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keizai doyu 2006/12-2007/01 002 が続くということである。最近の推計によれば、日本の人 口は2046年に初めて1億人を割り、以降も年100万人の ペースで減少を続ける。2040 年には、20 歳~ 65 歳の実質 的な生産年齢人口は5,508 万人、それ以外の幼少者・65 歳 以上の高齢者を含む人口は5,544万人となり、支える側と 支えられる側との比率が1 : 1 を超過する。これでは、世 代間の相互扶助という哲学に基づく現在の年金制度を維持 することは不可能であり、その持続可能性を厳しく問い直 すことが急務である。 このような巨額の財政赤字と、急激な人口減少という未 曾有の状況の下では、自己責任原則に基づき、真に必要な 行政サービスを、優先順位を持って取捨選択していくこと が不可欠である。 われわれは、今、歴史的な節目となる決断の時を迎えて いる。右肩上がりの経済成長と人口増加を前提とした従来 の諸制度を抜本的に改革しなければ、巨額の負債を次世代 に先送りするばかりではなく、将来にわたる日本の活力と 成長の源泉を枯渇させることにもなる。 21世紀の日本は、もはや模倣すべきモデルを欧米先進国 に求めることはできない。これからの日本の成長を支える のは、社会のあらゆる分野において、前例や過去を凌駕す る新機軸を打ち出し、新しい価値を創出する試み、つまり イノベーション(革新)である。 2007年は、安倍新政権の下で、「持続可能性」と「イノ ベーション」という二つの観点から日本の諸制度を刷新す る、構造改革実行の年となることを期待する。 財政再建の基本は、将来的な持続可能性の観点から、徹 底して無駄を絞り込み、必要な分野への資源配分を行うこ とである。その意味では、まず、政府が掲げている「2011 年プライマリー・バランス回復」という目標は、景気回復 と税収増に気を緩めることなく、徹底した歳出削減によっ て早期に達成すべきである。 2006年は、6年ぶりのゼロ金利解除、「いざなぎ景気超 え」等、日本の景気回復の堅調さを印象付ける年となっ た。9 月には安倍新政権が発足し、構造改革の継承ととも に、教育再生、イノベーション、近隣諸国との関係改善 等、独自の路線を提示され、日本の将来に向けた前向きの 議論が始められた。 しかし、われわれは現状に安穏としていることはできな い。2006 年 6 月には、夕張市が財政再建団体の申請を行 い、その破綻が明らかになった。税収の10倍にも及ぶ借入 金を抱えたその財政構造は、先進国中最大規模の公的債務 を抱える日本の姿と変わりはない。 われわれは、夕張市の例を日本の将来に対する警鐘と受 け止めるべきである。そして、景気が回復した今こそ、将 来の危機を取り除き、活力ある成熟した社会を構築するた めの構造改革を断行しなければならない。 財政破綻という最悪の事態を回避するためには、現状に 対する徹底した情報開示と啓蒙活動が最も重要である。国 民と危機感を共有し、事実に基づいて対策を講じること が、再生への道につながる。 第一に認識すべきは、日本が先進国の中で最も深刻な公 的債務を抱えていることである。政府は、「2011年プライ マリー・バランス回復」を財政再建の一里塚として掲げて いるが、それが達成された後も、長年にわたって蓄積され た膨大な債務がまだ残る。EU 加盟の財政基準に鑑み、せ めて国内総生産の3%以内の財政赤字、国内総生産の60% 以内の公的債務残高という水準を実現するまでは、改革の 手を緩めてはならない。 第二に、当面の間、急激な人口減少とそれに伴う高齢化 将来にわたる持続可能性を 確立するために 岐路に立つ日本 日本の現状と課題 豊かな成熟社会を 次世代に引き継ぐための決断を ―持続可能性の確立とイノベーション(革新)による日本刷新― 北城恪太郎 代表幹事 2 1 2007年 年頭見解 はじめに 1. 構造改革の真価を問う、 「増税なきプライマリー・バランス回復」

