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-1- 夏秋どりイチゴのマーケティング戦略について -平成15年度東北農業研究センター野菜関係専技研修用資料- 東北農業研究センター 川手督也 消費者・実需者ニーズとマーケティング (1)消費者・実需者ニーズの把握やマーケティングが必要とされる背景 食生活全般の高品質化 多様化志向などから 消費者や実需者のニーズを的確に把握し 対応するマーケティング戦略を確立することは、今日の農業振興に際して必須となってい る。このことは、ケーキー・デザート向け需要の大きい夏秋どりイチゴでは特に重要とい える。 (2)消費者・実需者ニーズを捉える手法 消費者・実需者ニーズを捉える手法としては、①世論調査的社会調査、②商品テスト的 調査、③官能試験、④ヒアリング、さらにはグループインタビューなどがあげられる。実 際には、それぞれの手法の特徴を踏まえながら、目的に合わせて的確に組み合わせて、ニ ーズの把握を図る必要がある。 (3)マーケティングの本来の意味と基本的枠組み マーケティングという言葉は、しばしば 「販売戦略」のように捉えられることが多い。 しかし、このような捉え方は、適切でない。マーケティングとは、 “マーケット ”をタ ーゲットとした経済活動のことを指し、マーケティング戦略とは、そのための作戦を立て ることを意味する。 時代の変化とともに、必要とされるマーケティングのあり方は大きく変化している。モ ノが乏しかった高度経済成長期以前では、生産志向のマーケティング、すなわち 「作っ たものをいかに売るか」ということがポイントとされた。 高度経済成長に入り モノが豊かになると 消費志向のマーケティング すなわち 、「 費者ニーズに対応して、いかに売れるものを作るか」ということがポイントとされた。 これに対して、基本的にモノが過剰となっている成熟社会の現代は、生活志向のマーケ ティング、すなわち 「暮らしの質的なものを向上させるような“生活提案 ”をいかに 行うか」がポイントになってきているとされる。 ここで注意しなければならないのは、消費者は 「きまぐれな王様」であるとしばしば 言われるが、それ以前に「裸の王様」ではないかということである 「きまぐれな」選択 の前提となる農産物に対する知識を、果たして消費者はどれほど有しているのだろうか。 従って、消費者に対して、いかに的確に農産物の品質特性を伝達して差別化を図るかがポ イントとなるが、あわせて、消費者との交流や食農教育などの実施により、消費者の「情

