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腐食センターニュース No. 068 2014 7 1 電子部品用銅材料の腐食損傷と防食技術-Ⅱ.銅の腐食性成分による腐食機構と腐食形態 -3.腐食損傷事例とその防止策 尾崎敏範、 石川雄一 はじめに 本報では、表記課題Ⅱ-2 報(No.067 号)、「腐食性成分による腐食反応と損傷機構」〕に続き、「腐食事例とその防止策」 を報告する。なお、次報では、「銅の促進腐食性環境中における腐食挙動」を報告する。 前々報Ⅱ-1No.065 号)では、銅製電気・電子部品に発生する8種類の腐食損傷挙動を報告した。本報では筆者等が 経験した事例を中心に具体的な腐食損傷形態、損傷原因および損傷防止策などを紹介する。 1.銅製電子部品・材料における腐食損傷の観察・分析法 1.1 観察・分析手法 本節では、損傷事例の紹介に先立ち、銅製電気・電子部品における腐食損傷の観察・分析法の概要を述べる。表 1 上記部品の腐食損傷の観察・分析法として広く使用されてきた手法を分類して示す 1) 観察・分析法 手法の概要 分析最小 面積 分析検出 深さ 深さ方 向分析 破壊の 有無 a)肉眼・ルーペ観察 表面の実物大~数倍で観察 cm 2 最外層 連続分 析が不 可能 非破壊 試験 b)彩色分析 腐食生成物の彩輝度変化を測定 cm 2 最外層 c)FT-IR赤外分光法 腐食生成物の化合物分析 cm 2 最外層 d)蛍光X線分析法 腐食生成物の組成元素分析 mm 2 数十μe)SEM & EDX分析 表面の拡大観察、組成元素分析 <数mm 2 数十nm 可能 f)ジェ電子分析法 表面最外層の組成元素分析 <1mm 2 nm 不可能 g)X 線回折 腐食生成物の組成・形態分析 mm 2 数十μm h)二次イオン質量分析法 腐食生成物の組成元素分析 数十μm 2 数十nm 可能 破壊試 i)グロー放電発光法 試料切断面の形態&組成分析 mm 2 nm j)電解還元法 腐食生成物の組成&厚さ測定 cm 2 μk)FIB装置 試料切断面の観察 数十nm nl)IPC分析法 腐食生成物の組成元素分析 分析感度:数ppb 1 銅製電子部品・材料における腐食損傷の観察・分析法 森河務:日本材料学会関西支部講習会資料(平成13年2月)「材料評価の為の表面分析法」 より一部抜粋 本表では 12 種類の観察・分析手法 a)l)における分析の特徴イ)~ホ)を以下に示す。 イ)手法の特徴:外観・断面形態観察、腐食生成物の元素、組成、膜厚の分析などに区分される、 ロ)分析の最小面積:使用するプローブ(光、電子線、X線)により数十 nm 2 ~数 cm 2 に区分される。 ハ)分析検出深さ:使用するプローブにより試料最外層~数十μm 深さまでの分析に区分される、 二)深さ方向分析の連続性:表面から深部方向に向い連続測定が可能か否かに区分される、 ホ)分析に伴う試料破壊の有無:破壊検査か非破壊検査かに区分される、 これらより、各分析法にはそれぞれ固有な特徴があり、検査目的に合わせ分析手法を選択する必要がある。以下、各観 察・分析法の概要、特徴などを紹介する。なお、各分析法毎に示した以下の参考文献は、可能な限り銅製電気・電子部品 の腐食損傷調査に使用された例を引用した。分析手法、測定結果などの詳細情報が必要な場合はこれらを参照されたい。

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腐食センターニュース No. 068 2014 年 7 月

1

電子部品用銅材料の腐食損傷と防食技術-Ⅱ.銅の腐食性成分による腐食機構と腐食形態

Ⅱ-3.腐食損傷事例とその防止策

尾崎敏範、 石川雄一

はじめに

本報では、表記課題Ⅱ-2 報(No.067 号)、「腐食性成分による腐食反応と損傷機構」〕に続き、「腐食事例とその防止策」

を報告する。なお、次報では、「銅の促進腐食性環境中における腐食挙動」を報告する。

前々報Ⅱ-1(No.065 号)では、銅製電気・電子部品に発生する8種類の腐食損傷挙動を報告した。本報では筆者等が

経験した事例を中心に具体的な腐食損傷形態、損傷原因および損傷防止策などを紹介する。

1.銅製電子部品・材料における腐食損傷の観察・分析法

1.1 観察・分析手法

本節では、損傷事例の紹介に先立ち、銅製電気・電子部品における腐食損傷の観察・分析法の概要を述べる。表 1 に

上記部品の腐食損傷の観察・分析法として広く使用されてきた手法を分類して示す 1)。

観察・分析法 手法の概要 分析 小面積

分析検出深さ

深 さ 方向分析

破壊の有無

a)肉眼・ルーペ観察 表面の実物大~数倍で観察 数cm2 外層連続分析 が 不可能

非破壊試験

b)彩色分析 腐食生成物の彩輝度変化を測定 数cm2 外層

c)FT-IR赤外分光法 腐食生成物の化合物分析 数cm2 外層

d)蛍光X線分析法 腐食生成物の組成元素分析 数mm2 数十μme)SEM & EDX分析 表面の拡大観察、組成元素分析 <数mm2 数十nm

可能f)オ―ジェ電子分析法 表面 外層の組成元素分析 <1mm2 数nm不可能g)X線回折 腐食生成物の組成・形態分析 数mm2 数十μm

h)二次イオン質量分析法 腐食生成物の組成元素分析 数十μm2 数十nm可能 破壊試

験i)グロー放電発光法 試料切断面の形態&組成分析 数mm2 数nm

j)電解還元法 腐食生成物の組成&厚さ測定 数cm2 数μm

k)FIB装置 試料切断面の観察 数十nm 数nm

l)IPC分析法 腐食生成物の組成元素分析 分析感度:数ppb

表1 銅製電子部品・材料における腐食損傷の観察・分析法

森河務:日本材料学会関西支部講習会資料(平成13年2月)「材料評価の為の表面分析法」より一部抜粋

本表では 12 種類の観察・分析手法 a)~l)における分析の特徴イ)~ホ)を以下に示す。

イ)手法の特徴:外観・断面形態観察、腐食生成物の元素、組成、膜厚の分析などに区分される、

ロ)分析の 小面積:使用するプローブ(光、電子線、X線)により数十 nm2~数 cm2に区分される。

ハ)分析検出深さ:使用するプローブにより試料 外層~数十μm 深さまでの分析に区分される、

二)深さ方向分析の連続性:表面から深部方向に向い連続測定が可能か否かに区分される、

ホ)分析に伴う試料破壊の有無:破壊検査か非破壊検査かに区分される、

これらより、各分析法にはそれぞれ固有な特徴があり、検査目的に合わせ分析手法を選択する必要がある。以下、各観

察・分析法の概要、特徴などを紹介する。なお、各分析法毎に示した以下の参考文献は、可能な限り銅製電気・電子部品

の腐食損傷調査に使用された例を引用した。分析手法、測定結果などの詳細情報が必要な場合はこれらを参照されたい。

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a) 肉眼・ルーペ観察:腐食損傷部品を肉眼観察およびルーペ観察することは損傷解析の基本である。いずれの腐食形態

においても損傷部品を入念に観察し、腐食損傷原因の解明に繋がる情報を入手すべきである。

ここで、本観察作業は腐食損傷部品のみに限定せず、全体機器構成、機器部品周辺状況、機器使用・設置環境条件

などにも配慮し、損傷状況の全体像(材料―環境―構造―腐食形態の関係)を把握することが望ましい。また、従来

から蓄積した知見と比較して損傷発生部品固有の特異性を見出す努力が重要である。

これらの作業を通じて、以下に述べる何れの分析機器を選択すべきか決定する必要がある。なお、本観察結果は非

破壊検査前に記録(デジカメ、実体顕微鏡を使用)しておくことが重要である。

b) 色彩分析:本測定は分光色彩計を使用し、たとえば均等色空間(L*a*b*など)を測定する。ここで、Cu は 10 種類

程度の腐食性成分と反応し、それぞれ固有の色相を有す腐食生成物を形成する【Ⅱ-1 報、表3および5参照】。また、

腐食生成物には多数の成分が混合し経年変化することで複雑に変化することも知られている【Ⅱ-1 報、図 12&13 参

照】。これらの関係は色彩を定量化することで損傷原因や経年変化を推測することに繋がる 2)。

c) FT-IR 赤外分光分析法:反射型顕微赤外分光分析装置を使用すれば、大気中で試料表面を傷つけることなくスペクト

ラムが採取され、標準試料のスペクトラムと比較することで腐食生成物の定性・定量分析が可能である。

本手法は、以下に述べる電子線をプローブとした分析法では同定し難い銅表面の汚れ(油、有機物、ゴミ成分など)

の分析に有効である 3)。反面、試料表面に僅かな汚れや水膜が残留すると下地材の分析感度が格段に低下する。さら

に、採取したスペクトラムの解釈には高度な知識と経験が必要とされ、正確な分析を行うには標準試料スペクトラム

を独自に採取・蓄積しなければならないことも多い。

d) 蛍光X線分析法:近年、蛍光X線分析装置は革新的な改良(小型可搬化、高精度化)がなされ、エネルギー分散型を

用いれば高精度・高感度で構成元素の測定が手軽に行える 4)。また、銅表面をエッチングしつつ連続測定すれば、付

着物質の構成や深さ方向の元素分布も測定可能であり、その利用範囲は増大しつつある。X 線をプローブとした分析

法は X 線の侵入深さが数十μm と比較的深く、薄膜試料の場合にはその下地材料が検出されるので、データ解釈に

注意が必要である。

e) SEM & EDX 分析:SEM (走査型電子顕微鏡) および SEM 装置内蔵 EDX (エネルギー分散型X線分析装置) は、前

者が腐食損傷形態を高倍率で拡大観察(数十~数千倍)できる。後者は軽元素(原子番号5以下)を除き元素分析が

可能であり、微細構造物の分析調査に欠かせぬ装置である。特に、測定情報の面分析表示やカラーマッピング処理に

より、腐食生成物の分布や混合状態が捉えられ損傷原因の解明に極めて有効である 5), 6)。

なお、平坦な試料は明確な像が得られ難い場合や検出元素ピーク位置が重なる(S と Mo)ケースもあり、その操

作に多少の熟練が必要である。

近年、本分析法は小型・低価格型および Wet SEM (低真空度中稼働型) などが開発され使い勝手が格段に改善さ

れた。更に極低加速電圧型 SEM はオ―ジェ電子分析法に準じる極表面層 (数 nm) の分析も可能となった。なお、

本 EDX 分析は電子線の侵入深さが数十 nm と比較的小さいので、試料表面が汚染していると(油分の付着)検出感

度が大幅に低下する。逆に、薄膜試料の場合は蛍光X線分析法と同様、下地材料までも検出されデータ解釈に混乱を

もたらすこともある。

f) オ―ジェ電子分析法:本分析法は試料に電子線を照射し放出される微弱なオ―ジェ電子を計測する手法であり、試料

外層(数 nm 深さ)に限定した元素分析が可能である。スパッタ装置と組合せれば深さ方向の連続計測ができる 。

また、ESCA (Electron Spectroscopy for Chemical Analysis ) 装置を内蔵すれば元素の結合状態(価数)が判別

できる。1μm 以下の薄膜部品の腐食損傷解析あるいは微少付着物の分析には欠かせない存在である 7)。本分析装置

は価格が高く分析作業能率に劣る点に難点がある。

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g) X 線回折:試料から搔採った腐食生成物にX線を照射し、化合物固有の回折パターンから結晶構造を判断する手法で

ある。ここで、銅の腐食生成物は鉄鋼材料などに比べ格段に結晶性に優れており、化合物構造の同定が可能である 8)。

h) SIMS:二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry)は試料にイオンビームを照射し、たたき出さ

れたイオンを質量分析計で計測する手法である。EDX 分析に比べ~100 倍高感度であると共に表面を削りながら測

定することも出来るので深さ方向の元素濃度分布が測定可能である 9)。

分析可能面積(数μm2)および分析深さ(数十 nm)が共に小さいので、クリープ、マイグレーション、ウイスカ

ーなど微小な腐食現象の解析に好適である。

i) GDS:グロー放電発光分析法(Glow Discharge Spectrometer)は銅表面にグロー放電を与え放出された発光を分析

する元素分析法である。Auger 分析法に比べ深さ方向の分析速度が速いと共に、厳密な定量分析が行える 10) 。試料

断面の正確な観察・分析を行うには好適な分析装置である。

j) 電解還元法:本法は Cu の腐食皮膜(CuO,Cu2O,CuS など)の定量に使用される湿式分析法である。銅板試料を電

解液中に浸漬し、カソード還元電解により得られる電位―時間曲線から表面皮膜厚さを算出する 11), 12)。本分析法は

操作性 (十分間程度で測定)、高感度測定 (~nm オーダ)、安価(装置価格;数万円)であることから、工場での受

入れ検査など幅広い用途に利用される。

ただし、試料面積が1cm2以上必要とされ、測定値は試料表面の平均値となるので微小地点の腐食損傷には適用し

難い。

k) FIB 装置:腐食損傷形態を正確に知るには試料の切断面情報が重要である。この為には、通常試料片を樹脂に埋込ん

だ後、機械切断・鏡面仕上げ後、顕微鏡観察する手法が採られる。しかし、機械的な切断作業で試料が傷つきやすい。

近年はミクロト―ム法(ダイヤモンドナイフで試料断面を切断)により、断面より薄片を無傷で採取し、SEM や TEM

観察する手法も知られている 13)。

更に、 近はFIB装置(収束イオンビーム装置、Focused Ion Beam)による加工処理により無傷で試料が切断

され観察に供しえる 14)。ただし、加工処理作業能率が極めて劣る難点がある。

l) IPC 分析法:Inductively Coupled Plasma 分析法は腐食試験片から搔採った付着物や腐食生成物を薬液に溶解し、

元素分析する湿式分析法である。金属イオンが高周波誘導結合プラズマで誘起されたとき生じる発光を分光して測定

する手法である 15)。本法は溶液中に大過剰な共存成分が存在しても殆ど化学干渉を受けず極めて高感度・高精度で

分析できる。検出限界は数 ppb オーダなので、試料採取量は極少量(数 mg 程度)で十分である。本分析法はあら

ゆる腐食形態の損傷解析、特に、腐食試料周辺に付着している腐食性成分や腐食反応に直接関与したであろう成分の

確認に欠かせない。

以上述べた事柄をまとめ表2に示す。本表では上述12種類の分析手法に関し、次節で述べる8種類のCuの腐食損傷

形態の分析解析に役立つか否かを示した。表中の○印は、筆者等が使用し有効と確認した分析手法である。―印について

は現段階で未検討である。

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分析法/ 腐 食 損傷

肉眼・ルーペ観察

彩 色分析

赤 外分 光分析

蛍光X線分析

SEM& EDX分析

オ ―ジェ電子分析

X線回折

二次イオン質 量 分析

グ ロ ー放 電 発光分析

電 解還 元法

FIB装置

IPC分析

全面腐食 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

剥離腐食 ○ ― ○ ○ ○ ○ ― ○ ― ― ○ ○

電解腐食 ○ ― ― ○ ○ ― ― ― ― ― ○

クリープ ○ ― ― ― ○ ○ ― ― ― ― ○ ○

マイグレーション

○ ― ― ― ○ ○ ○ ― ― ― ―

ウイスカ ○ ― ― ― ○ ― ― ― ― ― ― ○

摺動腐食 ○ ― ― ― ○ ○ ○ ○ ― ― ○

応力腐食割れ

○ ― ― ○ ○ ― ― ― ― ― ― ○

表2 Cu製電子部品の腐食損傷解析に使用される分析法(○印:有効な分析法)

本表より、ⅰ) 肉眼・ルーペ観察、ⅱ) SEM&EDX 分析および ⅲ)IPC 分析は、○印が多く、何れの腐食損傷形態に

ついても有効な手法である。それ以外の分析法は用途が限定される。

これらの詳細は次節で適宜紹介する。

1.2.腐食損傷品の分析作業手順

図1は上記手法を用いた分析作業手順の例である。一般に、腐食試料は以下の手順に沿って作業することが多い。すな

わち、

① 目視およびルーペ観察(拡大観察、周辺観察など)⇒ ② 非破壊分析(SEM 観察&EDX 分析など)

⇒ ③ 破壊分析(電解還元法、切断面の観察など)⇒ ④ 部品付着物および腐食生成物の分析(IPC 分析、X線回折

など)、と進行する。

図中の赤四角はルーチン作業手法であり、一般的な腐食現象はこれらの作業により概略問題解決が可能である。これら

の分析作業は作業時間および分析費用が共に少なく、実用的である。ただし、①~④ における分析結果を正確に「読み

こなす眼」が必要とされるのは当然である。

上記以外の分析方法(高感度・高精度機器)の使用は、分析時間および分析費用が共に膨大になり、必ずしも現実的で

ないケースも少なくない。腐食現象が特異でルーチン作業では解明されない場合にのみ、機器選択を十分吟味し使用すべ

きである。

腐食試料 ①拡大観察:a) 目視観察b) 色彩分析c) ルーペ観察

④腐食生成物の分析:

a) IPC分析b) X線回折

②非破壊分析:a) SEM観察b) EDX分析c) オ―ジェ分析d) 蛍光X線分析e) 赤外分光分析

③破壊分析:a) 電解還元法b) 切断面の顕微鏡観察c) グロー放電発光分光分析d) 二次イオン質量分析法

図 1 銅製電子部品・材料における腐食損傷の分析作業手順【赤四角:通常実施する分析手法・装置】

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ここで、筆者等の経験によれば、 も重要な作業は ① 目視観察に基づく調査方針の設定、すなわち従来経験を基にし

た正確な判断および詳細分析法の選択である。本段階で判断を誤ると、腐食損傷試料を傷つけるのみならず有効な結論が

得られないケースも少なくない。

一般に超高感度・超高精度な分析機器を用いれば、役立つ情報が得られると勘違いしがちであるが、これは全くの誤解

である。高級分析機器から吐き出された山のような分析チャートを前にただ混乱するのみである。これらの具体的手法は、

各腐食現象毎に次節で述べる。

図2 腐食あるいは締付け不足による発熱により変色した接続端子出典:キュービクル技術部会,盤標準化協議会,キューブクル式高圧受電設備

トラブル・対応事例、(平成22年4月制定)

a)側面図

b)正面図

2.腐食損傷事例

2・1・1 全面腐食-1

a) 損傷形態および損傷原因

図2および3は強汚染・湿潤大気中で数年間使用した

電気・電子機器における腐食損傷例である。図2は銅製

接続端子の変色状況である 16)。接続端子の締め付けが

不足した為、締め付け隙間内や銅線束隙間内に水分が侵

入し腐食変色することで導通が低下し、更にジュール熱

により高温変色した例である。これらの腐食損傷は大型

電気機器の接続端子や自動車ワイヤハーネスのビス接

続端面に発生することが日常的に目撃される。

図3はプリント基板の腐食状況である 17)。基板上に

ゴミが堆積し、その下に水膜が形成され、腐食性成分が

溶解することで銅配線(膜厚:数十μm)の一部(赤丸

印)が腐食損傷し、部分的に断線している。 図 3 プリント基板の腐食状況(赤○印:腐食損傷地点)

