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- 1 - 県⽴図書館の課題解決⽀援サービス 岩手県立図書館では平成 21 年 11 月に「ビジ ネス支援コーナー」、平成 23年 10月に「震災関 連資料コーナー」 (※プレオープン、翌年 4 月に本オー プン) 、平成 26 年 4 月に「くらしコーナー」を設 置するなど、地域の様々な課題の解決に向けた 図書館資料等の提供を行っています。「資料や情 報の提供」といった図書館機能を活かしながら 課題解決に向けたサポートに努め、道に迷った 方が次に進むための「はじめの一歩」となる支 援に取り組んでいます。 設置 4 年目を迎えたビジネス支援コーナーに は、働く女性の育児関連書を含むビジネス図書 および雑誌が約 3,200 冊と、パンフレット、リ ーフレット、ハローワーク求人情報、起業セミ ナーのポスターやチラシなどを配置しています。 また、緊急雇用創出事業を活用し、今までの相 談事例や利用者の要望を参考に、関係機関と連 携して就労・起業についての資料提供や講演会、 起業セミナーの実施、相談に来られた方が次の ステップに進むため、あるいは希望を叶えるた めのナビゲーションを果すため、産業カウンセ ラーやキャリアカウンセラー資格を有する相談 員 2 名が業務にあたっています。就業相談は開 設当初から続けていますが、最近は事業を興し たい方などの相談件数が増えています。 ビジネス支援コーナーの利用状況 235 日 713 人 相談(支援)件数 1,119 件 相談内容 ①就 労:279 件 ②起業:25 件 ③履歴書・面接:38 件 ④機関紹介:155 件 ⑤その他:622 件 (※平成 25 年度 6 月~3 月) ビジネス支援コーナー(相談業務の様子) どうしてもこの業種の仕事に就きたいという 方や職場での人間関係、業務改善、雇い止めに あった方など多岐にわたる相談を受けています。 時には相談者が必要とする関連機関を紹介する など、相談者にとってより良い解決の道が開け 図書館は本を読むところ、本を借りるところ、そして調べ物をするところとイメージがあります。それに加え て地域の課題解決という大きなテーマがあり、近年盛んに図書館にその役割が求められてきています。 そのニーズの高まりを受けて平成 22 年 1 月、有志の図書館が「図書館海援隊」を結成し、ハローワーク等関 係部局と連携した貧困・困窮者支援をはじめ具体的な地域の課題解決に資する取組をより本格的に開始しまし た。その後、この取組に対し、他の図書館からも参加希望が寄せられ、それに伴って、医療・健康、福祉、法務 等に関する役立つ支援・情報の提供や J リーグと連携した取組など分野も拡大され、参加館数は、平成 24 年 4 月現在で 50 館を超えています。今回は図書館の課題解決支援サービスを特集しました。

県⽴図書館の課題解決⽀援サービス...- 1 - 県 図書館の課題解決 援サービス 岩手県立図書館では平成21年11月に「ビジ ネス支援コーナー」、平成23年10月に「震災関

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県⽴図書館の課題解決⽀援サービス

岩手県立図書館では平成 21 年 11 月に「ビジ

ネス支援コーナー」、平成 23 年 10 月に「震災関

連資料コーナー」(※プレオープン、翌年 4月に本オー

プン)、平成 26 年 4月に「くらしコーナー」を設

置するなど、地域の様々な課題の解決に向けた

図書館資料等の提供を行っています。「資料や情

報の提供」といった図書館機能を活かしながら

課題解決に向けたサポートに努め、道に迷った

方が次に進むための「はじめの一歩」となる支

援に取り組んでいます。

設置 4年目を迎えたビジネス支援コーナーに

は、働く女性の育児関連書を含むビジネス図書

および雑誌が約 3,200 冊と、パンフレット、リ

ーフレット、ハローワーク求人情報、起業セミ

ナーのポスターやチラシなどを配置しています。

また、緊急雇用創出事業を活用し、今までの相

談事例や利用者の要望を参考に、関係機関と連

携して就労・起業についての資料提供や講演会、

起業セミナーの実施、相談に来られた方が次の

ステップに進むため、あるいは希望を叶えるた

めのナビゲーションを果すため、産業カウンセ

ラーやキャリアカウンセラー資格を有する相談

員 2名が業務にあたっています。就業相談は開

設当初から続けていますが、最近は事業を興し

たい方などの相談件数が増えています。

ビジネス支援コーナーの利用状況

日 数 235 日

利 用 者 数 713 人

相談(支援)件数 1,119 件

相談内容

内 訳

①就 労:279 件 ②起業:25 件

③履歴書・面接:38 件

④機関紹介:155 件 ⑤その他:622 件

(※平成 25 年度 6 月~3 月)

