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会計制度委員会報告第1号 セグメント情報の開示に関する会計手法 平成7年4月1日 日本公認会計士協会 はじめに 昭和63年9月20日付けをもって、「有価証券の募集又は売出しの届出等に関する省 令」(昭和48年1月30日大蔵省令第5号)の一部改正(同改正により省令の名称を「企 業内容等の開示に関する省令」と変更)が行われ、平成2年4月1日以後開始する事業年 度から、連結会社に関する「事業の種類別の売上高及び営業損益、所在地別の売上高及び 営業損益並びに海外売上高」を開示することになったが、平成5年3月3日付けの「企業 内容等の開示に関する省令等の一部を改正する省令」(平成5年大蔵省令第23号、以下 「改正省令」という。)により、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 (昭和51年10月30日大蔵省令第28号、以下「連結財務諸表規則」という。)に第 15条の2が設けられ、連結財務諸表において新たに資産、減価償却費及び資本的支出(以 下「資産等」という。)の開示並びに所在地別セグメント情報及び海外売上高については 国又は地域ごとの開示が義務付けられた。 開示に際しての重要性基準及び開示要領については、連結財務諸表規則取扱要領第39 の3(平成7年3月31日改正)に示されている。また、セグメント情報の開示は、段階 的に行うことが認められており、経過措置が改正省令の附則11から14に示されている。 本報告は、セグメント情報に関するセグメンテーションの方法、営業費用の配分方法、 資産等の配分方法等の会計手法について一般的ルールを示したものであるので、セグメン ト情報の開示に当たっては、本報告を基礎として、それぞれの事業の実態を適切に反映で きるように配慮する必要がある。 なお、本報告は、平成元年11月7日に中間報告として公表したものを、平成5年3月 3日付けの改正省令の公布による連結財務諸表規則の一部改正を踏まえ、全体としての構 成を見直した上、改訂したものである。 Ⅰ 事業の種類別セグメント情報 1 セグメンテーションの方法 事業の種類別セグメント情報として開示する情報は、製品系列別の情報であり、製品系 列別とは、製品(商品又は役務を含む。以下同じ。)の種類・性質、製造方法、販売市場 等の類似性に基づく同種・同系列の製品グループの別を意味する。 (1)開示の対象とすべきセグメントの決定手順 開示の対象とすべきセグメントの決定は、次の手順で行われる。 ①製品の識別 企業が収益を得ている個々の製品を識別する。 ②製品の系列化による事業区分の決定 ①により識別した製品を製品系列ごとに集約することにより、事業区分を決定する。 ③開示対象セグメントの決定

会計制度委員会報告第1号 - JICPA会計制度委員会報告第1号 セグメント情報の開示に関する会計手法 平成7年4月1日 日本公認会計士協会 はじめに

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Page 1: 会計制度委員会報告第1号 - JICPA会計制度委員会報告第1号 セグメント情報の開示に関する会計手法 平成7年4月1日 日本公認会計士協会 はじめに

会計制度委員会報告第1号

セグメント情報の開示に関する会計手法

平成7年4月1日

日本公認会計士協会

はじめに

昭和63年9月20日付けをもって、「有価証券の募集又は売出しの届出等に関する省

令」(昭和48年1月30日大蔵省令第5号)の一部改正(同改正により省令の名称を「企

業内容等の開示に関する省令」と変更)が行われ、平成2年4月1日以後開始する事業年

度から、連結会社に関する「事業の種類別の売上高及び営業損益、所在地別の売上高及び

営業損益並びに海外売上高」を開示することになったが、平成5年3月3日付けの「企業

内容等の開示に関する省令等の一部を改正する省令」(平成5年大蔵省令第23号、以下

「改正省令」という。)により、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」

(昭和51年10月30日大蔵省令第28号、以下「連結財務諸表規則」という。)に第

15条の2が設けられ、連結財務諸表において新たに資産、減価償却費及び資本的支出(以

下「資産等」という。)の開示並びに所在地別セグメント情報及び海外売上高については

国又は地域ごとの開示が義務付けられた。

開示に際しての重要性基準及び開示要領については、連結財務諸表規則取扱要領第39

の3(平成7年3月31日改正)に示されている。また、セグメント情報の開示は、段階

的に行うことが認められており、経過措置が改正省令の附則11から14に示されている。

本報告は、セグメント情報に関するセグメンテーションの方法、営業費用の配分方法、

資産等の配分方法等の会計手法について一般的ルールを示したものであるので、セグメン

ト情報の開示に当たっては、本報告を基礎として、それぞれの事業の実態を適切に反映で

きるように配慮する必要がある。

なお、本報告は、平成元年11月7日に中間報告として公表したものを、平成5年3月

3日付けの改正省令の公布による連結財務諸表規則の一部改正を踏まえ、全体としての構

成を見直した上、改訂したものである。

Ⅰ 事業の種類別セグメント情報

1 セグメンテーションの方法

事業の種類別セグメント情報として開示する情報は、製品系列別の情報であり、製品系

列別とは、製品(商品又は役務を含む。以下同じ。)の種類・性質、製造方法、販売市場

等の類似性に基づく同種・同系列の製品グループの別を意味する。

(1)開示の対象とすべきセグメントの決定手順

開示の対象とすべきセグメントの決定は、次の手順で行われる。

①製品の識別

企業が収益を得ている個々の製品を識別する。

②製品の系列化による事業区分の決定

①により識別した製品を製品系列ごとに集約することにより、事業区分を決定する。

③開示対象セグメントの決定

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これらの事業区分のうち重要性あるものを選定し、開示の対象とすべきセグメントを決

