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徳島県立工業技術センター研究報告 第23巻(2014) 目次 _報 文 糖尿病用血管機能検査装置の開発-検査機能- ・・・・・・・・ 1 平尾 友二 ハニカムフラッシュ構造の音響特性についてⅡ ・・・・・・・・ 9 中岡 正典,笹山 鉄也 スダチ果皮抽出物のスダチチン量と抗酸化活性 ・・・・・・・・ 15 新居 佳孝,岡久 修己,高田 次郎 三野 幸人,敷島 康普 _技術報告 ナトリウム溶液中のセシウムの分析方法について ・・・・・・・・ 21 佐藤 誠一 環境に配慮した鶏ふん堆肥化技術 ・・・・・・・・ 25 三木 晃,宮﨑 絵梨,山本 澄人

徳島県立工業技術センター研究報告 第23 …...血管内皮機能障害の評価は,血流依存性血管拡張反 応(FMD)検査(パラメータは%FMD)によって評

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徳島県立工業技術センター研究報告 第23巻(2014) 目次

_報 文

糖尿病用血管機能検査装置の開発-検査機能- ・・・・・・・・ 1

平尾 友二

ハニカムフラッシュ構造の音響特性についてⅡ ・・・・・・・・ 9

中岡 正典,笹山 鉄也

スダチ果皮抽出物のスダチチン量と抗酸化活性 ・・・・・・・・ 15

新居 佳孝,岡久 修己,高田 次郎

三野 幸人,敷島 康普

_技術報告

ナトリウム溶液中のセシウムの分析方法について ・・・・・・・・ 21

佐藤 誠一

環境に配慮した鶏ふん堆肥化技術 ・・・・・・・・ 25

三木 晃,宮﨑 絵梨,山本 澄人

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糖尿病用血管機能検査装置の開発 -検査機能-

Development of The Specialty Ultrasonic Medical Apparatus for Diabetes -Test Functions-

平尾 友二*1 Yuji Hirao

抄 録

糖尿病の重症化は,合併症によって引き起こされる.合併症は,長期の高血糖による血管の損傷に起因す

ることが多い.そこで,無侵襲で安全な超音波を使って糖尿病患者の血管性状を数値評価可能な医用検査機

を開発することを目標に 5年間の研究開発を行い,糖尿病用血管機能検査装置を新たに開発した.この装置

では,1 回の検査で血管の機能変化から器質変化までを追うことができるように,血管機能の評価として血

流依存性血管拡張反応(FMD)検査を,器質変化の評価として脈波伝播速度(PWV),コンプライアンス,

血管壁弾性率(stiffnessβ),血管壁厚(IMT)検査などを同時に行うことができる.また,臨床でのエビデン

スが多いこれらの指標以外に,血管機能の評価を補完するために血流粘度推定,血流速度分布計測,ずり応

力(あるいはずり速度)の推定算出,トレンド解析などの機能も新たに開発し搭載した.本報告ではその原

理と医学的意義について具体的導入方法と共に解説した.

1 はじめに 徳島県は,長年,糖尿病死亡率ワースト 1 を記録

しており,その対策は喫緊の課題となっている.そ

こで,文部科学省・イノベーションシステム整備事

業(地域イノベーション戦略支援プログラム)にお

いて,平成 21~25 年度の 5 カ年間,徳島大学などが

中心となって糖尿病対策の多角的研究が行われた.

本報告は,その中で我々のグループが行った検査・

診断開発に関する 1 テーマである「糖尿病用血管機

能検査装置の開発と臨床上の有効性の検証」につい

てまとめたものである.

糖尿病の重症化は,合併症によって引き起こされ

る.合併症は,長期の高血糖による血管の損傷に起

因することが多い.そこで,本研究では,無侵襲で

安全な超音波を使って糖尿病患者の血管の健康状態

の推移を数値化することにより,早期治療の指針と

なり,且つ,改善効果の目視化が可能な医用検査機

を開発することを目的に,1 回の検査で血管の性状

を機能変化から器質変化まで追うことが出来る新た

な装置の開発を行った.本報告では,開発した装置

に搭載するべく研究開発された検査機能について解

説する.

2 試作機の検査機能

2・1 基本機能 1) - 3)

本研究開発事業では,早期の事業化が求められて

いた.早期の事業化には,医学的有用性の検証と認

知が不可欠である.そこで,主に搭載する検査機能

は,すでに医学的に有用であることが確立されて,

広く認知されている現有のパラメータが測定できる,

あるいは,測定値から同等のパラメータを推定算出

できることを基本とした.

検査対象となる動脈は,図 1 のように内側から内

膜,中膜,外膜の 3 層の構造をなしており,内膜は

細胞 1 個分の厚みの内皮細胞が血液と接する最も内

側にあり,内皮下細胞とそれを包み込む基底膜によ

り成っている.内膜と中膜は内弾性板により隔てら

れ,中膜は主に平滑筋細胞で構成され,血管の太さ

や硬さ調整を担っている.中膜と外膜は外弾性板に

よって隔てられ,外膜は各種繊維細胞や末梢神経で

構成されている.

図 2 に示すように,糖尿病による血管障害は,広

義の動脈硬化であり,高血糖ストレスによって最初

に内皮障害を生じ,血管の機能低下を生じる.この*1 電子技術担当

報 文

-1-

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血管内皮機能障害の評価は,血流依存性血管拡張反

応(FMD)検査(パラメータは%FMD)によって評

価することが出来る.次に,血管の機能低下が進展

すると血管内皮の損傷箇所から内膜にコレステロー

ルや単球などの血液成分が入り込み,血管器質の変

化を生じる.器質の変化は血管の硬さの変化として

現れるので,血管弾性の計測いわゆる狭義の動脈硬

化検査により捉えることができ,脈波伝播速度

(PWV)やコンプライアンス,血管壁弾性率

(stiffnessβ)などのパラメータにより評価できる.

また,器質変化が進展すると,血管壁の厚みにも

変化が生じ,血管壁厚(IMT)検査によって,評価

することが出来る.そして,内膜に入り込んだ血液

成分などが粥状(じゅくじょう)のプラークを形成

するようになると血管の形態変化を生じるようにな

り,狭窄や閉塞による種々の合併症を発症するに至

る.

これまで,前述の様なパラメータを同時に計測す

ることが出来る検査装置は無かった.本研究では,1

回の検査で血管の性状を機能変化から器質変化まで

追うことを目的としている.このため,前述の血流

依存性血管拡張反応(FMD)検査,脈波伝播速度

( PWV),コンプライアンス,血管壁弾性率

(stiffnessβ),血管壁厚(IMT)検査などを 1 台で同

時に行える検査装置を開発することとした.また,

糖尿病においては,血液特性も変化し,血液の凝集

を生じやすくなる.このため,血流粘度や血流速度

分布,後述するずり応力(あるいはずり速度)など

も同時計測の対象とした.

2・2 血流依存性血管拡張反応(FMD)4),5)

図 3 に示すように,糖尿病境界域では,インスリ

ン抵抗性あるいは糖化最終物質(AGEs)が増加する

と,内皮細胞が過剰に活性化して,酸化ストレスが

上昇状態となる.酸化ストレスは,内皮細胞から産

生される抗動脈硬化作用のある一酸化窒素(NO)の

不活性化や内皮細胞そのものの損傷を引き起こす.

また,糖化最終物質(AGEs)により活性酸素消去酵

素も不活性化し,酸化ストレスの増強を生じるため,

内皮機能の低下が促進される。 内皮細胞には,血管の収縮・拡張調整機能,血管

内皮の損傷箇所の修復機能,血管内皮の損傷箇所か

ら内膜に入り込んだ血液成分の排除機能,血管平滑

の増殖と抗増殖,凝固と抗凝固作用などがある. 血流依存性血管拡張反応(FMD)のメカニズムは,

図 4 に示すように,血流によるずり応力によりカル

図2 動脈硬化の進展と検査パラメータ

図1 血管の構造

Ross R. Nature. 1993;362:801-809.

血流

内皮細胞

内弾性板

平滑筋細胞

外弾性板

外膜

中膜

内膜

血圧

図3 高血糖による血管内皮機能への影響

グルコース+蛋白質→糖化最終産物(AGEs)

Cu,Zn-SODの不活性化

活性酸素消去機能の不活性化

→酸化ストレスの増強

RAGENAD(P)H Oxidase

e

O2O2-LDL → 酸化LDL

NOの不活性化

NO3- ONOO-

糖尿病

PPARs

AP-1↑ET-1↑

Plasma ET-1

酸化ストレス

ET-R

血管内皮細胞

組織損傷

糖化LDL

直接的な影響

架橋構造形成による血管弾性の低下

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シウムイオン濃度が上昇すると NO 合成酵素(NOS)が活性化されて NO を産生する.NO は環状グアノ

シンリン酸(cGMP)の生成を刺激し、この cGMPが平滑筋を弛緩して血管が拡張するというものであ

る.

