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Meiji University Title � -�- Author(s) �,Citation �, 14: 37-85 URL http://hdl.handle.net/10291/20115 Rights Issue Date 2019-03-01 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

【論文】 - m-repo.lib.meiji.ac.jp · 18-11-385 04沼田先生.mcd Page 1 19/02/09 16:38 v5.51 【論文】 一般間接税としての消費税について ―税額控除に関する議論を中心として―

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Meiji University

 

Title一般間接税としての消費税について -税額控除に関す

る議論を中心として-

Author(s) 沼田,博幸

Citation 会計論叢, 14: 37-85

URL http://hdl.handle.net/10291/20115

Rights

Issue Date 2019-03-01

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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【論文】

一般間接税としての消費税について― 税額控除に関する議論を中心として ―

Mechanism of general indirect taxes on consumption

沼 田 博 幸

Hiroyuki NUMATA

【キーワード】消費税、付加価値税、税額控除、インボイス方式、帳簿方式

(目次)1.はじめに2.付加価値税における税額控除の意義(1)付加価値税の出現の経緯(2)間接税の一種としての付加価値税(3)付加価値税の仕組み(4)付加価値税に関するいくつかの議論(5)付加価値税における税額控除の意義(6)小括3.消費税法における税額控除の取扱い(1)消費税法の導入とその仕組みの概要(2)導入から今日までの税制改正の概要(3)税額控除からみた税制改正の傾向(4)小括4.わが国における税額控除の問題点について(1)概要(2)現行制度の仕組みの分析(3)税収喪失リスク(日本型回転木馬モデル)(4)小括5.おわりに

一般間接税としての消費税について- 37 -

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1.はじめに

わが国の消費税は、欧州の付加価値税(Value Added Tax:VAT)をモデルとして導入されたものである1)。

一般間接税を導入する場合には様々な困難な課題が発生するが、これらの課題は前段階税額控除という特殊なメカニズムを用いることで解決されたのである。付加価値税とは、前段階税額控除の仕組みを持った一般間接税のことである。この税は、物品サービス税(GST)とも称される。

この前段階税額控除の仕組みは一見すると無駄あるいは無意味にみえる事業者間(business tobusiness : B2B)取引での納税と税額控除を繰り返すものであり、したがって、前段階税額控除は、国庫からみると、構造的に税の逋脱という大きなリスクを抱えている。このリスクは、税の連鎖の仕組みを確保する強靭なツールによりはじめて回避が可能となるものである。このツールとして広く用いられているのがインボイスであり、インボイス税額控除方式と称されるものである2)。

わが国の消費税は、インボイスを欠いた付加価値税である3)。したがって、結果的に、国庫にとってリスクの大きい脆弱な仕組みとなっている可能性がある4)。

こうした国庫のリスクの問題は、消費税の税率が低い間は潜在化していたものの、税率が高くなるにつれて表明化してきたように見える。近年の租税回避防止目的での一連の税制改正はこうした変化を反映したものといえる5)。今後、わが国でも、軽減税率の導入に合わせてインボイス方式の導入が予定されているが、こうした国庫上の損失やリスクの解決においても大きな意味を持つと考えられる。

付加価値税は、本来は簡素でかつ強靭な仕組みであるにもかかわらず、わが国の消費税には、多数の事前届出を必要とする仕組みが設けられていることからも明らかなように、極めて複雑であり、実務家にとっては困惑する場面が多くなっている6)。そして、租税回避防止の観点からの規定が増加していることから、一層複雑で、その仕組みを正しく理解することが困難となっている。

本稿は、以上のような問題意識の下で、わが国の現行の消費税がメカニズム(システム、仕組み)として抱えている基本的な問題点を明らかにするための試みである。論点の拡散を避けるために、

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1)VAT の定義:VAT 指令1条2項の仮訳「VAT の共通システムとしての原則は、消費に対する一般税(ageneral tax on consumption)が、物品およびサービスの価格に対して、その税が課される以前の生産および流通における取引回数の多さにかかわらず、正確に比例的に適用されることである。」

2)このリスクが余りに大きい場合には、むしろ、税額控除を伴わないリバースチャージ、事業者間免税売上税や小売売上税のほうが望ましいことになる。

3)わが国の方式は、一般に「帳簿方式」と称されている。これは、取引相手から受け取ったインボイスに基づいて税額控除の金額を計算するのではなく、自己が有する帳簿や請求書等に基づいて税額控除の金額を計算するものである。

4)すなわち、わが国の消費税は、本来の重複課税(カスケード)の排除の趣旨を超えて、リアリティ(実質)のないフィクション(架空)の税額控除を生み出す可能性がある。

5)改正の内容そのものが対象療法にとどまっている。また、顕在化しているものは氷山の一角に過ぎない可能性がある。さらに、既存の仕組みのなかで対応しようとしていることから、現行の仕組みを必要以上に複雑化させている。

6)事前届出の手続ミスで発生する損害賠償に備えて、税理士損害賠償保険が必要となっている。

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本稿では、税額控除の問題に焦点を当てて検討する。

以下、本稿の概略を述べる。第2章では、消費に対する一般間接税における進化の最終形態としての付加価値税のメカニズム

について論ずる。間接税と直接税の比較、個別間接税と一般間接税との比較、一般間接税のなかでの各種の仕組みの比較を行い、そのうえで、付加価値税の前段階税額控除の仕組みが何故優れているとされるのか、また、税額控除のリスクが如何に大きいかを明らかにしたい7)。

第3章では、わが国の消費税の導入時における考え方や仕組みの概要、および、その後の制度改正の経緯を概観することとしたい。低税率で導入され、中小企業に対する特別な優遇措置が設けられていたこと、その後、税率の引上げに合わせて、こうした優遇措置の範囲は縮小されてきたこと、他方で、その基本的なメカニズムは改正されなかったこと、そして、そのために、税率の上昇につれて国庫の損失を生じさせる動きが目立ってきており、その対症療法的な措置が次々と導入されるようになっていることなどを論ずる。

第4章では、わが国の消費税における税額控除を中心とした基本的な問題点について、具体的な検討と分析を試みることとしたい。そして、本来は中小企業の事務負担の軽減が目的であった免税事業者制度、簡易課税制度、帳簿方式、基準期間および課税売上割合の仕組みが、これらが組み合わさることで、大きな国庫上の重大な損失を招く可能性があること明らかにしたい。

2.付加価値税における税額控除の意義8)

本章では、付加価値税の出現の経緯とその仕組み(メカニズム)を論ずるとともに、特に、付加価値税のメカニズムにおける税額控除の意義を明らかにすることとしたい。

一般間接税としての消費税について- 39 -

7)なお、わが国では、消費税が所得に対する直接税の延長として理解されていること、および、その問題点についても言及する。

8)本章の内容は、これまでの筆者の論文を通じた研究とそこでの引用文献をもとに作成したものである。また、本章での考察は、これらの研究の課程で得た多数の論者の考え方を参考としたものである。そのなかで特に重要なものは下記に掲げるものである。なお、International VATMonitor 誌の論文の要旨は、「租税研究」800号

(2016年6月号498頁から519頁)の拙訳「一般的リバースチャージまたは小売売上税は現行の VAT が抱える課題を解決するか」で掲載している。

Ben Terra“Sales Taxation The Case of Value Added Tax in the European Community”Kluwer AcademicPublications 1988

なお、本書のポイントは、Ben Terra“System of Levying A Sales Tax”Vat Monitor January 1990 pp.3-16に再掲されている。

Robert F. van Brederode and Sebastian Preiffer“Combating Carousel Fraud : The General Reverse ChargeVAT”International VAT Monitor May/ June 2015 pp.146-157

Robert F. van Brederode and Sebastian Preiffer“VAT’s Superiority : Is The Emperor Dressed like Adams ?”International VAT Monitor September/October 2015 pp.226-235

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(1)付加価値税の出現の経緯

消費税がモデルとしたのは、欧州で発展した付加価値税であることは疑問の余地がない。欧州の付加価値税は、理論的な考察や分析の結果として生まれたものというよりは、むしろ、欧

州における一般間接税の導入に伴って発生した各種の問題の解決のための現実的で実務的な工夫と進化の歴史のなかから偶然に生まれたもの、と解するのが妥当であろう。

一般間接税では、個々の取引を直接の課税対象とすることから、効率性(efficiency)と中立性(neutrality)が、基本的な課税原則となる9)。試行錯誤の結果として、間接税の仕組みの理想として生まれたのが前段階税額控除の仕組みを持った付加価値税である。また、一般間接税の課税のメカニズムとして、他の仕組み(例えば、小売売上税)と比較しても、その優秀性は明らかである10)。

歴史的経緯を概観すると、次の通りである。1916年ころ、ドイツにおいて、第一次世界大戦の戦費調達の手段として、いわゆる取引高税が導

入され、他の欧州各国もこれに追随している。この取引高税は、すべての事業者の売上げに対して一律の税率で課税するものであるが、カスケー

ド(重複課税)の弊害があることは明白であった。したがって、戦争が終結した後に、各国で、その改善策が模索されている。アメリカでは、1930年代に州税として小売売上税が導入されているが、これは、小売業者のみを課税対象とする単段階課税方式を採用することにより、取引高税におけるカスケードの問題の改善を図ったものと見ることができる。

1950年代にフランスにおいて、大きな進歩がみられた。当時フランスで適用されていた多数の間接税のなかで一般税としての性格を有していた税のひとつとして、物品の製造段階で課税するところの生産税が存在した。そこでは、重複課税を回避するための手法として生産者間免税の仕組み11)

が採用されていたが、欠点の多いものであったことから、これを見直し、多段階課税としつつ、重複課税を回避するために、インボイスを用いた前段階税額控除の仕組みを導入したのである。これが成功し、理想の間接税、究極の一般間接税の仕組みであると考えられるようになった。一般間接税が抱えていた様々な課題を適切に解決できることが判明したからである。さらに、国際的な貿易紛争(国境での間接税の取扱いを巡る争い)の解決にも有効であった12)。

フランスにおいて、生産税における前段階税額控除の仕組みが成功したことから、1954年には、物品の製造から卸段階までを含めたところの一般間接税として付加価値税法を導入しており、これが一般に、付加価値税の始まりといわれている。しばらくの間は、一般間接税が、付加価値税のほか、地方小売売上税、およびサービス税の3種類の一般間接税が併存する期間が続き、最終的には、1967年に単一の付加価値税に集約されている。

なお、これ以降は、付加価値税は、欧州経済共同体の共通の一般間接税として発展するようになっている。共同体の域内での国境調整が成功し、単一市場の形成が実現している。1977年には有名な

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9)ここで、効率性とは納税義務者と国庫の全体としての徴税のコストが最小となることである。また、中立性とは、個々の事業者および経済全体への税が存在することによる影響(歪み)が最小となることである。

10)その比較は後述する。11)生産段階から流通段階に進む時点で課税する単段階課税のものであった。12)このことから、欧州での単一市場の実現において、付加価値税の導入が共同体への加盟の条件となっている。

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第6次 VAT 指令が出され、付加価値税の基本的な仕組みが明確化されている。これを受けて、欧州のみならず、ほとんど全ての世界の国々で付加価値税が導入されている。わが国も、この流れのなかで、1989年(平成元年)に、従来の物品税ほか多数の間接税を廃止し、消費税を導入している。

現在、付加価値税は、その執行の容易さ、歳入力の大きさなどから、欧州にとどまらず、世界各国で実施されている。欧州以外では、物品サービス税(GST : Goods and Services Tax)と呼ばれることが多い。

(2)間接税の一種としての付加価値税

(2)-1 直接税と比較した間接税の特徴

ここで、間接税の特徴について、直接税との比較から考えてみたい。現行の国税の体系を大まかに分類すると、「所得に対する直接税」と「消費に対する間接税」とに区分することができる13)。ここで、何故、所得と直接税が結びつき、消費と間接税が結びつくかを検討する。「所得」は、その算出に複雑なプロセスが必要であり、一定期間の会計上の処理を伴うことから、

効率性を重視する間接税にはなじまない。したがって、原則として、所得の帰属者を納税義務者とし、みずからの税額を申告し納付する直接税の形態が望ましいと考えられる。わが国では、国税でみると、所得に対する税として、個人を対象とした所得税と、法人を対象とした法人税が存在する。「消費」は、一般的には、消費者による物品またはサービスの使用または享受を意味するが、これ

をそのままで把握することは、ほとんど不可能である。そこで、消費に関連した消費者による物品またはサービスの購入行為を消費の代理物として課税対象とするのが合理的となる。さらに、課税の効率性の観点から、消費者である顧客ではなく、物品やサービスの供給者を納税義務者とするのが望ましい。商品の販売を想定すると、多数の顧客ではなく少数の供給者を納税義務者とするということである。供給者は価格に税を上乗せして販売し、この上乗せした税を国庫に納付するという、いわゆる間接税の方式が採用されることになる。国税でみると、一般税としては消費税が存在し、個別税では酒税、たばこ税、揮発油税などが存在する。

したがって、消費に対する間接税の納税義務者は、多くの場合、税の負担者ではなく、事務負担を担当する者である。すなわち、物品やサービスにかかる取引の顧客ではなく、当該取引の供給者が顧客から対価に併せて税を受け取り、国庫に納税するものである14)。

