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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title � : Author(s) �, Journal �, 109(2): 108-109 URL http://hdl.handle.net/10130/1867 Right

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title脳神経外科診療の最前線 : 市川病院における低侵襲治療

への取り組みとトピックス

Author(s) 菅, 貞郎

Journal 歯科学報, 109(2): 108-109

URL http://hdl.handle.net/10130/1867

Right

Page 2: 脳神経外科診療の最前線 : 市川病院における低侵襲 ...ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/1867/1/109_108.pdfは1週間前後かかります。これより侵襲の少ない治

東京歯科大学市川総合病院脳神経外科は,平成4年に市川病院外科の1部門として出発し,その後に脳神経外科として独立して現在に至っております。平成14年に私が赴任し,さらに平成17年に市川病院増床にともなって脳卒中センターが開設され,平成18年には血管内治療専門医の片山正輝講師を迎え,脳卒中の先端医療に力を傾注しています。また,歯科と関連の深い三叉神経痛の治療や脳腫瘍に関しては,島本佳憲准教授が診療にあたっており,計3名の少数精鋭で脳神経外科診療にあたっております。脳神経外科領域における最近のキーワードは「低

侵襲」,「multimodality approach」です。特に「小さな切開で行う手術」,「切らずになおす手術」といったキャッチフレーズで新しい治療法が展開されています。例えば「小さな切開で行う手術」では,視野が狭いため,位置情報を術野に外挿するためのナビゲーションシステム,また直視下の背後に隠れる視野確保のための内視鏡,などが用いられています。一方,「切らずになおす手術」としては,頭を開けずに鼠径部などから動脈穿刺し,血管の中に細いカテーテルを挿入し,それを用いて様々な病気を治療する血管内手術,特殊な放射線治療として病巣を1回の照射で治療するガンマナイフ,などがあります。本稿においては,当院で行われている脳卒中診療のトピックスと低侵襲医療,三叉神経痛では手術とガンマナイフ治療のmultimodality approachについて概説し,最後に患者に優しい手術を紹介したいと思います。

1.脳卒中診療

急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法平成17年に我が国においても血栓溶解薬の tissue

plasminogen activator(t-PA)が認可され,脳梗塞の急性期治療が大きな転換期を迎えました。それま

で脳梗塞患者の4人に1人しか社会復帰できなかったものが,この薬を使用すると5人に2人が社会復帰できるという画期的な薬です。ただ問題は3時間以内に投与しなければ効果が認められない点と,使用法に禁忌事項が多く,適応に習熟する必要がある点です。幸い,当院では神経内科と協力して,24時間365日この治療法ができる体制を組んでいます。おかげさまで,千葉県内でも有数の30例近くの症例を重ね,t-PA使用例では40%近くの患者が大きな後遺症なく社会復帰されるという成績をおさめています。頸部頸動脈狭窄症に対するステント治療脳梗塞にはいくつかの成因がありますが,その中

の一つに頸部頸動脈狭窄症があります。これは頸部の頸動脈が動脈硬化によって狭窄し,脳への血流が低下したり,また狭窄部位から血栓が脳に飛んで脳梗塞を来すものです。この場合,狭窄が高度になると外科的治療で狭窄部位を広げなければなりません。従来は,頸動脈を直接切開し,たまった動脈硬化の垢を取り除く頸動脈内膜剥離術が行われていました。しかしながら平成20年4月より低侵襲な血管内手術法であるステント術が保険で認可され,当院でも行われるようになりました。これは鼠径部からカテーテルを狭窄部位まで誘導し,狭窄部位をバルーンで拡張した後にメッシュ状の金属の筒(ステント)を狭窄部位に押し付けて拡げ,再度狭窄しないようにする血管内手術です。鼠径部に小さな傷があるだけで,入院日数も数日ですみます。最近では徐々にステント治療が増えてきています。脳動脈瘤の塞栓術くも膜下出血は突然の頭痛で発症し,3人に一人が

