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2015/5/20 1 てんかん 基礎知識~症例 佐藤病院 リハビリテーション科 理学療法士 中野 るりあ 平成27520日(水) てんかん:Epilepsy 【定義】 種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患 大脳ニューロンの過剰な発射から由来する反復性の 発作を主徴とする 多種多様な臨床症状ならびに検査所見を伴う 反復する大脳ニューロンの異常放電発作 基礎知識 1974年:WHO(世界保健機関) 疫学 人口のおよそ0.51%の罹患率 3歳以下:発病が最も多い 成人:発病者は減少 高齢者:脳血管障害等を原因とする発病が増加 てんかんの機序 Imbalance theoryGABAニューロン(抑制性神経細胞) グルタミン酸ニューロン(興奮性神経細胞) 興奮系 賦活 抑制系 低下 ニューロン 過剰興奮 *消失のメカニズムは現在も不明 ビタミンB6 グルタミン酸:GABAの前駆物質 GABAの合成に酵素(グルタミン酸デカルボキシ ラーゼ)が関与 ビタミンB6はこの酵素活性に必要 ビタミンB欠乏GABAの生成抑制 セロトニン ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑え,情動 や精神のバランスを整える作用のある伝達物質 過剰になるとてんかんになりやすい. 不足によっててんかんになりやすい. 脳科学的に何の確証も得られていない

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2015/5/20

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てんかん基礎知識~症例

佐藤病院 リハビリテーション科理学療法士 中野 るりあ

平成27年5月20日(水)

てんかん:Epilepsy

【定義】種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患

大脳ニューロンの過剰な発射から由来する反復性の発作を主徴とする

多種多様な臨床症状ならびに検査所見を伴う

反復する大脳ニューロンの異常放電発作

基礎知識

1974年:WHO(世界保健機関)

疫学

人口のおよそ0.5~1%の罹患率

3歳以下:発病が最も多い

成人:発病者は減少

高齢者:脳血管障害等を原因とする発病が増加

てんかんの機序

『Imbalance theory』

GABAニューロン(抑制性神経細胞)

グルタミン酸ニューロン(興奮性神経細胞)

興奮系

賦活

抑制系

低下

ニューロン

過剰興奮

*消失のメカニズムは現在も不明

ビタミンB6

•グルタミン酸:GABAの前駆物質

•GABAの合成に酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)が関与

•ビタミンB6はこの酵素活性に必要

•ビタミンB欠乏⇒GABAの生成抑制

セロトニン

•ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑え,情動や精神のバランスを整える作用のある伝達物質

•過剰になるとてんかんになりやすい.

•不足によっててんかんになりやすい.

⇒脳科学的に何の確証も得られていない

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分類

【原因による分類】

特発性てんかん 症候性てんかん

『原因が特定できない』

脳に器質的問題がない 遺伝的要因 精神的ストレスの影響 小児期~思春期に多い

『原因が特定できる』

脳に器質的問題がある 脳血管疾患 脳腫瘍 奇形・萎縮など

分類

【発作による分類】

部分発作 全般発作二次性全般発作

未分類

過活動部位(焦点)

脳の一部 脳全体 一部⇒全体小児痙攣など

症状 焦点に依存 全身的 限局⇒全身

単純発作 複雑発作

意識障害の有無 なし あり

分類

発作出現

発作部位

意識障害

症状

発作型

部分

全般

ありほぼあり

運動感覚自律神経精神

意識減損認知感情精神運動

強直脱力意識減損ミオクロニー

単純部分発作 複雑部分発作全般発作

なし

全般発作 症状

①欠神発作:覚醒時,意識障害を起こして動作が停止する

②ミオクロニー発作:四肢や首に,急激な筋収縮(ピクつき)

③間代発作:全身や四肢の筋がガクンガクンと反復性の屈曲性けいれんを起こす

④強直発作:全身や四肢の筋を強直させる発作(発作の発見時に一過性に呼吸を止めてチアノーゼが見られることが多い)

⑤強直間代発作:強直発作から間代発作へと移行

⑥脱力発作(失立発作):筋が突然脱力

*レンノックス症候群:数秒~20秒程度の短い非定型欠神発作

(短い強直発作(tonic spasms)や脱力発作の合併が多くみられる)