税務当局との関係では、間接税の納税義務者は国庫のための徴収代理人(collection agent)に近い立場にある15)。そして、税負担の面では、プラスもマイナスもないのが基本となる。

直接税と間接税の比較を図解で示すと、図1の通りである。

一般間接税としての消費税について- 41 -

13)他に、資産に対する税などもあるが、ここでは議論を単純化するために省略する。14)直接税との対比では、所得の帰属する個人または法人に対する税ではなく、支払いに際して一定部分の控除

を義務付けられている源泉徴収義務者に近いものである。間接税の場合には、特に、付加価値税の場合には、全体が大きな徴税のための装置のようなものであり、個々

の事業者は、大きな装置のなかでのパーツのようなものとしてイメージすることが可能である。15)所得税や法人税の場合には、納税者と税務当局の関係は、所得の認定を巡る対立関係にあるのに対して、間

接税の場合には、両者は徴税システムの円滑な運営のための協力関係にあるといえる。

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図1 直接税と間接税のイメージの比較直接税(所得税や法人税が代表例) 間接税(消費税や酒税が代表例)

税 税

物品・サービス 対価+税

国庫 国庫

個人・法人

供給者

顧客

(2)-2 個別間接税と一般間接税

間接税は、個別間接税と一般間接税に区分することができる。個別間接税は、取引のうち、課税対象となるものを法律で明確に規定するものであり、酒、タバコおよび揮発油の販売がその例である。これに対して、消費税法が定める消費税は一般間接税である。即ち、非課税とされる物品やサービスの供給が法律で規定され、それ以外の取引は全て課税となる。新たな物品やサービスは、非課税に該当しない限り、自動的に課税対象となる。

個別間接税の場合には、特定された物品を課税対象とするものであることから、極めて効率的で効果的な課税を実現できる。たばこ税がその典型である。すなわち、従量税方式を採用することで、事業者数の少ない生産者の段階で漏れなく課税することが可能である16)。しかしながら、こうした課税方式が有効なのは、酒類、たばこ、石油など特定種類の物品に限定される。

こうしたなかで、わが国の旧物品税は、個別間接税と一般間接税の双方の性質を有する中間的な税であったといえる。課税対象を課税物品表として法定していることから個別税としての性格を持つが、他方で極めて広範囲の物品を対象としていたことから一般税としての性格も有していた17)。そして、多種類の物品を課税対象としていたことから従量税方式を採用することは困難であり、従価税方式を採用せざるを得ない。従価税方式のもとで、最終の小売段階で付加価値の大きく加わる

会計論叢第14号 - 42 -

16)従量税方式を取ると、インフレの時代には、税率を上げない限り税収が実質的に減少する。17)物品税の課税対象となった物品と税率の一部を示すと、下記の通りである(1988年:物品税の廃止時)。

小売段階課税 15% 貴宝石類など10% 絨毯など

製造段階課税 30% ゴルフ用品など20% パチンコ機、大型電気製品、家具など23% 自動車15% 電気製品など10% 小型電気製品など5% 炭酸飲料、コーヒーなど

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貴宝石などのぜいたく品には、小売売上税の仕組みが採用されていた。なお、重複課税を回避する観点から、同業者による貴宝石の購入を課税対象から除外するために販売業者証明書の制度が適用されている。電気製品や自動車など大半の製品は、効率的な課税の観点から、生産から流通に移る段階で課税することとされていた。この場合には、関連会社間の販売価格の操作を防止することが重要な課題となることから、その課税標準は公開市場価格を基本とし、価格操作防止のための規制が行われていた。

旧物品税では、新製品が出現した場合に、これを課税対象とするには、課税物品に加えるための税制改正が必要であるなど、多くの立法上の難点が指摘されており、税収面でも限界があったといえる。サービスも課税の対象外であった。

したがって、間接税により多額の税収を挙げるためには、原則としてすべての物品とサービスを課税対象とする一般間接税の方式を採用することが合理的である。世界的にみても、酒類、タバコおよび石油といった特別の物品(いわゆる「財政物資」)に個別税を課すことを除き、原則として、一般間接税によりすべての物品およびサービスの供給を課税対象としている。

(2)-3 一般間接税の各種の仕組みの比較

一般間接税では、課税の仕組みとして、単段階課税のものと多段階課税のものが考えられる。多段階課税の税として、1916年ころにドイツで導入された取引高税があり、わが国でも戦後の一時期に取引高税が実施されたことがある。この税の場合、課税の仕組みは単純であるが、税の重複(カスケード)が発生する。

一般税であって単段階課税という税も存在し、かつては、カナダでは製造段階、オーストラリアでは卸売段階で執行されていたが、現在は多段階課税の付加価値税(物品サービス税(GST)と称される。)に移行している。なお、米国およびカナダでは、地方税として小売段階での課税が広く行われ、現在も実施されている。

間接税の分類を一覧表として示すと、次のとおりである。

個別税 酒税、タバコ税、揮発油税:製造段階課税旧物品税

小売段階課税:第一種物品(貴金属製品など)製造段階課税:第二種物品(自動車、電気製品など)

一般税 単段階方式製造段階課税卸売段階課税小売段階課税

多段階方式累積課税方式仕入控除方式税額控除方式

一般間接税としての消費税について- 43 -

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これらの一般間接税の各種の仕組みについて、単純な数値モデルによる設例を用いて、そのメカニズムを比較すると、下記の通りである。

一般間接税の比較のための設例取引の例として、商品 M を、A 社が製造し、B 社が卸売りをし、C 社が消費者に小売りをする事

例を取り上げる。それぞれの段階での付加価値が100で、税率が10%と仮定する18)。設例による取引の流れイメージで示すと、図2の通りである。

図2 取引の流れの全体像

卸売り 小売り

付加価値 100 100 100 販売価格(本体価格) 100 200 300

A 社 B 社 C 社 消費者製造

単段階課税(税率 10%) 製造段階課税 110 210 310 (10 の納税) 卸売段階課税 100 220 320 (20 の納税) 小売段階課税 100 200 330 (30 の納税)

多段階課税(税率 10%) 累積課税 110 231 364 (10 の納税) (21 の納税) (33の納税) 前段階税額控除 110 220 330 (10 の納税) (10 の納税) (10の納税)

税が課されない場合には、A 社から B 社には100で販売され、B 社から C 社には200で販売され、最後に、C 社から消費者には300で販売される。

単段階課税のうち、製造段階課税であれば、A 社が納税義務者として10(100×10%)を納税し、卸売段階課税であれば、B 社が20(200×10%)を納税し、小売段階課税であれば、C 社が30(300×

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18)ここで、付加価値とは、支払賃金、報酬、利子、配当、内部留保などの合計額のことである。説明の都合で、税率を一律に10%と仮定したが、実際上は、累積型の多段階課税では税率は低くするのが一般的であり、また、小売段階課税よりも生産段階課税のほうが税率を高くするのが一般的である。また、設例では、3段階としたが、単純化のためであり、何段階でも構わない。

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10%)を納税する。消費者の購入価格は、税込みで、それぞれ310、320および330となる。多段階課税のうち、累積課税の場合には、まず、A 社は10(100×10%)を納税し、B 社は21((110

+100)×10%)を納税し、C 社は33((231+100)×10%)を納税し、消費者の購入価格は税込みで364となる。

多段階課税うち、前段階税額控除方式を用いた税は、一般に「付加価値税タイプの税」と称される。A 社は10(100×10%)を納税し、B 社は10(200×10%-10)、C 社は10(300×10%-20)を納税する。ここでのマイナスの数字は前段階税額控除の大きさを示すものである。消費者の購入価格は税込みで330となる。

上記の設例から見て取れることは、次の通りである。

理論的には、国庫は、小売段階での単段階課税である小売売上税と多段階課税である付加価値税とを比較すると、同一の税収を得る。

単段階課税のうち、製造段階課税と卸売段階課税では、価格操作による租税回避が可能である。例えば、製造段階での付加価値を50とし、卸売段階での付加価値を150とすることで、製造段階課税による税額は5に減少する。

なお、特定の商品を課税対象とした個別税の場合には、従量税方式を採用することで、この問題は解決する19)。

小売段階だけで課税する小売売上税は、顧客は原則として最終消費者であることから価格操作の可能性は小さい。ただし、消費者に対する販売のみを課税しようとすると、消費者が税負担逃れのために事業者に「成りすます」ことを如何に防止するか、という難問が発生する。

供給者において顧客を選別する義務を免除すると、すべての取引を課税することとなり、上記の難問は解決される。しかしながら、この場合には、消費者だけでなく事業者も小売売上税を負担することから、結果的に、意図しない重複課税が発生する。

多段階課税での累積課税方式は、税負担を回避目的するための企業の垂直的統合を誘発し、経済に歪みをもたらすことは明白である。例えば、上記の例で、A 社と B 社と C 社が合併(垂直的統合)することで、税負担は30に減少する。

以上のような一般間接税に共通する課題は、前段階税額控除の仕組みにより解決されることとなった。この仕組みは、フランスにおいて、1950年ころにおける各種の間接税の仕組みでの試行錯誤の結果として実現されたものである。

一般間接税としての消費税について- 45 -

19)例えば、たばこ税において1本当り12円と定めるなど。

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(3)付加価値税の仕組み

(3)-1 仕組みの図解によるイメージ

上記で述べた付加価値税における課税および税額控除の回転を詳しく図解すると、図3の通りである。なお、本稿で「対価」は原則として税抜き価格の意味で用いる。

図3 付加価値税の仕組みの全体像

税額控除 10 税額控除 20 納税 10 商商品M 納税 20 商商品M 納税 30 商商品M

対価100 対価200 対価 300 税 10 税 20 税 30

消費者 事業者A 事業者 B 事業者 C

国庫 国庫 国庫

この図解から事業者 B を取り出して検討する。まず、事業者 A から顧客として商品を購入した取引と、事業者 C に供給者として商品を販売した取引を取り出すと、図4の通りである。

図4 事業者Bを中心とする取引を取り出した図Aと Bの取引 B と Cの取引

納税 10 税額控除 10 納税 20 税額控除 20 商品 商品

対価100 対価 200 税 10 税 20

事業者 C (顧客)

事業者 A(供給者)

事業者B (顧客)

事業者 B (供給者)

国庫 国庫

事業者 B は、事業者 A との取引で10の税を負担するが、この負担は税額控除により解消する。事業者 B は、事業者 C との取引で20の税を受け取るが、この税は国庫に納付することで消失する。ふたつの取引を全体としてみると、事業者 B は、納税20と税額控除10の差額の10を国庫に納付し

たように見える。

(3)-2 付加価値税が理想の間接税といわれた理由

他の一般間接税の仕組みと比較した場合の付加価値税の優越性(特に、小売売上税と比較した場合の優越性)について検討する。

なお、多くの一般間接税の仕組みのなかで現在まで残っている主要なものは小売売上税と付加価

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値税であり、両者を比較しても付加価値税のほうが優れているとされている。付加価値税が優れているとされる理由をあげると、以下の通りである。

製造業者や小売業者といった納税者の業種分類が不要である。価格操作を懸念する必要がない(小売売上税も同じ)。供給者において顧客の属性(消費者か事業者か)を判断する必要がない。国境調整を効果的に行える。分散納税の効果がある20)。相互牽制効果が働く21)。

付加価値税は、全体としてみると、極めて精緻なものであり、かつ、一般間接税の理想と考えられる多くの機能を実現している。

他方で、個々の事業者からすると、その求められる作業は極めて単純である。物品またはサービスを供給した場合にはインボイスを発行して付加価値税を受け取り、国庫に納付する。物品またはサービスを購入し、インボイスを受け取った場合には、インボイス記載の税を支払うとともに、国庫に負担した税の税額控除を請求する。

個々の事業者からすると、これだけのことであるが、結果として、消費者の消費に対する個々の物品またはサービスに対する法定税率に対応する正確な税額が国庫に納められることになる。事業者の税負担はゼロである。こうした現象を指して、「ミラクル(奇跡的なこと)」と称されたのである。誰か(納税者または国庫)が正確な納税が行われるように操作しているわけはない。個々の事業者が装置の部品(パーツ)のように行動するだけで、全体として正確で完全な課税が実現する。直接税の場合には、正しい所得の算出を行うために、納税者と税務当局の双方において、多大のエネルギーの投入が必要であるのに対して、付加価値税の場合には、課税事業者たる納税者の比較的単純な作業、すなわち、インボイスに基づいた納税と税額控除の処理で足りるのである。

(4)付加価値税についてのいくつかの議論

ここで、本稿の目的に即して付加価値税を巡るいくつかの基本的な議論をしておきたい。なお、本稿の目的から、税額控除の問題を中心とする。

(4)-1 付加価値税の基本原則は効率性と中立性

付加価値税は、各種の一般間接税のメカニズムのなかで最も効率性と中立性の点で優れているとして、世界各国で実施されている。全体としては極めて精緻なメカニズムが働くのであるが、個々の事業者からは事務処理が比較的容易で、かつ、経済全体や事業活動に歪みを与える可能性が小さいという長所がある。