おなくなりになってしまう致命率の高い病気です。この原因の大部分が脳動脈瘤の破裂です。そして,いったん破裂した脳動脈瘤をそのまま放っておく

脳神経外科診療の最前線―市川病院における低侵襲治療への取り組みとトピックス―

菅 貞 郎市川総合病院脳神経外科

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と,再度出血して致命的になるので,再出血を予防するために脳動脈瘤を処置する必要があります。従来は開頭術を行って動脈瘤の根元をクリップで止めるクリッピング術が行われていましたが,最近では血管内手術で,動脈瘤の中に細いカテーテルを誘導し,それを通して極細のプラチナコイルを瘤内に詰めて血管の中から動脈瘤を塞栓する方法が広まってきています。これも頭を開く事がないので,脳への侵襲が少ない治療法です。ただ,コイル塞栓術にも一長一短があり,当院では開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術を症例に応じて選択して行っています。脳出血の低侵襲外科治療従来,脳出血の外科治療というと,開頭血腫除去

術でした。ただ,この方法は顕微鏡を使って脳に小さな切開を加えて血腫を取る方法でしたが,脳への侵襲があり,内科療法に比べて生命予後は勝るものの,機能予後ではあまり良好な成績とは言えませんでした。これに対して,最近ではより低侵襲な定位的血腫除去術や内視鏡下血腫除去術が行われています。定位的血腫除去術とは,CT画像より血腫の位置を3次元的に評価し,血腫の中心に太い穿刺針を挿入して血腫を吸引する方法です。この場合は局所麻酔で可能で,脳への侵襲もほとんどありません。一方,内視鏡を使った手術は,脳に小切開を加え,外套を血腫腔に挿入し,外套内を通じて内視鏡や吸引管,電気メスを挿入して血腫を除去する方法です。定位的血腫除去術に比べて,血腫除去の確実性,止血操作可能ゆえの安全性が勝りますが,逆に定位手術に比べて外套が太い分,やや侵襲的といえます。脳卒中センターと嚥下パス脳卒中患者の大部分は当院北病棟5階の脳卒中セ

ンターに入院します。センター内には特に急性期の脳卒中治療を行う Stroke Care Unit(SCU)があります。SCUは脳卒中急性期の患者様に手厚い看護と急性期からリハビリを行うために設けられています。この脳卒中センターでは,脳神経外科医,神経内科医,リハビリ医,歯科・口腔外科医,看護士,リハビリスタッフ,ソーシャルワーカーが合同カンファレンスを行い,統一した基準で協力して治療に

あたっています。また,歯科大学の特徴を生かし,オーラルメディシン・口腔外科と協力し,嚥下リハビリや口腔内の清潔管理を積極的に行い,早期からの経口摂取,誤嚥による肺炎予防に取り組んでいます。

2.三叉神経痛のmultimodality approach

歯科領域との関連の深い疾患に三叉神経痛があります。三叉神経痛は頭蓋内血管(上小脳動脈など)の三叉神経根部への圧迫が神経痛の原因となっていると言われています。歯痛として歯科を受診される場合が多く,多くの患者を3病院からご紹介いただいています。ただ鑑別疾患として小脳橋角部の腫瘍や血管奇形などがあり,これらの器質的疾患を画像診断で除外する必要があります。治療としてはカルバマゼピンの投与が行われます

が,薬剤性肝障害やふらつき,傾眠などの副作用で内服継続が困難になる場合もあります。このような場合は,開頭手術による神経血管減圧術を考慮することになります。これは圧迫血管を神経から離す根治術で,手術成功率は90%以上です。ただ,全身麻酔をかけるリスクがあり,術後の回復,退院までには1週間前後かかります。これより侵襲の少ない治療法としてガンマナイフがあります。ガンマナイフとは放射線を病変の形状にあわせて集中的に照射する方法の1つです。三叉神経痛でも,ガンマナイフを三叉神経に照射することで,疼痛の寛解が得られます。1回の照射で済み,また有効率も高く,手術に比較して低侵襲で,特に高齢者には有益です。ただ,当院にガンマナイフがないために他施設を紹介しています。

3.患者にやさしい部分剃毛手術

昔は脳外科の手術と聞くと,頭を剃って丸坊主にならなければいけなかったのですが,現在では予定手術の場合,ほとんど剃毛しません。基本的には術前のシャンプーと術前術中の抗生剤投与,術後も48時間以降は早期の洗髪を行う事で,それ以前の剃毛手術同様にほとんど感染例はありません。開頭術後もそれとわからず,女性の患者に好評です。

歯科学報 Vol.109,No.2(2009) 109

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