21
Meiji University Title �6 � -�6 �- Author(s) �,Citation �, 51: 15-34 URL http://hdl.handle.net/10291/20342 Rights Issue Date 2019-09-06 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

Meiji University

 

Title中国農業の6 次産業化 -中国農業の6 次産業化の進展

と問題の一考査-

Author(s) 高橋,文紀

Citation 商学研究論集, 51: 15-34

URL http://hdl.handle.net/10291/20342

Rights

Issue Date 2019-09-06

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

Page 2: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

研究論集委員会 受付日 2019年 4 月18日 承認日 2019年 5 月27日

― ―

商学研究論集

第51号 2019. 9

中国農業の 6 次産業化

―中国農業の 6 次産業化の進展と問題の一考査―

The agricultural diversiˆcation in China

A study of the progress and problems of the agricultural diversiˆcation in China

博士後期課程 商学専攻 2016年度入学

高 橋 文 紀

TAKAHASHI Fuminori

【論文要旨】

近年,中国政府は中国版の農業の「6 次産業化」ともいえる政策,「農村の一二三産業融合政策」

を打ち出している。農業の 6 次産業化とは農業の生産,加工,流通を一体化することで,農民に

更なる付加価値を与えることを目的とする産業一体化である。中国農業にとっては,農業の 6 次

産業化は単なる産業間の融合だけではなく,農業の現代化でもあり,農業の標準化でもある。本稿

は中国農業の 6 次産業化に向けての現状と問題点について整理し,将来の展望について検討する。

現在,中国の農村基礎インフラは十分だとは言えず,産業間の融合を進めるには早急な整備をす

る必要がある。中国においては,6 次産業化をする内的(消費者の高級志向化,農業収入の低下),

外的(国際競争力の低下,市場開放の要求)必要性が強まってきているが,農産品電子商取引,融

資などの問題が産業間融合を阻んでいる。将来,販売ネットワークが回復した供銷合作社(購入販

売協同組合)が果たす役割は大きい。

【キーワード】 農業の 6 次産業化,中国農業,供銷合作社,産業融合,合作社

【目次】

はじめに

1. 農業の 6 次産業化

Page 3: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

1 今村奈良臣「農業の第六次産業化のすすめ」『かんぽ資金』簡保資金振興センター,1997年11月,第234号,

11頁。

2 通達。

― ―

1.1 農業産業化と中国の「農村一二三産業の融合政策」

1.2 主要な政策

2. 中国農業の 6 産業化の特徴と現状

2.1 中国農業の 6 産業化のタイプ

2.2 中国農業の 6 次産業化の現状

2.3 農村基礎インフラの現状

3. 6 次産業化を導入する問題点と展望

3.1 6 次産業化を導入する内的要因

3.2 6 次産業化を導入する外的要因

3.3 中国農業 6 次産業化の問題点

3.4 今後の展望

まとめ

はじめに

近年,中国の経済成長が減速している。習近平主席の「新常態」(ニューノマール)という言葉

に代表されるように,中国経済はこれまでの高速成長から,緩やかで安定した経済成長へと転換

し,国内生産構造も「量」から「質」への改革が進められている。しかし,一方,保護貿易主義の

台頭による中米貿易摩擦の拡大,そして「一帯一路」戦略の先行きが不透明の中,内需の拡大は一

つの大きな課題となっている。その中でも,いかに農村部の消費を拡大するか,つまり農民の収入

増大がもっとも重要となっており,その手段として「農村の一二三産業の融合」,いわゆる中国版

の「農業の 6 次産業化」が注目されるようになった。

「6 次産業化」とは1990年代,今村奈良臣が提唱した造語で,農業の第一次産業の生産,第二次

産業の加工,第三次産業の流通を一体化することで,農民に更なる付加価値を与えることを目的と

する産業一体化である。今村が農業の第 6 次産業化を推奨する背景には,食料消費の外部化,流

通の鮮度志向など国民消費の変化に伴う飲食費としての最終支出額のうち,食品工業(第二次産業)

