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―  ― 247 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年) 本研究の目的は狐塚ら(2007)により提案された家族構造を構成する8因子を用いて作成された家 族構造を測定する尺度―ICHIGEKI―の妥当性を検討することであった。8因子とは「結びつき」「勢 力」「利害的関係」「開放性」「葛藤」「社会的興味」「統制力」「ルール」である。 調査対象者は大学生、大学院生及び専門学校生の男性40名・女性87名の計127名であり質問紙に よる調査を行った。質問紙は ICHIGEKI の他に、狐塚ら(2007)による包括的家族尺度と草田・岡堂 (1993)による日本語版 FACES―Ⅲが用いられた。まず、包括的家族尺度と FACES―Ⅲに対して 因 子 分 析 を 行 っ た 結 果、ほ ぼ 先 行 研 究 通 り の 因 子 が 抽 出 さ れ た。 そ の 後、そ れ ら の 因 子 と ICHIGEKI の因子間において相関分析を行った結果、ICHIGEKI と包括的家族尺度において対応し ているそれぞれの因子に関しては全て有意な正の相関を示していた。他の因子との関連については 一部で ICHIGEKI と包括的家族尺度との間に違いは窺えたものの、充分に ICHIGEKI の妥当性が 証明されたと言えるだろう。 キーワード:家族構造測定尺度 ICHIGEKI 包括的家族尺度 FACES―Ⅲ 妥当性検討 【問題・目的】 1. 家族尺度に関するこれまでの研究 現在、家族研究において家族の構造や機能を測定する尺度は数多く存在し、用いられている概念 も様々である。例えば、Olsonet al.(1979)の円環モデルに基づいた質問紙尺度 FACES(Family AdaptabilityandCohesionEvaluationScales)は凝集性(Cohesion)と適応性(Adaptability)の2要因 により家族の機能を測定している。FACES は日本においても数多くの研究で用いられており(例 えば、貞木,1992)、最も使用されている家族尺度と言えるのではないだろうか。また、西出(1993) が作成したFAI(FamilyAssessmentInventory)では「家族に対する評価」、「家族の凝集性」、「家 教育学研究科 博士課程後期 ** 教育学研究科 博士課程前期 *** 教育学研究科 准教授 家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討 野 口 修 司 *   狐 塚 貴 博 *   宇佐美 貴 章 **  若 島 孔 文 ***

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討...Adaptability and Cohesion Evaluation Scales)は凝集性(Cohesion)と適応性(Adaptability)の2要因

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

 本研究の目的は狐塚ら(2007)により提案された家族構造を構成する8因子を用いて作成された家

族構造を測定する尺度―ICHIGEKI―の妥当性を検討することであった。8因子とは「結びつき」「勢

力」「利害的関係」「開放性」「葛藤」「社会的興味」「統制力」「ルール」である。

 調査対象者は大学生、大学院生及び専門学校生の男性40名・女性87名の計127名であり質問紙に

よる調査を行った。質問紙は ICHIGEKI の他に、狐塚ら(2007)による包括的家族尺度と草田・岡堂

(1993)による日本語版 FACES―Ⅲが用いられた。まず、包括的家族尺度と FACES―Ⅲに対して

因子分析を行った結果、ほぼ先行研究通りの因子が抽出された。その後、それらの因子と

ICHIGEKI の因子間において相関分析を行った結果、ICHIGEKI と包括的家族尺度において対応し

ているそれぞれの因子に関しては全て有意な正の相関を示していた。他の因子との関連については

一部で ICHIGEKI と包括的家族尺度との間に違いは窺えたものの、充分に ICHIGEKI の妥当性が

証明されたと言えるだろう。

キーワード:家族構造測定尺度 ICHIGEKI 包括的家族尺度 FACES―Ⅲ 妥当性検討

【問題・目的】1. 家族尺度に関するこれまでの研究

 現在、家族研究において家族の構造や機能を測定する尺度は数多く存在し、用いられている概念

も様々である。例えば、Olson�et al.(1979)の円環モデルに基づいた質問紙尺度 FACES(Family�

Adaptability�and�Cohesion�Evaluation�Scales)は凝集性(Cohesion)と適応性(Adaptability)の2要因

により家族の機能を測定している。FACES は日本においても数多くの研究で用いられており(例

えば、貞木,1992)、最も使用されている家族尺度と言えるのではないだろうか。また、西出(1993)

が作成した FAI(Family�Assessment�Inventory)では「家族に対する評価」、「家族の凝集性」、「家

  *教育学研究科 博士課程後期 **教育学研究科 博士課程前期***教育学研究科 准教授

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

野 口 修 司*  

狐 塚 貴 博*  

宇佐美 貴 章** 

若 島 孔 文***

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家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

族組織の柔軟性・構成度」、「家族内の秩序・ルール」、「親密で自由な家族内交流」の5要因を挙げて

おり、Moos�et al.(1974)による FES(Family�Environment�Scale)では凝集性(Cohesion)、表出性

(Expressiveness)、葛 藤 性(Conflict)、独 立 性(Independence)、達 成 志 向 性(Achievement�

Orientation)、知 的 文 化 的 志 向 性(Intellectual-cultural�Orientation)、活 動 娯 楽 志 向 性(Active-

recreational�Orientation)、道徳宗教性(Moral-religious�Emphasis)、組織性(Organization)、統制性

(Control)の10要因を挙げている。これらの尺度は一例に過ぎないが、凝集性などそれぞれの尺度

に共通している要因もあれば、FES の道徳宗教性といったその尺度独自の要因も見られるなど様々

なことが分かる。では家族に関する研究、さらには家族に対するカウンセリングといった臨床活動

を行うにあたってどのような要因をいくつ想定することが家族を理解するために最もふさわしいの

であろうか。その答えを出すために筆者らは家族の構造を測定するための新たな尺度である

ICHIGEKI(Inventory�for�Charactor�of�Intra-Inter�Generation�in�Kinship)の作成を行うこととし

た。なお、ICHIGEKIという名称には家族関係をより効率的に(すなわち一撃で仕留めるかのように)

測定するという意味も含まれている。

2. ICHIGEKI の作成と意義

 ICHIGEKI を作成するにあたり、まず狐塚ら(2007)は前述の3つの尺度に加えて Epstein�et al.

