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CMP Technical Report No. 92 DOS 大学・ 2006 18 Department of Computational Nanomaterials Design ISIR, Osaka University

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CMP Technical Report No. 92

「DOSの原子軌道への分解」

白井光雲

大阪大学・産業科学研究所

2006年8月18日

Department of Computational Nanomaterials Design

ISIR, Osaka University

 

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目 次

1 はじめに 1

2 理論 1

3 GaAsの例 33.1 SCF計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33.2 DOS計算 ー pwbcdの使い方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43.3 tetrahedron法 ー pdosdrの使い方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

3.3.1 pwbcd . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 73.3.2 pdosdr . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 93.3.3 aydosp . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3.4 原子軌道展開の取り方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123.5 pDOSの表現の仕方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

4 pdosdrでの k点メッシュの取り方 14

5 まとめ 16

A label of m components 17

B colors in aydosp 17

0

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1 はじめに

波動関数の原子軌道への分解は既にOsaka2kで実現されており、Technical Reportシリーズの中で何回か取り上げられた [1, 2, 3]。それぞれを相互に参照しあったりするのが大変であり、また時代が変遷するたびにいろいろ改良が加えられ、前に書いていたことと矛盾する部分も出てきて、このあたりで統一的に整理する必要があるように思える。それが本レポートの目的である。このレポートで使用する機能は pwmのバージョンで

VersionNo = ’1.72’

VersionDate = ’08 Jul 2006’

以降である。そして pwbcdのバージョンでは

VersionNo = ’0.90’

VersionDate = ’27 Jun 2006’

以降である。

2 理論

κ種の原子の軌道角運動量が lmの波動関数

ϕκlm(r) = uκ

l (r)Ylm(θ, φ) (1)

は擬ポテンシャルを作成するプログラムで得られる。固体中の波動関数を原子の軌道関数で分解するという場合、基底系の波動関数は、純粋の孤立原子の波動関数を取り扱うのは非常に困難であるので、そのかわりそのブロッホ和を取ったものを用いることとする。これは固体中の原子軌道というものをそういうふうに取ったということであり、定義である。これがベストという保証は無い。ともかく、そうすると基本格子で a番目の原子(κ種)の lm軌道は

ϕk,alm(r) =∑R

exp[ik · (R + Ra)]ϕκlm(r − R − Ra) (2)

とできる。これを結晶中における原子軌道と見なす。固体中の波動関数 ψk(r)のこの原子軌道成分は、差し当たりそれらの内積を取ることで評

価できる。〈ψk|ϕκ

lm〉 (3)

式(3)の評価には、実空間表示で実空間上での積分で行うこともできるが、G空間でのベクトル同士の内積と取るのが計算効率からいって得策である。すなわち∑

G

〈ψk|k + G〉〈k + G|ϕκlm〉 =

∑G

ψ∗k(k + G)ϕκ

lm(k + G) (4)

1

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で評価する。平面波展開法では初めから波動関数は ψ∗

k(k + G)として表されているのでこちらは問題ない。問題は原子軌道を平面波展開することである。

ϕκlm(q) =

∫ϕκ

lm(r)e−iq·rdr

= (2l + 1)il∫ ∞

0uκl(r)jl(qr)r2dr

∫Ylm(q)Pl(cos θ)dΩ

= 4πil∫ ∞

0uκl(r)jl(qr)r2drYlm(q) (5)

となるので、1

Iκl (q) = 4πil

∫ ∞

0uκl(r)jl(qr)r2dr (6)

とすると、Iκl (q)のセットを求めておくと、結局式(4)の評価は、a番目の原子の構造因

子 Sa(q)も含めて〈ψk|ϕκ

lm〉 =∑q

ψ∗k(q)Iκ

l (q)Ylm(q)Sa(q) (7)

