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関人 関人 ORDIST ORDIST 関人 関人 ORDIST ORDIST 社会連携部 産学官連携センター、知財センター Time [ps] 伸線加工の原子レベルシミュレーション ~鉄鋼線の相変態および摩擦モデルの検討~ ⑩ナノテクノロジー・材料研究 材料工学研究室 ○大良修平(院生)、齋藤賢一(システム理工学部 機械工学科 教授) 問合せ先: 関西大学 システム理工学部 齋藤賢一 E-mail:[email protected] 研究概要・成果 応用分野、実用化可能分野 伸線技術のダウンサイジングを目指し,ミクロ化が試みられよう としている.微小な材料では加工過程および使用期間での一層の 信頼性が要求されるが,その元となるナノスケールでの線材の挙 動は未解明である.そこで分子動力学法を用いた原子レベルの数 値シミュレーションにより,結晶欠陥の生成と運動および相互作 用,そしてbccからfccへの相変態の可能性を検討する. 2.1 原子間ポテンシャルとダイスとの相互作用 MD法において,原子間相互作用をどう決めるかが重要である. 今回は鉄鋼線の引抜きを想定しαFeに対するFinnis-Sinclair(FS) による多体間ポテンシャルを用いる.ポテンシャルは で与えられ,多体項と二体項からなる.現状での実際の伸線ダ イス表面はダイヤモンドやセラミックスなどの硬い物質であり, 近似的に剛体として扱う.そして多体項の電子密度関数ψ(r)係数ω (< 1) を乗じ,ダイス-線材間の凝集エネルギーを弱い方 向へ調節する. 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.0001 0.001 0.01 0.1 3 2 1 2 1 ρ ρ F i j ij r i i ij r j i ij Φ ρ i F Ε 4 ) ( ) ( ij r ψ ij r ψ 2.2 ナノ伸線加工の分子動力学モデル Fig.1にシミュレーションモデルを示す.また実際の伸線加工で はダイス‐線材間に潤滑剤を介して加工を行う.潤滑剤を導入 したモデルをFig.2に示す. (a) without lubricating layer (b) with lubricating layer Fig.1 Simulation Model of MD Number of atoms [-] 68801 Lattice constant [Å] 2.8665 Cell size x×y×z [nm] 9.8796×9.876×9.876 Inlet diameter D in [nm] 6.8796 Length of die land L 0 [nm] 4.12 Thickness of lubricating layer [nm] 1.20393 crystal orientation { 1 0 0 }=xy Table 1 Calculation condition 【3.結果・考察】 また,各条件での摩擦係数の平均値をFig.4に示す. (a) without lubricating layer (b) with lubricating layer Fig.3 Comparison of the coefficient of friction ωの値を小さくとれば,潤滑 層なしのモデル(a)ではμ=0.15 付近に収束するのに対して, 潤滑層モデル(b)ではより小さ な摩擦係数が得られる.これ は潤滑層を導入することで摩 擦係数を下げることが可能で あることを意味する 今後の課題 今回のモデルは線材径が変わらない条件での結果であり, 今後は塑性変形が起きる加工状態での評価が必要である the coefficient of friction The coefficient of friction Time [ps] Fig.4 Average of the coefficient of friction 本研究でナノスケールでの伸線加工における線材内部の挙動解析が可能であることを示した.線材内部ではbccからfccへの相変態 が確認でき,このことを利用したパーライト鋼の作成時にも有用である.また摩擦係数を導出することでナノスケールでの加工 においての最適な条件を評価することもできる. 伸線加工中の線材内部での欠陥挙動や相変態についてCNA 解析を用いて検討する.線材中心部においてbcc(黄色)が fcc(灰色)に結晶相変態していることがわかる.さらにbcc 構造とfcc構造の間に明瞭な境界が確認できる.また表面で の摩擦の効果が最も大きい条件で最も相変態の割合が高く なる. Fig.2 Simulation result analyzed by CNA method (ω=0.0001, t =4ps) (Cross-sectional view of wire and die) 【1.概要】 【2.理論・方法】 Two layers model Three layers model ω fcc atoms bcc atoms fcc-bcc interface die-wire interface die land die thickness celz rb thick land ω=0.1 ω=0.01 ω=0.05 ω=0.005 ω=0.0005 ω=0.001 ω=0.0001 ω=0.1 ω=0.01 ω=0.05 ω=0.005 ω=0.0005 ω=0.001 ω=0.0001 相互作用の強さを表わすパラメータであるωを変化させた時の 線材‐ダイス間の摩擦係数μの時間推移をFig.3に示す.潤滑層 なしのモデル(a)ではω=0.01以下のωでは差がみられずμ=0.15近に収束する潤滑層モデルではω=0.001以下では摩擦係数に大 きな違いは見られない.ただし,マクロスケールでの新鮮加工 μ=0.50.02と比べて比較的大きな値となる. 関西大学先端科学技術推進機構 ※無断複写・転載・加工等は 禁じます。

