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76 日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 13, No. 1, PP 76-83, 2009 資料 看護職者の自己教育力と看護実践の関連 ―A 県の 11 病院における質問紙調査から― Relationships between Self-education Ability and Nursing Practice ―An Inventory Survey in 11 Hospitals in‘A’prefecture― 工藤一子 Ichiko Kudou Key words : nurses, self-education ability, nursing practice, continual support, continuing nursing education キーワード : 看護職者,自己教育力,看護実践,看護継続教育,看護継続教育支援 Abstract The purposes of this study were to examine the relationships between self-education ability and nursing practice, and to find essential learning contents that would allow nurses to continue their professional work. I carried out an unsigned self-report inventory survey of 550 nurses with more than 3 years of experience, working at 11hospitals, each with more than 200 beds, in ‘A’ prefecture. Self- education ability was measured using a 40 item scale by Kajita & Nishimura, and nursing practice was evaluated by 73 items with 6 sub-scales developed by Shibata , et al. The total score of self-education ability showed a significant positive correlation with the total of nursing practice. Sub-scales of relaxing patients, responding, supporting patients to make use of strength, being aware of purpose, adjusting situations to individual patients were correlated significantly with 8 items of self-education ability. The items of “skills and basis of study” , such as discussion with other people to deepen ideas, referring to objectives for evaluation, understandable explanation to others, investigate suitable study methods for each subject, were included. These findings suggest that an educational support system is necessary to improve self-education ability. 本研究は,看護職者が専門職としての継続学習内容の指標を得るために自己教育力と看護 実践の関連を明らかにすることを目的とした.A県の 200 床以上の 11 病院に勤務する臨床経 験 3 年以上の看護職者 550 名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.質問紙の内容は, 梶田・西村による自己教育力 40 項目,柴田らによる看護ケア過程自己評価 73 項目 6 下位尺度 を用いた.回収率は 95.8% で有効回答率は 99.8% であった.その回答を平均値,標準偏差,分 散分析・相関分析によって検討した.自己教育力全体と看護実践合計とは有意な正の相関を示 した.看護実践下位尺度「患者を楽にする」 「患者と向き合う」 「患者の持つ力を生かして支える」 「目的を意識して働きかける」「患者を取り巻く状況を整える」と自己教育力8項目は有意な相 関を示し,特に「考えを深めたりひろげたりするのに話し合いや討議することを大切にして いる」「自己評価する時には自分の目標にてらして行っている」「たとえ話などをもちいて人に わかりやすく説明することが苦手である(逆転項目)」「とりくみたいことによってそれにあっ た学習方法や手続きを調べる」といった“学習の技能と基盤”の項目が多かった.以上から, 看護継続学習内容に自己教育力を向上するような教育支援体制が必要と考えられた. 受付日:2008 年 1 月 21 日  受理日:2009 年 2 月 10 日 秋田市医師会立秋田看護学校 Akita Nursing School of Akita City Medical Association

看護職者の自己教育力と看護実践の関連 ―A県の11病院における質問 …janap.umin.ac.jp/mokuji/J1301/10000002.pdf · 力にメンタルヘルスが最も影響していた報告,西村

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76 日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 13, No. 1, PP 76-83, 2009

資料

看護職者の自己教育力と看護実践の関連―A県の 11 病院における質問紙調査から―

Relationships between Self-education Ability and Nursing Practice ―An Inventory Survey in 11 Hospitals in‘A’prefecture―

工藤一子Ichiko Kudou

Key words : nurses, self-education ability, nursing practice, continual support, continuing nursing education

キーワード : 看護職者,自己教育力,看護実践,看護継続教育,看護継続教育支援

AbstractThe purposes of this study were to examine the relationships between self-education ability and

nursing practice, and to find essential learning contents that would allow nurses to continue their professional work. I carried out an unsigned self-report inventory survey of 550 nurses with more than 3 years of experience, working at 11hospitals, each with more than 200 beds, in ‘A’ prefecture. Self-education ability was measured using a 40 item scale by Kajita & Nishimura, and nursing practice was evaluated by 73 items with 6 sub-scales developed by Shibata , et al.