でできる。なおこの式(7)から分かるように結晶中の原子軌道 ϕκlm〉は元の孤立した原子の

波動関数の動径成分 Iκl (q)、角運動量成分 Ylm(q)、そして構造因子 Sa(q)からなっているこ

とが分かる。

しかしながらこういうふうに原子軌道 ϕk,almに分解したときの問題点として、

• もともと原子軌道は直交系でない。そのためこのような分解した後の成分は、当然その和をとっても 1とならない。

• また平面波展開された原子軌道は規格化さえされていない。もちろん展開された平面波空間の中で再規格化することはできるが、わざとそうしていない。絶対値を比較したいときがあるからである。

したがって、その成分はあくまで相対的な意味しか持たないことに注意すべきである。

完全なブロッホ和の組 もう一つの注意として、式(2)の中の波数 kについてであるが、それは平面波展開の時は第一ゾーンの中だけで取れば十分であった。つまり

ψk(r) =∑G

ck+Gei(k+G)·r (8)

の展開では kを第一ゾーンに限定しても、それより高いエネルギーの成分は後のGの和の中に含まれているので式(8)だけで励起状態も全て記述できる。しかしブロッホ和(2)の

1本来は Ylm(q)にはマイナスがつくはずだが、実数化した球面調和関数を使っているので問題ない。

2

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場合、kをそのように制限してしまうと、表現できる波動関数が限定されてしまう。平面波展開のときと違い、展開の和の中には励起状態が入っていないので、励起状態を表現できなくなってしまう。つまり kをそのように取ってしまうと、ϕk,alm(r)は完全系ではなくなる。ブロッホ和(2)の場合はこうして kを第一ゾーンに限定するべきではないように思える。これについては後で実例で調べる。

3 GaAsの例

GaAsを例に取り、はじめに従来の全DOSの計算例を示し、その後で部分DOSへの分解の仕方を説明する。

3.1 SCF計算

SCF計算の条件は以下のように取る。

==================== K-Space Setup ==============================

k sampling point set

Nkpts = 2

No NM index in p in c A/gmin i/o star WTK

1 LD -1 -1 -1/ 4 -1 -1 -1/ 4 0.25000 1 4 0.25000

2 XY 1 -1 -1/ 4 -3 1 1/ 4 0.47871 1 12 0.75000

==================== PW_Expansion ==============================

Cutoff in the reciprocal space

am = 3.10000 (rel. units)

kcut = 3.15801 (ab^-1) with 2Pi

Ecut = 9.97300 (Ry)

UNIT of K 1.01871 (a.u.)

Planewave expansion

with NHDIM = 169

Name: LD -1 -1 -1/ 4 Nstr= 4 WTK= 0.250000 NPW= 162

Name: XY 1 -1 -1/ 4 Nstr= 12 WTK= 0.750000 NPW= 164

ポテンシャルの情報も記す。

==================== atomic PPOT ==============================

Ga ca nrl nc pseudopotential read from tape

atom-lda 8-JAN- 2 Improved Troullier - Martins potential

4s( 2.00) rc= 2.50 4p( 1.00) rc= 2.35

As ca nrl nc pseudopotential read from tape

atom-lda 8-JAN- 2 Improved Troullier - Martins potential

4s( 2.00) rc= 2.50 4p( 3.00) rc= 2.50

SCF計算の結果は以下のようになっている。

====================SCF calculation====================

convergence parameters

max iteration : 15

iter Eel deE Xsi nst/bk aglmax

(Ry/cell) (Ry/cell) (Ry^2/cell)

==== =============== ============ ============ ======== =============

3

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1 -0.0090254029 -6.9760E+00 7.0425E-02 5/ 0 0.624308035

2 -0.4061363678 -3.9711E-01 9.0575E-04 5/ 0 0.237960989

3 -0.4127710828 -6.6347E-03 3.2210E-05 5/ 1 0.021868549

4 -0.4129192995 -1.4822E-04 6.4211E-07 5/ 7 0.003967351

5 -0.4129231853 -3.8858E-06 2.5645E-08 5/ 16 0.000715309

6 -0.4129233887 -2.0347E-07 5.1295E-10 5/ 11 0.000085793

7 -0.4129232409 1.4781E-07 3.4848E-11 3/ 8 0.000021200

CG process is stopped because increase in Eel 1.4781E-07

Etot Eel delta E resid iter

============== ============= ========== ========== ===

-17.25697453 -0.41292324 1.478E-07 3.485E-11 7

===== KS levels =====

-0.513307 0.047161 0.283862 0.283862

-0.417444 -0.103171 0.106391 0.193900

3.2 DOS計算 ー pwbcdの使い方

次にDOS計算のやり方を説明するが、はじめは従来の全DOS計算のやり方を説明する。これは Osaka2kの基本マニュアルに書かれていることであるので復習する意味合いでここに述べる。