ビジネス支援コーナー(相談業務の様子)

どうしてもこの業種の仕事に就きたいという

方や職場での人間関係、業務改善、雇い止めに

あった方など多岐にわたる相談を受けています。

時には相談者が必要とする関連機関を紹介する

など、相談者にとってより良い解決の道が開け

図書館は本を読むところ、本を借りるところ、そして調べ物をするところとイメージがあります。それに加え

て地域の課題解決という大きなテーマがあり、近年盛んに図書館にその役割が求められてきています。

そのニーズの高まりを受けて平成 22 年 1 月、有志の図書館が「図書館海援隊」を結成し、ハローワーク等関

係部局と連携した貧困・困窮者支援をはじめ具体的な地域の課題解決に資する取組をより本格的に開始しまし

た。その後、この取組に対し、他の図書館からも参加希望が寄せられ、それに伴って、医療・健康、福祉、法務

等に関する役立つ支援・情報の提供や J リーグと連携した取組など分野も拡大され、参加館数は、平成 24 年 4

月現在で 50 館を超えています。今回は図書館の課題解決支援サービスを特集しました。

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るよう対応に努めています。相談者からは「方

向性がわかった」「相談して良かった」と後日、

お礼の言葉をいただくことも多くあります。

取得した資格を活かして開業を目指している

方、期限を設定してそれに向かって開業を進め

る方、定年退職後に起業を考えられている方、

転職も視野に入れながら開業を考えられている

方、漠然と夢を描かれている方など多様な方々

が相談に訪れます。起業には「人」「物」「金」

が必要であることや「いま解決できること」を

伝え、関連機関、図書館資料を紹介しています。

履歴書の書き方、職務経歴書の作成方法、添

え状の内容等について相談者が作成したものを

見せていただき、アドバイスするなどの支援を

行っています。大学生にはエントリーシートの

添削などを行い、採用担当者が理解しやすいよ

うに曖昧な表現を避け、数字を記載して作成す

ることなどをアドバイスしています。転職が多

い方についてはキャリアカウンセリングをし、

ご自身の棚卸をしていただき、過去の経歴を顧

みながら応募書類の作成を行うなどのアドバイ

スを行います。書類選考が通って面接を受ける

事になったので練習をしたいという方には、別

室での面接練習も行っています。

時に就労の問題とともに心や家庭の問題、ご

近所とのトラブルを抱える利用者が訪れること

もあります。相談の内容によっては専門的な機

関に対応を引き継いだ方が良い場合があり、ハ

ローワーク盛岡やジョブカフェいわて、盛岡商

工会議所、法テラス、男女共同参画センターな

どと連携し、適宣紹介するようにしています。

心の悩みについては、他の専門機関や通院し

ている病院と相談をするよう話し、「これからの

くらし仕事支援室」を紹介する場合もあります。

また、家庭問題には「女性センター」や「男女

共同参画センター」など、県や市が設置してい

る相談機関を案内しています。ご近所とのトラ

ブルについては、裁判所での簡易裁判、法テラ

スへの利用なども視野に入れて相談を受けたこ

ともありました。

図書館資料を提供するだけでなく、関係機関

との連携により課題解決の選択肢を複数提示す

ることで、「考え方や視野が広がった」、「解決に

向かった」との感想や報告をいただくことがあ

りました。

一般社団法人岩手県発明協会との共催イベン

トです。特許、商標など起業・創業するにあた

って注意しなければならないことや、会社経営

時に必要になるであろう知的財産権についての

知識など、身近な商品を題材に分かりやすく具

体的に説明していただき、セミナー終了後も講

