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担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科 阿部 ⼆朗 第13回「化学熱⼒学」 1 基礎化学

基礎化学 - 青山学院大学...7 【物質のエントロピー】 熱 学第三法則 純粋な結晶性の物質の絶対零度でのエントロピーは0に等し い。 般に、固体状態の物質は液体状態よりも秩序だっており、したがってその

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担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科阿部 ⼆朗

第13回「化学熱⼒学」

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基礎化学

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【⾃発的に起こる変化の⽅向】

⾃発的(spontaneous)に起こる過程は、必ずエネルギーや物質が乱雑に分散していく⽅向である。

例えば、熱い物体が冷たい物体に接触すると、熱い物体は必ず冷却される。この冷却の過程は⾃発的に起こり、逆に熱い物体がさらに熱くなるようなことは起きない。

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【エントロピー変化】

エントロピー(entropy)︓乱雑さの度合いで、記号 S で表す。単位は J/K で表す。内部エネルギーやエンタルピーと同様に、エントロピーも状態関数であり、⊿S は最初の状態と最後の状態のエントロピーのみに依存する。

⊿S=Sfinal-Sinitial

系の乱雑さは、系に加わった熱に⽐例し、エントロピー変化⊿S は、系に加えられた熱 qrev(変化が可逆過程のときに加える熱、つまり、系と外界あるいは系の内部でも温度差が⽣じないように加える熱)に⽐例する。

⊿S ∝ qrev

エントロピー変化⊿S は熱が加えられる時の温度には反⽐例する。例えば、絶対温度 0K 付近の低温で熱を加えれば、その乱雑さの変化は⼤きいものになるが、より⾼温ですでに乱雑な状態であったところに同じ熱を加えても、その変化は⼩さい。

定温過程の場合のエントロピー変化(T=⼀定)

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【熱⼒学的可逆過程】

可逆過程とは系をある状態Aから状態Bへと変化させた時, 状態Bから状態Aへ他に何も変化させることなく元の状態に戻すことができるような過程をいう

可逆過程における熱の例

① Neガスをピストン付き容器に⼊れる。ピストンの上に砂を⼊れたビーカーを置いて、気体の体積を1L に保つ。

② ⼀粒の砂を取り除くと、気体は僅かに膨張し、ピストンは新しい位置で停⽌する。気体が膨張する際に外界(容器の壁)から微量な熱 qrevを吸収する。

③ 取り除いた⼀粒の砂を元に戻すと、気体は僅かに収縮し、ピストンは元の位置で停⽌する。気体が収縮する際に、外界に微量な熱 qrevを放出する。

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【熱⼒学第⼆法則】

⾃然に起こる変化の⽅向を決定する⼆つの⼒、エントロピー変化とエネルギー変化、の影響⼒を⽐べる⽅法を⽰しているのが熱⼒学の第⼆法則である。

熱⼒学第⼆法則(second law of thermodynamics)︓⾃発的に起こるすべての過程で、宇宙のエントロピーは常に増加している。宇宙のエントロピーとは、系と外界のエントロピー変化の総和である。

⊿Stotal = ⊿Ssystem + ⊿Ssurrounding > 0

つまり、系のエントロピーが減少しても、それを打ち消すほどのエントロピーの増⼤が外界で起これば、その変化は⾃発的に起こりうる。

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【熱⼒学第⼆法則】

エントロピーを使って、熱は必ず⾼温部から低温部に移動する現象を考える。1.系から外界に熱 q が温度 T のもとで可逆的に移動するとき、

∆ ∆ ∆ 0

2.不可逆的に短時間で熱が移動するとき、この場合、系の温度 Th が外界の温度 T1 よりも⾼くなければならない。

∆ ∆ ∆ 0

となり、エントロピーは増⼤する。

⊿Stotal ≧ 0︓⾃発的に起こる過程⊿Stotal = 0︓可逆過程⊿Stotal < 0︓不可逆過程

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【物質のエントロピー】

熱⼒学第三法則︓純粋な結晶性の物質の絶対零度でのエントロピーは0に等しい。

⼀般に、固体状態の物質は液体状態よりも秩序だっており、したがってそのエントロピーは⼩さい。また、気体状態は液体状態よりも乱雑さが増しており、そのエントロピーは⼤きい。

Ssolid < Sliquid < Sgas

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【標準エントロピー】

絶対零度における完全結晶(原⼦や分⼦の配列に⽋陥や不純物のない理想的な結晶)では、すべての原⼦や分⼦は完全に規則的に配列しており、エントロピーは0になる。このことから、絶対零度からある特定の温度まで qrev/T を加え合わせていけば、ある物質のエントロピーの絶対値を測定により求めることができる。

このようにして、標準状態で求めたものが物質の標準エントロピー(standard entropy)であり、S°で表す。ある反応系の標準エントロピー変化⊿S°は次のように求めることができる。

⊿S° =(⽣成物の S° の総和)-(反応物の S° の総和)