と流通・外食産業(第三次産業)の割合が大幅に増加している反面,農業(第一次産業)のシェア

が低下してきていることにある1。中国では2015年,政府は「第一号文件2」で初めて,農村一二三

Page 4: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

3 例えば,李剛・黄朕「中国における農村観光開発の特徴と趨勢に関する研究」『観光研究論集』大阪観光大

学観光学研究所年報,第15号,47~58頁。方琳・山本信次・山本清龍・藤崎浩幸「中国における三農問題解

決のための農家楽の可能性と課題―浙江省杭州市桐廬県を事例とする質的調査から―」日本森林学会誌,

2015年,97巻 2 号,115~122頁などなど。

4 姜長雲「推進農村一二三産業融合発展的路径和着力点」中州学刊,2016年 5 月第 5 期,43~49頁。

5 王楽君・寇広 「促進農村一二三産業融合発展的若干思考」農業経済問題,2017年第 6 期,82~88頁。

6 人民日報「論農業産業化」1995年12月11日。

7 中国の貿易は国内取引も含む。

― ―

産業一体化の促進について言及し,同年 2 月に公布した「国務院弁公庁関与推進農村一二三産業

融合発展的指導意見」は一体化を推進する重要な指針となっている。

日本では中国の農業そのものについての研究3 はあるが,中国農業の 6 次産業化に関する研究は

未だ少ない。一方中国では,政策の推進を中心に一二三産業の融合について議論されている。たと

えば,姜(2016)4 は利益連結(利益共有)メカニズムの整備,革新スキルを強化するためのプラ

ットホームの構築,農村サービス発展が重要だと述べている。一方,王・寇(2017)5 は農家と合

作社の内生的発展と農業龍頭企業によるリードを同時に支持した上で,農家を二次三次産業の利益

連結メカニズムに参加させることが肝心であると論じている。しかし,具体的な政策分析,進展,

問題点についてあまり論じていない。

中国農業にとって,農業の 6 次産業化は単なる産業間の融合だけではなく,農業の現代化でも

あり,農業の標準化でもある。本稿は中国農業の 6 次産業化に向けての現状と問題点について整

理し,将来の展望について検討したい。構成は以下となる。第一章は中国版農業の 6 次産業化政

策「農村一二三産業の融合政策」と農業産業化の相違,そして 6 次産業化政策に関わる政策につ

いて検討する。第二章では中国農業の 6 次産業化の特徴と現状について論じる。第三章では農業

の 6 次産業化を導入する内・外的要因,そして問題点と展望ついて論じる。

. 農業の次産業化

. 農業産業化と中国の「農村一二三産業の融合政策」

中国における農業 6 次産業化に相当する政策である「農村一二三産業の融合政策」は,「農業産

業化」と大きく関わっている。「農業産業化」という言葉は元々1992年山東省の農業経済発展の成

功例をモデルに考案されたもので,農業経済発展や農業現代化を指している。その定義について,

1995年12月11日の人民日報の社説6 は,伝統的な自給・半自給の農業と農村経済を改造し,市場と

リンクさせ,家庭経営のもとで農業生産の専門化,商品化,社会化を実現する産業化モデルである

としている。産業化する具体的な方法は多様であるが,◯国内だけではなく海外市場向けへの対応,

◯地域的優位の利用,◯農業生産の専門化・分業化,◯規模の経済の形成,◯生産・供給・販売,

貿易7・加工・農業の一体化,◯企業的経営の採用,以上 6 つの要素を必須としている。

Page 5: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

8 池上彰英・寳剱久俊編『中国農村改革と農業産業化』日本貿易振興機構アジア経済研究所,2009年12月,13

頁。

9 農民日報「為什 龍頭企業的合同違約率高于農戸」2007年 1 月 8 日。

10 張立冬,曹明霞,張照新,徐雪高「農業産業化龍頭企業社会責任履行研究」江蘇農業科学,2018年第46卷第

3 期,1~5 頁。

― ―

また,池上・寳剱(2009)8 は中国の農業産業化は産業アグリビジネス企業による農業利益の最

大化のためのインテグレーションと違い,農民の経済的厚生の向上や龍頭企業と農民との利益・リ

スクの共有,さらには技術普及や農業インフラを提供するなど社会・経済的側面が重視されている

ことを指摘している。その上で,農業産業化を「アグリビジネスの主たる担い手である龍頭企業が

中心となり,契約農業や産地化を通じて農民や関連組織(村民委員会,農民専業合作社,仲買人な

ど)をインテグレートすることで,生産,加工,流通の有機的な結合を形成し,農産物の市場競争

力の強化と農業利益の最大化を図ると同時に,農村の振興と農民の経済的厚生向上を実現するこ

と」と定義している。農業龍頭企業(龍頭企業)とは,主導的なリーダーシップを発揮する企業の

ことを指す。国レベル,省レベル,市レベル,県レベル(国家級・省級・市級・県級)に分けられ,

年間営業収入,固定資産,農家への影響力などの条件で政府が認定を行う。認定基準は各地方の経

済事情よって異なるが,東部より中部,西部の順番で西にいけばいくほど認定基準が緩和される。

農業産業化,すなわち龍頭企業主導のもとで農業生産(一次産業),農産品加工(二次産業),農

産品流通・販売(三次産業)を一体化させることは,一見,今村が提唱している農業の 6 次産業

化に見えるが,両者には大きな違いがある。それは,農業産業化は龍頭企業が主導する垂直的統合

に対して,今村の 6 次産業化は農家,一般企業が自発性を持つ水平的統合である。垂直的統合で

あるゆえに,龍頭企業は生産,加工,流通において力が圧倒的に強く,そのために,また多くの問

題が存在する。まず,農家との栽培契約において,龍頭企業による買い叩き,買取拒否など契約の

反故が多く発生している9。口頭契約は契約反故の一因となっているが,企業の有利な地位(買取

側,情報の不平等など)や訴訟コストを考えると,農家が泣き寝入りする場合が多い。そして,龍

頭企業には社会的責任が期待されているが,それを果たしているとは言えない。つまり,池上・寳

剱が定義している農村の振興と農民の経済的厚生向上の責任を果たしていないこととなっている。

龍頭企業には一定期間の法人税免除,寄付減税などの政策支援がある代わりに,農業技術普及や農

村基礎インフラ建設,教育,文化,衛生,環境などにおいて社会的責任が期待されているが,あま

り果たしてはいない。例えば,張・曹ら(2018)10 の国家レベルの龍頭企業を対象とした検証によ

ると,龍頭企業はあまり社会的責任を果たしていないという結果が出ている。営利を求める法人が

利益追求を重視するのは問題ないが,政策支援を受ける以上,その社会責任を果たさなければなら

ない。履行を評価する制度がなかったことが当政策の大きな問題となっている。

一方,日本の農業の 6 次産業化に近い「農村一二三産業の融合政策」は,2015年の中央一号文

件「関于加大改革創新力度加快農業現代化建設的若干意見(改革イノベーションの取り組みを拡大

Page 6: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

11 日本の内閣官房に相当する。

12 農民専業合作社とは2006年に公布された「農民専業合作社法」に基づき,設立する農業互助組織である。農

民を主体(少なくとも 8 割以上)とし,社員に対して農業の生産,加工,販売,運輸,農村レジャー経営,

農業技術などの支援や互助を目的とする。

13 家庭農場とは,家族が主要な労働力となり,農業の大規模化,集約化,商品化経営を行う農業が主な収入と

なる経営主体である。

14 供銷合作社は購入販売協同組合である。計画経済時代では農産物の統一買入,統一販売や農業資材の専売を

行っていたが,改革開放以降では事業が廃止・縮小となった。1995年から市場経済や農村発展に適応する組

織改革を行い,2018年現在では基層(末端)の供銷合作社は 3 万社まで回復した。

15 農業・農村文化体験,飲食,宿泊,直売を兼ねた施設である。

― ―

し農業の近代化建設を加速させることに関する若干の意見)」で提起された。その内容は市場のニー

ズに従い,地域特有の農・畜産,農産品加工業,農村サービス業,一村一品,一郷(県)一業の発

展や農村の基礎インフラ建設に投入を増すことで農村観光レジャー業の発展を図るものであり,農

民の増収を主な目的としている。

翌年の2016年 1 月 4 日に発表された実施指針「国務院弁公庁11 関与推進農村一二三産業融合発

展的指導意見(国務院弁公庁の農村一二三産業の融合的発展の推進に関する指導意見)」(以下は指

導意見)は中国の農業 6 次産業化の方針を詳細に示した。その主な内容は,新型都市化に合致す

る農村産業融合の促進,農業構造の調整の加速(穀物,経済作物,飼料作物のバランス調整),農

業の基準化と生産過程管理の厳格化,農業産業チェーンの拡大(農業生産サービス業,農産品加

工,流通,備蓄などの奨励),多機能型農業の開拓(教育,文化,健康・福祉産業との融合),農業

新業態の育成(ICT 技術を活用する「インターネットプラス現代農業」など),産業集積の促進

(一県一業,一村一品など)となっている。そして,産業融合の中心的役割を期待されたものとし

て,農民専業合作社(以下は農民合作社)12・家庭農場13(役割の強化,農産品加工,直販の奨励),

龍頭企業(モデル事業の強化),供銷合作社14(総合サービスの優位性の発揮),農業関連業界・産

業同盟,民間資本を挙げている。また,同意見は「三農問題」の改善を重視しており,2020年ま

でに◯農村産業融合水準の向上,◯産業チェーンの完備による更なる協調的局面の形成,◯農業競

争力の向上,◯農民収入の持続的増加,そして◯農村の活性化に対する顕著な成果,これらを主要

目標に挙げている。

また,その特徴は以下のように整理できる。第一に,産業融合対象の多様化である。農業産業化