出典:板倉浩:横河電機、Web情報、Bu4302E00-03(2013)

~ 1mm

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このような腐食損傷は電子機器を湿潤外気や海洋雰囲気で長期間使用した場合にしばしば見られ、電子機器内への冷却

空気の取り込みに伴い湿気、腐食性成分、ゴミなどが無塗装の接続端子やプリント基板上配線に付着することで発生した

と推測される。本腐食損傷は機器のノイズ発生、接続不良にとどまらず断線、機器の誤動作などの原因になりやすい。

b) 損傷防止策

まず、一般 Cu 製電子部品における腐食損傷防止策を表3に示す。ここでは、防止策をⅠ)部品材料、Ⅱ)使用環境お

よびⅢ)部品・機器構造の3種類に区分して記述した。これらの詳細説明は文面の制約上困難なので省略する。

上記図2および3における腐食損傷を防止するには、表3中より、それぞれⅠ―d)防食剤の塗布(簡易防食法)、Ⅱ

―a) 環境遮断、Ⅲ―b) シール・密封構造などが有効である。以下では、これらの3者の内 も手軽な防食法であるⅠ―

d)「防食剤の塗布」について具体的手法を述べる。Ⅱ―a)「環境遮断構造」およびⅢ―b)「シール・密封構造」につい

ては、別の腐食損傷形態の項で具体例を述べる。

分類 損傷防止方針 損傷防止策 損傷防止具体策

Ⅰ)部品材料

a) 耐食材料の使用 耐食性・耐SCC性銅合金の使用 青銅系銅合金の使用

b) 適被覆材の選定 被覆材・封止材の緒性質に注意 被作業に優れた材料の選択

c) 貴金属めっき付与耐クリープ性めっき

Pt,Au,Pd,Sn,Niめっきを使用,めっき膜/下地の組合わせ配慮

無欠陥めっき膜を付与するSnめっき膜/Cu下地を選択

d) 防錆剤の塗布 防食剤、撥水性油の塗布 BTA剤、シリコン油の塗布UV硬化樹脂フィルムの付与

e) 腐食性部品の不使用 硫黄、アンモニア,ハロゲン含有物不使用 非硫黄加硫ゴムなどを使用

f) 摺動相手材の選択 摺動性能に優れる相手材を選択 Au/Au組み合わせを選択

Ⅱ)使用環境

a) 環境遮断構造、 湿気、塵挨、腐食性ガスの遮断、防塵・化学フィルタの設置

b) 低湿度化、結露防止、構造体内にスペースヒータ設置、連続空調、吸湿剤を使用

部位的・時間的な温度低下の発生を防止

c) 室内および構造物内気の換気

ファンを設置し腐食性ガス除去空気流れをコントロール

外気循環は効果少

Ⅲ)部品・機器構造

a) 被覆材の欠陥防止 塗膜材・封止材を傷付けない 部品の取扱に配慮

b) シール・密封構造 湿気の侵入防止、生活防水構造、コーキング・表面処理の改善

c) 機器内の部品配置、 湿気・腐食性ガスの接触量低減、冷却ファン位置の 適化

d) 外部衝撃の緩和構造、耐熱・耐衝撃性の脆弱化防止 構造物へ発泡ウレタン充填

e) メインテナンス、部品の洗浄、

腐食反応の連続的進行を抑制、腐食性蓄積物の除去

スイッチ接触面の定期研摩、プリント基板の洗浄

表3 一般Cu製電子部品における腐食損傷防止策

次に、Ⅰ―d)「防食剤の塗布」の説明に先立ち、表4を示す。これは一般電子部品における防食用部品とその内訳で

ある。ここでは、部品製造工程ごとに、ⅰ)電子部品素材、ⅱ)半製品, およびⅲ)完成品に区分して示した。これらよ

り、各製造工程段階における対象部品毎に様々な手法が知られている。

適用部品 対象部品名 部品の内訳・構成など

ⅰ)素材 無埃性防錆紙・ 梱包用層間紙

被覆樹脂 線材、電子部品、磁石などに塗装・被覆、(アクリル、エポキシ、シリコン、フッ素、ポリイミド)

防錆・防食めっき 貴金属・厚膜めっき(費用投下する)、無電解テフロン+Ni複合めっき(撥水性、防錆性)

耐劣化導電性ゴム キーボード接点材料(劣化粉の発生防止)

ⅱ)半製品

Al蒸着防錆フイルム・袋 酸素・湿気の無透過性(はんだ付け性確保)、

粉体塗装 複雑形状電子部品に適用、自動車用接続部品など、

ポリ袋、シート 梱包用無埃性防錆ポリ袋(気化性防錆剤BTA含有)、静電破壊対策、水分侵入防止(パソコンキーボード)

トレー 半導体梱包用防湿性トレー(ポップコーン現象防止)

特殊ダンボール 耐衝撃性、防湿・防錆性、静電気対策、

ⅲ)完成品

絶縁性樹脂、 リーク電流防止(マイグレーション防止)

シール剤 接続部品界面における水分の界面凝縮防止

接着剤 水分の浸入防止(ソニーCCD部品)

UV硬化樹脂 プリント基板全面に対する防錆処理(結露防止)

撥水スプレー 電子機器内部に噴射塗布(結露防止)、潤滑性

機器内充填樹脂 発泡性ウレタン樹脂、無溶剤シリコン樹脂(結露防止)

表4 電子部品における各種防食用部品とその内訳

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これらの内、上記腐食損傷防止に好適な手法は、その作業性を重視すれば接続端子に対し撥水性油・防錆油(BTA 剤

やシリコン油など)のスプレー塗布が、プリント基板に対しては硬化樹脂スプレーあるいは UV 硬化樹脂フィルムの付与

(軟質フイルム塗布後UV照射し硬化)あたりが好適と思われる。

表5 塗膜および被覆材の防食作用

ここで、表4に示した各防食部品において共通した防食作用を考えてみよう。表5はその防食作用である 18)。本表よ

り、塗膜および被覆材の防食作用は、1) 環境遮断作用、2) 化学作用および 3) 電気化学作用 19)の3種類に分類され、各

防食機能に基づき防食作用が発揮されることを理解すべきである。

すなわち、1) 環境遮断作用および 2)化学作用は、腐食発生までの潜伏期間の延長あるいは腐食反応速度の減速を意味

している。一方、3)電気化学作用は水分や腐食性成分が下地金属まで到達しても塗膜(絶縁物)が下地と密着している限

り、腐食電池回路が形成されないので腐食反応が生じないことを意味している。

表6 電子部品用被覆材に必要とされる各種性質

表4に示した各防食部品はこれら1)~3)作用の何れかを期待する手法であるかを理解することが大切である。この

ように見ると、被覆材の防食性能は塗膜の長期安定性や密着性で決定され、機械的・物理的・化学的性質はほとんど無関

係であることに気付くべきである。従って、塗膜や被覆材を付与する際には、部品表面を十分洗浄・乾燥させ, 汚染付着

物や水膜が存在しないように作業することが極めて重要である(No.064、図 3.2 参照)。この観点から、大量生産する電

子部品の表面被覆には、表 6 に示す様々な性質の内、柔軟性や塗布作業性(表中、赤四角)が重要であることを理解す

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る必要がある 20)。

具体的には、大量生産電子部品固有の問題点(製造安定性)を克服するため、表7に示す塗布工程(①~⑦)において

多少のヒューマンエラーが存在しても重大な部品欠陥が発生しにくい材料選択こそが重要であると認識すべきである。

表7 電子部品被覆材料の塗布工程とその要領

2・1・2 全面腐食-2

a) 損傷形態および損傷原因

本節では腐食性成分が関与した Cu 製電子部品の腐食損傷事例について述べる。本損傷はダンボール中に保管した Cu

製電子部品の全面腐食事例である 21)。

本事例は製造直後のダンボール中に Cu 部品を収納し, 倉庫保管していた。数週間経過後、ダンボールを開けると Cu

部品とダンボールとの接触地点が紫黒色に変色していた。変色地点を EDX 分析すると Cu と S が検出された。この原因

を探る目的で再現試験をおこなった。

図4 湿潤大気中でダンボールと接触したCu板の腐食変色状況出典:尾崎敏範、石川雄一:未公開資料

a) 大気側 b) ダンボール接触面

40℃、100%RH、24hr試験紫黒変色

図 4は確認試験結果であり、図中に示すように銅板2枚でダンボールを挟み湿潤環境中に 24hr保持した 18)。その結果、

a) 大気側 Cu 表面には腐食変色が見られないのに対し、b )ダンボールとの接触面はダンボールの波板形状に沿って縞状

に変色し、変色地点からは Cu と S が検出された。本損傷はダンボールに含まれる S 成分が結露水に抽出され, Cu 板と

の接触地点を腐食変色させたと推測される。

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一般に、原料パルプは蒸煮時硫黄系薬品を使用するので、ライナー、クラフト紙、中性紙などには還元性硫黄が 5~26

ppm、Cl-が 40~150 ppm 程度残留することが知られ、ダンボールには多少なりともこれらの腐食性成分が含有されるよ

うである 22)。なお、グラシン紙(封筒、包装紙など)は漂白により還元性硫黄が十分に除去されるので腐食損傷とは無

縁である 22)。

b) 損傷防止策

ダンボールが関与した損傷防止策は、梱包材料の選択、ダンボールの使用期間管理(枯らし期間を設定)、倉庫内環境

条件の管理(低湿度を保持、風通しに配慮)をすべきである。このように、腐食性成分の発生源が部品自身および周辺材

料である場合は、不純物に S、NH3、有機酸、塩化物などを含有しない材料、たとえば、ハロゲンフリー部品を使用し、

プリント配線基板(Br < 210 ppm,Cl < 110 ppm)、エコ電線、エコプラグ、はんだフラックス、LSI 用樹脂、耐熱チュ

ーブなどにおいても不純物含有量に配慮すべきである。

なお、前々報(No.064)で述べたように対象部品に湿気、腐食性成分、ゴミが直接付着しないよう梱包材料とその構

造を変更することも重要である。具体的には収納ケースの構造変更(カバー取り付け、空気流路や風向きの変更)や冷却

用空気取り入れ口の改善(ゴミフィルターの設置)などが好ましい。

2.2 剥離腐食

a) 損傷形態および損傷原因

図 5 は汚染大気中で使用した電子機器における Ag めっき Cu 線(φ 0.4 mm)の腐食損傷である 23)。

図 5 汚染大気中におけるAgめっきCu線(φ0.4mm)の腐食損傷出典:尾崎敏範、石川雄一:材料と環境、52,4,p.185(2003)

a)Agめっき銅線の腐食状況 b)剥離地点の拡大

Ag2S腐食生成物

Agめっき膜

黒色変色部

Agめっき膜

Ag めっき膜の変色は、表面が黒変色するのみでなく、水膜に溶解した腐食性成分が Ag めっき膜のピンホールに沿っ

て下地 Cu 表面に侵入し、層間が腐食することで Ag めっき膜が浮き上がり膜剥離したと思われる。めっき膜を剥離し、

その表面、裏面および剥離地点下方の3地点を Auger/ESCA 分析すると裏面および剥離地点下方より共に高濃度の S が

検出された。この点から本損傷は腐食性雰囲気中の S 成分が Ag めっき膜/Cu 下地間隙間に侵入し、層間剥離腐食が生じ

たと推測される。

ここで、剥離した Ag めっき膜小片が電子機器箱内を浮遊・乱舞すると、プリント基板上の端子間をランダムに短絡さ

せ機器に誤動作を生じさせ重大な障害に発展することがある。本障害が発生すると、金属小片を見つけるべく電子機器装

置内を完全清掃しなければならず、極めて厄介な問題に発展する。

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同様な腐食損傷事例として、半田らは 24)電話機接続用モジュラージャックのコンタクトスプリング(Ni めっき/リン青

銅下地)の腐食事例を報告している。この障害の発生環境は海岸や温泉地帯、湿気の多い部屋など不特定多数であり、接

触面が強く腐食変色し、部分的に Ni めっき膜が剥離することで接触不良に発展している。

b) 損傷防止策

Ag めっき Cu 線の損傷防止策は、材料側から見ると Ag めっき膜質を抜本的に改善すべきである。すなわち、めっき

膜のピンホ-ル密度を減少(具体的には、Ag めっき前処理および Ag めっき条件の改善、めっき液交換、めっき電流密

度の低減など)、Ag めっき膜厚の増大、Ag めっき後のダイス加工付与(ピンホールの消去)、などが有効である。

モジュラージャックの損傷防止策は、その部品が抜き挿し容易構造であることから部品表面を直接被覆することができ

ないので部品材料の変更〔Ni めっき膜厚の増加、貴金属 (Au,Pt) めっきの付与〕に求める必要がある。

次に、環境側の損傷防止策としては、機器収納箱の構造を改造する手法がある。電子機器が発熱しない場合(携帯電話、

デジカメ、電卓など)は十分な生活防水シール構造・コ―キング処理を与え、電子部品を湿気や腐食性雰囲気から隔絶す

ることが基本である。

表 8 電子部品における一般的な腐食損傷防止策

電子部品が発熱する場合は、多少厄介である。ここで、大型コンピュータ、大規模通信機器類など環境変更が可能な電

子機器に対する具体的手法を表 8 に示す 25)。本手法は基本的に4種類に区分され、その中身は塵埃対策、温湿度管理、

腐食性ガス成分の低減、などに限定される。具体的には機器設置室内あるいは機器収納箱内に防塵フィルターを設ける手

法である。図 6 は腐食性雰囲気で使用される電子機器収納箱中にガス吸着ユニット(活性炭槽)を設け、箱中空気を強

制循環させることで腐食性ガスを除去している 26)。収納箱は図7に示すように気密性を確保する目的で電源コード挿入

地点をコーティングするなど細かな配慮がなされている 26)。

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図6 腐食性雰囲気で使用される電子機器収納箱における防食対策の例出典:土井英治、梶 充: 新電機技報、vol.58,No.1(2013.4)

図7 電子機器収納箱における電源コード挿入地点の構造出典:土井英治、梶 充:日新電機技報、vol.58,No.1(2013.4)

表 9 はこれらの効果の検証結果の例であり、屋内フィルター循環を行うと塵埃濃度を半減できるとの結果である 27)。

次に簡便な温湿度管理法として簡略温度管理法が知られている。室内の湿度を低減するには湿気を絞り取る(吸湿剤、

除湿器を使用)ことに尽きるが、それらの設置を省略し、腐食発生予想地点に限定しスペースヒータを設置(結露防止)

することが効果的である。通常、部品温度が上がると腐食反応速度が増すと考えがちであるが、相対湿度さえ低ければ腐

食損傷はほとんど生じない点に注目すべきである。

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表 9 電子部品設置屋内の塵挨濃度に及ぼす内気フィルター循環の効果

出典:C.J.Weschler,et al:J. Air Pollusion Control Assoc.33,624(1983)より抜粋

塵挨濃度(μg/m3)

ファン停止 ファン運転

全粒子 12.4 3.9

粗粒子 0.48 0.25

微粒子 11.9 3.65

また、中型電子機器の場合は機器収納ケースにおける冷却ファン設置位置に配慮し、腐食発生予測地点に生の外気が直

接当たらないようにし、部品に対する風向きに配慮することも効果的と言われている。

以上の構造は、初期設備投資費や維持管理費が無視しえぬケースもあり、一部の設備に限定されるようである。

2.3 電解腐食

a) 腐食損傷形態および損傷原因

図 8 ソレノイドのエナメル銅線における外傷にそって発生した腐食断線出典:尾崎敏範、石川雄一:電気化学、64,27(1996)〕

外傷 b) エナメル線の断線面形態

a) ソレノイドにおける外傷地点

溶融断線電解腐食

(アノード溶解)

c) 電解腐食回路の構成

図 8 は家電品ソレノイドにおける電解腐食損傷の例である 28)。本損傷は a) 図に示すようにφ0.2mm エナメル銅線の

外傷に偶然付与された複数の擦り傷(図中、矢印)を起点として発生し、b) 図に見られるように線外周部がアノード溶

解、線中心部がジュール熱により溶断し、 終破断に到っている。

本断線は、c) 図に示すように、湿潤環境中でエナメル線上に形成された塗膜欠陥(擦り傷)上に水膜を介し近接した

複数の擦り傷間が導通し、外部電位が付与されることで腐食電気回路が形成されたためと推察される。なお、ⅰ)擦り傷

が1ケ所の場合、ⅱ)環境条件が低湿度な場合、ⅲ)直流が付与された場合(擦り傷間の電位差≒0)、などでは、何れ

も腐食電気回路が構成されないので本損傷が生じない。ここで、エナメル線製造における JIS 検査法は単位線長さ辺り

のピンホール密度で管理しているが、これは上述の腐食損傷防止の観点から合理的手法と言えよう。

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なお、被覆 Cu 線には、被覆部品固有の腐食損傷を発生する場合がある 29)。これは被覆材自身から腐食性成分(ハロ

ゲン、アンモニアガスなど)が排出され腐食発生原因になるためと思われ、被覆材料の選択〔難燃性ビニル、難燃性ノン

ハロゲンエラストマー、難燃性ノンハロゲンポリオレフィン〕に注意すべきである。

図 9 結露に伴うAg被覆Cu撚線の腐食断線出典:石川雄一:材料と環境’05「腐食防食協会賞受賞講演」(2005.5)〕

次に、図 9 に結露に伴う Ag 被覆 Cu 撚線の腐食断線について示す 30)。本損傷は電子装置の冷却水配管に隣接して設置

されたセンサにおいて、センサチップにはんだ付けした Ag 被覆 Cu 撚線リード線が腐食断線したものである。リード線

には 5V の直流電圧が印加されており、アノード側のリード線は、銅のみが溶解して Ag 被覆がさや状に残っていた。ま

た、センサ容器内には結露水が溜まっており、その pH は、大気中の炭酸ガスの溶解により低下していた。損傷原因は、

酸性域で 5V の電位を印加すると、銀は過不動態域で Ag2O3 を形成するが、銅は溶解域にあるため、脆くはがれ易い

Ag2O3の欠陥部を通して銅が選択的に溶解したものと考えられる。本腐食損傷を防止するには、①樹脂材料によるはんだ

接続部の封止、②水抜き構造による結露水の除去が有効である。

2.4 クリープ

a) 腐食損傷形態および損傷原因

図 10 はスルーホールプリント基板における代表的なクリープ発生例である 31)。本腐食損傷は、Au めっき膜上に近接

した クッション用ゴムから発生した還元性硫黄により発生し、銅下地の腐食生成物がビア周辺まで這い上っている。ク

リープ損傷は大量の腐食生成物が腐食地点から外方に這い出ることで絶縁不良やノイズ発生の原因になりやすいので注

意が必要である。

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図10 Auめっき/Cu下地スルーホールプリント基板のクリープ出典:石川雄一:材料と環境’05「腐食防食協会賞受賞講演」(2005.5)〕出典:石川雄一:腐食センターニュース、No.063.p.32(2012.12)〕

