96
1361 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007 − 2008 年度合同研究班報告) 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Cardiovascular Emergency(JCS 2009) 目  次 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会, 日本蘇生学会,日本脳卒中学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会, 日本小児集中治療研究会 班長 貫   早稲田大学理工学術院大学院 班員 新潟大学大学院医歯学総合研究科循 環器学分野 横浜市立大学附属市民総合医療セン ター心臓血管センター 済生会川口総合病院循環器内科 日本大学 小児科学系小児科学分野 榊原記念病院循環器内科 田   東京慈恵会医科大学救急医学講座 澤   脳神経疾患研究所附属総合南東北病 院小児科 尾  駿河台日本大学病院循環器科,蘇生・ 救急心血管治療 野々木   宏 国立循環器病センター内科心臓血管部門 三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院循環器内科 協力員 圷   日本医科大学付属病院集中治療室 地   獨協医科大学心臓・血管内科 玉   新潟大学大学院医歯学総合研究科器 官制御医学講座 循環器学分野 東京大学医療安全管理学 日本医科大学千葉北総病院内科・循 環器センター 木   東京女子医科大学心臓病センター循 環器内科 横浜市立大学附属市民総合医療セン ター高度救命救急センター 平塚共済病院循環器科 済生会川口総合病院循環器内科 国立循環器病センター心臓血管内科 外部評価委員 日本医科大学付属病院内科学第一 日本蘇生協議会 帝京大学救命救急センター 丸 川 征四郎 医誠会病院 長野県立こども病院 (構成員の所属は2009 10 月現在) Ⅰ.緒言…………………………………………………………1362 1.ガイドラインの背景と考え方 ………………………1362 2.循環器救急の現況と課題 ……………………………1364 3.院外心停止 ……………………………………………1366 Ⅱ.成人の BLS ………………………………………………1368 1.成人の BLS(一次救命処置)について ……………1368 Ⅲ.成人の ACLS ………………………………………………1373 1.成人の二次救命処置(ACLS………………………1373 Ⅳ.症候からみた心血管救急…………………………………1378 1.胸背部痛 ………………………………………………1378 2.呼吸困難 ………………………………………………1379 3.意識障害 ………………………………………………1381 4.ショック ………………………………………………1383 5.動悸 ……………………………………………………1385

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

  • Upload
    others

  • View
    18

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1361Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007−2008年度合同研究班報告)

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドラインGuidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Cardiovascular Emergency(JCS 2009)

目  次

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,          日本蘇生学会,日本脳卒中学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会,          日本小児集中治療研究会

班長 笠 貫   宏 早稲田大学理工学術院大学院

班員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器学分野

木 村 一 雄 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター

源 河 朝 広 済生会川口総合病院循環器内科

住 友 直 方 日本大学 小児科学系小児科学分野

高 山 守 正 榊原記念病院循環器内科

武 田   聡 東京慈恵会医科大学救急医学講座

中 澤   誠 脳神経疾患研究所附属総合南東北病院小児科

長 尾   建 駿河台日本大学病院循環器科,蘇生・救急心血管治療

野々木   宏 国立循環器病センター内科心臓血管部門

三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院循環器内科

協力員 圷   宏 一 日本医科大学付属病院集中治療室

菊 地   研 獨協医科大学心臓・血管内科

小 玉   誠 新潟大学大学院医歯学総合研究科器官制御医学講座 循環器学分野

児 玉 安 司 東京大学医療安全管理学

清 野 精 彦 日本医科大学千葉北総病院内科・循環器センター

髙 木   厚 東京女子医科大学心臓病センター循環器内科

田 原 良 雄 横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター

丹 羽 明 博 平塚共済病院循環器科

船 崎 俊 一 済生会川口総合病院循環器内科

横 山 広 行 国立循環器病センター心臓血管内科

外部評価委員水 野 杏 一 日本医科大学付属病院内科学第一

岡 田 和 夫 日本蘇生協議会

坂 本 哲 也 帝京大学救命救急センター

丸 川 征四郎 医誠会病院

宮 坂 勝 之 長野県立こども病院

(構成員の所属は2009年10月現在)

Ⅰ.緒言…………………………………………………………1362  1.ガイドラインの背景と考え方 ………………………1362  2.循環器救急の現況と課題 ……………………………1364  3.院外心停止 ……………………………………………1366Ⅱ.成人のBLS ………………………………………………1368  1.成人のBLS(一次救命処置)について ……………1368Ⅲ.成人のACLS ………………………………………………1373

  1.成人の二次救命処置(ACLS) ………………………1373Ⅳ.症候からみた心血管救急 …………………………………1378  1.胸背部痛 ………………………………………………1378  2.呼吸困難 ………………………………………………1379  3.意識障害 ………………………………………………1381  4.ショック ………………………………………………1383  5.動悸 ……………………………………………………1385

Page 2: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1362 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

Ⅰ 緒 言

1 ガイドラインの背景と考え方

1 本ガイドラインの背景 高齢社会を迎えた我が国において心疾患は死因第2位を占め,脳卒中を含めた循環器疾患は癌とほぼ同率の死亡率となる.成人外来受診患者でも循環器疾患は最も多いが,循環器疾患の特徴は突然発症し,致死的になりうることである.これまで我が国における心臓突然死の頻度は年間約3万人と考えられていたが,昨年総務省消防庁の報告では2007年度の心原性心停止は59,000人にのぼる.したがって,循環器専門医にとって心肺蘇生の実践と心血管救急治療の知識と技能は不可欠といえる.しかし,循環器疾患の発症・急性期における迅速かつ的確な救急処置・診断・治療は困難なことが多く,処置中に増悪し致命的になることもまれではない.それには多くの原因がある.すなわち ⑴医学の限界・不確実性 ⑵救急医学のエビデンスの限界 ⑶心血管疾患救急の専門分化と全般研修の問題 ⑷我が国の救急制度の問題 ⑸地域の格差と医療機関の格差 ⑹循環器医の過酷な労働環境 ⑺患者・家族の過大な期待 ⑻インフォームドコ

ンセントの限界 ⑼患者と医師のインフォメーションギャップ拡大と信頼関係の低下などと多様である. 我が国の救急医療においては,産科救急と小児救急が破綻の危機に瀕し,社会問題となっている.しかし心血管救急も表面化していないが,同じ状況下にある.例えば,日本循環器学会救急委員会の調査では,循環器医の週平均勤務時間は約69時間(80時間以上が18%)であり,宿直・当直・自宅待機を含めると仕事のない日が月に全くなしは18.8%にのぼる(図1).この循環器医の劣悪な労働環境を含めて施設の集約化と機能分化等々我が国における循環器救急の現状は極めて大きな問題を抱えている. エビデンスに基づいた診療(EBM)の重要性が認識される中で,救急治療においては,ILCORが専門家によるコンセンサスCoSTRを5年ごとに作成し,AHAはCoSTR2005に基づくAHAガイドラインを作り,Basic

Life Support(BLS) お よ びAdvanced Cardiovascular

Life Support(ACLS)のマニュアルを作成した.2007年,日本循環器病学会では専門医試験の受験資格としてAHA認定のACLS受講を義務付けした.そして一般医療従事者によるBLS/ACLS施行後に専門医としての相談・依頼(expert consultation)を受ける立場における循環器医のための心血管救急全般にわたるガイドラインを作成することとなった.2004年にはAEDの一般市民の使用が認められ,その後AEDは急速に普及し,一般市民のためのBLS/AED講習会が活発に開催されている.心肺蘇生・AEDの重要性が注目されるとともに,循環

Ⅴ.不整脈………………………………………………………1386  1.頻脈 ……………………………………………………1386  2.徐脈 ……………………………………………………1391Ⅵ.急性冠症候群………………………………………………1393  1.急性冠症候群の診療と不安定狭心症・    非ST上昇型心筋梗塞の治療 …………………………1393  2.ST上昇型急性心筋梗塞 ………………………………1400Ⅶ.その他の心血管救急………………………………………1408  1.急性大動脈解離 ………………………………………1408  2.急性心不全 ……………………………………………1411  3.急性肺血栓塞栓症 ……………………………………1414  4.心タンポナーデ ………………………………………1417  5.急性心筋炎 ……………………………………………1419  6.電解質異常 ……………………………………………1422  7.救急心疾患治療における中毒学 ……………………1426

  8.偶発的低体温 …………………………………………1430  9.成人の先天性心疾患 …………………………………1432Ⅷ.蘇生後の治療………………………………………………1434  1.心停止後症候群    (Post cardiac arrest syndrome)の治療 ……………1434  2.体外循環式心肺蘇生法(Extracorporeal

    cardiopulmonary resuscitation; ECPR) ………………1437Ⅸ.小児のBLSとACLS ……………………………………1438  1.小児の一次救命処置(PBLS) ………………………1438  2.小児の二次救命処置(PALS) ………………………1440Ⅹ.循環器救急医療に関する提言……………………………1444  1.心肺蘇生・蘇生科学に対する本学会の役割 ………1444  2.循環器救急医療に対する提言 ………………………1446Ⅺ.本ガイドラインで使用した薬剤・略語一覧……………1446文献………………………………………………………………1449

(無断転載を禁ずる)

Page 3: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1363Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

器医は自ら高度な心肺蘇生(ACLS)の実施のみならず心拍再開後の救急治療の実践を求められている.さらには,心血管救急疾患の特殊性からERにおける初期治療から救急治療を担うことが必要となる(図2). そうした背景において本ガイドライン作成とその意義を確認にしておくことが重要である.すなわち本ガイドラインの目的は循環器医の専門的知識・技能と,我が国の限られた人的・物的資源のもとで患者の急性病態とおかれている救急医療環境,患者の価値観や行動およびエビデンス(多くはBest Available Evidence)を統合して,患者にとって最も望ましい救急医療を提供することにある.換言すれば,医師の意思決定を支援する役割を担うもので,診療を制限したり拘束するものではなく,まして医療訴訟の判断基準になるものでもない.例えば,急性冠症候群に対する緊急経皮的冠動脈形成術の施行は医療機関のみならず地域の格差が大きく,さらに循環器医の技術や労働環境の格差を考慮すれば,本ガイドラインの推奨度に限界があることは明白である.

2 ガイドライン作成にあたっての考え方 BLS/ACLSおよびその後の循環器専門医のための心肺蘇生・心血管救急ガイドライン(いわゆるエキスパートコース)作成にあたっての考え方を示す.

●日本循環器学会が専門医資格として義務づけしている

AHA-ACLSの要旨に加えて,ACLSによる心肺蘇生後(心停止後症候群)の専門医へのコンサルテーションとして循環器医のなすべき心血管救急のガイドラインである.●心血管救急疾患の急性期初期診療(おおよそ24時間)における診断・治療について取り上げた.●循環器診療に当たる循環器医が実際に遭遇する種々の異なる臨床現場でも役立つことを念頭に置いた.そのために疾患や項目ごとの記載だけでなく,症候からのアプローチや鑑別疾患についても記載した.●循環器救急疾患は極めて広範にわたるが,これまで9つの関連する各分野のガイドラインが作成されている.本ガイドラインでは,既存ならびに現在改訂作業中のガイドラインとの整合性に留意した(表1).紙面の制限から既存ガイドラインと同じの内容はクラス分類等要約のみとし,引用文献も省略した.なお2005年以前のガイドラインについては文献を追加した.●循環器救急の現場で医師が心血管救急全般を迅速に理解し,重要ポイントを把握し,具体的個別患者に対応しやすくするため,できるだけ要約を加え,図表を多くした.●循環器救急の診断,治療,管理に関して一般に容認される方法をできるだけ根拠に基づいた内容として提供するが,救急医療では,地域や時間帯ならびに人員等の異なる環境における救急診療のガイドラインとなるために専門家のコンセンサスの部分が多く,多分野の専門家の議論による合意を求めた.また,クラス分類やエビデンスレベルは従来のガイドラインにならって記載した.

図1 循環器救急の現状(学会アンケート調査)夜間宿直(翌日は通常勤務)

1~3回: 49.2%

4~6回: 49.2%

0回: 15.9%

7~9回 : 6.7%週の勤務時間

61~70時間: 21%

81時間~: 18% 51~60時間

: 14%

~50時間 : 7%

オンコール(自宅待機)

1~3回: 12.5%

0回: 25%

71~80時間: 14%

16~回14.6%

13~15回: 7.3%

4~6回: 15.9%7~9回

: 12.5%

10~12回: 11.7%10~12回: 11.7%

仕事のない休日

1~3回: 45.0%

0回: 18.8%

4~6回: 31.7%

7~回 4.5%

81時間~: 18%

16~回14.6% 0回

: 18.8%

図2 循環器専門医に求められる心肺蘇生・心血管救急の概念図

ACLS (循環器専門医義務化)

心血管救急(大動脈解離,心不全,肺塞栓症,ショック,電解質異常,中毒,低体温,先天性心疾患等)

専門家としてのACS対応

専門家としての不整脈対応

低体温治療ECPR

小児ALS

小児BLS

ICLS(研修医,内科認定医義務化)

BLS(医療従事者,一般市民,医学生)

心停止

CPR AED頻脈徐脈ACS脳卒中 救急外来

Page 4: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1364 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

クラス分類クラスⅠ:手技,治療が有効,有用であるというエ

ビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致している.

クラスⅡ:手技,治療の有効性,有用性に関するエビデンスがあるか,あるいは見解が一致していない.

   Ⅱa:エビデンス,見解から有用,有効である可能性が高い.

   Ⅱb:エビデンス,見解から有用性,有効性がそれほど確立されていない.

クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,時に有害であるとのエビデンスがあるか,あるいはそのような否定的見解が広く一致している.

エビデンスレベルレベルA:複数の無作為介入臨床試験または,メタ

解析で実証されたもの.レベルB:単一の無作為介入臨床試験または,大規

模な無作為介入でない臨床試験で実証されたもの.

レベルC:専門家および /または,小規模臨床試験(後向き試験および登録を含む)で意見が一致したもの.

レベルD:無作為介入臨床試験ではないが,専門家の意見が一致したもの.

●我が国においては,使用できる薬剤やその用量・用法は欧米と異なるが,日本循環器学会専門医にはAHA-

ACLSの受講が義務化されており,原則としてそれに準拠したが,できるだけ我が国における実情や医療の特殊性を考慮したうえで,解説を加えた.●これまで本学会のガイドラインで取り上げられていない電解質異常,Toxidromes,偶発性低体温について収載した.●救急診療において循環器小児科領域の知識も必要であり,小児のBLSやPALSの解説を加え,さらに成人の先

天性心疾患の救急の特徴についても取り上げた(図2).●我が国において著しく進歩をとげ,ILCORでも注目されている蘇生後治療(心停止後症候群)についても別項をおいて記載した.●AHA-ACLSには脳卒中が含まれるが,それは脳卒中専門医の扱いとして本ガイドラインでは意識障害で触れるにとどめた.●ダイジェスト版の作成においては,ポケットマニュアルとしての機能を持たせるように工夫し,薬剤一覧も付けた.●心血管救急を担う医師や病院の過重な環境等救急医療の抱える問題点について,社会へのメッセージを発信するために本学会が取り組むべき課題と解決に向けての提言について言及した.●本ガイドラインで使用した略語を表として付けた.

 本ガイドラインはCoSTR2005に基づくAHAガイドラインによるACLS実施後(心停止後症候群)の循環器医に求められる救急治療および心血管救急疾患全般を網羅した,循環器医のための心血管救急ガイドラインである.今後,ILCORによるCoSTR2010発表後には世界各国のガイドラインは改訂されBLS/ACLSのマニュアルも改訂される.したがって,本ガイドラインも5年以内には改訂版が作成されることが必要となる.心肺蘇生・循環器救急蘇生は新しい学際的科学領域であり,また救急であるが故に高いレベルのエビデンスは極めて少ないが,今後よりレベルの高いエビデンスおよび専門家の見解の一致を得るべく努力を重ね,さらに心血管救急システムの改革を図ることを望んでやまない.

2 循環器救急の現況と課題

① 我が国では,複雑外傷・多臓器傷害に重点がおかれ,一次,二次,三次救急の順次搬送システムが構築された.

表1 本ガイドラインに関連するこれまでの日本循環器学会ガイドライン

・心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)・急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2008年)・脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した疾患の管理に関するガイドライン(2008年)・急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)・大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版)・急性心不全治療ガイドライン(2006年改訂版)・急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン(2004年改訂版)・肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2004年改訂版)・不整脈薬物治療に関するガイドライン(2004年改訂版)

Page 5: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1365Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

② 1980年代からは内科疾患重症が増加し,心停止の救命率が低いことが問題となった.

③ 循環器疾患はいつ重症化するか予測が困難であり,心停止や重症化する前に専門医が初期から関わる必要があり,順次搬送システムでは対応できない.救急搬送の段階で循環器救急に対応できるシステムの構築が救命率の向上につながる.

④ 心血管救急疾患に対応するために人的物的資源の集約化するような心血管救急システムの抜本的改革が必要である.

⑤ 心血管救急疾患の適切な早期受診に向けて地域住民の教育啓発が必要である.

1 現状のシステム 我が国の救急システムは,1963年の消防隊による救急搬送業務の法制化,1964年に救急病院・救急診療所の告示制度から始まり,1977年に救急医療対策事業要綱が発表され,一次,二次,三次救急システムの順次搬送システムが実施された.これにより重症の複雑外傷・多臓器傷害例は,人口100万人に1施設の割合で設置された三次救急医療機関である救命救急センターへの搬送が勧められた.また,1980年代からは内科的疾患の重症例が増加し,心停止の救命率が低いことが問題となった.そのために1991年に救急救命士法が制定され,その翌年に救急救命士による心停止に対する特定行為〔(気管挿管,電気ショック,静脈路確保とアドレナリン(エピネフリン)使用〕が認められ,救命率の向上対策がとられてきた.今後の救急救命士制度の課題は,心停止前と心拍再開後の処置の拡大がある.

2 循環器救急増加に対する課題 近年,疾病救急(急病)が増加し,交通事故の減少とともにその比率は約6割と増加している1),2).なかでも,循環器疾患は脳卒中と心臓病をあわせると死亡率は癌とほぼ同率であり,かつ死亡例や重症例の比率が高い(図3).しかし,疾病,特に循環器疾患の発症時に重症度の判定は困難なことが多く,搬送中に増悪し致命的になることもまれではない.心停止例やショック例等の重症例のみを三次救急施設へ選別することは,重症化してから高度医療機関へ搬送することにもなりかねないため全体の救命率向上にはつながらない.特に循環器疾患は,専門医が初期から関わり救急医との密接な連携のもとに一次から三次まで包括すべきであると考えられる.すなわち,循環器疾患は軽症とみえても,いつ何時急変・重

症化するかをトリアージすることが困難な疾患群といえる.したがって,心停止前や重症化する前に全症例を循環器専門医と連携することが重要である.そのためには,地域でセンター化した基幹病院(総合病院,二次専門病院,三次救急施設)が全例収容を目指す体制を確立することが必要である.

3 循環器救急システムモデルの提言 急性心筋梗塞や脳卒中の発症数からみて,全国で約200か所の三次救命救急センターでのCCUあるいはSCUのみで全症例の収容は困難である.地域医療計画やメディカルコントロールにおいて,地域のネットワーク化を検討する必要がある.急性心筋梗塞を収容可能であり,緊急の冠動脈カテーテル治療が可能となる基幹病院と,それを支援する専門病院の連携システムをつくる.基幹病院は,可能であれば複数のカテーテル治療室を24時間体制で運営が可能となるような診療態勢(交替制勤務が可能となるスタッフ構成)と集約化をはかる.人口100万人に1か所から2か所の基幹病院(脳卒中救急センター,心血管救急センター等)を設置する.これらの病院は二次あるいは三次を問わず地域ごとに設定する.広域の場合には,ドクターヘリ搬送を検討する必要がある.胸背部痛,呼吸困難,意識障害,麻痺を有する症例を地域総合病院併設の二次専門病院と三次施設において全例受け入れを行う体制をつくる.基幹病院に必要な条件は,CCU,SCU機能を有し,専門医が複数体制で24時間・365日体制で血栓溶解療法・カテーテル血管内治療・心大血管および脳血管手術が可能であることである.また,通常の待機的診療と急性期から回復期までの高度医療の提供や集中治療(補助循環・低体温療法)・緊急外科チームとの連携も理想とされる.そのための人的体制には,医師のみならず,コメディカルスタッフも含めた交替制勤務が可能となるような支援が必要である.

死亡・重症の割合 26% 26% 6% 11% 1% 2%

中等症以下死亡・重症

350300250200150100500

脳心臓

消化器呼吸器精神系

感覚器系

(総務省 平成18年度データ)

搬送人数

千人

図3 救急搬送重症度

Page 6: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1366 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

4 地域市民への啓発:生命危機管理をアピール

 心血管系,脳卒中,胸部症状,四肢の異常等があれば,センター病院へ早期受診を推奨する.それ以外の不急の症例は,安易な緊急受診を避けるため救急相談等で日中の受診を誘導する.また,後期高齢者や介護施設入所症例では,連携先病院との連携を強め,高度救急医療の適用となるか,かかりつけ医や担当医と本人・家族とで日頃から緊急時の対応を十分相談し,在宅医療の適用や機能等,看取り機能を十分理解しておくことが重要と考えられる.119番通報の有効な使用方法を啓発し,不急な症例と緊急例の区別を啓発する等,救急相談やマスメディアの役割も重要である. また,国民全員が救急態勢を重要視し,重症例の不幸な転帰についても寛容の精神と死生観を持ち,救急医療を担うシステムを地域で守り育てることも必要であると考えられる.

3 院外心停止

① 我が国における院外心停止は年間に約10万人であり,そのうち6万人弱が心原性である.

② 我が国では世界に類を見ないウツタイン様式(心停止の専門用語とその定義を定め,国際的に記録様式を統一した)を用いた全国の疫学調査が進行中である.

③ 我が国では市民による心肺蘇生法(CPR)とAED

実施率がともに増加し,社会復帰は年々増加している.しかし,その社会復帰率は6%にしか過ぎない.

④ 日本循環器学会は日本蘇生協議会(JRC)に参画し国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)と連携し,循環器救急医療における我が国のエビデンスを国際的に発信し,さらに米国心臓協会と連携してBLSおよびACLS講習を実施している.

⑤ 日本循環器学会の循環救急医療委員会は,日本蘇生協議会(JRC)や国際蘇生連絡委員会(ILCOR)のエビデンスを発信することが求められる.

⑥ 院内心停止においては,非 ICU病棟へのAED設置と蘇生行為の質の評価が注目されている.

1 院外心停止

 循環器救急疾患の代表的なものとして急性心筋梗塞が

あげられるが,過去30年間に再灌流療法等の導入により院内死亡率は低率となり5%前後となってきた.しかし,地域発症状況の全国調査では致命率は約20%と高率で,死亡の半数は院外死であることが明らかになった.現在,我が国における院外心停止は年間に約10万人であり,そのうち6万人弱が心原性である.これは米国でも同様であり,急性心筋梗塞症救命対策のフォーカスは院外にあるといえる3).院外心停止の救命対策には,米国心臓協会(AHA)が提唱している救命の連鎖の確立が重要であり,非医療従事者と医療従事者が連携して救命に努めることが重要である.

①院外心停止の現状と対策

 臨床疫学の立場から院外心停止を定義し,国際的に共通の様式で記録するためのガイドラインが作成され4),その様式は最初の会議の開催地にちなんでウツタイン様式と呼ばれている.心停止とは「脈拍が触知できない,反応がない,無呼吸で確認される心臓の機械的な活動の停止」と定義され,心原性と推測できるものと非心原性に分けられ,原因が不明な場合には除外診断に基づき心原性と扱われている.ウツタイン様式の適用のメリットは,国際比較が可能となること,経年変化がわかることがあげられる.我が国においても大阪府や東京都でウツタイン登録が開始され,大規模データベースとなり,その報告は世界から注目されている.それによると院外心停止のうち心原性で目撃のある初期調律が心室細動であった例の救命と脳蘇生良好(社会復帰)例は年々増加している5)(図4).この要因は市民の心肺蘇生法(CPR)実施率の増加と通報から除細動実施までの時間短縮である.問題点は,院外心停止のうち心室細動率は約20%と低率であることである.心停止から心電図記録までの時間が3分以内の場合には50~60%と高率に心室細動が観察されるという東京都の長尾らの報告6)から考える

傷病者 社会復帰率

5万人

10万人

40%

20%

総数

心原性

除細動なし

市民による除細動あり 23.9%

102,738人

56,412人

1.2%

2005 2006 2007 年

29.2%

105,942人

57,982人

1.5%

35.5%

109,461人

59,001人

2.5%

図4 心停止傷病者数と救命率の推移総務省消防庁救急企画室心肺機能停止傷病者の救命率等の現況

Page 7: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1367Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

と,心室細動率が低いことは,記録に至るまでの経過時間が長いこと,市民のCPR実施率が低いため心静止となることが大きな因子であると考えられる. 心停止後,心室細動の状態を長くするためには,CPR

の実施が有効である.救命の効果を検証した我が国からのエビデンスにより,発見者による胸骨圧迫(心臓マッサージ)のみでも標準CPRと同様5)あるいはより効果的7)

である.市民のCPR実施率が,なお30~40%程度であり,その理由として複雑あるいは口対口呼吸に対する嫌悪感がある.成人の突然の心停止に対しては,AHAがhands-only CPRとして,我が国のエビデンスから勧告を強調した8).しかし,ILCORでのコンセンサスはまだ得られていない.ただ日本としては ILCORの結論をまちながら,自動体外式除細動器(AED)の普及と市民によるCPR,当面は特に胸骨圧迫(心臓マッサージ)実施率をあげる方向でよいといえる.我が国では,総務省により全国的なウツタイン登録が実施され,今後の対策に重要なデータが蓄積されている9).

②院外心停止に対する国際的な取り組み

 国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)は,院外心停止に対する国際的登録基準を作成したウツタイン会議のメンバーが母体となり1992年に設立され,米国,カナダ,欧州,オーストラリア・ニュージーランド,南アフリカ,ラテンアメリカの各蘇生協議会が加盟していた,アジアからは,日本蘇生協議会(JRC)が中心となり,日本,シンガポール,台湾,韓国により,アジア蘇生協議会(RCA)が2005年に設立され,ILCOR加盟に加盟している(図5). CPRの標準化を目指す国際的なガイドラインは,

ILCORとAHAから提唱されている10).その特徴は,大規模試験によるエビデンスに基づき勧告の優先度が決定されたこと,AEDの実施をはじめとする市民の積極的な関与が謳われていることである.さらに ILCORが蘇生に関する勧告を国際標準化として発表し,それぞれの蘇生協議会が地域の状況を加味してガイドラインを作成することになった11).AHAと欧州蘇生協議会(ERC)からガイドライン改訂の発表が同時になされ12),我が国では救急蘇生法の指針(2005)として発表された13). AHAやERCは,ガイドライン策定とともに,ガイドラインに基づいた蘇生教育も実施し,教育方法や教育ツールを開発し,その普及に努めている.AHAの国際トレーニング組織(ITC)として,標準化された質の高い一次救命処置(BLS)と二次救命処置(ACLS)の教育コース(プロバイダーコース)が行われており,我が国では2003年より始まった.日本では非AHHAコースも成果を上げている.

③日本循環器学会の取り組み

 日本循環器学会では,循環器救急医療にまつわる諸問題を検討し,循環器疾患の予後の改善を推進するための方策を提言,実践する循環器救急医療委員会が設置された(図5).4つの小委員会から構成される. 蘇生科学小委員会は,循環器救急医療における我が国のエビデンスを国際的に発信し,JRCに加盟し,RCA

を通じて,国際ガイドライン検討組織である ILCORとの連携を行い,国際ガイドライン策定にも協力している. 循環器救急医療制度小委員会は,我が国の循環器救急医療の現状を把握し,その課題を学会として広く提言するための資料を作成する.

International Liaison Committee on Resuscitation 国際蘇生連絡委員会(ILCOR) 1992設立

American Heart Association

Heart & Stroke Foundation of Canada

Inter-American Heart Foundation

Australian & New Zealand Committee on Resuscitation

Resuscitation Council of Southern Africa

European Resuscitation Council

Resuscitation Council of Asia NRC Singapore

NRC Taiwan

Korean ACPR

Indonesian RC

Japan Resuscitation Council(日本蘇生協会)

日本循環器学会International Training Center

AED検討委員会

蘇生科学小委員会

JCS-ITC運営小委員会

循環器救急制度小委員会

日本循環器学会

循環器救急医療委員会

図5 心肺蘇生に関する世界と日本循環器学会の関係

Page 8: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1368 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

 AED検討小委員会は,普及啓発委員会から移行したものであり,さらに普及するために必要な事柄を循環器専門医の立場から提言することを目的としている.日本循環器学会は,広く蘇生教育を普及させ,救命

率の向上に寄与することを目的に,専門医の必修条件としてAHAのACLSプロバイダーコース履修を決定し,2007年3月にAHAと ITC契約を締結した.JCS-ITC運営小委員会を中心に,各支部において,BLSおよびACLS講習を実施している(図5).

2 院内心停止への対策 心停止をはじめとした院内での急変症例に対する対応は施設の安全対策の確立として重要なテーマのひとつである.現在,公共の場だけでなく院内へのAEDの普及が進みつつあるが,AEDを有効に機能させるためには,職員の認知の向上,心肺蘇生法教育の普及等が必要である.さらに,行われている蘇生処置の客観的評価,それに基づく検証と現場へのフィードバックが不可欠であり,院内ウツタイン様式に基づき検証することが必要となる14).しかしながら,我が国では標準的な指針はなお確立されていない. 米国ではウツタイン様式に準じて,全米の病院によるウェブを活用した院内心停止登録がNRCPR(NatioNal

Registry of CPR)として推進されている15).院内のVF

に対して,除細動実施までの時間が1分遅れるごとに救命率が数パーセントずつ低下することが明らかとなり,除細動実施までの時間の遅れの要因が分析され16),200病院で7,479例の院内心停止登録例が調査され,2分以内に除細動が可能だったものは生存退院率が39%に対し,2分以上の場合は22%と低率であった.個々の症例の要因に加え,心停止の発生時間が週末や時間外の場合には救命率が低く17),除細動の遅れの要因としてベッド数(200未満),発生場所(ICU以外)があげられた.訓練された病棟看護師による除細動については,蘇生チームと比べて救命率には差はなく,非 ICU病棟では,AEDの適用による救命率が有意に高かった. また,AEDを用いた早期除細動とともに,注目されているのが蘇生の質の客観的な評価とそれによる蘇生処置の改善である.蘇生処置を客観的に評価したところ,除細動実施直前の胸骨圧迫の中断が10秒以上,胸骨圧迫の速さが80回 /分未満,胸骨圧迫による胸部の沈みが4cm以下となると除細動成功率が低くなり,除細動前の良好な質のCPRが必要であることが示された18)-20).CPRの質を評価し,リアルタイムで音声フィードバック可能なシステム(Q-CPR)が開発され,その利用に

より院内の救命率が高くなったことが報告された21),22).

Ⅱ 成人のBLS

1 成人のBLS(一次救命処置)について

① 心停止の救命を円滑に行うための一次救命処置(BLS)は,緊急通報と迅速な自動体外式除細動器(AED)の手配,迅速な心肺蘇生(CPR),迅速な電気ショック(除細動)である.これに二次救命処置(ACLS)とあわせて救命の連鎖となる.

② 心停止の患者に対して,胸骨圧迫と人工呼吸によるCPRをできるだけ早期に開始し,自己心拍が再開するまで絶え間なく行う.

③ BLSの手順は1)傷病者が反応のない場合,大声で人を呼び,緊急通報とAEDを手配する.

2)頭部後屈あご先挙上法で気道を確保し,呼吸を10秒以内で確認する.

3)呼吸がなければ胸が上がるように人工呼吸を2回試みる.

4)頚動脈の触知を10秒以内に確認する.5)脈が触知できなければ胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰返す.圧迫は強く,早く(約100/分),絶え間なく行い,圧迫解除は胸がしっかり戻るように行う.

6)AEDのスイッチをいれ,電極パッドを右上前胸部と左下側胸部に貼る.

7)AEDの心電図解析を待ち,ショックが不要な場合にはただちにCPRを再開する.

8)ショックが必要であれば電気ショック(除細動)を1回行った後にただちにCPRを再開する.2分または5サイクルのCPR後にAEDによる心電図解析することを繰り返す.

●なお,人工呼吸ができない・したくない人は,胸骨圧迫のみ蘇生を開始する.

1 救命の連鎖

 院外で突然の心停止を発症した傷病者の初回のリズム解析で,心室細動(VF)が40%に認められる23),24).VF

である間に迅速な救命処置を行えば救命可能であるが,いったん心静止に陥るとその成功の見込みが激減す

Page 9: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1369Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

る25).迅速な救命のために必要な行動を円滑に行うのが,「救命の連鎖」である26)(図6).⑴緊急通報と自動体外式除細動器(AED)の迅速な手配.⑵迅速な心肺蘇生法(CPR)を行うことで突然の心停止の救命率が2倍以上になる25),27).⑶迅速な電気ショック(電気的除細動):倒れてから3~5分以内に電気ショックとCPRを行えば生存率は上昇する28).⑷資器材や薬剤を使用した二次救命処置(ACLS),さらに蘇生後ケアを行う.

2 BLS(一次救命処置) 一次救命処置(BLS)とは,救命の連鎖のうちの最初の3つの要素を包括する概念である.感染防御具や電気的除細動のためのAED以外には,特別な資器材を必要

としない.思春期以降の患者を成人として対応する.図7に日常的に蘇生を行う者およびALSを習得した者が行うBLSのアルゴリズムを示す.

3 心肺蘇生 心肺停止の患者の呼吸・循環機能を維持する目的で胸骨圧迫および人工呼吸を行うことを心肺蘇生(CPR)という.心肺蘇生は心停止発生後できるだけ早期から開始して,絶え間なく行うことが重要であり,良質で絶え間ない胸骨圧迫こそが心肺停止患者の救命を大きく左右する因子である.

①発見時の対応手順(通報とCPR開始の優先順位)

 肩を叩きながら大声で呼びかけても,何らかの応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」とみなす.反応がなければその場で大声で叫んで周囲の注意を喚起する.誰かが来たら,その人に緊急通報(119番通報)とAEDの手配を依頼し,自らはCPRを開始する.院内の場合には救急カートも手配する.救助者が一人だけのときは,自分で緊急通報を行い,AEDが近くにあればそれを取りに行った後に,CPRを開始する.ただし,呼吸の異常による心停止が疑われる傷病者に

図6 救命の連鎖

①緊急通報と AEDの手配

②迅速な CPR

③電気ショック (電気的除細動)

④二次救命 処置(ACLS)

Circulation 2005; 112(24 suppl):Ⅳ1-203より

反応なし

気道を確保し,呼吸を確認

呼吸がなければ,胸の上がる人工呼吸を 2回行う

脈拍を確信できるか?(10秒以内)

心電図解析除細動の適応は?

大声で叫ぶ,緊急通報,AED

脈あり ・5~6秒ごとに人工呼吸を 1回・2分ごとに脈拍をチェック

脈がないか不確実準備ができていれば

胸が上がる人工呼吸 2回

胸骨圧迫 30回+人工呼吸 2回を繰返す(AED装着まで,ALSチームに引き継ぐまで,

または傷病者が動き始めるまで)圧迫は強く,早く(約 100/分),絶え間なく

圧迫解除は胸がしっかり戻るまで胸骨圧迫の中断を最小限にする

AED装着

ショック 1回ただちに CPRを再開5サイクル(2分)

ただちに CPRを再開5サイクル(2分)

適応あり 適応なし

図7 成人のBLSのアルゴリズム

Page 10: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1370 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

救助者が一人だけで対応した場合には,緊急通報やAEDの手配を行う前に5サイクルもしくは約2分間のCPRを行う.

②呼吸の確認

 気道確保のための頭部後屈あご先挙上法,または下顎挙上法を行い29),呼吸があるかどうかを10秒以内で確認する.反応がなく,かつ呼吸がない場合は心肺停止である可能性が高い.心停止直後には死戦期呼吸,いわゆる喘ぎ呼吸が認められることがあるが,呼吸がないものとして取り扱う.

回復体位

 反応はないが,呼吸および確実な脈があり,かつ外傷のない場合は,傷病者を回復体位にして専門家の到着を待つ.

③人工呼吸

 呼吸がなければ,気道確保のための頭部後屈あご先挙上法,または下顎挙上法を続けながら人工呼吸を約1秒かけて2回行う.胸の上がりが見える程度の量を送気する.なお,口対口人工呼吸を行う際には感染防護具を使用すべきである.可能な場合には,できるだけ高濃度の酸素で人工呼吸を行う.送気量の目安は,人工呼吸の方法に関わらず,すべてで「胸が上がるのが見てわかるまで」とする.この送気量は6~7mL/

kgに相当する.1回目の人工呼吸によって胸の上がりが確認できなかった場合は,気道確保をやり直してから2回目の人工呼吸を試みる.2回の試みが終わったら,うまく胸が上がらなくてもそれ以上は人工呼吸を行わず次の手順に進み,心停止が確認されればただちに胸骨圧迫を開始すべきである.

胸骨圧迫のない人工呼吸

 呼吸はないが脈を確実に触知できる場合は人工呼吸のみを行う.この場合の呼吸数は10回 /分程度とする.人工呼吸は1回につき1秒かけて行う.およそ2分ごとに確実な脈拍が触知できることを確認する.

④心停止の確認

 反応がなく,呼吸がなく,頸動脈が確実に触知できなければCPRが必要である.脈の確認に10秒以上をかけてはならない.

⑤CPRの開始手順

 心停止と判断した場合は,胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせを速やかに開始する.ただし,人工呼吸が実施困難な場合は胸骨圧迫を優先し,人工呼吸は実施が可能になり次第始める.心原性の突発性心停止では,まだ肺胞内および血液中に利用可能な酸素が含まれており,人工呼吸よりも胸骨圧迫を開始する方が良いと考えられる.バッグバルブマスクや感染防護具が手元にない等,ただちに人工呼吸を行うことができない場合には,胸骨圧迫のみを開始すべきである30).ただし,この肺胞内,血液内の酸素は数分で消失するために,呼吸の補助を加える余裕ができた時点で,それを行う体制も考慮する.

⑥胸骨圧迫の方法

 胸骨圧迫の効果を発揮するために,傷病者をバックボードや床等の硬い平面上に仰臥位に寝かせる.胸骨圧迫の位置は,「胸の真ん中」あるいは「乳頭と乳頭を結ぶ線の胸骨上」のいずれかを目安とする.胸骨圧迫の速さは1分間に約100回とする.胸骨が4~5cm

沈むまでしっかり圧迫する.ただし,圧迫の強さや深さが不十分になりやすいので注意すべきである.圧迫を解除するときには,掌が胸から離れないように注意し,しかも胸が元の位置に戻るように充分に圧迫を緩めることが重要である31).

胸骨圧迫の評価

 胸骨圧迫の効果は圧迫の深さや速さで評価すべきであり32),頸動脈では評価すべきでない.

⑦胸骨圧迫と人工呼吸の比

 胸骨圧迫と人工呼吸の回数比を30:2とする.胸骨圧迫の連続回数30回はあくまで目標であり,30回を正確に実施することに固執する必要はない.

⑧胸骨圧迫の役割交代と中断時間

 胸骨圧迫の連続回数が増加し,救助者が疲労したことを自覚しないまま,胸骨圧迫の深さが不十分になる可能性があるので注意が必要である.交代可能な場合には,たとえ救助者が疲労を感じていなくても,胸骨圧迫の交代要員がいる場合には,胸骨圧迫の担当を5サイクル(2分)おきに交代することが望ましい.交代は5秒以内に済ませるべきである.AEDを用いて除細動する場合や階段で傷病者を移動させる場合等の

Page 11: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1371Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

特殊な状況でない限り,胸骨圧迫の中断時間は10秒以内にとどめる.

⑨非同期CPR

 気管挿管下でのCPRでは,人工呼吸の際に胸骨圧迫を中断せず,人工呼吸と胸骨圧迫を非同期で行う.この場合の人工呼吸の回数はおよそ10回 /分とする.コンビチューブ,食道閉鎖式エアウェイ,LMA,Laryngeal Tubeが挿入された場合も,適切な換気が可能なら非同期で行う.非同期でCPRを行う場合は,人工呼吸回数が過剰になりがちなので注意が必要である.人工呼吸回数の増加によって換気量が増加すると平均胸腔内圧が上昇するため,静脈還流が減少して心臓からの拍出量が減り,冠灌流圧の低下も招き,生存率が低下する可能性が指摘されている33).

⑩胸骨圧迫のみのCPR

 ただちに人工呼吸を行うことができない場合や一般市民が人工呼吸を躊躇する場合には,胸骨圧迫のみのCPRを推奨する.CPRを行わないときよりも胸骨圧迫のみを行うほうが生存率が高い34).さらに我が国におけるコホート研究では,人工呼吸を加えた方法よりも胸骨圧迫のみのCPRが予後が良いと報告されている7).

⑪前胸部叩打法

 モニター下で発生した目撃のある心室細動 /無脈性VTで,ただちに除細動器が使用できない場合は,即座に1回だけ前胸部叩打を行ってもよい.拳で約20cmの高さから胸骨の下半分を鋭く叩く.ただし合併症もあるため,訓練を受けた医療者のみが行う.市民には指導しない.

4 AEDによる電気的ショック(除細動)

①除細動とCPRの組み合わせ

 早期除細動は突然の心停止から蘇生するために極めて重要である.除細動が実施されるまでの時間は様々であるが,AEDの使用前にCPRが行われた場合には生存率が2倍から3倍になる25),27).バイスタンダーがすぐにCPRを実施することで,成人の心室細動の多くは神経学的機能を損なうことなく蘇生できる可能性が高くなる.除細動が心停止後,約5分以内に行われた場合は特に転帰が良い28).CPRと除細動のいずれの実施が遅れても,突然の心停止からの蘇生の可能性

は低くなる.

②除細動波形とエネルギーレベル

 心室細動の停止において,単相性波形に比べ安全性,有効性ともに優れている二相性波形が推奨される35).種々の二相性波形を直接比較した報告はまだない.我が国では二相性AEDが導入され始めているものの,既存の除細動器の多くが単相性である.出力されるエネルギー量は装置のタイプにより異なる. 単相性AEDを用いる場合のエネルギー量については,初回のエネルギー量としては最大量360Jを推奨する.二相性AEDを用いる場合のエネルギー量については,メーカーが既定したエネルギー量(120~200J)で電気ショック(除細動)を行う.

③AEDの使用と一般市民向けAEDプログラム

 市民であれ医療従事者であれ,訓練を受けた者がAEDを使用することは,心停止傷病者の生存率を向上させるために推奨される.有効な対応計画が整備されているなら,心肺停止を目撃する可能性のある場(公共施設,空港,駅,学校,スポーツ施設等)において,AEDを迅速に使用できるよう整備することが望ましい.上記の対応計画には,器材のメンテナンス,初期応答者のトレーニング,地域の救急医療システムとの連携,プログラムのモニター等が含まれるべきである. 早期の除細動を実現するには,業務として救急蘇生にあたる者だけでなく,一般市民によってただちに除細動が行われるシステムを推進することが重要である.市民による除細動(Public access defibrillation:PAD)プログラムとして,病院外心停止の発生状況把握,AEDの配備計画,救助者の育成,結果の検証が重要である.PADプログラムは医学的見地に基づいて救急医療サービスの質を管理する体制下で実施されるべきである.我が国においても,製品の誤動作に関する報告が散見される.設置されたAEDの情報をモニターするシステム構築が望まれる.また,AEDそのものの研究が必要である.AEDに関する検証体制の構築・整備も今後の課題である.人工呼吸のタイミングや胸骨圧迫の早さを音声で案内する器具やCPR

手順の音声ガイド(AED等)はBLS/CPRを円滑にするための補助として有用と思われる.

④電極の配置

 AEDの電極パッドは右上前胸部(鎖骨下)と左下側胸部(左乳頭部外側下方)に貼付する.貼付の代替

Page 12: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1372 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

位置として,上胸部背面(右または左)と心尖部とに貼付する方法(apex-posterior)も考慮される.パッドを貼る場所に医療用の植込み器具がある場合には,器具からパッドを2~3cm以上離して貼る.植込み式除細動器の電気ショックが作動している,すなわち,体外式除細動がなされているときのように,傷病者の筋肉が収縮している場合,その作動が完了するまで30~60秒待ったあとでAEDを取り付ける.時に自動ICDとAEDの解析・ショックサイクルは競合する.電極パッドは経皮的な薬剤パッチ(ニトログリセリン,ニコチン,鎮痛薬,ホルモン薬,降圧薬等)や湿布薬等の上に直接貼るべきではない.貼付場所の薬剤パッチ等を取り去り,その部位を拭き取った後で電極パッドを貼り付ける.胸毛が多い場合には,パッドが密着しないためにAEDの効果が半減する.電極パッドを強く押し付けても密着しない場合は,予備のパッドがあれば,最初のパッドで胸毛を剥がした後に新しいパッドを貼る.カミソリが入っている場合には胸毛を剃ってからパッドを貼ってもよい.傷病者の体が濡れている場合には,胸の水分を拭き取ってから電極パッドを貼り付ける.AEDは,傷病者が雪や氷の上に倒れているときも使うことができる.

⑤AEDの操作

 ⑴ まずAEDの電源を入れる.電源スイッチを押すか,モニターのカバーを開く.以降は音声と点滅ランプの指示に従う.

 ⑵ 前述のように電極を貼る. ⑶ AEDが心リズムを解析する間は,傷病者から離

れる.解析はボタンを押す場合と自動の場合がある. ⑷ 電気ショックが必要と判断すると自動的に充電を開始する.ショックボタンを押す前に,自分,他者に離れるように勧告し目視で確認する.ショックは不要ですという音声メッセージの場合には,ただちにCPRを再開する.

 ⑸ 1回ショック後のCPR再開   対象傷病者に対し,電気ショックを1回行った後,

観察なしにただちに胸骨圧迫を行う.2分(または5サイクル)のCPR後に除細動器で心電図を解析する.以後,必要に応じてショック→CPR→心電図解析を繰り返す(ただし,院内CPAで,持続的にモニタリングされている症例に関しては,医師の判断で連続的なショックを行ってもよい).充分な循環が戻る,または専門家チームに引き継ぐまで,CPRを継続する.

⑥AEDの院内使用

 病院内の早期除細動(目標は虚脱から3分以内)を実現にするために,AEDの病院内設置も検討されてきた36).スタッフの技能が不足している施設や,除細動器がめったに使われない部署では特にAEDの設置が有用である.早期除細動を実現するためには,現場の職員がAED使用訓練を受け,その使用を許可されていることが望ましい.病院は病院内心停止の発生状況を把握し,AEDの配備計画を立て,職員を訓練し,その効果を検証することが重要である.

⑦除細動器データ収集

 除細動器の機器データ,つまりエネルギー量や波形に関する研究データを収集することは重要である.除細動器使用中の音声・波形等の諸データを収集することは必要である.