The total score of self-education ability showed a significant positive correlation with the total of nursing practice. Sub-scales of relaxing patients, responding, supporting patients to make use of strength, being aware of purpose, adjusting situations to individual patients were correlated significantly with 8 items of self-education ability. The items of “skills and basis of study” , such as discussion with other people to deepen ideas, referring to objectives for evaluation, understandable explanation to others, investigate suitable study methods for each subject, were included.

These findings suggest that an educational support system is necessary to improve self-education ability.

要  旨

本研究は,看護職者が専門職としての継続学習内容の指標を得るために自己教育力と看護実践の関連を明らかにすることを目的とした.A県の 200 床以上の 11 病院に勤務する臨床経験 3 年以上の看護職者 550 名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.質問紙の内容は,梶田・西村による自己教育力 40 項目,柴田らによる看護ケア過程自己評価 73 項目 6 下位尺度を用いた.回収率は 95.8% で有効回答率は 99.8% であった.その回答を平均値,標準偏差,分散分析・相関分析によって検討した.自己教育力全体と看護実践合計とは有意な正の相関を示した.看護実践下位尺度「患者を楽にする」「患者と向き合う」「患者の持つ力を生かして支える」

「目的を意識して働きかける」「患者を取り巻く状況を整える」と自己教育力 8 項目は有意な相関を示し,特に「考えを深めたりひろげたりするのに話し合いや討議することを大切にしている」「自己評価する時には自分の目標にてらして行っている」「たとえ話などをもちいて人にわかりやすく説明することが苦手である(逆転項目)」「とりくみたいことによってそれにあった学習方法や手続きを調べる」といった“学習の技能と基盤”の項目が多かった.以上から,看護継続学習内容に自己教育力を向上するような教育支援体制が必要と考えられた.

受付日:2008 年 1 月 21 日  受理日:2009 年 2 月 10 日秋田市医師会立秋田看護学校 Akita Nursing School of Akita City Medical Association

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Ⅰ.はじめに

医療・看護を取り巻く社会環境の変化に伴い,より質の高い看護の提供が求められ,看護職者が専門職として職業を継続していくために,常に新しい知識・技術を獲得し,より質の高い看護の提供に努力することは,義務であり責任であるとされ,看護白書 2005『看護者の倫理綱領』に,「看護者は,常に個人の責任として継続学習による能力の維持・開発に努める」と規定されている.また,その義務と責任を果たすために,看護職者が主体的に学習を継続し,知識・技術を高めていくことが望ましいとされ,草刈(1988)は「看護職者は看護専門職を継続していく以上,好むと好まざるとにかかわらず学ばなければならない」と述べている.しかし,現実には職業を継続している看護職者にとって,所属する施設の教育や看護継続教育機関の教育を活用することには限界がある.杉森,舟島(2005)は「看護職者個々が職業活動の継続に必要な内容を必要な時に学習するためには,自己学習が最適かつ必要不可欠である」と述べ,自己学習を必須としている.

梶田(1994)は,「主体的・自立的に学習する技能や態度から,自分の中に教育される自分と教育する自分をもち,葛藤を通してよりよい自分を形成していく営みを自己教育力といい,その人の生き方の問題である.」と述べ,自己の能力開発の基盤には自己教育力が求められている.本研究は看護実践に対して看護職者の自己教育力の関連する要因を探り,看護職者が看護職を継続していくうえでの学習活動支援内容の指標について考察を行った.

Ⅱ.文献検討

看護職者個々の自己学習とその支援に関する先行研究では,舟島、定廣(2002)が,成人学習者である看護職者の自己学習を支援するためには,看護職者の学習活動・学習意欲に関する要因が重要な資料になると報告している.梶田(1994)は,主体的・自立的に学習する技能や態度という考え方をもとに,自己教育力を「成長・発展への志向」「自己の対象化と統制」「学習の技能と基盤」「自信・プライド・安定性」の4つの側面に分けている.看護