一般間接税としての消費税について- 47 -

20)ただし、これは、幻想にすぎないとの見方もある。通常は分散納税の効果が働くが、常にこうした効果が働くわけではない。

21)付加価値税では、インボイス方式が採用されるのが一般的である。課税取引が行われた場合には、インボイスを発行することで、供給者の納税と顧客の税額控除の強固な連鎖(相互牽制)が実現される。供給者において、顧客の属性の判断は不必要であり、課税取引にはインボイスを発行して顧客から税を受け取り、これを納付する。顧客において、自己が課税事業者であることを条件として、負担した税の税額控除の権利が発生する。

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(4)-2 付加価値税の名称による誤解

付加価値税という名称は、誤解を招く可能性がある。事業者が自己の付加価値を算出して、それを課税標準としているとのイメージを生み出す。前段階税額控除の仕組みは、結果からすると、個々の事業者の付加価値に対して課税したように見えるというだけであり、事業者の付加価値を算出するという要素は存在しない。したがって、「物品サービス税(GST)」という名称のほうが、誤った先入観を排除するという意味で、優れている。

(4)-3 付加価値税の納税義務者

付加価値税(VAT)の納税義務者とは、税務当局に登録して VAT 番号を取得しインボイス発行権限を付与された事業者のことである。インボイスの発行権限のある者のみが物品またはサービスを供給した際にインボイスを発行できるとともに、インボイスを受け取った場合には受け取ったインボイスに記載された VAT を税額控除することが認められる。VAT には、取引の都度、納税と税額控除のサイクルが必要となるという欠点あるいは弱点があり、インボイス制度がこれをカバーしているといえる22)。

(4)-4 加算型、減算型、税額控除型の対比

一般に、付加価値税と称される税の計算方式の観点から分類すると、加算型、減算型、および税額控除型がある。加算型は、個々の企業の支払賃金、支払利子、支払配当、内部留保などの付加価値の合計額を課税対象とする付加価値税である。わが国のシャウプ勧告に現れた付加価値税もこれに相当する。減算型は、付加価値を収入から支出を控除するものであり、加算型に類似する。これらは粗利としての収入あるいは所得に対する税に類するものとなり、個々の取引を対象とし、価格転嫁により消費者に税負担を求めるという間接税とは異なる性格を有する。これに対して、税額控除型は、売上げに係る税から購入に係る税を控除するというものであり、個々の取引に対応した税の価格転嫁が可能であり、間接税の概念に合致する。

(4)-5 生産型、所得型、消費型の対比

前段階税額控除の執行上のひとつの問題は、資本財を購入した場合の税額控除の取扱いである。購入したのが棚卸資産や経費の場合には税額控除を認めることに特段の議論はないものの、購入したのが資本財の場合には、資本財の生産への効果が長期間に及ぶことから、税額控除を認めるべきか、認めるとして何時認めるかについて議論がある。生産型、所得型および消費型の三つがあるといわれている。

生産型とは、資本財の税額控除を認めないものである。この場合には、結果的に、資本財について二重課税が発生する。したがって、中立性の原則に反する結果となる。所得型とは、資本財について、期間の経過とともに税額控除を認めるというものである。資本財の購入において、税額控除

会計論叢第14号 - 48 -

22)わが国の場合には、こうした登録とインボイス制度の代わるものとして、基準期間と帳簿方式が用いられている。基準期間の売上高が基準値を超えた事業者は当該基準期間に対応する課税期間において納税義務者となり、納税義務者になると、物品またはサービスの売上げについて納税義務を負うとともに、物品またはサービスの購入について税額控除が認められる。

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の権利の発生を分散化する効果がある23)。これは、設備投資を抑制する可能性があり、付加価値税の趣旨から疑問がある。消費型は、購入と同時に、全額の税額控除を認めるものであり、前段階税額控除の趣旨に合致したものといえる。

(4)-6 非課税の問題

付加価値税における非課税とは、何らかの理由で物品またはサービスの譲渡には課税しない一方で、それに対応する物品またはサービスの購入において負担した税の税額控除を認めないというものである。これは、付加価値税の固有の問題のひとつであり、事業者にとって大きな負担となるものである。本稿では、この問題は取り上げない。

(4)-7 免税、軽減税率の問題

非課税と似て非なるものに免税がある。この言葉は、意味が不明瞭であり、むしろ、ゼロ税率としたほうが、理解が容易である。軽減税率の制度のなかでの税率をゼロとするものであり、多くの国でゼロ税率と称される。

ゼロ税率とは、物品またはサービスの譲渡に対して税率ゼロを適用し、対応する物品またはサービスの購入に対しては税額控除を認めるものである。

伝統的な輸出取引において、一般的に認められている。なお、ゼロ税率(免税)や軽減税率は、特定の物品またはサービスの供給については、標準税率

とは異なる税率を適用するものであるが、付加価値税のメカニズムに特に大きな影響を与えるものではない24)。

(4)-8 免税事業者の問題

零細な事業者の取扱いは、税務行政における大きな課題である。付加価値税における零細事業者の対策としては、事業者免税点を設けて、それ以下の零細な事業

者には、申告・納付の義務を免除することが考えられる。売上げに課税しないとともに、購入にかかる税額控除を認めないものである25)。

零細事業者に対して申告・納付の義務を免除することは、簡素化や効率性の点で優れるが、事業者間の競争中立性の点で問題がある。したがって、免税点を適正な水準に設定することが重要となる。

(4)-9 クロスボーダー取引の取扱い

間接税は取引に対する課税であり、常に供給者と顧客の二者が存在する。この場合、適正な課税の実現のための条件は、同一の税務当局が供給者と顧客の双方を完全に監視下に置いていることである。

一般間接税としての消費税について- 49 -

23)税務当局にとっては、税収への影響を緩和する効果が期待できる。24)ただし、軽減税率の適用範囲を巡る争いは不可避であり、さらには、小額の還付を求める申告書が増大する

という問題が発生する。したがって、効率性や中立性の観点からは、好ましくない。25)免税事業者にとっては、付加価値税は、顧客が事業者の場合には不利に、顧客が消費者の場合には有利に作

用する。

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ひとつの取引における供給者と顧客が国境を越えて行う取引、すなわち、クロスボーダー取引は、こうした前提を欠くことになる。なお、伝統的な輸出入取引であれば、クロスボーダー取引の場合には、税関による国境での課税調整が有効であることから、問題は発生しない26)。

ところが、電子的供給サービスにみられるように、税関の監視が及ばないクロスボーダー取引の場合には、困難な問題が発生する。現時点では、解決策として、クロスボーダー取引を事業者間

(B2B)取引と対消費者(B2C)取引に区分し、事業者間(B2B)取引については、リバースチャージを適用することで対応している。この場合には、納税と税額控除の回転が停止されることから、税額控除の不正利用は防止される。対消費者(B2C)取引については、供給者に対する効果的な課税の執行面において課題が残されている、ただし、税額控除の面での問題は発生しない。

(5)付加価値税における税額控除の意義

(5)-1 概説

上述の通り、付加価値税の仕組みの基本は、前段階税額控除の仕組み(メカニズム)にあり、これは要するに、すべての取引において、供給者には納税の義務を負わせ、顧客には税額控除の権利を認めるというものである。このことにより、付加価値税は、間接税の理想を実現したのである。生産から流通にいたる如何なる段階においても、取引価格に対する税の割合が法定税率に合致して一定となっており、経済に歪みを与えない。また、事業者も単純な処理を行うだけである。

しかしながら、他方で、このシステムが重大なリスクを抱えていることも明らかである。事業者間取引で、ある意味で無駄ともいえる納税と税額控除が繰り返されることから、そこに大きな税収喪失のリスクが発生する。このリスクは、国内取引であれば、インボイス制度の実施により抑止が期待できる。インボイス制度は相互牽制の仕組みを有しているからである。これに対して、特に、ひとつの税務当局が供給者と顧客の双方を完全に把握できていない状況では、この納税と税額控除の回転は極めて危険なものとなる27)。

こうした危険に際しては、事業者間取引における納税と税額控除の回転を止めることが解決策となる。

会計論叢第14号 - 50 -

26)サービス取引については従来から問題があったのであるが、1990年以前には、物品の取引と比較して大きな問題とは認識されていなかったものである。

27)コストとして、B2B 取引での税の無駄な回転が発生していることから、不正の温床となる可能性がある。端的にいえば、課税取引が行われた場合に、事業者たる顧客が税額控除の権利を行使する一方で、供給者が納税の義務を果たさず、逃亡するというものである。特に、EU では、1993年の租税国境の撤廃の副作用として、いわゆる、回転木馬逋脱が多発し、EU 各国の VAT の税収に多大の影響を与えている。なお、こうした納税と税額控除のミスマッチの状況は、インボイス制度を有する国では重大な犯罪であるが、インボイス制度を欠くわが国では、合法である。

要するに、付加価値税はミラクル(奇跡)あるいは理想としての面を有する一方で、イリュージョン(幻想)としての危険な面も有している。

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(5)―2 税額控除に関する二つのイメージ

(5)-2-1 所得に対する直接税と付加価値税との対比

所得を課税対象とする直接税は、個々の個人または法人の一定期間における所得を算出するための複雑な仕組みを有している。その所得計算は、所得税あるいは法人税の全体の縮図である。すなわち、個々の納税者の所得計算の仕組みは、そのまま、制度全体の仕組みを反映したものとなっている。

これに対して、付加価値税は、全体としては極めて複雑で精緻な機能を有しており、事業者全員を巻き込んだ大きな装置のようなものである。他方、個々の事業者は、大きな装置の一部として、比較的単純な役割を果たすことが求められているに過ぎない。物品あるいはサービスの取引を行った者は、供給者または顧客としての役割を果たす際に、インボイスに従って付加価値税のやり取りし、その差額を国庫との間で清算するだけである。したがって、そこからは、付加価値税の全体像は見えてこない。個々の事業者の事務処理は付加価値税の縮図となっていない。

すなわち、付加価値税の納税者は、消費の計算をしているのではなく、あるいは、付加価値の算出を行っているのでもない。要するに、課税事業者は、消費者から国庫に税を徴収するための大きなメカニズム(仕組み)の一部としての役割を果たしている。事業者には、税負担は、求められていない。税負担にプラスもマイナスも発生しないことが基本である。

他方で、付加価値税の場合には、ある意味で、無駄な税の回転が行われていることから、そこに国庫の損失が発生するリスクがある。これを防止するための厳格な仕組みが要請されるが、それが、インボイス制度である。インボイス制度は複数税率にも十分に対応する。

(5)-2-2 付加価値税の二つのイメージ

付加価値税が直接税に類似したものとして理解されることがある。これを、本稿では、「収支差額課税型思考」を称することとする。そのイメージは図5の通りである。これに対して、取引税であることを中心として理解する考え方があり、これを本稿では「取引課税型思考」と称することとする。そのイメージは図6の通りである。

以下、両者を比較する。まず、収支差額課税の思考方式をみる。なお、本稿では、税率は原則として10%であると仮定す

る。

図5 収支差額課税型思考

納税2 仕入れ 売上げ

対価+税 対価+税 88(80+8) 110(100+10)

事業者

国庫

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これは、前述の事例を掲げたものである。事業者は、売上げの税10から仕入れの税8を控除し、差額の2を国庫に納税する。特に、単一税率の場合には、この考え方を取っても特別の問題は生じない。

ここで想定されている状況は、事業者が他の者(供給者)から本体価格80の物品またはサービスを購入し、その際に税8を付加して支払う、そして、他の者(顧客)に対して本体価格100の売上を行い、本体価格と税10をあわせて受けとる、というものである。

次に取引課税型の思考方式をみるここで想定されている状況は、ある取引における供給者が顧客に本体価格100の物品またはサー

ビスを供給するのであるが、供給者は本体価格とあわせて10の税をうけとって国庫に納付し、顧客は、事業者の場合には、本体価格100ととも10の税を支払う、というものである。なお、この税は国庫から税額控除が認められる。

図6 取引課税型思考

納税 10 税額控除 10 物品・サービス

対価 100 税 10

国庫

供給者 顧客

この思考方式の場合には、税率が単一であるか、それとも複数であるかは、問題とならない。税率の如何を問わず、供給者が顧客に対して発行するインボイスを通じて、供給者の納税額と顧客の税額控除額は等しくなる。

個々の取引をみていくと、事業者間取引では、無意味な税の回転が行われているに過ぎない。

二つの思考方式の相違点は、税額控除の役割についての考え方の相違である。前者によると、売上げに対応する仕入れの税を控除するものとして税額控除は当然の権利のように見える。したがって、過大な税額控除も国庫の損失につながるリスク問題とは意識されない可能性がある。これに対して、後者であれば、税額控除は、付加価値税の重複課税(カスケード)防止のための特殊な工夫に過ぎないものである。むしろ、国庫に発生する税収喪失のリスクを如何に防止するかが重要な課題として認識されることになる。

(5)-3 各種の一般間接税のなかでの付加価値税における税額控除の意義

付加価値税における前段階税額控除のメカニズムは、間接税の効率性と中立性を追求して、各種の一般間接税のメカニズムの中から最も優れたものとして生まれたものである。図7から図12の取引図を用いて、このことを確認する。