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【酸素分⼦のエントロピー変化】

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【標準モルエントロピー(25 ℃)】

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【例題1】鉄がさびる現象は室温でゆっくり進⾏し、⾃然に起こる現象である。この反応の 25 ℃での標準エントロピー変化と標準反応エンタルピー変化を求めよ。各物質の標準エントロピーと標準反応エンタルピーについては、第12回講義スライド28と本講義スライド10を参照すること。

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鉄がさびる反応(酸化反応)では、⼤きなエントロピーの減少と⼤きな発熱を伴う。⊿S° = -549.4 JK-1、⊿H° = -1648.4 kJ

4Fe(s) + 3O2(g) → 2Fe2O3 (s)

【鉄がさびる現象のエントロピー変化】

⾃然に起こる変化かどうかを知るには、反応系のエントロピー変化だけでなく、その変化によって起こる外界のエントロピー変化も求めなければならない。この反応では、⼤きな熱が発⽣し、それが外界に放出され、そのことにより、外界のエントロピー変化が増⼤すると考えられる。

熱⼒学第⼆法則(second law of thermodynamics)︓⾃発的に起こるすべての過程で、宇宙のエントロピーは常に増加している。宇宙のエントロピーとは、系と外界のエントロピー変化の総和である。

⊿Stotal = ⊿Ssystem + ⊿Ssurrounding > 0

つまり、系のエントロピーが減少しても、それを打ち消すほどのエントロピーの増⼤が外界で起これば、その変化は⾃発的に起こりうる。

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外界で起こるエントロピー変化は、外界に流出する熱をその移動が起きたときの温度で割ることで求められる。

圧⼒や温度が⼀定の過程では、外界に流出する熱は、系で発⽣した熱の符号を変えたものに等しく

鉄の酸化で起こる外界のエントロピー変化は、

そして、エントロピー変化の総和は、

となり、⾮常に⼤きなエントロピーの増⼤となることから、鉄が酸化され、さびるという現象は⾃然に起こる変化の⽅向であるといえる。

標準状態に限らず、外界をも含めたエントロピー変化の総和は以下のように⼀般化される。

【外界も含めたエントロピー変化の総和】

∆∆ ° 1648.4 10 J

298K 5532JK

∆ °

∆ ° ∆ ° ∆ ° 549.4JK 5532JK 4983JK

∆ ∆ ∆ ∆∆

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標準状態に限らず、外界をも含めたエントロピー変化の総和は以下のように⼀般化される。

上式の両辺に-Tを乗じて並べ替えると、

となる。ここで、ギブズの⾃由エネルギーという新たな熱⼒学の状態関数 G を導⼊する。これは、

で定義される。⼀定の温度、圧⼒の下での変化では、

である。もしも、反応物、⽣成物ともに標準状態にあるとすれば、標準⾃由エネルギーの変化 ⊿G° が求められる。

すなわち、ギブズの⾃由エネルギー変化と宇宙のエントロピー変化は以下のような関係にある。

【ギブズの⾃由エネルギー(Gibbs free energy)】

∆ ∆ ∆ ∆∆

∆ ∆ ∆

∆ ∆ ∆ ∆ ∆ ∆ · · ∆ ∆ ∆

∆ ° ∆ ° ∆ °

∆ ∆

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ギブズの⾃由エネルギー変化は、⼆つの駆動⼒、エントロピー変化とエネルギー変化(エンタルピー変化)が組み合わさったものであり、⊿G の正負が変化の⽅向性を表すことになる。

⊿G < 0(⊿Stotal > 0) ⾃発的過程⊿G > 0(⊿Stotal < 0) ⾮⾃発的過程⊿G = 0(⊿Stotal = 0) 平衡状態

変化の過程が発熱(⊿H<0)で、エントロピー変化も正であるときは、必ず⊿G<0となり⾃発的な変化であることがわかる。また、吸熱過程( ⊿H >0 )でも、T⊿S が⼗分に⼤きい場合に限って、⊿G<0となり⾃発的な過程となる。

すなわち、 T⊿S は温度に依存するため、温度によって⾃発的になったり、⾮⾃発的になったりすることがある。例えば、⊿Hが正で不利であり、T⊿Sが正で有利なとき、低温では⊿Hの⽅がT⊿Sより⼤きくても、⾼温ではT⊿Sの⽅が⼤きくなりうる。このため、低温では⾮⾃発的な吸熱過程でも、⾼温では⾃発的になりうる。

【ギブズの⾃由エネルギー(Gibbs free energy)】

∆ ∆ ∆ ∆ ∆

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【氷の融解】

0℃以下では、氷の融解は、⊿H が T⊿Sを上回るので、⾃発的には起きない。しかし、0℃以上では、有利な T⊿Sが⊿H よりも⼤きくなるので、⾃発的に氷が融解する。0℃では、⼆つの項が釣り合い、平衡状態となる。

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【例題2】アンモニアの⼯業的合成法であるハーバー法は、25℃の標準状態の下で、⾃発的か、それとも⾮⾃発的か。何度(℃)が境⽬になるか。

N2(g) + 3H2(g) → 2NH3 (g)⊿H°=-92.2 kJ、⊿S°=-199 JK-1