5 気道異物 異物による気道閉塞を認識することが蘇生成功の重要な鍵となる.気道閉塞のサインは.音のない咳,チアノーゼ,声が出ない,息ができないといったサインを呈する.傷病者自らが,首をわしづかみすることは,万国共通の窒息のサインである.喉が詰まっているのですかと尋ねる.今から窒息を解除することを伝えて安心させる.

①気道異物除去:意識のある場合

 気道異物による窒息が疑われる場合は,ただちに緊急通報(119番通報)をするよう誰かに依頼し,救助者はただちに以下の方法を試みる.ただし,傷病者が激しく咳き込んでいる場合には,本人の努力に任せる.救助者が一人だけの場合は,緊急通報する前に以下の方法を試みる. 背部叩打法と腹部突き上げ法を併用する37).その回数や順序は問わない.妊婦,極端な肥満者の場合は(腹部突き上げ法は行わず),腹部突き上げ法に代えて胸部突き上げ法を行う.

②気道異物除去:意識のない場合

 反応がなくなった場合は,緊急通報(119番通報)をしていなければ通報し,その後,通常のCPRを行う.ただし,気道確保をするたびに,口の中を覗き,異物が見え,摘出が容易なら取り除く.盲目的指拭法は行わない.可能なら喉頭展開下で異物を除去する.

Page 13: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1373Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

6 その他の参考事項

①電話を通じての心停止確認

 通信指令は,通報者が死戦期呼吸(いわゆる喘ぎ呼吸)を「呼吸あり」と誤認する可能性があることに充分注意する必要がある.通信指令は適切な問いかけによって,通報者が死戦期呼吸を正常な呼吸と混同しないように導くべきである.

②口頭指導によるCPRの方法

 CPRができるかどうかを尋ね,できないと答えた場合には胸骨圧迫のみ(人工呼吸を行わないCPR)を口頭で指導する.その他の状況においても,プロトコルにしたがって胸骨圧迫のみのCPRを口頭指導することを考慮してよい.

③口頭指導の質管理

 通報内容から心肺停止状態が疑われる場合,通信指令は適切な表現方法を用いて,通報者が正確な状況を把握できるよう導くべきである.心肺停止状態および気道異物による窒息が疑われる傷病者からの緊急通報においては,明文化された手順にしたがった口頭指導が行われるべきであり,その手順について定期的に訓練を受けることが望ましい.口頭指導の指導実績およびその効果は指導内容の記録に基づいて科学的に検証されることが望ましい.

④応答時間その他

 心肺停止に対する応答時間をできるだけ短縮するための努力と工夫を継続すべきである.ウツタイン方式に関わる覚知時刻やバイスタンダーCPRの定義は正しく統一されるべきである.救急活動に関わる時刻を正確に把握・記録する体制(時計の同調管理を含む)が必要である.

⑤救急隊における電気ショックとCPRの優先順位

 救急通報から救急隊の現場到着までに4~5分以上を要した症例で初期心電図が心室細動であった場合には,ただちに電気ショックを行う(Shock-first)プロトコルに代えて,約2分間の有効なCPRを行った後に電気ショックを行う(CPR-first)プロトコルを採用することが望ましい.CPR-firstプロトコルの有用性およびCPR-firstプロトコルにおいて電気ショック前に行うべきCPRの時間,対象とすべき傷病者等につい

ては,各地域の医学的見地に基づいて救急医療サービスの質を管理する体制下で今後さらなる検証を行うことが望ましい.

⑥病院内Medical Emergency Team

 院内救急蘇生チームは,病院内の心肺停止件数,死亡数,予期せぬ ICU入室を減少させるために有効と考えられる.

⑦頸損疑いの気道確保

 頸椎(髄)損傷を疑う傷病者の気道確保では,下顎挙上法による気道確保が第一選択である.下顎挙上法が無効なら頭部後屈・あご先挙上法による気道確保を試みる.

⑧頸椎の非動化

 外傷のある傷病者に対して頭頸部を非働化する場合,人手がある限り用手的方法を優先する.

Ⅲ 成人のACLS

1 成人の二次救命処置(ACLS)

① 二次救命処置(ACLS)では,心停止に対してその背景疾患を鑑別診断しながら,質の高い心肺蘇生に除細動器や薬剤等を併用する.

② ACLSでは電気ショック(除細動)が必要な心室細動(VF),無脈性心室頻拍(pulseless VT)と電気ショック(除細動)が不要な無脈性電気活動(PEA),心静止(Asystole)の2つのアルゴリズムがある.質の高いCPRは,BLSでのCPRに加えて高度な気道管理を併用する.

③ 電気ショック(除細動)は,二相性を推奨する.単相性では360J,二相性では120~200Jで1回行う.

④ 静脈路を確保し血管収縮薬(アドレナリン,バソプレシン)を使用する.

⑤ 血管収縮薬を含むCPRでもVFが持続する場合に抗不整脈薬(アミオダロン,リドカイン,ニフェカラント,硫酸マグネシシウム)を考慮する.

Page 14: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1374 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

⑥ 無脈性電気活動(PEA)は,心臓の電気活動は認められるが脈拍が触れない状態と定義される.

⑦ PEA,心静止に対して電気ショック(除細動)は行わず,CPRを行う.

⑧ PEA,心静止に対して静脈路を確保し薬剤を投与する(アドレナリン,バソプレシン,アトロピン).

⑨ 心停止の原因を検索し治療する.

1 二次救命処置(ACLS)の意義

 二次救命処置(ACLS)では,心停止に対してAED

以外に高度な気道管理や薬剤等の資材を用いて処置と治療を行う.その際には心停止の原因と背景疾患を鑑別診断する.こうして心停止と非心停止が連続性を持つことを認識する中で,心停止の予防と心停止からの回帰を図る方法が学習される.心停止を来たす病態を学び心停止治療の適切なアルゴリズムを示す(図8).アルゴリズムは蘇生行為を迷うことなく確実に行うための手順をエ

ビデンスを吟味して整理したものであり,蘇生を行うものは個人がこれを実践できるようにするとともに蘇生に参加する全員がこれを共有することが重要である.しかしながら,現実の蘇生現場においては人的資源や機材等での様々な制限があり,アルゴリズムは状況に応じて臨機応変に改変され得るものである.

2 ACLSにおける心停止の2つのアルゴリズム(図8)

 脈を触れない心停止は,VF,無脈性VT,PEA,そして心静止(Asystole)の4つに分けられる.しかし目撃された成人collapse(卒倒)患者ではVF・無脈性VTを念頭におき対応すべきである.なぜなら目撃された心停止の多くがVFあるいは無脈性VTであり,しかも電気ショック(除細動)により回復できる可能性が高いからである23),24),38),39).大血管で脈が触れない無脈性VTはVFと同等な病態として扱われその治療方法も同様である.したがって,心停止リズムはショックが有効なVF/

ただちに CPRを再開 5サイクル(2分)高度な気道確保を考慮末梢静脈路を確保し薬剤投与 アドレナリン 1mg,3~5分おき 徐脈性 PEA,心静止に対して アトロピン 1mg,3~5分おき,3mgまで

原因を検索し治療する(6H6T他)循環血液量減少 hypovolemia低酸素血症 hypoxia低・高カリウム hypo/hyperkalemiaアシドーシス hydrogen ion低体温 hypothermia低血糖 hypoglycemia緊張性気胸 tension pneumothorax心タンポナーデ tamponade毒物 toxins血栓症(冠,肺動脈) thrombosis外傷 trauma心不全,大動脈解離,心筋炎等

ショックを行う,ただちに CPRを再開抗不整脈薬を考慮 (iv/io) アミオダロン初回 150~300mg,追加 150mg リドカイン初回 1~1.5mg/kg,追加 0.5~0.75mg/kg,最大 3mg/kg ニフェカラント 0.1~0.3mg/kg  低Mg血症が疑われる場合 マグネシウム 1~2g

ショックを行う 二相性 120~200J 単相性 360Jただちに CPRを再開

心リズムをチェック:ショックの適応か?

ショックを行う,ただちに CPRを再開末梢静脈路を確保し薬剤投与 アドレナリン 1mg,3~5分おき

電気活動あれば脈拍チェック脈拍触知良好なら,蘇生後ケアへ

心リズムをチェック:ショックの適応か?

心リズムをチェック:ショックの適応か?

心リズムをチェック:ショックの適応か?

CPR (30:2),除細動器 /心電図装着

ショックの適応か?

VT・VFへ

反応なし無脈性心停止

VT・VF 心静止・PEA

ショック適応 不要

CPR5サイクル(2分)実施

適応

CPR5サイクル実施

CPR5サイクル実施

適応

いいえ

いいえ

適応いいえ

CPR5サイクル(2分)実施

適応

図8 心停止へのアルゴリズム

Page 15: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1375Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

無脈性VTか無効あるいは不適なPEA/心静止の2つに大別することが臨床上有用である.またPEAや心静止は多くの場合,発生から長く時間が経過したVFの結果であることを理解しておくことは重要である25),40)-42).

3 VF/無脈性VTへの対応 VF/無脈性VTによるcollapse(卒倒)患者の蘇生行為のアウトカムはCPRの質の高さと電気ショックの早さにより左右される.VF発生5分以内に電気ショックが実施された場合は,除細動効率が高く,脳神経障害を残さず蘇生される可能性が期待される43),44).一次救命処置(BLS)にて既述されているように,目撃されたcollaps

傷病者において,AEDが電気ショックの適応があると判定された場合あるいはモニター付き除細動器にてVF/

無脈性VTが確認された場合にはただちに電気ショックを実行し(shocK first),引き続いて速やかにCPRを再開する.しかし,倒れていた傷病者を発見したような場合は既に数分間以上経過していることが予想されるため,まず2分間(あるいは5サイクル)のCPRを行い冠循環,脳循環をサポートし,除細動のチャンスを高めてからショックを行う方法が推奨される(CPR first)44),45).

①質の高い(high quality)CPR

 質の高いCPRの基本は,⑴適切な速さ(push fast),強さ(push hard)と十分な戻し(full recoil)からなる胸骨圧迫と⑵過換気回避を主眼とする気道呼吸管理である44),45).胸骨圧迫における問題は実施者の疲労である.実施者の疲労は適正な胸骨圧迫継続を困難なものとし,CPRの質の低下をもたらす.このため複数の救護者がいる場合にはCPRの質を保つため胸骨圧迫(1分間100回のペース)と呼吸管理(30回の胸骨圧迫に対して1回1秒,2回の補助呼吸)は2分間あるいは5サイクルごとに交代する.Collapse患者の救命率は秒分単位で低下するため,気管内挿管等の高度な気道確保を実施する際にも胸骨圧迫を10秒以上中断することがあってはならない.気管内挿管を試みる際は胸骨圧迫が挿管手技の妨げとなりやすく,胸骨圧迫の中断あるいは不十分な胸骨圧迫が余儀なくされるためバッグバルブマスク(BVM)換気で胸郭挙上が十分であるなら高度な気道確保に時間を割くことはせずBVM換気を継続すべきである.BVMでの換気が不十分か安定しない場合には,気管内挿管よりも気道補助器具(口咽頭エアウェイ,鼻咽頭エアウェイ)の使用が簡単で推奨される.口咽頭エアウェイは咳・咽頭反射がない意識不明患者に限って使用し,口角から

下顎角に届く長さを選ぶ.鼻咽頭エアウェイは気道閉塞状態あるいはその危険性が高い患者において意識があり咽頭反射が残っている患者に用い,鼻腔から耳朶に届く長さが必要である.

②電気ショック(除細動)

 VF/無脈性VTに対してはVF停止に有効性が明からなエネルギー量での電気ショックを実施する.除細動器には一方向にしか電流が流れない単相性と当初プラス側に流れその後マイナス側に電流の方向が変化する二相性がある.二相性除細動器(単相減衰正弦性波形)の場合,推奨されるエネルギー量(120~200J)での1回目の電気ショックで除細動が成功する割合は86~98%であり,単相性波形の場合の成功率は200Jでは77~91%と報告される46)-49).ともに有用性が認められているが単相性の初回ショックの効果は二相性のそれに劣る.単相性波形での成効率が低いことから,単相性除細動器を用いるならすべての電気ショックのエネルギー量は360Jで行う.二相性除細動器の場合は120~200J(有効エネルギーが不明の場合は200J)で電気ショックを実施し,2回目以降ショックが必要な場合は初回と同等かそれ以上のエネルギーで電気ショックを実施することが推奨されている46),50),51).電気ショック後のリズムが何であれ,それが十分に生体の循環を支えるほどのものではなく,電気ショック後の脈・心電図の確認は胸骨圧迫の中断という不利益こそあれメリットはないことから,電気ショック後は常にただちに2分間(5サイクル)CPRを再開する48).

③心停止時の薬剤投与経路と方法

 心停止では循環停止状態である.末梢が確保された場合,血管収縮薬や抗不整脈薬等が効果を発揮するためには薬剤は1回急速(ボーラス)静注し,点滴用補液20mLでボーラス後押し注入する.また注入後は静注に使用した血管が存在する四肢を10~20秒間挙上する必要がある.なお,末梢静脈が確保されない場合は骨髄路が推奨されるがこれも困難な場合,効果は未確認だが気管内投与も考慮する.

④VF/無脈性VTのアルゴリズム

 ⑴ 心リズムをチェックしVF/無脈性VTの場合は電気ショックの適応となりショックを1回行う.電気ショック後はただちにCPRを再開し,脈の確認やモニターでの心電図評価でCPRの再開を遅らせてはならない(胸骨圧迫の中断は10秒未満).

Page 16: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1376 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

 ⑵ CPRを2分間(およそ5サイクル)行った後に,再度,心リズムをチェックする.VF/無脈性VTが継続していた場合は,2回目の電気ショックを行い,ショック後はただちにCPRを再開する.ヒトの心停止の蘇生行為においては血管収縮薬,抗不整脈薬いずれの薬剤もCPRに勝るエビデンスを持たず,VFでのショック治療を除いて,心停止リズムでは質の高いCPRに勝る治療法はないと言える.

 ⑶ 次のリズムチェックまでの間に,静脈路を確保し,アドレナリン(エピネフリン)1mgの静脈内あるいは骨髄内投与を行う.我が国では保険適用外だが,バソプレシン40単位でもよい.以後,エピネフリンは3~5分ごとに反復試行する.

 ⑷ 抗不整脈薬の考慮;血管収縮薬投与を含む2分間CPRにてもVFが持続する場合,次の電気ショックの後には抗不整脈薬(アミオダロン,リドカイン,ニフェカラント,硫酸マグネシシウム)を考慮する.

  アミオダロンアミオダロンは,VF/無脈性VTによる心停止に対して,プラセボおよびリドカインと比較して入院生存率を改善させる.初回150~300mgを静脈路 /骨髄路からボーラス投与する.その後もVF

持続する場合,2度目は追加150mgを1回だけ3~5分間かけて追加投与,さらにVFが持続する場合は維持療法としての使用方法にしたがって持続点滴,極量2.2g/日である(注記;静注用アミオダロンは我が国においては心停止に対してはオフラベルである.使用量,投与方法についてはAHAのガイドラインの推奨およびVTに対する我が国の用量を勘案した.我が国でのデータを蓄積し検証する必要がある).

  リドカインVF/無脈性VTに対するリドカインの有効性もしくは有害性のエビデンスはない.初回1~1.5mg/

体重を静脈路 /骨髄路から投与する.その後,必要に応じて,5~10分間隔で初回の半分量を投与,極量は計3回の投薬または総量3mg/体重.

  硫酸マグネシウム無脈性VTが多形性で,非発作時心電図にてQT

延長が確認できた場合はTorsade des pointesと考えられる.治療の第一はショックであるが,その後の再発予防として硫酸マグネシウム1~2gを5%グルコース10mLに希釈して5~20分程度かけて静脈路 /骨髄路投与する.

  塩酸ニフェカラントVF/無脈性VTには0.1~0.3mg/kgを5分間かけて緩徐に静注後,VF持続なら電気ショックを行う.追加する場合は同量を同様に投与する.無脈性VTの場合は心電図波形に注意し使用.効果が認められた場合0.15~0.4mg/kg/hでその後持続点滴,血中濃度の急激な上昇により過度のQT時間の延長,心拍数の低下又は洞停止,心室頻拍(Torsade des pointesを含む),心室細動等の催不整脈作用発現の可能性がある.QT600ms以上の延長があれば中止する.アミオダロンあるいはリドカインの代替えとして我が国のみ使用52),53).今後使用経験を重ねて日本発のエビデンスとして発信する必要があろう.

 ⑸ 心リズムチェックで心静止 /PEAを認めた際には,後述のアルゴリズムに移動する.脈拍を良好に触知する場合は,蘇生後ケアを開始する.

4 PEA・心静止 PEAは,心臓の電気活動は認められるが脈拍が触れない状態と定義される.心臓が,電気的活動はしているが脈拍を生み出すほどの機械的収縮ができていない状態である.心電図上で波形(電気活動)は認められても脈拍が触れない状態であったり,心エコー上左室収縮はわずかに認められるが動脈圧モニター上圧波形を生じない状態が存在することが研究によって確認されている.心室細動や無脈性心室頻拍は除外される.この状態には,偽性電気収縮解離や除細動後心室固有調律等が含まれる.心静止は,心臓が電気的にしたがって機械的にも活動を停止している状態である. PEAと心静止は,疾患ではなく症候である.これらの心リズムを生じる様々な原因疾患が存在する.救命できる可能性のある疾患には,循環血液量減少hypovolemia,低酸素血症hypoxia,低・高カリウム血症hypo/hyperkalemia,アシドーシスhydrogen ion,低体温hypothermia,低血糖hypoglycemia,緊張性気胸 tension

pneumothorax,心タンポナーデ tamponade,毒物 toxins,血栓症(冠,肺動脈)thrombosis,外傷 traumaがあり,記憶する方法として英語表記の頭文字から6H6Tとされる.これらの心リズムは,その原因疾患が何であれ人が死に至る時の「状態」といえる.これらの心リズムによる心停止の場合,その原因疾患が治療可能である場合に蘇生が可能となる.しかし,心静止の場合,これまでのところその生存率は極めて低い.

Page 17: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1377Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

5 PEAと心静止に対するアルゴリズム PEAと心静止に対する蘇生法はほぼ同様である(図8).これらの心停止リズムに対する蘇生法は,質の高いCPR,高度な気道確保,薬剤投与である. ⑴ 蘇生法の中心は,やはり胸骨圧迫の中断を最小限にした質の高いCPRである.心停止を確認したらただちにCPRを開始する.この2つの心停止リズムに対する電気的除細動は必要ない.

 ⑵ トレーニングを積んだ救助者がいれば,早期に高度な気道確保を行うべきである.高度な気道確保(気管内挿管,コンビチューブ,ラリンギアルマスク)を施行するときも胸骨圧迫の中断は最小限にすべきであり,それ以外では静脈路確保も含めて他の手技を行うことによる胸骨圧迫の中断は避けなければならない.いったん高度な気道確保がなされれば,二人法CPRでは人工呼吸と胸骨圧迫は非同期で行う.胸骨圧迫は100回 /分のテンポで絶え間なく続け,人工呼吸は8~10回 /分で換気を行う.2分おきに心電図モニターでリズムと必要に応じて脈拍も確認し,疲労による胸骨圧迫の質の低下を避けるため人工呼吸と胸骨圧迫の役割を交代する.

 ⑶ 末梢静脈路を確保し,薬剤の投与を行う.静脈路への輸液は全開で滴下する.PEAと心静止に対して使用される薬剤は,基本的には以下の2種類である.薬剤投与のために胸骨圧迫を中止してはならない.

  アドレナリン(エピネフリン)心リズムがPEAまたは心静止であることが確認できたら可能な限り早期にアドレナリン(エピネフリン)を投与する.投与法は,一回1mgを静注ボーラス投与し,以後心停止が持続している間は約3~5分間隔で投与を続ける.欧米の研究ではバゾプレシンもアドレナリン(エピネフリン)の代替え薬として推奨されているが,我が国では保険適用外である.

  アトロピン徐拍性PEAや心静止であれば,アトロピンも考慮される.アトロピンは,一回1mgを静注ボーラス投与する.以後,3~5分おきに総投与量3mgもしくは最高3回まで反復投与できる.アトロピンも心リズムをチェック後,必要と判断すれば早期に投与する.

 これまでのところ血管収縮薬が,心停止後の神経学的障害を残さない生存退院率を改善したエビデンスは存在

しない.しかし,心停止後の早期使用が自己心拍再開率を改善するエビデンスはある.PEAに対してアドレナリン(エピネフリン)とバゾプレシンのどちらかが優れているというエビデンスはない.心静止に関して,前向き大規模試験のpost-hoc解析でアドレナリン(エピネフリン)に対してバゾプレシンの方で生存率が高いことが示されたが,神経学的障害を残さない生存に関しては両者に差はなかった54).徐脈性PEAや心静止に対するアトロピンの使用を支持する前向き比較対象試験はこれまでのところ存在しない.生存入院率の改善がみとめられた後ろ向き試験55)や,心静止から洞調律への復帰を認めた症例集積研究56)は存在する.アトロピンが有害であるとする文献は少なくその質も低い.アトロピンは,3mg

の投与で人の迷走神経は100%遮断される. ⑷ CPR5サイクルまたは2分ごとに心リズムをチェ

ックする.波形が変化しないもしくは心静止であれば,CPRと薬剤投与を継続する.心リズムが自己心拍再開を示唆する波形に変化したときは脈拍の確認を行う.脈拍が触れなければ(もしくは触れることに自信がなければ),ただちにCPRを続行する.脈拍がよく触れるようになれば,蘇生後ケアを行う.

 ⑸ 上記の蘇生法を行いながら,できるだけ早期に心停止を起こした原因を突き止め,それに対する特異的な治療を開始する.繰り返すが,これらの心停止リズムに対しては,その原因に対する治療が行われて初めて蘇生に成功する可能性があることを忘れてはならない.

 ⑹ 予後の改善に対してエビデンスによる支持がない治療法

  1)心静止に対するペーシングいくつかの無作為化比較対照試験において,心静止に対するペーシングの有効性は認められなかった57)-59).

  2)炭酸水素ナトリウム緩衝液による心停止の予後改善を支持するデータはほとんどない.細胞外アルカローシスと細胞内アシドーシス60)を引き起こす可能性がある.蘇生中に投与されたカテコールアミンを不活化する可能性がある.炭酸水素ナトリウムは,心停止患者の第一選択薬としては推奨されない.特殊な状況(代謝性アシドーシス,高カリウム血症,三環系抗うつ薬過量)による心停止に対して有益なことがある.投与時の初回投与量は,1mEq/kgである.

  3)ノルアドレナリン心停止に関するノルアドレナリンの研究は限られ

Page 18: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1378 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

ている.人を対象にした唯一の前向き比較対象研究で標準量のエピネフリンと高用量ノルアドレナリンの比較においてノルアドレナリンの有益性は示されず,神経学的予後は悪化する傾向が認められた61).心停止に対するノルアドレナリンの使用は現時点では推奨されない.

6 アウトカムへの寄与 生存退院に及ぼす因子について,Stiellが年齢と4つの救命の輪の影響を検討した研究がある62).この中で最も影響を与えたのは,早期通報(オッズ4.4),bystander

CPR(オッズ3.7),早期除細動(オッズ3.4)であり,2000年のガイドラインによるACLSはオッズ1.1に留まった.専門医による救命率向上やより良い身体状態での退院というアウトカムには市民参加が必須であることを示すものであると同時に,今後,ACLSがどのようにアウトカムに貢献したかのエビデンスの集積が必要である.

Ⅳ 症候からみた心血管救急

1 胸背部痛

① CCUに入院する急性心血管疾患のうち急性冠症候群(ACS)が約6割を占める.救急搬送された胸痛患者の1/3は緊急入院している.

② ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)のプライマリーPCIまでの“door-balloon time”90分以内を念頭におき,救急部門での治療方針決定は10分以内に行う.

③ 鑑別診断に正確な問診が重要である.痛みの部位,性状,時間,誘引と消失のほかに虚血性心疾患の既往や随伴症状に留意する.

④ 12誘導心電図,心臓生化学マーカー,心エコーCT等で診断するとともに初期治療を開始する.

1 循環器救急における胸背部痛の意義

 米国では毎年30万人が,日本では毎年6万人が心臓突然死すると報告され,その最大の原因が急性冠症候群(ACS)であり内科的救急疾患における胸痛患者の診療は極めて意味が大きい.東京都の62 CCU施設に緊急入

院する急性心血管疾患14,474例のうちACSは59.0%を占める.なお急性大動脈解離,急性心筋梗塞(AMI),急性肺塞栓は各々4.3%,1.4%であった.一方,東京消防庁による胸痛患者の救急搬送は8,051例のうち重症・重篤が29.9%,中等症が46.5%であった63).つまり胸痛を訴える救急搬送患者の約1/3は緊急で入院を要し,残る患者のさらに約2/3は中等症以上で循環器的専門診療や入院観察を要する.

2 胸背部痛の診療

①治療方針の早期確立

ACS/AMIの疑われる患者への救急部門での診療は,早期から専門医と協力して行うことが必要である.STEMIのプライマリーPCIまでの“door-balloon time”90分以内,線溶療法までの“door-needle time”30分以内を実現することを念頭におき,救急部門での治療方針決定は10分以内に行う64).

②鑑別診断

不安定狭心症(UA)の症状は短時間のことが多く,症状が消失してから来院する場合も多い.病歴のみで入院適応を判断する場合もあり,正確な問診が重要である(表2).ACSの特徴は,胸骨下の広い範囲に数分の鈍痛または圧迫感を生じることであるが,より強い痛みや焼灼感を自覚することがある.逆に痛みが30秒までと短時間であったり,性状が鋭い場合,触診で再現される場合,吸気や咳で増悪する場合は,その可能性は低い.痛みの部位は,心か部,頚部,背部等様々で,左肩,左頚部,下顎,歯肉に放散することや,時に放散痛のみのこともある.ニトログリセリン(NTG)がどれだけの時間で効果を発したかも重要なポイントである.また,患者が痛みを訴える際の手の動きにも注目する.心臓が原因の患者では前胸部正中にこぶしを握ったり,胸の中心に平手を置いたり,両手を胸の中心から外側に移動させることが多い.胸痛と背部痛を生じる疾患を表1,2に示す.虚血性心疾患の既往,年齢>60歳,冠危険因子の合併,末梢動脈硬化病変の合併ではACSを強く疑う.また,息切れ,冷や汗,悪心,めまい等が15分以上続く場合はAMI

の発症を強く疑う.意識障害,心不全や一過性の僧帽弁閉鎖不全症等を伴う場合も同様である.

③初期診断(図9)

来院後ただちに12誘導心電図を記録する.12誘導心

Page 19: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1379Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

電図はSTEMIの診断に感度は比較的低いが特異度は高い.心電図を3型に分類する65). ⑴ ST上昇>1mmが隣接2誘導以上,または新規左脚ブロックLBBBパターン(STEMI)→禁忌のない限り緊急PCIの適応と考える.

 ⑵ 虚血性ST低下(>0.5mm)・経時的T波陰転(UA/

NSTEMI)→原則はCCUにて管理し,ただちに抗血小板・抗凝固療法を開始し早期の冠動脈造影へと進む.

 ⑶ 正常または非診断的ST-T変化→低・中リスクと考えられ,24時間の観察を行い,心臓生化学マーカー等で診断を進める.

 ⑷ 救急診療担当医はACSの疑われる患者のすべてに心臓生化学マーカー(CK,CK-MB,ミオグロビン,トロポニン I,トロポニンT等)を測定すべきである.同時にDダイマーや炎症反応ただし治療方針決定と再灌流治療への進展は生化学マーカーの結果を待ってはならない.経時的な測定や多種マーカー測定が診断の感度を高めるが,初期4時間を過ぎて陽性化するため4~6時間の評価は心筋壊死を否定する感度をもたず,陰性の場合は時間をおき再測定を行う.さらに心エコー検査を行い壁運動異常(収

縮低下,遅延)のみならず,大動脈,右室壁の形態,弁膜症,心内圧等をみる.壁運動の評価の際には心尖部を見落とさない.急性大動脈解離や肺梗塞の疑いがある場合は,単純ならびに造影CTを行う.

④初期治療

診断を進めながら初期治療を開始する.胸痛患者には,心電図モニター,酸素吸入,静脈ライン確保,経皮酸素飽和度測定を行う.ACSと診断された場合は,アスピリン噛み砕き投与,クロピドグレルのローディング,ニトログリセリン舌下,ヘパリン静注等を行う(→Ⅵ.急性冠症候群へ)

2 呼吸困難

① 呼吸に際し努力と困難を自覚する不快感を表す症状の総称が「呼吸困難」であり,動脈血酸素濃度低下,動脈血pHの低下,肺うっ血,交感神経系亢進,気道閉塞,換気調節によってVE/VCO2

slopeが急峻化(呼吸中枢化学受容体のPCO2に対する感受性の亢進)した状態である.

表2 胸痛の鑑別胸痛持続 誘因 改善法 その他

冠動脈疾患労作性狭心症 数分~15分 労作,興奮 安静NTG 閾値が一定冠攣縮性狭心症 数分~15分 前夜飲酒,寒冷 NTG 夜間から早朝に多い急性冠症候群 数分~数時間 ECG 逸脱酵素 心エコー心筋疾患急性心筋炎 数時間 感染先行,薬剤 経時的 発熱 CPK MRIで遅延染影肥大型心筋症 不定 労作ストレス 不定 心音異常 心肥大急性心外膜炎 数時間以上 感染先行 鎮痛剤 吸気増強,マサツ音 ST上昇 心嚢液急性大動脈解離 数時間以上 高血圧合併 降圧 血圧左右差 縦隔拡大 炎症反応 CT像弁膜症大動脈弁狭窄症 数分 労作,努責 安静 心雑音 遅脈 心エコー僧帽弁逸脱症 不定 不定 経時的 心雑音 心エコー肺疾患胸膜炎 不定 呼吸,咳 鎮痛剤 胸膜マサツ音,胸部X線,炎症反応気胸 数時間以上 呼吸,咳 鎮痛剤 呼吸音や胸郭上昇の左右さ,胸部X線肺炎 数時間以上 呼吸,咳 鎮痛剤 発熱,炎症反応,胸部X線肺塞栓症 数時間以上 不定 経時的 頻脈,Dダイマー,酸素飽和度,心電図,心エコー消化器疾患食道炎・痙攣 数分~数時間 前屈,ストレス,臥位 飲水 制酸剤 ECG変化なしアニサキス症 数時間 鮮魚摂食 ときにNTG ときにT波変化,胃カメラその他肋間神経痛 不定 体動,圧迫 鎮痛剤 圧痛,帯状疱疹肋軟骨炎 不定 体動,圧迫 鎮痛剤 若年,胸肋関節圧痛心臓神経症 不定 不定 経時的 飲水やNTG無効

Page 20: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1380 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

② その発症様式,症状,検査から原因を鑑別する.

1 定義

 呼吸に際し努力と困難を自覚する不快感を表す症状の総称が「呼吸困難」である.「息切れ」「息苦しさ」「十分呼吸できない苦しさ」等と表現されることが多い.呼吸困難は,動脈血酸素濃度低下,動脈血pHの低下,肺うっ血,交感神経系亢進,気道閉塞,換気調節によってVE/VCO2 slopeが急峻化(呼吸中枢化学受容体のPCO2に対する感受性の亢進)して発症し,換気亢進,すなわち息切れに関連する.呼吸困難を生じる代表的な原因疾患の鑑別をあげる.

2 呼吸困難の鑑別のフローチャート(図10)

 急性の場合は,今まで正常であったものが急激に呼吸困難に陥るもので,発作性に発症し,喘鳴や連続性ラ音

を聴取するものでは,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患がある.突発性に起こる呼吸困難では,発語障害があれば気道内異物を考える.完全な気道閉塞の場合,話すことも咳き込むこともできなくなり,胸部,上腹部に動きがなく,患者の口と鼻で気流が感じられない.発語障害を伴わず肺呼吸音で左右差を認めた場合には気胸を疑う.緊張性気胸の場合には,血圧低下,チアノーゼ,患側の頚静脈怒張等を認める. 肺血栓塞栓症では,呼吸困難の発症と低酸素血症,頻脈,第Ⅱ音肺動脈成分亢進,肺高血圧が特徴的であるが,重篤な例ではショックや突然死に至る場合もあり,早期診断と初期治療が急務とされる. 急性心不全では,起座呼吸,喘鳴,泡沫痰を生じることがある.湿性ラ音を聴取し,胸部X線で肺うっ血を認める.典型的な急性心不全は,急性心筋梗塞,急性心筋炎,急性弁機能不全(急性僧帽弁逆流,急性大動脈弁逆流)等によるものであり,肺うっ血,心拍出量低下を来たし,重篤な場合には急性肺水腫,心原性ショックに陥る.

図9 胸背部痛診断のアルゴリズム

病院救急部門での一般的治療を開始・O2 投与開始,酸素飽和度 90%以上維持・硝酸薬舌下,スプレーまたは静注・硝酸薬が無効ならモルヒネを使用

病院救急部門での評価(10分以内)・バイタルサイン,酸素飽和度の評価 ・心筋障害マーカー・電解質・血算・生化学の測定・末梢静脈路を確保 ・院内プロトコールに基づき循環器医に連絡・12誘導心電図を記録し評価 ・ポータブル胸部 X線写真(30分以内)・ポイントを絞った病歴聴取と診察

循環器医による緊急 PCIPCI遅れは線溶療法考慮 適応に従い付加治療

ヘパリン・NTG・β遮断薬

循環器医による CCU・準じるモニタ可能病室管理 適応に従い付加治療

ヘパリン・NTG・β遮断薬

循環器医連携し胸痛観察プロトコール

6~24時間経過観察 心電図モニター・心筋障害マーカー

ST上昇または新規脚ブロック心筋障害を強く示唆 

STEMI

ST低下または T波の陰転心筋虚血を示唆 UA/NSTEMI

12誘導心電図

正常または判定困難なST-T変化  

中・低リスクの UA・他疾患

・線溶療法チェックリストにて適応と禁忌の判断

血液ガスD-dimer等付加検査

大動脈解離急性肺塞栓気胸,その他

胸部圧迫感・絞扼感・不快感虚血を示唆する症状

持続的背部痛背へ抜ける胸痛

判定困難な胸背部痛痛

救急部門にての緊急心エコー評価

造影CT

Page 21: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1381Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

 糖尿病性昏睡では,高血糖とアシドーシスを生じ,呼吸が促迫する. 慢性の呼吸不全の原因として,慢性心不全,慢性閉塞性肺疾患,肺線維症,貧血,胸郭変形等がある.チアノーゼを認めるときには,右左シャントを疑い心臓エコー検査を行う.

3 意識障害

① 脳(上行性網様体賦活系と視床下部調節系)の機能が障害されると,意識のレベルは消失または低下する.

② 循環器救急の立場からは,意識障害の機序を循環障害,脳障害性,それ以外に大別することが有用である.意識消失が一過性の場合はめまいや失神となる.

③ 意識障害の定量的診断は,Japan Coma ScaleやGlasgow Coma Scaleが用いられる.意識障害に加え,呼吸や心停止の有無を伴っていればただち

  にBLSを開始する.発症状況等の問診,理学所見と各種検査により診断する.

1 定義 脳(上行性網様体賦活系と視床下部調節系)の機能が障害されると,意識のレベルは消失または低下する.循環器救急における意識障害は,脳への血流量の低下ないし消失により生じ,重症不整脈による場合Adams-

Stokes発作として知られている.

2 鑑別 循環器救急の立場からは,意識障害の機序を表3に示すように,循環障害(心臓性),脳障害性,それ以外に大別することが有用である.循環器疾患による意識障害は,ショック等循環虚脱または重症不整脈の発症に伴い,急激に発症する場合が多く,胸痛や呼吸困難等の症状を伴うことが多い. 心室細動や心室頻拍,レートの早い上室性頻拍,10数秒を超える心静止では,Adams-StoKes発作を生じる.

図10 呼吸困難の鑑別

急性呼吸不全

いいえ

発症は?

発作性

突発性

乾性ラ音

発語障害

慢性呼吸不全

はい

気道内異物

呼吸音左右差,胸部X線 気胸

肺血栓塞栓

手足のしびれ呼吸性アルカローシス

過換気症候群

胸痛

脳血管障害

呼吸音左右差,胸部X線

意識障害,神経所見

気胸

起座呼吸 湿性ラ音,心拡大,静脈圧↑ うっ血性心不全

意識障害 高血糖,アシドーシス 糖尿病性昏睡

咳,痰 肺機能検査,胸部X線

チアノーゼ 心雑音,心エコー

めまい 血液検査 貧血

慢性気管支炎肺気腫肺線維症

左右短絡先天性心疾患

急性左心不全(心筋梗塞)

起座呼吸,肺うっ血胸部X線,心電図

気管支喘息慢性閉塞性肺疾患

血液ガス,胸部X線心電図,心エコー

呼吸困難は急性か

Page 22: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1382 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

頻脈では動悸が先行する場合もあるが,しばしば突然意識消失する.意識消失が一過性で,失神やめまいとして認められることもある.意識障害としては比較的軽度とみなされるが,予後の点から重要である(表4).脳障害では,意識が高度に低下しても血行動態は保たれていることが多い.麻痺等の神経症状がみられれば診断は容易となる.脳梗塞が疑われる場合,一刻も早い専門施設での処置が望まれる.気道閉塞や重症の換気障害でも意識は低下し消失する.重症の肺線維症等ではCO2の蓄積のためナルコーシスに陥る.その他に重症貧血,低血糖あるいは糖尿病性ケトアシドーシス,その他の代謝異常,薬剤やアルコールによる中毒でも意識障害を来たす.これらによる意識障害の発症時には血行動態は保たれていることが多い.

3 診断 意識障害の定量的診断には,Glasgow Coma Scale

(GCS)と日本の3-3-9度方式による Japan Coma Scale

(JCS)がある(表5,6).発見者,救急隊員あるいは家族等の同行者から,発症状況,病歴,飲酒,服薬状況等を確認し,胸痛や呼吸困難の有無も確認する.意識障害に加え,呼吸や心停止の有無を確認し,これらを伴っていればただちにBLSを開始する.その他バイタルサイン,心臓および肺の聴診所見,浮腫やチアノーゼ,末梢血管の状態等すばやく全身を評価する.次に心電図,胸部X線,血糖,電解質,血液ガスを含む血液検査,心エコー,CT等を行う.

表3 意識障害の鑑別A 循環障害(心臓/大血管由来) 不整脈:心室細動,心室頻拍,房室ブロック,洞不全症候群

急性冠症候群大血管疾患:急性大動脈解離,動脈瘤破裂心タンポナーデ急性肺塞栓高血圧性脳症神経血管反射性

B 脳障害 脳血管障害脳出血,脳梗塞,クモ膜下出血,硬膜下血腫,硬膜外血腫てんかん,炎症性脳炎,髄膜炎,脳腫瘍

C 肺換気障害 急性左心不全,気胸,重症喘息,肺気腫,肺線維症等,気道閉塞溺水

D その他 重症貧血,内分泌代謝障害血糖異常:低血糖/糖尿病性昏睡アルコール,薬剤中毒

表4 心肺由来の失神の原因A  解剖学的心臓 弁狭窄症,大動脈解離,粘液腫,心タンポナーデ

閉塞型肥大型心筋症,心筋梗塞,冠攣縮肺疾患 肺梗塞,肺高血圧B 不整脈徐脈 洞不全症候群,房室ブロック頻脈 上室性頻拍,心室頻拍,QT延長症候群,Brugada症

候群,カテコラミン誘発性多形性心室頻拍

表5 意識障害の分類 JCS (Japan coma scale)Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現)  (delirium, confusion, senselessness)

1.だいたい意識清明だが,今ひとつはっきりしない2.見当識障害がある3.自分の名前,生年月日が言えない

Ⅱ.刺激すると覚醒する状態ー刺激をやめると眠り込む  (2桁で表現)  (stupor, lethargy, hypersomnia, somnolence, drowsiness)

10.普通の呼びかけで容易に開眼する  合目的な運動(例えば右手を握れ,離せ)をするし,  言葉も出るが,間違いが多い20.大きな声または体をゆさぶることにより開眼する  簡単な命令に応ずる(例えば握手)30. 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する

Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現)  (deep coma, coma, semicoma)

100.痛み刺激に対し,払いのけるような動作をする200.痛み刺激で少し手足を動かしたり,顔をしかめる300.痛み刺激に反応しない

上記に加えてあばれているとき(restlessness)R尿,便失禁しているとき(incontinence)I自発性がないとき(akinetic mutisum, apallic state)Aなどをそれぞれつける.

Page 23: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1383Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

4 ショック

① ショックとは,生体の循環調節系が最大限に反応するにもかかわらず,臓器・組織の機能や構造を維持するために必要な酸素とエネルギー基質の供給が急激に破綻した急性循環不全の病態であり,放置すると死に至る臨床症候群である.

② ショックは,⑴血管抵抗低下性,⑵不整脈性(心拍数の異常),⑶左心不全性(左室ポンプ不全),⑷循環血液量減少性および⑸右室過負荷性(右室ポンプ不全)の5型に分類される(図11).

③ ショックのプライマリ・ケアは,⑴まず声かけをしながら外見を観察しショックの有無を評価する(所要時間;来院から1分以内).⑵ショックまたはショック前状態と推定したならば,患者に最も楽な姿勢を保持しながら高濃度酸素の投与を指示する(所要時間;来院から2分以内).⑶バイタルサインのチェックと爪床圧迫テストを実施(所要時間;来院から5分以内).ショック5型と循環虚脱の3病態(容量・ポンプ・心拍数)を判断のため,ベッド・サイドでの検査を進める(所要時間;来院から10分以内).⑷体位を管理しながら血圧の安定化をはかる(所要時間;来院から15分以内).引き続きショックの原因疾患に対する緊急治療専門治療を開始する.

1 定義 生体の循環調節系が最大限に反応するにもかかわらず,臓器・組織の機能や構造を維持するために必要な酸素とエネルギー基質の供給が急激に破綻した急性循環不全の病態であり,放置すると死に至る臨床症候群である.

2 分類 ショックは,5型に分類される(図11)66).血圧はショックに陥っているかの判断に必須である.この血圧は,全末梢血管抵抗(SVR)と心拍出量(CO)の積で構成されている.したがって血圧の低下(ショック)は,⑴血管抵抗が低下した血管原性ショックと心拍出量の減少に大別される.心拍出量は,左室一回拍出量(LVSV)と心拍数(HR)の積で構成されている.したがって,心拍出量の減少は,⑵心拍数の異常(重症不整脈)とLVSVの減少に2分される.左室一回拍出量の主要規定因子は,左室心筋収縮能と左室拡張末期容量(LVEDV)である.つまり,左室一回拍出量の減少は,⑶左室心筋収縮能が低下し左室拡張末期容量が増大した左心不全性と右室拍出量が低下し左室拡張末期容量が減少したショックに2分される.さらに左室拡張末期容量の減少は,⑷体循環系の有効循環血液量が減少した循環血液量減少性と⑸肺循環系または右心機能の破綻により惹起された右室過負荷性に2分される.前者の循環血液量減少性では中心静脈圧(CVP)が低下し,後者の右室過負荷性ではCVPは増加する.

表6 意識障害の分類 Glasgow Coma Scale (GCS)反応 成人 小児 乳児 点数

開眼 自発的 自発的 自発的 4呼びかけで 呼びかけで 呼びかけで 3痛み刺激で 痛み刺激で 痛み刺激で 2無反応 無反応 無反応 1

言語反応 見当識良好 見当識良好 適切喃語 5会話混乱 会話混乱 易刺激性,啼泣 4言語混乱 言語混乱 痛み刺激で啼泣 3意味不明の発音 意味不明の発語 痛み刺激でうなるもしくは発音 2無反応 無反応 無反応 1

運動反応 命令に従う 命令に従う 自発的運動 6疼痛部認識が可能 疼痛部認識が可能 触ると手足を引く 5

痛み刺激に対して 屈曲逃避 屈曲逃避 屈曲逃避 4異常な四肢屈曲反応 四肢屈曲反応あり 徐脳肢位(屈曲) 3四肢伸展反応 四肢伸展反応 徐脳肢位(伸展肢位) 2無反応 無反応 無反応 1

軽度の意識障害:GCS 13~15中等度の意識障害:GCS 9~12高度の意識障害:GCS 3~8

Page 24: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1384 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

3 ショックのプライマリ・ケア(図11)3),31),65)-67)

Step1まず声かけをしながら外見(努力様呼吸,顔面蒼白,虚脱,冷汗)を観察し,ショックの有無を評価する(所要時間;来院から1分以内).

Step2ショックまたはショック前状態と推測したならば,患者に最も楽な姿勢を保持してもらい,高濃度酸素の投与を指示する(所要時間;来院から2分以内).

Step3バイタル・サインと意識状態をチェック.同時に,爪床圧迫テスト(爪床が白色になる程度に圧迫し,その解除後爪床に赤みが戻るまで2秒以上かかる場合は末梢循環不全を意味し,心拍出量減少によるショックの診断に有用)を行う(所要時間;来院から5分以内).そして,ショック5型と循環虚脱の3病態(容量・ポンプ・心拍数)を判断し,循環管理を開始するため,

ベット・サイドでの検査を進める(所要時間;来院から10分以内).

Step4,5主要な循環虚脱の病態が,容量(Volume)が問題なのか,ポンプ(Pump)が問題なのか,心拍数(Rate)が問題なのかのを決定し,体位を管理しながら血圧の安定化をはかる(所要時間;来院から15分以内).容量の低下が問題の場合は,下肢を挙上し急速輸液や輸血を行い,原因に応じた救急処置を行う.徐脈性の不整脈ではアトロピンやペーシングを,頻拍性の不整脈では電気ショック(QRS波同期型除細動)を行う.ポンプが問題の場合は,収縮期血圧が70mmHg未満ではノルアドレナリンを,収縮期血圧が70~100mmHgかつ低心拍出の症状や所見があればドパミンを,収縮期血圧が70~100mmHgで低心拍出の症状や所見がなければ,ドブタミンを第一選択とする.輸液や輸血および薬剤により十分な血圧が得られないときには大動脈内バルンポンプ(IABP)や経皮的人工心肺補助装置(PCPS)を使用する.引き続き,ショ

図11 ショックのプライマリケア

・声かけと外観観察・5Pと爪床圧迫テスト

Step 1 ショックの推定

Step 2体位と酸素投与

Step 3診断と緊急処置

・患者の最も楽な姿勢を保持・高濃度O2の投与

・バイタルサインと意識状態・静脈路の確保,パルスオキシメーター・身体所見,問診,ベッドサイド検査

Step 4主要問題点

・容量の問題 volume

Step 5循環管理

・急速輸液(1~2L)・輸血・原因に応じた救急処置

<70mmHgノルアドレナリン(0.5~30μg/分)

70-100mmHg低心拍出の症状・所見ありドパミン(2~20μg/分)

70-100mmHg低心拍出の症状・所見ありドブタミン(2~20μg/分)

・ポンプの問題 pump

・心拍数の問題 rate

・血管抵抗低下性・循環血液量減少性・右心負荷性

・左心不全性 ・重症不整脈性

爪床圧迫テスト爪床の圧迫後解除白色から赤みが戻るまで>2秒

5PPulmonary deficiency 努力様呼吸Pallor 顔面蒼白Prostration 虚脱Perspiration 冷汗Pulselessness 脈拍触知不良

・陽性:心拍出量低下性・陰性:血管抵抗低下性

IABPPCPS 急性冠症候群では再灌流療法

収縮期血圧は?