師と話し込む参加者が多くありました。

知的財産に関するセミナー

「なるにはBOOKS」で取り上げられてい

る各種職業をテーマとしたセミナーで、岩手県

立大学看護学部教授を講師に迎えた「看護師に

なるには」、美容事業経営者を講師に迎えた「美

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容師になるには」を、それぞれ開催しました。

主に高校生が参加され、進路に直結する職務内

容から学費、結婚後の就労にいたるまで幅の広

い講話と相談をいただきました。もっと講師と

ディスカッションができるようにすることが今

後の課題と考えています。また継続して欲しい

と要望をいただくなどニーズがあることを知る

ことができました。

平成 24 年から日本政策金融公庫との共催に

より取り組んでいます。このセミナーは、ビジ

ネスアイディアの広げ方、事業計画書の作り方

など、起業を志している方々への後押しとなっ

ているものと感じています。このようなセミナ

ーを開催することで「会社を起こす」「お店を開

く」「農業ビジネス」関連の図書資料の動きが活

発になってきました。

子育てを終えて再就労を目指す女性の方など

に面接時のメイク方法をご案内する内容で、2

回実施しました。後日、参加者から「仕事が決

まりました」とうれしい報告をいただきました。

東日本大震災から3年半が過ぎ、あちこちで

様々な事業や施設が立ち上がり、復興へと着々

と進んでおります。岩手県立図書館では発災直

後から、東日本大震災に関連した様々な資料を

収集しています。

1 枚、1冊の資料が、100 年後の歴史資料とし

て、あるいは災害時対応の参考資料となること

もあります。また、沿岸部の復興の足跡をたど

る手掛かりにもなる貴重な資料であると考え収

集・整理を行っています。

東日本大震災の記憶を風化させることなく後

世に引き継ぐため、平成 24 年 4月 1日「震災関

連資料コーナー」を設置しました。地域を支え

る情報拠点として、災害復興、防災対策などに

役立てていただくためにも、震災に関連する貴

重な資料の収集・保存を進め閲覧等に供してい

ます。

収集資料は、震災関連図書や報道写真集など

各種出版物から、各市町村の復興計画書といっ

た行政資料や避難所だより、ボランティアに関

する活動記録など 1枚もの資料も多数収集して

います。このほかにも、震災直後に発行された

臨時広報、新聞、雑誌なども大変貴重な歴史的

資料と捉え収集・保存に努めています。

震災関連資料コーナー

一枚もの資料を収めたファイル

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①「『復興釜石新聞』編集長が語る東日本大震

災~災害時における地域紙の役割~」

震災関連資料コーナーの本オープン 1周年を

記念して開催した講演会です。『復興釜石新聞』

の編集長である川向修一氏を講師に迎え、東日

本大震災時の釜石の様子、同紙発刊までの経緯

などをお話しいただきました。津波の恐ろしさ

や地域に密着した情報を発信する事の大切さに

ついて改めて考える機会となりました。

②「岩手釜石・大槌復興カメラ展」・「震災復

興ポスター展」

震災の風化を防ぐ取り組みとして、図書館内

の壁面を活用した震災関連資料の展示を行なっ

たものです。復興カメラ展では釜石・大槌の震

災発生時から現在までの様子を記録した写真

104 点を展示、震災復興ポスター展では復興に

向けた「思い」がこめられたポスター約 90点を

展示しました。

③「わたしたちの使命 赤十字の事業」

日本赤十字社岩手県支部との共催で、東日本

大震災における日本赤十字社の救護活動、復興

支援の活動を紹介しました。

展示の様子(わたしたちの使命 赤十字の事業)