職者の自己教育力尺度の先行研究では,梶田の主体的・自立的に学習する技能や態度という考え方をもとに,西村ら(1995)は,看護臨床経験 5 年以上の看護師に対して調査し,項目間の相関と折半法により信頼性・妥当性を検証し自己教育力測定尺度を開発している.この自己教育力尺度を用いて、三木ら(2001)の自己教育力と職務満足度と関連が認められた報告,水野(2000)の中堅看護婦の自己教育力に影響を与える要因として,専門職性との関係が明確になった報告,上村,大室(2004)の自己教育力にメンタルヘルスが最も影響していた報告,西村ら(1995)の一年間の継続教育を実施した結果,自己教育力が高まったことの報告等,看護師や看護学生の自己教育力を測定した先行研究がいくつか報告されている.また,専門職者としてのレベルアップをはかるため看護職者自身が常に自己教育力を養い高めることが重要であることや,院内教育プログラムの見直しが必要であることが論じられてきた.また,三木ら(2001)は,自己教育力尺度についてCronbach のα信頼性係数が 40 項目全体では 0.77であったが,下位尺度においては 0.67 から 0.31 と低い下位尺度があることを見出したが,原著者の下位尺度をそのまま用いて分析している.

一方,看護実践の評価の先行研究では,医療・看護のサービスの向上,あるいは改善の動きに伴い,専門職としての看護の質に関する評価の取り組みや研究の報告が数多くある.看護 QA 研究会(1993)による構造・過程・結果の枠組みを用いた看護ケアの質構成因子の測定用具の開発の報告,内布ら

(1994)による看護の質に影響を及ぼす看護ケア項目を抽出した報告,柴田ら(1995)は,さらに 73項目を分析し看護の質を構成する要素を「患者の持つ力を生かして支える 32 項目 」「患者を取り巻く状況を整える 13 項目」「患者を楽にする 13 項目」「目的を意識して働きかける 8 項目」「患者と向き合う 5項目」「看護体制を整える 2 項目」の 6 因子を抽出,看護職者を対象に自己評価の調査を実施し,看護の質を構成する要素はケアリングの重要な要素であると報告している.また,上泉(2002)は「医療の質に関する研究会」を通して,対象となる看護職者を選択し,第三評価および自己評価の調査結果から看護ケアの質の要素の評価ツール・自己評価票を開発し,さらに片田(2004)は看護ケアの質評価・改善

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システムの運用に関する研究にて看護ケアの質の改善を目的として、構造・過程・結果の枠組みを用いた評価ツールを用いて『Web 版看護の質評価・改善システム』を開発している.

しかし,看護職者が看護専門職者としての知識・技術・態度を主体的に学習する姿勢としての自己教育力の要因が,看護実践にどのように影響があるのか,自己教育力と看護実践との関連については報告がない.

Ⅲ.研究目的

看護職者が学習活動をどのようにとらえているのか,自己教育力と看護実践の自己評価についてそれぞれの特徴および相互の関連を明らかにし,看護職者への学習活動支援内容の指標を得ることを目的とした.

Ⅳ.研究方法

1.調査対象A 県の 200 床以上の病院 17 病院中 11 病院に勤務

する臨床経験 3 年以上の副看護師長・看護主任・看護師の 1 病院 50 名ずつとし,550 名に対し,自記式質問紙調査を実施し 525 名の回答を得た . 調査票は無記名とし,調査協力の依頼は看護管理責任者を通して行い,回答は原則として郵送により回収したが,一部,病院内に設置された回収箱により回収されたものもあった.

2.調査期間2006 年 5 月 24 日~ 2006 年 8 月 11 日

3.調査内容・分析方法自己教育力に関しては,梶田(1994)が作成し西

村ら(1995)が「学習の技能と基盤」10 項目を追加した自己教育力尺度で,「成長・発展への志向」「自己の対象化と統制」「学習の技能と基盤」「自信・プライド・安定性」の 4 側面 40 項目を用いた.「はい」= 2 点「いいえ」= 1 点を,反転項目に関しては「はい」= 1 点「いいえ」= 2 点を配点した.全項目と

4 側面の各々について,α信頼性係数を算出した.看護実践については,柴田ら(1995)による,看

護ケアの質を構成する要素「患者の持つ力を生かして支える」「患者を取り巻く状況を整える」「患者を楽にする」「目的を意識して働きかける」「患者と向き合う」「看護体制を整える」の6下位尺度 73 項目を用いた.「非常にできている」4 点「まあまあできている」3 点「あまりできていない」2 点「全くできていない」1 点を配点した.全項目と6下位尺度の各々についてα信頼性係数を算出した.

