4
1. 研究の背景と目的 我が国における小・中学校施設は高度経済成長期に 大量供給され、築後 30 年以上経過した多くの施設は大 規模改修や改築などの施設整備が必要な時期を迎えて いる。既存施設について総括的な評価を行うことが今 後の重要な課題といえるが、持続可能な社会の構築が 時代の要請であるいま、その尺度として環境評価が用 いられることが多い。現在我が国では、学校施設の建 築環境性能評価として「CASBEE 学校」が多く用いら れており、「学校施設における総合的な環境評価手法」 としてまとめられたその評価によって施設全体として の評価を行うことが可能である。しかし複数の棟によっ て構成される大規模な建築物である学校施設において は施設内の場所によりその環境が異なるため、施設単 体での評価には問題がある。さらに子どもの成育環境 である小・中学校施設では、場所に応じた環境性能の 評価のみならず、利用主体と環境とをつなぐ環境心理 的な側面への配慮も極めて重要な課題といえる。以上 より今後の学校施設整備において、これまでの環境性 能評価に加え、建築計画の視点や利用主体と環境との 関係を考慮した評価を行うことが重要であると考える。 本研究では、既存学校施設について建築計画的な視 点により施設環境を分析し、これまでの環境性能評価 との比較検討を行う ( 図 1)。また、その結果と学校施 設における利用主体の環境に対する意識や行動との関 係を分析することで、小・中学校の施設評価として考 慮すべき項目や課題について考察し、今後の学校施設 整備における新たな指針を得ることを目的とする。 2. 研究の方法 調査概要を表 1 に示す。まず① F 市内の全小・中学 校 125 校について、「CASBEE 学校」による環境評価 シミュレーションを行い、その傾向を分析した。②また、 学校建築計画の諸要素を、環境心理的な視点により整 理し、①の特に空間に関わる項目との比較を行うこと で、既存校舎の環境について分析した。③それらをも とに調査対象校 5 校を選定し、各学校における利用主 体の環境に対する意識傾向を得るため、児童や教師に 対して場所の指向に関するアンケート調査や観測調査 を行った。④、③における結果と、①と②との関連性 を分析することで、学校施設整備における環境評価の 課題を考察した。 3. 環境性能評価 3-1.CASBEE 学校の概要 CASBEE 学校の評価項目を図 2 に示す。本研究では主 に、CASBEE において「ユーザーの生活アメニティの 向上」として定義される「Q(環境品質)」の暑熱、光、 音、規模に関する項目を対象に研究を行った。 3-2.BEE(全体の評価点)による施設評価 F市小・中学校 125 校に対して CASBEE による環境 評価を行った。評価結果を図 3 に示す。BEE=0.9 の学 校は 10 校(小学校 8 校、中学校 2 校)、BEE=0.8 の学 校は 100 校(小学校 69 校、中学校 31 校)、BEE=0.7 の学校は15校(小学校8校、中学校7校)となっており、 BEE=0.8 に該当する学校が最も多く、また BEE=0.9 に 該当する学校は少ない。 3-3.CASBEE 評価項目別施設評価 続いて、BEE からみた分類別に CASBEE における 評価項目 Q1 ~ LR3 について , その得点の分析を行っ た。BEE の評価別(0.9、0.8、0.7)に Q1 ~ LR3 の 学校施設における環境評価と建築計画的課題に関する研究 今林 寛晃 36-1 図 1. 学校施設における建築環境評価 表 1. 本研究の調査概要 調査方法 シミュレーション 資料調査 2011.11~ 2012.4 2012.4~ 2012.12 2012.10~ 2012.12 2012.12~ 2013.1 2013.1 ヒアリング調査 アンケート調査 観察調査 調査概要 時期 F 市 125 校を対象に CASBEE 学校 ( 既存 ) による建築 環境性能評価を行った。 資料分析や実測調査により、F 市 125 校の建築計画的な 特徴を整理・類型化した。 F 市 125 校より 5 校を抽出し、環境に関するヒアリング を行った。 5 校を対象に、環境と指向する場所に関するをアンケート 調査を行った。 アンケートを行った5校に対して児童や教師の休み時間の 行動を観察した。 評価部位の計測・測定など 類型化・体系化など 意識調査、行動観測など 施設の計画的な特徴の把握 環境性能の見える化→施設単体での評価 学校施設における建築環境評価 方法 方法 目的 目的 ■建築計画的視点 ■環境性能評価 ■環境評価と利用主体の行動や意識との関連 これまでの環境評価 計画的視点を考慮した評価 敷地面積に対する建築面積の 大きさ 北向き窓面 A ≠南向き窓面 B 大通りに面する A ≠公園に面する B 所定面積を満たしている ( 平均 ) ( 平均 ) 500lx≦CR <750→Lv.4 50dB≦CR<60dB→Lv.2 該当なし 図書室のとなりの B 理科室のとなりの A 音環境 光環境 施設のゆとり 建築面積 3080 ㎡ A B A B 建築面積 3030 ㎡ 道路 公園 理科 図書 CR A CR B 閉じた窓

