鉄道車両工業 476 号 2015.10 33 1. 世界市場全般 1.1 アジア (1) インド:DFC モディ首相が議長をつとめるインド政府の 内閣経済情勢委員会は、東部と西部のDFC (Dedicated Freight Corridor、専用貨物輸 送回廊)プロジェクトの費用の修正見積り 8,146 億 ル ピ ー ( 約 1.7 兆 円 ) を 承 認 し た (6/25記事)。内訳は、東部DFC2,667億ル ピー ( 約 5,600 億円 )、西部 DFC4,618 億ル ピー (約9,700億円)、土地取得費用807億 ルピー (約1,700億円)となっている。資金 源としては、国際協力事業団(JICA)と世界 世界市場インプレッション 論 説 論 説 ―メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き― (その 20) 銀行から合計5,235億ルピー (約1.1兆円) を借り入れる予定となっている。JICAが西 部DFCに貸し付け、世界銀行が東部DFCに 貸し付ける。この東西のDFCは2017年か ら 2019 年に段階的に完成する。 インド国鉄IRは、川崎重工業をリーダー とする日本コンソーシアム(他に、東芝、三 菱電機、三菱商事)が、西部DFCに200両 の6,700kWの電気機関車を供給する契約の ための技術要件を満たしたと発表した。初め ( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会 鉄道工業ビジネス情報研究会 -内容- 1.世界市場全般 1.1 アジア 1.2 欧州 1.3 北米 1.4 南米 はじめに 最近3カ月余りの間に、メディアで報じられた鉄道関連の世界市場とビジネスの動きの中から気 にとめた情報について記す。世界の業界の動きとして、シーメンスとボンバルディアの鉄道部門の 事業統合のうわさの話題のほか、Wabtec が Faiveley を買収・統合する動きが報道されている。 世界の車両用装置・部品メーカの動きとして、ブレーキ装置などを中心に事業展開する Wabtec、 Faiveley、Knorr-Bremse 3 社の業容を調査して北米の項にまとめたのでご参照頂ければ幸いで ある。 なお、本編で用いる為替レートは、120 円/$、135 円/ としている。 補 注:東 部 DFC:デ リー~コ ルカ タ (Ludhiana ~ Dankuni, 1839km)、西部 DFC:ムンバイ~デリー (JNPT~ Rewari/Dadri, 1,514km)

論 説 世界市場インプレッション...気機関車83両の内訳:WAM2(イグナイトロン式 2,083kW)36両、WAG2(ダイオード式2,400kW)45 両、WAM3(ダイオード式2,083kW)2両

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  • 鉄道車両工業 476 号 2015.1033

    1.世界市場全般1.1 アジア(1)インド:DFC

     モディ首相が議長をつとめるインド政府の

    内閣経済情勢委員会は、東部と西部のDFC

    (Dedicated Freight Corridor、専用貨物輸

    送回廊)プロジェクトの費用の修正見積り

    8,146 億 ル ピ ー ( 約 1.7 兆 円 ) を 承 認 し た

    (6/25記事)。内訳は、東部DFC2,667億ル

    ピー (約5,600億円)、西部DFC4,618億ル

    ピー (約9,700億円)、土地取得費用807億

    ルピー (約1,700億円)となっている。資金

    源としては、国際協力事業団(JICA)と世界

    世界市場インプレッション

    論 説論 説

    ―メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き―(その 20)

    銀行から合計5,235億ルピー (約1.1兆円)

