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鹿島神宮門前町の再生を考える集い 鹿嶋市では、「第22回すまい・まちづくり設計競技」を もとに平成17年7月3日(日)13:00~16:30鹿島 商工会館3階でシンポジウムを開催した。 第1部には入賞者4チームの発表がなされひきつづき 第2部でパネルディスカッションが行われた。 ◇パネリスト 内田俊郎氏(鹿嶋市長) 笹本良男氏(鹿嶋市鹿島商工会会長) 内田公男氏(鹿嶋市観光協会理事) 鹿島則良氏(鹿島神宮宮司) 田口伸一氏(鹿島神宮門前町地区若手代表) ◇コーディネーター 斉藤義則氏(茨城大学地域計画研究所所長) ◇アドバイザー 設計競技入賞者4チーム 鹿島の再生にむけて 内田市長 第1部の発表に引き続き、 第2部の「鹿島神宮門前町を考える集 い」に参加いただきありがとうござい ます。40年前に始まった鹿島開発か ら現在まで、鹿島地区は大きな変化 を遂げてきました。そして我々は今、 まちづくりの次のステップに向かわな ければならないと感じております。地 域間競争や自治体再編などに伴って、 地方自治体のあり方も問われてきて いる状況の中、今回応募していただ いた皆さんの知恵を拝借しながら、鹿 島神宮を中心としたまちづくり再生事 業を進めていきたいと思います。その ためには地域住民の方々と一緒に取 り組む必要があります。将来に向け て今日の議論を参考にしたいと考え ています。 斉藤(以下、司会) それではディス カッションを始めたいと思います。先 ほど、「すまい・まちづくり設計競技」 入賞者の発表がありましたが、全34 作品の応募があり、県内からは5つの 応募がありました。とてもユニークで、 リアリティのある提言ばかりです。第 2部は入賞者の方々と一緒に、観光 協会の方や鹿島神宮宮司さんなどに 加わってもらい、積極的に議論できれ ばと思っています。今日は「考える集 い」と銘打っているわけですから、会 場の皆さんも参加してください。 それでは初めに、鹿島神宮門前町 の再生について普段考えておられる ことを、パネリストの皆さんからお話 していただきたいと思います。門前町 若手代表の田口伸一さんから順番に お願いできますか。 田ロ 私は、一昨年に立ち上がった 中町区の青年部や、商工会の青年部 などに参加しているのですが、若手 が商店街づくりに取り組んでいる中で 問題になっていることがいくつかあり ます。まず、若手という立場で課題に 取り組もうとすると、大きな全体像を 見ずにできることから始めてしまう傾 向があります。できるかできないかの どちらかで判断し、行動してしまいま す。逆に、全体を考えてから行動を 起こそうとすると、議論ばかりで一歩 も前に進まないといったジレンマを抱 えることがあります。そういった意味 では、今日のように多くの提案を見る ことができたことはよかったというの が率直な感想です。ソフトから考える 提案が多く見られましたが、ソフトと ハードを一体化させて、あるべき姿を 視野に入れながら、日々の行動を起こ していくことが大切だと私は感じてい ます。 内田(公)私は皆さんの提案の中で は阿部先生の提案にとても惹かれま した。まちの歴史を紐解いて、道の クランクを残しながら昔のものを掘り 起こし、上手に現代風にアレンジされ ています。外からのお客さんを招き つつ、住むための環境も整備されて いた案だと思います。 私のように観光協会に関わっている 者としては、鹿島というまちにある多 くの業態について考えていかなけれ ばならないと思っています。2002年 のワールドカップをきっかけに交通イ ンフラが整備されたのに伴い、飲食 店や宿泊業の業態も変わってきてい ます。変化に合わせて話し合ってい くときなのではないかと感じていると ころです。 7「家とまちなみ

鹿島神宮門前町の再生を考える集い · 鹿島神宮門前町の再生を考える集い 鹿嶋市では、「第22回すまい・まちづくり設計競技」を もとに平成17年7月3日(日)13:00~16:30鹿島