定する。

(2)製品の系列化による事業区分の決定

①基本的な考え方

各企業が行う事業活動は多種多様であり、その実態は経営者により的確に把握されてい

る。したがって、事業区分の決定は、基本的には経営者の判断に委ねられるが、その決定

に当たっては、経営の多角化の実態を適切に反映した情報が開示されるように配慮しなけ

ればならない。

経営者がどのような判断により事業区分を行ったのか、また、開示対象セグメントはい

かなる内容のものかを明らかにするため、事業区分の方法及び各区分に属する主要な製品

の名称又は事業の内容等を開示する必要がある。

また、単に製造業、卸売業、小売業というような幅広い分類は、事業区分としては不十

分である。したがって、これらを事業区分の名称として使用する際には、製品系列等の名

称を冠し、事業内容が明らかになるようにしなければならない。

②事業区分の決定に当たって考慮すべき要素

製品系列によって製品をグループ化し、事業区分を決定するに当たって考慮すべき要素

は種々あるが、すべての企業に普遍的に適用できるものはない。

事業区分の決定に当たっては、それぞれの製品が持つ収益性、成長性及び危険性の異同

について考慮することが必要であり、このために、通常、考慮すべき要素としては次のも

のがある。

ア 使用目的の類似性

使用目的に類似性がある製品は関連がある可能性がある。

イ 製造方法・製造過程の類似性

共通の生産設備又は同じ労働力や用益を使用して生産される製品、同一又は類似の原材

料を使用して生産される製品等は関連がある可能性がある。

ウ 市場及び販売方法の類似性

顧客の種類又は販売方法等に類似性がある場合には、それぞれの製品は関連がある可能

性がある。例えば、共通の販売部員を使用している場合等がこれに当たる。また、物価変

動や一般経済情勢の変化に対してある種の製品の市場が受ける感応性が類似している場合

には、それらの製品は関連がある可能性がある。

以上のように、使用目的、製造方法・製造過程、又は市場及び販売方法が類似している

ために相互に関連がある製品は、同じような収益性、成長性及び危険性を持っている可能

性があるので、事業区分の決定に当たっては、これらの諸要素に基づき、製品に互い関連

があるか、したがって同一の製品系列(事業区分)に属するものとしてグループ化するか、

又は、製品に互いに関連がないか、したがって2つ以上の製品系列(事業区分)に分かれ

るものとして区分するかについて考慮する必要がある。

ただし、これらにより製品をグループ化した場合であっても、企業の諸活動間に密接な

関係があるため、それぞれのグループをそれぞれ別個の事業区分として報告することが誤

解を招くおそれがある場合には、企業の実態に応ずるように製品グループを集約する必要

がある。

③事業区分の一般的な方法

事業区分の一般的な方法としては、例えば次のものがある。

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ア 利益センター(注1)の利用

多くの企業では、利益管理目的等のために事業部、部門、製品グループ等の利益センタ

ーを設け、損益情報を収集している。事業区分の決定に当たっては、内部管理上設定した

利益センターが利用可能であるか否かをまず判断しなければならない。利益センターはそ

の企業の事業区分を決定するための出発点となることが多い。

利益センターが複数の製品系列にまたがっている場合には、その利益センターを分割し

なければならない。例えば、企業が2つ以上の製品系列で営業を行っているにもかかわら

ず、これに対応する利益センターを設けずに単に全社ベースの利益センターしか設けてい

ない場合には、これを製品系列によって分割することが必要になる。

また、複数の利益センターが同一の製品系列に属する場合には、それらの利益センター

を集約し1つの事業区分として取り扱うことになる。

(注1)ここでいう「利益センター」とは、企業の構成部分で、主として外部に販売され

る製品等に関して、企業の内部的な利益管理目的等のために収益や費用の情報が収集され

る企業活動の単位である。利益センターは、しばしば個々の製品であったり、又は関連す

る製品のグループであったりする。

イ 日本標準産業分類(注2)の利用

事業活動を分類するための基準の1つに日本標準産業分類がある。日本標準産業分類は、

必ずしも経営の多角化又は事業活動のソフト化・サービス化等の変化に即応した基準では

ないので、これを画一的、機械的に適用して事業区分を行うと、業種業態によっては、経

営の多角化の実態を適切に反映した情報の開示が行われ難い場合がある。したがって、日

本標準産業分類を事業区分の基準としてすべての企業にそのまま利用することは適当でな

い。

しかし、業種業態によっては、日本標準産業分類を事業区分の基準として適宜利用する

ことにより、経営の多角化の実態が適切に開示される場合がある。このような場合には、

事業区分の基準としてこれを利用することができる。

(注2)日本標準産業分類(平成5年10月改訂)は、統計調査を行う際の産業の範囲を

確定する等のための基準であり、大分類(全産業を農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製

造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業、飲食店、金融・保険

業、不動産業、サービス業等の14種類に分類したもの)、中分類(全産業を99種類に

分類したもの)及び小分類(全産業を463種類に分類したもの)から構成されている。

ウ 企業が現に採用している売上集計区分等の利用

有価証券報告書の「事業の概況」、「営業の状況」又は「企業集団等の状況」などにお

いて、製品系列別等による事業区分や販売実績が記載されている場合がある。これらの集

計区分等は、すべての場合にそのまま事業区分の基準として利用できるものではないが、

そのような区分が企業経営の多角化の実態を適切に反映できるような場合には、これを事

業区分の基準とすることができる。

2 営業費用の配分

セグメント情報における営業損益は、売上高(役務収益を含む。以下同じ。)から営業

費用を控除したものである。

営業費用には、各セグメントに直課できるものと直課できないものとがある。

(1)直課できる営業費用

各セグメントに直課できる営業費用には、売上原価(役務収益原価を含む。以下同じ。)

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及び販売直接費等(例:特定の製品の売上に係るロイヤルティ、販売手数料、販売員給料、

運賃等)がある。

これらの費用は各セグメントごとに直接把握される。

(2)直課できない営業費用

直課できない営業費用は、各セグメントに共通する費用であって、販売間接費及び一般

管理費から構成される。

これらの費用は、それぞれの費用の性質に応じ各企業の実情に即した合理的な配賦基準

に基づき、個々の費用ごとに又はその性質に応じて集約したグループごとに各セグメント

に配賦される。

これらの費用の一部を各セグメントに配賦しなかった場合には、これを配賦不能営業費

用とし、その金額及び主な内容については注記で明らかにする必要がある。

3 資産、減価償却費及び資本的支出の配分

(1)配分可能資産の識別

セグメント別に資産を開示することは、セグメント別営業成績を生み出すために使用さ

れた資源を明らかにするために有用である。連結財務諸表に記載されている資産には、各

セグメントに配分可能な資産と配分不能又は特定のセグメントに配分することが適当でな

い資産が考えられるので、セグメントヘの配分可能性の観点から資産を識別しなければな

らない。セグメントヘの配分可能性は、特定のセグメントヘの貢献度及び勘定科目の性格

から検討することになるが、最終的には経営者の合理的判断により決定することになる。

資産の配分に関しては、有形、無形、流動、固定を問わず、すべての資産が識別の対象

となり、貸倒引当金等の評価性引当金も関連資産に対応して配分される。

(2)資産のセグメントへの配分

①固有の資産

セグメント固有の資産として識別可能なものは、当該セグメントに配分することになる

が、固有の資産は更に専用資産と共用資産に分けることができる。

専用資産は、特定のセグメントのみに使用され、又は帰属する資産であるため、当該セ

グメントに直接配分される。

共用資産は、複数のセグメントに共通して使用される資産であるため、合理的な基準で

関係する各セグメントに配賦することになる。合理的配賦基準を決定するに当たり考慮す

べき事項を例示すると次のようになる。

a 利用面積

b 人員数

c 取扱量(金額)又は生産量(金額)

②全社資産

セグメントに係わりのない資産が識別された場合は、セグメントヘの配分は行わず、全

社資産とし、その金額及び主な内容については、注記で明らかにしなければならない。

(3)減価償却費及び資本的支出

セグメント別に減価償却費及び資本的支出を開示することは、セグメント別営業成績と

設備投資の状況との関連性を明らかにするために有用である。減価償却費及び資本的支出

の各セグメントヘの配分は、通常、セグメントヘの資産配分を確定させることにより決ま

る。

資本的支出とは、連結財務諸表上の当期における増加額をいい、その範囲は、有形固定

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資産及び無形固定資産と考えられるが、償却費が営業費用に含まれる長期前払費用又は繰

延資産についてもその範囲に含めることができる。その場合には、その旨を明らかにする。

なお、長期前払費用又は繰延資産を資本的支出の中に含めた場合は、その償却額は減価償

却費に含めて開示することになる。

4 セグメンテーションの方法等の継続性

事業区分の方法、営業費用の各セグメントへの配分方法及び資産等の各セグメントへの

配分方法等(この項で「セグメンテーションの方法等」という。)は、各期間を通して継

続的に適用し、みだりにこれを変更してはならない。

正当な理由によりセグメンテーションの方法等を変更した場合は、その旨、変更の理由

及び当該変更がセグメント情報に与えている影響を注記しなければならない。

なお、セグメント情報に与える影響が軽微なものは、この注記を行わないことができる。

Ⅱ 所在地別セグメント情報

1 セグメンテーションの方法

所在地別セグメント情報は、連結会社の所在する国又は地域(当該国又は地域が本邦以

外の場合には、一つの地域として扱うことが適当と認められる国又は地域の集団を含む。)

ごとに開示することになる。

在外支店については、本支店を合計した連結会社単位で所在地別セグメント情報を開示

することが考えられるが、当該在外支店の重要性が高い場合は、支店の所在する国又は地

域ごとに区分して開示することとする。

所在地別セグメント情報の開示に際しては、各企業グループの置かれている状況の多様

性から、国別にするか地域別にするかの決定は経営者の合理的判断によることになるが、

その決定に際しては、国又は地域ごとの事業活動がより適切に表し得るよう配慮すること

が重要であり、地理的近接度、経済活動の類似性、事業活動の相互関連性等が判断基準と

なる。

なお、所在地別セグメント情報における国又は地域は販売元を基準に考えることになる。

また、セグメンテーションの方法については、各期間を通じて継続的に適用し、みだり

にこれを変更してはならない。正当な理由によりセグメンテーションの方法を変更した場

合は、Ⅰ.4に準じて注記を行うこととする。営業費用及び資産の配分方法を変更した場

合も同様に取り扱うこととする。

2 営業費用の配分

所在地別セグメント情報における国又は地域への営業費用の配分は、Ⅰ.2に準じて行

う。

営業費用の中で特定の国又は地域に配賦しなかったものがある場合は、これを配賦不能

営業費用とし、その金額及び主な内容を注記で明らかにする必要がある。

3 資産の配分

所在地別セグメント情報における資産の配分は、国又は地域とそこでの事業活動の関係

から配分可能性を検討することになるが、必ずしも名目的な所在だけで特定の国又は地域

との係わりを決められない場合もあるので、実体としての事業活動の地域性がより明らか

になるように考慮する必要がある。資産配分の最終的決定は、事業の種類別セグメント情

報と同様に経営者の合理的判断により行われることになる。

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資産のセグメントヘの配分については、Ⅰ.3.(2)に準じて行うこととする。