学校施設における環境評価と建築計画的課題に関する研究 · 学校施設における環境評価と建築計画的課題に関する研究 今林 寛晃 36-1

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1.研究の背景と目的 我が国における小・中学校施設は高度経済成長期に大量供給され、築後 30 年以上経過した多くの施設は大規模改修や改築などの施設整備が必要な時期を迎えている。既存施設について総括的な評価を行うことが今後の重要な課題といえるが、持続可能な社会の構築が時代の要請であるいま、その尺度として環境評価が用いられることが多い。現在我が国では、学校施設の建築環境性能評価として「CASBEE 学校」が多く用いられており、「学校施設における総合的な環境評価手法」としてまとめられたその評価によって施設全体としての評価を行うことが可能である。しかし複数の棟によって構成される大規模な建築物である学校施設においては施設内の場所によりその環境が異なるため、施設単体での評価には問題がある。さらに子どもの成育環境である小・中学校施設では、場所に応じた環境性能の評価のみならず、利用主体と環境とをつなぐ環境心理的な側面への配慮も極めて重要な課題といえる。以上より今後の学校施設整備において、これまでの環境性能評価に加え、建築計画の視点や利用主体と環境との関係を考慮した評価を行うことが重要であると考える。 本研究では、既存学校施設について建築計画的な視点により施設環境を分析し、これまでの環境性能評価との比較検討を行う ( 図 1)。また、その結果と学校施設における利用主体の環境に対する意識や行動との関係を分析することで、小・中学校の施設評価として考慮すべき項目や課題について考察し、今後の学校施設整備における新たな指針を得ることを目的とする。2. 研究の方法 調査概要を表 1 に示す。まず① F 市内の全小・中学校 125 校について、「CASBEE 学校」による環境評価シミュレーションを行い、その傾向を分析した。②また、学校建築計画の諸要素を、環境心理的な視点により整理し、①の特に空間に関わる項目との比較を行うことで、既存校舎の環境について分析した。③それらをもとに調査対象校 5 校を選定し、各学校における利用主体の環境に対する意識傾向を得るため、児童や教師に対して場所の指向に関するアンケート調査や観測調査

を行った。④、③における結果と、①と②との関連性を分析することで、学校施設整備における環境評価の課題を考察した。3. 環境性能評価3-1.CASBEE 学校の概要CASBEE 学校の評価項目を図 2 に示す。本研究では主に、CASBEE において「ユーザーの生活アメニティの向上」として定義される「Q(環境品質)」の暑熱、光、音、規模に関する項目を対象に研究を行った。3-2.BEE(全体の評価点)による施設評価 F市小・中学校 125 校に対して CASBEE による環境評価を行った。評価結果を図 3 に示す。BEE=0.9 の学校は 10 校(小学校 8 校、中学校 2 校)、BEE=0.8 の学校は 100 校(小学校 69 校、中学校 31 校)、BEE=0.7の学校は 15 校(小学校 8 校、中学校 7 校)となっており、BEE=0.8 に該当する学校が最も多く、また BEE=0.9 に該当する学校は少ない。3-3.CASBEE 評価項目別施設評価 続いて、BEE からみた分類別に CASBEE における評価項目 Q1 ~ LR3 について , その得点の分析を行った。BEE の評価別(0.9、0.8、0.7)に Q1 ~ LR3 の