豊かな成熟社会を 次世代に引き継ぐための決断を · いる。右肩上がりの経済成長と人口増加を前提とした従来 の諸制度を抜本的に改革しなければ、巨額の負債を次世代

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Page 1: 豊かな成熟社会を 次世代に引き継ぐための決断を · いる。右肩上がりの経済成長と人口増加を前提とした従来 の諸制度を抜本的に改革しなければ、巨額の負債を次世代

keizai doyu 2006/12-2007/01 002

が続くということである。最近の推計によれば、日本の人

口は2046年に初めて1億人を割り、以降も年100万人の

ペースで減少を続ける。2040年には、20歳~65歳の実質

的な生産年齢人口は5,508万人、それ以外の幼少者・65歳

以上の高齢者を含む人口は5,544万人となり、支える側と

支えられる側との比率が1:1を超過する。これでは、世

代間の相互扶助という哲学に基づく現在の年金制度を維持

することは不可能であり、その持続可能性を厳しく問い直

すことが急務である。

このような巨額の財政赤字と、急激な人口減少という未

曾有の状況の下では、自己責任原則に基づき、真に必要な

行政サービスを、優先順位を持って取捨選択していくこと

が不可欠である。

われわれは、今、歴史的な節目となる決断の時を迎えて

いる。右肩上がりの経済成長と人口増加を前提とした従来

の諸制度を抜本的に改革しなければ、巨額の負債を次世代

に先送りするばかりではなく、将来にわたる日本の活力と

成長の源泉を枯渇させることにもなる。

21世紀の日本は、もはや模倣すべきモデルを欧米先進国

に求めることはできない。これからの日本の成長を支える

のは、社会のあらゆる分野において、前例や過去を凌駕す

る新機軸を打ち出し、新しい価値を創出する試み、つまり

イノベーション(革新)である。

2007年は、安倍新政権の下で、「持続可能性」と「イノ

ベーション」という二つの観点から日本の諸制度を刷新す

る、構造改革実行の年となることを期待する。

財政再建の基本は、将来的な持続可能性の観点から、徹

底して無駄を絞り込み、必要な分野への資源配分を行うこ

とである。その意味では、まず、政府が掲げている「2011

年プライマリー・バランス回復」という目標は、景気回復

と税収増に気を緩めることなく、徹底した歳出削減によっ

て早期に達成すべきである。

2006年は、6年ぶりのゼロ金利解除、「いざなぎ景気超

え」等、日本の景気回復の堅調さを印象付ける年となっ

た。9月には安倍新政権が発足し、構造改革の継承ととも

に、教育再生、イノベーション、近隣諸国との関係改善

等、独自の路線を提示され、日本の将来に向けた前向きの

議論が始められた。

しかし、われわれは現状に安穏としていることはできな

い。2006年6月には、夕張市が財政再建団体の申請を行

い、その破綻が明らかになった。税収の10倍にも及ぶ借入

金を抱えたその財政構造は、先進国中最大規模の公的債務

を抱える日本の姿と変わりはない。

われわれは、夕張市の例を日本の将来に対する警鐘と受

け止めるべきである。そして、景気が回復した今こそ、将

来の危機を取り除き、活力ある成熟した社会を構築するた

めの構造改革を断行しなければならない。

財政破綻という最悪の事態を回避するためには、現状に

対する徹底した情報開示と啓蒙活動が最も重要である。国

民と危機感を共有し、事実に基づいて対策を講じること

が、再生への道につながる。

第一に認識すべきは、日本が先進国の中で最も深刻な公

的債務を抱えていることである。政府は、「2011年プライ

マリー・バランス回復」を財政再建の一里塚として掲げて

いるが、それが達成された後も、長年にわたって蓄積され

た膨大な債務がまだ残る。EU加盟の財政基準に鑑み、せ

めて国内総生産の3%以内の財政赤字、国内総生産の60%

以内の公的債務残高という水準を実現するまでは、改革の

手を緩めてはならない。

第二に、当面の間、急激な人口減少とそれに伴う高齢化

将来にわたる持続可能性を確立するために

岐路に立つ日本―日本の現状と課題

豊かな成熟社会を次世代に引き継ぐための決断を―持続可能性の確立とイノベーション(革新)による日本刷新―

北城恪太郎代表幹事

2

1

2 0 0 7 年年 頭 見 解

はじめに

1. 構造改革の真価を問う、「増税なきプライマリー・バランス回復」

Page 2: 豊かな成熟社会を 次世代に引き継ぐための決断を · いる。右肩上がりの経済成長と人口増加を前提とした従来 の諸制度を抜本的に改革しなければ、巨額の負債を次世代