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夏秋どりイチゴのマーケティング戦略について

-平成15年度東北農業研究センター野菜関係専技研修用資料-

東北農業研究センター 川手督也

Ⅰ 消費者・実需者ニーズとマーケティング

(1)消費者・実需者ニーズの把握やマーケティングが必要とされる背景

、 、 、食生活全般の高品質化 多様化志向などから 消費者や実需者のニーズを的確に把握し

対応するマーケティング戦略を確立することは、今日の農業振興に際して必須となってい

る。このことは、ケーキー・デザート向け需要の大きい夏秋どりイチゴでは特に重要とい

える。

(2)消費者・実需者ニーズを捉える手法

消費者・実需者ニーズを捉える手法としては、①世論調査的社会調査、②商品テスト的

調査、③官能試験、④ヒアリング、さらにはグループインタビューなどがあげられる。実

際には、それぞれの手法の特徴を踏まえながら、目的に合わせて的確に組み合わせて、ニ

ーズの把握を図る必要がある。

(3)マーケティングの本来の意味と基本的枠組み

マーケティングという言葉は、しばしば 「販売戦略」のように捉えられることが多い。、

しかし、このような捉え方は、適切でない。マーケティングとは、 “マーケット ”をタ

ーゲットとした経済活動のことを指し、マーケティング戦略とは、そのための作戦を立て

ることを意味する。

時代の変化とともに、必要とされるマーケティングのあり方は大きく変化している。モ

ノが乏しかった高度経済成長期以前では、生産志向のマーケティング、すなわち 「作っ、

たものをいかに売るか」ということがポイントとされた。

高度経済成長に入り モノが豊かになると 消費志向のマーケティング すなわち 消、 、 、 、「

費者ニーズに対応して、いかに売れるものを作るか」ということがポイントとされた。

これに対して、基本的にモノが過剰となっている成熟社会の現代は、生活志向のマーケ

ティング、すなわち 「暮らしの質的なものを向上させるような“生活提案 ”をいかに、

行うか」がポイントになってきているとされる。

ここで注意しなければならないのは、消費者は 「きまぐれな王様」であるとしばしば、

言われるが、それ以前に「裸の王様」ではないかということである 「きまぐれな」選択。

の前提となる農産物に対する知識を、果たして消費者はどれほど有しているのだろうか。

従って、消費者に対して、いかに的確に農産物の品質特性を伝達して差別化を図るかがポ

イントとなるが、あわせて、消費者との交流や食農教育などの実施により、消費者の「情

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報咀嚼力」を高める必要ある。

なお、前提として、 品質概念自体の再検討の必要がある。

、 、 、こうした状況の中では 必要とされるマーケティングのあり方は高度化しており また

総合的な枠組、すなわち、マーケティング・ミックスである。代表的なものは、マッカー

シーの4P理論などがあげられる これは ①Production 製品戦略 ②Price 価。 、 ( )、 (

格戦略 、③Place(販売チャネル戦略 、①Publicity(販売促進戦略)に) )

着目してマーケティングのあり方を整理しつつ、戦略を立てる方法であり、それぞれの頭

文字をとって、4P理論といわれる。

(4)対応する計量的な分析手法

、 、対応する計量的な分析手法としては 商品に対する消費者の認識の把握の仕方をもとに

「ポジショニング・マップ」を作成する手法として 因子分析、コレスポンデンス分析が

あげられる。

また 「値頃感」の算出については、価格受容帯分析などがあげられる。、

その他、表示の仕方や産地のネームバリュー、パッケージングの仕方などを含む要因の

効果を測定する方法として、コンジョイント分析などがあげられる。

定量的・定性的分析手法を含む、農産物のマーケティングリサーチの手法については、

平尾らによって簡潔にまとめられ、公刊されている 。1)

2)補 トレーサビリティについて

平成13年9月以降のBSE問題、さらには偽装表示問題、無登録農薬問題などの発生

により、農産物をめぐる消費者の信頼は大きく損なわれた。そのため、食品の安全性を確

保し、消費者の安心や信頼を取り戻すための取り組みが急務となっている。

そうした中、農林水産省などにより、食品の安全性確保に向けた取り組みを進め、国民

の不安・不信を解消し、消費者と生産者の「顔の見える関係」の確立と相互理解に向けた

体系的で総合的な施策の指針が示されている。その施策の柱の1つとして、トレーサビリ

ティシステムの導入が進められている。

食品のトレーサビリティ(追跡可能性)については、トレーサビリティを確立しようと

する事業者への手引きとして、農林水産省の事業によりガイドラインが策定され、農林水

産省のホームページに公開されている。そこで規定されている定義に従えば、トレーサビ

リティとは 「生産、処理、加工、流通、販売のフードチェーンの各段階で、食品とその、

情報を追跡し、遡及できること」とされ、また、トレーサビリティシステムとは、トレー

サビリティが確保される仕組みとされている。これは、食品に情報を結びつけることによ

って、食品を識別することができるようにすることであり、記録された食品の情報を手か

がりに、食品の行き先と、食品の履歴の遡及を可能にすることである。この情報として最

低限欠けてはならないのが、食品を特定する識別番号と、その食品を取り扱った事業者の

識別番号である。それがあれば食品の辿った経路が証明でき、追跡と遡及ができる。それ

によって製品回収、迅速な原因究明、原産地表示の保証が可能となる。

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その一方で、農産物のトレーサビリティは、極端に遠ざかった「食」と「農」との距離