伸線加工の原子レベルシミュレーション ~鉄鋼線の相変態 ......今回は鉄鋼線の引抜きを想定しα‐Feに対するFinnis-Sinclair(FS) による多体間ポテンシャルを用いる.ポテンシャルは

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関人関人ORDISTORDIST関人関人ORDISTORDIST 先 端 科 学 技 術 推 進 機 構

社会連携部 産学官連携センター 、知財センター

Time [ps]

伸線加工の原子レベルシミュレーション~鉄鋼線の相変態および摩擦モデルの検討~

⑩ナノテクノロジー・材料研究材料工学研究室

○大良修平(院生)、齋藤賢一(システム理工学部 機械工学科 教授)

問合せ先: 関西大学 システム理工学部 齋藤賢一 E-mail:[email protected]

研究概要・成果

応用分野、実用化可能分野

伸線技術のダウンサイジングを目指し,ミクロ化が試みられようとしている.微小な材料では加工過程および使用期間での一層の信頼性が要求されるが,その元となるナノスケールでの線材の挙動は未解明である.そこで分子動力学法を用いた原子レベルの数値シミュレーションにより,結晶欠陥の生成と運動および相互作用,そしてbccからfccへの相変態の可能性を検討する.

2.1 原子間ポテンシャルとダイスとの相互作用

MD法において,原子間相互作用をどう決めるかが重要である.今回は鉄鋼線の引抜きを想定しα‐Feに対するFinnis-Sinclair(FS)による多体間ポテンシャルを用いる.ポテンシャルは

で与えられ,多体項と二体項からなる.現状での実際の伸線ダイス表面はダイヤモンドやセラミックスなどの硬い物質であり,近似的に剛体として扱う.そして多体項の電子密度関数ψ(r)に係数ω (< 1) を乗じ,ダイス-線材間の凝集エネルギーを弱い方

向へ調節する.

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.0001 0.001 0.01 0.1

32

121

ρρFij ijri

i ijrji ijΦρiFΕ

4)()( ijrψijrψ 2.2 ナノ伸線加工の分子動力学モデル

Fig.1にシミュレーションモデルを示す.また実際の伸線加工で

はダイス‐線材間に潤滑剤を介して加工を行う.潤滑剤を導入したモデルをFig.2に示す.

(a) without lubricating layer (b) with lubricating layer

Fig.1 Simulation Model of MD

Number of atoms [-] 68801Lattice constant [Å] 2.8665

Cell size x×y×z [nm] 9.8796×9.876×9.876Inlet diameter Din [nm] 6.8796

Length of die land L0 [nm] 4.12Thickness of lubricating layer [nm] 1.20393

crystal orientation { 1 0 0 }=xy

Table 1 Calculation condition

【3.結果・考察】

また,各条件での摩擦係数の平均値をFig.4に示す.

(a) without lubricating layer (b) with lubricating layerFig.3 Comparison of the coefficient of friction

ωの値を小さくとれば,潤滑層なしのモデル(a)ではμ=0.15付近に収束するのに対して,潤滑層モデル(b)ではより小さ

な摩擦係数が得られる.これは潤滑層を導入することで摩擦係数を下げることが可能であることを意味する

今後の課題

今回のモデルは線材径が変わらない条件での結果であり,今後は塑性変形が起きる加工状態での評価が必要である

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coef

fici

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Time [ps]

Fig.4 Average of the coefficient of friction

本研究でナノスケールでの伸線加工における線材内部の挙動解析が可能であることを示した.線材内部ではbccからfccへの相変態

が確認でき,このことを利用したパーライト鋼の作成時にも有用である.また摩擦係数を導出することでナノスケールでの加工においての最適な条件を評価することもできる.

伸線加工中の線材内部での欠陥挙動や相変態についてCNA解析を用いて検討する.線材中心部においてbcc(黄色)がfcc(灰色)に結晶相変態していることがわかる.さらにbcc構造とfcc構造の間に明瞭な境界が確認できる.また表面で

の摩擦の効果が最も大きい条件で最も相変態の割合が高くなる.

Fig.2 Simulation result analyzed by CNA method (ω=0.0001, t =4ps)(Cross-sectional view of wire and die)

【1.概要】

【2.理論・方法】

Two layers model

Three layers model

ω

fcc atoms

bcc atoms

fcc-bcc interface

die-wire interface

die landdie thickness

celz

rbthick

land

ω=0.1

ω=0.01ω=0.05

ω=0.005 ω=0.0005ω=0.001 ω=0.0001

ω=0.1

ω=0.01

ω=0.05

ω=0.005

ω=0.0005ω=0.001 ω=0.0001

相互作用の強さを表わすパラメータであるωを変化させた時の線材‐ダイス間の摩擦係数μの時間推移をFig.3に示す.潤滑層なしのモデル(a)ではω=0.01以下のωでは差がみられずμ=0.15付近に収束する潤滑層モデルではω=0.001以下では摩擦係数に大

きな違いは見られない.ただし,マクロスケールでの新鮮加工のμ=0.5~0.02と比べて比較的大きな値となる.

  関西

大学

先端

科学

技術

推進

機構

※無

断複

写・転

載・加

工等

禁じま

す。