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1046 CHEMOTHERAPY NOV. 1985 産 婦 人 科 領 域 に お け るImipenem/Cilastatinsodium(MK-0787/MK-0791) の 基 礎 的,臨 床的研究 南薫 昭和大学医学部産婦人科学教室 福永完吾 国際親善総合病院産婦人科 国井勝昭 国井産婦人科病院 新 しい カル バ ペ ネ ム系 抗 生 物 質irnipenem(MK-0787)とそ の 不 活 化 酵 素 阻 害 剤cilastatin sodium(MK-0791)と の 配 合 剤,MK-0787/MK-0791に ついて産婦人科領域で検討を行い以下の 結果を得た。 臨床 分 離菌 に対 す る抗菌 力 は,グ ラム陽性球菌に対してす ぐれ た 抗菌活性を示 し,そ のMIC80 は,Saureus Sepidermidis,Sfaecalisに 対 し0.025~0.78μg/mlに 分布 し,グ ラム陰性桿菌 (Ecoli,Kpneumoniae,P.aeruginosa,Cfreundii,Smarcescens,Ecloacae,E.aero DProteusspP.)に 対 す るMIC80は0.2~3.13μg/mlに分 布 した。 グラム陰性菌 に対 して は 第 三 世 代Cephemと 同程度であった。 本 剤0.5g/0.591回点 滴 静 注 後 の血 漿 中並 び に骨 盤 内性 器組 織 中濃 度 を測 定 した。 組 織 移行 は 良 好 で,投 与 後20分 で,血 漿 中 に最 高45.1μg/ml,組織 中 に60分 で14.3μg/gが得 られ,そ の消長は血漿と同様な推移を示 した 。 これ らの濃 度 は主 な感 染 起 炎 菌 のMIC値 を上回った。 産婦人科的感染症に対 し,1回0.5g/0.5g,1日2回,平 均6.3日(5.95g/5.95g)投 与 で, 11例 中9例(81.8%)に 有 効 で あ り,66.7%に 細菌 学 的 効果 を認 め た 。 副作 用 はな か った。 Imipenem(MK-0787)は,米 国メルク社研究所にお いて開発された新規のカルバペネム系抗生物質であり, グ ラ ム陽 性,陰 性の広範囲の菌種に対 し,強 い抗菌力を 示 し,特 に,PaeruginosaやSfaecalisにも 強 い 抗菌力を発揮 し,嫌 気 性 菌 に 対 して も強 い抗 菌 力 を有 す る。その抗菌作用は殺菌的であ り,各 種 細菌 の産 生 す る β-lactamaseに 対し安定である。 し か し,体 内において は 主 と し て 腎 に お い てdehydropeptidase-Iに より水 解 不 活 化 され る1)2)。 一方 ,cilastatin sodium(MK-0791)は じく米 国 メ ル ク社 に お い て 新 し く開 発 され た 選択 的renaldipepti- daseの阻 害 剤 で あ り,抗 菌 力 は ない が,dehydropepti- daseを選 択 的,可 逆 的 に 阻 害 す る1)2)。 MK-0787/MK-0791は こ の 両 者 の1:1の 配合剤で あ り,MK-0791に よ っ てdehydropeptidaseを 阻害す るた め,MK-0787の 抗菌 活 性 を期 待 す る こ とが で き, その 高 い 尿 中 回 収 率 が 得 られ る。 ま た,MK-0787の 腎 毒 性 が 軽 減 す る と され て い る1)2)。 われわれは本剤について産婦人科領域で検討を行い, 以下の結果を得たので報告する。 1.試 1.抗 菌力 感 受 性 分 布 を臨 床 分 離 保 存株15種291株 に つ い て, 化 療 標 準 法 に よ りMIC値 を測定 し,ceftazidime(CA Z),cefoperazone(CPZ),cefmenoxime(CMX), tamoxef(LMOX),piperacillin(PIPC),cefsu (CFS)と比較 した 。 2.血 漿中濃度および子宮各部位組織内濃度 (1)対 象,薬 剤投与法および検体採取法 組 織 内濃 度 は 昭 和59年10月 よ り11月 までの間に 昭 和 大学 関連 施 設 に 入 院 した 子 宮筋 腫患 者 で,単 純 子宮 全 摘 術 施 行14例 を 対 象 と した 。 投 与 法 は,本 剤0.59/ 0.59を100mlの生 理 食 塩 液 に 溶 解 後30分 か け て 点滴 静 注 し た 。 組 織 採 取 は 薬 剤 投 与 後,一 定時間後に手術的 に 子 宮 を摘 出 し,同 時に肘 静 脈,子 宮動 脈か ら採血 し た。摘出臓器は生理食塩水で洗浄 して血 液 除 去後,必 要 部分を分離採取 し,[1MMorpholino-ethanesulfona 緩 衝 液(pH6.0)/Ethyleneglycol(1:1v/v)]の4倍 を 安 定 化 剤 と して加 え-80℃ に凍 結 保 存 した。採取時 間は子宮動脈結紮時 と した 。