(1983) の FAD Ⅲ(Family�Assessment�Device) や Steinhauer(1984) の FAM Ⅲ(The�Family�

Assessment�Measure)といった家族に関する主な11種の尺度から項目を選出して計246項目の質

問紙を作成、因子分析を行った。これにより現在用いられている家族関係尺度の中で特に強い関連

を持つ要因の検討を試みたのである。その結果、「結びつき」「勢力」「利害的関係」「開放性」の4因

子構造と、さらに「葛藤」「社会的興味」「統制力」「ルール」の4因子を加えた8因子構造の2パターン

が提案された。項目から解釈される各因子の概念は Table.1の通りである。

 狐塚ら(2007)の結果を踏まえた上で、ICHIGEKI ではこれらの要因を各家族成員間において1項

目ずつで測定することを試みる。家族に関する尺度に限らず、従来の質問紙では1つの因子を測定

するために複数の項目を組み合わせることが一般的となっている。しかしながら、1因子に複数の

Table. 1 狐塚ら(2007)による因子分析結果における各因子の概念

結 び つ き お互いの仲のよさや親密さ、連帯感

勢 力 決定力や影響力、発言力

利害的関係 お互いが自分に何か得られるものや興味がある時だけ関わり合う、といった利害状況における関係性

開 放 性 家庭に他の人が遊びに来たり夕食を共にする、といった家族以外の人との関わり

葛 藤 お互いの感情を傷つけあう、口論で不快な気持ちになる、といった相手との衝突の大きさや頻度

社会的興味 よく政治や社会問題、文学や芸術などについて話をする、といったより社会一般的な雑談の頻度

ル ー ル 家庭内における規則の多さや強さ

統 制 力 家庭で必要なものがあったときにすぐに見つけることができる、といった家庭内の状況の把握やコントロール

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

項目を用いなければならないという状況が家族の研究を困難にしているとも言えるだろう。例えば

上記の FES では10の要因を測定するために90項目により構成されている。これでは質問紙の回答

者に対する負担が大きくなってしまう上に、他の尺度との同時併用が制限されてしまう。一方、20

項目により構成されている FACES ならば2要因であるものの回答者の負担や他の尺度との併用に

ついてはかなり自由度があると言える。ところが FACES は家族全体を測定するという性質を持っ

ており、両親関係や親子関係といった家族成員間の関係性についてまでは測定できない。家族シス

テム理論をカウンセリング活動に用いている家族療法、とりわけ家族の構造に注目した Minuchin

(1974)の構造的家族療法では家族全体を1つのシステムと見ていく中で、さらに家族の中に存在す

る両親関係や親子関係などをサブシステムと見なし、それらの関わりに注目することで援助を行っ

ていく。これに関連する研究として、野口(2009)では父・母・子の三者間における結びつきの強さ

を測定してその程度により家族構造の分類を試みた。その結果、家族構造により子どもが親から受

ける特定の影響力に差が見られることを明らかにした。これはつまり、家族全体の測定のみではな

く家族内のサブシステムにも焦点を当てた検討がなされる必要があることを示すものであろう。し

かし、家族のサブシステムに焦点が当てられた研究は少ない。なぜならば仮に父・母・子の三者間

で測定を行うとしても、これまで家族全体を1度に測定していたものが父―母間、父―子間、母―子

間といったような形で3倍の項目が必要となるからである。

 このように、家族の構造や機能に関して「回答者に負担が少なく、家族のサブシステムにも注目

し、複数の要因から測定する」ことを可能にするためには1つの要因につき1項目で測定していくこ

とが必要となるのである。ちなみに家族研究では質問紙調査以外でも Gehring(1986)の FAST

(Family�System�Test)や亀口(2003)の FIT(Family�Image�Test)といったようなシンボル配置技

法という投影法に準じた手段が用いられることもある。これは人形やシールといった何らかのシン

ボルを家族成員と見立てて配置することにより、サブシステムを踏まえた家族の構造を測定する方

法である。シンボル配置技法は投影法に近い点や測定に道具が必要である点など量的な調査にはあ

まり向いていない欠点はあるものの、シンボル間の距離を結びつきの強さとして測定したり、シン

ボルの色や大きさを家族成員の影響力の強さとして測定するなど、1要因をそれぞれ1項目で測定

することが可能であることを示す前例であると言えるだろう。そして各項目を簡潔に測定すること

により、これまでの家族研究で多く行われてきたような「家族関係の中身を追及することが中心と

なる研究」ではなく、「より高次の家族システム自体の研究」を行うための道具として完成させるこ

とに ICHIGEKI の作成意義がある。

3. 本研究の目的

 以上を踏まえ、ICHIGEKI では狐塚ら(2007)によって示された因子に関して、家族のサブシステ

ムにおいて1項目ずつで測定していくという構成を取ることとする。しかしながら、1項目で測定

した因子が狐塚ら(2007)において抽出された因子を反映しているのかという妥当性については検

討される必要があるだろう。そこで本研究では作成された ICHIGEKI と狐塚ら(2007)において抽

―  ―250

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

出された質問項目、さらには日本において一般的に使用されている家族尺度である FACES を用い

てそれぞれの関連を分析することで、ICHIGEKI の妥当性を検討することを目的とする。

【方法】 質問紙による調査を用いた。調査対象者は関東・東北・北海道地方の大学生、大学院生及び専門

学校生。これらの世代を調査対象とした理由は狐塚ら(2007)における対象者が同様だったからで

ある。調査は2009年7月~ 8月にかけて実施された。男性40名(平均20.63歳)、女性87名(平均

19.62歳)の計127名(平均19.94歳)のデータを分析に使用した。質問紙の構成は①フェイスシート、

② ICHIGEKI(8因子 Ver)、③狐塚ら(2007)における家族尺度、④草田・岡堂(1993)における日本

語版 FACES―Ⅲにより構成された。次に各尺度の詳細について述べる。

・ICHIGEKI(8因子 Ver)