    を借り入れる予定となっている。JICAが西

    部DFCに貸し付け、世界銀行が東部DFCに

    貸し付ける。この東西のDFCは2017年か

    ら2019年に段階的に完成する。

     インド国鉄IRは、川崎重工業をリーダー

    とする日本コンソーシアム(他に、東芝、三

    菱電機、三菱商事)が、西部DFCに200両

    の6,700kWの電気機関車を供給する契約の

    ための技術要件を満たしたと発表した。初め

    ( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会鉄道工業ビジネス情報研究会

    -内容-

    1.世界市場全般

    1.1 アジア

    1.2 欧州

    1.3 北米

    1.4 南米

    はじめに 最近3カ月余りの間に、メディアで報じられた鉄道関連の世界市場とビジネスの動きの中から気

    にとめた情報について記す。世界の業界の動きとして、シーメンスとボンバルディアの鉄道部門の

    事業統合のうわさの話題のほか、Wabtec が Faiveley を買収・統合する動きが報道されている。

    世界の車両用装置・部品メーカの動きとして、ブレーキ装置などを中心に事業展開する Wabtec、

    Faiveley、Knorr-Bremse 3 社の業容を調査して北米の項にまとめたのでご参照頂ければ幸いで

    ある。

    なお、本編で用いる為替レートは、120 円/$、135 円/ € としている。

    *補注:東 部 DFC:デリー~コルカタ(Ludhiana ~Dankuni, 1839km)、西部DFC:ムンバイ~デリー(JNPT~ Rewari/Dadri, 1,514km)

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.10 34

    の40両は日本で完成車を製作納入するが、

    次の30両は半完成品を供給しインドで組立

    てるセミノックダウン式、その次の30両は

    部品(キット)を供給しインドで全て組立てる

    コンプリートノックダウン式、さらに残りの

    100両は全てインドで生産される計画で、そ

    の技術移転を含め350億ルピー(約740億円)

    の契約と報じられている。financial bidsは

    10月に開札し、今年末までに成約の見込み

    であるという。ちなみに、1960年代の前半には日本連合が欧州連合と競争しながらも、当時としては日本でも新たに開発を進めていた新型交流電気機関車をインド国鉄から数多く受注・納入している。

     それからおよそ半世紀が経過した今日であるが、数年後には日本連合の6,700kW大出力貨物用交流電気機関車がまたインドに輸出され、彼の地を走ることになることが期待される。この日本が支援する西部DFCは、東部DFCとともに、インドが国の命運をかけ建設する鉄道貨物輸送の大動脈であり、10年、20年先の輸送力増強を見込んだ一大投資である。 インドの交通政策委員会は、2021/22年

    度から2036/37年度の15年間で、DFC東

    西2回廊(総延長3,350km余の専用貨物新

    線)の貨物輸送量が、約310百万トンから約

    530百万トンへ約1.7倍になるという予想を

    たてている。これは、現在のインド国鉄全体

    の鉄道貨物輸送量1,097百万トン(2014年

    度)のほぼ半分の輸送量にあたる。ちなみに、

    日本のJR貨物の輸送量は30百万トン(2014

    年度)であった。

     交通政策委員会は、インド国鉄には現在

    3,350kW ~ 4,470kW クラスの機関車が

    およそ5,000両しかなく、2032年までに

    25,000両が必要であるとの予測をしてお

    り、電気機関車の需要量は非常に大きいと考

    えられる。

    (2)インド:高速鉄道プロジェクト

     一方、旅客鉄道の関係では、ムンバイ~アー

    メダバード間505kmの高速鉄道プロジェク

    トに関する日印共同調査によるJICAレポー

    トが、インド政府プラブ鉄道大臣に提出され

    た(7月20日)。2017年から建設を開始し、

    2023年完成、2024年には開業する計画で、

    総工費は9,880億ルピー (約2.1兆円)に及ぶ。

    日本政府は、車両の30%を日本企業が提供す

    るという条件で、このインド初の高速鉄道の

    建設に資金を0.25%という低金利で貸付け

    *補注:当時日本連合がインド国鉄に納入した交流電気機関車 83両の内訳:WAM2(イグナイトロン式2,083kW)36両、WAG2(ダイオード式2,400kW)45両、WAM3(ダイオード式2,083kW)2両

    *補注:交通政策委員会:The National Transport Development Policy Committee

    ると申し出ている。

     しかしどうであろうか。中国がAIIBによる貸付けなどいろいろな手段でかき回してくることも含め、紆余曲折の懸念がないとはいえない。ムンバイ~アーメダバード間の旅客高速鉄道が早く日本の資金と技術によって現実のものとなるよう期待し応援したい。