自己教育力項目と看護実践評価下位尺度間の相関を Pearson の相関係数にて算出した. 

属性ごとの自己教育力・看護実践の差の検討について,属性を独立変数として,分散分析,多重比較を行った.

個人特性を示す9項目について単純集計を行った.

デ ー タ の 集 計 及 び 分 析 は,SPSS 13.0 J for Windows を用いた.

4.倫理的配慮本研究は岩手県立大学大学院看護学研究科研究倫

理審査委員会の承認を得て行った.対象者に対しては,研究質問調査票に研究目的及び無記名で研究参加は自由であること,回答は統計的に処理すること,データは本研究以外には使用しないことを明記した依頼書と,研究者の勤務場所,研究者宛を明記した返信用封筒を個別に添付し実施した.

Ⅴ.結果

1.対象の特性対象者の特性を表1に示す.看護師 550 名のうち,

質問紙に回答したのは 525 名であった.対象者は,看護師 353 名(67.2%),看護主任 121 名(23.0%),副看護師長 51 名(9.7%)であった.40 歳代が 203名で 38.8% であり,臨床経験 19 年以上が 238 名で45.4% を占めていた.また,既婚者が 371 名で 70%を占め,子どもありが 336 名で 64.2% であった.最終学歴は,看護大学卒業者と看護短期大学卒業者を合わせて 66 名で 12.6% であり,看護専門学校卒業者が 459 名で 87% を占めていた.

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2.自己教育力全項目の平均値・Cronbach α信頼性係数および 4

側面の Cronbach α信頼性係数,各項目の回答を表2に示した.自己教育力 40 項目の Cronbachα 信頼性係数は 0.73 であり,平均値は 61.92 ± 5.02 であった.各側面の Cronbach α信頼性係数は,0.59 から0.32 であった「成長・発展への志向」の側面の,“自分がやりはじめたことは,最後までやり遂げたい”が最も多く 487 名(92.6%)で,次いで“たとえ認められなくても自分の目標に向かって努力したい”439 名(83.5%)であった.「自己の対象化と統制」の側面の,“他の人から欠点を指摘されると自分でも考えてみようとする”が 511 名(97.1%)であった.「学習の技能と基盤」では,“わからないことがあるとすぐ人に聞く傾向がある”が 362 名(68.8%),

“考えを深めたり,広げたりするのに話し合いや討議することを大切にしている”が 359 名(68.3%)で,やや低かった.「自信・プライド・安定性」の“今のままの自分ではいけないと思うことがある”は505 名(96.0%)であった.

3.看護実践看護実践評価の全項目,各下位尺度の Cronbach

α信頼性係数および平均値を表 3に示した.全項目では Cronbach α信頼性係数は 0.97 であり,下位尺度では,「看護体制を整える」(2 項目)では,0.47,その他の 5 下位尺度では 0.94 ~ 0.68 であった.そこで「看護体制を整える」2 項目は項目ごとの分析とした.5 下位尺度の平均値は高い順に,「患者を楽にする」「患者と向き合う」「患者の持つ力を生かし

て支える」「目的を意識して働きかける」「患者を取り巻く状況を整える」であった.

4.自己教育力と看護実践との関連自己教育力の全項目・各項目と看護実践全項目(合

計)・5下位尺度・「看護体制を整える」の 2 項目の相関分析を行い,看護実践合計・複数の下位尺度に有意の相関(r> .2 p< .01)が認められた項目についての分析結果を表 3に示した.

有意の相関が認められた自己教育力の項目は「成長・発展への志向」の側面では,“将来,他の人から尊敬される人間になりたい”,「自己の対象化と統制」では,“ちょっと嫌なことがあると,すぐ不機嫌になる(逆転項目)”,「学習の技能と基盤」では,

“考えを深めたり,ひろげたりするのに話し合いや討議することを大切にしている”“自己評価する時には,自分の目標に照らして行っている”“たとえ話などをもちいて人にわかりやすく,説明することが苦手である(逆転項目)”“とりくみたいことによって,それにあった学習方法や手続きを調べる”,「自信・プライド・安定性」では,“自分のやることに自信を持っている方だと思う”“何をやってもだめだと思う(逆転項目)”であった.自己教育力全項目と看護実践合計には,かなりの相関(r= .455 p< .01)がみられた.