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図7は取引高税(カスケード型売上税)のメカニズムを示したものである。

図7 取引高税(単純売上税)のメカニズム

納税 10 物品・サービス

対価 100 税 10

国庫

供給者 顧客

すべての事業者(納税義務者に該当する者に限る。以下、同じ)がすべての取引について納税する。

この税では、顧客が事業者の場合も課税されることから、重複課税(カスケード)が発生し、税の中立性が阻害される。取引数を削減しようとする圧力が発生する。

図8は生産税(製造段階売上税)のメカニズムを示したものである

図8 生産税のメカニズム

納税 10 物品・サービス

対価 100 税 10

国庫

生産者 流通業者

生産者において、顧客が生産者以外の者の場合に納税する単段階税である。この場合、「生産」の範囲を定義することが必要となるほか、生産者において顧客が生産者か否か

を判別する必要がある。流通業者が生産者を装う「成りすまし」の防止が課題となる。

図9は事業者間免税売上税のメカニズムを示したものである

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図9 事業者間免税売上税のメカニズム

納税 10 物品・サービス

対価 100 税 10

国庫

供給者 消費者

この場合には、供給者において、供給者において顧客が消費者か事業者か否かを判別する必要がある。顧客が事業者であれば、納税義務は発生しない。「成りすまし」の防止が課題となる。

図10は小売売上税(小売段階売上税)のメカニズムを示したものである

図10 小売売上税のメカニズム

納税 10 物品・サービス

対価 100 税 10

国庫

小売業者 顧客

小売業者の売上げに対する単段階課税である。納税義務者としての小売業者を選別する必要がある。なお、小売業者は、顧客が消費者か事業者かを判別する必要がない。顧客には事業者も含まれるので、結果として重複課税が発生する。

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図11は付加価値税(VAT)のメカニズムを示したものである

図11 付加価値税のメカニズム

納税 10 税額控除 10 物品・サービス

対価 100 税 10

国庫

供給者 顧客

すべての供給者(納税義務者に該当する者に限る。以下同じ。)が、その供給について納税義務を負う。

供給者は、顧客が事業者か消費者かを判別する必要がない。事業者間の取引で納税と税額控除のサイクルが発生する。課税事業者(納税義務者に該当する事業者)の資格を有する顧客に限り税額控除の権利が認めら

れる。顧客が税額控除の権利を行使する一方で、供給者が納税義務を履行しないという税収喪失(捕脱)

のリスクが発生する。

図12はリバースチャージ(付加価値税の変形)のメカニズムを示したものである

図12 リバースチャージ(付加価値税の変形)のメカニズム

納税 10 税額控除 10 物品・サービス

対価 100

国庫

供給者 顧客

税額控除を利用した逋脱防止のために事業者間取引における納税・税額控除のサイクルを実質的に停止するものである28)。

結果として、納税のない税額控除の発生を防止する。リバースチャージでは、供給者において、顧客が課税事業者か否かを判別する必要がある29)。通

常は、顧客の VAT 登録の有無で判別する。

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28)クロスボーダー取引では一般化している。欧州では、捕脱防止の目的で国内取引にもリバースチャージを拡大することが認められている。

29)この点で、付加価値税のメリットのひとつが失われる。

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この仕組みは、一歩進めると、事業者間免税売上税または小売売上税となる。リバースチャージが国内取引にも適用される状況をイメージすると、図13の通りである。付加価

値税の仕組みがイリュージョンとしての面を持つことが明らかにとなる。

図13 リバースチャージが全面的に適用されている付加価値税の全体図

納税 10 税額控除 10 税額控除 20

商品M 商品M納税 20 納税30 商品M

対価100 対価200 対価 300 税 30

消費者 事業者A 事業者 B 事業者 C

国庫 国庫 国庫

(6)小括

付加価値税は、一般間接税の一種であるが、単純な仕組みの取引高税に始まり、様々な試行錯誤を重ねた結果として、前段階税税額控除の仕組みを中核として生まれたものである。わが国の消費税も、こうした付加価値税の一種として導入されたことに疑問はない。したがって、付加価値税が有する長所だけでなく短所も有している。

付加価値税は、対消費者(B2C)取引のみならず、事業者間(B2B)取引をも課税対象としたうえで、そこで必然的に発生する重複課税を前段階税額控除の仕組みにより解消したものである。すなわち、ある意味で必要のない納税と税額控除が繰り返されるという特徴がある。これは、効率的で中立的なメカニズムを生み出すのであるが、他方で、極めて大きな税収喪失のリスクを抱えている。したがって、不正を防止するための強靭な仕組みが必要である。通常は、この役割をインボイス方式が担っている30)。

次章では、わが国の消費税について、その導入時の仕組みから現在までの改正の経緯をたどり、税額控除の仕組みがどのように扱われているか、そして、税額控除を通じた国庫の損失が発生していないかという点に焦点を当て見ていくこととする。

3.消費税法における税額控除の取扱い

本章では、一般間接税としての消費税の問題を考える前提として、消費税法の導入およびその後の30年間にわたる税制改正の概要を明らかにしたい。なお、過去30年間の改正については、そのすべてを取り上げるのではなく、税額控除に関連のある改正および税額控除の仕組みの弱点を突かれ

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30)なお、わが国では、インボイス方式が採用されず、帳簿方式が採用され、さらに、その関連で基準期間の仕組みが導入されている。消費税は税負担を転嫁する間接税であるとの認識はあるものの、実務面では、所得に対する直接税のアナロジーとしての、収支差額に対する課税といった認識が広がっているように思われる。

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た租税回避への対抗策を中心とした改正を取り上げることとしたい31)。

(1)消費税法の導入とその仕組みの概要

まず、消費税法(昭和63年12月30日に公布され、平成元年4月1日から適用)の導入時の仕組みを、見ておくこととしたい。なお、そのすべてにわたり、細部まで明らかにするのではなく、本稿の目的に沿って、消費税の特徴ともいえるシステムの面での特徴的な事項を中心に見ていくこととする32)。

(1)-1 消費税法の基本的な仕組み33)

立法担当者による消費税の説明は、次の通りである。

消費税は、非課税とされるものを除き、ほとんどすべての国内取引や外国貨物を課税対象とする。消費税は、事業者に負担を求めるものではなく、税額分は事業者の物品やサービスの価格に上乗

せされ、転嫁され、最終的には、消費者に負担を求める税である。売上げに係る税額から仕入れに係る税額を控除し、税が累積しない仕組みが採用している。免税事業者および基準期間の制度が導入されている。基準期間とは、個人ではその年の前々年、

法人ではその事業年度の前々事業年度のことであり、基準期間の課税売上高が3千万円以下の事業者は納税義務が免除される。

簡易課税の制度が導入されている。基準期間の課税売上高が5億円以下の事業者については、課税売上高だけで納付税額を計算することができる。

限界控除の制度が導入されている。課税期間の課税売上高が6千万円未満の事業者について、納付税額を軽減するものとされている。

帳簿方式が導入されている34))。仕入れに係る消費税額は、帳簿上の記録、納品書、請求書等をもとに行うことができるという仕組みである。

(1)-2 消費税法の具体的な仕組み35)

以下、詳細な説明は省き、「改正税法のすべて」において「ポイント」として記載された記述を引用する形で紹介する。

なお、本書は250頁において、消費税が製造、卸、小売等のすべての取引に課税する仕組みであり、その結果として税の累積が生じないように前段階税額(仕入れに係る消費税額)を控除する方式を採用しているとしつつ、下記のような記述があり、消費税の仕組みがやや特異なものとなったことの理由を説明している。

一般間接税としての消費税について- 57 -

31)なお、資料は原則として、大蔵財務協会から毎年発行されている『改正税法のすべて』によっている。32)主として昭和63年度版『改正税法のすべて』を参考とした。本文の記載した頁はこの書籍のものである。な

お、本稿で「仕組み」、「システム」および「メカニズム」の言葉は、ほぼ同義のものとして使用している。33)昭和63年度『改正税法のすべて』248頁を参考とした。34)「帳簿方式」の名称は明確には用いられていない。本稿では、インボイス制度に対比されるわが国の仕組みに

ついて「帳簿方式」と称する。35)前掲書250頁から293頁

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「また、このような仕組みは、わが国の事業者にとってなじみの薄いものであることから、納税者の事務負担に極力配慮し、国内取引に係る納付義務を計算する期間(課税期間)は、個人事業者にあわせ暦年、法人については法人税法にあわせて事業年度とし、仕入れに係る消費税額

(仕入税額控除)の計算は、税額票36)によらず、帳簿上の記録や、現在取引に利用されている請求書、納品書等をもとに行っている・・・」

ここから読み取れることは、わが国の消費税は、一般間接税としての付加価値税をモデルとしつつも、納税者にとってなじみの薄いものであることから、その事務負担に配慮し、所得税や法人税に係る事務処理に基づき容易に対処できるものとして導入された、ということである。その例として、課税期間が挙げられているが、これだけに留まらないと考える。当時の政治状況を考慮するとやむを得ないともいえるが、導入後30年が経過しており、今一度、原点に戻り、制度のあり方について抜本的な見直しが必要ではないか。以下で見ていく通り、免税点の引下げなど事業者の有利性の見直しは行われているものの、帳簿方式や基準期間などの基本的な仕組みは手つかずのままである。

以下、主として同書の「ポイント」を引用ないしは参考とする形式で、消費税の仕組みの概要を説明する。

(1)-2-1 国内取引

消費税法の対象となる国内取引となるかどうかは、1 国内において行われるかどうか2 事業として行われるかどうか3 対価を得て行われるかどうか4 資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に該当するか否か

により判定するものとされる。

(1)-2-2 国内・国外の判定

資産の譲渡等が国内で行われたかどうかの判定は、原則として次に掲げる場所が国内にあるかどうかにより判定するものとされる。

1 資産の譲渡又は貸付けである場合 譲渡または貸付けが行われる時において当該資産の所在していた場所

2 役務の提供である場合 役務の提供が行われた場所

(1)-2-3 非課税

次の取引が非課税とされている。1 土地の譲渡及び貸付け2 有価証券、支払手段の譲渡3 金銭の貸付け等の金融取引4 郵便切手類、印紙、証券及び物品切手等の譲渡

会計論叢第14号 - 58 -

36)売上税法案におけるインボイスの呼称

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5 国、地方公共団体等の登記、登録等に係る役務の提供等6 公的な医療保障制度に係る療養、医療、施設療養等7 第一種社会福祉事業等8 学校、専修学校、各種学校及び職業訓練校等の授業料又は入学検定料を対価とする役務の提

(1)-2-4 免税取引

次に掲げる取引は、免税とされている。免税取引については、非課税と異なり、免税取引に要する仕入れに係る消費税額が控除される。

1 輸出取引等として行われる課税資産の譲渡等2 輸出物品販売場における輸出物品の譲渡3 外航船に積み込む物品の譲渡4 外国公館等に対する課税資産の譲渡等5 海軍販売所等に対する物品の譲渡

(1)-2-5 輸入取引

保税地域から引き取られる外国貨物は、課税の対象とされる。1 無償貨物も課税の対象となる。2 保税地域以外の場所から引き取られる貨物(郵便物、携帯品)も、保税地域から引き取られ

る外国貨物とみなされる。3 保税地域において外国貨物が消費され、又は使用された場合には、原則として、保税地域か

らの引取りとみなされる。

(1)-2-6 非課税とされる外国貨物等

外国貨物については、次の非課税措置又は免税措置が適用される。1 有価証券等、郵便切手類、印紙、証券および物品切手等は、非課税2 課税価格の合計額が1万円以下の外国貨物は、原則として免税3 船舶運航事業者等により輸入される外航船舶等は、免税4 外交官用貨物等については、免税

(1)-2-7 納税義務者

国内取引に係る納税義務者は、事業者である。事業者とは、個人事業者と法人である。課税貨物に係る納税義務者は、課税貨物を保税地域から引き取る者である。その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3千万円以下である事業者については、その

課税期間中に行った国内取引(課税資産の譲渡等)について、納税義務が免除される。

(1)-2-8 納税地の意義

1 国内取引に係る納税地(1)個人事業者の納税地は、次の通りとされる。

国内に住所を有する場合 住所地

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国内に住所を有せず、居所を有する場合 居所地国内に住所及び居所を有しないで事務所等を有する場合 事務所等の所在地

(2)法人の納税地は、次の通りとされる。内国法人の場合 本店または主たる事務所の所在地外国法人で事務所等を有する場合 事務所等の所在地

2 輸入取引に係る納税地保税地域から引き取られる外国貨物に係る納税地は、その保税地域の所在地とされる。

(1)-2-9 資産の譲渡等の帰属

1 資産の譲渡等が行った者がだれであるかは、資産の譲渡等に係る対価を実質的に享受する者がだれであるかにより判定するものとされる。

2 信託財産に属する資産に係る資産の譲渡等は、原則としてその受益者が行ったものとみみなすものとされる。

(1)-2-10 資産の譲渡等の時期

資産の譲渡等の時期は、資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供が行われたときとされる。具体的には、引渡し基準等により判定するのであるが、次の特例が設けられている。