を「情報」によって短縮しようとする手段でもあることがしばしば強調されている。この

ような目的から、生産履歴を消費者にも公開して、検索システムまで作成するのは、基本

的にはEU諸国でもあまり見られない特徴とされる。

実際、施策の推進において、トレーサビリティシステムの導入は、①食品の大量生産・

広域流通等が進展する中で、食品事故等が発生した際の原因の究明に資することや対象食

品の回収を容易にすること、②消費者の食品に対する信頼が揺らぐ中で、食品がどのよう

に生産・流通してきたかという食品の履歴を明白にし、消費者の安心を確保することが目

的として掲げられている。

トレーサビリティシステムは、①義務的なもの、すなわち、安全性や衛生、健康など全

ての消費者に確保されるべき分野と、②自発的なもの、すなわち、①を前提としてそれ以

外の食品の品質に関する分野に大別される。後者については、有機農産物認証やEUの原

産地呼称制度などがあげられる。自発的なシステムは、一定の付加情報を盛り込むことに

より、差別化商品、認証制度への展開の可能性が指摘されている。こうした議論に対して

は、疑問を投げかける見解も少なくない。利益追求を優先するあまり消費者の健康保護が

ないがしろにされたこれまでの状態が払拭されていないため、自社製品の差別化や付加価

値の追求に使われることには不信や拒否感が起こる可能性がある。

しかし、少なくとも、①品質管理や生産方式の改善を含む品質向上や②農産物の品質特

性に関する情報伝達の手段として、自発的なシステムは有力と考えられる。自発的なシス

テム構築の前提として、①識別、検証可能性の基礎となる品質の定義、②定義された品質

の管理と保護、③第3者機関による外部検査などを確立することにより、システム自体の

信頼性を確保する必要がある。

野菜や畜産の産地銘柄は、生産地や品目・品種を除くと、不明確な点が多いことがしば

しば指摘されている。伝達すべき品質などの情報について、明確化が必要である。

、 、天敵防除を利用した減農薬栽培などは 自発的なシステム活用することが可能であるが

、 、 。差別化に向けては 生産履歴の記帳をもとに これらの要件をクリアしていく必要がある

Ⅱ 「夏秋どりイチゴ」プロジェクト研究フィージビリティスタディの概要

平成14年度、東北農業研究センターでは、平成15年度から実施の地域総合研究「寒

冷地におけるイチゴの周年供給システムの確立 (以下、夏秋どりイチゴプロジェクト研」

究)のフィージビリティスタディとして、プロジェクト研究の方向性を探るため、夏秋ど

りイチゴに対する実需者・消費者ニーズの把握および夏秋どりイチゴの生産拡大の可能性

を検討した。

ここでは、夏秋どりイチゴのマーケティングに関する研究の事例として、フィージビリ

ティスタディの結果の概要について紹介したい。

(1)フィージビリティスタディの内容

フィージビリティスタディは、野菜花き部野菜花き育種研究室と野菜花き栽培研究室の

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協力の下、総合研究第5チームと農村システム研究室を中心に実施した。

フィージビリティスタディとしては、次の4つを行った。

①夏秋どりイチゴに関するHPの作成およびそれとリンクした実需者・消費者へのア

ンケート調査の実施・分析

②消費者によるイチゴショートケーキの外観・食味評価

③実需者へのヒアリング調査

④消費者へのグループインタビュー

このうち、

①「夏秋どりイチゴ」関係HPの作成と実需者・消費者へのアンケートについては、平成

14年1月半ばに立ち上げ、現在も継続して実施中であるが、東北農業研究センターのH

Pのトップページに掲載し、夏秋どりイチゴのプロジェクトに関する解説文と写真やグラ

フを載せると同時に、実需者・消費者アンケートをリンクしている。管理は、総合研究第

5チームが行っている 。3)

②消費者を対象とした外観・食味評価については、総合研究第5チームが契約している

消費者モニター55人を対象として平成14年10月19日にとして実施した(商品テス

ト的試験 。野菜花き部野菜花き栽培研究室で超促成栽培により生産したイチゴ(一季成)

り性品種)と盛岡市内の卸より購入した輸入イチゴを盛岡市内のケーキ専門店に委託して

ショートケーキを作成してもらい、外観・食味評価、値頃感などの分析を行った。なお、

調査終了後には、野菜花き部野菜花き育種研究室の由比進室長に依頼して、関連するテー

マでの小セミナーを開催した(写真1~3参照) 。4)

③実需者へのヒアリングは、盛岡市内のケーキ専門店およびレストラン3件を対象に実

施した(表1参照 。)

④消費者へのグループインタビューについては、東北農業研究センターに勤務するパー

ト職員のうち、小学校以下の子どもがいる女性6人を対象に東北農業研究センターにて、

平成14年12月5日に実施した(写真4および図1・2参照 。)