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鹿島神宮門前町の再生を考える集い

鹿嶋市では、「第22回すまい・まちづくり設計競技」を

もとに平成17年7月3日(日)13:00~16:30鹿島

商工会館3階でシンポジウムを開催した。

第1部には入賞者4チームの発表がなされひきつづき

第2部でパネルディスカッションが行われた。

◇パネリスト

 内田俊郎氏(鹿嶋市長)

 笹本良男氏(鹿嶋市鹿島商工会会長)

 内田公男氏(鹿嶋市観光協会理事)

 鹿島則良氏(鹿島神宮宮司)

 田口伸一氏(鹿島神宮門前町地区若手代表)

◇コーディネーター

 斉藤義則氏(茨城大学地域計画研究所所長)

◇アドバイザー

 設計競技入賞者4チーム

鹿島の再生にむけて

内田市長 第1部の発表に引き続き、

第2部の「鹿島神宮門前町を考える集

い」に参加いただきありがとうござい

ます。40年前に始まった鹿島開発か

ら現在まで、鹿島地区は大きな変化

を遂げてきました。そして我々は今、

まちづくりの次のステップに向かわな

ければならないと感じております。地

域間競争や自治体再編などに伴って、

地方自治体のあり方も問われてきて

いる状況の中、今回応募していただ

いた皆さんの知恵を拝借しながら、鹿

島神宮を中心としたまちづくり再生事

業を進めていきたいと思います。その

ためには地域住民の方々と一緒に取

り組む必要があります。将来に向け

て今日の議論を参考にしたいと考え

ています。

斉藤(以下、司会) それではディス

カッションを始めたいと思います。先

ほど、「すまい・まちづくり設計競技」

入賞者の発表がありましたが、全34

作品の応募があり、県内からは5つの

応募がありました。とてもユニークで、

リアリティのある提言ばかりです。第

2部は入賞者の方々と一緒に、観光

協会の方や鹿島神宮宮司さんなどに

加わってもらい、積極的に議論できれ

ばと思っています。今日は「考える集

い」と銘打っているわけですから、会

場の皆さんも参加してください。

 それでは初めに、鹿島神宮門前町

の再生について普段考えておられる

ことを、パネリストの皆さんからお話

していただきたいと思います。門前町

若手代表の田口伸一さんから順番に

お願いできますか。

田ロ 私は、一昨年に立ち上がった

中町区の青年部や、商工会の青年部

などに参加しているのですが、若手

が商店街づくりに取り組んでいる中で

問題になっていることがいくつかあり

ます。まず、若手という立場で課題に

取り組もうとすると、大きな全体像を

見ずにできることから始めてしまう傾

向があります。できるかできないかの

どちらかで判断し、行動してしまいま

す。逆に、全体を考えてから行動を

起こそうとすると、議論ばかりで一歩

も前に進まないといったジレンマを抱

えることがあります。そういった意味

では、今日のように多くの提案を見る

ことができたことはよかったというの

が率直な感想です。ソフトから考える

提案が多く見られましたが、ソフトと

ハードを一体化させて、あるべき姿を

視野に入れながら、日々の行動を起こ

していくことが大切だと私は感じてい

ます。

内田(公)私は皆さんの提案の中で

は阿部先生の提案にとても惹かれま

した。まちの歴史を紐解いて、道の

クランクを残しながら昔のものを掘り

起こし、上手に現代風にアレンジされ

ています。外からのお客さんを招き

つつ、住むための環境も整備されて

いた案だと思います。

 私のように観光協会に関わっている

者としては、鹿島というまちにある多

くの業態について考えていかなけれ

ばならないと思っています。2002年

のワールドカップをきっかけに交通イ

ンフラが整備されたのに伴い、飲食

店や宿泊業の業態も変わってきてい

ます。変化に合わせて話し合ってい

くときなのではないかと感じていると

ころです。

7「家とまちなみ  

Page 2: 鹿島神宮門前町の再生を考える集い · 鹿島神宮門前町の再生を考える集い 鹿嶋市では、「第22回すまい・まちづくり設計競技」を もとに平成17年7月3日(日)13:00~16:30鹿島

