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石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について(中間報告) 小坂 豊1・内堀 伸吾2・藤田 和恵3 1 金沢河川国道事務所 松任海岸出張所 (〒924-0882 白山市八ツ矢554 ) 23 金沢河川国道事務所 海岸課 (〒920-8648 金沢市西念4-23-5 ). 本稿は、石川海岸小松工区にて実施している新たな海岸保全計画(以下「本計画」という。) の概要について、中間報告を行うものである。 石川海岸小松工区では、2004年度の直轄編入以来、順次、沖合施設(人工リーフ)(以下 「人工リーフ」という。)の施工を行い、一定の海岸防護効果を発現し始めている一方で、浸 食は継続しており、沖合施設の未整備区域では依然として被災が頻発している状況である。ま た、本工区では人工リーフに併せて養浜工を予定しているが、大量の養浜材を必要とすること から、土砂供給先の確保に苦慮する状況となっている。 本計画は小松工区におけるこれらの課題を解決するためのコスト縮減を図った養浜断面及び 材料の見直し計画である。 キーワード 石川海岸,海岸保全計画,中間報告 1. はじめに 石川海岸の小松工区は、 2004度に石川県から直轄編 入されて以来、沖合施設 (人工リーフ)(以下「人 工リーフ」という。)の設 置を重点的に整備してきた。 (図-1参照) しかしながら、近年、沖 合施設の未整備区域にて直 立堤の被災が多発しており、 事業の早期推進が求められ ているところである。また、人工リーフの整備済区間に おいても、直立堤前面の前浜が侵食を受け、緩傾斜堤の 一部に陥没が生じている箇所もある。 これらの被災の原因は越波が直接的に影響しているの ではなく、直立堤前面の前浜が波により侵食されること で、法先から堤体土砂の吸い出しを受けているものと考 えられることから、堤体安定のための早急な養浜が必要 となっている。しかし一方で、現行計画では、必要養浜 量が100万m3と計画されており、莫大な事業費がかかる と想定されることから、コスト縮減と適正な材料の確保 が必要となっている。本稿はこれらの課題に対する養浜 計画の見直しを行った計画の中間報告を行うものである。 2. 小松工区の現状 (1) 小松工区の近年の被災状況 小松工区は2013年度末時点で、人工リーフの9基目迄 が施工完了している。(図-2参照) 被災の多くは、沖合施設の未整備区域及び小松工区 の上手、下手の直立堤で発生している。(写真-1参照) また、沖合施設も被災し ており、平成24年度の冬季 風浪で人工リーフ1基目 の函体下が空洞化した他、 被覆ブロックも移動する 等したため、応急対策と して、捨石(1t)を変状 箇所周辺に投入した。 (図-3参照) これを受け、2基目以降の整備済み人工リーフについ ても変状が発生している可能性があることから、スワス 測深を利用して変状の有無を確認した結果、人工リーフ 直轄施工区間 小松工区 図-2 小松工区 工事施工区域 写真H25.1 直立堤被災

石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について( …石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について(中間報告) 小坂 豊1・内堀

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Page 1: 石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について( …石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について(中間報告) 小坂 豊1・内堀

石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について(中間報告)

小坂 豊1・内堀 伸吾2・藤田 和恵3

1金沢河川国道事務所 松任海岸出張所 (〒924-0882 白山市八ツ矢554 )

2.3金沢河川国道事務所 海岸課 (〒920-8648 金沢市西念4-23-5 ).

本稿は、石川海岸小松工区にて実施している新たな海岸保全計画(以下「本計画」という。)

の概要について、中間報告を行うものである。 石川海岸小松工区では、2004年度の直轄編入以来、順次、沖合施設(人工リーフ)(以下

「人工リーフ」という。)の施工を行い、一定の海岸防護効果を発現し始めている一方で、浸

食は継続しており、沖合施設の未整備区域では依然として被災が頻発している状況である。ま

た、本工区では人工リーフに併せて養浜工を予定しているが、大量の養浜材を必要とすること

から、土砂供給先の確保に苦慮する状況となっている。 本計画は小松工区におけるこれらの課題を解決するためのコスト縮減を図った養浜断面及び

材料の見直し計画である。

キーワード 石川海岸,海岸保全計画,中間報告

1. はじめに

石川海岸の小松工区は、

2004度に石川県から直轄編

入されて以来、沖合施設

(人工リーフ)(以下「人

工リーフ」という。)の設

置を重点的に整備してきた。

(図-1参照)