(2)フィージビリティスタディの結果の概要

②~④の調査結果としては、

①消費者の国産イチゴ志向は強い。

②実需者の国産イチゴの評価は高い。

③ショートケーキの外観、食味とも輸入イチゴより国産の超促成栽培イチゴが上回る。

④ショートケーキの値頃感は、国産の超促成栽培イチゴが高く、消費者が普段購入して

いる価格と同等である。

などがあげられ、結論として、夏秋どりイチゴの生産拡大の可能性が指摘できた。

なお、その他、

①夏はケーキの需要が小さく、スイカやメロンなど冷たくて水気の多い果物が好まれる

こと、日持ちの問題など理由から、夏より秋の方が消費が見込まれる。

②生産拡大の程度は、品質や価格による。実需者では、品質面では、色、つや、形、大

きさなどの外観や食味における甘さと酸味のバランスの良さ、価格面では、300g1パ

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ックあたりl000円未満であることが求められる。消費者では、品質面では、食味の良

さ、価格面では、1パックあたり600円未満であることが求められる。

③消費者はケーキのイチゴが国産か輸入かについて十分な情報を有していない。

などの仮説が得られた。これらの仮説の検証を含む掘り下げた分析については、平成15

年度からの実施課題で行うこととしている。

Ⅲ プロジェクト研究における今後の社系研究について

夏秋どりイチゴプロジェクト研究は、東北農業研究センター総合研究部総合研究第3チ

ームが核となって、野菜花き部および社系の3研究室が参画し、東北6県に実証的課題を

委託することとなっている。このうち、青森県、秋田県、岩手県、宮城県は、現地実証試

験を行い、県の経営関係研究室は、これら4県で課題を分担する。研究期間は、平成15年

度から5年間である。

、 。このうち 東北農業研究センターおよび県の社系研究室の実施課題は次のとおりである

①夏秋どりイチゴ作型の経営的適地のマッピング(動向解析研究室・H15~16)

②夏秋どりイチゴの導入可能性と周年供給条件の解明(経営管理研究室・H15~16)

③夏秋どりイチゴのマーケティング戦略の確立(農村システム研究室・H15~17)

④経営の内部条件に着目した夏秋どりイチゴの普及・定着条件(農村システム研究室

H18~19)

⑤夏秋どり新作型の経営モデルの作成(青森県、秋田県、岩手県、宮城県・H15~19)

社系関係課題の相互の関係は、次のとおり。

プロジェクトの前半に実施予定の①~③では、FSの結果を踏まえつつ、夏秋どりイチ

ゴ(新技術体系)の生産拡大の可能性の程度や条件について詳細な分析を試みる。

、 、 、①では 地域別の農業労働力の賦存状況や収益性の検討から 経営的適地を明らかにし

マッピングを行う。

②では、経営的分析などに基づき、新技術の導入可能性や周年供給条件について明らか

にする。

③では、実需者や消費者ニーズ、求められる品質・価格条件などを解明し、さらにはそ

れらを踏まえてトレーサリティシステムのあり方を含むマーケティング戦略を確立とす

る。

ついで、④では、①~③の成果を受けつつ、経営の内部条件に着目して、ターゲットと

なる経営のタイプの解明を含めた普及・定着の方策(作戦)を明らかにする。

⑤では、④のターゲットとなる経営タイプを踏まえ、現地実証試験における4つの作型

に対応した具体的な経営モデルを策定する。

以上によって、夏秋どりイチゴの新技術体系の本格的な普及に資する。

このうち、③のマーケティング関連の課題については、

マーケティングリサーチの手法の駆使して、フィージビリティスタディで残された課題

の解明を含みつつ、

① 消費者・実需者ニーズ

② 輸入イチゴ等との差別化戦略

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③ケーキ・デザート用イチゴに実需者・消費者から求められる品質・価格条件