DOS計算プログラム pwbcdへの入力ファイル bcd.paraは

JobTypedosInput file namegaas.primnumber of division (nkdiv)8number of levels you want to draw (NBUP) usually NEPC8scan zone only (iscan)1print control (ilp)1use symmetry (isymm)1energy unit (ienun=0 for Ry, 1 for eV)0

のようにする。pwbcdの計算結果はファイル dos gaas.outに出力される。まず

========================= DOSMain ==============================

nkdiv per line : 8

nk3dim : 512

N of bands (NBUP) : 8

dim0eng : 4096

Use of symmetry for diagonalization

Decomposition of DOS ON

using pa

n sample k points (nktot: 47

n total k points (nkfull: 564

Upper energy to limit DO: 5.000 (Ry)

4

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-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

Energy \Ry.\

10

20

30

40

50

Sta

tes/

Ry.

DOS of GaAs

図 1: Total DOS of GaAs.

の見出しの後、DOS計算の条件が並べられている。その最後にフェルミ準位の情報などが記されている。

========================= FindEf ==============================

Nel0prim = 8

fixocc = 2.00000E+00

N of electrons 8 are occupied in the ascending order in energy.

N of occupation processe 189

residual of electron num 0.000000

=== Fermi Sort Summary ===

Fermi_Level = 0.424483 (Ry)

at 1 th k-point GM 0 0 0/ 8 (p) 0 0 0/ 8 (c)

Valence Top

= 0.424483 (Ry)

at 1 th k-point GM 0 0 0/ 8 (p) 0 0 0/ 8 (c)

Conduction Bottom

= 0.428412 (Ry)

at 42 th k-point X 4 4 0/ 8 (p) 0 0 8/ 8 (c)

Energy Gap

= 0.003930 (Ry)

with energy resolution for degeneracy 1.00E-03 (Ry)

pwbcdの出力ファイルのうち fort.2を用いて pdosdrに掛ける。まず従来の処理方法である、全DOSを描くことを行う。pdosdrへの入力ファイル pdosdr.inpは

gaas.NONM

4 4 40-0.6 1.0 0.0018 1 12

5

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のようにする。このレベルでのファイルの中身はOsaka2kのマニュアルに説明されている。pdosdrの出力ファイルの内、fort.13を利用してポストスクリプト図を描くのが aydospである。その制御ファイル aydosp.inpは

61-0.6 1.0 150.0 120.0 10.0 50.0 0.376 11 0DOS of GaAs

などどする。一行目は出力ファイル番号である。次がエネルギースケールを与えるものである。最終的なDOS図は図 1に示されている。

3.3 tetrahedron法 ー pdosdrの使い方

もともと pdosdrは全DOSを書くためだけのプログラムではない。部分DOSを描くことを目的としたものである。次にこの本来の機能を使うことを行ってみる。この際いくつかのパラメータの引き渡しに注意が必要となるので、まず全体の流れをつかんでもらうため計算パラメータの受け渡しを図 2で示す。

JobType dos ... nkdiv 8 ... OPTION BEGIN decompDOS ON OPTION END

======================== Decomposition of DOS parameters maxcmp : 8 ncmp0dos in pdoddr.inp contracted decomposition by nkat= 2 NO ik at l 1 1 ga 0 2 1 ga 1 5 2 as 0 6 2 as 1 The actual n of lm components calculated = 4 N of Bloch functions with G block 3

gaas. NONMSPIN-ORBIT 4 4 4 8 MAXCMP 4 NCOMP 1 Ga2s 2 Ga4p 5 As4s 6 As4p -0.6 1.0 0.001 8 1 12