部分発作 症状

焦点:運動野周囲 ⇒ 運動発作

不随意運動体全体が片方に引かれる

目や頭が片方に強く回転する

手足が勝手に動く

勝手に声が出てしまう

ジャクソン発作→不随意運動が一部から全身に広がる

部分発作 症状

焦点:感覚野周囲,

後頭葉 ⇒ 感覚発作

身体感覚発作(身体の一部にチクチク・ピリピリ・ヒリヒリなどしびれに似た感じ)

聴覚発作 (音が低音になる,聞こえない,強く響くなど)嗅覚発作 (妙な,あるいは硫黄の様な臭い など)味覚発作 (苦味,酸味など異常味覚を感じる など)

眩暈発作 (体の動揺,周囲の回転などを感じる など)

視覚発作 (輝,閃光,眼のかすみ,多様な形のものがみえる,半盲,全盲,暗くなるなど)

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部分発作 症状

焦点:側頭葉 ⇒ 自律神経発作

嘔吐

動悸

血圧上昇または低下

呼吸促迫,過呼吸

顔面蒼白または紅潮

上腹部不快感(胸の締め付け感)

排ガス,排便,尿失禁

臍周囲や心窩部の疝痛発作

部分発作 症状

焦点:側頭葉 ⇒ 精神発作

認識発作 (無反応など)記憶障害発作 (健忘など)言語障害発作 (意味理解困難,発語困難 など)幻覚発作 (無い物が見える,既視体験,未視体験 など)

錯覚発作(違うものに見える,巨視症,小視症,距離認識の変化 など)

感情発作(不安,恐怖,抑うつ,離人症,不機嫌,空しさ,怒り など)

重積状態(status epilepticus:SE)

『臨床的あるいは電気的活動が少なくとも5分以上続く,または回復なく反復し5分以上続く状態』

•全身痙攣重積状態(generalized convulsive status epilepticus:GCSE):≒全般発作の持続

•非痙攣性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus:NCSE):≒非痙攣性部分発作の持続

•難治性てんかん重積状態(refractory status epilepticus:

RSE):初期治療(薬剤)後も発作が終息しない場合

非痙攣性てんかん重積状態:NCSE

【症状】•痙攣発作を呈さない

•凝視,反復性の瞬目・咀嚼・嚥下運動,昏睡状態,過換気後遷延性無呼吸発作,心静止,呼吸停止による突然死,認知症,さまざまな高次脳機能障害

【治療】•抗てんかん薬の静脈内投与

【検査】•脳波モニタリング

非痙攣性てんかん重積状態:NCSE【論文】

• ICUにおける痙攣を伴わない昏睡例236例中19例(8%)がNCSEであった.

•入院時に意識障害を伴った重積状態患者94例のうち24例(25.5%)がNCSEであり,入院後にNCSEとなった例も含め32例(34.0%)であった.

• GCS合計7点以下の深昏睡状態例580例のうち,1カ月以上にわたる深昏睡状態から覚醒した非外傷例6例の検討した.2例でNCSEが認められ,抗てんかん薬投与開始後に覚醒した.(NCSE持続期間は推定2~数カ月)

• ICU入室例のうち非痙攣性てんかんを呈した49例の死亡率は33%(16例)で,特に非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)を呈した23例の死亡率は57%(13例)に及んだ.

*昏睡や死亡率への関与が示唆されるが,専門医でも認識は不十分

発作のきっかけ

•誘発因子:発作が起きる刺激や出来事

•助長因子:発作が起こりやすくなる状況(精神的緊張,意識の変化,睡眠不足,発熱など)

Aura•Aura=前兆•発作の前,前兆として現れる小発作•本人だけが感じる主観的な感覚発作現象

例)悪寒,不安,疼き,灼熱感,閃光など(焦点により様々な症状を呈す)

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脳波

•国際10‐12法:•基準電極:A1・A2(両側耳朶)•測定:各電極と基準電極の間の電位差を測定

鑑別

てんかんに似た疾患が多く鑑別が必要

血液検査,既往歴,画像情報,服薬状況など多角的に診る必要がある

【てんかんと間違われやすい疾患】

TIA 熱性痙攣 憤怒発作

心原性失神 転換性発作 チック

ナルコプレシー 水頭症発作 薬物中毒

パニック障害心因性非てんかん発作(PNES)