・徐脈性:アトロピン,ペーシング・頻拍製:電気ショック(除細動)

ショックの 5型

Page 25: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1385Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

ックの原因疾患に対する緊急治療(急性冠症候群が原因の場合には早期に冠再灌流療法)を行う(図11).

5 動悸

 不整脈による動悸,心血管系に不整脈以外の異変が生じたための動悸,全身の生体に異変が生じたことによる反応性の動悸,不安神経症やパニック発作による心因性の動悸を鑑別する.

1 動悸の鑑別

 動悸の訴えは極めて多彩であるが,動悸を訴えて救急外来に来院する患者を目の前にして最初に鑑別すべきは,以下のようなものである(図12).⑴ 不整脈による動悸⑵ 心血管系に不整脈以外の異変が生じたための動悸⑶ 全身の生体に異変が生じたことによる反応性の動悸⑷ 不安神経症やパニック発作による心因性の動悸 不整脈による動悸の場合には,特に瞬時に心停止を来たす可能性に留意しなければならない.特にめまいや失神を伴う場合には,生命の危機が切迫しているとの認識が必要である.来院時に動悸が持続していれば,それがどのような不整脈によるものかの鑑別は容易である.し

かし既に停止している場合には,病歴が参考となる. 心拍数が正常,あるいは軽度増加し,不整がなければ⑵~⑷を疑うが,不整があったり,規則正しくても突発性の頻脈や徐脈の場合には⑴と推定される(図12).これらが混合している場合もあり,注意が必要である. 不整脈以外で心血管系の異変による動悸で,特に救急外来を訪れるような急性発症の病態としては,僧帽弁の腱索断裂による急性僧帽弁逆流,バルサルバ動脈瘤破裂による左右シャント,あるいはⅠ型急性大動脈解離に伴う大動脈弁逆流等がある.また心臓に直接起因するものではないが,急性肺性心として発症する肺塞栓も,動悸の原因として忘れてならない.いずれも身体所見から診断を進め,酸素飽和度,心電図波形,BNP,Dダイマー等に加え,心エコー検査によって確定できることが多い.また生体の異変の中には発熱,貧血,低血糖,甲状腺機能亢進症,褐色細胞腫等のほか,アルコール,覚醒剤,β刺激薬(あるいはβ遮断薬の中止),キサンチン製剤,抗コリン薬等外因性の原因もある.これらの可能性の確認には詳細な病歴の聴取が欠かせない. 動悸の鑑別において重要な検査は,心電図であり,動悸を訴えて救急外来を受診した患者には,その動悸が続いているときはもちろん,消失した後でも,全例,心電図をとる必要がある.血液では貧血の有無,低血糖の有無,甲状腺機能の評価,カテコラミン分画,薬剤濃度等

脈の結滞規則正しい突発性頻脈規則正しい突発性徐脈絶対性不整脈

強い鼓動整脈でやや速い

不整脈

動悸の自他覚所見

心血管系

全身性

心因性

・急性弁閉鎖不全(僧帽弁腱索断裂や感染性心内膜炎等)・急性大動脈解離・バルサルバ動脈瘤破裂・急性肺塞栓等

・発熱・感染・低酸素血症・貧血・低血糖・甲状腺機能亢進症・褐色細胞種・アルコール・薬剤 β刺激薬,キサンチン製剤

抗コリン薬,覚醒剤等

・不安,緊張,驚愕,疼痛等

・期外収縮・発作性頻拍・心房細動・粗動

心電図

心電図心エコー

BNPDダイマー酸素飽和度

胸部 X線酸素飽和度

CRPヘモグロビン血糖

甲状腺機能カテコラミン薬剤濃度

図12 動悸の診断プロセス

Page 26: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1386 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

の分析が有用である.また心エコーにより,器質的心疾患の有無,特に急性の弁逆流や,右心負荷所見等を評価することも重要である.

Ⅴ 不整脈

1 頻 脈

① 頻脈の定義は心拍数>100/分である.② 発作性頻脈で,症状と徴候が不安定であれば同期下電気ショックを行う.

③ 血圧低下や狭心症等を伴わない安定した頻拍では,QRS幅とリズムから鑑別を行う.

④ 単形性心室頻拍で心機能低下例では電気ショック,アミオダロン,ニフェカラント,リドカインを使用する.心機能正常では上記に加えてプロカインアミドを使用する.またベラパミルやATP

が有効な場合もある.⑤ 多形性心室頻拍が持続する場合は心室細動に準じる.

⑥ 反復する多形性心室頻拍でQT延長があれば,硫酸マグネシウム,QT延長の誘因の除去,徐脈を伴っていれば心室ペーシングを行う.QT延長のない場合はアミオダロン,ニフェカラントを使用する.

⑦ 発作性上室性頻拍には迷走神経緊張を試み,無効ではATP急速静注を行う.なお,持続する例ではカルシウム拮抗薬を使用する.

⑧ 基礎疾患のある心房細動は,薬剤による洞調律への復帰よりも同期下電気ショックや心拍数の調整を優先する.

⑨ 心機能良好(LVEF>40%)な心房細動の徐拍化にはβ遮断薬やCaチャネル遮断薬を優先し,不十分な際にジギタリスを併用する.心不全を合併している例や心機能の低下した例にはジゴキシンの静注が推奨される.

⑩ 持続が48時間以上の心房細動には3週間以上の抗凝血薬療法を行うか,経食道エコーで左房内血栓が否定されてから除細動を行う.器質的心疾患がなく,心機能にも問題がない場合には解離速度の遅いNaチャネル遮断薬が勧められる.

⑪ WPW症候群の心房細動では,Caチャネル遮断薬やジゴキシンは禁忌であり,電気ショック,あるいは上述した薬剤かプロカインアミドの静注を試みる.

⑫ 血行動態の不安定な心房粗動では電気ショックを行う.血行動態が安定していれば,心房細動に準じた抗不整脈薬による心室レートのコントロールまたは粗動の停止を試みる.

1 頻脈の救急

 脈拍を触れない頻脈はACLSの項で扱う.頻脈の定義は,心拍数>100/分である.心拍数が早いほど血行動態は不安定になり,動悸,めまい,失神,呼吸困難,胸痛を報じる.血圧が低下すると四肢冷感および冷汗,意識低下を来たし,進行性の呼吸困難あるは急性左心不全症状が出現することもある.このような症候が不整脈による場合は,時に心停止に至ることもあり,不安定な頻脈とみなして迅速な同期下電気ショックを考慮する(図13)67)-74). 安定した頻脈の場合,静脈路を確保し心電図をとる.QRS幅が0.12秒以上の幅が広い場合は心室頻拍(VT)がほとんどである.リズムが不整の場合には,変行伝導やデルタ波を伴う心房細動や多形性VTを疑う.リズムが整ではほとんどがVTだが,変行伝導を伴う上室性頻拍の可能性もある.QRS幅が0.12秒未満を狭い場合,脈拍が整では心房粗動(AF)や発作性上室性頻拍を,絶対不整の場合は心房細動を疑う. 心筋梗塞や心筋炎等,他の心疾患が原因と考えられる場合は,それぞれの疾患に対応した処置に移行する.電解質異常の有無や,薬剤の催不整脈作用の可能性も常に念頭において,食事や服薬状況,下痢等の有無等も問診で確認する.

2 心室性頻脈 VTや多形性VTは心室細動(VF)に移行する可能性があり40),75).またレートの速いVT,多形性VTおよびVFは無脈性頻脈を呈する.

①安定持続性VT(図14)

 VTはヒス束分岐部以下を起源とする.レート100/分以上で,30秒以上持続するかそれ以内でも血行動態が破綻するものを持続性VTと呼ぶ.頻拍のQRS波形は単形性で,機序はリエントリーが多い76).基礎疾患は陳旧性心筋梗塞,心筋症,催不整脈右室心筋症,

Page 27: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1387Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

頻脈心拍数>100/分

症候は不安定か?   症状:   徴候:

症状や徴候が不整脈によるか?意識状態の悪化,失神,呼吸困難,持続する胸痛等血圧低下やショックの所見(冷や汗,四肢冷感,尿量減少,意識低下等)心拍数>150/分

はい

安定頻拍として治療   静脈路確保   心電図

迅速な同期下電気ショック心房細動 : 100,200,300,360J心房粗動,上室性頻拍 : 50,100,200,300,360J単形性 VT: 100,200,300,360J多形性 VT: VFに準じた最大用量

いいえ

QRS幅<0.12秒

狭い

広い(QRS≧0.12秒)

リズムは規則的?

規則的 心房細動へ

不規則的

QRS幅の広い頻拍:心リズムは規則的か?

規則的 不規則的

持続性心室頻拍へ

変行伝導を伴う上室性頻拍

変行伝導を伴う心房細動へ

デルタ波のある心房細動へ

多形性心室頻拍およびTorsade des pointesへ発作性上室性頻拍へ

迷走神経刺激を試みるATP10mg急速静注,無効なら 20mg

図13 頻脈の診断と処置

図14 持続性単形性心室頻拍の停止法

静注プロカインアミド 20 mg/分で静注 総量は 17mg/kg QRS幅の延長は 50%以内アミオダロン 125 mgを 10分かけて静注ニフェカラント 0.15mg/kgを 5分かけて単回静注リドカイン 0.5~0.75mh/kg 最大 1.0~1.5mg/kgまでa) ベラパミル* 2.5~5mg/2~3分で静注 総量は 20mgまでb) ATP* 10mgボーラス,無効なら 20mg

*保険適用外 a) RBBB+LAD型の特発性心室頻拍 b) LBBB+RAD型の特発性心室頻拍

電気ショック ―静注―アミオダロンニフェカラントリドカイン

―静注―

アミオダロンニフェカラントリドカイン

心機能低下(LVEF<40%)

不安定な心室頻拍 安定な心室頻拍

DCショック

停止

再発

DCショック

心機能正常

症状と徴候

心室ペーシング

Page 28: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1388 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

心臓手術後(ファロー四徴症,大血管転移),原因不明のもの等多彩である76).抗不整脈薬の催不整脈作用による例もある.基礎疾患を認めないベラパミル感受性の特発性VTも時に遭遇する.QRS波形は右脚ブロック+左軸偏位型を示す77),78).右室流出路起源の特発性VTは左脚ブロック+下方軸型を示し,運動,不安,カテコラミンで誘発され,多くは非持続性である.アデノシンに感受性である例が多く,機序は異常自動能と考えられている79).左室起源のアデノシンに感受性心室頻拍も知られている80),81).⑴ 診断:心電図で幅広いQRS(>120ms)頻拍を示す.PとQRSの解離,心房からの興奮伝導時にQRSに融合波が確認できれば診断は確かになる.

⑵ 処置:血行動態が安定しているかが治療のポイントとなる.安定心室頻拍では脈が触れることができ,意識が保たれていれば停止には抗不整脈薬を用いる. プロカインアミド,アミオダロンを静注する70),82)-85).アミオダロンが使えない場合や心筋梗塞急性期の心室頻拍では,リドカインも選択される.我が国では,難治例にニフェカラントも適応となる86).左室起源の発性心室頻拍と判明すればベラパミルが奏功する70),77).特発性と診断できない場合はベラパミルは禁忌である.右室流出路起源の心室頻拍ではATP,β遮断薬,Ca拮抗薬,Naチャネル遮断薬の順に試みる79),80).リエントリー機序の頻拍で繰り返す例では心室ペーシングによる停止も有効である.時に,緊急カテーテルアブレーションの適応となる例がある. 抗不整脈薬による停止を試みる時に不安定化することがあり,その場合は不安定VTとして電気ショックを用いる(図14).

②不安定VT

 単形性VTでもレートが速いと脈が触れにくくなり,不安定となるため速やかに電気ショックを要する67)-69).抗不整脈薬投与により不安定になることがある.通電後も頻拍が繰り返す場合は,抗不整脈薬を併用する82)-84).緊急カテーテルアブレーションの適応となる例がある.⑴ 診断:安定持続性VTと同様,心電図で幅広い

QRS頻拍を認める.頻拍レートは早く,血圧は低下する.⑵ 処置:血圧や意識の低下例では,速やかに電気ショックを与える.2相性除細動器では100~120J,単相性では200Jで

静注麻酔下にQRSに同期して通電する.無効な場合は360Jまで出力を漸増して繰り返す.電気的ショック後も繰り返す場合は,VFに準じてアミオダロンやニフェカラントの静注後に再度の電気的ショックを繰り返す.

③多形性VT(図15)

 心電図の基線を中心にQRSが捻転するように変化する特徴的なVTをTorsade des pointes(Tdp)と呼び,QT延長に伴うことが多い87).頻拍中は無脈性となるが,しばしば自然停止と発症を繰り返す.停止しなければVFに移行する.QT延長を伴わない多形性VTはVFに先行してみられるものが多く,処置はVFに準じる.⑴ 診断:心電図で頻拍のQRS波形は1拍ごとに変化する特徴的な波形を示す.洞調律に戻った時にはQT延長がしばしば認められる.

⑵ 処置:TdPの停止と出現を繰り返す場合は,硫酸マグネシウム静注やイソプロテレノール持続静注または経皮ペーシング(TCP)や経静脈ペーシングで抑制する.また,薬剤,徐脈,電解質異常等の原因があればそれを除去する.持続が長いかVFに移行すれば電気ショックを用いる.

④Electrical Storm(頻拍の頻発化)

 単形性VTやVFを停止させても繰り返す例がある.一日に3回以上頻発するものをElectrical Stormと呼ぶ.ICD植込み例の10~20%にみられる.虚血,心不全の悪化,薬剤の催不整脈作用,電解質異常等要因があれば除去に努める.電気ショックを繰り返し要する場合,全身麻酔管理や52),β遮断薬,アミオダロン,ニフェカラント等の持続静注が有効である.単形性VTでは,緊急のカテーテルアブレーションが成功する例がある88).

3 発作性上室頻拍 突然発症し機序はエントリーである.房室結節性リエントリー頻拍,ケント束を介する房室回帰頻拍,洞結節内リエントリーおよび心房内リエントリーからなるが,前2者が90%以上を占める89),90).⑴ 診断:心電図で頻拍は,正常QRSからなる規則正しい150~250/分の範囲のレートを示す.変行伝導や脚ブロックがあるとQRSは幅広くなる(図13).PとQRSの関係から上室頻拍間の鑑別が可能なことがある90).レートが速いほど血圧は低下し,持続すれば心不全を来たす.

Page 29: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1389Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

⑵ 処置:停止には,迷走神経刺激91),薬剤,電気ショックがある(図16).まず,Valsalva手技を試み(表7),2~3回試みても上室頻拍が続く場合,頚動脈マッサージを試みる(表7).両者を組み合わせて試みる場合もある.停止時に徐脈(洞停止,洞静止,房室ブロック)の合併があるので,心電図は常にモニターする.頚動脈マッサージは,頚動脈に雑音のある例や頸部手術後は試みない.迷走神経刺激が無効例では,ATP剤を静注する92). 迷走神経刺激やATP剤が無効例では,ベラパミルまたはジルチアゼムを静注する70).心室レートは速く血圧の低下やショックを来たし意識レベルも低下した例では,電気ショックを要するがこのような例は少ない.心房からの頻回電気刺激やプログラム刺激でも停止可能である.また,アデノシン感受性の心房頻拍がある.機序は不明であるが房室結節周囲のマイクロリエントリーが想定されている.処置は少量のATP(3.9±1.2Mg)で停止する93),94).

4 心房細動(図17)

①症候の不安定性と基礎疾患の有無

 症候が不安定な心房細動では同期下電気ショックを行う95).肥大心,不全心,虚血心といった背景が存在する場合には,心房細動により病態が悪化するため,

緊急に停止を試みるには電気ショックが用いられる(図17).また,その再発防止は困難であるのみならず,これら基礎疾患の存在下には抗不整脈薬による危険な心室性催不整脈作用や,陰性変力作用を示しやすい点も問題となるために,心拍数の調整を優先する.

②心拍数の調整

 急性期には心拍数を90~100/分以下にすることを目標とする.急速に徐拍化を図る際には静注薬が使用

図15 多形性心室頻拍

停止不能の場合ニフェカラント静注,アミオダロン静注,リドカイン静注

DCショック 1回施行し停止しない場合は,ACLS開始,エピネフリン,バゾプレシン静注

反復する場合

あり

あり

なし

あり

なし

持続している場合

なし

多形性心室頻拍

後天性QT延長群 先天性QT延長群

*保険適応外

虚血の治療

虚血の関与

QT延長DCショック

DCショック

DCショック

原因治療

心室ペーシング

β遮断薬静注例:プロプラノロール 0.1mg/kgを 3等分して 2 ~ 3分間隔で

アミオダロン 125mgを 10分で静注 ニフェカラント 0.15mg/kgを 5分で静注

硫酸Mg静注 1~2gを 10mLの 5%ブドウ糖液で希釈,ゆっくり(5~20分)静注*

QT延長の原因

表7 迷走神経刺激による上室性頻拍の停止いずれの手技においても①静脈ラインを確保②救急カートの準備,経皮ペーシングがあれば確保③心電図モニターを装着④徐脈の発生時は咳をすることを指示⑤1分後に血圧と脈拍をチェックする

1 Valsalva手技①患者は立位または半座位②深く息を吸って止め,声門を閉じ,力むように指示③気道内圧を高めたまま,15~30秒持続させる

2 頚動脈洞マッサージ①高齢者には行わない.血管雑音のないことを確認②患者は座位.頭部を左にむかせる③右下顎骨角の下で乳頭筋の前の頚動脈を確認④2本の指を押し付けながらゆっくり5~10秒間上下させる⑤マッサージは頚椎に向けて後方中央方向に加圧する⑥5~10秒休んで2~3回試みる⑦1回毎に心電図と血圧を確認する⑧無効の場合には,左側で試みる

Page 30: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1390 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

図16 発作性上室頻拍の停止

ー静注ーベラパミル 2.5~5.0mgを 2分かけて静注*

無効例では 5mgを 15~30分ごとに総量 20mg.ジルチアゼム 15~20mgを 2~3分かけて静注*

無効例では 20~25mgを 3分かけて追加.

Naチャネル遮断薬を考慮

DCショック高頻度ペーシング

ー急速静注ーATP10mg

無効の場合には20mgを 2回まで

DCショック 50~100Jから漸増高頻度ペーシング

a)Valsalva手技,頚動脈洞マッサージ*保険適用外

ありなし

持続a)迷走神経刺激*

持続

持続

持続

停止後は慢性期治療

症状と徴候の不安定

図17 心房細動治療の進め方

ピルジカイニド 1mg/kgまで 10分かけてシベンゾリン 1.4mg/kg 2~5分かけてジソピラミド 50~100mgを 5分以上でフレカイニド 1~2mg/kgを 10分かけて電気ショック

ヘパリン静注準緊急電気ショック抗凝固療法継続 4週間

抗凝固療法>3週間待機的電気ショックさらに抗凝固療法 4週間継続

経食道エコー左房血栓は?

ピルジカイニドシベンゾリンジソピラミドフレカイニドプロカインアミド

ジゴキシン0.25mg静注2時間毎総量 1mgまで

Ca拮抗薬:ベラパミル 5 ~10mg/2分又はジルチアゼム0.25mg/kg/2分 Β遮断薬:プロプラノロール総量 0.15mg/kgを 2mgずつ

心機能はEF<40%

心電図デルタ波?

持続時間48時間以下

症候は安定しているか?不安定

安定

洞調律への復帰 心拍数の調整

48時間以上48時間以下

なし あり

なしあり

正常低心機能

肥大心,心不全,虚血あり

ジゴキシン少量β遮断薬

心房細動同期下電気ショック100,200,300,360J

Page 31: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1391Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

されるが,β遮断薬やCa拮抗薬には弱心作用があるため,血行動態が悪化した状況では注意が必要である.またベラパミルの静注は血圧低下に伴う反射性に交感神経賦活のために,一時的に奇異性頻脈を招くこともある. 心機能良好(LVEF>40%)な例の徐拍化には,ジギタリスよりもβ遮断薬やCaチャネル遮断薬の投与を優先し,それだけでは不十分な際にジギタリスを併用する(図17).β遮断薬は日本ではプロプラノロールの使用が多い.Caチャネル遮断薬では,ベラパミルやジルチアゼムを使用するが,いずれも2分以上かけて使用する.心不全を合併している例や心機能の低下した例にはジゴキシンの静注が推奨される.

③心房細動の停止

 心房細動の停止を試みる際にまず考慮しなければいけないことは,その心房細動の持続時間である.持続が48時間以内の心房細動が停止しても,血栓塞栓症の危険は0.8%に過ぎないが,それを超えた心房細動の場合には5~7%と,はるかに高い危険を伴うことになる.特に虚血性脳血管障害の既往,糖尿病,高血圧,高齢,心不全を伴う例ではそのリスクがさらに高まる.48時間以上持続している場合には原則として3週間以上の抗凝血薬療法が必須であり,さもなければ経食道心エコーによって左房内血栓が否定されてから除細動を行うことが推奨される. 器質的心疾患がなく,心機能にも問題がないと判断されたらNaチャネル遮断薬,なかでもチャネルからの解離速度の遅い強力なピルジカイニド,シベンゾリン,ジソピラミド,フレカイニド等が勧められる.

④WPW症候群に伴う心房細動

 WPW症候群では,房室結節の不応期よりも短いケント束の不応期が心拍数を規定する.Caチャネル遮断薬やジゴキシンはかえって頻脈化を促進することがあり,禁忌である.β遮断薬は禁忌とは言えないが,同様のリスクがあるため注意が必要とされる.まれにR on Tから心室細動を誘発する危険が知られている.したがってこのような病態においてはレートコントロールよりも心房細動の停止を目指して電気ショック,あるいは上述した薬剤,あるいはプロカインアミドの静注を試みる.

5 心房粗動 通常型心房粗動は三尖弁輪を下方からみて反時計方向

に右房を回転するリエントリーである96),97).三尖弁輪を時計方向に回転することもあり,下壁誘導のF波は陽性となる.心房自由壁,右房の一部,心臓手術後で心房切開部位を旋回する頻拍もある98),99). 心房レートがおよそ240~440/分の規則正しい頻拍である.房室伝導が良いと心室レートは早くなり血圧は低下し,持続例すると心不全を来たす.通常型心房粗動はⅡ,Ⅲ,aVFで特徴的な陰性の鋸歯状のフレ(F波)を認める.それ以外の波形を認める場合非通常型心房粗動として扱う.心房頻拍との鑑別はしばしば困難である.血行動態の不安定例では電気ショックにより,洞調律化を図る.血行動態が安定していれば,抗不整脈薬による心室レートのコントロールまたは粗動の停止を試みる100).これらは心房細動に準じる.心房ペーシングも停止に試みられる.

2 徐脈

① 徐脈の定義は心拍数60/分未満② 徐脈によってめまいや失神,呼吸困難等の症状血

行動態の悪化を伴う場合は不安定と判断する.③ 進行性徐脈性不整脈や,徐脈が心室頻拍・心室細

動の誘因となる場合も治療が必要.④ 不可逆性の原因・誘因があればそれを除去する.⑤ 不安定な徐脈や高度房室ブロックではペーシング

を準備する.⑥ ペーシングの準備中に,アトロピン,アドレナリ

ン,ドパミン,イソプロテレノールを使用する.

1 定義と治療の適応

 心拍数60/分未満を一般に徐脈と称する.徐脈は洞結節の自動能の低下,洞房ブロック,房室ブロック等によって生じるが,徐脈そのものが病的とは限らない.健常者でも睡眠中等には50/分以下,ときには40/分近い洞性徐脈を示したり,Wenckebach型Ⅱ度房室ブロックを来たすことは珍しくない.治療が必要となるのは,以下の場合である.⑴ 徐脈によってめまいや失神,呼吸困難等の症状が出現する場合(図18)⑵ 徐脈によって血行動態の顕著な悪化を伴う場合 このような自覚症状,他覚所見があれば,不整脈の種類を問わず,不安定な徐脈と判断され,速やかな治療が求められる.  一方,安定しているようにみえても,急変に備え

Page 32: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1392 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

て薬剤や一時式ペースメーカ等の準備や予防的治療が必要となることがある.⑶ 心電図に重篤な進行性徐脈性不整脈の兆候が認められる場合  無症状でもQRSの脱落が連続して2拍以上起きる場合や,急性前壁心筋梗塞にMobitz 2型Ⅱ度房室ブロックを認めたとき等である.後者では通常右脚ブロックに加えて軸偏位(2枝ブロック)が先行したり,交代性脚ブロックあるいは束枝ブロックが出現することがあり,その時点から注意が必要である.このほかサルコイドーシス活動期や大動脈弁無冠尖に感染性心内膜炎が進行してⅠ度からⅡ度の房室ブロックを合併する場合も要注意である.⑷ 徐脈が致死的心室性頻脈性不整脈の誘因となっている場合  典型的には先天性あるいは薬剤性QT延長症候群で徐脈が torsade des pointesの誘因となっている状況であり,徐脈の改善がその防止に有効なことが多い.

2 不安定な徐脈への緊急対応症状や血行動態が不安定な場合には,不整脈の種類

を問わず緊急対応が必要となる.アプローチとして薬剤を静注する方法と経胸壁ペーシングとがあるが,より速やかに準備ができる方法を優先する.これらはいずれも緊急避難的治療であるため,安定した治療を継続するためには経静脈ペーシングが行うが,その準備に時間を要するため,下記の方法による初期治療下に試みる.

①経皮ペーシング

クラスⅠ アトロピンに反応しない不安定な徐脈クラスⅡa

1. 薬物治療に反応しない補充収縮を伴った徐脈2. 薬物過量投与,アシドーシス,電解質異常が

原因で起こった重症徐脈やPEAを示している心肺停止患者

3. 心筋梗塞によって生じる以下の不整脈に対するスタンバイペーシング症状のある洞機能不全MobitzⅡ型2度房室ブロックⅢ度房室ブロック新しい左脚ブロック,右脚ブロック交代性ブロック,2枝ブロック

クラスⅡb

1. 薬剤治療や電気ショックに難治性頻脈性不整脈に対するオーバードライブペーシング

2. 徐脈性心静止

機器がそばにあれば,この非観血的体表ペーシングが最も早く実行可能である.しかし常に有効であるとは限らず,さらに②以下の手段についても即座に準備すべきである.アトロピンを先に用意できるときにはそれを優先し,アトロピンに反応しないとき,あるいはほかの薬剤にも反応しないときに考慮される.一般手術時等で,徐脈の進行に備えてスタンバイとして準備

1. 経皮ペーシングの準備2. アトロピン 0.5mg静注,総投与量は 3mg 無効の場合ペーシング3. アドレナリン 2~10μ/分またはドパミン 2~10μ/kg/分4. イソプロテレノール(1A=0.2mg)0.01~0.03μg/kg/分 2A/ 100mLを 6 mL/ hrから開始し,最高 30mL/ hr5. 経静脈ペーシングを準備

可逆性の原因・誘因・副交感神経緊張・高カリウム血症・低酸素血症・甲状腺機能低下症・脳圧亢進・低体温・薬剤性

症状:めまい /失神所見:心不全 /ショック

高度房室ブロック

なし あり

可逆性の原因・誘因(薬剤等)があれば除去

なし

あり

観察,モニター

心拍数<60/分

図18 徐脈のアルゴリズム

Page 33: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1393Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

しておくこともある.具体的な手技は表8に示す.なお,経胸壁ペーシング中のモニター心電図波形ではペーシングアーチファクトの波形が大きいため,自己心拍の波形を見失うことがあり,注意が必要である.

②アトロピン

薬剤の第一選択として用いられるが,特に迷走神経の過緊張による徐脈の治療に有効である.下壁梗塞に伴う房室ブロックにも有効である(図18).1A=0.5mg

の静注を改善するまで繰り返す.半減期はおよそ4時間とされる.狭隅角緑内障や尿閉に注意する.房室ブロックの責任病変がヒス束以下にある場合にはアトロピンの使用によって房室伝導比率がさらに悪化することがあり,Mobitz 2型Ⅱ度房室ブロックの存在が明らかな場合には本剤を使わずに以下の薬剤を選択すべきである.

③アドレナリンあるいはドパミン

あらゆるタイプの徐脈性不整脈に有効である.例外として1型QT延長症候群では torsade des pointesを誘発する危険性があり,またA型急性大動脈解離が下壁梗塞を合併して房室ブロックを起こしている状況では,大動脈破裂を来たす危険があるため使用すべきでない.

④イソプロテレノール

明らかな虚血や,上述したアドレナリンやドパミンの禁忌がなければ,代わりに本剤を使用することができる.心拍数が50以上になるように量を増減する.

⑤経静脈ペーシング

原則としてほかの方法による治療に併行して,より確実な方法として,あるいは治療の長期化に備えて行う.

3 その他の一般的注意 徐脈性不整脈がある特定の原因によって起こっていることが疑われる場合には,その原病の治療も忘れてならない.高K血症,低酸素血症等があれば補整する.ジギタリス,β遮断薬,カルシウム拮抗薬(特にジルチアゼム),あるいはモルヒネ等の投与中では薬剤の影響で徐脈が増強されることがある.右冠状動脈の攣縮の場合には冠状動脈の攣縮をとることが不整脈の治療となる.急性前壁梗塞にMobitz2型Ⅱ度房室ブロックが生じたときには緊急ペーシングを行うと同時に虚血の改善に努める.その他,洞性徐脈では甲状線機能低下症,脳圧亢進,低体温等の影響も考慮する.ペースメーカの植込まれた患者にめまいや失神が出現したときにはペーシング不全をまず疑う.

Ⅵ 急性冠症候群

1 急性冠症候群の診療と不安定狭心症・非ST上昇型心筋梗塞の治療

① 不安定狭心症(UA)と非ST上昇型心筋梗塞(非ST上昇MI; NSTEMI)診療方針が同様のために一括して,UA/NSTEMIに括られる.

② 胸痛患者は12誘導心電図によるST偏位とT波の変化により診療指針が区別される.

③ UA/NSTEMIにおいて臨床背景や心電図変化,生化学マーカー等からリスクの層別化を行う.

④ 胸痛患者において様々な非侵襲的検査を行う.心エコーの役割は大きい.また,冠動脈CTのエビデンスの蓄積が必要である.

⑤ リスクの層別化とともに入院・転院の適応を判断する.

⑥ 薬物治療抵抗性,症状再燃例,短期リスクの高い不安定狭心症患者では冠動脈造影を行う.

⑦ 安静と心電図モニター,酸素吸入,胸痛への塩酸モルヒネの使用,抗血小板薬の投与法,抗凝固薬の使用,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,スタチンの投与等を行う.必要な場合は大動脈内

  バルーンポンプも選択する.

表8 経皮ペーシングの手技

①2枚のパッチ電極を心臓を挟むように左前胸部と背部に装着する

②ペーシングモードをONにする③心拍数80/分に設定する④心静止の場合には最大出力から漸減させ,徐脈の場合には10mAより出力を漸増してQRSが捕捉される閾値を測定する

⑤ペーシング出力を捕捉閾値より10%高いレベルに設定する

⑥ペーシング捕捉中の脈拍,血圧をチェックする⑦意識があれば鎮痛のためにモルヒネ,ペンタゾシン等を投与する

⑧心拍数を調整し,自己心拍があればスタンバイモードにする

Page 34: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1394 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

⑧ 患者背景,薬剤抵抗性,生化学検査所見,冠動脈造影所見,血行動態等から,PCIやCABGを選択する.

1 急性冠症候群における不安定狭心症・非ST上昇心筋梗塞 64)

 ACSは冠動脈粥腫破綻と局所的血栓形成による急速な冠動脈閉塞が本態であり,完全閉塞によるAMI,亜閉塞に伴うUA,急激な心筋虚血による不整脈等による突然死が一連のスペクトラムである.AMI・UAは,診療方針の差違からSTEMIとNSTEMIに分類され,高リスクのUAは診療方針がNSTEMIと同一であるためUA/

NSTEMIと一括される.このガイドラインは緊急時の初期治療での領域にとどめ,詳細はUA/NSTEMIのガイドラインに讓る.

2 胸痛患者への初期診療の基本アルゴリズム

 STEMIは緊急冠動脈造影と経皮的冠インターベンション(PCI)の適応であるが,ST上昇を示さない場合も虚血性胸痛を否定できない時は,緊急PCI可能な専門施設への搬送を推奨される.図19は虚血性胸痛と考えられる患者に対する診療指針であり,12誘導心電図によるST偏位とT波の変化により,UA/NSTEMIは診療指針が区別される.12誘導心電図にて,虚血性ST低下(>0.5mm)・経時的T波陰転(UA/NSTEMI)を示す場合と定義され,UA/NSTEMIと診断すれば原則はCCUにて管理し,ただちに抗血小板・抗凝固療法を開始し早期の冠動脈造影へと進む.なお,心電図が正常ないし非診断的ST変化の場合は低・中リスクと考えられ,24時間の観察を行う.

3 UA/NSTEMIの分類と重症度評価 UAについて1989年にBraunwaldは重症度,臨床像,治療の状況を加味した分類(表9)を提唱し,この分類は予後の予測に優れ,治療戦略の決定に有用である. UA/NSTEMI患者の短期リスクの把握については,我が国の急性冠症候群の診療ガイドライン(表10)等いくつかの報告がある.TIMIリスクスコア(表11)は,7つの要素によって算出される.スコアが増加するごとに短期リスクは相乗的に高くなる.

4 非侵襲的検査 ACS患者に対して様々な非侵襲的検査が行われる(表

12).12誘導心電図は症状のある患者には全例に記録されるべきである.救急診療担当医はACSの疑われる患者のすべてに心臓生化学マーカー(CK,CK-MB,ミオグロビン,トロポニン I,トロポニンT等)を測定すべきである.ただし治療方針決定と再灌流治療の実施は生化学マーカーの結果を待ってはならない.経時的な測定や多種マーカー測定が診断の感度を高めるが,初期4時間を過ぎて陽性化するため4~6時間の評価は心筋壊死を否定する感度をもたず,陰性の場合は時間をおき再測定を行う.病院前の条件では心臓生化学マーカー必ずしも有用でない.救急診療に担当する医師は心エコー図を駆使すべきである.これを用いると左室局所収縮障害部位と心電図部位診断の一致性より,診断はより正確になり,かつ切迫心破裂,右室梗塞,僧帽弁逆流等の重大な合併症の診断が可能である.さらに急性大動脈解離,急性肺血栓塞栓症等の初期診断に極めて有用である.UA/

NSTEMIでは冠動脈CTも有用であり,その陰性的中率が高いが,クラスは未確定である.

5 緊急入院・転院を決定 救急部門での短期リスク評価は時間を争い,リスク層別化により効率的にCCU収容,緊急冠動脈造影等の方針を迅速に決定する(図20).CCUでの確実なモニタリングはSTEMIの発症や心室細動への迅速対応と救命の鍵を握る.

表9 Braunwaldによる不安定狭心症の分類(1989)〈重症度〉クラスⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症    ・最近2か月以内に発症した狭心症    ・ 1日に3回以上発作が頻発するか,軽労作にても

発作が起きる増悪型労作狭心症.安静狭心症は認めない

クラスⅡ:亜急性安静狭心症    ・ 最近1か月以内に1回以上の安静狭心症があるが,

48時間以内に発作を認めないクラスⅢ:急性安静狭心症    ・ 48時間以内に1回以上の安静時発作を認める〈臨床状況〉クラスA: 二次性不安定狭心症(貧血,発熱,低血圧,頻脈

等の心外因子により出現)クラスB: 一次性不安定狭心症(クラスAに示すような心外

因子のないもの)クラスC: 梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後2週間以内

の不安定狭心症)〈治療状況〉1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中2) 一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬,長時間持続硝酸薬,Ca拮抗薬)

3) ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による治療中

Page 35: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1395Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

図19 非ST上昇ACSへの初期診療アルゴリズム

救急隊員による対応と病院選定・モニター装着,気道・呼吸・循環のサポート・必要に応じ酸素を投与・傷病者が求めれば本人の持つ硝酸薬舌下を補助・緊急 PCIを施行できる施設を選定

初期救急医療機関の対応と救急車の要請・バイタルサインと身体所見を評価・12誘導心電図を記録し評価・末梢静脈路を確保し,MONA(モルヒネ,酸素,硝酸薬, アスピリン)を考慮・緊急 PCIを施行できる病院を選定し搬送を救急隊に指示

病院救急部門での評価(10分以内)・バイタルサイン,酸素飽和度の評価・末梢静脈路を確保・12誘導心電図を記録し評価・ポイントを絞った病歴聴取と診察・心筋障害マーカー・電解質・血算・生化学の測定・院内プロトコールに基づき循環器医に連絡・線溶療法チェックリスト(表14)により適応と禁忌の判断・ポータブル胸部 X線写真(30分以内)

ただちに病院救急部門での一般的治療を開始・酸素投与を開始し,酸素飽和度 90%以上に維持・アスピリン 160~325mgを噛み砕く・硝酸薬舌下,スプレーまたは静注・硝酸薬が無効ならばモルヒネを使用

ST上昇または新規の脚ブロック心筋障害を強く示唆

STEMI

ST低下または T波の陰転心筋虚血を示唆

UA/NSTEMI

正常または判定困難な ST-T変化

中・低リスクの UA

循環器医と連携し再灌流療法を優先

適応に従い付加治療 ・未分画ヘパリン ・ニトログリセリン ・β遮断薬

循環器医と連携しCCUまたはモニタ可能な病室へ入室適応あれば付加治療 ・未分画ヘパリン ・ニトログリセリン ・β遮断薬

施設の胸痛経過観察プロトコールに従い6~24時間経過観察下記を経時的に監視 ・心筋障害マーカー  (トロポニン等) ・心電図モニタ

PCI可能か否かによるSTEMIアルゴリズムへ リスクの再評価

・Braunwald層別化(表 9)・TIMIリスクスコア(表 11)

高リスク患者*

早期侵襲的治療戦略心原性ショックの治療適応あれば付加治療**

中リスク患者

循環器医が担当し入院継続心筋虚血評価

適応あれば付加治療**

低リスク患者

虚血や梗塞の疑いがない場合は,外来でフォローアップ

*高リスク患者・治療に反応しない虚血性胸痛・再発性・持続性 ST変化・心室頻拍・不安定な血行動態・ポンプ不全徴候

**付加治療・ACE阻害薬 /ARB・経口β遮断薬・スタチン

虚血を示唆する胸部不快感

12誘導心電図

陽性

Page 36: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1396 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

入院・転院の決定

クラスⅠ1. 患者の短期リスクの評価に基づいて入院の適

応を決定する(レベルB).2. 高リスク患者は心電図監視が可能なCCUあ

るいはこれに準ずる病室に収容する(レベルB).

3. 中等度以上のリスクを有する患者は,CCU

およびそれに準ずる病室がない施設や循環器専門医のいない施設から,CCUがあり緊急

アスピリンヘパリン抗狭心症薬モニタリング

早期保存的治療 早期侵襲的治療

安定化

低リスク 低リスク以外

症状再燃心不全

虚血の出現等

即時冠動脈造影

12~ 24時間以内

負荷試験

中等度リスク 高リスク図20 非ST上昇ACSの短期リスク評価に基づいた治療戦略

表10 UA/NSTEMIの短期リスクの分類高リスク 中等度リスク 低リスク

病歴 胸痛 持続時間 亜硝酸薬の有効性 随伴症状

安静時48時間以内に増悪20分以上の胸痛現在も持続無効冷汗,吐き気呼吸困難感

安静時,夜間の胸痛2週間以内のCCSⅢ°ないしⅣ°20分以上,以内の胸痛の既往があるが現在は消失有効

労作性2週間以上前から始まり徐々に閾値が低下する20分以内有効

理学的所見 新たなⅢ音肺野ラ音汎収縮期雑音(僧帽弁逆流)血圧低下,除脈,頻脈

正常

心電図変化 ST低下≧0.5mm持続性心室頻拍左脚ブロックの新規出現

T波の陰転≧3mmQ波出現

正常

生化学的所見 トロポニンT上昇(定性陽性,>0.1ng/mL)

トロポニンT上昇(定性陽性,<0.1ng/mL)

トロポニンT上昇なし(定性陰性)

次の既往や条件を1つでも有する患者は,ランクを1段階上げるように考慮すべきである1 陳旧性心筋梗塞2 脳血管,末梢血管障害3 冠動脈バイパス術および経皮的冠動脈形成術4 アスピリンの服用5 糖尿病6 75歳以上

表11 TIMIリスクスコア①年齢(65歳以上)② 三つ以上の冠危険因子(家族歴,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙)

③既知の有意な(>50%)冠動脈狭窄④心電図における0.5mm以上のST偏位の存在⑤24時間以内に2回以上の狭心症状の存在⑥7日間以内のアスピリンの服用⑦心筋障害マーカーの上昇

該当するリスクの数を加算する

Page 37: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1397Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

  で冠動脈血行再建のできる循環器専門施設,またはそれに準ずる施設へ可及的速やかに転送する(レベルC).

クラスⅡa

1. 中等度リスク患者の入院は高リスク患者に準じる(レベルC).

2. ACSと診断できるがリスクの判断ができない患者は入院させて経過観察する(レベルC).

3. 低リスク患者と判断されても,入院が可能であれば入院させ経過を観察する(レベルC).

4. ACSが疑わしい患者を入院させる(レベルC).クラスⅢ5. 鑑別すべき他の重症疾患を否定でき,かつ

ACSが疑わしくない患者を緊急入院させる(レベルC).

 UA/NSTEMI患者への緊急入院と転院に関する指針は極めで重要である.緊急受診時に一見軽症に見える患者が急に重篤となる可能性があり,確実なリスク評価と急変への対応が迅速でなければ死亡に至ることがある.CCUを持ち緊急の冠血行再建が常時できる循環器専門施設での急性期治療,ならびにこれを判断できる循環器専門医が在勤していることが必要であり,該当しない医療機関での診療であれば適切な施設への転院をただちに行う必要がある.

6 緊急または準緊急に実施する冠動脈造影の適応

緊急・準緊急冠動脈造影の適応

クラスⅠ1. 薬物治療に抵抗し心筋虚血発作を繰り返す患

  者,あるいは初期治療により一旦安定が得られた後に症状が再燃した患者(レベルB).

2. 短期リスクの高いUA患者に対する準緊急な冠動脈造影(レベルB).

3. 初期治療により安定が得られた短期リスクが高度~中等度のUA患者(レベルA).

4. 各種非侵襲的検査により高度な虚血所見や左室機能低下が認められるUA患者(レベルB).

5. 6か月以内にPCIを施行しているUA患者(レベルB).

6. 冠動脈バイパス術の既往があるUA患者(レベルB).

7. 冠攣縮性狭心症が疑われる患者(レベルC).クラスⅡb

1. 短期リスクの低いUAで,各種非侵襲的検査でも高度な心筋虚血所見や左室機能低下が認められない患者(レベルC).

クラスⅢ1. 反復する胸部不快感があるが心筋虚血の客観的所見に乏しく,過去5年以内の冠動脈造影所見が正常である患者(レベルC).

2. 冠血行再建の適応がない不安定狭心症患者,あるいは冠血行再建によりQOL,生存期間の向上が見込めない患者(レベルC).

3. 合併疾患のため冠動脈造影の危険性がその利点を上回る患者(レベルC).

 心電図診断によりUA/NSTEMIと判別された胸痛患者は,CCUにて酸素ならびに薬物治療により安定化が図られ,冠動脈造影の実施が推奨される.薬物治療に抵抗性の再発性心筋虚血発作患者,あるいは症状が再燃した患者は緊急冠動脈造影の適応である.また,表10に示した短期リスクの高いUA患者では準緊急に冠動脈造影

表12 UA/NSTEMI患者への非侵襲的検査検査 クラスⅠ クラスⅡa クラスⅡb クラスⅢ

12誘導心電図

胸部不快感のある患者,症状消失したがACSの既往ある患者(レベルC)

全ての胸痛患者(レベルC) 病院収容前の救急車内の心電図(レベルB)

なし なし

生化学マーカー

胸痛患者の早期リスク層別化(レベルB) ACS患者へのCK, MB,トロポニンの測定(レベルC) 発症6時間以内ACSで陰性例への6~12時間での再検(レベルC)

発症6時間以内の患者でにトロポニンに加えてミオグロビン測定(レベルC)

CROおよび他の炎症マーカーでの診断補助(レベルB)

なし

心エコー ACS全例に行う(レベルC) なし 症状が持続し心電図異常が不確かなACS疑患者(レベルB)

なし

胸部XP 心臓疾患,心膜疾患,大動脈疾患の症候のある患者(レベルB)

肺,胸膜,縦隔疾患の症候がある患者(レベルB)

すべての胸痛患者に行う(レベルC)

なし

胸部CT クラス未確定: 冠動脈CTの有用性を示す報告もあるが,今後のさらなるエビデンスの集積を要する

Page 38: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1398 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

を行う.

7 UA/NSTEMIへの初期治療と薬物治療(図21)

UA/NSTEMIへの初期治療と薬物治療

クラスⅠ1. ベッド上安静とし,心電図にて不整脈を監視し,動脈血酸素飽和度が90%未満になったら酸素供給を行う(レベルC).

2. 胸痛が寛解しないか不安が強い場合は塩酸モルヒネを静注する(レベルC).

3. アスピリン162~325mgを速やかに咀嚼服用させる.アスピリン禁忌患者ではチクロピジンを投与する(レベルB).

4. アスピリン投与下でヘパリンの静脈内投与を行う(レベルC).

5. 硝酸薬,β遮断薬を投与する.β遮断薬が投与できない場合はカルシウム拮抗薬(ベラパミルまたはジルチアゼム)を投与する(レベルB).

6. 安静時の心拍数70/分未満,収縮期血圧140mmHg未満を目標として管理する(レベルC).

7. 心筋虚血の増悪因子を検出し,これに対する加療を行う(レベルC).

8. 禁忌がなければスタチンの内服を開始する(レベルB).

クラスⅡa

1. 充分な薬物療法下でも心筋虚血を繰り返すか,循環動態が不安定な患者に,大動脈内バルーンパンピングを使用する(レベルB).

クラスⅢ1. 心電図上明らかなST上昇を認めない,急性後壁心筋梗塞でもない,また新たに生じた左脚ブロックもないUA患者に経静脈的に血栓溶解薬を投与する(レベルB).