61 -0.6 1.0 150.0 120.0 1.0 10.0 0.376 1 4 1 2 3 4 pDOS of GaAs

renumbering

図 2: Flow of the parameters for pDOS calculation

6

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3.3.1 pwbcd

部分DOSの計算には、前節の pwbcdへの入力ファイル bcd.paraの最後にオプションを指定する。

OPTION BEGINdecompDOS ONOPTION END

これにより pwbcdはDOSを原子軌道に分解する。初期設定ではしない。それはレポート28でも述べられてることであるが、原子軌道に分解するのにポテンシャルを構築するのと同じくらいの計算時間がかかるからである。ファイル dos gaas.outのDOS計算の部分の初めに、分解の条件が書かれている。

=========================

Decomposition of DOS

parameters

maxcmp : 8

The array dimension for pdos

Write this number for ncmp0dos in pdoddr.inp

contracted decomposition by nkat = 2

NO ik at l

1 1 ga 0

2 1 ga 1

5 2 as 0

6 2 as 1

The actual n of lm components calculated = 4

N of Bloch functions with G block 3

Total number of Bloch functions = 15

1 1 - 1

2 2 - 9

3 10 - 15

Type of atomic orbital:

psuedo-wavefunction

と、初めに分解した部分DOSの全種類数(maxcmp)が出力される。基本的には各原子ごとに(nkatごとに)、s、p、d、f と4種類に分解され出力される。したがって、デフォルトでは

maxcmp = nkat× 4 (9)

である。ここの部分には、もともと pdosdrが全電子計算に付随するものとして書かれたことが反映する。擬ポテンシャルではどの原子もこのような s、p、d、f の4種類の軌道を使っているわけではなく、多くは s、pの二つである。その場合は d、f 軌道は形式的に出力するが、値は全て 0である。そこで次の行以下に、実際に擬ポテンシャルとして部分DOSを計算した軌道をリストしてある。つまりGa4s、Ga4p、As4s、As4pの4つの原子軌道に分解される。その出力ファイルにおける番号が、1、2、5、6となる。分解される順番はここに並べられた順である。そしてその順でファイル fort.12、fort.13に出力される。ラベル ik

はそれらの原子の番号である。ファイル dos gaas.outでは、引き続き、原子軌道の質が記述される。まず原子軌道 ϕa

lm

の規格性が試される。つまり⟨ϕa

l′m′ |ϕalm

⟩が計算され、それがどれくらい δl′l,m′mと異なる

かが調べられる。

7

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Normalization factor

Normality of atom 1

1.36E-01 6.11E-20 5.90E-20 6.10E-20

2.33E-20 2.67E-02 1.34E-19 7.35E-19

2.82E-20 1.34E-19 2.67E-02 1.01E-18

2.69E-20 7.35E-19 1.01E-18 2.67E-02

Normality of atom 2

9.50E-02 1.61E-19 1.63E-19 1.56E-19

4.69E-20 5.17E-02 3.93E-19 1.34E-18

4.83E-19 3.93E-19 5.17E-02 2.11E-18

4.41E-20 1.34E-18 2.09E-18 5.17E-02

は、行列要素⟨ϕa

l′m′ |ϕalm

⟩を spxpypz の順で並べたものである。見て分かる通り、非対角成

分は0で原子軌道の直交性は非常に良い。しかし対角成分は1となっていない。次に、GaとAs異種原子間での spxpypz 軌道の重なり積分

⟨ϕa

l′m′ |ϕblm

⟩が試される。

Orthgonality

Combination atom 1 - 2

8.55E-02 9.31E-11 9.31E-11 9.31E-11

9.86E-11 7.66E-03 3.69E-10 3.69E-10

9.86E-11 3.69E-10 7.66E-03 3.69E-10

9.86E-11 3.69E-10 3.69E-10 7.66E-03

異なる原子に属する原子軌道は直交していないはずである。それにも関わらずこの結果は、非対角成分は非常に良い精度で0となっていることを示している。どういうことだろうか?