    論 説

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.1035

    (3)中国:高速鉄道

     このほど、最 新の最高速 度350km/h の

    CRH380Dが昨年中に営業運転予定という

    当初予定より大幅に遅れて納入が始まってい

    る(3月より出荷開始、5月末12編成納入)。

    250km/hのCRH1A-250も出荷され、6月

    にテスト走行に入った。さらに、追って高速

    250km/h対応の新たな寝台列車CRH1Eの

    プロトタイプが出荷される予定という。いず

    れもボンバルディアと四方の合弁会社BSTの

    製作によるものである。

     主な仕様は下表のとおりであり、CRH380DはZefiro380をベースとしボンバルディアのECO4技術に基づくMitrac駆動システムとEBI運転支援システムを搭載している。また、CRH1AはZefiro250をベースとしている。 CRC の 調 達 部 門 CRIC(CHINA Railway

    Investment Corporation)は、総額が$10.6

    bn(約1.3兆円)、トータル351編成の高速

    列車を調達するため6つの入札を発表してい

    る( 7月17日)。1編成8両としてトータル

    2,808両になる大量調達である。350km/h

    対応が228編成と250km/h対応が123編

    成で、中国国内メーカのみが参加できる。結

    果は、長春、四方、唐山、BSTの各車両製造

    会社が落札したようである(9月)。

     既に6月30日から380km/hの高速車両

    の標準化に向けて初めてのプロトタイプ2車種による試験走行が実施されている中での新たな車両として注目される。標準型の高速車両の国産化開発を進め、国内の仕様統一を図り、その先には「中国の独自技術による」製品を完成させ海外への高速鉄道車両の輸出を目指しているものと思われる。(4) 中国中車 上半期業績

     今や世界最大車両製造会社となった中国中

    車CRRCは、6月30日までの上半期6カ月の

    業績を発表した。6月1日に合併して誕生し

    たばかりなので業績は、これまでの北車と南

    車の5月末までの業績と6月1カ月分の新た

    な会社の業績を足し合わせた参考値である。

     これによると、上半期の売上高は918億

    元(約1.8兆円)、利益は47億元(約940億円)

    で前年同期の北車と南車の合計額よりそれぞ

    れ6.26%、6.85%上昇したという。

     輸出が 110 億元 ( 約 2,200 億円 ) と急激

    に伸張し、前年同期比61.2%の伸びを記録

    し、輸出額の全売上高に占める割合が12%

    となった。(前年同期の割合は8%であった。)

    そして、350km/hの標準高速車両と都市間

    高速電車のプロト完成や、100トン積載の石

    炭用ホッパー車の試作機の製作、軸重30ト

    ンのアルミ製無蓋貨車の開発を進めているこ

    となど、多くの成果があることに言及してい

    る。

    新高速車両の主な仕様

    *補注:BST:Bombardier Sifan Transportation

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.10 36

     さらに、アメリカの大学内に創設した共同

    研究施設やマサチューセッツ州での工場の起

    工式(後述)、トルコにおけるJVでの車両新

    工場開所、マレーシアにおける工場設立など

    を進めており、海外への投資、M&Aなどに

    よってグローバルな多国籍企業に向けて下期

    はさらに尽力していくと、CRRCの崔殿国(Cui

    Dianguo)董事長は意欲を示している。 

     この勢いはなかなか止まらないような気がするが、あまりに急激な拡大と進出に世界中の業界が警戒感をさらに強めることは間違いないと思われる。(5)フィリピン:マニラの鉄道整備への円借