 初期治療の目標は病態の安定化である.安静と心電図モニター,酸素吸入,胸痛への塩酸モルヒネの使用,抗血小板薬の投与法,抗凝固薬の使用,硝酸薬,β遮断薬,

図21 非ST上昇型ACSへの薬物治療から続く治療フローチャート

以下の薬物を投与し症状の安定化を計る1.アスピリン :迅速なアスピリン 162~ 325mgの初回咀嚼服用後の一日 75~ 150mgの長期投与 アスピリンに過敏性があったり,アスピリンが投与できない時のチクロピジンの投与2.ヘパリン :アスピリン投与下でのヘパリン静脈内投与3.硝酸薬 :硝酸薬の舌下または噴霧でも症状の改善が見られない患者に対する硝酸薬の 24時間以内の静脈内投与4.β遮断薬 :胸痛が持続していれば静脈内投与し,そうでなければ経口投与を行う5.カルシウム拮抗薬 :硝酸薬とβ遮断薬が禁忌,または硝酸薬とβ遮断薬を十分量投与しているにもかかわらず虚血が持続した

り,頻回に発作を繰り返す患者における非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬の投与6.ニコランジル :胸痛が持続していれば静脈内投与,そうでなければ経口投与を行う7.モルヒネ :肺うっ血合併例や精神的動揺が強い状態にある時や硝酸薬でただちに回復しない胸痛発作時の静脈内投与8.ACE阻害薬 :うっ血性心不全や左室収縮障害を有した患者への投与

アスピリン経口投与,ヘパリン静脈内投与,経口抗狭心症薬のβ遮断薬,硝酸薬,カルシウム拮抗薬,ニコランジルを限界用量まで投与しているにもかかわらず狭心症発作がコントロールできない患者

(薬物治療抵抗性狭心症)

ただちに冠動脈造影検査

大動脈内バルーンパンピング施行

大動脈内バルーンパンピングクラスⅠ なしクラスⅡa1.β遮断薬,カルシウム拮抗薬,硝酸薬ならびに抗血小板薬,抗凝固薬による徹底した薬物療法にもかかわらず重症な心筋虚血が持続または再発する場合に IABPを用いる.

2.重症な心筋虚血の診断のために冠動脈造影を施行する前後での不安定な血行動態に対し IABPを用いる.

クラスⅡb なしクラスⅢ  なし

血栓溶解療法急性冠症候群に対する血行再建治療として,血栓溶解療法を単独で施行することは推奨されない.

責任冠動脈に PCIまたは冠動脈バイパス術

Page 39: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1399Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

カルシウム拮抗薬,スタチンの投与等を行う.日本人では冠攣縮性狭心症の患者も含まれ,β遮断薬の投与には注意を要する.また,シルデナフィル(バイアグラ)内服者への併用は著明な血管拡張から低血圧を生じ禁忌であり,病歴聴取に留意する. 血圧,脈拍が十分にコントロールされても胸痛を生じる患者,血行動態が不安定な患者,心筋生化学マーカーの上昇例は血行再建を考慮する.特に虚血のコントロールが困難,血行再建が困難な場合には大動脈内バルーンパンピングを使用する(図21).

8 UA/NSTEMIへの冠血行再建治療UA/NSTEMIへの緊急PCIの適応

クラスⅠ1. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作が持続あるいは頻発し,かつ心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されている患者(レベルA).

2. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる不安定な血行動態または心不全が持続し,かつ心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されている患者(レベルA).

3. 心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作があり,心電図にて新たにST降下が出現した患者,あるいはトロポニンが上昇している患者(レベルA).

クラスⅡa

1. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作が持続あるいは頻発するが,心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されていない患者(レベルC).

2. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が原因と考えられる不安定な血行動態または心不全が持続しているが,心筋虚血の存在が非侵襲的検査によって証明されていない患者(レベルC).

3. 薬物治療により安定化が可能と考えられる胸痛発作あるいは不安定な血行動態を認める患者(レベルA).

クラスⅡb

1. 出血性素因や出血性合併症のため,ステント留置後の抗血小板薬使用に制限のある患者にPCIを行う(レベルC).

2. 左主幹部狭窄や左室機能低下を伴う3枝病変で冠動脈バイパス術の適応例であるが,胸痛や血行動態が薬物治療によって安定化が困難と考えられる患者(レベルC).

クラスⅢ1. 左主幹部狭窄や左室機能低下を伴う3枝病変の冠動脈バイパス術の適応例で,かつ胸痛や血行動態が薬物治療によって安定化が可能と思われる患者(レベルC).

 狭心症発作がコントロールできない場合は,薬物抵抗性不安定狭心症と定義する.心筋虚血の改善にはPCIや冠動脈バイパス術等の血行再建治療が早急に必要である.

UA/NSTEMIへの緊急CABGの適応

クラスⅠ1. 左主幹部に高度狭窄を有する患者(レベルC).2. 左主幹部相当の病変(左前下行枝と左回旋枝入口部の高度狭窄)を有する患者(レベルC).

3. 非手術治療が無効で,持続する胸痛あるいは心筋虚血を有する患者(レベルB).

4. PCI不成功例で心筋虚血が持続し,広範囲の心筋梗塞の危険がある患者,あるいは血行動態が不安定な患者に冠動脈バイパス術を行う(レベルB).

クラスⅡa

1. 左前下行枝入口部に高度狭窄を有する患者(レベルC).

2. AMIの血栓溶解療法後に心筋虚血が持続するPCIの不可能な患者(レベルB).

3. 重篤な心不全を有するが冠動脈バイパス術が可能な患者(レベルB).

クラスⅡb

1. 左前下行枝入口部に高度狭窄を有しない1枝または2枝病変の患者に冠動脈バイパス術を行う(レベルC).

2. PCI不成功例で心筋虚血範囲が小さい患者(レベルC).

クラスⅢ1. 薬物治療の危険性の方が少ないと考えられる患者(レベルC).

 緊急冠手術は,待機的手術と比較して手術死亡率が高いとされ,初期治療としてPCIや薬物治療が選択される

Page 40: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1400 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

ことが多いが,緊急 /準緊急手術治療によって得られる利益・不利益を十分に検討し治療方針を決定する.手術リスクを高くする要因としては,広範な心筋虚血や左室機能低下による心不全,腎機能障害,高齢者,脳合併症等多岐の要因が挙げられる.

2 ST上昇型急性心筋梗塞

1 急性冠症候群の概念 急性冠症候群(ACS)は冠動脈粥腫破綻,血栓形成を共通基盤として急性心筋虚血を呈する臨床症候群であり,AMI,UA,心臓性突然死までを包括する疾患概念である. ACSが発症すると,冠動脈内血栓や側副血行の有無等によって様々な程度の心筋虚血が生じる.冠動脈の完全閉塞により貫壁性心筋虚血を生じればST上昇型急性冠症候群,そうでない場合は非ST上昇型急性冠症候群と二分され,治療指針が異なる(図22)101)-103).

2 発症から病院まで ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の院内死亡率は,CCU

の管理と冠再灌流療法の普及により7%前後となった.しかし,この中には,病院到着前,すなわちSTEMI発症早期に心停止に陥る患者は含まれていない.この病院前心停止に陥るSTEMI患者は総STEMI患者の14%以上にも達する.その大多数がVFを併発し死亡している.したがって,STEMIの発症超早期の患者教育と病院前救護対策が重要な課題である.STEMIでは,正しい治療を受けるまでの時間を短縮すれば,死亡率や合併症率

を有意に低下させることができるエビデンス(クラスⅠ,レベルA)が報告されている101)-103).

3 初期診断・治療・管理 101)-103)

 初期診断と治療はUA/NSTEMIに準じるが,STEMI

の場合には次の点が異なる.⑴ 右室梗塞の診断のために心電図で右側胸部誘導を記録する.また,右室梗塞ではニトログリセリンは使用しない.

⑵ 酸素投与は低酸素血症がなくても全例に行ってよい.

⑶ 再灌流療法前後にヘパリンを積極的に使用する.⑷ 再灌流療法を早期に行う.場合によって他の施設に転送する.

⑸ 心筋保護のために,禁忌がなければできるだけβ遮断薬,ACE阻害薬を使用する.

①トリアージ

1.STEMIの診断(図23)

クラスⅠ患者到着後10分以内に病態評価を行い,短時間で再灌流療法の適応を判断し治療を行うために個々の施設の救急部で独自のプロトコルを作成し活用する(レベルB).

②患者の初期評価(表13)

1.病歴,身体所見,臨床検査

クラスⅠ

急性冠症候群(ACS)

胸痛+心電図

不安定狭心症

最終診断(24時間~)

非Q波梗塞 Q波梗塞

非 ST上昇型急性心筋梗塞

ST上昇型急性心筋梗塞

非 ST上昇型 ACS

リスク層別,抗血栓・虚血治療

ST上昇型 ACS

可及的早期再灌流療法

初期診断

治療方針決定(12時間以内)

心筋マーカー(CPK,トロポニン等)

持続性 ST上昇,CLBBBST低下,冠性T等

冠インターベンション・冠動脈バイパス術・各種薬物治療

図22 急性冠症候群の初期診断と最終診断(*治療・自然経過で心筋梗塞に至らない場合)

Page 41: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1401Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

患者到着後(10分以内)の簡潔かつ的確な病歴聴取,身体所見および簡潔な神経学的所見の診察,血液生化学検査(レベルC).

2.心電図の適応

クラスⅠ1. 胸部症状や他の症状でも急性心筋梗塞(acute

myocardial infarction AMI)が疑われる患者

  には到着後(10分以内)の12誘導心電図の記録(レベルC).

2. 初回心電図で診断できない場合でも症状が持続しAMIが強く疑われる患者には5~10分ごとの12誘導心電図の記録(レベルC).

3. 急性下壁梗塞例で12誘導と右側胸部誘導(V4R誘導)の心電図記録(レベルB).

第 1段階 問診 身体所見

第 3段階 心エコー,胸部X線写真***

再灌流療法の適応の決定,実行

第 2段階 12誘導心電図* 採血**

Door to needle time : 30分以内Door to balloon time : 90分以内

■心電図モニタリング ■アスピリンの咀嚼服用■酸素投与 ■塩酸モルヒネ投与■静脈ライン確保 ■硝酸薬(ニトログリセリン)投与

* 急性下壁梗塞の場合,右側胸部誘導(V4R 等)も同時に記録する

** 診断確定のために採血結果を待つことで再灌流療法が遅れてはならない

*** 重症度評価や他の疾患との鑑別に有用であるが必須ではなく再灌流療法が遅れることのないよう短時間で行う

10分以内

図23 STEMIの診断アルゴリズムDoor to needle time : 病院到着から血栓溶解療法開始までの時間Door to balloon time: 病院到着から初回バルーン拡張までの時間

表13 初期評価項目のチェックリスト問診 ・簡潔かつ的確な病歴聴取

…胸部症状,関連する徴候と症状,冠危険因子,急性大動脈解離・急性肺塞栓の可能性,出血性リスク,脳血管障害・狭心症・心筋梗塞・冠血行再建の既往

身体所見 ・バイタルサイン(大動脈解離を疑う場合は四肢の血圧測定も)・聴診…心音,心雑音,呼吸音(湿性ラ音の有無とその聴取範囲),心膜摩擦音,血管雑音(頸動脈,腹部大動脈,大腿動脈)

・眼瞼所見…貧血・頸部所見…頸静脈怒張・腹部所見…圧痛,腹部大動脈瘤,肝腫大・下腿所見…浮腫・神経学的所見

心電図 ・12誘導心電図…T波の先鋭・増高(Hyper acute T),T波の陰転化,R波の減高,ST上昇/低下,異常Q波・右側胸部誘導(V4R誘導)…右室梗塞の合併

採血 ・血液生化学検査…心筋傷害マーカー:心筋トロポニン,CK,CK-MB,ミオグロビン, 心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP) 血算,生化学,電解質,凝固

心エコー ・局所壁運動異常(左室壁運動,下壁梗塞の場合は右室壁運動も)・左室機能・機械的合併症…左室自由壁破裂(心嚢液貯留,右室拡張期の虚脱),心室中隔穿孔(シャント血流),乳頭筋断裂(僧帽弁逆流)・左室壁在血栓・他の疾患との鑑別…急性大動脈解離(上行大動脈や腹部大動脈の intimal flap,大動脈弁逆流,心嚢液貯留),急性肺血栓塞栓症(右房および右室の拡大,左室の圧排像),急性心膜炎(局所壁運動異常のない心嚢液貯留)等

胸部X線写真 ・心陰影…拡大・肺野…肺うっ血,肺水腫,胸水・肋骨,胸膜,縦隔陰影

注) 下線をひいた項目は特に優先度の高いもの

Page 42: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1402 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

3.画像診断胸部X線写真の適応

クラスⅠ1. 重症度の評価(レベルC).2. 急性大動脈解離や他の肺・胸膜疾患,縦隔疾

患との鑑別診断(レベルC).

心エコー法の適応

クラスⅠ1. 標準的診断法で確定できないがAMIが疑わ

れる患者の診断(レベルC).2. 心筋虚血領域の評価(レベルC).3. 急性期における左心機能の評価(レベルC).4. 右室梗塞の合併の可能性がある患者(レベル

C).5. 機械的合併症の診断(レベルC).6. 左室壁在血栓の診断(レベルC).

③標準的初期治療

1.酸素

クラスⅠ肺うっ血や動脈血酸素飽和度低下(90%未満)を認める患者に対する酸素投与(レベルB).クラスⅡa

すべての患者に対する来院後6時間の酸素投与(レベルC).経鼻カニュレまたはフェイスマスクにより酸素を2~5L/分から開始する.

2.硝酸薬

クラスⅠ1. 虚血による胸部症状のある場合に,舌下またはスプレーの口腔内噴霧で,痛みが消失するか血圧低下のため使用できなくなるまで3~5分ごとの計3回までの投与(レベルC).

2. 虚血による胸部症状の緩解,血圧のコントロール,肺うっ血の治療目的としての静脈内投与(レベルC).

クラスⅢ1. 収縮期血圧90mmHg未満あるいは通常の血圧に比べ30mmHg以上の血圧低下,高度徐脈(<50bpm),頻脈(>100bpm)を認める場合,下壁梗塞で右室梗塞合併が疑われる場

  合の投与(レベルC).2. 勃起不全治療薬(例えばバイアグラ®等)服

用後24時間以内の投与(レベルB).

3.アスピリン

クラスⅠアスピリン160(レベルA)~325mg(レベルC)(バファリン® 81mg 2~4錠またはバイアスピリン® 100mg 2~3錠)の咀嚼服用.明らかに禁忌すなわちアスピリンアレルギーの既往がある患者を除き,急性心筋梗塞が疑われる患者全例に,できるだけ早くアスピリンを投与する(レベルA).アスピリン坐薬の投与は安全であり,嘔気,嘔吐症状が強い患者や,上部消化管疾患のある患者に対しては適応である.

4.鎮痛薬

クラスⅠ硝酸薬投与後にも胸部症状が持続する場合の塩酸モルヒネ投与(レベルC).塩酸モルヒネは2~4mgを静脈内投与し,効果不十分であれば5~15分ごとに2~8mgずつ追加投与していく.投与後しばらくは呼吸状態や血圧変動や嘔吐等の副作用に注意する必要がある.

5.ヘパリン

クラスⅠPCI施行時のACTモニタリング下での使用(レベルC)クラスⅡa

tPA,pro-UK,mutant tPA等血栓親和性のある血栓溶解薬を使用した場合のaPTTモニタリング下での静脈内投与(レベルC). PCIが施行される場合にはヘパリンのボーラス投与が推奨されている.一般的にはACTが300秒を超えるようモニタリングしながら使用する. tPAによる再灌流治療を受ける患者でのヘパリン投与法は,まず60単位 /kg(最大4000単位)をボーラス静注し,その後,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: aPTT)をコントロール値の1.5~2.0倍(約50~70秒)に維持するように48時間持続投与(12単位 /kg/hr,最大1000単位 /hr).

Page 43: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1403Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

6.β遮断薬

クラスⅠ発症後早期の投与可能で経口β遮断薬に対する禁忌のない場合の使用(レベルB).クラスⅢ以下の場合の投与1. 中等度~高度の左室機能不全患者,心原性ショック(レベルC).

2. 収縮期血圧100mmHg未満の低血圧(レベルC).

3. 心拍数60/分未満の徐脈(レベルC).4. 房室ブロック(Ⅱ,Ⅲ度)(レベルC).5. 重症閉塞性動脈硬化症(レベルC).6. 重症慢性閉塞性肺疾患または気管支喘息等(レベルC).

4 再灌流療法

 STEMIでは,線溶療法,PCIを問わず,いかに早期にTIMI-3の再灌流を得るかが,短期および長期の予後を改善する.重要なことは,線溶療法においてはdoor to

needle timeを30分以内に,PCIではdoor to balloon time

を90分以内を目標とすることである101)-104).

①血栓溶解療法(表14)

1)血栓溶解療法の適応

クラスⅠ1. 線溶療法の禁忌がなく,75歳未満でかつ発

症より12時間以内(レベルA).2. ST上昇または新規左脚ブロック(レベルA).クラスⅡa

1. 発症12時間以内の純後壁梗塞(レベルC).2. 発症12時間から24時間以内で虚血症状が持続(レベルB).

クラスⅢ1. 症状が消失し,治療までに24時間以上経過した患者(レベルC).

2. 後壁梗塞が除外された非ST上昇型AMI患者(レベルA).

2)血栓溶解療法の禁忌① 絶対的禁忌1. 頭蓋内出血の既往(時期を問わず)2. 既知の頭蓋内悪性腫瘍(原発または転移),構

造的脳血管病変(脳動静脈奇形等)3. 活動性出血4. 大動脈解離およびその疑い5. 過去3か月以内の脳虚血発作,非開放性頭部外

表14 経静脈的血栓溶解療法のチェックリストStep 1. 虚血性胸痛(不快感)の持続時間は,15分以上かつ12時間以内?

         ○ はい      ○ いいえ → 適応なし

標準12誘導心電図所見の隣接する2誘導以上でST上昇,または新規に出現した脚ブロック?

         ○ はい      ○ いいえ → 適応なし

Step 2. 以下の10項目すべて 『はい』 であれば血栓溶解療法を実施①収縮期血圧 180mmHg以下 ○ はい ○ いいえ②収縮期血圧の左右差 15mmHg以内 ○ はい ○ いいえ③拡張期血圧 110mmHg以下 ○ はい ○ いいえ④頭蓋内疾患の既往症 なし ○ はい ○ いいえ⑤3か月以内の明らかな非開放性頭部または顔面外傷 なし ○ はい ○ いいえ⑥6週間以内の明らかな外傷,手術,消化管出血 なし ○ はい ○ いいえ⑦出血・凝固系異常 なし ○ はい ○ いいえ⑧心停止時のCPRは 10分以内 ○ はい ○ いいえ⑨妊娠していない ○ はい ○ いいえ⑩進行性または末期の悪性腫瘍,重篤な肝または腎疾患 なし ○ はい ○ いいえ

Step 3. 以下の1項目以上を満たす高リスク例は緊急PCIが直ちに開始できる施設へ救急車で搬送①心拍数≧100回/分 かつ 収縮期血圧<100mmHg ○ はい ○ いいえ②湿性ラ音を聴取(Killip分類Ⅱ以上) ○ はい ○ いいえ③ショック徴候・症状あり ○ はい ○ いいえ④血栓溶解療法が禁忌(Step.2の①~⑩の1項目以上) ○ はい ○ いいえ

Page 44: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1404 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

到着‐バルーン時間を90分以内にできるか?

到着‐バルーン時間を90分以内にできるか?

早期冠動脈造影を考慮(24-72時間)さらに残存虚血・心筋生存性を評価し治療方針を決定

緊急冠動脈造影、適応があれば PCI(到着‐バルーン時間 90分以内を目標)あるいは CABG

原則として緊急 PCIを選択(長い待機時間,広い梗塞範囲等では血栓溶解療法+facilitated PCIを考慮)

血栓溶解療法とfacilitated PCIを考慮

いいえ 12時間以上 3時間以内

はい

はい はいいいえいいえ

STEMI患者

3~ 12時間

虚血性胸痛とST上昇>1mm持続 発症からの時間は?

図24 緊急PCIが施行可能な施設におけるSTEMIへの対応アルゴリズム

心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症36時間以内かつショック発現18時間以内はPCI・外科手術を検討する.・PCI (percutaneous coronary intervention):経皮的冠インターベンション・血栓溶解療法:表14参照・facilitated PCI:薬物治療(血栓溶解療法)に続いて行われるPCI

虚血性胸痛とST上昇>1mm持続 発症からの時間は?

搬送時間を考慮し90分以内かつ発症 12時間以内に

バルーン拡張可能か?

搬送時間を考慮し90分以内にバルーン拡張

可能か?

24時間以内に PCIが可能な施設へ搬送 ただちに PCIが可能な施設へ搬送

原則は緊急 PCI施設へ搬送長時間要するなら搬送先と相談し血栓溶解療法実施を考慮

搬送先と相談し、血栓溶解療法を考慮

いいえ 12時間以上 3時間以内

はい

はい はいいいえいいえ

STEMI患者

3~ 12時間

あり 再灌流徴候* なし

図25 緊急PCIが施行できない施設におけるSTEMIへの対応アルゴリズム

心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症36時間以内かつショック発現18時間以内はPCI・外科手術施行可能施設へ搬送する.(*再灌流徴候:胸痛の消失,ST上昇の軽減,T波の陰転化等)

Page 45: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1405Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

傷または顔面外傷② 相対的禁忌1. 診察時,コントロール不良の重症高血圧(180/110mmHg以上)

2. 禁忌に属さない脳血管障害の既往3. 出血性素因,抗凝固療法中4. 頭部外傷,長時間(10分間)の心肺蘇生法,

または大手術(3週間未満)等の最近の外傷既往(2~4週間)

5. 圧迫困難な血管穿刺6. 最近(2~4週以内)の内出血7. 線溶薬に対する過敏反応8. 妊娠9. 活動性消化管出血10. 慢性重症高血圧の既往

②経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

1)Primary PCIの適応(図24,25)

クラスⅠ1. 発症12時間以内で,線溶療法が禁忌の有無にかかわらず,来院後90分以内に病変をバルーン拡張できる場合(ステント留置を含む)(レベルA).

2. Primary PCIは病院に到着してから責任病変をバルーン拡張するまでの時間が90分以内(レベルB).a. 症状の持続時間が3時間以内であり,カ

テーテル検査の穿刺からPCIまでをⅰ)1時間以内に行うことができる場合

のPCI(レベルB).ⅱ)1時間以上要する場合には線溶療法

を考慮(レベルB).b. 症状が3時間以上持続する場合のPCI.

病院到着からバルーン拡張は90分以内(レベルB).

3. 発症後36時間以内の患者で,心原性ショックを呈し,ショック発症後18時間以内にPCI

が実施可能な75歳未満の患者に対するPCI.ただし侵襲的治療を患者が望まない,または適さない場合を除く(レベルA).

4. 重症うっ血性心不全,またはKillipⅢ度以上の肺水腫を伴う発症12時間以内のST上昇型ACSに対する早急のPCI(レベルB).

クラスⅡa

1. 発症36時間以内にショックとなり,ショック発症後18時間以内に血行再建可能な75歳以上の患者(レベルB).

2. 12から24時間前に発症し,次の項目のどれか1つ以上を満たす場合a.重症うっ血性心不全(レベルC).b.不安定な血行動態または心電図所見(レベルC).

c.持続する虚血徴候(レベルC).クラスⅢ1. 血行動態が不安定な患者で虚血がないと判断される非梗塞領域を灌流する冠動脈へのPCI

(レベルC).2. 発症後12時間以上経過しており,血行動態や心電図所見が安定していて症状が消失している患者(レベルC).

3. 厚生労働省の定める施設基準を満たさない施設やPCIに熟練していない術者が行う場合.

③Facilitated PCI(血栓溶解療法後のPCI)

クラスⅡa′*

症状持続時間が3時間以内で,来院90分以内にPCIによるバルーン拡張術が困難と予測される症例におけるFacilitated PCI(レベルC).

*STEMIに関するガイドラインでは,「エビデンスは不十分であるが,手技治療が有効・有用であることに我が国の専門家の意見が一致している」としてのクラスⅡa′の記載である.

④ Rescue PCI(線溶療法後も,心筋虚血が持続または繰り返す患者に対するPCI)

クラスⅠ線溶療法を施行した75歳未満の患者に対して以下の場合にPCIによる血行再建を行う.

1. 心原性ショック(レベルB).2. 重症うっ血性心不全または肺水腫(Killip Ⅲ)(レベルB).

3. 血行動態が不安定な心室性不整脈(レベルC).クラスⅡa

1. 線溶療法を施行した75歳以上の心原性ショック患者.ただし,血行再建に適している場合に限る(レベルB).

2. 下記の項目のうちいずれか1つ以上に該当す

Page 46: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1406 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

  る患者.a.不安定な血行動態または心電図所見(レ

ベルC).b.持続する虚血徴候(レベルC).

3. 線溶療法開始90分後にST resolusionが50%未満の不成功例で中等度以上の心筋障害が予想される場合(前壁梗塞,右室梗塞を伴う下壁梗塞,前胸部誘導のST低下例)(レベルB).

⑤緊急手術による再灌流ならびに合併症修復術

クラスⅠSTEMIにおける緊急CABGは以下の場合に施行される.

1. PCIが不成功に終わり,持続する胸痛または不安定な血行動態を伴い,冠動脈が解剖学的に手術に適している場合(レベルB).

2. 薬物治療に抵抗性の持続的あるいは繰り返す虚血所見を認め,責任病変により広範な心筋虚血を来たすと予測され,PCIや線溶療法の適応がない場合(レベルB).

3. 梗塞後の心室中隔破裂または自由壁破裂,急性重症僧帽弁閉鎖不全を伴う乳頭筋断裂に対して修復手術を要する場合(レベルB).

4. 発症後36時間以内にショック状態が進行しており,ST上昇,左脚ブロック,後壁梗塞のいずれかを認め,重症多枝病変・左主幹部病変のいずれかを伴う75歳未満の患者.ショック状態となってから18時間以内に手術可能な場合に限る(レベルA).

5. 左主幹部に狭窄度50%以上の病変を有するか,3枝病変を有し,致死的不整脈を伴っている患者(レベルB).

クラスⅡa

1. 緊急CABGが初期灌流治療法として有用となりうるのは,STEMI発症後6時間から12時間以内の患者で,線溶療法やPCIの適応がなく,特に多枝病変または左主幹部病変を有する場合のCABG(レベルB).

2. 75歳以上の発症後36時間以内にショックが進行しており,重症3枝病変または左主幹部病変を有する場合.ただしショック状態となってから18時間以内に血行再建できる場合の緊急CABG(レベルB).

クラスⅢ

1. 持続する胸痛を伴うも,血行動態が安定している場合の緊急CABG(レベルC).

2. 主要な冠動脈の血行再建が成功した患者における小血管に対する緊急CABG(レベルC).

⑥再灌流の評価

クラスⅡa

1. 再灌流療法開始後1~3時間にわたってST上昇のパターン,心調律,および臨床症状のモニター(レベルB).

2. TIMIグレード,Blushグレードによる評価(レベルB).

⑦再灌流補助薬

クラスⅡa

再灌流治療を受ける患者でそれに先だつカルペリチドの静脈内投与(レベルB).

クラスⅡb

再灌流治療を受ける患者でそれに先だつニコランジルの静脈内投与(レベルB).

クラスⅡb

ヘパリン誘発性血小板減少症を有することを分かっている患者では,ヘパリンの代わりにアルガトロバンを使用(レベルB).

5 入院後の治療

 STEMIに対する補完療法101)-103)

①抗血小板薬

1.アスピリン

クラスⅠSTEMI患者には禁忌がない限り,無期限にアスピリンを経口投与する(レベルA).

2.Thienopyridine系薬剤

クラスⅠ(レベルB)BMS挿入後は少なくとも1か月間の投与.DES

挿入後は少なくとも12か月間投与.出血のリスクのない患者,ステント血栓症のハイリスク群では無期限の投与.クラスⅡa(レベルC)血栓溶解療法を受けている患者でアスピリンが内服できない患者におけるクロピドグレル,チクロ

Page 47: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1407Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

ピジンの使用.

②β遮断薬

STEMI発症直後にβ遮断薬の投与を開始することが梗塞サイズを縮小させ,慢性期の合併症発生率と再梗塞発生率を減少させることから,β遮断薬は急性期死亡の減少と慢性期の合併症抑制のいずれにも有効である.

クラスⅠ1. 禁忌のない,低リスク*以外のSTEMI患者に

は経口β遮断薬を投与する.少なくとも2~3日以内に開始し可能な限り継続する(レベルA).

2. 中等度,あるいは重篤な左室機能不全を有する患者には,徐々に増量しながらβ遮断薬を投与する(レベルB).

クラスⅡa

禁忌のない,低リスク*の患者にβ遮断薬を投与する(レベルA).

クラスⅢ冠攣縮の関与が明らかなSTEMI患者に対するβ遮断薬の投与(レベルC).

*低リスク:左室機能が正常~ほぼ正常,再灌流治療の成功,重篤な心室性不整脈がない.

③カルシウム拮抗薬

クラスⅡa

1. β遮断薬が禁忌または認容性が不良で,左室機能不全やうっ血性心不全,房室ブロックのないSTEMI患者に対する,心筋虚血の軽減,または頻脈性心房細動の頻拍コントロールを目的としたベラパミルまたはジルチアゼムの投与(レベルB).

2. 他の薬物でコントロールができない狭心症または高血圧症に対して,長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を使用する(レベルB).

クラスⅢSTEMI発症後早期の短時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬投与(レベルA).

④ レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系拮抗薬

ACE(アンジオテンシン変換酵素:angiotensin

converting enzyme)阻害薬 /ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬:angiotensin receptor blocker) ACE阻害薬は,特に早期に投与を開始した場合にSTEMI患者の生存率を改善させている.

ACE阻害薬/ARBの適応

クラスⅠ1. 禁忌がなければ,経口ACE阻害薬を,早期

に開始し可能な限り継続する(レベルA).2. 既にACE阻害薬が投与されており,左室駆

出率が40%以下で症候性心不全または糖尿病を合併する患者には,禁忌がない限り,アルドステロン拮抗薬を使用する(レベルA).

3. 左室駆出率が40%以下で,臨床的あるいは胸部X線上で心不全の兆候があるか,ACE

阻害薬に認容性がない患者には,ARBを使用する(レベルB).

クラスⅡa

左室駆出率が40%以下で,臨床的あるいは胸部X線上で心不全の兆候がある患者に対し,ACE阻害薬の代用としてARBを使用する(レベルB).

クラスⅡb

左室駆出率が40%以下で,症候性の慢性心不全を有する患者の長期管理には,ACE阻害薬とARBの併用を考慮する(レベルB).

⑤HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

ACS発症数日以内にスタチンを投与すると,炎症指標が低下して,再梗塞,再発性狭心症,不整脈等の合併症が減少することが様々な試験により一貫して示されている.

クラスⅠSTEMI患者に対するスタチン投与の早期開始(受診後24時間以内)は安全で,実施可能である(レベルC).

クラスⅡb

既にスタチンを投与している患者には,引き続き投与する(レベルC).

Page 48: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1408 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

Ⅶ その他の心血管救急

1 急性大動脈解離

① 急性大動脈解離では破裂と臓器虚血が問題であり,血栓性閉塞の有無と上行大動脈に解離が存在するかで分類する.

② 診断は病歴,身体所見,心電図,胸部X線,エコー検査,炎症反応,Dダイマー,CT検査等で行う.

③ 収縮期血圧100~120mmHgを目標に静注薬で降圧し,鎮痛,酸素投与,腎不全予防,不穏予防等に努める.

④ 発症から48時間の安静度を下げ,絶食とする.⑤ 偽腔開存,Stanford分類,切迫破裂や臓器虚血の

有無,さらに血栓閉塞型では上行大動脈径や偽腔径で手術適応を判断する.

1 病態と分類 105)

 急性大動脈解離(Acute Aortic Dissection:AAD)とは,“血液が大動脈内膜の破綻部分から外膜方向に向かって入り込み,中膜のおよそ外1/3のレベルで大動脈を長軸方向に引き裂きながら進行した結果,大動脈が2腔になった状態”であり,破裂と分枝血流障害が予後を左右する.心タンポナーデは急性期の死因の第一位である.一

方,分枝血流の低下により臓器虚血が生じと,心筋虚血,脳虚血,上肢虚血,対麻痺,腸管虚血,腎不全,下肢虚血等を生じる.特に腸管虚血は手術症例における急性期死亡の重要な関与因子である.解離の型によって重症度および治療の方針が大幅に異なる.表15のような分類がある.

2 診断(表16)105)

①病歴

 典型症例は,激しい胸背部痛が突発し移動し,高血

表15 大動脈解離の分類1 解離範囲による分類  Stanford分類

A型:上行大動脈に解離があるものB型:上行大動脈に解離がないもの

  DeBakey分類Ⅰ型: 上行大動脈に内膜亀裂があり弓部大動脈より末

梢に解離が及ぶⅡ型:上行大動脈に解離が限局するⅢ型:下行大動脈に内膜亀裂があるもの

Ⅲa型:腹部大動脈に解離が及ばないⅢb型:腹部大動脈に解離が及ぶ

2 偽腔の血流状態による分類偽腔開存型: 偽腔に血流があるもの.部分的な血栓の

存在はこの中に(CT所見で,一部でも偽腔に造影剤の染まりがある)偽腔血栓閉塞型:偽腔が血栓で閉塞している(CT所見で,偽腔に造影剤の染まりが全くない)

3 病期による分類急性期: 発症2週間以内.48時間以内を超急性期とする亜急性期:発症3週目(15日目)から2か月まで慢性期:発症後2か月を経過したもの

表16 大動脈解離に関係する検査とその所見解離を強く疑う所見

高血圧の既往,来院時高血圧突然の発症,引き裂かれ,移動する痛み血圧左右差>30mHg

心エコー 偽腔が確認できることがある心のう液の貯留,大動脈基部の拡張,大動脈弁閉鎖不全,胸水の有無を見る

血液検査 D-dimerで正常範囲なら解離である可能性は5~10%以下最大CRP値>15mg/dLは独立した呼吸不全の関連因子で ある

CT検査 (1)観察のポイント:上行大動脈の解離の有無,偽腔が開存しているか心嚢液の貯留,偽腔の真腔への圧排の程度,分枝への解離の波及,分枝は真腔からでているか,最大短径および偽腔径,解離の範囲,ulcer-like projection 等

(2)偽腔内血栓:石灰化部分の外側の辺縁のスムーズな low density壁在血栓:石灰化部分の内腔側の low density,まれに例外あり

(3)CTは単純,造影ともに必要:単純CTは解離腔内血栓と真性瘤+壁在血栓の鑑別に有用high density(発症数時間から亜急性期まで)→解離腔内血栓high densityでない→新しいものではない→壁在血栓や古い解離の可能性

(4)撮像範囲は大動脈弓部より少し上から骨盤部まで

血栓化偽腔

石灰化

壁在血栓

(2)

(3)

Page 49: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1409Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

圧を伴い心電図で有意なST変化がない等の所見がそろっている場合である.一方,主訴がはっきりとした痛みではない頻度は10%あり,その際の主訴は失神,心不全,脳血管障害等である.無痛性のAADは5.9~6.4%程度存在する.特に意識障害が主訴である場合,経過中に胸背部痛があれば,本疾患による可能性を考える.

②身体・血液所見

 四肢の血圧差,大動脈弁閉鎖不全の雑音,奇脈,心不全徴候等がないかに留意する.炎症反応や貧血の有無もチェックする.Dダイマー測定が高感度(88~100%)であり,本疾患の除外には有用であるが,その感度は必ずしも100%ではなく,また特異度は低いのでその利用には注意が必要である.

③心電図,胸部X線,心エコー検査

 急性冠症候群の有無,心嚢液,大動脈弁逆流,剥離内膜の有無をチェックする.

④CT検査

 確定診断は造影CT検査によってなされる.発症直後を除いて亜急性期まで,血栓化偽腔は単純CTでhigh densityを示し壁在血栓との鑑別に極めて有用である. 症状が多彩であり特異度の高い生化学マーカーがないことが診断を難しくしており,誤診率は38~57%と極めて高い.2005年度の東京都CCUネットワークの報告ではその死亡率(8.5%)は急性心筋梗塞の死亡率(6.5%)より高い.

3 初期治療(表17)105)

①降圧

 一般的に来院時の血圧が高く,特にB型のほうがA

型に比べて血圧の高い.診断が確定しなくても疑われれば,その時点で降圧治療を開始する.降圧目標は,収縮期血圧100~120mmHg.超急性期は動脈圧ラインを確保して,厳密な血圧管理を行う.速やかな降圧のために静注薬を開始する.ニカルジピン,ニトログリセリン,ジルチアゼム,β遮断薬等を用いる.ニカルジピン原液(1mg/mL)は3mL/hrから開始して,痛みが消失し降圧目標に達するまで上限なく増量する.その際に静脈炎の予防に留意する.痛みの持続は解離が進行している兆候と考え,さらなる降圧をはかる.

ニカルジピン単独で管理が不良で脈拍数が速い場合は,禁忌がなければプロプラノロール2mgをゆっくり静注してもよい.臓器血流障害が認められる場合は収縮期血圧で130mmHg前後を目標とせざるを得ない.手術直前の開存A型解離の血圧は,心タンポナーデの発症を回避すべく80~100mmHgまで下げる.合併症のないB型解離では,過度の降圧により急性腎不全となることがあるので血圧の管理は110~130mmHg程度でもよい. 入院翌日に急性腎不全がなければ,その時点から,経口降圧剤を開始する.短時間作用型のβ遮断薬を第一選択とする.静注薬の減量も開始し,第3病日にはカルシウム拮抗薬を加え,さらに静注薬を減量する.降圧が不十分で腎機能に問題がなければ同日中にACE阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬等を加えて,静注薬を減量し,3~4病日には中止することを目指す.静注薬の中止で動脈圧モニターを中止する.

②鎮痛

 強い痛みは内因性のカテコラミンを誘発して降圧を妨げる.降圧と同様に診断確定前であっても鎮痛薬を使用する.ある程度血圧が下がっても痛みが持続する場合は,塩酸モルヒネまたはブプレノルフィンをゆっくり静注する.不足なら同量を追加する.麻薬性鎮痛薬では呼吸抑制および嘔吐による血圧上昇を来たすことがあり,注意が必要である.

③酸素投与

 低酸素血症を来たしている可能性があるので酸素投

表17 大動脈解離への初期対応降圧  

ニカルジピン 3mL/hrで持続静注開始.1mLずつbolusしつつ持続量を増量ブロプラノロール2mgゆっくり静注 動脈圧ライン留置.降圧目標は100~120mmHgと痛みの消失

鎮痛 塩酸モルヒネ1mgまたはブプレノルフィン5mg 必要なら同量を追加

酸素投与 マスク 4L/分血圧低下への対応 心タンポナーデ,破裂の確認

輸液,必要なら穿刺やカテコラミン投与腎機能保持 補液,尿量モニターのためのバルン挿入

は十分に降圧後に経口降圧剤は代病日で急性腎不全のない場合に

不穏の予防 家族の協力,睡眠薬や鎮静薬の投与安静と食事 48時間は強い安静で絶食.飲水は可入院翌日のCT検査 すべての血栓閉塞A型,偽腔による真腔

が著しく圧排,分枝血流の低下による臓器虚血,痛みの持続するとき

Page 50: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1410 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

与を行う.安静臥床による無気肺,麻薬性鎮痛剤や鎮静剤による呼吸抑制,広範な炎症によるSIRS(全身性炎症反応症候群)と思われる病態による胸水貯留が原因となるCRPが高いほど胸水が多い傾向にある.胸水は発症およそ3~7日をピークとして減少していく.他には急性大動脈弁閉鎖不全や合併する睡眠時無呼吸が関与していることもある.胸部レントゲン写真を連日撮影して胸水を評価する.最大CRP値>15mg/

dLは独立した呼吸不全の関連因子であり,CRP値により呼吸不全を予測する.

④突然の血圧低下への対応

 診断が確定している患者の突然のバイタルサインの悪化,特に血圧の低下は,心タンポナーデか,胸腔内への破裂の可能性を考える.原因は前者が多い(→Ⅶ.-4心タンポナーデ参照).心嚢穿刺に関しては,穿刺により血圧を急激に上昇することがあり,穿刺直後の血液の吸引はしない.すぐに静注降圧薬をbolus投与できるように準備をしておく.その後,血圧が下がれば血圧をモニターしながら極めて少量ずつ心嚢液の吸引をする.穿刺後の目標血圧は80mmHg程度とする.心嚢液にすでにフィブリン塊が出現している場合は穿刺時に血液の吸引が確認できないことがある.心タンポナーデ確認できなければ,胸腔内への破裂の可能性が高く,補液をしつつ手術の準備をする.その間はカテコラミンの使用もやむを得ない.

⑤急性腎不全

 超急性期の降圧による腎血流の減少,造影CT検査による腎への負担,経口摂取の低下が引き起こす脱水,解離による腎動脈へ影響等により急性腎不全が発症する.尿道バルーンを留置して厳密に管理すべきであるが,留置時の疼痛により血圧の上昇を来たすことがあるため,血圧が十分落ち着いてから病棟で留置する.また,心機能に注意しながら,造影剤のwash-outも行う.長時間型の降圧剤は腎不全により排泄遅延から低血圧の遷延やさらなる腎不全の悪化を生じる可能性があるために,内服薬は短時間型を入院翌日以降に開始する.

⑥不穏への対応

 厳しい安静や低酸素血症を背景に高率に不穏を生じる.不穏の予防が重要である.家族に対して不穏の可能性が高いことをよく説明し,付き添いを依頼し精神的不安を減らすとともに日中の患者さんへの話しかけ

により昼夜逆転を予防する.安定薬,睡眠薬を予防的に投与するが,投薬により逆に不穏が悪化することもあるため注意する.重度の場合は静注薬による鎮静が必要だが,呼吸抑制が出現するので,厳重な管理下で行う.ある程度の夜間睡眠,安静度があがること,食事の開始が不穏解消されるための要件である.

⑦胸痛,背部痛の再出現

 経過中の痛みの出現は,再解離を疑う.鑑別すべきは,長時間の臥床による腰背部痛,便秘による腹部違和感,胸膜炎等の合併による胸痛等であるが鑑別は難しい.痛みの性状で判断することも多いが,CT検査が必要となることも多い.

⑧フォローCTの撮像のタイミング

 すべての血栓閉塞A型,偽腔による真腔への圧排所見のあるもの,痛みがコントロールされないもの,臓器虚血が疑われるものは不安定であり,入院翌日にもCTを施行し手術適応を再検討する.

⑨安静度

 発症から48時間以内の予後が不良であることより,ここまでの安静度を低く保ち,その後ゆっくりと安静を緩めてゆく.

⑩食事

 発症48時間以内の絶食を原則とする.解離の型,患者の不穏の程度,腸管虚血の有無等考慮に入れ食事を開始する.飲水は可とする.

4 治療方針 105)

 表18に手術適応を示した.一般に,偽腔開存型のA

型解離は手術の適応であり,B型解離は臓器虚血や破裂の所見がなければ保存的に治療する.ただし,腸管虚血は予後不良であり,CPKの上昇やアシドーシスが進行する以前に,腹痛の持続と造影CTまたは腹部エコーにおける上腸間膜動脈の狭窄等の所見で手術を検討すべきである.血栓閉塞A型の治療方針は施設によって異なるが,上行大動脈径や偽腔径の大きなもの,心タンポナーデ症例等を手術適応とする.一方,上行大動脈径や偽腔径が小さければ保存的に経過観察可能だが,必要時に緊急で手術ができる体制が整っており,極めて厳重な管理ができることである.血栓閉塞A型で上行大動脈の最大短径が45~50mmの場合の手術適応は,偽腔径,年齢,痛みのコントロール,基礎疾患等を考慮に入れて総合的

Page 51: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1411Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

に判断すべきである.

2 急性心不全

① 急性心不全とは,「心臓に器質的および /あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室充満圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性に出現した状態」をいい,6病態に分けられる.

② 蘇生の必要性,不穏の有無,酸素飽和度,心リズム,収縮期血圧,前負荷の状態を見ながら治療を開始すると同時に診断を進める.

③ Warm/Cold・Dry/Wetクリニカルプロフィール分類を活用する.

④ 入院で患者をモニターする.初期治療にあたっては,心不全の病態と重症度を分析し,まず特異的な治療を施行すべき疾患を判別していく.

⑤ 利尿薬,各種血管拡張薬,カテコラミン系強心薬,PDE阻害薬,アデニル酸シクラーゼ賦活薬等を使用する.

⑥ 急性心原性肺水腫では酸素投与を開始し,SaO2>95~98 %(PaO2>80mmHg)を維持する.PaO2が80mmHg未満,PaCO2が50mmHg以上,頻呼吸,努力性呼吸等ではNIPPVを開始する.それでも呼吸不全が改善しない場合,人工呼吸管理とする.

⑦ 血行動態に対しては,⑤の薬剤を使用する.重症例,治療抵抗例では IABP等の適応を判断する.

⑧ 急性心不全の初期診療の要点をに表記する.

1 定義 106)

 急性心不全とは,「心臓に器質的および /あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室充満圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性に出現した状態」をいう.急性心不全の6病態の血行動態的特徴を表19に示す.