1 割賦販売等に係る資産の譲渡等の特例2 延払条件付販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例3 長期工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例4 小規模事業者に係る資産の譲渡等の時期の特例

(1)-2-11 課税標準

1 国内取引に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(消費税抜き)とされる。2 輸入取引に係る消費税の課税標準は、関税課税価格(通常は CIF 価格)、関税額および消費税

以外の個別間接税の合計額とされる。

(1)-2-12 仕入れに係る消費税額の控除

(1)-2-12-1 対象となる事業者等

1 この控除の適用を受ける事業者は、納税義務のある事業者に限られ、納税義務を免除された事業者は、この控除の適用を受けることはできないものとされる。

2 控除を受ける時期は、国内において課税仕入れを行った日の属する課税期間又は保税地域から課税貨物を引き取った日の属する課税期間とされる。

(1)-2-12-2 課税仕入れの意義

1 課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け又は役務を受けることとされている。

2 ただし、給与等を対価とする役務の提供や非課税とされる資産の譲渡等および免税とされる

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資産の譲渡等は、課税仕入れから除くものとされている。

なお、事業者が免税事業者又は消費者から課税資産の譲渡等を受けた場合にも、課税資産仕入れに該当するとしている37)。

(1)-2-12-3 控除税額の計算

1 原則その課税期間中に行った課税仕入れ等の税額の全額が控除される。

2 課税売上割合が95%に満たない場合事業者の選択により、次のいずれかの方法により控除税額を計算するものとされる。

① 個別対応法課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等の税額+(課税資産の譲渡等とその他の資産

の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等の税額)×課税売上割合=控除税額② 一括比例配分法

課税仕入れ等の税額×課税売上割合=控除税額

(1)-2-12-4 適用要件

仕入れに係る消費税額の控除の適用を受ける場合には、次のいずれかを7年間、その納税地又は事務所等の所在地に保存することが適用要件とされている。(1)課税仕入れ等の内容、取引価額等を記録した帳簿(2)課税仕入れ等の内容、取引価額等が記載された請求書等または税関長が交付した書類

(1)-2-13 仕入税額控除の調整

(1)-2-13-1 仕入れに係る対価の返還を受けた場合の控除税額の調整

1 国内において行った課税仕入れにつき、対価の返還等を受けた場合には、仕入税額控除額計算の基礎となる課税仕入額の税額は、対価の返還等に係る金額の消費税額を控除した金額とされる。

2 保税地域から引き取った課税貨物に係る消費税額につき還付を受ける場合には、仕入税額控除の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額は、還付を受ける消費税額を控除した後の金額とされる。

(1)-2-13-2 調整対象固定資産に係る課税仕入れ等の税額の調整

1 調整対象固定資産については、次に掲げる場合に仕入控除税額が調整される。なお、調整が適用されるのは3年間に限定されている。① 仕入税額控除を比例配分法により計算した場合において、通算課税売上割合が著しく変動

したとき② 調整対象固定資産を課税業務専用から非課税業務専用に用途変更したとき

一般間接税としての消費税について- 61 -

37)これが、帳簿方式と称されるものである。

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③ 調整対象固定資産を非課税業務専用から課税業務専用に用途変更したとき2 棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額については、次に掲げる場合に調整が行われる。

① 免税事業者から課税事業者になった場合② 課税事業者が免税事業者となった場合

(1)-2-14 簡易課税

その課税期間の基準期間における課税売上高が5億円以下の中小企業者が、この措置の適用を受ける旨の届出書を所轄税務署長に提出した場合には、その課税期間の売上げに係る消費税額から控除する仕入れに係る消費税額は、売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除した残額の80%(卸売業者は90%)相当額として控除するものとされる。

(1)-2-15 売上げに係る対価の返還等をした場合の消費税額の控除

事業者が国内において行った課税資産の譲渡につき、返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたことにより、売上げに係る対価の返還等をした場合には、当該対価の返還等をした日の属する課税期間の売上げに係る消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除することができるものとされている。

なお、この控除は、対価の返還等の明細を記録した帳簿の保存が適用要件とされている。

(1)-2-16 貸倒れに係る消費税額の控除

国内において行った課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権について、一定の事実が生じたことにより、税込対価の額を領収することができなくなったときは、当該領収することができなくなった税込対価の額に係る消費税額を控除することができるものとされている。

なお、この控除は、その一定の事実が生じたことを証する書類を保存することが適用要件とされている。

(1)-2-17 小規模事業者に対する限界控除

1 小規模事業者等に対する影響等を緩和するため、納付税額を減額する仕組みが設けられている。

2 納付税額を減額する限界控除額は、次の算式により計算される。本来納付すべき税額×(6千万円-課税売上高)/3千万円

(1)-2-18 申告、納付等

1 国内取引(1)確定申告及び納付

課税期間の末日の翌日から2月以内に確定申告書を提出し、消費税額を納付する。(2)中間申告及び納付

課税期間の初日以後6月を経過した日から2月以内に、直前の課税期間の納付税額の2分の1相当額を申告、納付する。ただし、その2分の1相当額が30万円以下である場合には、中間申告は不要とされる。

また、仮決算により中間申告をすることも可能である。

会計論叢第14号 - 62 -

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2 輸入取引課税貨物を保税地域から引き取る際に申告、納付をする。なお、担保の提供を条件に、3月以内の納期限の延長が認められる。

(1)-2-19 国、地方公共団体等の特例

1 納付税額の計算単位国、地方公共団体については、一般会計または特別会計ごとに一の法人とみなすものとされ

る。2 資産の譲渡等のあった時期

国、地方公共団体の行う資産の譲渡等、課税仕入れについては、その対価の収納又は支払をすべき会計年度の末日に行われたものとみなされる。

3 仕入税額控除の計算国、地方公共団体、公共法人等及び人格のない社団等については、特定収入(税金、補助金、

寄付金等)に対応する課税仕入れ等の税額は、控除対象から除外される。また、国、地方公共団体の一般会計については、売上げに係る消費税額と各種の控除税額の合計額は同額とみなされ、申告義務も免除される。

4 申告期限の特例国、地方公共団体等については、申告期限の特例が設けられている。

(1)-2-20 その他

1 届出書の提出基準期間における課税売上高が3千万円を超えることとなった場合、基準期間における課税

売上高が3千万円以下となった場合、課税事業者が事業を廃止した場合、課税事業者が死亡した場合および課税事業者である法人が合併により消滅した場合には、事業者(相続人又は合併法人)は、その旨を税務署長に届け出ることとされている38)。

2 帳簿の備付等事業者(免税事業者を除く)は、帳簿を備え付けて、これを次の事項を整然と、かつ、明瞭

に記録し、かつ、これを7年間、納税地またはその事業に係る事務所等の所在地に保存することとされている。なお、最後の2年間は、所定の性能を有するマイクロフィルムによる保存することができる。① 資産の譲渡等に関する事項② 売上げに係る対価の返還等に関する事項③ 仕入れに係る対価の返還等に関する事項④ 課税貨物に係る消費税額につき受けた還付に関する事項

一般間接税としての消費税について- 63 -

38)インボイス制度がないこととの関連で、課税事業者のための登録制度は存在しない。ある事業者がある課税期間において課税事業者となるか否かは、当該課税期間に対応する基準期間の課税売上高で決まることになる。

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(2)導入から今日までの税制改正の概要

本節では、消費税の税額控除に関連した改正を中心に、その概要をみていくこととする

(2)-1 平成3年度の改正39)

(2)-1-1 非課税の範囲の見直し

国内取引に関して、新たに下記の資産の譲渡等が非課税とされている。① 社会福祉事業法に規定する第二種社会福祉事業及び社会福祉事業に類する事業として行われ

る一定の資産の譲渡等② 医師、助産婦その他医療に関する施設の開設者による助産に係る資産の譲渡等③ 墓地、埋葬等に関する法律第2条に規定する埋葬および火葬に係る埋葬料及び火葬料を対価

とする役務の提供④ 身体障害者の使用に供するための特殊な性状、構造又は機能を有する一定の身体障害者用物

品の譲渡、貸付等⑤ 学校教育法第1条に規定する学校その他の一定の教育施設における教育に係る入学金、施設

設備等を対価とする役務の提供⑥ 学校教育法に規定する一定の教科用図書の譲渡⑦ 住宅の貸付け(一時的に使用させる場合等を除く。)

(2)-1-2 簡易課税制度の改正

(1)簡易課税制度の適用を受けることのできる課税期間は、その基準期間の課税売上高が4億円以下(改正前5億円以下)である課税期間とされている。

(2)簡易課税制度の適用を受けることのできる課税期間において、売上げに係る消費税額から控除することのできる仕入れに係る消費税額は、事業者の営む次の事業の区分に応じ、それぞれの事業の区分ごとの売上げに係る消費税額に次の仕入率を乗じて計算した金額とされている。

イ 第一種事業(卸売業) 90%ロ 第二種事業(小売業) 80%ハ 第三種事業(製造業等) 70%二 第四種事業(サービス業等) 60%

(2)-1-3 限界控除制度の改正

限界控除制度の適用限度額が5,000万円(改正前6,000万円)に引き下げられている。

(2)-1-4 中間申告・納付制度の見直し

直前の課税期間の確定消費税額が500万円を超える事業者については、中間申告・納付回数を年3回(改正前年1回)に改め、原則として当該確定消費税額の4分の1ずつを申告・納付することとされている。

会計論叢第14号 - 64 -

39)平成3年度版の『改正税法のすべて』を参考としている。

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(2)-2 平成7年度から8年度にかけての改正40)

(2)-2-1 消費税率の引上げ

消費税の税率が4%(改正前3%)とされ、地方消費税と合わせて5%とされている。適用は、平成9年4月1日からとされている。

(2)-2-2 事業者免税点制度

資本又は出資の金額が1,000万円以上である法人の設立当初の2年間については、納税義務を免除しないこととされている41)。

(2)-2-3 簡易課税制度

1 簡易課税制度の適用上限が2億円(改正前4億円)に引き下げられている。2 みなし仕入率について、サービス業等を新たに第5種事業とし、そのみなし仕入率を50%と

することとされている。

(2)-2-4 限界控除制度

限界控除制度が廃止されている。

(2)-2-5 仕入税額控除制度

1 課税仕入れに係る仕入税額控除の計算は、課税仕入れに係る支払対価の額(税込み金額)に105分の4を乗じた金額とされている。

2 仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れ等の内容を記載した帳簿を保存し、かつ、課税仕入れ等に係る請求書等を保存することが必要とされている。

(2)-2-6 中間申告、確定申告等

中間申告を要する直前の課税期間の確定消費税額を、年3回の中間申告にあっては400万円(改正前500万円)超に、年1回の中間申告にあっては48万円(改正前60万円)超に引き下げられている42)。

(2)-3 平成10年度改正

1 割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例を廃止するとともに、賦払期間が2年以上にわたるなど所定の要件を満たす割賦販売等については、従来の延払条件付販売等に係る特例制度を改組し、新たに長期割賦販売等として延払基準による資産の譲渡等の時期の特例の対象とすることとされている。

一般間接税としての消費税について- 65 -

40)平成7年度から平成8年度の税制改正については、国会の状況が通常と異なっていたことから、両年度分をまとめて改正の概要について記述する。

41)基準期間の制度により法人設立から2年間は免税となるが、これに一定の制限を設けたものである。この改正のために、消費税法12条の2が設けられている。

42)地方消費税込みの金額は改正前と同額となる。

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2 以上のほか、工事の請負、会社分割に関連した改正が行われている。

(2)-4 平成11年度改正43)

有価証券取引税法の廃止に伴い、消費税法上の有価証券の根拠規定が、従来の「有価証券取引税法第2条に規定する有価証券」から「証券取引法第2条第1項に規定する有価証券」に改正されるとともに、消費税法施行令第9条第1項に規定する「有価証券に類するもの」の範囲等について、見直しが行われている。

(2)-5 平成12年度改正44)

介護保険法の規定に基づく居宅サービス及び施設サービス等について、原則として、消費税が非課税とされている。

(2)-6 平成13年度改正45)

商法等の改正による会社分割制度の創設に伴い、分割があった場合の納税義務の免除の特例を定めた法第12条が改組され、新たな企業組織再編に対応した規定とされている。

(2)-7 平成15年度改正46)

(2)-7-1 事業者免税点の適用上限の引下げ

事業者免税点制度の適用条件が1,000万円(改正前3,000万円)に引き下げられている。

(2)-7-2 簡易課税制度の適用上限の引下げ

簡易課税制度の適用上限が5,000万円(改正前2億円)に引き下げられている。

(2)-7-3 中間申告納付制度の改正

直前の課税期間の確定税額が4,800万円(地方消費税込みで6,000万円)を超える事業者は、中間申告・納付を毎月(改正前:3月ごと)行うこととし、原則として、当該確定税額の各12分の1ずつを申告・納付することとされている。