 これは「結びつき」「勢力」「利害的関係」「開放性」「葛藤」「社会的興味」「統制力」「ルール」の8因

子を狐塚ら(2007)における解釈を元に父―母・父―子・母―子の3つの二者関係の中で最小項目数

で測定できるように作成したものである。本研究では狐塚ら(2007)において提案された2つのパ

ターンのうち8因子のパターンを用いて調査するが、もう1つの4因子のパターンは全て8因子の中

に含まれているため分析では両パターンの検討が可能となる。まず「結びつき」「葛藤」「社会的興味」

については二者間における仲の良さや葛藤の多さ、社会的な事柄に関する会話の頻度として測定す

ることが最も適切であると考えられた。そこで、この3因子に関しては Figure.1のように測定を行っ

た。なお、本研究では調査対象者に子どもの立場から回答してもらったため、「子」にあたる箇所に

は「あなた」と表記した。これは以降の因子でも同様である。

 次に「勢力」と「利害的関係」については二者間において一方が他方に保持している影響力や利害

的な興味関心といった双方向での測定が必要であると考えられた。そこで、この2因子に関しては

Figure.2のように測定を行った。

あなた

母( )

( ) ( )

Figure.1 「結びつき」「葛藤」「社会的興味」因子の測定様式

―  ―251

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

 次に「開放性」と「統制力」については二者間といった他者との関係性によるものではなく個人が

保持している家族以外とのつながりや家族内におけるコントロールの程度として測定することが適

切であると考えられた。そこでこの2因子に関しては Figure.3のように測定を行った。

 最後に「ルール」については二者関係や個人といったものではなく家族成員全員の中で共通して

いる規則の数や程度として測定することが適切だと考えられた。そこでこの1因子に関しては�

(  )にそのまま得点を記入してもらう形で測定を行った。なお各項目はそれぞれ10件法により

測定された。それぞれの因子の詳しい教示文などについては Appendix にて掲載する。

・狐塚ら(2007)における家族尺度(包括的家族尺度)

 これは狐塚ら(2007)が ICHIGEKI に使用する要因を検討するために行った因子分析の結果とし

て示された項目を用いたものである。本来、狐塚ら(2007)では11の尺度を参考にした計246項目の

質問紙を用いて分析を行っていた。しかしながら、本研究にあたりそれらを全て実施することは回

答者の負担を考えても不適切であると判断したため、狐塚ら(2007)が行った因子分析の結果として

最終的に残された項目のみを用いることとした。なお、これ以降では ICHIGEKI との区別に混乱を

招かないように本尺度を便宜的に「包括的家族尺度」と表記する。先にも述べたように因子分析の

結果は8因子パターンと4因子パターンの2つが提案されていたが ICHIGEKI と同様の理由で8因

子パターンの項目を採用した。項目数は8因子合わせて49項目であった。測定は6件法で行われた。

あなた

母( )

( )

( ) ( )( )( )

Figure.2 「勢力」「利害的関係」因子の測定様式

父( )

あなた( )

 母 ( )

Figure.3 「開放性」「統制力」因子の測定様式

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家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