003 2006/12-2007/01 keizai doyu

対GDP比で先進5カ国平均の倍にも及ぶ公共投資の合理

化や、公務員人件費の縮減、規制緩和・民間開放の推進

等、さらなる歳出削減に寄与する分野は多い。これらの改

革を推進せずに、国民負担の拡大への理解は得られない。

このような歳出削減の枠組みの中で、健全な競争を支え

る市場インフラや、真の弱者のためのセーフティ・

ネットの整備、実効性ある少子化対策など、日本の将来の

ために必要な分野について、優先順位を明確にして予算を

策定すべきである。

プライマリー・バランス回復のさらに先を見通した課題

として、「小さくて効率的な政府」のあるべき姿を描くこ

とがある。国の果たすべき役割を最小限のナショナル・ミ

ニマムの提供と位置付け、抜本的な制度改革に踏み切るこ

とが必要である。

重要なことは、簡素で透明性が高く、国民の納得が得ら

れる制度の構築であり、具体的には、税と社会保障を一体

的に捉え、総合的な国民負担のあり方を検討することが必

要である。特に、税については、消費税や法人課税のみな

らず、直間比率のあり方や、所得課税、資産課税等の論点

も含め、税制全体を抜本的に見直すべき時期を迎えてい

る。その際には、納税者番号制度と総合課税制度の実現を

目指すべきである。

イノベーションとは、ただ研究や科学技術分野にとどま

るものではなく、社会のあらゆる分野で革新に努める営み

である。そのために必要なことは、新しい試みや試行錯誤

を促進する環境、努力と創意工夫が報われる環境を整え、

イノベーションを促進する「仕組み」を作ることである。

イノベーションの原動力は、過去に挑み、それを乗り越

えることにあるため、新規参入と挑戦の機会の拡大がその

促進の鍵を握っている。このため、できる限り規制緩和を

進めることが重要である。

また、研究・開発の成果を社会へ還元していくための仕

組みも重要である。特に、政府による研究・開発予算の

「投資対効果」を継続的に測定し、次の意思決定へとつな

げていく透明性の高いサイクルの構築が不可欠である。

さらには、新たなニーズ、イノベーションの種を発掘し、

事業を通じて社会にその価値を還元する上で、ベンチャー

企業が果たす役割を認識し、イノベーション戦略の一環と

して、起業促進に取り組むことが必要である。

イノベーション(革新)によって成長を続ける国への転換

加えて、海外から人、モノ、金、サービスを受け入れる

ことは、自由な競争の促進と多様性の向上、日本の産業構

造の改革など、様々な形で日本の経済社会の活性化につな

がる。こうした観点から、対内直接投資の拡大と、質の高

いFTA・EPAの推進に積極的に取り組むべきである。

イノベーションへの取り組みが必要なのは、個人や民間

企業だけではない。地域もまた、自らの地理的条件や歴

史、自然環境等を活かしながら、自立して個性ある発展を

遂げていくべきである。このために、地方へ財源を委譲し、

地方分権を一層進めるべきである。

次世代の育成は、政治・行政・家庭・企業、すべてが知

恵を出し、国を挙げて取り組むべき課題であり、そうした

観点から、実効性・継続性ある政策を実施しなければなら

ない。

特に、教育のあり方は、「イノベーションの担い手の育

成」という観点から、根本的に改めていく必要がある。知

識や情報の吸収を中核に据えた画一的な教育からは、これ

からの時代、特に実社会において求められるような力は育

たない。正解のない問題に取り組む力や、変化に挑戦する

意欲をもった人材の育成を基本として、日本の教育改革に

取り組まなければならない。

日本を本格的に変革する試みは、まだ始まったばかりで

ある。この実現に向けて、われわれ企業経営者は、「自

立・思いやり・社会的責任」という問題意識に立って、発

言を続けていきたい。

「自立」とは構造改革の基本である。個人、企業、地域

がそれぞれ、他に依存することなく、自らの努力で生きて

いく社会にならなければ、活力は生まれない。既得権やも

たれあい、不合理な制度の温存は決して許してはならない。

その一方、様々な障害によって、競争に参加することが

難しい人や、社会的な支援を必要とする人、失敗から立ち

直り、再挑戦を目指す人に対しては、「思いやり」ある支