CHEMOTHERAPY NOV. 1985 1046fa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/33/Supplement4/33_1046.pdfVOL.33 S-4 CHEMOTHERAPY 1055 Fig.33 Tissue Ievel of MK-0787 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791

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1046CHEMOTHERAPY NOV. 1985

産 婦 人 科 領 域 に お け るImipenem/Cilastatinsodium(MK-0787/MK-0791)

の 基 礎 的,臨 床 的 研 究

張 南 薫

昭和大学医学部産婦人科学教室

福 永 完 吾

国際親善総合病院産婦人科

国 井 勝 昭

国井産婦人科病院

新 しい カル バ ペ ネ ム系 抗 生 物 質irnipenem(MK-0787)と そ の 不 活 化 酵 素 阻 害剤cilastatin

sodium(MK-0791)と の配 合 剤,MK-0787/MK-0791に つ いて 産 婦 人 科 領 域 で検 討 を 行 い 以下 の

結 果 を 得 た。

臨床 分 離菌 に対 す る抗菌 力 は,グ ラム陽 性 球 菌 に 対 して す ぐれ た 抗 菌 活 性 を示 し,そ のMIC80

は,Saureus Sepidermidis,Sfaecalisに 対 し0.025~0.78μg/mlに 分 布 し,グ ラム陰性 桿 菌

(Ecoli,Kpneumoniae,P.aeruginosa,Cfreundii,Smarcescens,Ecloacae,E.aerogenes,

DProteusspP.)に 対 す るMIC80は0.2~3.13μg/mlに 分 布 した。 グ ラム陰 性 菌 に対 して は第 三

世 代Cephemと 同 程 度 で あ った 。

本 剤0.5g/0.591回 点 滴 静 注 後 の血 漿 中並 び に骨 盤 内性 器組 織 中濃 度 を測 定 した。 組 織 移行 は

良 好 で,投 与 後20分 で,血 漿 中 に最 高45.1μg/ml,組 織 中 に60分 で14.3μg/gが 得 られ,そ

の消 長 は血 漿 と同 様 な推 移 を示 した 。 これ らの濃 度 は主 な感 染 起 炎 菌 のMIC値 を 上 回 った。

産 婦 人 科 的 感 染症 に 対 し,1回0.5g/0.5g,1日2回,平 均6.3日(5.95g/5.95g)投 与 で,

11例 中9例(81.8%)に 有 効 で あ り,66.7%に 細菌 学 的 効果 を認 め た 。 副作 用 はな か った。

Imipenem(MK-0787)は,米 国 メ ル ク社 研究 所 に お

い て 開 発 され た 新 規 の カル バ ペ ネ ム系 抗 生 物 質 で あ り,

グ ラ ム陽 性,陰 性 の広 範 囲 の 菌種 に対 し,強 い 抗 菌 力 を

示 し,特 に,PaeruginosaやSfaecalisに も 強 い

抗 菌 力 を 発揮 し,嫌 気 性 菌 に 対 して も強 い抗 菌 力 を有 す

る。 そ の 抗 菌作 用 は殺 菌 的 で あ り,各 種 細菌 の産 生 す る

β-lactamaseに 対 し安 定 で あ る。 しか し,体 内に お い て

は 主 と して 腎 に お い てdehydropeptidase-Iに よ り 水

解 不 活 化 され る1)2)。

一 方 ,cilastatin sodium(MK-0791)は 同 じく米 国 メ

ル ク社 に お い て 新 し く開 発 され た 選択 的renaldipepti-

daseの 阻 害 剤 で あ り,抗 菌 力 は ない が,dehydropepti-

daseを 選 択 的,可 逆 的 に 阻 害 す る1)2)。

MK-0787/MK-0791は この両 者 の1:1の 配 合剤 で

あ り,MK-0791に よっ てdehydropeptidaseを 阻害 す

るた め,MK-0787の 抗菌 活 性 を期 待 す る こ とが で き,

その 高 い 尿 中 回 収 率 が 得 られ る。 ま た,MK-0787の 腎

毒 性 が 軽 減 す る と され て い る1)2)。

わ れ わ れ は 本 剤 に つ い て 産婦 人科 領 域 で 検 討 を行 い,

以下 の 結 果 を 得 た の で報 告す る。

1.試 験 方 法

1.抗 菌 力

感 受 性 分 布 を臨 床 分 離 保 存株15種291株 につ いて,

化 療 標 準 法 に よ りMIC値 を測 定 し,ceftazidime(CA

Z),cefoperazone(CPZ),cefmenoxime(CMX),la-