パネルディスカッション出席者の方々

 また、鹿島アントラーズのおかげで

「茨城の鹿島」とわかってもらえるよう

にもなりました。それはとてもうれし

いのですが、まち側が人を受け入れ

る体制が不十分だということもわかっ

てきました。ワールドカップで実感し

たのは、たとえば、サインが野中にあ

ればわかりやすく、歩きやすいですよ

ね。そういうことも、まちづくりへの第

一歩だと思います。

笹本 私たち商工会の人間も、どう

いう行動を起こせばいいのか一・緒に

なって考えていきたいと思っています。

60~70年前ぐらいには、今日皆さん

からお聞きしたようなことが現実にあ

りました。たとえば、関東鉄道の駐車

場になっている場所はお祭り広場と

して使われていましたし、神宮の森と

まちは一体となっていました。それが

この60年で環境が激しく変わってき

ました。でも最近では、田ロさんのよ

うな若手の方々が魅力的な商店街を

つくるためにいろいろと動いてくれて

いて、そういう行動もまちに刺激を与

えるという意味ではいいことだと思い

ます。

司会 神宮とまちが昔は一体となって

いたということですが、宮司さんはど

のようにご覧になっていますか。

鹿島 歴史的にみると、鹿島神宮は

関東以北では最も古いお社で、皇紀

元年、神武天皇元年のこ鎮座と言わ

れています。各時代の武家の恩恵を

受けてきましたが、江戸時代に民間信

仰が出てきて、鹿島神宮は幕府から

二千石のご朱印を頂戴して、鹿島と

いう門前町が栄えたと考えています。

明治維新になると国の管理下に置か

れ、終戦まではたくさんの人がご参拝

になっておりました。しかし、終戦を

迎えて、昭和21年に宗教法人となっ

た頃から大変な苦労をされるとともに、

門前町も寂れていったのではないか

と思います。

 市長さんや笹本さんのお話しにあ

りましたように、昭和40年代の鹿島開

発をきっかけに、まちの様子が変わっ

てきます。中学校が移転し、関東鉄道

が移り、住友金属の操業が始まりま

す。昭和44年には鹿島町役場が神宮

境内の脇から平井の方へ移ります。今

になって考えると、そのことが鹿島の

まちや宮中にとって大変な痛手だった

のではという気がしています。

 私は、鹿島神宮門前町の再生につ

いては、参拝者、交通機関、駐車場

の問題が関わってくると思っています。

金比羅さんや太宰府天満宮、成田山

といったところはそれぞれの神社仏閣

から少し離れたところに駐車場があり

ます。その駐車場と神社の間に門前

町が形成されております。ですから、

門前町というものは、交通手段によっ

て人の流れを大きく左右されるものな

のです。高速バスが使われはじめた

頃から、鹿島神宮へ参拝に来られる

方が増え、今年の参拝者は200万人

ぐらいを想定をしているのですが、ほ

とんどが1月にお越しになる方です。

私たちとしては、1月に参拝してもらう

だけではなく、ほかの月にも来ていた

だきたいと思って努力しているところ

です。お祭り広場的な、まちと一体と

なったものにしたいと思ってもいます。

今回の入賞者の方々の提案で感心し

たことは、大町通りだけではなく、中

町通りを含めた面で門前町を構成さ

れていました。その面に、いかに参拝

客を散らすことができるかということ

が大事なのかなと思います。

内田市長 鹿島さんが言われたとお

り、昭和44年に鹿島町役場が現在地

に移ってから大きな動きが起こったと

思います。それによって行政需要は増

大しましたが、それ以降は需要の増大

に追いつかない体制で、何もかも後

づけ方式で地域づくりがおこなわれて

きた気がします。しっかりしたまちづ

くりの計画があって、行政施設の配置

を決めながら進めるべきものです。今

は、そういう反省点に立たなければな

りません。

家とまちなみ52  P79

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地域資産の活用がまちを

再生させる

司会 皆さんどうもありがとうござい

ました。少し整理させていただくと、

将来目標を共有できているかどうか

が問題であるのではと思います。計

画的移行をこれまではやってこなか

ったわけですから、これからはそれが

重要だということですよね。

 また、入賞された皆さんの提言で