2・2・1 血流依存性血管拡張反応(FMD)検査 6),7)

FMD 検査では,図 5 のように,まず安静時の血管

径(拍動平均値)を測定する.その後 5 分間駆血す

ることにより血流を止めて,内皮へのずり刺激を軽

減した後,駆血解放すると血流が再開されると共に

内皮へのずり刺激が増加して,解放後 40~60 秒後に

最大血管拡張径が観測される.%FMD は,安静時血

管径に比べてどれだけ拡張したかの比率を%表記し

たパラメータである. FMD 検査は,20 年以上の歴史と多くのエビデン

スがあったものの,検査には極めて高い技術練度を

必要としたため,安定性や再現性などの面からこれ

までは普及していなかった.当センターでは,(株)ユネクスと共同で世界で初めて比較的扱い易い専用

検査機を開発した.現在では保険適用にもなり,広

く医療現場で認知されている.このような経緯もあ

り,本研究開発においては,この FMD 検査装置を

ベースに,新たな機能を追加搭載して,検査機能の

有用性を検証すると共に,新たなコンセプトの糖尿

病用検査装置を開発した.

2・2・2 検査プロトコルの検証

FMD 検査は,5 分間駆血することにより血流を止

めるというプロトコルで実施されているが,医療現

場からは駆血時間の短縮が要望されていた.本研究

では,駆血時間を 3 分,4 分,5 分,6 分の 4 つのパ

ターンについて,10 名の被験者で駆血時間の計測結

果への影響について調査した.

計測は 1 被験者に対し 1 日 1 回いずれかのパター

ンを適用するものとし,計測の結果は各パターン毎

に 3 回計測した平均値を用いた. 図 6 に実験結果を示すように,駆血時間が 4 分以

下では十分な拡張反応が得られず,5 分以上では十

分な拡張反応が得られている.この結果から,新た

に開発する糖尿病用検査装置においても,駆血時間

は 5 分間とすることとし,将来的に十分なエビデン

スが得られて,短い駆血時間でも最大拡張径が推定

できる様になることも考慮して,システム設定で任

意に時間変更できるようにした.

図5 FMD 検査とパラメータ算出式 図6 駆血時間と%FMD 値の関係

図4 NO 産生と NO の役割

〔血管内皮細胞〕

〔平滑筋細胞〕

eNOSL-arg L-Cit

NO

Ca2+↑P

cGMP 血管拡張作用

せん断応力

受容体

AKt経路

PI13K

NOS(NO合成酵素)

P(リン酸)

L-arg(Lアルギニンン)・L-Cit(Lシトルリン):アミノ酸

cGMP(環状グアノシンリン酸):平滑筋の弛緩因子

eNOSを活性化する

補酵素(BH4etc)

インスリン、エストロゲン

VEGF,アドレナリンなどアセチルコリン

NOの役割 ⇒

・抗動脈硬化

・血管拡張

・平滑筋の迷走、増殖抑制

・接着因子の発現抑制、血栓抑制

・サイトカイン活性の阻害

GTP

GC

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2・2・3 トレンド解析 8),9)

FMD 検査の指標は,最大拡張径のみに着目したも

のであるが,本機が備える FMD 検査機能では,図 7

のように血管径の時間的変化を記録できる.このグ

ラフは,駆血解放後の血管拡張反応の応答特性を示

すものであるが,システムとして見ると1次遅れ特

性のグラフとなっている.このことから,拡張の始

まりを拡張時間,その時の接線の傾きを拡張最大速

度,最大径を観測した時間を最大径時間,最大径の

約 63%まで拡張するのに要した時間を拡張時定数,

拡張時間から最大径時間までの径の変化を拡張面積

などと規定し,数値化することとした. これらの新たなパラメータは,個人毎に異なって

おり,後述する血流速度やずり応力,心機能,血管

弾性特性,血液粘度などとの相関が考えられ,本機

で新たな指標として提供することにより,今後の研

究でエビデンスが蓄積され,医学的意義が見出され

るものと期待する.

2・3 ずり応力(ずり速度)の推定 10) - 13)

血流依存性血管拡張反応(FMD)は,血流に伴う

内皮とのずり刺激により誘発される.このため,心

疾患患者など血流が低下している場合には,ずり刺

激が少なく%FMD 値が低く計測されてしまい血管

機能の低下が疑われる懸念がある.また,糖尿病患

者では,血液凝集による粘度の上昇などからずり刺

激が健常者とは異なることも考えられる.そこで,

本研究では,血流に伴う内皮へのずり刺激(ずり応

力あるいはずり速度)を推定し数値化した.

2・3・1 血流速度計測とずり速度 14),15)

図 8 に示すとおり,ずり速度(γ)は,次式のよう

に血管断面を円周方向に微少領域(dr)で n 分割し

た時の速度差(dv)で規定される.

γ=𝑑𝑑𝑑𝑑

超音波パルスドプラで計測された血流速度は血管

内を貫くビーム軸線上のすべての血管内血流速度の

総和となるため,血管の中心部が最も高速であり,

周辺に行くほど速度が低下するものと仮定し,次式

のように,血流速度分布(プロフィル)からずり速

度を求めた.

𝑑(𝑑𝑑) = 𝑑𝑚𝑚𝑚 �1 − �𝑑𝑑𝑑�𝑛

n : 流速パターン(n=2:層流)

2・3・2 血液粘度とずり応力の推定 16) 血液は粘度の異なる血球成分と血漿成分の混在流

体であることから,血液内の粘性は一律ではなく分

布を持っていると考えられる.そこで,血管内を 2

次元の微少領域に分割し,それぞれの微少領域内で

は粘度が一様であると仮定した.血液は粘性を持っ

た非圧縮流体であることから,動粘度を求める. 図 9 のようにパルスドプラをこの微少領域を被う

ように長軸方向に複数照射して計測してやると,非

圧縮流体の運動方程式であるナビエ・ストークスの

方程式から,x と y の 2 次元の運動方程式が求めら

れる.この 2 式から圧力項を代入消去することによ

って,各微少領域での動粘性を算出した. ずり応力は,ずり速度と動粘度との積で表される

ので,密度を一定と仮定してずり応力を算出した.

図7 トレンドグラフ

血管拡張時間 最大径時間

拡張面積

血流減衰時定数

拡張最大速度

拡張時定数

図8 ずり速度の求め方

血流計測用パルスドプラ

ビーム軸上の血管内の速度分布が得られる

血流速度分布(プロフィル)

vv+dv dr

ずり速度

-4-

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一般的に,血液の粘度とずり速度の関係は,図 10のように血液が凝集するとずり速度が低下し,その

関係は曲線を示すものと公知されている.初期の糖

尿病患者や健常者においては凝集や血球の変形が無

いと考えられることから,図 10 の曲線の中央部付近

の特性を示すものと考えられる.

ここで,5 名の健常者を対象に行った実験結果を

図 11 に示す.この結果から,本研究で開発したアル

ゴリズムとハードウェアによる計測結果は良好であ

ると考えられる.

2・4 血管弾性計測

血管の弾性特性を表す指標は複数あり,それぞれ

適用条件や医学的有用性が若干異なる.本研究では,

可能な限り多くの指標で表すことにより,血管の性

状を多角的に検証できるものと考え,上腕動脈で測

定可能な脈波伝播速度(bPWV),血管壁弾性率

(stiffnessβ),血管伸展性(ディステンシビリティ:

distensibility),コンプライアンスなどを採用した.

2・4・1 脈波伝播速度 17),18)

脈波伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)とは,

心臓から押し出された血液により生じた拍動が心臓

から動脈を伝わっていく速度のことで,血管が硬い

ほどその速度は速くなる.脈波伝播速度(PWV)検

査は,検査部位によって cfPWV(頸動脈-大腿動脈),

baPWV(上腕動脈-足首動脈)などがあるが,ここ

では,最近多くを占めている baPWV について,説

明する.baPWV 検査は,図 12 のように,四肢(両

上腕動脈と両足首)に血圧測定用カフを巻き付け,

体内の動脈をさほど圧迫することのない低圧でこれ

らのカフを膨らませ,カフ内に取り付けられた容積

脈波センサで脈波を測定するものである.baPWV 値

の算出は,心臓から上腕動脈までの距離(Lb),心

臓から足首までの距離(La)と,上腕で計測された

「脈をどう診るか」,メディカルビュー 2003:68

図12 脈波伝播速度(baPWV)検査法

血管内腔部の抽出

内腔部内血流速度分布の計測

ナビエストークス方程式による粘度分布同定

ずり応力=ずり速度(速度傾斜)×粘度

9

x’

y’

超音波プローブ

血流

渦度 :

2

2

2

2

yx

yv

xu

tV

∂∂

+∂∂

∂∂

+∂∂

+∂∂

=ξξ

ξξξ

動粘度 :

yu

xv

∂∂

−∂∂

0=∂∂

+∂∂

yv

xu

動粘性=粘度/密度

v : ドプラ速度

u : ビーム軸成分+非圧縮性

SFP =応力 :

S

r F

図9 動粘度とずり応力の求め方

日生誌 Vol. 66,No. 7・8 2004

図10 血液の粘度とずり速度の関係

図11 ずり速度と動粘性の計測結果

-5-

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脈波時間と足首で計測された脈波時間の差(ΔT)から,次式のような関係式で求められる.ここで,

La,Lb の値は一般的に身長を基にした近似式から算

出される.

𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏=𝐿𝑏 − 𝐿𝑏𝛥𝛥

本研究では,FMD 検査に伴って上腕動脈で血管径

の変化をエコー画像から,血流速度分布の変化をパ

ルスドプラからそれぞれ計測できる.いずれの情報

からでも脈波を得ることができるが,ここでは,後

者を用いた.また,計測箇所が上腕動脈のみである

ことから,上腕動脈で観測された脈波時間と心電位

(ECG)から脈波速度を求めた bPWV をパラメータ

とした.

2・4・2 血管壁弾性率(stiffnessβ)

血管壁弾性率(stiffnessβ)は,安静時の血管径と

血圧から求められる.具体的には,長軸・短軸両エ

コー画像から観測された収縮期血管径(Ds)と拡張

期血管径(Dd),血圧計で計測された収縮期血圧(Ps)

と拡張期血圧(Pd)から,次式を用いて算出した.

𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆 =log (𝑏𝑆/𝑏𝑑)

(𝐷𝑆 − 𝐷𝑑)/𝐷𝑑=𝑙𝑙𝑙𝛥𝑏𝛥𝐷/𝐷𝑑

ちなみに,血液密度(ρ)を用いると,stiffnessβ

は, Bramwell-Hill の公式より,局所的 PWV と次式

の関係が成り立つ.

𝑏𝑏𝑏 = �𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆

2𝜌= �

𝛥𝑏2𝜌

×𝐷𝑑𝛥𝐷

2・4・3 血管の伸展性(distensibility)

血管の伸展性(distensibility)は,1 心拍中の血管

内容積の変化量を血圧の変化量と元の容積で除した

値として求められる.具体的には,エコー画像から

観測された収縮期血管径と拡張期血管径の値から単

位長あたりの収縮期内容積(Vs)と拡張期内容積

(Vd),その差(ΔV)を算出し,血圧計で計測され

た収縮期血圧と拡張期血圧の差(ΔP)から,次式

を用いて算出した.

𝑑𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑏𝑆𝑙𝑆𝑆𝑑 =𝛥𝑏

𝛥𝑏+𝑏𝑑

2・4・4 コンプライアンス 18)

血管のコンプライアンスも血管の伸展性あるいは

やわらかさを表す指標で,伸展性に容量を乗じた形

で表される.つまり,どれだけの血液を溜めること

ができるかを示したものである.血管のコンプライ

アンスは,血管壁の弾性特性は血圧に大きく依存し,

血圧が 150mmHg 以上の高血圧領域では血管のコン

プライアンスに変化が認められるとの報告もある.

2・4・5 その他の指標 20),21)

血圧歪み弾性係数(Ep)は,静力学的な血圧と径

変化の関係から定義された指標で,血管が硬くなる

ほど値が高くなる.血圧歪み弾性係数(Ep)は,次

式から算出した.

𝐸𝐸 =𝛥𝑏

𝛥𝐷/𝐷𝑑

増分弾性係数(Einc)は,1 心拍中の血圧の変化

量(ΔP)に対する周方向の応力の変化量(ΔT)と

歪みの比で定義される.動脈の半径(r:血管径 D=

2r),血管壁の厚み(h)を用いると,圧力と周方向

の応力は次式で表される.

𝛥𝑏 =𝛥𝛥 × h

𝑑 or 𝛥𝛥 =

𝛥𝑏 × 𝑑h

また,歪みは次式で表されるので,

𝛥rr

=𝛥(2𝜋r)

2𝜋r

増分弾性係数(Einc)は次式を用いて算出した.

-6-

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𝐸𝑆𝑆𝐸 =(𝛥𝑏 × r)/h

𝛥𝑑/r

2・5 血管壁厚(IMT)検査

IMT とは「Intima Media Thickness」の略で,動脈

血管壁の内膜と中膜を合わせた厚さを意味している.

通常,IMT 検査は頸動脈を対象に行われることが多

い.これは,頸動脈が粥状動脈硬化(アテローム性

動脈硬化)の好発部位であり,仮にその粥状の隆起

(プラーク)が破綻し,血栓となって流出すると,

脳血管に詰まって脳梗塞を引き起こすためである. 新しく開発する装置では,FMD 検査の対象が上腕

動脈であるため,IMT 検査も上腕動脈を対象に行う

こととした.対象部位の違いについては,様々な議

論のあるところではあるが,内膜中膜複合体の厚さ

は動脈硬化の進行程度と比例することが解っており,

初期の動脈硬化は全身の動脈でほぼ同時に進行する

と考えられることから,意義あるものと考えた.

具体的には,FMD 検査において,安静時の血管径

は,血管の長軸方向の断面エコー画像から測定して

いるので,IMT 検査もこのエコー画像から同時並行

で計測した.

3 まとめ

糖尿病に伴う高血糖は,血液の成分や粘度を変化

させる.そして,血流や血管内皮へのずり刺激の変

化を及ぼし,血管内皮を傷つけ動脈硬化を誘引する.

動脈硬化は血管機能の変化から始まり血管器質の変

化を経て血管形態の変化に至る. 5 年間の研究では,装置に搭載する検査機能のア

ルゴリズム研究からハードウェア(試作機)開発ま

で幅広く行うと共に,臨床現場での検査機能の評価

検証も行った. 本報告は,その内の装置に搭載する検査機能のア

ルゴリズム研究について,概要をまとめたもので,

非侵襲で安全な超音波を使って,上腕動脈の血管性

状の変化の推移を医学的根拠に基づいた複数の指標

で同時検査し,数値化するためのアルゴリズム群を

完成させた. 今後,ハードウェア(試作機)開発に関する技術

報告を,臨床現場での検査機能の評価検証結果をそ

れぞれまとめていく予定である.

謝辞

本研究開発において,試作機の製作に尽力いただ

きました(株)ユネクスの皆様に感謝いたします.

参考文献

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影響. 信学技報.電子情報学会, 2002,MBE2002-34,

-7-

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p.29-32. 8)Steven, K.; Nishiyama, D.; Walter, Wray.; Kimberly,

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9)Steven, K.; Nishiyama, D.; Walter, Wray.; Russell, S, Richardson. Aging affects vascular structure and

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崎和男. 頸動脈, 上腕動脈, 大体動脈における血流

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ンポ論文集. 自動制御学会, 1999, p. 457-460. 19)松本健郎.”動脈硬化度の精密測定を目指した

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20)池下和樹, 長谷川英之, 金井浩. 内皮反応時の

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p.10-17.

-8-

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ハニカムフラッシュ構造の音響特性についてⅡ On Acoustic Properties of Honeycomb Sandwich Construction

中岡 正典*1,笹山 鉄也*1 Masanori Nakaoka and Tetsuya Sasayama

抄 録 ハニカムコアを使用したフラッシュパネルに音響的な性能を付与する例として,パネルの片側の表面板材

を除き,代わりに通気性を有する不織布で被覆した吸音パネルを作成し性能を評価した.その結果,音響管

を使用した垂直入射吸音率の測定では,不織布の通気性が比較的高い条件では,セルサイズが小さい方がピ

ーク周波数における吸音率が高く,ピーク周波数はセル深さの増加に伴い低周波側にシフトすることがわか

った.また,実用サイズのパネルを試作し,残響室法吸音率を測定した結果,ハニカムコアのみでも一定の

吸音性能を示し,特に適度な通気性(単位面積流れ抵抗 267 Pa・s/m)を有する不織布で被覆した条件では,

顕著な吸音性能の向上が認められた.

1 はじめに 前回は,フラッシュパネルにペーパーハニカムコ

アを用いる際に,遮音等級で T-1 程度の性能を確保

する仕様について検討した 1). 今回は,ペーパーハニカムコアを使用したパネル

で,遮音とは異なる音響性能を付与する例として,

パネルの片側の板材を除き,代わりに不織布で被覆

した吸音パネルの作成を試みた.このとき,ハニカ

ムコアのセルサイズ,見込み方向のセル深さ,そし

て不織布の通気性など,諸条件が吸音性能に及ぼす

影響を検証した.