学校施設における環境評価と建築計画的課題に関する研究

今林 寛晃

36-1

図 1. 学校施設における建築環境評価表 1. 本研究の調査概要調査方法

シミュレーション

資料調査

2011.11~2012.42012.4~2012.12

2012.10~2012.12

2012.12~2013.1

2013.1

ヒアリング調査

アンケート調査

観察調査

調査概要時期F 市 125校を対象にCASBEE 学校 ( 既存 ) による建築環境性能評価を行った。

資料分析や実測調査により、F市 125校の建築計画的な特徴を整理・類型化した。

F市 125校より 5校を抽出し、環境に関するヒアリングを行った。

5校を対象に、環境と指向する場所に関するをアンケート調査を行った。

アンケートを行った5校に対して児童や教師の休み時間の行動を観察した。

評価部位の計測・測定など

類型化・体系化など

意識調査、行動観測など

施設の計画的な特徴の把握

環境性能の見える化→施設単体での評価

学校施設における建築環境評価

方法

方法 目的

目的

■建築計画的視点

■環境性能評価

■環境評価と利用主体の行動や意識との関連

これまでの環境評価

計画的視点を考慮した評価

敷地面積に対する建築面積の大きさ

 北向き窓面 A ≠南向き窓面 B

大通りに面する A≠公園に面する B

所定面積を満たしている( 平均 ) ( 平均 )500lx≦CR

<750→Lv.4 50dB≦CR<60dB→Lv.2 該当なし

図書室のとなりの B理科室のとなりの A

音環境光環境施設のゆとり

建築面積 3080 ㎡

AB

A B

建築面積 3030 ㎡

道路 公園理科 図書

CR A CR B

閉じた窓体育館

▲▲

平均点を見ると、各評価での平均点の差が最も大きい項目は Q3 であり、次いで LR1 となっている。また、Q1 と Q2 では BEE 評価 0.9 における平均点が高く、LR2 と LR3 では差が殆ど見られなかった。以上から、F 市の場合、Q3 と LR1 の値の変化が BEE の値に最も影響を与えていることが推測され、生物環境の充実や太陽光発電の設置などを重点的に行っている学校がCASBEE 評価において高得点を得ていると言える。また、直接計画的な条件と関係する騒音などの音環境はQ1-1( 音環境 ) に、室温や湿度は Q1-2( 暑熱環境 )、照度などの光環境は Q1-3( 光・視環境 )、空間のゆとりや機能性に関しては Q2-1( 機能性 ) で評価されるが、BEE評価における得点に関わらず、Q1-2、Q1-3 は変化がないことがわかる。4. 建築計画と環境4-1. 環境評価における建築計画的視点 CASBEE による評価で取り上げた「暑熱」、「光」、

「音」、「大きさ」について、施設内における環境の変化や、利用主体の意識と環境の関係を考慮した評価を行うため、環境心理学における環境認識の条件として多くの既往研究 文 2) で取り上げられている「要素の相対」や「要素に関する情報の量」などを手掛りに、学校施設における建築計画の諸要素について整理を行った ( 図5)。本研究では建設時期、敷地面積、接道条件、校舎高さ、校舎形状、廊下形式、クラスルーム(以下 CR)配置、CR 窓面方位、オープンスペース(以下 OS)の有無をその要素として抽出し、図 6 に示す方法によって施設環境を評価した。暑熱環境については学校施設の「棟別教室窓面方位、教室配置、廊下形式の関係」を、光環境は「教室の棟別窓面方位、建物形状、廊下形式、建築面積の関係」を、音環境については、「教室の棟別窓面方位、教室配置、廊下形式、OS の有無の関係」を、空間のゆとりに関しては「敷地面積と建築面積、建築高さ、OS の有無の関係」を環境認識の条件として分析を行った。4-2.F 市小中学校の施設環境傾向 まず、校舎形状、CR 配置、接道条件、教室窓面方位、校舎高さ、OS の有無、敷地面積、建築面積について F市小・中学校 125 校を調査し、類型化を行った ( 図 4)。それらをもとに、前節で示した方法に従って建築計画の諸要素を整理し、施設環境の傾向を分析した ( 図 6)。なお、評価の「+」「−」は CASBEE と評価軸を統一させるため、明、広、静、暑を「+」とし、その対を「−」として判断した。 F 市の場合、校舎に対する 3 面接道が最も多く、対