国立国会図書館東日本大震災アーカイブ「ひ

なぎく」へ、当館所蔵資料のデータを提供して

います。「ひなぎく」では、図書館や企業など様々

な機関と連携・協力し、東日本大震災の記録の

収集・保存・提供を行っており、国全体として

のアーカイブの構築に努めています。

このほか、図書館共同キャンペーン「震災記

録を図書館に」参加各機関と連携・協力しなが

ら、各図書館で震災記録の提供を呼びかけてい

ます。

震災資料の保存・活用について知識を深める

ため、講習会等へ積極的に参加しています。今

年度は、国立国会図書館主催の「東日本大震災

に関する書類・写真の整理・保存講習会」に震

災資料担当者 3名が参加しました。講習会では、

長岡市立中央図書館文書資料室の取組みとして、

2004 年新潟県中越大震災時の避難所資料の整

理と保存についてなどが紹介され、実際に収集

された避難所資料の複製を用いて整理作業を行

うワークショップ行いました。当館でもパンフ

レット、チラシといった 1枚もの資料を収集し

ていますので、他機関の整理状況を知る良い機

会となりました。

震災関連資料コーナーは、震災から半年後の

平成 23年 10 月、3階郷土資料コーナーの一角

にプレオープンしました。この時点では図書、

雑誌、新聞、AV 資料、避難所などで貼り出され

たり回覧されたりした 1枚もの資料などを含め

て、8,828 点を整理・所蔵していました。翌年 4

月 1日に本オープンし、3年を経過した現在、

21,632 点の資料を所蔵しています。

日々発行される多くの震災関連資料の整理に、

担当職員の奮闘が続いています。

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震災関連資料の所蔵状況

H23.10 H26.10

図書 1,415 3,184

雑誌 4,936 6,244

一枚もの(チラシ等) 2,380 12,028

視聴覚 97 176

計 8,828 21,632

①「東日本大震災情報ポータル」

震災関連資料コーナーのプレオープンに合わ

せて開設したページです。新聞の記事索引や震

災関連資料目録、岩手県の災害史に至るまで、

様々な情報を検索することが可能です。

郷土逐次刊行物(東日本大震災発生以降から

2年間分)の中から、震災に関連する記事の見出

しを採録した記事索引を公開しました。所蔵し

ている震災関連資料及び地域資料の活用と、東

日本大震災に関する調査・研究のための情報収

集にもお役立てください。

②小学生向け震災関連図書リスト

小学生向けの東日本大震災関連図書を、対象

別(低学年/中学年/高学年/全学年・一般)

に分けてまとめました。リストの作成に当たっ

ては、『3・11 を心に刻むブックガイド』(草谷 桂

子∥著)や TRC 図書館専用ポータルサイト

「TOOLi」等を参考にしました。読み聞かせや選

書の参考にご利用ください。

岩手県立図書館で所蔵していない資料も含ん

でいますが、「探す」欄をクリックすると、「国

立国会図書館サーチ」や「カーリル」から他図

書館の所蔵状況を確認できます。

岩手県沿岸は、これまでにもたびたび津波に

よる被害を受けてきました。繰り返される歴史

の中で、先人達はその惨禍を後世に伝えるべく、

被害の記録や復興への歩みを資料に残してきま

した。この記録の積み重ねが現代の私達に示唆

を与えてくれるように、今回の東日本大震災の

記憶を風化させずに、後世に引き継いでいくこ

とが、図書館としての使命ではないでしょうか。

過去の震災からの教訓を活かし、被災地にもた

らされる地域課題の解決となる資料の収集、保

存に今後も継続して取り組んでいきます。

震災から 3年半以上が経過し、震災直後に比

べると発行される出版物は減少傾向にあります。

それと同時に、現在では震災発生直後に発行さ

れた活動記録などを入手することが困難である

ことも事実です。

岩手県は被災地域が広いこともあり、資料の

網羅的収集は難しいものの、県や市町村等への

訪問による寄贈依頼や、各団体などにも資料の

情報提供と寄贈依頼を継続して行っています。

引き続き、震災関連資料の送付及び震災資料に

関する情報の提供について、ご協力をお願い致

します。

整理作業の様子

〇国立国会図書館サーチ

国立国会図書館が提供している検索サービス。全国の公共

図書館、公文書館、美術館や学術研究機関等が提供する資

料、デジタルコンテンツを統合的に検索することが可能。

〇カーリル

全国の図書館の蔵書情報と貸出状況を検索できるサービ

ス。最寄の図書館、お気に入りの図書館などをあらかじめ

指定することで、複数館を対象とした横断検索も可能。

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一つのテーマの資料を探す手がかりとして、

また図書館を使って調べるときの道標として、

就業や医療情報、子育てに関する情報を提供す

るパスファインダー(調べ方案内)コーナーを

配置し、関連図書のミニ展示も合せて行ってい

ます。

本年 9月には健康・医療情報についての知識

を深めたり、医師や医療機関と相談する材料と

して活用していただくために、リーフレット「健

康・医療情報ウェブなび」を発行しました。

このリーフレットを県内各図書館の窓口など

にも置いていただいたところ、「こういうのが欲

しかった。市町村ではなかなか作ることができ

ない。県立でやっていただくと助かる」「私たち

の図書館でも使いたいし、利用者にも活用して

いただきたい」と好評をいただいています。

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花巻市⽴⽯⿃⾕図書館のビ ジ ネ ス ⽀ 援 に つ い て