偏頭痛

など

治療法

•誘因(睡眠不足,飲酒など)がある場合⇒患者指導による発作回避

•発作が誘因なく反復する場合⇒薬物治療を開始

•2・3種類の薬剤を最大用量まで使用しても改善しない場合

⇒外科的治療を検討

•外科治療後残存・外科治療適応外の場合⇒迷走神経刺激療法(VNS)

外科治療法①皮質焦点切除術:焦点のある皮質部分を切除する方法.発作の起こり方や広がり方によって切除範囲が変わる.(代表例:側頭葉)

②多葉切除術:焦点が葉をまたいでいる場合,複数の葉を切除

③半球切除術:大脳の片側半分にわたる広い障害がある場合

④脳梁切除術:脳梁を切除し,発作の波が伝わるのを防ぐ

(代表例:脱力発作,失立発作,レノックス・ガストー症候群や両側の前頭葉てんかんなど)

*発作が消失するのは患者の約半数.残り半数は発作の減少や薬によるコントロールが改善,QOLが向上.

治療法迷走神経刺激療法

•直径5cm弱のパルスジェネレータを使用

•頸の左側にある迷走神経に電極を巻き付け,一定の間隔で繰り返し電気刺激を送る.•てんかん発作軽減が期待される.

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てんかん薬とは?

•大きく分けて2通り•抑制を強める⇒抑制性Cl⁻チャネル

•興奮を抑える⇒興奮性Na⁺チャネル興奮性T型Ca⁺チャネル

興奮系鎮静

抑制系賦活

ニューロン電位正常化

てんかん患者の生活【生活習慣】発作を誘発するためストレスや寝不足に注意し,規則正しい生活を送る

【妊娠・授乳】薬剤は可能な限り1剤に減量,奇形の可能性の高い薬剤は切り替え,授乳は要相談

【免許】

•過去5年以上発作がない患者•過去2年以上発作がなく,今後も数年間は発作を起こす恐れがないと判断された患者• 1年間の経過観察で,意識障害や運動障害を伴わない発作しか起こしていないと判断された患者• 2年間の経過観察で,睡眠中の発作しか起こしていないと判断された患者

研究

• 「Embrace」:てんかん発作が検知できるウェアラブル.皮膚の電気活動(EDA)を測定.万一,発作により高値が検出されると

設定した端末に異常を伝えられる.

• 「大麻の成分がてんかん発作を減らす」

米国ニューヨーク大学が報告

他の治療でも効果のなかった患者に対し,医療用マリファナ「カナビジオール」を使用すると,発作回数が平均約54%減少した.

• 「てんかん薬が多発性硬化症の失明を防ぐ」米国神経学会(2015)

フェニトイン服用者はプラセボ群と比べて,神経線維層のダメージが30%少なく,網膜は34%厚かった.

症例提示

3回の髄膜腫摘出術後,不随意運動により

日常生活が著明に制限されている症例

はじめに

•訪問リハビリにて介入している症例である.

•3回目の手術の1ヶ月前から介入開始し,退院後2年が経過.

•てんかん様の不随意運動が著明で,今年に入り尿失禁,脱力,易疲労等,病状が悪化している.

•介入が長期化し解釈や方向性に見直しが必要だと感じた.

•てんかんについての知識を踏まえ,本症例の身体で起こっていることを検討したい.

基礎情報

70歳代前半 女性

診断名: 傍矢状洞髄膜腫

合併症: 症候性てんかん

主訴:

「体がいうことを聞いてくれない,早く死にたい」

HOPE:

「夫に迷惑のかからないように,

できるだけ自分の事はできるようになりたい」

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社会的情報

介護保険:要介護5•デイサービス(2回/W:利用開始から約半年)•車椅子・ベッド・トイレ用手すりの貸与

•訪問看護(2回/M)•訪問リハ(2回/W,PT・OT)

家族:夫と2人暮らし(子供なし)• 夫「自分一人で看れる間は誰の手も借りない」• 発症以降,家事一切は夫が行う

職業:映画評論(雑誌への寄稿)• 外交的な性格で旅行などが好きだった• 2度目の手術まで海外で生活

現病歴(経過)H11. アメリカで体調変動あり,帰国しての検査を勧められる.

H12.帰国.「髄膜腫」の診断を受ける.

