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事業に伴う用地取得にかかる建物の移転補償について 構内再築工法において『従前の建物に照応する建物』を補償した事例 函館開発建設部 用地課 ○畠山 伸行 鈴木 徹雄 -まえがき- 紹介させていただく事例は、函館開発建設部が施行した「一般国道5号亀田拡幅工 事」に必要となる用地の取得に伴い支障となった自動車販売会社の建物について、従 前建物に照応する建物及び関連移転物件の再配置により、構内を合理的な移転先とし て認定し補償した事例です。 -本文- 一般国道5号は、函館市を起点とし、小樽市 などを経由し札幌市に至る総延長 の道 282.6km 南と道央を結ぶ主要幹線道路です。この国道5 号線は、通過市町村において地域の道路網を形 成する上での主軸として、また、住民の日常生 活を支える道路としても重要な路線となってい ます (資料1) しかし、函館市内のJR五稜郭駅前から札幌 方面へ向かう延長 km区間については、幹線道路で 2.1 あるにもかかわらず、幅員 mの狭小な片側1車線の国道であり交通混雑が常態化 10.5 )、 していたため 資料2 全幅員 mの4車線道路とする市街地道路拡幅事業として 33 平成10年度から用地買収を開始し、平成17年度末に全区間供用開始がなされまし (資料3) 補償対象となった本事例施設は 自動車販売業のショールーム兼事務所 屋外展示場 工場、倉庫等の一連施設です (資料4) Nobuyuki Hatakeyama Tetuo Suzuki

事業に伴う用地取得にかかる建物の移転補償につい …事業に伴う用地取得にかかる建物の移転補償について -構内再築工法において『従前の建物に照応する建物』を補償した事例-

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事業に伴う用地取得にかかる建物の移転補償について

- -構内再築工法において『従前の建物に照応する建物』を補償した事例

函館開発建設部 用地課 ○畠山 伸行

鈴木 徹雄

-まえがき-

紹介させていただく事例は、函館開発建設部が施行した「一般国道5号亀田拡幅工

事」に必要となる用地の取得に伴い支障となった自動車販売会社の建物について、従

前建物に照応する建物及び関連移転物件の再配置により、構内を合理的な移転先とし

て認定し補償した事例です。

-本文-

一般国道5号は、函館市を起点とし、小樽市

などを経由し札幌市に至る総延長 の道282.6km

南と道央を結ぶ主要幹線道路です。この国道5

号線は、通過市町村において地域の道路網を形

成する上での主軸として、また、住民の日常生

活を支える道路としても重要な路線となってい

ます (資料1)。

しかし、函館市内のJR五稜郭駅前から札幌

方面へ向かう延長 km区間については、幹線道路で2.1

あるにもかかわらず、幅員 mの狭小な片側1車線の国道であり交通混雑が常態化10.5

( )、 、していたため 資料2 全幅員 mの4車線道路とする市街地道路拡幅事業として33

平成10年度から用地買収を開始し、平成17年度末に全区間供用開始がなされまし

た (資料3)。

、 、 、補償対象となった本事例施設は 自動車販売業のショールーム兼事務所 屋外展示場

工場、倉庫等の一連施設です (資料4)。

Nobuyuki Hatakeyama Tetuo Suzuki,

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現施設は、A自動車販売、B商会、C自動車販売、B商事 計4社が一体となり、

自動車、自動二輪車及び自転車の販売店舗、車検及び修理工場、販売商品の在庫保管

用の倉庫等が配置されたものです。加えて来客用駐車場、修理前後期間の車両保管、

社員駐車場、新車等商品の保管場所として利用されており、車両動線を考慮すると敷

地内には遊休地が全く無い状態でした (資料5)。

A自動車販売は、メーカーの軽四自動車及び自動二輪車に係る『代理店』で、メー

カーから直接仕入れて卸売りを行う権利を認められた企業です。顧客への直接販売は

当然として、関連会社への卸売りによって、運営されています。

B商会は、自動車、自動二輪車及び自転車の販売を行っており、A自動車販売及び

F自転車(メーカー)から各商品を仕入れ、顧客に販売、あるいは、地方販売店に卸

売りを行っています。

C自動車販売は、メーカーの意向で小型自動車のみを仕入れる卸売り専門の会社と

して設立された『代理店』で、メーカーから仕入れた小型自動車をA自動車販売に対

して卸売りを行っています。

D商事は、A自動車販売、B商会から自動車を購入した顧客の自賠責保険の取り扱

い、任意保険の勧誘加入手続き、保険給付手続き等、損害保険にかかわる業務全般を

執り行っています。

【移転補償の検討】

1 敷地の利用実態等

。 、 、現施設の敷地面積はおよそ ㎡ありました A自動車販売外3社は 本社業務6,750

新車販売、車検整備、修理、商品保管等を一団の土地の中において行うことにより、

事務処理や商品・部品等の流通をスムーズにした営業活動を行っていました。

当部の事業に必要となる敷地の面積は ㎡なので、残地は従前の95%が残る事350

となります。

2 移転工法の検討

直接支障となるのは下記の施設です。

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ア 店舗兼事務所①(うち屋内展示スペース)

イ 店舗兼事務所②(うち屋内展示スペース)

ウ 屋外展示スペース③

エ 屋外展示スペース④

オ 屋外展示スペース⑤

カ その他、各種工作物(以上、資料5参照)