5.自己教育力・看護実践における個人特性属性別で有意差の認められた自己教育力全体と看

護実践下位尺度を表 4,表 5に示した.属性別で有意差の認められたものは,職位別で自己教育力全体

表 1 対象の属性

項目 回答人数 項目 回答人数 項目 回答人数

年齢 N=523 看護臨床経験年数 N=524 職位 N=525

24歳まで 15 3~7年未満 81 副看護師長 51

25~29歳 88 7~11年未満 67 看護主任 121

30~34歳 78 11~15年未満 66 看護師 353

35~39歳 87 15~19年未満 72 婚姻状況 N=525

 40~44歳 98 19~24年未満 104 未婚 154

 45~49歳 105 24年以上 134 既婚 371

 50歳以上 52

一般最終学歴 N=522 看護系最終学歴 N=525 子どもの有無 N=523

  大学卒 8 看護大学卒 6   有 336

短期大学卒 70 看護短期大学卒 60   無 187

高等学校卒 444 看護専門学校卒 459

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表 2 自己教育力 40 項目の Cronbach α信頼性係数・4 側面の各項目回答結果

側面 Ⅰ 成長・発展への志向 10項目   Cronbachα信頼性係数 0.51

各項目内容 はい いいえ �

1.自分がやりはじめたことは、最後までやり遂げたい 487(92.6) 34(6.5) 521

2.たとえ認められなくても、自分の目標に向かって努力したい 439(83.5) 80(15.2) 519

3.これからもよい仕事をし、多くの人に認められたい 434(82.5) 82(15.6) 516

4.自分の能力を最大限にのばすよう、いろいろ努力したい 427(81.2) 90(17.1) 517

5.自分でなければやれないことをやってみたい 360(68.4) 157(29.8) 517

6.将来、他の人から尊敬される人間になりたい 337(64.1) 173(32.9) 510

7.一体なんのために勉強するのだろうか、といやになることがある ☆ 326(62.0) 195(37.1) 521

8.ぼんやりと何も考えずに過ごしてしまうことが多い  ☆ 319(60.6) 201(38.2) 520

9.これから専門的な資格や学位などを取りたい 217(41.3) 303(57.6) 520

10.人の人生は結局偶然のことで決まると思う ☆ 145(27.6) 374(71.1) 519

側面 Ⅱ 自己の対象化と統制 10項目 Cronbachα信頼性係数 0.32

各項目内容 はい いいえ �

1.他の人から欠点を指摘されると、自分でも考えてみようとする 511(97.1) 13(2.5) 524

2.疲れているときには、何もしたくない ☆ 498(94.7) 27(5.1) 525

3.腹がたってもひどいことを言ったりしないように注意している 466(88.6) 57(10.8) 523

4.自分のよくないところを自分で考え直すよう、いつも心がけている 446(84.8) 78(14.8) 524

5.いやになった時でも、もうちょっとだけ、もうちょっとだけと頑張ろうとする 405(77.0) 117(22.2) 522

6.自分の良いところと悪いところがよくわかっている 385(73.2) 134(25.5) 519

7.できるだけ自分をおさえて、他の人と合わせようとしている 356(67.7) 161(30.6)  517

8.テレビを見てしまって、勉強がやれないことが多い☆ 284(54.0) 232(44.1) 516

9.ちょっといやなことがあると、すぐ不機嫌になる ☆ 207(39.4) 308(58.6) 515

10.自分の考えた行動が批判されても腹をたてない 156(29.7) 361(68.6) 517

側面 Ⅲ 学習の技能と基盤 10項目 Cronbachα信頼性係数0.59

各項目内容 はい いいえ �

1.わからないことがあると、すぐ人に聞く傾向がある 362(68.8) 161(30.6) 523

2.考えを深めたり、ひろげたりするのに話し合いや討議することを大切にしている 359(68.3) 159(30.2) 518

3.自己評価する時には、自分の目標にてらして行っている 356(67.7) 160(30.4) 516

4.たとえ話などをもちいて人にわかりやすく、説明することが苦手である ☆ 349(66.3) 171(32.5) 520