原子軌道の直交性 もともとの原子軌道は異なる原子同士では直交していないはずである。それにも関わらず上で見たように非対角成分は0となっている。その理由は軌道の対称性にある。異なった二つの原子に属するそれぞれ a、b原子軌道の間の行列要素Eabは強結合近似の記述では Slater Koster表現で与えられる。例えば、a、b原子軌道として s、p軌道であれば

Es,x = αVspσ (10)

ここに (α, β, γ)は二つの原子の間の方向余弦である。原子位置を明示的に示すとEs,x(R1,R2)となる。もちろんこれが 0になることは一般的には無い。

A

B

図 3: (Left) a combination of atom A and B. (Right) atomic orbital representation in acrystal

8

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結晶中では、原子位置RはR = Rl + Rbと、単位胞の位置Rlとその中での基本構造原子の相対位置Rbの和で表される。これを便宜上、(lb)、あるいは (lmn, b)と記そう。ここに l = (lmn)は単位胞のインデックスである。pwbcdの中では原子座標として基本構造原子Rbの全てを分解している。しかし単位胞の位置Rlは区別せず(これは当たり前である。そうしないと無限個の組み合わせが必要となる)、その lに関する和、いわゆるブロッホ和だけを計算している。zincblendeの場合単位胞に2個の原子を含み、この原子軌道分解ではその2個の原子は区別している。しかしそのEs,x(1, 2)と言う場合、Es,x((000, 1), (000, 2))を計算しているのではない。等価の他の単位胞から来ているものものも全て含む、すなわち

Es,x = Es,x((0, 1), (000, 2)) + Es,x((0, 1), (110, 2))+

Es,x((0, 1), (101, 2)) + Es,x((0, 1), (011, 2)) (11)

である。この和のため式(10)の方向余弦は打ち消しあって和は0となる。このように単位胞の中で見ると、一見独立した原子軌道のように思えるものでも、並進対称性により隣の単位胞の原子とも結ばれ、結果として原子軌道としての直交性がなくとも結晶の対称性の理由により直交性が現われることがしばしばある。これを避けて孤立原子のときの性格を引き出したかったら、大きなスーパーセルを用いて、隣の単位胞の原子との相互作用を弱くするというアイデアがある。

3.3.2 pdosdr

pdosdrの使い方は以下のようになる。入力ファイル pdosdr.inpは、

gaas.NONM

4 4 4841 Ga4s2 Ga4p5 As4s6 As4p-0.6 1.0 0.0018 1 12

などとする。第 3.3.1節の pwbcdの出力との対応を見るべきである。この意味は表 1のようにまとめられている。前にも述べたように、もともと pdosdrは全電子計算に付随するものとして書かれている。Osaka2kに移植するとき、入力インターフェースはできるだけ元のものと同じになるように努めたが、それでもいくらか入力フォーマットを変更せざるを得なかった。まず扱う結晶の名前を最初に入れた。部分 DOSの成分数に関しては上の例のように、MAXCMPと NCOMPの二つを指定しなければならないのは不便であるが、これは古い FORTRANで記述するときの妥協線である。部

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-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

Energy \Ry.\

1

2

3

4

5

Sta

tes/

Ry.

pDOS of GaAs

Ga4s

Ga4p

As4s

As4p

図 4: Partial DOS of GaAs.