して教室配置は多様であるため、敷地外から影響を受ける騒音等の音環境について施設ごとの差は大きくなっている。また廊下形式の違いによってもその差は見られる。空間のゆとりに関して、相対的に敷地面積に対して建築面積の大きな施設について、建物形状はL 字型と並列型が多い傾向にある。L 字型に対して並列型は棟ごとで空間のゆとりに対する認識に差が見られると予想され、また CR 間の環境に差が生じていると考えられる。施設の光環境について、F 市の場合、CRの窓面が南向きとなる校舎が多いが、敷地条件や CR配置によってその方位は多様である。また空間のゆとり同様、L 字型校舎や並列型校舎の場合、施設内 CR 間の環境差が大きい。暑熱環境に関しても光環境と同様、教室窓面の方向や CR 配置に影響を受ける。また数棟に分かれた並列型の CR 配置では、建築高さが大きい施設ほど、その暑熱環境は「+」に傾く。4-3. 建築計画と環境性能評価の関係 CASBEE による環境性能評価の結果と、前節で得た傾向を比較した。まず CR 窓面、校舎形状等の違いにより施設や施設内 CR 間の暑熱、光環境の差は多様で

36-2

図 2.CASBEE 学校の概要 

図3.F 市の小中学校 (125 校 ) の CASBEE 評価の分布

CASBEE学校の概要■評価方法

■評価項目

建築物の環境負荷建築物の環境品質 = 25×(SQ-1)

25×(5-SLR)

SQ:Qの得点 SLR:LRの得点

Q1 室内環境 音環境、 暑熱環境、 光・視環境、 空気室環境

機能性、 耐用性・信頼性、 対応性・更新性

生物環境の保全、まちなみ・景観への配慮、 地域性への配慮

熱負荷抑制、自然エネルギー利用、設備システム効率化、 設備運用

水資源保護、非再生性資源削減、 汚染物質含有材料

地球温暖化対策、地域環境配慮、

本研究で対象とする直接空間に関わる評価項目

周辺環境配慮

Q2 サービス性能Q3 敷地内環境LR1 エネルギーLR2 資源・マテリアル

LR3 敷地外環境

Q

L

500 1000

50

100BEE=3.0 BEE=1.5 BEE=1.0

BEE=0.5

S A B⁺

B⁻

C

建築物の環境負荷L

■BEE評価計算式

建築物の環境品質Q

出典:学校施設における総合的な環境性能評価手法評価マニュアル 文部科学省

QLR

BEE=0.9 (10 校) BEE=0.8 (100 校) BEE=0.7 (15 校)

BEE=0.9 

BEE=0.8

BEE=0.7

平均点

S A B⁺B⁻

C

環境負荷L

Q質品境環

■F市BEE得点分布

F市小中学校125校

CASBEE評価の分布

拡大範囲

Q1 Q2 Q3 LR2LR1 LR3

■BEE項目別評価分布 ■BEE詳細評価分布

・小学校85 校・中学校40 校

(15 校)

(100 校)

(10 校)

対象102030

該当校数

54

53

52

51

50

49

48

47

46

4552 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62

BB

12

14

19

13

-

該当校数10

10050

2.2

2

2.4

2.6

2.8

3

3.2

Q1-1(音環境)

Q1-2(暑熱環境)

Q1-3(光・視環境)

Q2-1(機能性)

2.2

2.4

2.6

2.8

3

3.2

3.4

3.6

該当校数10

10050

36-3

あるが、Q1-2 が 3.0、Q1-3 が 3.6 と CASBEE 学校による評価においては一定の得点となっている。また音環境に関して、接道条件に影響を受けその環境が大きく変動しているのに対し、Q1-1 の評価では 2.6 と 3 のみである。一方、空間のゆとりに関する Q2-1 の評価との比較においては他の要素と比べて、その変動幅について一致しているといえるが、理由として Q2-1 に計画的な評価要素の一つである「建築面積」が含まれていることが考えられる。 以上より、CASBEE 学校の評価項目について、暑熱環境や光環境、音環境に関しては建築計画の諸要素による影響がその評価結果に十分に反映されていないことが分かる。理由として、CASBEE 学校の評価が施設の場所や時間について計測数値の平均によって得られるものを根拠としており、時間変化や場所による環境の変化などが評価結果に反映されていないこと等が考えられる。5. 環境評価と利用主体の意識 児童や教師と環境とをつなぐ環境心理的な側面への配慮が求められる小・中学校施設について、利用主体の意識や行動と、環境評価で評価される空間との関連性を得るため、学校施設の中で児童や教師が指向する場所に着目し、下記の調査を行った ( 図 7)。まずCASBEE において高い評価を得ている 2 校、低い評価の3校 ( 前章の評価方法において CR 間の環境面での格差が多く見られた 2 校、見られなかった 1 校 ) の計5 校を対象に、児童や教師の指向する場所やその理由についてアンケート調査を行った。また特に指向する場所として多くあがった場所について観察調査を行い、それらの結果と 4 章で行った環境評価の分析とを比較することで、小・中学校の施設評価において考慮すべき項目や課題について考察する。5-1. 利用主体の指向する場所とその理由 各学校施設における利用主体の指向する場所やその理由のアンケート調査結果を図 7 に示す。 まず指向する場所について、Mh 小では指向する場所として授業中、休み時間ともに CR を選択する児童が多く見られた。対して Cy 小、Iz 小は CR 以外の特別教室や廊下等を選択する児童が多く、観測調査により「明るい - 暗い」など環境の境目となる場所に集中していることが分かった。Ht 小については、選択場所に CR とそれ以外の場所が混在する傾向がみられた。 次いで指向する場所の選択理由について、Iz 小と Ht小に関しては「静かだから」「明るいから」など環境的な要素に起因する理由項目を選択する児童が多い傾向