在外支店の有する資産については、「1.セグメンテーションの方法」に準じて取り扱

うものとする。

Ⅲ 海外売上高

海外売上高は、国又は地域ごとに開示することになる。開示する国又は地域の決定は、

Ⅱ.1の所在地別セグメント情報の考え方に準じて行うこととする。

なお、海外売上高における国又は地域は、販売先(市場)を基準に考えることになり、

所在地別セグメント情報の考え方(販売元)と異なるので留意が必要である。

セグメンテーションの方法については、各期間を通して継続的に適用し、みだりにこれ

を変更してはならない。正当な理由によりセグメンテーションの方法を変更した場合は、

Ⅰ.4に準じて注記を行うこととする。

また、海外売上高情報の利用価値を高めるため、連結売上高に占める海外売上高の割合

を、国又は地域ごとに表示する。

解 説

はじめに

本解説では、「セグメント情報の開示に関する会計手法」(以下「本報告」という。)

の理解に資するための解説を行うとともに、設例によりセグメント情報の作成過程を例示

し、実務の参考に供することにする。

なお、解説の中に述べられている事項及び説明のために掲げられている設例等は、単に

本報告を説明するためのものであって、実務を拘束するものでないことに留意する必要が

ある。

また、本報告は、セグメント情報開示の実施状況に応じて必要ある場合は見直すことも

ある。

本報告の性格

本報告は、セグメント情報の開示に関する会計手法として、セグメンテーションの方法、

営業費用の配分方法並びに資産等の配分方法について一般的ルールを定めているが、この

うち、セグメンテーションの方法の検討については、次の2とおりのアプローチが考えら

れた。

その1つは、業種別に作成する方法であり、この場合、その内容は極めて詳細なものと

なる。他の1つは、全般的・包括的なものとして作成する方法であって、この場合は、基

本的な考え方を示し、その運用は実務の判断に委ねることになる。

本委員会は、まず、業種別に作成する方法の適否を判断するために、有価証券報告書に

記載されている部門別生産実績及び販売実績等の区分の程度、旧連結情報の「企業集団の

状況に関する重要な事実」の記載状況、日本標準産業分類等を参照しつつ検討を行った。

その結果、業種別に作成する方法は必ずしも適当でなく、実務上の指針となる一般的ルー

ルとしては、下記の理由から、むしろ全般的・包括的なものとして基本的な考え方を示し、

その運用については実務の判断に委ねることが適当であると判断された。

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①セグメント情報の目的は、経営の多角化の状況を適切に開示することにあるが、その状

況を最もよく把握しているのは経営者であり、セグメンテーションは経営者の判断によっ

て行う必要があること。

②セグメンテーションに当たっては、多角化したそれぞれの事業が将来どのように展開す

るかという経営者の予測を反映できるようにしておく必要があること。

③同業種の企業であっても、多角化の状況はそれぞれ異なっており、仮に業種別にセグメ

ンテーションの基準を作成しても、すべての企業にこれを適用することは困難であること。

なお、セグメント情報開示の先進国ともいえる米国においても、セグメンテーションの

方法については、これを全般的・包括的に規定する方法が採用されている。すなわち、開

示すべきセグメント情報の基準については、数値による基準が示されてはいるものの、セ

グメントの決定については、いくつかの抽象的な考え方が示されているのみで、最終的に

は経営者の合理的な判断に委ねられている。

次に、営業費用の配分方法については共通費の配賦基準が検討の対象となったが、その

配賦基準は、製造原価計算における部門共通費の配賦と同様であり、業種別について、特

に考慮を必要とする事項はないものと判断された。

また、資産等の配分についても同様に業種別の特別な考慮は必要ないものと判断された。

以上のようなことから、本報告は、セグメント情報の開示に関する会計手法を全般的・

包括的に規定するものとなっている。

Ⅰ 事業の種類別セグメント情報

1 セグメンテーションの方法

事業の種類別セグメント情報として開示する情報は、製品系列別の情報である。したが

って、セグメンテーションの方法が最終的には経営者の合理的な判断に委ねられていると

いっても、それは製品系列別の情報という条件に合致するものでなければならない。

製品系列別とは、製品の種類・性質、製造方法、販売市場等の類似性に基づく同種・同

系列の製品グループの別を意味するから、これらを考慮して事業区分を決定することにな

る。なお、商品の販売又は役務(サービス)の提供を行っている企業の事業区分について

は、「製品」を「商品」又は「役務」と読み替えた上で適用することになる。

(1)開示の対象とすべきセグメントの決定手順

製品系列別による事業区分の決定は、同種・同系列の製品をグループ化することによっ

て行われるので、そのためにはまず、グループ化の対象となる製品を個々に識別しなけれ

ばならない。

製品の識別に当たって、「企業が収益を得ている」とは、企業が外部の顧客に当該製品

を供給することにより収益を得ていることである。

事業の種類別セグメント情報が多角化情報である以上、外部から収益を得ていない製品

をもって事業区分を構成することはあり得ない。例えは、親会社が製造会社であり、その

連結子会社(以下「子会社」という。)が、自らの製品をすべて親会社が製造する製品の

部品として親会社に販売している場合には、子会社にとって、自らの製品は「企業が収益

を得ている」ことにはならない。したがって、子会社の製品はそれ自体は事業区分を構成

することはできない。換言すれば、セグメントの構成に当たって、企業の中で垂直的に結

合した事業を分解することは要求されていないということになる。

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ただし、上記の例で、子会社の製品の一部が外部に販売されている場合には、子会社の

製品が事業区分を構成するか否かについて検討が必要であり、当該製品が事業区分を構成

するものとして決定された場合には、外部に対する売上高と親会社に対する内部売上高又

は振替高とを合算した上で、重要性の基準を適用し、開示の対象となるセグメントになる

かどうかを決定することになる。

(2)製品の系列化による事業区分の決定

①基本的な考え方

企業の多角化の状況を最もよく把握しているのは経営者であるので、事業区分の決定は、

基本的には経営者の判断に委ねられるが、一方において、セグメント情報は、経営の多角

化の実態を適切に反映した情報でなければならない。したがって、経営者は、事業区分の

決定に当たっては、その開示目的を果たすことができるように配慮する必要がある。

経営者がどのような判断に基づいて事業区分を行ったか、また、開示対象セグメントは

どのような内容のものかを明らかにするため、事業区分の方法及び各区分に属する主要な

製品の名称等の開示が必要である。

事業区分に付ける名称は、開示対象セグメントの内容を示すものでなければならない。

したがって、単に製造業、卸売業、小売業というような幅広い分類を示す名称は不十分で

あるので、これらを事業名称として使用する場合には、製品系列等の名称を冠し、事業内

容が明らかになるようにしなければならない。例えば、単に製造業とせずに、○○製造業

とすることになる。

また、事業の種類別セグメント情報の開示は、企業の過去の業績及び将来の見込みにつ

いて、よりよい情報の提供を可能にすることを目的にしている。このためには、各年度に

おいて開示される情報について比較可能性を保持する必要があるので、セグメンテーショ

ンに当たっては、相当期間を通じて継続性が維持されるように配慮しなければならない。

②事業区分の決定に当たって考慮すべき要素

収益性の度合、成長性の度合、又は危険性の程度等は、事業区分ごとに異なる場合が多

い。このため、事業区分の決定に当たっては、まず、それぞれの製品が持つ収益性、成長

性及び危険性の異同について考慮する必要がある。

この際、通常、考慮すべき要素として使用目的の類似性、製造方法・製造過程の類似性、

市場及び販売方法の類似性の3つを挙げることができる。これらのうちのいずれかに該当

する製品等は、相互の関連から同じような収益性、成長性、又は同じ程度の危険性を持つ

可能性が大きい。

以下、製品の系列化による事業区分の決定方法を具体的に例示する。

ア 各種の類似性に基づく検討

製品の系列化による事業区分を決定するために、まず、各製品の類似性について検討す

る。

(ア)使用目的の類似性という観点からみて、関連がある製品をグループ化する際には、

通常、いくとおりかの案が考えられるので、これらを列挙する。

(イ)製造方法・製造過程の類似性という観点からみて、関連がある製品をグループ化す

る案を、(ア)に準じて列挙する。

(ウ)市場及び販売方法という観点からみて、関連がある製品をグループ化する案を、(ア)