分DOSへの分解のため取っているディメンジョンは式(9)のようになっている。つまり、今の例GaAsであれば、Ga、Asそれぞれについて s、p、d、f の4種類、合計8種類である。これが MAXCMPに指定すべき数である。しかし実際に擬ポテンシャルとして部分 DOSを計算するのは、Ga4s、Ga4p、As4s、As4pの4つだけである。それらをこの例のように明示的に指定し、その数を NCOMPに入れる。ここに、部分DOS(pDOS)を描くときの原子軌道のラベルを知る必要がある。通常それ

は*.primの中の原子の種類順に行われる。今の例では

Number of atom species2No Name Zat Zval1 ga 31 32 as 33 5Kind of atoms 2

Number of atoms 2L.L. AND U.U. VALENCE ELEMENT

1 1 3.0000 1 ga2 2 5.0000 2 as

となっているので、Ga、Asの順となる。原子の種類というのはプログラム中では nkatという変数で表されるところの既約原子の種類数を意味する。しかしこれだとスーパーセルでは非常に大きな数となり、成分分解が大変になるので nkatがある程度大きくなると2、nspecで表されるところの元素の種類について割り振られる。次に各の原子に関して pから f 軌道の順に並べられる。dos *.outの出力ファイルで確認すると、

2nkmax0dosによって指定される。その初期値は 6である。

10

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表 1: input form of pdosdr.inp. When MAXCMP=0, specification NCOMP is not re-quired.

descriptionNAME name of the crystal with a periodMAGNET specify the magnetic state

(NONM, MAGN, SPIN)NX, NY, NZ segments of BZMAXCMP dimension of decomposed orbitals(NCOMP number of selected orbitals

followed by each name of selected orbitals)ESTART, ENEND, DE energy scale

begin at E =ESTART end at E =ENENDwith spacing DE

NELEC, NB1, NB2 number of electronsspanning from band NB1 to NB2

Number of atom speciesDecomposition of DOSparametersmaxcmp : 8contracted decomposition by nkat = 2NO ik at l1 1 ga 02 1 ga 15 2 as 06 2 as 1

のように原子軌道に通し番号が割り振られる。pdosdr.inpで指定する番号はこの通し番号である。pdosdrの出力ファイル fort.13はDOSをエネルギー順に書き下している。はじめに全

DOSを、次に pdosdr.inpで指定された pDOSをその順にリストする。スピンがあるときはスピンアップに対しての全DOSそして要求があればそれの pDOSをリストする。次にスピンダウンに関してその手順を繰り返す。

3.3.3 aydosp

aydospは pdosdrの出力(特に fort.13)を受け、それをPSファイルに図示化する。その入力ファイル aydosp.inpは

61-0.6 1.0 150.0 120.0 20.0 5.0 0.376 1

11

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4 1 2 3 4DOS of GaAs

のようにする。

表 2: input form of aydosp.inpdescription

IFIL specify file numberEO, EM, minimum and maximum of energy

XM, YM, scale of x- and y- axes (mm)DDOS, DOSM, the tick and full scale of DOSEF, ISPIN Fermi level and spin status

NLINE, JLINE(NLINE) number of pDOS linesfollowed by each pDOS specification

D title

ここでDOS成分の番号付けについて注意が必要である。今度の番号は pdosdrの出力ファイル fort.13に現れる番号である。つまり pdosdr.inpで指定される番号と違うので注意が必要だ。出力ファイル fort.13ではいつでも最初のDOSは全DOSである。これを 0番目と数える。NLINE, JLINE(NLINE)の行を例示すると次のようになる。

no SPIN1 0 -> 1 data; total DOS only2 0 2 -> 2 data; total DOS and a partial DOS of #23 1 3 4 -> 3 data: 3 partial DOSs of #1, 3, and 4SPIN2 0 1 -> 2 data: up and down total DOSs

最終的なDOS図は図 4に示されている。

3.4 原子軌道展開の取り方

理論のところで述べたが、原子軌道のブロッホ和

ϕk,alm(r) =∑R

exp[ik · (R + Ra)]ϕκlm(r − R − Ra) (12)

をもって結晶中における原子軌道と見なしている。平面波展開では kは第一ゾーンに限定してもなんら問題はなかったが、式(12)の中では問題があることを指摘した。実際、図 4を見ると、価電子帯では問題ないが、伝導帯をみるとその部分DOS成分がほとんど無くなっている。励起状態が式(12)で展開されるのものには含まれていないからである。この問題

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-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

Energy \Ry.\

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

Sta

tes/

Ry

.

pDOS of GaAs

Ga4s

Ga4p

As4s

As4p

図 5: Partial DOS of GaAs.