援の手が差し伸べられなければならない。

また、自由で公正な競争により、活力を生む社会を指向

する以上、官民を問わず、市場で活動するすべての者は、

自らの「社会的責任」を強く自覚し、社会の信頼に背かな

いことを至上命題としなければならない。特に、われわれ

企業経営者は、企業の持続的な成長の基盤が、社会からの

信頼に他ならないことを強く自覚し、高い倫理観を持って

経営を実践していくべきである。

われわれ一人ひとりの行動を、「自立・思いやり・社会

的責任」の実現につなげていく1年でありたい。

おわりに

3

2. 将来の持続可能性を見極めた「小さくて効率的な政府」への転換 2. イノベーションを担う次世代の育成

1. イノベーションを促進する仕組みの構築

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2007年の

キーワードは

keizai doyu 2006/12-2007/01 004

「2%程度の成長ができるとこ

ろまで、日本経済は順調に回

復してきた。しかし、この先

人口減少が進むことを考える

と、ひとり当たりの生産性を

飛躍的に伸ばさなければ、経

済規模の拡大はない。今年は

『飛躍』を大事なキーワード

としたい」(合同記者会見で

記者の質問に答えて)

経済3団体新年祝賀パーティー・合同記者会見

経済同友会、日本経済団体連合会、日本・東京商工会議所の経済3団体は、1月5日、恒例の「新年祝賀

パーティー」を帝国ホテルで開催した。企業経営者をはじめ、各界から約1,500名が出席。来賓として、安

倍晋三内閣総理大臣が、総理として初の新年の挨拶を行った。

祝賀パーティーでは、今年の幹事団体である経済同友会の北城恪太郎代表幹事が、3団体を代表して挨

拶を行った。「新年を明るい展望で迎えられることは経済界としてもたいへん喜ばしい」としたうえで、「企

業経営者自らの社会的責任を自覚し、成長と豊かさの実現のために努力していきたい」などと述べた。ま

た、安倍総理は「景気回復の手応えを国民が肌で感じられる年にしたい」と語り、そのための協力を経済3

団体に要望した(北城代表幹事の挨拶要旨はP.05、安倍総理の挨拶要旨はP.06)。

北城恪太郎代表幹事、御手洗冨士夫日本経団連会長、山口信夫日商・東商会頭の3氏は、パーティーの

後、3団体長合同記者会見に臨み、新年の経済見通しなどを語った(北城代表幹事の記者会見での発言要

旨はP.07)。

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昨年は、“いざなぎ景気超え”

を記録することができ、たいへん

素晴らしい一年であったと思って

いる。また、新年を明るい展望で

迎えられることはたいへん喜ばし

く、経済界として、小泉前総理、

安倍総理の的確な経済運営に心か

ら感謝申し上げたい。

日本経済の持続的な発展のため

には、安倍総理が提唱されている

イノベーションの大胆な実現が不

可欠である。そのために、具体的

な政策を総理のリーダーシップの

もとで、ぜひとも展開していただ

きたい。また、一部には「改革の

後戻りがあるのではないか」と懸

念する声も聞かれるが、安倍総理

は就任以来3カ月の間に、財政再

建を主体とした2007年度の予算

編成、あるいは、道路特定財源の

一般財源化に向けて着手されるな

ど、具体的な政策を着実に実行さ

れている点で、大変心強く感じて

いる。

今年も引き続き、「官から民へ」

「中央から地方へ」という大きな

方針のもと、歳出削減、規制緩和

といった構造改革の実現のため

に、総理のリーダーシップを発揮

していただきたい。

経済界としても、総理の取り組

みを全面的にご支援させていただ

くとともに、我々も自らの社会的

責任を自覚し、日本の成長と豊か

さの実現のために努力していきた

いと思っている。

総理の着実な政策実行を支持している。構造改革実現のために引き続き努力を

北城恪太郎代表幹事、経済3団体を代表してスピーチ

005 2006/12-2007/01 keizai doyu

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keizai doyu 2006/12-2007/01 006