クッション用ゴムから発生した還元性硫黄により発生、

図11 温泉地域(H2S濃度:0.05~0.45ppm)で使用した光回路のプリント基板ビア(Auめっき銅板)に発生した硫化物クリープ

出典:NTT技術ジャーナルp.67 (2012.4)〕

次に、NTT,Web 資料より、図 11 にクリープ損傷の例を示す。これは温泉地域(H2S 濃度:0.05~0.45ppm)で使用

した光回路のプリント基板(Au めっき銅板)に発生した硫化物クリープである 32)。

本損傷は H2S 濃度が実環境条件としては極めて高濃度であるため(通常大気における 大観察値の5倍)発生したと

されている。このケースではクリープが単にビア周辺に広がるのみでなく、ピン間を繋ぐ形で進行しており(図中、矢印)、

深刻な機能障害に達している。

b) 損傷防止策

スルーホールプリント基板におけるクリープ損傷の防止はゴム材質を変更(過酸化物硬化ゴム)することが有効である。

また、部品材料選定において、めっき膜と下地材間の腐食性が極端な差を有さないように、〔Au めっき/Cu 下地〕に換

えて、〔Sn めっき/Cu8Sn 下地〕、あるいは〔Sn10 めっき Pb/Cu8Sn 下地〕などが有効である 33)。

光回路のプリント基板部品における損傷対策は、機器使用環境条件を穏やかにすると共に、必要に応じて環境遮断効果

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を有す樹脂コーティング剤を塗布 (表4参照、膜厚:~35μm) することが効果的である。

ここで、近年、クリープ損傷が発生し始めたプリント基板の救済策が注目されている。すなわち、プリント基板を洗浄

し腐食生成物や付着ゴミを除去してその後の腐食進行を停止しようとする手法である。

図 12 はその洗浄例である 34)。上方写真の○印部分には堆積物(腐食生成物?ゴミ?)が見られるものの、下方写真で

は洗浄除去されている。この際使用する洗浄剤は非水溶液であれば何れでも使用可能であり、表 10 に示す洗浄剤が洗浄

効果や使い勝手により適宜選択されている 35)。

図12 プリント基板における洗浄前後の状況出典:東芝電機サービス(株)Web情報、

a)洗浄前

b)洗浄後

2.5 マイグレーション

a) 腐食損傷形態および損傷原因

図13 は海塩粒子が付着した樹脂封止ダイオードにおけるマイグレーション損傷である 23)。左図はマイグレーションの

発生状況である。本部品構造は∮0.5 mmAg めっき銅線先端にチェナーダイオードが取り付けられ樹脂封止されている。

銅線の樹脂封止部分は粗化処理(機械的粗化+酸化銅付与処理)され、その後樹脂封止されている。そして、機器使用

段階において封止樹脂外周に海塩粒子が大量に付着すると、封止樹脂外面より(+)極と(―)極間にリーク電流が流れ、

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電解作用により(+)極側表面で銅線のアノード溶解が、(―)極側表面でカソード反応〔酸化銅皮膜の還元、水素ガス

発生〕が生ずる。

その結果、①Cu 線/樹脂層間に樹脂層が剥離し隙間が発生 ⇒ ② 隙間内への水分が侵入 ⇒ ③ Ag めっき膜の溶解 ⇒

④ 樹脂層隙間内に Ag イオンが流入 ⇒ ⑤(―)極側に移動した Ag イオンがデンドライト状に析出、へと進行したもの

と推測される。このようにして、ダイオードの(+)極と(―)極間が Ag 析出物で短絡されることでダイオード機能が

失われたと推側される。

右図は上記現象の確認を目的としたリーク電流の測定結果である。ここでは、実機模擬条件において極間のリーク電流

と相対湿度の関係を求めた。その結果、相対湿度や海塩粒子付着量が増大するとリーク電流が増大し、それらの変化に沿

ってマイグレーション発生時間が短縮されることが確認された。

b) 損傷防止策

以上より、本損傷の防止策は、ⅰ)電子機器収納ケースの改善(海塩粒子の侵入防止)、ⅱ)樹脂封止構造体の形状変

更(リーク電流量の減少)、ⅲ)Cu 線表面の粗化皮膜生成条件の改善(還元除去困難な安定皮膜の付与)、ⅳ)樹脂封止

法の改善(線材との密着性改善)などが有効である。

なお、一般にマイグレーションの発生には、電極材料、極間距離、印加電圧、汚染成分、湿度、温度などが強く影響

し、腐食溶解と析出反応が共に生じやすい材料―環境条件下で発生しやすい 28).

これらの関係を整理すると、次式が示される 36)。

I =〔V-(ηa+ηc)〕ρ/L ――1)

ただし、I は電極間に流れる電流、V は電極間の付与電圧、 ηa はアノード分極抵抗、ηc はカノード分極抵抗、ρは電

極間物質の導電率、L は電極間距離である。

これらより、マイグレーション損傷の防止策は表 11 のようにまとめられ、各影響因子の作用は1)式との関係として

理解される〔表中、↑:マイグレーション損傷が増大、↓:減少〕。これらの関係を理解し各要因を変更することがマイ

クレーション損傷の防止に繋がる。

図13 海塩粒子が付着した樹脂封止ダイオードにおけるマイグレーション損傷とリーク電流の相対湿度の関係出典:尾崎敏範、石川雄一:電気化学、64,27(1996)

a) 樹脂封止ダイオードの構造

φ0.5mmAg被覆Cu線

b) リーク電流と相対湿度の関係

付着塩アノード溶解生成物(青色)

封止樹脂

樹脂層間に侵入した水分

ダイオード

Agマイグレーション

ー+

リーク電

流(μA)

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表11 マイグレーション損傷の防止策(まとめ)

影響因子

内 訳

材料 ①低マイグレーション材の選定(Au<Sn<Cu<Ag)② 部品材料のめっき・表面処理(Niめっき、Ptめっき、など)

③極性の反転(ηa⇔ηc )④基板材料の低吸湿化・非ハロゲン化(ρ↓)

環境 ①低湿度(ρ↓)、低温化、②腐食性成分(NH3、Cl2など)の減少(ηa↑、ηc↑、ρ↓)③機器構造の変更による腐食環境の改善(ηa↑、ηc↑、ρ↓)

部品構造

①電極間距離の増大(L↑)②付与電圧の低下(V↓)③導体配置の改善(面構造⇒点構造)④部品構造・形状の改善(水滴の付着形成防止構造)④アークの発生防止(NOx, Cl2ガスの発生抑制)

なお、Cu のマイグレーション感受性は Ag の 1/100 倍と小さいものの、Ni、Pb、Sn、Au よりも大きいいのでその発

生に注意しなければならない。

なお、表 11 における↑印で示した影響因子を増大させた加速試験環境下では、Cu のマイグレーションが容易に再現

されることが確認されており、損傷防止には↓印で示した影響因子を適用すべきである 37)。

次に、接点材料摺動部に広く使用される Au めっき膜は、摺動特性に優れると共に酸化性雰囲気においてもアノード溶

解せず、マイグレーション損傷が生じ難いと思われている。しかし、ハロゲンイオンたとえば塩化物含有環境中における

電位付与下では、Au は以下に示す2)および3)式により容易にアノード溶解し、Au めっき膜の消失に伴い接触抵抗

が増大し、マイグレーション損傷が発生することもあるので注意すべきである。

Au + 4Cl – = [AuCl4] - + 3e - (E0:1.002V vs,SHE) ――2)

Au + 2 Cl- = [AuCl2]- + e - (E0:1.154V vs,SHE) ――3)

2.6 銅ウイスカー

a) 腐食損傷形態および損傷原因

図 14 は温泉模擬湿潤環境(揮発性炭酸塩および高濃度硫化物を含有)中に Cu 板を 30℃で 3000hr 保持した後、発生

したウイスカーである 35)。ウイスカーのサイズは太さ<1μm、 長さ>十数μmである。 ウイスカーを EDX 分析する

と化学組成は Cu:50~70wt%、S:10~20wt%,C および他:残部、であることからは主成分は Cu2S と推定される。

図14 温泉模擬湿潤環境における銅板上に発生したウイスカー

5μm

ウイスカーのサイズ:太さ<1μm、長さ>数十μm

ウイスカのEDX分析結果:Cu:50~70wt%,S :10~20wt%,C&その他:残部

鈴木雅史:私信(2014)

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一般に、ウイスカーは Sn めっき膜(Pb 非含有材)に発生しやすく、その発生には材料ー腐食環境ー残留応力が深く関

与する。一般に銅の腐食生成物は、マクロ形態が平面的、ミクロ形態が微細結晶および粒状である。しかし、特殊なケー

スとしてノジュール状あるいはウイスカー状に成長することもある。

また、ウイスカーの発生条件は経験的に以下が知られている 35)。

①湿潤環境中において、水膜中に硫化物を含有する弱酸性液中で発生しやすい、

②下地金属が腐食溶解し、硫化銅が高濃度に蓄積される場合発生しやすい、

③水膜厚さが不均質で(乾燥?)局所的に硫化銅濃度が過飽和になり、基材表面の特定個所(特定結晶面)に析出し

やすい。

しかし、これらの定量的発生条件は正確に把握されておらず、その再現性は著しく乏しい。

以上より、Cu のウイスカー損傷は高濃度硫化物を含有する特定の促進腐食環境条件においてのみ発生する点に注意す

べきである。しかし、日常の雰囲気中では従来より事例が見当たらずその存在を無視してよいのかもしれない。

2.7 摺動腐食

a) 腐食損傷形態および損傷原因

図 15 は摺動接点部品における摺動腐食損傷の例である 35)。摺動子は Au めっき銅合金、摺動接点は Ni めっき銅合金

であり、両部品間には数Vの電圧が掛っている。ここで、 接点/摺動子間が常に導通しておれば問題が生じにくいと思

われるが、接点に加わる外部振動や不安定な摺動状態により接点/摺動子間が一瞬離れると、放電現象により Black あ

るいは Brown Powder(有機系ガスがポリマーに変化、アーク放電により炭化した黒色物質)が 除々に発生し堆積する。

また、堆積した腐食生成物や結露水膜を介して電解反応が発生し、電極の溶解や腐食生成物の発生・堆積が進み、接点/

摺動子間の接触抵抗を増大させ機器の誤作動へと発展しやすい。

図15 摺動接点部品における摺動腐食損傷の例出典:小平宗男、尾崎敏範:未発表資料(2004)

基盤

接点

摺動子(Auめっき)

腐食生成物

腐食性成分

抵抗体

ここで、摺動子表面が Au めっき膜の場合は、塩化物が存在しない環境であれば障害が生じ難い。しかし、少量の塩化

物を含有する導電性液体中では、上述したように Au めっき膜が溶解・消失しやすく、Cu 下地が露出して腐食すること

で益々摺動状態が悪化する。

この場合、Au めっき膜は通常薄いので(膜厚<1μm)、摺動子側が(+)極側に設計されていれば、Au めっき膜は

短期間に溶解消失し機器寿命は極めて短い。一方、摺動子側を(-)極側としておけば、Au めっき膜の消耗は格段に軽

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減される。また、Au めっき膜に換えて厚い Ni めっき膜(膜厚:数十μm以上)を付与しておけば、摺動性や導通性が

若干低下するものの機器寿命は数十倍に増大する計算になる。

b) 損傷防止策

塩化物を含有する環境中で使用する摺動部品の損傷防止策は、ⅰ) 外部付与振動の低減(接点の瞬間離脱防止)、ⅱ) 摺

動子の極性切り替え、ⅲ) めっき膜質の変更、ⅳ) めっき膜厚の増大、などが有効と思われる。

なお、塩化物を含有しない環境中では基本的に Au めっき膜の溶解反応が生じないので、その消耗はトライボロジー的

性質によってのみ決定され、多くの場合、安定的に使用出来る。

2.8 応力腐食応力割れ

a) 腐食損傷形態と損傷原因

図 16 はフエノ―ル樹脂より発生したアンモニアが長期間密封内で高濃度になり(NH3:数十~数百 ppm)60Cu-40Zn

黄銅製板に発生した応力腐食割れの断面形態である 38)。

図16 アンモニア含有大気において60Cu-40Zn黄銅に発生した

応力腐食割れの断面形態

出典:畑村洋太郎:失敗知識ベース、カテゴリ:機械、「アンモニアガスによる

応力腐食割れで電気部品の黄銅部品にクラックが発生」

応力腐食割れ

一般大気中において、60Cu/40Zn 黄銅製の屋内電灯釣り金具や継電気リレーに応力腐食割れを生じることが知られて

いる。特に、60Cu-40Zn 黄銅は密閉梱装したフエノール樹脂容器より発生したアンモニアにより応力腐食割れが発生し

やすいことが知られ、Zn 含有量が 15%以下であれば割れ感受性がほとんど消失する 39)。

応力腐食割れ損傷は疲労破壊や脆性破壊などと異なり、枝別れを有し複雑に折れ曲がり進行しているのが特徴である。

b) 損傷防止策

本現象の損傷防止策の詳細は引用文献に譲る 40)~42)。

3.まとめ

前報までに、腐食性雰囲気における電子部品用 Cu 材料の腐食問題を記述してきた。その結果、電子部品の構造と特徴、

腐食反応と腐食挙動、腐食現象と事例などが概略明らかになった。

本報では、腐食性成分を含有する環境中における電子部品用 Cu 材料・部品の腐食損傷について、観察・分析手法(表

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1~3)、腐食損傷事例(図 2~5、 図 8~11、図 14~16)、損傷防止策(表 4~11)について述べた。これらはいずれも

可能な限り一覧表として記述することで各手法や評価結果などを相互に比較しやすいよう努めた。参考として現象の理解

を深めて頂きたい。そして、実損傷問題に遭遇した際にはそれらの特異性(あるいは共通性)を理解し、イメージを膨ら

ませ好適な分析・検討手法を選択すると共に、正確な損傷防止策を選定して頂きたい。

もちろん、本報で記述しえた範囲は多様な電子機器部品構成全域に比べればあまりにも小さく、全体像を語るには程遠

い。したがって、様々な電子部品には上述した現象と異なる挙動が生じる場合もあろうかと思われる。この点を十分理解

しつつ、本文を参考にされたい。

参考文献 1) 森河務:日本材料学会関西支部講習会資料(平成 13 年 2 月)「材料評価の為の表面分析法」、より一部抜粋. 2) (社)日本銅センター:銅板屋根、18(1993). 3) 大脇武史:神戸製鋼技報、52,No.2,P.71(2002.9). 4) 河合潤:材料と環境、60,512 (2011). 5) 山手利博:材料と環境、56,170 (2007). 6) 谷口直樹、川崎学、内藤守正:JAEA-Research 2007-022(2007.3). 7) 表面技術協会編:表面技術便覧、日刊工業新聞社、p.102(1998). 8) 渡辺正満、松本守彦、桑木伸夫、酒井潤一:材料と環境、58,328 (2009). 9) 久野陽介、高沢幸樹、原信義、杉本克久:材料と環境、52,199 (2003). 10) 鈴木堅市:材料と環境、42,384(1993). 11) 古谷修一:材料と環境,41,341(1992). 12) カソード還元小委員会:材料と環境、53,472(2004). 13) 酒井俊男:表面化学、6,No.4,p.259(1085). 14)(株)日立ハイテクWeb 情報「www.hitachi-hitec-kr.com/cgi-bin/science/catalog?a=065&b」(2013). 15) 大森敬久:表面技術、63.9.565(2012). 16) (社)日本配電制御システム工業会、中部支部 Web 情報、

「www.sp.jewa-hp.jp/common/pdf/taioujirei.pdf」(2013). 17) 板倉浩:横河電機 Web 情報、「http://www.yokogawa.com/jp-yfe/」、Bu4302E00-03(2013). 18) 尾崎敏範、石川雄一:材料と環境、49,641(2000). 19) W.Funke&H.Hagen:Ind.,Eng.Chem.Prod.Res.Dev.17,50(1978). 20) 尾崎敏範、石川雄一:防錆管理、48,p.439(2004). 21)尾崎敏範、石川雄一:材料と環境、52,4,p.185(2003). 22) 今泉乾二郎:防錆管理、11,p.422(1987). 23) 尾崎敏範、石川雄一:電気化学および工業物理化学。64,No.4,270(1996). 24) 半田隆夫、他:材料と環境、49,11,p.649(2000). 25) 石川雄一:まてりあ、34,11,254(1995). 26) 土井英治、梶 充:日新電機技報、58,No.1(2013.4). 27) C.J.Weschler,et al:J. Air Pollusion Control Assoc.33,624(1983). 28) 尾崎敏範、石川雄一:電気化学、64,27(1996). 29) 岡村信一、他:平成3年電気学会全国大会、3-103. 30) 南谷林太郎、石川雄一:材料と環境’2000, B-203 (2000). 31) 石川雄一:腐食センターニュース、No.063.p.32(2012). 32) NTT Web 情報、「www.ntt.co.jp/journal/1204/」,NTT 技術ジャーナル P.67(2012.4). 33) 志賀章二、柴田宣行:古河電工時報、75,93,(1985). 34) (株)東芝電気サービス Web 情報、「www3.toshiba.co.jp」(2013). 35)鈴木雅史:私信(2014). 36) Zamanzadeh.et al:Corrosion 45.643(1989). 37) Renesas Web 情報:Japan Renesas .com/media/products/common_info/reliability_hand.

「半導体デバイスの故障メカニズム」図 4.37. 38) 畑村洋太郎:失敗知識ベース、カテゴリ:機械、「アンモニアガスによる応力腐食割れで電気部品の黄銅部品にクラックが発生」. 39) L.P.costas:ASTM STP767,p.106(1982). 40) 腐食防食協会;材料環境学入門、丸善、p.110,(1993). 41) R.W.Revie:Uhlig Corrosion Handbook,Electrochem.,Soc.,p.737(2000). 42) 石原只雄監修: 新・腐食事例解析と腐食診断法、テクノシステム、p.164(2008).