開頭手術施行(腫瘍の70%摘出)

術後1ヶ月 アメリカへ戻るが,痙攣発作を起こすようになる.

H13.体調悪化に伴って,再帰国.

再摘出術施行(腫瘍4㎝に肥大,95%摘出)

H22.9 運動機能低下し,訪問リハビリ介入開始となる.

H24.6 症状悪化,再手術施行(腫瘍5㎝に肥大,95%摘出)

H24.7 回復期リハビリテーション病院に転院

H24.11 自宅退院に伴って,訪問リハビリテーション再開

H24.12 訪問リハビリテーションをPT・OTの週2回体制へ

H25.10 MRI:腫瘍2.5㎝まで肥大,手術不可のため経過観察

3回目の術前機能(H24.6)反射(Rt./Lt.):

• BTR・TTR:± / ±• PTR・ATR:- / -• Babinski-R・Hoffman-R:- / -

ROM-t:Full range

MMT(Rt./Lt.):・三角筋:3 / 3+ ・ 腹直筋:2・腸腰筋:2 / 2+ ・大殿筋:2 / 2・大腿四頭筋:2 / 2 ・前脛骨筋:2 / 2+・下腿三頭筋:2 / 2+

*脱力感(⧺),起居動作:重度介助,移動:車椅子(自操)⇒2ヶ月前まで歩行練習

H24

・運動野(4・6)・感覚野(1・2・3)

運動野・感覚野とも下肢を中心に上腕付近まで圧迫されていた.

服薬状況

•アレビアチン散⇒フェニトイン(PHT):抗てんかん薬

•リボトリール⇒クロナゼパム:抗てんかん薬

•セルシン⇒ジアゼパム:抗不安・重積状態改善薬

•サインバルタ⇒セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:抗うつ薬

•デパケン・バレリン⇒パルブロ散ナトリウム(VPA):抗てんかん薬

•リピトール⇒脂質異常改善薬

•ベシケア⇒尿失禁治療薬

•マグラックス⇒下剤

•セルベックス⇒胃腸薬

•レンドルミン⇒睡眠導入

抗けいれん薬のフェニトイン,カルバマゼピンなどは,この薬の代謝を促進し,

血中濃度が低下させる可能性

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身体機能(H27.5)

反射(Rt./Lt.):大胸筋反射 +/+ ,BTR ⧺/+PTR +/+ ,ATR +/±

Babinski-R・Hoffman-R -/-

Brunnstrom Stage:上肢Ⅴ/Ⅴ,手指Ⅴ/Ⅴ,下肢Ⅲ/Ⅱ~Ⅲ

MAS:上肢0/0,手指0/0,下肢1/0

感覚:下肢表在→右:中等度鈍麻,左:中等度鈍麻深部→右:中等度鈍麻,左:重度鈍麻

身体機能(H27.5)

右 ROM 左 ROM肘関節屈曲 4 n.p 4 n.p肘関節伸展 4 n.p 4 n.p肩関節屈曲 4 n.p 4 n.p肩関節伸展 4 n.p 4 n.p手指屈曲 4 n.p 4 n.p手指伸展 4 n.p 4 n.p股関節屈曲 3 120° 3 125°股関節伸展 2 0° 2 0°膝関節屈曲 3 n.p 2 n.p膝関節伸展 3 n.p 1 n.p足関節底屈 2 40° 2 45°足関節背屈 3 0~5° 1 0~5°体幹屈曲 2体幹伸展 2

MMT・ROM:

【姿勢】

頭部:左側屈 肩:右下制,左挙上 体幹:右側屈 骨盤:右下制 股関節:内転・内旋位

感覚「右のお尻が大きくて重い」

【姿勢】

肩:伸展 体幹:前屈 胸椎:後弯減少 腰椎:過前弯

骨盤:前傾 足関節:底屈位

感覚:「すぐに倒れそう」

筋緊張 異常感覚

『臀部異物感』

便秘が長期化すると自覚

《パターン》横一文字丸い物岩みたい他…

『右踵の疼痛』

毎朝,刺されるような痛み

肢位の変化や服薬で改善

『胸のざわつき』

下肢不随意運動出現前に自覚

《パターン》冷感灼熱感

引き攣り感他…

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異常感覚

『臀部異物感』

便秘が長期化すると自覚

『右踵の疼痛』サインバルタ服薬や肢位の変化でも改善

『胸のざわつき』下肢不随意運動出現前に自覚

アウラの可能性

感覚野の圧損傷部が下腿三頭筋の筋緊張亢進を

「痛み」と知覚?