に準じて列挙する。

イ 企業の諸活動の間に存する関連性に基づく検討

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企業の諸活動の間に密接な関連性が存する場合には、アの類似性に基づく検討結果が適

合しない場合がある。

そこで、企業の諸活動の間に存する関連性の性格、程度等を考慮し、アにおいて列挙さ

れた案のうち不適当なものを除去することが必要になる。

例えば、連産品のように1つの製造過程から生産される数種類の製品について、その生

産量を人為的に変更することができない場合には、使用目的又は販売方法の相違に基づい

てグループ化した案は不適当なものとなる。また、製造方法又は販売方法を異にする数種

類の製品が一体のものとして使用される場合において、製造方法又は販売方法の相違に基

づいてグループ化した案も同様である。

ウ 事業区分の決定

類似性の検討により列挙された案から、企業の諸活動の間に存する関連性の検討を通じ

て除去することとされた案を除き、残余の案の中から経営者が多角化情報として最も適当

と判断した事業区分案を選択する。

類似性の検討及び企業の諸活動の間に存する関連性の検討においては、事実認定に係る

要素が多いが、認定に当たっては経営者の判断が必要であり、また、最終的な事業区分の

決定も経営者の判断によることになる。

このように、事業区分の決定は、経営者の判断に委ねられているが、その反面、経営者

に対しては、開示するセグメント情報が、経営の多角化の実態を適切に反映した情報が開

示されるように配慮することが要請されている。

③事業区分の一般的な方法

本報告は、事業区分の際に利用できる一般的な方法として3つの方法を列挙している。

すなわち、利益センターの利用、日本標準産業分類の利用、企業が現に採用している売上

集計区分等の利用である。

ア 利益センターの利用

事業区分の決定は、個々の製品を識別し、識別された製品を製品系列ごとにグループ化

することにより決定されるが、これについては、企業が内部管理上採用している事業区分

を利用することがコスト・ベネフィットの観点からも適当である。

このような観点から、企業が現に採用している利益センターを利用することが考えられ

るので、事業区分の決定に当たっては、まず、内部管理上設定した利益センターが利用可

能か否かを判断することが肝要である。一般的に利益センターは、その企業にとって、事

業区分を決定するための出発点となることが多い。また、利益センターが複数の製品系列

にまたがっている場合には、その利益センターを分割しなければならないとしている点は、

事業区分の決定が製品系列別によることを明示しているものといえる。

イ 日本標準産業分類の利用

事業の種類別セグメント情報の目的は、各企業固有の多角化の状況を開示することであ

って、必ずしも企業間の比較可能性を担保するものではない。したがって日本標準産業分

類を画一的・機械的に適用することは無意味であるばかりでなく、業種又は業態のいかん

によっては、経営の多角化の実態について、適切な開示を損なうおそれも生ずる。

このようなことから、本報告では、日本標準産業分類を事業区分の基準としてすべての

企業にそのまま利用することは適当でないとしているが、その一方で、業種又は業態のい

かんによっては、これを事業区分の基準として適宜利用することにより経営の多角化の実

態が適切に開示できる場合もあるので、このような場合には日本標準産業分類の利用が認

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められている。

ウ 企業が現に採用している売上集計区分等の利用

企業が現に採用している売上集計区分等が利用できる場合には、コスト・ベネフィット

の観点からも、その利用が適当であり、本報告は、そのような区分が企業の多角化の実態

を適切に反映するような場合には、これを事業区分とすることができるものとしている。

2 営業費用の配分

事業の種類別セグメント情報における営業損益は、売上高(役務収益を含む。)から営

業費用を控除したものである。同一セグメント内部の取引は相殺消去されるため、各セグ

メントの営業費用には、外部顧客に対する売上高とセグメント間の内部売上高又は振替高

の両方に関するものが含まれることになる。営業費用には、売上原価と販売費及び一般管

理費が含まれるが、本報告ではこれを各セグメントに直課できる営業費用と直課できない

営業費用の2つに分類している。

(1)直課できる営業費用

まず、本報告では、売上原価(役務収益原価を含む。)を直課できる営業費用としてい

る。商品の売上原価が各セグメントに直課できる費用となることについては、特に議論の

余地はないものと思われる。また、製品の売上原価の場合には、各連結会社において、通

常、原価計算が行われているので、これによって算出された製造原価により各セグメント

に直課することができる。役務収益原価についても基本的には製品の場合と同様であるが、

直課できない役務収益原価の一部を適当と認められる配賦基準により各セグメントに配賦

することも認められる。

次に、本報告では、販売直接費等を直課できる費用とし、これに該当するものとして、

特定の製品の売上に係るロイヤルティ、販売手数料、販売員給料、運賃を例示しているが、

これは、これらの費用が通常特定のセグメントの売上と直接関係づけられることが多いと

考えられたためである。企業によっては利益センターごとに詳細な販売費及び一般管理費

の集計を行っている場合もあり、これらの利益センターが事業区分の決定に利用されてい

るような場合には、直課できる営業費用はより多数の費目となる。

(2)直課できない営業費用

直課できない営業費用として、本報告では販売間接費と一般管理費を挙げているが、具

体的にどの費目が直課できない費用に属するかはその企業固有の事情により異なる。直課

できない営業費用は、その費用の発生により便益を受ける程度に応じ、それぞれの費用に

適した合理的な配賦基準により各セグメントに配賦される。直課できない営業費用の配賦

は、製造原価計算における部門共通費の配賦と同様に行われる。この場合の配賦基準とし

ては、単一の配賦基準による場合と複数の配賦基準による場合がある。さらに、複数の配

賦基準による場合には、2つ以上の配賦基準の合計値(例えば、材料費と労務費の合計)

や積数(例えば、使用時間とワット数の積数)による場合と、ある営業費用を固定費部分

と変動費部分に分けて(例えば、基本料金と使用料金に分ける。)それぞれ異なった配賦

基準を使用する場合等がある。配賦基準としては、唯一絶対のものがあるわけではなく、

各企業の実情に即して合理的なものが選択されることとなる。

直課できない営業費用のうちには、合理的な配賦基準が比較的容易に見いだせるものと

見いだしにくいものとがあると考えられる。合理的な配賦基準が比較的容易に見いだせる

ものとしては、例えば、販売間接部門の人件費、賃借料、固定資産税、保険料、修繕費、

減価償却費、光熱費等を挙げることができる。このような場合の配賦基準としては、販売

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直接部門の従業員の給料、人数、使用床面積等を挙げることができる。また、一般的に、