・日本語版 FACES―Ⅲ

 これは草田・岡堂(1993)において作成された日本語版の FACES―Ⅲである。家族凝集性と家族

適応性の2因子を測定する20項目からなる尺度である。FACES―Ⅲは狐塚ら(2007)が行った質問

紙においても参考にされており、一部は類似した項目が重複することも考えられたが FACES 単体

として測定を行い関連の検討をする必要があると考えられたため採用した。測定は6件法で行われ

た。

【結果】1. 包括的家族尺度及び FACES の因子分析

 ICHIGEKI の妥当性を検討するに当たり、始めに包括的家族尺度及び FACES に対して因子分析

を行った。まず包括的家族尺度に関して、天井効果・フロア効果の検討を行った後に主因子法・プ

ロマックス回転による検討を行った。その結果、「結びつき」因子に関して2項目が削除されたもの

の、それ以外の項目については狐塚ら(2007)と同様の8因子構造が示された。よって分析の結果表

については省略するものの、それぞれの因子を「包括・結びつき」因子(α= .98)、「包括・勢力」因

子(α= .90)、「包括・利害的関係」因子(α= .88)、「包括・開放性」因子(α= .79)、「包括・葛藤」

因子(α= .76)、「包括・社会的興味」因子(α= .80)、「包括・統制力」因子(α= .83)、「包括・ルール」

因子(α= .87)と名づけた。累積率は70.04%であった。

 次に FACES に関して、天井効果・フロア効果の検討を行った後に主因子法・プロマックス回転

による検討を行った。その結果、8項目が削除されたものの草田・岡堂(1993)とほぼ同様の2因子構

造が示された。よってこちらも同様に分析結果表は省略するものの、それぞれの因子を「凝集性」

因子(α= .75)と「適応性」因子(α= .83)と名づけた。累積率は46.26%であった。

2. 各尺度間の相関分析

 次に各尺度間の相関分析を行うために ICHIGEKI、包括的家族尺度、FACES の各因子得点を算

出した。ICHIGEKI は基本的に父・母・子の三者間での測定を行っているため、家族全体としての

得点を算出するために各因子の三者間における得点を合計し、その平均点を家族全体の因子得点と

した。以降は ICHIGEKI の各因子をそれぞれ「ICHIGEKI・結びつき」、「ICHIGEKI・勢力」、

「ICHIGEKI・利害的関係」、「ICHIGEKI・開放性」、「ICHIGEKI・葛藤」、「ICHIGEKI・社会的興味」、

Table.2 各因子の平均値及び標準偏差I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

平均値 6.78 5.66 4.42 5.38 4.17 4.91 5.91 4.42 4.14

標準偏差 1.89 1.33 2.33 2.33 1.72 1.96 1.71 2.30 1.03

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

平均値 4.19 3.96 2.52 3.02 3.78 3.57 3.24 2.97 3.71

標準偏差 1.06 1.19 1.03 1.34 1.07 1.19 1.19 1.11 0.87

I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

「ICHIGEKI・統制力」、「ICHIGEKI・ルール」と表記する。包括的家族尺度、FACES については各

因子の平均点を因子得点とした。各因子の平均点、標準偏差を Table.2に示す。

 次に各因子得点を対象に相関分析を行った。分析は ICHIGEKI 及び包括的家族尺度にそれぞれ

対応する「結びつき」「勢力」「利害的関係」「開放性」「葛藤」「社会的興味」「統制力」「ルール」の8因

子に注目して、各因子ごとに他の因子との関連を検討した。結果の量が膨大であるため記述による

詳細は省略して Table.3 ~ Table.10に示す。全体的な結果としては、ICHIGEKI 及び包括的家族尺

度の8因子それぞれの因子間において有意な正の相関が示された。しかし、他の因子との関連を検

討した際、「結びつき」の様に他の因子との関連についても ICHIGEKI 及び包括的家族尺度が同様

の有意を示していたものもあれば、「利害的関係」のように他の因子との関連については異なる結果

を示したものもあったと言える。また ICHIGEKI 因子に関して、他因子との間で最も多くの有意を

示していたのが「結びつき」であり(14因子 /17因子)、最も少ない有意を示していたのが「利害的関

係」であった(2因子 /17因子)。

Table.3 「結びつき」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・結びつき .39** –.12 .25** –.39** .45** .23** .15   .56**

包括・結びつき .70** .36** –.12 .32** –.43** .41** .25** .23** .76**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・結びつき .70** .27** –.54** .30** –.35** .28** .31** .12   .50**

包括・結びつき .34** –.61** .37** –.34** .38** .36** .16   .75**

** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

Table.4 「勢力」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・勢力 .39** � .03   .06   –.02 .39** .14** .43** .49**

包括・勢力 .27** .52** � .01   .28** � .01 .27** .23** .50** .63**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・勢力 .36** .52** –.18** –.01   � .04 .16** .05   .33** .17  

包括・勢力 .34** –.05   .13   � .10 .28** .20*  .51** .23**

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

Table.5 「利害的関係」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・利害的関係 –.12   � .03  –.04  .11   –.14   � .15 � .12 –.04  

包括・利害的関係 –.54** –.18* .24** –.13  .40** –.26** –.16 –.06 –.41**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・利害的関係 –.12** � .01  .24** � .03  .08   –.22*  � .07 � .04 –.03  

包括・利害的関係 –.61** –.05  –.22* .37** –.22*  –.12 � .04 –.39**

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

―  ―254

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

Table.6 「開放性」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・開放性 .25** � .06   –.04  –.12   � .30** .31** .07 .32**

包括・開放性 .30** –.01   � .03  .56** –.14   –.01   .26** .03 .32**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・開放性 .32** � .28** –.13  .56** –.17   � .14   .16   .00 .27**

包括・開放性 .37** � .13   –.22* –.23** � .06   .34** .05 .31**

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

Table.7 「葛藤」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・葛藤 –.39** –.02 .11   –.12   –.20* –.14   .00 –.15  

包括・葛藤 –.35** � .04 .08   –.17   .52** –.17  –.09   .04 –.05  

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・葛藤 –.43** � .01 .40** –.14   .52** –.12  –.12   .02 –.32**

包括・葛藤 –.34** � .10 .37** –.23** –.11  –.25** .13 –.22* 

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

Table.8 「社会的興味」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・社会的興味 .45** .39** –.14   � .30** –.20* .11 .32** .33**

包括・社会的興味 .28** .16   –.22*  � .14   –.12  .56** .03 .33** .36**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・社会的興味 .41** .27** –.26** –.01   –.17  .56** .08 .25** .36**

包括・社会的興味 .38** .28** –.22*  � .06   –.11  .13 .35** .37**

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

Table.9 「統制力」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:適応性

ICHIGEKI・統制力 .23** .14   � .15 .31** –.14   .11 .22*  .32**

包括・統制力 .31** .05   � .07 .16   –.12   .08 .45** .26** .37**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・統制力 .25** .23** –.16 .26** –.09   .03 .45** .09   .24**

包括・統制力 .36** .20*  –.12 .34** –.25** .13 .17   .38**

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

Table.10 「ルール」を基準とした相関分析結果I:結びつき I:勢力 I:利害的関係 I:開放性 I:葛藤 I:社会的興味 I:統制力 I:ルール F:凝集性