2 方法 2・1 垂直入射吸音率による評価

ハニカムコアの表面を不織布で被覆した試料につ

いて吸音性能を評価するにあたり,条件を変えて多

くの試料を作成するため,最初は小片で評価ができ

る音響管(ブリュエル・ケアー社製)を使い,垂直

入射吸音率により評価した(図 1). ハニカムコアについては,既製品に無いセルサイ

ズで精度良く作成する必要があったため,樹脂積層

造形装置(Stratasys 社 FORTUS400mc-S)を用い,

ABS 樹脂によりセル隔壁の厚み 1mm で作成した.

なお,試料の形状は 100Hz~1600Hz の低周波測定用

の太管 φ100 と,500Hz~6400Hz の高周波測定用の

細管 φ29に合わせ,それぞれ円筒形試料を作成した. ハニカムコアのセルサイズ(正面から見た時のセ

ルの大きさ)は,一辺が 5,10,15mm の正方形で 3種類,そしてセル深さ(ハニカムコアの奥行き方向

の寸法)は 25mm と 50mm の 2 種類とした. 不織布については,表 1 に示すように通気性の異

なる 3 種類を用意し,以上の緒条件を組み合わせた

バリエーションで試料を作成した(図 2). なお,不織布は酢酸ビニル樹脂系エマルジョン接

図 1 垂直入射吸音率の測定システム

表 1 ハニカムコアの表面被覆に使用した不織布

材質面密度

[kg/m2]

単位面積流れ抵抗[Pa・s/m]

不織布A PP 0.048 55

不織布B PP 0.098 267

不織布C PE・PET(2層) 0.087 13230

*1 生活科学担当

報 文

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図 2 垂直入射吸音率測定用の円筒形試料

着剤(コニシ製 CH18)を用い,ハニカムコアの表

面に貼り付けた.

2・2 残響室法吸音率による評価

前項の垂直入射吸音率による評価に加え,試料表

面に音がランダム入射した条件でも評価を行うため,

実用サイズのパネルを試作し,図 3 に示す RION 社

製測定システムを用い,残響室法吸音率を測定した.

ただし,残響室の容積(38m3)や試料面積が小さく

図 3 残響室法吸音率の測定システム

図 4 試作パネルに使用したペーパーハニカムコア

図 5 残響室の床に設置した試作パネル

(1.5m2),JIS 規格外の測定となるため,結果は参考

値である. 試作パネルの外寸は H1800mm×W860mm×

D52.5mm で,断面 W30mm×D50mm の芯材(ポプ

ラ製 LVL)で 4 辺を構成し,内側に長手方向を 3 分

割するように等間隔に芯材を設けた.裏面(剛壁側)

は 2.5mm 厚の MDF(ラジアタパイン製)の板材で

覆い,内部の深さ 50mm の中空層にペーカーハニカ

ムコア(新日本フェザーコア製フェザーコア F-R,セルサイズ 10.5mm,見込み方向の深さ 50mm,中芯

原紙)(図 4)を設置した.以上を固定条件とし,パ

ネル表面には,表 1 に示す各不織布を酢酸ビニル樹

脂系エマルジョン接着剤(コニシ製 CH18)で貼り

付けた(図 5). また,比較対象として,不織布を除いたハニカム

コアのみや,逆にハニカムコアを除いた不織布と空

気層の構成,そしてハニカムコアの代わりに多孔質

吸音材料を代表してロックウール(嵩密度 80kg/m3)

を用いた条件でも同様にパネルを試作し,結果を比

較した.

3.結果および考察

3・1 垂直入射吸音率による評価

試作した円筒形試料を用い,試料表面の各不織布

(使わない場合も含めると 4 条件)と,セル深さの

条件(25mm と 50mm)を組み合わせた合計 8 条件

について,それぞれセルサイズを変えた際の垂直入

射吸音率を比較した(図 6~図 13).

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まず,不織布で被覆せずハニカムコアのみの条件

で比較した図 6・図 10 や,通気性の高い不織布 A を

用いた図 7・図 11 では,セルサイズが 5mm の試料

でピーク周波数における吸音率が最も高い.よって,

不織布を使わない場合も含め,試料表面の空気抵抗

(流れ抵抗)が小さい条件では,セルサイズが小さ

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布無し-ハニカムコア無し

不織布無し-セルサイズ5mm

不織布無し-セルサイズ10mm

不織布無し-セルサイズ15mm

図 6セルサイズによる比較(不織布無し・深さ 25mm)

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布A-ハニカムコア無し

不織布A-セルサイズ5mm

不織布A-セルサイズ10mm

不織布A-セルサイズ15mm

図 7 セルサイズによる比較(不織布 A・深さ 25mm)

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布B-ハニカムコア無し

不織布B-セルサイズ5mm

不織布B-セルサイズ10mm

不織布B-セルサイズ15mm

図 8 セルサイズによる比較(不織布 B・深さ 25mm)

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布C-ハニカムコア無し

不織布C-セルサイズ5mm

不織布C-セルサイズ10mm

不織布C-セルサイズ15mm

図 9 セルサイズによる比較(不織布 C・深さ 25mm)

い方が有利であることがわかる.

また,不織布 B(単位面積流れ抵抗 267 Pa・s/m)

を用いた図 8・図 12 では,ピーク周波数における吸

音率が限界近くまで達し,ハニカムコアの表面を適

度な通気性の不織布で覆うことで,吸音性能が飛躍

的に向上することがわかる.一方で,セルサイズに

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布無し-ハニカムコア無し

不織布無し-セルサイズ5mm

不織布無し-セルサイズ10mm

不織布無し-セルサイズ15mm

図10 セルサイズによる比較(不織布無し・深さ50mm)

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布A-ハニカムコア無し

不織布A-セルサイズ5mm

不織布A-セルサイズ10mm

不織布A-セルサイズ15mm

図 11 セルサイズによる比較(不織布 A・深さ 50mm)

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布B-ハニカムコア無し不織布B-セルサイズ5mm不織布B-セルサイズ10mm不織布B-セルサイズ15mm

図 12 セルサイズによる比較(不織布 B・深さ 50mm)

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周波数[Hz]

垂直

入射

吸音

不織布C-ハニカムコア無し不織布C-セルサイズ5mm不織布C-セルサイズ10mm不織布C-セルサイズ15mm

図 13 セルサイズによる比較(不織布 C・深さ 50mm)

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よる差は小さくなり,むしろピーク周波数ではハニ

カムコアが無い条件で吸音率が若干高い.ただし,

これについては後述の残響室法吸音率の結果と併せ

て判断する必要がある.

なお,ピーク周波数については,ここまで示した

試料表面の抵抗が比較的小さい条件では,セルサイ

ズや不織布の通気性を変えても,変化は小さい.む

しろ,図 6 と図 10,図 7 と図 11,そして図 8 と図

12 など,セル深さ 25mm と 50mm のグラフを比較す

ると明らかなように,セル深さに大きく依存し,そ

の増加によりピークが低周波側にシフトしているこ

とがわかる.

次に,通気性に乏しい不織布 Cを用いて比較した

図 9・図 13 では,ここまで示した吸音特性とは一見

して異なっている.

まず,ハニカムコアが無い場合も含め,セルサイ

ズが 10mm 以上の条件では,中高周波数域に複数の

急峻なピークが見られ,またセルサイズによりピー

ク周波数が異なる.さらに,ハニカムコアが内蔵さ

れた条件では,いずれも 200Hz~400Hz の低周波数

域になだらかなピークを有する.これは,膜振動型

の吸音特性が発現していると見ることもできるが,

そもそも膜振動型は音響管を使った垂直入射吸音率

では評価できないため 2),通気性の乏しい不織布に

ついては,後述の残響室吸音率の測定結果と併せて

判断する必要がある.

3・2 残響室法吸音率による評価

試料に音がランダム入射した際の吸音性能を評価

するため,実用サイズの吸音パネルについて,残響

室法吸音率を測定し比較した.なお,以降に示す結

果は,2・2 項で述べたように,残響室の容積や試料

面積等で JIS 規格の測定方法を満たしていない.ま

た,面積効果 3)などの影響により,吸音率が理論上

の上限値 1 を超える事例も生じた.従って,ここで

示す吸音率の絶対量に信頼性は無く,あくまで相対

的な比較の検証にのみ用いていることに注意する必

要がある. まず,ハニカムコアを除き,50mm の背後空気層

を有する不織布のみのパネルについて,残響室法吸

音率を比較した(図 14).図から明らかなように,

適度な通気性を有する不織布Bのパネルで最も吸音

率が高いことがわかる. 次に,パネル内部の空気層 50mm にペーパーハニ

カムコア(セルサイズ 10.5mm)を設置し,表 1 の

各不織布で表面を被覆したパネル,そして比較対象

として不織布を除いたパネルを含めた合計 4 条件に

ついて比較した結果を図 15 に示す.不織布 A・B と

C ではピーク周波数が異なるが,総じて不織布 B の

パネルが優れていることがわかる.また,不織布を

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中心周波数[Hz]