tamoxef(LMOX),piperacillin(PIPC),cefsulodin

(CFS)と 比 較 した 。

2.血 漿 中 濃 度 お よび子 宮 各 部位 組 織 内濃 度

(1)対 象,薬 剤 投与 法 お よび検 体 採 取 法

組 織 内濃 度 は 昭 和59年10月 よ り11月 ま での間に

昭 和 大学 関連 施 設 に 入 院 した 子 宮筋 腫患 者 で,単 純 子宮

全 摘 術 施 行14例 を 対 象 と した 。 投 与 法 は,本 剤0.59/

0.59を100mlの 生理 食 塩 液 に 溶解 後30分 か けて点滴

静 注 した。 組 織 採 取 は 薬 剤 投与 後,一 定時 間後 に手術的

に 子 宮 を摘 出 し,同 時 に 肘 静 脈,子 宮動 脈か ら採血 し

た 。摘 出臓 器 は生 理 食 塩 水 で洗 浄 して血 液 除 去後,必 要

部 分 を 分 離 採取 し,[1MMorpholino-ethanesulfonate

緩 衝 液(pH6.0)/Ethyleneglycol(1:1v/v)]の4倍 量

を 安 定 化 剤 と して加 え-80℃ に凍 結 保 存 した。採取時

間 は 子 宮 動脈 結 紮時 と した 。

VOL. 33 S-4 CHEMOTHERAPY 1047

Fig. 1 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 2 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 3 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 4 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 5 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 6 Sensitivity distribution of clinical isolates

1048 CHEMOTHERAPY NOV. 1985

Fig.7 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig.8 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig.9 Sensitivity distribution of clinical isolates

(2)測 定 方 法

MK-0787は,BisubtilisATCC12432を 検 定菌 とする

ペ ーパ ーデ ィ ス ク 法 に よ っ た。 標 準 溶 液 は0.05M

Morpholino-propanesulfonate緩 衝 液(pH7.0)を 使

用 した 。

MK-0791は,上 記 と同様 に採 取 処理 した試 料をHPL

C法 に よ り測 定 した 。

3.臨 床 的 検 討

(1)対 象 お よび 方 法

臨床 試 験 は 産 婦 人 科 領 域 の 感 染 症 を対 象 とし,昭 和

59年1月 よ り5月 まで の 間 に 昭 和 大 学 関連 施設 に 入院

した患 者 に使 用 し,そ の効果,副 作 用 な どを検 討 した。

投 与方 法 は,1回0.59/0.591日2回 点 滴静 注を原則

と した。

(2)効 果 判 定 基 準

臨床 効 果,細 菌 学 的 効果 な らび に臨 床検 査値 な どを総

合 的 に 観 察 し,主 要 自他 覚 症 状が3日 以 内 に著 しく改善

され,治 癒 に い た った 場 合 を 著効 と し,主 要 自他覚症状

が3日 以 内 に 改 善 の 傾 向を 示 し,そ の後 治癒 した場 合を

有 効 と し,主 要 自他 覚 症状 が3日 経 過 して も改善 されな

い場 合 を無 効 と した 。

II.成 績

1.試 験 管 内抗 菌 力

Saunusに 対 す るMK-0787のMICは106接 種で

0.006~0.10μg/ml,108接 種 で0.006~0.78μg/mlに 分

布 し,そ の ピ ー クは106接 種 で0.013μg/ml,108接 種

で0.025μg/mlで あ り,他5剤 よ り抗菌 力が 優れていた

(Fig.1,2)。

Sepidemidisに 対 す るMK-0787のMICは106,

108接 種 と も0.013~0.78μg/mlに 分 布 し,そ の ピーク

は106接 種 で は0.10μg/mlに,108接 種 で は0.39μg/

mlに あ り,他5剤 よ り抗 菌 力 が 優 れ てい た(Fig.3,4)。

Sfaecalisに つ い て は,106,108接 種 と もに大 部分が

0.78μg/mlで 発 育 を 阻 止 され,sharpな 感 受性 を示 し'

