10
知能情報学専攻 Department of Intelligence Science and Technology 知の解明と構築 人間らしいしなやかな情報処理の実現 高度情報化社会では,人間らしい,しなやかな能力をもつ情報処理がもとめられ ます。 生体の情報処理は,長い進化の課程で自らの構造・機能を環境に適応されること によって獲得したもので,他に例を見ません。 知能情報学は,生体,とりわけ人間の情報処理機構を解明し,これを高次情報処 理の分野に展開することを目的とした学際的な学問領域です。 7 Graduate School of Informatics

Department of Intelligence Science and Technology 知能情報学専攻 · 2015-03-04 · Department of Intelligence Science and Technology 知能情報学へようこそ 知能情報学は,生体,特に人間の行う情報処理について研究する分野です。

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

知能情報学専攻Department of Intelligence Science and Technology

知の解明と構築人間らしいしなやかな情報処理の実現

高度情報化社会では,人間らしい,しなやかな能力をもつ情報処理がもとめられ

ます。

生体の情報処理は,長い進化の課程で自らの構造・機能を環境に適応されること

によって獲得したもので,他に例を見ません。

知能情報学は,生体,とりわけ人間の情報処理機構を解明し,これを高次情報処

理の分野に展開することを目的とした学際的な学問領域です。

7 Graduate School of Informatics

Department of Intelligence Science and Technology

知能情報学へようこそ

知能情報学は,生体,特に人間の行う情報処理について研究する分野です。

「知能」というキーワードからいわゆる「人工知能」と考えられがちで

すが,本専攻では知能情報学をもっと広く捉えています。専攻で教育と

研究を行っている分野は,知的情報処理機構の根源としての生体・生命・

認知を基盤とした上で,画像・音声・言語というメディア,さらにはソ

フトウェアやネットワークという抽象度の高い情報処理機構に至るまで,

学際的なものになっています。これらの分野によって,人間と生物・生

命の両側面から知能の本質を目指しいる点が本専攻の特色です。研究分

野は多岐に亘っていますが,専攻内の教員と学生は「知能」という目標

を共有しているため,強い一体感があります。研究によって創成された「知」

を議論によって授受し合いながらその目標に向かっています。本専攻では,計算機科学やメディア情報学関係の出

身者のみならず,様々な分野を修められた学生の方々が入学していただけるように入試やカリキュラムを整えてい

ます。皆さんもぜひ,知の渦の中に飛び込んで活発な研究活動を行っていただきたいと望んでおります。

知能情報学専攻  山本 章博

8Graduate School of Informatics

Department of Intelligence Science and Technology

9 Graduate School of Informatics

Department of Intelligence Science and Technology

● 知能情報学専攻

知の解明と構築

:人間らしいしなやかな情報処理の実現

生理学 心理学情報メディアソフトウェア科学

Department of Intelligence Science and Technology

10Graduate School of Informatics

授業科目

修士課程科目

生命科学基礎論 認知科学基礎論 情報科学基礎論 生命情報学基礎論 生体情報処理演習 認知科学演習 

ソフトウェア基礎論 パターン認識特論 人工知能特論 知能情報システム特論 マルチメディア通信 

音声情報処理特論 言語情報処理特論 コンピュータビジョン ビジュアル・インタラクション 知能情報学特別研究

知能情報学特殊研究1 知能情報学特殊研究2

博士後期課程科目

生体・認知情報学特別セミナー 知能情報ソフトウェア特別セミナー 知能メディア特別セミナー

メディア応用特別セミナー 生命情報学特別セミナー 知能情報学特別セミナー

教授

乾 敏郎 山本章博 西田豊明 黒橋禎夫 奥乃 博 松山隆司 美濃導彦(メ) 岡部寿男(メ)

河原達也(メ) 阿久津達也(化学研究所) 土佐尚子(特定教授)(メ) 正木信夫(㈱国際電気通信基礎技術研究所)

准教授

五十嵐 淳 稲垣耕作 河原大輔 矢田哲士 椋木雅之(メ) 宮崎修一(メ) 森 信介(メ)

梁 雪峰(特定准教授)CUTURI, Marco(特定准教授) 西村竜一(㈱国際電気通信基礎技術研究所)

講師

細川 浩 水原啓暁 川嶋宏彰 延原章平

助教

前川真吾 笹岡貴史 中澤巧爾 吉仲 亮 大本義正 柴田知秀 糸山克寿 市瀬夏洋 舩冨卓哉(メ) 秋田祐哉(メ)

林田守広(化学研究所) 田村武幸(化学研究所) 中澤敏明(特定助教) 西出 俊(特定助教)

村脇有吾(特定助教)(メ) TUNG, Tony(特定助教)(メ) 末永幸平(特定助教)