しかしながら、近年、沖

合施設の未整備区域にて直

立堤の被災が多発しており、

事業の早期推進が求められ

ているところである。また、人工リーフの整備済区間に

おいても、直立堤前面の前浜が侵食を受け、緩傾斜堤の

一部に陥没が生じている箇所もある。 これらの被災の原因は越波が直接的に影響しているの

ではなく、直立堤前面の前浜が波により侵食されること

で、法先から堤体土砂の吸い出しを受けているものと考

えられることから、堤体安定のための早急な養浜が必要

となっている。しかし一方で、現行計画では、必要養浜

量が100万m3と計画されており、莫大な事業費がかかる

と想定されることから、コスト縮減と適正な材料の確保

が必要となっている。本稿はこれらの課題に対する養浜

計画の見直しを行った計画の中間報告を行うものである。

2. 小松工区の現状

(1) 小松工区の近年の被災状況

小松工区は2013年度末時点で、人工リーフの9基目迄

が施工完了している。(図-2参照)

被災の多くは、沖合施設の未整備区域及び小松工区

の上手、下手の直立堤で発生している。(写真-1参照)

また、沖合施設も被災し

ており、平成24年度の冬季

風浪で人工リーフ1基目

の函体下が空洞化した他、

被覆ブロックも移動する

等したため、応急対策と

して、捨石(1t)を変状

箇所周辺に投入した。

(図-3参照) これを受け、2基目以降の整備済み人工リーフについ

ても変状が発生している可能性があることから、スワス

測深を利用して変状の有無を確認した結果、人工リーフ

図-1 直轄施工区間

小松工区

図-2 小松工区 工事施工区域

写真-1 H25.1直立堤被災

Page 2: 石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について( …石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について(中間報告) 小坂 豊1・内堀

被覆石飛散

バー

2基目は沖側の被覆石に一部移動が見られたが、3~9

基目については、特に目立った変状は見られなかった。

(図-4参照)

(2) 小松工区の汀線状況

小松工区の汀線の変動について、2000年と2013年の垂

直写真にて比較を行うと、2000年3月時点の沖合施設整

備前(写真-2参照)は健康広場前~№580付近に浜が

あったのに対し、2013年6月時点(写真-3参照)では、

離岸堤背後は浜が前進しているものの、健康広場前~

No.580付近は浜が無くなっていることがわかる。

(3) 小松工区の土砂量の減少

小松工区の土砂変化量について、測量年度の深浅断面

地形を比較することにより算出した結果、海岸から沖合

1kmの間で土砂は約4万m3/年減少していることがわかっ

た。(図-5参照)

(4) 海底地盤の状況

a)小松工区の海底の概況 石川海岸は長い直線状の海岸であり、またバーの発達

のよい海岸である。(バーとは汀線と平行に沖合いに形

成される地形で、凸部を指す。)小松工区では、スワス

測深や深浅測量によると、バーは概ね沖合100m~500mの

範囲で移動していることがわかった。また、小松工区下

手の深掘、離岸堤背後と人工リーフ未施工箇所の深掘及

び近年施工した人工リーフの周辺状況(未堆砂状況)等

がわかる。(図-6参照)

b)既整備沖合施設の効果

離岸堤設置箇所と人工リーフ設置箇所の深浅測量図と

経年的な地盤高の変化を比較したところ、設置してから

6年たった人工リーフの沖側、岸側は整備後、砂が堆積

し地盤高が安定している一方で、離岸堤は岸側が堆砂し

安定しているものの、沖側は侵食傾向にあることがわか

る。また、人工リーフ背後の直立堤前面は整備後も侵食

傾向にあるのに対し、離岸堤背後の直立堤前面は堆砂し

ている様子がわかる。(図-7、8参照)

図―7 離岸堤3基目深浅測量と地盤高の経年変化

方塊ブロックの流失

被覆ブロックの流失

捨石マウンドの深掘

図-3 人工リーフ1基目変状状況

-9

-8

-7

-6

-5

-4

-3

-2

-1

0

1985年1月

1990年1月

1995年1月

2000年1月

2005年1月

2010年1月

標高(T.P.m)

岸側

沖側

人工リー フ設置

-9

-8

-7

-6

-5

-4

-3

-2

-1

0

1985年1月

1990年1月

1995年1月

2000年1月

2005年1月

2010年1月

標高(T.P.m)