④来歴・品質表示、さらにはトレーサビリティシステムのあり方

などの解明を行うこととしている。

1)平尾正之・河野恵伸・大浦裕二編、2002、農産物マーケティングリサーチの方法、農

林統計協会を参照。

2)トレーサビリティについては、新山陽子, ,トレーサビリティの役割と課題,農2003業と経済 , 及び川手督也・佐藤百合香・下山禎, ,食と農の安全・安心の69-8 5-25 2003ための農産物の品質管理・保証システム構築の現状と課題-生産者と消費者の顔の見える

関係を目指して-,平成15年度東北農業研究成果発表会要旨等参照。

ht3)東北農業研究センター総合研究部総合研究第5チーム関係のホームページを参照(

。tp://www.tohoku.affrc.go.jp/)

4)分析結果の詳細については、下山禎・飯坂正弘・野中章久・川手督也・渋谷美紀・由

比進・山崎篤、2002、イチゴに対する消費者ニーズの解明-国内産・超促成栽培イチゴと

外国産イチゴを中心に-、農業経営通信No.214、p22~25を参照。

グループインタビュー実施の様子

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夏秋にイチゴがあるのは、ピンとこない

時季外れだとおいしくないイメージがある

真夏のイチゴは傷みやすいイメージがある

夏は冷えたスイカやメロンになってしまう

秋に売り場に並ぶようになると、初物の高級品だと思うようになる

季節の果物は買う

安くて(500円台)おいしければ買う

クリスマスシーズンは高すぎる

来客時や贈答用に利用したい

盛岡産ということで話題性がある

図1 グループインタビュー結果(1) 夏秋どりイチゴについて図1 グループインタビュー結果(1) 夏秋どりイチゴについて

図2 グループインタビュー結果 イチゴケーキについて図2 グループインタビュー結果 イチゴケーキについて

イチゴショートの選び方

イチゴが重要

上に乗せるイチゴは大きくて、色艶・形がいいものであることが重要

中に挟むイチゴは、乗せるイチゴより多少質が劣っていてもよい

酸っぱすぎると食べない

イチゴの産地

ケーキ屋さんに年中イチゴケーキがあるのは当たり前と思っていた

イチゴの産地を気にしたことがなかった

国産イチゴだと安心して買える

ショートケーキの選び方

お土産用と自家用では、選び方が異なる

お土産用は無難なもの

イチゴショートは赤くて豪華に見える

子どもはイチゴショートが好き

何種類か買う中に、必ずイチゴショートが入る

自家用は各々の好みで買う

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表1 実需者ヒアリングの結果

A店 C店 G店 店の種類 洋菓子専門店 フランス料理店兼喫

茶・ケーキショップ 洋菓子専門店

従業者 夫婦2人 夫婦2人+雇用4人 夫婦2人 主なイチゴのケーキ ショートケーキ タルト ショートケーキ 価格(1ピース) 300円 400円 300円 主な需要 子どもの誕生日 デザートおよび喫

茶、ケーキ販売 子どもの誕生日及び

中高生男子のおやつ ケーキの材料費に占

めるイチゴの割合

(平均)注1)

40% 70% 1/3

使用するイチゴの価

格(1パック平均)

注2)

800円 500円 500円台

求められるイチゴの

品質 外観、大きさ(M)、

日持ち、酸味と甘み

のバランス

外観、大きさ(M)、

フレッシュさ、酸味

と甘みのバランス

外観、大きさ(Mま

たはS)、日持ち、酸

味と甘みのバランス 夏秋期の輸入イチゴ

の使用 仕方なく使用 品質が悪いので使用

していない 品質が悪いので使用

していない 国産の夏秋どりイチ

ゴについて 是非ほしい 是非ほしい(特に 10

月以降) 是非ほしい

*注1)2)クリスマス時を除く

消費者モニター調査(1)会場の様子

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消費者モニター調査(2)比較を行ったショートケーキ

消費者モニター調査(3)セミナーの様子

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1

夏秋どりイチゴのマーケティング戦略夏秋どりイチゴのマーケティング戦略--平成15年度東北農業研究センター専技研修平成15年度東北農業研究センター専技研修--

東北農業研究センター  川手督也

報告の内容

Ⅰ 消費者・実需者ニーズとマーケティング

Ⅱ 「夏秋どりイチゴ」プロジェクト

  研究FSの概要

Ⅲ プロジェクト研究における

  今後の社系研究 

1 消費者・実需者ニーズとマーケティング

Ⅰ 消費者ニーズとマーケティング

○食生活全般の高品質化、多様化志向など

     ↓

○農業振興に際して必須事項

  ①消費者・実需者ニーズの的確な把握

②マーケティング戦略の確立

  ※ケーキ・デザート向け需要の大きい

   夏秋どりイチゴでは特に重要 

消費者・実需者ニーズの捉え方

①世論調査的社会調査

②商品テスト的調査

③官能試験

④ヒアリング/グループインタビュー

など

マーケティングとは

○“マーケット”