残響

室法

吸音

率(JIS

規格

外の

ため

参考

値) 不織布A + 空気層50mm

不織布B + 空気層50mm

不織布C + 空気層50mm

図 14 不織布+空気層の構成における比較

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中心周波数[Hz]

残響

室法

吸音

率(JIS

規格

外の

ため

参考

値)

ハニカムコアのみ

不織布A + ハニカムコア

不織布B + ハニカムコア

不織布C + ハニカムコア

図 15 不織布+ハニカムコアの構成における比較

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中心周波数[Hz]

残響

室法

吸音

率(JIS

規格

外の

ため

参考

値)

ハニカムコアのみ

不織布B + 空気層不織布B + ハニカム

ロックウール

図 16 各種条件のパネルとロックウールの比較

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除いたハニカムコアのみのパネルでも一定の性能

を示しているが,不織布で表面を覆うことで,いず

れのパネルでも吸音性能が向上していることがわか

る.なお,3・1 項の垂直入射吸音率の測定結果では,

不織布 C とハニカムコアを組み合わせた条件で,

200Hz~400Hzの周波数帯域で0.5程度の吸音率を示

していたが,残響室法吸音率では同様の性能は認め

られなかった. 最後に,これまでに示した測定結果の中から,ハ

ニカムコアのみのパネル,不織布 B のみのパネル,

そしてそれらを貼り合せたパネルを選び,多孔質吸

音材料のロックウールを設置したパネルと比較した

(図 16).図からわかるとおり,いずれのパネルも

ロックウールを設置したパネルには吸音性能が及ば

なかったが,不織布のみやハニカムコアのみのパネ

ルに比べ,それらを貼り合せたパネルでは,顕著な

吸音性能の向上が認められ,複合化の効果が発揮さ

れていることがわかる.なお,3・1 項の不織布 B を

用いた試料の垂直入射吸音率の結果では,ピーク周

波数でハニカムコアを除いた試料の吸音率が若干上

回っていたが,残響室法吸音率の結果では,ハニカ

ムコアを使い,複合化した方が性能の向上につなが

ることが確かめられた.

4.まとめ

ハニカムコアの表面を不織布で被覆した試料につ

いて,垂直入射吸音率および残響室法吸音率を測定

した結果,以下の知見を得た.

(1)円筒形の小片試料で垂直入射吸音率を評価した

結果,不織布を除いた条件も含め,ハニカムコア表

面の流れ抵抗が比較的小さい条件では,セルサイズ

が小さい方が,ピーク周波数で吸音率が高くなる傾

向が見られた.また,ピーク周波数はセル深さに大

きく依存し,その増加に伴いピークが低周波側にシ

フトすることがわかった.

(2) 実用サイズのパネルを試作し,残響室法吸音率

を評価した結果,不織布を除いたハニカムコアのみ

の条件でも,一定の吸音性能を示すことがわかった.

また,ハニカムコアの表面を通気性の異なる 3 種類

の不織布で被覆し比較した結果,中程度の通気性(単

位面積流れ抵抗 267 Pa・s/m)の不織布で最も吸音率

が高く,ハニカムコアを適度な通気性を有する不織

布で被覆することで,吸音性能の向上が見込めるこ

とがわかった.

参考文献

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について . 徳島県立工業技術センター研究報告 . 2013, 22, p. 17-22. 2)前川純一, 森本政之, 阪上公博. 建築・環境音響

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ついて. 日本音響学会誌. 2007, 63(5), p.268-274.

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*1 食品・応用生物担当,*2(株)マリン大王,

*3 池田薬草(株)

スダチ果皮抽出物のスダチチン量と抗酸化活性 Sudachitin Contents and Antioxidative Activities of Sudachi Peel Extracts

新居 佳孝*1,岡久 修己*1,高田 次郎*1,三野 幸人*2,敷島 康普*3 Yoshitaka Nii, Naoki Okahisa, Jiro Takata, Yukihito Mino and Yasuhiro Shikishima

抄 録 スダチチンはスダチ果皮から初めて同定されたポリメトキシフラボンの一種であるが,これまでその生理

機能性は十分知られていなかった.そこで,スダチ果皮抽出物のスダチチンおよびデメトキシスダチチン量

ならびに H-ORAC 法による抗酸化活性を測定した.スダチ果皮をエタノールで抽出し,合成吸着剤を用いて

粗精製したスダチ果皮抽出液(E-2G)のスダチチンおよびデメトキシスダチチン量はスダチ果皮に比べて約

4.8 倍に濃縮することができた.これを粉末化したスダチ果皮エキス末(S-2G)ではさらに 2 倍以上濃縮さ

れた.抗酸化活性についても同様の傾向を示した.スダチチンおよびデメトキシスダチチンの精製品の抗酸

化活性を測定したところ,デメトキシスダチチンがスダチチンよりも高いことが分かった.メトキシ基の数

が抗酸化活性に影響している可能性がある.

1 はじめに スダチ(Citrus sudachi Hort. ex Shirai)は徳島県に

おいて年間5,379トンの収穫量があり1),全国収穫量

の約98%を占めている.その半分は生果として流通

しているが,残りは搾汁した後,果汁がポン酢,ジ

ュースおよび菓子などの原料として利用されている.

搾汁時に発生する搾汁残渣(主に果皮)は,大半が

堆肥化されているが,さらなる有効利用が望まれて

いる.

柑橘類の果皮には,多くのポリメトキシフラボン

類が含まれており,発がん抑制作用,さらに糖尿病

や高脂血症などの生活習慣病の改善効果などが報告

されている 2) - 5).

スダチチン(図 1)は堀江らによりスダチ果皮か

ら初めて同定されたポリメトキシフラボンの一種で

あるが 6),これまでその生理機能性は十分知られて

いなかった.近年,スダチチンによるマウスマクロ

ファージにおける抗炎症作用 7)および食事誘発性肥

満マウスにおける内臓脂肪の蓄積抑制効果 8)が報告

されている.一方,デメトキシスダチチンはスダチ

チンから 3’位のメトキシ基が除かれた構造のフラボ

ンであるが 9),生理機能性についての報告はこれま

で見当たらなかった. 抗酸化活性とは酸化を防ぐ能力のことを指し,生

体内において起こり得る過酸化脂質の生成,タンパ

ク質の変性および遺伝子障害などを防ぎ,生活習慣

病の予防をもたらすと考えられている 10).これまで

抗酸化活性の測定は測定原理の異なる多種多様な方

法で行われてきたが,生体内での酸化反応に近い状

態で抗酸化活性が評価できる系である酸素ラジカル

吸収能力(oxygen radical absorbance capacity: ORAC)法が有用であると報告されている 10,11).特に,ポリ

フェノールやアスコルビン酸などの成分に由来する

抗酸化活性を評価できる親水性 ORAC(H-ORAC)法は渡辺ら 12)により妥当性の確認が終了している

分析法であるため,それぞれの実験室で得られた測

定値の比較が可能である. そこで,スダチ果皮抽出物(抽出液,エキス末)

についてスダチチンおよびデメトキシスダチチン量

ならびに H-ORAC 法による抗酸化活性を測定した.

あわせて,スダチチンおよびデメトキシスダチチン

の精製品についても抗酸化活性を測定し,他のポリ

図1 スダチチンの化学構造

報 文

-15-

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フェノールと比較した. 2 実験方法

2・1 試料の調製 (1)スダチ果皮凍結乾燥粉末 スダチ果皮(種子などを除去した搾汁残渣)は

2012 年に JA 徳島市より購入した.スダチ果皮を凍

結乾燥(FZ-12, LABCONCO)した後,ミルサー

(IFM-700G,岩谷産業(株))を用いて粉末化した. (2)スダチ果皮抽出液 スダチ果皮(JA 徳島市)を粉砕し,加水した後,

酵素処理を行った.酵素を失活させた後,エタノー

ルで抽出し,減圧濃縮した(E-1G).次に,合成吸

着剤を用いて粗精製した後,エタノールで溶解させ

た(E-2G). (3)スダチ果皮エキス末 スダチ果皮抽出液(E-1G および E-2G)をそれぞ

れスプレードライヤー(L-8,大川原化工機(株))

を用いて粉末化し,S-1G および S-2G を作成した.

2・2 分析方法 (1)スダチチンおよびデメトキシスダチチンの分

析 スダチ果皮抽出物を精秤後,遠沈管に入れ,メタ

ノール:ジメチルスルホキシド混液(1:1)3mL,塩

酸1mLを加えて70℃で1時間加温して抽出した.抽出

液を10mL に定容し,フィルターろ過した後,高速

液体クロマトグラフ(HPLC)(LC-10AVP,(株)

島津製作所)を用いてスダチチンおよびデメトキシ

スダチチンを分析した13).分析に用いた標準物質は,

当センターにおいてスダチ果皮から分離し,純度

95%に精製したものを用いた14).