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21

地際腐食対策

腐食センター 栗栖 孝雄

照明柱、通信・交通などの標識柱における地際腐食損傷では土壌・アスファルト・コンクリー

トなどの地際環境因子に直接的に影響され、管外や管内環境などの大気環境因子も間接的に関係

することが前報 1)で示された。地際腐食環境の腐食環境因子と腐食の程度は、おおむね表 1にま

とめられる。

表 1 大気および土壌環境因子と腐食の程度

腐食環境 腐食の程度

部位 環境因子 腐食小 腐食中 腐食大

地際(土壌) ベース コンクリート アスファルト 植栽

土質 砂 ローム 有機粘土

土壌含水率 乾燥 半乾燥 湿潤

土壌比抵抗 大 中 小

土壌pH アルカリ 中性 酸性

犬のマ-キング なし 頻度小 頻繁

風砂の打ちつけ なし 風砂(埋立地・畑) 海砂(沿岸)

管外(大気) 露出の程度 非露出 半露出 露出

飛来塩分 山間 市外 海岸

SOx・NOx 田園 都市 工業地帯

気候帯 寒帯 温帯 熱帯雨林

管内(大気) 開口部 密閉性良 密閉性中 密閉性不良

(埋立て) 埋込み底部 排水・浸水良 排水・浸水中 排水・浸水不良

1.塩害腐食対策

鋼製ポールの適用設置環境の腐食性をあらかじめ把握し、腐食対策を立てることが重要である。

従来からの防食対策としては、設置環境の塩害対策が採られてきていた。

塩害対策としては、溶融亜鉛めっきが も多く使用されており、景観や意匠性を重視する場合

は、塗装・被覆が適用されている。塩害対策は、従来大気環境が主に考えられてきたが、大気環

境対策は地際環境対策に対しても有効である。

(1) 溶融亜鉛めっき

溶融亜鉛めっきは、照明柱や標識柱などの全体や部品を溶接・加工を行った後、脱脂、酸洗・

ショットブラストなどの除錆後、溶融亜鉛めっき槽に浸漬し、フラックス法によりめっきを施す。

溶融めっきに関する JIS 規格( H 9124(1999))は、平成 19 年 1 月 20 日に改正され、JIS H

8641(2007)溶融亜鉛めっきでは品質が、JIS H 0401 溶融めっき試験方法では試験方法がそれぞ

れ規定されている。

溶融めっきにあたっては、めっきのたれや不めっきを極力防ぎ(補修することのできる不めっ

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き部は製品全表面積の 0.5%までとし、各々の不めっき面積は 5 ㎠以下とされている。)めっき層

の剥離や亀裂などを防ぎめっき層の密着性の向上に努める。

密着性向上や酸化防止対策として、めっき槽にSiを添加したり、塩化アンモニウムのフラッ

クスを入れて調整されている。

溶融めっきの耐食性は、腐食事例 1)で示したように山間部から海岸地帯などの飛来塩分量や融

雪塩の散布状況の影響を受け、耐久寿命は使用環境に応じためっき付着量が設定される必要があ

る。照明柱などへの溶融めっき付着量は JIS H 8641 にしたがって適用され、表 2 に示すように

350 以上から 550g/㎡以上の場合がある。

照明柱などの出荷の際にはシートで包装したり、また保管時など設置状況によっては、めっき

の白錆発生や黒変現象が生じクレームの対象になる場合がある。これらの対策として、製品の出

荷時にワニスやクロメート処理などの一時防錆処理が施される。

クロメート処理は、環境保全対策としてノンクロメート対策が採られつつある。

表 2 種類、記号、硫酸銅試験回数、付着量及び適用例(JIS H 8641)

種類 記号 硫酸銅 試験回数

付着量 (g/m2)

平均めっき 膜厚 (μm,参考)

適用例 (参考)

1 種 A HDZ A 4 回 - 28~42

厚さ 5mm 以下の鋼材・鋼製品、鋼管

類、直径 12mm 以上のボルト・ナッ

ト及び厚さ 2.3mm を超える座金類。

1 種 B HDZ B 5 回 - 35~49 厚さ 5mm を超える鋼材・鋼製品、鋼

管類及び鋳鍛造品類。

2 種 35 HDZ 35 - 350 以上 49 以上

厚さ 1mm 以上 2mm 以下の鋼材・鋼

製品、直径 12mm 以上のボルト・ナ

ット及び厚さ 2.3mm を超える座金

類。

2 種 40 HDZ 40 - 400 以上 56 以上 厚さ 2mm を超え 3mm 以下の鋼材・

鋼製品及び鋳鍛造品類。

2 種 45 HDZ 45 - 450 以上 63 以上 厚さ 3mm を超え 5mm 以下の鋼材・

鋼製品及び鋳鍛造品類。

2 種 50 HDZ 50 - 500 以上 69 以上 厚さ 5mm を超える鋼材・鋼製品及び

鋳鍛造品類。

2 種 55 HDZ 55 - 550 以上 76 以上 過酷な腐食環境下で使用される鋼

材・鋼製品及び鋳鍛造品類。

(2)塗装

塗装は、環境からの腐食因子(水分、酸素、Cl-、SOxなど)を素地から遮断し、耐久性向上対

策となると同時に、景観や意匠性の観点からよく使用される。

(社)日本照明器具工業会では、屋外照明器具・ポールの耐塩塗料の特性、コスト、ポ-ル塗替

年数が示されている(表 3)。塗膜特性として耐久性を示す耐塩性や塗替年数、景観性を示す白亜

化や光沢保持性、耐きず・耐磨耗性を示す塗膜硬度がある。塗替年数は、フタル酸樹脂系(3~5

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年)<塩ビ樹脂系(5~7 年)<ポリウレタン樹脂系(7~10 年)<アクリルシリコン樹脂系(12

~15 年)<フッ素樹脂系塗料(15~20 年)の順に長寿命となり、コストもそれに応じて高くな

る。

使用環境の腐食性や景観性を考慮し、設計耐用年数に対して鋼材(裸鋼材や溶融めっき)と耐

塩性塗料などコストパフォーマンスの優れた組み合わせを選定する。

塗装方法は、粉体塗料を用いた流動浸漬法や静電塗装法、スプレーや刷毛塗り、ライニング工

法がある。塗布工程では素材の素地調整(脱脂、酸洗、ショットブラスト)、塗膜密着性を向上さ

せるための化成処理・プライマー塗布、膜厚などの塗装作業管理などの良否や被塗物の保管・運

搬・施工が塗膜の寿命を大きく左右する。

膜厚は、通常 50μm程度であるが、重塗装仕様では 100μm厚や 0.5~1mm厚のライニングと

なる場合もある。

表 3 塗料の仕様 2)

塗料 塗工 耐塩性 白亜化 光沢保持 塗膜硬度 コスト 塗替年数

A アクリル樹脂系 焼付 ◎ ◎ ○ ◎ 中 -

B ポリウレタン樹脂系 焼付 ◎ ◎ ○ ◎ 中 -

常乾 ◎ ◎ ○ ○ 中 7~10 年

C ポリエステル樹脂系 焼付 ◎ ◎ △ ◎ 中 -

D エポキシ変性メラミン樹脂系 焼付 ○ ◎ △ ◎ 中 -

E フッソ樹脂系 焼付 ◎ ◎ ◎ ◎ 高 -

常乾 ◎ ◎ ◎ ○ 高 15~20 年

F アクリルシリコン樹脂系 焼付 ◎ ◎ ◎ ◎ 中 -

常乾 ◎ ◎ ◎ ○ 中 12~15 年

G フタル酸樹脂系 常乾 △ △ △ △ 低 3~5年

H 塩ビ樹脂系 焼付 ○ ○ ○ ○ 中 -

常乾 ○ ○ ○ ○ 中 5~7年

(3)溶融亜鉛めっき・塗装鋼管の寿命

防食対策は、環境の腐食性の強度により選別される。

も多く使用されている溶融亜鉛めっきの耐久寿命の経年変化の例を図 1 に示す。

一般地域(ISO 環境ランク:C1~C2)、塩害地域(C3~C4)、重塩害地域(C5 以上)に対応し、

指標となる飛来塩分量は、一般的には離岸距離とともに減少するが地域で異なり一概に特定できな

い。沖縄や、低気圧、台風や季節風などの暴風雨に曝される沿岸部や洋上は重塩害地域となる。海

岸線、港湾など常時塩度の高い地域は塩害地域となる。

溶融亜鉛めっきの外観評価によると初期の金属光沢が消失し、白錆発生後、赤錆が発生し、腐食

が大きくなり錆の固着、穿孔などを生じる。溶融亜鉛めっき(80~90μm)の寿命は、一般地域で

は 40年以上あり、塩害地域では 20年で赤錆が発生し 30年で構造的な損傷が出現する時期となる。

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重塩害地域では、10 年で赤錆発生、15 年で赤錆発生率 10%程度になり、構造的な損傷が出現する

時期になり補修対象になると予想される。

溶融亜鉛めっきと塗装鋼管柱における 30 年以上の寿命設計では、以下のような組み合わせが考

えられる。

・ 山間、田園地域:炭素鋼または溶融亜鉛めっき+耐塩性塗料 B、H(表 3,50μm以上)

・ 都市、工業地域:炭素鋼または溶融亜鉛めっき 80~90μm+耐塩性塗料 B、E、

F、H(表 3,50μm以上)

・ 海岸・沿岸地域:溶融亜鉛めっき 80~90μm+耐塩性塗料 E、F(表 3,50μm以上)

図 1 溶融亜鉛めっき 腐食評価ランクマップと耐久年数

ポール素材と表面処理・塗装の組み合わせと仕様環境別の適用の目安を表 4 に示す。

溶融亜鉛めっきと塗装の組み合わせ以上の耐久性が求められる場合は、めっき素材として5%Al-Zn

や55%Al-Znは溶融亜鉛めっきの2倍、3倍の耐食性があるといわれており、塗装と組み合わせて使

用される。AlやSUS304、Tiはさらに耐食性が高い素材となり、裸材や表面処理材あるいは塗装材と

して使用される。景観用とされる塗装の塗膜寿命は、長い寿命でも20年程度とされており、塗り替

えを要すると考えられる。

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表 4 ポールの素材と表面処理・塗装と使用環境別適用の目安

素材 裸・表面処理・塗装 使用環境

山間 田園・住宅 都市・工業 海浜・海岸

1.炭素鋼 裸 × × × ×

一般塗装 ○ ○ △ ×

耐塩害塗装 ◎ ◎ ○ ○~△

耐重塩害塗装 ◎ ◎ ◎ ○

2.鋳鉄 裸 ◎~○ ○ △~× ×

一般塗装 ◎ ○ △ ×

3.耐候性鋼 錆安定化処理 ◎ ○ △ ×

錆安定化処理/塗装 ◎ ◎ ○ △

2.溶融亜鉛めっき 裸 ◎ ◎ △ △

一般塗装 ◎ ◎ ○~△ ○~△

耐塩害塗装 ◎ ◎ ◎~○ ○

耐重塩害塗装 ◎ ◎ ◎ ◎~○

3. 5Al-Zn めっき 裸 ◎ ◎ ○~△ △

一般塗装 ◎ ◎ ○ ○~△

耐塩害塗装 ◎ ◎ ◎ ○

耐重塩害塗装 ◎ ◎ ◎ ◎~○

4. 55Al-Zn めっき 裸 ◎ ◎ ○ ○

一般塗装 ◎ ◎ ◎~○ ◎~○

耐塩害塗装 ◎ ◎ ◎ ◎~○

耐重塩害塗装 ◎ ◎ ◎ ◎~○

5.Al 合金 裸 ◎ ◎~○ ○~△ ×

(5000・6000・鋳物) 表面処理/塗装 ◎ ◎ ◎ △

6.ステンレス鋼 SUS304 ◎ ◎ ○~△ △

塗装 SUS304 ◎ ◎ ○ ○~△

7.Ti 陽極酸化 ◎ ◎ ◎ ◎

2.地際対策

鋼管柱の地際は、土壌中の湿潤環境、アスファルト、コンクリート基礎の隙間部や底部への滞

水、また、大気からの海塩粒子や腐食性ガス(SOx、NOx)の集積、犬尿のかかり、砂塵の衝突

などがあり、苛酷な腐食環境となる。

これらの腐食環境に対する地際対策は、前項に示した塩害対策と共通する腐食対策、として溶

融亜鉛めっき、塗覆装および両者の併用がある。さらに、地際に特化した防食対策として、表 5-1

~3 に示すような種類がある。

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(1) 溶融亜鉛めっき+厚膜エポキシ塗装

地際部が土壌環境に近い湿環境を有する大気環境に近い環境であると想定し、溶融亜鉛

めっき鋼管柱の地際に 1mmtの厚膜のタールエポキシを塗布し電信電話鋼管柱に初期に

使われ、現在でも も多く使われている。

タールエポキシ系の塗装に替わって、ウレタン・エポキシ系塗料の厚膜塗装が用いられ

る傾向がある。

(2) 耐犬尿、耐アルカリ特殊塗料塗装

溶融亜鉛めっき鋼管柱の犬尿のかかる地際部やコンクリート中のアルカリによる亜鉛の

腐食を防ぐ特殊塗料を塗布した塗装が施される。表 5-3 に特許例を示す。

(3) 地際コーティング+コンクリート・モルタルなど

溶融亜鉛めっき鋼管柱の周りに、モルタル・コンクリート巻きを施したものや基礎コン

クリートの耐水施工などがある。溶融亜鉛めっきと 5%Al-Zn-Mg鋼管柱とコンクリー

ト柱を組み合わせた複合管などがあり、パンザーマストなどに使われる。

(4) 耐食性金属

溶融亜鉛めっきより耐食性の高い 5%Al-Zn,30%Al-Zn、Al合金めっきやス

テンレス鋼管柱などがあり、Al合金めっき鋼管柱やステンレス鋼管では、海岸地帯の地

際で40年間変色のみで、耐食性は保たれている例もあった。

(5)犠牲防食板・電気防食

ZnやZn-Mg板を鋼管柱に巻きつけたものや土中にZn陽極を埋め込み、電気防食を

利用して、地際・土中域の防食を行う。

(6)現地地際腐食対策

現地調査の損傷や倒壊により地際腐食対策を行う場合、現地補修,交換、部分補修などが

ある。溶融亜鉛めっきにZnの肉盛溶射および塗装などの複合処理や、鋼管の補修・補強、

埋設方法による改善など現地で総合的に対処する対策などがある。補修については後述する。

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表 5-1 地際腐食対策:塗覆装

地際腐食対策 事例 備考

1 溶融亜鉛めっき+ター

ルエポキシ厚膜塗装

電信電話設備用鋼管柱

SS400(JISG3101,3mmt)+溶融 Zn

めっき(JIS H8641 2 種 40)

地際防食処理:タールエポキシ

塗料(JIS K5664,1mmt)

2 溶融亜鉛めっき+特殊

塗料

信号柱

溶融亜鉛めっき+

地際防食塗装:150μm、

(犬尿の分解、コンクリ-ト中の

耐 Zn 溶解性を高めた塗料)

3 亜鉛系めっきポール

材料:Znめっき

ガルバリュウム

ZAM(Al-Mg 合金)

Sコート

農業資材用鋼管

4 耐食性材料

(アルミニウム)

アルミニウム合金(5000 番)

海岸地帯も含め、

20~40 年間変色のみ

4 耐食性材料

(ステンレス鋼管)

SUS304 鋼管

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表 5-2 地際腐食対策:塗覆装

地際腐食対策 事例 備考

シュリンクチュー

ブによる地際防食

対策

JHS808[鋼製防護柵支柱

防錆材料の腐食試験法]で合

ニシチューブ(内面接着剤あ

り)は、地上に 5cm、地中

に 15cm埋める設計、加熱密

着させる。

支柱(ガードレー

ル・標識柱・遊具な

ど)の地際防錆材

(ブチル系粘着テ

ープ+補強フィルム

+ 超耐候性Fフィ

ルム)

ジープロテクター

5 鋼製支柱防食材ラ

ミネートプロテク

ター

(内面ゴムライニ

ング成型合成樹脂

被覆材、EPDM ゴムキ

ャップ)

ガードレール支柱(RP-2(121φ)、被覆材 1.7~2.0mmt、

内面ブチルゴム 1.5mmt)(情報提供:NETIS)

防護柵の設置基準・同開設

(H20 年 1 月、日本道路協

会)p28~31

防護柵設置要領(H21 年 7

月、高速道路総合研究所)p

39、p44~47

6 複合柱

鋼管柱の地際部の

腐食を防止するた

めに地中・地際部を

コンクリート柱に

した複合柱

電信柱

パンザーマストなどと組み

合わせ軽量化を図っている。

路地裏や水田のあぜ、隘路な

ど運搬や容易である。

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表 5-3 地際腐食対策 :特許例

腐食機構 塗覆装による防食対策 参考文献

1 埋設地際部の腐食防御性を

有する鋼製柱

普通鋼+(Zn、5Al-Zn,11Al-3Mg-0.55Si-Zn)めっき+(ブチ

ルゴム-接着剤 1.5mm、エポキシ接着剤 0.3mm、ウレタン接着

剤 0.8mm)+(チタン、SUS304、0.1~0.2mm)、腐食防御性

顔料:燐酸 Mg,燐酸 Al,V酸NH4+、ホウ酸 Zn,硫酸 Ca 等

文献 3)

(特開 2001-371372)

2 地際塗装(地際はACMセ

ンサーの出力が海塩粒子が

大量に付着し、相対湿度

100%となった場合に大気

に相当する。)

SS400(JIS G3101)、3mm厚に溶融亜鉛めっき(J

IS H8641 2 種 40) が施され、地際にタールエポキ

シ塗料(JIS K5664)に防食処理が施されている。(実

施例1:団地,建屋影の地際24年.幅100mm,減肉0.2mm、

腐食例 2:畑の中,腐食例 3:アスファルト舗装道路)

電気通信設備用鋼管柱

文献3)特開2002-371372

号公報、文献 4)第 47

回材料と環境討論会、B

-209、p195(2004)

3 コンクリートあるいは地面

に一部を埋め込まれて使用

される被覆鋼材

[要求項 1~9]亜鉛系めっき鋼材の表面に 1~3層以上の塗

装皮膜を含む有機塗装皮膜を有する錆防食被覆鋼材であっ

て、前記有機塗装皮膜の 表層の塗膜がリン酸系防食顔料

と、アルカリ土類金属の硫酸塩と、銅化合物を含むことを特

徴とする防錆防食被覆材料。(コンクリー-ト中の鋼材(不

動態化皮膜)と地面上の鋼材間で局部電池を形成)