合理的な配賦基準が見いだしにくい営業費用の例としては、コンピュータ処理費用、複数

のセグメントに関連する広告宣伝費、販売部門担当の役員の報酬等を挙げることができる。

これらの費用についても、各企業の実情に応じて配賦基準が決定されることになる。

本報告の作成過程における検討事項の1つに、一般管理費中の本社費用のように、その

費用の発生により各セグメントの受ける便益の程度が直接把握できないものの取扱いがあ

った。これらの費用は全社的一般経費といわれるものであり、例えば、営業部門担当以外

の役員の報酬、基礎的試験研究費及び開発費、広報及び企業イメージ広告費、法務部門関

係の費用、財務部門関係の費用、本社経理部門関係の費用、本社総務部門関係の費用、寄

付金等を挙げることができる。米国の財務会計基準書(SFAS)第14号「企業のセグ

メント別財務報告」では、全社的一般経費は、各セグメントの営業損益の計算に当たり、

その計算に算入しないとされており、配賦すべきでない費用という考え方が採られている。

しかしながら、本報告では、全社的一般経費を各セグメントの売上高から直接回収すべ

き費用とするかどうかの判断は、各企業によって異なることを考慮し、これらを配賦する

かどうかは企業の判断に委ねられている。

また、本報告では、営業費用の一部を各セグメントに配賦しなかった場合には、これを

配賦不能営業費用とし、その金額及び主な内容を注記で明らかにする必要があるとしてい

る。具体的には、配賦不能営業費用の金額は、「消去又は全社」の項目に含めて記載し、

次のような注記を行う。

〔記載例〕

「営業費用のうち消去又は全社の項目に含めた配賦不能営業費用の金額は○○○百万円で

あり、その主なものは、親会社の本社総務部、財務部及び経理部に係る費用である。」

3 資産、減価償却費及び資本的支出の配分

(1)配分可能資産の識別

資産のセグメントへの配分に際しては、すべての資産について配分可能性を検討するこ

とになるが、配分不能なもの又は特定のセグメントに配分することが適当ではないものが

考えられる。例えば、親会社の現金預金についてセグメントに配分できるかどうかを考え

た場合、特定のセグメントとの係わりを見いだすことはそう簡単ではない。しかし、特定

のセグメントだけの事業を行っている子会社が有する現金預金を、当該セグメントに帰属

させることは特段の問題はないように思われる。また、有形固定資産の中に重要な遊休資

産がある場合、特定のセグメントに配分することは必ずしも適当でない場合がある。

このように、個々の資産について配分可能性を検討していくことになるが、実務的には

勘定科目の性格から可能性の範囲を識別し、次に個々の資産についてセグメントヘの配分

の要否を検討することが効率的である。

資産配分の判断に際しては、重要性の原則の適用は当然認められるが、具体的な数値基

準の設定は企業の置かれている状況を網羅的に想定することが困難なことから、行わない

こととする。

(2)資産配分の考え方

資産をセグメント別に配分する目的は、当該資産とセグメントの売上及び営業損益との

関連性を明らかにし、当該セグメントの営業成績をより正確に判断できるようにすること

である。したがって、資産の配分はセグメント損益への貢献が認められるかどうかにより

行うことになる。

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次に主要な項目について資産配分の考え方を例示する。

図:資源配分の考え方

(3)資産のセグメントヘの配分方法

セグメントヘ配分可能な固有の資産は、セグメントの使用状況から専用資産と共用資産

に分類することができる。専用資産は使用セグメントが特定できることから、当該セグメ

ントヘ直接配分する。複数のセグメントに使用されている共用資産は関係するセグメント

の利用面積、人員数、取扱量(金額)又は生産量(金額)等の合理的基準により各セグメ

ントに配賦する。

(4)全社資産

全社資産は、特定のセグメントに配分されなかった資産を意味するが、これはセグメン

トヘの配分が不能なもの又は適当でないもの等、全社資産とする理由のあるものである。

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したがって、特定のセグメントに配分することが合理的であると判断された資産を、安易

に全社資産とすることは認められない。

なお、連結会社が保有するすべての資産は、何らかの形でセグメントに貢献していると

いう考え方もあり、全社資産の識別に係わる判断は経営者に委ねられている。

本報告では、全社資産の金額及び主な内容を注記で明らかにしなければならないとして

いる。具体的には、全社資産の金額は、「消去又は全社」の項目に含めて記載し、次のよ

うな注記を行う。

〔記載例〕

「資産のうち消去又は全社の項目に含めた全社資産の金額は○○○百万円であり、その主

なものは、親会社での余資運用資金(現金及び有価証券)、長期投資資金(投資有価証券)

及び管理部門に係る資産等である。」

4 セグメンテーションの方法等の継続性

セグメンテーションの方法等の変更に関する注記には、連結財務諸表に係る会計方針の

変更が、セグメント情報に重要な影響を与えている場合も含まれる。

セグメンテーションの方法等の変更は、具体的には事業区分並びに営業費用及び資産等

の配分方法の変更をいい、ある営業費用を配賦可能営業費用とするか、配賦不能営業費用

とするかの区別の変更又は全社資産として識別するかどうかの判断基準の変更も含まれる

ことに留意する。また、所在地別セグメント情報及び海外売上高については、上記のほか

国又は地域ごとの区分の変更も含まれる。

なお、事実の変化、新規則等の初年度適用又は重要性の増加や減少による開示範囲の変

更等によって、セグメンテーションの方法等を変更した場合には、その旨及びセグメント

情報に与える影響を追加情報として注記する。

セグメンテーションの方法等の変更がセグメント情報に重要な影響を与える場合には、

前期のセグメント情報との比較可能性を大きく損ねることになる。このような場合には、

前期のセグメント情報を変更後のセグメンテーションの方法等により遡及して作り直した

ものと比較して開示することも考えられる。

Ⅱ 所在地別セグメント情報

1 セグメンテーションの方法

所在地ごとに国又は地域いずれを選択するかは、本報告のⅡ.1に示した判断基準に基

づき、経営者の合理的判断によることになる。地域ごとを選択する場合は、東南アジア、

ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、北欧等グルーピングしたものが一般的に考えられる

が、セグメント情報開示の目的に照らしてより地域性を表現できるものであれば、これら

に限定する必要はない。

所在地別セグメント情報における国又は地域の区分に際しては、当該国又は地域におい

て外部顧客への売上高若しくは内部売上高又は振替高が計上されることを想定している。

したがって、生産活動のみ行っている国又は地域についても他の連結会社への内部売上高

又は振替高が計上される場合は区分対象となる。これは、連結会社間の内部売上高又は振

替高といえども、当該地域にとっては一つの経済活動を行っており、セグメント損益とし

て認識する必要があると判断されるためである。

なお、この考え方は事業の種類別セグメント情報における事業区分の決定に際して、内

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部売上高又は振替高のみ生ずる連結子会社の事業は独立したセグメントを構成しないとす

る考え方と相違しているので留意を要する。これは所在地別セグメント情報の目的が事業

活動の地域性を重視していることによるものである。

2 営業費用の配分

所在地別セグメント情報の営業費用の配分は、開示する国又は地域を基準として、本報

告Ⅰ.2の事業の種類別セグメント情報の営業費用の配分の考え方に準じて行うことにな

る。経営者の合理的な判断により、全社資産を識別した場合又は合理的な配賦基準が見い

だせない費用(例えば、基礎的試験研究費等)が多額に生ずる場合等、経営者が配賦不能

営業費用を識別した場合は、所在地別セグメント情報においても配賦不能営業費用を認識

することになる。

その場合は、配賦不能営業費用を「消去又は全社」の項目に含めて記載し、解説Ⅰ.2.