私は、日本経

済を力強く成長

させていきたい

と考えている。

国民が未来に夢や希望が持てる日

本にし、また、社会保障制度を持

続可能なものとするためにも、経

済の成長は必要である。

その実現に向けて、「オープン

な社会・経済」と「イノベーショ

ン」をテーマに、内閣で改革に取

り組んでいく。オープンな社会の

構築には、日本がリーダーシップ

をとり、アジア、世界に向けて規

制を変えていく、あるいは、

FTA等に積極的に取り組んでい

かなければならない。また、イノ

ベーションによる成長にこそ、日

本の未来はあるのではないか。

「成長のための成長」や「企業の

ための成長」ではなく、「日本に

生活している人々の暮らしを良く

するための成長」であることを再

確認しておかなければならない。

今年1年、景気回復の手応えを

国民にも肌で感じていただきたい

と思っている。景気回復を家計に

も広げていく1年にするために

も、経済3団体の方々にも、ぜひ

ともご協力をお願いしたい。

来週から欧州を訪問するが、日

本への理解を深めてもらうと同時

に、日本の国益を守り、地域およ

び世界の発展・平和に貢献してい

くためにも、「主張する外交」を

本格的に展開していきたい。

「景気回復を家計にも広げていく1年に」安倍晋三総理の挨拶

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日本経済は順

調に推移すると

思う。これまで

日本経済のリス

ク要因は米国景

気の減速と原油高だったが、米国

経済も回復過程に入ったと見られ

るし、原油価格も安定している。

不安要因となるのは、為替と突発

的問題発生に伴う資源価格の上昇

だ。また、構造改革が進まないの

ではないかという印象を海外に与

えると、株式市場が停滞し、日本

経済に悪影響が出る。構造改革を

いかに進めていくかが、大きな課

題である。

世界的にも2007年の経済成長は

堅調であり、適切な金融政策と財

政運営があれば、景気拡大は持続

できる。数値で言うと、2%程度

の経済成長は可能だろう。株価は

18,000円前後まで上がると思う。

現在は異常な低金利の水準にあ

り、経済が健全化するなかでは、

金利も健全な水準に調整していく

べきだ。その時期は、物価や土地

等の資産の上昇の状況を見なが

ら、日銀に適切に判断していただ

きたい。

財政再建のた

めには、大幅な

歳出削減と経済

成長による税収

増を図るべきで

あり、2007年度予算もその路線に

なっている。いま増税すると、歳

出削減圧力が弱まる懸念がある。

2011年までに歳出削減による財政

再建をどのように果たすのかとい

う工程表を、夏の参院選に向けて

作ってほしい。

将来を展望すると、年金・医療

等の社会保障政策の持続可能性の

問題は非常に大きい。人口減少を

伴いつつ社会保障制度を持続可能

な仕組みにしていくなかで、抜本

的に税体系全体を議論すべきだ。

また、総理が提唱しているイノ

ベーションによる経済成長は、非

常に重要な政策である。規制を緩

和する、FTAやEPAで日本の構

造改革を進める、民間企業参入に

よりサービス産業部門の生産性を

上げる等の、現実にイノベーショ

ンができる環境・制度を作るため

の具体的政策を出してほしい。さ

らに、ベンチャー企業が成立しや

すい環境づくりも大事だと考える。

日本の持続的

発展のための最

大のリスク要因

は、財政の問題

である。各党に

は、財政再建実現に向けた手段と

スケジュールを示してほしい。

2点目は、大幅な歳出増ができ

ないなかでいかに経済成長を実現

するのか、そのために政府は何を

するのかを出してほしい。そのう

えで社会保障・年金制度・少子化

対策等の政策を提示してほしい。

3点目は、教育の問題だ。日本

では、イノベーションを支える人

材を育てることが、教育の大きな

目標になるのだと思う。何のため

に教育するのかという大きな方向

付けをしながら、教育の政策を出

していただきたい。

また、安全保障の問題について

も政策として掲げてほしい。

発言要旨

2007年の景気見通しについて、新年合同記者会見に出席した北城代表幹事、御手洗日本経団連会長、山口日

商・東商会頭の3氏は、「2%成長は可能。株価も上がるだろう」との見方を揃って示した。他にも税制や政

権への要望、参院選の争点などについて、それぞれ見解を述べた。その中から北城氏の発言を紹介する。

007 2006/12-2007/01 keizai doyu

経済3団体長新年合同記者会見

持続的経済発展に対する最大のリスク要因は財政だ

北城代表幹事

景気見通しは税制・経済政策について

選挙の年、争点は何か