で中心的な役割を果たしている農業龍頭企業はなお産業間融合における先導的な役割やモデル事業

の樹立が期待されているが,農民専業合作社・家庭農場,供銷合作社,民間資本などの役割も同時

に強調され,産業チェーン,利益連結メカニズム構築など産業構造の完備と企業・農民間利益分配

の均衡が重要視されている。第 2 に,農業サービス業拡大による新たな付加価値の創造である。

これまでの流通,貯蔵を中心とした農業の第三次産業に,田植,耕作,収穫などといった農業代理

サービス,観光農園(葡萄狩り,いちご狩りなど),直売所,「農家楽」15,レジャースポーツの体

験(ラフティング)などの農村観光レジャー業に加え,文化・健康などのサービス業を充実させる

Page 7: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

16 農村実用人材とは農村の経済社会発展中に一定の影響力を持ち,農業発展・農村振興においてリーダー的役

割を果たす人材のことを指す。致富(富みを築く)リーダー,技術リーダーがその代表である。

17 専門的技術を持ち,農業経営収入を主な収入とする現代農業従業者のことを指す。

18 農民工等返郷創業三年行動計画とは農民工,卒業生などの帰郷での起業を支援する 3 ヵ年計画である。

19 18~45歳,高卒以上の学歴,一定的な農業基礎を条件とする家庭農業経営者,大学卒業生,退役軍人などか

ら選定し,技術訓練,起業支援,政策支援などを提供する青年農業経営者を養成するプロジェクトである。

支援期間は 3 年間(2 年間の育成と 1 年間のフォローアップサービス)である。

20 2018年 3 月,各省庁の農業関係の機能が農業部に統合され,農業と農村を統括する農業農村部が誕生する。

21「2018年国家農産品産地初加工設施補助項目申報指南」http://nyt.hubei.gov.cn/hzgw/200031989.htm

22 年間売上が2000万元を超える企業のことを指している。

― ―

ことによって新しい付加価値の創造を図っている。第 3 に,農村発展の重視である。以前からは

じめていた農村実用人材16 と新型職業農民17 の育成をさらに強化することで,農村内部の起業リー

ダー育成に加え,「農民工等返郷創業三年行動計画」18・「現代青年農場主計画」19 などの補助金政策

で農民工,専門学校・大学卒業生,技術者の農村での起業を奨励し,農村内部人材育成の強化と起

業支援による農村の活性化を図っている。

指導意見は農村一二三産業融合を通じて,農民が主体となり,農村産業一体化を推進する中国版

の農業の 6 次産業化ともいえる政策は,農業競争力の向上,農民の増収,農村の活性化に主眼を

置き,多様な産業融合主体の育成,農村第三次産業の強化,そして企業・農家間利益連結(利益共

有)メカニズムの確立によって中国の農村・農業振興を目指している。

. 主要な政策

国務院の指導意見を受け,各省庁は次々と産業融合にかかわる具体的な政策を打ち出した。本節

では,農産品加工,農産品流通,人材育成を中心に主要な政策を見てみる。

まずは,農産品加工に関する政策である。農産品加工を所管する農業部20 が2016年11月14日に

発表した「全国農産品加工業与農村一二三産業融合発展規 (20162020年)」は農産品加工業の

発展方向を示した。第 1 に,農産品現地一次加工である。穀物,果物,野菜,茶葉などの乾燥,

貯蔵などの一次加工施設の建設を中心に補助金を拡大し,コールドチェーン(低温流通)発展の加

速を通じて,生産・加工・消費につなげる。補助金の規模は各省によって多少異なるが,基本的に

は農民合作社と農家には貯蔵・乾燥施設に補助金を出している。湖北省の例21 を挙げてみると,貧

困県を対象に優先的に15県を選定し,1 合作社つき 5 施設,1 農家つき 2 施設を上限として,700

施設以上の通気倉庫,組立て式冷蔵庫,熱風乾燥室に対して,施設の面積と処理能力に応じて補助

金を拠出している。また,1 の県予算は250~400万元(4,175~6,680万円)となっている。

第 2 に,穀物生産地域で,高付加価値加工(特にとうもろこし)の発展を支援し,健康,観光

などの第三次産業とリンクする食品開発を行い,食品加工技術の開発と機械設備の国産化を実現す

る。たとえば中国最大の食糧生産省である黒龍江省は,省内の一定規模以上22 のとうもろこし高付

Page 8: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

23 黒龍江省糧食局「対《関于做好 龍江省玉米深加工飼料加工及大豆加工起業收購加工2017年省内新産玉米及

大豆補貼工作的通知》的解読」http://www.hljlsj.gov.cn/search/show/10841

24 緑色通道とは無申告道路,公的手続を省く特別ルートのことである。

25 新華網「全国95的郷鎮又有了供銷社」http://www.xinhuanet.com/ˆnance/201801/15/c_129791439.htm

26 国務院が直接管轄する部(省)級機関である。

27 供銷合作社が全額出資あるいは支配権を持つ龍頭企業である。

28 Alibaba 傘下の Tmall は中国最大級なバーゲンセール11月11日(独身の日)で 1 日の取引額は2135億元とな

っている。

― ―

加価値加工,飼料加工,大豆加工企業を対象に省内産原料の購入に補助金を出している。補助金前

年度省内産のとうもろこしと大豆に対して,一定時間内での買入れ,消費を条件に,とうもろこし

150元/1 t,大豆300元/1 t となっている23。

第 3 に,藁,米ぬか,粕などの農産品副産物の順次加工,利用率の向上,そして新しい農産品

副産物総合利用システムを構築し,中小企業の収集,処理,運送の緑色通道(グリーンゲート)24

の設立や加工副産物の効率的供給を実現する。翌月に発表された「関于進一歩促進農産品加工業発

展的意見」は,農産品加工業発展戦略をさらに具体化(表 1 を参照)し,2025年までの政策目標

を示した。企画であげた農産品加工転化率68,一定規模以上農産品加工業主要収入の年平均成

長率 6以上,農産品加工業総生産額と農業総生産額比率2.4 : 1に達するという2020年までの目標

に加え,2025年までに農産品加工転化率75,農産品加工業総生産額対農業総生産額比率がさら

に高められ,概ね先進国の農産品加工業の発展水準に接近するという目標となっている。

そして,農産品流通にかかわる政策では電子商取引に重点を置いている。市場経済に移行した後

に弱体化された供銷合作社は急速な成長を遂げている。供銷合作社の郷鎮カバー率は2012年の56

から2018年 1 月の95に回復し,総売上も2.5兆元から5.4兆元に成長した25。

2016年 7 月 8 日に中華全国供銷合作総社26 が発表した「中華全国供銷合作総社関于推進農村一

二三産業融合発展的実施意見(農村一二三産業融合発展に関する中華全国供銷合作総社の実施意

見)」では,農業 6 次産業化における供銷合作社の役割を示した。意見によれば,供銷合作社は農

村に根ざし,都市と農村をつなぐ経営ネットワークや傘下にある多くの加工・流通などの農業産業

化龍頭企業27 など,その強みを発揮しようとする。また,農産品の流通については,農産品卸市場

の進化,経営ネットワークのさらなる健全化,現代的物流システムや電子取引プラットホームの構

築があげられている。とりわけ,2015年年末にオンラインの農村電子商取引に特化した国営電子

取引プラットホーム「供銷 E 家」は,今後農産品の流通に大きな役割を果たすことが期待されて

いる。

供銷 E 家は県をベースに,供銷合作社などの実店舗を利用し,直接の取引には参加せず,農産

品の電子商取引以外に農業サービス,例えば農業ドローンによる農作業,作物の収穫なども提供し

ている。現在,その規模は阿里巴巴(Alibaba),京東(JD), 多多(Pinduoduo)などの大手電

子取引プラットホームと比較すると非常に小さいものである28 が,供銷 E 家の取引額は2017年の

Page 9: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

表 農村一二三次産業融合に関する主要な政策

主要な政策 概 要 達成目標

中華全国供銷合作総

社関于推進農村一二

三産業融合発展的実

施意見(農村一二三

産業融合発展に関す

る中華全国供銷合作

総社の実施意見)

2016年 7 月 8 日

農産品加工流通企業を発展させ,農産品付加価値の向上

を促進する(農産品加工企業の改造・進化,農産品卸市

場の進化)

新型農業の経営主体との有効な結合を推進し,利益連結

メカニズムを完備する(農民合作社を輿し,農家の大規

模化・専門化などのリード,農民合作社による龍頭企業

への投資,設立のサポート,供銷合作社系列農業産業化

経営主体と新型農業の経営主体間の利益連結メカニズム

の強化,農家との緊密な利益共同体の設立を通じて農民

収入増を実現)

農業生産サービスの方式と手段を刷新し,積極的に農業

社会化サービスを推進する(耕作,種まき,収穫などの

代行サービスの強化,農業技術支援,オーダーメイド肥

料,害虫防止など専門サービスの提供)

農村電子取引「ナショナルチーム」の建設を加速し,オ

ンライン・オフラインの融合的発展を実現する(電子取

引プラットホーム「供銷 E 家」の完備,県域・農村サー

ビスネットワークの機能強化)

農業の多様な機能を開発し,新しいサービス・経営分野

を開拓し発展させる(農民をリードし農業の第 2・3 次

産業融合の促進,中小銀行の実験的試行,小額貸出,

リースなどの金融サービスの刷新)

人材と科学技術のサポートを強化し,全産業チェーンの

品質・ブランド力を向上させる(関連学校で農村産業融

合に適する人材の育成,所属する企業・研究所の産業融

合に関する技術革新の支援,農産品ブランドの育成・品

質の向上)