(2)の記載例に準じて注記を行う。

なお、事業の種類別セグメント情報の配賦不能営業費用は、所在地別セグメント情報に

おいても配賦不能営業費用とされ、両者は、原則として、一致する。

3 資産の配分

所在地別セグメント情報における資産の配分は、セグメント固有の資産を、国又は地域

の事業活動との係わりから各セグメントに配分することになるが、グループの資金調達・

運用を主たる事業目的としているファイナンス・カンパニーのような場合は、それを独立

した所在地別セグメントと認識するかどうかの問題があり、事業の種類別セグメント情報

との整合性を取りつつ全社資産とすることにより特定の国又は地域に係わらしめないこと

なども考えられる。このように単に名目的な所在だけではなく、当該資産の使用目的と事

業活動との関係を重視して配分する考え方もあり、配分方法の選択は経営者の合理的判断

によることとなる。

なお、事業の種類別セグメント情報において全社資産と識別された資産は、所在地別セ

グメント情報においても全社資産とされ、両者は、原則として、一致する。また、全社資

産については、解説Ⅰ.3、(4)の記載例に準じて注記を行う。

Ⅲ 海外売上高

海外売上高における国又は地域ごとの区分方法は、所在地別セグメント情報の考え方に

準ずる。海外売上高は販売先(市場)を基準に国又は地域をとらえることになるため、在

外子会社が本邦内の外部顧客に販売したものは本邦への売上となり、海外売上高には含ま

れないので留意が必要である。

Ⅳ 設例

我が国のセグメント情報の開示制度は、まだその歴史が浅く、すべての情報開示に関す

る実務慣行もいまだ成熟しているとはいえないので、実務の参考に供するために、以下、

設例により、セグメント情報の作成過程を例示することにする。

<事業の種類別セグメント情報>

[設例1-1]営業費用の配分

[設例1-2]事業の種類別セグメント情報(資産等を除く)の作成

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[設例1-3]資産等に係る事業の種類別セグメント情報の作成

<所在地別セグメント情報>

[設例2]所在地別セグメント情報の作成

<海外売上高>

[設例3]海外売上高(販売先の地域別一市場別)の作成

以下に示す設例はそれぞれ独立したものであり、相互の関連性はないが、[設例1-3]、

[設例2]及び[設例3]は前提条件を同一にしている。また、[設例1-2]の「4開

示様式による表示」については、平成7年3月31日の連結財務諸表規則取扱要領の改正

を受けて、平成元年11月7日に「中間報告」として公表したものを修正している。

[設例1]は事業の種類別セグメント情報の作成に関するものである。このうち、[設

例1-1]は営業費用の配分に関するものであり、販売費及び一般管理費に属する費用を

どのように各セグメントの営業費用に配分するのかを、[設例1-2]は連結会社各社の

財務諸表をどのように事業区分別に分割し、事業の種類別セグメント情報(ただし、資産

等に関する情報は除く。)を作成するのかを、[設例1-3]は連結会社各社の資産等を

どのように各セグメントに配分して、資産等に係る事業の種類別セグメント情報を作成す

るのかを、いずれも計算例を用いて示してある。

[設例2]は所在地別セグメント情報の作成に関するものである。ここでは、連結会社

各社の売上高、営業利益又は営業損失及び資産をどのように所在地別に区分して、所在地

別セグメント情報を作成するのかを計算例を用いて示してある。

[設例3]は海外売上高の作成に関するものである。ここでは、連結会社各社の海外売

上高をどのように販売先の地域別に区分して海外売上高を作成するのかを計算例を用いて

示してある。

なお、設例で用いられている配賦基準等は説明のために仮に設けたものであるので、実

際の計算に当たっては、各企業において実情に応じ適切と認められる配賦基準等を選択す

る必要がある。

また、実際のセグメント情報の作成に当たっては、各企業固有の事情(例えば、事業区

分の数、各連結会社と事業区分の関係、所在地の区分及び海外売上高の区分等)を考慮し、

それぞれに応じた作成手続を採用する必要がある。

<事業の種類別セグメント情報>

[設例1-1]営業費用の配分

Ⅰ 前提条件

1 販売費及び一般管理費の費目別及び事業区分別内訳

販売費及び一般管理費の費目別内訳は次表に示すとおりであり、直課可能費用(事業区

分別に把握できるもの)と共通費と全社的一般経費(本社総務部門・経理部門・財務部門

に係る費用で直接把握できるもの)とに区分される。

表:直課可能費用

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※訂正 貸 借 料 → 賃 借 料

2 共通費の内容と配賦基準及び配賦率

(1)共通費の内容とその配賦基準及び配賦率は、次表に示すとおりである(なお、配賦

基準の中で「全社」とあるのは、全社的一般経費を意味している。)。

(2)全社的一般経費は配賦不能営業費用として取り扱う。

図:共通費の内容とその配賦基準及び配賦率

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※訂正 「費 用」欄 賃貸料 → 賃借料

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「内 容」欄 支店の賃貸料である。 → 支店の賃借料である。

「配賦基準及び配賦率」欄 売上高の比率(Y:Z) → 売掛債権の比率(Y:Z)

60:40 60:40

Ⅱ 営業費用の部門別集計

表:営業費用の部門別集計

※ 訂正 給料手当 の 直課可能費用 事業区分 Y 3,500 → 2,500

退職給与引当金繰 → 退職給与引当金繰入額

これを要約すると、共通費の配賦後の販売費及び一般管理費の内訳は、次のとおりになる。

事業区分 Y 7,943

事業区分 Z 5,777

全社的一般経費 3,780

合 計 17,500

[設例1-2]事業の種類別セグメント情報(資産等を除く。この設例において以下同じ。)

の作成

Ⅰ 前提条件

1 会社の概要

P社は、3つの事業区分A,B,Cを有している。P社及びS1社で製造活動を行い、

P社、S2社及びS3社でその販売活動を行っている。

S1,S2,S3の各社はいずれもP社の100%所有子会社であり、各社の業務内容

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は次のとおりである。

<P社>

①事業区分Aに属する製品の製造並びに輸出及びS2社への販売

②事業区分B及びCに属する製品のS1社からの仕入及びS3社への販売

<S1社>

事業区分B及びCに属する製品の製造及びP社への販売

<S2社>

事業区分Aに属する製品のP社からの仕入及び外部販売

<S3社>

事業区分B及びCに属する製品のP社からの仕入及び外部販売

各社の取引関係を図示すれば、次のようになる。

図:各社の取引関係

2 各社の損益計算書

各社の当期の損益計算書(営業損益段階まで)は、次のとおりである。

表:各社の当期の損益計算書

※ 訂正 P社 の 営業利益 36,000 → 4,000

Ⅱ セグメント情報の作成手順

セグメント情報の作成手順は、次のとおりである。

①各社の損益計算書をそれぞれ事業区分別に分割する。

なお、一般的には、あらかじめ事業区分ごとに区分された損益計算書を用いて作業が行

われることが多い。

②連結財務諸表の作成の際に消去される内部損益の金額を事業区分別に把握する。

③各社の事業区分別損益計算書を合算する。

④同一セグメント内の内部売上及び内部振替高を消去し、セグメント情報を作成する。

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⑤開示対象とすべきセグメントを重要性の基準により選定し、最終的に開示されるセグメ

ント情報を作成する。

Ⅲ セグメント情報の作成

以下では、Ⅱの手順によりセグメント情報の作成過程を例示する。

1 各社損益計算書の事業区分別分割

(1)S1社

①前提条件

ア S1社の事業区分別の売上高の内訳は、次のとおりである。

(単位:百万円)

事業区分Bに属する製品売上高 5,000

事業区分Cに属する製品売上高 3,000

合 計 8,000

S1社の売上はすべてP社に対するものであり、事業区分Bに属する製品の一部は、P

社において事業区分Aに属する製品を製造する際に部品として使用されている。S1社の

売上高のうち1,000百万円がこれに該当する。

イ S1社の営業費用(売上原価と販売費及び一般管理費)の内訳は、次表の合計欄に示

すとおりである。

S1社においては適切な原価計算が行われており、売上原価は、原価計算の結果に基づ

き「事業区分B」及び「事業区分C」の別に集計されている。事業区分別の売上原価の金

額は、次表の「事業区分B」及び「事業区分C」の欄に示されている。

また、「共通費」は配賦可能営業費用であり、「事業区分B」及び「事業区分C」に配

賦される。

②事業区分別分割

売上原価は、S1社において適切な原価計算が行われている限り、その金額を「事業区

分B」又は「事業区分C」に直課することができる。(この設例では、売上原価の内訳項

目のうち仕掛品・製品等の増減に係る項目は省略している。)。

表:S1社の事業区分別分割

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共通費の配賦基準としては様々なものがあり、それぞれの費用に応じて適当な配賦基準

