)2sec2θ−R(θ)2

)

= aR(θ) sec θ − 1 + e−(aR(θ) sec θ+bR(θ) tan θ)

= aR(θ) sec θ − 1 + e−A(θ)R(θ) = 0

R(θ) =1− e−A(θ)R(θ)

a sec θ

=cos θa

(1− e−A(θ)R(θ))

逆は明らか。

12.問題

R∗ = maxθ∈[0,π

2 ]R(θ)

とおく。このとき,0 ≤ R < R∗ならば,R(θ) = Rを満たすちょうど二つの角 θ ∈ [0, π2 ]が存在することを示せ。

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R(θ) =cos θa

(1− e−A(θ)R(θ))

A(0) = a

R(0) = rとすると

r =1r(1− ear)

ar = 1− ear

e−ar = 1− ar

ar = 0よりr = 0

R(0) = 0

R(π

2

)= 0

よって [0.π/2]でR(θ)は連続であるから,最大値と最小値をもつ。Rは [0, c]で,

R(c) = R∗ > R, R(0) = 0 < R

とすると,中間値の定理より,

0 < ξ < c, R(ξ) = R

となる ξが存在する。同様にして,

c < η <π

2, R(η) = R

となる ηが存在する。今,R(θ) = Rとなる θが三つあるとする。すると,g(t) = 0となる tが三つあることになり,ロルの定理を用いると,g′′(α) = 0となる αが存在する。

g(t) = at− 1 + e−(at+b√t2−R(θ)2)

B = at+ b√t2 −R(θ)2 とおくと,

g′(t) = a−B′e−B

g′′(t) = −B′′e−B + (B′)2e−B

= e−B{(B′)2 −B′′}

また,B′ = a+ b

t√t2 −R(θ)2

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B′′ =−bR(θ)2

(t2 −R(θ)2)√t2 −R(θ)2

< 0

したがって,g”(t) > 0

よって,仮定に矛盾し,R(θ) = Rとなる θが二つあることが示せた。

13.問題f が計算1で定義された関数のとき,xn+1 = f(xn)によって与えられる不動点反復法を考えよう。pを f の一意の正の不動点としたとき,0 < x0 < pならば xn < xn+1 < pとなり,また p < x0 ならば p < xn+1 < xn となることを示せ。これより,どの x0 > 0に対しても不動点反復は pに単調に収束することを導け。

xn+1 = f(xn)

p = f(p)

1. 0 < x0 < p⇒ xn < xn+1 < p

2. p < x0 ⇒ p < xn+1 < xn

1. x0 < x1 < · · · < xn < pと仮定して,xn < xn+1 < pを示す。したがって,x0 < x1 < pを示すことで,xn < xn+1 < px0 <

x1 < pを示したことになる。(�)x0 = x1 とすると

x0 = p

よって 0 < x0 < pに矛盾。(�)  x0 > x1 とすると,

x1 = f(x0)

であるからx0 > f(x0)

問題6(ある xに対して f(x) < xならば x > pである)より

x0 > p

よって 0 < x0 < pに矛盾。(�)(�)より,x0 < x1 が示せた。

また,x1 = f(x0),p = f(p)より

x1 − p = f(x0)− f(p)

81

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ここで平均値の定理より

f(x0)− f(p) = f ′(ξ)(x0 − p)

となる x0 < ξ < pの ξが存在する。ここで,f ′(ξ) > 0,x0−p < 0であるから

f(x0)− f(p) < 0

x1 − p < 0

x1 < p

よってこのことから x0 < x1 < pが示せ,xn < xn+1 < pが示せたことになる。2. 1と同様(省略)。

14.練習・15.数値計算・16.数値計算・17.数値計算

(省略)

18.問題今度は,線形の抵抗を与える媒質内での最大射程を計算する問題を考えよう。もし最大射程がある角度 θで実現されるならば R′(θ) = 0である。この最大仰角 θに対し

sin θ = (sin θ +A′(θ)R(θ) cos θ)e−A(θ)R(θ)

が成り立つことを示せ。

R′(θ) = − sin θa

(1− eA(θ)R(θ)) +cos θa

[A(θ)R(θ)]′e−A(θ)R(θ)

= − sin θa

(1− e−A(θ)R(θ)) +cos θa

[A′(θ)R(θ) +A(θ)R′(θ)]e−A(θ)R(θ)

ここで R′(θ) = 0であるから

0 = − sin θa

+sin θa

e−A(θ)R(θ) +cos θa

A′(θ)R(θ)e−A(θ)R(θ)

0 = − sin θ + e−A(θ)R(θ) sin θ +A′(θ)R(θ)e−A(θ)R(θ) cos θ

sin θ = (sin θ +A′(θ)R(θ) cos θ)e−A(θ)R(θ)