平成 18年 1月、花巻市、大迫町、石鳥谷町、

東和町の1市3町が合併することに伴い図書館

としても、それぞれの図書館の特徴を活かした

運営をしていくために幾度となく集まりを持ち

ました。それぞれの館が特徴を持ったサービス

をどのように進めていったらよいかを考える中

で、企業等や流通センターに近い石鳥谷図書館

で、花巻市民の就労の手助けと若い世代の職業

への意識向上を図るため、ビジネス支援コーナ

ーを強化してサービスを行っていくことになり、

現在に至っています。

コーナーには、いろいろな職業を紹介する「

なるにはBOOKS」や職業ガイドブックのほ

か、身だしなみやマナー、パソコンに関する本

など、仕事に就くために必要な、考えられるだ

けのあらゆるジャンルの本を揃えるようにして

います。また、求人情報雑誌の購入のほか、『求

人ジャーナル』、『Workin』などのフリー

ペーパーや、盛岡・花巻のハローワークの求人

情報など、各事業所にご協力いただき資料を提

供していただいています。最近はコーナーもす

っかり定着し、多くの方が図書館利用のついで

や、求人情報の入手を目的に訪れる方も多く見

受けられるようになりました。今後もコーナー

の充実を継続していきたいと考えています。

しかし、情報誌や求人情報は新しいものを提

供していくことはできますが、図書に関しては

「光の交付金」でまとまって購入できたものの、

現在は新しい本をまとまって購入できる機会は

なくなりました。毎年、少ない予算の中でビジ

ネス支援用の図書だけに予算を充当することも

出来ず、数えるほどの資料しか購入できません。

ご寄贈いただいく本にも限界があります。新し

い情報を提供するために図書も充実させたいと

いう思いがあっても、現実はなかなか難しいも

のです。資料の提供のみだけではなく、地元企

業や商工会、ハローワークなどに出向き、実態

の把握や情報収集もしていかなくてはいけない

と考えますが実現できていません。

また石鳥谷は、南部杜氏ゆかりの地というこ

ともあり、南部杜氏関連や酒に関する資料も多

数そろえています。全国から集まる杜氏志望の

方々へも、多くの資料を提供できるよう努めて

います。地元で開催される南部杜氏の講習会で

は、毎年多くの方が受講し、合格の後は全国で

南部杜氏として活躍しているそうです。

酒資料室

子ども向けのビジネス支援としては、花巻市

立図書館4館合同事業の中に、平成 24年度から

始めた小・中・高校生対象の「花巻市こども読

書くらぶ」がありあります。

平成 25 年度花巻市こども読書くらぶ活動(養豚業生産者からの講話)

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平成 25年度からは幼いころから仕事や働く

ことに対し意識を高めてもらおうと「はたらく」

、平成 26年度は「しごと」をテーマに、職場訪

問や体験などと合わせ、仕事に携わっている方

々からお話を聞く会を設け、図書館をメインに

活動しています。

関連事業として、今年の夏休みに「仕事って

どんなものがある?」の展示と、夏休み期間中

の半日、小・中学生を対象に「就活ゲーム ― な

りたい自分になってみよう」を開催しました。

企画展示では、仕事や職業に関連した調べ学

習資料や仕事をするうえで必要なマナーの本な

どを展示しました。

就活ゲームは、本に掲載されている職業適性

診断ゲームをもとに作成したものですが、その

ゲームに入る前に、まず自分の履歴書を書いて

もらいます。履歴書は、一般的に購入できる履

歴書用紙をもとに、子ども用に作り直したもの

です。将来の自分を思い描きながら、入ってみ

たい高校や大学を考えたり、自己紹介として得

意な教科・習い事・自分の長所・短所を書いて、

最後に自分のやってみたい職業について書いて

もらうものです。

就活ゲーム(「履歴書」書きに夢中)