が選択される。この設例では、以下に示す配賦基準を採用している(参考のために、製造

間接費の配賦基準もあわせて示してある。)。

表:S1社の共通費の配賦基準

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※訂正 事業区分 の Y → B 、Z → C

(2)P社

①前提条件

ア P社の事業区分別の売上高の内訳は、次のとおりである。

(単位:百万円)

事業区分Aに属する製品

輸出売上 5,000

S2社に対する売上 6,000

事業区分Bに属する売上

S3社に対する売上 5,000

事業区分Cに属する売上

S3社に対する売上 4,000

合 計 20,000

イ P社の営業費用(売上原価と販売費及び一般管理費)の内訳は、次表に示すとおりで

あり、このうち、各事業区分に示された金額はそれぞれ直課されたものである。

「その他」として集計されたものは、企業イメージ広告に要した費用のほか、本社の総

務部門・経理部門・財務部門に係る費用であり、この設例では配賦不能営業費用として取

り扱うこととする(なお、これらの費用は適当と認められる配賦基準により、各事業区分

に配賦することもできる。)。

②事業区分別分割

P社の損益計算書を事業区分別に分割すると次のとおりになる。

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表:P社の事業区分別損益計算書

(3)S2社及びS3社

①S2社

S2社は、事業区分Aに属する製品のP社からの仕入と外部販売のみを行っているので、

Ⅰの「2 各社の損益計算書」を、事業区分Aに係る損益としてそのまま使用することが

できる。

②S3社

S3社の損益計算書を事業区分別に分割すると次のとおりになる(計算過程は、S1社

の場合と同様であるので省略する。)。

表:S3社の事業区分別分割

2 内部利益の消去に関する資料

当期の連結財務諸表における内部利益の消去の損益への影響額(内部利益の純増額)は、

次のとおりである。

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表:内部利益の消去の損益への影響額

連結財務諸表の作成過程においては、各社が所有する在庫別に内部利益を計算して控除

するのが通常と考えられる。しかしながら、セグメント情報の作成過程においては、発生

会社別に内部利益を集計する方がより便利な場合が多いと考えられるため、ここでは、在

庫会社別の内部利益の額を発生会社別に再集計している。

3 各社のセグメント情報の集計

(1)各社の事業区分別損益計算書の合算

「1 各社損益計算書の事業区分別分割」及び「2 内部利益の消去に関する資料」に

おいて作成した資料に基づいて、各社の事業区分別の損益計算書を合算する。売上高又は

売上原価の内訳科目で、セグメント内部売上又はセグメント内部仕入とされている金額は、

同一セグメント内の内部売上・内部振替高を示しており、セグメント間売上又はセグメン

ト間仕入とされている金額は、異なるセグメント間の内部売上・内部振替高を示している。

売上原価の内訳科目の内部利益控除では、前記「2」に示されている内部利益の純額増を

その内部利益が発生した会社の売上原価に加えてある。(なお、S1社の事業区分Bで発

生した事業区分Aに対する内部利益は、セグメント間取引であるため、ここでは控除され

ない。)

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表:各社の事業区分別損益計算書の合算

※訂正 P社 A欄 小計 11 → 11,000

B欄 小計 5000 → 5,000

C欄 小計 4 → 4,000

(2)セグメント情報の集計・内部売上等の相殺消去と連結財務諸表との調整作成手順は、

次のとおりである。

①(1)の各社の事業区分別損益計算書を事業区分ごとに合計する。

②同一セグメント内の内部売上・内部振替高を相殺消去する。

③セグメント情報に示される金額と連結財務諸表に示される金額とを調整する。

なお、この設例において生ずる調整項目は、S1社の事業区分BからP社の事業区分A

に対する売上高1,000百万円とこの取引に係るS1社の内部利益15百万円である。

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表:セグメント情報の調整作成手順

※訂正 セグメント間売仕入 → セグメント間仕入

(3)開示対象とすべきセグメント情報の判定

事業区分A、B、Cは、以下に示すように、いずれも連結財務諸表規則取扱要領第39

の3に定める重要性の基準を満たしているので、セグメント情報として開示される。なお、

本設例では売上高基準と営業損益基準の双方とも満たしているが、このいずれか1つの基

準に該当する場合であっても、開示対象セグメントとなる。また、ここでは、設例の前提

条件として資産等の情報を除いているため、重要性基準についても資産基準は除いている。

①売上高基準*

事業区分A

12,000/23,000=52.2% >10%

事業区分B

6,500/23,000=28.2% >10%

事業区分C

4,500/23,000=19.6% >10%

*セグメント間売上を含む。

②営業損益基準

事業区分A

4,650/6,345=73.3% >10%

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事業区分B

850/6,345=13.4% >10%

事業区分C

845/6,345=13.3% >10%

4 開示様式による表示

事業の種類別セグメント情報(資産等を除く)は、次のように表示される。

表:事業の種類別セグメント情報

※ 訂正 (注1)・・・属する製品の名称 → ・・・属する主要な製品の名称

(注2)・・・係わる費用である。 → ・・・係る費用である。

[設例1-3]資産等に係る事業の種類別セグメント情報の作成

Ⅰ 前提条件-会社の概要

Pa社及びPa社の100%子会社であるSu1社、Su2社及びSu3社の事業区分、

業務内容及び所在国又は地域は、次のとおりである。

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図:会社の概要

※訂正 Su1社の業務内容「製品のPa社からの仕入加工及び外部販売」 →

「製品のPa社からの仕入及び外部販売」

Su2社の所在国又は地域「北米(支店)」 → 「北米」

各社の事業区分、取引及び所在国又は地域の関係を図示すれば、次のようになる。

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図:各所の事業区分と所在国・地域

※ 訂正 事業区分H の 「Su1社資産」 → 「支店資産」

事業区分I の 「Su3社資産」 → 「Su2社資産」

Ⅱ 資産等に係る事業の種類別セグメント情報

1 資産、減価償却費及び資本的支出の配分の手順

資産、減価償却費及び資本的支出の配分の手順は、次のとおりである。

(1)連結会社各社の資産を、事業の種類別に個別財務諸表ベースで集計し、その後、連

結財務諸表作成のための債権債務、投資勘定と資本勘定、未実現損益等の相殺消去、持分

法損益の計上等の修正(セグメント間の債権債務等の消去を除く。)を行う。

(2)各社の資産を固有の資産(専用資産と共用資産)と全社資産に区分する。

(3)専用資産は各セグメントに直接配分し、共用資産は合理的基準により、各セグメン

トに配賦する。

(4)各社のセグメント別資産表を合算する。

(5)セグメント間の債権債務等の消去を行い、連結財務諸表に一致させる。

(6)資産の配分が確定した後、各セグメントに対応する減価償却費及び資本的支出を把

握する。

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(7)開示対象とすべきセグメントを重要性の基準により選定し、最終的に開示されるセ

グメント情報を作成する。

2 各社の資産

各社の個別財務諸表の資産及び連結消去等は、次表に示すとおりである。

表:各社の個別財務諸表の資産及び連結消去等

※ 訂正 Pa社 「消去等」欄 *2 +60 → *3 +60

*4 +30 → *5 +30

Su2社 「消去等」欄 *2 +50 → *3 +50

Su3社 「消去等」欄 *2 +20 → *3 +20

3 Pa社の資産配分

(1)資産の区分

Pa社の資産は次表に示すとおり、専用資産(事業区分別に把握できるもの)、共用資

産、全社資産(余資運用資金、長期投資資金及び本社管理部門等に係る資産で直接把握で

きるもの)に区別される。

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表:Pa社の資産の区分

(2)共用資産の配賦

共用資産の内容とその配賦基準及び配賦額は、次のとおりである。

表:Pa社の共用資産の配賦

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※訂正 その他流動資産 利用面積比率 H50 → H40

(3)Pa社のセグメント別集計表

①資産の配分及び集計表

専用資産、共用資産の各セグメントへの配賦、連結消去等及び全社資産は、次表のとお

りである。

表:Pa社の資産の配分及び集計表

※ 訂正 全社 合計 2,5 → 2,500

表:[連結消去等合計の内訳]