    款2,420億円供与の方針を日本政府が表明

     このほどマレーシアを訪問中の城内外務

    副大臣がフィリピンの外相と会談の際、鉄

    道整備事業費3,000億円の8割にあたる約

    2,420億円を円借款供与する方針であること

    を伝えたという(8月5日)。首都マニラから

    北へ約40km伸びる狭軌の高架路線整備計画

    に充てるもので、線路敷設、車両、システム

    など多くの日本の技術の導入が期待される。

    ODA(政府開発援助)としては過去最大規模

    ということでもあり、日本の新聞には大々的

    に取り上げられている。

     一方、英文記事の多くは同じフィリピンの

    南北線でも、マニラから南側の約500kmに

    及ぶ路線区間の入札案件(費用約4,400億円、

    PPP案件)の事前資格(PQ)会議が8月20日

    行われ約30社が出席した、という内容が大

    きく報じられている。

     いずれにせよ、中国主導のAIIBが立ち上がる前に機先を制するがごとく、日本からインフラ投資への積極的支援を表明したことは快挙であると思われる。今後の成り行きに注目し期待したい。1.2 欧州(1)シーメンスとボンバルディアの事業統合

    の話題ほか

     ドイツのミュンヘンに拠点を置くシーメン

    スと、カナダのモントリオールに拠点を置く

    ボンバルディアは、両社の鉄道関連事業を統

    合させるための予備的な会談を行っている

    と、ウォールストリートジャーナルが報じた

    (7月29日)。ある評論家筋は、ボンバルディ

    アが鉄道部門のフランクフルト上場(IPO)を

    今年の第4四半期、すなわち10 ~ 12月の

    間に行った後の展開として、両社の鉄道関連

    事業の統合は有り得るとの見方もしているよ

    うである。

     独占禁止法の許可の問題は有るであろうし、また、将来の売却を見越した場合、鉄道部門の事業価値を最大限にして売却するための選択肢は、地域別や分野別の事業分割などを含めていろいろ有り得ると思われるので推移に注目したい。いずれにしても、何とも「騒がしい」業界となったものである。中国起源の脅威、あるいは恐怖心が世界の鉄道車両メーカ全体に及んできているのであろうか。業態を大型化して、強化を図るというある種サバイバルゲームの様相を呈してきている。 中国2社の統合以前にも、アルストムとGE Transportationの信号部門の統合、日立のアンサルド-ブレダ、アンサルド-STSの買収の話はすすめられている。6月初めの中国の巨大企業出現以降、ここにきて、今回アメリカの項で取り上げるWabtecとFaiveley両社の統合の話も進められているところである。 また、スイスで業績を伸ばしてきた欧州中堅車両メーカStadler社もM&Aについて検討中という。以前から、Vossloh社(独)は、鉄道車両部門の売却先を探しており、タルゴ社(スペイン)やNewag社(ポーランド)は株式上場を済ましている。巨大企業から中堅企業まで、M&Aの話が花盛りといった印象である。 自動車業界でよくある資本提携、業務提携、共同開発、事業協力というようなことがあま

    論 説

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.10

    り聞かれないまま、いきなり企業統合・買収という動きとなっているが、大変驚かされることの多い昨今の業界動向である。(2) 英国:鉄道運行管理システムの受注、車

    両の受注

     列車運行シミュレーション機能を持たせた

    テームズリンク線向け運行管理システムを、

    日立レールヨーロッパが英国のインフラ管理

    会社Network Railから受注した(7月27日)。

    日立としては、英国の運行管理システムの初

    受注となる。システムの対象は、ロンドンを

    中心に広がるテームズリンク線160km /約

    190駅の、複々線区間もある高密度線区で、

    ピーク時は1時間に24本の列車が走行する。

    2017年から一部区間で、2018年には全区

    間で運用開始予定となっている。

     日本で培われた運行管理システム技術が、いよいよ英国の首都ロンドンで花開くことになる。日本の正確でサービスレベルの高い列車運行管理機能と高信頼性システムを、英国および世界に発信する良い機会になると思われる。 また、日立は英国で標準型都市間高速車両

    AT300、29編成173両を、保守業務含め

    £361M(約700億円)で受注したという(7

    月30日発表)。AT300は、先にIEP向けに

    受注しているものと合わせると1200両余り

    になる。

     同社は、イングランド北東部のニュートン

    -エイクリフに新たな車両工場を開所し(9月

    3日)これらの車両を現地生産する。英国における同社のプレゼンスはさらに高まったと思われる。(3)中国・英国:高速鉄道技術に関する共同

    研究センター設立:

      英 国 バ ー ミ ン ガ ム で の 展 示 会 Railtex

    2015 会 場 に お い て、 中 国 の CRRC( 当 時

    CSR) の青島四方が、鉄道研究開発のため

    に英国で ‘China-UK Joint Research and

    37

    Development Center for Rail Transit

    Technology’を設置することに関して、英

    国の3大学と一連の協力合意の調印を行った

    (5月12日)。

     英国の3大学とは、the University of Bir-

    mingham, University of Southampton お

    よび Imperial College である。新設のセン

    ターでは、新技術、新素材、新生産工程など

    の開発を進めるという。

     中国が英国の高速鉄道HS 2計画などに参加するための活動の一つとしても注目されるが、大学や研究機関との人の交流は、将来にわたっての大きな布石となり、強固な両国の結びつきを創る力にもなると思われる。同社(当時CSR)による同様のセンターの設立は、既にドイツ、タイでも行われている。アメリカの大学でも共同施設(Sino-US Institute of Rail Transit)を創っているようである。中国の目の付けどころと行動力はなかなかのものであり、我が国の対外戦略を再点検することも必要ではないかと考えさせられる。1.3 北米(1) WabtecがフランスFaiveley Transpo-

    rt(フェブレ社、以下Faiveley)を買収・統合

     Wabtecは2015年度第2四半期の決算で、

    業績が記録的に伸張したと公表した(6月23

    日)。

     最近の半期ベースの売上は、2014年と

    2015年の同期比較で、$1,426M(約1,700

    億 円 ) か ら $1,665M( 約 2,000 億 円 ) へ 約

    17%伸張したという。2014年度の売上は$3,044M( 約 3,650 億円 ) であったので、このまま後半も同程度(17%)伸張すれば、2015年度の売上高は$3,554M(約4,300億円)にまで達する勢いである。  そ の Wabtec が、Faiveley を 18 億 米 ド

    ル(約2,100億円)で買収・統合する計画が

    報じられている(7月)。実現すると、貨物と

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.10

    旅客輸送の広い分野で地理的にも世界により

    広くその力が及ぶことになり、売上高が約

    5,000億円を超え、Knorr-Bremse(クノー

    ル-ブレムゼ)を抜いて世界でトップの鉄道車

    両用装置・部品メーカに躍り出ることになる。

     これまでの3社の売上高の推移である

    が、この6年間の売上高の順位はほとんど

    Knorr-Bremse、Wabtec、Faiveley の 順

    であった。M&A等も含めて業容を拡大する

    Knorr-Bremse、Wabtecの上位2社に比べ、

    Faiveleyは1,200億円~1,400億円レベル

    のままでどんどん水をあけられてきていた。

     Wabtec(20カ国、従業員13,000人)は、

    北米の売上高が全体の62%(USA50%、カ

    ナダ6%、メキシコ6%)を占め、北米以外

    は高い順にイギリス12%、オーストラリア

    4%、中国3.3%、ドイツ2.8%、ブラジル

    2.8%、イタリア1.4%、フランス1.4%、オ

    ランダ 0.6%、その他 10% となっている。

    また、製品分野の主体は貨物鉄道分野で、全

    体の57%を占めている。

    38

     一方、Faiveley(24カ国、従業員5,700人)

    は、Wabtecとは対照的に北米以外が84%、

    うち欧州が61%と欧州を中心としており、

    北米の売上高は全体の16%となっている。

    製品も貨物鉄道分野より旅客鉄道分野が圧倒

    的に多い。

     この2社が統合すれば、地域、分野の両面

    でよりバランスが取れた事業構成の企業にな

    ることに加え、製品の品ぞろえにおいても互

    いに補完し製品範囲が広がる。

     ブレーキ関係の製品に関していえば、Wa-btecが北米の貨物対応が主体であるのに対し、Faiveleyは欧州が主体、Knorr-Bremseはドイツ、欧州に発し今やグローバルに事業展開している。Wabtecが欧州主体のFaiveleyを買収する今回の動きは、かつて北米カナダのボンバルディアが欧州のAdtranzを買収したときのことを思い出させる。