岸側

沖側離岸堤設置

-10

-5

0

5

10

-50 0 50 100 150 200 250 300

標高

(T.P

.m)

岸沖方向距離(m)

1996(H8).5 設置前

2001(H13).10 設置後

2008(H20).12

2013(H25).9

【No.616】

沖側 岸側

堆積

-10

-5

0

5

10

-50 0 50 100 150 200 250 300

標高

(T.P

.m)

岸沖方向距離(m)

2001(H13).102002(H14).122008(H20).122013(H25).9

【No.612】

沖側 岸側

侵食

函体下部の空隙

-250-200-150-100-50050100150200250

1960

1965

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

2005

測量年度

土砂変化量(万㎥)

1996基準

●:沖合施設~沖合1km●:護岸0km~沖合1km

手取川ダム

約-4.4 万㎥/年

砂利採取禁止

№590 №600 健康広場 №580

健康広場 №580 №590 №600

図-4 人工リーフ2基目変状状況

写真-2 2000年3月撮影 小松工区

写真-3 2013年6月撮影 小松工区

図-5 小松工区の土砂変化量

図-6 スワス測深図化

図-7 離岸堤3基目 深浅測量と地盤高の経年変化

図-8 人工リーフ3基目 深浅測量と地盤高の経年変化

Page 3: 石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について( …石川海岸小松工区の新たな海岸保全計画 について(中間報告) 小坂 豊1・内堀

以上、2.(2)~(4)より、小松工区の岸から沖合1km

は侵食が進んでいること、また、過年度より整備して

きた沖合施設は一定の効果を現しているものの周辺の

深掘により人工リーフが被災したこと、及び直立堤前

面の前浜が侵食したことにより直立堤が被災している

こと等がわかった。このような現状を鑑み、越波対策

や堤体安定のため、早急に養浜を実施することが必要

である。

3. 課題解決の方針

現在の小松工区の海岸保全計画は、養浜等により最小

必要浜幅50mを確保し、さらに波の打ち上げ高を抑える

こと及び砂浜幅50mを維持するために、人工リーフ(天

端幅21m)による波浪低減を行う計画としている(図-

9参照)。しかし養浜幅50mを確保するために必要とな

る養浜材料をボリュームに換算すると、100万m3となる

ことから、費用の増大、養浜材調達先の確保等が懸案と

なる。

そのため、打ち上げ高を元の計画から変えずに、総養

浜量を縮減し、適正な養浜材料が確保可能となるか計画

養浜断面の見直しを行うこととした。

4. 計画養浜断面と総養浜量の検討

小松工区は越前加賀海岸国定公園に一部かかるため、

沖合施設は景観性とコスト面に優れた新型人工リーフを

採用している。平成16年度に人工リーフ1基目の施工以

来、波浪低減効果、水位上昇抑制効果、コスト比較の結

果、その時点で最良と思われるものを選定してきたため、

現地には3種類の新型人工リーフが施工されている。

(図-10参照)

【人工リーフ1基目(トラップ式ダブルリーフ)】

【人工リーフ2基目~6基目(アバロンブロック)】

【人工リーフ7基目~9基目(凪ブロック)】

新型人工リーフは水位

上昇量の抑制効果に優れ、

従来型人工リーフの水位

上昇量の半分程度である

というブロックメーカー

の実験結果がある。

従来型人工リーフの水位

上昇量は相対水位上昇量

が0.21であるのに比べ、

新型人工リーフは各リ

ーフとも、0.09程度で

ある。(図―11参照)

現行計画立案当初は、新

型人工リーフの実績が少

なく、この水位上昇抑制

効果を打ち上げ高の算定

に反映することが出来な

い状況であった。しかし

その後、新型人工リーフ

の実験・施工実績が積み

上がったことから、水位

上昇抑制効果を打ち上げ

高の算定に反映すること

ができるまでに資料が調

ったため、算定に見込む

ことが可能か、検討することとした。

(1) 新型人工リーフの水位上昇抑制効果の現地検証

新型人工リーフの水位上昇抑制効果については、水理

模型実験によってその性能を算定してきたが、現地にお

いても実験と同様の性能を発揮しているのか、設置済み

人工リーフ1基目、2基目、7基目の人工リーフ前後で

波浪観測を行うことにより確認した。

図-9 現行の小松工区保全計画

図-10 小松工区の人工リーフ断面図

図-11 各新型人工

リーフの想定水位上昇量

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総養浜量約60万m3

調査により、地形安定性の評価に用いる年数回波に対

して実験による水位抑制効果を見込んだ時の伝達波高H

t=1.78mに対して、現地の人工リーフ岸側の波高は約

1.5mであったため、実験結果の水位上昇低減効果を見込

むことは可能と判断した。(図-12参照)