(メ):学術情報メディアセンター

教員名簿

講座・分野一覧

講座名 分野名 研究指導分野 担当教授

生体・認知情報学 生体情報処理 神経・脳の動作原理と情報処理の基本原理

認知情報論 人間の認知過程における情報処理機構 乾 敏郎

聴覚・音声情報処理(連携)音声言語の観測技術および信号処理技術 正木信夫

知能情報ソフトウェア ソフトウェア基礎論 モデル化と抽象化の基礎となる情報理論

知能情報基礎論 知的な情報処理機構のための情報のモデリング 山本章博

知能情報応用論 インタラクションの理解とデザイン 西田豊明

知能メディア 言語メディア 自然言語処理,知識情報処理 黒橋禎夫

音声メディア 音声・楽音・環境音の認識・理解・変換・生成方式 奥乃 博

画像メディア 画像認識・理解,ヒューマンコミュニケーション,エネルギーの情報化 松山隆司

メディア応用(協力) 映像メディア 映像メディアを介した人間とシステムの対話方式 美濃導彦

ネットワークメディア マルチメディア情報ネットワークの実現技術 岡部寿男

メディアアーカイブ 音声言語処理を用いたディジタルアーカイブの高度化 河原達也

生命情報学 ゲノム情報の解析

生命システム情報学(協力)バイオ情報ネットワーク バイオ情報解析のための情報技術 阿久津達也

Department of Intelligence Science and Technology

11 Graduate School of Informatics

生体・認知情報学講座

高度に発達した生体,特に人間の情報処理過程を生理学的,認知科学的に探究し,応用分野へ展開することをめざしま

す。このため,神経系の情報処理機構を分子・生化学,生理学的方法で解析し,その動作原理を解明し,新しい情報処理シ

ステムの創出を図ります。また,人間の感覚,知覚,学習,記憶,思考,推論の過程を認知科学的視点や,計算論的神経科

学の視点から分析し,それらの情報処理メカニズムを追究します。

―生体が用いる情報とその処理機構の解明―

脳はゲノム情報をもとに自発的に構築されます。私たちは脳の情報処理過程がどのような物質的基盤の上に成り立

っているのかを教育,研究します。具体的には非言語コミニュケーション,感覚情報処理,体内環境制御,自発的形態

形成について生物学的実験をもとに数理モデルを作成,検証することで明らかにしていきます。

(細川 浩・前川真吾)

―人間の脳のシステム的理解をめざして―

人間の高次の認知機能がどのようにして実現されているのかに関して実験と理論の両面から教育・研究します。具

体的には,視覚のパターン認識,異種感覚情報の統合,言語・非言語コミュニケーション機能,運動制御などが脳内で

いかに実現されているかを,心理学的

実験とニューラル・ネットワークモデ

ルによるシミュレーションという方法

で解明します。また人間の脳活動のイ

メージングによって脳機能を計測しま

す。

(乾 敏郎・水原啓暁・笹岡貴史)

―音声を生成し聴取する機構を探る― (連携先:国際電気通信基礎技術研究所(ATR))

コミュニケーションの最も基本的で重要なチャンネルの一つである音声。それを生み出す生成機構、さらに音響信

号として伝達された後に脳で理解するまでの聴覚情報処理機構を、最新の観測技術と音響処理技術を駆使して検討しま

す。音声生成機構の研究では、MRI等の可視化技術に基づき音声生成モデルを構築します。また、聴覚処理機構の研究

では、実験と計算機シミュレーション、さらに機能的MRIを用いた脳活動観測に基づき、聴覚の音声聴取のメカニズム

に迫ります。

(正木信夫(ATR)・西村竜一(ATR))

聴覚・音声情報処理連携ユニット

認知情報論分野

生体情報処理分野

イメージの回転に関わる脳内ネットワーク

Neuronal cells

上下逆転して見てください。

Department of Intelligence Science and Technology

12Graduate School of Informatics

知能情報ソフトウェア講座

人間のような柔軟な情報処理を実現するために,情報の構成要素と構造を明らかにし,情報を抽出,認識,理解,記

述する処理系を研究します。さらに,コンピュータソフトウェアの基本であるモデル化と抽象化の基礎となる理論を体

系的に研究します。

―人の知的活動を支援するソフトウェアの構成法―

人間による知的な情報処理をコンピュータで行うためには,対象としている

問題の抽象化および形式化が必要となります.そこで,数理論理学の手法を用い

た形式化による,問題およびソフトウェアの意味を厳密な定式化とソフトウェア

の性質を推論する手法の研究・教育を行っています.特に,数理論理学と型理論

との相互関係に注目しながら,関数型,オブジェクト指向や,モジュラリティ,

セキュリティ,さらには並列プログラミングといった,これからのソフトウェア

開発で欠かせない概念・技術を使ったソフトウェアの正しさの自動検証に取り組

んでいます.