5.自分の調べたいことについて文献検索していくことができる 323(61.4) 198(37.6) 521

6.とりくみたいことによって、それにあった学習方法や手続きを調べる 240(45.6) 272(51.7) 512

7.他の人の話を聞いたり本を読む時、内容を振り返りまとめてみる習慣がある 234(44.5) 284(54.0) 518

8.考えていることを筋道立てて書いたり、伝えたりできる 220(41.8) 292(55.5) 512

9.自分の調べたいことがある時に図書館(室)を利用している 175(33.3) 343(65.2) 518

10.自分に必要な文献や記録を分類・整理しておく習慣がある 147(27.9) 375(71.3) 522

側面 Ⅳ 自信・プライド・安定性 10項目 Cronbachα信頼性係数 0.56

各項目内容 はい いいえ �

1.今のままの自分ではいけないと思うことがある ☆ 505(96.0) 18(3.4) 523

2.ときどき、自分自身がいやになる ☆ 449(85.4) 73(13.9) 522

3.自分のことを恥ずかしいと思うことがある ☆ 432(82.1) 90(17.1) 522

4.自分にもいろいろとりえがあると思う 378(71.9) 140(26.6) 518

5.今の自分が幸福だと思う 351(66.7) 168(31.9) 519

6.他の人にばかにされるのは、がまんできない 314(59.7) 200(38.0) 514

7.自分のやることに自信を持っている方だと思う 188(35.7) 327(62.2) 515

8.生まれ変わるとしたなら、やはり今の自分に生まれたい 178(33.8) 341(64.8) 519

9.何をやってもだめだと思う ☆ 121(23.0) 397(75.5) 518

10.今の自分に満足している 76(14.4) 445(84.6) 521

         看護実践合計・複数の下位尺度に有意の相関(r>.2 p<.01)が見られる項目

                                 ☆:逆転項目  ( ):% 

自己教育力 40項目全体   平均値 61.92±5.02  Cronbachα信頼性係数 0.73

81日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009

表 3 自己教育力項目・全体と看護実践下位尺度・合計との相関

患者の持つ力を生かして支える

患者を取り巻く状況を整える

患者を楽にする

目的を意識して働きかける

患者と向き合う

看護実践合計

32項目 13項目 13項目 8項目 5項目 73項目

側 項 標準偏差 標準偏差 標準偏差 標準偏差 標準偏差.31 .34 .31 .34 .37

α信頼性係数 α信頼性係数 α信頼性係数 α信頼性係数 α信頼性係数 α信頼性係数0.94 0.83 0.83 0.8 0.68 0.97

項目1 項目2

平均値 平均値

面 目 2.57 2.37

標準偏差 標準偏差.58 .61

Ⅰ 6 .208** .183** .214** .204** .158** .163** .102* .227**

Ⅱ 9 .226** .184** .220** .240** .217** .082 .197** .216**

2 .187** .206** .144** .256** .116** .306** .056 .217**

Ⅲ 3 .296** .281** .252** .320** .164** .225** .153** .302**

4 .207** .158** .177** .237** .117** .149** .078 .207**

6 .280** .253** .268** .317** .197** .271** .162** .304**

7 .289** .221** .263** .325** .135** .235** .113* .292**

9 .228** .223** .207** .271** .108* .168** .146** .259**

.420** .397** .403** .462** .272** .337** .224** .455**

Ⅰ 成長・発展への志向  Ⅱ 自己の対象化と統制  Ⅲ 学習の技能と基盤  Ⅳ 自信・プライド・安定性

*:P<0.05  **:P<0.01   数値:ピアソン相関係数

看護実践下位尺度

自己教育力看護体制を整える

2項目

平均値2.80

平均値2.60

平均値2.89

平均値2.78

平均値2.88

平均値2.47

平均値202.68

