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C.その他の膠原病 205 12 1.皮膚筋炎 dermatomyositisDM ヘリオトロープ疹,ゴットロン徴候,多形皮膚萎縮(poikilo- derma),びまん性浮腫性紅斑,爪囲の毛細血管拡張などの 特徴的な皮疹. 近位筋から筋力低下が始まり,筋障害を反映して CK 高値, アルドラーゼ高値,尿中クレアチン高値. 内臓悪性腫瘍を高率に合併. 間質性肺炎の急性増悪に注意. 治療はステロイド. 疫学 日本での患者数は約 20,000 人,30 〜 60 歳代および小児期に 多く,男女比は 1:2 で女性に多い. 皮膚病変を認めないものは多発性筋炎(polymyositis;PM) という. 症状 皮膚症状:顔面とくに眼 がん けん ,眼周囲の浮腫性紫紅色斑〔ヘリオ トロープ疹(heliotrope rash),約30%で観察される〕,両指関 節背面の扁平隆起性丘疹〔ゴットロン丘疹(Gottron’s pap- ules)〕,肘 ちゅう とう や膝 しつがい 蓋などの関節伸側に生じる角化性紅斑〔ゴッ トロン徴候(Gottron’s sign)〕が特徴的である(12.16).頬 部や頭部では脂漏性皮膚炎様の紅斑が出現し,小児ではしばし ば頬部紅斑となる.また,頸部から上胸部〜上背部にそう よう の強 いびまん性浮腫性紅斑が生じる.ショールをまとったように, ないし皮疹の形状から shawl sign,V-neck sign と呼ばれる. 両手示指側面に角化性紅斑を認めることがあり,機械工の手 (mechanic’s hand)と呼ばれる(12.17).これらの皮疹は, 経過とともに色素沈着および脱失,皮膚萎縮,落屑,毛細血管 拡張をきたし,いわゆる多形皮膚萎縮 (poikiloderma)の状態 を呈する.爪囲紅斑および毛細血管拡張,脱毛も認める.深在 性エリテマトーデス様の脂肪織炎や皮下石灰沈着を生じること もある. 筋症状:体幹,四肢近位部,頸部での対称性の筋力低下および 筋痛(自発痛,圧痛,把握痛)がみられる.皮疹部位との関連 性はない.近位筋の障害により,階段の昇降や立ち上がり,歩 C.その他の膠原病 other collagen diseases 12.16① 皮膚筋炎(dermatomyositisa:体幹前面に生じた痒を伴うびまん性浮腫性紅 斑.左胸部は掻破により線状紅斑(flagellate erythe- ma,矢印)を呈している.b:体幹に生じた浮腫性 紅 斑.c:背部に生じた 痒を伴う紅斑(shawl sign). c c b b a a

C.その他の膠原病 other collagen diseases12.18).頬部紅斑を呈し,臨床的にSLE に類似する.10〜20 %に皮下,筋肉内に石灰沈着が認められ,運動障害をきたすこ

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Page 1: C.その他の膠原病 other collagen diseases12.18).頬部紅斑を呈し,臨床的にSLE に類似する.10〜20 %に皮下,筋肉内に石灰沈着が認められ,運動障害をきたすこ

C.その他の膠原病  205

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1.皮膚筋炎 dermatomyositis;DM

●ヘリオトロープ疹,ゴットロン徴候,多形皮膚萎縮(poikilo-derma),びまん性浮腫性紅斑,爪囲の毛細血管拡張などの特徴的な皮疹.

●近位筋から筋力低下が始まり,筋障害を反映してCK高値,アルドラーゼ高値,尿中クレアチン高値.

●内臓悪性腫瘍を高率に合併.●間質性肺炎の急性増悪に注意.●治療はステロイド.

疫学日本での患者数は約 20,000 人,30 〜 60 歳代および小児期に

多く,男女比は 1:2 で女性に多い.皮膚病変を認めないものは多発性筋炎(polymyositis;PM)

という.