文献 5)

特開 2008-133517(公開

2008.6.12)

4 犬の排泄物→アンモニア→

亜鉛の腐食生成物の溶解に

より防食性が損なわれる。

→アンモニアの生成の抑制

非銀非銅型の抗菌剤(4級ア

ンモニウム塩、イミダゾー

ル系など)使用

[要求項 1]亜鉛系めっき鋼材の表面に有機塗装皮膜を有す

る錆防食被覆鋼材であって、前記有機塗装皮膜の 表層の塗

膜がリン酸系防食顔料と、アルカリ土類金属の硫酸塩と、非

銀非銅型の抗菌剤と、を含むことを特徴とする防錆防食被覆

材料。[要求項 2]前記亜鉛系めっき鋼材と前記有機塗装皮

膜との間にリン酸塩化成処理層を有することを特徴とする、

請求項に記載の防錆防食被覆鋼材。

文献 6)

特開 2009-275247

( P 2009-2754247 A )

(2009.11.26)

5 鉄鋼製品の地際の防食法 [要求項 1]地中に 1部が埋設される鉄鋼製品に、 初に溶

融亜鉛めっきし、サンドブラストを掛けた後亜鉛溶射を厚く

する。[要求項 2] 初に溶融亜鉛めっきし、地際の必要な

範囲にサンドブラストを掛けた後亜鉛溶射を厚くする。

文献 7)

特開 2006-37217

(公開 2006.2.9)

6 鉄鋼製品の地際の防食法 [要求項 1]防食被覆鋼製柱、大気側、充填側の地際 50mm

以上の被覆層、アンモニウムイオン水溶液に対する耐久性を

有する。[要求項 2]亜鉛系めっき鋼製柱、同上。

[要求項 3]有機樹脂接着層.1mm厚み以上の耐食金属材、

項 1、2と同上。[要求項 4]前記耐食材が、アンモニウムイ

オンを中和する顔料 1~30 質量%、厚み 50μm以上のエポ

キシ系塗膜の項 1、2の鋼製柱。

文献 8)

特開 2006-132128

(P2006-132128A)

(公開 2006.5.25)

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腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

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3.点検・診断・補修

3.1 維持管理フロー

道路照明灯、道路標識柱など鋼製ポールの維持管理に当たっては、図 2のようなフローにした

がって実行される。道路照明灯、道路標識柱など鋼製ポールの点検は、定期点検と台風・地震・

交通事故などに行う不定期的臨時点検がある。

点検では、一般的な項目にわたって行う一般点検の結果、異常が検出された場合は詳細点検を行

う。詳細点検では、めっきや塗覆装など損傷点検を行い診断し、景観の保全や腐食防止のための

めっき・塗覆装の必要性や補修の程度を判断する。さらに、鋼材や溶接やボルトの接合部などの

腐食が著しい場合の損傷の程度の調査を行い、補強・補修・取替えなどの診断を下す。維持管理

に当たっては、事前事後の点検・補修も調査記録や環境を含む損傷機構は重要である。

図 2 鋼製ポ-ルの維持管理フロー

履歴調査

定期点検 臨時点検

一般点検

異常の有無

詳細点検

めっき・塗覆装の健全度評価

めっき・塗覆装の必要性

腐食調査

鋼材の

健全度評価

鋼材の補修・防食施工

履歴調査表に記録

めっき・塗覆装の補修

めっき・塗覆装の補修

履歴調査

定期点検 臨時点検

一般点検

異常の有無異常の有無

詳細点検

めっき・塗覆装の健全度評価めっき・塗覆装の健全度評価

めっき・塗覆装の必要性

めっき・塗覆装の必要性

腐食調査

鋼材の

健全度評価

鋼材の

健全度評価

鋼材の補修・防食施工

履歴調査表に記録

めっき・塗覆装の補修

めっき・塗覆装の補修

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3.2 目視点検診断

(社)日本照明器具工業会では、鋼製照明用ポールの劣化状態の診断においては、表6に示す

ような項目のチェックリストで、おもに目視点検が行われている。専門業者では、膜厚計による

膜厚測定、超音波厚さ計による板厚測定、磁粉探傷または浸透探傷割れ検査による点検が実施さ

れる。

点検サイクルは、全般、柱脚部は1年毎で、開口部やポ-ル内部は2年ごとで、灯具取り付け

部、アーム接合部などは5年以降2年毎の点検を推奨している。

判断基準は、一般調査では3ランク(A:危険またはその可能性がある状態、B:劣化が進行し

ている状態、劣化が軽微な状態)とし、専業業者による詳細調査では、3ランク(イ:超音波厚

さ計による肉厚測定( 小肉厚)、ロ:磁粉探傷または浸透探傷検査(われの有無)、ハ:内面・

蓋の発錆・肉厚測定)により難しい判定に利用される。

特に、地際部調査では、柱脚部、開口部、ポール内部の点検が関係し、地際、管内や埋設部の

塗膜や錆を剥離して、発錆、腐食、孔あき、素地に達する傷などを中心に目視、膜厚・板厚・わ

れなど詳細点検を行い、補修や撤去・交換を判断する。

表 6 鋼製照明用ポールの劣化状態診断チェックリスト 2)

点検部位 チェック項目 診断ランク 処理

全般 ①著しい傾き、曲がり、凹み、変形 A 交換

②塗装の傷・劣化 C 塗り替え

③発錆 A(B) イ(塗替)

④穴あき A 交換

柱脚部 ①ボルト・ナットの緩み C 補修

②基礎部(コンクリ-ト)のクラック B 補修

③柱脚部のクラック A ロ(交換)

④アンカ-ボルト、ナットの変形 B 補修

⑤発錆 A(B) イ(塗替)

開口部 ①蓋の着脱 A ハ

②パッキンの劣化 C 補修

③開口部・溶接部のクラック A ロ(撤去)

④開口部の発錆 A(B) イ(塗替)

ポール内部 ①ポール開口部内面の著しい発錆 A イ

②肉厚の減少 A イ

③ポ-ル内部の水の有無 C 水抜き

灯具取付部・アーム接続部

など

①ボルト・ナットの緩み C 補修

②溶接部、その他クラックの有無 A ロ(撤去)

3.3 詳細点検診断

道路標識など地際の腐食を超音波厚計や超音波探傷器で測定した減肉データーを取り込み、腐

食速度、断面形状・断面積、強度・耐力、寿命計算を行う。

システマテックなソフトを用いて、迅速に算出する方法も提案されている。(図 3)。

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図 3 地際腐食診断フロー

3.4 診断寿命解析事例

海岸近くに約 15 年間設置され地際腐食を有する開口部のある袴式照明ポール残存の寿命予測

をするために、以下の調査手順にしたがって調査・解析を行った。

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(1)腐食状況外観観察(発錆状況):写真 1

写真 1には腐食状態の例を小、中、大の順位示した。開口部やベースレート下面に水が浸

入し、海塩粒子の進入と長期間の湿潤状態により脚部の地際腐食が進行した。

(2)地際管厚測定(腐食速度):図 4

除さびした地際のポ-ル本体および袴部の板厚を開口部下辺 2cm上方を 1cmピッチで

円周に沿って超音波厚さ計で測定し、両者の合計板厚のヒストグラム(例:図 4)を作成

し、平均板厚を求めた。

平均元板厚(ポール 4.20mm、袴 3.60mm)と平均板厚(mm)の差を平均腐食板厚減

(mm)をし、使用期間(この際、外側の塗膜の寿命は 2年間とし、その後鋼が腐食する

とした)で除して腐食速度とし、図 5に示した。

(3)健全照明柱と老朽照明柱の地際部の片持ち曲げ試験(耐荷重試験)

老朽ポ-ルの腐食度の小さい脚部と大きい脚部 1mを道路横断方向(C方向)と車両進行

方向(L方向)で載荷試験を行った(写真 2、ベースプレートをボルトで固定、供試体先

端を付加して曲げモーメントにより崩壊させた)。

老朽ポールは袴部で座屈し、健全管は袴部上端の母管の局部座屈した。

C 方向(道路横断方向):設計荷重 0.581t

L方向(車両進行方向):全塑性荷重 2900t

(4)板厚減少量と耐力の関係

平均板厚減少量とポール強度との関係を図 6に示す。ポールの腐食が小さいときは母管で

崩壊し、腐食が大きいと袴部で崩壊し、腐食が進行すると急速に耐力は低下する。C方向

の場合は、腐食量が 35~40%、L方向では約 55%が分岐点になる。ポールの 大耐力が全

塑性耐力(期待耐力)まで低下する時点と、ポールの降伏耐力が、風圧荷重(設計荷重ま

で低下するまでの腐食量は C方向で 50%、L方向で 68%、設計耐力に対しては C方向で

75%、L方向で 786%と推定された。

(5)余寿命の推定((2)~(3)よりグラフ化する):図 7

使用期間と曲げ強さ(荷重換算)の関係から、全塑性荷重(全塑性荷重 2900t)までの寿

命はC方向:10.5~13 年、L方向:15 から 18.5 年であり、設計荷重(設計荷重 0.793t)

までの寿命はC方向:14~17 年、L方向:16.5~20.5 年と推定される。

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写真 1 開口部を有する袴式ポールの腐食状況(上:側面、下:断面)

← 開口部地際の周方向の位置 →

図 4 ポール外観と開口部地際の周方向の板厚のヒストグラム(例:腐食量:大)

腐食小 腐食中 腐食大

図 5 腐食速度

写真 2 曲げ試験状況

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3.5 照明柱劣化判定装置

非破壊的な手法で迅速に診断する新規な方法が提案されている例を示す。

(1)埋設部無掘削照明柱劣化判定装置9)

本システムは、埋設部に向けて超音波を入射させ、劣化部からの反射エコーを受信、得ら

れた探傷波を分析し、掘削することなく、劣化部の腐食程度定性的に評価することが可能

です。システム構成は、携帯型の超音波探傷器と専用ホルダーに組み込んだ探触子のみで、

大掛かりな機材は必要なく、可搬性・形態性に優れている。

評価判定内容は、表面SH波は探傷表面直下を水平に伝播する超音波で、モード変換がな

く(他モードの波が発生しない)表面の影響をあまり受けないことから、探触子位置から

離れた範囲の探傷に有効な手法である。従って、照明柱などの埋設構造物の地際部近傍に

発生する腐食による断面欠損の検出に適している。判定評価は、断面欠損量に比例した反

射エコーの強弱や形状が異なることに着目し、劣化判定に必要なパラメーター(境界部エ

コー高さ、境界部、エコー角度係数)から断面欠損量を推定し、装置画面上に腐食程度に

応じて健全、軽度、中度、重度の 4段階の腐食度で表示している。

(2)街路灯地中埋設部の腐食検査装置

ドイツのIZFP研究所が開発した「LIMA-test System」は、電磁超音波センサーと

スキャナー、モニター、制御装置、データー収集・解析用パソコンからなり、街路灯地中

図 7 耐用年数の推定 図 6 腐食量とポール耐力との関係

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埋設部の腐食検査装置である。独、英、スイスなどで適用実績はあるが、国内では平成 16

年に導入し、鋼管柱の検査に適用、実施活動をしている。

検査の原理を図 8に示す。

① 高周波コイルと電磁石で構成される電磁超音波センサーで、設置面に電磁石で磁場領域を

つくり、その面に高周波が流れるコイルを置くことで、被検査体にローレンツ力が作用し

て振動が生じ、超音波となって伝播する。

② 超音波は被検査体の板厚内部を水平に振動しながら伝播し、伝播方向に板厚変化(断面積)

があると、超音波はその部位から反射する。

③ 反射した超音波の強さと板厚(断面積)の変化はほぼ比例するが、伝播方向にある板厚(断

面積)の形状によって比例する度合いが異なる。

④ 特に伝播方向に大きな板厚(断面積)の変化があると、その部位で大部分が反射してし

まい、伝播エネルギーが減少するためその先は伝播できない。

超音波の反射の強さと板厚(断面積)との変化の割合は比例関係が無くなる。

作業の特徴は、次に示すような特徴がある。

① 検査可能な埋設深さは 大 1.5m、水の影響がない。

② 電磁超音波センサーを保持した駆動スキャナーを鋼管柱に取り付けることで、迅速検査が

可能(20 分/街路灯 1本あたり)。

③ センサーを被検査体に非接触で取り付けるため、一般の超音波検査のような接触媒体が不

要。前処理・後処理、掘削や塗膜・めっき剥離などが不要。

④ 検査はスキャナーを自動制御して実施し、スキャナーと同調して超音波波形(Aスコープ)

と検査部位の展開図(Cスコープ)をリアルタイムに画面表示する。

⑤ 反射波強度が色階調で明確に表示でき、検査データーを電子データーとして保存・データ

ーベース化でき、記録・報告書も迅速に作成できる。

図 8 「LIMA-test System」

の原理

3.6 現地補修施工

施工初期に行う地際対策に対して、調査診断後現地で行う対策は、腐食度の軽重によりに各種

の方法がある。補修工法例を表 7に示す。

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表 7 地際腐食対策:補修例

地際腐食対策 事例 備考

1 常温亜鉛めっき塗装 溶融亜鉛めっきの塗装、亜鉛末 90%以上。

簡易塗装可(刷毛、ローラー、エア/エアスプレー塗装)

ジンクリッチペイント、ロー

バル他下地処理、塗装

2 亜鉛系溶射

+(塗装)

(1)溶融亜鉛めっき面をサンドブラストし、地中あるいは

地際範囲に亜鉛溶射する。(2)さらに塗装を行う。

文献 7:溶融亜鉛めっき+亜鉛

系溶射+(塗装)

3 防護柵の

防錆処理

防護柵鋼製支柱

溶融亜鉛めっき+

地際コーティング+

コンクリート・

モルタル

4 ウルトラパッチ工法 文献 11

NETISCB-990022-V

紫外線硬化型FRP樹脂・シ

ート

5 PI-AR 工法

文献 12

NETIS 登録 No

HR-080027-A

6 犠牲防食

(電気防食)

文献 13

鉄鋼柱+特殊シート巻き+ス

クリュー型の Mg 陽極棒

地際部 15~20cm掘削し、特

殊防食シートを鉄鋼柱に巻

きつけ埋戻し、スクリュー型

Mg 陽極棒を地中にねじ込む。

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腐食が軽く、亜鉛めっきが消失した場合にはジンクリッチペイント、ローバル、溶射など亜鉛

めっきの代替となる下地処理を行い、重塗装やライニングが必要である。さらに、腐食度が増す

と亜鉛パッチや電気防食、コンクリートライニングがあり、腐食が激しい場合には鋼板バチあて

など各種の補強工法を施したり、取りかえなどが行われる。

現場での補修・補強・取替え作業は、作業環境を考慮した安全性、効率とコストに配慮するこ

とは言うまでもない。

参考文献

1)栗栖孝雄:腐食センタ-ニュ-ス、No.066

2)(社)日本照明器具工業会資料

3)東日本電信電話㈱:特開 2001-371372

4)東日本電信電話㈱:第 47 回材料と環境討論会、B-209、p195(2004)

5)新日鉄:特開 2008-133517(公開 2008.6.12),

6)三井住友化学:特開 2009-275247(P2009-2754247A)(2009.11.26)

7)㈱興和工業所:特開 2006-37217(公開 2006.2.9)

8)新日鉄:特開 2006-132128(P2006-132128A)

9)中国電力㈱と㈱ニチゾウテックの共同開発

10)本間一茂、IIC REVIEW/200/4.No.33,p36-43

11)阿南電機㈱:NETIS CB-990022-V

12)㈱佐藤防水工業:NETIS HR -080027-A

13)NIPPO:M-GUARD 資料

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海水によるステンレス鋼のすき間腐食の防止

住友化学㈱ 藤田 和夫

SUS316L 製のフランジに天然ゴム製ガスケットを入れて使用していた海水取水設備で、フランジ面

にすき間腐食が発生したため、対策を検討した。 1.使用条件

1). 使用海水; 生海水 2). 温度; 常温 3). 使用期間; 約 5 年(夏場の海水プール用の取水、間欠運転)

2.腐食状況 ガスケットと接触したフランジ面にすき間腐食発生 3.対策 材料選定のために考慮すべき検討項目としては、海水に対する耐食性、強度、経済性、寿命等がある。

ステンレス鋼のすき間腐食の発生のしやすさはガスケット材質によって大きく影響される。ガスケッ ト自体の液の浸透性、膨潤性及び表面の濡れやすさなどの性質が密接に関係し、これらの大きなものほ どすき間腐食性が大きく、 テフロン<SBR<青石綿<クリソタイル石綿 の順ですき間腐食を起こしやすいことが示されて

いる 1)。 しかし、ガスケットの種類によらず、海水環境で SUS316L を使用すれば、すき間腐食発生の懸念は

大きいと思われる。SUS316L より耐海水性に優れた材料とされるスーパーステンレス鋼を用いてもす

き間腐食の発生を完全に抑制することは難しい。 すき間腐食を防ぐための対策としては、フランジ付近に犠牲陽極を設置することが有効である。ステ

ンレス鋼の自然電位 Esp がすき間腐食臨界電位 ER,CREV より貴な電位域ではすき間腐食発生の可能性が

ある(図 1 参照)。

電位

Cl- 濃度

Esp

ER,CREV

すき間腐食なし すき間腐食発生の可能性

図 1 不動態化鋼の自然電位 Esp とすき間腐食臨界電位

ER,CREVとの比較によるすき間腐食発生領域の模式図

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海水中での SUS316L の Espは通常 0V vs. SCE 付近 2)、ER,CREVは約 -0.32V vs. SCE3)であり、すき

間腐食発生の可能性があることになる。犠牲陽極を設置することで Espを卑な電位とし、ER,CREVより低

い電位とすることですき間腐食を抑えられる。 表 1 に各種材料のチューブを用いたモックアップ海水熱交換器の試験で、犠牲陽極を設置した場合と

設置しない場合の腐食状況の比較を示した 4)。 一般的に SUS316L より耐海水性に優れるとされている

254SMO や SUS329J4L でも犠牲陽極のない場合にはすき間腐食が発生しているが、犠牲陽極を設置し

た場合にはすき間腐食は発生しておらず、犠牲陽極設置によるすき間腐食抑制効果がうかがわれる。 犠牲陽極としては、亜鉛合金系の陽極をフランジ付近の配管に設置したり、亜鉛を含むペーストをフ

ランジあるいはガスケットの表面に塗布したり、ガスケット型陽極 5)をフランジ部に挟み込んで使用す

るなどの方法がある。 表 1. モックアップ海水熱交換器各種材料チューブの腐食状況

Tube material Inspection result

Without sacrifice anode With sacrifice anode

FS10 Pitting, Crevice corrosion No corrosion 254SMO Crevice corrosion No corrosion

SUS329J4L Crevice corrosion No corrosion SAF2507 Crevice corrosion No corrosion SUS316L Pitting, SCC, Crevice corrosion -

Ti No corrosion No corrosion

犠牲陽極の設置等の対策を考えずに、金属材料ですき間腐食発生のない材料を選定しようとするとチタ

ンの使用が望ましいが、特に金属材料を使用する必要性もないなら、PVC や PP あるいは FRP 等の非

金属材料の使用を選択する方法も考えられる。 (参考文献) 1. 鈴木紹夫,斉藤洪,吉岡和夫,北村義治,防食技術,19,133(1970). 2. 腐食防食協会編,材料環境学入門,p.33,丸善(1993). 3. 腐食防食協会編,材料環境学入門,p.85,丸善(1993). 4. 藤田和夫,材料と環境 2007,B-311(2007). 5. 斎藤清美,北村俊雄,配管技術,47(No.1),16 (2005).

