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特集2 重症心身障害児者の日中活動 施設紹介 天草は,蒼い海に囲まれ,南蛮文化やキリシ タンの歴史を伝える自然と文化に育まれた島で ある。はまゆう療育園(以下,当園)は,その 天草の地に1973年重症心身障害児施設として 開園した。 「障害をもった子どもを抱いて途方にくれて いる母親の気持ちになって園生に対し心のか よった療育を科学的かつ適正に行う」。という 経営理念の基,ノーマライゼーションを理想と した施設づくりを目指し,医療,教育,生活の 3つの視点を基本にさまざまな取り組みを行っ ている。人権擁護を目的としたコミッティや, 入所者一人ひとりの生活の質の向上を目指した レクリエーションコーディネーターなど独自の 職種がある。 現在,170床の入所と2床の短期入所を受け 入れており,2歳児から80歳を超える高齢者 と幅広い年齢層の入所者が療養生活を送ってい る。また,熊本県立苓北支援学校と渡り廊下で つながっており,その特徴を生かし,児童・生 徒の情報交換会や合同運動会,さまざまな行事 への参加・協力といった体制が整っている。 RRC委員会 発足の経緯 これまでのレクリエーションを中心とした日 中活動は,ベッドから離床できる入所者を対象 としたものが多く,気管切開や呼吸器を装着し た超・準重症心身障害児者(以下,重症児者) に対しては生命の安全確保を重視した医療的ケ アが中心となり,生活の楽しみについては十分 な働きかけができていなかった。入所者の高齢 化や重症化により,医療的ケアを必要とする人 は年々増加傾向にある。それに伴い,1日の生 活のほとんどをベッド上で過ごす人も増えてき ている。 「重症児者施設は医療が中心になり過ぎてい て,福祉施設として,また生涯教育の場として の役割を十分に果たし得ていない状況にあり, 入所者は退所できるあてもなく,ただ毎日を無 為に過ごし年月を重ねている。入所者にもっと 希望や夢を与えることはできないのか」とい う,開園当初からの理事長の思いの下,改めて 一人ひとりに応じた生活の質の向上を目指し, 入所者の立場に立って生活の見直しをしようと の掛け声によって,2017年4月に「RRC委員 会」が発足した。RRCは,次に挙げる英単語の 頭文字をとって名づけられた。 R:Recreation(レクリエーション) R:Relaxation(リラクゼーション) C:Committee(コミッティ) 重症心身障害児者施設 はまゆう療育園での日中活動の実際 社会福祉法人慈永会  はまゆう療育園 総師長  跡上眞理 あとがみ・まり 1984年上天草看護専門学校卒 業後,26年間精神科で勤務。その後,保健センター での勤務を経て,2012年はまゆう療育園入職。 2015年より現職。入所者の優しさや一生懸命さに触れる中で重症心 身障害児者への看護の魅力を発見し,忙しさを感じる一方で充実した 日々を送っている。 41 こどもと家族のケア vol.14_no.2

重症心身障害児者施設 はまゆう療育園での日中活 …特集2 重症心身障害児者の日中活動 施設紹介 天草は,蒼い海に囲まれ,南蛮文化やキリシ

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Page 1: 重症心身障害児者施設 はまゆう療育園での日中活 …特集2 重症心身障害児者の日中活動 施設紹介 天草は,蒼い海に囲まれ,南蛮文化やキリシ

特集2 重症心身障害児者の日中活動

施設紹介

 天草は,蒼い海に囲まれ,南蛮文化やキリシ

タンの歴史を伝える自然と文化に育まれた島で

ある。はまゆう療育園(以下,当園)は,その

天草の地に1973年重症心身障害児施設として

開園した。

 「障害をもった子どもを抱いて途方にくれて

いる母親の気持ちになって園生に対し心のか

よった療育を科学的かつ適正に行う」。という

経営理念の基,ノーマライゼーションを理想と

した施設づくりを目指し,医療,教育,生活の

3つの視点を基本にさまざまな取り組みを行っ

ている。人権擁護を目的としたコミッティや,

入所者一人ひとりの生活の質の向上を目指した

レクリエーションコーディネーターなど独自の

職種がある。

 現在,170床の入所と2床の短期入所を受け

入れており,2歳児から80歳を超える高齢者

と幅広い年齢層の入所者が療養生活を送ってい

る。また,熊本県立苓北支援学校と渡り廊下で

つながっており,その特徴を生かし,児童・生

徒の情報交換会や合同運動会,さまざまな行事

への参加・協力といった体制が整っている。

RRC委員会

◆発足の経緯 これまでのレクリエーションを中心とした日

中活動は,ベッドから離床できる入所者を対象

としたものが多く,気管切開や呼吸器を装着し

施設紹介

RRC委員会

た超・準重症心身障害児者(以下,重症児者)