症状皮膚症状:顔面とくに眼

がん

瞼けん

,眼周囲の浮腫性紫紅色斑〔ヘリオトロープ疹(heliotrope rash),約 30%で観察される〕,両指関節背面の扁平隆起性丘疹〔ゴットロン丘疹(Gottron’s pap-ules)〕,肘

ちゅう

頭とう

や膝しつがい

蓋などの関節伸側に生じる角化性紅斑〔ゴットロン徴候(Gottron’s sign)〕が特徴的である(図 12.16).頬部や頭部では脂漏性皮膚炎様の紅斑が出現し,小児ではしばしば頬部紅斑となる.また,頸部から上胸部〜上背部に瘙

そう

痒よう

の強いびまん性浮腫性紅斑が生じる.ショールをまとったように,ないし皮疹の形状から shawl sign,V-neck sign と呼ばれる.両手示指側面に角化性紅斑を認めることがあり,機械工の手

(mechanic’s hand)と呼ばれる(図 12.17).これらの皮疹は,経過とともに色素沈着および脱失,皮膚萎縮,落屑,毛細血管拡張をきたし,いわゆる多形皮膚萎縮 (poikiloderma)の状態を呈する.爪囲紅斑および毛細血管拡張,脱毛も認める.深在性エリテマトーデス様の脂肪織炎や皮下石灰沈着を生じることもある.筋症状:体幹,四肢近位部,頸部での対称性の筋力低下および筋痛(自発痛,圧痛,把握痛)がみられる.皮疹部位との関連性はない.近位筋の障害により,階段の昇降や立ち上がり,歩

C.その他の膠原病 other collagen diseases

図 12.16① 皮膚筋炎(dermatomyositis)a:体幹前面に生じた瘙痒を伴うびまん性浮腫性紅斑.左胸部は掻破により線状紅斑(flagellate erythe-ma,矢印)を呈している.b:体幹に生じた浮腫性紅斑.c:背部に生じた瘙痒を伴う紅斑(shawl sign).

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206  12章 膠原病および類縁疾患

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行に困難を生じる.咽頭筋群の筋力低下により嚥下障害や嗄さ

声せい

をきたすこともある.その他の症状:多発関節痛,発熱,倦怠感など.間質性肺炎や肺線維症は急激に発症することがあり,予後に大きく関係する.不整脈や心不全も生じうる.

分類・病因原因不明.ウイルス感染説,自己免疫説,内臓悪性腫瘍や感

染に対するアレルギー反応説などがある.

合併症成人例では 30 〜 40%で内臓悪性腫瘍を合併する.50 歳以上

の症例や,強度の浮腫や瘙痒のみられる例ではとくに高率である.胃癌,乳癌,肺癌,悪性リンパ腫などの合併の頻度が高い.

病理所見初期の紅斑においては,真皮上層の浮腫や基底層の軽度肥厚

(PAS 染色陽性)が主体となる.次第に表皮萎縮,基底膜の液状変性,ムチン沈着,毛細血管の拡張,膠原線維の膨化,リンパ球および組織球浸潤などが認められ,SLE の組織像に類似する.通常は免疫グロブリンや補体の皮膚への沈着はみられない.

検査所見初期では白血球増多,赤沈亢進など非特異的な炎症反応のみ

で,リウマトイド因子および抗核抗体の陽性率は 60 〜 80%である.筋炎によって CK,アルドラーゼ,AST,LDH が増加し,尿中クレアチン,ミオグロビンの増加がみられる.特異的自己抗体として,抗アミノアシル tRNA 合成酵素(ARS)抗体や抗 Mi-2 抗体(10%,DM 特異的),抗 TIF1-g 抗体(30%,悪性腫瘍合併例)などを認める(表 12.9,後述).診断に際しては皮膚生検,四肢 MRI および筋生検が有用である.

診断特徴的な皮膚病変と筋症状,検査所見が揃う例では容易だ

が,初期の皮疹での確定診断は困難である.主に用いられている診断基準を表 12.10 に示す.

治療悪性腫瘍合併の場合はその治療を優先する.ステロイド投与,

重症例ではステロイドパルス療法を行う.免疫抑制薬が投与されることもある.

表 12.9 膠原病および類縁疾患に見出される主要な特異的自己抗体

図 12.16② 皮膚筋炎(dermatomyositis)a:膝部に認められた萎縮性紅斑局面(ゴットロン徴候).b:首から頬にかけて多形皮膚萎縮を認める.