  をターゲットとした経済活動

      ↓

  マーケティング戦略

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2

必要とされるマーケティングのあり方の変化

○生産志向のマーケティング:「作ったものを売る」

       ↓

○消費志向のマーケティング:「売れるものを作る」

      ↓

○生活志向のマーケティング:「“生活提案”

  を行う」

消費者は「裸の王様」

○消費者は「きまぐれな王様」以前に「裸の王様」

     ↓

○消費者に対し、いかに的確に品質特性を伝達して差別化を図るかがポイント

○合わせて消費者の「情報咀嚼力」を高める必要

cf 品質概念再検討の必要

総合的枠組の必要性

○必要とされるマーケティングのあり方の高度化

      ↓

○総合的枠組の必要性

  =マーケティング・ミックス

4P理論 など 

4P理論

○次の4つの点に着目してマーケティングのあり方を整理しつつ、戦略を立てる

     ↓ 

①Production(製品戦略)

②Price(価格戦略)

③Place(販売チャネル戦略)

④Publicity(販売促進戦略)

対応する計量的な手法

○因子分析、コレスポンデンス分析→商品に対する消

  費者の認識の把握→「ポジショニング・マップ」

○価格受容帯分析→「値頃感」の算出

○コンジョイント分析→様々な要因の効果の測定

など

コレスポンデンス分析によるポジショニングマップの例(鶏肉)

調理法に工夫が必要

1

タイ産ブロイラー

アメリカ産ブロイラー南部かしわ

0.5

ダイエットによさそう鍋物に向く

食味が良い

比内鶏 次元1-2 -1 名古屋コーチン 1 2

-0.5安全性が高い 価格が手ごろ

1

国産ブロイラー 次元2

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3

鶏肉の種類別消費者の認識

0

1

2

3

4

5

比内地鶏

国産

アメリカ産

タイ産

南部

名古屋

比内地鶏 2.39 1.34 3.93 1.33 3.81 1.58

国産 2.98 3.37 1.55 3 3.04 2.87

アメリカ産 3.6 3.77 1.64 3.87 2.28 4.4

タイ産 3.72 3.81 1.72 3.94 2.21 4.51

南部 2.17 1.63 3.46 1.56 3.6 1.47

名古屋 2.45 1.84 3.94 1.76 3.41 1.73

ダイエットによ

鍋物に向

価格がてごろ

食味がよい

調理法に工夫

安全性高い

調査項目が確定すれば・・・・

○イチゴの品種や作型、産地別

○夏秋どりイチゴと競合する果物や野菜別

などへの適用が可能

超促成栽培さちのかの値頃感(2001年10月)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

価格 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 円

H(x) 高すぎる価格

L(x) 安すぎる価格

P(x) 購買反応曲線

超促成栽培女峰(2001年10月)の値頃感

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

価格 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 円

H(x) 高すぎる価格L(x) 安すぎる価格P(x) 購買反応曲線

補 トレーサビリティシステム

○平成13年秋以来の             BSE、偽装表示さらには無登録農薬問題

     ↓

○消費者の農畜産物への信頼回復のため、トイレサビリティシステムを核とした品質管理・保証システムの確立が急務

義務的なシステムと自発的なシステム

①義務的な認証システム

衛生・安全面の確立→HACCAP、最近のトレーサビリティシステム 

②自発的な認証システム

地域特産を含む高品質食品の振興→有

機農産物、地鶏肉、PDO・PGI(EU)

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4

自発的なシステムの可能性

○対象となる特産的農産物の良さを生かした生産プロセス=良質農産物生産システムに対応した認証システム

    ↓

①新しい評価基準

②消費サイドへのメッセージ

③地域ブランド化 

自発的なシステムへの展開条件

①識別、検証可能となる品質の定義     

②定義された品質の管理と保護

③第3者機関による外部検査体制の確立

       ↓

○システム自体の信頼性の確保

2  「夏秋どりイチゴ」プロジェクト研究FSの概要

夏秋どりイチゴ生産の可能性の論拠

7~10月が端境期に

アメリカ等からの輸入に頼る(年間5000t)外国産イチゴは果実品質が悪い

3つのキーテクによる夏秋どりイチゴ供給の可能性

なぜ夏秋期

にイチゴが

必要?