図 5. 建築計画の諸要素とその組み合せ 

図 4.F 市小・中学校施設の建築計画的要素の類型 

図 6. 建築計画と施設環境にあり、Th 小、Mh 小、Cy 小では「ものが多いから」などの物理的要素に起因する理由が多かった。教師の場所に対する指向については全校共に職員室を除いて基本的に児童と同様の傾向にあり、理由に関しては環境的な要素に起因するものを選択する傾向がみられた。5-2. 環境評価と指向する場所の関係 アンケート調査で得た利用主体の指向する場所と環境評価との関係を図 8 に示した。CASBEE 学校の項目評価において高得点であった学校 (Mh 小、Ht 小 ) について、児童が指向する場所として CR が多く見られ、その指向理由としては物理的な要素に起因するものが

建築高さ 建築面積 CR配置敷地面積 接道条件 建物形状 窓面方位廊下形式

建築計画の諸要素とその組み合せ

環境要素

c. 音環境 d. 暑熱環境a. 光環境 b. 空間のゆとり

a.b.c.d.

学校施設における建築計画の諸要素

F市 小・中学校施設の建築計画的要素の類型

一体型細長型 L 字型

類型

小中

小中

コの字型 並列型 直列型 変形型

■建物形状の類型

■CR配置の類型

類型

小中

類型

■接道条件

校舎側GR 側 校舎側GR 側 校舎側 全面GR 側

1辺接道 2辺接道 4辺接道3辺接道

1棟 2棟 3棟 他

変形型直列型一字型 並列型 直列型並列型 コの字型

■建設時期

■CR窓面方位と施設高さ

*現存する最も古い校舎の建設年

*幅員 15m以上

1955

19

58

1960

19

62

1965

19

67

1969

19

71

1973

19

76

1979

19

81

1983

19

85

1989

19

91

1994

20

00

2007

0

2

4

6

8

10 校数 (凡例)

中学校校舎(40校)小学校校舎(85校)

新耐震:S57~

旧耐震:S46-S56

旧旧耐震:~S45

2015

1

9

84

13812m15m

東向き教室

西向き教室

南向き教室

北向き教室

9m

3m6m

12m15m

東向き教室

西向き教室

南向き教室

9m

3m6m

北向き教室

2

2

1 7

6

施設長軸方位施設建築高さ

棟数

片廊下型 中廊下型

6030

90

6030

906030

906030

906030

906030

906030

906030

90

6030

906030

906030

906030

906030

906030

906030

90

6030

906030

906030

906030

906030

906030

90

+-の評価はCASBEE と統一させるため ,明 , 広 , 静 , 暑を+,その対を-とする

施設内のCR間の環境差

-+広い明るい

賑やか

暑い狭い暗い

静か

涼しい

CR差小 CR差大

敷地面積(×1000㎡)1614 18 20 22 24 261210860

北 北東 南 西 北 北東 南 西

暑熱環境については学校施設の「棟別教室窓面方位、教室配置、廊下形式の関係」を、光環境は「教室の棟別窓面方位、建物形状、廊下形式、建築面積の関係」を、音環境については、「教室の棟別窓面方位、教室配置、廊下形式、OSの有無の関係」を、空間のゆとりに関しては「敷地面積と建築面積、建築高さ、OSの有無の関係」