2 診断と重症度評価 106)

 急性心不全の診断手順とそれらに応じた初期治療を示す(図26).心不全の程度や重症度を示す分類には,自覚

表18 急性大動脈解離の治療方針Stanford分類 A型 Stanford分類 B型

開存型 手術(クラスⅠ/レベルC)

臓器虚血,破裂なければ保存的(クラスⅠ/レベルC)

血栓閉塞型 下記ならば手術*

(クラスⅡa/レベルC)下記ならば保存的**

(クラスⅡb/レベルC)

臓器虚血,破裂なければ保存的(クラスⅠ/レベルC)

*血栓閉塞A型の手術適応:入院時上行大動脈の最大短径≧50mm,または偽腔径≧12mm,または心タンポナーデ症例

**血栓閉塞A型を保存的治療の適応:上行大動脈の最大短径≦45mm,かつ偽腔の径が小さく三日月型であること,かつ緊急手術ができること,血圧を主とした厳密な患者管理ができること

表19 急性心不全の各病態の血行動態的特徴

心拍数/分 収縮期血圧mmHg 心係数 平均肺動

脈楔入圧Killip分類

Forrester分類 利尿 末梢循環

不全重要臓器血流低下

①急性非代償性心不全 上昇/低下 低下正常/上昇

低下正常/上昇 軽度上昇 Ⅱ Ⅱ あり/低下 あり/なし なし

②高血圧性急性心不全 通常は上昇 上昇 上昇/低下 上昇 Ⅱ -Ⅳ Ⅱ -Ⅲ あり/低下 あり/なし あり中枢神経症状

③急性肺水腫 上昇 低下正常/上昇 低下 上昇 Ⅲ Ⅱ/Ⅳ あり あり/なし なし/あり

④心原性ショック ④─1低心拍出量症候群 上昇 低下/正常 低下 上昇 Ⅲ -Ⅳ Ⅲ -Ⅳ 低下 あり あり ④─2重症心原性ショック >90 <90 低下 上昇 Ⅳ Ⅳ 乏尿 著明 あり

⑤高拍出性心不全 上昇 上昇/低下 上昇 上昇あり/なし Ⅱ Ⅰ -Ⅱ あり なし なし

⑥急性右心不全 低下が多い 低下 低下 低下 Ⅰ Ⅲ あり/低下 あり/なし あり/なし

Page 52: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1412 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

症状から判断するNYHA(New York Heart Association)心機能分類,急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;

AMI)では他覚所見に基づくKillip分類,そして血行動態指標,特に心係数(CI)および肺毛細管圧(PCWP)により判断するForrester血行動態サブセットがある.さらに,身体所見から血行動態臨床像を分類するNohria

らの「Warm/Cold・Dry/Wet」クリニカルプロフィール分類が活用されている.すなわち,起坐呼吸,頚静脈圧上昇,浮腫,肝腫大,腹水,肺ラ音,第Ⅲ音聴取等の臨床所見によりうっ血の有無を判断(Dry/Wet),脈圧狭小化,四肢冷感,意識障害,血圧低下,低Na血症,腎機能障害合併から末梢低灌流(Warm/Cold)を判断して,4つの臨床プロフィールに分類し,治療指針を決定する. Nohriaの臨床プロフィール分類は,Forresterの血行動態サブセットを「Dry/Wet・Warm/Cold」により再構築したものであり,うっ血が主徴であるWetプロフィールの群に対してはニトログリセリン,硝酸イソソルビド,カルペリチド等の血管拡張薬や利尿薬を選択し,末梢低灌流が主徴であるColdプロフィールの群に対してはドブタミン,ドパミン,ミルリノン等の強心薬の選択を,Cold&Wetプロフィールの群に対しては両者の併用を適宜検討する(図27).

3 急性心不全患者のモニタリング

急性心不全患者のモニタリング

クラスⅠ心電図モニター,血圧,パルスオキシメーター(SaO2)(レベルC).

クラスⅡa

Swan-Ganzカテーテルによる血行動態の測定:急性心筋梗塞による心不全(レベルB).Swan-Ganzカテーテルによる血行動態の測定:血行動態が不安定な場合(レベルB).

図27 急性心不全の臨床病型うっ血の有無

低灌流所見の有無

起座呼吸,頸静脈圧上昇浮腫,腹水,肝頸静脈逆流

脈圧減少,四肢冷感,傾眠傾向,

血清

Na低下,腎機能低下

なし

Dry-warm: A

Dry-cold: L

輸液強心,昇圧薬

Wet-cold: C

血圧正常: 血管拡張薬血圧低下: 強心,昇圧薬     機械的補助

あり

Wet-warm: B

利尿薬血管拡張薬

なし

あり

急性心不全

診断へのアプローチ 急性蘇生の必要性 BLS ACLSありなし

診断確定 不穏状態,疼痛 沈静。鎮痛緩和ありなし

診断に基づく治療 動脈酸素飽和度 >95% FiO2 ↑;必要により酸素投与,NIPPV,IPPV 肺うっ血あれば血管拡張薬,利尿薬

低下あり  なし

正常心拍数および調律 ペーシング,不整脈対策他異常あり  なし

収縮期血圧 <90mmHg 血管拡張薬および利尿薬低下なし  あり

観血的血行動態モニター

適切な前負荷条件 問題あり  なし

不十分 → 補液過剰 → 利尿薬および血管拡張薬

強心薬,さらなる後負荷の調整経過観察,血行動態の評価を繰り返す

問題あり  なし

心拍出量保持,臓器灌流維持を示す臨床状況代謝性アシドーシスのあるなし

図26 急性心不全への対応

Page 53: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1413Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

動脈圧ライン:血行動態が不安定な場合(レベルC).心エコー・ドプラ法による血行動態の推定(レベルC).

クラスⅡb

中心静脈ライン(レベルC).

 病態が明らかではない症例や重症例の場合にはSwan-

Ganzカテーテルを用いた血行動態の管理が勧められる.

4 治療方針 106)

①新規発症心不全

 急性心不全では入院治療が原則であり,自覚症状の軽減,低酸素血症の改善,血行動態・循環不全の改善と安定化が急務とされる.初期治療にあたっては,心不全の病態と重症度を分析し,まず特異的な治療を施行すべき疾患(AMIに対する責任冠動脈再開通療法,高度房室ブロックに対する心臓ペーシング,重症心室性不整脈に対する薬物および非薬物療法,心タンポナーデ,肺血栓塞栓症等)を判別していく. 急性心不全の治療では,利尿薬(フロセミド等)は浮腫,肺うっ血の軽減と前負荷軽減に,各種血管拡張薬はそれぞれ,前負荷軽減(硝酸薬),後負荷軽減(ニトロプルシド,ヒドララジン,Ca拮抗薬),前・後両負荷軽減(カルペリチド)に有効である.心拍出量低下状態に対しては,カテコラミン系静注用強心薬(ドパミン,ドブタミン)や,強心作用と血管拡張作用を併せ持つPDE阻害薬(ミルリノン,オルプリノン),アデニル酸シクラーゼ賦活薬(コルホルシンダロパート)は卓越した血行動態改善効果を示す.しかし,最近の報告では,従来想定されていた治療目標としての速やかな血行動態の改善(肺毛細管圧低下と心拍出量増大)が,必ずしも中・長期的予後の改善をもたらすわけではないことが報告されている.

②急性心原性肺水腫の治療

クラスⅠ酸素投与(SaO2>95%,PaO2>80mmHgを維持)(レベルC).硝酸薬(舌下,スプレー,静注)投与(レベルB).フロセミド静注(レベルB).血圧低下例に対するカテコラミン静脈内投与(レベルC).

高血圧緊急症,大動脈閉鎖不全,僧帽弁逆流による急性心不全に対するニトロプルシド静脈内投与(レベルC).著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するCa

拮抗薬(レベルC).著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するループ利尿薬(レベルC).著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するカルペリチド(レベルC).NIPPV抵抗性,意識障害,喀痰排出困難な場合の気管内挿管による人工呼吸管理(レベルC).

クラスⅡa

NIPPV(レベルA).カルペリチド静脈内投与(レベルB).PDE阻害薬静脈内投与(非虚血性の場合)(レベルA).慢性期移行におけるトラセミド投与(レベルC).アデニル酸シクラーゼ賦活薬(非虚血性の場合)(レベルC).

クラスⅡb

PDE阻害薬静脈内投与(虚血性の場合)(レベルA).腎機能障害合併例に対するカルペリチド静脈内投与(レベルB).モルヒネ静注(レベルB).アデニル酸シクラーゼ賦活薬(虚血性の場合)(レベルC).

クラスⅢ腎機能障害,高K血症合併例に対する抗アルドステロン薬投与.高血圧緊急症に対するニフェジピン舌下(レベルC).

 病歴の聴取と左室容量負荷サイン(心室性ギャロップ,肺野:湿性ラ音,胸部X線:肺うっ血所見)により治療の開始を判断すべきであり,収容とともに鼻カニューレやフェースマスクによる酸素投与を開始し,SaO2>95~98%(PaO2>80mmHg)を維持するように管理する.それでもPaO2が80mmHg未満,あるいはPaCO2が50mmHg以上に上昇している場合や,頻呼吸,努力性呼吸等臨床症状の改善が認められない場合には,速やかにマスクによるCPAPや,鼻,顔マスクを用いたBiPAP等のNIPPVを開始する.このよう

Page 54: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1414 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

な場合,従来は,気管内挿管による人工呼吸管理が行われてきたが,NIPPVの導入は自覚症状の軽減と動脈血酸素化,血行動態の改善に効果的である.それでも呼吸不全が改善しない場合,人工呼吸管理とする. さらに肺うっ血を伴う血行動態に対しては,硝酸薬[ニトログリセリン,硝酸イソソルビド(舌下,スプレー,静注)]やフロセミド静注が第一選択とされる.血管拡張作用と利尿作用の両者を併せ持つカルペリチドも有効である.肺うっ血のみならず心拍出量低下を伴う場合には,ミルリノン,オルプリノン等のPDE

阻害薬やアデニル酸シクラーゼ賦活薬(コルホルシンダロパート)が血行動態改善に奏効する.しかし,前述のごとく,血行動態改善効果に優れるミルリノンは,必ずしも入院期間の短縮や予後の改善をもたらすわけではなく,むしろ基礎疾患が虚血性の場合には不利になることが報告された.基礎疾患や病態に応じた強心薬の適応と至適投与量,投与期間の設定が重要と考えられるものの,血圧低下症例や心拍出量低下症例等にはカテコラミン製剤の併用が必要である. さらに重症例,治療抵抗例では人工呼吸管理,IABP等の適応を判断する.モルヒネは肺うっ血の軽減,鎮静に有効であるが,急激な血圧の低下,呼吸抑制,アシドーシスの進行等に注意する.著明な高血圧を認める場合はCa拮抗薬,ニトロプルシド,硝酸薬等の点滴投与により降圧を図る.

③心原性ショックの診断

治療はⅣ -4を参照.

5 急性心不全の初期診療 106)

 急性心不全の初期診療の要点をまとめて表20に列記する.

3 急性肺血栓塞栓症

① 急性肺血栓塞栓症(PTE)の診断は,発症状況,症状,検査による.Dダイマーが正常範囲であればPTEは否定的である.心エコーでの右心室の拡大と心室中隔の扁平化は右室圧上昇を示唆する.

② PTEが強く疑われたら,ヘパリン5,000単位を静注する.抗凝固薬や血栓溶解薬による薬物療法の他にカテーテル治療や手術治療も考慮する.

③ 日常生活動作が低下している人,検査や術後に安静解除となった人,心疾患や肺疾患のない人が突然心肺停止になった場合には,PTEの可能性を念頭におく.

④ 心肺蘇生例ではPTEの身体所見や検査所見が心収縮能低下,心室内伝導障害等で大きく修飾されやすい.

⑤ ヘパリンbolus投与後に tPA(モンテプラーゼ)を静脈内投与する.血行動態が安定しない場合は,早めにPCPSを作動する.

⑥ 確定診断はMDCTや肺動脈造影による.診断確定後の治療方法は薬物治療,カテーテル治療,緊急肺血栓摘除術となる.

表20 救急処置室での初期治療呼吸管理 気道確保:クラスⅠ,レベルC

酸素投与:クラスⅠ,レベルC酸素投与のみで酸素か不十分な場合のNIPPV(CPAP,BiPAP):クラスⅡa,レベルA酸素投与のみで酸素か不十分な場合の気管内挿管:クラスⅠ,レベルC

基礎疾患の治療(可能な場合)

急性心筋梗塞に対する再灌流療法:クラスⅠ,レベルA急性大動脈解離に対する外科治療:クラスⅠ,レベルC徐脈性不整脈に対する一時的ペーシング:クラスⅠ,レベルC心タンポナーデに対する心膜穿刺ドレナージ:クラスⅠ,レベルC

急性心不全の各病態に応じた薬物治療

硝酸薬舌下,スプレーまたは静脈内投与:クラスⅠ,レベルB心停止時のアドレナリン(エピネフリン)静注:クラスⅠ,レベルB急性肺水腫に対する利尿薬静注:クラスⅠ,レベルC著明な高血圧を伴う肺水腫におけるニトログリセリン,Ca拮抗薬,ニトロプルシド静注による降圧:クラスⅠ,レベルC心原性ショックに対するカテコラミン:クラスⅠ,レベルC薬物治療で循環動態が改善しない場合の補助循環:クラスⅠ,レベルC救急処置室での初期治療後,急性冠症候群の治療のために速やかにCCUへ搬送:クラスⅠ,レベルCモルヒネ静注:クラスⅡb,レベルB高血圧緊急症のニフェジピン舌下:クラスⅢ,レベルC心停止時の心腔内注射:クラスⅢ,レベルC

Page 55: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1415Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

⑦ 発症直後の二次予防は,抗凝固療法と下大静脈フィルターを考慮する.弾性ストッキングや間歇的空気圧迫法は,血栓を血管壁から剥離する危険性がある.

  循 環 器 救 急 で 急 性 肺 血 栓 塞 栓 症(pulmonary

thromboembolism:PTE)に対応する場面には,通常の診療と心肺停止後の自己心拍再開時がある.

1 通常診療時におけるPTEの診断・治療の流れ(図28右)

 PTEの症状は,無症状から呼吸困難,ショック・失神,心肺停止に至るまで多彩であり,急性心不全,急性呼吸不全,不整脈,大動脈解離,虚血性心疾患等との鑑別が必要である107).発症状況や身体所見からPTEが鑑別対象となり,胸部X線,心電図,血液ガス,心エコー,静脈エコー等の検査により本症が強く疑われたら,ヘパリン5,000単位の静注が勧められる(クラスⅠ).Dダイマーが正常範囲であればPTEは否定的であり,高値であれば積極的にMDCTや肺動脈造影等に進む.治療法は抗凝固薬や血栓溶解薬が一般的であるが,カテーテル治療や手術治療に関する成績も近年向上している.

2 PTEの発症頻度と死亡率 我が国の統計によると2000年の一般人口1万人当たりのPTEの発症頻度は0.32例108)であり,死亡診断書に

よる人口動態調査109)や剖検例からみた年齢調整死亡数でも増加110)している.全国アンケート調査では,PTE

の院内死亡率は14%であるが,心肺停止例の死亡率は52.4%111),112)と心肺停止での死亡率は極めて高率となる.また,周術期PTE発症頻度は医療側の予防意識の向上により低下したが,その死亡率には未だ低下がみられていない113).

3 突然死の病態 PTEによる死亡例の時間経過を見ると,PTEの死亡例は発症早期,特に1~2時間以内で死亡することが特徴といえる114)-118).突然死例における肺動脈内新鮮血栓は,肺動脈主幹部ないし左右肺動脈の本幹に存在し,ほとんどの例で右心室の拡大と心室中隔の扁平化が認められる.これはPTEの死因は,新鮮血栓が突然肺動脈近位部を閉塞して急性右心不全を来たし,左室を圧排すると同時に前負荷が減少し,心拍出量が著しく低下することが直接死因であることを示している.また,院外突然死例では,肺動脈内に器質化血栓を合併しており,繰り返し肺塞栓が生じている119)ことが報告されている.

4 救命処置と併行した診断(表21,図28左)

 救急現場では蘇生と併行して原因検索が行われる.発症状況としては,日常生活動作が低下している人,また,心疾患や肺疾患のない人が突然心肺停止になった場合には,PTEの可能性をまず念頭におく.特に検査や手術後

図28 肺血栓塞栓症(PTE)診療アルゴリズム

あり なし

発症状況,身体所見,ECG,CXP,ABGから PTEを疑う

ヘパリン 5,000U クラスⅠ

UCGで右室負荷

ヘパリン APTT1.5~2.5倍tPA 13,750~27,500U/kg

PTE以外の原因検索

確定診断を行う

肺血栓摘除術 orカテーテル治療 or薬物療法

安定 不安定可能であれば

可能であれば

発症状況,身体所見,検査所見(ECG,CXP,ABG,UCG,静脈エコー)から PTEを疑う

ヘパリン 5,000U クラスⅠ

Dダイマー 高値

MDCTや肺動脈造影その他の確定診断を行う

PTE以外の原因検索

あり なし

深部静脈血栓があれば

非永久留置型 IVCフィルタークラスⅡa

薬物療法 クラスⅠカテーテル治療 クラスⅡb肺血栓摘除術 クラスⅡb

心肺蘇生後で自己心拍出現 日常診療

血行動態

非永久留置型IVCフィルター

PCPS

Page 56: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1416 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

の安静解除後の院内急変は,PTEによることが多い. 身体所見としては頸静脈怒張,肺ラ音がない頻脈およびⅡ音の亢進に留意する.心電図ではSⅠQⅢTⅢ,完全ないし不完全右脚ブロック,V1~3の陰性T波,aVRの r'

波,SV6,V1~2のST上昇等が急性右心負荷の際に認められやすい.急性冠症候群との鑑別にⅢとV1の陰性T

波が有用との報告120)もある.胸部X線では肺うっ血がないこと,血液ガス所見では低酸素低炭酸ガス血症等で,本症を疑う.しかしながら,心肺蘇生例では,心音は聴取し難く,蘇生直後の心電図では急性右心負荷所見は認め難くなる.また,血液ガスも判定困難となり,最も有用なベッド・サイドの検査は心エコー図である.経食道心エコーが緊急施行可能であれば,肺動脈内に血栓を検出することで診断確定となる.急激に右室圧が上昇による右心拡大が認められれば,PTE疑いとして心肺蘇生中であっても,ただちに治療を開始することが望まれる.

5 薬物治療(図28左)

 PTEが疑われた段階でのヘパリン5,000単位をbolus

投与(クラスⅠ)する.これに加えて心肺停止例にも線溶療法の追加115)が考慮される.心肺蘇生術施行例に対する血栓溶解薬の使用は,出血性合併症が多く禁忌と考えられていたが,Boettigerらは14文献から34症例の調査を行い,心肺蘇生中にウロキナーゼ200~300万単位のbolus投与ないし組織プラスミンアクチベーター(tPA)を使用することによる初期救命率が55~100%と報告121)した.さらに,15分以内に蘇生できなかった心原性院外心停止90例を対象した前向き試験では,ヘパリン5,000単位投与後に tPA50mgを2時間かけて静注を行い68%に自己心拍が回復し,対照群の44%と比して有意に高率であったと報告122)されている.tPA100mgによる線溶療法は有用性でないとの報告もあるが123),tPA

使用例により自己心拍回復率が上昇するとの報告も多い124),125).我が国ではPTEに対して保険収載されているtPAはモンテプラーゼのみであり,線溶療法としては13,750~27,500単位 /kgを約2分間かけて静脈内投与することとなる.(器質的心疾患や肺疾患がなく,状況か

らPTEが強く疑われる場合,蘇生中や直後の線溶療法はクラスⅡa). 血栓溶解薬は心肺蘇生中に使用されなくても,心肺停止例では自己心拍再開後早期に使用することが勧められる.1995年のショック例に対する無作為試験において,ヘパリンのみでは全例死亡,線溶療法を加えた群では全例生存との結果が得られ,8例施行した時点で倫理的見地から中止された報告126)があり,その後ショック例(massive PTE)に対する線溶療法は欧州のガイドラインでも推奨127)されている.穿刺部や手術創部からの出血は当然起こりうる現象であるが,PTEによる心肺停止例の救命率向上の手段として,線溶療法は選択肢として評価115)されている.ただし,その効果や合併症について,十分に家族に説明しておくことが大切である.

6 PCPS使用の場合 薬物投与後もショックが遷延して血行動態が安定しない場合は,時機を失せずPCPSを作動する(図28左).PCPSは循環虚脱・ショック例に対して効果が大きい補助循環である.PCPS使用下では肺血流量が低下するため肺動脈造影が不良となりやすく,効果的な造影剤注入方法や撮像方法が模索されている.診断確定後の治療方法は緊急肺血栓摘除術,カテーテル治療,薬物治療となるが,この3方法の優劣を比較した報告はなく,各施設において実績のある方法ないし短時間で実施しうる方法が選択されている. PTEの手術治療が施行可能な施設は我が国では比較的限られている.その成績は,1999年から2003年にかけては9.3%~31.3%(平均20.4%)の死亡率128)である.世界的に見てもPTEに対する手術成績129)は1985年以前の死亡率は32%,それ以降は20%であり,2000年以降のみでみると12%と確実に向上している.カテーテル治療107)には肺動脈血栓内にカテーテルを直接入れて行う血栓溶解,PCI用のガイドカテーテルや専用カテーテルを用いた血栓吸引130),ピッグテイルカテーテルやガイドワイヤーを用いた血栓破砕等が行われる.また,これらを組み合わせた方法131)も試みられている.カテーテル治療施設は増加しつつあり,今後の評価が期待される.これらの方法に比してショック遷延例であっても薬物療法を第一選択とする施設は多い.FDAは tPA100mg

を2時間かけて静脈内投与する方法107)を承認している.蘇生中ないし直後に tPAが使用されていたら,1,400単位 /時のヘパリン持続静注を開始し,その後はAPTTが1.5~2.5倍になるように調節107)する方法が一般的である.これらの治療により血行動態が安定したら,二次予

表21 急性肺血栓塞栓症の身体所見および緊急検査所見身体所見 頸静脈怒張,Ⅱ音亢進,肺ラ音なし,頻脈胸部X線 肺うっ血なし,炎症像なし心電図 SⅠQⅢTⅢ ,右脚ブロック,V1−3の陰性T波,

aVRの r’波,V6のS波血液ガス 低酸素血症,低炭酸ガス血症心エコ− 右心拡大,左室狭小化,右心内血栓,右室圧上

昇Dダイマー 高値

Page 57: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1417Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

防を考慮した急性期管理へと移行する.

7 PCPS非使用の場合

①PCPSを常備していない施設の場合

 救急現場では物的,人的理由でPCPSを使用できない場合がある.その場合,心肺蘇生後速やかにヘパリンと tPAを投与し,少しでも血行動態が改善することを期待する.ショック例では二次予防のため,できるだけ早期に非永久留置型下大静脈フィルターを挿入する施設が増えている(クラスⅡa).その後自施設で管理するか,しかるべき専門施設に搬送するかを決定する.安定しない場合では,設備があり経験を有する術者がいれば早期のカテーテル治療も選択肢となる.

② 血行動態が比較的安定しPCPSを作動しなくてもよい場合

 確定診断を進めるとともに,二次予防を考慮する.心エコー図にて右心内ないし肺動脈内に血栓を認めた場合,または,MDCTや肺動脈造影で肺動脈内に血栓を確認した場合には診断は確定する.心肺蘇生後血行動態が比較的安定した場合の治療は,tPAとヘパリンを使用する薬物療法が基本となる.全身状態や肺動脈圧の改善の状態,また肺動脈内血栓量を鑑みて,各施設の方針によりカテーテル治療や肺血栓摘除術を選択する場合もある.診断確定されたら速やかに二次予防法を検討する.

8 二次予防について PTEの発症直後の二次予防に関するエビデンスはない.一次予防法である弾性ストッキングや間歇的空気圧迫法は,急性期には残存する深部静脈血栓が血管壁から剥離する危険性があるため使用しない施設が多い.二次予防法としては,抗凝固療法は,禁忌がなければ全例に行われるが,下大静脈フィルターについては特にショック例では原則全例に使用すべきとの見解と,MDCTや静脈エコーで深部静脈血栓がなければ下大静脈フィルターは不要との見解がある.前者の考えは発症早期には82%と高率に残存深部静脈血栓を認める132)ため,確実性の高いフィルターを留置し,全身状態が許す限りできるだけ早期に,日常生活動作(ADL)を上げて静脈うっ滞を回避して,深部静脈血栓の形成を予防すべきというものである.後者の考えは,十分な抗凝固療法下では深部静脈血栓がなければ肺塞栓の再発は少ないので,フィルターは不要というものである.

 急性期管理中に再発を思わせる症状の発現頻度は,非永久留置型下大静脈フィルターを使用することにより減少するとの報告133)がみられる.また,下大静脈フィルターの使用は予後改善に効果があるとの本邦報告112)もある.下大静脈フィルターの永久留置は静脈血栓を生じやすくすることが知られており134),かつ,PTEでは長期留置の必要性がないことが多い.したがって,急性期に下大静脈フィルターを使用する際には,回収可能型ないし一時留置型フィルターを使用することが望ましい.

 心肺蘇生後超急性期におけるPTEにおける我が国のエビデンスは極めて少ない.心肺停止例においては症例ごとの病態は大きく異なり,対応する病院の状況も様々であるため,実際の診断や治療は必ずしもガイドライン通りとはならず,専門施設への転送含めて現場に即した柔軟な対応が求められる.

4 心タンポナーデ

① 心タンポナーデでは,心外膜に血液や滲出物等,心室拡張不全により静脈圧の上昇と心拍出が低下し,無脈性電気的活動の原因となる.心嚢液貯留の速さと心外膜のコンプライアンスにより少量の貯留でもタンポナーデを生じる場合がある.

② 静脈圧の上昇,頻脈,奇脈等の所見のほかに心エコーが診断に有用である.

③ 補液やエコーガイドの心嚢穿刺を行う.急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂や外傷等による出血性のタンポナーデでは,基本的に外科的な修復が必要である.

1 心タンポナーデの血行動態と病態生理

 心タンポナーデは,心外膜に血液や膿性滲出物等の貯留や凝血塊等により,心室拡張不全により静脈圧の上昇と心拍出が低下し,無脈性電気的活動(PEA)の原因となる致死的な状態である.その原因として,急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂,外傷,開心術後,カテーテル治療や人工ペースメーカ植込み等の医原性,悪性腫瘍,感染性,自己免疫性,アミロイドーシス,甲状腺機能低下,腎不全等がある(図29).大量の心嚢液によることが多いが,心嚢液貯留の速さと心外膜のコンプライアンスにより少量の貯留でもタンポナーデを生じる場合がある.正常の右房内圧の測定では,x,y下行谷を示すが,

Page 58: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1418 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

心タンポナーデでは,平均右房圧の上昇とy下行谷の消失示す.右室圧と体血圧の呼吸性変動は正反対となり,吸気で血圧は低下し右室圧は上昇し,呼気ではその逆となる135).

2 心タンポナーデの診断心タンポナーデの診断

クラスⅠ  身体所見による診断静脈圧の上昇,頻脈,奇脈(レベルC).

      心エコーによる診断(レベルC).クラスⅡa  スワン・ガンツカテーテルによる心内

圧測定(レベルC).クラスⅡb  心電図診断(レベルC).

 古典的なBeck三徴は,血圧低下,静脈圧の上昇,心音減弱であるが,実際に重要な所見は,静脈圧の上昇(頻度100%),頻脈(≧100 bpm; 81~100%),奇脈(吸気時の血圧低下≧10mmHg; 98%)である136).なお,Kussumal sign(吸気時の静脈圧上昇)は,収縮性心外膜炎の所見である.

 Mモードもしく断層心エコーによる評価として⑴心外膜のエコーフリースペース,時に血腫の存在,⑵拡張早期の右室の虚脱,⑶下大静脈(IVC)拡張と呼吸性変動の消失,⑷右心房の収縮期の虚脱,⑸吸気時左室容量減少,右室容量増加,⑹心臓の振り子様運動(swinging

heart)があるが,最も重要な所見は⑵と⑶である137).ドプラ法による評価としては,心室への流入波形の呼吸性変動を見る.すなわち,僧帽弁流入波形は吸気で減少し呼気で増加するが,その変動率が25%以上,もしくは三尖弁流入波形が吸気で増大し呼気で減少するが,その変動率が40%以上であれば心タンポナーデとする154).ただし,これらの心エコー所見は脱水の状態では欠如することがある.また,開心術や外傷後には心膜の癒着や特に右心系に限局性した凝血塊がタンポナーデを来たす.このような場合には心嚢穿刺による解除は困難であり,緊急の開心術が必要となる138). 心電図所見では低電位と交代性にQRS電位が変動することがある.

3 心タンポナーデの治療心タンポナーデの治療

クラスⅠ補液(レベルC).エコーガイド心嚢穿刺(レベルC).外科的手術(レベルC).

クラスⅡa

血圧維持のための昇圧剤投与(レベルC).

クラスⅡb

非エコーガイド心嚢穿刺(レベルC).クラスⅢ

利尿薬投与(レベルC).

 脱水は,心タンポナーデの状態を悪化させる.また,十分な輸液をしたうえでカテコラミンの使用も考慮するが,そのために心嚢穿刺を遅らせてはならない. 非エコーガイドの心嚢穿刺では,剣状突起―肋骨角の左側から穿刺することが勧められていたが154),その場合には致死的合併症が20%前後生じるのに比して,エコーガイドとすることで主要合併症は1.4%まで低下する139).エコーガイドでは穿刺部位として,傍胸骨や心尖部を選択することが多い.穿刺針の位置が明らかでない場合には,用手撹拌した生理食塩水等を注入してエコーで確認する.心嚢穿刺用キットも存在するが,中心静脈カテーテルキットやピッグテイルカテーテルを用いて

原因  急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂,外傷,開心術後カテーテル治療や人工ペースメーカ植込等の医原性悪性腫瘍(原発,転移性,リンパ腫)感染性自己免疫性,Dresslers症候群,薬剤性,放射線性甲状腺機能低下,腎不全 ,アミロイドーシス

身体所見 Beck3徴:動脈圧の低下,静脈圧の上昇 心音減弱 頻脈 奇脈:吸気時の血圧低下≧10mmHg

心エコー図診断 1 エコーフリースペース(図A),時に血腫2 拡張早期の右室の虚脱(図B矢印)3 下大静脈(IVC)拡張と呼吸性変動の消失4 右心房虚脱 吸気時左室容量減少,右室容量増加5 心臓の振り子様運動 swinging heart6 ドプラ法 僧帽弁流入波形:吸気↓呼気↑,変動率≧25% 三尖弁流入波形:吸気↑呼気↓,変動率≧40%

図B図A

図29 心タンポナーデの診療

Page 59: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1419Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

もよい.穿刺液は,血球数,ヘマトクリット,細菌染色,細菌培養,細胞診断等を解析する. 急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂や外傷等による出血性のタンポナーデでは,基本的に外科的な修復が必要であり,心嚢穿刺は血行動態の一時的な改善により手術までの時間を稼ぐだけである140). 心タンポナーデの状態で心不全と誤診されて利尿薬を投与されると急激に血行動態が悪化することがあり注意を要する.

5 急性心筋炎

① 心筋内の炎症によって心筋細胞壊死と心臓ポンプ機能障害が引き起こされる病態を急性心筋炎と呼ぶ.

② 感染症あるいは全身性炎症性疾患を反映する病歴と検査所見を認め,心筋壊死を反映して血中の心筋逸脱物質が上昇する.心電図所見が短期間に変化することが特徴である.心不全あるいは不整脈が現れ,重症例はショックあるいは突然死に至る.

③ 心筋炎の診断には,虚血性心疾患等他疾患の鑑別と,心筋炎を確認するための心内膜心筋生検が重要である.

④ 循環を維持する初期治療を行いながら集中治療が可能な施設への搬送を検討する.特に,ショック,房室ブロック,致死性不整脈,低血圧遷延,CPK

上昇の持続,R波減高の持続,心室内伝道障害,左室壁運動異常の進行を認める場合は集中治療が必要である.

⑤ 好酸球性心筋炎と巨細胞性心筋炎はステロイド治療の適応.リンパ球性心筋炎の場合はステロイド治療の適応はなく,血行動態を管理する.肉芽腫性心筋炎ではサルコイドーシスを疑い全身検索を進め,診断が確定すればステロイド治療を行う.

⑥ 劇症型心筋炎によるショックでは大動脈内バルーンパンピングに加えて積極的に経皮的心肺補助装置を装着する.

1 急性心筋炎とは

 心筋内の炎症によって心筋細胞壊死と心臓ポンプ機能障害が引き起こされる病態を急性心筋炎と呼ぶ.原因はウイルス感染が多いが,ウイルス以外の病原体による感染症やアレルギー反応,自己免疫反応,薬物や化学物質による中毒,放射線障害等でも発症することがある.性

差なくあらゆる年代に発症するが,若年者と小児に多い傾向がある.感染症あるいは全身性炎症性疾患所見とともに心筋逸脱物質が上昇する.心筋傷害を反映した心電図異常が短期間に変化することが心筋炎の特徴である.心不全あるいは不整脈を伴い,重症例はショックあるいは突然死に至る.心筋炎の重症度は様々であり,軽い動悸を訴えるだけの軽症例から致死的な劇症型心筋炎まで幅広く,また軽症例が短期間に重症化することもまれでない.

2 症状と経過 心筋炎では,発熱とともに全身倦怠感,悪心,嘔吐,腹痛,下痢等全身症状が先行し,その後に咳嗽,全身衰弱,フラツキ等が現れ,続いて胸痛,低血圧,失神,ショック等の心症状が出現してくる141).劇症型心筋炎では発熱からショックまでの期間が2~4日間と短いことが多く,全身症状期と心症状期の間に小康期間を認めないことが多い.急性期にはショックや心静止等の心臓ポンプ機能障害が数日間(4~7日間)続くが,やがて自然治癒に向かう.炎症の消退とともに不整脈は減少し,左室壁運動は改善する.心筋傷害の程度によって,後遺症として不整脈や心機能障害を残すこともある.循環補助装置を用いて管理された劇症型心筋炎の急性期死亡率は40.4%と報告されている141).逆に,心筋炎は突然死の原因疾患として重要である.特に若年者や小児の突然死では5~20%が心筋炎を基礎疾患としていると報告されている142),143).院外心肺停止から蘇生された症例を診療するときは,原因疾患の1つに急性心筋炎を考えておかなければならない.

3 診断診断法の有用性

クラスⅠ (レベルC)心筋生検.

クラスⅡa(レベルC)67Gaシンチグラフィー.造影MRI.総合判断(心筋傷害所見と,心電図および心エコー図の経時変化).

 虚血性心疾患,感染症を契機に代償不全に陥った心筋症,タコツボ型心筋障害等を鑑別する.患者あるいは家族から病歴を聴取し,全身症状期の有無を探る.心筋炎にみられる心電図所見はST-T異常,房室ブロック,心室内伝導障害,R波減高,異状Q波,低電位差,等であ

Page 60: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1420 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

る141).急性心筋梗塞と同様にST上昇を呈するが,心筋炎では広範な誘導に変化を認め,鏡像変化を認めない.また,短期間で刻々と心電図所見が変化する.血液検査では血中トロポニンTとCK-MB等の心筋逸脱物質が上昇する.また,心不全によるBNP上昇や炎症所見によるCRPや白血球数上昇を認める.重症例で多臓器不全を呈すると腎障害,肝障害,播腫性血管内凝固症候群等を呈してくる.心エコー図では141),間質の炎症性浮腫により左室壁厚が部分的に増加する.このとき心電図学的左室肥大は伴わない.また,左室壁運動はびまん性に低下し,特に壁厚が増加している領域の壁運動低下が強い.壁厚と壁運動異常は短期間で刻々と変化する.また,心嚢液の貯留をしばしば伴う.心臓MRI検査では炎症性浮腫を含む病変がT2強調画像で濃染されることから心筋炎の存在診断に利用されている.また,心筋炎ではガリウムシンチグラムで集積像を認めることがあり,陽性所見が得られたときは特異度が高いが,感度はあまり高くない.急性期に心室頻拍,高度房室ブロック,心室細動等の多彩な重症不整脈が繰り返し出現することがある.心疾患の既往がない症例に,多彩な重症不整脈が繰り返し出現するときは,心筋炎を鑑別する必要がある(図30). 急性心筋梗塞と急性心筋炎は鑑別が困難なことがあるので冠動脈造影で鑑別する.急性心筋梗塞を心筋炎と判

断して再灌流療法の機会を逸さないことが重要である.冠動脈造影で虚血性心疾患が否定できたら心内膜心筋生検で積極的に組織診断を確定することが望ましい.劇症型心筋炎では2~3個の生検標本でも陽性的中率が高い.また,リンパ球性心筋炎,好酸球性心筋炎,巨細胞性心筋炎,肉芽腫性心筋炎の各組織型によって治療法と予後が異なる(図31).

4 初期診療劇症型心筋炎の治療法

クラスⅠ (レベルC)循環補助療法(PCPS,IABP,人工心肺装置),一時ペーシング.

クラスⅡa(レベルC)カテコラミン薬,PDE阻害薬,ヘパリン.

クラスⅡb(レベルC)免疫グロブリン療法,カルペリチド.

①救急外来での治療

心筋炎に特異的な薬物療法はなく,血行動態の管理と不整脈の監視が中心となる.安定した静脈補液路を確保する.意識と呼吸が安定していれば酸素吸入を開始し,ドパミン,ドブタミン,PDEⅢ阻害薬等で血圧

発熱,全身症状に続いて心症状が出現

虚血性心疾患や心筋炎を疑って入院 他の疾患を鑑別

観察と治療を継続

冠動脈疾患の治療

原因検索と治療を継続

観察と治療を継続

冠動脈疾患の鑑別

1.新たな心病態(心電図異常,不整脈,心機能障害)の出現2.心筋壊死を示す所見(CK,トロポニン)

1.心肺停止からの蘇生2.ショック状態3.房室ブロック,心室頻拍,心室細動

地理要因,受け入れ態勢,患者状態により可能であれば専門病院へ搬送

1.心臓MRIで心筋炎を示唆する所見2.心筋生検で陽性所見3.ガリウムシンチグラムで集積

心筋炎の臨床診断

いずれかあり いずれもなし

いずれもなし

いずれかあり

いずれかあり

1.治療後も血行動態が悪化2.CK-MBが上昇傾向3.R波減高,心室内伝導障害が進行4.壁運動異状が悪化

搬送困難 いずれもなし

除外できる

いずれもなし

冠動脈疾患確定

いずれかあり

図30 心筋炎の診断

Page 61: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1421Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

と心拍出量を維持する.意識が低下している場合と血行動態が不安定な場合は気管内挿菅のうえ人工呼吸を開始する.循環補助装置の装着には両側大腿動静脈が必要になるので初期治療手技で同部を損傷しないように注意する.

②集中治療可能な施設への搬送

初期診療時点で心筋炎の重症度を予測することは難しい.初診時のCK値の上昇が軽度であっても,持続的に上昇し続け劇症型心筋炎に進展する場合がある.また,心エコー図で心機能が保たれていても,心室頻拍や心室細動が間断なく現れて血行動態が維持できなくなることがある.したがって急性心筋炎が強く疑われる症例は入院が必要であり,可能であれば循環補助療法が実施可能な施設に搬送することが望ましい.特に,カテコラミンの持続静注が必要な場合,人工呼吸管理を要する場合,房室ブロックや心室頻拍が出現する場合や血液検査でのCPKの上昇の持続や経時的に心電図でR波減高や心室内伝道障害を認める場合,左室壁運動異常が進行するときには搬送を急ぐ.房室ブロックがみられたら,可能ならば速やかに一時ペーシングを開始してから搬送する.

心不全の管理,不整脈の監視,全身管理

1.致死的不整脈(心室頻拍,心室細動,心静止)が繰り返し出現する

2.ショック状態から離脱できない3.低拍出状態が遷延あるいは悪化し臓器障害が進行する ①意識障害 ②尿量減少 ③混合静脈血酸素飽和度低下 ④一回拍出量係数低下 ⑤ 代謝性アシドーシスの進行

いずれかあり いずれもなく安定

循環補助療法

免疫グロブリン療法

ステロイド,免疫抑制薬 観察と治療を継続

観察と治療を継続

観察と治療を継続

年齢

心内膜心筋生検による組織診断

小児 成人

好酸球性心筋炎巨細胞性心筋炎肉芽腫性心筋炎

リンパ球性心筋炎

図31 心筋炎の治療③集中治療可能な施設での治療

集中治療室に収容したら,血行動態と不整脈の監視を行う.心筋炎ではCKの上昇が数日間続き,最高値を経た後の下降も緩徐である.このCKの変動は心筋炎による心筋傷害の程度を反映していると考えられる.CKが最高値を経て下降に転じてから1~3日後に左室壁運動が改善し始める.壁運動の改善が確認できると心筋炎の極期が過ぎたと判断できる.

⑴ 監視 心電図モニターで不整脈を監視する.除細動器をすぐに使えるように準備しておく.心室内伝導障害が進行する場合や,Ⅰ~Ⅱ度の房室ブロックが新たに出現した場合,早めに一時ペーシングカテーテルを挿入しておいた方が良い.心室頻拍や心室細動が間断なく現れて血行動態が維持できないときは経皮的心肺補助装置を装着する.血行動態の監視には血圧,尿量,混合静脈血酸素飽和度,心拍出量を用いる.カテコラミン等の薬物療法を行っても収縮期血圧を90mmHg以上に維持できないとき,末梢循環不全により尿量が維持できないとき,混合静脈血酸素飽和度が60%以上を維持できないとき,一回心拍出量係数20mL/m2以上を維持できないときは経皮的心肺補助装置の装着を考える(表22)144).⑵ 心筋炎の診断確定 心臓カテーテル検査,冠動脈造影,心内膜心筋生検を行って診断を確定する(図32).組織所見により好酸球性心筋炎と巨細胞性心筋炎の診断が確定すれば,ステロイド治療の適応がある.リンパ球性心筋炎の場合はステロイド治療の適応はなく,血行動態を管理しながら自然治癒を待つことになる.肉芽腫性心筋炎ではサルコイドーシスを疑い全身検索を進め,診断が確定すればステロイド治療を行う.カテーテル検査を行う際は,穿刺した血管をその後の

表22 経皮的心肺補助装置の開始指標致死的不整脈が繰り返し出現するとき 心室細動 心室頻拍 心静止ショック状態から離脱できないとき 低血圧臓器灌流低下を伴う低拍出状態が遷延するとき 意識障害 尿量減少 混合静脈血酸素飽和度低下 60%未満 一回心拍出量係数低下 20mL/分/m2未満  代謝性アシドーシスの進行和泉 徹他,Circ J 2004; 68 (Suppl Ⅳ): 1231-. より引用

Page 62: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1422 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

治療に用いるように配慮する.すなわち,大動脈内バルーンパンピング(大腿動脈),経皮的心肺補助装置脱血カテーテル(大腿静脈),送血カテーテル(大腿動脈)の挿入に合わせた血管を穿刺する.また,検査に引き続いて循環補助装置を用いない場合であっても,数時間後に緊急で装着が必要となることを想定して,穿刺した血管路を確保しておく.⑶ 循環補助療法 劇症型心筋炎によるショックではポンプ機能障害が著しく大動脈内バルーンパンピングだけでは血行動態を維持できないことが多い.また,大動脈内バルーンパンピングは心室頻拍や心室細動による血行動態の破綻に対しては効果がない.循環補助療法が必要と判断したら躊躇なく経皮的心肺補助装置を装着すべきである(図32).一方,経皮的心肺補助装置で管理する際は,後負荷の減弱,組織血流の拍動流化,補助循環からの段階的離脱を目的に大動脈内バルーンパンピングも併用する.一時的であっても血行動態が破綻すると多臓器不全に至り腎不全を合併しやすい.腎不全に対しては持続血液浄化装置を用いて管理する.循環補助療法が長期化すると様々な合併症が出現してくる.特にカテーテル挿入による下肢虚血,出血,感染症,血栓症はコントロール困難となることがあるため,循環補助療法開始時から常に注意しておく必要がある.⑷ 追加治療

追加治療の有用性

クラスⅠなし.

クラスⅡa(レベルC)好酸球性心筋炎に対するステロイド治療.プレドニゾロン30mg/day.

クラスⅡb(レベルC)小児の急性心筋炎に対する免疫グロブリン大量療法.完全型免疫グロブリン製剤2.0g/kg.巨細胞性心筋炎に対する免疫抑制療法145).

 心筋炎は血行動態の破綻を一定期間乗り切れば自然治癒が期待できる疾患であり,効果が確実な循環補助療法を機会を逸することなく導入することが重要である.ところが,循環補助療法を続けても心筋傷害が高度な場合と自然治癒が遅延する場合は,様々な合併症により多臓器不全に陥ってしまう.急性期の心筋内の炎症を鎮静させる目的で免疫グロブリン大量療法が選択されることが

ある.大規模臨床試験はなく,成人では有効性は証明されていないが,小児では有効とする報告が多い.

④小児の急性心筋炎

 小児の急性心筋炎も劇症型となることがある.診断と治療は成人と同じであるが,心筋生検,循環補助療法については体格の差に由来する制約がある.経皮的心肺補助装置は様々な体格に合わせた装置が開発されているわけではなく,またカテーテル挿入の血管も細いため使用できないことがある.その場合は開胸下に人工心肺装置を装着して血行動態を管理する.小児では心筋炎に対する免疫グロブリン大量療法が有効とする報告が多いが,大規模臨床試験で証明されているわけではない.

6 電解質異常

1 正常値と計算式 血清K,Na,Mg,Caの異常は,致死的な状況となりうる.電解質異常の診断と治療に必要な計算式(表23)を理解することは重要である.

2 血清カリウム値の異常

①高K血症の定義と症状

 血清K値が5mEq/Lを超える場合である.脱力,上行性麻痺,呼吸不全を生じる.心電図変化が血清K濃度を反映する(表24).

②高K血症の治療(表25)

⑴ 「軽度」(5~6mEq/L)上昇では,体内からのK除去を目的とする.ⅰ)利尿薬(フロセミド)静脈投与.ⅱ)陽イオン交換樹脂をソルビトールに溶解し,

経口投与または保留浣腸する.ⅲ)血液透析の可能性を考慮する.⑵ 「中等度」(6~7mEq/L)上昇では,一時的に血管内から細胞内へKを移動させる.ⅰ)グルコース /インスリン療法.ⅱ)重炭酸ナトリウム静脈投与.単独投与は,効果が低く,グルコース /インスリン療法やサルブタモールの噴霧との併用が推奨される146).

ⅲ)サルブタモール147)噴霧吸入.⑶ 「重度」(7mEq/Lを超える,中毒性の心電図変化を伴う)上昇では,Kを細胞内に移動させる

Page 63: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1423Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

とともに,体外へ排出を促進する.血清K値のリバウンドを生じることがあり⑴⑵の治療を繰返す.さらに

⑷ 心筋細胞膜レベルのK中毒作用を抑制し,心室細動のリスクを軽減させる治療.塩化カルシウム静脈投与.

③低K血症の定義と症状

 血清K値3.5mEq/L未満である.症状は,中等度(2.5~3.0mEq/L)では全身倦怠感,脱力感,易疲労,便秘,脚の痙攣,高度(2.0~2.5mEq/L)では筋崩壊(横紋筋融解),麻痺性イレウス,腸閉塞,重度(2.0mEq/L未満)では上行性麻痺,呼吸障害,不安定な不整脈を生じえる.特にジゴキシン服用時には症状が発現しやすいため注意が必要である.