(五十嵐淳・中澤巧爾・末永幸平)

―知的な情報処理を支える基礎理論の構築―

人間の行っている知的な情報処理を形式化し,それを構成する基礎理論

とその実現手法について研究します。具体的には,数理論理学,推論方式,

機械学習の理論,自己組織化などを用いながら,帰納論理,知識発見,仮説

推論,進化コンピュータなどの人工知能的情報処理に関する教育・研究を行

います。

(山本章博・稲垣耕作・吉仲 亮)

知能情報基礎論分野

ソフトウェア基礎論分野

Department of Intelligence Science and Technology

13 Graduate School of Informatics

知能メディア講座情報を表現,蓄積,伝送するための基本メディアとして言語,音声,画像を取り上げ,各メディアによって表され

る多様な情報内容を解析,認識,理解する方法および情報の持つ意味内容を効果的に表現・伝送するためのメディア生

成,編集法について教育・研究します。

―言語を理解するコンピュータをめざして―

言語の仕組み,それを用いたコミュニケーションの仕組みを計算機が扱える正確さで解明するという理論的研究と,

それによって情報検索,自動翻訳,マンマシンインタフェース等をより高度化して人間の活動を支援するという工学的

研究を行っています。具体的には次の研究に取り組んでいます。

- 言語理解の基礎的研究:述語項構造(誰がどこで何をする)に関する知識の大規模自動学習,および,このような知

識に基づく文章理解,すなわち文章中の語/句間の関係

性の解析について研究を進めています。

- 構造的言語処理による情報検索基盤技術の研究 :語を

単位とするのではなく述語項構造を単位とし,言語表現

の多様性を吸収し,クラスタリング・対話に基づく鳥瞰

図的把握を提供する,次世代情報検索の基盤技術につい

て研究しています。

- 自動翻訳の高度化に関する研究 :計算機による自動翻

訳をより人間的な翻訳に近づけるために,言葉の理解・

パラフレーズを通した翻訳や,大量の用例を利用した次

世代翻訳方式の研究を行っています。

(黒橋禎夫・河原大輔・柴田知秀・中澤敏明・村脇有吾)

言語メディア分野

―インタラクションの理解とデザイン―

人間同士のインタラクションを媒介し,社会知を増進する知能情報システムの設計・構築・応用・評価を研究テー

マとして掲げている.インタラクションの理解の研

究では,インタラクションの音響・映像・生体計測

を行い,分析を通してその性質を解明するとともに,

インタラクションのモデルを構築する.インタラク

ティブシステムの研究では,インタラクションを通

して知識共有を行うとともにコミュニケーションプ

ロトコルを学習的に構築する能力を持つエージェン

トを研究開発する.認知的デザインの研究では,人

間の認知特性が現れる具体的な現象を手がかりに,

人工物の表現や機能,制御,さらには,インタラク

ションそのものを設計することを目指す.

http://www.ii.ist.i.kyoto-u.ac.jp/

(西田豊明・大本義正)

知能情報応用論分野

用例に基づく自動翻訳

ICIE

• RGB

• iCorpusStudio

• Simulated Crowd

ICIE:

Multiparty conversation recorder

Eye tracker

Eye tracker (wearable)

Polygraph Optical motion capture systems

Cluster computer

IMADE:

SmartInFill

• photo realistic HAI

• 3

• AR

Department of Intelligence Science and Technology

14Graduate School of Informatics

―音声・音楽・環境音・混合音を認識・理解するコンピュータをめざして―

人は,聴覚単独あるいは視覚と統合して事象の様子や変化を認識・理解する優れた能力を持っています。ざわつい

た会場でも聞き分けるカクテルパーティ効果や複数の声を聞き分けた聖徳太子のような機能の実現,特に,ロボット聴

覚の高機能化のために,教育・研究を進めます。具体的には,音声対話だけでなく,音楽

や音声を聞き分け,環境音を擬音語として認識・理解するために,信号処理,人工知能,

認知科学だけでなく情報統合の立場から取組みます。

(奥乃 博・糸山克寿・西出 俊)

―画像を認識・理解するコンピュータをめざして―

人間は,視覚を通して物事の様子や変化を認識・理解する優れた能力を持っています。これに匹敵する機能を持っ

た画像認識・理解システムを実現するためのハードウェア,ソフトウェアを教育・研究します。具体的には,ダンスや

スポーツをする人間などの生の姿・形・色を完全な3次元映像とし

てそのまま記録する「3次元ビデオ」や,人間の意図や行動の意味

を理解してその状況にあった情報提示や誘導を行うヒューマンコミ

ュニケーションシステム,家庭やオフィス,工場,さらには地域コ

ミュニティにおけるスマートエネルギーマネジメントシステムなど

の実現を目指します。

(松山隆司・川嶋宏彰・延原章平)