暑熱環境 : 棟別教室窓面方位 , 教室配置 , 廊下形式 , の関係光環境 :CR 窓面方位 , 建物形状 , 廊下形式 , 建築面積 , の関係音環境 :CR 窓面方位 , 教室配置 , 廊下形式 ,OS有無 , の関係空間のゆとり : 敷地面積 , 建築面積 , 建築高 ,OSの有無 , の関係

建築計画と施設環境■評価概要

-+

CR差大

CR差小

■音環境と建築計画

CR配置

■音環境と建築計画

接道条件

■暑熱環境と建築計画-- + +

CR差大

CR差小

■音環境と建築計画

建物形状

■光環境と建築計画

窓面方位

-- + +

CR差大

CR差小

CR配置

窓面方位

- +

CR差小

CR差大

■音環境と建築計画

建物形状

■空間のゆとりと建築計画

1階 2階3階 4階5階

片廊下型中廊下型

建築面積S=~4,000㎡

4,000~6,000㎡6,000㎡~

建築面積S 階数校数~4,000㎡

4,000~6,000㎡6,000㎡~

Q1-2=3

Q1-3=3.5

1階 2階3階 4階5階

Q2-12.8 2.9

3.13.2 3.43

3 2.6

Q1-1 2010(1)

(1)

(1)

(1)

(1)(1)

(1) (1)

(2)

()内は中廊下型形式の校数

Q1-1=3の校数

Q1-1=2.6の校数

凡例

5 5

5

7

4

1

4 9 7

77 6 6

66

6

6 6

5

5

111 1

1

1 2

2

2

2

22

2

2

3 3 3 3

33

3

3

5 1

4

3 3

2

4

54

4

4

4

4

5 5

8 9

9

4

*F市の小・中学校125校を対象に調査

20

38

39

39

31

9

21

11

36-4

【参考文献】1) 学校施設における総合的な環境性能評価手法評価マニュアル 文部科学省    2) 環境心理学の新しいかたち 誠信書房 著者 : 南博文

図 7. 指向する場所の分布

図 8. 利用主体の指向する場所と環境評価の関係

反映されていないこと。2)空間のゆとりに関して、CASBEE 学校の評価と建築計画の視点による施設評価は同傾向であること。3)施設内諸室の環境差と、利用主体の指向場所、指向する理由には関連があること。4)児童と生徒、また学年により、指向する場所と環境との関係に異なる傾向が見られること。 今後の課題として、より詳細な検証によって環境的な要素と建築計画的な施設評価との対応分析を行い、多角的な視点で児童や教師と施設環境の関係について考察を行う事で、施設内の場所に対する環境の変化や、利用主体の意識に応じた学校施設整備の在り方を提示する必要がある。

■Th 小学校 (BEE=0.9) ■Mh 小学校 (BEE=0.8)

■Iz 小学校 (BEE=0.7)■Ht 小学校 (BEE=0.8) *os 有 ■Cy 小学校 (BEE=0.7) *空調有

■調査概要指向する場所の分布

①アンケート調査(対象:3年 -6 年の1クラス児童とその担任教師)

指向する場所として多くあげられた場所について行動観察②観察調査

A. 指向する場所(図面をプロット)

B. その場所を指向する理由(項目を選択)

⑧人が多い ( 少ない ) から❸賑やか ( 静か ) だから

(❶-❺: 環境的要素起因の理由  ⑥-⑩: 物理的要素起因の理由 ) ❹広い ( 狭い ) から

⑥外に近いから❶明るい ( 暗い ) から❷暖かい ( 涼しい ) から

⑨好きな教科の・自分の教室だから

⑦移動しやすいから

❺自然を感じるから

⑩( 遊ぶ・勉強する ) ものが多いから

意識と環境の関係

対象校

行動と環境の関係

CSBEE による評価の高かった学校と、CR 間の環境差が大きいと評価した学校 計 5 校

2007 年28389 ㎡ ( 小中併設 )3169 ㎡RC 造地上 3 階

 計画的要素

1992 年15880 ㎡2817 ㎡RC 造地上 3 階

 計画的要素

 アンケート集計分布

1967 年18791 ㎡

1964 年15059 ㎡

2371 ㎡RC 造地上 4 階

建設年度  計画的要素

3079 ㎡RC 造地上 3 階

建設年度  計画的要素

2000 年7700 ㎡2402 ㎡RC 造地上 5 階

建設年度  計画的要素

敷地面積建築面積構造 / 階数

建設年度敷地面積建築面積構造 / 階数

建設年度敷地面積建築面積構造 / 階数

敷地面積建築面積構造 / 階数

敷地面積建築面積構造 / 階数

休み時間指向理由の選択番号

授業3 年 4 年 5 年6 年 担任教師

授業で好きな場所、休み時間や放課後で好きな場所について、それぞれ一箇所図面をプロット。(グラウンド除く) 1人 -10 人

11 人 -30 人30 人 -

授業休み時間

A. B.A. B

A.A. B.B.