はもっと高い主量子数の原子波動関数 ψnlを使うことで解決できるが、擬ポテンシャル法ではそのような波動関数は用意されていない。そこで式(12)の kを第一ゾーンの外まで拡大して励起状態の波動関数を表現することにした。kの大きなものも含めたときブロッホ和がどのようになるのかを示したものが図 6である。実際のところは k ∈ 1st BZに対し、k + Gとしてどこまでとるかが問題となる。必要な

Gの組は大きさ Gの三乗に比例して増加し、(対称性を利用し計算量は減少できるとはいえ)それだけ原子軌道分解の組 Iκ

l (q)を用意しなければならず一気に計算量が増加する。計算に入れる k + Gの組は k + Gの大きさ毎にグループ分けしておき(シェルと呼ぼう)、どこまでのシェルを取るかを指定する。デフォルトでは第1シェルまで取っている。リスト1で

The actual n of lm components calculated = 4

N of Bloch functions with G block 3

Total number of Bloch functions = 15

1 1 - 1

2 2 - 9

3 10 - 15

となっているのはそのことである。すなわち k + Gの組は第3シェルまで取る。第一シェルの中には1つだけ、第二シェルには8個、第3シェルには6個あることを示している。その結果が図 5に示されている。図 4と見比べてみると、今回のものは明らかに伝導帯にも十分な部分DOS成分が現われていることがわかる。しかしその代償として、価電子帯にも上の k + G成分が入り込み、かえって s、p成分の

違いが分からなくなってしまった。これでは元も子もない。

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G

k

X

図 6: Bloch sum of s orbital for excited states and s band in the band structure.

3.5 pDOSの表現の仕方

ところで pDOSの表現の仕方にはいろいろ任意性がある。例えば式(7)で求められる〈ψk|ϕκ

lm〉はもちろん複素数なので、そのままでは実数座標にはプロットできない。どうするか。まず考えられるのが、その絶対値自乗 |〈ψk|ϕκ

lm〉|2を取ることである。これまでのものは(例えば図 4)、実際このように取っている。さらにmを分解しないときは、∑

m

|〈ψk|ϕκlm〉|2 (13)

をプロットしていることになる。しかしこれを∑m

|〈ψk|ϕκlm〉| (14)

と自乗しない形に選ぶこともできる。解釈の違いだけである。図 7にそれらを比較してある。定義の違いだけでどちらでも本質的に同じである。以降は、定義として一番自然な自乗和を取っている。

4 pdosdrでの k点メッシュの取り方

pdosdrは DOSを描くのに Tetrahedron法という優れたアルゴリズムを採用しているので、DOS曲線が滑らかに描ける。しかし pdosdrの k点の切り方とOsaka2kのそれとちょっ

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-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

Energy \Ry.\

1

2

3

4

5

Sta

tes/

Ry

.

pDOS of GaAs sum of abs^2

-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

Energy \Ry.\

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

Sta

tes/

Ry

.

pDOS of GaAs sqrt sum

図 7: Comparison of two ways of pdos. The left is the sum of square of the matrix element,while the right is the sum of absolute value of the elements.

と違う点があるため、いろいろトラブルの原因となっている。そこで今回問題をユーザーの前に提示し、どのように使うべきかを示した。まず、先に推奨される pwbcdと pdosdrの k点メッシュの取り方を表 4にまとめて示す。

ユーザーは迷ったときはいつもこれに従って入力すべきだ。

表 3: Appropriate mesh points between pwbcd and pdosdr

crystal ndiv notessystem pwbcd pdosdr on pdosdr

P n n n should be evenF 2n n

I 2n n

C 2n (n, n, 2n)R 3n n

Cに関しては、monoclinicと orthorhombicとがあるが、全てはまだチェックしていない。実際のところ、pdosdrの方では、結晶の型で k点メッシュの分割数にさらに細かな制限がある。場合の数が多いので、pwbcdと pdosdrとの整合性に関しては、まだ著者も把握しきれていない。k点メッシュで問題が生じたとき、pdosdrの標準出力ファイルで、その整合性をチェックしてみることだ。例えば rhombohedral system に例で示す。pdosdr の標準出力ファイルは入力ファイル