わかったことは、緑や水、地籍、コミ

ュニティ、回遊、クランクといった地域

の宝物がまちには眠っているというこ

とです。それらを鹿島神宮や周辺地

区にどのように活かしていくか、神宮

の資産と地区の特性を踏まえた上で、

ビジョンを考えなければいけません。

田口さんは若手の問題点を述べられ

ていましたが、そのあたりを少し詳し

く話していただけますか。ビジョンと

して具体的に何か考えておられるの

でしょうか。

田ロ まちづくりということに対する

意識の問題だと思うのですが、まちに

住んでいるだけでも普通に過ごせま

す。だから、まちをどうしていきたい

かということを考えるモチベーション

がありません。ふたつ目に、何かをや

っていこうとするときに、勉強する方

法を知りません。たとえば、お客さん

に来てもらえるような魅力ある商店街

について考えると、店舗や業種が重

要になってきます。商店街づくりの参

考にするために、他の地域のショッピ

ングモールなどを見に行くのですが、

どこも圧倒的な集客力です。それを

見ると、自分たちの地元で同じことが

できるのかと思い、つまずいてしまい

ます。商店街としてのビジョンと祭り

の山車が通れるような賑わいのあるビ

ジョン、そして門前町としてのビジョン

8「家とまち襯㎜〉

会場風景

といったそれらが頭の中で整理がつ

かなくなってしまうんです。

司会 整理がつかずに、方向が定ま

らないわけですね。では、会場の皆

さんの中で、こういう長期目標を掲げ

たらどうかというご意見をお持ちの方

はおられますか。具体的な目標でも

かまいません。

客席1 私は今回の提案の中で、地

域をグリーンベルトで取り込む藤田先

生の発想は独創的なアイデアだと思い

ました。鹿島神宮は緑が多いと言わ

れますが、どれだけ緑があるのか考

えてみると、この地域の中では少ない

方だと思います。都会でも緑が街中

に溶け込んでいるところはありますよ

ね。そういう場所を参考にしてみると

やれるんじゃないかなという気がしま

す。もう一度、鹿島神宮周辺を緑あふ

れるまちにするということを目標にし

たいと思っています。

司会 鹿島神宮の森は、昭和38年に

天然記念物に指定され、昭和61年に

は国の史跡に指定されているために、

境内の環境整備もなかなかうまく進ん

でいないのが現状のようです。それ

に、緑が資産であり、それを外にも広

げていこうという発想は、地元に住ん

でいるとなかなか出てこないですよ

ね。それは行政や事業者、市民の皆

さんも一緒になって議論する上での

ひとつのキーワードになると思います。

それから二瓶先生の提案にありました

細長い地形などを活かすこともこれか

ら考えていくべきことですね。緑と今

まで暮らしてきた土地を中心に、まち

の特性を壊さない提言にはとても共

感できました。

客席2 話は少し大きくなりますが、

私は、政府が推進している観光立国

という観点で捉えたら海外の人も鹿

島神宮まで呼び込むことができるんじ

ゃないでしょうか。門前町特区という

ことを起爆剤に、具体性あるものをひ

とつずつ詰めていけるのかなという

気がしてます。

司会 これまでは神宮、商店街、生

活環境の整備……そのどれもが個別

にやってきたと思うんです。相互の関

係ができていないから、いまだに無秩

序に混ざり合う状態が続いている。だ

から、今言われたように、これからは

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具体性あるものに取り組んでいかな

ければまちも変わりません。緑、水、

クランク、地形といった特徴を活かし

て、商店街や生活環境がよくなるよう

なことを具体的にやっていけば、たし

かに海外からも多くの人が来るかもし

れません。それは行政だけではとて

もじゃないけどできない。市民、事業

者、行政が対等な立場で一緒にやる

しかないんです。市長さんはそういう

ことを一生懸命やろうとしていますが、

効果はいかがですか。

市長 たとえば具体的に言うと、宮中

商店街、駅前の整備、聖心短大跡の

まちづくり支援センター、鹿島スタジ

アム、そして鹿島神宮といったポイン

トとなるところ同士のつながりを、ど

うとらえるかも大事です。私はそうい

うことをまちづくりの中心としてやって

いきたいと思っています。たとえば、