業界団体の機能を発揮し,産業連盟の成立を探索する

(交易会などを通じて農民増収の支援,企業・技術者・

農家などの利益共同体の構築)

第13次 5 ヵ年計画期間

内(2016~2020年),

産業融合,育成と支援

を通じて,産業融合モ

デル企業600社(その

内中小型農産品産地加

工企業500社,大型生

産・加工・流通龍頭企

業100社)

2020年まで供銷合作社

農産品加工流通企業の

実力が顕著に向上し,

基本的に産業チェーン

の完成,多様な機能,

業態が供銷合作社の特

色産業と融合発展と融

合発展システムと緊密

に連携をする

関于支持返郷下郷人

員創業創新促進農村

一二三産業融合発展

的意見(帰郷者・農

村に出向く者の起

業,革新の支援を通

じて農村一二三産業

融合発展を促進する

に関する意見)

2016年11月29日

市場参入の簡略化(会社登記条件緩和,登記費の免除な

ど)

金融サービスの改善(利息補助,融資担保,抵当物の範

囲拡大,農業保険の開発など)

財政支援の強化(補助金,減税など),土地・電力支援

措置の実施強化(土地使用制限の緩和,荒地・跡地利用

の奨励,電気料金優遇,工業用地の取得費軽減など)

起業者の養成(起業リーダー育成プロジェクトの実施,

帰郷者・農村に出向く者データベースの整備,企業・合

作社等による技術普及の奨励など)

社会保障政策の整備(起業者の医療保険,失敗時の社会

援助,子弟の教育など)・IT 支援の強化(IT 業参入の

奨励,など)

創業園の建設(政府が提供するプラットホームを基に創

業基地の設立,インキュベーションパーク設立の奨励・

家賃補助)

― ―

Page 10: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

表 農村一二三次産業融合に関する主要な政策(つづき)

主要な政策 概 要 達成目標

関于進一歩促進農産

品加工業発展的意見

(農産品加工業発展

をさらに促進するこ

とに関する意見)

2016年12月17日

優勢産業の集積(農産品一次加工産業発展の加速,高度

加工の技術強化,主食加工業発展の奨励)

多様な発展の推進(農民合作社・家庭農場等の加工流通

参入への支援,企業の産業チェーン構築の奨励,ニュー

モデルと業態の創造,加工園区建設の推進)

産業転換と進化(科学技術創造能力の強化,科学技術事

業化の加速,企業管理の強化,人材育成の強化)

政策措置の整備(財政支援の強化,税制の優遇,金融

サービスの強化,投資・貿易条件の改善)

土地・電力政策の実行強化(集団所有土地出資の奨励,

電気料金優遇)

組織保証の強化(政府活動メカニズムの整備,公共サー

ビスの強化など)

2020年までに,農産品

加工転化率68,一定

規模以上農産品加工業

主要収入の年平均成長

率 6以上,農産品加

工業総生産額と農業総

生産額比率を2.41 に

達する

2025年までに,農産品

加工転化率75,農産

品加工業総生産額対農

業総生産額比率をさら

に高め,概ね先進国の

農産品加工業の発展水

準に接近する

関于深化農商協作大

力発展農産品電子商

務的通知(農・商協

力の深化を通じて農

産品電子商取引を大

いに発展させること

に関する通知)

2017年 8 月17日

農産品電子商取引の実験的に展開する

農産品電子商取引サプライチェーンを形成する

農産品生産と販売間のリンクを推進する

百万人農村電子商取引「帯頭人」(リーダー)プロジェ

クトを実施する

農産品ネットワーク上部総合サービスを向上させる

農産品電子商取引ビックデータの発展と応用を強化する

農業農村ブランドの育成に全力を挙げる

農産品品質安全検査とトレーサビリティシステムを健全

化する

農産品電子商取引標準化の実験的実施を展開する

観測統計と調査研究を強化する

農業部弁公庁関于支

持創建農村一二三産

業融合発展先導区的

意見(農村一二三産

業融合発展先導区の

設立に関する農業部

弁公庁の意見)

2017年12月 7 日

主導産業にフォーカスし,全体的な企画・配置を通じ

て,産業の優位を形成する

市場のニーズに従い,絶えず市場競争力と産業バリュー

チェーンの価値を高め,価値的優位を形成させる

グリーン・低炭素,循環発展長期有効なメカニズムを構

築し,環境的優位を形成する

脱貧困産業を積極的に発展させ,契約農業・土地経営権

出資などの利益連結メカニズムを完備し,農民の持続的

増収の経済的優位を形成する

1 年目で計画を完成す

2 年目で好転の気配を

見せる

3 年目で成果を出す

出所各省庁の資料により筆者作成。

― ―

20億元から2018年の200億元へと急速度で発展を遂げている。また,商務部と農業部が2017年 8

月17日に発表した「関于深化農商協作大力発展農産品電子商務的通知」も,電子商取引を通じた

農産品流通の強化を示した(詳細は表 1 を参照)。

最後に,人材育成政策である。農村一二三産業融合に関わる人材育成政策は,農村での起業者を

中心に行われている。国務院が2016年11月29日に発表した「関于支持返郷下郷人員創業創新促進

Page 11: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

29 出所農業農村部新聞弁公室「農村一二三産業融合助力郷村振興」http://www.moa.gov.cn/ztzl/scw/

zcfgnc/201806/t20180620_6152682.htm

― ―

農村一二三産業融合発展的意見(帰郷者・農村に出向く者の起業,革新の支援を通じて農村一二三

産業融合発展を促進することに関する意見)」では,農民工,退役軍人,専門学校・大学卒業生,

技術者などを対象に農村での起業を支援する。とりわけ都市の生活経験がある農民工,専門的技術

を持つ専門学校卒業生,大学卒業生,技術者に対して,市場参入手続きの簡略化,申請費用の免

除,起業訓練後及びその後のサポート,金銭的支援,融資保証,利息補助,電気料金・地代の補助

などで農村産業を振興する。さらに,起業者たちは一種の起爆剤となり,農村内部による産業振興

が活発化し,水平的な産業融合つまり 6 次産業化が期待できる。2017年,帰郷者・農村に出向く

者は740万人,地元非農起業者は3,140万人に達し29,これから更に増えていく見込みである。

. 中国農業の産業化の特徴と現状

. 中国農業の産業化のタイプ

ここでは,現在中国ですすめられている 6 次産業化のタイプを運営の視点から検討する。

龍頭企業主導型は,龍頭企業を中心に生産,加工,流通を行っている。農業生産は農民に任せて

おり,耕地経営権を取得し,農民を雇う方式や農家との栽培契約方式がある。種子,農薬,肥料な

どの生産資材はすべて企業が提供する。収穫した農産物は加工を経て,独自のブランドで流通をさ

せるか,経営するレストランで調理され,直接消費者に提供されこともある。

農業観光レジャー型は,消費者に農村生活や自然を体験するサービスを提供している。消費者に

生産した農産品を調理して提供するほかに,宿泊施設から,観光農園,農業作業体験,レジャース

ポーツを提供している。

農業生産委託型の特徴は,農業生産を供銷合作社や農民合作社などに農業生産を委託することで

ある。農業生産の一部あるいはすべてを供銷合作社などに委託し,田植えから収穫まですべて機械

を用いて行うこととなっている。農家はサービス料と生産資材の料金を支払い,収穫した農作物は

自由に処分できる。生産資材は大量仕入れのため,市場価格より安く,さらに農薬と肥料は最適の

量で投入されるため,使用量が減少する。農業から開放される間農家はほかの仕事ができる。

2017年末までに,供銷合作社の農業代行サービスを受けた耕地1.4億畝に達し,耕地全体の約 7

である。

電子商取引型は,生産した農産物をインターネットで販売している。生産,加工,販売をすべて

自分で行う場合と,加工や販売を業者に依頼する場合がある。

合作社型は,耕地を含めた生産資材の出資で農民合作社を設立し,出資額に応じて利益を配当す

る。統一経営によってコストが削減され,農産品の規格化が捗れる。また,ほかの農民合作社と農

民専業合作連社をつくり,同一のブランドを使用するケースも見られる。

Page 12: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

30 安徽財経大学,中華合作時報社聨合専題調研組「2017年中国合作経済発展研究報告」『中国合作経済』2018

年第 1 期,20~22頁。

31 以下特段の説明がなければ,データの出所は国家統計局「第三次全国農業センサス主要データ公報」2017年

12月16日である。

32 社員の 8 割は農民(戸籍上)でなければいけないが,出資の割合については,制限はない。

33 中国農業科学院農業資源与農業区画研究所・農業部農村経済体制与経営管理司「我国家庭農場発展的現状,

問題及培育建議 ―基于農業部専項調査34.3万个様本数据」『中国農業資源与区画』2017年第 6 期。

34 中国合作経済編「2017年全国新型職業農民発展特点」『中国合作経済』2018年第11期,5 頁。

表 新型農業経営主体の推移(~)