よって成り立つ。

19.問題e−A(θ)R(θ) = 1− a sec θR(θ)を使い,最適仰角 θは

R(θ) =(c cos θ)/asin θ + c

を満たすことを示せ。ただし c = vk/gである。

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問題18より

sin θ = (sin θ +A′(θ)R(θ) cos θ)(1− a sec θR(θ))

= sin θ − aR(θ) tan θ +A′(θ)R(θ) cos θ − aA′(θ)R(θ)2

R(θ) 6= 0よりR(θ) = − tan θ

A′(θ)+

cos θa

A′(θ) = (a sin θ + b)/ cos2 θより

R(θ) = − sin θcos θ

· cos2 θa sin θ + b

+cos θa

=−a sin θ cos θ + a sin θ cos θ + b cos θ

a2 sin θ + ab

=b cos θ

a2 sin θ + ab

=(b cos θ)/a2

sin θ + b/a

ここで,a = k/v,b = k2/g,c = vk/g = b/aより

R(θ) =(c cos θ)/asin θ + c

20.問題問題19より最適仰角 θは

A(θ)R(θ) =c+ c2 sin θsin θ + c

を満たし,したがって s = sin θ を最大射程を実現する角度の正弦(sin)とするならば問題18より

s = (s+ c)e−(c+c2s)/(s+c)

が成り立つことを示せ。

A(θ)R(θ) = (b tan θ + a sec θ)(c cos θ)/asin θ + c

=(bc sin θ)/a+ c

sin θ + c

=c2 sin θ + c

sin θ + c

を満たす。s = sin θとすると

A(θ)R(θ) =c2s+ c

s+ c

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より

s =(s+

a sin θ + b

cos2θ· (c cos θ)/a

sin θ + c· cos θ

)e−(c+c2s)/(s+c)

=(s+

c sin θ + c2

sin θ + c

)e−(c+c2s)/(s+c)

= (s+ c)e−(c+c2s)/(s+c)

が成り立つ。

21.問題sを決定する問題20での方程式は

x = ehx

に同値であることを示せ。ここで h = (1− c2)/e,x = es/(s+ c)である。

es

s+ c= e

1−c2

e · ess+c

= es(1−c2)/(s+c)

より,

s = (s+ c)e(s−sc2−s−c)/(s+c)

= (s+ c)e−(c+c2s)/(s+c)

となりx = ehx

と同値であるといえる。

22.問題h < 1/eとなる任意の hに対して,方程式 x = ehx は一意解 x(h) ∈ (0, e)をもつことを示せ。また,a ∈ (0, e)が eha < aを満たすならば x(h) < aであることを示せ。

f(x) = x− ehx (h < 1/e, 0 < x < e)

とするとf(0) = −1 < 0

f(e) = e− ehe > 0 (eh < 1)

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よって中間値の定理より,少なくとも 0 < x < eに解を1つもつ。次に一意解であることを背理法によって示す。解が2つ (a, b)

が存在するならば,

a = eha 0 < a < e

b = ehb 0 < b < e

F (x) = x− ehx とすると,

F (a) = F (b) = 0

ここで a < bとして,ロルの定理を用いると,F ′(ξ) = 0, a < ξ < b

となる ξが存在する。

F ′(x) = 1− hehx

より

F ′(ξ) = 1− hehξ = 0

ehξ =1h> e

よって 0 < ξ < eより

0 < hξ < he < 1

e < ehξ < e1

となり矛盾。したがって一意解である。次に 0 < a < e のとき,eha < a ならば x(h) < a を示す。

x(h) < aは,p < aと考えることができる。f(x) = x− ehxとすると,

eha − a < 0 ⇒ f(a) > 0

である。したがって p < aを背理法で示す。p > aとする。

f(0) = −1 < 0

よって中間値の定理より f ′(ξ) = 0(0 < ξ < a)となる ξが存在する。これは不動点の一意性に反するので,0 < a < eのとき

eha < a⇒ x(h) < a

といえる。

23・24.数値計算

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(省略)

25.問題j は [1,∞)で 2階の導関数をもち,j(1) = j′(1) = 1を満たすとする。す

べての w > 1に対し j′′(w) > 0ならば,すべての w > 1の対し j(w) > wであることを Taylorの定理を用いて示せ。

j(1) = j′(1) = 1

テイラーの定理より

j(w) = j(1) +j(1)(w − 1)

1!+j′′(c)(w − 1)2

2!> w (1 < c < w)

...j(w) > w

26.問題問題20の解 sが s < 1/

√2であるための必要十分条件は,問題21の解 x(h)

が x(h) < e/(1 +√

2(1− eh))を満たすことである。これを証明せよ。よって,問題22から,w = 1 +

√2(1− eh)としたとき

eh(e/w) <e

w

より s < 1/√

2がしたがうことがわかる。

{s = (s+ c)e

c+c2ss+c

s < 1√2

m

x = ehx

x < e

1+√

2(1−eh)