(2)-7-4 課税期間の特例に関する改正

中間申告納付制度の見直しに伴い、課税期間の特例制度について、新たに課税期間を1月とする特例が設けられている。

(2)-7-5 総額表示義務規定の創設

不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合の総額表示義務規定が創設されている。

会計論叢第14号 - 66 -

43)平成11年度版『改正税法のすべて』を参考とした。44)平成12年度版『改正税法のすべて』を参考とした。45)平成13年度版『改正税法のすべて』を参考とした。46)平成15年度版『改正税法のすべて』を参考とした。

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(2)-8 平成17年度改正47)

社会福祉事業に該当しない認可外保育施設のうち、一定のものが非課税とされている。

(2)-9 平成22年度改正48)

会計検査院の平成20年度決算検査報告において仕入税額控除の調整措置を免れる事例について改善を求める意見表明がなされたことを受けて、事業者免税点制度及び簡易課税制度について見直しが行われている。

(2)-9-1 課税事業者選択制度の適用の見直し

調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、基本的に3年間は引き続き課税事業者となるものとされている49)。

(2)-9-2 資本金1,000万円以上の新設法人に対する事業者免税点制度の特例の適用の見直し

調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、基本的に3年間は引き続き課税事業者となるものとされている50)。

(2)-9-3 簡易課税制度の適用の見直し

調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、基本的に3年間は引き続き課税事業者であり、かつ、一般課税により仕入税額控除の計算をするものとされている51)。

(2)-10 平成23年度改正52)

(2)-10-1 事業者免税点制度における免税事業者の要件の見直し

個人事業者のその年又は法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、当該個人事業者または法人(課税事業者を選択しているものを除く。)のうち、個人事業者のその年または法人のその事業年度に係る「特定期間における課税売上高」が1,000万円を超えるときは、当該個人事業者のその年または法人のその事業年度については、事業者免税点制度は適用しないこととされている53)。

なお、特定期間とは、個人の場合を例にとると、前年の1月1日から6月30日までの6月間とさ

一般間接税としての消費税について- 67 -

47)平成17年度版『改正税法のすべて』を参考とした48)平成22年度版『改正税法のすべて』を参考とした。49)消費税法9条に7項が設けられている。これは、本来は税額控除が認められないアパートの建築費用につい

て税額控除を可能とする、いわゆる「アパート節税」に対応したものである。50)消費税法12条の3が設けられている。51)消費税法37条2項の改正が行われている。52)平成23年度版『改正税法のすべて』を参考とした。53)新たに消費税法9条の2が設けられている。新規開業の事業者における基準期間のない期間を2年間から1

年間に短縮したものである。

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れている。また、特定期間の課税売上高については、給与等の金額で代替することが認められている。

(2)-10-2 仕入税額控除制度におけるいわゆる「95%ルール」の見直し

95%ルールの適用対象者は、その課税期間の課税売上高が5億円以下の事業者に限ることとし、他方で当該課税売上高が5億円を超える事業者については、課税売上割合が95%以上であっても、仕入税額控除の計算に当っては、個別対応方式か一括比例方式のいずれかで計算するものとされる。

(2)-11 平成24年8月の社会保障・税一体改革54)

(2)-11-1 消費税率の引上げ

下記の引上げを行うことが決定されている。平成26年4月1日より 8%(消費税6.3%、地方消費税1.7%)平成27年10月1日より 10%(消費税7.8%、地方消費税2.2%)

(2)-11-2 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例

事業者免税点制度の不適切な利用を防止するため観点から、基準期間のない事業年度開始の日において資本金1,000万円未満の新設法人であっても、一定の大規模事業者等が設立した法人については、事業者免税点程度を適用しないものとされている。具体的には、特殊な関係にある者の課税売上高が5億円を超えるなどの「特定要件に該当する場合」に免税点制度を適用しないものとされている55)。

(2)-12 平成27年度改正56)

(2)-12-1 消費税率の引上げ時期の変更等

第二段階目の消費税率の引上げの時期が、平成27年10月1日から平成29年4月1日に変更されている。

(2)-12-2 国境を越えた役務の提供に係る課税の見直し

電気通信利用役務の提供については、従来の課税方式と異なる方式が取られることとなった。すなわち、事業者向け電気通信利用役務の提供については、原則として、リバースチャージが適用され、消費者向け電気通信利用役務の提供については、顧客が事業者の場合の仕入税額控除に制限を設けることとされている。

なお、わが国では、課税事業者の登録制度がないことから、契約条件などで事業者向けか消費者向けかを区分せざるを得ない。その結果、事業者向けのものであっても、消費者が顧客となること

会計論叢第14号 - 68 -

54)平成25年度版『改正税法のすべて』を参考とした。55)この改正のために、消費税法12条の3が設けられている。56)平成27年度版『改正税法のすべて』を参考とした。

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が可能性としては存在し、この場合には課税対象外となる。他方で、消費者向けであっても、顧客が事業者となることがあり、この場合には仕入税額控除の可否が問題となる。供給者の国内での登録を条件として、顧客としての課税事業者に仕入税額控除を認めることとしているが、わが国の制度の問題点を示すひとつの事例といえる。

(2)-12-3 国外事業者による芸能・スポーツ等の役務の提供に係る課税方式の見直し

国内において国外事業者たる芸能人等(以下、国外芸能人等という。)が行う役務の提供については、リバースチャージを適用するものとされている。

こうした役務の提供については、それまで、基準期間の関係から、供給者には納税義務が発生しない可能性が高いにもかかわらず、顧客であるイベントの開催業者には仕入税額控除が認められていた。今回の改正は、電子取引において導入されたリバースチャージの仕組みを利用することで、課税漏れのひとつが手当てされたものと評価できる。

(2)-13 平成28年度改正57)

(2)-13-1 軽減税率制度の導入

平成29年4月1日の税率の引上げに合わせて、軽減税率を適用することとされている。消費税率は、標準税率が7.8%、軽減税率が6.24%とされる。地方消費税率は、標準税率が2.2%、軽減税率が1.76%とされる。国内取引に係る軽減税率の適用対象は、次のものとされている。イ 飲食料品(食品表示法第2条第1項に規定する食品(酒税法第2条第1項に規定する酒類を

除く。以下単に食品という。)をいい、食品と食品以外の資産が一の資産を形成し、又は構成している一定の資産を含む。)の譲渡(ただし、外食及び一定のケータリングサービスに該当するものは、含まない。)

ロ 一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(1週に2回以上発行する新聞に限る。)の定期購読契約に基づく譲渡

(2)-13-2 適格請求書保存方式の導入

軽減税率制度の導入後、平成33年3月末までは、「区分記載請求書方式等保存方式」が適用される。これは、基本的には、現行の仕組みと変わらないものとされている。

インボイスが必要とされる理由は下記の通りとされている58)

「複数税率制度の下で前段階税額控除の仕組みを適正に機能させるためには、欧州諸国の付加価値税において広く採用されているいわゆる「インボイス方式」の導入が不可欠であると考えられていました。すなわち、売手側における適用税率の認識と仕入側の適用税率の認識を一致させるために、売手側に必要な情報を記載した請求書(インボイス)の発行を義務付けるとともに、当該請求書等(インボイス)の保存を仕入税額控除の適用要件とする必要があります。また、そうした仕組みを機能させる観点から、課税事業者として適正な請求書を発行できる事

一般間接税としての消費税について- 69 -

57)平成28年度版『改正税法のすべて』を参考とした。58)前掲書808頁

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業者であることが、他の事業者から確認できる仕組みも必要となってきます。」そのうえで、現行制度からの切り替えに相応の事務・コストがかかることを理由として、インボ

イス制度の導入は、軽減税率制度の施行から4年後の平成33年4月1日とされている。

(2)-13-3 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例

事業者が、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に、一定の高額な資産(特定高額資産または自己建設高額特定資産)の課税仕入れ等を行った場合には、当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度は適用できないものとされている。

また、事業者が、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に、一定の高額な資産(特定高額資産)の課税仕入れ等を行った場合には、当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、原則として簡易課税制度の適用も受けられないものとされている59)。

(2)-13-4 事業向け電気通信利用役務の提供に係る内外判定基準の見直し

国外事業者の恒久的施設が受けたものは国内で行われたものとし、国内事業者の国外事業所等が受けたものは国内以外の地域で行われたものとされている。

(2)-14 平成29年度改正60)

(2)-14-1 消費税率10%への引上げ時期の変更

消費税率の第二段階目の引上げ時期は、平成29年4月1日から2年半延期され、平成31年10月1日に変更されている。

これに合わせて、軽減税率の導入の実施時期も平成31年10月1日とされ、適格請求書等保存方式の実施時期は平成35年10月1日とされている。

(2)-14-2 仮想通貨の譲渡に係る課税関係の見直し

改正資金決済法第2条に規定する仮想通貨が、非課税とされる支払手段に類するものの範囲に含めることとされている。

(2)-15 平成30年度改正61)

(2)-15-1 適格請求書等保存方式に関する細目の制定

仕入税額控除の計算については、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8を乗じて計算した

会計論叢第14号 - 70 -

59)以上の改正のために消費税法12条の4が設けられ、また、消費税37条2項が改正されている。60)平成29年度版『改正税法のすべて』を参考とした。61)平成30年度版『改正税法のすべて』を参考とした。

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金額ではなく、課税仕入れに係る適格請求書または適格簡易請求書の記載事項を基礎として政令が定めるとことにより行うものとされている(法30条1項)。政令46条1項によると、原則として、積上げ計算によるものとされている。

また、売上税額の計算については、適格請求書等に記載した消費税額を基礎として計算(積上げ計算)するものとされている(法43条3項、45条5項)。

(2)-15-2 みなし仕入率の改正

軽減税率の対象となる飲食料品を生産する農林水産業について、その軽減税率の対象となる飲食料品の譲渡に係る部分について第2種事業(改正前第3種事業)に位置づけ、そのみなし仕入率は80%(改正前70%)とされている。これは、売上げと仕入れで適用税率が異なることとなる事業者のための対応策とされている。

(3)税額控除からみた税制改正の傾向

(3)-1 概要

最初に挙げられるのは、税率の引上げである。こうした税率の引上げは、各種の優遇措置の影響を大きなものとしている。

税率以外で制度的な改正のうち主要なものをまとめると、下記の通りである。限界控除の廃止帳簿方式における請求書等の保存義務の強化事業者免税点の適用上限金額の引下げ簡易課税制度の適用上限金額の引下げとみなし仕入率の細分化新設企業の優遇範囲の縮小

新設法人の特例(法12条の2)特定新規設立法人の特例(法12条の3)

租税回避防止措置(税額控除の利用の制限)の導入免税事業者や簡易課税の制度を利用した節税の防止(法9条7項、法12条の4、法37条

2項)電子取引に係る税額控除の制限国外芸能人等に係る税額控除の制限

なお、今後の措置として、税率の引上げ、税率の引上げに合わせた軽減税率の導入(平成31年10月)、そして、軽減税率の導入に合わせたインボイスの導入(平成35年10月)が予定されている。なお、軽減税率の導入からインボイス導入までの期間については、標準税率と軽減税率との区分記載のある請求書の制度により対応することとされている。

以上のような制度の見直しとは別に、導入後の動向として、非課税範囲の拡大が挙げられる。ただし、現行制度における非課税は、事業者にとって税負担の発生を意味することから、非課税の範囲を積極的に拡大しようとするという動きは、導入直後を除き見られない62)。

一般間接税としての消費税について- 71 -

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(3)-2 税額控除に関連した改正の概要

消費税制度の仕組み、特に、税額控除に関連した改正について、本稿の目的に沿って、主要なものを整理すると、以下の通りである。

(3)-2-1 税率の引上げ

税率の引上げは、税額控除の価値を大きくするものであり、税額控除の不当な利用の防止の観点からも重要な意味を持っている。

消費税の税率は、導入時には3%であったが、その後、平成7年度改正により5%(平成9年4月1日より引上げ。なお、地方消費税1%を含む。)、平成24年の社会保障・税一体改革により8%

(平成26年4月1日より引上げ。なお、地方消費税1.7%を含む)と引き上げられている。さらに、平成31年(2019年)10月1日より10%(地方消費税2.2%を含む)に引き上げるとともに、

食料品等と新聞については8%の軽減税率を適用することとされている。なお、10%への引上げは、当初は平成27年10月1日に実施することが予定されていたが、延期されていたものである。

(3)-2-2 限界控除制度の縮小と廃止

限界控除制度は、平成3年度改正で、適用上限金額が6千万円から5千万円に引き下げられ、平成7・8年度改正において、廃止されている。廃止は、平成9年4月1日以降に開始する事業年度からとされている。

(3)-2-3 事業者免税点の引下げ

事業者免税点は、消費税導入時には3千万円であったが、平成15年度改正により、1千万円に引き下げられている。適用は、平成16年4月1日以降に開始する課税年度からとされている。

(3)-2-4 簡易課税制度による優遇措置の縮小

簡易課税制度については、平成3年度改正において、適用上限を基準期間の課税売上高6億円から5億円に引き下げられるとともに、業種分類も、2種類(90%と80%)から4種類(90%から60%まで)に増えている。

次いで、平成8年度改正において、適用上限が2億円に引き下げられ、業種分類も5種類(90%から50%)に増えている。

さらに、平成15年度改正において、適用上限が5千万円に引き下げられている。なお、平成26年度の政令改正において、業種分類について、不動産業が追加され、6種類(90%