単位万(社,戸,人)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

農民専業合作社 37.9 52.2 68.9 98.2 128.9 149.8 179.4 201.7 217.3

農業部門認定家庭農場 7.2 13.9 34.3 87.7

新型職業農民 1272 1401 1500

出所農民専業合作社2010~2016年は,2017~2018年は「国家市場監督管理総局 HP」,新型職業農民は

「全国新型職業農民発展報告」,農業部門認定家庭農場は「農業農村部 HP」より筆者作成。

― ―

. 中国農業の次産業化の現状

まずは,6 次産業化の主体をなす新型農業経営主体(表 2 を参照)は,その数を順調に伸ばして

いる。農民合作社は2010年の37.9万社から2018年の217.3万社に成長し,年平均成長率は24.3と

なっている。安徽財経大学と中華合作時報社の共同調査30 によれば,2016年末までに農民合作社

の総出資額は一農家あたり228.5万元に達し,これからさらに増加する見込みである。農民合作社

に加入する農家は1.08億世帯となっており,一つの農民合作社は約60農家によって構成され,第 3

次全国農業センサスが公表した調査結果31(2016年農業経世帯20,743万)に照らしてみると,52

の農家は農民合作社に加入していることになる。農民合作社の平均出資額や農家の収入・資産など

を鑑みると,農民合作社に参加する農家は比較的裕福な農家か,農家以外の出資者の出資額が高い

ことが考えられる32。また,出資検証がないため,実際の出資額より多く申告する可能性もある。

農業部門認定家庭農場は,2013年の7.23万戸から2017年の87.7万戸に,4 年間で約12倍に増加し

た。2015年の調査33 によれば,耕作を行う家庭農場は最も多く,その内訳は耕作61.9,畜産

19.26,その他9.87,耕畜両方は8.96となっている。耕地287.39万万ヘクタールのうち,

212.46万ヘクタール(73.9)は土地経営権流転(期限付き譲渡)通じて農民から取得している。

一方,新型職業農民は毎年100万人ベースで増えており,2017年では1500万人を超えた。新型職

業農民は一般の農民より若く,教育水準も高い。45歳以下が全体の54.35を占めており,高校以

上の教育を受けたもの30.3は,第 3 次農業センサス農業経営者の8.3を大きく上回っている。

また,そのうち,68.79の新型職業農民は,周囲の農家に対して新しい技術,農機具などの導入

に影響を及ぼし,一人あたりは30世帯の農家に影響を及ぼしているとの調査結果が出ている34。

Page 13: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

表 中国国内の農村レジャーと旅行市場(~年)

2014 2015 2016 2017 2018

億元 成長率 億元 成長率 億元 成長率 億元 成長率 億元 成長率

国内旅行収入 30312 ― 34195 12.8 39390 15.2 45661 15.9 51278 12.3

農業レジャーと農村旅行収入 3000 ― 4400 46.7 5700 29.5 7400 29.8 8000 8.1

出所国内旅行収入は「中華人民共和国文化和旅游部2018年文化和旅游発展統計公報」,農業レジャーと農

村旅行収入は「農村農業部 HP」により筆者作成。

(注 1) 2018年の農業レジャーと農村旅行収入は速報値であり,実際の数値はさらに高い見込みである。

35 交通運輸部「交通 輸行業発展統計公報」2017年,2018年〈http://zizhan.mot.gov.cn/zfxxgk/bnssj/zhghs/

201803/t20180329_3005087.html,http://xxgk.mot.gov.cn/jigou/zhghs/201904/t20190412_3186720.html〉