標準偏差.48

標準偏差20.96

α信頼性係数0.47

α0.73

係数

全体信頼性

表 4 属性(職位)別で有意差の認められた 自己教育力全体・看護実践下位尺度

下位尺度 職位 N 平均値 標準偏差 有意差

自己教育力得点 副看護師長 49 63.59 5.08

全体(40) 看護主任 107 62.89 4.68

看護師 298 61.30 5.04

患者の持つ力を 副看護師長 49 2.89 0.33

生かして支える 看護主任 109 2.88 0.30

(32) 看護師 330 2.76 0.30

患者を取り巻く 副看護師長 50 2.72 0.30

状況を整える 看護主任 114 2.70 0.33

(13) 看護師 325 2.55 0.34

患者を楽にする 副看護師長 47 2.98 0.33

(13) 看護主任 119 2.98 0.27

看護師 346 2.86 0.32

目的を意識して 副看護師長 50 2.98 0.41

働きかける 看護主任 118 2.88 0.29

(8) 看護師 344 2.73 0.33

看護体制を整える 副看護師長 49 2.63 0.48

看護主任 120 2.66 0.40

看護師 349 2.38 0.48

( )項目数 *:P<0.05

スタッフのレベルアップのための教

育を行う

* *

* *

* *

* *

* *

* *

表 5 属性(看護経験年数)別で有意差の認められた 看護実践下位尺度

下位尺度 看護経験年数 N 平均値 標準偏差 有意差

患者を取り巻く 3年~7年未満 78 2.49 0.35  

状況を整える 7年~11年未満 63 2.63 0.34

(13) 11年~15年未満 60 2.51 0.34 *

15年~19年未満 69 2.58 0.35

19年~24年未満 94 2.63 0.32

 24年以上 124 2.67 0.34  

目的を意識して 3年~7年未満 81 2.71 0.37

働きかける 7年~11年未満 66 2.74 0.30

(8) 11年~15年未満 66 2.75 0.36  *

15年~19年未満 71 2.79 0.31

19年~24年未満 99 2.86 0.31

 24年以上 128 2.81 0.35

 ( )項目数  *:P<0.05

 *

82 日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009

と看護実践下位尺度「患者の持つ力を生かして支える」「患者を取り巻く状況を整える」「患者を楽にする」「目的を意識して働きかける」,そして「看護体制を整える」の項目「スタッフのレベルアップのための教育を行う」に,副看護師長と看護主任の方が看護師より 5%水準で有意に高い平均値を示した.看護臨床経験年数別では,「患者を取り巻く状況を整える」に,24 年以上と 3 年から 7 年未満および11 年から 15 年未満との間で,また,「目的を意識して働きかける」に,19 年から 24 年未満と 3 年から7 年未満との間で有意差が認められた.

Ⅵ.考察

1.自己教育力について本研究で,西村ら(1995)によって開発された自

己教育力尺度を用いて看護職者の自己教育力の傾向を検討した.梶田(1994)は「自信・プライド・安定性」の側面は,他の 3 つの側面を支えるものであり,自信を持っているかどうか,プライドを持っているかどうか,心理的に安定しているかどうかによって,人は主体的であるかどうかが決定されるといっても過言ではない」と述べている.本研究では,自己教育力の 4 側面のα信頼性係数が低く,側面による検討はできなかった.項目別にみると,目標・課題達成への意欲に関する項目,自己コントロールする項目の回答者数が多く,認められなくても自分の目標に向かって努力したいと考え,常に成長し発展しようとし,自分自身を振り返り,自分を謙虚にみていると考えられた.また,考えを深めるための話し合いや討議を大切にするなどの項目の回答者数が比較的多い反面,自分の取り組みたい課題に対し文献検索し,図書館を利用する項目や考えていることを筋道立てて書いたり,伝えたりできるなどの項目の回答者数が少なかった.また,自分のやることに自信を持っている方だと思うという項目に対しての肯定的回答者数が少なかった.このことは,成長,発展を目指しているが,具体的に学ぶ方法,内容の方向性を見出せないで自信がないと感じていることを示していると考えられた.学習の技能を身につけていることと,自己信頼と安定性が強く影響し合い,学習の基盤が身につくことから,自信,プライドを

持ち,心理的に安定すると考えられた.