④低K血症の治療

 治療は,K喪失の抑制と不足分を補充投与である.K

補充は一般的には経口投与であるが,高度(2.5mEq/L

未満)な低K血症の場合に,不安定な不整脈やジゴキシン中毒を伴う場合は,静脈内投与の適応となる.通常の補充は10~20mEq/時間,最大投与濃度は40mEq/L

(20mEq/L以上で投与する場合は中心静脈から)であり,補充時には心電図モニタリングが必要である.生命を脅

表23 診断と治療のための計算式計算 式 コメント

アニオンギャップ(mEq/L)

[Na+]−([Cl−]+[HCO3−]) 正常範囲:10~15mEq/L

≧15:代謝性アシドーシスが示唆される血清浸透圧較差 測定浸透圧−計算浸透圧 正常値≦10

>10では不明な浸透活性物質を疑う計算浸透圧(mOsm/L)

(2×[Na+])+([血糖値]÷18)+([BUN]÷2.8) 有効浸透圧を求める簡略式正常値=272~300mOsm/L

総自由水欠乏量(単位:L)

([Na+]測定値−140)×TBW    140    TBW(体内総水分量)(L)=(男0.6/女0.5)×体重(kg)

高ナトリウム血症の水欠乏補正に必要な水分量の算出に用いる

ナトリウム欠乏量(単位:mEq)

([Na+]目標値−[Na+]測定値)×TBW(L)TBW(L)=(男0.6/女0.5)×体重(kg)

重症低ナトリウム血症に対し,3%生理食塩水による補正量算出に用いる(3%生理食塩水1Lにナトリウム513mEq含有)

予測pHの測定 (40−Pco2)×0.008=±△(pH 7.4からのpH差) Pco2が40から1mmHg変化するとpHは0.008変化する測定pHが計算pHより低い場合:代謝性アシドーシスの存在が示唆される測定pHが予測pHより高い場合:代謝性アルカローシスの存在が示唆される

表24 血清カリウム濃度上昇と心電図所見血清カリウム値範囲(mEq/L) よく認められる心電図所見

5.5~<6 尖鋭性T波(テント状T波),初期心電図変化6~< 6.5 PR間隔延長およびQT間隔延長6.5~<7 P波消失およびST低下7~<7.5 QRS幅拡大7.5~<8 S波下降,S波とT波の融合

8~<10 サイン波出現,心室固有波形と調律.VT様波形

≧10 PEA(サイン波の外観を伴うことが多い),VF/VT,心停止

表25 高カリウム血症の緊急治療および治療手順治療法 用量 効果機序 効果発現 効果持続期間

塩化カルシウム ・10%溶液5~10mL (500~1000mg)静注 細胞膜における毒性に拮抗

1~3分 30~60分間

重炭酸ナトリウム ・50mEq投与.最大投与量1mEq/kg.15分後に再投与・ 必要に応じ100mEqを5%ブドウ糖1Lに溶解し1~2時間で静注

細胞内移動による再分布

5~10分 1~2時間

グルコース/インスリン療法 (グルコース5gあたりインスリン2U使用)

・50%ブドウ糖50mL+レギュラーインスリン10U静注・ 必要に応じ10%ブドウ糖500mL+レギュラーインスリン10~20Uを1時間かけて静注

細胞内移動による再分布

30分 4~6時間

フロセミド(利尿薬) ・40~80mg静脈投与 体内から除去 利尿開始時 利尿終了時陽イオン交換樹脂(ケーキサレート)

・15~50g経口投与またはソルビトールに溶解し併用投与 体内から除去 1~2時間 4~6時間

腹膜透析または血液透析 ・治療実施計画に従う 体内から除去 透析開始時 透析終了時

Page 64: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1424 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

かす低カリウム血症の場合はKの急速静脈投与を行う.10mEqを5分間で投与し,必要な場合さらに追加再投与する.カルテには「生命を脅かす低K血症のため,意図的に急速静脈投与を行った」旨を記載する.

3 血清ナトリウム値の異常 血清Naが急激に低下した場合,脳浮腫を生じる148),149).一方,血清Naが急激に上昇すると血清浸透圧は上昇し,自由水は間質腔から血管内へ移動し,橋中心髄鞘崩壊症150),脳出血,横紋筋融解を生じる.このため血清Na値の補正に際しては,神経学的機能を慎重にモニタリングし,できる限り血清Naはゆっくりと48時間かけて補正する.

①高Na血症の定義と症状

血清Na値が145~150mEq/Lを超えている場合.症状は,細胞内脱水に伴う意識障害,脱力,易刺激性,局所神経脱落症状,さらに昏睡,痙攣等神経症状である.

②高Na血症の治療

高Na血症の治療は,過剰な血清Naの排泄ではなく,不足している自由水を補正し(表26),1時間あたり0.5~10mEq/Lの速度で血清Na値を補正する.はじめの24時間に12mEq/L以上の急激な低下を生じないよう,ゆっくり補正し,残りはその後48~72時間かけて補正する.通常は1/2生理食塩水を投与し,血清Na濃度を緩徐に補正する.5%ブドウ糖による水分補充は血清Na濃度の急激な低下を生じるため危険であ

る.高度な循環血液量減少と著明な脱水によるショック状態で,生命を脅かす状況では生理食塩水500mL

を急速投与し反応性を評価し,その後20~30分ごとに状態が安定するまで繰り返し投与する.

③低Na血症の定義と症状

定義は血清Na値が130~135mEq/L未満である.血清Na値120mEq/L未満までは自覚症状のないことが多い.血清Na低下が急激な場合は,自由水が血管内から間質腔に移動するため,悪心,嘔吐,頭痛,易刺激性,嗜眠,痙攣,昏睡が起こり,脳浮腫を生じ,死に至ることがある.

④低Na血症の治療

低Na血症の治療はまず,循環血液量を評価し,次に循環血液量を補正する(表26).循環血液量の減少している場合は,生理食塩水で補充し循環血液量が増加している場合は,利尿を確保する.次に欠乏Na量を算出し,3%食塩水(513mEq/L)で補正する.その際に,通常Naを毎時0.5mEq/L補正し,最初の24時間では最大補正量を12mEqとする.痙攣や昏睡等頭蓋内圧上昇に伴う神経症状が出現した場合は,3%食塩水を点滴投与して,神経所見がコントロールされるまで血清Naを時間あたり1mEqの速度で補正する.神経所見がコントロールされてからは血清Naを時間0.5mEq/Lの速度で補正する.痙攣を生じている場合には,さらに速い速度(2~4mEq/L/時)での是正を推奨する専門家もいる.

表26 血清Na異常の緊急治療1.高Na血症の治療・過剰な血清Naの排泄ではなく,不足している自由水の補正を行う  補正に必要な循環血液量=不足水分量(L)=((血漿Na+濃度−140)/140)×全身水分量  (全身水分量は,男性では除脂肪体重の約50%,女性では40%)・血清Na値補正:1時間あたり0.5~1.0mEq/Lの速度でする      初めの24時間に12mEq/L以上の急激な低下を生じない  残りはその後48時間~72時間かけて補正する・安定した無症候性患者:経口または経鼻胃管から補給・循環血液量が減少している場合:1/2生理食塩水を投与する(5%ブドウ糖は危険)

2.低Na血症の治療・第1段階:循環血液量の評価 循環血液量が増加している所見:肺うっ血,下腿浮腫,頚静脈怒張,湿性ラ音,体重増加,Ⅲ音     循環血液量が減少している所見:頻脈,起立性低血圧,皮膚の張り低下,口腔内乾燥・第2段階:症状の重症度を評価と,循環血液量の補正する循環血液量の減少している場合:生理食塩水で補充する循環血液量が増加している場合:水分摂取量を制限し,利尿薬(フロセミド)により利尿を確保する欠乏Na量を算出  欠乏Na+量=[目標Na+値−現在のNa+値]×0.6(女性では0.5)×体重補正に必要な3%食塩水(513mEq/L)の投与量を決める通常Naを毎時0.5mEq/L補正し,最初の24時間では最大補正量を12mEqとする痙攣や昏睡などの神経症状が出現した場合は,時間あたり1mEqの速度で補正し,神経所見がコントロールされてからは血清Naを時間0.5mEq/Lの速度で補正する

Page 65: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1425Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

4 血清マグネシウム値の異常

①高Mg血症の定義と症状

血中Mg濃度が2.2mEq/Lを超える場合(正常値1.3~2.2mEq/L).症状は神経学的症状,消化器症状である.中等度の高Mg血症(4~5mEq/L)では筋力低下,筋脱力,重篤な高Mg血症(5~8mEq/L)では血管拡張と低血圧を来たすことがある.血清Mg濃度が極めて高くなる(8mEq/L以上)と意識レベルの低下,徐脈,不整脈,低換気,そして心肺停止に至る場合がある.

②高Mg血症の治療

表27に示す.

③低Mg血症の定義と症状

血清Mg濃度が1.3mEq/L未満.副甲状腺ホルモンの機能を阻害し,低カルシウムCa血症,低K血症を引き起こす.Mg摂取量の減少,腎臓や消化管からの喪失増加.甲状腺機能の異常や,特定の薬剤(ペンタミジン,利尿薬)やアルコール摂取が原因で,頻度が高く,全入院患者の11%に生じることが報告されている151).振戦,線維束性攣縮,眼振,テタニー,神経症状の変化,Torsade des pointes(多原性心室頻拍)等の不整脈を生じる.失調,回転性めまい,痙攣,嚥下障害等も生じる.

④低Mg血症の治療

低Mg血症の治療はMgの補充であるが,重症度に応じてその量と速度を調整する(表27).また,ほとんどの低Mg血症患者は低Ca血症を合併しているので,通常はCaを静脈内投与する.

5 血清カルシウム値の異常 細胞外液中のCaの半分は血清アルブミンと結合しており,残り半分が生物学的活性を持つイオン化Caとして存在する.総血清Ca値は血清アルブミン値と正比例し,血清アルブミン値が1g/dL上昇すると血清Ca値は0.8mg/dL上昇する.不安定な低Ca血症ではイオン化カルシウムを測定する必要がある.

①高Ca血症の定義と症状

総血清Ca値が10.5mEq/Lを超えた場合(イオン化Ca

濃度>4.8mg/dL).原因の90%以上は原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍である.症状は総血清Ca値が12~15mg/dL以上で出現する.抑うつ,脱力,疲労感,神経錯乱がみられる.Ca値がさらに上昇すると,幻覚や見当識障害,筋緊張低下,痙攣や昏睡を来たすことがある152).高Ca血症の胃腸症状は,嚥下障害,便秘,消化性潰瘍や膵炎である.腎臓に対する影響により,尿濃縮能の低下,多尿によるNa,K,Mg,リン酸の喪失,脱水症を来たすことがある153).血清Ca値が15mg/dLを超えると心筋自動能が抑制され,不応期が短縮することにより不整脈が出現する.高Ca血症はジギタリス中毒を悪化させ,高血圧を起こすことがある.多くの高Ca血症の患者では低K血症を合併し,どちらの病態も不整脈に関与する.血清Ca値が13mg/dLを超えると,通常はQT時間が短縮し,PR間隔とQRS幅が拡大する.総血清Ca値が15~20mg/dL

を超えると房室ブロックが生じ,心停止へ進展することがある154).

②高Ca血症の治療

治療の対象は,血清Ca値12mg/dLを超え症候を有する場合と,無症状でも血清Ca値が15mg/dLを超える場合である.大量静脈投与用のラインを確保し,循環

表27 血清Mg異常の緊急治療1.高Mg血症の治療・Mg摂取の原因除去・血清Mg値が低下するまで心肺蘇生の継続・補液による血清Mg濃度希釈,・10%塩化カルシウム液5~10mL静脈内投与・ Mgの排泄の促進  腎機能が正常で心血管機能が正常であれば,透析までの間に生理食塩水利尿(生理食塩水とフロセミド[1mg/kg])の投与によりMgの排泄を促進させてもよい

2.低Mg血症の治療・重症,症状を伴う低Mg血症患者:1~2gの硫酸マグネシウムを5~60分かけて静脈投与する・Torsade des Pointesによる心停止患者:1~2gの硫酸マグネシウムを5~20分かけて静脈投与する・Torsade des Pointesが間歇性で心停止に至っていない場合:硫酸マグネシウムを5~60分かけて静脈投与する・痙攣がある場合:2gの硫酸マグネシウムを10分間かけて静脈投与する・ほとんどの低Mg血症患者は低Ca血症を合併しているので,通常はCaを静脈内投与する

Page 66: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1426 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

血液量の回復と,尿からのCa排泄を促進する(表28).心血管機能と腎機能が良好な場合,体液欠乏が補正され利尿がつくまでは0.9%生理食塩水を投与する.利尿によりK値とMg値が低下することがあるため,点滴投与中はK値とMg値をモニターし,正常範囲内に維持する.血液透析は心不全または腎機能障害患者の血清Ca値を急激に低下させるのに良い治療法である.極端な高Ca血症に対しては,キレート剤が用いられる.

③低カルシウム血症の定義と症状

血清Ca値が8.5mEq/L未満(イオン化カルシウム<4.2mg/dL).症状は,通常イオン化Ca値が2.5mg/dL

未満で生じる.四肢や顔面の麻痺,続いて筋痙攣,指趾痙縮,喘鳴,テタニー等である.反射亢進,Chvostek徴候およびTrousseau徴候がみられる.心臓では心筋収縮力の低下と心不全がある.またジギタリス中毒を増強することがある.

④低Ca血症の治療

10%グルコン酸カルシウムあるいは10%塩化カルシウムを10分間かけて静脈投与し,その後に緩徐に追加する(表28).4~6時間おきに血清Ca値を測定し,総血清Ca値を7~9mg/dLに維持し,同時にMg,Na,pHの異常を補正する.低Mg血症が存在すると,低Ca血症が治療抵抗性になることが多いため,治療初期のCa投与が奏功しなかった場合は,血清Mg濃度を測定する151).

7 救急心疾患治療における中毒学

1 Toxidromes 中毒患者の治療は緊急性を要し,迅速な加療開始が必

要な場合がある155).近年,Toxidromes156)という用語が用いられ,薬物中毒により重篤な症状や徴候を呈し,心停止や生命の危険に陥った場合,Toxidromesと判断して原因薬物が同定される前に,ただちに気道,呼吸,循環を補助する治療を開始する.中毒学専門家や公認の地域中毒センターへただちに相談することも推奨される.日本では日本中毒情報センターがつくば中毒110番(0990-52-9899,029-851-9999),大阪中毒110番(0990-50-2499,072-726-9923)を開設し,情報提供している.表29,30,31に薬剤による心血管系緊急の徴候とバイタルサインの変化,考慮すべき治療法と禁忌,慎重に行うべき治療について示す.

2 心停止前の気道と呼吸の管理 中毒患者の病状は急速に悪化する可能性があり頻回に気道,呼吸,循環の評価を行う.呼吸障害は死因として最も多い.意識障害のある患者には,誤嚥の危険性を減らすために,胃洗浄の適応がある場合でも,その前に気管内挿管を実施する.胃洗浄は,致死量の薬物・毒物を摂取後,1時間以内の場合には推奨される157),158).オピエートによる呼吸障害が出現した場合,はじめに高流量酸素を接続したバッグ・アンド・マスクで換気し,拮抗薬であるナロキソンを投与159),160),必要に応じて人工呼吸管理を実施する.

3 心血管系傷害

①血行動態の悪化を伴う薬剤起因性徐脈

薬物過量中毒による血行動態悪化を伴う徐脈を生じた場合,標準的ACLSプロトコルに反応しないことがある.このような場合には特異的解毒治療が必要となる.コリンエステラーゼ阻害薬(有機リン,カルバメート,神経ガス中毒)による徐脈に対しては,アトロピンを大量投与する.アトロピンを初回2~4mg投与するが,総量として20~40mgまたはそれ以上となる場合があ

表28 血清Ca異常の緊急治療1.高Ca血症の治療・ 大量静脈投与用のラインを確保し,0.9%生理食塩水を300~500mL/時の速度で投与する.補正後は注入速度を100~

200mL/時に下げる.点滴投与中はK値とMg値をモニターする・ 血液透析(特に心不全または腎機能障害患者に)・ 極端な高Ca血症ではキレート剤(50mmol PO4を 8~12時間かけて,EDTA10~50mg/kgを4時間かけて投与)

2.低Ca血症の治療・ 10%グルコン酸カルシウムをCaとして93~186mg,10分かけて静脈投与した後にその後540~720mgのCaを1時間当たり0.5~2mg/kgの割合で持続投与する・ 10%塩化カルシウムを10分間かけてCaとして136.5mg静脈投与し,その後6~12時間かけて1gを持続静脈投与する・ 4~6時間おきに血清Ca値を測定し,総血清Ca値を7~9mg/dLに維持する・ 同時にMg,Na,pHの異常を補正する

Page 67: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1427Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

る.イソプロテレノールの高用量投与は,β遮断薬過量中毒に伴う治療抵抗性徐脈に対して有用であるが,コリンエステラーゼ阻害薬その他の薬物中毒による徐脈に対しては,血圧低下,心室性不整脈を誘発するため禁忌である.薬剤起因性の軽度~中等度徐脈には経皮的ペーシング(TCP)が有効であるが,TCPが無効な場合に経静脈的ペーシングを選択する.

②血行動態の悪化を伴う薬剤起因性頻拍

血行動態の悪化を伴う薬剤起因性頻拍は,心筋虚血,心室性不整脈,高心拍出量性心不全やショックを起こすことがある.毒物が体内に残存している状況ではアデノシンや同期下カルディオバージョンの有効性は低い.境界域低血圧を呈した患者では,ジルチアゼムやベラパミルは,さらに血圧が下がる恐れがある.ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパムやロラゼパム)は,交感神経作動薬による血行動態悪化を伴う頻脈に対して,安全で効果的である161).

③薬剤による高血圧性緊急症

薬剤による高血圧に対する第一選択薬はベンゾジアゼピン系薬剤である.薬剤起因性高血圧は,経過とともに低血圧を生じることがあるため,積極的な血圧コントロールが推奨されない場合がある.ベンゾジアゼピン系薬剤に抵抗性の患者には,ニトロプルシドのような短時間作用型降圧薬が推奨される162).プロプラノロールのような非選択的β遮断薬では,α受容体刺激が抑制されずにβ受容体のみが遮断され高血圧が悪化することがあるため,交感神経作動薬による中毒には禁忌である163).

④薬剤起因性の急性冠症候群

コカインの過量投与では,交感神経系の過剰刺激による頻脈と高血圧,冠攣縮による心筋虚血を生じ,急性冠症候群が生じる.血栓溶解薬は重症高血圧を伴う場合は効果より危険性が高いため,慎重にすべきである.コカインによる急性冠症候群に対しては,ニトログリセリンとベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択薬,フェ

表29 薬剤性心血管系緊急の徴候:考慮すべき治療法および禁忌(慎重に行うべき)療法心血管系の徴候 考慮すべき治療法 禁忌(慎重に行うべき治療)徐脈 ・経皮・経静脈的ペースメーカ

・カルシウム拮抗薬中毒:生理食塩水,エピネフリン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン療法,グルカゴン・β遮断薬中毒:生理食塩水,エピネフリン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン療法,グルカゴン

・アトロピン(コリンエステラーゼ阻害剤中毒以外では有効なことはまれ)・低血圧時のイソプロテレノール・予防的経静脈ペーシング

頻脈 ・交感神経作動薬中毒:ベンゾジアゼピン系薬剤,リドカイン,重炭酸ナトリウム,ニトログリセリン,ニトロプルシド・三環系抗うつ薬中毒:重炭酸ナトリウム,過換気,生理食塩水,硫酸マグネシウム,リドカイン・抗コリン薬中毒:フィゾスチグミン

・β遮断薬(薬剤誘発性頻脈に有用でない)・電気ショック(適応となることはまれ)・アデノシン(適応となることはまれ)・カルシウムチャネル拮抗薬(適応となることはまれ)・フィゾスチグミン(三環系抗うつ薬を過剰投与した場合)

伝導障害または心室性不整脈

・重炭酸ナトリウム・リドカイン

・三環系抗うつ薬を過剰投与した場合:クラスⅠ Aの抗不整脈薬

高血圧緊急症 ・交感神経作動薬中毒:ベンゾジアゼピン系薬剤,リドカイン,重炭酸ナトリウム,ニトログリセリン,ニトロプルシド,フェントラミン

・β遮断薬

ショック ・カルシウムチャネル拮抗薬中毒:生理的食塩水,エピネフリン,ノルエピネフリン,ドパミン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン,グルカゴン・β遮断薬中毒:生理的食塩水,エピネフリン,ノルエピネフリン,ドパミン,塩化カルシウム,グルコース/インスリン,グルカゴン・最大限の薬物療法が奏効しない時:循環補助装置使用を検討

・イソプロテレノール・ジゴキシン毒性が疑われる場合,塩化カルシウムは避ける.

急性コリン作動徴候

・アトロピン・プラリドキシム/オビドキシム

・サクシニルコリン

急性抗コリン作動徴候

・フィゾスチグミン ・抗精神病薬・他の抗コリン作動性薬

オピオイド中毒 ・ナロキソン・補助換気・気管内挿管

Page 68: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1428 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

ントラミンが第二選択薬,プロプラノロールは禁忌である163).

⑤薬剤による心室頻拍と心室細動

血圧低下を伴うQRS幅の広いリズムが突然出現した場合,薬剤因性心室頻拍の可能性が高く,カルディオバージョンの適応となる.状態が不安定で多形性心室頻拍の場合は,高エネルギーの非同期下ショックを行う.血行動態の安定している薬剤性心室頻拍は,抗不整脈薬が適応となる.多くの単形性心室頻拍にはリドカインが第一の抗不整脈薬として選択される.三環系抗うつ薬やナトリウムチャネル遮断薬による中毒では,ナトリウムチャネルを遮断するⅠA群,ⅠC群,その他の抗不整脈薬は禁忌である.

⑥薬剤起因性伝導障害

ナトリウムチャネル遮断薬(フレカイニドやプロカインアミド)と三環系抗鬱薬の中毒により生じる,QRS

幅延長,心室頻拍に対して,高張食塩水と重炭酸ナトリウムの静脈内投与は薬剤性伝導障害の予防,停止効果がある164),165).不整脈と低血圧に対して重炭酸ナトリウムを使う場合,1~2mEq/kgを繰り返しボーラス

投与し,動脈血pHを7.45~7.55に維持するようにするが,至適pHに関する十分な研究はない.血清K値の低下を予防するため,150mEq/Lの重炭酸ナトリウムと30mEq/Lの塩化カリウムを加えた5%ブドウ糖液の維持投与が推奨される.QRS幅が100msecを超える場合や,低血圧が発現した場合は,急性代償不全として血清pHを測定することなく重炭酸ナトリウムを静脈内投与する.

4 薬剤によるショック 標準的治療に抵抗性を示す薬剤起因性ショックが起こる原因は,薬剤により血管内容量が減少し,体血管抵抗と心筋収縮力が低下する場合,またはこれらの要因が重複し,正常な代償機序が機能しない場合である.肺動脈カテーテルによる血行動態モニタリングでの輸液負荷,ドパミン,体血管抵抗が低下している場合はノルアドレナリン等のαアドレナリン作動薬,アムリノン,カルシウム,グルカゴン,インスリン等,陽性変力作用を有する薬を使用する.ドブタミンとイソプロテレノールは体血管抵抗をさらに下げる可能性がある.

表30 心血管傷害を有する薬物・物質:心肺への影響と考慮すべき治療法可能性のある薬物 心肺への影響 考慮すべき治療法

交感神経作動薬・アンフェタミン系薬剤・メタンフェタミン系薬剤・コカイン・フェンシクリジン ・エフェドリン

・頻脈・上室性不整脈・心室性不整脈・伝導障害・高血圧緊急症・急性冠症候群・ショック・心停止

・ベンゾジアゼピン系薬剤・リドカイン・重炭酸ナトリウム・ニトログリセリン・ニトロプルシド・再灌流療法・フェントラミン (αアドレナリン遮断薬)・β遮断薬は使用しない

カルシウムチャネル拮抗薬・ベラパミル・ニフェジピン(他のジヒドロピリジン系薬剤)・ジルチアゼウム

・徐脈・伝導障害・ショック・心停止

・生理食塩水投与(0.5~1 L)・エピネフリン静注,他のα/β作動薬・ペースメーカ・補助循環装置を考慮・カルシウム点滴を考慮・グルコース/インスリン点滴を考慮・グルカゴンを考慮

β受容体遮断薬・プロプラノロール・アテノロール・ソタロール

・徐脈・伝導障害・ショック・心停止

・生理食塩水投与(0.5~1 L)・エピネフリン静注,α/β作動薬・ペースメーカ・補助循環装置を考慮・カルシウム点滴を考慮・グルコース/インスリン点滴を考慮・グルカゴンを考慮

三環系抗うつ薬・アミトリプチリン・デシプラミン・ノルトリプチリン

・頻脈・徐脈・心室性不整脈・伝導障害・ショック・心停止

・重炭酸ナトリウム・過換気・生理食塩水投与(0.5~1L)・硫酸マグネシウム・リドカイン・エピネフリン静注,α/β作動薬

Page 69: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1429Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

5 薬剤による心停止

 薬剤起因性心停止には通常のACLSを行うが,交感神経作動薬による中毒では,アドレナリン(エピネフリン)の投与間隔を広げる.重篤な中毒患者特にカルシウムチャネル拮抗薬の中毒患者では長時間(3~5時間)の心肺蘇生を受けた後に回復した症例が報告されている.体外循環(膜型人工肺)は重篤な中毒患者の蘇生に対する効果が報告されている166),167).

6 特殊な薬剤中毒

①Ca拮抗薬とβ遮断薬の過量中毒

 Ca拮抗薬とβ遮断薬の過量中毒に共通した症候は,低血圧,心収縮力低下,徐脈,意識障害,昏睡,痙攣,中枢神経障害である.β遮断薬では低血糖,高K血症,種々の不整脈を生じ,Ca拮抗薬では高血糖,突然の代償不全,急激に生じる重篤なショック,心停止168)

を生じることがある.共通した標準的治療法は,酸素投与,気道換気管理,心電図モニター,血圧と血行動

態の評価,血糖測定である.大量点滴用の静脈路を確保し,低血圧に対して生理食塩水500~1,000mLを静脈内投与する.肺うっ血の出現をモニターしながら,心機能抑制と低血圧に対処する.徐脈,血圧低下に対しては一時的ペーシングを考慮することもある.活性炭による胃洗浄は意識が清明で,血行動態への影響が軽度で服薬1時間以内の場合に考慮する169).徐放性薬剤を服用し,X線で錠剤が確認され,腸管蠕動が保持されている場合には腸管洗浄を考量する. Ca拮抗薬過量中毒により著明な血行動態の障害を認める場合には,アドレナリン(エピネフリン),血管収縮薬ノルアドレナリンを投与する.容量負荷,アドレナリン(エピネフリン),ノルアドレナリンに反応しないショックに対する塩化カルシウム(8~16mg/kg)の投与はクラスⅡbである.カルシウムの静脈内投与総量は初期量に反応する場合で1~3gである.アドレナリン(エピネフリン)やその他のα1刺激薬はカルシウムへの感受性を増加する.追加療法としてグルコース・インシュリン静脈投与170),171),グルカゴン静脈投与172),大動脈バルーンポンプ,対外

表31 心血管傷害を有する薬物・物質:心肺への影響と考慮すべき治療法(継続)強心配糖体・ジゴキシン・ジギトキシン・ジギタリス・オレアンダー

・徐脈・上室性不整脈・心室性不整脈・伝導障害・ショック・心停止

・K+,Mg2+の体内総量の補正・血管内容量の補正・ジゴキシン特異的抗体・アトロピン・ペースメーカー・リドカイン・フェニトインを考慮

抗コリン薬・ジフェンヒドラミン・ドキシラミン

・頻脈・上室性不整脈・心室性不整脈・伝導障害・ショック,心停止

・フィゾスチグミン(要注意)

コリン作動薬・カルバメート系薬剤・神経作用薬剤・有機リン系薬剤

・徐脈・心室性不整脈・伝導障害,・ショック・肺水腫・気管支痙攣 ・心停止

・アトロピン・汚染除去・プラリドキシム・オビドキシム

オピオイド系薬剤・ヘロイン・フェンタニル・メサドン

・低換気(無呼吸)・徐脈・低血圧・縮瞳(瞳孔収縮)

・ナロキソン・補助換気・気管内挿管・ナルメフェン

イソニアジド ・乳酸アシドーシス・頻脈または徐脈・ショック,心停止

・ビタミンB6

ナトリウムチャネル遮断薬・プロカインアミド・ジソピラミド・リドカイン・プロパフェノン・フレカイニド

・徐脈・心室性不整脈・伝導障害・発作・ショック・心停止

・重炭酸ナトリウム・ペースメーカ・α作動薬,β作動薬・リドカイン・高張食塩水

Page 70: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1430 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

循環を用いる. β遮断薬過量により低血圧と著明な血行動態の障害を認める場合に,アドレナリン(エピネフリン),ノルアドレナリン,ドブタミン,プロプラノロール,ドパミンを投与する.グルカゴンは心筋組織のcyclic-

AMPを刺激する強心薬でβ遮断薬中毒への有効性が報告されている173),174).グルカゴンやアドレナリン(エピネフリン)に反応しない場合にカルシウム静脈投与を考慮する.追加療法としてアトロピンはまれに有効であり,グルコース・インスリン療法,大動脈バルーンポンプ,対外循環はクラス未定である.

②三環系抗うつ薬中毒

 三環系抗うつ薬中毒は最も頻度が高い.中毒作用の原因は,カテコラミン分泌刺激作用,カリウムチャンネル抑制作用,α受容体の刺激作用により,低血圧,痙攣発作および不整脈を引き起こし,抗コリン作用により瞳孔散大,発熱,乾燥皮膚,精神錯乱,腸閉塞,尿閉を生じる.幅の広いQRS波は不整脈の危険性が高いことを示唆する. 治療として,不整脈と低血圧に対する重炭酸ナトリウムや高張食塩水の治療効果が報告されているが,QRS幅の程度と治療開始時期は不明である.重炭酸ナトリウムによる治療において7.45~7.55の動脈血pHが一般的である.高張食塩水も三環系抗うつ薬による心毒性に対する治療として有効かもしれない.

③ジギタリス過量中毒

 ジギタリス過量中毒の初期症状は中枢神経症状や消化器症状であることが多い.心室性期外収縮と徐脈を多くの症例で認める.高度房室ブロックを伴う心房頻拍,非発作性房室結節性頻拍,多源性心室頻拍,規則的なリズムの心房細動はジギタリス中毒を疑う不整脈である.肺うっ血を伴う徐脈,重症心室性不整脈,Na-KATPへの作用による高カリウム血症を生じることがある.長期服用者の場合は,体内の不足したカリウム,マグネシウムを補正し,生理食塩水で体内水分量を調整する.服薬1時間以内の急性症状の場合は,活性炭による中和を考慮する.致死量のジギタリスを服薬し1~2時間以内の場合,意識消失例では迅速気管内挿管と活性炭による胃洗浄を実施する.この際,嘔吐により迷走神経反射を介した徐脈の増悪を生じることがあるので,アトロピンを準備する.徐脈に対しては,アトロピンを初回0.5mg静脈中投与する.心室性不整脈に対してはリドカイン,マグネシウムの有効

性が報告され,リドカインは1~1.5mg/kg静脈内投与,硫酸マグネシウムは1~2gを10mLの5%ブドウ糖液に溶解し静脈内投与する.

④オピエート中毒

 オピエート中毒(麻薬;ヘロイン,フェンタニル,モルヒネ等)では,呼吸不全,呼吸停止が起こる.標準的治療として,換気補助を試みる.オピエートの作用は,拮抗薬であるナロキソンにより急速に消失する175).ナロキソンの作用時間はおよそ45~70分間であるが,オピエートによる呼吸抑制は4~5時間持続することがあり,ナロキソンの反復投与が必要となる場合がある.緊急時の成人投与量は0.4~2mgの静脈内投与,もしくは0.4~0.8mgの筋肉内または皮下投与が推奨され,必要に応じて反復投与する.

⑤コカイン中毒

 コカインの最も頻度が高い症状は胸痛であり,血圧上昇,頻脈,高揚感を生じる.痙攣,心筋梗塞,死亡は初回使用でも生じ,重篤な心毒性を呈する.β作用による心拍数上昇,心収縮力増加,α作用による冠血流低下,冠攣縮,血小板凝集亢進,冠血栓のリスク上昇,心筋酸素需要増大時の冠灌流低下を生じる.低酸素血症は心毒性を増強し,発熱作用は頻脈と神経症状を悪化する.標準的治療は酸素投与,体温調節,心電図と神経所見モニタリングである.上室性不整脈にはBenzodiazepineを投与する.血行動態の安定した心室頻拍にはBenzodiazepine,リドカイン,重炭酸ナトリウムを投与し,除細動パッドを装着しモニタリングする.心室細動を生じることがある.胸痛を合併した場合,急性心筋虚血の所見を認めないことが多いが,亜硝酸薬と塩酸モルヒネを投与する.まれではあるが心筋梗塞を生じる場合はアスピリンを投与する.β遮断薬(特にプロプラノロール,アスモロール)はα作用が顕在化するため禁忌である.

8 偶発的低体温

① 深部体温が偶発的に35℃~36℃以下になった状態を偶発的低体温と定義する.深部体温により軽度>34℃,中等度30~34℃,重度<30℃に分類する.

② まず濡れた衣類等を剥がすが,身体操作は慎重に行いVFを避ける.

Page 71: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1431Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

③ 深部体温によって受動的復温と体外式復温を選択する.

④ 低体温のBLSでは30~40秒かけて脈拍を確認する.電気ショックが無効なときには2回目を行わず復温を優先する.

⑤ ACLSでは,気管内挿管を行い,加温加湿酸素を投与し積極的復温を行う.初回電気ショックや初回投薬が無効であった場合,深部体温が30℃を超えるまでは追加の電気ショックや薬剤投与は控える.

1 病態

 偶発的低体温とは,深部体温が偶発的に35℃~36℃以下になる場合と定義される(図32).偶発的低体温による心停止を生じた場合には,通常の心肺蘇生法に変更を加えることが推奨されている6).低体温の分類は深部体温により,軽度>34℃,中等度30~34℃,重度<30℃に分類する.低体温の心電図所見としてOsborn wave

(もしくは J wave)は有名であるが,その幅と深さは体温の低下に伴い増強することが報告されている176).

2 標準的対処法 循環を生み出すリズムが残存している場合は,体温のさらなる喪失を防止するため,濡れた衣服は脱がし,外環境から絶縁して,蒸発による体温喪失を予防する.気管内挿管,血管カテーテル挿入等必要な緊急処置を遅らせてはいけないが,丁寧に手技を実施しないと心室細動を生じることがある177).

3 循環リズムの有無による処置の違い

①循環が保持されている場合

 循環を生み出すリズムが保持されている低体温の場合,34℃以上の軽度低体温では暖かい毛布等による受動的復温と能動的体外復温を行う.30~34℃の中等度では強制温風式加熱178)や加温した静脈内輸液等能動的な体外復温を行い179),afterdrop現象を生じる

図32 偶発性低体温におけるBLS・ACLSアルゴリズム

身体操作は慎重に行い VFを避ける濡れた衣服をはがす毛布や被覆で寒冷から守る深部体温モニター心リズムのモニター

呼吸脈拍の確認(30~40秒かける)

深部体温は?

34~36℃(軽度)受動的復温(毛布等)能動的体外復温(加温装置,湯たんぽ,温風等)

いずれかが見られるまで体内復温の継続深部体温>35℃循環の回復蘇生中止の判断

30~34℃(中等度)受動的復温(毛布等)能動的体外復温(対幹部のみ)

30℃未満(高度)能動的体外復温 加温した生理食塩水 43℃ 加温・加湿酸素 42~46℃ 腹膜洗浄,胸腔灌流 食道復温チューブ 体外循環

ただちに CPRを行う電気ショック(除細動)を 1回行う 二相性:120~200J 単相性:360J高度な気道の確保加温・加湿酸素 42~46℃加温した生理食塩水 43℃

深部体温は?

30℃未満CPRを継続投薬は控える電気ショック(除細動)は 1度に限定

30℃以上CPRを継続必要があれば薬剤を考慮復温中の VT/VFに電気ショック(除細動)を繰り返す

Osborn(J)波

脈拍・呼吸あり 脈拍または呼吸なし

Page 72: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1432 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

ことがあるので能動的体外復温は四肢を避け体幹部のみを温める.30℃以下の重度では能動的体内復温,膜型人工肺の使用を考慮する.

②心停止状態

 低体温により心停止を生じ循環リズムのない場合は,能動的な体内復温に加え180),従来の標準的救命処置に変更を加えた心肺蘇生を行う.30~34℃の中等度の低体温で心停止となった場合には,心肺蘇生法を開始し,電気ショックを施行,静脈路を確保する.薬物投与は比較的長い間隔に変更する.能動的な体内復温には,強制温風式加熱181)等の非侵襲的な加温装置や加温処置を用いる.30℃以下の重度低体温による心停止では,心肺蘇生法を開始し,電気ショックは1回のみ施行し,復温するまで胸骨圧迫を継続する.投薬は30℃に復温するまで待つことが推奨される.30℃以下では正常洞調律への回復は見込めないため,能動的侵襲的な体内復温法として,腹膜灌流,食道復温チューブ,心肺バイパス182),体外循環の有効性が報告されている183).重度の低体温では,薬物過量投与,飲酒,外傷等の原因が先行する場合が多いため,同時に,基礎にある異常を探索し治療する.

③偶発的低体温症例に対するBLS

 利用可能な方法で復温する.すべての手技は丁寧に行い,身体の操作による心室細動誘発を予防する.低体温による心停止では脈拍数と呼吸数が少なく,医療従事者は呼吸の確認後30~40秒かけて脈拍を評価する.呼吸がなければすぐに人工呼吸を実施し,可能であれば42~46℃の加湿酸素を用いてバックマスク換気を行う184).脈拍がなく循環のサインがない場合は,ただちに胸骨圧迫CPRを開始する.低体温症例に対する適切な電気ショックの方法は確定していないが,30℃以下であれば心室細動が確認されたら1回のみ電気ショックを施行し,その後はただちにCPRを再開する.1回の電気ショックで復調しない場合にはそれ以上電気ショックを施行せず,深部体温が30~32℃に戻るまでCPRを継続する185).

4 偶発的低体温症例に対するACLS 反応がない患者や心停止患者は気管内挿管の適応となる.気管内挿管には加温加湿した酸素を用いた換気と,誤嚥予防効果がある.積極的で急速な能動的復温のために42~46℃の加温加湿酸素投与,43℃の加温した生理的食塩水の輸液,加温洗浄液による腹膜洗浄,加温した

生理的食塩水を用いた胸腔ドレナージチューブを介した胸腔内灌流,部分バイパスを用いた体外血液加温,心肺バイパス等を用いる.低体温では薬物代謝が遅延するため,30℃以下では静脈内薬物の反複投与は控える.初回電気ショックや初回投薬が無効であった場合,深部体温が30℃を超えるまでは追加の電気ショックや薬物静脈投与は延期すべきである.重度低体温では洞性徐脈である場合,通常はペースメーカの適応とならない.45~60分以上低体温であった場合,加温中に血管拡張により循環血液量が低下するため,容量負荷が必要となることが多い. 低体温による心停止では,低体温が先か心停止が先かの判断はできないことがある.臨床的に判断ができない場合,CPRを施行し復温を開始する.明らかな致死的傷害を受けている場合,胸骨圧迫(心臓マッサージ)ができないほど凍り,鼻や口が塞がれている場合は,現場での蘇生を差し控えてもよい(図32).

9 成人の先天性心疾患

1 成人先天性心疾患の現況と緊急対応を要する病態

 我が国には先天性心疾患を持った成人は“治療後”も含めると40~50万人と言われ,今後増えていく186).我が国の先天性心疾患による死亡を人口比でみると,1968年には10万人当たり3.6であり,1996年には1.4と低下したが,一方で,成人(20歳以上)期死亡患者の割合は増加している187).すなわち,今後,成人期の死亡罹病が増え続けることが確実である. 救命救急の視点から,成人先天性心疾患の死因は,突然死,心不全死,再手術,その他の心臓死が85%を占め,突然死では不整脈が重要な要因とされている188).また,緊急入院となった理由は,不整脈,急性心不全,その他の突然死に結びつくような病態が並ぶ189).

2 救急病態とその初期対応 救急に至る病態,そして,その初期対応は,基本的には成人の一般的なものと同様で,先天性心疾患特有のものではない.

①頻拍性不整脈

⑴ 頻拍への対応 心房頻拍(心房粗細動,心房頻拍)および心室頻拍がある.基礎疾患によって既にうっ血性心不全,低心

Page 73: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1433Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

拍出量,拡張障害がある場合には,症状が激しい割に頻拍中の心拍数が,少ないことがある.“発作”前の症状を聞き,病態を推測するとともに,胸部レントゲン等を行う.心拡大が著明な場合には,頻拍の停止が急がれる.停止は通常の手順でよい(→Ⅴ.頻脈).既に抗不整脈薬を服用しているか,を確認する.心拍数に拘らず循環不全症状が強く,緊急を要する場合には電気ショックを選択する. 治療によって洞調律ないし(心房~接合部)整調律に復し,一定時間安定が確認されれば応急治療は終了である.ただ,発作停止後の観察時間に関しては定まった見解がない.発作時の循環動態が重症だった例,治療後の調律が不安定な例では,入院観察が好ましい.⑵ 原因疾患 先天性心疾患のうち,心房性頻拍性不整脈を起こしやすい疾患は,Ebstien奇形,修正大血管転換(転位),内臓心房錯位症候群(無脾症,多脾症),ファロー四徴症術後,Fontan型手術後等で190),191),特に,Ebstein

奇形,Fontan型手術後では循環不全が強い.ただ,救急の現場では基礎疾患診断は必須ではない.

②徐脈性不整脈

 房室ブロックおよび洞機能不全症候群による心拍停止があり,救急対応としては一般的な治療法で対処する(→Ⅴ.徐脈). 房室ブロックは,修正大血管転換(転位),心内膜床欠損(房室中隔欠損),多脾症,心室中隔欠損孔閉鎖術後等に見られる.洞機能不全症候群は,多脾症,心房内手術後(心房中隔欠損症術後,総肺静脈還流異常術後,完全大血管転換に対するセニングないしマスタード手術後)等に見られる.“特発性”洞機能不全症候群のなかに心内合併奇形のない多脾症がある.

③急性心不全

 バルサルバ洞の破裂,大動脈弁に関連した細菌性心内膜炎による急速な大動脈弁閉鎖不全進行,大動脈狭窄,冠動脈奇形,中等度の三心房心等による急性左心不全がある.その他には既診断の先天性心疾患の病態と関連して左心不全が単独ないし主病態になることは少ない.もしあれば,後天性疾患の合併発症を考え,左心系の疾患を検索してそれに相応の治療を行う. バルサルバ洞の破裂では,脈圧が広く,心聴診で大きな連続性雑音ないし to and fro雑音とギャロップがあれば診断できる.重症な場合には,呼吸管理,利尿薬静注そして手術となる.中等症以下の場合,一般的な抗心不全療法で安定後,手術とする. 大動脈弁感染性心内膜炎で大動脈弁が破壊され,急速に進行する弁閉鎖不全によって急性(~亜急性)左心不全となる例がある.発熱の既往,少し時間経過のある左心不全進行,聴診上の拡張期雑音とギャロップが診断に手がかりとなる.胸部レントゲンのうっ血像,心エコー図で疣腫と大動脈弁閉鎖不全を見る.疣腫が10mm以上であれば,塞栓のリスクが高くなるので手術を考慮するが,そのリスクも高い192).基礎疾患として大動脈二尖弁症,軽症大動脈弁狭窄症,心室中隔欠損等がある.

④失神

 既知の先天性心疾患による失神とその機序に関して,DanielsとChanの総説から表を改変して示した(表32)193). 基礎疾患に関わらず,初期対応での診断と治療は,通常の場合と全く同様で,失神の当面の原因の治療,回復を図る. このうち,運動と関連して見られるものとして,大動脈狭窄では運動時ないし運動直後に,洞機能不全で

表32 成人先天性心疾患術後と失神診断 可能性の高い病態

心房中隔欠損症 心房性不整脈(頻拍性・洞機能不全),肺高血圧心室中隔欠損症 心房性・心室性不整脈,肺高血圧大動脈狭窄症 左室流出路の固定性狭窄,心室性頻拍Ebstein奇形 心房細動,上室性頻拍(WPW症候群合併)ファロー四徴症 心房性・心室性頻拍,洞機能不全完全大血管転位症(セニング~マスタード手術後) 心房性頻拍,洞機能不全修正大血管転位症* 房室ブロック*心内奇形のない型では手術なしで成人に達するが,房室ブロックが初発のこともある 文献193より改変

Page 74: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1434 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

は運動直後に急速な心拍数の低下から失神となる例も見られる.その他,冠状動脈起始異常があるが,事前には未知なことが多い. 大動脈狭窄では通常は狭窄部での圧較差が50mmHg

以上の例でリスクがある.これらでは手術適応で,術前は運動制限が課せられるので,所謂“運動”では起きないが,電車に駆け込んだような時にリスクがある.急性左心不全から心室細動へと進むことが多い.AEDないしDCを適用する. 左右冠動脈が対側の冠動脈洞から急角度で起始し,大動脈肺動脈の間を走行する冠動脈奇形がある.運動中,心仕事量が増えると同時に,両大血管が拡張して異常走行の冠状動脈を圧迫して心筋虚血・心室頻拍があり,これもAEDないしDCを適用する.突然死が初発症状のことが多く,まれながら家族性に見られる194).

⑤胸痛

 先天性心疾患そのものによる胸痛は少ない.器質的疾患としていくつかの病態が挙げられるが(表33),診断および初期対応は,別項に述べられる成人と共通である.

⑥頭痛

 チアノーゼ性心疾患,感染性心内膜炎の合併症としての脳血管障害(一過性脳虚血,脳膿瘍,脳血栓塞栓)がある.また,脳動脈瘤破裂に出血は,大動脈縮窄に合併することが知られている.強い片頭痛を訴える例もあるが,基礎心疾患との因果関係は否定的である. 初期対応は,それぞれの病態に沿った一般的なものと同様である.

⑦喀血,吐下血

 喀血は肺高血圧(アイゼンメンジャー症候群を含む),チアノーゼ性心疾患(非“根治”手術例),Fontan手術後に見られる.後2者では吐血下血も少なくない. 初期対応は,まずは安静,出血が続く場合は止血剤投与,喀血吐血が強く呼吸困難がある例では人工換気を要する場合もある.

⑧呼吸困難

 胸痛の病態(表33)のうち,気胸,肺梗塞では呼吸苦ないし呼吸困難を訴えることがある.

Ⅷ 蘇生後の治療

1 心停止後症候群(Post cardiac arrest syndrome)の治療

① 自己心拍再開後に生じる種々の臓器機能不全を心停止後症候群と言う.

② 自己心拍再開後には心筋機能不全,脳機能不全,多臓器不全,敗血症等を高率に併発する.

③ 心停止後症候群に対して,循環の安定化とその維持を図る.脳血流量の保持のために過換気を避け,脳の酸素消費量を抑制するために高体温,痙攣を避ける.

④ 軽度低体温療法は神経学的予後を改善させる.⑤ 低体温療法の戦略は,より早く冷却を開始し,目

標深部体温(34℃以下・1~3日間)を正確に維持し,ゆっくり復温する.

⑥ 低体温療法の手法は,冷たい細胞外液製剤(4℃)を急速静脈投与(1~2L)し,引き続き血液を直接冷却する手法が優れている.

⑦ 蘇生後は,血糖を<150mg/dLに管理する.

心停止後心拍再開患者に対する軽度低体温療法の適応

クラスⅡa : 院外初回心電図がVF/VT心停止で心拍再開後も昏睡状態にある成人は,32~34℃,12~24時間の低体温療法を施行すべきである.