36 アスファルトやコンクリートで固めた路面のことである。

― ―

そして,農村レジャーの市場は拡大しており,2014年の3000億元から2018年の8000億元まで成

長した。この成長は経済成長に伴う中国の旅行市場の拡大が寄与した側面はあるが,都市部で農業

の経験ない人が自然に触れる農業体験やレジャー観光を選択することが需要を押し上げている。ま

た,農村レジャーの拡大は祝日や大型休日の混雑などの解消にもつながる。

. 農村基礎インフラの現状

農村・農業基礎インフラは,灌漑施設,道路(農道),電気などが含まれている。農業の 6 次産

業化にあたっては,道路と通信網が非常に重要であり,その整備は急速に進んでいるが,問題が残

っている。

農村の道路整備は確実に進んでいるが,その質とメンテナンスが問題となっている。中国の道路

は高速道路,一級道路,二級道路,三級道路,四級道路に分けられ,最も下のランクの四級道路は

運転速度20 km/毎時,年平均一般乗用車(9 人以下)400両/毎日の基準で設計されている。「交通

 輸行業発展統計公報」35 によると,2018年末までに四級道路以上の道路は446.59万キロあり,道

路が通る行政村は全体の99.99に及んでおり,そのうち硬化舗装36 された道路(2017年)は98.35

となっている。

一見,中国の農村部には農業の 6 次産業化に必要な物流が発展する基礎ができているように見

えるが,農村部の道路はほとんどが四級道路であり,設計上貨物車を常時運用することに問題があ

り,農村レジャーの拡大による通行量の増加にも対応していない。また,道路のメンテナンスにも

問題がある。農村にある道路のメンテナンスは,郷村が行うことになっており,上級政府は一部の

補助金を出すが,残りの部分はメンテナンス責任部門(県,郷政府)が負担する。しかし,県・郷

の資金不足により,適正な道路メンテナンスが行われず,道路の破損が多発する。また,貨物車の

重量オーバーが多発していることも農村道路の破損に拍車をかけている。農村道路の問題を解決に

Page 14: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

37 中国信通院「2018年中国寛帯発展白皮書」5~8 頁。但し,行政村のカバー率については新華社発表によれ

ば,2018年末に98となっている。

38「中国互聨網絡発展状況統計報告」2019年 2 月,16~22頁。

― ―

あたって,短期的には上級政府による資金管理や施工などの統括的メンテナンス管理を行い,現在

の道路を維持する必要がある。しかし,長期的に考えると,道路建設用の資金調達の問題が残る

が,現在の農村道路を質の高い道路に変える必要がある。

一方,農村のインターネット通信網の整備はほぼ完成し,モバイル通信 4G のカバー率も高い。

2018年 6 月までに,中国のインターネット通信網は96以上の行政村をカバーし,高速インター

ネットであるひかりファイバー回線ユーザーが占めるインターネット総利用者に対する割合は86.3

となっており,韓国76.8,日本76.7を上回り,世界 1 位となっている37。しかし,農村にイ

ンターネットの設備ができても,その普及率は依然として低い。中国互聨網絡管理中心の報告38 に

よれば2018年12月末まで,中国農村部のインターネット普及率は38.4で昨年より 3上昇してい

るが,都市部の普及率74.6よりはるかに低い。全体的にみると,パソコンの未所有49,中国語

ピンインの未習得(教育水準)32.5がインターネットを利用しない理由となっており,この結果

は農村部と都市部の普及率の差を反映している。

農村部での普及率の低さはインターネット設備投資を影響している。インターネットを利用する

には,収容局から利用者宅まで光ケーブルを引かなければならず,光ファイバーは非常にコストが

かかる。都市部の場合は,集合住宅が多く,住宅も比較的に密集している。一方,農村部の住宅や

施設は分散しており,戸建も多い。通信会社が同程度の設備を投入する場合,都市部の利用率が高

く,収益率も高い。そのため,ほとんどの行政村はカバーされているが,農村部で普及があまり進

まない。まして,6 次産業化によって導入される物流企業や農村レジャー施設にはさらに安定かつ

高速度のビジネス用回線が必要で,高いコストが伴う。また,行政村でのカバー率が96に達し

ている高速移動通信システム 4G にも同じことが言える。普及と設備投資は一種のジレンマとな

り,通信環境を改善するには,政府による設備投資の援助を増やす必要がある。

農業 6 次産業化を行うには,以上のインフラ整備は不可欠である。政府の農村インフラ対策と

して,官民パートナーシップ(PublicPrivate Partnership)を導入しているが,ダムのような発

電を通じて利益があげやすいものもあるが,利益が上げにくい農村道路への投資を拡大するのが困

難である。

. 次産業化を導入する問題点と展望

. 次産業化を導入する内的要因

農業の 6 次産業化を導入する内的要因は,主に消費者ニーズの変化,農業収益の減少,産業間

連携不足,農業補助金による国産農産物の競争力低下などが挙げられる。

Page 15: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

39 データの出所は「緑色食品統計年報」各年版。

40 国家質検総局「2016年中国進口食品質量安全状況白皮書」2017年 7 月。

41 農機化導報「我国 干設備産業商機無限任重道遠」2017年 8 月14日,7 版。

― ―

まずは,消費者ニーズの変化である。経済発展につれ,人々の健康意識の向上や良質な農産品に

対する需要が増えており,高品質農産品への需要が増加している。現在の中国の農産品の認証制度

は主に「無公害農産物」,「緑色食品」,「有機食品」の 3 種類である。認証基準の厳しい順に「有

機食品」,「緑色食品」,「無公害農産物」となっている。緑色食品は中国農業農村部に所属する中国

緑色食品発展中心の認証を受けた農産品のみが使用できる商標で,中国では高品質農産品として認

識されている。さらに緑色食品は AA 級と A 級に分けられ,AA 級の基準は有機食品とほぼ同じ

基準で,A 級は少量の農薬・化学肥料の使用が認められるが,使用回数と時期が厳しく制限され

ている。2017年,中国の緑色食品の市場規模は4032億元規模であり,その規模は年々拡大してい

る39。農産品,加工品の輸入も同じである。植物油,粉ミルク,肉類,水産物の順番で中国の食品

輸入は2016年,466.2億米ドルに達している40。このような新たな需要に対して,6 次産業化を通

じて,各産業間が協力し,市場のニーズに合う農産品や加工品を供給できる。

次は,農村産業の収益が低いことである。労働コストの上昇がさらに農業生産を圧迫し,農業の

利益を減少させているが,農産品一次加工設備の不足も農業利益を圧迫している。報道41 によれ

ば,穀物は脱穀,乾燥,貯蔵,運輸,消費のプロセスで,約18のロスが生じている。そのう

ち,天候が原因で穀物が乾燥に間に合わないもしくは安全な水分に達していないことによる腐敗・

発芽などによる穀物のロス率は 5ほどで,年間で約2000万トンの穀物ロスとなり,直接の経済損

失は200~300億元となっている。この状況を改善すべく,政府が農産品一次加工設備の不足を解

消するために導入した穀物乾燥機購入補助金政策は効果を現し,穀物乾燥機は2015年6.87万台か

ら2016年9.32万台に急増した。但し,農業の利益をさらに向上させるためには,農村産業の付加

価値をさらに高める農産品高付加価値加工を発展させる必要がある。

そして,産業間連携不足である。生産,流通においては,産業間の情報交換がうまくとられてお

らず,農産品の過剰生産,一斉出荷により価格が崩壊し,悪性な競争が発生する。このような状況

は農産品価格の安定を妨げるだけではなく,農産品のロスも増える。そこで,生産,加工,流通の

連携を深めることによって,すべてのプロセスにおいて最適化をはかることができる。スマートフ

ォンが普及している現在,情報交換プラットホームを構築することも容易になっており,情報共有

のタイムラグを最小限にできる。

最後に,農業補助金である。補助金により穀物の競争力が低下している。政府は農家を保護する

ために導入する国産主要穀物(大豆,籾,小麦)を対象に最低買入価格の補助政策をとっている。

最低買入価格は市場価格より高く,結果的には国産穀物の市場価格を押し上げ,輸入穀物との競争