A. B.

アンケート集計分布

アンケート集計分布

アンケート集計分布

アンケート集計分布

100 20 30 -( 人 )

1F

1F

1F

2F2F 2F

3F3F

3F

1F

2F3F

1F

2F3F

4F

5F

4F

体育館

体育館

体育館

体育館

 デッキテラス

アルコーブ

体育館

CR

CR

廊下

CR

CR

CR

多目的スペース

多目的スペース

渡り廊下

渡り廊下渡り廊下渡り廊下

図書室 図書室

図書室

芝生芝生

0 2010 30 0 2010 30

0 2010 300 2010 300 2010 30

( 人 ) ( 人 )

( 人 ) ( 人 )( 人 )

❶❷❸❹❺⑥

⑨⑩

⑦⑧

❶❷❸❹❺⑥

⑨⑩

⑦⑧

❶❷❸❹❺⑥

⑨⑩

⑦⑧

❶❷❸❹❺⑥

⑨⑩

⑦⑧

❶❷❸❹❺⑥

⑨⑩

⑦⑧

多い傾向にある。また、計画的な視点による施設評価の項目において「−」が多い学校 (Iz 小、Cy 小、Ht 小 )では、CR 以外の場所を指向する傾向にあり、施設内のCR 間に環境差が多く見られる学校 (Ht 小 ,Iz 小 ) は選択理由に環境的な要素に起因する理由を、みられない学校 (Th 小 ,Mh 小 ) は物理的な要素に起因する理由を選ぶ傾向がみられた。CR 間の環境差が見られる Cy 小において物理的要素に起因する理由が多くみられたが、この理由として、Cy 小が空調の設置により環境の条件が他の小学校と異なることが考えられる。このことから空調の設置と児童の場所に対する指向性の関連が予想される。また教師については計画的な視点の評価で

「−」が多い場合、指向する場所の選択理由に物理的なものが多くなる傾向が見られた。この傾向は高い学年の児童ほど見られ、環境的な要素への意識と学年や年齢との関連が予想される。 以上の傾向分析から、計画的な視点による施設評価と CR 以外の場所への指向性、指向する理由、学年や年齢による指向の差等の関連を得る事ができた。小・中学校施設における教育環境の質的向上のためには、これらの結果を考慮し、利用主体の意識や行動に対する環境評価のあり方を考察する必要があると考える。6. まとめ本研究により、以下のことが明らかとなった。1)暑熱や光環境に関するCASBEE学校の評価について、建築計画の諸要素による影響がその評価結果に十分に

利用主体の指向する場所と環境評価の関係Th小学校 Mh小学校 Ht小学校 Iz 小学校 Cy小学校

廊下渡り廊下渡り廊下廊下廊下 CR

CR以外

CR以外CRCR

CR

CR

指向理由

環境評価

指向場所

小 小 小 小 小大 小 小小小

授業

+ + +-

a. b. c. d.

計画

CR

BEE 3.6 2.8 3.02.6

+ + + -

a. b. c. d.

3.6 3.0 3.03.0

大 大

-- -

a. b. c. d.

3.6 3.2 3.02.6

大 大 大

-- -

a. b. c. d.

3.6 2.9 3.02.6

大 大 大 大

++ +-- -

a. b. c. d.

3.6 2.9 3.02.6

33%67%

39%61% 51%49% 59%41% 43%57%

c. 音 d. 暑熱a. 光 b. ゆとり感

回答総数N=134 回答総数N=142 回答総数N=134 回答総数N=146 回答総数N=114

Q1-1( 音環境 ) Q1-2( 暑熱環境 )Q1-3( 光・視環境 ) Q2-1( 機能性 )*

**

**

**体育館、図書室等を除く場所のうち回答の多かったものとその割合

33%67%

41%59%

39% 61%

33% 67%56%65% 44%45%

39% 61%

65% 45%

39% 61% 47% 53%

アルコーブ

49人65 人82 人64人68人66人55人87人73人61人