から40%)となっている。

(3)-2-4 新設法人による基準期間の利用の制限(法12条の2の導入)

基準期間の導入は、個人事業者であれ、法人であれ、事業開始時から2年間は基準期間がなく、当然の権利として免税事業者となることを意味する。

平成8年度の改正において、平成9年4月1日より、新設法人のうち、資本金が1千万円以上の

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62)これに対し、軽減税率の場合には、明らかに有利であることから、要望が多数出てくることが予想される。

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法人について、設立当初の2年間は納税義務を免除しないこととされている63)。

(3)-2-5 税額控除に関連した制度の不当な利用の防止措置

消費税における課題のひとつは税額控除が不当に利用されないようにすることである。消費税の導入当初から規定されていたもので、制度の不当な利用を防止することが目的のひとつと考えられる仕組みは、次の通りである。

(3)-2-5-1 課税事業者選択届出の取止めの2年縛り

課税事業者であれば売上げが課税される一方で仕入税額控除も認められるが、免税事業者であれば、売上げが課税されない一方で仕入税額控除は認められない。こうした両者の課税属性を人為的に変更することで不当な利益を得ることが可能となることから、これを防止するために一定の制限が設けられている。

その代表が課税事業者を選択した場合における選択の廃止の制限であり、2年縛りが適用されている(法9条5項、6項)64)。

(3)-2-5-2 簡易課税の選択の取止めの2年縛り

簡易課税を選択すると実際の課税仕入れとは無関係に一定割合の税額控除が認められることから、課税上の属性の人為的な変更により不当な利益が発生することを防止するために、簡易課税を選択した場合には2年間の取止めの制限が課されている(法37条5項、6項)。

(3)-2-5-3 課税売上割合の一括比例方式の利用に係る2年縛り

一括比例方式を採用すると、課税仕入れの実際の割合とは異なる割合で仕入税額控除を行うことが可能となることから、一括比例方式を適用した場合には2年間は個別方式に戻れないこととされている(法30条5項)。

(3)-2-5-4 事後的な調整

事業者が一括比例方式を用いて一定金額以上の資産を購入した場合には、資産購入後3年間の通算課税売上割合の仕組みにより、課税仕入れを行った資産の実際の使用目的が反映されようにしている(法33条)65)。

事業者が個別法を用いている場合においても、課税仕入れを行った資産について、事後的に使用

一般間接税としての消費税について- 73 -

63)この改正は、資本金が1千万円以上の法人に限定して適用されるものであり、それ以外の法人および個人事業者は、引き続き、2年間にわたり免税事業者としての特典を享受する。

64)2年縛りとする趣旨であるが、典型的パターンとして、課税事業者に該当する課税期間に資産を購入し、次の課税期間に免税事業者として当該資産を譲渡することが想定されるので、これを制限しようとしたものを考えられる。

65)なぜ3年間に調整期間を限定しているかであるが、当初から非課税売上げに対応する課税仕入れについて課税売上げに成りすまして税額控除を利用するという行為には有効であろう。しかしながら、当初は非課税売上げ目的として利用し、数年後に非課税目的に変更する行為には効果がない。耐用年数の長い建物のような固定資産については、調整期間は3年ではなく、EUVAT のように、例えば、20年程度の調整期間が必要であろう。

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目的が変更された場合には、一定の調整を行うものとされている(法34条、35条)66)。

(3)-2-5-5 棚卸資産の納税者属性の変化への対応

法36条は、課税事業者と免税事業者の属性変更に伴に、期末に残っている棚卸資産にかかる不合理な損益の発生を防止するために、税額控除の調整を行っている(法36条)。

(3)-2-5-6 平成22年度に導入された一括比例方式の不当利用の防止措置

平成22年度の改正では、法9条7項および法37条2項により、課税事業者を選択し、または、簡易課税を選択した場合において、調整対象固定資産を購入した場合には、3年間は免税事業者または簡易課税に戻れないこととされている。

これは、法33条の通算課税売上割合による調整(資産の購入から3年後に本則課税の状態で資産を保有していることが条件となっている。)を回避する行為を防止しようとしたものである。

(3)-2-5-7 法12条の4の導入等

平成28年度の改正では、法12条の4の規定により、1千万円超の資産(高額特定資産)を購入した場合における不正防止のための措置が導入されている。これは、高額な資産を購入した場合には3年間は免税事業者に戻る資格を与えないというものであり、いわば、法9条7項で対応できなかった調整回避防止措置(3年縛り)を強化したものである。

さらに、簡易課税についても、高額特定資産の購入した場合において、3年間は簡易課税の適用を認めないとしている(法37条3項)。この措置には、非課税に関連した租税回避行為を防止するだけでなく、簡易課税において発生する可能性がある二重の税額控除(ひとつの資産において本則課税での税額控除と簡易課税による税額控除の二重の控除)を防止するという趣旨が含まれている67)。

(3)-2-5-8 電子的供給サービスへの対応

平成27年度改正において、「電気通信利用役務の提供」の概念が導入され、一定のサービスの供給について仕向地原則が導入されている。そして、そのサービスが事業者向けの場合には、リバースチャージを適用することとされている。消費者向けの場合には、従来通りの課税方式(すなわち、供給者を納税義務者とする方式)とされている。ところが、わが国は、課税事業者の登録制度が欠如していることから、事業者も消費者向け電気通信利用役務の提供の顧客となりうる。この場合に、これを放置すると、事業者は税額控除の権利を行使できるのであるが、これを附則において停止し、供給者が納税体制を整えていることを条件として、税額控除を認めるものとされている。(付則38条1項(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置))。

これは、サービスの供給者が納税することを条件として顧客に税額控除を認めるものであり、事

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66)固定資産の事後的な目的変更への対処の期間が3年間と短期間であることの問題点が指摘できる。耐用年数の長い建物の場合を想定すると、その矛盾はあきらかであろう。

67)これらの措置は資産購入前後における意図的な届出と関連させた規制であるが、過去に既に届出が出ているような場合には対応できないものとなっている。すなわち、基準期間の課税売上高の変動により免税事業者、簡易課税または本則課税と課税属性が変動するのは、制度の趣旨に沿ったものであり、これまでを規制することは難しいと考えられる。

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実上のインボイス方式を導入したのと同様の結果となる。電気通信利用役務の提供のイメージを事業者向けと消費者向けで対比して示すと、図14と図15の

通りである。

図14 事業者向け電気通信利用役務の提供

納税 税額控除 事業者向け電気通信

対価

利用役務の提供 国外事業者 課税事業者

国庫

図15 消費者向け電気通信利用役務の提供

納税 条件付き税額控除 消費者向け電気通信 利用役務の提供

国外事業者 課税事業者

国庫

対価税

(3)-2-5-8 国外芸能人等

上記の改正に合わせて、国外事業者たるの芸能人等との取引についてリバースチャージを適用することとされている。これは、国外の芸能人が国内でサービスを提供しても納税は期待できないのに対して、国外芸能人等を招致した事業者は税額控除の権利を行使できるからである。わが国の帳簿制度からすると当然に発生が予想される事態であるが、頻繁に発生し、かつ、金額も大きいことから、従来から問題視されていたものと思われる。部分的ではあるが、国庫の損失を防止するうえの効果が期待される。

国外芸能人等の課税の仕組みについて、税制改正の前と後で比較して示すと、図16と図17の通りである。

一般間接税としての消費税について- 75 -

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図16 税制改正前の国外芸能人等の課税の仕組み

税額控除

サービス供給

国庫

国外芸能人等 興行主

対価

納税 税額控除

サービス供給

国庫

国外芸能人等 興行主 対価

図17 税制改正後の国外芸能人等の課税の仕組み

(4)小括

消費税導入時の『改正税法のすべて』の説明にあるとおり、法令作成担当者は、消費税が付加価値税の一種であることを認識しつつ、馴染みがない税であることを理由として、可能な限り所得税や法人税の延長線上のものとして取り扱ったと考えられる。いわば、間接税と直接税のハイブリッドの状態で導入されたといえる。これは導入時における混乱を防止し円滑に新税を導入するための便法として理解できるにしても、可能な限り早期に、是正される必要があったのではないか、と考えられる。直接税的な方式として導入されている仕組みとしては、帳簿方式、基準期間それに課税売上割合が代表的なものである68)。

消費税の導入の後、中小企業を対象とした負担軽減策は縮小されてきているものの、基本的な仕組みはそのままで維持されたままで現在に至っている。

しかしながら、その後に繰り返された税率の引上げは、消費税の制度的な弱点の利用価値を高めているように思われる69)。上記で見る通り、様々な対応措置が実施されてきているが70)、それらは対症療法に近いものであり、効果が限定的と思われる。すなわち、制度そのものもが抱える内在的な問題は解決しておらず、表面化していない課税漏れ(税源浸食)が存在していることが想定され

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68)消費税を収支差額に対する税とする見方は、わが国ではかなり根強いものがあるように思われる。これは、付加価値税の仕組みの理解が不十分なこと、導入時における所得税や法人税の延長線上の税といったイメージが影響していると思われる。そして、このことが税額控除について無防備な状況を生み出している。

69)付加価値税は、本来はシンプルで強靭な仕組みを有しているのであるが、わが国にはそれが欠けている。70)こうした改正の多くは会計検査院の指摘によるものである。

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る。そこで、次章では、こうした潜在化していると考えられる制度上の問題点のうち、税額控除に関

連したものを中心として検討と分析を試みることとしたい。

4.わが国における税額控除の問題点について

(1)概要

第2章でみた通り、税額控除は、一般間接税の一種である付加価値税のメカニズムにおけるひとつの工夫に過ぎない。

付加価値税において、納税と税額控除のサイクルは、多段階課税で生ずる重複課税(カスケード)の防止のための中核となるメカニズムである。

しかしながら、他方で、このシステムは、悪用のリスク(単なる租税回避ではなく、税の詐取を引き起こすリスク)の極めて大きなものである。

こうしたリスクにも拘わらず導入されたのは、付加価値税の仕組みが一般間接税として極めて優れた機能を有していたことと、および強靭な不正防止の仕組みが備わっていたことによるものである。

ところが、わが国では、前章でみた通り、消費税は、収支差額に対する税という、あたかも「所得に対する直接税」に近い認識が一般化しており、仕入れにかかる税を控除するのは当然の権利とみられている。そのため、悪質な不正を予測し、これを防止するという面では極めて脆弱である。

結果として、消費税は、事業者(納税者)にとって極めて有利な制度となっており、さらには、租税回避や悪用(不正、逋脱)の温床となる懸念のあるものとなっている。そして、そうした懸念が、税率の引上げに伴い表面化し、現実のものとなっている。会計検査院の指摘を受けたことを契機とした対症療法的な対応は行われているものの、基本的な制度は維持されたままである。

以下、本章では、消費税のメカニズムとしての問題点を具体的に検討する。

(2) 現行制度の仕組みの分析

わが国の消費税が抱える制度や仕組みには、事業者の事情を過度に考慮した様々なものがある。それらは、単独で見た場合には、それぞれ一定程度の合理性があるにしても、それらが相乗効果を発揮した場合には、国庫に多大な損失を与える可能性がある。

以下、こうした可能性をみていくこととする。

(2)-1 制度を単独でみた場合

A 免税事業者制度

零細な事業者の事務負担と考慮して、課税売上高が一定水準以下の事業者について、消費税の申告と納付の義務を免除するものである。また、税率の引上げに対応する形で、免税事業者の適用範囲を決定する免税点が引き下げられてきている。

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免税事業者制度は、VAT としての理念からその仕組みを考えると、課税売上高が一定規模以下の小規模事業者については、物品またはサービスの供給者になった場合には納税義務を免除するとともに、物品またはサービスの購入者(顧客)となった場合には税額控除の権利を認めない、ということである。

現行制度によると、免税の基準金額は1千万円とされている。免税事業者に対する課税のイメージは、図18の通りである。

納税 8 物品・サービス 物品・サービス

国庫 国庫

供給者 免税事業者

免税事業者

顧客 対価80 対価108

税 8

図18 免税事業者に対する課税のイメージ

免税事業者は、顧客への売上げにおいて納税義務を負わず、かつ、供給者からの購入で負担した税8の税額控除認められない。このままでは、免税事業者は8だけ税を負担することになるので、課税前の状態を維持するには、対価を108に上げることが必要である。顧客が消費者の場合には、免税事業者は、競争上、有利な立場に立つ。消費者が課税事業者から購入すると、110が対価となるからである。

このことの意味を、課税事業者の場合と比較して考察すると、図19の通りである。

図19 課税事業者に対する課税のイメージ

納税 8 税額控除8 納税 10 税額控除 10 物品・サービス 物品・サービス

国庫

供給者 課税事業者

国庫

課税事業者

顧客 対価80

税 8

対価100

税 10

課税事業者は、8の税額控除と10の納税義務の差額として、国庫に2だけ納付する。顧客が課税事業者の場合、顧客に10の税額控除の権利が発生する。

全体として、免税事業者制度は、消費者を顧客とする対消費者(B2C)取引において、免税事業者を有利に扱い、事業者を顧客とする事業者間(B2B)取引では不利に扱うものとなる。