力の低下を招いている。対策としては,前述のような加工企業に対する国産穀物使用の補助金な

ど,市場価格に直接影響しない補助金をさらに拡大する必要がある。

Page 16: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

42 池上彰英「転換点後の農業問題」『WTO 体制下の中国農業・農村問題』東京大学出版会2017年 8 月25日,

51頁。

43 2008年に発生した粉ミルクメラミン混入事件,以降中国国内で国産粉ミルクに対する不信が広まった。

― ―

. 次産業化を導入する外的要因

WTO 加盟以降,外国産農産品輸入の増加により,中国農業は大きな打撃を受けている。現在,

農産物は野菜と果物以外はほとんど競争力を失っている。池上(2017)42 によれば,貿易特化係数

から中国農産品の国際競争力を判断すると,野菜は強い競争力を持っている。しかし,穀物,果

物,肉類の競争力は急速に低下しつつあり,その他の農産品もほとんどはまったく競争力がない。

中国の周辺は中国以上に工業化が進み農業競争力が弱い地域があったため現在でもそれなりの金額

の輸出ができるだけであって,世界的視野で考えると,中国はすでに完全に農業の国際競争力を喪

失している。

一方で,保護貿易の台頭や新たな貿易協定の締結によって,中国は貿易構造を変えるための輸入

の増加と市場開放が求められ,中国農業はさらに厳しい立場に置かれていくだろう。まだ妥結点が

見えない中米貿易摩擦においては,アメリカは対中貿易赤字を解消するために,中国に対して,ア

メリカ製品,とりわけアメリカの農産品の輸入を要求してくる公算が高い。また,中国の「一帯一

路」構想に対する賛同国の拡大により,これから関係諸国の農産品の対中輸出も拡大する見込みで

ある。2019年 3 月,中国は G7 の一角を担う EU 加盟国であるイタリアと一帯一路に関わる覚書に

署名したことも記憶に新しい。両国はシチリアのブラッドオレンジの対中国輸出について検疫手続

きが簡略化され,初めて中国市場に輸入された。このように,今後外国産農物の中国市場進出は加

速され,中国の農産品はさらに厳しい立場にさらされることになる。

農業は中国 GDP の数しか占めていないが,14億近くの人口を抱える中国にとって,農業は非

常に重要な産業である。厳しい競争環境に置かれた農家を保護するためには,補助金などの金銭的

補助を行う方法はあるが,重要なのは農業の付加価値を高め,農産品の競争力を高めることにあ

る。前節でも論じたように,現在の中国市場においては,消費者の健康志向により,高品質な農産

品に対する需要は高まっている。輸入農産物が増える一つの背景には国内の農産品に対する失望,

つまり消費者の国内農産品に対するイメージは決していいものとはいえず,粉ミルクはその代表で

ある43。無論,国産食品の信頼の低下は政府の監督責任もあるが,企業・農家の品質維持意識とモ

ラルの欠如が主な要因と考えられる。

農業の 6 次産業化はこういった面では,農家は単なる原材料提供者ではなく,利益共同体の一

員となることで,より真摯に農業生産に取り組む。企業も利益をまもるため品質管理を厳しくし,

生産管理も一層厳しくなるはずである。

Page 17: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

44 データの出所は中国国際電子商務中心研究院「中国農村電子商務発展報告(20172018)」2~5頁。

45 日本経済新聞「京東集団,植物工場が稼働,三菱ケミから納入,10カ所に拡大狙う。」2018年12月 6 日朝刊。

― ―

. 中国農業次産業化の問題点

中国農業 6 次産業化の問題はいろいろあるが,最も喫緊な問題としては農産品の販路拡大と農

家への金融支援不足にある。

農産品販路を打開するためには電子商取引は非常に有効な手段であるが,電子商取引プラット

ホーム大手によるビジネスモデルには限界がある。例えば,「農村淘宝(Taobao)」はそうである。

農村 Taobao とは Taobao の親会社である中国電子商取引最大手阿里巴巴(Alibaba)グループが,

村の中心部に立ち上げたサービスステーションを利用し,訓練を受けた農村 Taobao パートナーズ

を中心に,村民に対して Taobao での商品の購入・地元特産品の販売代行,公共料金の支払い,職

業訓練,宅配便の受取,小口融資などのサービスを提供する農村活性化プロジェクトである。とり

わけ,農産品を中心とする地元特産品の販売代行は,地方政府からもっとも期待されている。しか

し,その実態は農村地域の農産品の販売拡大よりも,むしろ農村地域を対象にした販売拡大に中心

をおいている。その結果,農村電子商取引小売販売額は2014年の1800億元から,2017年の12449

億元に約 7 倍に拡大し,農産品電子商取引販売額は前年度より53.3成長し,2437億元にとなっ

ている44。確かに,農村電子商取と農産品電子商取引は急激に成長しているが,電子商取引市場で

そのシェアが未だ小さい。例えば中国の電子商取引の全体から見ると,農村電子商取引は13.6に

過ぎない。また,電子商取引プラットホーム大手は農村・農業で自社の事業に重心を置き,政府が

期待する役割つまり農産品販路拡大にあまり力を注いでいないように見える。例えば,現在,

Alibaba はさらにスーパーマーケット機能を持つ「天猫優品」ステーションの発展に重点を移し,

農産品の販路開拓策が見えてこない。一方,京東グループ(JD)は独自に農業に参入した。2018

年12月,北京の近郊で植物の水耕栽培工場が完成した。当該工場は約 1 万 1 千平方メートルで面

積を有し,日本の水耕栽培技術でレタスなど 6 種類の野菜を自社ルートで供給を始め,年産能力

は約300トンで今後10か所程度広げるとされている45。一般企業である以上,自社の利益を最優先

するため,政府ほかの連携方法の模索と国営企業による農産品販売支援を加速させる必要がある。

農家や農民合作社に対する金融支援の不足も問題となっている。農家と農民合作社が融資を受け

られない一番大きな要因は,銀行の担保になりえる資産が少ないことにある。農家や農民合作社が

所有する資産は換金性の悪い農業機械・資材が中心となっており,本来ならば不動産と土地は抵当

物として使いやすいが,中国農村の土地は村集体(集団)所有になっており,農家や農民合作社は

建設用地の使用権と耕地の請負権・経営権しか持っておらず,民法上抵当物として認められていな

い。耕地の経営権の抵当について,実験的にはじまってはいるが,大きなハードルがある。銀行の

融資に際して,所属する村集体から貸倒になった時の保証,土地流転を通じて経営権を取得した場

合はさらに耕地請負者の保証も必要となっている。財源が厳しい村から見ると耕地の処置を保証す

Page 18: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

46 城鎮(都市と町)あるいは郷村が所有権を持つ企業であり,公有企業である。

47 合作会社は中国の企業形態の一種である。出資比率ではなく,あらかじめに配分,リスク分担などを設定で

きる会社である。

48 中華全国供銷合作総社「全国供銷合作社系統2017年基本情况統計公報」

49 新華網「2018年供銷合作社系統実現銷售総額5.9万億元」http://www.xinhuanet.com/201901/15/c_

1123994559.htm

― ―

ることはあまりメリットがなく,積極的に協力することは考えにくい。農民合作社の場合は,また

理事長や社員が個人の財産を担保とし,銀行から融資を受けることが可能だが,農家の場合は担保

にし得る財産が少なく,融資は極めて困難である。このように,新しい事業を始めるときや事業を

拡大するときに,資金調達が大きな壁となり,農村部の産業融合,農業の 6 次産業化を阻んでい

る。現状を打破するには,政府が公的保証を提供するか,農村の土地制度を改革する必要がある。

. 今後の展望

中国農業の 6 次産業化において,供銷合作社は極めて重要な存在である。かつて,農業資材専

売と農産品の売買を一手に担っていた供銷合作社は,中国最大級の販売ネットワークを持ってお

り,依然として,農民から厚く信頼されている。その役割は電子商取引の展開,農民合作社設立の

サポートとリードなど,農村産業融合のサポートも期待されている。

資料によれば,2017年末まで,供銷合作社の基礎をなす基層供銷合作社(郷鎮にある末端組織)