(2)総ポリフェノールの分析 試料の総ポリフェノール量はフォーリン−チオカ

ルト法により測定した 15).スダチ果皮抽出物をビー

カーに精秤し,80%メタノールを 50mL 加え,20 分

間撹拌した.ろ過(No.5A)した後,水で 100mL に

定容し,試料原液とした.水で適宜希釈した試料液

500µL にフェノール試薬(2 倍希釈)200µL,飽和炭

酸ナトリウム溶液 500µL を加えた.さらに水を 4.3 mL 加え,室温で 1 時間反応させた後,765nm の吸

光度を分光光度計(UV-1800,(株)島津製作所)を

用いて測定した.標準として没食子酸を使用し,試

料中のポリフェノール量を没食子酸換算で表した.

(3)ORAC 法による抗酸化活性測定 スダチ果皮抽出物を 1g 精秤し,ヘキサン 10mL を

加え,遠心分離(3,000rpm,10 分)した後,上清を

除去した.沈殿に含まれる溶媒を窒素気流下で除去

した後,MWA 溶液(メタノール:水:酢酸=90:90:9.5:0.5)を 10mL 加え,37℃で 5 分間超音波処

理した.室温で 10 分放置した後,遠心分離(3,000rpm,

10 分)し,上清を 25mL に定容した(親水性画分).

スダチチンおよびデメトキシスダチチンの精製品

については,各試料を 5mg 精秤し,MWA 溶液を加

え,5mL に定容した.

得られた親水性画分の抗酸化活性(H-ORAC)を

渡辺らの方法 12)に従って測定した.測定には 96 穴

マイクロプレート(Greiner)を用い,蛍光強度の経

時変化をインフィニット F200PRO(Tecan)を用い

て測定した.H-ORAC 値は試料 1g あたりの Trolox相当量(μmolTE/g)として示した.

(4)スダチチン量と抗酸化活性の相関性

スダチ果皮抽出物のスダチチン量と抗酸化活性と

の相関性をピアソンの相関解析を用いて検定した16).

3 結果と考察

3・1 スダチ果皮抽出物のポリフェノール量

合成吸着剤を用いて粗精製したスダチ果皮抽出液

E-2G は,E-1G に比べてスダチチン量を約 4.5 倍に

濃縮することができた.これを粉末化したスダチ果

皮エキス末 S-2G ではさらに約 2 倍以上濃縮された.

デメトキシスダチチンおよび総ポリフェノール量も

ほぼ同様の倍率で濃縮された(表 1).

3・2 スダチ果皮抽出物等の抗酸化活性 合成吸着剤を用いて粗精製したスダチ果皮抽出液

E-2G は,E-1G に比べて抗酸化活性が約 4 倍に増加

した.これを粉末化したスダチ果皮エキス末 S-2Gではさらに約 2 倍以上増加した.これはスダチチン

量と同様の傾向を示しているため,スダチ果皮抽出 物のスダチチン量と抗酸化活性との相関性を検討し

たところ,相関係数が 0.999 を示し,極めて強い相

関があることが分かった(表 2). スダチ果皮の抗酸化活性は,リンゴやミカン(と

もに可食部(果肉))よりも高く,さらにフクレミカ

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ンの果皮(320 µmolTE/g)17)との比較でも高値を示

した.今後,食用とされる柑橘類の果皮についても

測定し,比較検討する必要がある.また,スダチ果

汁の抗酸化活性はレモンジュース(12 µmolTE/g)18)

とほぼ同等であることが分かった.

表1 スダチ果皮抽出物のポリフェノール量

スダチチン

(mg/100g)

デメトキシ

スダチチン (mg/100g)

総ポリフ

ェノール (g/100g)

スダチ果皮(乾燥粉 550 100 1.9 末) スダチ果皮抽出液 E-1G 594 128 1.9 E-2G 2,693 542 6.8 スダチ果皮エキス末 S-1G 896 208 4.7 S-2G 6,060 1,211 17.3

表2 スダチ果皮抽出物等の抗酸化活性

H-ORAC (µmolTE/g)

スダチ果皮(乾燥粉末) 624 スダチ果汁 13 スダチ果皮抽出液 E-1G 713 E-2G 3,062 スダチ果皮エキス末 S-1G 1,139 S-2G 6,913 リンゴ* 120 ミカン* 150

* 参考文献 12)より抜粋.可食部(果肉)の分析値.

3・3 スダチチン精製品の抗酸化活性 スダチチンの抗酸化活性を測定したところ,代表

的なポリフェノール成分よりも低値を示した.また,

デメトキシスダチチンの抗酸化活性がスダチチンよ

りも高いことが分かった(表 3).

フラボノイド類の抗酸化活性は,①水素供与基と

しての B 環の 3’位と 4’位に水酸基をもつ構造(カテ

コール構造)②4-オキソ基と共役した 2,3-二重結合 ③3 位と 5 位の水酸基をもつことが重要とされてい

る 19).カテキンは 2,3-二重結合をもたないが,カテ

コール構造をもつため抗酸化活性が高い.ヘスペレ

チンは,5 位と 3’位に水酸基をもつが,2,3-二重結合

はもたない.一方,スダチチンは 5 位と 4’位に水酸

基をもち,あわせて 2,3-二重結合を有しているにも

かかわらず,抗酸化活性はヘスペレチンより低かっ

た.構造的な相違としては,ヘスペレチンの 3’位に

ある水酸基が,スダチチンではメトキシ基に置換さ

れ,デメトキシスダチチンでは有していないことが

あげられる.また,スダチチンでは,この位置にあ

るメトキシ基も抗酸化活性に影響を及ぼしている可

能性がある.

表3 スダチチン精製品の抗酸化活性 H-ORAC

(mmolTE/g) スダチチン 10.0 デメトキシスダチチン 16.4 ヘスペレチン* 22.8 (+)-カテキン* 58.9

*参考文献 12)より抜粋.

ノビレチンでは,代謝過程で脱メチル化され,水

酸基に置換された代謝物の生理活性の方が高いと報

告されている 20,21).このため,水酸基とメトキシ基

を両方有するスダチチンおよびデメトキシスダチチ

ンには新たな生理機能性を有する可能性があり,こ

れらの生体内での代謝を含め今後さらに検討する必

要がある.

4 まとめ

(1)スダチ果皮をエタノールで抽出し,合成吸着

剤を用いて粗精製したスダチ果皮抽出液(E-2G)の

スダチチンおよびデメトキシスダチチン量はスダチ

果皮に比べて約 4.8 倍に濃縮することができた.こ

れを粉末化したスダチ果皮エキス末(S-2G)ではさ

らに約 2 倍以上濃縮された.また,抗酸化活性につ

いても同様の傾向を示した.

(2)スダチチンおよびデメトキシスダチチンの精

製品の抗酸化活性を測定したところ,デメトキシス

ダチチンがスダチチンよりも高いことが分かった.

メトキシ基の数が抗酸化活性に影響している可能性

がある.

謝辞

スダチチンの精製に関してご協力いただきまし

た徳島大学名誉教授・津嘉山正夫先生に感謝いたし

ます.なお,本研究は,文部科学省・地域イノベー

ション戦略支援プログラム(グローバル型)の一環

として実施した.

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参考文献

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ナトリウム溶液中のセシウムの分析方法について

佐藤 誠一*1

抄 録 炎光光度法,フレーム原子吸光法,ICP 発光分光分析法を用いて溶液中のセシウムを測定する際,共存す

るナトリウムの影響について検討を行った.測定方法に関わらず,ナトリウム添加により定量下限値が低下

した.また,ナトリウムを加えると増感作用によるセシウムの回収率増加が観測された.炎光光度法,フレ

ーム原子吸光法ではアセチレン流量が増加すると回収率が低下した.また,ICP 発光分光分析法では高周波

出力を低下させるとセシウムの回収率が増加した.

1 はじめに セシウムは第1イオン化エネルギーが375.5kJ/mol

と全元素中で最も低く,容易にイオン化するため1)

,発光分析,原子吸光分析においてイオン化干渉が

分析精度に大きな影響を及ぼす.イオン化干渉を防

ぐためにはナトリウム(第1イオン化エネルギーが

495.8kJ/mol1))等のイオン化しやすい元素の添加が

効果的であることが知られている2).しかし,共存

成分が増加すると,発光分析ではバックグラウンド

発光が,原子吸光分析では共存成分による光の散乱

や吸収が問題となる3).

本研究では,炎光光度法,フレーム原子吸光法及

び ICP発光分光分析法を用いてセシウムを精度よく

定量するために,測定装置の分析条件とナトリウム

が定量下限値と回収率に及ぼす影響について検討を

行った.

2 実験方法 炎光光度法,フレーム原子吸光法には,(株)日立

ハイテクノロジーズ 偏光ゼーマン原子吸光分光光

度計 Z-5000 形タンデム機,セシウムランプ (株)パーキンエルマーを用いた.炎光光度法は Cs30μg/ml溶液で波長及びゲインを調整した.