イチゴ果実の夏秋期における需要→ケーキ用として大

低温・短日によって花芽分化するイチゴは高温下での栽

培が困難

0500

1000150020002500300035004000

6月 7月 8月 9月 10月 11月

入荷

量・輸

入量

(t)

国産

輸入

夏秋期における国産および輸入イチゴの市場入荷量・輸入量

国産は1.2類青果市場取扱量,輸入は全量(2001)

夏秋期夏秋期における流通の現状における流通の現状ーー11

・夏秋期の需要はほとんどアメリカ産輸入イチゴでまかなわれている

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

単価

 円

/kg

国産およびアメリカ産イチゴのkgあたり単価

(月)

(東京中央卸売市場,2000)

国産→

←アメリカ産

夏秋期における流通の現状夏秋期における流通の現状ーー22

・夏秋期の国産イチゴは極めて高値で取引され,アメリカ産輸入イチゴの2倍以上の単価

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FSの主な内容

Ⅰ 所内パート職員へのグループインタビュー

Ⅱ 盛岡市内の実需者へのヒアリング    

Ⅲ 5チームの消費者モニターを対象とした

   外観・食味評価、値頃感等調査(超促成

栽培(一季成り)と輸入イチゴとの比較)

Ⅳ 「夏秋どりイチゴ」関係HPの作成と実需

  者・消費者へのアンケート(実施中)

グループインタビュー実施の様子

夏秋にイチゴがあるのは、ピンとこない

時季外れだとおいしくないイメージがある

真夏のイチゴは傷みやすいイメージがある

夏は冷えたスイカやメロンになってしまう

秋に売り場に並ぶようになると、初物の高級品だと思うようになる

季節の果物は買う

安くて(500円台)おいしければ買う

クリスマスシーズンは高すぎる

来客時や贈答用に利用したい

盛岡産ということで話題性がある

図1 グループインタビュー結果(1) 夏秋どりイチゴについて図1 グループインタビュー結果(1) 夏秋どりイチゴについて

図2 グループインタビュー結果 イチゴケーキについて図2 グループインタビュー結果 イチゴケーキについて

イチゴショートの選び方

イチゴが重要

上に乗せるイチゴは大きくて、色艶・形がいいものであることが重要

中に挟むイチゴは、乗せるイチゴより多少質が劣っていてもよい

酸っぱすぎると食べない

イチゴの産地

ケーキ屋さんに年中イチゴケーキがあるのは当たり前と思っていた

イチゴの産地を気にしたことがなかった

国産イチゴだと安心して買える

ショートケーキの選び方

お土産用と自家用では、選び方が異なる

お土産用は無難なもの

イチゴショートは赤くて豪華に見える

子どもはイチゴショートが好き

何種類か買う中に、必ずイチゴショートが入る

自家用は各々の好みで買う

実需者ヒアリング(1)ヒアリングをお願いしたケーキ屋さん①

ヒアリングをお願いしたケーキ屋さん②

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表1 実需者ヒアリング結果の概要

A店 C店 G店

店の種類 洋菓子専門店 フランス料理店兼喫茶・ケーキショップ

洋菓子専門店

従業者 夫婦2人 夫婦2人+雇用4人 夫婦2人

主なイチゴのケーキ ショートケーキ タルト ショートケーキ

価格(1ピース) 300円 400円 300円

主な需要 子どもの誕生日 デザートおよび喫茶、ケーキ販売

子どもの誕生日及び中高生男子のおやつ

ケーキの材料費に占めるイチゴの割合(平均)

40% 70% 1/3

使用するイチゴの価格(1パック平均)