他5剤 よ り抗 菌 力 が優 れ て い た(Fig.5,6)。

瓦co万 に 対 して は,106接 種 で0.10~0.78μg/mlに,

108接 種 で0。10~1.56μg/mlに 分 布 した が,そ の ピー ク

は両 者 と も0.2μg/mlで あ り,他 剤 と比較 す る と,LM

OX,CAZ,CMXよ りは や や 劣 り,CPZ,PIPCよ りは

優 れ た抗 菌 力 で あ った(Fig.7,8)。

Kpneumoniaeに 対 して は,106接 種 でq10~q20

μg/ml,108接 種 で は0.10~1.56μg/mlに 分 布 し,そ の

ピー クは106接 種 で は0.10と0.20に 分れ て ピー クを欠

き,108接 種 で は0.39μg/mlに ピー クが あ る。他剤 と比

較 す る と,LMOX,CAZ,CMXよ り劣 り,CPZ,PIPC

よ り優 れ て い た(Fig.9,10)。

VOL. 33 S-4CHEMOTHERAPY 1049

Fig. 10 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 11 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 12 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 13 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 14 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 15 Sensitivity distribution of clinical isolates

1050 CHEMOTHERAPYNOV. 1985

Fig. 16 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 17 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 18 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 19 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 20 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 21 Sensitivity distribution of clinical isolates

VOL. 33. S-4 CHEMOTHERAPY 1051

Fig. 22 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 23 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 24 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 25 Sensitivity distrubution of clinical isolates

Fig. 26 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig. 27 Sensitivity distribution of clinical isolates

1052 CHEMOTHERAPY NOV. 1985

Fig.28 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig.29 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig.30 Sensitivity distribution of clinical isolates

Fig.31 Plasma level of MK-0787 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791 (500mg/500mg)

Fig.32 Tissue level of MK-0787 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791 (500mg/500mg)

P.aeru8inosaに 対 して は106,108接 種 と も,そ のほ

とん どが0.78~3.13μg/mlで 発育 を阻 止 され,ピ ー ク

値 は 両 者 と も1.56μg/mlで あ った。他剤 と比較 して も,

そ の 感 受 性 は最 も優 れ,耐 性 菌 も な く,sharpな 感 受性

分 布 を 示 した(Fig.11,12)。

Cfreundiiに つ い て はMK-0787は 最 も良い感 受性

を 示 し,そ のMIC分 布 は106接 種 で,0.10~0・78μ9/

mlに 分 布 し,108接 種 で は0.78~1.56μ9/mlで,そ の

ピー ク値 は,前 者 が0.39μg/mI,後 者 が1.56μ9/m1で

VOL.33 S-4 CHEMOTHERAPY 1053

1054 CHEMOTHERAPY NOV. 198Z

VOL.33 S-4 CHEMOTHERAPY 1055

Fig.33 Tissue Ievel of MK-0787 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791 (500 mg/500mg)

Fig.34 Plasma level of MK-0791 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791 (500 mg/500 mg)

他剤 と比較 す る と耐 性 菌 も な くsharpな 感 受 性 分 布 で

あった(Fig.13,14)。

Smamscensに 対 して は,MK-0787のMIC分 布 は

106接 種 で0 .20~1.56μg/mlに,108接 種 で は0.39~

a13μg/mlに あ っ て,そ の ピー ク値 は前 者 で,0.39μ9/

ml.後 者 で1 .56μ9/mlで あ り'他 剤 と比 較 す る とCAZ

とほぼ同程 度,そ の 他 の薬 剤 よ りは 良 い 感 受 性 を 示 した

(Fig.15,16)。

E.cloacaeに 対 しては,MK.0787のMIC分 布 は106

Fig.35 Tissue level of MK-0791 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791 (500 mg/500mg)

Fig.36 Tissue level of MK-0791 after i. v. d. infu-sion of MK-0787/MK-0791 (500 mg/500mg)

接 種 で0.10~0.39μ9/m1,108接 種 で0.78~1.56μ9/

mlで,そ の ピ ― クは 前 者 で0.20μg/ml,後 者 で0.78

μ9/mlで あ り,他 剤 と比 較 す る と,耐 性 菌 が な く,sharp

な分 布 を示 して い る(Fig.17,18)。

瓦aero8mesに つ い て は,6剤 中 最 も良 い 感 受 性 を 示

し,106接 種 で は0.78μ9/mlで,108接 種 で は1.56μ9/

mlで 全 株 が 発 育 を 阻 止 され た(Fig.19,20)。

Rmirabilisに 対 して はMK-0787は0.20~1.56μ9/

mlに 感受 性 分 布 が あ り,6剤 中,中 間 に位 す る感 受 性

1056 CHEMOTHERAPY NOV. 1985

Fig.37 Case 2 H. H. 15 yrs. Endometritis

Fig.38 Case 3 N. H. 23 yrs. Endometritis

Isolate S.faecalis(1.56)S.lique/aciens(0.39)S.epidermidis

S.liquefaciens(0.39)E.cloacae Ecoli.