に対しては生命の安全確保を重視した医療的ケ

アが中心となり,生活の楽しみについては十分

な働きかけができていなかった。入所者の高齢

化や重症化により,医療的ケアを必要とする人

は年々増加傾向にある。それに伴い,1日の生

活のほとんどをベッド上で過ごす人も増えてき

ている。

 「重症児者施設は医療が中心になり過ぎてい

て,福祉施設として,また生涯教育の場として

の役割を十分に果たし得ていない状況にあり,

入所者は退所できるあてもなく,ただ毎日を無

為に過ごし年月を重ねている。入所者にもっと

希望や夢を与えることはできないのか」とい

う,開園当初からの理事長の思いの下,改めて

一人ひとりに応じた生活の質の向上を目指し,

入所者の立場に立って生活の見直しをしようと

の掛け声によって,2017年4月に「RRC委員

会」が発足した。RRCは,次に挙げる英単語の

頭文字をとって名づけられた。

R:Recreation(レクリエーション)

R:Relaxation(リラクゼーション)

C:Committee(コミッティ)

重症心身障害児者施設はまゆう療育園での日中活動の実際

社会福祉法人慈永会 はまゆう療育園 総師長 跡上眞理

あとがみ・まり 1984年上天草看護専門学校卒業後,26年間精神科で勤務。その後,保健センターでの勤務を経て,2012年はまゆう療育園入職。2015年より現職。入所者の優しさや一生懸命さに触れる中で重症心身障害児者への看護の魅力を発見し,忙しさを感じる一方で充実した日々を送っている。

41こどもと家族のケア vol.14_no.2

Page 2: 重症心身障害児者施設 はまゆう療育園での日中活 …特集2 重症心身障害児者の日中活動 施設紹介 天草は,蒼い海に囲まれ,南蛮文化やキリシ

◆役割 この委員会は,ほかの施設にはない当園独自

の職務である2人のレクリエーションコーディ

ネーター(以下,RC※1)とコミッティ※2を中

心に,医師,事務長,総師長,事務局長で構成

され,入所者一人ひとりの楽しみ,喜びのため

にどのようなことができるのかを第一に考えた

活動を計画している。ここで計画したことを各

部署へ伝え,多職種で協力し実行している。

◆活動の実際入所者の声の拾い上げ まず,意思表示のできる入所者へどんなこと

をやりたいかなど,希望する活動の聞き込みを

行った。「ドライブに行きたい」「ゆっくりと買

い物がしたい」「外食がしたい」など,園外で

の活動を希望する声が多く聞かれた。この声を

拾い上げていくことで,入所者の多くがあきら

めや私たちへの遠慮から,今まで声を上げるこ

とができなかった現状を知ることができた。

「1人担当制」の推進 保護者の高齢化や距離の問題などから家族の

面会が少ない入所者も多い。このような状況への

対応として,2017年より「1人担当制」(写真1)

を開始した。これは,看護師や介護士だけでな

く,リハビリテーション職員や事務職員など全

職種・全職員が入所者一人ひとりに対し,家族

のように1対1でかかわりを持つ取り組みであ

る。担当者は,時間を見つけて担当入所者に声

を掛けたり,かかわりを持ったりしており,勤

務が休みの時に支援学校の学習発表会を参観し

に出かけた職員もいた。このかかわりでの気づ

きを担当者へのアンケート調査(表)により把

握し,活動計画に生かしている。

年間活動計画立案 このような入所者の希望や職員の気づきを参

考に,園内での活動,園外での活動,地域行事

に分け,年間の活動計画を立案する(資料1)。

 園内活動はガーデンランチ,誕生日会,遊び

リテーションなど集団で行う活動が多く,園外

活動はドライブ,買い物,プール活動,帰って

写真1◆入所者に1対1でかかわる1人担当制

●訪問するたびに,入所者に喜んでもらえるようになった。車いすに座り,エプロンをしたままでほかの人が食事をされるのを見ながら食事を待たれている。テレビを見たり,たまに話しかけたりしながら待つなどできないのかな…。自分に置き換えると少しさみしいというか,待つのがつらい感じがします。(事務職員)

●気の合う入所者さんがいらして,その人を誘って食堂へ行かれていました。友達関係を築いて楽しんでおられることを知ってうれしく思いました。(検査技師)

●初めてあいさつを交わした時は,「あなたは誰?」と言わんばかりの不機嫌な顔をされていた。日々会って会話するうちに笑顔を見せてもらえるようになった。誕生日を迎えられた時,「お誕生日おめでとうございます」と声を掛けたら,すごくよい笑顔で言葉を発せられた。残念ながら私には何を言われたか分からなかったが,返事をしてくださったことがうれしかった。(栄養課職員)

表◆アンケート調査による担当者からの気づき

※1 RC:RRC委員会を発足するに当たり新たにつくられた職務。

※2 コミッティ:1997年に,入所者の人権を保護する立場で処遇をチェックし意見を伝えていく,自ら訴えることができない入所者や保護者の要望・意見を聞き療育に反映させていくことを役割としてつくられた。その取り組みは現在も続いている。

42 こどもと家族のケア vol.14_no.2

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