商工会館も、地区の情報発信や地域

の商工業者の活動拠点として、鹿島

神宮門前町にもいい影響が与えられ

るようにと建設したわけです。こうい

う施設も大事にしながら活動を有機

的に結びつけ、活発に支援していく

体制づくりをしなければなりません。

次の時代に向けて人の流れを見極め、

民間の皆さんの意向を尊重しながら、

行政施設や民間施設の配置を決めて

いくのかということが大切なのではと

思っています。

 ただ、主体となるところをどこに置

くかですよね。茨城大学地域総合研

究所の鹿島研究センターが置かれま

したので、地域の調査研究も活発に

なってきました。鹿島にある施設や企

業の協力も得て、それらを地域にど

う結びつけていくかも学術的に調査

させてもらっています。また、地元の

商工業者さんの力は相当ありますか

  鹿島神宮告解町の再生を考える集い

ら、それをどうずれば発揮できるか、

そういう場はどうずればつくれるかと

いうことです。たとえば、鹿島祭りの

運営は昨年ぐらいから、若い方々の

発想が盛り込まれたことで変化してき

ています。より楽しんでもらえるよう

になることで、結びつきが生まれ、商

店街の活性化につながると思います。

海外との交流でも同じです。韓国の

ソギポ市と姉妹都市の締結をし、韓

国の商工業者との交流も生まれまし

た。向こうから我々に訴えてくるもの

は強くありますが、鹿島からどれだけ

PRできるかも大事なんです。鹿島か

らも情報発信をしたい。そういうこと

も含めて、多くの団体とのやり取りを

うまくコーディネートしていきたいと思

っています。

できることからはじめることが

大切

司会 一体何をどうやるべきなのか、

そのあたりを皆さんにもう少しお聞き

したいと思います。藤田先生は、空

地を資源だと捉え、空地がまちの骨

格をつくると提案されています。空地

に木を植えるだけで、新たなまちに

生まれ変わる。地域のそういう特徴

をうまく使いこなせば、魅力的なもの

はっくれるのだから、区画整理などは

やらないほうがいいとおっしゃってい

ます。二瓶先生は、部分から変えて

いけば、いずれまち全体が変わるとい

うことを提案されています。入賞者の

方々の提案について、若手の田口さ

んは何かご意見ありますか。

田口 空地を活用するという提案に

はとても共感しています。たとえば、

道路すら巨大な空き地なんじゃない

かなと思うんです。歩行者天国のとき

にはみんながそこに集って、イベント

を催したり子どもたちが遊んだりす

る。そういう光景は楽しいですし、簡

単にできそうです。身近にできること

をやりながら続けていけそうだと感じ

たら、事業としてやってみるのがいい

んじゃないでしょうか。

客席3 私も似たような考えなのです

が、この前、鹿島にある天神様という

話がテレビで放映されていました。そ

ういうものがあるとは知らず、調べて

みたら笹本石材の社長さんが立派な

天神様をつくったんです。ほかにも観

光馬車をつくった人もいます。そうい

う身近な小さなものが鹿島の新しい

名所になってくると、まちが活性化さ

れていくのではないでしょうか。実際

にできるものはどんどんやってみるこ

とが大事なのかなと思います。

司会長期目標を大きく掲げなくても、

すぐやれるものはたくさんあるわけで

すよね。計画というものは、時代の変

化に合わせて見直していくことが必要

でしょうし、それはとても重要なご指

摘だったと思います。そうすると、ま

ちが変わっていくのかなと私も思いま

す。それでは最後に入賞者の方にお

ひとりずつ、一言いただいて終わりに

したいと思います。

藤田 伊勢のような活気あふれるまち

を見ると、幾つかのキーワードがあり

ます。資源としてまちには水があり、

歴史的な道がある。あるいは歴史そ

のものです。また、お祭りといった催

し物も必ずあるのですが、実はそれ

らほとんどのものが鹿島にも同じよう

にあるわけです。だから鹿島も同じ

ようにやれるはずだと思います。でも、

成功しているまちは必ず拠点的なもの

をつくっています。伊勢ではおかげ横

町です。そこを拠点にすることで、周

りにモデルとして示しています。周り

家とまちなみ52〈2005.9> 81

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の人もお手本があるとわかりやすいで