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タール蒸留設備熱交換器管板面の苛性ソーダによる損傷

住友化学㈱ 藤田 和夫

熱交換器の管板面の腐食と摩耗が激しく寿命が 2 年弱と短く、表面処理で寿命延長を図るための検討を行な

った。

1.熱交換器の使用条件等

材質 : チューブ(STB340-SC)、管板(SS400)、ヘッドカバー(SS400)

寸法 : 約φ450×5000L

環境 : 苛性ソーダ(pH14)含みのタール(チューブ内)

温度 : シェル側は 260℃(加熱源)、チューブ側は 120℃程度

2.損傷状況

高温アルカリでの腐食に、タールが温度上昇により結晶化することにより、この結晶によるエロージョン作用が

加わったエロージョン・コロージョンが発生しているものと考えられている。 結晶はフィルターで除去しているが、

十分ではなく、また、苛性ソーダ以外には腐食性物質はないとのことである。 チューブと管板の接合は拡管の

みで、管端溶接はない。 損傷は、管板面およびチューブ内面で、特に管板面付近の腐食損傷が大きいとのことである。

管板面、管穴内面をできる限り防食して寿命延長を図りたい。 3.対応策 損傷状況がわかる具体的な写真等が

なく、高温アルカリによる腐食の程度、そ

れに結晶によるエロージョン作用がどの

程度影響しているかの把握が難しいが、

耐アルカリ性を向上させるために Ni を含

む材料を使用することが考えられる。右 図からわかるように Ni を含む材料は、

耐アルカリ性が良好なことはよく知られて

いる。 汎用の SUS304 や Ni 含有量の高

い SUS310S 等のステンレス鋼 あるいはハ

ステロイ C 系の材料を使用すれば寿命延

長が期待される。

表面処理での対策としては、無電解ニッ

ケルめっき(カニゼンめっき)や Ni 系の材料

による溶射等が考えられる。

カニゼンめっきの硬さは、リン含有量に

よって異なるが、Hv 350~500 程度と硬く、

耐エロージョン性も期待される。

R.K. Swandby, “Corrosion Charts : Guides to Materials Selection”, Chem. Eng., Nov.12 (1962).

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腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

Matsuho MIYASAKA( 株 ) 荏原製作所 風水力機械カンパニー   宮 坂 松 甫

(Abstract)

1.は じ め に

ステンレス鋼は幅広い分野で最も汎用的に利用されて

いる耐食材料であり,海水ポンプにも多くの種類のステン

レス鋼が適用されている。ステンレス鋼は表面に不働態

皮膜と呼ばれる非常に薄くて保護性の高い皮膜を形成し

ているため,一般に耐食性が良好である。中性水溶液中

では均一腐食(全面腐食)はほとんど無視できるため長

期の寿命が期待できる。ところが,この不働態皮膜は塩

化物イオンの存在によって破壊され,すきま腐食,孔食,

応力腐食割れ(高温海水の場合)などの局部腐食を発生

して短期間に致命的な侵食や破壊に至ることがあるの

で,環境に応じた適切な材料選定と腐食対策が必要であ

る。本報では,まず,ステンレス鋼の特性,腐食事例及

び対策技術を述べる。

一方,ニレジスト鋳鉄は,普通鋳鉄と比べて均一腐食

速度が低いことと,ステンレス鋼で見られるすきま腐

食・孔食を発生しないという特長が好まれ,海水・ブラ

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

28

Lecture on Corrosion and Corrosion Protection of Seawater Pumps- Part 5: Corrosion and Corrosion Protection of Stainless Steels and Ni-Resist Cast Irons -

by Matsuho MIYASAKA

The corrosion resistance of stainless steels is maintained by the passive film on its surface. However, this passive film becomesdestroyed when chloride ion is present, and can result in localized corrosion such as crevice corrosion, pitting corrosion and stress cor-rosion cracking (SCC). The following discusses the characteristics of stainless steel, exemplifies actual corrosion cases and introducesprotective technologies. Some characteristics of Ni-Resist cast irons are that its corrosion rate is evenly slower than that of convention-al cast irons and that it is not subject to crevice corrosion and pitting corrosion. The disadvantage is that it is susceptive to SCC. Mech-anisms and behavior of Ni-Resist SCC and measures against the same are discussed.

The use of seawater pumps made of duplex stainless steels in coastal regions with high corrosivity, or at desalination plants, isincreasing in recent years. Also introduced are results of corrosion tests on duplex stainless steels carried out in the Middle East, aswell as actual application examples of duplex stainless steel seawater pumps.Keywords: Seawater pump, Stainless steel, Ni-Resist cast iron, Crevice corrosion, Pitting corrosion, Stress corrosion cracking (SCC), Intergranular

corrosion, Duplex stainless steel, Middle East, Desalination plant

〔講座〕

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

宮 坂 松 甫*

㈱荏原製作所 技術・研究開発統括部 技術支援室工学博士,腐食防食専門士[譖腐食防食協会認定]

インポンプに適用されている。ところが,1980年代に,

使用方法によっては応力腐食割れを発生することを著者

らが発見し,現在は対策を講じている。ニレジスト鋳鉄

の応力腐食割れ挙動及び対策技術についても述べる。

ステンレス鋼の各種局部腐食あるいはニレジスト鋳鉄

の応力腐食割れなどを経験するなかで,最近,腐食性の

高い海域やプロセスで使用される海水ポンプで,高耐食

2相ステンレス鋼を使用する事例が増えている。最後に,

中東海域で行った各種2相ステンレス鋼の腐食実験及び海

水ポンプへの2相ステンレス鋼の適用事例を紹介する。

2.ステンレス鋼の特性及び腐食事例・対策技術

2-1 ステンレス鋼とその特性

ステンレス鋼は,20世紀初頭に発明されて以来約1世

紀を経て,最も汎用的な耐食材料として産業設備・社会

インフラから家庭・個人用品に至るまで幅広く使用され

ている。ステンレス鋼は,Feをベースとして10.5%以上

Crを含む合金(C:1.2%以下)を指し1),更にNi,Mo,

Nなど各種元素が添加され耐食性や機械的性質が改善さ

れている。ステンレス鋼は中性の水溶液中では不働態皮

膜と呼ばれる薄い保護膜に覆われるため一般に耐食性が

1.は じ め に

ステンレス鋼は幅広い分野で最も汎用的に利用されて

いる耐食材料であり,海水ポンプにも多くの種類のステン

レス鋼が適用されている。ステンレス鋼は表面に不働態

皮膜と呼ばれる非常に薄くて保護性の高い皮膜を形成し

ているため,一般に耐食性が良好である。中性水溶液中

では均一腐食(全面腐食)はほとんど無視できるため長

期の寿命が期待できる。ところが,この不働態皮膜は塩

化物イオンの存在によって破壊され,すきま腐食,孔食,

応力腐食割れ(高温海水の場合)などの局部腐食を発生

して短期間に致命的な侵食や破壊に至ることがあるの

で,環境に応じた適切な材料選定と腐食対策が必要であ

る。本報では,まず,ステンレス鋼の特性,腐食事例及

び対策技術を述べる。

一方,ニレジスト鋳鉄は,普通鋳鉄と比べて均一腐食

速度が低いことと,ステンレス鋼で見られるすきま腐

食・孔食を発生しないという特長が好まれ,海水・ブラ

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

28

Lecture on Corrosion and Corrosion Protection of Seawater Pumps- Part 5: Corrosion and Corrosion Protection of Stainless Steels and Ni-Resist Cast Irons -

by Matsuho MIYASAKA

The corrosion resistance of stainless steels is maintained by the passive film on its surface. However, this passive film becomesdestroyed when chloride ion is present, and can result in localized corrosion such as crevice corrosion, pitting corrosion and stress cor-rosion cracking (SCC). The following discusses the characteristics of stainless steel, exemplifies actual corrosion cases and introducesprotective technologies. Some characteristics of Ni-Resist cast irons are that its corrosion rate is evenly slower than that of convention-al cast irons and that it is not subject to crevice corrosion and pitting corrosion. The disadvantage is that it is susceptive to SCC. Mech-anisms and behavior of Ni-Resist SCC and measures against the same are discussed.

The use of seawater pumps made of duplex stainless steels in coastal regions with high corrosivity, or at desalination plants, isincreasing in recent years. Also introduced are results of corrosion tests on duplex stainless steels carried out in the Middle East, aswell as actual application examples of duplex stainless steel seawater pumps.Keywords: Seawater pump, Stainless steel, Ni-Resist cast iron, Crevice corrosion, Pitting corrosion, Stress corrosion cracking (SCC), Intergranular

corrosion, Duplex stainless steel, Middle East, Desalination plant

〔講座〕

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

宮 坂 松 甫*

㈱荏原製作所 技術・研究開発統括部 技術支援室工学博士,腐食防食専門士[譖腐食防食協会認定]

インポンプに適用されている。ところが,1980年代に,

使用方法によっては応力腐食割れを発生することを著者

らが発見し,現在は対策を講じている。ニレジスト鋳鉄

の応力腐食割れ挙動及び対策技術についても述べる。

ステンレス鋼の各種局部腐食あるいはニレジスト鋳鉄

の応力腐食割れなどを経験するなかで,最近,腐食性の

高い海域やプロセスで使用される海水ポンプで,高耐食

2相ステンレス鋼を使用する事例が増えている。最後に,

中東海域で行った各種2相ステンレス鋼の腐食実験及び海

水ポンプへの2相ステンレス鋼の適用事例を紹介する。

2.ステンレス鋼の特性及び腐食事例・対策技術

2-1 ステンレス鋼とその特性

ステンレス鋼は,20世紀初頭に発明されて以来約1世

紀を経て,最も汎用的な耐食材料として産業設備・社会

インフラから家庭・個人用品に至るまで幅広く使用され

ている。ステンレス鋼は,Feをベースとして10.5%以上

Crを含む合金(C:1.2%以下)を指し1),更にNi,Mo,

Nなど各種元素が添加され耐食性や機械的性質が改善さ

れている。ステンレス鋼は中性の水溶液中では不働態皮

膜と呼ばれる薄い保護膜に覆われるため一般に耐食性が

1.は じ め に

ステンレス鋼は幅広い分野で最も汎用的に利用されて

いる耐食材料であり,海水ポンプにも多くの種類のステン

レス鋼が適用されている。ステンレス鋼は表面に不働態

皮膜と呼ばれる非常に薄くて保護性の高い皮膜を形成し

ているため,一般に耐食性が良好である。中性水溶液中

では均一腐食(全面腐食)はほとんど無視できるため長

期の寿命が期待できる。ところが,この不働態皮膜は塩

化物イオンの存在によって破壊され,すきま腐食,孔食,

応力腐食割れ(高温海水の場合)などの局部腐食を発生

して短期間に致命的な侵食や破壊に至ることがあるの

で,環境に応じた適切な材料選定と腐食対策が必要であ

る。本報では,まず,ステンレス鋼の特性,腐食事例及

び対策技術を述べる。

一方,ニレジスト鋳鉄は,普通鋳鉄と比べて均一腐食

速度が低いことと,ステンレス鋼で見られるすきま腐

食・孔食を発生しないという特長が好まれ,海水・ブラ

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

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Lecture on Corrosion and Corrosion Protection of Seawater Pumps- Part 5: Corrosion and Corrosion Protection of Stainless Steels and Ni-Resist Cast Irons -

by Matsuho MIYASAKA

The corrosion resistance of stainless steels is maintained by the passive film on its surface. However, this passive film becomesdestroyed when chloride ion is present, and can result in localized corrosion such as crevice corrosion, pitting corrosion and stress cor-rosion cracking (SCC). The following discusses the characteristics of stainless steel, exemplifies actual corrosion cases and introducesprotective technologies. Some characteristics of Ni-Resist cast irons are that its corrosion rate is evenly slower than that of convention-al cast irons and that it is not subject to crevice corrosion and pitting corrosion. The disadvantage is that it is susceptive to SCC. Mech-anisms and behavior of Ni-Resist SCC and measures against the same are discussed.

The use of seawater pumps made of duplex stainless steels in coastal regions with high corrosivity, or at desalination plants, isincreasing in recent years. Also introduced are results of corrosion tests on duplex stainless steels carried out in the Middle East, aswell as actual application examples of duplex stainless steel seawater pumps.Keywords: Seawater pump, Stainless steel, Ni-Resist cast iron, Crevice corrosion, Pitting corrosion, Stress corrosion cracking (SCC), Intergranular

corrosion, Duplex stainless steel, Middle East, Desalination plant

〔講座〕

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

宮 坂 松 甫*

㈱荏原製作所 技術・研究開発統括部 技術支援室工学博士,腐食防食専門士[譖腐食防食協会認定]

インポンプに適用されている。ところが,1980年代に,

使用方法によっては応力腐食割れを発生することを著者

らが発見し,現在は対策を講じている。ニレジスト鋳鉄

の応力腐食割れ挙動及び対策技術についても述べる。

ステンレス鋼の各種局部腐食あるいはニレジスト鋳鉄

の応力腐食割れなどを経験するなかで,最近,腐食性の

高い海域やプロセスで使用される海水ポンプで,高耐食

2相ステンレス鋼を使用する事例が増えている。最後に,

中東海域で行った各種2相ステンレス鋼の腐食実験及び海

水ポンプへの2相ステンレス鋼の適用事例を紹介する。

2.ステンレス鋼の特性及び腐食事例・対策技術

2-1 ステンレス鋼とその特性

ステンレス鋼は,20世紀初頭に発明されて以来約1世

紀を経て,最も汎用的な耐食材料として産業設備・社会

インフラから家庭・個人用品に至るまで幅広く使用され

ている。ステンレス鋼は,Feをベースとして10.5%以上

Crを含む合金(C:1.2%以下)を指し1),更にNi,Mo,

Nなど各種元素が添加され耐食性や機械的性質が改善さ

れている。ステンレス鋼は中性の水溶液中では不働態皮

膜と呼ばれる薄い保護膜に覆われるため一般に耐食性がエバラ時報 No.224 (2009) に掲載されたものを,株式会社

荏原製作所の承諾のもとここに転載した

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43

腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

29

良好である。高流速環境でも耐食性は維持される。水溶

液あるいは大気中で自然に形成されるステンレス鋼の不

働態皮膜は,厚さが数nm程度の非常に薄いものである2)。

しかし,塩化物イオン(Cl -)が存在すると局部腐食を

発生することがあり,その耐食性は鋼種によって大きく

異なる。

ステンレス鋼の種類は主にマルテンサイト系,フェラ

イト系,オーステナイト系及びオーステナイト・フェラ

イト2相系に分けられる。このほか,金属間化合物の析

出によって強度を増した析出硬化系ステンレス鋼がある。

マルテンサイト系ステンレス鋼は,11.5~18%のCr

を含み,Cr量に応じて0.06~0.75%のCを含有する。マ

ルテンサイト系ステンレス鋼は高温域からの急冷により

オーステナイト(γ)相がマルテンサイトに変態するこ

とで焼き入れ硬化性を示し,高い強度と優れた耐摩耗性

を有している。Ni,Moなどの合金元素を含まないか少

ないためコストが低いが,ステンレス鋼の中では耐食性

が低く,海水ポンプでの使用例は少ない。

フェライト系ステンレス鋼は,0.1%以下のCと11~

30%のCrを含み,高温から常温にわたる広い温度範囲

でフェライト(α)相が安定である。応力腐食割れを生

じ難い点以外は,強度・耐食特性・溶接性などにポンプ

部品としての優位性が小さく,海水ポンプには適用例が

少ない。

オーステナイト系ステンレス鋼は,一般に耐食性,加工

性,溶接性に優れており,SUS 316系を中心に海水ポン

プでも多用されている。

オーステナイト・フェライト2相系ステンレス鋼は,

オーステナイト相とフェライト相の2相が常温での安定組

織である。引張強さ620 N/mm2以上・耐力450 N/mm2

以上と強度が高く(SUS 329J4L の場合),特に耐力は

SUS 316の2倍以上の値となっている。また,SUS 316と

比べてCr量及びMo量が高い鋼種が多く,このような鋼

種はすきま腐食・孔食への抵抗性が高い。

2-2 腐食事例と対策技術

ステンレス鋼は不働態の破壊をきっかけに,すきま腐

食,孔食,応力腐食割れ(高温海水の場合)などの局部

腐食を発生する。また,熱処理を誤ると,結晶粒界の耐

食性が劣化し粒界腐食を発生することがある。以下に,

各腐食形態について事例と対策技術を述べる。

2-2-1 すきま腐食及び孔食

(1)機構

すきま腐食及び孔食はいずれも,健全な不働態皮膜(カ

ソード)と不働態皮膜が破られた箇所の活性な金属面

(アノード)との電池作用による腐食であるが,すきま腐食

はフランジ面のような構造的なすきま内や付着した生物

の下がアノードとなって発生・成長する。すきま腐食は

以下の2段階で発生・成長する。模式図を図1に示す3,4)。

(第1段階)酸素濃淡電池の形成:

すきま内部では溶存酸素が短時間で消費され欠乏する

のですきま内面の電位が降下し,溶存酸素の供給が容易

なすきま外面(高い電位が維持される)との間に酸素濃

淡電池が形成される。すきま外面(カソード)では溶存

酸素の還元反応が進み,すきま内面(アノード)では金

属イオン(MZ+)がわずかずつ溶出される(この段階で

はまだ不働態皮膜は存在する)。電解質中の電流はもっ

ぱらCl -の移動が担うので,すきま内では徐々にCl -及

び金属イオンの濃度が上昇する。濃縮された金属イオン

は,加水分解反応によってすきま内のpHを徐々に低下

させる。

(第2段階)活性態‐不働態電池の形成:

第1段階のプロセスによって,すきま内部の液は高濃

度Cl-・低pHという腐食性の高い性状に変化し,すきま

内表面は不働態を維持することができなくなって活性面

が現われる。この段階で活性態‐不働態電池が形成し,

すきま腐食の成長が始まる。すきま内表面の不働態皮膜

破壊は,pHが「脱不働態化pH」(不働態を維持できな

くなるpHで鋼種によってその値が異なる)以下になる

ためという説と,脱不働態化pHに達する前に孔食が発

生するという説の両方がある。

金属イオンによる加水分解は Cr がその役割を担い,

一般には式(1)で説明されている。

Cr3++3H2O → Cr(OH)3+3H+ ……………………(1)

一方,深谷らは,すきま内液を模擬した金属塩化物試

薬溶液の詳細な溶液化学的考察により,すきま内液のpH

は,式(1)ではなく,その逐次反応である式(2)及び式(3)

不働態皮膜 Passive film

電解質 Electrolyte

1/4・zO2+1/2・zH2O zOH-

ze-

Cl-

Mz++zH2O→M(OH)z+zH+

Mz+ H+ Cl-

金属 M Metal

図1 ステンレス鋼のすきま腐食機構を説明する模式図 3,4)

Fig. 1 Schematic drawing of crevice corrosion mechanismsof metals

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44

腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

─ ─

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

エバラ時報 No. 224(2009-7)30

の反応平衡によって支配されると主張している5 ~ 7)。

Cr3++H2O → CrOH2+ +H+

pH≦ 3.9(298 K)……………(2)

CrOH2++H2O → Cr(OH)2++H+

pH≧ 3.9(298 K)……………(3)

すきま腐食及び孔食の発生臨界電位は,それぞれ

VC,CREV 及びVC,PIT と表示され,これよりも高い電位域

では腐食発生の可能性がある。該当する腐食環境中で局

部腐食を起こしていない材料で測定される自然電位 ESP

が,VC,CREVあるいはVC,PITよりも高く(貴に)なると,

すきま腐食あるいは孔食が発生する 8)。ESP は溶存酸素

濃度,塩素濃度や微生物の存在など環境条件によって変

化する。また,VC,CREV はVC,PIT に比べて卑側に存在す

るので,すきま腐食は孔食よりも常に優先して発生する。

このため,すきま腐食対策はステンレス鋼製海水ポンプ

にとって最も重要な課題といえる。

VC,CREV は実験的な手法によってすきま再不働態化電

位ER,CREVを求めることによって特定できる(VC,CREV=

ER,CREV)9,10)。図2は明石らがSUS 304のER,CREV を測

定した結果である 11)。ER,CREV はCl -濃度と温度の上昇

と共に卑側に移行し,すきま腐食が発生しやすくなるこ

とが分かる。図312)に,SUS 304,SUS 316及びSUS

329J4L(2相ステンレス鋼)の耐すきま腐食可使用限界

温度及び塩化物イオン濃度条件を示す。図3のSUS 304

のプロットは,図2のESP=0.36 V vs.SHE(水素電極基

準)における値である。図3から鋼種によって耐すきま

腐食性が大きく異なることが分かる。

(2)腐食事例

写真1はSUS 316L製海水ポンプ コラムパイプのフラン

ジ面に発生したすきま腐食である。フランジ面にはアス

ベストシートパッキンを使用しており,5年間の使用で

腐食深さは数mmにも達した。

すきま腐食は付着した生物の下にも発生する。写真2

100 101 102 103 104 105

1

0.5

0

-0.5

pH7における自然電位:Esp Corrosion potential at pH7

Cl- ppm

ER

, CR

EV 

V v

s.SH

E

20℃

55℃

80℃

図2 SUS304のER, CREVに及ぼす塩化物イオン濃度及び温度の影響11)

Fig. 2 Effect of chloride ion concentration and temperatureon ER, CREV for Type304 SS

100 mm

写真1 SUS316L製海水ポンプ コラムパイプフランジ面に発生したすきま腐食,5年間使用後

Photo 1 Crevice corrosion on the surface of a column pipe flange of a seawater pump, Type 316L SS, after a 5 years operation

09-71 01/224

100 101 102 103

0

20

40

60

80

100

塩化物イオン濃度 ppm Chloride ion concentration

温度

 ℃

T

empe

ratu

re

SUS304(オリジナルは文献11) Original data from Ref.11

SUS316

すきま腐食発生の可能性 Possibility of crevice corrosion SUS329J4L

図3 耐すきま腐食可使用限界温度及び塩化物イオン濃度条件(文献12からデータを抜粋し作成)

Fig. 3 Safety usage limit diagram for stainless steels against crevice corrosion (excerpted from Reference No.12)

(a)表面外観写真  Surface view

(b)断面形状(A-A’) Cross sectional view

10 mm

A A’

写真2 SUS304試験片表面フジツボ下に発生したすきま腐食,1年間浸漬後

Photo 2 Crevice corrosion under barnacles on the surface of Type 304 SS test specimen after a 1 year immersionin seawater

09-71 02/224

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45

腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

は海水中に1年間浸漬したSUS 304試験片表面に発生した

すきま腐食である。フジツボの成長に沿って,すきま腐

食が年輪状に外周側へ成長している興味深い事例である。

(3)対策技術

すきま腐食の発生を防止するためには以下の対策が講

じられる。

・すきま充填剤の適用

・すきま内表面への耐食合金の盛金

・カソード防食の適用

・高級材料の適用

最も簡便な対策としては,半乾性樹脂の充填剤をすき

ま表面に塗布し組み立てる方法が採られる。簡便ではあ

るが効果が大きく,SUS 316のように,海水中ですきま

腐食を起こしやすい材料へは無論のこと,近年採用例が

多い2相ステンレス鋼など高耐食ステンレス鋼に対して

も,すきま腐食発生を確実に抑えるために本方法が採用

される。

しかしすきま充填剤の採用は,長期の信頼性が完全で

ないこと,半乾性とはいっても接着性があるので分解時

に苦労することなどの欠点がある。そして何よりも,摺

動するすきまには適用することができない。そこで,開

発されたのが耐すきま腐食性盛金合金「Crevelloy」で

ある 13 ~ 15)。バルク材料としては汎用的なステンレス鋼

(例えば316系。低炭素系が望ましい)を用い,すきま

内表面にだけ耐食性の高い合金を盛金してすきま腐食を

防止しようとするものである。本材料は,基本組成は

Ni-30%Cr-10%Moであり,溶接棒を用いたTIG溶接,

粉体を用いたPTA(Plasma-Transfer-Arc)溶接などに

より盛金施行される。この組成は,異相の形成によって

耐食性が劣化しないよう,また,母材からの希釈によっ

ても完全な耐すきま腐食性が維持されるように選択され

ている(一層肉盛で十分な耐食性が得られる)。

本材料は,海水ポンプのケーシング,軸,スリーブ,

配管などに使用され,20 年以上の実績を有している。

なかでも可動羽根ポンプでは,羽根とハブとのシール部

分が摺動するすきまであることから充填剤の適用ができ

ず,防食対策の切り札として採用されている(写真3)。

これまでの実績が評価され,本材料は,AWS(Ameri-

can Welding Society)規格(SFA5.14 ERNiCrMo-16),

及びEN(Europeen de Normalisation)規格(Numeri-

cal No.6057,Chemical NiCr30Mo11)に採用された。

すきま腐食・孔食はカソード防食によっても防食が可

能である(第3報,写真1)。防食電位は,防食対象とな

るステンレス鋼のすきま腐食発生臨界電位と考えれば良

い。パッキン材料によってその電位は変わるが,SUS 316

では,最もすきま腐食を起こしやすいアスベストシート

パッキンを使用した場合の値-0.32 V vs.SCE(飽和甘

こう電極基準)16)を採用すれば安全と考えられる。

近年,すきま腐食及び孔食に抵抗性の高い耐海水用ス

テンレス鋼の開発が盛んに行われ海水ポンプへの採用例

が増えている。これらの材料に共通しているのは Cr,

Mo及びNの増量であり,いくつかの材料にはCuやW

が添加されている。なかでも,2相ステンレス鋼は他の

鋼種と比べて引張強さ・耐力が高いことが有利であり,

海水ポンプへの採用が増加している。ステンレス鋼の耐

海水腐食性を評価するために以下の耐孔食性指標PRE

(Pitting Resistance Equivalent number)が採用されて

いる(ただし,Nの項はフェライト系には適用されない)。

Wが指標に加えられることもある。

PRE=Cr+3.3[Mo(+0.5 W)]+16N……………(4)

例えば,SUS 304,SUS 316及びSUS 329J4LのPRE

はそれぞれ,約18,25及び38であり,PREの値の大き

さに従って耐すきま腐食性が増す(図3)。PREが40以

上の2相ステンレス鋼はスーパー2相ステンレス鋼と呼

ばれ,卓越した耐すきま腐食性を有しており,特に高い

信頼性が要求される海水・ブラインポンプに採用例が多

い。スーパー2相ステンレス鋼のPREと耐すきま腐食性

の関係については第4章で再び述べる。

2-2-2 応力腐食割れ

(1)機構

応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)は,

腐食環境中において引張応力のもとで割れが発生する現象

である。広義のSCCは,活性経路型腐食割れ(APCC:

Active Path Corrosion Cracking)と水素脆性(HE:

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

31

写真3 可動羽根ポンプへの耐すきま腐食性合金の盛金Photo 3 Overlaying of a crevice-corrosion-resistant-alloy

“Crevelloy”, on an adjustable vane type mixed-flow-pump

09-71 03/224

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46

腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

Ni

Type 304 SS

SUS304

鋼 Steel

50 μm蒸発缶壁断面 Cross section of evaporator wall

材料:SUS304クラッド鋼 (Niインサート) Material : Type 304 SS clad steel (Ni insert)

環境:かん水(濃縮海水),約80℃ Environment : brine (concentrated seawater),

approx. 80 ℃

期間:7年間 Duration : 7 years

─ ─

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

エバラ時報 No. 224(2009-7)32

Hydrogen Embrittlement)に分類される。APCCは,

亀裂先端で起こる金属のアノード溶解が割れの主因であ

り,ステンレス鋼ではCl-による不働態皮膜の破壊をきっ

かけに発生する。HEはカソード反応で生成した水素原

子が金属中に侵入して材料を脆化させ割れを生じる現象

であり,強度の高い鋼に発生する。通常,応力腐食割れ

というと APCC をさす。以下,APCC タイプを指して

SCCと呼ぶ。

(2)腐食事例

写真4は,製塩用かん水蒸発缶に発生したSCC事例で

ある。約80℃のかん水中で9年間使用されたものである。

Niをインサート材としたSUS 304クラッド鋼で,割れ

はステンレス鋼の結晶粒内を進展し,Ni層に至って停

止している。

(3)対策技術

ステンレス鋼のSCC発生の3大要因は,応力,Cl -の

存在及び温度である。ステンレス鋼の組織が健全であれ

ば,SCCは,50ないし60℃以下では発生しないため自

然海水を扱うポンプでは問題とならない。Cl-濃度は低い

程SCCを起こしにくいが下限界値は明確でない。環境

の制御が難しい場合は,機器の設計応力及び材料の残留

応力を低減することが必要である。材料の検討を行う場

合は,Ni量に最も注目する必要がある。Fe-Cr-Niオー

ステナイト系ステンレス鋼ではNiが7~8%で最も割れ

やすく,Ni量がそれよりも少なくても多くても割れ難

くなり,45%以上ではほとんど割れなくなる 17)。写真4

でSCCがNi層で停止したことも,純Niの耐SCC性の高

さを示している。

2-2-3 粒界腐食

(1)機構

オーステナイト系ステンレス鋼をおよそ400~800℃

の温度範囲で加熱し徐冷すると,結晶粒界が優先的に腐

食する現象がある。この現象は,図4に示すように,合

金中に固溶していたCが粒界近傍のCrと炭化物(Cr23C6)

を形成するため,粒界近傍でCr量が欠乏し,不働態を

保てなくなることが原因である。この腐食形態を「粒界

腐食」,粒界腐食感受性を示すようになることを「鋭敏

化」という。

(2)腐食事例

写真5は,常温海水中で6箇月間使用したSUS 316製

ボルトに見られた粒界腐食事例である。結晶粒界が優先

的に侵食され結晶粒の脱落が見られる。ナットとの間の

写真4 製塩用蒸発缶に発生した応力腐食割れPhoto 4 Stress corrosion cracking which occurred on an

evaporator in a salt manufacturing plant

09-71 04/224

結晶粒界 Grain boundary

クロム炭化物(Cr23C6) Chromium carbide

クロム欠乏相(鋭敏化相) Cr deficient phase (sensitized zone)

粒内健全部 Inner grain

(unaffected zone)

図4 ステンレス鋼の粒界腐食機構を説明する模式図Fig. 4 Schematic drawing of intergranular corrosion

mechanisms of stainless steels

500 μm環境:自然海水 Environment : natural seawater

期間:6ヶ月 Duration : 6 months

写真5 SUS316転造ボルトに発生した粒界腐食Photo 5 Intergranular corrosion of Type 316 SS screw bolt

manufactured by hot form rolling

09-71 05/224

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47

腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

(a)ブライン循環ポンプケーシング Brine circulating pump casing,

7% NaCl, 33℃

(b)海水取水ポンプケーシング Seawater intake pump casing,

natural seawater

割れ Crack

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

33

すきま部での腐食が著しく,使用中ボルト頭部が脱落し

た。すきま腐食が粒界腐食の発生と成長を加速したもの

と考えられる。その後の調査で,このボルトは,熱間転

造によってねじ加工された後溶体化処理を経ずに市場に

出たものと分かった。

(3)対策技術

オーステナイトステンレス鋼の鋭敏化を防止するため

には以下の方法を採用する。

・規定の温度・時間で加熱後急冷する。これを固溶化

熱処理又は溶体化熱処理という。この方法によって

Cr23C6が分解し,Crが均一に固溶する。

・Cの量を低減するか,安定化元素(Ti,Nb)を添

加する。安定化元素はCrよりも優先して炭化物を作

るため,Cr23C6の生成が妨げられる。

・溶接を行う場合は,入熱量を下げるよう配慮する。

3.ニレジスト鋳鉄の応力腐食割れと対策技術

3-1 背景

ニレジスト鋳鉄(Ni-Resist Cast Irons)は,Niを含

むオーステナイト系鋳鉄で,JIS G 5510,ASTM A 436

及びA 439で規定されるオーステナイト鋳鉄を指す名称

として広く一般に使用されている。以下,本報でもニレ

ジスト鋳鉄と呼ぶことにする。

第2報図7に示したように,ニレジスト鋳鉄は,塩水

中で,普通鋳鉄及び鋼と比べて広い流速範囲で耐食性が

優れているため,海水及びブラインを扱うポンプ,バル

ブなどの流体機器に使用例が多い。ステンレス鋼にみら

れるようなすきま腐食及び孔食を起こさないことも大き

な長所である。そのため1970年代から海水用に広く採

用されるようになった。

ところが,中東地域の海水淡水化プラントで使用され

ていたASTM A 436 Type 2製ブライン循環ポンプが,

運転中割れを発生する事故を起こした(写真6(a))。そ

の後同材料のポンプが国内の自然海水中でも破損し(写

真6(b))大きな問題となった。当時の文献18)では,Type

1,2及び4が,沸騰42%MgCl2 溶液,沸騰20%NaCl溶液

及び沸騰20%NaOH溶液中,耐力の90%以上の引張応力

という過酷な条件ではSCC発生を確認したものの,そ

れ以外では事例がなく,常温海水中でSCCを起こすこ

とは予想できなかった。事故後,筆者らは原因究明を行

い,ニレジスト鋳鉄は常温の海水中でもSCC感受性を

もち,破壊事故の原因はSCCであることを明らかにす

るとともに,SCC機構を解明し対策を示した19,20)。

3-2 応力腐食割れの機構,挙動及び対策

ニレジスト鋳鉄に発生した割れの原因を解明するた

め,片状黒鉛タイプ(ASTM A 436 Type 2)及び球状

黒鉛タイプ(ASTM A 439 Type D2)の2種類の試験片

を,引張応力を加えた状態で7%食塩中(33℃,溶存酸

素飽和)に浸漬し,それぞれの材料がもつ引張強さ以下

で破断するかどうかを調べた。試験片の直径は12.5 mm

である。図519,20)にその結果を示す。また,試験片断

面の顕微鏡写真を写真719,20)に示す。Type 2及びType

D2のいずれも,大気中の破断応力(Type 2:239 MPa,

Type D2:425 MPa)よりも低い応力で破断し,SCC

感受性があることを示している。Type 2,Type D2と

もに,破断時間は,負荷応力が低くなるにつれて指数関

数的に長くなっている。また,Type D2はType 2に比

べて破断時間がはるかに長く,同一応力では10倍以上

の寿命を示した。

写真6 ニレジスト鋳鉄(ASTM A436 Type2)の応力腐食割れ事例Photo 6 Stress corrosion cracking examples on an Ni-Resist

cast iron pump casings

09-71 06/224

ニレジスト鋳鉄 Type 2

ニレジスト鋳鉄 Type D2 Ni-Resist cast iron

負荷

応力

 M

Pa

App

lied

stre

ss

400

300

200

100

0

破断時間 h Time to failure

1 10 102 103 104 105

図5 ニレジスト鋳鉄のSCC破断時間と負荷応力の関係 19,20),ばっ気7% NaCl 水溶液,33℃

Fig. 5 Relationship between applied stress and time to failure,aerated 7% NaCl solutions at 33℃

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「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

エバラ時報 No. 224(2009-7)34

図6 19,20)に,ニレジスト鋳鉄の破断時間に及ぼす電

位の影響を示す。図6には,電位を制御せず,自然電位

のまま試験した結果も示した。Type 2,Type D2共に,

それらの電位を自然電位よりも貴側に移行させた場合破

断時間が大幅に短くなり,逆に電位を卑側に移行させる

と破断時間は長くなった。そして,Type 2,Type D2と

もに,静止液中では-570 mV vs.SCEよりも卑側の電

位域では割れを発生せず,500 h経過後も破断しなかっ

た。また,Type D2は,流速5 m/sの流動条件におい

て,-490 mV vs.SCEでは,1200 h後も割れを発生し

なかった。このように,アノード分極により割れが加速

され,逆にカソード分極により割れが抑制される事実か

ら,ニレジスト鋳鉄の割れ機構は,水素脆性ではなく,

活性経路型 SCC(APCC : Active Path Corrosion

Cracking)であることが分かった。

0.2 mm

(a)Type 2, 85 MPa (b)Type D2, 150 MPa

写真7 ニレジスト鋳鉄の応力腐食割れ形態19,20)