サインバルタの持続時間は6.9±2時間.

早朝に切れる計算となる

カレンダーを用いて観察臀部の異常感覚は

便秘の前後に出現しやすく,排便後消失・軽減する傾向

身体機能(H27.5)

不随意運動:•右顔面・頸部~上肢⇒頻度は多いが微弱

(1年で出現頻度は増加)•右下肢⇒上半身に比べ頻度は少ないが粗大

• 動きが移動する自覚有り

• 数日前から「そろそろ」といった申告があることも

•出現のきっかけ• 不明

• 努力性運動

• 薬の飲み忘れ

•期間⇒5分程度が長いと3日

単純部分発作(時々,ジャクソン発作)焦点:運動野内側

身体機能(H27.5)

基本動作:寝返り→軽介助起きあがり→監視~軽介助坐位保持→軽介助(約3ヶ月前は手すり把持で自立)移乗→重介助~全介助(約3ヶ月前は監視~軽介助)立位保持→中~重介助*移乗・立位保持:脱力あり夫の介助下では全介助

食事動作:左側への食べこぼしあり,動作の停止

書字動作:手の震え・小字・動作の停止

ADL:FIM 79点/126点減点項目:認知項目以外すべて

悪化前の着眼点・目標

•坐位:•股関節内旋:骨盤帯の固定•体幹伸展:骨盤前傾・背部伸筋群による体幹支持

*左下肢の分離不十分,感覚の左右差:偏った支持基底面に重心を保持しようと代償が認められた

•痙攣発作後の極度の疲労・脱力

機能的坐位の安定坐位での活動及び移乗動作の獲得

退院後低下した全身の耐久性の維持・向上

反省点

•髄膜腫に対する摘出術のほとんどは,袋状になっている腫瘍を取り除く方法で予後良好

•皮質の損傷は,圧迫によるものと推察してアプローチしていたが,術式が異なっていた

•異なる術式により,脳静脈洞血栓症に近い症状を呈している

【術式】

①脳静脈洞を巻き込む形で左右に増殖したため,造影検査で副側路の確認を行った.

②副側路の形成が認められたため,手術前日にカテーテルにて脳静脈洞を閉塞し腫瘍の栄養血管を塞いだ.

③翌日,手術にて開頭しやや小さくなった腫瘍を静脈ごと摘出.

悪化前のアプローチ

•視覚で確認しながらの下肢自動運動

•腹臥位を用いた筋緊張調整

•体幹屈曲を意識付けての起居動作練習

•坐位での下肢荷重及び側方リーチ

•呼吸を用いた重心移動及び動作練習

•立位・移乗動作練習

•歩行器歩行練習

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悪化•排尿トラブル•昨年末より尿失禁あり•トイレ・オムツの介助を巡って口論増加•倦怠感の訴えが増え,身体の鈍重感増加•泌尿器科受診,ベシケア処方後先月頃から失禁なし

•痙攣•介入時ほぼ常時,頭頸部の痙攣あり•下肢の不随意運動も平均1.5回/M(以前は1回/2M)•右上肢の痙攣や動作の停止が増加

•脱力•下肢・腹部の緊張が維持困難•発揮にもタイムラグあり,坐位・立位保持困難*現在,車椅子からの転落により右鎖骨骨折受傷

今後の課題

•悪化が一時的なもの(薬剤性など)か,慢性的なてんかん発作や脳腫瘍による器質的変化か

•異常な倦怠感や眠気などが重積状態ではないかとも疑っている

➡様々な可能性を考慮し,方法を修正する必要がある

•鎖骨骨折の為,控えていた運動を再開して変化を見ていく

•器質的な変化の可能性を踏まえ,獲得動作の難易度を下げ,練習には四つ這い,いざりなどを取り入れる必要がある

終わりに

•症例を通じててんかんについて学ぶ機会を得た.

•てんかんは主に服薬にてコントロールするとされるが,症例のように倦怠感など痙攣以外の問題を抱える場合がある.

•変化する状態・身体所見・本人の主観を丁寧に考えていく必要がある.