fort.2での k点情報NDFAC= 1 ISO= 1

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1 0 0 0 6 1 GM 1 1 2 21

1 0 0 0 6 1 GM 2 1 2 7

2 0 0 -3 6 1 LD 1 1 4 37

2 0 0 -3 6 1 LD 2 1 4 12

2 0 0 -3 6 1 LD 3 2 4 37

3 0 1 -1 6 1 YP 1 1 6 37

3 0 1 -1 6 1 YP 2 1 6 37

4 1 0 -2 6 1 XP 1 1 6 37

4 1 0 -2 6 1 XP 2 1 6 37

5 0 1 -4 6 1 YP 1 1 6 37

5 0 1 -4 6 1 YP 2 1 6 37

...

31 0 3 6 6 1 F 4 1 3 37

32 2 1 -8 6 1 GN 1 1 12 37

NBAND= 37 1 37

を打ち出す。pwbcdでは 6×6×6でメッシュを切っている。pdosdrの出力は、その後 pdosdr自身の k点メッシュ情報を示す。これは 2 × 2 × 2で切ったものである。

GENERATED KPOINT

NO KX, KY, KZ

1 0 0 0 2 1

2 0 0 1 2 2

3 0 1 0 2 20

4 0 1 1 2 24

5 0 2 0 2 10

6 0 2 1 2 21

7 1 0 0 2 20

8 1 0 1 2 25

9 1 1 0 2 31

10 1 1 1 2 24

11 1 2 0 2 20

12 1 2 1 2 24

13 2 0 0 2 10

14 2 0 1 2 2

15 2 1 0 2 20

16 2 1 1 2 25

17 2 2 0 2 1

18 2 2 1 2 2

となっている。この点のセットが上の入力セットに全て含まれていなければならない。

5 まとめ

pwmで原子軌道分解した後、pdosdrにデータを引き渡す際、元のデーターにどのような原子軌道分解したデータが含まれているかを常に意識しなければならない。それが、パラメータ MAXCMPと NCOMPの区別である。それは、原子軌道をどこまで(つまり lまでかmまでか)分解するか、あるいは問題とする原子のみを取るかで異なる。関係する bcd.paraのオプションパラメータは以下のようになる。

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表 4: Options for bcd.paraOption Default Description

toggle optionsdecompDOS OFF decomposition to partial DOS

mdecomp0dos OFF decomposition to the m levelvalue optionstargetatom0dos none atom specification to pDOS

nGblck0input 1 n of blocks G in Bloch sumscutoff0KC modify NHDIM with this factor

A label of m components

Osaka2kで使われる角運動量波動関数の定義を述べる。部分DOSのm成分はこの表に現れる順で出てくるので、部分DOSの解釈に当たっては、この表を参照する必要がある。

B colors in aydosp

aydospの中で使われている色と番号の対応を記しておく。

c 1:Black

c 2:Red

c 3:Green

c 4:Blue

c 5:Orange

c 6:lavender

c 7:pink

c 8:lime

c 9:yellow

c 10:bright Blue

参考文献

[1] Technical Report No. 28 「波動関数の原子軌道への成分表示」

[2] Technical Report No. 61 「DOSの原子軌道への分解」

[3] Technical Report No. 83 「Osaka2kにおける pdosdrの使い方 ー k点メッシュの切り方ー」

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表 5: definition of real-valued spherical harmonics in Osaka2k. The normalization factoris ignored.

l m Ylm

0 0 11 -1 x

0 y

1 z

2 -2 xy

-1 zx

0 z2 − x2 − y2

1 yz

2 y2 − x2

3 -3 x(3y2 − x2)-2 xyz

-1 x(4z2 − x2 − y2)0 z(2z2 − 3(x2 + y2))1 y(4z2 − x2 − y2)2 z(y2 − x2)3 y(y2 − 3x2)

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