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B 簡易課税制度

簡易課税制度は、売上げ規模が一定金額以下の事業者を対象として、仕入れの金額を課税売上げの一定割合とみなすものである。こうした簡便な申告と納付の方法を提供することには、一定の合理性がある。なお、みなし仕入れの割合は業種別に定めることとされている。この業種分類は、税率の引上げに合わせる形で細分化されてきている。この仕組みは、ある課税期間において実際には発生していない課税仕入れについて税額控除を認めるものであることから、課税期間のズレ(例えば、本則課税の期間に税額控除を行い、簡易課税の期間にみなし控除を適用する。)を利用する可能性を生み出す。結果として、国庫の損失が発生する。

簡易課税を、収支差額課税の視点で図解すると図20の通りであり、課税売上げの一定割合の課税仕入れがあったものとして税額控除が認められる。この事例ではみなし控除の割合を80%と仮定した。

図20 簡易課税のイメージ(収支差額課税からの視点)

税額控除8 納税10 税額控除10 みなしの物品・サービス 物品・サービス

国庫 国庫

簡易課税事業者

簡易課税事業者

顧客 対価 80

税 8

対価 100

税 10

簡易課税を一般間接税の視点からみると、図21の通りである。簡易課税を適用している事業者がある資産を譲渡すると、課税売上げによる納税はひとつにも拘わらず、顧客が税額控除するとともに、供給者たる事業者も税額控除をすることから、ふたつの税額控除が行われていることになる。簡易課税事業者による税額控除は架空の税額控除である。

図21 簡易課税のイメージ(取引に対する税からの視点)

架空の税額控除8 納税 10 税額控除 10

物品・サービス

国庫

簡易課税事業者

顧客 対価 100

税 10

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C 基準期間

基準期間の制度は、登録制度とインボイス制度が存在しない状況において、事業者の納税義務の判定のために、当該課税期間の2年前の課税期間(基準期間)の課税売上高を用いるものであるが、納税義務者となるか否かを事業者が判断するという目的から、この制度には一定の合理性がある。

しかしながら、免税事業者および簡易課税の適用の可否を、課税期間そのものでなく、他の期間(基準期間あるいは特定期間)で決定するということは、免税事業者制度や簡易課税制度において上限金額を設けた趣旨を損う可能性がある。特に、事業の開始時において、基準期間のない課税期間を発生させることになる。

設例を設けて説明すると、次の通りである。基準期間の課税売上高が1千万円以下であれば、課税期間の課税売上高がいかに高額であっても、その課税売上げは免税となる。

同様なことは、簡易課税においても発生する。趣旨は中小企業者の事務負担の軽減であるにしても、適用の上限金額としての5千万円は限度額としての有効性を失い、いかに高額であっても簡易課税の特典を利用しうることとなる。

図22はこのことを示したものである

図22 基準期間と課税期間の関係

課税売上高 1千万円以下 免税事業者の適用上限なし 課税売上高 5千万円以下 簡易課税の適用上限なし

基準期間 課税期間

なお、特定期間の制度が導入されているが、新設企業の特典のある期間を2年間から1年間に短縮する効果はあるものの、本質的な問題は解決されていない。

D 帳簿方式

これは、事業者の税額控除の権利の行使の条件として、インボイス方式に代わるものとして、帳簿および請求書等の保存で代替しようとするものである。

直接税的な感覚からすると(すなわち、収支差額に対する税とみるのであれば)、収入から費用を控除することは当然の権利となり、この支出の存在を帳簿や請求書等で確認することで足りると感じるのでは自然なものであろう。

また、多くの場合において、結果として、それほど大きな差異が出るものでないことも確かである。

真に零細な事業者に限定すれば、取引の供給者の納付義務がないにも拘わらず顧客に税額控除を認めるという仕組みは許容範囲のものである。

しかしながら、他の制度と組み合わせることで、帳簿方式の国庫にとって重大な損失の原因となりうる。

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帳簿方式のイメージは、図23に示す通りである。これは、第2章で述べた収支差額思考そのものである。

図23 帳簿方式による課税のイメージ

納税2(110×10/110-88×8/88)仕入れ 売上げ

税込対価 税込対価 88 110

事業者

国庫

帳簿方式における税額控除を、一般間接税の視点で図解すると、図24の通りとなる。

図24 取引に対する税の視点からみた帳簿方式の税額控除

(納税) 税額控除 10 物品・サービス

国庫

供給者 顧客 対価 110

E 課税売上割合(一括比例方式)

課税売上割合は、付加価値税において非課税売上に対応する課税仕入れには税額控除を認めないとする特殊な仕組みに関連した制度である。

課税仕入れに係る税額控除の計算において、当該事業者の売上げのなかに非課税のものが含まれていた場合には、非課税売上に対応する課税仕入れに係る税は税額控除が認められないのであるが、その計算方式として、個別対応方式と一括比例方式のいずれかを選択できることとなっている。ここで、一括比例方式とは、当該課税期間における課税売上割合を用いて税額控除の金額を算出するというものである。この方式には、簡便法として一定の合理性がある。しかしながら、当該割合が実態を反映したものとなるという根拠は存在しない71)。

しかしながら、一括比例方式を自由に選択できる方式とすると、意図的に課税売上割合を大きくするなどの課税期間のズレを利用することで、本来であれば税額控除が認められない課税仕入れに

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71)部分的な税額控除の計算においては、取引法(売上高を基準とするもの)と投資法(購入額を基準とするもの)があるとされ、わが国の課税売上割合の考え方は取引法に属するものである。ただし、取引法のうちの個別法をとれば、投資法を用いた場合と類似した結果となる。

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ついても税額控除が認められ、国庫に損失が発生する。通算課税割合による3年縛りの制限があるものの、使用期間が長期におよぶ固定資産を考慮すると、不合理な結果となる可能性がある。

図25は100%の課税売上割合を用いた税額控除のイメージを示したものである。なお、顧客から受けとる対価には、物品・サービスの購入で負担した税8を転嫁するものと仮定している

図25 100%の課税売上割合を用いた税額控除

納税 8 税額控除 8 物品・サービス 物品・サービス(非課税)

国庫 国庫

供給者 課税事業者

課税事業者

顧客 対価 80 対価 108

税 8

非課税売上げに対応する課税仕入れは、本来は税額控除が認められないのであるが、一括比例方式の課税売上割合を用いることで税額控除が可能となる。

(2)-2 各種制度の組み合わせが生み出す効果

上記の A から E の仕組みは、単独でみれば、それなりに存在理由があり、必ずしも重大な結果を生み出すわけではない。しかしながら、これらを合わせることで、重大な国庫の損失が発生する。

以下、いくつかの組み合わせを取り上げて検討する。

A(免税事業者)と C(基準期間)の組み合わせ:免税事業者制度の有利性が大きくなる。すなわち、免税事業者制度における1千万円の上限金額を設けた趣旨が失われる。

B(簡易課税)と C(基準期間)の組み合わせ:簡易課税制度の有利性が大きくなる。すなわち、簡易課税制度において5千万円の上限金額を設けた趣旨が失われる。

A(免税事業者)と D(帳簿方式)の組み合わせ:免税事業者制度の有利性が大きくなる。供給者は免税であるにも関わらず、顧客には税額控除が認められる。

A(免税事業者)と C(基準期間)と D(帳簿方式)の組み合わせ:免税事業者制度の有利性が更に大きくなる。免税とされる取引金額に制限がなくなり、かつ、顧客には必ず税額控除が認められる。

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(2)-3 日本型回転木馬モデル

わが国の消費税法における帳簿方式や基準期間などの制度が税収を喪失させる潜在的なリスクを有するものであることは上述の通りであるが、そのリスクの大きさを示すために、循環的な取引モデルを用意してみたい。この循環的取引モデルは、欧州の付加価値税において深刻な問題となっている回転木馬逋脱(carousel fraud)の仕組みを参考としたものであり、その意味で日本型回転木馬と称したものである。ただし、これらのモデルは、あくまでも理念的なものであり、実際上は、様々な制約条件(例えば、消費税法36条)や租税回避防止措置(例えば、消費税法9条7項、12条の4、37条3項)が導入されている。したがって、これらのモデルがそのまま現実となるわけではない。ただし、現行制度の潜在的なリスクを理解するうえで参考になると考える。

(2)-3-1 日本型回転木馬その1(A と C と D を組み合わせたもの)

設例を用いて説明すると、次の通りである。設例として、税込みで110の価格の商品が事業者 A から事業者 B、事業者 B から事業者 C、事業

者 C から事業者 D を転売され、さらに、事業者 A に転売されるというものを取り上げる。それぞれ、供給者が免税事業者であり、顧客が課税事業者であれば、個々の取引で10の利益が発

生し、1回転すれば40の利益を得ることが可能となる。図解で示すと、図26の通りであり、納税のない税額控除は合計で40となる。

さらに、基準期間を利用することで、金額の上限はなくなる。こうした行為は、欧州では、犯罪(逋脱)となるが、わが国では合法である。

対価110 商品対価

110商品

納税0 税額控除 10 商品

納税0 納税0

税額控除 10 納税0 税額控除 10

事業者A 事業者 B

事業者D 事業者 C

対価 110

商品

対価 110

図26 日本型回転木馬(その1)

(2)-3-2 日本型回転木馬その2(B と C を組み合わせたもの)

簡易課税における架空の税額控除を中心とするものである。みなし仕入れ率を80%と仮定する。それぞれの事業者において、商品の購入時には本則課税とし、商品の販売時には簡易課税を適用する。図解で示すと、図27の通りである。

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図27 日本型回転木馬(その2) 納税 10

架空税額控除8 税額控除 10

架空税額控除8 税額控除 10 納税 10

納税 10 税額控除 10 架空税額控除8

税額控除 10 納税 10 架空税額控除8

事業者A 事業者 B

事業者D 事業者 C

商品

商品

対価 110

対価110

商品

対価 110

対価110 商品

一回の回転で、納税は合計で40であるが、税額控除は合計で72となる。さらに基準期間を利用すると、金額の上限はなくなる。

(4)小括

一般間接税の仕組みにおいて、税額控除は、間接税が経済に歪みを与えないためのひとつの工夫である。すなわち、事業者間(B2B)取引における納税と税額控除を通じた税の回転は、税収喪失のリスク創り出す。

しかしながら、わが国では、収支差額に対する税との考え方が一般化しているため、売上げに係る税から仕入れに係る税を控除するのは、売上に対応する仕入れを控除するとのアナロジーで捉えられている。このために、税収の喪失に対する危機感が薄弱である。

本章で取り上げた A から E までの5つの制度は、それぞれ、単独で見る限り一定の意味を持っているものの、それらが複合することで、国庫に重大な損失を与える可能性を有している。

5.おわりに

本稿は、一般間接税における税額控除の仕組みに関連した筆者の問題意識を記述したものである。本稿での議論を整理すると次の通りである。まず、第2章において、一般間接税の進化のなかで付加価値税が最もすぐれたメカニズムを有す

る理想の間接税として出現したこと、そのメカニズムの基本には前段階税額控除があること、しかし、これは、事業者間(B2B)取引において一見すると無駄な税の回転を伴うものであり、防御が弱いと、税収喪失のリスクが大きいものであることを論じた。

次いで、第3章では、わが国の消費税の導入から現在までの動向を検討した。導入から約30年が経過したが、収支差額に対する税との認識が一般化しており、税額控除のリスクへの認識が甘いというのが筆者の見解である。帳簿方式、基準期間、および課税売上割合(一括比例方式)がその典型例である。ところが、近年は税率の上昇もあり、制度上は合法であるが、納税者が不当な利益を

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得るスキームが目立つようになっている。そのため、租税回避防止の観点から対症療法的な手直しが行われていることを明らかにした。

最後に、第4章では、わが国の制度の問題点を検討し、潜在的に、個々の制度が如何なるリスクを有しているか、さらには、それらの制度が複合的に作用することで国庫の損失が如何に大きくなる可能性があるか、について分析を行った。

本稿の趣旨を繰り返すと次の通りである。わが国では、消費税が収支差額に対する税として認識されており、かつ、制度的にもそうした認識を助長するものとなっている72)。しかしながら、これは、付加価値税タイプの税における税額控除の本来の趣旨とは異なるものである。そして、このことが国庫に重大な損失を与える可能性がある。

なお、数年後にインボイス制度がわが国でも導入されることが予定されているが、これが実現すると状況はかなり改善されると考えられる。

複数税率の一種としての軽減税率とインボイス制度の導入は、消費税が個々の取引に対する税であるとの認識への変化を促すことが期待される。

本稿は筆者が一般間接税としての消費税について平素から考えていることの一部について論述を試みたものであるが、実力不足や思い込みから誤解も多々あると思われるので、諸賢の御批判を期待したい。

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72)このことは、消費税の税額控除について、これを売上げから仕入れを控除することに類似したものとの見方を生み出す。すなわち、売上げの税があれば、これに対応する仕入れの税があり、売上げの税から仕入れの税を控除するのは当然との考え方を生み出す。