クラスⅡb : かかる低体温療法は,院外非VT/VF

心停止または院内心停止成人で,心拍

表33 先天性心疾患と胸痛狭心症 冠状動脈奇形,大動脈狭窄胸痛,背部痛 解離性大動脈瘤

Marfan症候群,大動脈縮窄,大動脈二尖弁,ファロー四徴等チアノーゼ性心疾患(特に肺動脈閉鎖例)術後肺梗塞肺高血圧,チアノーゼ性心疾患(非“根治”手術例),Fontan術後自然気胸チアノーゼ性心疾患

Page 75: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1435Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

再開後も昏睡状態にある場合も有益・有用・有効であろう.

1 心停止後症候群(Post cardiac arrest syndrome)の定義 3),31),65),67),195)

 自己心拍が再開した後に生じる種々な臓器機能不全を心停止後症候群と言う.

2 心停止後症候群(Post cardiac arrest syndrome)の病態

 自己心拍再開後の時相により3段階に分類される3),31),67),195).第1段階:心筋機能不全 自己心拍再開後24時間以内は様々な心筋機能不全が出現し,再度心停止に陥ることが多い3),31),65),67),195). SOS-KANTO研究7)では,自己心拍再開例の64%が心筋機能不全で死亡した.第2段階:脳機能不全 自己心拍再開後も,脳機能不全は遷延する.この脳機能不全には,一次性障害(心停止により惹起される神経細胞死;ネクローシス)と二次性障害(虚血と再灌流により惹起された遅発性神経細胞死;アポトーシス)に大別される196)-198).したがって,自己心拍再開直後に,神経学的予後を予測することは困難である.神経学的転帰が不良となる規定因子として,常温下では自己心拍再開24時間後の⑴角膜反射消失,⑵瞳孔反応消失,⑶疼痛刺激に対する逃避反射消失,⑷24時間後または72時間後の運動反応消失,⑸72時間後の正中神経体性感覚誘発電位の反応が両側とも消失等が報告されている3),31),65),67),195).第3a段階:多臓器機能不全 次に,多臓器機能不全や血液凝固障害が顕著化する.その程度は心停止中の虚血時間,心拍再開後の臓器血流,再灌流障害(微小循環不全を含む),および心停止前の各々の臓器の状態等により規定される.特に,消化管の血 流 不 全 は, 循 環 動 態 が 安 定 し て も 遷 延 する3),31),65),67),195).第3b段階:敗血症 心停止により免疫制御系も障害と消化管の血流不全の遷延化等により,消化管では粘膜の透過性が亢進し,腸内細菌が血中に侵入しやすくなる.人工呼吸管理では肺炎等も併発しやすい3),31),65),67),195).

3 心停止後症候群(Post cardiac arrest syndrome)の予後

 心停止後症候群により心停止後自己心拍が再開しても,その大多数の患者は死亡,植物状態,重度障害といった不幸な転帰をとる.SOS-KANTO研究では,これら不幸な転帰は93%であった7).

4 自己心拍再開後の主要初期目標 3),31),65),67),195)

①循環:心・肺・脳への灌流の最適化.

 ⑴ 輸液と血管作動薬等で循環動態を安定化させる. ⑵ 脳血流量を低下させないために過換気を避け,動

脈血二酸化炭酸濃度を正常範囲に保つ. ⑶ 脳の酸素需要を考慮し,高体温を避け低体温療法

を開始する.痙攣発作には抗痙攣薬を投与する.

②心停止の原因検索とその救急治療

 心停止の主要原因は,40%が急性冠症候群,20%がその他の心臓性疾患,10%が外傷,残り30%が脳血管疾患,窒息,呼吸器疾患等である7).したがって急性冠症候群に対する冠再灌流療法を視野に入れた救急対応が必要である.この心拍再開早期の常温下の冠再灌流療法の 有 用・ 有 効・ 有 益 性 は, 既 に 証 明 さ れ て いる3),31),65),67),195).

③転帰(良好な神経学的転帰)の改善

1.低体温療法の作用機序 低体温は脳代謝を抑制,エネルギー生成機構を保護し,細胞内Ca2+蓄積を防止,脳温上昇を防止,脳血液関門を保護,神経伝達物質の放出を抑制,アポトーシスの防止,サイトカイン・ラジカル産生の抑制,脳浮腫の抑制等の作用により脳を保護する199)-203).一方,有害な作用として,30℃未満または1日以上の冷却で,感染症,血液凝固異常,不整脈等の増加がある31),67),195),203).2.心停止後心拍再開患者に対する軽度低体温療法の適

応クラスⅡa :院外初回心電図がVF/VT心停止で心拍再

開後も昏睡状態にある成人は,32~34℃,12~24時間の低体温療法を施行すべきである.

クラスⅡb:かかる低体温療法は,院外非VT/VF心停止または院内心停止成人で,心拍再開後も

Page 76: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1436 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

昏睡状態にある場合も有益・有用・有効であろう.

2003年 ILCORのTherapeutic hypothermia after cardiac

arrestの勧告203),ILCOR・AHAガイドライン2005 31),67)

および2008年 ILCORのPost cardiac arret syndromeの勧告195)では,軽度低体温療法は心停止後症候群に対して有用・有効性があるとした31),65),67),195).初回心電図リズムが心室細動または無脈性心室頻拍の院外心停止で心拍再開後も昏睡状態にある成人患者は32~34℃,12~24時間の冷却をすべきであるとした.ヨーロッパ研究では204),24時間,32~34℃に冷却した低体温療法施行群が正常体温管理群より6か月後の良好な神経学的転帰が有意に高値(55%vs. 39%)であった.オーストラリア研究205)でも,12時間・33℃に冷却した低体温療法群が正常体温管理群より退院時の良好な神経学的転帰が有意に高値(49%vs. 26%)であった.3.低体温療法の患者選択規準 一般に,成人の心原性VFで心拍再開後も昏睡状態にある患者は,低体温療法の適応がある31),65),67),195).4.低体温療法の冷却手法 1)体表面冷却法 クーリング・ブランケットやアイスパックを用いて体表面を冷却する手法を用いられている195),203)-205).この方法は簡便であるが,目標深部体温到達までに長時間を要する(ヨーロッパ研究204)では,目標深部体温到達までに平均8時間を要していた).また,正確な目標深部体温を維持・管理するには熟練を要し,多くの人手が必要である31),67),195),203).最近,新たな体表面冷却手法(ベスト型,鼻腔型等)が登場した195),203).

2)冷たい細胞外液製剤の急速静脈投与冷却法 4℃に冷却した細胞外液製剤を1~2L,急速に静

脈投与する手法が報告された.この方法は簡便で,かつより早く冷却が開始できる利点を有する.しかし,この方法のみでは,目標深部体温(34℃以下)に到達させることや目標深部体温の正確な維持が困難である5).

 3)血液直接冷却法 血液を体外循環の回路を用いて冷却する手法(KTEK-3)や血管内に冷却カテーテル挿入して冷却する手法等が報告されている70),220),228).これらの手法は,目標深部体温到達までの時間の短縮と正確な深部体温の管理・維持に優れている.

5.低体温療法の戦略 図33に長尾らの低体温療法の戦略を示す.収容直後に4℃冷却細胞外液製剤を2L急速に静脈内投与し,冠再灌流療法を実施.その後,KTEK-3を用いて目標深部体温(肺動脈血液温を34℃)を正確に管理・維持する方法戦略を実施している.この戦略の効果では神経学的転帰が80%と良好である206)-208).6.低体温療法の有害事象 低体温治療期間中は重症感染症,出血傾向,重症不整脈等に留意する必要があるが,正常体温管理群と比較すると有害事象に有意な差はない195),204),205).しかしながら,冷却期間中は心係数が低下し,体血管抵抗と血糖値は有意に上昇する205).7.低体温療法の今後の課題 今後の課題として,低体温療法の開始時期,目標深部体温,持続時間,復温手法等が挙げられている31),67),195),203).冷却開始は早期であるほど,その効果は高い67),195),203).しかし,その冷却開始時期や目標深部体温到達までの時間の限界点についての検証は十分でない.目標深部体温も32℃~34℃までと施設で異なる.動物実験では,より低い深部体温がより高い効果を有し

冷却細胞外液 を急速輸液( 4℃, 2L,15分間以内に静注),引き続き血液を体外循環で冷却

冠再灌流治療

複温期間目標温度での冷却期間

˚C36

35

34

深部体温

≦30分

≦2.5時間

1~ 3日間 2日以上

自己脈再開まで 冷却期間 <20min 24hrs 20~ 30min 48hrs ≧30min 72hrs

図33 心拍再開に成功した昏睡状態にある患者に対する軽度低体温 のプロトコール

Page 77: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1437Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

たと報告されているが209)-212),至適な目標深部体温の検証も十分でない.また,心停止から心拍再開までの時間で冷却持続時間は異なると考えられているが213),冷却持続期間の検証も十分でない.通常は1~3日の冷却後に2日以上かけて複温するが,至適な復温の手法についても,これからの検討課題である213).

5 自己心拍再開後の血糖管理の必要性 蘇生後の高血糖は神経学的転帰に関連,ショック患者の血糖管理は,その死亡率を減少させる214)-216).ILCOR/AHAは蘇生後(低体温療法施行を含む)の血糖管理の必要性を勧告した31),67),195). 蘇生患者では通常血糖の管理目標を150mg/dL

(144mg/dL,8mmol/L)以下にする195),217),218).

2 体外循環式心肺蘇生法(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation; ECPR)

① 標準的なACLSに反応しない心停止で血流停止時間が短い場合には,人工心肺装置(PCPS)を用いる体外循環式心肺蘇生法(ECPR)を考慮する(クラスⅡb).

② ECPRは標準的なCPRよりも神経学的な予後を改善する.

③ PCPSに低体温療法と冠再灌流療法を駆使したECPRは,先進的な蘇生法である.

1 定義・手法

  体 外 循 環 式 心 肺 蘇 生 法(Extracorporeal cardio-

pulmonary resuscitation; ECPR)とは,一般的に遠心ポンプと膜型人工肺を用いた閉鎖回路による人工心肺装置(percutaneous cardiopulmonary support; PCPSもしくはcardiopulmonary bypass; CPB)を用いた侵襲的蘇生法である31),65),67),195).経皮的に脱血用カテーテルを大腿静脈から右心房まで挿入,送血用カテーテルを大腿動脈から総腸骨動脈まで挿入する.遠心ポンプにより静脈血を脱血(2~6L/min)し膜型人工肺で酸素化(動脈血化)し,総腸骨動脈から逆行性に大動脈血管内に送血する.これより脳・心臓等の主要臓器に酸素化血液が人工的に供給される.その供給量は標準的CPRの約1L/minより遥かに優れている219).

2 科学的検証 2005年に改変されたCPRと救急心血管治療のガイドラインでは,ECPRは,血流停止時間の短い心停止患者で,その原因が治癒可能な場合,もしくは心臓移植や冠血行再建術により修復可能な場合に考慮すべきである(クラスⅡb)と報告された34),68).

3 標準的心肺蘇生法との比較 このECPRの臨床研究は,我が国・韓国・台湾が先行している.我が国では,院外心停止患者に対して救急隊がCPRを施行しても,病院到着時に自己心拍が再開している割合は5%に過ぎない. 残り95%の病院到着時も心拍再開が得られてない例に対し医師が標準的CPRを行っても30日後の良好な神経学的転帰は0.4%と極めて不良である7).一方,ECPR

を行った場合の予後(良好な神経学的転帰)は10~30%と良好である220)-225)(図34).特にPCPS装着までの時間が心停止後1時間以内では,良好な神経学的転帰であった220)-223).

4 適応規準 ECPRの導入規準は国際的に標準化されていない.2008年現在,我が国の多施設共同研究として開始されたSAVE-J(厚労科研;坂本班)のECPRの導入規準を表34に示す226).

5 低体温療法・冠再灌流療法の併用療法

 ECPRは国際的に注目させている新しいCPRである.しかし,侵襲的蘇生法であり,その適応・効果の検証は今後の課題である.しかし,常温下のECPRには,限界がある.そこで,ECPRに低体温療法と冠再灌流療法を

<30分 <45分 >60分<60分全体(n=57)

適応患者 ●年齢≦75 歳  ●心原性   ●標準的 CPR>10分

100

75

50

25

0

 生存退院率(

%)

31.6%

100%

57.1%48.4%

11.5%

図34 心停止に対するECPRの効果Chen Y-S , et al. JACC 2003 ; 44 197-203より改変

Page 78: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1438 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

組み込んだ,より積極的なECPRが注目されている206),208),224)-226).

Ⅸ 小児のBLSとACLS

1 小児の一次救命処置(PBLS)

① 小児とは,1歳から思春期以前である.② 小児では呼吸停止が多く,原発性心停止は少ない.③ 呼吸の補助は,3~5秒に人工呼吸を1回行う(成人は5~6秒ごと).

④ 胸骨圧迫の深さは胸の厚みの1/3~1/2(成人は4~5cm).

⑤ 胸骨圧迫と呼吸の比は救助者が1人では30:2,2人では15:2で行う.

⑥ AEDを使用する際の手順は,成人の場合と同様だが,1歳以上8歳未満の小児に対しては,小児用パッドを用いる.小児用パッドがない場合は成人用を代用する.

1 小児BLSの概念

 小児とは,1歳から思春期以前(15歳までが目安)を指し,乳児は1歳未満とする.この年齢のBLSを必要とする病態は,呼吸原性のものが多いのが特徴で,BLSの手順も成人のものと異なる.子どもが一旦心停止に至った場合の救命率は低いため,予防・CPR・地域救急システムへの搬送等,救命の連鎖を迅速に行うことが求められる227).

2 小児BLSのアルゴリズム(図35)

①発見時の対応

肩を(軽く)叩きながら大声で呼びかけても,何らかの応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」とみなし,大声で叫んで周囲の注意を喚起し,CPRを開始する.誰かが来たら,その人に緊急通報(119番通報)とAEDの手配を依頼し,自らはCPRを継続する.救助者が1人の場合は,5サイクル(または2分間)のCPR

を行ってから119番通報を行い,近くにAEDがあれば確保する.ただし,突然の卒倒が目撃された場合で救助者が1人だけの場合は,反応がないことを確認したら,まず119番通報やAEDの手配を行い,その後にCPRを開始する.

②呼吸の確認と人工呼吸

死戦期呼吸(いわゆる喘ぎ呼吸),または無呼吸の場合は,気道を確保して,“有効な”人工呼吸を2回行う.人工呼吸が有効でない場合は,頭の位置を変えて気道の確保をやり直して再施行するが,このために胸骨圧迫の開始が遅れてはならない.口対口人工呼吸を行う場合,乳児では口対口鼻法が,小児では口対口法が適している.呼吸数10回 /分以下の徐呼吸も,呼吸停止(無呼吸)と同様に対応する.

③心停止の確認

反応と呼吸がなければ心停止の可能性が高い.充分な速さの脈が確実に触知できる場合を除いてはCPRが必要である.呼吸の観察と脈拍の触知を同時に行うが,10秒以上をかけない.10秒以内に脈の触知を確信できない場合は心停止と判断して胸骨圧迫を開始する.充分な速さの脈が確実に触知できれば人工呼吸のみを開始する.脈拍の確認は,乳児では上腕動脈で,小児では頸動脈か大腿動脈で行う.充分な酸素投与と人工呼吸にもかかわらず,心拍数が60/min以下で,かつ循環が悪い(皮膚蒼白,チアノーゼ等)場合も胸骨圧迫を開始する.反応はないが,呼吸および確実な脈のある場合は,傷病者を回復体位にして専門家の到着を待つ.

④心肺蘇生法CPR

心停止と判断した場合は,人工呼吸を2回試みた後に,胸骨圧迫30回(二人法では15回)と人工呼吸2回の

表34 ECPRの適応(SAVE-J研究;坂本班)開始規準

1.年齢20歳~75歳2.初回心電図がVF/無脈性VT3.標準的ACLSに反応しない除外規準

1.ER到着までの時間が45分以上2.ER到着後も15分間の標準的ACLSに反応した3.収容時深部体温<30℃4.心停止前のADLが不良5.家族の同意が得られない

Page 79: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1439Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

組み合わせを速やかに開始する.ただし,人工呼吸の準備が整っていない場合には胸骨圧迫の開始を優先し,人工呼吸は可能になり次第始める.⑴ 乳児の胸骨圧迫両乳頭を結ぶ(想像上の)線より少し足側(尾側)の胸骨を指2本で(一人法),または胸郭包み込み両母指圧迫法で(二人法)で圧迫する.胸の厚みの1/3までしっかり約100回 /分の速さ(テンポ)で圧迫する.救助者が2人の場合は,4本の指で胸郭を絞り込むような動作で胸郭包み込み両母指圧迫法を行う.

⑵ 小児の胸骨圧迫「胸の真ん中」または両乳頭を結ぶ線の胸骨を片腕または両腕で圧迫する.胸の厚みの1/3までしっかり約100回 /分の速さ(テンポ)で圧迫する.

⑶ 非同期CPR気管挿管がなされた場合は,人工呼吸と胸骨圧迫

を非同期で行い,呼吸回数は約10回 /分とする.⑷ 胸骨圧迫なしの人工呼吸呼吸はないが脈を確実に触知できる場合は,12~20/回の人工呼吸のみを行う.およそ2分ごとに確実な脈拍が触知できることを,10秒以内で確認する.

⑸ 胸骨圧迫の役割交代胸骨圧迫の交代要員がいる場合には,10サイクル(2分)おきに交代することが望ましい.

⑤自動体外電気除細動器AED

AEDを使用する際の手順は,成人の場合と同様だが,1歳以上8歳未満の小児に対しては,小児用パッドを用いる.小児用パッドがない場合,成人用パッドを代用する.

体動なし,反応なし119番通報,AEDを確保に行かせる

気道を確保,呼吸確認

呼吸停止なら,2回人工呼吸(胸郭の拡張を確認)

*救助者が一人の場合:目の前で突然倒れた場合はまず,119番通報,AEDを確保する。

反応がなければ,脈をチェックする(10秒以内)

心電図解析除細動の適応は?

脈あり ・3秒ごとに 1回人工呼吸・2分ごとに脈をチェック

脈がない or不確実

1人:胸骨圧迫 30回+人工呼吸 2回を繰り返す2人:胸骨圧迫 15回+人工呼吸 2回を繰り返す心マッサージの中断は最小限に圧迫は強く,速く(100/分)圧迫解除後に胸郭が完全に戻るように

未だ済ませていなければ,119番通報,AEDを確保1歳未満:ALSチームに引き継ぐか,傷病者が動き始めるまで CPRを続ける1歳以上:CPRを続ける,5サイクルの CPR後,AED/除細動器を使用する(倒れたのが目撃された場合には,できるだけ早期に AEDを使用する)

ただちに CPRを再開5 サイクル(2 分間)毎に心電図解析,ALS チームに引き継ぐか,傷病者が動き始めるまで CPRを続ける。

ショック 1回ただちに CPRを再開5サイクル(2分間) 適応なし適応

図35 PBLSのアルゴリズム

Page 80: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1440 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

2 小児の二次救命処置(PALS)

① 小児の二次救命処置(PALS)は,評価,呼吸障害,ショック,徐脈,頻脈,心停止の評価と治療から成り立つ.

② general assessment(初期評価),primary assessment

(一次評価),secondary assessment(二次評価),tertiary assessment(三次評価)を行う.その際に小児の正常値を理解する.

③ 小児の神経状態はAlert-Voice-Painful-Unres-

ponsive(AVPU)小児反応スケールと瞳孔反応で判断する.

④ 小児の徐脈の原因としては低酸素が最も考えられる.循環不全を合併する場合には,気道,呼吸,静脈路を確保し,酸素を投与する.酸素投与と換気を行っても,循環不全で心拍数<60/分の場合は,CPRを実施する.

⑤ 小児のVF/無脈性VTは成人に準じるが,1回目の電気ショック(除細動)は2J/kgで行い,2回目以降は4J/kgで行う.また,小児の心静止 /PEA

(無脈性電気活動)では,アドレナリン(エピネフリン)は体重換算で用い,硫酸アトロピンは使用しない.

⑥ 循環の良好な頻脈において,小児では,QRS幅≦0.08secを正常と判断する.洞性頻脈では起こりうる原因を治療する.上室頻拍と考えられる場合は,迷走神経緊張,ATP静注を行う.広いQRSの頻拍は,心室頻拍の可能性が高くアミオダロンまたはプロカインアミドもしくは同期下カルディオバージョンを行う.

⑦ 循環不良な頻脈では,洞性でなければ同期下カルディオバージョンを遅滞なく行う.

1 PALSの概念

 PALSはBLSでは回復不能な小児の高度心肺蘇生法であり,評価(初期,一次,二次,三次評価),呼吸障害,ショック,徐脈,頻脈,心停止の評価と治療から成り立つ228).

2 評価  評 価 はgeneral assessment( 初 期 評 価 ),primary

assessment(一次評価),secondary assessment(二次評価),tertiary assessment(三次評価)の4つから構成される.

①general assessment(初期評価)

A;Appearance(外見)筋緊張低下,意思疎通性低下,精神的不安定,表情に乏しい,言葉,泣き方が弱い等は重篤な病態や重体の徴候である.

B;Work of Breathing(呼吸仕事量)努力呼吸(鼻翼呼吸,陥没呼吸),徐呼吸,無呼吸,呼吸音の異常(wheezing,grunting,stridor)は呼吸障害を意味する.

C;Circulation(循環皮膚色)皮膚色の異常(蒼白,斑状)は末梢循環不全もしくは酸素化不良を意味する.出血の有無もチェックする.

②primary assessment(一次評価)

A;Airway(気道)胸郭と腹部の動きを見る.呼吸音を聴取する.鼻腔と口腔の空気の動きを感じる.陥没呼吸を伴う努力性呼吸で,吸気音の異常(snoring,高調な stridor),努力呼吸にも関わらず呼吸音が聴取できない場合に上気道閉塞を考える.この場合,頭部後屈,下顎挙上,鼻腔咽頭吸引,異物除去手技,経鼻もしくは経口エアウェイ等を行い,改善しない場合には,挿管,喉頭鏡による異物除去,持続陽圧呼吸,気管切開等を行う.

B;Breathing(呼吸)呼吸数,呼吸努力,一回換気量,呼吸音の異常,経皮的酸素分圧等で評価する(表35).⑴ 呼吸数:60/分以上の頻呼吸は小児では異常であり,かなり重篤な状態を意味する.呼吸数が正常上限を超えている場合に頻呼吸と言うが,発熱,疼痛,代謝性アシドーシス,敗血症等を除外することが必要である.正常下限を下回る時に徐呼吸と定義する.疲労,中枢神経障害や感染,低体温,薬剤等が原因となる.また20秒を超える呼吸停止を無呼吸という.

⑵ 呼吸努力:鼻翼呼吸,陥没呼吸,頭部の上下運動,シーソー様呼吸は低酸素,低換気を改善するための徴候である.

⑶ 換気量:小児の一回換気量はおよそ5~7mL/

kgであり,分時換気量=呼吸数×一回換気量となる

⑷ 呼吸音の異常:stridor(吸気性喘鳴),grunting

(伸吟),gurgling(ゴロゴロ音),wheezing(笛音,呼気性喘鳴),crackles(捻髪音,水泡音)

Page 81: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1441Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

等がある経皮的酸素分圧室内で94%を上回る時には換気が十分であることを表す.これ以下の場合には酸素投与を考える.90%以下では100%酸素投与を行う.

C;Circulation(循環,皮膚色)循環では心血管系と末梢臓器機能の両者を評価する.心血管系としては皮膚色,皮膚温,心拍数,リズム,血圧,脈(末梢,中心),毛細血管充満時間を,末梢臓器機能としては脳循環(精神状態),皮膚循環,腎循環(尿量)等を評価する.小児の正常値を表35に示す.毛細血管充満時間capillary refill timeは正常では2秒以下であり,延長する時には脱水,ショック,低体温等を示唆する.敗血症ショックでは正常である.

D;Disability(神経学的評価)小児の神経状態はAlert-Voice-Painful-Unresponsive

(AVPU)小児反応スケールと瞳孔反応で判断する(表36).小児で意識レベルの低下するのは,脳血流障害(頭蓋内圧亢進等),頭部外傷,脳炎,髄膜炎,低血糖,薬物中毒,低酸素血症,高二酸化炭素血症である.正 常 例 で は 瞳 孔 はPERRL(Pupils Equal Round

Reactive to Light;瞳孔は左右差なく,円形で光に反応する)である.

E;Exposure(全身観察)小児の観察を行うため,衣服を脱がせ観察する.重篤な低体温,出血,点状出血 /紫斑は敗血症性ショック

を,腹部膨満は急性腹症を示す.

③secondary assessment(二次評価)

 一次評価が終了したら,病歴と身体所見をとる(SAMPLE).Signs and Symptoms(自他覚症状)呼吸困難(咳嗽,頻呼吸,努力呼吸,息切れ,異常な呼吸パターン,胸痛,深吸気),意識状態の変化,興奮,不安,発熱,経口摂取不良,下痢,嘔吐,出血,疲労,症状出現の時間経過.

Allergies(アレルギー)薬物,食物,ラテックス(ゴム).

Medications(薬剤)服薬状況,最後の服薬の時間と量.

Past medical history(既往歴)既往歴,過去の手術歴,予防接種.

Last meal(最後の食事)最後の食事,ミルクの時間と種類.

Events(イベント)病状に関係する行事,危険な状況の有無,これまで行った治療,到着までの時間

④tertiary assessment(三次評価)

 二次評価が終わったら検査を行う.呼吸機能動脈血ガス,静脈血ガス,ヘモグロビン,パルスオキシメーター,呼気CO2モニター,呼気二酸化炭素検知(カプノメータまたは比色法),胸部X線検査,最大呼気流量(peak expiratory flow rate:PEFR).

循環機能動脈血ガス,静脈血ガス,中心静脈血酸素飽和度(SvO2),総血清CO2(HCO3-,H2CO3,溶解CO2),動脈血乳酸値,ヘモグロビン,観血的動脈圧,中心静脈圧,胸部X線写真,心エコー(心内腔の大きさ,心室壁の厚さ,収縮能,弁の逆流,動き,心囊液,心室圧の推定,心室中隔の位置,先天性心疾患の有無)

表35 小児のバイタルサインなどの正常値1 呼吸数 年齢 呼吸数(/分)

<1歳 30~601~3歳 24~404~5歳 22~346~12歳 18~3013~18歳 12~16

2 心拍数 年齢 覚醒時心拍数 平均 睡眠時心拍数<3か月 85~205 140 80~1603か月~2歳 100~190 130 75~1602歳~10歳 60~140 80 60~90>10歳 60~100 75 50~90

3 血圧 年齢 収縮期血圧(mmHg)日齢0~28 <601~12か月 <701~10歳 <70+(年齢×2)>10歳 <90

4 腎機能 年齢 尿量乳幼児 1.5~2mL/kg/hそれより大きな小児 1mL/kg/h

表36 Alert-Voice-Painful-Unresponsive(AVPU)小児反応スケール

A Alert(意識清明): 覚醒しており,活動的で,両親や外部刺激に対する反応が正常である

V Voice(声に反応): 呼びかけると反応するP Painful(痛み刺激に反応): 痛み刺激で反応するU Unresponsive(無反応): 刺激しても反応しない

Page 82: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1442 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

3 脈拍を触知する小児徐脈アルゴリズム(図36)

 徐脈の原因としては低酸素が最も考えられる.もし反応が鈍い等他の循環不全を合併する場合には,気道,呼吸,静脈路を確保し,酸素を投与する.酸素投与と換気を行っても,循環不全で心拍数<60/分の場合は,CPR

を実施する.

4 小児無脈性心停止アルゴリズム(図37)

 小児のVF/無脈性VTは成人に準じるが,1回目の電気ショック(除細動)は2J/kgで行う.自動体外式除細動器(AED)は1歳以上で使用する.2回目以降の電気

ショック(除細動)は4J/kgで行う.小児の心静止 /PEA

(無脈性電気活動)では,アドレナリン(エピネフリン)は体重換算で用い,硫酸アトロピンは使用しない.

5 循環の良好な小児頻脈アルゴリズム(図38)

①QRS幅が狭い(≦0.08sec)場合

 頻脈で脈拍を触知し,末梢循環も良好なものには,ABCを評価し,必要なら確保する.酸素投与,モニター /除細動器の装着,可能なら12誘導心電図の記録を行う.小児では,QRS幅≦0.08secを正常と判断する.⑴ 洞性頻脈を疑う既往歴,明瞭もしくは正常P波,

脈拍を触知する徐脈呼吸循環不全を認める

はい

・ABCを確保・酸素投与・モニター・除細動器を装着

症候性徐脈とは,心拍数が年齢の正常以下で,ショック(末梢循環不全,低血圧,意識低下等),かつ / または呼吸窮迫,呼吸不全を認めるもの

徐脈により依然,呼吸循環不全を認めるか?

いいえ

・ABCを確保:必要なら酸素投与・観察・専門医への相談を考慮

はい

酸素投与と換気を行っても,循環不全で心拍数<60/分の場合は,CPRを実施

症候性徐脈が持続するか?いいえ

・エピネフリン(アドレナリン)投与 静注・骨髄内:0.01mg/kg(10,000倍希釈:0.1mL/kg) 気管内:0.1mg/kg(1,000倍希釈:0.1mL/kg) 3~5分ごとに繰り返す・迷走神経緊張・原因不明の房室ブロック アトロピン:初回 0.02mg/kg,再投与可 (最少投与量:0.1mg,最大投与量:1mg)・経皮的体外ペーシングを考慮

はい

注意を喚起すべきこと・CPRは,強く,速く(100/分)行う  胸郭が完全に戻ることを確認  心マッサージの中断を最小限にする・ABCを補助・必要ならエアウェイを挿入:位置を確認・可能性のある原因を考え,治療するHypovolemia(循環血液量減少)Hypoxia or ventilarion problem (低酸素,換気不良)Hydoregen ion (アシドーシス)Hypo-/hyperkalemia(高 /低 K血症)Hypoglycemia(低血糖)Hypo thermia(低体温)Toxins(毒物)Tamponade, cardiac(心タンポナーデ)Tension pneumothorax(緊張性気胸)Thrombosis (心筋梗塞,肺塞栓)Trauma (外傷循環血液量減少,頭蓋内圧亢進)

無脈性心停止が生じた場合には無脈性心停止アルゴリズムへ

図36 脈拍を触知する小児徐脈アルゴリズム

Page 83: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1443Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

PRは一定で,RR時間が変動する場合,乳児:HR<220/min,小児:HR<180/minでは洞性頻脈と考え,起こりうる原因を調べ治療する.

⑵ 上室頻拍を疑う既往歴,不明瞭もしくは異常P波,HRが体動で変動しない場合,乳児:HR≧220/min,小児:HR≧180/minでは上室頻拍を考え,

バルサルバ法と顔面氷冷法等迷走神経刺激を考慮する.次に血管を確保し,ATP 0.1mg/kg IV(最大10mg),無効なら2回目0.2mg/kg IV(最大20mg)を急速静注し生食でフラッシュする.

図37 小児無脈性心停止アルゴリズム無脈性心停止・BLSアルゴリズム:CPRを継続・可能なら酸素投与・可能ならモニター /除細動器を装着

リズムチェック除細動の適応か?

VT/VF 心静止 /PEA(無脈性電気活動)

1回除細動・除細動器:2J/kg・AED:1歳以上(8歳以下では可能なら 小児用パッドを用いる)ただちに CPRを再開

ただちに CPRを再開・エピネフリン投与 IV/IO:0.01mg/kg (10,000倍希釈 :0.1mL/kg) 気管内:0.1mg/kg (1,000倍希釈 :0.1mL/kg)3~5分ごとに繰り返す

はい いいえ

リズムチェック除細動の適応か?

リズムチェック除細動の適応か?

はい

はい

5サイクルの CPR

5サイクルの CPR

除細動器の充電中は CPRを継続1回除細動・除細動器:4J/kg・AED:1歳以上ただちに CPRを再開・エピネフリン投与 IV/IO:0.01mg/kg (10000倍希釈:0.1mL/kg) 気管内:0.1mg/kg (1000倍希釈:0.1mL/kg)3~5分ごとに繰り返す

除細動器の充電中は CPRを継続1回除細動・除細動器:4J/kg・AED:1歳以上ただちに CPRを再開抗不整脈薬投与を考慮 アミオダロン 5mg/kg IV/IO リドカイン 1mg/kg IV/IO) Torsade des pointesには硫酸マグネシウム 25~50mg/kg 最大 2g IV/IO5サイクルの CPR

リズムチェック除細動の適応か?

心静止PEA

脈拍触知

蘇生後ケアを開始

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

はい

5サイクルの CPR

はい

VT :心室頻拍VF :心室細動IV :静注IO :骨髄内

Page 84: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1444 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

②QRS幅が広い(>0.08sec)場合

心室頻拍の可能性が高く,専門家への相談を考慮;起こりうる原因を調べ治療する.薬剤による停止を行う場合は,アミオダロン5mg/

kg IV 20~60分もしくはプロカインアミド15mg/kg

IV 30~60分を使用し,なるべくアミオダロンとプロカインアミドは同時には使用しない.使用していなければATPも考慮する.カルディオバージョンは0.5~1J/kgでQRS同期下にカルディオバージョン(初回が効果ない場合には2J/kgまで増加)を行う.

6 脈拍はあるが循環の不良な小児頻脈アルゴリズム(図39)

 頻脈で脈拍は触知するが,末梢循環の不良なものでは,循環が良好な場合に準じるが,上室性頻拍でも同期下カルディオバージョンを遅延することなく行う.QRS幅が広い(>0.08sec)場合も,薬剤による停止ではなく,心室頻拍の可能性が高いので,同期下カルディオバージョン(0.5~1J/kg,効果ない場合には2J/kg)を遅延す

ることなく行う.

Ⅹ 循環器救急医療に関する提言

 心肺蘇生・蘇生科学はこの10年間で急速な進歩を遂げている学際的領域である.また循環器医の過剰労働や救急施設の集約化と機能分化等循環器救急の抱える問題は大きい.本ガイドラインの主旨から詳細については言及しないが,心肺蘇生を含め心血管救急ガイドライン作成にあたって本学会が取り組むべき課題の解決に向けての提言を述べる.

1 心肺蘇生・蘇生科学に対する本学会の役割

 我が国における心肺蘇生の教育・研修システムに関わる仕組みはいまだ確立されておらず,普及も不十分である.一般市民に対してBLS(ABC+AED),医学生・医療従事者に対してBLS(ABC+AED+BVM),研修

頻脈で脈拍を触知し,末梢循環も良好なもの・ABCを評価し,必要なら確保する・酸素投与・モニター /除細動器を装着・可能なら 12誘導心電図を記録

QRS幅は?正常(≦0.08 sec) 広い(>0.08 sec)

リズムを評価 心室頻拍の可能性が高い

洞性頻脈と考えられる場合・洞性頻脈を疑う既往歴・P波が明瞭 /正常・PRは一定で,RR時間が変動・乳児:HR<220/min・小児:HR<180/min

上室頻拍と考えられる場合・上室頻拍を疑う既往歴 (非特異的;突然の心拍数 の変化)・P波が不明瞭 /異常・HRが体動で変動しない・乳児:HR≧220/min・小児:HR≧180/min

専門家への相談を考慮;起こりうる原因を調べ治療する薬剤による停止を考慮・アミオダロン 5mg/kg IV 20~60 分かけて

・プロカインアミド 15mg/kg IV 30~60分かけて

 アミオダロンとプロカインアミドはなるべく同時には使用しない

・使用していなければ ATP 使用を考慮カルディオバージョン

・小児循環器医に相談・0.5~1J/kg で QRS 同期下にカルディオバージョン(初回が効果ない場合には 2J/kgまで増加)

・鎮静薬投与:カルディオバージョンの前に

・12誘導心電図を記録

起こりうる原因を調べ治療する

迷走神経刺激を考慮

・血管確保・ATP 0.1mg/kg IV (最大 10mg) 2回目 0.2mg/kg IV(最大 20mg) 急速静注(生食でフラッシュ)

図38 循環の良好な小児頻脈アルゴリズム

Page 85: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1445Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

医・内科認定医に対して ICLS(BLS+薬剤,特殊機器を用いた心停止への高度な治療),循環器専門医に対してAHAガイドラインに基づくACLS:薬剤,特殊機器を用いた心停止,不整脈やACSへの高度な治療となっている.今後対象者によってはより高度の心肺蘇生法の内容が求められ,医療従事者に ICLS,初期臨床研修医にACLSの修得が義務付けられていくと考えれる.いずれにしろ,本学会は心肺蘇生・AEDに直接かかわる学術専門団体として国民各層に対する講習を積極的に行い,その普及において指導的な役割を果たすべきである.すなわち⑴ BLS/ACLSの指導者(インストラクター等)の育成,

研修システム(AHA-ITC)を充実する.⑵ 医学生・初期臨床研修医に対するBLS/ACLSの講

習を行う.

⑶ 患者・家族教育・啓発を診療の一貫として捉え,BLS講習を実施する.

 急性心筋梗塞の病院内死亡率は現在7%以下へと改善したが,心筋梗塞による死亡例の半数は病院前であり,大半が心室細動であったと報告される.そして病院外心肺停止の約70%は家庭で起こり,約20%は誰かが居る前で起こったとされ,患者家族への家庭での胸痛発症時の対策と一次心肺蘇生法の教育が極めて重要である.一般市民に対して心臓突然死・急性心筋梗塞等に関する教育・啓発を行い,緊急の救急システム始動を教育し,地域社会における院外心停止への心肺蘇生とAED使用のプログラムを拡げるべきである.⑷ 院内心停止への対策として職員のBLS/ACLS講習を実施し,病院内Medical Emergency Teamを立ち上げる.

図39 脈拍はあるが循環の不良な小児頻脈アルゴリズム頻脈で脈拍は触知するが,末梢循環の不良なもの・ABCを評価し,必要なら確保する・酸素投与・モニター /除細動器を装着

QRS幅は?

症状持続

正常(≦0.08 sec) 広い(>0.08 sec)

リズムを評価12誘導心電図もしくはモニター

心室頻拍の可能性が高い

洞性頻脈と考えられる場合・洞性頻脈を疑う既往歴・P波が明瞭 /正常・PRは一定で,RR時間が変動・乳児:HR<220/min・小児:HR<180/min

上室頻拍と考えられる場合・上室頻拍を疑う既往歴 (非特異的;突然の心拍数 の変化)・P波が不明瞭 /異常・HRが体動で変動しない・乳児:HR≧220/min・小児:HR≧180/min

・同期下カルディオバージョン 0.5~1J/kg,効果ない場合には 2J/kgでカルディオバージョンの施行を遅延することなく可能なら鎮静薬投与・使用していなければ ATP使用を考慮 カルディオバージョンの施行を遅延してはならない

起こりうる原因を調べ治療する

迷走神経刺激を考慮(遅滞なく施行)

・血管確保がされている場合ATP 0.1mg/kg IV (最大 10mg)2回目 0.2mg/kg IV (最大 20mg)急速静注(生食でフラッシュ)      または・同期下カルディオバージョン 0.5~1J/kg,効果ない場合には

2J/kg でカルディオバージョンの施行を遅延することなく可能なら鎮静薬投与

専門家への相談を考慮;起こりうる原因を調べ治療する薬剤による停止を考慮・アミオダロン 5mg/kg IV 20~60分かけて      または・プロカインアミド 15mg/kg IV 30~60分かけてアミオダロンとプロカインアミドはなるべく同時には使用しない

Page 86: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1446 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

⑸ CoSTR2005に 基 づ くAHA-ACLSに 代 わ るCosTR2010に基づく日本版ガイドラインを作成する.さらにそれに基づくBLS,ALSマニュアルと,その教育法を開発をめざす.

⑹ JRCのメンバーとして日本の蘇生科学の進歩を推進し,さらにRCAおよび ILCORにおいて世界の蘇生科学の発展に積極的に貢献する.

2 循環器救急医療に対する提言

 我が国の救急制度は従来,一次,二次,三次救急の順次搬送システムが構築されている.しかし産科救急,小児救急にみられるように現在の救急制度そのものの限界と考えられる.今後救急制度全体として評価を行い,21世紀における心血管救急を包含する救急制度のグランドデザインを作成することが必要である.本学会としては心血管疾患の特殊性をふまえて心血管救急にかかわる改善案を作成し,その実現のための方策を考えるべきである.

⑴ 循環器医の労働環境の緊急改善を図る.例えば,最低目標を週平均労働時間60時間,月平均完全休日4日等の目標宣言を検討する.

⑵ 循環器救急医療システムの再構築(集約化と役割分担・ネットワーク)の検討する(Ⅰ-2参照).

⑶ 救急救命士制度の充実を図る(Ⅰ-2参照).⑷ 地域市民への教育・啓発を行い,ネットワークを構築する(Ⅰ-2参照).

⑸ 循環器救急医療における医療経済の評価を行う.⑹ 循環器救急医療における安全対策を検討する.⑺ 循環器救急医療における医療事故対策を検討す

る.

 心肺蘇生・循環器救急医療にかかわる問題は医学的にとどまらず,経済,法律,行政,倫理等社会科学的および人文科学的問題を包含する.多くの困難な問題解決に向けて,本学会が積極的な活動を展開することを願うものである.

Ⅺ 本ガイドラインで使用した薬剤・略語一覧

一般名 商品名 組成・剤形 用法

アスピリン バファリン81 バイアスピリン等

1T:81mg,100mg,325mg ●ACS:160m~325mg経口咀嚼投与

アドレナリン(エピネフリン) ボスミン 1A 1mg

●心停止:1mgを3~5分ごとにボーラス投与し20mL生食で後押しし上肢挙上 ●高用量:β遮断薬やCa拮抗薬の中毒では0.2mg/kgの高い用量も可能 ●徐脈には2~10μg/分で静注する

アトロピン アトロピン 1A 0.5mg●心静止/PEA:1mgを3~5分ごとにボーラス投与,最大3mgまで ●徐脈:0.5mgを3~5分ごとに,総投与量0.04mg/kgもしくは合計3mgまで ●有機リン中毒では大量(2~4mg,総量20~40mg)

アミオダロン アンカロン 1A 150mg ●VF/脈なしVT:初回150~300mg,3~5分後に追加150mg ●VT:125mgを10分かけて静注 

アルガトロバン ノバスタン,スロンノン 1A 10mg 2mL ●ヘパリン惹起性血小板減少症患者のPCI:0.1mg/kgボーラス後6μ

g/kg/分でaPTTを2~3倍に保つ.PCI終了後は0.7μg/kg/分で

アルテプラーゼ アクチバシン,グルドパ

600万,1,200万,2,400万 IU ●AMI:29万~43.5万 IU/kg静注

イソプロテレノール プロタノール 1A 0.2mg ●徐脈 : 0.01~0.03μg/kg/分

硝酸イソソルビド ニトロール,サークレス 多種あり ●ACS・心不全:0.2~2.0μg/kg/分

ATP アデホス 1A 10mg,20mg,40mg

●PSVT:10mgボーラス 無効なら20mg ●特発性VT(LBBB,RAD)10mgボーラス,無効なら20mg

オルブリノン コアテック 1A 5mg/5mL 他 ●心不全:10μg/kg初期投与後に0.1~0.3μg/kg/分

カルペリチド ハンプ 1A 1,000μg ●STEMI:0.025μg/kg/分をできれば再灌流前から4日間 ●心不全:0.0125~0.2μg/kg/分

塩化カルシウム 塩化カルシウム 1A 400mg 20mL ●高K血症・高Mg血症:500~1,000mg静注 ●低Ca血症:120mg 6mLを10分かけて

グルコン酸カルシウム カルチコール 8.5% 1A 5mL・

10mL ●低Ca血症 2mLを10分かけて

Page 87: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1447Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

一般名 商品名 組成・剤形 用法グルカゴン 複数あり 複数あり ●Ca拮抗薬やβ遮断薬の中毒:

グルコース・インスリン療法

グルコース5gにインスリン2U

●高K血症:50%ブドウ糖50mL+レギュラーインスリン10U 静注 もしくは10%ブドウ糖500mL+レギュラーインスリン10U~20Uを1時間かけて静注

クロピドグレル プラビックス 1T25mg,75mg ●ACS:ステント治療の可能性あれば,300mg負荷後75mg/日ポリスチレンスルホルン酸カルシウム(陽イオン交換樹脂)

ケーキサレート ●高K血症:15~50g 経口投与もしくはソルビトールに溶解

コルホルシンダロパート アデール 1A 5mg,10mg ●心不全:0.5~0.75μg/kg/分 急性期を脱したら他の治療に変更す

るジゴキシン ジゴシン 1A 0.25mg 1mL ●心不全:0.125~0.25mg 静注 ●Af:0.125~0.25mg 静注ジソピラミド リスモダンP 1A 50mg 5mL ●Af:50~100mgを5分以上かけてゆっくり

ジルチアゼム ヘルベッサー 1A 10mg,50mg,250mg.

●Af:0.25mg/kgを2分以上かけて ●PSVT:15~20mgを2分かけて

シベンゾリン シベノール 1A 70mg 5mL ●頻脈:0.1 mL/kg(1.4mg/kg)を生食またはブドウ糖液で希釈,血圧・心電図監視下で2~5 分かけて

重炭酸ナトリウム メイロン 7% 1A 20mL,92mEq ●高K血症:50mEq投与,最大投与量1mEq/kg.15分後に再投与

チクロピジン パナルジン 1T 100mg ●ACS:ステント治療の可能性あれば,200mg分2でドパミン イノバン等 多種あり ●ショック:2~20μg/kg分ドブタミン ドブトレックス等 1A 100mg 5mL ●ショック:2~20μg/kg分トラセミド ルプラック 1T 4mg,8mg ●急性肺水腫慢性期移行期塩酸ナロキソン 塩酸ナロキソン 1A 0.2mg 1mL ●オピエート中毒:0.4~2mg 投与前にマスク換気を十分に行う.

ニカルジピン ペルジピン1A 2mg 2mL,10mg 10mL,25mg 25mL

●AADの降圧:3mL/時で開始し1mgずつボーラスを加えながらBP 100~120mmHgまで増量

ニコランジル シグマート 1A 2mg,12mg,48mg ●AMI:0.2mg/kgを5分かけて静注後,0.05~0.2mg/kg/時で調整

ニトログリセリンニトロペン,ミオコール,ミリスロール他

多種あり ●ACS,心不全:舌下,噴霧0.3~0.4mg,静注0.2~2.0μg/kg/分

ニトロプルシド ニトプロ 6mg 2mL,30mg 10mL

●心不全の後負荷軽減:0.1μg/kg/分から開始し3~5分で漸増し5μg/kg/分まで

ニフェカラント シンビット 1V 50mg●頻脈:生食またはブドウ糖液で溶解し心電図監視下で単回静注1 回 0.15 mg/kg(0.1~0.3mg)を5 分間,維持点滴0.4 mg/kg/時を等速度で.