⇑(十分条件)を示す。

x <e

1 +√

2(1− eh)

x(1 +√

2(1− eh)) < e

x√

2(1− eh) + x < e

x√

1− eh <e− x√

2x√

1− eh

e− x<

1√2

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h = 1−c2e より,

c =√

1− eh

これを,x =

es

s+ c

に代入し,s =の式になおすと,

s =x√

1− eh

e− x

となり,十分条件が成り立つ。⇓(必要条件)は明らかなので,同値であることが確認できた。w = 1 +

√2(1− eh)とすると,

x <e

w

ここで,22問題(xha < aならば x < a)より

eha < ew ならば x < a

w

x < ew ならば s < 1√

2

であるから,eha < e/wならば s < 1/√

2である。

27.練習w = 1 +

√2(1− eh)としたとき eh = 1/2 + w +−w2/2を示せ。

w = 1 +√

2(1− eh)

w2 − 2w + 1 = 2(1− eh)

2eh = 1 + 2w − w2

eh =12

+ w +−w2

2

28.問題w > 1 に対し,w < e(w−w

−1)/2 ならば eh(e/w) < ew を示せ。また不等式

w < e(w−w−1)/2 は問題25より導かれることを示せ。

w > 1

w < ew2 −w−1

2 → ehew <

e

w

を示す。27練習より

eh =12

+ w − w2

2w

2− w−1

2= 1− eh

w

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よって

w < e1−ehw

eh( ew ) <

e

w

次に問題25から w < e(w−w−1)/2 が導かれることを示す。

j(w) = ew/2−w−1/2 とおくと,w < e(w−w

−1)/2 より

j(w) > w

を示せばよい。よって

• j(1) = j′(1) = 1

• j′′(w) > 0

の二つを示せばよいことになる。

j(1) = j′(1) = 1

より成り立つ。次に,j′′(w) > 0を示す。

j(w) = ew/2−w−1/2

j′(w) = (w

2− w−1

2)′ew/2−w

−1/2

= (12

+w−2

2)ew/2−w

−1/2

j′′(w) = (−w−3ew2 −w−1

2 ) + (12

+w−2

2)2

ew2 −w−1

2

= ew2 −w−1

2 {(12

+w−2

2)2

− w−3}

よって,( 12 + w−2

2 )2 − w−3 > 0であればよい。

(12

+w−2

2)2

− w−3 =w4 + 2w2 + 1− 4w

4w4

f(w) = w4 + 2w2 + 1− 4wとおくと

f ′(w) = 4(w3 + w − 1) > 0

f(1) = 0であり,f は単調増加だから

f(w) > f(1)

...f(w) > 0

j′′(w) > 0となり j(w) > 0であることがわかる。

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参考文献 [1] 初めての逆問題ー具体例で学ぶ逆からの思考法ー

チャールズW.グロエッチュ 著

大西和榮 ·田沼一実 ·山本昌宏 訳

サイエンス社

[2] 常微分方程式モデル入門ー応用例で学ぶ微分方程式ー

V.V.アメリキン 原著

坂本 實 訳

森北出版株式会社

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あとがき三浦信一

今回卒業研究をやってみて,一年間よくやってこれたなーと思っています。最初は,僕は数学も分からないし,パソコンもワードをするので精一杯な状態でしたので,このようにTEXで,しかも微分方程式なんていう数学について書いている自分がいてちょっとすごいと思っています。放牧の瓜生なんていわれていますが,僕はとても助けて頂いた気がします。まー僕らがそれをどう生かしたかは聞かないで欲しいですが。でも先生のことを思うと,たくさん迷惑をおかけしました。すいません,そしてありがとうございます。あと,渡邉君。あなたには本当にたくさんのことを学ばせて頂

きました。合コンのこと,恋愛のこと,変態のこと。聞いているだけで,あなたは恋愛の神様になりました。ありがとうございます。つたない文で,申し訳ないんですが,そろそろ終わります。最後に,瓜生先生お体に気をつけて。これだけよろしくです。

渡邉貴之

私の卒業研究は、研究室入れ替えコンパで、瓜生先生にボウリングで負けたことから始まりました。このことにより、私の研究の目標は、「お酒を飲んだ時どうすれば瓜生先生に勝てるのか」ということ一つにしぼられました。そして、研究と努力により、以後 2戦の成績は 2勝という結果を残すことができました。このようなことがあったのもあり、瓜生先生には数学を教えて

もらったという感じはしません。「負けることを知っている者が、本当の勝ちを知ることができる」ということを学んだ気がします。お世話になりました。今後も、健康と髪の毛に気をつけて、頑張って下さい。

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