自動車販売会社の営業上、車両展示スペースの確保は必須であり、また、これを減

少させることは、固定客はもちろん、それ以外の顧客の「実車を確認した上での購入

検討」を行う際の実台数が減少することにつながるため、営業に直接的な影響を及ぼ

すことになってしまいます。

また、車両展示スペースは、その効果を最大限に発揮するため外部から日常的に見

える「道路に面した箇所」に配置する必要があるので、移転後も同じような位置に同

じ規模で配置されなければ従前環境が満足されない事になります。

この一連の施設は「メーカーの道南圏における中核をなす自動車販売会社群」とし

て機能しており、周辺状況から鑑みても、残地で従前機能を確保する必要性が多分に

あると判断されることから、残地を移転先と認定し、以下に述べる移転工法について

検討しました。

1)曳家工法

この工法は、敷地に余裕があり、従前の土地と残地の間に障害物または高低差が無

い場合で、曳家後の敷地と建物等の関係、構造、用途及び部材の希少性などを勘案し

て採用する工法ですが、本件は敷地に余裕がなく、隣接地との間にも曳家施工の作業

ヤードもとれないため、物理的に不可能と判断し、不採用としました。

2)切取改造工法

この工法は、建物の一部を切取り、残地内で残存部分を一部改築または増築して機

能回復を図る工法です。

支障物件となる2棟のショールーム兼事務所は、背後に連結して建設されている倉

庫等機能上一体の建物として利用されています。

この工法による移転工事の可否について検討しましたが、支障となる建物の周囲に

は増築するスペースが無いこと、ショールーム兼事務所等が、車両展示及び荷物の搬

入出のために内柱を設置しない特殊な構造となっていて、増改築を行うためには、主

要構造物の大部分を変更する必要が生じることから不採用としました。

3)構内再築工法

この工法は、残地に従前建物と同種同等の建物を再現することにより、従前機能を

回復させる工法です。

改造工法で述べたとおり、支障となるショールーム兼事務所は、背後に連結して建

設されている倉庫等と一体利用されており、支障物件単独での移転は不可能であるた

め、倉庫等と一体で残地内に再築することが可能かを検討しましたが、残地に支障物

件、新車展示スペース及び構内の車両通行路を確保することは物理的に不可能でした

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ので、これも不採用としました。

4)構内再築における照応建物での移転工法

この工法は今まで述べた残地内工法が不可能で、当該関係者が残地において従前ど

、 、 。おりの営業を継続する必要があり かつ その意志がある場合に採用される工法です

当該敷地は、メーカーの道南圏における本拠地として、仕入れ商品すべてが一旦搬

入されて来る重要な場所であり、現状と同様に幹線道路沿線に存していることが絶対

、 、条件となりますが 当該地周辺で約 ㎡もの敷地を確保することは不可能であり6,700

潰地割合も僅少であることから、残地内工法を認定した訳ですが、当該関係人も、事

前の用地説明の中で残地内における営業継続を主張していました。

これらを踏まえ、残地に従前の建物に照応する建物を再現することが合理的か、従

前の機能を維持することができるかを検討し、照応する建物及び関連移転物件の再配

置による移転工法が最も合理的であると言う結論となりました。

3 補償の方法

車両展示スペースを従前と同様に確保する必要があるため、支障となる2棟の店舗

兼事務所及びこれと一体となっている倉庫を照応建物により再築し、残地の車両整備

工場、洗車場及び駐車スペースを再配置することにより、屋外展示スペースを確保し

ました。

また、この結果どうしても失われること

となる駐車場11台分のスペースを「自動

車保管場所の確保に要する費用の補償取扱

要領の3 業務用建物敷地内にある保管場

所の場合(支障物件有 」により判定し、)

併せて立体駐車場の設置に要する費用を補

償することとしました。

移転に伴う営業補償についてですが、

4社が当該地において密接な関係で営業を展開

しており、メーカーの道南圏における本拠地として、また、それぞれが本社として販

売・車両整備等を行っていること、ショールーム及び展示場が、展示施設を持たずに

販売活動を行っている他の販売店の顧客対応の場としても活用されていることを踏ま

え、長期にわたる営業休止は、各社に膨大な不利益を与えることとなり、これに伴う

営業補償額が増大してしまうことから、当然、より経済的な補償にはならないと考え

られます。

仮営業所の設置により営業継続を図り、休業補償額を極力低下させる方法が考えら

れますが、本件は構内に遊休地がない状態です。したがって一時的に一部のみでも構

外の仮営業所で販売活動を継続出来ないかを検討し、移転対象とした建物のうち、整

備部門以外については、移転工事に要する期間中は構外の仮営業所で営業継続し、整

、 。備部門については 別途構内に仮営業所を設置して営業を継続できると判断しました

(資料7)

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営業継続が可能となった事により、実際の休止期間は「仮営業所へ移転する準備期

間」及び「仮営業所から再築した建物へ移転する準備期間」のみで間に合うこととな

、 、 、 、りますので 引越しに係る荷作り 運搬 荷解き及び配置にそれぞれ各1日を計上し

営業休止補償は計6日間のみとしました。

以上の補償総額と施設全面を構外再築工法により補償した場合の補償総額を経済比

較した結果、構内再築における照応建物及び関連移転物件の再配置による補償の方が

明らかに経済的であったことから、この案をもって補償させていただいたものです。

-あとがき-

本事例は、買収面積が少なかったこともあって、残地の有効利用及び現状機能をい

かに確保するかを検討して移転工法を決定、照応建物と構内再配置により補償したも

のですが、補償物件が大規模かつ移転期間が長期にわたるため、関係人とは何度も交

渉を重ね、営業活動に極力支障を及ぼさない補償内容であることについて、理解を求

めることに時間を費やしたところです。