E.cloacae S卿faecalis

で あ った(Fig.21,22)。

P.rettgeriに つ い て はMK-0787は 全株 を0.78μg/ml

(106接 種)ま た は1.56μg/ml(108接 種)で 発 育 を 阻 止

Fig.39 Case 4 Y. M. 43yrs. Endometritis

Fig.40 Case 5 M. E. 28 yrs. Puerperal f ever

し,6剤 中,中 間 の感 受 性 で あ った(Fig.23,24)。

P.vuzlgarisに つ い て は,全 株 が0,39μg/ml(106接 種)

また は0.39~0.78μg/ml(108接 種)で 発 育 を 阻止 され1

ほ ぼ 中 間 に 位 す る感 受 性 分 布 で あ った(Fig.25,26)。

P.inconstansに つ い て は,MK-0787は 二 峯性 の感受

性 分 布 を 示 し,0.10μg/mlお よび3.13μg/mlで 発育を

阻 止 した(Fig.27,28)。

VOL.33 S-4 CHEMOTHERAPY 1057

1058 CHEMOTHERAPY NOV. 1985

Table 4 Clinical effect on diagnosis

Table 5 Bacteriological response on diagnosis

Table 6 Bacteriological response on isolated organism

Disappearance rate

Eradicated+Replaced

Total cases

VOL.33S-4 CHEMOTHERAPY 1059

Fig. 41 Case 7 N. M. 22yrs. Puerperal fever

Fig. 42 Case 10 I. M. 23yrs. Puerperal fever

Rmor8aniiに つ い てはMK-0787のMIC分 布 は

q39~3.13μg/mlに あ り,6剤 中,中 間 に 位す るMlc

分布で あ った(Fig.29,30)。

a骨 盤 内性 器 組 織 内 濃 度

Fig. 43 Case 6 M. S. 20yrs. Mastitis

(1)MK-0787の 濃度

成績 はTable1,Fig.31,32,33に 示す ごとく,肘 静脈

血 漿中濃度 お よび子宮動脈血漿 中濃度は一部 にパ ラツキ

はあるものの,お おむね近似 した値が得 られ,そ の消長

も よく似 た経過 を示 した。最高値 は投与後20分 の45.1

μg/mlで,以 後,経 時的に減少 し,4時 間以降は0.3

μg/ml以 下 とな り6時 間以降は0.2~0.3μg/mlと な っ

た。

組織 内濃度は投与後60分 の例に最高値が認め られ,

8.0~14.3μg/gの 濃度が認め られた。以後 は多少のバ ラ

ツキが あるが経時的に減少 し,そ の消長はおおむね血 漿

中濃度 と同 じ経過をた ど り,6時 間以降 は0.2~0.9μ9/

gの 濃度であ った。

(2)MK-0791の 濃度

上記 と同一検体のMK-0791濃 度 の成績 は,Table2,

Fig.34,35,36に 示す通 りである。 す なわ ち,肘 静脈血

お よび子宮動脈血 の血漿中濃度はほぼ近似 した値で,そ

の消長 も同 じ経過を示 した。そ の 最 高 値は20分 後の

42.1μg/mlで あ り,以 後は経時的に減少 し,4時 間前後

まで測定 可能 であ り,0.3μg/mlの 濃度 であ った。 組 織

内濃度は,投 与後20分 目に 最 高 値 が得 られてお り,

15.0~16.7μ9/9で あ り,1時 間40分 まで測定 が可能

で2.9μ9/9が 認 め られた。Fig.34,35,36に その経過 を

図示 した。

3.臨 床成績

(1)疾 患別臨床効果(Table3,4)