画像メディア分野

音声メディア分野

聞き耳を立て,聞き分けるロボット

情報コンシェルジェ

3次元ビデオ

Department of Intelligence Science and Technology

15 Graduate School of Informatics

メディア応用(協力)講座

コンピュータによるメディア処理は,そのメディアがもつ大きな表現力と,情報収集力,実時間対話能力など,これま

でになかった新しくて大きな可能性を秘めています。このようなメディアの持つ能力を最大限に活用できる応用分野として,

画像・言語・音声が統合された映像メディアを利用する新たな教育環境の構築を通して,メディア応用技術の教育・研究を

行います。大学の教育現場において実際に使えるものを作る喜びを体験できます。

―映像を通したコンピュータとの対話をめざして―

計算機システムは,人間がコミュニケーションを行う上でやり取りする情報を伝達する“情報メディア”となってい

ます。計算機システムを介した円滑なコミュニケーションを実現するための“情報メディア”技術を探求し,人間の知的

活動におけるコミュニケーションの観測,蓄積,認識を研究しています。具体的

な研究領域は以下の通りです。

・講義室における人間同士のマルチメディアコミュニケーションを支援する教室システム

・調理を支援するためのキッチンにおける行動の認識

・多様なセンサ観測情報に対するプライバシ保護のための実世界情報の抽出

・さまざまな物体の仮想化を目的とした形状,動き,表面特性などの獲得

・バーチャルスタジオシステムにおける演者と仮想物体とのインタラクション

(美濃導彦・椋木雅之・舩冨卓哉)

―ユビキタスネットワーキング環境の実現をめざして―

あらゆるものにコンピュータとネットワーク機能が組み込まれ,いつでもどこでもネットワークに接続される“ユ

ビキタス”ネットワーク社会。その構成技術として,IPv6アーキテクチャ,マルチメディアデータの高品質伝送技術,

モバイル技術,ゼロ設定技術,セキュリティなど,次世代インターネットに

関する研究を行っています。また,エネルギーの情報化のための電力ルーテ

ィング,電源割り当て,資源予約や割り込みなどに,インターネット技術を

応用するための研究も行っています。

(岡部寿男・宮崎修一)

―音声言語処理を用いたディジタルアーカイブの高度化―

マルチメディア情報の蓄積・発信のための高次ディジタルアーカイブを構成する基盤技術について研究します。具体的

には,音声・映像コンテンツのブラウジングを容易にすることを目的として,(1)適切なインデックスや内容を表すタグを

自動的に付与するための音声認識・言語理解,(2)音声・映像のストリームからの

サムネイル要約の自動生成,(3)利用者の要求に合致する情報・コンテンツを対話

的に検索する方式,について研究しています。

(河原達也・森 信介・秋田祐哉)

メディアアーカイブ分野

ネットワークメディア分野

映像メディア分野

オンデマンド型電力ネットワークのデモ展示の様子

Department of Intelligence Science and Technology

16Graduate School of Informatics

生命情報学講座

―ゲノム情報の解読をめざして―

ある生物が持つ遺伝情報の全てをゲノムと言い,その実体はDNAと呼ばれる化学物質です。DNAの構造は,4種類

の塩基(A,G,C,T)が線状に連なった文字列と見なすことができます。この文字列は,たかだか数ギガ塩基の長

さで,塩基の並びもでたらめに見えますが,生物の発生や行動や個性を創発する

情報がその中にコードされています。私たちは,情報科学のさまざまな技法を用

いて,この文字列に潜む情報を解読し,生物の本質に迫ろうとしています。

(矢田哲士・市瀬夏洋)

タンパク質立体構造と相互作用解析

生命システム情報学(協力)講座

生命は非常に複雑なシステムであり,特に細胞レベルでは,様々な種類の化合物,タンパク質,遺伝子などが相互作

用しています。生命システム情報学講座では,生命を相互作用のネットワークから成るシステムととらえ,情報学という

視点を中心に,そのシステムを解明・理解するための教育・研究を行っています。

―バイオ情報解析のための情報技術―

バイオ情報ネットワーク分野では,遺伝子間,タンパク質間,化合物間,および,それらにまたがる相互作用の推定

や,相互作用ネットワークの解析のためのアルゴリズムを数理的手法に基づいて開発します。また,配列解析やタンパク

質の高次構造や機能の推定など,バイオイ

ンフォマティクスにおける他の課題につい

てのアルゴリズムやソフトウェアの開発に

も取り組みます。

(阿久津達也・林田守広・田村武幸)

バイオ情報ネットワーク分野

ゲノム配列に現れる長さ k の塩基配列の頻度を可視化した八面体

D1

D2

D3

D5

D4