は30,381社となっており,2016年より1,265社も増加し,近年ではその数は増加する傾向にある。

その内訳は集体企業46 19,883社,有限責任会社2,649社,株式会社725社,合作企業47 1,442社,農

民合作社2,790社,その他2,792社。経営管理は民営(看板は保留)2,575社とその他3,925社を除き,

すべて政府の管理下に置かれている(うち1,169社の所在地管理を除き,すべて県が管理する)。そ

して,営業店舗数は34.1万店舗(日常雑貨16.9万店舗,農業資材11.8万店舗,農産品買入2.6万店

舗,資源リサイクル1.8万店舗)で売上高の内訳は農産品39,日常雑貨37,農業資材19,リ

サイクル資源類 6の順番となっている48。

さらに2018年の供銷合作社の売上は5.9兆元に達し,468億元の利益を上げている49。無論,その

利益は地方政府や一部の請負者のものも入っているが,同じ年度の広州汽車グループの利益109億

元を鑑みれば,公的機関として農家などに無償サービスや教育を提供する余地があると考えられ

る。供銷合作社の傘下には96校の学校があり,全国25の省・市・区に分布している。その内訳は 4

年制大学 3 校,ポリテクニック11校,専門学校52校,訓練学校30校となっている。たとえば,定

期的に農村部に教員を派遣し,無償の技術や啓発のレッスンを提供することも産業間の融合を促進

することができる。

電子商取引は間違いなく,今後の農産品販売にとってはもっとも重要な方法の一つとなる。しか

し,供銷合作社の電子商取引プラットホーム「供銷 E 家」に加入するハードルが高く,資本金は

Page 19: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―

50 農民合作社の連合体である。

― ―

100万元(約1670万円)以上が条件となっている。現状としては,農民合作社や合作社聨社50 はほ

とんど見られず,供銷合作社と龍頭企業が中心となっている。資本的にも規模的にも大きい龍頭企

業よりも,むしろ合作社の農産品の流通をサポートする必要がある。

農業代行サービスは中国農業にとっては大きな意義をもっている。農業全体からみると,農作業

が機械により行われ,作業の効率がよくなる。また,科学的な生産を通して,問題となっていた化

学肥料と農薬の濫用による環境・耕地破壊を防げるだけではなく,標準化生産により農作物の規格

が安定し,委託の増加により単位当たりの耕作面積が増えることにつれ,農業効率性がさらに上が

る見込みである。

また,コンサルタントを強化する必要がある。供銷合作社は現在農家に対して,農民合作社の設

立や加入をサポートしている(2017年まで18.6万社)。これからは競争が激しくなることに対応し

て,農家向けに農業経営についてアドバイスや共有農業ブランドの取得と管理のサポートなどを加

速する。将来,供銷合作社が果たす役割はますます重要になっていくであろう。

おわりに

中国の急激な経済発展で,農村は取り残されていた。三農問題「農村・農民・農業」で代表され

る中国の農村問題解決に,農業の各産業間の融合を通じて,農業の高度化,農民収益の向上をもた

らし,農村を豊かにする可能性を秘める農業の 6 次産業化ともいえる政策,「農村の一二三産業融

合政策」が導入された。

農業の 6 次産業化はこれまでの農業龍頭企業による「農業産業化」と大きく関わっているが,

後者は龍頭企業が主導する垂直的統合であるに対して,前者は農家,企業が自発性を持つ水平的統

合である。中国で導入される「農村の一二三産業融合政策」は市場のニーズに従い,地域特有の農

・畜産,農産品加工業,農村サービス業,一村一品,一郷(県)一業の発展や農村の基礎インフラ

建設に投入を増すことで農村観光レジャー業の発展を図るものであり,農民の増収を主な目的とし

ている。その特徴は産業融合対象の多様化,農業サービス業拡大による新たな付加価値の創造,農

村発展の重視である。また,現在中国で行っている 6 次産業化は大きく◯龍頭企業主導型◯農業

観光レジャー型◯農業生産委託型◯電子商取引型◯合作社型の 5 種類に区分できる。

現在の中国は 6 次産業化を導入する環境,つまり 6 次産業化を担う人材の育成と農村インフラ

の整備などは整えつつある。人材の育成などいわゆるソフトの面では,政府は大学生や退役軍人な

どを対象に比較的に質の高いいわゆる新型職業農民など新農業経営主体の養成に力を注いており,

一定の成果を上げた。一方,ハード面では農村部は道路やインターネット通信網はほとんどの行政

村をカバーしたが,運輸や観光で運用する場合は「質」の面においては問題が未だ残っている。

6 次産業化を導入する内的要因は消費ニーズの高度化,加工機械不足によるロスや労働コストの

Page 20: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―― ―

上昇による農業収益の減少,産業間連携不足による値崩れ,農業補助金(最低買入)は国産穀物の

価格を押し上げ,輸入穀物との競争力低下などが挙げられる。そして,外的要因としては,「一帯

一路」戦略や新な貿易条約締結など貿易の拡大,または中米貿易戦を代表とする貿易摩擦,中国市

場の更なる開放が求められることがあげられる。国際競争の高い輸入農産物に対抗するためには,

早急に農業の 6 次産業化を通じて農産品の実現し,中国農業の付加価値を高めなければならない。

中国農業 6 次産業化の問題はいろいろあるが,最も喫緊の問題としては農産品の販路の拡大と

農家への金融支援不足にある。販路拡大にあたっては,政府は電子商取引大手企業に期待を寄せて

いたが,それらの企業は自社事業に重点を置き,政府が期待する役割つまり農産品販路拡大にあま

り力を注いでいない。一般企業である以上,自社の利益を最優先するため,政府ほかの連携方法の

模索と国営企業による農産品販売支援を加速させる必要がある。金融支援の不足もまた,農業の 6

次産業化を阻害している。農家や農民合作社は銀行の担保になりえる資産が少なく,新しい事業を

始める時や事業を拡大する時に,資金調達が大きな壁となり,農村部の産業融合,農業の 6 次産

業化を阻んでいる。現状を打破するには,政府が公的保証を提供するか,農村の土地制度を改革す

る必要がある。

また,中国農業の 6 次産業化において,農民から厚く信頼されている供銷合作社は極めて重要

な存在である。現在,供銷合作社が提供しているサービスは少々問題が存在しているが,電子商取

引のサポート,農業代行サービスなどのサポートを更に強化することを通じて中国農業の 6 次産

業化を促進し,中国の都市・農村間の格差解消に大きな役割を果たすのであろう。

参考文献一覧

日本語

今村奈良臣「農業の第 6 次産業化のすすめ」『かんぽ資金』簡保資金振興センター,1997年11月,第234号,10

~15頁

今村奈良臣「農業の 6 次産業化の理論と実践の課題」『ARDECworld agriculture now』日本農業土木総合研

究所海外農業農村開発技術センター,2012年12月,第47号,2~6 頁

池上彰英・寳剱久俊編『中国農村改革と農業産業化』日本貿易振興機構アジア経済研究所,2009年12月

池上彰英「転換点後の農業問題」田島俊雄・池上彰英編『WTO 体制下の中国農業・農村問題』東京大学出版

会2017年 8 月25日

工藤康彦・今野聖士「6 次産業化における小規模取り組みの実態と政策の課題北海道『6 次産業化実態把握

調査』結果から」『農経論叢』北海道大学農学部農業経済学教室,2014年 4 月,第69号,63~76頁

橋守「酪農家による 6 次産業化の取組み株式会社橋牧場 ニセコミルク工房」(特集 地域の特色を生か

した重点活動を学ぶ農業・農村生活懇話会 夏の研修会)『農家の友』北海道農業改良普及協会,

2018年11月第11号,26~29頁

貞清栄子「日本農業は成長産業なのか(4)6 次産業化の今(2)企業の農業参入の動き」『週刊農林』農林出版

社,2018年 9 月,第2360号,4~5 頁

李剛・黄朕「中国における農村観光開発の特徴と趨勢に関する研究」『観光研究論集』大阪観光大学観光学研究

所年報,2016年,第15号,47~58頁

方琳・山本信次・山本清龍・藤崎浩幸「中国における三農問題解決のための農家楽の可能性と課題―浙江省杭

州市桐廬県を事例とする質的調査から―」日本森林学会誌,2015年,97巻 2 号,115~122頁

Page 21: 中国農業の 6 次産業化 - 明治大学 · 第51号 2019. 9 中国農業の6 次産業化 ―中国農業の6 次産業化の進展と問題の一考査― The agricultural

― ―― ―

山田七絵「中国における『農業産業化』と小農経営の変容―農民専業合作社による大型畑作経営の事例―」清

水達也編『途上国における農業経営の変革』研究双書,アジア経済研究所,2019年,51~88頁

中国語

姜長雲「日本的“六次産業化”与我国推進農村一二三産業融合発展」農業経済与管理,2015年 3 月,5~10頁

姜長雲「推進農村一二三産業融合発展的路径和着力点」中州学刊,2016年 5 月第 5 期,43~49頁

馬秋穎・王秀東「“互連网+”対農業六次産業化発展的影響及推進策略」『農業展望』中国農業科学院農業経済

与発展研究所,2016年第10期,48~52頁

金紅蘭・尹東華・金龍勲「農業六次産業化的発展過程与方向―以吉林省延辺朝鮮族自治州 A 与 B 農業経営組織

経営者調査為例」『延辺大学農学学報』2016年第 2 号,127~133頁

張立冬,曹明霞,張照新,徐雪高「農業産業化龍頭企業社会責任履行研究」江蘇農業科学,2018年第46卷第 3

期,1~5 頁

王楽君・寇広 「促進農村一二三産業融合発展的若干思考」農業経済問題,2017年第 6 期,82~88頁

安徽財経大学,中華合作時報社聨合専題調研組「2017年中国合作経済発展研究報告」『中国合作経済』2018年

第 1 期,20~22頁

インターネット

新華網「全国95的郷鎮又有了供銷社」http://www.xinhuanet.com/finance/201801/15/c_129791439.htm

新華網「2018年供銷合作社系統実現銷售総額5.9万億元」http://www.xinhuanet.com/201901/15/c_

1123994559.htm

農業農村部新聞弁公室「農村一二三産業融合助力郷村振興」http://www.moa.gov.cn/ztzl/scw/zcfgnc/201806

/t20180620_6152682.htm