ICP 発光分光分析法はサーモフィッシャーサイエ

ンティフィック(株) iCAP6300Duo を用いて測定

を行った. 表 1,2 にそれぞれの測定条件を示す. 定量下限値は,10 回繰り返し測定を行い求めた.

表 1 炎光光度法,フレーム原子吸光法の測定条件

炎光光度法 フレーム原子

吸光法 測定波長 852.1 nm 852.1 nm ランプ電流 ― 20.0 mA スリット幅 1.3 nm 1.3 nm 時定数 1.0 秒 2.0 秒 空気流量 15.0 L/分 15.0 L/分

バーナー高さ 5.0 ㎜ 5.0 ㎜ 遅延時間 30 秒 5 秒

データ取り込

み時間 5.0 秒 5.0 秒

表 2 ICP発光分光分析法の測定条件

測定波長 455.531 nm(原子線)

方式 1.15 kW

プラズマガス流量 12 L/分

補助ガス流量 0.5 L/分

キャリヤーガス流量 0.7 L/分

ネブライザーの種類 同軸

測光方向 軸方向

溶液中のセシウムの回収率は式 1 で計算した.

(Cs 測定値/Na 溶液中の Cs 濃度)×100 (式 1)

回収率測定用ナトリウム溶液及び回収率測定用検

量線溶液の作成手順をそれぞれ図 1,図 2 に示す.

ナトリウム濃度は 0.025,0.075 及び 0.125mol/l とし

た.また,炎光光度法及びフレーム原子吸光法では

ナトリウム溶液中のセシウム濃度は 2.5μg/ml,ICP発光分光分析法は 30μg/ml とした.

*1 材料技術担当

技術報告

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図 1 で調製した溶液を用いて検量線を作成した.

得られた検量線を用いて,図 2 の手順で作成した各

種濃度のナトリウム溶液中のセシウム濃度を測定し,

式 1 から回収率を求めた.

100ml メスフラスコ ↓

硝酸 3ml ↓

炎光光度法,フレーム原子吸光法 1000μgCs/ml 0,0.5,1,2,3ml

ICP 発光分光分析法 1000μgCs/ml 0,5,10,15ml

↓ 100ml に定容

図 1 回収率測定用検量線溶液作成手順

100ml メスフラスコ ↓

硝酸 3ml ↓

2.5mol/l 水酸化ナトリウム溶液 1,3,5ml ↓

炎光光度法,フレーム原子吸光法:50μgCs/ml 5ml ICP 発光分光分析法:1000μgCs/ml 3ml

↓ 100ml に定容

図 2 回収率測定用ナトリウム溶液作成手順

3. 結果

3・1 定量下限値

図 3 に炎光光度法における,セシウムの定量下限

値に対するアセチレン流量の影響及びナトリウム添

加の効果を示す.ナトリウム濃度に関わらず,アセ

チレン流量の低下に伴って定量下限値が低下した.

また,ナトリウムを添加するとセシウムの定量下限

値は,無添加の値の 1/3~1/5 となりナトリウム添加

の効果が確認された.

フレーム原子吸光では,アセチレン流量が 2.4~

2.6L/分において定量下限値が最小となった.

図 3 炎光光度法の定量下限値

図 4 は ICP 発光分光分析法による定量下限値であ

る.炎光光度法と同様にナトリウムを添加すると,

定量下限値は低下したが,高周波出力による差は観

察されなかった.一般に,ナトリウムのような高波

長で測定する元素では,高周波出力が低い場合に定

量下限値が改善される傾向がある.しかし,本研究

では出力低下による発光強度低下のために,定量下

限値に対する高周波出力の影響が見られなかった 4).

図 4 ICP発光分光分析法の定量下限値

●:ナトリウム 0mol/l,■:ナトリウム 0.075mol/l 3・2 回収率

炎光光度法とフレーム原子吸光法に対するナトリ

ウム濃度による回収率変化を図 5 に示す.アセチレ

ン流量はセシウムの定量下限値として良い値を示す

2L/分とした.ナトリウム濃度 0mol/l は,検量線溶液

を測定した値である.ナトリウム濃度 0.025mol/l での回収率は,炎光光度法は 138%,フレーム原子吸

光は 141%であった.ナトリウム濃度が 0.075mol/l

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に増加すると,それぞれ 165%,157%の回収率を示

し,分析方法に関わらずナトリウム濃度が増えると,

回収率も増加し,ナトリウムによる増感作用が観測

された.

図 5 Na濃度に対する回収率変化

図 6 は,0.075mol/l ナトリウム濃度での炎光光度

法とフレーム原子吸光法のアセチレン流量に対する

回収率変化である.両法共にアセチレン流量が 2.0L/分の時に回収率が最も高くなり,炎光光度法では

165%,フレーム原子吸光法では 157%であった.し

かし,アセチレン流量の増加とともに回収率は低下

し,流量2.6L/分では回収率はそれぞれ117%と105%になった.炎光光度法では,流量が 2.8L/分以上にな

ると発光強度が不安定となり測定が困難であった.

図 6 アセチレン流量に対する回収率変化

ICP 発光分光分析法による回収率測定結果を図 7に示す.高周波出力が 750W においてナトリウム濃

度を 0.025mol/l から 0.125mol/l に増やすと回収率が

250%から 360%に増加した.高周波出力が 950W,

1150W においてもナトリウム濃度が増加すると回

収率が高くなった.また,同じナトリウム濃度では

高周波出力が低い場合に,高い回収率を示した.

図 7 ICP発光分光分析法の回収率結果

4.まとめ

セシウムの分析において炎光光度法,ICP 発光分

光分析法共にナトリウム添加により定量下限値が改

善した.ナトリウムを加えると増感作用により回収率

が増加した.

一般的に,定量下限値は測定元素の信号強度の増加

で改善される.本研究では,ナトリウム添加によって

信号強度が増加したためにセシウムの定量下限値が良

い値を示した.

炎光光度法,フレーム原子吸光法ではアセチレン

流量が増加すると回収率が低下し,また,ICP 発光

分光分析法では高周波出力を低下させると回収率の

増加が観測された.

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環境に配慮した鶏ふん堆肥化技術

三木 晃*1,宮﨑 絵梨*2,山本 澄人*2

抄 録 徳島県の主要産業の一つである養鶏の現場では,産業廃棄物となる鶏糞と食鳥加工副産物を混合・発酵さ

せることにより有機肥料の製造を行っているが,特有の臭気(悪臭)を持つことが普及の妨げになっている.

そこで,問題となる有機肥料特有の臭気物質を分析するとともに,その減臭効果について検証した結果,

特有の臭気には吉草酸を主体とする低級脂肪酸が関与していることが明らかとなった.また,これら低級脂

肪酸は環境条件が整えば,糸状菌・放線菌などの微生物により除去することができ,減臭が可能であること

が示唆された.

1 はじめに 近年の肥料価格高騰や環境保全型農業の取組の広

がりを背景として,本県大手養鶏業者では,鶏糞に

鶏肉の加工時に出る骨や血液,内蔵などの食鳥加工

副産物を混合し発酵させることにより,植物に必要

な窒素,リン酸,カリのバランスのよい,動物性有

機 100%の肥料を開発し,この肥料の供給を通じて地

域を挙げた特色ある産地づくりに取り組んでいる. しかしながら,この肥料は,食鳥加工副産物の混

入・発酵させるため,鶏糞とは異なる特有の臭気を

持ち,施用した圃場の周辺住民からの苦情が出るな

ど,活用の場が限られている.

そこで本研究では,この有機肥料のさらなる有効

活用に向けて,特有の臭気成分の特定及び減臭技術

について検討した.

2 実験方法

2・1悪臭成分の把握

図1に示す有機肥料の製造工程より,一次発酵後,

二次発酵後,製品のサンプル各約 40g を 920ml シリ

コン容器に採取した. 臭気成分の分析は,各試料を採取したシリコン容

器内に GERSTEL 製 Twister を設置し,25℃の恒温槽

内で 10 分間,ヘッドスペース法により揮発性物質を

吸着させた後,アジレント 5975GC/MSD システム

に供した. (2)微生物剤処理による減臭効果の検証

市販されている複合微生物資材を有機肥料製品に

図 1 有機堆肥の製造工程

処理することによる減臭効果の検証を試みた.

500ml トールビーカーに 100g の有機肥料製品,3gの微生物資材,添加する微生物の栄養源として 10gの米ぬかを入れてよく撹拌し,水分を 65%に調整1)

した.資材を添加しないものを対照区とした.アル

ミ箔で蓋をして,50℃の恒温槽内で 10 日間培養後,

撹拌しながら約 24 時間乾燥させ,ビーカースケール

で減臭効果を検証した(図2).