ICHIGEKI・ルール .15   .43** � .12 .07 .00** .32** .22** .37**

包括・ルール .12   .33** � .04 .00 .02** .25** .09   .80** .30**

包:結びつき 包:勢力 包:利害的関係 包:開放性 包:葛藤 包:社会的興味 包:統制力 包:ルール F:適応性

ICHIGEKI・ルール .23** .50** –.06 .03 .04** .33** .26** .80** .19* 

包括・ルール .16   .51** � .04 .05 .13** .35** .17   .15  

* p < .05,** p < .01I:ICHIGEKI  包:包括的家族尺度  F:FACES

―  ―255

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

【考察】 本研究では家族構造測定尺度 ICHIGEKI の妥当性を検討するために、狐塚ら(2007)における包

括的家族尺度や草田・岡堂(1993)の日本語版 FACES―Ⅲとの関連を検討した。まず包括的家族尺

度及び FACES―Ⅲに対して因子分析を行った結果、それぞれ先行研究と同様の結果が示された。

特に包括的家族尺度については49項目中2項目しか削除されなかったことや全ての因子において高

い内的整合性が確認されたことからも、高い信頼性を持っていることが示されたと言えるだろう。

その後、ICHIGEKI の各因子と包括的家族尺度、FACES 間において相関分析を行った。全体的な

結果として、ICHIGEKI の8因子は包括的家族尺度において対応するそれぞれの8因子との間に有

意な正の相関が示された。一方で他の因子との関連については ICHIGEKI と包括的家族尺度との

間で異なる結果が示された因子も見られた。以降はそれらの結果に関して、ICHIGEKI の各因子に

焦点を当てながら考察を行っていくこととする。

1. 「結びつき」因子

 まず「ICHIGEKI・結びつき」は「包括・結びつき」と .70という強い正の相関を示していた。また

他の因子との関連についても、「ICHIGEKI・結びつき」と「包括・結びつき」はほぼ同様の相関関係

を示していたと言える。以上のことからも、「ICHIGEKI・結びつき」は十分な妥当性を示したと言

えるだろう。この「結びつき」の大きな特徴としては多くの他要因との関連が示されたことである。

ICHIGEKI 内の因子に関しても「勢力」「開放性」「社会的興味」「統制力」の4つと有意な正の相関を

示し、「葛藤」と負の相関を示した。これはつまり、家族内の結びつきが強くなることによりお互い

が強く影響を与え合い、さらには家族以外とのつながりも強まる。そして結びつきが強いからこそ

社会問題といった幅広い内容に関する雑談も頻繁に行われ、家庭内の状況に対するコントロールも

強く働き、現在の状況を変化させようとする葛藤が起こりにくいということが示唆されるのである。

さらには FACES においても「凝集性」と「適応性」の両因子との間に同程度の関連が示されている。

以上のことからも「結びつき」が ICHIGEKI の中でも特に重要となるべき要因であり、家族構造の

理解において根本となる因子であることが窺える。

2. 「勢力」因子

 「ICHIGEKI・勢力」は「包括・勢力」と .52という正の相関を示していた。ICHIGEKI 内の他因子と

の関連については「結びつき」「社会的興味」「ルール」の3つと有意な正の相関を示しており、

FACES では「凝集性」のみと有意な正の相関を示していた。一方で「包括・勢力」は ICHIGEKI と

同様に「結びつき」「社会的興味」「ルール」の3つと有意な正の相関を示しつつ、さらに「開放性」や

「統制力」とも有意な正の相関を示すなど一部で異なる結果が示されている。この差異の要因として、

ICHIGEKI と包括的家族尺度の測定様式による影響が考えられる。まず包括的家族尺度において、

「包括・勢力」の測定は「私の家族には、発言力を持つ人がいる」「私の家族には、力を持つ人がいる」

といったような「家族内における影響者の有無」を問うような様式で行われていた。一方、

―  ―256

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

ICHIGEKI は家族三者間において「家族成員が他の成員に対して保持している影響力の程度」を問

うような様式で測定された。つまり、包括的家族尺度の場合は家族の中に1人でも影響力の強い人

物がいるだけで得点が高くなることが考えられる一方で、ICHIGEKI の場合は家族内でお互いに与

えている影響が強いほどに得点が高くなることが考えられる。このように、ICHIGEKI ではサブシ

ステムを考慮することによって包括的家族尺度よりも詳細な勢力関係が測定可能な一方で、測定内

容に若干の変化があったことは否めない。にもかかわらず、.52という正の相関を示したことを考

えると、十分に妥当性があると言えるのではないだろうか。また、勢力には家族関係に肯定的に作

用するものと否定的に作用するものがあるが、ICHIGEKI の「勢力」は「結びつき」と正の相関を示

している。野口・若島(2007)は相手に対する尊敬や専門性により基づく「参照―専門勢力」が家族

関係の肯定的なコミュニケーションを促し、相手からの報酬や罰則に基づく「賞―罰勢力」が家族関

係の拒否的なコミュニケーションを促すことを明らかにしている。これを踏まえると、ICHIGEKI

における勢力とは「賞―罰勢力」ではなく「参照―専門勢力」に基づいた勢力が測定されていると考

えることができるだろう。

3. 「利害的関係」因子

 「ICHIGEKI・利害的関係」は「包括・利害的関係」と .24という正の相関を示していた。また、

ICHIGEKI 内の他因子との関連については有意な相関は示されなかった。本研究において「利害的

関係」は ICHIGEKI と包括的家族尺度間で最も異なる結果が示された因子である。「包括・利害的関

係」は「結びつき」や「勢力」、「社会的興味」と有意な負の相関を示し、さらに「葛藤」と有意な正の相

関を示していた。これはつまり、利害的関係が家族関係の不和と関連していることを示唆すると言

えるだろう。狐塚ら(2007)においても同様の関連が示されていた。しかし「ICHIGEKI・利害的関係」

は家族関係の不和を示唆するものではない。この違いは「利害的関係」に対する解釈が関連してい

ると考えられる。包括的家族尺度における「利害的関係」の項目とは「私の家族は、家族のために何

か得られるものがある時だけお互いに興味を示す」や「私の家族は、家族に何か重要なことがある時

だけ家族に関心を示す」といった家族関係や自分自身の利害的状況における関係性を示すもので

あった。その際、狐塚ら(2007)は「利害的関係」の解釈において次のような注意点を挙げている。