800円 500円 500円台

求められるイチゴの品質 外観、大きさ(M)、日持ち、酸味と甘みのバランス

外観、大きさ(M)、フレッシュさ、酸味と甘みのバランス

外観、大きさ(MまたはS)、日持ち、酸味と甘みのバランス

夏秋期の輸入イチゴの使用

仕方なく使用 品質が悪いので使用していない

品質が悪いので使用していない

国産の夏秋どりイチゴについて

是非ほしい 是非ほしい(特に10月以

降)是非ほしい

消費者モニター調査(1)会場の様子

消費者モニター調査(2)比較を行ったショートケーキ①

消費者モニター調査(3)比較を行ったショートケーキ②

消費者モニター調査(4)セミナーの様子 試作をお願いしたケーキ屋さん

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表6 国産イチゴとアメリカ産イチゴの    ショートケーキの食味について甘さ **酸味 **かたさ **ケーキとの相性 **全体として **    **は有意確率1%以下で国産イチゴの

方が高く評価されたことを表す

表5 国産イチゴとアメリカ産イチゴの    ショートケーキの外観について色合い **イチゴ大きさ 有意差無しイチゴの色 **イチゴ形 有意差無し台とイチゴのバランス 有意差無し全体として **    **は有意確率1%以下で国産イチゴの

方が高く評価されたことを表す

Ⅲ-1 国産とアメリカ産イチゴによるショートケーキの外観・食味の比較 Ⅲ-2イチゴケーキの値頃感

表7 超促成栽培イチゴとアメリカ産イチ    ゴのショートケーキの価格の閾値

超促成栽培 アメリカ産安すぎる 173.6 130.9安い 232.4 179.0心理的0点 291.3 227.1高い 350.1 275.2高すぎる 408.9 323.3

Ⅳ-1 夏秋どりイチゴ関係     HP(1) トッブページ

Ⅳ-2 夏秋どりイチゴ関係     HP(2)協力のお願い

Ⅳ-3 夏秋どりイチゴ関係     HP(3) 解説文

Ⅳ-4 夏秋どりイチゴ関係     HP(4) アンケート

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FSの結論

①消費者の国産イチゴ志向は強い

②実需者の国産イチゴの評価は高い    

③ショートケーキの外観、食味とも輸入イチゴより国産の超促成栽培イチゴが上回る

④ショートケーキの値頃感は、国産の超促成栽培イチゴが高く、消費者が普段購入している価格と同等                   

○夏秋どりイチゴの生産拡大の可能性

FSで残された課題

①夏より秋の方が消費が見込める?

②生産拡大の程度は品質や価格による?

③消費者はケーキのイチゴが国産か輸入かについて十分な情報を有していない?

④ケーキ・デザート用イチゴに求められる品質は生食用や加工用と異なる? など

      ↓

○詳細や対応のあり方については実施課題 「マーケティング戦略の確立」などで解明

3 プロジェクト研究における 今後の社系研究

研究の開始

新技術体系の確立

新品種の登録など

社系関係課題について(1)社系関係課題について(1)

⑤夏秋どり新作型の経営モデルの作成(H15~19)        

④経営の内部条件に着目した夏秋どりイチゴの普及・定着条件(H18~19)                                                         

①夏秋どりイチゴ作型の経営的適地のマッピング(H15~16) ②夏秋どりイチゴの導入可能性と周年供給条件の解明    

(H15~16)       ③夏秋どりイチゴのマーケティング戦略の確立(H15~17)   

注:①~④は社系研究室、⑤は青森県、岩手県、秋田県、宮城県     

④普及方策④普及方策 ⑤⑤具体的な経具体的な経営モデル営モデル +

本格的普及本格的普及

社系関係課題について(2)社系関係課題について(2)

①経営的適地①経営的適地 ②②技術の導入技術の導入可能性可能性

③③実需者・消費実需者・消費者ニーズ、マーケ者ニーズ、マーケティングティング

マーケティング関連課題

○マーケティングリサーチの手法の駆使

    ↓

① 消費者・実需者ニーズ② 輸入イチゴ等との差別化戦略③ケーキ・デザート用イチゴに実需者・消費者から求められる品質・価格条件

④来歴・品質表示、さらにはトレーサビリティシステムのあり方 などの解明