ノルアドレナリン ノルアドレナリン 1A 1mg1mL ●ショック:0.5~30μg/分 ●心不全:0.03~0.3μg/kg/分

バソプレシン バソプレシン 1A 20U 1mL ●VF/脈なしVT/心静止 PEA:初回もしくは2回目のアドレナリンの代わりに40Uを1回のみ急速静注/骨髄内投与

パミテプラーゼ ソリナーゼ 260万,520万U ●AMI:6.5万U/kg を単回静注

ピルジカイニド サンリズム 1A 50mg 5mL ●Af 1回1mL/kg(1mg/kg )まで,いずれも血圧・心電図監視下で10 分かけて

ブプレノルフィン レペタン 1A 0.2mg 1mL,0.3mg 1.5mL ●AADの鎮痛:5mg 必要なら同量の追加

フレカイニド タンボコール 1A 50mg 5mL ●頻脈:0.1~0.2mL/kg(1~2mg/kg),血圧・心電図監視下で10分かけて,総投与量は1 回150mg まで

プロカインアミド アミサリン10%,1 mL,2mL(1A 100mgまたは200mg)

総量は17mg/kgを20mg/分で.

フロセミド ラシックス 1A 20mg 2mL ●心不全:1回20~120mg,持続静注は2.5mg/時 ●高K血症:40~80mg静注

プロプラノロール インデラル 1A 2mg 2mL ●多形性VT:0.1mg/kgを3等分して2~3分間隔で ●Af:2mgずつ総量0.15mg/kgまで ●AAD: 2mgずつ

ヘパリン 多種あり 多種あり●STEMI:60U/kg 最大4,000Uボーラス後aPTTを1.5~2.0に保つ ●UA/NSTEMI: 60~70U/kg 最大5,000Uボーラス,以降はSTEMIに準じる ●肺塞栓症:5,000Uボーラス後14,000U/日持続静注

Page 88: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1448 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

一般名 商品名 組成・剤形 用法

ベラパミル ワソラン 1A 5mg 2mL●PSVT: 2.5~5mgを2分かけて静注,無効例では5mgを15~30分毎に総量20mg ●Af:5~10mgを2分かけて ●特発性VT(RBBB+LAD型)2.5~5mgを2~3分かけて総量は20mgまで

マグネシウム マグネゾール 1A 2g 20mL●TdPによる心停止:1~2g を10mLの5%1ブドウ糖液で希釈し5~20分かけて ●脈のあるTdP: 1~2gを50~100mLに希釈して5~60分で静注し,0.5~1g/時で維持する.

ミルリノン ミルリーラ 10mg/10mL,22.5mg/150mL ●心不全:50μg/kgを負荷後に0.25~0.75μg/kg/分を持続静注

免疫グロブリン 多種あり ●小児急性心筋炎:2g/kg

塩酸モルヒネ 塩酸モルヒネ 10mg1mL,50mg 5mL,200mg 5mL ●AMIやAAD鎮痛:1mg~4mg

モンテプラーゼ クリアクター 40万,80万,160万U

●急性肺塞栓症:13,750~27,500U/kgを2分で ●AMI:27,500 U/kg 静注

リドカイン リドカイン,オリベス 1A 100mg 5mL ●VF/脈なしVT:初回1~1.5mg/kg,追加0.5~0.75mg/kg,最大

3mg/kg ●VT50~100mg(1~2 mg/kg)を1~2 分間で緩徐に静注

本ガイドラインで使用した略語AAD Acute aortic dissectionACLS Advanced cardiovascular life supportACS Acute coronary syndromeAED Automated external defibrillatorAHA American Heart AssociationALS Advanced life supportaPTT activated partial thromboplastin timeATP Adenosine triphosphateAVPU Alert-voice-painful-unresponsiveBLS Basic life supportBVM Bag valve maskCABG Coronary artery bypass surgeryCCU Coronary care unitCPB Cardiopulmonary bypassCPR Cardiopulmonary resuscitationECPR Extracorporeal cardiopulmonary resuscitationIABP Intraaortic balloon pumpICLS Immediate cardiac life supportITC International Training CenterJRC Japan Resuscitation Council

LBBB Left Bundle Branch BlockMET Medical Emergency TeamNIPPV Noninvasive positive pressure ventilationNSTEMI Non-ST elevation myocardial infarctionPAD Public access defibrillationPALS Pediatric advanced life supportPCI Percutaneous coronary interventionPCPS Percutaneous cardiopulmonary supportPEA Pulseless electrical activityPSVT Paroxysmal supraventricular tachycardiaPTE Pulmonary thromboembolismRAD Right Axis DeviationRCA Resuscitation Council of AsiaSCA Sudden Cardiac ArrestSTEMI ST elevation myocardial infarctionTCP Transcutaneous pacingTdP Torsade des pointesUA Unstable anginaVF Ventricular FibrillationVT Ventricular Tachycardia

Page 89: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1449Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

文  献

1. 総務省報道資料:平成19年版救急救助の現況. 2. 総務省消防白書平成20年版:救急業務の現状. 3. Guidelines 2000 for Cardiopulmonary Resuscitation and

Emergency Cardiovascular Care. The American Heart

Association in collaboration with the International Liaison

Committee on Resuscitation. Circulation 2000; 102(8 Suppl):

II-384. 4. Cummins RO, et al. Recommended guidelines for uniform

reporting of data from out-of-hospital cardiac arrest: the

Utstein Style. A statement for health professionals from a task

force of the American Heart Association, the European

Resuscitation Council, the Heart and Stroke Foundation of

Canada, and the Australian Resuscitation Council. Circulation

1991; 84: 960-975. 5. Iwami T, et al. Effectiveness of bystander-initiated cardiac-

only resuscitation for patients with out-of-hospital cardiac

arrest. Circulation 2007; 116: 2900-2907. 6. Incidence of ventricular fibrillation in patients with out-of-

hospital cardiac arrest in Japan: survey of survivors after out-

of-hospital cardiac arrest in Kanto area (SOS-KANTO). Circ

J 2005; 69: 1157-1162. 7. Cardiopulmonary resuscitation by bystanders with chest

compression only (SOS-KANTO): an observational study.

Lancet 2007; 369: 920-926. 8. Sayre MR, et al. Hands-only (compression-only)

cardiopulmonary resuscitation: a call to action for bystander

response to adults who experience out-of-hospital sudden

cardiac arrest: a science advisory for the public from the

American Heart Association Emergency Cardiovascular Care

Committee. Circulation 2008; 117: 2162-2167. 9. 消防庁.様々な条件下での救急救命処置の生存率への効

果に関する結果報告:ウツタイン様式調査オンライン処理システム:総務省 2007.

10. Guidelines 2000 for Cardiopulmonary Resuscitation and

Emergency Cardiovascular Care. Part 12: from science to

survival: strengthening the chain of survival in every

community. The American Heart Association in collaboration

with the International Liaison Committee on Resuscitation.

Circulation 2000; 102(8 Suppl): I358-370. 11. Chamberlain D. The International Liaison Committee on

Resuscitation (ILCOR)-past and present: compiled by the

Founding Members of the International Liaison Committee

on Resuscitation. Resuscitation 2005; 67: 157-161. 12. Nolan J. European Resuscitation Council guidelines for

resuscitation 2005. Section 1. Introduction. Resuscitation

2005; 67, Suppl 1: S3-6. 13. 救急蘇生法の指針(医療従事者用).へるす出版,東京

2006. 14. Cummins RO, et al. Recommended guidelines for

reviewing, reporting, and conducting research on in-hospital

resuscitation: the in-hospital 'Utstein style'. American Heart

Association. Circulation, 1997; 95(8): p. 2213-39. 15. Nadkarni VM, et al. First documented rhythm and clinical

outcome from in-hospital cardiac arrest among children and

adults. JAMA 2006; 295: 50-57. 16. Chan PS, et al. Delayed time to defibrillation after in-

hospital cardiac arrest. N Engl J Med 2008; 358: 9-17. 17. Peberdy MA, et al. Survival from in-hospital cardiac arrest

during nights and weekends.JAMA 2008; 299: 785-792. 18. Edelson DP, et al. Effects of compression depth and pre-

shock pauses predict defibrillation failure during cardiac

arrest. Resuscitation 2006; 71: 137-145. 19. Abella BS, et al. Quality of cardiopulmonary resuscitation

during in-hospital cardiac arrest.JAMA 2005; 293: 305-310. 20. Abella BS. et al. Chest compression rates during

cardiopulmonary resuscitation are suboptimal: a prospective

study during in-hospital cardiac arrest. Circulation 2005; 111: 428-434.

21. Abella BS, et al. CPR quality improvement during in-

hospital cardiac arrest using a real-time audiovisual feedback

system. Resuscitation 2007; 73: 54-61. 22. Edelson DP, et al. Improving in-hospital cardiac arrest

process and outcomes with performance debriefing. Arch

Intern Med 2008; 168: 1063-1069. 23. Cobb LA, et al. Changing incidence of out-of-hospital

ventricular fibrillation, 1980-2000. JAMA 2002; 288: 3008-3013.

24. Rea TD, et al. Incidence of EMS-treated out-of-hospital

cardiac arrest in the United States. Resuscitation 2004; 63: 17-24.

25. Larsen MP, et al. Predicting survival from out-of-hospital

cardiac arrest: a graphic model. Ann Emerg Med 1993; 22: 1652-1658.

26. 2005 American Heart Association Guidelines for

C a r d i o p u l m o n a r y R e s u s c i t a t i o n a n d E m e rg e n c y

Cardiovascular Care. Circulation 2005; 112(24 Suppl): Ⅳ1-203.

27. Holmberg M, Holmberg S, Herlitz J. Factors modifying the

effect of bystander cardiopulmonary resuscitation on survival

in out-of-hospital cardiac arrest patients in Sweden. Eur Heart

J 2001; 22: 511-519. 28. Stiell IG, et al. Modifiable factors associated with improved

cardiac arrest survival in a multicenter basic life support/

defibrillation system: OPALS Study Phase I results. Ontario

Prehospital Advanced Life Support. Ann Emerg Med 1999; 33: 44-50.

29. Elam JO, et al. Head-tilt method of oral resuscitation. J Am

Med Assoc 1960; 172: 812-815. 30. Kern KB, et a l . Importance of cont inuous chest

compressions during cardiopulmonary resuscitation:

improved outcome during a simulated single lay-rescuer

scenario. Circulation 2002; 105: 645-649.

Page 90: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1450 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

31. International Liaison Commottee on Resuscitation. 2005 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation

and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment

Recommendations. Resuscitation 2005; 67: 187-201. 32. Halperin HR, et al. Determinants of blood flow to vital

organs during cardiopulmonary resuscitation in dogs.

Circulation 1986; 73: 539-550. 33. Berg RA, et al . Adverse hemodynamic effects of

interrupting chest compressions for rescue breathing during

cardiopulmonary resuscitation for ventricular fibrillation

cardiac arrest. Circulation 2001; 104: 2465-2470. 34. Waalewijn RA, Tijssen JG, Koster RW. Bystander initiated

actions in out-of-hospital cardiopulmonary resuscitation:

resu l t s f rom the Amsterdam Resusc i ta t ion S tudy

(ARRESUST). Resuscitation 2001; 50: 273-279. 35. Higgins SL., et al. A comparison of biphasic and

monophasic shocks for external defibrillation. Physio-Control

Biphasic Investigators. Prehosp Emerg Care 2000; 4: 305-313.

36. Zafari AM, et al. A program encouraging early defibrillation

results in improved in-hospital resuscitation efficacy. J Am

Coll Cardiol 2004; 44: 846-852. 37. Ingalls TH. Heimlich versus a slap on the back. N Engl J

Med 1979; 300: 990. 38. Waalewijn RA., R de Vos, RW Koster. Out-of-hospital

cardiac arrests in Amsterdam and its surrounding areas:

results from the Amsterdam resuscitation study (ARREST) in

'Utstein' style. Resuscitation 1998; 38: 157-167. 39. Vaillancourt C, Stiell IG. Cardiac arrest care and emergency

medical services in Canada. Can J Cardiol 2004; 20: 1081-1090.

40. Bayes de Luna, Coumel AP, Leclercq JF. Ambulatory

sudden cardiac death: mechanisms of production of fatal

arrhythmia on the basis of data from 157 cases. Am Heart J

1989; 117: 151-159. 41. Automated external defibrillators and ACLS: a new

initiative from the American Heart Association. Am J Emerg

Med 1991; 9: 91-94. 42. Waalewijn RA, et al. Prevention of deterioration of

ventricular fibrillation by basic life support during out-of-

hospital cardiac arrest. Resuscitation 2002; 54: 31-36. 43. Valenzuela TD, et al. Estimating effectiveness of cardiac

arrest interventions: a logistic regression survival model.

Circulation 1997; 96: 3308-3313. 44. Cobb LA, et al. Influence of cardiopulmonary resuscitation

prior to defibrillation in patients with out-of-hospital

ventricular fibrillation. JAMA 1999; 281: 1182-1188. 45. Wik L, et al. Delaying defibrillation to give basic

cardiopulmonary resuscitation to patients with out-of-hospital

ventricular fibrillation: a randomized trial. JAMA 2003; 289: 1389-1395.

46. Schneider T, et al. Multicenter, randomized, controlled trial

of 150-J biphasic shocks compared with 200- to 360-J

monophasic shocks in the resuscitation of out-of-hospital

cardiac arrest victims. Optimized Response to Cardiac Arrest

(ORCA) Investigators. Circulation 2000; 102: 1780-1787. 47. van Alem AP, et al. A prospective, randomised and blinded

comparison of first shock success of monophasic and biphasic

waveforms in out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation

2003; 58: 17-24. 48. Carpenter J, et al. Defibrillation waveform and post-shock

rhythm in out-of-hospital ventricular fibrillation cardiac

arrest. Resuscitation 2003; 59: 189-196. 49. Martens PR, et al. Optimal Response to Cardiac Arrest

study: defibrillation waveform effects. Resuscitation 2001; 49: 233-243.

50. Bain AC, et al. Multicenter study of principles-based

waveforms for external defibrillation. Ann Emerg Med 2001; 37: 5-12.

51. Poole JE., et al. Low-energy impedance-compensating

biphasic waveforms terminate ventricular fibrillation at high

rates in victims of out-of-hospital cardiac arrest. LIFE

Investigators. J Cardiovasc Electrophysiol, 1997; 8: 1373-1385.

52. Washizuka T, et al. Nifekalant hydrochloride suppresses

severe electrical storm in patients with malignant ventricular

tachyarrhythmias. Circ J 2005; 69: 1508-1513. 53. Yoshioka K, et al. Can nifekalant hydrochloride be used as

a first-line drug for cardiopulmonary arrest (CPA)? :

comparative study of out-of-hospital CPA with acidosis and

in-hospital CPA without acidosis. Circ J 2006; 70: 21-27. 54. Wenzel V, et al. A comparison of vasopressin and

epinephrine for out-of-hospital cardiopulmonary resuscitation.

N Engl J Med 2004; 350: 105-113. 55. Stueven HA, et al. Atropine in asystole: human studies.

Ann Emerg Med 1984; 13: 815-817. 56. Brown DC, Lewis AJ, Criley JM. Asystole and its

treatment: the possible role of the parasympathetic nervous

system in cardiac arrest. JACEP 1979; 8: 448-452. 57. Hedges JR, et al . Prehospital tr ial of emergency

transcutaneous cardiac pacing. Circulation 1987; 76: 1337-1343.

58. Barthell E., et al. Prehospital external cardiac pacing: a

prospective, controlled clinical trial. Ann Emerg Med, 1988; 17: 1221-1226.

59. Cummins RO, et al. Out-of-hospital transcutaneous pacing

by emergency medical technicians in patients with asystolic

cardiac arrest. N Engl J Med 1993; 328: 1377-1382. 60. Graf H, Leach W, Arieff AI. Evidence for a detrimental

effect of bicarbonate therapy in hypoxic lactic acidosis.

Science 1985; 227: 754-756. 61. Callaham M, et al. A randomized clinical trial of high-dose

epinephrine and norepinephrine vs standard-dose epinephrine

in prehospital cardiac arrest. JAMA 1992; 268: 2667-2672. 62. Stiell IG, et al. Advanced cardiac life support in out-of-

hospital cardiac arrest. N Engl J Med 2004; 351(7): 647-656. 63. 東京消防庁救急部.救急活動の現況.平成18年.2007; 69-74.

Page 91: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1451Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

64. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2007_yamaguchi_h.pdf.

65. 日本救急医療財団心肺蘇生法委員会,日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会.救急蘇生法の指針(2005)医療従事者用.へるす出版,東京,2007;.

66. 長尾建. ERでのショックの評価と管理(堀進悟編).救急医学.へるす出版,東京 2002; 1158-1164.

67. 2005 American Heart Association Guidelines for

cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular

care. Circulation 2005; 112, Suppl. Ⅳ ; 67-77. 68. 日本医師会日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会.

徐拍・頻拍への緊急対応.救急蘇生法の指針(2005).へるす出版 2005.

69. AHA,ECC(救急心血管治療)ハンドブック2005.中山書店 2006.

70. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 不整脈薬物治療に関するガイドライン.Circ J, 2004; 68: 981-1053.

71. Gregoratos G, et al. ACC/AHA Guidelines for Implantation

of Cardiac Pacemakers and Antiarrhythmia Devices:

Executive Summary-a report of the American College of

Cardiology/American Heart Association Task Force on

Practice Guidelines (Committee on Pacemaker Implantation).

Circulation 1998; 97: 1325-1335. 72. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.不整脈の非薬物治療のガイドライン.Circ J 2001; 65: 1127-1175.

73. Blomstrom-Lundqvist C, et al. ACC/AHA/ESC guidelines

for the management of patients with supraventricular

arrhythmias--executive summary: a report of the American

College of Cardiology/American Heart Association Task

Force on Practice Guidelines and the European Society of

Cardiology Committee for Practice Guidelines (Writing

Committee to Develop Guidelines for the Management of

Patients With Supraventricular Arrhythmias). Circulation

2003; 108: 1871-1909. 74. Calkins H, et al. HRS/EHRA/ECAS expert consensus

statement on catheter and surgical ablation of atrial

fibrillation: recommendations for personnel, policy,

procedures and follow-up. A report of the Heart Rhythm

Society (HRS) Task Force on Catheter and Surgical Ablation

of Atrial Fibrillation developed in partnership with the

European Heart Rhythm Association (EHRA) and the

European Cardiac Arrhythmia Society (ECAS); in

collaboration with the American College of Cardiology

(ACC), American Heart Association (AHA), and the Society

of Thoracic Surgeons (STS). Endorsed and approved by the

governing bodies of the American College of Cardiology, the

American Heart Association, the European Cardiac

Arrhythmia Society, the European Heart Rhythm Association,

the Society of Thoracic Surgeons, and the Heart Rhythm

Society. Europace 2007; 9: 335-379. 75. ホルター記録中の突然死調査委員会および研究グループ.ホルター中の突然死について.Jpn J Electrocardiol

2008; 28: 243-250. 76. Aizawa Y, et al. Incidence and mechanism of interruption

of reentrant ventricular tachycardia with rapid ventricular

pacing. Circulation 1992; 85: 589-595. 77. Ohe T, et al. Idiopathic sustained left ventricular

tachycardia: clinical and electrophysiologic characteristics.

Circulation 1988; 77: 560-568. 78. Okumura K et al. Entrainment of idiopathic ventricular

tachycardia of left ventricular origin with evidence for reentry

with an area of slow conduction and effect of verapamil. Am

J Cardiol 1988; 62: 727-732. 79. Lerman BB, et al. Adenosine-sensitive ventricular

tachycardia: evidence suggesting cyclic AMP-mediated

triggered activity. Circulation 1986; 74: 270-280. 80. Kobayashi Y, et al. Sustained left ventricular tachycardia

terminated by dipyridamole: cyclic AMP-mediated triggered

activity as a possible mechanism. Pacing Clin Electrophysiol

1994; 17: 377-385. 81. Yeh SJ, et al. Adenosine-sensitive ventricular tachycardia

from the anterobasal left ventricle. J Am Coll Cardiol 1997; 30: 1339-1345.

82. Kudenchuk PJ. et al. Amiodarone for resuscitation after

out-of-hospital cardiac arrest due to ventricular fibrillation. N

Engl J Med 1999; 341: 871-378. 83. Dorian P, et al. Amiodarone as compared with lidocaine for

shock-resistant ventricular fibrillation. N Engl J Med 2002; 346: 884-890.

84. Katoh T, et al. Emergency treatment with nifekalant, a

novel class Ⅲ anti-arrhythmic agent, for life-threatening

refractory ventricular tachyarrhythmias: post-marketing

special investigation. Circ J 2005; 69: 1237-1243. 85. Gorgels AP, et al. Comparison of procainamide and

lidocaine in terminating sustained monomorphic ventricular

tachycardia. Am J Cardiol 1996; 78: 43-46. 86. Koizumi T, et al. Efficacy of nifekalant hydrochloride on

the treatment of life-threatening ventricular tachyarrhythmias

during reperfusion for acute myocardial infarction.

Cardiovasc Drugs Ther 2001; 15: 363-365. 87. Schwartz PJ, et al. A molecular link between the sudden

infant death syndrome and the long-QT syndrome. N Engl J

Med 2000; 343: 262-267. 88. Schreieck J, et al. Rescue ablation of electrical storm in

patients with ischemic cardiomyopathy: a potential-guided

ablation approach by modifying substrate of intractable,

unmappable ventricular tachycardias. Heart Rhythm 2005; 2: 10-14.

89. Wu D, e t a l . Cl inical , e lect rocardiographic and

electrophysiologic observations in patients with paroxysmal

supraventricular tachycardia. Am J Cardiol 1978; 41: 1045-1051.

90. Josephson ME. Supraventricular tachycardias. In Clinical

Cardiac Electrophysiology. Techniques and interpretations.

Third Edition. Lippincott Williams & Wilkins, 2002; 168-272.

Page 92: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1452 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

91. Lim SH, et al. Comparison of treatment of supraventricular

tachycardia by Valsalva maneuver and carotid sinus massage.

Ann Emerg Med 1998; 31: 30-35. 92. Mannino MM, et al. Current treatment options for

paroxysmal supraventricular tachycardia Am Heart J 1994; 127: 475-480.

93. Iesaka Y, et al. Adenosine-sensitive atrial reentrant

tachycardia originating from the atrioventricular nodal

transitional area. J Cardiovasc Electrophysiol 1997; 8: 854-864.

94. Nogami A, et al. Novel form of atrial tachycardia

originating at the atrioventricular annulus. Pacing Clin

Electrophysiol 1998; 21: 2691-2694. 95. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.心房細動

治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版).Circ J 2008; 72, Suppl. Ⅳ : 1581-1638.

96. Olshansky B, et al. Demonstration of an area of slow

conduction in human atrial flutter. J Am Coll Cardiol 1990; 16: 1639-1648.

97. Shah DC, et al. Three-dimensional mapping of the common

atrial flutter circuit in the right atrium. Circulation, 1997; 96: 3904-3912.

98. Kall JG, et al. Atypical atrial flutter originating in the right

atrial free wall. Circulation 2000; 101: 270-279. 99. Tsuchiya T, et al. The upper turnover site in the reentry

circuit of common atrial flutter. Am J Cardiol 1996; 78: 1439-1442.

100. Crijns HJ, et al. Atrial flutter can be terminated by a class

III antiarrhythmic drug but not by a class IC drug. Eur Heart J

1994; 15: 1403-1408. 101. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療ガイドライン.Circ J 2008; 72, Suppl. Ⅳ : 1347-1442.

102. Antman EM, et al . ACC/AHA guidelines for the

management of patients with ST-elevation myocardial

infarction--executive summary: a report of the American

College of Cardiology/American Heart Association Task

Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise

the 1999 Guidelines for the Management of Patients With

Acute Myocardial Infarction). Circulation 2004; 110: 588-636.

103. Antman EM, et al. 2007 Focused Update of the ACC/AHA

2004 Guidelines for the Management of Patients With ST-

Elevation Myocardial Infarction: a report of the American

College of Cardiology/American Heart Association Task

Force on Practice Guidelines: developed in collaboration

With the Canadian Cardiovascular Society endorsed by the

American Academy of Family Physicians: 2007 Writing

Group to Review New Evidence and Update the ACC/AHA

2004 Guidelines for the Management of Patients With ST-

Elevation Myocardial Infarction, Writing on Behalf of the

2004 Writing Committee. Circulation 2008; 117: 296-329. 104. Silber S, et al. Guidelines for percutaneous coronary

interventions. The Task Force for Percutaneous Coronary

Interventions of the European Society of Cardiology. Eur

Heart J 2005; 26: 804-847. 105. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.大動脈瘤・

大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版).Circ J

2006; 70, Supl. Ⅳ : 1569-1646. 106. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.急性心不全治療ガイドライン(2006年改訂版)http://www.j-circ.

or.jp/guideline/pdf/JCS2006_maruyama_h.pdf.

107. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓の診断・治療・予防に関するガイドライン.Circ J 2004; 68, Suppl. Ⅳ : 1079-1152.

108. Kitamukai O. et al. Incidence and characteristics of

pulmonary thromboembolism in Japan 2000. Intern Med

2003; 42: 1090-1094. 109. 佐久間聖仁,他.人口動態統計を用いた肺血栓塞栓症の疫学的検討.脈管学2001; 41: 225-228.

110. Sakuma M, Konno Y, Shirato K. Increasing mortality from

pulmonary embolism in Japan, 1951-2000. Circ J 2002; 66: 1144-1149.

111. Nakamura M, et al. Clinical characteristics of acute

pulmonary thromboembolism in Japan: results of a

multicenter registry in the Japanese Society of Pulmonary

Embolism Research. Clin Cardiol 2001; 24: 132-138. 112. Sakuma M, et al. Inferior vena cava filter is a new

additional therapeutic option to reduce mortality from acute

pulmonary embolism. Circ J 2004; 68: 816-821. 113. 黒岩政之.日本麻酔科学会周術期肺血栓塞栓症調査結果からの知見・教訓.麻酔2004; 53: 454-463.

114. Tapson VF, Witty LA. Massive pulmonary embolism.

Diagnostic and therapeutic strategies. Clin Chest Med 1995; 16: 329-340.

115. Wood KE. Major pulmonary embolism: review of a

pa thophysio logic approach to the golden hour of

hemodynamically significant pulmonary embolism. Chest

2002; 121: 877-905. 116. Ota M, et al. Prognostic significance of early diagnosis in

acute pulmonary thromboembolism with circulatory failure.

Heart Vessels 2002; 17: 7-11. 117. 丹羽明博,新田順一,呉正次,他.急性肺血栓塞栓症院

内発症例の病態と対策.静脈学2002; 13: 29-33. 118. 黒岩政之,他.2004年周術期肺塞栓症発症調査結果からみた本邦における周術期肺血栓塞栓症発症頻度とその特徴—(社)日本麻酔科学会肺塞栓研究ワーキンググループ報告—.麻酔2006; 55: 1031-1038.

119. 呂彩子,他.急性広範性肺血栓塞栓症の臨床経過と病理所見の対比.脈管学2004; 44: 241-246.

120. Kosuge M, et al. Electrocardiographic differentiation

between acute pulmonary embolism and acute coronary

syndromes on the basis of negative T waves. Am J Cardiol

2007; 99: 817-821. 121. Bottiger BW, et al. Bolus injection of thrombolytic agents

during cardiopulmonary resuscitation for massive pulmonary

embolism. Resuscitation 1994; 28: 45-54. 122. Bottiger BW, et al. Efficacy and safety of thrombolytic

Page 93: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1453Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

therapy after initially unsuccessful cardiopulmonary

resuscitation: a prospective clinical trial. Lancet 2001; 357: 1583-1585.

123. Abu-Laban RB, et al. Tissue plasminogen activator in

cardiac arrest with pulseless electrical activity. N Engl J Med

2002; 346: 1522-1528. 124. Bozeman WP, Kleiner DM, Ferguson KL. Empiric

tenecteplase is associated with increased return of

spontaneous circulation and short term survival in cardiac

arrest patients unresponsive to standard interventions.

Resuscitation 2006; 69: 399-406. 125. Fatovich DM, Dobb GJ, Clugston RA. A pilot randomised

trial of thrombolysis in cardiac arrest (The TICA trial).

Resuscitation 2004; 61: 309-313. 126. Jerjes-Sanchez C, et al. Streptokinase and Heparin versus

Heparin Alone in Massive Pulmonary Embolism: A

Randomized Controlled Trial. J Thromb Thrombolysis 1995; 2: 227-229.

127. British Thoracic Society guidelines for the management of

suspected acute pulmonary embolism. Thorax 2003; 58: 470-483.

128. 福田幾夫.最近の急性肺血栓塞栓症の外科治療.Medical Science Digest. Medical Science Digest 2007; 33: 983-986.

129. Stein PD, et al. Outcome of pulmonary embolectomy. Am J

Cardiol 2007; 99: 421-423. 130. Fava M, et al. Massive pulmonary embolism: percutaneous

mechanical thrombectomy during cardiopulmonary

resuscitation. J Vasc Interv Radiol 2005; 16: 119-123. 131. 田島廣之,他.急性肺血栓塞栓症.カテーテル治療の効

果と限界.呼吸器科2005; 7: 553-560. 132. Girard P, et al. High prevalence of detectable deep venous

thrombosis in patients with acute pulmonary embolism. Chest

1999; 116: 903-908. 133. N iwa A . In f e r i o r Vena Cava F i l t e r. i n Venous

Thromboembolism: Prevention and Treatment.(Ed.Kunio

Shirato). Springer-Verlag. Tokyo. 2005: 77-84. 134. Decousus H, et al. A clinical trial of vena caval filters in the

prevention of pulmonary embolism in patients with proximal

deep-vein thrombosis. Prevention du Risque d'Embolie

Pulmonaire par Interruption Cave Study Group. N Engl J Med

1998; 338: 409-415. 135. Baim DS, Grossman W. Cardiac Catheterization,

Angiography, and Intervention. Williams & Wilkins,

Philadelphia, 1996. 136. McGee S. Evidence-based physical diagnosis. WB

Saunderrs, Philadelphia 2001. 137. Jae K, James Oh, Seward B, et al. The Echo Manual, 3rd

ed. Lippincott-Raven, Philadelphia 2007. 138. Maisch B, et al. Guidelines on the diagnosis and

management of pericardial diseases executive summary; The

Task force on the diagnosis and management of pericardial

diseases of the European society of cardiology. Eur Heart J

2004; 25: 587-610.

139. Tsang TS, e t a l . Consecu t ive 1127 t he rapeu t ic

echocardiographically guided pericardiocenteses: clinical

profile, practice patterns, and outcomes spanning 21 years.

Mayo Clin Proc 2002; 77: 429-436. 140. Isselbacher EM, Cigarroa JE, EagleKA. Cardiac tamponade

complicating proximal aortic dissection. Is pericardiocentesis

harmful? Circulation 1994; 90: 2375-2378. 141. Aoyama N. et al. National survey of fulminant myocarditis

in Japan: therapeutic guidelines and long-term prognosis of

using percutaneous cardiopulmonary support for fulminant

myocarditis (special report from a scientific committee). Circ

J 2002; 66: 133-144. 142. Liberthson RR. Sudden death from cardiac causes in

children and young adults. N Engl J Med 1996; 334: 1039-1044.

143. Maron BJ. Sudden death in young athletes. N Engl J Med

2003; 349: 1064-1075. 144. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン.Circ J

2004; 68, Suppl. Ⅳ : 1231-1272. 145. Cooper LT, Joshua MH, Henry D, et al. Usefulness of

immunosuppression for giant cell myocarditis. Am J Cardiol,

2008; 102: 1535-1539. 146. Mahoney BA, et al . Emergency interventions for

hyperkalaemia. Cochrane Database Syst Rev 2005 ;

CD003235. 147. Ahee P, Crowe AV. The management of hyperkalaemia in

the emergency department. J Accid Emerg Med 2000; 17: 188-191.

148. Fraser CL, Arieff AI. Epidemiology, pathophysiology, and

management of hyponatremic encephalopathy. Am J Med

1997; 102: 67-77. 149. Ayus JC, Krothapalli RK, Arieff AI. Treatment of

symptomatic hyponatremia and its relation to brain damage.

A prospective study. N Engl J Med 1987; 317: 1190-1195. 150. Brunner JE., et al. Central pontine myelinolysis and pontine

lesions after rapid correction of hyponatremia: a prospective

magnetic resonance imaging study. Ann Neurol 1990; 27: 61-66.

151. Elisaf M, Milionis H, Siamopoulos KC. Hypomagnesemic

hypokalemia and hypocalcemia: clinical and laboratory

characteristics. Miner Electrolyte Metab 1997; 23: 105-112. 152. Ziegler R. Hypercalcemic crisis. J Am Soc Nephrol 2001; 12, Suppl. 17: S3-9.

153. Edelson GW, Kleerekoper M. Hypercalcemic crisis. Med

Clin North Am 1995; 79: 79-92. 154. A l d i n g e r K A , S a m a a n N A . H y p o k a l e m i a w i t h

hypercalcemia. Prevalence and significance in treatment. Ann

Intern Med 1977; 87: 571-573. 155. Albertson TE., et al. TOX-ACLS: toxicologic-oriented

advanced cardiac life support. Ann Emerg Med 2001; 37(4 Suppl): S78-90.

156. Mokhlesi B, et al. Adult toxicology in critical care: part I:

general approach to the intoxicated patient. Chest 2003; 123:

Page 94: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1454 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

577-592. 157. Chyka PA, et al. Position paper: Single-dose activated

charcoal. Clin Toxicol (Phila) 2005; 43: 61-87. 158. Seger D. Single dose activated charcoal. J Med Toxicol

2008; 4: 65. 159. Gill AM, et al. Opiate-induced respiratory depression in

pediatric patients. Ann Pharmacother 1996; 30: 125-129. 160. Kienbaum P, et al. Acute detoxification of opioid-addicted

patients with naloxone during propofol or methohexital

anesthesia: a comparison of withdrawal symptoms,

neuroendocrine, metabolic, and cardiovascular patterns. Crit

Care Med 2000; 28: 969-976. 161. Negus BH, et al. Alleviation of cocaine-induced coronary

vasoconstriction with intravenous verapamil. Am J Cardiol

1994; 73: 510-513. 162. Hollander JE. The management of cocaine-associated

myocardial ischemia. N Engl J Med 1995; 333: 1267-1272. 163. Ramoska E, Sacchet t i AD. Propranolol - induced

hypertension in treatment of cocaine intoxication. Ann Emerg

Med 1985; 14: . 1112-1113. 164. McKinney PE, Rasmussen R. Reversal of severe tricyclic

antidepressant-induced cardiotoxicity with intravenous

hypertonic saline solution. Ann Emerg Med 2003; 42: 20-24. 165. Kolecki PF, Curry SC. Poisoning by sodium channel

blocking agents. Crit Care Clin 1997; 13: 829-848. 166. Durward A, et al. Massive diltiazem overdose treated with

extracorporeal membrane oxygenation. Pediatr Crit Care Med

2003; 4: 372-376. 167. Holzer M, et al. Successful resuscitation of a verapamil-

intoxicated patient with percutaneous cardiopulmonary

bypass. Crit Care Med 1999; 27: 2818-2323. 168. Love JN, et al. Characterization of fatal beta blocker

ingestion: a review of the American Association of Poison

Control Centers data from 1985 to 1995. J Toxicol Clin

Toxicol 1997; 35: 353-359. 169. Krenzelok EP, Leikin JB. Approach to the poisoned patient.

Dis Mon 1996; 42: 509-607. 170. Harris NS. Case records of the Massachusetts General

Hospital. Case 24-2006 . A 40-year-old woman with

hypotension after an overdose of amlodipine. N Engl J Med

2006; 355: 602-611. 171. Megarbane B, Karyo S, Baud FJ. The role of insulin and

glucose (hyperinsulinaemia/euglycaemia) therapy in acute

calcium channel antagonist and beta-blocker poisoning.

Toxicol Rev 2004; 23: 215-222. 172. White CM. A review of potential cardiovascular uses of

intravenous glucagon administration. J Clin Pharmacol 1999; 39: 442-447.

173. Bailey B. Glucagon in beta-blocker and calcium channel

blocker overdoses: a systematic review. J Toxicol Clin

Toxicol 2003; 41: 595-602. 174. Hoffman JR, et al. Effect of hypertonic sodium bicarbonate

in the treatment of moderate-to-severe cyclic antidepressant

overdose. Am J Emerg Med 1993; 11: 336-341.

175. Ashton H, Hassan Z. Best evidence topic report. Intranasal

naloxone in suspected opioid overdose. Emerg Med J 2006; 23: . 221-223.

176. Silfvast T, Pettila V. Outcome from severe accidental

hypothermia in Southern Finland-a 10-year review.

Resuscitation 2003; 59: 285-290. 177. Van Mieghem C, Sabbe M, Knockaert D. The clinical value

of the ECG in noncardiac conditions. Chest 2004; 125: 1561-1576.

178. Danzl DF, Pozos RS. Accidental hypothermia. N Engl J

Med 1994; 331: 1756-1760. 179. Greif R, et al. Resistive heating is more effective than

metallic-foil insulation in an experimental model of accidental

hypothermia: A randomized controlled trial. Ann Emerg Med

2000; 35: 337-345. 180. Kornberger E, et al. Forced air surface rewarming in

patients with severe accidental hypothermia. Resuscitation

1999; 41: 105-111. 181. Giesbrecht GG, Pachu P, Xu X. Design and evaluation of a

portable rigid forced-air warming cover for prehospital

transport of cold patients. Aviat Space Environ Med 1998; 69: 1200-1203.

182. Ruttmann E, et al. Prolonged extracorporeal membrane

oxygenation-assisted support provides improved survival in

hypothermic patients with cardiocirculatory arrest. J Thorac

Cardiovasc Surg 2007; 134: 594-600. 183. Walpoth BH, et al. Outcome of survivors of accidental deep

hypothermia and circulatory arrest treated with extracorporeal

blood warming. N Engl J Med 1997; 337: 1500-1505. 184. Giesbrecht GG, Paton B. Review article on inhalation

rewarming. Resuscitation 1998; 38: 59-60. 185. Reuler JB. Hypothermia: pathophysiology, clinical settings,

and management. Ann Intern Med 1978; 89: 519-527. 186. Niwa K et al. Survey of specialized tertiary care facilities

for adults with congenital heart disease. Int J Cardiol 2004; 96: 211-216.

187. Terai M, et al. Mortality from congenital cardiovascular

malformations in Japan, 1968 through 1997. Circ J 2002; 66: 484-488.

188. Oechslin EN, et al. Mode of death in adults with congenital

heart disease. Am J Cardiol 2000; 86: 1111-1116. 189. Kaemmerer H, et al. Emergency hospital admissions and

three-year survival of adults with and without cardiovascular

surgery for congenital cardiac disease. J Thorac Cardiovasc

Surg 2003; 126: 1048-1052. 190. Gatzoulis MA, et al. Risk factors for arrhythmia and sudden

cardiac death late after repair of tetralogy of Fallot: a

multicentre study. Lancet 2000; 356: 975-981. 191. Tateno S, et al. Risk factors for arrhythmia and late death in

patients with right ventricle to pulmonary artery conduit

repair--Japanese multicenter study. Int J Cardiol 2006; 106: 373-381.

192. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン.Circ J 2003;

Page 95: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1455Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

67: 1039-1109. 193. Daniels CJ, Chan DP. Evaluation of syncope in adult

congenital heart disease. Prog Pediatr Cardiol 2001; 13: 83-90.

194. Brothers JA, et al. Anomalous aortic origin of a coronary

artery with an interarterial course: should family screening be

routine? J Am Coll Cardiol 2008; 51: 2062-2064. 195. Neumar RW, et al. Post-cardiac arrest syndrome:

e p i d e m i o l o g y, p a t h o p h y s i o l o g y, t r e a t m e n t , a n d

prognostication. A consensus statement from the International

Liaison Committee on Resuscitation (American Heart

Association, Australian and New Zealand Council on

Resuscitation, European Resuscitation Council, Heart and

Stroke Foundation of Canada, InterAmerican Heart

Foundation, Resuscitation Council of Asia, and the

Resuscitation Council of Southern Africa); the American

Heart Association Emergency Cardiovascular Care

Committee; the Council on Cardiovascular Surgery and

Anesthesia; the Council on Cardiopulmonary, Perioperative,

and Critical Care; the Council on Clinical Cardiology; and the

Stroke Council. Circulation 2008; 118: 2452-2483. 196. Smith ML, et al. Models for studying long-term recovery

following forebrain ischemia in the rat. 2. A 2-vessel

occlusion model. Acta Neurol Scand 1984; 69: 385-401. 197. Siesjo BK, Siesjo P. Mechanisms of secondary brain injury.

Eur J Anaesthesiol 1996; 13: 247-268. 198. 内野博之,諸田沙織,牛島一男,他.虚血性神経細胞死

のメカニズム.蘇生2006; 25: 88-99. 199. Steen PA, et al. Hypothermia and barbiturates: individual

and combined effects on canine cerebral oxygen consumption.

Anesthesiology, 1983; 58: 527-532. 200. Colbourne F, Sutherland G, Corbett D. Postischemic

hypothermia. A critical appraisal with implications for clinical

treatment. Mol Neurobiol 1997; 14: 171-201. 201. Ginsberg MD, et al. Therapeutic modulation of brain

temperature: relevance to ischemic brain injury. Cerebrovasc

Brain Metab Rev, 1992; 4: 189-225. 202. Safar PJ, Kochanek PM. Therapeutic hypothermia after

cardiac arrest. N Engl J Med 2002; 346: 612-613. 203. Nolan JP, et al. Therapeutic hypothermia after cardiac

arrest: an advisory statement by the advanced life support task

force of the International Liaison Committee on Resuscitation.

Circulation 2003; 108: 118-121. 204. Mild therapeutic hypothermia to improve the neurologic

outcome after cardiac arrest. N Engl J Med 2002; 346: 549-556.

205. Bernard SA, et al. Treatment of comatose survivors of out-

of-hospital cardiac arrest with induced hypothermia. N Engl J

Med 2002; 346: 557-563. 206. Nagao K, et al. Cardiopulmonary cerebral resuscitation

using emergency cardiopulmonary bypass, coronary

reperfusion therapy and mild hypothermia in patients with

cardiac arrest outside the hospital. J Am Coll Cardiol 2000; 36: 776-783.

207. K, N., H. N, and K. K. Resuscitative hypothermia in

comatose survivors after prolonged cardiopulmonary

resuscitation and B-type natriuretic peptide for the advanced

challenge. In: Hayashi N, Bullock R, Dietrich DW, Maekawa

T, Tamura A, editors. Hypothermia for acute brain damage.

Tokyo: Springer-Verlag 2004; 278-286. 208. Soga T, Nagao K, Kikushima K. Mild therapeutic

hypothermia using extracorporeal cooling method in

comatose survivors after out-of-hospital cardiac arrest.

Circulation 2006; 114: II-1190. 209. Abella BS, et al. Intra-arrest cooling improves outcomes in

a murine cardiac arrest model. Circulation 2004; 109: 2786-2791.

210. Nozari A, et al. Mild hypothermia during prolonged

cardiopulmonary cerebral resuscitation increases conscious

survival in dogs. Crit Care Med 2004; 32: 2110-2116. 211. Nozari A, et al. Critical time window for intra-arrest

cool ing wi th cold sa l ine f lush in a dog model of

cardiopulmonary resuscitation. Circulation 2006; 113: 2690-2696.

212. Wu X, et al. Induction of profound hypothermia for

emergency preservation and resuscitation allows intact

survival after cardiac arrest resulting from prolonged lethal

hemorrhage and trauma in dogs. Circulation 2006; 113: 1974-1982.

213. Soga T, Nagao K, Kikushima K. Duration of cooling and

time from out-of-hospital cardiac arrest to spontaneous

circulation in patients treated with mild hypothermia.

Circulation 2007; 116: II-436. 214. Skrifvars MB, et al. A multiple logistic regression analysis

of in-hospital factors related to survival at six months in

patients resuscitated from out-of-hospital ventricular

fibrillation. Resuscitation 2003; 59: 319-328. 215. van den Berghe G, et al. Intensive insulin therapy in the

critically ill patients. N Engl J Med 2001; 345: 1359-1367. 216. Tada K, et al. Prognostic value of blood glucose in patients

with cardiogenic shock. Circ J 2006; 70: 1064-1069. 217. Sunde K, et al. Implementation of a standardised treatment

protocol for post resuscitation care after out-of-hospital

cardiac arrest. Resuscitation 2007; 73: 29-39. 218. Oksanen T, et al. Strict versus moderate glucose control

after resuscitation from ventricular fibrillation. Intensive Care

Med 2007; 33: 2093-2100. 219. 長尾建,三木隆弘,二籐部英治.心原性循環虚脱(心原

性心停止、心原性ショック)に対するPCPS,(松田暉監修)経皮的心肺補助法 -PCPS(改訂).秀潤社,東京2004; 7: 77-83.

220. Chen YS, et al. Analysis and results of prolonged

resusci tat ion in cardiac arrest pat ients rescued by

extracorporeal membrane oxygenation. J Am Coll Cardiol

2003; 41: 197-203. 221. Kano H, Yamazaki K, Nakajima M, et al. Rapid induction

of percutaneous cardiopulmonary bypass significantly

improves neurological function in patients with out-of-

Page 96: 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン...Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009 1363 循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン

1456 Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)

hospital cardiogenic cardiopulmonary arrest refractory to

advanced cardiovascular life support. Circulation 2006; 114: II-348.

222. Tahara Y, Kimura K, Okuda J, et al. Efficacy of emergency

percutaneous cardiopulmonary support in patients with out-

of-hospital cardiac arrest by acute myocardial infarction.

Circulation 2006; 114: II-348. 223. Hase M, et al. Early defibrillation and circulatory support

can provide better long-term outcomes through favorable

neurological recovery in patients with out-of-hospital cardiac

arrest of cardiac origin. Circ J 2005; 69: 1302-1307. 224. Nagao K, Hayashi N, Kanmatsuse K. Advanced challenge

in resuscitative hypothermia in patients with failed standard

cardiopulmonary resuscitation. Circulation 2005; 112: II-324.

225. Nagao K, Kikushima K, Watanabe K. Emergency

cardiopulmonary bypass in the treatment of patients with out-

of-hospital cardiac arrest. Circulation 2006; 114: II-347. 226. Nagao K, Kikushima K, Watanabe K, et al. Early induction

of hypothermia during cardiac arrest improves neurological

outcomes in patients with out-of-hospital cardiac arrest who

undergo emergency ca rd iopulmonary bypass and

percutaneous coronary intervention. Circ J 2009 (in press).

227. 2005 American Heart Association Guidelines for

cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular

care. Circulation 2005; 112: Suppl. Ⅳ : 156-166. 228. 2005 American Heart Association Guidelines for

cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular

care. Circulation, 2005; 112, Suppl. Ⅳ : 167-187.