1060 CHEMOTHERAPY NOV.1985

Fig. 44 Case 8 T. S. 64 yrs. Pelvic cellulitis

Fig. 45 Case 9 A. I. 44 yrs. Adnexitis

Pelveoperitonitis

Table3,4に 示 す よ うに,子 宮 内 膜 炎3例,産 褥 熱3

例,骨 盤 結 合 織 炎1例,附 属 器 炎 兼 骨 盤 腹 膜 炎1例,乳

腺 炎1例,創 感 染2例,計11例 に 対 し,1回0.59/

0.5g,1日2回,3~11日 間 点 滴 静 注 し,著 効1例,有

効8例,無 効2例 の臨 床 効果 で あ った(Table4)。

各 疾 患 に つ い て 簡 述 す る と,子 宮 内膜 炎 の うちcase

N¢2,3は い ずれ も妊 娠 中 期 中 絶 手 術 後 の 症 例 で,case

No.2(Fig.37)は,Sepidermidis, Stmptococcus sp.,

B.bimusが 検 出 され 本 剤4日 間投 与 に よ り,著 明 に 症 状

が 改 善 され 著 効 と判 定 され,菌 も消 失 した。CaseNo.3

(Fig.38)は,本 剤8日 間 投 与 で,臨 床 症 状 は一 部 改善

され た が,疼 痛 は あ ま りよ く改善 せ ず,細 菌 もS.fmca-

Fig. 46 Case 11 Y. H. 23yrs. Perineal wound

infection

lis,51iguefaciens,E.cloacaeが 検 出 され た が治療 後は

S.epidermidislEcoli,Sfaecalisが 検 出 され,無 効 と

判 定 され た 。

CaseNo.4(Fig.39)は,完 全 子 宮脱 で,マ ンチ ェス

ター手 術 を行 い,10日 後 に 感 染 徴候 が 出 て 子宮 内膜炎

と診 断 され,子 宮 内 容 か らS.aureusが 検 出 され,本 剤

5日 間 投 与 に よ り症 状 改 善 され,有 効 と 判 定 され た。

CaseNo.5,7,10は 産 褥 熱 の症 例 で,No.5(Fig.40),7

(Fig.41)は 本 剤5~7日 間 の投 与 で 有効 で あ ったが,

No.10(Fig.42)は3日 間投 与 後 も改善 の傾 向がな く,

細 菌(Saunus)も 消 失 せ ず 無 効 と判 断 され た。乳 腺炎

の1例(CaseNo.6(Fig.43))は 本 剤4日 間 の投 与で有

効 で あ り,細 菌 も消 失 した 。 骨 盤 内 感 染 症 で はcase

No.8(Fig.44)の 子 宮癌 に伴 う骨 盤結 合 織 炎は 本剤11

日間 の 投 与 で有 効 で あ り,caseNo.9(Fi&45)の 附属

器 炎 兼骨 盤 腹 膜 炎 は8日 間 の 投 与 で有 効 で あ った。 ま

た,会 陰 部 創 感 染(CaseNo.11,Fig.46)の1例 は5日

間使 用 に よ り有 効 で あ った 。

(2)疾 患 別 細 菌 学 的効 果(Table5)

表 示 の よ うに11例 中投 与 前 に菌 を分 離 で きた のは9

例 で,治 療 後 は 消 失2例,減 少1例,不 変2例,菌 交 代

4例 で,消 失 と菌 交 代 を併 せ た 菌 消 失 率 は66.7%で あ

った。 疾 患 に よ る特 徴 は見 出せ な か った。

(3)分 離 菌 別 細菌 学 的 効 果(Table6)