(7%NaCl水溶液,33℃,溶存酸素飽和)Photo 7 Crack morphologies of stress corrosion cracking of

Ni-Resist cast irons, aerated 7% NaCl solutions at 33℃

09-71 07/224

自然電位での実験 Tests at natural potential

破断時間 h Time to failure

付加

電位

 m

V v

s.SC

E

Pot

ential

Type D2, Aerated 3% NaCl, 25℃, Flow velocity : 5 m/s

No Failure Applied stress : 143 MPa for Type 2, 340 MPa for Type D2

Type D2 Aerated 7% NaCl, 33℃, Static Type 2

-200

-300

-400

-500

-600

-700

-800

-9001 10 102 103

図6 ニレジスト鋳鉄のSCC破断時間と電位の関係19,20)

Fig. 6 Relationship between applied potential and time to failure

このほか,材料中のNi量の増加,温度及び溶存酸素

濃度の低下も,SCC感受性低減に効果があることを実験

で明らかにした19,20)。

これらの結果は,1986年のNACE(National Associa-

tion of Corrosion Engineers)年会「CORROSION/86」

で発表 19)するとともに,NACE会誌「Corrosion」に掲

載され20),中東地域の顧客を中心に注目を集めた。その

後Dawsonらによって著者らの実験の追試がなされ,ニ

レジスト鋳鉄の常温海水中でのSCC感受性が再確認さ

れた21)。

以上述べたように,ニレジスト鋳鉄のSCCを防止す

るためには,球状黒鉛タイプの採用,応力の低減,カソー

ド防食の適用などが有効である。現在では,ニレジスト

鋳鉄を海水ポンプに採用する場合はすべてType D2を

採用し,残留応力や設計応力が高くならないよう留意す

るとともに,必要に応じてカソード防食を適用している。

4.2相ステンレス鋼製海水ポンプ

これまで本講座で述べてきたように,コスト・耐久

性・メンテナンス性など顧客の要求に応じて,海水ポン

プには鋳鉄系材料から各種ステンレス鋼まで多種類の材

料が使用されており,それぞれのケースに応じて適切な

防食対策が採られている。

一方近年,中東地域の海水淡水化プラント及びオイ

ル&ガス関連設備において,2相ステンレス鋼を中心と

した高級ステンレス鋼が採用される事例が増大してい

る。海水淡水化プラント及びオイル&ガス関連設備が集

中するアラビア湾や紅海では,他の海域と比べて塩濃度

及び海水温度が高いため,海水の腐食性が高いことがそ

の理由である。

そこで当社では,顧客と共同で,アラビア湾,紅海及

び東京湾において各種2相ステンレス鋼のすきま腐食試

験を行い,海域,鋼種及び製造法(圧延,鋳造)による

腐食性の差異を調べた。

4-1 各種ステンレス鋼の海水腐食実験

4-1-1 供試材

表 22,23)のように,PREが異なる(PRE:23.5~44.4)

ステンレス鋼(圧延材及び鋳造材)を12種類供試した。

2箇所の穴(φ10 mm)をもつ短冊状の試験片(30×

60×3 mm)を各材料5枚ずつ用意した。穴に絶縁スリ

ーブ付き丸棒を貫き,試験片をPTFEパッキン及び塩化

ビニル製ディスタンスピースを介して重ね合わせ,19.6

Nm{20 kgf・cm}のトルクで締め付けてすきまを付与し

た。したがって,各材料のすきまの全数は20となる。

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─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

35

4-1-2 実験方法

実験は,アラビア湾,紅海及び東京湾で実施した。実

験箇所と期間を図7 22,23)に示す。アラビア湾では生海

水の他,塩素処理海水中でも実験を行った。それぞれの

海水のCl -濃度は,23000,22 200及び18000 ppmであ

り,アラビア湾及び紅海の海水は通常の海水(東京湾)

の約1.3及び1.2倍に濃縮されていることが分かる。海水

温度は,夏季にはアラビア湾では40℃以上,紅海でも

約 35 ℃に達し,冬季でも両海域とも 20 ℃以上である。

一方,東京湾では夏季でも30℃を超すことは無く冬季

は約10℃である。

実験後,すきま腐食発生率(%:100×すきま腐食を発

生したすきま部の数/20),平均腐食減量(腐食減量をみ

かけの試験片面積で除した値)及び最大深さを測定した。

4-1-3 実験結果

図8 22,23)にすきま腐食発生率とPREの関係を,図9 22,23)

に平均腐食減量(腐食成長速度)とPREの関係をそれ

ぞれ示す。これらの結果から以下のような結論を得た。

(1)中東海域では,東京湾と比較して,すきま腐食発

生率・成長速度(腐食減量)ともに大きな値を示した。

(2)地域及び製造方法(圧延材・鋳造材)にかかわら

ず,PREが大きい程,すきま腐食発生率・成長速度と

もに減少した。

(3)PREが同程度の材料の場合,圧延材の方が,鋳造

材よりも良好な耐食性を示した。

(4)生海水と塩素処理海水を比較すると,すきま腐食

発生率はほぼ同等か塩素処理海水の方がわずかに大き

鋼種 規格Category Specifictaion

C Si Mn P S Ni Cr Mo W Cu N PRE

オーステナイトステンレス鋼Austenitic stainless steel

UNS S31600 0.04 0.64 1.22 0.029 0.002 10.72 16.75 2.05 - - - 23.5

DSS(2相ステンレス鋼) UNS S31803 0.01 0.48 1.77 0.023 0.001 5.78 22.53 3.12 - - 0.16 35.4

Duplex stainless steel UNS S31260 0.23 0.34 0.82 0.23 0.01 7.13 25.19 3.14 0.18 0.50 0.16 38.1

SDSS(スーパー2相ステンレス鋼) UNS S39274 0.019 0.31 0.49 0.022 0.0005 6.67 25.10 3.17 2.13 0.45 0.29 40.2

Super duplex stainless steel UNS S32750 0.022 0.36 0.9 0.021 0.0009 6.86 25.55 3.82 - 0.095 0.24 42.0

スーパーオーステナイトステンレス鋼Super austenitic stainless steel

UNS S31254 0.014 0.55 0.57 0.017 0.001 17.98 20.19 6.26 - 0.67 0.22 44.4

UNS J93370 0.03 0.47 0.79 0.004 0.006 5.62 24.98 1.74 - 2.81 0.15 33.1

DSS(2相ステンレス鋼)25Cr-5.5Ni-2Mo-0.16N 0.04 0.43 0.78 0.011 0.007 5.76 25.06 1.78 - - 0.16 33.5

Duplex stainless steel25Cr-6Ni-3Mo-0.16N 0.04 0.61 0.8 0.007 0.007 5.98 24.14 3.1 - - 0.16 36.9

25Cr-6.5Ni-3.3Mo-0.16N 0.04 0.57 0.78 0.007 0.007 6.56 25.37 3.26 - - 0.17 38.8

25Cr-6.5Ni-3.5Mo-0.16N 0.03 0.54 0.7 0.008 0.007 6.78 25.69 3.48 - - 0.16 39.7

SDSS(スーパー2相ステンレス鋼)UNS J93404 0.02 0.49 0.8 0.009 0.007 7.31 25.78 4.18 - - 0.2 42.8

Super duplex stainless steel

表 供試材料の化学成分及びPRE22,23)

Table Chemical composition and PRE of tested materials

圧延

材R

olle

d m

ater

ials

鋳造

材C

ast

mat

eria

ls

PRE=Cr+3.3Mo+16N(in mass %)

製法Type

浸漬期間 Duration, day

環境 Environment

浸漬場所 Location

473自然海水

Natural seawater紅海(Shoaiba)

Red Sea

375自然海水

Natural seawater東京湾(袖ヶ浦)

Tokyo Bay (Sodegaura)

433

自然海水 Natural seawater

塩素処理海水 Chlorinated seawater

アラビア湾(Al Jubail) Arabian Gulf

紅海(Shoaiba) Red Sea

アラビア湾 (Al Jubail) Arabian Gulf

東京湾(袖ヶ浦) Tokyo Bay (Sodegaura)

図7 ステンレス鋼すきま腐食実験の場所及び期間 22,23)

Fig. 7 Location and duration of crevice corrosion test forstainless steels

鋳造材 Cast materials

圧延材 Rolled materials

0

20

40

60

80

100

PRE, Cr+3.3Mo+16N

S31600PRE=23.5

35 40 450

20

40

60

80

100

PRE, Cr+3.3Mo+16N

30 35 40 45

すき

ま腐

食発

生率

 %

C

revi

ce c

orro

sion

occ

urre

nce

紅海(自然海水) Red Sea (natural seawater)

アラビア湾(自然海水) Arabian Gulf (natural seawater)

アラビア湾(塩素処理海水) Arabian Gulf (chlorinated seawater)

東京湾(自然海水) Tokyo Bay (natural seawater)

S31254

図8 すきま腐食発生率とPREの関係 22,23)

Fig. 8 Relationship between crevice corrosion occurrence rateand PRE

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腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

─ ─

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

エバラ時報 No. 224(2009-7)36

かったが,すきま腐食成長速度は塩素処理海水中の方が

明らかに低かった。

(5)PREが40以上のスーパー2相ステンレス鋼圧延材

は,すきま腐食発生率・成長速度共に低い値を示した。

アラビア湾及び紅海において,東京湾と比べてステン

レス鋼のすきま腐食発生率・成長速度共に高かったの

は,温度,塩濃度がいずれも高かったためであることを

別途行った電気化学的測定で確認した23)。腐食性が高い

中東海域では,いずれのグレードのステンレス鋼であっ

てもすきま腐食を完全に抑えることはできないが,圧延

材の2相ステンレス鋼を採用することによって腐食を軽微

にすることができ,特に,PREが40以上のスーパー2相

ステンレス鋼を使用することによってすきま腐食の発生

及び成長を大幅に低減できる。

圧延材と鋳造材の耐食性の差異については,介在物あ

るいは結晶粒サイズなどの影響が考えられるが,明らか

ではない。

生海水中では微生物の影響によってステンレス鋼の電

位が上昇することが良く知られている。ステンレス鋼は,

溶存酸素を含む滅菌された食塩水中でおよそ0 V vs.SCE

である自然電位が,自然海水中では0.4 V vs.SCE近くに

まで上昇する24)。また,微生物の影響によってステンレ

ス鋼のカソード反応速度も上昇するので 25,26),すきま

腐食成長速度や,ステンレス鋼と接触する卑な材料の異

種金属接触腐食速度を促進する。

塩素殺菌を行うと微生物が死滅するが,残留塩素自身の

酸化還元電位が高いため,微生物死滅に必要な0.1 ppm

程度の濃度でも電位は0.4 V vs.SCE以上に上昇する 27)。

したがって,塩素殺菌海水中では自然電位は自然海水よ

りもむしろ高くなる。すきま腐食の「発生」は電位の影

響が大きいため,アラビア湾で塩素殺菌海水の方がわず

PRE, Cr+3.3Mo+16N

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

30 35 40 45

鋳造材 Cast materials

PRE, Cr+3.3Mo+16N

S31600 PRE=23.5

35 40 450

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

圧延材 Rolled materials

平均

腐食

減量

 m

dd

Ave

rage

mas

s lo

ss

紅海(自然海水) Red Sea (natural seawater)

アラビア湾(自然海水) Arabian Gulf (natural seawater)

アラビア湾(塩素処理海水) Arabian Gulf (chlorinated seawater)

東京湾(自然海水) Tokyo Bay (natural seawater)

図9 平均腐食減量とPREの関係 22,23)

Fig. 9 Relationship between average mass loss and PRE

(a)2相ステンレス鋼(口径2000 mm) Duplex stainless steel

(2000 mm nozzle diameter)

(b)スーパー2相ステンレス鋼(口径2000 mm) Super duplex stainless steel (2000 mm nozzle diameter)

写真8 2相ステンレス鋼製海水ポンプの事例Photo 8 Large size duplex and super duplex SS seawater pumps

09-71 08/224

かにすきま腐食発生率が高くなったと思われる。一方,

塩素殺菌によって微生物が死滅するとカソード反応速度

が大幅に低減するため28),すきま腐食の「成長」速度は

自然海水中と比べて明らかに減少することになる。

4-2 海水ポンプへの適用事例

写真8に,中東地域へ納入した海水ポンプの事例を示

す。写真 8(a)は PRE が約 35 の 2 相ステンレス鋼製,

写真8(b)はPREが40以上のスーパー2相ステンレス

鋼製であり,コラムパイプ,ガイドケーシングなど胴体

部分は圧延板材の溶接構造であり,また,主軸には同材

料の丸棒を使用している。

5.あ と が き

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」の

第5報(最終報)として,ステンレス鋼及びニレジスト

鋳鉄の腐食と対策技術について解説した。

ステンレス鋼は,中性溶液中では表面の不働態皮膜に

よって全面腐食は発生しないものの,海水中に多量に含

まれる塩化物イオン(Cl -)によって不働態皮膜が破壊

され,すきま腐食,孔食,粒界腐食,(高温海水中では)応

力腐食割れなどの局部腐食を発生しトラブルの原因とな

る。ステンレス鋼製海水ポンプではすきま腐食対策が最も

重要であり,適切な材料選定と防食対策が必要である。

ニレジスト鋳鉄は応力腐食割れに注意する必要がある

が,球状黒鉛タイプの採用,応力低減などの手段を講じる

ことによって防止することができ,現在も使用されている。

最近,腐食性の高い海域やプロセスで使用される海水

ポンプで,2相ステンレス鋼を使用する事例が増えてい

る。中東海域で行った各種2相ステンレス鋼の腐食実験

及び海水ポンプへの適用事例を紹介した。

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腐食センターニュース No.068 2014 年 7 月

─ ─エバラ時報 No. 224(2009-7)

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術

37

参 考 文 献

1) ISO/TS15510 (TS: Technical Specification).2) K. Sugimoto and S. Matsuda, Mater. Sic. Eng., 42, 181 (1980).3) 鈴木紹夫:防食技術,28,38(1979).4) M. G. Fontana and D. Greene:“Corrosion Engineering”,

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会,p.311(2007).7) 深谷祐一,篠原正,第54回材料と環境討論会講演予稿集,腐

食防食協会,p.203(2007).8) 明石正恒:腐食防食協会第115回腐食防食シンポジウム資料,

p.61(1997).9) 辻川茂男,久松敬弘:防食技術,29,37(1980).10)明石正恒,辻川茂男:材料と環境,45,106(1996).11)M.Akashi, G.Nakayama and T.Fukuda: NACE-CORRO-

SION/98, Paper No.98158 (1998).12)革新的実用原子力技術開発フィジビリティースタディー分野,

平成14年度HLW処分容器材料としてのニッケル基合金の耐食性評価研究成果報告書概要版,財団法人エネルギー総合工学研究所,p.14(2002).

13)石黒寿一,北嶋宣光:防食技術,31,394(1982).14)木下和夫,石黒寿一:腐食防食協会編:腐食と対策事例集,

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Reprinted from BCIRA Journal November (1987).22)H. Yakuwa, K. Sugiyama, M. Miyasaka, A. U. Malik, I. N.

Andijani, M. Al-Hajri, K. Mitsuhashi and K. Matsui: Proc.MEMEC2007, Paper No.07-134, Manama (2007).

23)H. Yakuwa, M. Miyasaka, K. Sugiyama and K. Mitsuhashi:NACE CORROSION/2009, Paper No.09194 (2009).

24)明石正恒:第7回コロージョン・セミナー・テキスト,腐食防食協会,p.11(1980).

25)鷲頭直樹,篠原正,元田慎一,酒井潤一:材料と環境,56,472(2007).

26)鷲頭直樹,篠原正,元田慎一,酒井潤一:腐食防食協会「材料と環境2008」講演予稿集,B-115(2008).

27)R. Gundersen, et al: Corrosion, 47, 10, 800 (1991).28)R. J. Ferrara, L. E. Taschenberg and P. J. Moran: NACE-COR-

ROSION/85, Paper No.85211 (1985).

「腐食防食講座」終了にあたって

2008年7月発行「エバラ時報」第220号で第1報を掲載し

て以来約1年間,編集部・社内同僚の協力を得ながら,「腐

食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」を連載し,本

号(224号)で最終報(第5報)をお届けすることができた。

講座開始以来,顧客・読者の皆様から,「次号を楽しみに

している」,「腐食の相談に乗って欲しい」などの激励や相談

をいただき,執筆と連載の大きな励みになった。この場を借

りて深く御礼を申し上げます。本講座では,荏原が保有する

技術を中心に解説したが,腐食機構の理解や防食対策立案の

ために欠かせないいくつかのデータを,社外の皆様から拝借

し掲載させていただいた。また,執筆に当たり,社外の皆様

から貴重なご指導・ご助言をいただいた。皆様のご支援・ご

協力に対し改めて感謝の意を表します。

講座連載の間に,松島 巖 前橋工科大学名誉教授[日本鋼

管㈱ → 前橋工科大学教授・学長]と北嶋宣光博士(元 ㈱荏

原製作所・㈱荏原総合研究所)の訃報に接するという悲しい

出来事もあった。松島先生からいただいた多くの貴重なご助

言の一つは,マクロセル腐食の機構解明に欠くことのできな

いものとなった。北嶋博士は,荏原の材料・腐食研究のパイ

オニアであり,本講座で示した荏原の防食技術の基盤を構築

された。松島先生と北嶋博士のご冥福をお祈りします。

現在,世界的に水・エネルギー需要が拡大する中で,海水

ポンプの需要と,信頼性・耐久性向上への要求が高まってい

る。「防食技術」は装置・機器の信頼性・耐久性を応える重

要な基盤技術であり,本講座が,海水ポンプの腐食の理解と

防食技術の普及・伝承に少しでも貢献できれば幸いである。

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」

第1報:腐食の基礎と海水腐食の特徴(08年7月発行済み,第220号)

第2報:海水腐食に及ぼす流れの影響(08年10月発行済み,第221号)

第3報:異種金属接触腐食とカソード防食(09年1月発行済み,第222号)

第4報:防食解析技術(09年4月発行済み,第223号)

第5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策技術(本号:224号,最終報)

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腐食センターニュース No. 068 2014 年 7 月

目 次

電子部品用銅材料の腐食損傷と防食技術-Ⅱ.銅の腐食性

成分による腐食機構と腐食形態

Ⅱ-3.腐食損傷事例とその防止策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

地際腐食対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

海水によるステンレス鋼のすき間腐食の防止・・・・・・・・・・・

タール蒸留設備熱交換器管板面の苛性ソーダによる損傷

「腐食防食講座-海水ポンプの腐食と対策技術-」

第 5報:ステンレス鋼及びニレジスト鋳鉄の腐食と対策

技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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腐食センターニュース No.068

( 2014年 7月)

発行者:(公社)腐食防食学会 腐食センター

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