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②セグメント別集計表(連結消去等後)

セグメント別に集計すると次のとおりになる。

表:Pa社のセグメント別集計表

4 資産のセグメント別集計表(連結消去等後)

(1)各社セグメント別集計表の合算

Pa社のセグメント別集計表とSu1社、Su2社、Su3社の資産表をセグメント別

に集計する。

セグメント間の債権債務(Su3社の長期貸付金)及び当該債権に対応する貸倒引当金

を「事業区分」欄及び「消去又は全社」の「セグメント間の消去等」欄に含めて記載する。

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表:各社セグメント別集計表の合算

(2)開示対象とすべきセグメント情報(資産等)の判定

事業区分H、I、Jは、以下に示すように連結財務諸表規則取扱要領第39の3に定め

る資産の重要性基準を満たしているので、セグメント情報(資産等)として開示される。

また、ここでは、設例の前提条件として売上高及び営業損益の情報を除いているため、重

要性基準についても売上高基準及び営業損益基準は除いている。

基準区分H 9,390/22,520=41.7% >10%

基準区分I 8,039/22,520=35.7% >10%

基準区分J 5,091/22,520=22.6% >10%

5 減価償却費及び資本的支出のセグメント別集計表(連結消去等後)

資産のセグメントヘの配分が確定したら、各セグメントに対応する減価償却費及び資本

的支出を集計する。

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表:減価償却費及び資本的支出のセグメント別集計表

6 開示様式による表示

資産、減価償却費及び資本的支出に係る事業の種類別セグメント情報は、次のように表

示される。

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図:セグメント情報の開示様式

※ 訂正 資 産 9,390 8,059 5,111 22,560 2,440 26,000

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

8,359 5,091 22,520 2,480 25,000

<所在地別セグメント情報>

[設例2]所在地別セグメント情報の作成

Ⅰ 前提条件-会社の概要

[設例1-3]の前提条件を参照

Ⅱ 売上高及び営業利益又は営業損失(以下「売上高等」という。)の所在地別セグメン

ト情報

1 売上高等の所在地別区分の手順

売上高等の所在地別区分の手順は、次のとおりである。

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(1)連結会社各社の売上高等を、所在地別に個別財務諸表ベースで集計し、その後、連

結財務諸表作成のための消去により、連結財務諸表に一致させる。

(2)各社の売上高の「外部顧客に対する売上高」と「セグメント間の内部売上高又は振

替高」をそれぞれ「海外売上高」と「本邦売上高」に区分する。

(3)営業費用のうち配賦不能営業費用がある場合には、「消去又は全社」欄に含める。

(4)所在地別に集計する。

(5)同一セグメント内の内部売上高又は振替高は消去し、セグメント間の内部売上高又

は振替高には含めない。

2 売上高等の所在地別集計表

(1)各社の所在地別売上高等集計表

Pa社、Su1社、Su2社及びSu3社の売上高等の所在地別は、次表のとおりであ

る。

表:各社の所在地別売上高等集計表

※ 訂正 Pa社 Ⅰ(2)①海外売上高 1,000 → *1 1,000

②本邦売上高 10,000 → *2 10,000

「日本」欄 合計4,000 → 40,000

Su2社 Ⅰ(1)②本邦売上高 500 → *4 500

Ⅰ(2)②本邦売上高 4,00 → *3 4,000

Su3社 Ⅰ(2)②本邦売上高 6,000 → *3 6,000

消去又は全社 「Ⅱ営業費用」欄 → -17,200 → *5 -17,200

(2)所在地別集計表

所在地別に集計すると、次のとおりになる。

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表:売上高の所在地別集計表

Ⅲ 資産の所在地別セグメント情報

1 資産の所在地別配分の手順

資産の所在地別配分の手順は、次のとおりである。

(1)連結会社各社の資産を、所在地別に個別財務諸表ベースで集計し、その後、連結財

務諸表作成のための消去等(セグメント間の債権債務等の消去を除く。)を行う。

(2)セグメント間の債権債務等の消去を行い、連結財務諸表に一致させる。

(3)所在地別の集計に当たっては、次の事項に留意する。

①本支店等がある場合には、原則として、当該所在地別に集計する。

②名目的な所在だけで判断せず、機能的観点をも考慮する。(例えば、ファイナンス子会

社の現金預金及び有価証券を物理的、名目的な所在だけで配分しない等である。)

③所在地別の全社資産と事業の種類別の全社資産は、原則として、一致させる。

2 資産の所在地別集計表

(1) 各社の資産の所在地別集計表

Pa社、Su1社、Su2社及びSu3社の資産の所在地別は、次表のとおりである。

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表:各社の資産の所在地別集計表

※訂正 Pa社 「消去等」欄 *3 → *3 -100

*1 北米支店への債権100万円・・・ → 北米支店への債権100百万円・・・

(2)所在地別集計表

セグメント間の債権債務及び当該債権に対応する貸倒引当金を各所在国又は地域の「資

産」欄及び「消去又は全社」の「セグメント間の消去等」欄に記載して所在地別に集計す

ると、次のとおりになる。

表:資産の所在地別集計表

※ 訂正 Su3社の「東南アジア 資産」欄 0 → 2,795

Ⅳ 開示対象とすべき所在地別セグメント情報の判定

所在地区分の日本、北米及び東南アジアは、以下に示すように連結財務諸表規則取扱要

領第39の3に定める重要性基準のいずれかを満たしているので、セグメント情報として

開示される。

(1)売上高基準*

日本 41,000/56,000=73.2% >10%

北米 9,000/56,000=16.1% >10%

東南アジア 6,000/56,000=10.7% >10%

*セグメント間の内部売上高又は振替高を含む

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(2)資産基準

日本 16,225/23,520=69.0% >10%

北米 4,500/23,520=19.1% >10%

東南アジア 2,795/23,520=11.9% >10%

V 開示様式による表示

所在地別セグメント情報は、次のように表示される。

表:所在地別セグメント情報の開示様式による表示

<海外売上高>

[設例3]海外売上高(販売先の地域別-市場別。以下同じ。)の作成

前提条件-会社の概要

[設例1-3]の前提条件を参照

1 海外売上高の販売地域別区分の手順

海外売上高の販売地域別区分の手順は、次のとおりである。

(1)連結会社各社の売上高を、販売地域別に個別財務諸表ベースで集計し、その後、連

結財務諸表作成のための消去により、連結財務諸表に一致させる。

(2)販売地域別に集計する。

(3)開示対象とすべき海外売上高を重要性基準により選定し、最終的に開示される海外

売上高を作成する。

2 海外売上高の販売地域別集計表

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(1)各社の売上高の販売地域別集計表

Pa社、Su1社、Su2社及びSu3社の売上高の販売地域別は、次表のとおりであ

る。

表:各社の海外売上高の販売地域別集計表

※訂正 Pa社 「北米」欄 合計 1,600 → 1,000

「小計」欄 小計 10,000 → 11,000

Su3社 Ⅰ(2)② 「販売地域別[日本 」欄 8,000 → 6,000

計 Ⅰ(1)① ヨーロッパ 欄 4,000 → 4,600

同 上 計 欄 5,500 → 10,500

計 Ⅰ(1)② 「販売地域別[日本 」欄 34,5 → 34,500

(2)販売地域別集計表

外部顧客に対する売上高を販売地域別に集計すると、次のとおりになる。

表:海外販売地域別集計表

※訂正 ヨーロッパ 小計 欄 Ⅰ(1)①海外売上高 4,500 → 4,600

同 上 合計 4,500 → 4,600

(3)開示対象とすべき海外売上高(販売地域別)情報の判定

海外売上高(販売地域別)区分の北米、ヨーロッパは、以下に示すように連結財務諸表

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規則取扱要領第39の3に定める重要性の基準を満たしているので開示される。

北米 5,500/45,000=12.2% >10%

ヨーロッパ 4,600/45,000=10.2% >10%

南米 400/45,000= 0.9% <10%

3 開示様式による表示

海外売上高は、次のように表示される。

表:海外売上高の開示様式による表示

以 上