VOL.33S-4 CHEMOTHERAPY 1061

Table 7 Bacteriological response on isolated organism

11例 中投 与 前 に菌 を 分 離 で きた の は9例 で,表 示 の

ように単 独菌 感 染5例,複 数 菌 感 染4例 で,治 療 後 は 消

失2例,減 少1例,不 変2例,菌 交 代4例 で 消 失 率 は

66.7%で あ った。

これを分 離 菌別 に み る とTable7に 示 す よ うに 治療 前

検出 され た のは5aureus6株,S.ePidermidis1株,S

famlis4株,Stnptococcussp.1株,S.ligu吻cims1

株,瓦cloacae1株abimus1株 で,合 計7菌 種15株

であ り,治 療 後 に残 存 した の はS.aureus3株,S.jam-

lis1株 で,11株(73.3%)が 消失 して お り,菌 の質 的 量

的減少をみ た の は 明 らか で あ る。 また,菌 交 代 現 象 に よ

って出現 した菌 は,Sepidermidis1株,瓦coli1株,

Saureus1株,Candida1株,S.jaecalis1株 で,出 現

菌は少なか った。

(4)副 作用

本剤投与 に よって い わ ゆ る ア レル ギ ー症 状 や 胃腸 症 状

等の副作用 は ま った くな く,血 管 痛 等 もな く忍 容 性 は 良

好であ った。 また,検 査 値 異 常 症 例 もな か った(Table

8)。

(5)総 括

以上 の臨床 的 成 績 を総 括 す る と,MK-0787/MK-0791

は産婦人 科的 感 染 症 に 対 し,臨 床 的,細 菌 学 的 効果 が認

められ,副 作 用 は な い こ とを認 め た。

III.考 案

MK-0787は メル ク社 の研 究 陣 に よ り開 発 され た ,St-

rePtomycescattleyaか ら得 られ た 新 しい β一lactam系 抗

生物質thienamycinの ノV-formimidoy1誘 導 体 で あ る。

本剤は広 域 の抗菌 ス ペ ク トル を有 し,強 い 抗 菌 力 を示

し,β-lactamaseに も安定 で あ る が,体 内 に お い て主 と

して腎に おい て,腎 尿 細 管 上 皮 の管 腔 表 面 に存 在 す る

dehydropeptidase-1に よ って 分 解 さ れ 不 活 化 さ れ

る1)2)。MK-0791は,こ のdehydropeptidaseの 選 択 的

阻害剤 と して 開発 され た も の で,こ れ をMK-0787に 配

合す る ことに よっ て,dehydropeptidaseに 分 解 され る

ことを防 ぎ,そ の抗 菌 力 を発 揮 せ しめ,し か もMK-

0787の 腎毒性を軽減 させ るとい う効果 も認め られ て い

る1)2)。MK-0787/MK-0791は このよ うな理論 に よって

開発 された新 しい抗生剤で ある。本剤 の最大 の特徴 は,

MK-0787の 優れた抗菌力にあ り,Sfaecalisを 含む グ

ラム陽性球菌に対 しては他剤 よ りは るか に優れ,グ ラム

陰性桿菌に対 しては,他 剤 と同様かやや まさる傾 向であ

り,嫌 気性菌 に対 してはCLDMを 含む他剤 よ りは るか

に優 れている点にあ る1)2)4)。

本 剤は この特徴を発 揮す るべ く分解を阻止す るMK.