利害的関係が強いということは「普段はあまり相手との関わりを多く持たないが、自分や相手に

とって利害のあること、重要なことが関係しているときには相手と関わりが強くなる」ことを示し

ている一方で、利害的関係が弱いということは「利害的状況の有無に関わらず、普段から相手との

関わりを充分に持っている」場合と「例え利害的な状況であったとしても相手との関わりを持たな

い」場合という2つの可能性が考えられるということである。この解釈に従えば、利害的関係の程

度が結びつきといった相手との関係性を予測できるものではないことが窺える。本研究では

「ICHIGEKI・利害的関係」を測定する際にはこの2つの可能性が想定できることを教示した上で測

定した。その結果として他の ICHIGEKI 因子とは関連が見られなかったのであれば、筆者らの想定

していた通りの測定が行えていると言えるだろう。加えて、そのような中でも「包括・利害的関係」

―  ―257

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

との間で .24という有意な正の相関が示されたことは「ICHIGEKI・利害的関係」の妥当性を実証で

きたと言えるのではないだろうか。

4. 「開放性」因子

 「ICHIGEKI・開放性」は「包括・開放性」と .56という正の相関を示していた。ICHIGEKI 内の他因

子との関連については「結びつき」「社会的興味」「統制力」の3つと有意な正の相関を示しており、

FACES では「凝集性」「適応性」共に有意な正の相関を示していた。「包括・開放性」も他の

ICHIGEKI 因子や FACES 因子との間にほぼ同様の関連を示していることから、妥当性に問題はな

いと言えるのではないだろうか。「包括的・開放性」は「家庭に他の人が遊びに来たり外食をともに

することはめったにない(逆転項目)」や「人々を家に招くのが好きである」という2項目により構成

されていた。ICHIGEKI ではサブシステムを考慮するに当たり、家族成員個人個人が持つ家族以外

の他者との関わりという様式で測定したが、これにより他者を家庭に招き入れると言ったような受

容的な開放性のみならず、自らが外のシステムに参加していくという積極的な開放性の意味合いも

加わったのではないだろうか。

5. 「葛藤」因子

 「ICHIGEKI・葛藤」は「包括・葛藤」と .52という正の相関を示していた。また他の因子との関連に

ついても、「ICHIGEKI・葛藤」と「包括・葛藤」はほぼ同様の相関関係を示していたと言える。以上

のことからも、「ICHIGEKI・葛藤」は充分な妥当性を示したと言えるだろう。FACES との関連に

ついて「葛藤」は「適応性」と負の相関を示したものの、「凝集性」とは有意な結果は示されなかった。

「適応性」には「私の家族では、問題の解決には子どもの意見も聞いている」や「私の家族では、問題

の性質に応じて、その取り組み方を変えている」といったような項目が含まれている。これは家族

内における葛藤解決に関する項目だと捉える事ができる。このように、FACES との関連からも「葛

藤」の妥当性が示唆できるのではないだろうか。

6. 「社会的興味」因子

 「ICHIGEKI・社会的興味」は「包括・社会的興味」と .56という正の相関を示していた。ICHIGEKI

内の他因子との関連については「結びつき」「勢力」「開放性」「ルール」の4つと有意な正の相関を示

しており、「葛藤」と負の相関を示していた。さらに FACES では「凝集性」「適応性」共に有意な正

の相関を示していた。以上のように、「社会的興味」は「結びつき」と同様に多くの他要因と相関関

係にあることが分かる。包括的家族尺度において「社会的興味」は「私の家族は、よく政治や社会問

題について話をする」と「私の家族は、めったに社会問題や文学・芸術について話し合うことはない

(逆転項目)」という2項目から構成されていた。これはつまり、家庭内における社会一般的な雑談の

頻度と捉える事ができるだろう。社会的な雑談の頻度という具体的なコミュニケーションについて

測定している点が ICHIGEKI における「社会的興味」の特徴であると言える。なお、ICHIGEKI に

―  ―258

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

おいては「社会的な雑談」という点に注目し、学校や仕事といった家族成員が強く関与していそうな

話題については含まないように教示した。

7. 「統制力」因子

 「ICHIGEKI・統制力」は「包括・統制力」と .45という正の相関を示していた。ICHIGEKI 内の他因

子との関連については「結びつき」「開放性」「ルール」の3つと有意な正の相関を示しており、

FACES では「凝集性」「適応性」共に有意な正の相関を示していた。「包括・統制力」も他の

ICHIGEKI 因子や FACES 因子との間にほぼ同様の関連を示しており、妥当性に問題はないと言え

るのではないだろうか。包括的家族尺度においては「統制力」は「私の家族は、それぞれの部屋をい

つもきちんとしている」や「私の家族は、家庭で必要な物があった時、それをすぐに見つけることが

できるよういつも整理整頓されている」という2項目により構成されていた。「統制力」の解釈につ

いて、狐塚ら(2007)は家庭の整理整頓を含めた家族内での秩序の維持や物事に対するコントロール

の可否が関連していることを示唆している。その点を踏まえ、ICHIGEKI において「統制力」を測

定する際には「家庭内の状況の把握やコントロール」という定義を行った上で、さらに学校や職場と

いった家庭外での統制力の高さは考慮しないという教示を加えた。そのような中でも「包括・統制

力」と高い関連を示したことは、解釈に誤りがなかったことを示唆するものであるだろう。

8. 「ルール」因子

 「ICHIGEKI・ルール」は「包括・ルール」と .80という高い正の相関を示していた。ICHIGEKI 内の

他因子との関連については「勢力」「社会的興味」「統制力」の3つと有意な正の相関を示しており、

FACES では「凝集性」「適応性」共に有意な正の相関を示していた。包括的家族尺度において「ルー

ル」は「私の家族には、はっきりとした決まりがある」や「私の家族には、決められた規則が多い」と

いった項目により構成されていた。これは家族内に共通しているルールの多さや強さを示すもので

あると解釈されたので、ICHIGEKI においても家族内におけるそれぞれの関係や個人に寄与するも

のではなく、家族全体としての「ルール」として測定された。それゆえに包括的家族尺度とほぼ同様

の様式で測定されていることや .80という非常に高い正の相関を示していることからも妥当性は充

分にあると判断できるだろう。

9.  ICHIGEKI の4因子構造パターンに関する考察

 ここまで ICHIGEKI の8因子に関するそれぞれの考察を行ってきた。ここからは狐塚ら(2007)