すよね。それだったら我々もやろうと

全体に広がっていくわけです。点から

線、そして面に展開していくことでま

ちがよくなっていると思います。神社

でお参りをしたら帰るだけという単純

な流れから、参道に立ち寄っていくよ

うな流れに変わっていく。私たちが、

パッと見たときに「あ、いいな」と思え

る魅力的なまちをつくれば、それは必

ず成功すると思います。

二瓶 難しく考えるよりも、今よりも

快適に、心地よく住み、商売は楽しく

やるということでいいと思うんです。

住んでいる人が楽しく、快適に生活し

ていれば、外から来る人もまちを楽し

く歩けるわけです。鹿島さんから歴

史の話をお聞きしてよくわかったので

すが、門前町の土地利用や空間構成

は、戦後になってかなり混乱していま

すよね。それをコンペの原点に戻って

いただいて、住まいや店舗、駐車場

を再配置する方策でまちを再生させ

ていただきたいと私は考えています。

たとえば区画整理にしても、住人が地

権者として参加するような再生組合を

つくり、その組合を市が指導するよう

な形で換地をすることも考えられます

よね。市が新しい援助システムをつく

ることでできることもあります。それ

と、鹿島神宮門前町については無理

しなくても経済的な再生システムが見

つかるはずです。課題はいろいろと

あるかもしれませんが、鹿島神宮門

前町でできることは、日本各地の同じ

ようなまちにとってもいいモデルケー

スになるはずです。ぜひ皆さんに頑

張っていただいて、先鞭をつけるよう

な地域計画の方向性を示していただ

きたいと思います。

川岸 二瓶さんのお話の続きになり

82 u家とまちなみ  〉

ますが、市民参加するのは今や当た

り前ですよね。市民主体という言葉に

しましよう。新しいコミュニティや新た

な価値観を発見することだってできる

と思います。たとえば、私はワークシ

ョップをよくやるのですが、何が目的

なのかよく聞かれます。ワークショッ

プをおこなう一番の目的は、ほかの入

の話を聞けるということです。作業を

通しながら主体的に、一緒に共働す

る。そういうことはとても重要だと思

います。また、我々のように外から来

る人たちを「風の人」と言います。土

地に住んでいる人を「土の人」と言い

ます。土の人は、風の人の意見を聞

くということが大事です。多くの人の

意見に聞く耳を持って傾けることで、

反省と次の行動につながるわけです。

風の人と土の人が混じり合ってこそ、

文字通り「風土」になるんですよ。

阿部 地域資源について、今日はい

ろいろな意見が出ましたが、日本各地

にはいい風景やいい地域というものが

山ほどあると思います。でも、地元の

人はほとんどそれを認識されていな

いのが実態です。まずは地元が地域

資源をしっかりとらえることが第一で

あって、それから保全するのか、活用

するのか、新たに何かをつくるのかと

いったことが大事になるのかなと感じ

ました。また、海外の魅力的な観光パ

ンフレットや、東京の世田谷区や武蔵

野市のような市民と行政が連携して緑

を増やしている先進的な事例を参考

にされるのもひとつの方法だと思いま

す。それと、観光地域間での連携も

考えられますよね。佐原や水戸、筑波

といった地域まで一体となって含める

ことで、注目されることも十分あり得

ると思います。一番重要なのは、地域

コミュニティの大切さです。風景とい

うのは絵に描いた餅ではなくて、そこ

で暮らしていく人の現れですから、歴

史や風土によって育まれてきた風景を

大切にしていく中で、世代間の交流や

地域内外との交流ができていくわけで

す。鹿島もきっといい方向に向かって

いくと感じています。

司会入賞者の皆さん、パネリストの

皆さん、どうもありがとうございまし

た。これから私たちは、今日を新たな

スタートとして目標を共有しながら、

今できることをやっていくことが大切

だと改めて感じました。事業者と市

民と行政が、それぞれが主体的で、対

等に協働すれば変わっていける。そ

ういう動きも既に鹿島にはでてきてい

ますので、それらをうまくつないでい

くと、うまく再生されていくのではと思

います。会場の皆さんもありがとうご

ざいました。それではこれで「考える

集い」を終わりにします。