2.看護実践評価について本研究で、柴田ら(1995)らによって開発された

看護実践評価を用いて看護職者の看護実践自己評価の傾向を検討した.看護実践の傾向は,下位尺度「患者を楽にする」の平均値が高く,次いで「患者と向き合う」であった.上泉(2002)は、看護実践の『「患者を楽にする」「患者と向き合う」の側面は,患者に向かう看護師の姿勢が,患者との人間的な役割を通して,患者の癒しへの意欲を高め変化や成長をもたらすことに貢献するケアリングの重要な要素であり,ケアの質を深めることを左右する』と述べている.このことから,調査対象者が患者を楽にする,患者と向き合うというケアリングの重要な要素を強く感じていると考えられた.「患者を取り巻く状況を整える」の得点が低いことは,医療チームの連携や,スタッフのレベルアップに目を向ける余裕がないことや,家族を含めた看護に習熟していないことを示していると考えられ,今後の充実が必要とされる内容と考えられた.

3.自己教育力と看護実践との関連について自己教育力全体と看護実践合計との間に有意な正

の相関が認められ,自己教育力を高めることが看護実践の質を高めることにつながっていることが示された.看護実践と有意な相関を示した自己教育力8項目は,「学習の技能と基盤」4 項目,「自信・プライド・安定性」2 項目,「成長・発展への志向」1 項目,

「自己の対象化と統制」1 項目であり,「学習の技能と基盤」の重要性が明らかになった.話し合い方法や討議を大切にする,自分の目標に照らしての自己評価,人にわかりやすく説明すること,課題に即した学習方法や手続きを調べるなどの力と嫌なことに不機嫌にならず他の人から尊敬される人間になりたいと思う気持ち,自分のやることに自信を持っていることなどが,患者を自立した存在として尊重し,目的を意識した働きかけやチームアプローチに積極的に取り組むことにつながることが示唆された.このような看護実践と自己教育力の関連についての先行研究は少なく,今後,更に検討していくことが必要であると考えられる.

83日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009

4.自己教育力・看護実践における個人特性について

属性の職位別で,自己教育力全体と看護実践において,副看護師長・看護主任が看護師より有意に高いことは,職位から中間管理者としての役割を認識しているためと考えられた.また,看護経験年数別で,看護実践下位尺度「患者を取り巻く状況を整える」で,看護経験の長い看護職者が,患者の置かれている状況をより理解し,環境づくりのために主体的に患者に働きかけ,患者の安楽が保てることを大切に看護実践していると考えられた.

5.看護職者への看護継続学習支援について本研究結果から看護職者への看護継続学習支援に

ついて,自己教育力としての「学習の技能と基盤」の充実が重要であることが明らかになった.看護実践の中での疑問の追究や主体的に学習できる基盤の体制づくり,必要な文献検索の具体的方法,研究的視点を持ち理論と実践を統合し文章化していく能力の支援,看護研究についての適切な指導者の指導体制が必要と考える.そのような教育的支援があれば,学習の方法を身につけ,自信・プライドを持ち安定した心を持ち,ひいては,看護実践能力が培われると考えられる.

三浦(2002)、西村(2000)は「院内教育を担当する看護管理者,スタッフが主体的に学習できる教育的支援の役割」の報告をしている.これらの報告は,専門職として看護職を継続し,より質の高い看護を提供するためにはスタッフの自律的学習を支援し,看護継続学習内容に,看護実践に有意に影響していた自己教育力を促進する内容をとり入れる必要性を支持している.従って,すべての看護職者が経験を生かして主体的に関われるような体制作りや,そのための教育を充実させることが必要と考える.

Ⅶ.おわりに

本研究結果の,自己教育力と看護実践の自己評価についてそれぞれの特徴および相互の関連から,看護職者が専門職としての継続学習活動支援内容に,自己教育力を促進する内容の指標を得た.このことから,この指標をもとに看護職者が生涯成長し続け

るため,専門職者としての知識・技術・態度を主体的に学習する姿勢,自信を持った主体的な看護実践,研究的視点を持ち,自らの看護実践の体験を言語化・文章化・伝達できるような学習内容を看護継続学習活動内容に取り入れて支援していくことが重要であると考える.

本研究の限界は,看護実践と自己教育力の関連の先行文献が見当たらない領域での調査結果であり,今後,十分な検討が必要であると考える.

謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深謝申し

上げます. 

なお、本研究は,岩手県立大学大学院看護学研究科に

提出した修士論文,および日本看護管理学会第 11 回年次

大会で発表した論文の一部を加筆・修正したものである.

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