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1)抗 ARS抗体症候群 antisynthetase syndrome

同義語:抗合成酵素症候群

細胞内でアミノ酸を tRNA に結合させるアミノアシル tRNA合成酵素(ARS)に対して,自己抗体が産生された皮膚筋炎 /多発性筋炎の亜型を,抗 ARS 抗体症候群という(表 12.9).比較的慢性に経過する間質性肺炎,関節痛,Raynaud 現象や機械工の手が共通してみられやすい.悪性腫瘍の合併はまれ.抗核抗体は通常陰性.

2)無筋症性皮膚筋炎 amyopathic dermatomyositis;ADM

筋力低下や肺などの他臓器症状を認めないものの,ゴットロン徴候やヘリオトロープ疹など典型的な皮膚症状を呈する症例があり,これを無筋症性皮膚筋炎という.ステロイド外用などでコントロール可能なことも多いが,経過中,急に全身症状が生じることもあり,注意深い観察が必要である.特に,抗MDA5 抗体陽性例では血管障害による網状皮斑や皮膚潰瘍がみられやすく,50 〜 70% で予後不良な急速進行性間質性肺炎を発症する.

図 12.16③ 皮膚筋炎(dermatomyositis)a:手指の DIP,PIP 関節伸側に境界明瞭な数 mm大の丘疹が多発,一部融合する(ゴットロン丘疹).b:肘頭の落屑を伴う角化性紅斑(ゴットロン徴候).c:手指屈側に紅斑が出現することもある(逆ゴットロン徴候).d:両側眼瞼には強い浮腫を認め,紫色皮疹を呈している(ヘリオトロープ疹).e:後爪郭の毛細血管拡張.

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図 12.17 皮膚筋炎でみられる皮膚症状 “機械工の手(mechanic’s hand)”

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208  12章 膠原病および類縁疾患

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3)抗 Mi-2抗体陽性皮膚筋炎 dermatomyositis withanti-Mi-2 antibody

顔面を含む典型的な皮膚筋炎の皮膚症状に加え,CK 上昇と筋症状が著しい.一方で間質性肺炎の合併は少なく,予後良好であることが多い.抗核抗体は高力価になることが多い.

4)抗 TIF1-g 抗体陽性皮膚筋炎 dermatomyositis withanti-TIF1-g antibody

悪性腫瘍を合併する成人皮膚筋炎の約 60%で抗 TIF1-g 抗体が陽性になる.びまん性の紅斑や水疱を伴いやすい.筋症状として嚥下障害をきたしやすい.間質性肺炎の合併はまれ.

5)小児皮膚筋炎  juvenile dermatomyositis

皮膚症状が筋症状に先行し,かつ皮膚症状が強い(図12.18).頬部紅斑を呈し,臨床的に SLE に類似する.10〜20%に皮下,筋肉内に石灰沈着が認められ,運動障害をきたすことが多い.間質性肺炎はほとんどみられない.慢性に経過するものと,全身の血管炎を生じて予後不良となるものがある.

表 12.10 皮膚筋炎 /多発性筋炎の診断基準

1.診断基準項目

(1)皮膚症状 (a)ヘリオトロープ疹:両側又は片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑 (b)ゴットロン丘疹:手指関節背面の丘疹 (c)ゴットロン徴候:手指関節背面および四肢関節背面の紅斑

(2)上肢又は下肢の近位筋の筋力低下(3)筋肉の自発痛又は把握痛(4)血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼ又はアルドラーゼ)の上昇(5)筋炎を示す筋電図変化(6)骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛(7)全身性炎症所見(発熱,CRP上昇,又は赤沈亢進)(8)抗アミノアシル tRNA合成酵素抗体(抗 Jo-1抗体を含む)陽性(9)筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性及び細胞浸潤

2.診断基準

皮膚筋炎: (1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし,かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの.なお,皮膚症状のみで皮膚病理学的所見が皮膚筋炎に合致するものは無筋症性皮膚筋炎として皮膚筋炎に含む.多発性筋炎: (2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの

3.鑑別診断を要する疾患

感染による筋炎,薬剤誘発性ミオパチー,内分泌異常に基づくミオパチー,筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患,湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患(厚生労働省.http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkou- kyoku/0000089962.pdfから引用)

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図 12.18 小児皮膚筋炎(juvenile dermatomyositis)a:顔面ならびに体幹に鱗屑を伴うびまん性の紅斑を認める.b,c:とくに頬部にびまん性の紅斑を認め,SLEの際に生じる頬部紅斑と類似した臨床像を呈している.

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