図2 減臭効果の検証試験

特有の臭気成分の特定,及び減臭効果の検証にあ

たっては,「有機肥料施用直後の降雨時がいちばん

臭い」とのユーザーからの苦情のシミュレーション

を想定し,有機肥料製品,同社製鶏糞堆肥(原材料

として食鳥加工副産物が含まれておらず特有の臭気

がほとんどない),及び各試作品試料 1g を 10ml 容サ

ンプル瓶に入れ,蒸留水を 1ml加えて室温で 1時間,

撹拌前 培養状況

*1 食品・応用生物担当(現東部農林水産局) *2 食品・応用生物担当

技術報告

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ヘッドスペース法により揮発性物質を吸着させ,分

析に供した. 2・3減臭に関与する微生物のスクリーニング

減臭効果が認められた微生物資材からアルブミン

寒天培地用いて気中菌糸を形成する 2 種類の菌を単

離2)した.これらを 5ml の放線菌培地「ダイゴ」

No.1 に接種し,30℃,15 日間振とう培養した後,

10,000 回転,3 分間のホモジナイズ処理をして,(2)

に示したビーカースケールの試験に供した.

また,上記の微生物懸濁液 1ml に 3ml の放線菌培

地「ダイゴ」No.1 を加え,これに吉草酸標準品を添

加して初発濃度 37.8mg /100ml とした.これを 30℃で 15 日間振とう培養し,インビトロでの減臭効果

(吉草酸の消失現象)を検証した.培養後の上澄液

を 0.45μmフィルターで濾過し,日本分光製有機酸分

析システムにより,特定悪臭物質に指定される低級

脂肪酸を測定した. 2・4プラントレベルでの実証実験

減臭効果が認められた微生物資材を図1に示した

製造工程の二次発酵工程の堆積物 1 レーン 約 200m3

(発酵レーン幅 1m,長さ 20m,堆積高 0.5m,3 レー

ン併設)に対し 20kg/日を連続 14 日間導入口より投

入した(図3).

図3 実証実験を実施した二次発酵槽

図4 有機肥料製造工程における揮発性成分分析結果

クロマトグラム A: 一次発酵後,B: 二次発酵後,C: 最終製品,ピーク 1: 二酸化炭素,2: 3-メチルブタナール,3: 2-メチルブタナール,

4: ペンタナール,5: プロピオン酸,6: 2-メチルプロピオン酸,7: 酪酸,8: ヘキサナール,9: 吉草酸,10: 2-メチル酪酸,11: 2-ヘプタノン,

12: α-ピネン,13: ベンズアルデヒド,14: ジメチルトリスルフィド,15: フェノール,16: l-リモネン,17: γ-テルピネン,18: n-ウンデカン

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3 結果及び考察 3・1悪臭成分の把握結果

有機肥料の一次発酵後,二次発酵後,乾燥後の最

終製品の揮発成分分析結果を図4(A~C)に示した.

一次発酵後では様々な揮発性成分のピークが見ら

れるが,発酵が進むとともに微生物の代謝や乾燥(乾

燥工程も含む)により,低級脂肪酸や低級アルデヒ

ドなどの組成割合が高くなり,これらピークが本有

機肥料特有の臭気に関与していることが伺えた. 3・2微生物剤処理による減臭効果の検証結果

複合微生物資材を使用したビーカースケールの減

臭効果試験において,官能による減臭効果と気中菌

糸の発生(図5)が認められた.

図5 気中菌糸の発生状況

有機肥料製品(悪臭多い),同社製鶏糞堆肥(悪臭

少ない),減臭効果があった資材試作品(悪臭少 ない),減臭効果がなかった資材試作品(悪臭多い)

の揮発性成分を分析したクロマトグラムを図6~9

に示した.悪臭の少ない鶏糞堆肥及び減臭効果があ

った資材試作品においては,リテンションタイム

5.5min 付近にピークを持つ吉草酸(またはその異性

体)組成割合が,悪臭の多い試料に比べて低くなっ

ていることから,本有機肥料特有の臭気の主要な成

分の1つであると推測された.また,複合微生物資

材によって処理することで,減臭が可能なことが明

らかになった.

3・3減臭に関与する微生物の分離

微生物資材を分離源としてアルブミン寒天培地に

生育した2種類の微生物の写真を図10に示した.

これらは図5に示した試作品の表面に観察されたも

のと同様の形態的特徴を有した.糸状菌様集落(ク

ロラムフェニコール含有ポテトデキストロース寒天

培地に生育可)は,菌糸の太さが約 4μmであり,放線

菌3)様集落(クロラムフェニコール含有ポテトデキ

ストロース寒天培地に生育不可)は太さ約 2μmの菌糸

であった.単離したこれらの微生物を放線菌培地(ダ

イゴ液体培地)で振とう培養して増殖した菌体を大

量に有機肥料に接種し,ビーカースケールで減臭試

験を実施したが,どちらの微生物も気中菌糸の形成

や,揮発性成分分析による吉草酸等の減少は認めら

れなかった.

図6 有機肥料の揮発性成分分析結果

図7 鶏ふん堆肥の揮発性成分分析結果

図8 減臭効果があった資材試作品の

揮発性成分分析結果

図9 減臭効果がなかった資材試作品の

揮発性成分分析結果

図 10 アルブミン寒天培地に生育した集落

(A:糸状菌様集落,B:放線菌様集落)

その一方で,同培養液を使用したインビトロ試験

では,糸状菌様と放線菌様の両微生物とも固形集落

の形成が確認され,表1に示したように,添加した

吉草酸が消失するとともに,他の特定悪臭物質に指

定されるプロピオン酸,酪酸およびイソ吉草酸とい

った低級脂肪酸の生成もみられなかった.また,微

5.5min

5.5min

5.5min

5.5min

A B

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生物資材を接種した試験区については,固形集落の

形成は確認されず,悪臭物質が増加した. 表1 試験管反応後の低級脂肪酸の分析結果

試験区 低級脂肪酸濃度(mg/100mg)

吉草酸 プロピオン酸 酪酸 イソ吉草酸

放線菌 ND ND ND ND 糸状菌 ND ND ND ND

微生物資材 47.9 38.9 62.6 65.0 対照 36.3 ND ND ND

3・4プラントレベルでの実証実験結果

肥料生産現場で実施した実証実験の温度経過の測

定,試作肥料の揮発性成分分析結果を表2及び図1

1,12に示した. 表2 二次発酵槽堆積物温度の推移

試験区 発酵初期 発酵中期 発酵後期

資材処理区 61.5℃ 45.5℃ 64.0℃ 対照区 52.0℃ 50.0℃ 60.0℃

図 11 資材処理区のクロマトグラム

図 12 対照区のクロマトグラム

微生物資材の添加により,直後の温度が上昇する

など発酵環境の変化は伺えたが,ガスクロマトグラ

フによる揮発性成分の分析においては吉草酸等の揮

発量に有意差は認められず,官能評価による臭気(悪

臭の度合い)や外観等についても,対照区と比較し

て有意差は確認されなかった.

4 まとめ

(1)有機肥料が有する悪臭の主要な成分は,肥料

製造工程における発酵や乾燥行程の温度よりも高い

融点を持ち,検知閾値濃度がきわめて低く,特定悪

臭物質として指定されている吉草酸を主体とした低

級脂肪酸であることが明らかになった.

(2)有機肥料製品に微生物資材を処理することに

より,ビーカーレベルで吉草酸を有意に低減するこ

とが出来た.

(3)減臭効果がある微生物をスクリーニングした

結果,効果があった微生物資材から単離した糸状菌

様微生物と放線菌様微生物の各々を使用した処理試

験において,試験管内反応での吉草酸の消失作用は

確認できたが,有機堆肥を使用したビーカーレベル

の試験では吉草酸等の低級脂肪酸の減少および減臭

効果は確認できなかった.

(4)有機肥料生産プラントを使用した実証実験で

は,減臭効果は確認できなかった.

以上のことより,今回のテーマとして取り上げた

有機肥料特有の臭気成分は,吉草酸を主体とした低

級脂肪酸であること,市販の複合微生物資材の構成

微生物である糸状菌様微生物,放線菌様微生物の作

用により,これら悪臭物質の減臭が可能なことが示

唆された. しかしながら,これら微生物の効果をプ

ラントレベルで発現させるには,肥料製造工程でこ

れら微生物の成育できる環境条件を最適化する必要

があると考えられる.

参考文献

1)堆肥化技術の基本. 家畜ふん尿処理施設・機械

選定ガイドブック(堆肥化処理施設編). (財)畜産環境整備機構, 2005, p. 24-33. 2)土壌法線菌の計数,分離,同定. 新編 土壌微

生物実験法. 土壌微生物研究会編, ㈱養賢堂, 1997, p. 55-61.

3)鈴々木昭一・上原俊彦・樋渡隆.市販微生物資

材等の堆肥化過程での臭気軽減効果の研究. 鹿児島

県畜産試験場研究報告, 2002, 35, p. 6-8.

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