    *補注:数値は、各社のAnnual Reportに基づく

    *補注:上述の地域別売上高比率などは2014年度の各社Annual Reportに基づく

    論 説

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.1039

    (2)カリフォルニア新幹線のエンジニアリン

    グ・マネジメント契約

      米 国 の カ リ フ ォ ル ニ ア 高 速 鉄 道 局

    (CHSRA)は、エンジニアリング・コンサ

    ル テ ィ ン グ 会 社 Parsons Brinkerhoff を

    リーダーとするコンソーシアムに、高速鉄

    道プログラムのための7億ドル(約840億

    円)という巨額のエンジニアリング・マネジ

    メントの契約を与えたという。注目すべき

    は、コンソーシアムのメンバーに英国インフ

    ラ会社Network Railの海外対応部門である

    Network Rail Consulting社(2012年に設

    立)が参画し、主として運用・保守および営

    業運転開始に向けての主導的役割を担うこと

    になっていることである。

     英国のHS1高速鉄道の経験からNetwork

    Rail Consulting社が選ばれているようであるが、英国の次のHS2高速鉄道プロジェクトはまだ計画段階であり、高速鉄道運営の経験は浅いはずである。英国流のマネジメトやオペレーション、エンジニアリング能力の評価だけでなく、欧米のコンサルタント業者間における仲間意識の強さのようなものを感じる。英国のHS1高速鉄道用に日立が日本から納入した車両(class395)が順調に稼働していると報じられており、この英国コンサルタントの登用が、今後の日本の高速鉄道受注に向けて追い風になるという見方もあると思われる。(3)米国:中国車両メーカCRRCが車両工場

    の起工式

     Charlie Bakerマサチューセッツ州知事は、

    *補注:表は、各社のホームページ等に掲載の内容を元に本研究会にて作成 PTC:Positive Train Control 自動的に速度を落として事故を防ぐ今後の米国鉄道のGPS応

    用自動列車制御システム

  • 鉄道車両工業 476 号 2015.10 40

    中国企業CRRCが、$95M(約114億円)で

    建設する米国鉄道車両工場のマサチューセッ

    ツ州Springfieldの現場で、他のVIPと一緒

    に起工式に加わった(9月3日)。2014年10

    月に$566M(約680億円)で当時のCNRが

    受注したMBTA向けオレンジライン用メト

    ロ152両とレッドライン用メトロ132両を

    製作することになる。約150人の雇用を生

    むということであるが、中国車両の米国上陸

    が本格化する気配である。2017年秋までに

    完成する予定という。

     かつてWASP(白人W、アングロサクソンAS、プロテスタントP)の象徴的な存在のひとつであったマサチューセッツ州における出来事であり、大きく時代が変わったという印象的なエポックである。1.4 南米(1) ブラジル:鉄道インフラ政策

     ブラジルのDilma Rousseff大統領は、輸

    送の効率向上などで産業競争力の強化を図る

    目的で、新規の営業認可プログラムにおいて、

    1,984億レアル(約8.2兆円)を、鉄道・高

    速道路・港湾・空港の交通インフラに充てる

    ことになっていると公表した(6月9日)。

     このインフラ整備計画は、全体の約1/

    3にあたる 692 億レアル ( 約 2.9 兆円 ) が

    2018年までのものである。残りの1,292

    億レアル(約5.3兆円)は2019年以降のもの

    となっており、その中には中国やペルーとの

    間で合意した太平洋への横断鉄道の新路線建

    設対応用の400億レアル(約1.6兆円)も含

    まれている。今回のインフラ整備計画には、

    高速鉄道の計画は入っていない。

     ブラジルは、資金源の多くを中国に依存する形で鉄道インフラ整備計画について大風呂敷を広げたようであるが、崖っぷちの情勢にある大統領の政治パフォーマンスの側面が多分にあると思われる。貨物鉄道が優先され、残念ながら高速鉄道プロジェクトはますます遠のいてしまうのか。

      

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    販売 株式会社ダイヤモンド社

    ISBN978-4-478-04767-5

    論 説