が提案した「4因子構造」と「8因子構造」の2パターンについて、「4因子構造」を中心に考察を行っ

ていく。先にも述べたように、複数の要因に関してサブシステムを考慮した上で最小限の項目で測

定することに ICHIGEKI の特徴があると言える。その意味で回答者に最も負担が少ないのが4因子

構造パターンとなるだろう。これにより、他の尺度と組み合わせる際の選択肢も大きく広がる。4

因子構造パターンは狐塚ら(2007)が因子分析を行う際に、因子負荷量や信頼性係数に関して8因子

―  ―259

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

構造パターンよりもさらに高い基準での分析を突き詰めていった結果として抽出されたものであ

る。4因子とは「結びつき」「勢力」「利害的関係」「開放性」のことであるが、まず家族関係の核とも

いうべき「結びつき」の重要性については先にも述べてきた。ICHIGEKI の他の因子の正確な解釈

は「結びつき」を基準にすることによってようやく可能になると言えるのかも知れない。例えば子

どもの「開放性」が高い場合、家族内の「結びつき」も強いのであれば、その「開放性」の高さは家族

システム外とのつながりとして肯定的に解釈することができる。しかし「開放性」が高くても家族

内の「結びつき」が弱かった場合、それは家族関係が悪いからこそ家に帰ってこずに他者と一緒にい

るという非行家族のような状態が解釈できてしまうのである。このように、「結びつき」によって他

の因子の意味合いが正に180度変わってしまうのである。

 次に「勢力」に関して、例えば Minuchin(1974)や Haley(1976)に代表されるように家族療法に

おける援助に際しても「勢力」という概念は重視されてきた。青年期の子どもを持つ家族に起こり

うる問題として不登校や引きこもり、または非行などが挙げられるが、それらを予防したり改善し

たりするには親が子どもに対してどれだけ影響力を持っているのかが重要となってくる。そして

ICHIGEKI では家族内において誰が誰に対してどの程度の勢力を保持しているのかという詳細な勢

力関係が測定可能である。以上のことからも、「結びつき」と同様に「勢力」も家族関係の把握に重

要な概念であると言えるだろう。

 次に「利害的関係」に関して、本研究の結果を踏まえた上で最も重要なこととして言えるのは、唯

一 ICHIGEKI の他要因との相関関係が示されなかった因子であるということだろう。つまり、他の

因子から「利害的関係」を予測することが不可能なため、ICHIGEKI を用いる際に家族における利

害的な関係を知るには「利害的関係」を測定する以外にないと言える。このことからも他の因子か

ら独立した存在としての「利害的関係」を測定することの重要性は窺えるだろう。

 最後に「開放性」に関して、「開放性」とは ICHIGEKI の因子内において唯一家族以外との関わり

について測定している因子である。狐塚ら(2007)においても述べられているが、家族療法の基礎と

なっているシステム理論に基づけば、システムの外からの影響を全く受け付けない閉鎖されたシス

テムとは異なり、システム外の影響を受け入れながら環境に合わせてシステムを変化させていく開

放的なシステムこそが人間を含めた生物システムの特徴と言える。そのような意味で、家族成員そ

れぞれが家族以外とのつながりをどのくらい持っているのかという「開放性」を測定することは重

要と言える。

 以上のことからも、ICHIGEKI4因子構造パターンは因子分析の負荷量や信頼性係数といった統

計上の結果のみならず、各因子の概念が持つ論理的特徴から考察しても家族構造を最小限に測定す

るために用いる因子として妥当であるのではないだろうか。そして、より家族構造を詳細に知りた

い場合には8因子構造に広げて測定することが有用となる。このように、研究内容や状況に応じて

4因子構造と8因子構造のどちらかのパターンを選択できる点もまた ICHIGEKI の有用性へとつな

がるだろう。

―  ―260

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

10.今後の課題

 本研究では家族構造を測定するための新しい尺度である ICHIGEKI の妥当性について検討し、分

析の結果として概ね妥当性が確認されたと言える。今後は実際に ICHIGEKI を用いた調査を数多

く行っていくことによってさらに精査されていく必要があるだろう。また ICHIGEKI 作成の経緯

としても述べた通り、「より高次の家族システム自体の研究」を行うための道具として用いることに

ICHIGEKI の作成意義がある。今後は ICHIGEKI という道具を使ってどのように分析をしていく

のかという分析方法についても工夫していくことが重要となってくるだろう。

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亀口憲治(監)�2003 FIT(家族イメージ法)マニュアル システムパプリカ

草田寿子・岡堂哲雄 1993 家族関係査定法 岡堂哲雄(編) 心理検査学―臨床心理査定の基本― 垣内出版,

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西出隆紀 1993 家族アセスメントインベントリーの作成 家族心理学研究,7(1),53-65.

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Psychiatry,�29,�98-111.

―  ―261

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

Appendix

 下記の図は「父・母・あなた」の三者関係を示しています。ここでの二者間(父―母、父―あなた、

母―あなた)はそれぞれの関係における「 結びつき(お互いの仲のよさや親密さ、連帯感)」を表し

ています。

 あなたから見て「お互いの結びつきが非常に弱い」を1として「お互いの結びつきが非常に強い」

を10とすると、二者間におけるそれぞれの「結びつき」が1 ~ 10のどれにあてはまるかを(  )の

中に記入してください。

 下記の図は「父・母・あなた」の三者関係を示しています。ここでの二者間(父―母、父―あなた、

母―あなた)はそれぞれの関係における「 葛藤(お互いの感情を傷つけあう、口論で不快な気持ち

になる、といった相手との衝突)」を表しています。

 あなたから見て「お互いの葛藤が非常に弱い、あるいは非常に少ない」を1として「お互いの葛藤

が非常に強い、あるいは非常に多い」を10とすると、二者間におけるそれぞれの「葛藤」が1 ~ 10の

どれにあてはまるかを(  )の中に記入してください。

あなた

母( )

( ) ( )