“ゲーム”の言葉に釣られて参加した子ども

たち10人弱でしたが、最初は「難しい!」「ゲ

ームじゃない!」と言っていましたが真面目に

取り組んでいただき、最後には楽しかったと感

想を書いてくれました。生まれて初めての「履

歴書」書きは、自分を改めて見直す良い機会に

もなったようです。また、仕事に対する意識が

少し変わったようにも見受けられました。今回

は、企画側も手探り状態で準備が不十分でした

が、来年度は企画側も参加者側もレベルアップ

できるものにしていきたいと考えています。

今年度から「実はすごい!石鳥谷の『匠』コ

ーナー」というものを始めました。これは、地

元の人材発掘事業として、ジャンルを問わず、

技術を持ってそれを職業とし、地元で頑張って

いる方を毎月一人取り上げ、その方の仕事や人

物を紹介するコーナー展示事業です。この事業

を始めるきっかけは、自分が石鳥谷図書館に異

動して3年目になりますが、まだまだ知らない

ことばかりでもっと人や地域を知りたいと思っ

たのがきっかけでした。

知る人ぞ知る。具体的に何処に、どんな方が

いらっしゃるのか。その方たちにスポットを当

てることで、石鳥谷の人材バンク的なレファレ

ンス資料ができあがるのではないかと考えた人

物掘り起し事業です。

当館職員が順番で人材を見つけ出し、企画書

を作成し、ご本人との連絡、取材から資料作成

までを行います。一か月間の小さなコーナー展

示ですが、ご本人から借りてきた作品や資料、

お仕事情報のパネル展示を行います。また図書

館にある関連資料も置いて貸出しも行います。

現在、雑貨職人、豆腐職人、染め職人、コーヒ

ー焙煎職人と4人の方を取り上げました。今後

も取り上げる人物がいる限り、続けていきたい

と考えています。

ビジネス支援コーナーの本の充実も必要です

が、今後も本の貸出だけではなく、多角的に仕

事を捉え、各年齢層にあった支援をしていきた

いと考えています。

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⼤船渡市⽴図書館 復興に向けた課題解決サービスの提供

大船渡市立図書館は、平成 20年 11 月、大船

渡市民文化会館と一体化した複合施設(愛称リ

アスホール)として移転・整備されました。現在

、6年目を迎えようとしています。

昨年 10 月 19 日、館内に起業支援室と共同し

ビジネス支援コーナーを開設しました。当時、

県内の市町村立図書館でビジネス支援コーナー

を設けている図書館は少数であり、沿岸の公共

図書館では初の試みとなりました。

ビジネス支援コーナー入口

当市においても、県内沿岸他市町村と同様に、

東日本大震災の市民生活に与えた影響は多大で

あり、被災した市内産業復興のため、生業の再

生は大きな課題となっています。そこで、当市

では起業支援を総合的に推進し、地域産業の振

興及び雇用の促進を図ることを目的に、平成 25

年 4 月、商工港湾部内に設置した起業支援室を

軸に、市を挙げた起業施策を展開しています。

図書館でのビジネス支援コーナーの運営はその

取り組みの一環をなすものと位置付けています。

コーナーを設置するにあたり、全国に先駆け

てビジネス支援コーナーを設置したとされる秋

田県立図書館や先進事例とされる鳥取県立図書

館などの取り組みについて情報の収集を行いま

した。そのなかにあって、起業支援室職員と同

行した岩手県立図書館の視察は、多くの刺激を

受け、とりわけ重要だったと思います。多くの

公共図書館が取り組んでいる課題解決サービス

の考え方は承知していたものの、ビジネス支援

についてノウハウが無い私たちにとって、具体

的なサービスを目の当たりに出来たことは、た

いへん参考となりました。

配置している資料は「会社の起し方」や「お

店の始め方」のような起業に関する図書や法律

関連図書、「資格の取り方」「履歴書の書き方」

「面接の受け方」などのいわゆる「就活」関連

の図書、そして経済情報や社会情報を取り扱っ

た雑誌やビジネスの指南書など、およそ 550 冊

となっています。くわえて、融資・補助等の助