0791が 配合 され ているので,体 内で 抗菌 力を発揮 して

各領 域の感 染症 に対 し有 効な抗 生剤 とな ることが期 待 さ

れ る。

これ らの点について,昭 和59年12月 の第32回 日

本化学療 法学 会西 日本支 部総 会,新 薬 シンポ ジウムで基

礎的,臨 床的研究 の成果 が報告 され,そ の効果 が認 め ら

れた2)。

われ われ はこの シンポジ ウムの一環 として本剤 を産婦

人科領 域において検討 し,こ こに結果 を得た。

産婦人科的感染症 では,そ の起因菌 と して複数菌 に よ

るものが多 いことが 指摘 され てお り3),グ ラム陰性桿菌

をは じめ とし,グ ラム陽性球菌,嫌 気性菌等が複数 で混

合 して感染 していることが多 いことは,わ れわれ も経験

して いる。本剤は これ らの菌種に対 して強い抗菌力を有

してお り,そ の効果は相 当 期 待 して よい もの と思われ

る。 シ ンポ ジウムにおいて集計 された成績では,グ ラム

陽性球菌に対 しては,他 剤 よ りは るかに抗菌力がす ぐれ

てお り,グ ラム陰性菌について も,他 剤に比 し,ほ ぼ同

程度の抗菌力を示 した2}。われ われの 測定 成績 も大体 こ

れ と一 致 した成績 であ り,こ の点か ら,産 婦人科的感染

症 に対す る細菌学的効果 は期待 して よい もの と考 え られ

る。

本剤 の吸収,排 泄,体 内動態 については,シ ンポ ジウ

ムでの報告では,投 与 後,速 やか に ピー クレベルに達

し,そ の薬動力学的定数は,500mg/500mg投 与 でM

K-0787はcmax40.10μg/ml,t1/2(β-phase)o.97

hr.で あ り,MK-0791はCmax32.71μ9/ml,t1/2(β-

phase)0.84hr.で あ る。そ の他 の体液や組織 中にも,

抗菌 力を期 待で きる濃度 の移 行が認 め られ てい る。子宮

各部 位へ も最 高,血 漿 中濃度 の1/3程 度 の移行が認め ら

れてい る2)。われわれ の成績 では、子 宮 内 膜 に最 高10.7

μg/gが 認め られ,血 漿中濃度 の20~30%前 後 の濃度 に

達 し,そ の消長 も血漿 中濃度 とよく相 関 した。 これ らの

濃度 は,臨 床分離株 のMIC値 を カバ ー してお り,局 所

におけ る本剤 の抗菌力 が期待 で きる ことを示す もの とい

え よう。

臨床成績 では,産 婦人科的 感染症 に対 し,1回0.59/

1062CHEMOTHERAPY NOV. 1985

VOL.33 S-4 CHEMOTHERAPY 1063

0,59,1日2回 投与方 法で,平 均6.3日,5.959/5.95

9で,11例 中9例81.8%に 有効 例を認 め,66.7%の

細菌学的効果 を認 めた。また,分 離菌別菌消失率は73%

であった。 これは,シ ンポジウムに お け る成績 と同傾

向,同 程度 とい うこ とが できる2)。

副作用 については,シ ンポジ ウムでの成 績では4.7%

であったが21,わ れわれ はこれ を経験 しなか った。 しか

し,本剤 は,MK-0787の 腎毒性 も指摘 され てお り,注

意を要するものと考え る。

IV.む す び

新 しいカルバペ ネム系抗生物質MK-0787と そ の不活

化酵素阻害剤MK-0791と の配合剤,MK-0787/MK-

0791に ついて産婦人科領域で 検討を行い以下 の 結果を

得た。

臨床分離菌 に対す る抗菌力は,グ ラム陽性菌 に対 しす

ぐれたMIC値 を示 し,グ ラム陰性菌 に対 しては他 の第

三代cephem系 とほ ぼ同程度 であった。

吸収および組織移行 は 良 好 で,1回500mg/500mg

点滴静注で,20分 後 に最高45.1μg/mlの 血漿中濃度が

得 られ,骨 盤 内性器組織 にも60分 後 に8.0~14.3μg/g

の移行が認め られ,そ の消長 はおおむね血 漿中濃度 と同

様 な推移 を示 した。 これ らの濃度 は主な感 染 起 炎 菌 の

MIC値 を上 回る濃度 であった。

産婦人科的 感染症 に対 し,1回0.5g/0.5g,1日2

回,平 均6.3日(5.95g/5.95g)投 与で,11例 中9例

81.8%に 有効 であ り,66.7%の 細菌 学 的 効 果 を認 め

た。副 作用 はなか った。

文 献

1) MK-0787/MK-0791概 要 。 日本 メ ル ク萬 有 株 式

会 社

2) 第32回 日本 化 学 療 法 学 会 西 日本 支 部 総 会, 新 薬

シ ンポ ジ ウ ムII。MK-0787/MK-0791, 岡 山,

1984

3) 出 口浩 一: 臨 床 細 菌 学 の 現 場 か らみ た 細 菌 感 染 症

の 様 相 。 ビーチ ャ ム薬 品 株 式 会 社 企 画 部 発 行,

1983

4) KAHAN, F. M.; H. KROPP, J. G. SUNDELOF &

J. BIRUBAUM Thienamycin: development of

imipenem-cilastatin. J. Antimicrob. Chemo-

then 12 (Suppl. D): 1•`35, 1983

FUNDAMENTAL AND CLINICAL EVALUATION OF IMIPENEM/CILASTATIN

SODIUM IN THE FIELD OF OBSTETRICS AND GYNECOLOGY

NANKUN CHO

Department of Obstetrics and Gynecology, School of Medicine, Showa University

KANGO FUKUNAGA

Department of Obstetrics and Gynecology, International Goodwill Hospital

KATSUAKI KUNII

Department of Obstetrics and Gynecology, Kunii Hospital

A combination of imipenem (MK-0787), a new carbapenem antibiotic, plus cilastatin sodium (MK-

0791), a dehydropeptidase inhibitor (MK-0787/MK-0791=1: 1) was evaluated in the field of obstetrics

and gynecology, and the following results were obtained:

The antibacterial activity of MK-0787 against Gram-positive cocci was very high, with the MICsa

ranging from 0.025 itig/m1 to 0.78ƒÊg/ml against S. aureus, S. epidermidis and S. faecalis. The MIC80

against Gram-negative bacilli such as E. coli, K. pneu7noniae, P. aeruginosa, C. freundii, S. marcescens,

E. cloacae, E. aerogenes and Proteus spp. ranged from 0.2ƒÊg/m1 to 3.13ƒÊg/ml. Its activity against

Gram-negative bacilli was similar to that of the third generation cephems.

Concentrations in plasma and in pelvic organ tissues such as the uterus and adnexa were determined

following I. V. D. infusion of 500 mg/500 mg. Penetration of the drug was found to be good, with a

peak level of 45.1ƒÊg/enii in plasma at 20 min, after the infusion and 14. 3 pg/g in tissues at 60 min.

after the infusion, and elimination from the tissues was similar to that observed in the plasma.

Levels of MK-0787 exceeded the MIC values for most causative organisms.

MK-0787/MK-0791 was given to 11 patients with obstetric and gynecological infections at a dose of

500 mg/500 mg twice daily for an average of 6. 3 days. The clinical response was rated as effective

in 9 out of 11 patients (81.8%), and the bacteriological response was effective in 66. 7%.

No side effects were observed.