この水位抑制効果を見込んで、波の打ち上げ高を計算

すると、従来型人工リーフでは、養浜幅50mが必要なの

に対し、新型人工リーフでは、養浜幅35mと浜幅を小さ

くできることがわかった。(図-13参照)

(2) 養浜断面の見直し 現行計画では、現地海浜の安定地形及び底質粒径より、

養浜の安定勾配を1/10、中央粒径を1mmとして決定して

いた。しかし、近隣の片山津工区、美川工区の安定地形、

底質粒径の実態を踏まえて、粗い養浜材(1~40mm)を

用いることにより養浜の安定勾配を1/5~1/7とすること

が可能と判断した。これにより、安定勾配を1/10から

1/5と急勾配にすることで破砕水深以深の養浜量を削減

することが可能である。(図-14参照)

(3) 養浜計画の見直し(案)

4.(1)(2)の検討により、養浜の計画幅を35mと

縮小することで、養浜量は現行の100万m3から見直し後

60万m3に縮減することができた。(図-15参照)

(4) 養浜材料の見直し

現行の計画では、事業のコスト縮減のため、手取川ダ

ム上流堆積土砂を養浜材料として使用することを計画し

ていたが、年間排出可能量は平均して3,000m3程度であ

るため、100万m3の土砂をダムとの連携だけでまかなう

のは困難である。そこで、小松工区の金沢側にある金沢

港湾国際物流ターミナルが大型・定期船就航に向け、ポ

ンプ浚渫船にて港内を浚渫し、石川県の土砂処分場へ投

棄している浚渫量

が約120万m3と見積

もられているため、

この港湾土砂が小

松工区に養浜材と

して適しているか、

試験養浜を行うこ

ととした。

金沢港湾浚渫土砂は中央粒径が0.14~0.17mmと小松工

区の中央粒径0.5~7mmと比べると細かいため、そのまま

総養浜量約100万m3

図-12 人工リーフ伝達波高効果現地調査結果

図-13 波の打ち上げ高に対する

水位上昇量抑制効果の比較

図-14 急勾配化による養浜断面の見直し(案)

図-15 養浜計画の見直し(案)

図-16 試験養浜平面図と横断図

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現地に投入しただけ

では、浜を造成する

には至らないと考え

られることから、浚

渫土砂の上に粗粒材

を覆うことにより流

失を防ぐものとした。 また、岸方向へ

の移動を防ぐために

簡易的な突堤の設置

を行い、その間に土

砂を投入することとした。現在、冬季風浪後の土砂の残

存量や散乱状況等のモニタリングを行い、浚渫土砂の適

用性を把握しているところである。(図-16、写真-

4参照)

5. 今後の課題

本計画の検討により、小松工区の養浜量は100万m3か

ら60万m3に削減できる見通しとなった。しかし、更なる

事業費の削減に向けて他事業から搬出される土砂の適用

性の検討を継続して検討していくことが必要である。

また、本検討は国土技術政策総合研究所、愛知工科大

学、金沢大学の学識者からの指導を踏まえて検討したと

ころであるが、今後、自治体、漁業協同組合、地域住民

等から幅広く意見聴取を行う仕組みを整え、本計画に反

映していくことが必要である。

6. おわりに

石川海岸は日本海の冬の荒波を受け、古くから海岸浸

食を受けているところであり、特に小松工区では近年、

沖合施設による一定の整備効果が見られるものの、前浜

が浸食傾向にあり、沖合施設の未整備区域では直立堤が

被災を受けるなど、災害が多発しているところである。

小松工区は、人工リーフ+養浜による整備を予定して

おり、莫大な費用が掛かることから、コスト縮減に向け

た本計画の検討を行ったところである。本計画は引き続

き検討を行い、関係機関と十分協議したうえで、実施し

ていきたいと考えている。

謝辞:最後に本計画にご指導頂きました関係各位に謝辞

を申し上げます。

写真-4 2013年10月末

試験養浜投入状況