成制度に関する行政や関係機関のパンフレット、

著名企業のパンフレット、各団体から図書館に

寄贈される冊子などから起業のヒントになり得

る産業に関するものなども積極的に配置してい

ます。また、起業支援室と連携している東北未

来創造イニシアティブを通じて、著名な経営者

から寄せられた直筆メッセージや推薦図書、震

災後に市内で起業した事業所のパネルなど、起

業の気概を伝える展示も行っています。

ビジネス支援コーナー書架

運営に関しましては、利用者より起業に関す

る相談があった際は、まず図書館職員が資料提

供やレファレンス等に対応します。起業につい

てのより具体的な相談や高度な問い合わせの場

合は、起業支援室に引き継ぎ、専門的な対応と

する流れとしています。

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コーナーの利用状況は、読書のための本を探

しに立ち寄る一般の利用者が多いものの、明確

な目的(カフェの開業、ホームヘルパーの資格

取得、調理師として就職する、農業経営につい

て学ぶ など)をもって訪れる方もおり、資料

を調べたり長時間滞在されたりもします。また、

コーナーの利用により、求める情報が見つかり、

喜んで帰られた方もいます。

利用の傾向は、起業を目的にするよりも、ス

キルアップや就職につながる情報を求める方が

多いようですが、コーナーの利用が契機となり、

起業支援室が行うセミナーを継続的に受講され

る方もいるなど、少数ながらも起業を志向した

利用者もおられます。

ビジネス支援コーナー開設から 1年が経過し

ましたが、目に見える形を持った成果までは確

認できていないのが現状です。しかし、住民が

利用する上で抵抗が少ない施設である図書館に

起業・仕事に関するコーナーがあることは、起

業をはじめ雇用や就職の一助や復興に向けて市

を挙げての取り組む空気を伝えるものとして機

能していると考えます。また、現在の図書館に

求められる課題解決型サービスの提供について、

大船渡市立図書館に具体的に行う場を設けられ

たことは、今後のサービスの方向を考える契機

となったと思われます。図書館の取り組みの成

果の検証は長いスパンで見る必要があると思わ

れますので、継続的に取り組む必要を感じてい

ます。

今後としましては、情報の鮮度が重要なビジ

ネス関係の資料の充実を図り、利用者への情報

提供に努めることはもちろん、ニーズを取り入

れながら、各部局、関係団体と連携、あるいは

活用しながら、利用者の思いが結実するような

サービスの提供を目指してまいります。

復興に向けた取り組みとして、ビジネス支援

コーナーと並び重視しているのが、東日本大震

災に関する資料の収集です。

被災自治体として、東日本大震災の実態や記

憶を正しく伝え、風化させること無く後世に引

き継ぐことは責務であり、日々世に出る記録集

や体験記等の関連図書を収集できるのは図書館

のみであるとの思いを持ちながら、団体、個人

を問わずさまざまな記録文献や発行物などの収

集に網羅的に取り組んでいます。

震災資料コーナー

収集にあたっては、市広報、ホームページ、

地域FM、館内掲示などで呼びかけるとともに、

新聞等で情報を把握し、購入あるいは寄贈をお

願いしています。

収集した資料の展示は、図書を中心に震災関

連図書コーナーを設けて行っています。このコ

ーナーには東日本大震災をはじめ過去の津波被

害に関する資料も配架しています。市沿岸部が

大きな被害を受けるなか、リアスホールは幸い

にも浸水を免れ、施設の被害も比較的軽いもの

でした。図書館資料の散逸も貸し出し中の資料

など一部で済みました。そのこれまで収集を続

けていた過去の津波の資料と大震災の記録を併

せ持つことで、今後の防災対策やまちづくり、

津波教育に活用し、震災からの復興に役立つコ

ーナーとなることを期しています。

震災関連資料は、出版された書籍をはじめ、

調査報告書、研究書、広報紙、パンフレット、

チラシなど、多岐に、また膨大な量となります。

これらの資料を整理し、供覧できるよう整備す

ることを現在の課題として取り組んで参ります。