Appendix.1 ICHIGEKI「結びつき」

あなた

母( )

( ) ( )

Appendix.2 ICHIGEKI「葛藤」

―  ―262

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

 下記の図は「父・母・あなた」の三者関係を示しています。ここでの二者間(父―母、父―あなた、

母―あなた)はそれぞれの関係における「 社会的興味(よく政治や社会問題、文学や芸術などにつ

いて話をする、といったより社会一般的な雑談の頻度)」を表しています。その際、学校や仕事の話

などといった自分や相手にとって関与の高い話題は含みません。

 あなたから見て「お互いの社会的興味に関する会話が非常に少ない」を1として「お互いの社会的

興味に関する会話が非常に多い」を10とすると、二者間におけるそれぞれの「社会的興味」が1 ~ 10

のどれにあてはまるかを(  )の中に記入してください。

 下記の図は「父・母・あなた」の三者関係を示しています。ここでの二者間(父―母、父―あなた、

母―あなた)はそれぞれの関係における「 勢力(決定力や影響力、発言力)」を表しています。

 あなたから見て「→の向いた相手に対する勢力が非常に弱い」を1として「→の向いた相手に対す

る勢力が非常に強い」を10とすると、二者間におけるそれぞれの「勢力」が1 ~ 10のどれにあてはま

るかを(  )の中に記入してください。

あなた

母( )

( ) ( )

Appendix.3 ICHIGEKI「社会的興味」

あなた

母( )

( )

( ) ( )( )( )

Appendix.4 ICHIGEKI「勢力」

―  ―263

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

 下記の図は「父・母・あなた」の三者関係を示しています。ここでの二者間(父―母、父―あなた、

母―あなた)はそれぞれの関係における「 利害的関係(お互いが自分に何か得られるものや興味が

ある時だけ関わり合う、または家族に何か重要なことがある時だけお互いが興味関心を示す)」を表

しています。

 あなたから見て「自分や家族にとって『利益や事柄の重要さに関わらず』→の向いた相手との関

わりに興味を持つ、もしくは『利益や事柄の重要さに関わらず』相手との関わりに興味を持たない

といった利害的な関係性が非常に弱い」を1として「自分や家族にとって、『利益があるときや事柄

が重要なときにだけ』→の向いた相手との関わりに興味を持つといった利害的な関係性が非常に強

い」を10とすると、二者間におけるそれぞれの「利害的関係」の程度が1 ~ 10のどれにあてはまるか

を(  )の中に記入してください。

 下記の( )は「あなた・父・母」それぞれの「 開放性(家庭に他の人が遊びに来たり夕食を共に

する、家族以外の人を家に招くことを好む、といった家族以外の人との関わりなど)」を表していま

す。

 あなたから見て「開放性が非常に低い(閉鎖的)」を1として「開放性が非常に高い(開放的)」を10

とすると、それぞれの人物の「開放性」が1 ~ 10のどれにあてはまるかを( )の中に記入してくだ

さい。

あなた

母( )

( )

( ) ( )( )( )

Appendix.5 ICHIGEKI「利害的関係」

父( )

あなた( )

 母 ( )

Appendix.6 ICHIGEKI「開放性」

―  ―264

家族構造測定尺度―ICHIGEKI―の作成と妥当性の検討

 下記の(  )は「あなた・父・母」それぞれの「 統制力(自分の部屋を整理整頓している、家庭

で必要なものがあったときにすぐに見つけることができる、といった家庭内の状況の把握やコント

ロール)」を表しています。その際、学校や職場といった家庭外での統制力の高さは含みません。

 あなたから見て「統制力が非常に低い」を1として「統制力が非常に高い」を10とすると、それぞ

れの人物の「統制力」が1 ~ 10のどれにあてはまるかを(  )の中に記入してください。

 あなたの家族における「 ルール(私の家族にはハッキリとした決まりがある、決められた規則

が多い)」に関して「家庭内におけるルールが非常に弱い、あるいは非常に少ない」を1として「家庭

内におけるルールが非常に強い、あるいは非常に多い」を10とすると、1 ~ 10のどれにあてはまる

かを(  )の中に記入してください。

父( )

あなた( )

 母 ( )

Appendix.7 ICHIGEKI「統制力」

(  )Appendix.8 ICHIGEKI「ルール」

―  ―265

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

� The�purpose�of�current�study�was� to�examine� the�validity�of� ICHIGEKI.� ICHIGEKI�was�

developed� from�Comprehensive�Family�Scale� (Kozuka,�2007).� ICHIGEKI�was�a� family�structure�

scale�which�measures�a�family�from�8�different�aspects:�1)�cohesion�2)�power�3)�interested�relation�

4)�openness�5)�conflict�6)�social�interest�7)�control�8)�rule.

� This�questionnaire�research�was�conducted�with�127�participants�(40�men�and�87�women).�A�

questionnaire�package�included�3�scales;�ICHIGEKI,�Comprehensive�Family�Scale�and�Japanese-

translated�FACES�- Ⅲ� (Kusada�&�Okado,�1993).�Results�replicated� the�previous�research� for�

extraction�factors�of�FACES�- Ⅲ�and�Comprehensive�Family�Scale.�Correlation�analyses�showed�

that� ICHIGEKI�and�Comprehensive�Family�Scale�were�positively� correlated� for� all� of� each�

corresponding�factor.�This�study�suggests�the�validity�of�ICHIGEKI�is�proven.

Key�Words:�family�structure�scale,� ICHIGEKI,�comprehensive� family�scale,�Japanese-translated�

FACES�-Ⅲ,�examination�of�validity.

Development�and�Examination�of�Validity�

for�a�New�Family�Structure�Assessment�Scale�“ICHIGEKI”

Shuji�NOGUCHI(Graduate�Student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)

Takahiro�KOZUKA(Graduate�Student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)

Takaaki�USAMI(Graduate�Student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)

Koubun�WAKASHIMA(Associate�Professor,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)